説明

成形材料の硬化方法

【課題】 有機酸の遷移金属塩を使用せずに成形材料の硬化速度を速くし、かつ不飽和単量体の残留物が少ない硬化物を得る硬化方法を提供する。
【解決手段】 硬化促進組成物及び不飽和ポリエステル樹脂を含有する成形材料を加熱・硬化させる硬化方法において、パーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物(配合量が不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部)及びα−アセチル−γ−ブチロラクトン(配合量が不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部)のみで構成された硬化促進組成物を用い、かつ加熱・硬化の温度が100〜180℃であることを特徴とする成形材料の硬化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化速度が速く、そして不飽和単量体の残留物が少ない硬化物が得られる成形材料の硬化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シートモールディングコンパウンド(以下SMCと略記する)やバルクモールディングコンパウンド(以下BMCと略記する)等の成形材料は、不飽和ポリエステル樹脂等のラジカル重合型熱硬化性樹脂に、硬化剤、低収縮剤、充填剤、増粘剤、離型剤、禁止剤、着色剤等を混合した成形材料(コンパウンド)をガラス繊維等の強化材に含浸させてシート状にした成形材料(SMC)、あるいは前記成形材料(コンパウンド)にガラス繊維等の強化材を混合してバルク状にした成形材料(BMC)である。
【0003】
これらの成形材料は、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、射出圧縮成形等の各種機械成形法により繊維強化プラスチックに成形され、住宅関連機器、浄化槽、自動車部品、電気部品等として工業的に広く用いられている。
前記した成形材料は通常100〜180℃で成形されるため、このような温度で効率的に分解する有機過酸化物が硬化剤として使用されるが、様々な要求性能に対するトータルバランスが比較的良好な硬化剤として、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどが広く利用されている。
【0004】
ところが近年では、特にシックハウス、シックスクール、シックビル症候群などの点から、建築材料に含まれるVOC(揮発性有機化合物)の人体への影響が問題となり、行政からも建築材料へのVOCに対する指針が出されるようになってきた。そのため、建築材料で用いられるラジカル重合型熱硬化性樹脂の硬化物に対しても、残存する不飽和単量体であるスチレンなどのVOCは、住宅環境保全のために低減が望まれているという現状がある。
【0005】
しかし、ラジカル重合型熱硬化性樹脂をt−ブチルパーオキシベンゾエートなどで硬化させた場合、プレスキープ時間を長くすることにより硬化物中に残存する不飽和単量体量を低減できるが、生産性が低下する問題点があった。
【0006】
一方、ラジカル重合型熱硬化性樹脂の常温硬化系においては、硬化剤として有機過酸化物、硬化促進剤として有機酸の遷移金属塩、及び硬化促進助剤としてβ−ジケトン等を併用することにより、硬化が促進され、硬化物に残存する不飽和単量体も低減できることは公知である。例えば、パーオキシエステル、コバルト系金属石鹸及びα−アセチル−γ−ブチロラクトンの3成分を併用する硬化促進組成物が開示されている(特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、これらの硬化促進組成物は、有機酸の遷移金属塩と、有機過酸化物とが錯体を形成することにより、有機過酸化物の分解を促進させるため(滝山栄一郎、ポリエステル樹脂ハンドブック、日刊工業新聞)、有機酸の遷移金属塩が存在しない硬化系においての効用は無いものと考えられてきた。
前記特許文献1においても硬化促進剤として有機酸の遷移金属塩が存在しないと、硬化促進助剤であるα−アセチル−γ−ブチロラクトンは硬化を促進しないと記載されており(特許文献1の段落番号0018)、従来から硬化促進剤と硬化促進助剤とは併用することが技術常識となっている。
【0008】
さらに別の問題点として、有機酸の遷移金属塩を使用すると少量の添加であっても樹脂が着色するため、無着色用途の成形材料には不向きであった。したがってこのような用途に適した硬化促進組成物が求められているという現状がある。
【特許文献1】特開2005−54053号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような従来技術に存在する課題に着目して為されたものである。その目的とするところは、有機酸の遷移金属塩を使用せずに成形材料の硬化速度を速くし、かつ不飽和単量体の残留物が少ない硬化物を得る硬化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、硬化促進組成物としてパーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物およびα−アセチル−γ−ブチロラクトンを組み合わせ用いることにより、前記課題を解決できるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0011】
第1の発明は、硬化促進組成物及び不飽和ポリエステル樹脂を含有する成形材料を加熱・硬化させる硬化方法において、パーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物(配合量が不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部)及びα−アセチル−γ−ブチロラクトン(配合量が不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部)のみで構成された硬化促進組成物を用い、かつ加熱・硬化の温度が100〜180℃であることを特徴とする成形材料の硬化方法である。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の硬化促進組成物において、前記パーオキシモノカーボネートがt−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートであることを特徴とする成形材料の硬化方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明は、コバルト系金属石鹸などの有機酸の遷移金属塩を使用しないでも、有機過酸化物単独で使用する場合に比べて、熱硬化性樹脂の硬化を促進させることができる。さらに、未反応の不飽和単量体の残存を抑えることができる。
【0014】
また、第2の発明は、硬化時間が短く、かつ硬化が十分に進むと同時に、硬化剤の分解残渣による成形物の着色といった外観上の問題が抑えられる。
【0015】
第2の発明は、生成するラジカルの付加効率が高いため、硬化物中の不飽和単量体をより低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
まず成形材料を形成するための不飽和ポリエステル樹脂について説明する。
不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和二塩基酸、飽和二塩基酸及び多価アルコールを特定の割合で加熱脱水縮合させ、エステル化して得られる不飽和ポリエステルをラジカル重合性不飽和単量体(以下、単に不飽和単量体と略記する。)に溶解させて得られる液状樹脂であり、公知のものがいずれも使用できる。
【0017】
前記不飽和二塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、これらの群の一種又は二種以上が選択して使用される。飽和二塩基酸としては、例えば無水フタル酸、テレフタル酸等の芳香族二塩基酸、アジピン酸、コハク酸等の脂肪族二塩基酸等が挙げられ、これらの群の一種又は二種以上が選択して使用される。前記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA等が挙げられ、これらの群の一種又は二種以上が選択して使用される。
【0018】
前記不飽和単量体としては、例えばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン誘導体が挙げられる。
また、その他の不飽和単量体を用いることができる。該その他の不飽和単量体としては、モノメチルフマレート、ジメチルフマレート等のα,β−不飽和多塩基酸アルキル、酢酸ビニル、ビニル(メタ)アクリレート等のビニルエステル類、メチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基末端(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基末端(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等の分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル類等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートとの総称である。これらのその他の不飽和単量体は、一種又は二種以上を使用することができる。二種以上を使用する場合、スチレン誘導体とその他の不飽和単量体とを併用することができる。
【0019】
前記不飽和ポリエステル樹脂の原料成分である不飽和ポリエステルと不飽和単量体の好ましい配合比率は、不飽和ポリエステルが30〜80質量%であり、不飽和単量体が70〜20質量%である。不飽和ポリエステルが30質量%未満で、不飽和単量体が70質量%を超える場合には、得られる不飽和ポリエステル樹脂の硬化物の機械的特性が低下する傾向にある。一方、不飽和ポリエステルが80質量%を超え、不飽和単量体が20質量%未満の場合には、得られる不飽和ポリエステル樹脂の粘度が高くなり、作業性が悪化する傾向にある。
【0020】
次に硬化促進組成物について説明する。
本発明の硬化促進組成物はパーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物及びα−アセチル−γ−ブチロラクトンから構成されている。
【0021】
前記パーオキシモノカーボネートの具体例としては、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネートやt−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネートなどが挙げられる。
また、パーオキシエステルの具体例としては、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエートやt−ヘキシルパーオキシアセテートなどが挙げられる。
【0022】
前記有機過酸化物のうち、パーオキシモノカーボネートが好ましく、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが特に好ましい。その理由は化合物の構造上、熱分解して発生するラジカルの付加効率が高いため、硬化物中の不飽和単量体をより多く低減することができるためである。
【0023】
前記有機過酸化物は公知の製造方法に準じて製造することができる。例えば、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートはイソプロピルクロロホルメートとt−ブチルハイドロパーオキサイドとを反応させて製造することができる。
【0024】
前記有機過酸化物は、その安全性や取り扱い性を高めるために、希釈剤で希釈したパーオキサイド組成物として使用することができる。希釈剤の種類としては、成形材料の硬化特性や硬化して得られる成形物の物性に悪影響を与えないものであればいずれも使用可能である。また、硬化剤中に占める希釈剤は、通常50質量部以下である。そしてこれらの希釈剤は、有機過酸化物の製造時あるいは製造後のいずれかの時点で添加することができる。
【0025】
また、例えば100℃付近での低温成形又は180℃付近での高温成形における硬化特性や硬化度を改良するために、硬化剤中に前記特定の有機過酸化物を2種以上組み合わせて用いてもよいし、他の公知の有機過酸化物を併用することができる。後者の場合、前記特定の有機過酸化物が硬化剤中の有機過酸化物として50質量%以上を占めるように配合することが好ましい。
【0026】
前記他の公知の有機過酸化物の具体例としては、ジベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ヘキシルパーオキシシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサンなどのパーオキシケタールが挙げられる。
【0027】
成形材料中における特定の有機過酸化物の含有量(純分換算)は、成形温度や所望する成形時間等によって異なるが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部、0.5〜4質量部が好ましい。この含有量が0.1〜10質量部の場合には、硬化時間が短く、かつ硬化が十分に進むと同時に、硬化剤の分解残渣による成形物の着色といった外観上の問題が抑えられる。
【0028】
次にα−アセチル−γ−ブチロラクトンについて説明する。これは前記特定の有機過酸化物と組み合わせて使用すると、硬化速度が速く、かつ不飽和単量体の残留物が少ない硬化物が得られるという効果がある。
【0029】
成形材料中におけるα−アセチル−γ−ブチロラクトンの含有量(純分換算)は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部、0.03〜3質量部が好ましい。この含有量が0.01〜5質量部の場合には、硬化促進効果が大きくなる。
【0030】
また、本発明の成形材料中には有機酸の遷移金属塩を実質的に含まないが、これについて以下説明する。
有機酸の遷移金属塩とはいわゆる常温硬化において使用される硬化促進剤(金属石鹸)であり、有機酸とはナフテン酸やオクテン酸などのカルボン酸であり、遷移金属とはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルや銅である。そして有機酸の遷移金属塩の具体例としてはナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸銅やオクテン酸銅等が挙げられる。
【0031】
成形材料中には不飽和ポリエステル樹脂、特定の有機過酸化物及びα−アセチル−γ−ブチロラクトンに加え、必要に応じて、重合調節剤、硬化促進助剤、低収縮剤、充填剤、増粘剤、離型剤、重合禁止剤及び強化材から選ばれる一種又は二種以上の添加剤(熱硬化性樹脂の物性向上剤)を含ませることができる。
さらに、必要に応じて、着色剤、柄材、加飾基材、排水性向上剤、紫外線吸収剤、分離防止剤、増粘調節剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、撥水剤等や、成形材料分野で用いられている公知の添加剤を用途に応じて含有させることができる。
【0032】
前記重合調節剤としては、最高発熱温度を高くさせるアスコルビン酸、最高発熱を低くさせるα−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。これら重合調節剤の使用量は、必要に応じて適宜選択されるが、通常不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して10重量部以下が好ましい。
前記硬化促進助剤としては例えばアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、α−アセチル−γ−ブチロラクトン等のケトエステル類、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等の芳香族第三級アミン、2−メルカプトベンゾチアゾールなどのメルカプタン類や、四級アンモニウム塩が挙げられる。これら硬化促進助剤の使用量は、必要に応じて適宜選択されるが、通常不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して10重量部以下が好ましい。
【0033】
前記低収縮剤は、熱硬化性樹脂の硬化収縮を抑制し、硬化物(成形物)の寸法精度を高めると共に、表面の光沢性や平滑性といった表面特性を高めるための成分である。係る低収縮剤としては、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、架橋ポリスチレン、飽和ポリエステル等の熱可塑性樹脂類、ブタジエンゴム等のゴム類、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの低収縮剤は単独で配合しても良いし、低収縮性と表面特性、更には機械特性、着色性、透明性、耐熱水性を両立させるため、或いはポリスチレン等の熱可塑性樹脂とスチレン−酢酸ビニルブロック共重合体を併用することで不飽和ポリエステル樹脂と熱可塑性樹脂の分離安定性を高めるといった目的で、二種以上を併用して配合することもできる。この低収縮剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して3〜30質量部が好ましい。低収縮剤は、スチレン等の単量体に溶解した溶液として配合することもできる。
【0034】
前記充填剤(フィラー)は、成形材料の流動性改善、硬化物の剛性の向上、収縮の低減、透明性の向上、表面光沢性及び平滑性の向上、軽量化等のための成分である。係る充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、クレー、シリカ、ガラスマイクロバルーン等の無機充填剤や、合成繊維、天然繊維等の有機充填剤が挙げられる。充填剤はシランカップリング剤等により表面処理したものも使用できる。この充填剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して50〜300質量部が好ましい。
【0035】
前記増粘剤は、成形材料の粘性を高め、強化材に含浸されやすくするための成分である。係る増粘剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、重合体粉末等が挙げられる。この増粘剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましい。
前記離型剤は、成形物を金型から離型しやすくするための成分である。係る離型剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸やアルキル燐酸エステル等の内部離型剤が挙げられる。離型剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して1〜8質量部が好ましい。
【0036】
前記重合禁止剤は、成形材料を重合させる前の段階で重合を抑制するための成分である。係る重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノンやt−ブチルカテコール等が挙げられる。その配合量は、成形温度や所望する型内流動時間(成形材料を加熱硬化させる際、金型内に配置した未硬化の成形材料がゲル化せずに金型内を流動できる時間)と成形時間、重合禁止剤の種類や成形物の着色度等によって異なるが、不飽和ポリエステル樹脂に対して通常100〜2000ppmである。
【0037】
前記強化材は、成形材料より得られる成形物について機械的強度、衝撃強度、耐圧強度等の強度を向上させ、クラック等の発生を抑制するための成分である。該強化材としては、例えばガラス繊維等の無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維やナイロン繊維等の有機繊維が挙げられる。その強化材の形態としては、長さ1〜30mmのチョップドストランド、チョップドストランドマット、ロービングクロス、グラスクロス、フィラメントマット、コンティニュアスマット及び不織布等が挙げられ、これらの群の一種又は二種以上が選択して使用される。強化材の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して通常10〜70質量部である。
【0038】
前記着色剤としては、チタンホワイト、カーボンブラック等の無機顔料や、有機染料が挙げられる。その配合量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0039】
次に、成形材料の硬化方法を具体的に説明する。
(SMCの準備)
不飽和ポリエステル樹脂に硬化促進組成物としてパーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物及びα−アセチル−γ−ブチロラクトンを手作業又はSMC製造装置等により混合し、さらに前述の低収縮剤、充填剤、増粘剤、離型剤、重合禁止剤及び着色剤等から選択される1種以上を混合する。その後、強化材に含浸させ、フィルムに挟みシート状に成形して成形材料であるSMCを得る。通常、室温から40℃程度の温度範囲で数時間から2日間程度かけて熟成することによって所望の粘度まで増粘させる。
【0040】
(BMCの準備)
不飽和ポリエステル樹脂に硬化促進組成物としてパーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物及びα−アセチル−γ−ブチロラクトンを混合し、さらに前述の低収縮剤、充填剤、増粘剤、離型剤、禁止剤、着色剤及び強化材から選択される1種以上を混合し、ニーダー等の混練機を用いてバルク状に成形して成形材料であるBMCを得る。
【0041】
(成形条件)
前記SMCやBMCを100〜180℃に予熱した金型や電鋳型を用いる圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、射出圧縮成形法等の公知の成形法により成形する。
成形材料の硬化温度は、通常100〜180℃、好ましくは120〜160℃である。硬化温度が100〜180℃の場合には、成形材料の硬化速度が速くなって硬化時間が短くなり、生産性が向上する上に、成形材料の型内流動性が良くなって良好な成形物が得られ易い。また硬化時間は硬化温度や目的とする成形物の厚さ等によって異なるが、1〜15分が好ましく採用される。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。
各実施例及び比較例で使用した有機過酸化物、β−ジケトン化合物および重合禁止剤の略記号を以下に示す。
(有機過酸化物)
TBPIC:t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、活性酸素量:8.62%、純度:95%、10時間半減期温度:98.7℃。
THPIC:t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、活性酸素量:7.16%、純度:91.5%、10時間半減期温度:95.0℃。
TBPB:t−ブチルパーオキシベンゾエート、活性酸素量:8.18%、純度:99.3%、10時間半減期温度:104.3℃。
【0043】
(β−ジケトン化合物)
ABL:α−アセチル−γ−ブチロラクトン
AA:アセチルアセトン
MeAA:アセト酢酸メチル
(重合禁止剤)
PBQ:パラベンゾキノン
【0044】
また、成形材料の着色性、硬化特性、硬化物中の残存スチレン量の評価は次の方法により行った。
(1)着色性
各成分を混合した成形材料について目視にて着色の有無を確認した。
(2)硬化特性
キュラストメーター〔日合商事(株)製JSRキュラストメーターV型、振幅角度±1/4°〕を用い、成形材料の上型145℃及び下型130℃による硬化試験を行って硬化過程におけるトルク(N・m)の変化を測定した。そして、測定開始からトルクが発現するまでの時間(以下、Tと略記する)、最大トルク(以下、MHと略記する)の10%が得られるまでの時間(以下、T10と略記する)、及びMHの90%が得られるまでの時間(以下、T90と略記する)を測定した。なお、Tは型内流動可能時間の指標、T90−T10は硬化の立ち上がり時間の指標及びT90は脱型可能時間の指標となる。
【0045】
(3)残存スチレン量
成形材料を下型145℃及び上型130℃に予熱した金型(縦150mm、横100mm及び高さ3mm)内に配置後、3.5分間、10MPaの圧力でプレス成形することにより硬化物を製造した。そして、硬化物をプラスチック切断機により切断した試験片の残存スチレン量を測定するため、得られた試験片を粉砕機により粉砕し、約3gの試料を50mL(ミリリットル)の共栓付ガラス製三角フラスコに採取した。次いで、塩化メチレン20mLを抽出溶媒として25℃で24時間放置し、粉砕試料中に残存するスチレンを抽出した。その後、n−デカンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより硬化物中の残存スチレン量(質量%)を測定した。
【0046】
実施例1及び比較例1
500mLのポリエチレン容器に不飽和ポリエステル樹脂〔ジャパンコンポジット(株)製、商品名:ポリホープ6370、スチレン含有量:43.1質量%)100質量部、次いで、表1に示す有機過酸化物、ABL及びナフテン酸コバルト(比較例1のみ添加)をそれぞれ表1に示す量(質量部)だけ添加した。次いで、攪拌機で混合することにより成形材料を得た。この成形材料を用いて、着色性の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2、3
500mLのポリエチレン容器に不飽和ポリエステル樹脂〔ジャパンコンポジット(株)製、商品名:ポリホープ6370、スチレン含有量:43.1質量%)100質量部、充填剤として炭酸カルシウム(日東粉化工業(株)製、商品名:NS#100)150質量部を入れた。次いで、表2に示す有機過酸化物、β−ジケトン化合物及び重合禁止剤としてPBQをそれぞれ表2に示す量(質量部)添加し、攪拌機で混合することにより成形材料を得た。これを用いて硬化特性及び残存スチレン量の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例4
有機過酸化物としてTBPBを使用し、プレス成形時間を3.5分から5分に変更すること以外は実施例2と同様に成形材料を調製した後、硬化特性及び残存スチレン量の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
比較例2〜5
ABL以外の表2に示すβ−ジケトンを用いること(比較例3及び比較例4)、又はABLを使用しないこと(比較例2及び比較例5)の外は、実施例2又は実施例3と同様にして成形材料を調製し後、硬化特性及び残存スチレン量の試験を行った。その結果を表2に示す。
比較例6
ABLを使用しないこと以外は実施例4と同様にして成形材料を調製し後、硬化特性及び残存スチレン量の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
(まとめ)
実施例1では成形材料に着色が見られなかったが、比較例1ではコバルト由来の明らかな着色が確認された。
実施例2と比較例2との比較、実施例3と比較例5との比較、さらに実施例4と比較例6との比較から、本発明の特定の有機過酸化物とα−アセチル−γ−ブチロラクトンを含有する成形材料は、T90が短く、かつ残存スチレン量が少ないことが明らかである。このことから、本発明の成形材料を使用すれば、硬化速度が速くなり、硬化成形品中の単量体の残留物を少なくなることが明らかとなった。
【0053】
また、比較例2、比較例3および比較例4を比べると、T90及び残存スチレン量が明らかに異なっていることから、同じβ−ジケトンを用いてもアセチルアセトン、アセト酢酸メチルでは効果がなく、α−アセチル−γ−ブチロラクトンだけが特異的に効果があることがわかった。
また、本発明の成形材料に使用する有機過酸化物としてt−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを使用した場合、残存スチレン量が非常に少ない硬化成形品が得られており、特に優れていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化促進組成物及び不飽和ポリエステル樹脂を含有する成形材料を加熱・硬化させる硬化方法において、パーオキシモノカーボネート若しくはパーオキシエステルからなる有機過酸化物(配合量が不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部)及びα−アセチル−γ−ブチロラクトン(配合量が不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部)のみで構成された硬化促進組成物を用い、かつ加熱・硬化の温度が100〜180℃であることを特徴とする成形材料の硬化方法。
【請求項2】
前記パーオキシモノカーボネートがt−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートであることを特徴とする請求項1に記載の成形材料の硬化方法。

【公開番号】特開2010−235668(P2010−235668A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82435(P2009−82435)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】