説明

成形用型およびガラス成形体の製造方法

【課題】所望の中心厚さの光学面を有するガラス成形体が得ることができるとともに、非光学面に用いられる溶融ガラス滴の使用量を減少させることが可能な、成形用型およびガラス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】連結成形面232は、第1平坦成形面231から対向する下型10側に向かって延びることから、第2平坦成形面233は、第1平坦成形面231よりも下型10に近接する位置となる。その結果、ガラス成形体に対して所望の中心厚さの光学面を形成した場合、第1平坦面がそのまま外方に向かって延びる従来の成形用型に比べて、第2平坦成形面233と下型10の平坦面13aとの距離を小さくすることができる。これによりプレス成形される溶融ガラス滴の使用量を減少させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラス滴をプレス成形する成形用型およびガラス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ用レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、光通信用のカップリングレンズ等として、ガラス製の光学素子が広範にわたって利用されている。このようなガラス製の光学素子として、ガラス素材を成形金型でプレス成形して製造したガラス成形体が広く用いられている。
【0003】
このようなガラス成形体の製造方法として、予め所定質量および形状を有するガラスプリフォームを作製し、このガラスプリフォームを成形金型とともに加熱しプレス成形してガラス成形体を得る方法(以下、「リヒートプレス法」ともいう)と、滴下した溶融ガラス滴を下型で受け、受けた溶融ガラス滴をプレス成形してガラス成形体を得る方法(以下、「液滴成形法」ともいう)とが知られている。
【0004】
液滴成形法は、成形金型等の加熱と冷却とを繰り返す必要がなく、溶融ガラス滴から直接ガラス成形体を製造することができるので、1回の成形に要する時間を非常に短くできることから注目されている。このような液滴成形法を用いたガラス成形体の製造方法は、下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−146721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液滴成形法の場合、ガラス成形体の光学面の中心厚を決定する主なパラメータとして、「プレス圧」、「プレス速度」、「溶融ガラス滴の滴下後プレスまでの待ち時間(プレスタイミング)」、「プレス時間」、および、「下型・上型温度」が挙げられる。
【0007】
これらのパラメータは、ガラス成形体として必要な光学面の面精度を確保するためのパラメータであり、ガラス成形体の光学面の中心厚のみから決定することはできない。そのため、光学面の面精度およびガラス成形体の中心厚を両立させることが難しい場合が発生する。
【0008】
また、液滴成形法の場合、プレス成形されたガラス成形体には、中央領域に光学素子として機能する光学面が形成され、その光学面の周囲には光学素子として機能しない非光学面が不可避的に成形される。なお、「光学面」とは、光線が通る光学有効領域であり、「非光学面」は、光線が通らない光学有効範囲外で、他部材(鏡枠や他のレンズ)との位置決めや接着に使われる面や、その他無機能な面などの総称である。
【0009】
そこで、本発明者は、光学面の面精度およびガラス成形体の中心厚を両立させるために、鋭意研究を実施したところ、上述の非光学面の形状を適切に設定することが有効であることを見出した。
【0010】
本発明の目的は、上記非光学面の形状の具体的な構成を提案することにより、光学面の面精度およびガラス成形体の中心厚が両立するとともに、成形に用いられる溶融ガラス滴の使用量を減少させることが可能な、成形用型およびガラス成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に基づいた成形用型においては、ガラス成形体の液滴成形法に用いられ、互いに対向する成形面をそれぞれ有する下型および上型を備える成形用型であって、上記下型および上記上型の少なくともいずれか一方の上記成形面は、光学成形面と、上記光学成形面の周囲に設けられる非光学成形面とを含み、上記非光学成形面は、上記光学成形面から外方に向かって延びる第1平坦成形面と、上記第1平坦成形面から対向する他方の成形用型側に向かって延びる連結成形面と、上記連結成形面から外方に向かって延びる第2平坦成形面とを有する。
【0012】
他の形態では、上記光学成形面、は凹面であり、上記連結成形面は、上記第1平坦成形面から外方に延びる傾斜面である。
【0013】
この発明に基づいた成形用型においては、上述の成形用型を用いたガラス成形体の製造方法であって、上記下型の成形面上に溶融ガラス滴を滴下する工程と、滴下した上記溶融ガラス滴を、上記下型および上記上型を用いてプレス成形する工程と、を備える。
【0014】
他の形態では、上記溶融ガラス滴をプレス成形する工程において、上記第1平坦成形面と上記連結成形面とが交差する領域に、上記溶融ガラス滴が充填されないようにして、滴下した上記溶融ガラス滴を、上記下型および上記上型を用いてプレス成形する。
【発明の効果】
【0015】
この発明に基づいた成形用型およびレンズ成形方法によれば、光学面の面精度およびガラス成形体の中心厚が両立するとともに、成形に用いられる溶融ガラス滴の使用量を減少させることが可能な、成形用型およびガラス成形体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ガラス成形体の製造方法のフローチャートである。
【図2】ガラス成形体の製造装置を用いた製造フローの第1模式図である。
【図3】ガラス成形体の製造装置を用いた製造フローの第2模式図である。
【図4】比較例における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1工程図である。
【図5】比較例における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第2工程図である。
【図6】比較例におけるガラス成形体の形状を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図、(C)は底面図である。
【図7】成形条件(中心厚)を示す第1イメージ図である。
【図8】成形条件(中心厚)を示す第2イメージ図である。
【図9】成形条件(中心厚)を示す第3イメージ図である。
【図10】成形条件(中心厚)を示す第4イメージ図である。
【図11】実施の形態1における成形用型の上型の形状を示す図であり、(A)は断面図、(B)は見上げ図である。
【図12】実施の形態1における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1工程図である。
【図13】実施の形態1における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第2工程図である。
【図14】実施の形態1における成形用型を用いたガラス成形体の他の製造方法を示す第1工程図である。
【図15】実施の形態1における成形用型を用いたガラス成形体の他の製造方法を示す第2工程図である。
【図16】実施の形態2における成形用型の下型の形状を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図17】実施の形態2における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1工程図である。
【図18】実施の形態2における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第2工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に基づいた各実施の形態における成形用型およびガラス成形体の製造方法について、以下、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。また、各実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0018】
本明細書中において、「光学面」とは、ガラス成形体において光線が通る光学有効領域であり、「非光学面」は、ガラス成形体において光線が通らない光学有効範囲外で、他部材(鏡枠や他のレンズ)との位置決めや接着に使われる面や、その他無機能な面などの総称である。
【0019】
また「光学成形面」とは、成形用型において、ガラス成形体に「光学面」を転写する領域をいい、また、「非光学成形面」とは、成形用型において、ガラス成形体に「非光学面」を転写する領域をいう。
【0020】
以下、図1〜図3を参照して、比較例におけるガラス成形体の製造方法の一例について説明する。図1は、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法のフローチャート、図2および図3はガラス成形体の製造装置を用いた製造フローの模式図であり、図2は下型に溶融ガラス滴を滴下する工程(S103)における状態を示し、図3は、滴下した溶融ガラス滴を下型と上型とでプレスする工程(S105)における状態を示している。
【0021】
(ガラス成形体の製造装置)
図2、図3に示すガラス成形体の製造装置は、溶融ガラス滴50をプレスするための成形金型として、下型10と上型20とを有している。上型20は、基材21を有し、この基材21には、溶融ガラス滴50をプレスする成形面(凹面)23が形成されている。
【0022】
基材21の材質は、ガラス材料をプレス成形する成形金型の材質として公知の材質の中から、条件に応じて適宜選択して用いることができる。好ましく用いることができる材質として、たとえば、各種耐熱合金(ステンレス等)、炭化タングステンを主成分とする超硬材料、各種セラミックス(炭化珪素、窒化珪素等)、カーボンを含んだ複合材料等が挙げられる。
【0023】
下型10は、基材11を有し、この基材11には、溶融ガラス滴50をプレスする成形面(凹面)13が形成されている。下型10の基材11の材質は、上型20の基材21と同様の材質の中から適宜選択して用いればよい。下型10の基材11の材質と上型20の基材21の材質は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
下型10と上型20は、図示しない加熱手段によってそれぞれ所定温度に加熱できるように構成されている。加熱手段は、公知の加熱手段を適宜選択して用いることができる。たとえば、下型10や上型20の内部に埋め込んで使用するカートリッジヒーターや、外側に接触させて使用するシート状のヒーター、赤外線加熱装置、高周波誘導加熱装置等が挙げられる。下型10と上型20とをそれぞれ独立して温度制御できるように構成することがより好ましい。
【0025】
下型10は、図示しない駆動手段により、溶融ガラス滴50を受けるための位置(滴下位置P1)と、上型20と対向してプレス成形を行なうための位置(プレス位置P2)との間を、ガイド65に沿って移動可能に構成されている(図2、図3中の矢印S方向)。
【0026】
上型20は、図示しない駆動手段により、溶融ガラス滴50をプレスする方向(図2、図3中の上下方向(矢印F方向))に移動可能に構成されている。なお、ここでは、上型20のみがプレス方向に移動する場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、下型10がプレス方向に移動する構成としてもよいし、下型10と上型20の両方がプレス方向に移動する構成としてもよい。
【0027】
また、滴下位置P1の上方には、溶融ガラス滴50を滴下するための滴下ノズル63が配置されている。滴下ノズル63は、溶融ガラス61を貯留する溶融槽62の底部に接続され、図示しない加熱手段によって加熱されることで、先端部から溶融ガラス滴50が滴下するように構成されている。
【0028】
(ガラス成形体の製造方法)
以下、図1に示すフローチャートに従い、順を追って各工程について説明する。まず、下型10および上型20を所定温度に加熱する(工程S101)。所定温度とは、加圧成形によってガラス成形体に良好な転写面(光学面)を形成できる温度を適宜選択すればよい。下型10や上型20の温度が低すぎると、ガラス成形体に大きなしわが発生しやすく、また、転写面の形状精度が悪化する場合がある。逆に、必要以上に温度を高くしすぎると、ガラス成形体との間に融着が発生しやすく、下型10や上型20の寿命が短くなるおそれがある。
【0029】
実際には、ガラスの種類や、形状、大きさ、下型10や上型20の材質、大きさ等種々の条件によって適正な温度が異なるため、実験的に適正な温度を求めておくことが好ましい。通常は、使用するガラスのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−100℃からTg+100℃程度の温度に設定することが好ましい。下型10と上型20との加熱温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
次に、下型10を滴下位置P1に移動し(工程S102)、滴下ノズル63から溶融ガラス滴50を滴下する(工程S103)(図2参照)。溶融ガラス滴50の滴下は、溶融ガラス61を貯留する溶融槽62に接続された滴下ノズル63を所定温度に加熱することによって行なう。滴下ノズル63を所定温度に加熱すると、溶融槽62に貯留された溶融ガラス61は、自重によって滴下ノズル63の先端部に供給され、表面張力によって液滴状に溜まる。滴下ノズル63の先端部に溜まった溶融ガラスが一定の質量になると、重力によって滴下ノズル63から自然に分離し、溶融ガラス滴50となって下方に落下する。
【0031】
滴下ノズル63から滴下する溶融ガラス滴50の質量は、滴下ノズル63の先端部の外径などによって調整可能であり、ガラスの種類等によるが、0.1g〜2g程度の溶融ガラス滴を滴下させることができる。また、滴下ノズル63から滴下した溶融ガラス滴50を、一旦、貫通細孔を有する部材(図示省略)に衝突させ、衝突した溶融ガラス滴の一部を、貫通細孔を通過させることによって微小化した溶融ガラス滴を下型10に滴下してもよい。
【0032】
このような方法を用いることによって、たとえば0.001gといった微小な溶融ガラス滴を得ることができるため、滴下ノズル63から滴下する溶融ガラス滴50をそのまま下型10で受ける場合よりも、微小なガラスゴブの製造が可能となる。なお、滴下ノズル63から溶融ガラス滴50が滴下する間隔は、滴下ノズル63の内径、長さ、加熱温度などによって微調整することができる。
【0033】
使用できるガラスの種類に特に制限はなく、公知のガラスを用途に応じて選択して用いることができる。たとえば、ホウケイ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラス、リン酸ガラス、ランタン系ガラス等の光学ガラスが挙げられる。
【0034】
次に、下型10をプレス位置P2に移動し(工程S104)、上型20を下方に移動して、下型10と上型20とで溶融ガラス滴50を加圧成形する(工程S105)(図3参照)。下型10で受けられた溶融ガラス滴50は、加圧成形される間に下型10や上型20との接触面からの放熱によって冷却され、固化してガラス成形体55となる。
【0035】
ガラス成形体55が所定の温度にまで冷却されると、上型20を上方に移動して加圧を解除する。ガラスの種類や、ガラス成形体55の大きさや形状、必要な精度等によるが、通常は、ガラスのTg近傍の温度まで冷却してから加圧を解除することが好ましい。
【0036】
溶融ガラス滴50を加圧するために負荷する荷重は、常に一定であってもよいし、時間的に変化させてもよい。負荷する荷重の大きさは、製造するガラス成形体のサイズ等に応じて適宜設定すればよい。また、上型20を上下移動させる駆動手段に特に制限はなく、エアシリンダ、油圧シリンダ、サーボモータを用いた電動シリンダ等の公知の駆動手段を適宜選択して用いることができる。
【0037】
その後、上型20を上方に移動して退避させ、固化したガラス成形体55を回収し(工程S106)、ガラス成形体の製造が完成する。その後、引き続いてガラス成形体の製造を行なう場合は、下型10を再度、滴下位置P1に移動し(工程S102)、以降の工程を繰り返せばよい。
【0038】
なお、ガラス成形体の製造方法は、ここで説明した以外の別の工程を含んでいてもよい。たとえば、ガラス成形体を回収する前にガラス成形体の形状を検査する工程や、ガラス成形体を回収した後に下型10や上型20をクリーニングする工程等を設けてもよい。
【0039】
この製造方法により製造されたガラス成形体は、デジタルカメラ等の撮像レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、光通信用のカップリングレンズ等の各種光学素子として用いることができる。また、リヒートプレス法による各種光学素子の製造に用いるガラスプリフォームとして使用することもできる。
【0040】
(比較例における成形用型)
ここで、図4から図6を参照して、比較例における下型10および上型20を用いたガラス成形体の製造方法について説明する。図4および図5は、比較例における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1および第2工程図、図6は、比較例におけるガラス成形体の形状を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図、(C)は底面図である。
【0041】
図4に示すように、下型10には、成形面(凹面)13が形成され、この成形面(凹面)13の周囲は平坦(水平)面13aである。また、上型20には、成形面(凹面)23が形成され、この成形面(凹面)23の周囲は平坦(水平)面23aである。下型10の平坦面13aと上型20の平坦面23aとは、相互に平行な平坦面となる。工程S103において、下型10に溶融ガラス滴50が滴下される。その後、図5に示すように、工程S105において、上型20を下方(図中矢印F方向)に移動させて、下型10と上型20とで溶融ガラス滴50を加圧成形する。上型20を下方に移動させた後の下型10と上型20との間隔は、h1となる。
【0042】
図6に、ガラス成形体55の詳細形状を示す。ガラス成形体55は、全体形状として円盤形状を有し、下型10の成形面(凹面)13および上型20の成形面(凹面)23によって成形された位置にドーム形状の光学面55Aが形成されている。また、この光学面55Aの周囲を取り囲むように、非光学面55Bが環状に形成されている。この非光学面55Bの厚は、h1となる。
【0043】
ここで、光学面55Aは光学素子として機能することから、その厚は光学的な観点から極めて重要である。一方、非光学面55Bは、プレス成形において不可避的に成形される領域であり、光学素子としては機能しない領域であるが、光学面55Aの中心厚が厚い場合には、非光学面55Bの厚も厚くなる。また、この非光学面55Bの一部もしくは全体は、多くの場合、後に加工処理が施される。
【0044】
しかしながら、図6からも明らかなように、非光学面55Bは光学面55Aを取り囲むように環状に形成されるため、非光学面55Bに要する溶融ガラス滴の使用量の占める割合は、溶融ガラス滴50の全体の使用量に対して大きな割合となる。ガラス成形体55の製造において、ガラス成形体55の製造コストを抑制するためには、この非光学面55Bに要する溶融ガラス滴の使用量を減少させることが効果的である。
【0045】
一方、溶融ガラス滴を用いたガラス成形体のプレス成形においては、図7から図10に示す成形条件(中心厚)を満足させる必要がある。なお、図7から図10は、成形条件(中心厚)を示す第1から第4イメージ図である。図7から図10において、横軸は溶融ガラス滴の下型への「滴下後経過時間(t)」を示し、縦軸は、「プレス軸の位置」を示している。ここで、「プレス軸の位置」とは、縦軸上において上方に進む程、下型と上型との間隔(h:図2参照)が狭くなる位置関係を示している。
【0046】
図7において、溶融ガラス滴の下型への滴下後、上型が下降を開始するまでの時間を「プレスタイミング」と呼ぶ。また、上型が下降を開始し、ガラス成形体が所望の中心厚となるプレス軸位置になるまでの時間を、「プレス時間」と呼ぶ。「プレス圧」、「プレス速度」、「プレス時間」、および、「下型・上型温度」を適宜調節して、図7に示すプレスカーブ(PC)が調整される。
【0047】
図8は、「プレスタイミング」が「短い」場合から「長い」場合にかけて、「プレスタイミング」を3段階に変化させた場合の、「滴下後経過時間(t)」と「プレス軸の位置」と関係を示す。「プレスタイミング」が「短い」場合、つまり、下型に溶融ガラス滴が滴下された後、直ぐにプレスを開始した場合には、溶融ガラス滴はまだ柔らかい状態であるため、上型の移動量は大きくなり、PC11に示すようなプレスカーブを描く。
【0048】
「プレスタイミング」が長くなれば、下型において溶融ガラス滴は冷却されるために、溶融ガラス滴は硬くなる。その結果、上型の移動量は小さくなり、PC12およびPC13に示すようなプレスカーブを描くことになる。
【0049】
図9は、「プレス圧(「プレス速度」)」が、「強い(速い)」場合から「弱い(遅い)」場合にかけて、3段階に変化させた場合の、「滴下後経過時間(t)」と「プレス軸の位置」と関係を示す。「プレス圧(「プレス速度」)」が「強い(速い)」場合には、上型の移動量は大きくなり、PC21に示すようなプレスカーブを描く。
【0050】
「プレス圧(「プレス速度」)」を下げれば、上型の移動量は小さくなり、PC22およびPC23に示すようなプレスカーブを描くことになる。なお、光学面の転写精度を高めるためには、「プレス圧(「プレス速度」)」を下げ過ぎることはできず、適切な「プレス圧(「プレス速度」)」の設定が必要となる。
【0051】
図10は、「プレス中のガラスの冷えやすさ」が「冷え難い」場合から「冷え易い」場合にかけて、3段階に変化させた場合の、「滴下後経過時間(t)」と「プレス軸の位置」と関係を示す。ガラスが「冷え難い」場合、つまり、下型に溶融ガラス滴が滴下された後、溶融ガラス滴が柔らかい状態が保持されるため、上型の移動量は大きくなり、PC31に示すようなプレスカーブを描く。
【0052】
ガラスが「冷え易い」場合、つまり、下型に溶融ガラス滴が滴下された後、溶融ガラス滴が直ぐに硬くなる場合には、上型の移動量は小さくなり、PC32およびPC33に示すようなプレスカーブを描くことになる。
【0053】
以上のように、良好な光学面の転写精度を得るとともに、所望のガラス成形体の光学面の中心厚を決定するためには、「プレス圧」、「プレス速度」、「プレスタイミング」、「プレス時間」、および、「下型・上型温度」の最適化が重要となる。
【0054】
特に、光学面の中心厚が大きい光学素子の場合には、溶融ガラス滴の厚を厚く成形する必要があることから、「プレスタイミング」を長く設定する必要がある。しかし、「プレスタイミング」が長い場合には、ガラス成形体の製造工程時間が長期化し、生産効率を低下させる要因となる。
【0055】
また、ガラス成形体のプレス成形においては、適切な圧を加えて所望の中心厚になったときに、所望の温度に溶融ガラス滴の温度が低下していることが望ましい。所望の中心厚になった際に、溶融ガラス滴の温度が高いと、ガラス成形体に収縮(ひけ)が生じてしまい、光学面にしわ等が生じる。また、溶融ガラス滴の温度が所定温度に冷えるまでプレス下降を待つと(プレスタイミング)、タクトタイムが長くなり、ガラス成形体の生産性を低下させる。
【0056】
(実施の形態1)
次に、図11から図13を参照して、実施の形態1における成形用型およびガラス成形体の製造方法について説明する。なお、図11は、本実施の形態における成形用型の上型の形状を示す図であり、(A)は断面図、(B)は見上げ図である。また、図12および図13は、本実施の形態における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1および第2工程図である。
【0057】
なお、成形用型の基本構造およびガラス成形体の製造方法の基本プロセスは、上述の図1から図3を用いて示した成形用型およびガラス成形体の製造方法と同じであるため、ここでは、相違点のみを詳細に説明する。
【0058】
図11を参照して、本実施の形態において用いる上型20Aは、光学成形面23Aと、この光学成形面23Aの周囲に設けられる非光学成形面23Bとを含んでいる。光学成形面23Aは凹面形状であり、非光学成形面23Bは光学成形面23Aを取り囲む環状形状である。下型10は、図4および図5に示した下型10と同じ形態を有し、下型10には、成形面(凹面)13が形成され、この成形面(凹面)13の周囲は平坦面13aである(図12参照)。
【0059】
非光学成形面23Bは、光学成形面23Aから外方(水平方向)に向かって延びる第1平坦成形面231と、この第1平坦成形面231から対向する下型10に向かって延びる連結成形面232と、この連結成形面232から外方(水平方向)に向かって延びる第2平坦成形面233とを有している。第1平坦成形面231は、光学成形面23Aを取り囲む環状形態を有し、連結成形面232は、第1平坦成形面231を取り囲む環状形態を有し、第2平坦成形面233は、連結成形面232を取り囲む環状形態を有する。
【0060】
第1平坦成形面231および第2平坦成形面233は、下型10の平坦面13aと平行となる。また、連結成形面232は、外側に向かうほど半径が大きくなる傾斜面形態を有している。
【0061】
図12に示すように、上記上型20Aを有する成形用型を用いたガラス成形体の製造方法においては、工程S103において(図1参照)、下型10に溶融ガラス滴50Aが滴下される。その後、図13に示すように、工程S105において(図1参照)、上型20Aを下方(図中矢印F方向)に移動させて、下型10と上型20Aとで溶融ガラス滴50Aを加圧成形する。上型20Aを下方に移動させた後の下型10と上型20Aとの間隔は、h2(<h1)となる。
【0062】
(作用・効果)
以上、本実施の形態における成形用型およびガラス成形体の製造方法によれば、連結成形面232は、第1平坦成形面231から対向する下型10側に向かって延びることから、第2平坦成形面233は、第1平坦成形面231よりも下型10に近接する位置となる。
【0063】
その結果、ガラス成形体に対して所望の中心厚の光学面を形成した場合、第1平坦面がそのまま外方に向かって延びる従来の成形用型に比べて(図4および図5に示す構造)、第2平坦成形面233と下型10の平坦面13aとの距離を小さくすることができる(h2<h1)。その結果、非光学成形面23Bにおいてプレス成形される溶融ガラス滴の使用量を減少させることが可能となる。
【0064】
また、連結成形面232を設けることにより、第1平坦成形面がそのまま外方に向かって延びる従来の成形用型に比べて(図4および図5に示す構造)、溶融ガラス滴に対する上記非光学成形面23Bの接触面積を拡大することができる。
【0065】
これにより、非光学成形面23Bにおいてプレス成形される溶融ガラス滴50Aの冷却効果を高めながら、所望の中心厚の光学面を有するガラス成形体を製造することが可能になる。
【0066】
(実施の形態1の他の形態)
図14および図15を参照して、実施の形態1の他の形態におけるガラス成形体の製造方法について説明する。なお、図14および図15は、実施の形態1における成形用型を用いたガラス成形体の他の製造方法を示す第1および第2工程図である。
【0067】
上記実施の形態においては、上型20Aに連結成形面232を設けることにより、非光学成形面23Bにおいてプレス成形される溶融ガラス滴の冷却効果を高めながら、所望の中心厚の光学面を有するガラス成形体を製造することを可能としている。
【0068】
しかし、場合によっては、所定の中心厚を有するガラス成形体を成形する場合には、非光学成形面23Bに接する領域の溶融ガラス滴の冷却速度に対して、光学成形面23Aに接する領域の溶融ガラス滴の冷却速度が遅くなり、図14に示すように、溶融ガラス滴50Aの中心領域Zの温度低下が鈍くなることが考えられる。
【0069】
このような状態において、下型10と上型20との間隔h2(図13参照)が目標値に到達するよりも早い段階で、上型20A面側がガラスで満たされる状態となる場合を考えてみる。この状態においては、上型20A面側がガラスで満たされたときから、下型10と上型20との間隔h2(図13参照)が目標値に到達するまでの間に、プレス軸の下降速度よりも、上型20A面の光学成形面23Aの成形品の中心領域Zに向かう“ひけ”の速度の方が速くなる状態が発生する。
【0070】
こうなると、上型20Aからレンズが離れてしまい、レンズ形状が金型形状を正確に転写できなくなる場合が生じ得る(一般的には、ガラスの中央部が凹んだ形となる)。
【0071】
このような状態の発生を解消するために、図15に示すように、溶融ガラス滴50Aをプレス成形する工程において、ガラス温度が、上型20Aの開放に適切な温度に低下するまで(下型10と上型20との間隔h2(図13)が目標値に到達するまで)、第1平坦成形面231と連結成形面232とが交差する領域に、溶融ガラス滴50Aが充填されない領域Sを形成した状態で(図中Yで囲まれた領域)、溶融ガラス滴50Aを、下型10および上型20Aを用いてプレス成形し、上型20Aの開放直前に領域Sに溶融ガラス滴50Aが充填されるように、各種プレス条件を設定しておくことが好ましい。これにより、上型20Aの開放に適切な温度に低下するまで(下型10と上型20との間隔h2(図13)が目標値に到達するまで)上型20Aにプレス圧を加えることができるため、レンズに対して金型形状を正確に転写することが可能となる。
【0072】
(実施の形態2)
次に、図16から図18を参照して、実施の形態2における成形用型およびガラス成形体の製造方法について説明する。なお、図16は、本実施の形態における成形用型の下型の形状を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。また、図17および図18は、本実施の形態における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1および第2工程図である。
【0073】
なお、成形用型の基本構造およびガラス成形体の製造方法の基本プロセスは、上述の図1から図3を用いて示した成形用型およびガラス成形体の製造方法と同じであるため、ここでは、相違点のみを詳細に説明する。
【0074】
図16を参照して、本実施の形態において用いる下型10Aは、光学成形面13Aと、この光学成形面13Aの周囲に設けられる非光学成形面13Bとを含んでいる。光学成形面13Aは凹面形状であり、非光学成形面13Bは光学成形面13Aを取り囲む環状形状である。上型20は、図4および図5に示した上型20と同じ形態を有し、上型20には、成形面(凹面)23が形成され、この成形面(凹面)23の周囲は平坦面23aである(図17参照)。
【0075】
非光学成形面13Bは、光学成形面13Aから外方(水平方向)に向かって延びる第1平坦成形面131と、この第1平坦成形面131から対向する上型20に向かって延びる連結成形面132と、この連結成形面132から外方(水平方向)に向かって延びる第2平坦成形面133とを有している。第1平坦成形面131は、光学成形面13Aを取り囲む環状形態を有し、連結成形面132は、第1平坦成形面131を取り囲む環状形態を有し、第2平坦成形面133は、連結成形面132を取り囲む環状形態を有する。
【0076】
第1平坦成形面131および第2平坦成形面133は、上型20の平坦面23aと平行となる。また、連結成形面132は、外側に向かうほど半径が大きくなる傾斜面形態を有している。
【0077】
図17に示すように、上記下型10Aを有する成形用型を用いたガラス成形体の製造方法においては、工程S103において(図1参照)、下型10Aに溶融ガラス滴50Bが滴下される。その後、図18に示すように、工程S105において(図1参照)、上型20を下方に移動させて、下型10Aと上型20とで溶融ガラス滴50Bを加圧成形する。上型20を下方に移動させた後の下型10Aと上型20との間隔は、h3(<h1)となる。
【0078】
(作用・効果)
以上、本実施の形態における成形用型およびガラス成形体の製造方法によれば、連結成形面132は、第1平坦成形面131から対向する上型20側に向かって延びることから、第2平坦成形面133は、第1平坦成形面131よりも上型20に近接する位置となる。
【0079】
その結果、ガラス成形体に対して所望の中心厚の光学面を形成した場合、第1平坦面がそのまま外方に向かって延びる従来の成形用型に比べて、第2平坦成形面133と上型20の平坦面23aとの距離を小さくすることができる(h3<h1)。その結果、非光学成形面13Bにおいてプレス成形される溶融ガラス滴の使用量を減少させることが可能となる。
【0080】
また、連結成形面132を設けることにより、第1平坦成形面がそのまま外方に向かって延びる従来の成形用型に比べて、溶融ガラス滴に対する上記非光学成形面13Bの接触面積を拡大することができる。
【0081】
これにより、非光学成形面13Bにおいてプレス成形される溶融ガラス滴50Bの冷却効果を高めながら、所望の中心厚の光学面を有するガラス成形体を製造することが可能になる。また、下型10Aに溶融ガラス滴50Bを滴下した場合には、滴下直後から下型10Aによる溶融ガラス滴50Bの冷却が開始されることから、より効果的に溶融ガラス滴50Bの冷却効果を高めることが可能となる。
【0082】
なお、上記各実施の形態においては、上型または下型のいずれか一方に、連結成形面および第2平坦成形面を設ける場合について説明しているが、上型および下型のいずれにも、連結成形面および第2平坦成形面を設ける構成を採用することも可能である。また、第1平坦成形面131,231および第2平坦成形面133,233は、本実施の形態では水平面としているが、若干の傾き(連結成形面132,232に斜角度よりも低い傾き)を設けるようにしてもかまわない。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
10,10A 下型、11,21 基材、13,23 成形面(凹面)、13a,23a 平坦面、13A,23A 光学成形面、13B,23B 非光学成形面、20,20A 上型、50,50A,50B 溶融ガラス滴、55 ガラス成形体、55A 光学面、55B 非光学面、65 ガイド、63 滴下ノズル、61 溶融ガラス、62 溶融槽、131,231 第1平坦成形面、132,232 連結成形面、133,233 第2平坦成形面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成形体の液滴成形法に用いられ、互いに対向する成形面をそれぞれ有する下型および上型を備える成形用型であって、
前記下型および前記上型の少なくともいずれか一方の前記成形面は、光学成形面と、前記光学成形面の周囲に設けられる非光学成形面とを含み、
前記非光学成形面は、前記光学成形面から外方に向かって延びる第1平坦成形面と、前記第1平坦成形面から対向する他方の成形用型側に向かって延びる連結成形面と、前記連結成形面から外方に向かって延びる第2平坦成形面とを有する、成形用型。
【請求項2】
前記光学成形面、は凹面であり、
前記連結成形面は、前記第1平坦成形面から外方に延びる傾斜面である、請求項1に記載の成形用型。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の成形用型を用いたガラス成形体の製造方法であって、
前記下型の成形面上に溶融ガラス滴を滴下する工程と、
滴下した前記溶融ガラス滴を、前記下型および前記上型を用いてプレス成形する工程と、
を備える、ガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
前記溶融ガラス滴をプレス成形する工程において、
前記第1平坦成形面と前記連結成形面とが交差する領域に、前記溶融ガラス滴が充填されないようにして、滴下した前記溶融ガラス滴を前記下型および前記上型を用いてプレス成形する、請求項3に記載のガラス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−86996(P2012−86996A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233386(P2010−233386)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)