所望のポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に、所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する方法を提供することを課題とする。自発的変異導入能力を有するニワトリB細胞株DT40の変異株であるDT40-SWの抗体可変部遺伝子座に、所望のアミノ酸配列をコードするDNAを効率よく導入する方法を開発した。これによって導入されたDNAを変異させ、より優れた機能を持つポリペプチドへ改変することを可能にした。特に本発明では、DT40細胞株の抗体H鎖可変部の遺伝子座の塩基配列が明らかにされた。これにより、DT40細胞株の抗体H鎖可変部の遺伝子座を効率よく所望のポリペプチドをコードする遺伝子に置換することが可能なターゲッティングベクターの構築に成功した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、日本国特許出願(特願)2009-264398(2009年11月19日提出)、および米国仮特許出願61/263,285(2009年11月20日提出)の恩典を主張し、これらの全内容は参照により本明細書中に組み入れられる。
本発明は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に所望のポリペプチドをコードするDNAを導入する方法に関する。また本発明は、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法、変異が導入されたポリペプチドの製造方法等に関する。さらに本発明は当該方法に使用する細胞及び遺伝子ターゲッティングベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、抗原刺激を受けて産生されてくる抗体の親和性が経時的に上昇してくる。これを親和性成熟と呼ぶが、活性化されて盛んに分裂する抗原特異的B細胞において、抗体可変部遺伝子に高頻度体細胞突然変異が起こり、生じた多様な変異B細胞集団から、高親和性を獲得したB細胞クローンが厳密に選択されることにより進行する。この原理を利用して、動物への反復免疫とハイブリドーマ作製によるモノクローナル抗体の作製は広く使われているが、抗体取得には多大な労力と時間がかかり、得られた抗体の抗原に対する特異性や親和性をもはや改変することができない。しかし、医薬や診断薬に得られた抗体を応用するためには、さらなる特異性や親和性の改良が必要になる場合が多い。そのため、in vitroの技術であるファージディスプレー法が現在よく用いられている。ファージディスプレー法では、ハイブリドーマ法に比べて抗体選択の操作を迅速に行えるが、ライブラリーの質に抗体作製の成否が大きく依存する、Fv領域をscFvとして組み換えてファージ上にディスプレーするため、完全抗体に戻して発現させたときに特異性が変わることが多い、といった問題があることも知られている。特に、鍵となる変異ライブラリー作製には多大な労力と高度な遺伝子組換技術が必要である。
【0003】
そこで、生体内での抗体産生系をin vitro培養細胞系で再現することが出来れば、迅速かつ効率的に抗体を作製できると考えられる。抗体遺伝子への変異導入能力を保持するニワトリB細胞株DT40は、以下の点で、この目的を達成する上で適している。
(1)自発的変異導入能力により培養のみで多様な抗体ライブラリーを形成する。
(2)細胞表面上と培養上清中に抗体を発現し、抗原への結合に基づく特定のクローンの選択が可能である。
(3)相同組換え効率が非常に高いので、遺伝子ノックアウトなどにより細胞の機能改変が容易である。
【0004】
本発明者らは、DT40の変異機能を任意にON/OFFできる細胞株DT40-SWを樹立し、DT40-SWを用いたin vitro抗体作製法を開発した(特許文献1; 非特許文献1)。この方法では、変異機能をONにして培養して得られた抗体ライブラリーから、従来法では取得が困難であるものを含む様々な抗原に対する抗体取得に成功している(非特許文献2; 非特許文献3)。また、この方法では、得られた抗体産生細胞に再度変異を導入することにより多様化させ、選択を繰り返すことにより抗体の親和性成熟が可能である(特許文献2)。この方法により得られる抗体は、ニワトリIgM抗体であり、この方法で得られた抗体の親和性成熟のみ可能である。したがって、この方法を、ハイブリドーマ法やファージディスプレー法などで取得された抗体に応用することができれば、これまでに蓄積されてきたモノクローナル抗体の特異性の改良や親和性の向上に活用可能であり、非常に有用な技術となる。
【0005】
ハイブリドーマ法により取得した抗体の特性を改変するためには、ファージディスプレー法などのin vitro系を利用しなければならないが、ファージディスプレーによる抗体の機能改変も必ずしも簡便な技術ではない。また、DT40などの変異能力を有する細胞株は、本来保持する抗体遺伝子に変異を導入してライブラリーとして用いられてきた(非特許文献2、4-5)。しかし、これらの細胞株で外来の抗体遺伝子を改変した例はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-109711
【特許文献2】特開2009-60850
【特許文献3】WO 2007/026661
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75
【非特許文献2】Todo, K., et al. J. Biosci. Bioeng. 102, 478-481 (2006);
【非特許文献3】Kanayama, N., et al. YAKUGAKU ZASSHI 129, 11-17 (2009)
【非特許文献4】Cumbers, S. J., et al. Nat. Biotechnol. 20, 1129-1134 (2002);
【非特許文献5】Seo, H., et al. Nat. Biotechnol. 23, 731-735 (2005);
【非特許文献6】Fawell et al. Characterization and colocalization of steroid binding and dimerization activities in the mouse estrogen receptor. Cell (1990) vol. 60 (6) pp. 953-62
【非特許文献7】Danielian et al. Identification of residues in the estrogen receptor that confer differential sensitivity to estrogen and hydroxytamoxifen. Mol Endocrinol (1993) vol. 7 (2) pp. 232-40
【非特許文献8】Littlewood et al. A modified oestrogen receptor ligand-binding domain as an improved switch for the regulation of heterologous proteins. Nucleic Acids Res (1995) vol. 23 (10) pp. 1686
【非特許文献9】Zhang et al. Inducible site-directed recombination in mouse embryonic stem cells. Nucleic Acids Res (1996) vol. 24 (4) pp. 543-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DT40等の抗体産生細胞の抗体遺伝子座に、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子を導入することができれば、抗体産生細胞の有する変異導入能力により、当該DNAを改変することが可能になる。しかし、抗体産生細胞の抗体遺伝子座に、外来DNAを導入するための有効な技術は開発されていない。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に、所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する方法を提供することを課題とする。
また本発明は、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法、ポリペプチドの製造方法、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法、及び変異が導入されたポリペプチドの製造方法を提供することを課題とする。
また本発明は、当該方法に使用する細胞及び当該細胞を含むキットを提供することを課題とする。
また本発明は、当該方法に使用する遺伝子ターゲッティングベクター、当該ベクターを含む細胞及びキットを提供することを課題とする。
さらに本発明はニワトリ抗体重鎖可変部をコードするDNAを含むDNA、当該DNAを含むベクター、当該DNA又はベクターを含む細胞を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
自発的変異導入能力を有するニワトリB細胞株DT40の変異株であるDT40-SWの抗体可変部遺伝子座に、所望のアミノ酸配列をコードするDNAを効率よく導入する方法を開発した。これによって導入されたDNAを変異させ、より優れた機能を持つポリペプチドへ改変することを可能にした。特に本発明では、DT40細胞株の抗体重鎖可変部の遺伝子座の塩基配列が明らかにされた。これにより、DT40細胞株の抗体重鎖可変部の遺伝子座を効率よく所望のアミノ酸配列をコードするDNAに置換することが可能なターゲッティングベクターの構築に成功した。
本発明はこのような知見に基づくものであり、以下〔1〕から〔59〕に関する。
〔1〕抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
〔2〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕以下(a)及び(b)の工程を含む細胞を選択する方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程。
〔4〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔3〕に記載の方法。
〔5〕以下(a)から(c)の工程を含む、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
〔6〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔5〕に記載の方法。
〔7〕(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、〔5〕に記載の方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
〔8〕産生されるポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、〔5〕から〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、〔4〕、〔6〕、〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、〔4〕、〔6〕、〔7〕、〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕以下(a)から(c)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
〔12〕(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、〔11〕に記載の方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
〔13〕以下(a)から(e)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程、
(d)AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
〔14〕(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、〔13〕に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
〔15〕(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、〔13〕に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物、及び、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物
を含む細胞であり、該部位特異的組換え酵素が、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下において活性化されない細胞に、
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
〔16〕産生される変異が導入されたポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、〔11〕から〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕工程(b)の細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、〔11〕から〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕工程(b)の細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、〔11〕から〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質であって、
細胞外刺激が、該エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドである、〔15〕に記載の方法。
〔20〕エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインであって、
エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドが、4−ヒドロキシタモキシフェンである、〔19〕に記載の方法。
〔21〕抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、〔11〕から〔20〕のいずれかに記載の方法;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
〔22〕XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、〔21〕に記載の方法。
〔23〕抗体産生細胞がB細胞である、〔11〕から〔22〕のいずれかに記載の方法。
〔24〕B細胞がニワトリ由来である、〔23〕に記載の方法。
〔25〕部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、〔2〕、〔4〕、〔6〕、〔7〕、〔9〕、〔10〕、〔12〕、〔14〕及び〔15〕のいずれかに記載の方法;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、および
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
〔26〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、〔1〕から〔25〕のいずれかに記載の方法。
〔27〕所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、〔26〕に記載の方法。
〔28〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、〔1〕から〔25〕のいずれかに記載の方法。
〔29〕以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法;
(a)〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔11〕から〔24〕のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを単離する工程。
〔30〕以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔11〕から〔24〕のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞又は該細胞の分泌物からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを単離する工程。
〔31〕以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)〔29〕に記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを製造する工程、及び
(b)工程(a)で製造されたDNAがコードするポリペプチドを取得する工程。
〔32〕抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物と相同的に組換えられた抗体産生細胞;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
〔33〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔32〕に記載の細胞。
〔34〕抗体産生細胞がAID遺伝子を発現している細胞である、〔32〕又は〔33〕に記載の細胞。
〔35〕抗体産生細胞がAID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る細胞である、〔32〕又は〔33〕に記載の細胞。
〔36〕内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む、〔35〕に記載の細胞。
〔37〕抗体産生細胞が、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物をさらに有し、該部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されない、
〔36〕に記載の細胞。
〔38〕部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質である、〔37〕に記載の細胞。
〔39〕エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインである、〔38〕に記載の細胞。
〔40〕抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、〔32〕から〔39〕のいずれかに記載の細胞;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
〔41〕XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、〔40〕に記載の細胞。
〔42〕抗体産生細胞がB細胞である、〔32〕から〔41〕のいずれかに記載の細胞。
〔43〕B細胞がニワトリ由来である、〔42〕に記載の細胞。
〔44〕部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、〔33〕、〔36〕から〔38〕のいずれかに記載の細胞;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、および
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
〔45〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、〔32〕から〔44〕のいずれかに記載の細胞。
〔46〕所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、〔45〕に記載の細胞。
〔47〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、〔32〕から〔44〕のいずれかに記載の細胞。
〔48〕〔32〕から〔47〕のいずれかに記載の細胞を含むキット。
〔49〕以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)クローニングサイトを含むDNA、
(3)DNA構築物から除去され得るDNAであって、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNA。
〔50〕(3)に記載のDNAが、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAであり、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNAである、〔49〕に記載のベクター。
〔51〕クローニングサイトに所望のアミノ酸配列をコードするDNAが挿入された、〔49〕又は〔50〕に記載のベクター
〔52〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、〔49〕から〔51〕のいずれかに記載のベクター。
〔53〕所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、〔52〕に記載のベクター。
〔54〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、〔49〕から〔51〕のいずれかに記載のベクター。
〔55〕〔49〕から〔54〕のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含む細胞。
〔56〕〔49〕から〔54〕のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含むキット。
〔57〕配列番号:7に記載の塩基配列を含むDNA。
〔58〕〔57〕に記載のDNAを含むベクター。
〔59〕〔57〕に記載のDNA又は〔58〕に記載のベクターを含む細胞。
【発明の効果】
【0010】
本発明のDNAにより、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入するためのターゲッティングベクターが提供される。
本発明により、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAを導入することにより、特定条件下で所望のポリペプチドを産生することが出来る。
また抗体産生細胞の変異導入能力を利用して、変異が導入されたポリペプチドを産生することが出来る。
本発明は、ポリペプチドの機能改変に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】外来抗体可変部遺伝子の導入方法と可変部を置換したキメラ抗体の模式図である。A:抗体遺伝子座の模式図と外来抗体可変部遺伝子の導入方法を示す。ニワトリ抗体可変部遺伝子をジーンターゲティングにより外来抗体可変部遺伝子に置換して、外来抗体可変部とニワトリ抗体定常部のキメラ抗体を発現するようにDT40細胞のゲノム上の抗体遺伝子座を改変する。B:可変部を置換したキメラ抗体の模式図を示す。可変部遺伝子を置換することにより発現する抗体は外来抗体可変部とニワトリ抗体定常部のキメラとなる。
【図2】外来抗体可変部-ニワトリ抗体定常部キメラ抗体を産生するDT40の作製法を示す図である。A:ターゲティングベクターの構造を示す。B:ターゲティング後の細胞の抗体遺伝子座の構造を示す。C:ターゲティング後の細胞を4-ヒドロキシタモキシフェンにより処理し、Creリコンビナーゼを活性化して薬剤耐性遺伝子を除去した後の抗体遺伝子座の構造を示す。D:外来抗体可変部遺伝子を導入したDT40細胞の作製スキーム例を示す。
【図3】抗体重鎖可変部遺伝子の制限酵素地図を示す図である。*で示す制限酵素サイトはλDASH II由来である。
【図4】VHターゲティングベクター1における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVHターゲティングベクター1への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VH、JHをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図5】VHターゲティングベクターの構築スキームを示す図である。A:VHターゲティングベクターの構築に用いたニワトリ抗体重鎖遺伝子のXbaI−NotI断片。B〜E:VHターゲティングベクター1の構築スキームを示す。F:VHターゲティングベクター2の構造を示す。
【図6】VHターゲティングベクター2における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVHターゲティングベクター2への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VH、JHをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図7】VLターゲティングベクター1における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVLターゲティングベクター1への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VL、JLをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図8】VLターゲティングベクターの構築スキームを示す図である。A:VLターゲティングベクターの構築に用いたニワトリ抗体軽鎖遺伝子周辺の断片。B〜C:VLターゲティングベクター1の構築スキームを示す。D:VLターゲティングベクター2の構造を示す。
【図9】VLターゲティングベクター2における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVLターゲティングベクター2への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VL、JLをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図10】マウスVHT遺伝子のターゲティングを示す図および写真である。A:マウスVHT遺伝子のターゲティングベクターの構造とターゲティング後のニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子付近のゲノム構造を示す。B:ターゲティング後の内在性抗体重鎖遺伝子の構造をPCRにより確認した結果を示す。VHTはマウスVHT遺伝子のターゲティングを行ったクローンであり、rearrange鎖のバンド消失が確認できる。SWはターゲティングを行っていないDT40-SWを示す。 C:ターゲティング後の内在性抗体重鎖遺伝子の構造をサザンブロットにより確認した結果を示す。SWはターゲティングを行っていないDT40-SWであり、C2及びC3はPCRによりrearrange鎖のバンドの消失が確認されたクローンである。C2及びC3のうち左側は4-ヒドロキシタモキシフェン処理前のものであり、右側は4-ヒドロキシタモキシフェン処理後のものである。
【図11】マウスVHT 遺伝子をターゲティングした細胞における抗体発現を示す写真である。A:細胞表面のIgM抗体の発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。マウスVHT遺伝子のターゲティングに成功した細胞(VHT)では細胞表面の抗体発現が失われた。B:4-ヒドロキシタモフェン処理後のIgM抗体の発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。4-ヒドロキシタモキシフェンでAの細胞を処理すると、細胞表面の抗体発現が復活した。C:VHTの発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。Bで抗体発現が復活した細胞は、遺伝子導入したマウス抗体(VHT)を発現する。D:4-ヒドロキシタモフェン処理後にクローン化した細胞(C2、C3)における抗体発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。4-ヒドロキシタモキシフェン処理後、クローン化した細胞でも安定して抗体の発現が見られる。
【図12A】変異導入による変異の解析結果を示す図である。DT40-SWの変異解析の結果を示す。円グラフは全クローン数の変異の入ったクローンの数を示す。
【図12B】変異導入による変異の解析結果を示す写真である。C2の変異解析結果を示す。下線部はVHTのCDR領域を表す。円グラフは変異の入ったクローンの数を示す。表はどの塩基が変化したかを示す。
【図12C】変異導入による変異の解析結果を示す写真である。C3の変異解析結果を示す。下線部はVHTのCDR領域を表す。円グラフは変異の入ったクローンの数を示す。表はどの塩基が変化したかを示す。
【図13】マウスλ1遺伝子のターゲティングを示す図および写真である。A:マウスλ遺伝子のターゲティングベクターの構造とターゲティング後のニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子付近のゲノム構造を示す。B:ターゲティング後の内在性抗体軽鎖遺伝子の構造をPCRにより確認した結果を示す。VHT-λ1-B4はターゲティングを行ったクローンであり、SWはターゲティングを行っていないDT40-SWを示す。C:ニワトリ抗体軽鎖遺伝子上へのターゲティングベクターの挿入をPCRにより確認した結果を示す。
【図14】マウスVHTおよびλ1遺伝子をターゲティングした細胞の作製の流れと抗体発現の推移を示す写真である。
【図15】マウスVHTおよびλ1遺伝子をターゲティングした細胞におけるキメラ抗体発現を示す写真である。マウスVHTおよびλ1遺伝子をターゲティングした細胞(VHT-λ1 クローンB4)における抗体発現を確認した。VHT-λ1クローンB4、DT40-SW細胞(陰性コントロール)、QMマウス脾臓細胞(陽性コントロール)を、無染色(-)あるいはマウスVHTに対する抗体(α-Id)およびマウスλ軽鎖に対する抗体(α-λ1,2,3)で染色し、フローサイトメトリーで解析した。
【図16】マウスVHTおよびマウスλ1遺伝子をターゲティングした細胞(VHT-λ1B4)における抗体遺伝子軽鎖発現をPCRにより確認した結果示す図および写真である。
【図17】マウスVHT/λ1遺伝子をターゲティングした細胞(VHT-λ1B4)における抗体発現をELISAにより評価した結果を示す図である。A: IgM抗体発現量の評価。B:抗体の特異性の評価。
【図18】マウスλ1遺伝子をターゲティングした細胞におけるマウスλ1抗体への変異導入の頻度を示す図である。
【図19】抗体重鎖可変部上流域の断片配列を示す図である(配列番号:4)。DNA walking法により取得した抗体重鎖可変部遺伝子の上流域の配列であり、新規に明らかにした部分のみを含む。
【図20】DT40の抗体重鎖可変部遺伝子付近の塩基配列を示す図である(配列番号:7)。図3で制限酵素地図を示した抗体重鎖遺伝子の全塩基配列を含む。下線部(1-3120, 3882-7891)は新規に塩基配列を明らかにした部分である。位置1-3223:5’上流領域、位置3224-3269, 3453-3463:シグナルペプチドコード配列(位置3270-3452はイントロンであり、スプライシングにより除去されて、位置3224-3269と3453-3463が結合してシグナルペプチド配列を形成する)。位置3464-3839:シグナルペプチドを除く抗体重鎖可変部遺伝子領域、位置3840-7931:3’下流領域。実施例で作成したVHターゲティングベクターでは、アームとして位置1829-3223(BamHIサイトから開始コドン直前まで), 3869-6548(JHコード領域直後のSacIIサイトからXhoIサイトまで)の配列を利用し、シグナルペプチドとして位置3224-3463の配列を利用した。
【図21】VHターゲティングベクター1の塩基配列を示す図である(配列番号:10)。基本ベクター部分を除いたものであり、図5Eで示した構造の全塩基配列を含む。下線部はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。
【図22】VHターゲティングベクター2の塩基配列を示す図である(配列番号:13)。基本ベクター部分を除いたものであり、図5Fで示した構造の全塩基配列を含む。下線部はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。
【図23】VLターゲティングベクター1の塩基配列を示す図である(配列番号:18)。基本ベクター部分を除いたものであり、図8Cで示した構造の全塩基配列を含む。下線部(1869-1914, 2040-2056)はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。ニワトリ軽鎖抗体遺伝子周辺配列と相同なアーム部分は、1-1868(シグナルペプチド配列を除く)及び5011-6870である。
【図24】VLターゲティングベクター2の塩基配列を示す図である(配列番号:20)。基本ベクター部分を除いたものであり、図8Dで示した構造の全塩基配列を含む。下線部(1869-1914, 2040-2056)はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。ニワトリ軽鎖抗体遺伝子周辺配列と相同なアーム部分は、1-1868(シグナルペプチド配列を除く)及び5002-6861である。
【図25】変異型エストロゲンレセプターのうちタモキシフェン結合部位の配列を示した図である(配列番号:40)。変異部位は下線で示す。塩基のG to C置換によってこのコドンにコードされるアミノ酸は、グリシン(G)からアルギニン(R)に変わる。
【図26】AID発現カセットに用いたニワトリAID cDNA塩基配列を示す図である。下線部(6-597)はタンパクコード領域を示す。
【図27】変異型エストロゲンレセプターとの融合に用いられた改変型Creリコンビナーゼ遺伝子の塩基配列を示す図である。最後の終始コドンは融合タンパクでは削除されている。下線部(4-21)はSV40 large T抗原由来の核移行シグナルを示す。
【図28】ニワトリVL遺伝子のターゲティングを示す図および写真である。A:ニワトリVL遺伝子のターゲティングベクターの構造とターゲティング後のニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子付近のゲノム構造を示す。B:ターゲティング後の内在性抗体軽鎖遺伝子の構造をPCRにより確認した結果を示す。cVL-C4はターゲティングを行ったクローンを示す。C:ニワトリ抗体軽鎖遺伝子上へのターゲティングベクターの挿入をPCRにより確認した結果を示す。
【図29】ターゲティングしたニワトリVL遺伝子の発現の推移を示した写真である。
【図30】ターゲティングしたニワトリVL遺伝子への変異導入の頻度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法に関する。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
本発明においてターゲッティングベクターは遺伝子ターゲッティングベクターと表現することも出来る。
また抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法とは、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する方法と表現することも出来る。
【0013】
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域は、抗体遺伝子座におけるDNA、抗体可変部をコードするDNAの周辺領域、抗体可変部をコードするDNAとその5’側に位置するプロモーター領域を含むDNA領域、抗体可変部をコードするDNAとその5’側のDNAを含む領域、抗体可変部をコードするDNAとその3’側のDNAを含む領域、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAとその両脇のDNA領域などと表現することも出来る。
本発明のターゲッティングベクターは上記(1)から(3)に記載のDNAに加え、抗体遺伝子座におけるDNAと相同なDNAを含むことが出来る。抗体遺伝子座におけるDNAと相同なDNAは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNA、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーター領域の5’側領域と相同な塩基配列を有するDNA、抗体可変部をコードするDNAの3’側領域と相同な塩基配列を有するDNA、抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA、抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの両脇のDNA領域と相同な塩基配列を有するDNAなどと表現することも出来る。
本発明において5’側のDNAは5’側上流領域のDNAと表現することも出来る。また3’側のDNAは3’側下流領域のDNAと表現することも出来る。
本発明のベクターを抗体産生細胞に導入すると、ベクター内に含まれる抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNAと、抗体産生細胞のゲノム上の抗体可変部をコードするDNAの周辺領域との間で相同組み換えが起こる。その結果、上記(1)から(3)に記載のDNAを有するDNA構築物が、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と組換えられる。
なお、上記(1)に記載のDNAが抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーターである場合には、上記(1)に記載のDNAも抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNAと表現することが出来る。また、抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNAは、抗体可変部をコードするDNAの両脇のDNA領域と相同な塩基配列を有するDNAと表現することが出来る。この場合、本発明の方法は、以下のように表現することも出来る。
抗体産生細胞に、以下(1)及び(2)に記載のDNAを有するDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法;
(1)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(2)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
上記「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺のDNA領域と相同な塩基配列を有するDNA」は、ベクターアーム又はアームと表現することが出来る。特に「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA」は上流アーム、5’側のアーム、又はレフトアームとも表現できる。また「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA」は下流アーム、3’側のアーム、又はライトアームとも表現できる。アームは、一般には長い方が好ましいと考えられているが、遺伝子ターゲッティングに通常利用される長さを有していればよい(A. Joyner 著 Gene Targeting, IRL Press Practical Approach series, Oxford Univ. Press)。例えば、ライトアーム、レフトアームそれぞれが1kb以上、両方合わせたサイズとして3kb以上が挙げられるがこれに限定されない。またベクターの全長は12kbp以下が望ましいがこれに限定されない(J.-M. Buesrstedde, S. Takeda 編 Subcellular Biochemistry Volume 40: Reviews and Protocols in DT40 Research, Springer (2006))。
本発明の「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA」は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーターを有するものと有さないものの両方を含む。
「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA」が抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーターを有さない場合、当該DNAは、「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーター領域の5’側領域と相同な塩基配列を有するDNA」とも表現しうる。
また本発明の「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA」は、抗体産生細胞の抗体定常部をコードするDNAを有するものと有さないものの両方を含む。
【0014】
本発明のベクターアーム又はアームの塩基配列は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺のDNA領域と完全に相同的(同一)である必要はなく、相同組換えが生じる程度の類似性を有していればよい。
【0015】
抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAは、抗体産生細胞の種類に応じて、適宜選択することが出来る。抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAとしては、ニワトリβ-アクチンプロモーター、ヒト伸長因子1α(EF-1α)プロモーター(Yang, S.Y. et al., J. Exp. Med. 203:2919-2928 (2006))が挙げられるがこれらに限定されない。また、ウイルスプロモーターDNAの例として、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kanayama, N., et al. Nucleic Acids Res. 34, e10 (2006))、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(Arakawa, H., et al. Nucleic Acids Res. 36, e1 (2008))が挙げられるがこれらに限定されない。
また、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAは、該抗体産生細胞由来のプロモーターであってもよく、該抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置する抗体遺伝子プロモーターDNAであってもよい。
【0016】
本発明において「所望のアミノ酸配列をコードするDNA」は「任意のアミノ酸配列をコードするDNA」、「目的のアミノ酸配列をコードするDNA」と表現することも出来る。
また所望のアミノ酸配列としては抗体可変部(抗体重鎖可変部、抗体軽鎖可変部)のアミノ酸配列、酵素のアミノ酸配列、レセプターのアミノ酸配列、人工的なペプチド配列などが挙げられるがこれに限定されない。
【0017】
所望のアミノ酸配列をコードするDNAがシグナルペプチドをコードするDNAを有さない場合、所望のアミノ酸配列をコードするDNAによってコードされるポリペプチドの細胞表面への発現あるいは分泌を促進するために、遺伝子ターゲッティングベクター中の所望のアミノ酸配列をコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを挿入してもよい。シグナルペプチドをコードするDNAの挿入位置は、シグナルペプチドをコードするDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAから転写されて生成するmRNA上において、両ペプチドをコードする領域がインフレームで結合するような位置であればよい。例えば、シグナルペプチドをコードするDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAとの間にイントロンが挿入されてもよい。また、後述するように、シグナルペプチドをコードするDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAとの間に上記(3)に記載のDNAが挿入されてもよい。シグナルペプチドをコードするDNAは、抗体産生細胞においてポリペプチドを細胞表面へ発現又は分泌する機能を有すれば特に限定されないが、該抗体産生細胞由来のものであってもよく、抗体可変部5’側のシグナルペプチドをコードするDNAであってもよい。
シグナルペプチドとしてはニワトリ抗体重鎖あるいは軽鎖のシグナルペプチド、マウスあるいはヒトなどの哺乳動物の抗体重鎖あるいは軽鎖のシグナルペプチド、鳥類やほ乳類の細胞外に分泌されるサイトカインや増殖因子などのタンパク質のシグナルペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
所望のアミノ酸配列をコードするDNAは、どのような生物由来のものであってもよい。抗体産生細胞由来の生物と同種の生物由来のものであってもよく、異種の生物由来のものであってもよい。また、キメラポリペプチド等の人工的に改変されたポリペプチドをコードするDNAであってもよい。
「所望のアミノ酸配列を含むポリペプチド」としては、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられるがこれに限定されない。
「所望のアミノ酸配列を含むポリペプチド」としては、以下のアミノ酸配列を含むポリペプチド(キメラポリペプチド)が挙げられるがこれらに限定されない。
・抗体可変部(抗体重鎖可変部、抗体軽鎖可変部)のアミノ酸配列及び、抗体定常部(抗体重鎖定常部、抗体軽鎖定常部)のアミノ酸配列
・酵素のアミノ酸配列及び、抗体定常部(抗体重鎖定常部、抗体軽鎖定常部)のアミノ酸配列
・レセプターのアミノ酸配列及び、抗体定常部(抗体重鎖定常部、抗体軽鎖定常部)のアミノ酸配列
【0018】
本発明において所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAとは、当該DNAの存在により、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAからの転写、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする領域を含むmRNAのスプライシング、当該mRNAからの翻訳、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドのプロセッシング(例えばフォールディング)のいずれかの段階が阻害され、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの正常な産生を抑制するDNAを意味する。
【0019】
上記(3)に記載のDNAは、
該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
と表現することも出来る。
本発明のマーカー遺伝子はその3’末端にポリA(アデニン)付加配列を有することが好ましい。ポリA付加配列によりマーカー遺伝子の転写が終結する。
プロモーターは、当業者であれば様々なものを想到し得、適切なものを選択することができる。例えば、β-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。
選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素を生成しうる酵素遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0020】
プロモーターとマーカー遺伝子は当該プロモーターによりマーカー遺伝子の発現が可能なように機能的に結合することが好ましい。
本発明において機能的に結合とは、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAに転写因子が結合することにより、マーカー遺伝子の発現が誘導されるように、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子とが結合していることをいう。従って、マーカー遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、マーカー遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合」の意に含まれる。
【0021】
部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせとしては、Creリコンビナーゼ/loxP、FLPリコンビナーゼ/FRTが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の部位特異的組換え酵素認識配列は、部位特異的組換え酵素によって認識される限り変異型の配列でもよい。
・loxPの配列は以下の文献で参照可能である。
Hoess et al. P1 site-specific recombination: nucleotide sequence of the recombining sites. Proc Natl Acad Sci USA (1982) vol. 79 (11) pp. 3398-402
Hoess and Abremski. Interaction of the bacteriophage P1 recombinase Cre with the recombining site loxP. Proc Natl Acad Sci USA (1984) vol. 81 (4) pp. 1026-9
・FLPリコンビナーゼの配列は以下の文献で参照可能である。
Hartley and Donelson. Nucleotide sequence of the yeast plasmid. Nature (1980) vol. 286 (5776) pp. 860-865
・FRTの配列は以下の文献で参照可能である。
Hartley and Donelson. Nucleotide sequence of the yeast plasmid. Nature (1980) vol. 286 (5776) pp. 860-865
Andrews et al. The FLP recombinase of the 2 micron circle DNA of yeast: interaction with its target sequences. Cell (1985) vol. 40 (4) pp. 795-803
Gronostajski and Sadowski. Determination of DNA sequences essential for FLP-mediated recombination by a novel method. J Biol Chem (1985) vol. 260 (22) pp. 12320-7
Senecoff et al. The FLP recombinase of the yeast 2-micron plasmid: characterization of its recombination site. Proc Natl Acad Sci USA (1985) vol. 82 (21) pp. 7270-4
【0022】
本発明の遺伝子ターゲッティングベクターは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と上記DNA構築物を相同的に組換えることが可能な限り特に限定されないが、例えば以下(A)又は(B)のベクターが挙げられる。
【0023】
(A)ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(3)所望のアミノ酸配列をコードするDNA。
上記(A)のベクターは、所望のアミノ酸配列をコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。その場合、上記(2)のDNAと上記(3)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。あるいは、上記(1)のDNAと上記(2)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
【0024】
(B)ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
上記(B)のベクターもまた、所望のアミノ酸配列をコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。その場合、上記(1)のDNAと上記(2)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれに限定されない。
【0025】
また上記(A)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって
(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び
(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含む、
DNA。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(β)のDNAの間、上記(β)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0026】
(i)の相同なDNAは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと組換え可能である。該5’側のDNAとしては、例えば重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ重鎖抗体遺伝子座において抗体重鎖可変部のシグナルペプチドをコードするDNAの5’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに上流(5’側)のDNA領域に存在する最初のBamHIサイト、最初のXhoIサイト、最初のXbaIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
また例えば、軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ軽鎖抗体遺伝子座において抗体軽鎖可変部のシグナルペプチドをコードするDNAの5’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに上流(5’側)のDNA領域に存在する最初のSacIサイト、最初のBamHIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
なお、抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNAを始点として5’側のDNAを取得する場合には、5’側のDNAに抗体遺伝子プロモーターが含まれるため、別途プロモーターDNAを挿入する必要はない。
【0027】
また(iii)の相同なDNAは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと組換え可能である。該3’側のDNAとしては、例えば重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ重鎖抗体遺伝子座において抗体重鎖可変部をコードするDNAの3’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに下流(3’側)のDNA領域に存在する最初のXhoIサイト、最初のClaIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
また例えば、軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ軽鎖抗体遺伝子座において抗体軽鎖可変部をコードするDNAの3’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに下流(3’側)のDNA領域に存在する最初のClaIサイト、最初のEcoRIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
また上記(A)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(v)に記載のDNAを含むDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNA、
(ii)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(iii)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(iv)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び
(v)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNA。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(iv)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。
上記(v)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0029】
また本発明の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ抗体重鎖遺伝子座の周辺領域を含む以下のDNA断片を元に設計することが出来るがこれらに限定されない。
・BamHI - XhoI断片
・BamHI - ClaI断片
・XhoI - XhoI断片
・XhoI - ClaI断片
・XbaI - XhoI断片
・XbaI - ClaI断片
また本発明の軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ抗体軽鎖遺伝子座の周辺領域を含む以下のDNA断片を元に設計することが出来るがこれらに限定されない。
・SacI - ClaI断片
・BamHI - EcoRI断片
・SacI - ClaI断片
・BamHI - EcoRI断片
本発明では、上記制限酵素サイトはニワトリ抗体遺伝子座に天然に存在するものに限られない。プライマーに制限酵素サイトを付加してPCRにより増幅すれば所望の制限酵素サイトを含むDNA断片を取得することが出来る。本発明の制限酵素サイトはこのようにして得られるものも含まれる。
【0030】
また本発明の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ重鎖抗体遺伝子座の抗体可変部コード領域5’側のBamHIサイトから開始コドン直前までの塩基配列(配列番号:44)を含むDNA断片、抗体可変部コード領域3’側のSacII-XhoI断片(配列番号:45)を含むDNA断片、上記(ii)のDNAを含むDNA断片を有するDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターと表現することも出来る。配列番号:44に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに5’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。配列番号:45に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに3’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。
また本発明の軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ軽鎖抗体遺伝子座のSacIサイトから開始コドン直前までの塩基配列(配列番号:46)を含むDNA断片、配列番号:47に記載の塩基配列を含むDNA断片、上記の(ii)のDNAを含むDNA断片を有するDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターと表現することも出来る。配列番号:46に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに5’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。配列番号:47に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに3’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。
【0031】
本発明の遺伝子ターゲッティングベクターは、上述の全ての特徴を有してもよい。すなわち本発明の上記(A)の遺伝子ターゲッティングベクターは以下のように表現することが出来る。
(重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体重鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって
(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び
(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含む、
DNA。
(軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体軽鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって
(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び
(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含む、
DNA。
上記の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター及び軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(β)のDNAの間、上記(β)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0032】
また上記(B)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAを含み、
(iii)のDNAが、(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNAを含み、
(α)のDNAと(ii)のDNAは機能的に結合している、
DNA。
(i)の相同なDNA、及び、(iii)の相同なDNAについては上述の通りである。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0033】
また上記(B)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(v)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNA、
(ii)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(iii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(iv)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、及び
(v)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNA。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(iii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。
上記(v)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0034】
また上記(B)の遺伝子ターゲッティングベクターは以下のように表現することが出来る。
(重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体重鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAを含み、
(iii)のDNAが、(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNAを含み、
(α)のDNAと(ii)のDNAは機能的に結合している、
DNA。
(軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体軽鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAを含み、
(iii)のDNAが、(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNAを含み、
(α)のDNAと(ii)のDNAは機能的に結合している、
DNA。
上記の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター及び軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
上記(B)のベクターにおいては、所望のアミノ酸配列をコードするDNAの3’末端にスプライシングドナーコンセンサス配列が付加されてもよい。スプライシングドナーコンセンサス配列としては、「AG GTRAGT」(R=A or G、下線部がイントロン配列)を付加することができるが、これに限定されない。
所望のアミノ酸配列をコードするDNAにスプライシングドナーコンセンサス配列を連結する場合、スプライシング後、mRNA上で所望のアミノ酸配列をコードする領域と抗体定常部をコードする領域とがインフレームとなるようにスプライシングドナーコンセンサス配列の前に適宜塩基を追加又は削除する必要がある。
上記(B)のベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNA((ii)のDNA)と、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA((β)のDNA)は、出来る限り近い距離にあることが好ましい。また(β)のDNAがマーカー遺伝子を含むものである場合には、マーカー遺伝子の3’側にポリA付加配列を有することが好ましい。
【0035】
また本発明は上述の遺伝子ターゲティングベクターを提供する。また本発明は、上述のターゲティングベクターにおいて所望のアミノ酸配列をコードするDNAの代わりにクローニングサイトを有するベクターを提供する。より具体的には本発明は、
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と以下のDNA構築物を相同的に組換えるための遺伝子ターゲッティングベクターであって、以下のDNA構築物を含むベクターを提供する。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)クローニングサイトを含むDNA、
(3)DNA構築物から除去され得るDNAであって、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNA
を含むDNA構築物。
【0036】
(3)に記載のDNAは、
部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAであり、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNA
と表現することも出来る。
マーカー遺伝子はその3’末端にポリA配列を有していてもよい。
【0037】
本発明の遺伝子ターゲッティングベクターは、クローニングサイトに所望のアミノ酸配列コードするDNAが挿入されていてもよい。
クローニングサイトとしてはマルチクローニングサイトが挙げられるがこれに限定されない。
【0038】
以下に、上述の(B)のベクターにおいて所望のアミノ酸配列をコードするDNA((ii)のDNA)がクローニングサイトに置き換えられたベクターの具体例を示すがこれらに限定されない。
配列番号:10(図21)は、本発明の重鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:10に記載の塩基配列(特に1−7277番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図21(配列番号:10)において、
1-1395番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1396-1441番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1442-1624番目の塩基はイントロンDNA、
1625-1635番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1671-1704番目の塩基はloxP_REのDNA配列(TACCGTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTAT、(配列番号:37))、
1711-2697番目の塩基はマーカーのポリA付加配列を含むDNA、
2720-3142番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3186-4527番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
4555-4588番目の塩基はloxP_LEのDNA配列(ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAACGGTA(配列番号:38))、
4598-7277番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列
に対応する。
1442-1624番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1397-1441番目の塩基と1625-1635番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
なお上記に例示したターゲティングベクターでは変異型loxP配列を用いている(Albert H., et al., Plant J. 7:649 (1995)、Araki K., et al., Nucleic Acids Res. 25:868 (1997))。
また本発明では、DT40用のマーカー遺伝子を用いた(Arakawa H., BMC Biotechnol. 1:7 (2001))。DT40用のマーカー遺伝子は上述の通りである。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0039】
また配列番号:13(図22)は、本発明の重鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:13に記載の塩基配列(特に5-7266番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図22(配列番号:13)において、
5-1399番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1400-1445番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1446-1628番目の塩基はイントロンDNA、
1629-1639番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1660-1693番目の塩基はloxP_REのDNA配列(TACCGTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTAT(配列番号:37))、
1700-2686番目の塩基はマーカー遺伝子のポリA付加配列を含むDNA
2709-3131番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3175-4516番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
4544-4577番目の塩基はloxP_LEのDNA配列(ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAACGGTA(配列番号:38))、
4587-7266番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列
に対応する。
1446-1628番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1400-1445番目の塩基と1629-1639番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0040】
また配列番号:18(図23)は、本発明の軽鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:18に記載の塩基配列(特に1−6870番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図23(配列番号:18)において、
1-1868番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1869-1914番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1915-2039番目の塩基はイントロンDNA、
2040-2056番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
2085-2118番目の塩基はloxP_REのDNA配列、
2146-3487番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
3531-3953番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3976-4962番目の塩基はマーカー遺伝子のポリA付加配列を含むDNA配列、
4969-5002番目の塩基はloxP_REのDNA配列、
5011-6870番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列、に対応する。
1915-2039番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1869-1914番目の塩基と2040-2056番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0041】
また配列番号:20(図24)は、本発明の軽鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:20に記載の塩基配列(特に1-6861番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図24(配列番号:20)において、
1-1868番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1869-1914番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1915-2039番目の塩基はイントロンDNA、
2040-2056番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
2076-2109番目の塩基はloxP_LEのDNA配列、
2137-3478番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
3522-3944番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3967-4953番目の塩基はマーカー遺伝子のポリA付加配列を含むDNA配列
4960-4993番目の塩基はloxP_REのDNA配列、
5002-6861番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列、に対応する。
1915-2039番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1869-1914番目の塩基と2040-2056番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0042】
本発明のターゲティングベクターの細胞への導入方法は、特に制限されないが、当業者であれば、選択した抗体産生細胞に応じて好適な導入法を選択することができる。例えば抗体産生細胞が哺乳動物細胞である場合には、例えばリン酸カルシウム沈降法、核マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、DEAE-デキストラン法、細胞融合、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、リポフェクション法、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)、エレクトロポレーション法を用いた方法などの方法が例示できるかこれらに限定されない。
【0043】
本発明に用いる抗体産生細胞は、抗体を産生し得る限り、由来動物種、細胞株種は限定されない。ヒト、マウス、ヒツジ、ラット、ウサギ、ニワトリなどの抗体産生細胞若しくはその細胞株又はそれらの変異株を用いることができる。また抗体産生細胞は、B細胞、ヒトバーキットリンパ腫細胞株(Ramos、BL2など)、マウスプレB細胞株18-81、マウス未熟B細胞株WEHI-231などが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、ニワトリ由来のB細胞、例えばニワトリ抗体産生細胞由来のDT40細胞株、DT40-SW細胞株が挙げられる。DT40細胞株は、Bリンパ腫由来の細胞であり、第2染色体がトリソミーという特徴をもつ(Baba, T.W., Giroir, B.P. and Humphries, E.H.:Virology 144 : 139-151,1985)。また、野生型DT40株又は本発明者らが独自に樹立したDT40-SW株(変異機能を司るAID遺伝子の発現を可逆的にスイッチすることにより、その抗体変異機能をON/OFF制御できる変異株(詳細はKanayama, N., Todo, K., Reth, M., Ohmori, H. Biochem. Biophys. Res. Commn. 327:70-75 (2005)及び特開2006-109711号公報に記載されている))を用いることができる。
また本発明の抗体産生細胞には、遺伝子操作により人工的に抗体産生能を付与した細胞も含まれる。人工的に抗体産生能を付与した細胞の場合、完全な抗体分子を産生可能である必要はなく、抗原に結合するために必要な可変領域を含む抗体フラグメントを産生し得る細胞でもよい。またキメラ抗体またはヒト化抗体等、非天然型の抗原に結合し得る分子およびそのフラグメントを産生し得る細胞でもよい。
本発明の抗体産生細胞は後述の特徴を有するものでもよい。
【0044】
また本発明は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する方法に関する。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA
相同的な組換えは上述の方法によって行うことが出来る。組換えられた細胞の選択は、例えばマーカー遺伝子の発現を指標として行うことが出来る。また、抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行うことが出来る。あるいはこれら2つの指標を組み合わせて細胞の選択をすることも可能であるが、これらに限定されない。
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組み換えられた細胞は、内因性抗体を産生することができなくなる。そのため、細胞表面への内因性抗体の提示の有無を指標として、相同的に組み換えられた細胞を選択することができる。さらに、本発明においては、上記(3)のDNAの存在により、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が阻害される。より具体的には、上記(3)のDNAの存在により、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が阻害される。そのため、細胞表面への提示のために所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した場合であっても、上記(3)のDNAが存在する限り、該ポリペプチドと抗体定常領域とを含むポリペプチドが細胞表面に提示されることはない。これにより、抗体定常部に対する抗体を用いて、細胞表面における抗体分子の有無を指標として効率的に相同的に組換えられた細胞を選択することが可能になる。細胞表面における抗体分子の有無を指標とした細胞の選択は、例えばフローサイトメトリー、抗体産生細胞の産生する抗体に特異的に結合する抗体を結合させた磁気ビーズなどにより行うことができるが、これらに限定されない。
また、上記(3)のDNAは、細胞増殖による選択圧をかけるために、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含むことが好ましい。薬剤耐性遺伝子としては、例えばネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
また本発明は、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造は、本明細書に記載の方法によって組換え細胞を取得し、後述の方法で当該細胞のゲノムDNAから、後述する以下のDNAを除去することによって行うことが出来る。必要に応じて、以下のDNAが除去された細胞を選択する工程を含んでもよい。ポリペプチドの産生を指標に、以下のDNAが除去された細胞を選択することが出来る。
ここで以下のDNAとは、
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA
を指し、より具体的には、
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA
を指す。
【0046】
また本発明は、以下(a)から(c)の工程を含むポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
【0047】
本発明のポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、抗体産生細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に、部位特異的組換え酵素を作用させる。これにより、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが、抗体産生細胞のゲノムDNAから除去される。
互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAの存在により、所望のアミノ酸配列をコードするDNA又は抗体定常部をコードするDNAのいずれか又は両方の転写が阻害されるため、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAの転写産物の正常な産生が阻害される。あるいは所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAの転写産物の正常なスプライシング、翻訳又は翻訳産物のプロセッシング(例えばフォールディング)が阻害されるため、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの正常な産生が阻害される。そのため、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAの除去により、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が回復する。当該ポリペプチドにシグナルペプチドが付加されている場合には、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが細胞表面に提示される。又は、細胞外に分泌される。この場合、ポリペプチドの細胞表面への提示の有無により、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが除去されたことを確認することが出来る。また、細胞表面にポリペプチドが提示されることにより、抗体可変部をコードする領域へのターゲティングが成功したことを確認することが出来る。
【0048】
本発明のポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、ポリペプチドがシグナルペプチドを有する場合もしくはシグナルペプチドが付加されている場合、当該ペプチドは細胞の表面に提示される。又は、該細胞の細胞外に分泌される。
【0049】
本発明の方法においては、(i)所望のアミノ酸配列として抗体重鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
また、(ii)所望のアミノ酸配列として抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
本発明の方法において(i)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、内因性の抗体軽鎖を含む抗体が産生される。
また(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖、及び、内因性の抗体重鎖を有する抗体が産生される。
また(i)及び(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、(i)のベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、(ii)のベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖を有する抗体が産生される。
本発明はこのような抗体を産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
【0050】
また本発明は、以下(a)から(c)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法を提供する。
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
【0051】
さらに必要に応じて、(d)(3)のDNAが除去された細胞を選択する工程、を含んでもよい。ポリペプチドの産生を指標に、(3)のDNAが除去された細胞を選択することが出来る。
本発明のターゲッティングベクターは上記(1)から(3)に記載のDNAに加え、抗体遺伝子座におけるDNAと相同なDNAを含むことが出来る。
また所望のアミノ酸配列をコードするDNAがシグナルペプチドをコードするDNAを有さない場合、当該DNAによってコードされるポリペプチドの細胞表面への発現あるいは分泌を促進するために、遺伝子ターゲッティングベクター中の所望のポリペプチドをコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを挿入してもよい。
【0052】
「変異が導入されたポリペプチド」は「改変ポリペプチド」と表現することも出来る。
変異には、置換、挿入、欠失、付加、及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0053】
本発明の方法においては、(i)所望のアミノ酸配列として抗体重鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
また、(ii)所望のアミノ酸配列として抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
本発明の方法において(i)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、内因性の抗体軽鎖を有する抗体が産生される。
また(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖、及び、内因性の抗体重鎖を有する抗体が産生される。
また(i)及び(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、(i)のベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、(ii)のベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖を有する抗体が産生される。
ここで、AID遺伝子の発現により、内因性の抗体可変部のアミノ酸をコードするDNAと同様に(i)のベクターに挿入された抗体重鎖可変部のアミノ酸をコードするDNA及び(ii)のベクターに挿入された抗体軽鎖可変部のアミノ酸をコードするDNAにも一定の頻度で変異が導入されるため、所望の抗体可変部に変異が導入された抗体が産生される。
本発明はこのような変異が導入された抗体を産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
【0054】
上記変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、工程(a)の(3)に記載のDNAは、
該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
と表現することが出来る。
また工程(c)は
工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程
と表現することが出来る。
【0055】
また本発明のAID遺伝子を発現している細胞としては、内因性のAID遺伝子を有する細胞であってAID遺伝子を発現することが可能な細胞が挙げられる。より具体的には、ニワトリB細胞株DT40、ヒトバーキットリンパ腫細胞株(Ramos、BL2など)、マウスプレB細胞株18-81、マウス未熟B細胞株WEHI-231などが挙げられるがこれらに限定されない。ここで、細胞が内因性のAID遺伝子を発現している細胞の場合、抗体可変部遺伝子座に組み換えられた所望のアミノ酸配列をコードするDNAに変異が導入される。
【0056】
また本発明は、以下(a)から(e)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法を提供する。
(a)AID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程、
(d)AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【0057】
上記変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、工程(b)は、
内因性の抗体を細胞表面に提示しない細胞を選択する工程、マーカー遺伝子を発現する細胞を選択する工程、又は、マーカー遺伝子を発現し内因性の抗体を細胞表面に提示しない細胞を選択する工程、と表現することが出来る。
【0058】
また本発明は、以下の工程を含む変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【0059】
また本発明は、以下の工程を含む変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物、及び、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物
を有する細胞であり、該部位特異的組換え酵素が、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下において活性化されない細胞に、
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
本発明の変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、ポリペプチドがシグナルペプチドを有する場合もしくはシグナルペプチドが付加されている場合、当該ペプチドは細胞の表面に提示される。又は、該細胞の細胞外に分泌される。
【0060】
本発明の抗体産生細胞は、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、AID遺伝子の発現及び非発現を制御する(AID遺伝子の発現のON、OFFを変換する)ことが出来る。これにより、所望のアミノ酸配列をコードするDNAへの変異の導入を開始または停止することが可能である。AID遺伝子の発現がONの場合には、所望のアミノ酸配列をコードするDNAへの突然変異を導入する機能がONとなり、継続的に変異が導入される。一方AID遺伝子の発現がOFFの場合には、DNAへの変異は起こらない状態が維持される。すなわち、OFFになった時点で変異を受けたDNAはその後さらなる変異を受けることなく変異が維持される。
【0061】
なおAID遺伝子の発現が開始してからDNAに変異が導入されるまでに時間がかかる場合がある。もしAID遺伝子の発現が開始してもすぐにDNAに変異が導入されない場合、該細胞を一定時間(例えば1ヶ月間)培養することが好ましい。培養条件は、40℃、5%CO2存在下とすることが出来るがこれに限定されない。
【0062】
このような、AID遺伝子の発現のON、OFFによる遺伝子突然変異制御のメカニズムを利用して、対象とする所望のアミノ酸配列をコードするDNAに変異を導入することが可能である。あるいは逆に、一定の突然変異を受けたDNAにさらなる突然変異が起こらないようにすることが可能である。
【0063】
抗体産生細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが除去され、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が回復する。このような細胞を選択することにより、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドを産生する抗体産生細胞を取得することが出来る。また、このような細胞を選択することにより、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドや当該ポリペプチドをコードするDNAを取得することが出来る。もし必要であれば、部位特異的組換え酵素を作用させた細胞が変異が導入されたポリペプチドを産生するようになるまで、一定の時間細胞を培養してもよい。
【0064】
また本発明のAID遺伝子を発現している抗体産生細胞は、AID遺伝子の発現及び非発現を人為的に制御できる細胞とすることが出来る。このような細胞として、内因性のAID遺伝子を有さない抗体産生細胞に外部からAID遺伝子を導入した細胞、内因性のAID遺伝子が不活性化されている抗体産生細胞に外部からAID遺伝子を導入した細胞などが挙げられるがこれらに限定されない。外部からAID遺伝子を導入した細胞は、導入された細胞内で機能するプロモーターとAID遺伝子が機能的に結合したDNAを含むベクターを、抗体産生細胞に導入することにより取得することが出来る。プロモーターは、当業者であれば様々なものを想到し得、適切なものを選択することができる。例えば、β-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0065】
また本発明の抗体産生細胞として、内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、かつ、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、外因性のAID遺伝子を含むDNAを含むDNA構築物を有し、部位特異的組換え酵素によって部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが反転され得る細胞が挙げられる。本明細書では、このDNA構築物を「外因性AID遺伝子構築物」と称する場合がある。
【0066】
「遺伝子が機能的に破壊されている」ことを、「遺伝子が不活性化されている」、「遺伝子が欠損している」、「遺伝子がノックアウトされている」と表現することも出来る。また遺伝子の不活性化は、遺伝子の発現が完全に抑制されている場合だけでなく、部分的に抑制されている場合も含まれる。
本発明において遺伝子の不活性化とは、遺伝子の塩基配列に部分的に欠失、置換、挿入、付加等が生じ遺伝子の発現が抑制されていることをいう。「遺伝子の発現を抑制」とは、遺伝子自体は発現するが、正常な機能を有する蛋白質が産生されない場合も含まれる。
本発明においては、対立遺伝子の一方のみを不活性化するため、AID遺伝子をヘテロでノックアウトすることも可能である(JP 2006-109711、Biochem. Biopys. Res. Commun. 327:70 (2005))。AID遺伝子のノックアウトは、例えば、遺伝子ターゲッティングベクターを用いた相同組換えにより行うことができる。相同組換えは、染色体上の遺伝子と外来DNAとの間で相同的遺伝子組換えを行い、目的の遺伝子を改変する方法をいう。相同組換えが起こった細胞を同定するために、遺伝子ターゲッティングベクターには選択マーカーが挿入されていてもよい。選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素タンパク質遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。なお、これらのマーカー遺伝子には3‘末端にポリAを付加してもよい。
【0067】
本発明の外因性AID遺伝子構築物は、抗体産生細胞のゲノムに組み込まれていることが好ましい。該構築物のゲノム上への組み込み位置は特に限定されないが、例えば外因性AID遺伝子構築物は、内因性遺伝子座の一方の対立遺伝子の位置に組み込まれてもよい(JP 2006-109711、Biochem. Biopys. Res. Commun. 327:70 (2005))。その場合、例えばJP 2006-109711の図3などの情報をもとに、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれた外因性のAID遺伝子(例えば配列番号:50(図26)、GeneBank accession NO. XM_416483)が機能的に結合したDNAを含むDNA構築物を含有するAID遺伝子ターゲッティングベクターを作製して、該細胞に導入する。これにより、抗体産生細胞の内因性AID遺伝子と、上記DNA構築物の間で相同組換えが生じる。これにより、外因性AID遺伝子構築物をゲノム上に有する抗体産生細胞を取得することが出来る。
プロモーターとしては上述のものを用いることが出来るがこれらに限定されない。
上記部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれた外因性のAID遺伝子は、部位特異的組換え酵素を作用させることにより反転し得る。外因性のAID遺伝子がプロモーターDNAに対して順方向である場合には、該プロモーターDNAと外因性のAID遺伝子は機能的に結合されAID遺伝子が発現する。一方、外因性のAID遺伝子がプロモーターDNAに対して逆方向である場合には、AID遺伝子は発現しない。
【0068】
もし細胞が、内因性のAID遺伝子が不活性化され、かつ、外因性AID遺伝子構築物を有する場合、該細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、該部位特異的組換え酵素が細胞内の部位特異的組換え酵素認識配列を認識し、2つの部位特異的組換え酵素認識配列により挟まれている領域が反転する(すなわち、AID遺伝子の向きがプロモーターに対して逆方向から順方向へ、または順方向から逆方向へ変換する)。これによって、AID遺伝子の向きがプロモーターに対して逆方向から順方向になった場合、AID遺伝子の発現がOFFからONに変換される。逆に、AID遺伝子の向きがプロモーターに対して順方向から逆方向になった場合、AID遺伝子の発現がONからOFFに変換される。
【0069】
より具体的には、細胞が外因性AID遺伝子構築物を有し、該構築物においてプロモーターとAID遺伝子が順方向を向いている場合、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、当該構築物上の外因性AID遺伝子の向きがプロモーターに対して逆方向に反転する。その結果、AID遺伝子の発現が停止し、これにより抗体産生細胞のゲノムに組み込まれた所望のアミノ酸配列をコードするDNAから発現されるポリペプチドへの変異の導入が停止する。
もし部位特異的組換え酵素を作用させることにより外因性AID遺伝子構築物の外因性AID遺伝子の向きが反転しない場合、AID遺伝子が該遺伝子のプロモーターに対して順方向に配置されているので、該プロモーターによりAID遺伝子が発現し続ける。
本発明では、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させた結果プロモーターとAID遺伝子が順方向を向いている細胞を選択することにより、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドを産生する抗体産生細胞を取得することが出来る。また、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドや当該ポリペプチドをコードするDNAを取得することが出来る。
【0070】
また細胞が外因性AID遺伝子構築物を有し、該構築物においてプロモーターとAID遺伝子が逆方向を向いている場合、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、当該構築物上の外因性AID遺伝子の向きがプロモーターに対して順方向に反転する。その結果、AID遺伝子の発現が開始し、これにより抗体産生細胞のゲノムに組み込まれた所望のアミノ酸配列をコードするDNAから発現されるポリペプチドに変異が導入される。
もし部位特異的組換え酵素を作用させることにより外因性AID遺伝子構築物の外因性AID遺伝子の向きが反転しない場合、AID遺伝子が該遺伝子のプロモーターに対して逆方向に配置されたままなので、該プロモーターによるAID遺伝子の発現は停止したままである。
本発明では、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させた結果プロモーターとAID遺伝子が順方向を向いている細胞を選択することにより、改変ポリペプチドを産生する抗体産生細胞を取得することが出来る。また、改変ポリペプチドをコードするDNAを取得することが出来る。
【0071】
AID遺伝子に対して順方向に導入されたマーカー遺伝子と、逆方向に導入されたマーカー遺伝子の2つのマーカー遺伝子を含む外因性AID遺伝子構築物を設計すると、AID遺伝子がプロモーターに対して順方向および逆方向いずれの方向を向いている場合であってもマーカー遺伝子による選択ができるため、有利である。このような構築物として、以下の特徴を有する外因性AID遺伝子構築物が挙げられる。
・5’側から3’側に向かって、第1の部位特異的組換え酵素認識配列、順方向の第1のマーカー遺伝子、逆方向の第2のマーカー遺伝子、逆向きのAID遺伝子、第2の部位特異的組換え酵素認識配列が存在するようなDNA配列を含む外因性AID遺伝子構築物
いずれのマーカー遺伝子も、マーカー遺伝子がプロモーターに対して順方向に存在する時にのみ発現可能であるように設計することが必要である。上記に例示した構築物においては、例えば第2のマーカー遺伝子として例えばGFP遺伝子を用いる場合、GFP遺伝子の十分な発現を得るためにIRES配列を第2のマーカー遺伝子とAID遺伝子との間に挿入しておくとよい。例えば、5’側から3’側に向かって、順方向のプロモーター、第1の部位特異的組換え酵素認識配列、順方向の第1のマーカー遺伝子、順向きポリA付加配列、逆向きポリA付加配列、逆方向の第2のマーカー遺伝子、逆方向のIRES配列、逆方向のAID遺伝子、第1の部位特異的組換え酵素認識配列とは逆方向の第2の部位特異的組換え酵素認識配列が配置されたDNA構築物を利用することが出来る。
【0072】
あるいはまた、上記とは別の態様として、AID遺伝子を同方向に向いた2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟む形態を取るDNA構築物を導入した細胞を用いることもできる。この場合には部位特異的組換え酵素が作用すると、AID遺伝子は切り出されて脱落し、細胞は不可逆的にAID欠損となる。この細胞のAID遺伝子の発現を再びONにするためには再度AID遺伝子を導入する必要があるが、AID遺伝子のOFFは100%の効率で達成できるので、この方法を採用してもよい。
【0073】
AID遺伝子が特定の方向にあるクローンを効率的に選択するために、外因性AID遺伝子構築物は種々のマーカー遺伝子を有することが出来る。選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素生成タンパク質遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0074】
外因性AID遺伝子構築物において、抗体産生細胞で機能し得るプロモーターとAID遺伝子が順方向を向いているためにAID遺伝子が発現可能な状態で存在している場合には、マーカー遺伝子も発現可能なように、AID遺伝子とマーカー遺伝子が同じ向きに存在するようにDNA構築物を設計する。この場合、マーカー遺伝子を発現している抗体産生細胞は、AID遺伝子も発現し得る状態にあるため、マーカー遺伝子の発現を指標に(表現型に基づいて)、AID遺伝子を発現する細胞を選択することができる。
【0075】
逆に、外因性AID遺伝子構築物において、抗体産生細胞で機能し得るプロモーターとAID遺伝子が逆方向を向いているためにAID遺伝子が発現不可能な状態で存在している場合には、マーカー遺伝子の発現が可能なように、AID遺伝子とマーカー遺伝子が逆方向に(プロモーターとマーカー遺伝子が同じ方向に)存在するようにDNA構築物を設計する。この場合、マーカー遺伝子を発現している抗体産生細胞は、AID遺伝子を発現しない状態にあるため、マーカー遺伝子の発現を指標に(表現型に基づいて)、AID遺伝子を発現しない細胞を選択することができる。
【0076】
本発明では、変異が導入されたポリペプチドを産生する細胞の選択は、AID遺伝子の発現がONの状態、OFFの状態のいずれでも行うことが出来る。単離した細胞から所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAを単離し、それが所望のポリペプチド又はそれをコードするDNAであるか否かを決定する。もし単離したポリペプチド又はDNAが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAでない場合であって、細胞のAID遺伝子の発現がONの状態の場合、さらに培養を続けることも可能である。培養を継続することにより、ポリペプチドに変異が蓄積する。培養を継続後の細胞からポリペプチド又はそれをコードするDNAを単離し、それが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAであるか否かを決定することも可能である。
一方、もし単離したポリペプチド又はDNAが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAでない場合であって、細胞のAID遺伝子の発現がOFFの状態の場合、ONに変換する。これにより、細胞はさらに変異が導入されたポリペプチドを産生する。当該細胞から変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAを単離し、それが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAであるか否かを決定することも可能である。
【0077】
本発明の方法の一例を以下に示すがこれに限定されない。
(1)例えば、AID遺伝子を発現しない抗体産生細胞(AID遺伝子の発現がOFFの抗体産生細胞)に本発明の遺伝子ターゲッティングベクターを導入する。ベクターの導入に成功した細胞では、内因性抗体分子は発現しない(もし仮にAID遺伝子を発現する抗体産生細胞(AID遺伝子の発現がONの抗体産生細胞)に本発明の遺伝子ターゲッティングベクターを導入した場合も、ベクターの導入に成功した細胞では内因性抗体分子を発現しない)。
(2)内因性抗体分子を発現しない細胞を選択する。
(3)次にベクターが導入された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させる。これにより部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが除去され、ポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を発現する。また部位特異的組換え酵素を細胞に作用させることにより、外因性AID遺伝子構築物上のAID遺伝子の向きが反転する。AID遺伝子の向きが反転する結果、該遺伝子の発現が起こる(AID遺伝子の発現がONになる)。なおこの時、AID遺伝子の向きが反転しない場合がある。その場合、AID遺伝子の発現がONの細胞とOFFの細胞の両方が存在する結果となる。
(4)次にポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を産生し、かつAID遺伝子を発現する細胞を選択する。あるいは、ポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を産生し、かつAID遺伝子を発現しない細胞を選択する。後者の細胞を選択した場合、再度、部位特異的組換え酵素を細胞に作用させる。作用させた結果AID遺伝子の発現がONに変換された細胞を選択する。
(5)次に、選択したポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)及びAID遺伝子の両方を発現する細胞から所望の性質を有するポリペプチドを産生する細胞を単離する。あるいは、選択した細胞を一定期間培養し、培養後の細胞から所望の性質を有するポリペプチドを産生する細胞を選択する。細胞を単離する前又は後に、部位特異的組換え酵素を細胞に作用させ、AID遺伝子の発現をOFFにしてもよい。
(6)所望の性質を有するポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を産生する細胞が得られなかった場合には、一定期間培養し、(5)の工程を繰り返すことが出来る。(5)でAID遺伝子の発現をOFFにした場合には、培養の前にAID遺伝子の発現を再度ONにする。
(7)単離した細胞からDNAを単離し、実際に変異が導入されていることを確認してもよい。
【0078】
変異が導入されたポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするDNAの単離は後述の方法によって行うことが出来る。変異が導入されたポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするDNAが所望のものであるか否かは、変異が導入されたポリペプチドの活性または当該ポリペプチドをコードするDNAの塩基配列を調べることによって確認することが出来る。あるいは、変異が導入されたポリペプチドが抗体、サイトカインレセプターなどの場合、抗原やリガンドへの結合活性(特異性、親和性など)を指標に、酵素などであれば、酵素活性を指標に、変異が導入されたポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするDNAが所望のものであるか否かを判定することが出来る。
このようにして、得られる細胞群から目的とする変異が導入されたポリペプチドを産生するクローンを単離することができる。また、単離したクローンで再度AID遺伝子の発現を0Nにして更なる変異の導入を繰り返すことで、より望ましい変異が導入されたポリペプチドを産生するクローンを得ることが可能である。
【0079】
また、所望の性質を有するポリペプチドを産生する細胞の選択は、産生されたポリペプチドが所望の性質を有するか否かを指標としてスクリーニングすることにより行うことが出来る。細胞からポリペプチドを単離して行ってもよいが、細胞のまま行うことも出来る。このとき、ポリペプチドを細胞表面に提示又は細胞外に分泌させるために、抗体産生細胞で機能するDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAとの間にシグナルペプチドをコードするDNAを挿入してもよい。ポリペプチドが細胞外に分泌される場合には、細胞培養液をスクリーニングに用いてもよい。上記のように細胞を選択した後、細胞からDNAを単離して変異の導入された塩基配列を確認してもよい。
【0080】
本発明において、細胞への部位特異的組換え酵素の作用は、例えば以下の方法で行うことが出来るがこれらに限定されない。
(1)テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどの制御性プロモーターの3’側に、核移行シグナルを導入した(あるいは含む)部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物を含む細胞に、テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどを加える。
・Gossen, M. Bujard, H. (1992) Tight control of gene expression in mammalian cells by tetracycline responsive promoters. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551.
・Gossen, M., Freundlieb, S., Bender, G., Muller, G., Hillen, W. Bujard, H. (1995) Transcriptional activation by tetracycline in mammalian cells. Science 268:1766-1769.
・Urlinger, S., Baron, U., Thellmann, M., Hasan, M.T., Bujard, H. Hillen, W. (2000) Exploring the sequence space for tetracycline-dependent transcriptional activators: Novel mutations yield expanded range and sensitivity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(14):7963-7968.
(2)部位特異的組換え酵素発現ベクターを一過性にトランスフェクションする。
(3)核移行シグナルを導入した(あるいは含む)部位特異的組換え酵素を細胞に導入する。
(4)細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されない部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物を有する細胞に細胞外刺激(例えば4-ヒドロキシタモキシフェン)を加える。
【0081】
本発明の抗体産生細胞は、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAを含むDNA構築物を含むことが出来る。以下本明細書では、このDNA構築物を「部位特異的組換え酵素遺伝子構築物」と称する場合がある。
抗体産生細胞で機能するプロモーターとしては、上述の通りβ-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターなどが挙げられるがこれらに限定されない。
部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、細胞外刺激の非存在下においては活性されない形態とすることが出来る。そのような形態の部位特異的組み換え酵素としては、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドと部位特異的組換え酵素との融合タンパク質が挙げられるが、これに限定されない。
本発明の部位特異的組換え酵素遺伝子構築物は、部位特異的組換え酵素のN末端部分に核移行シグナルが挿入されていてもよい。また、部位特異的組換え酵素あるいはエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドと部位特異的組換え酵素との融合タンパク質の3’末端にポリA付加配列を含むことが好ましい。
【0082】
また本発明の部位特異的組換え酵素遺伝子構築物は選択マーカー遺伝子を有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素生成タンパク質遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。マーカー遺伝子の3‘末端にはポリAが付加されてもよい。
【0083】
本発明のエストロゲンレセプターは、リガンドとの結合活性を有する限り限定されず、野生型のエストロゲンレセプター(例えば、配列番号:52、53)及び変異型エストロゲンレセプターの両方を含む。変異型エストロゲンレセプターとしては、本来のリガンドであるエストラジオールには反応せず4-ヒドロキシタモキシフェンのみに反応するものなどが挙げられる。より具体的には、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプターが挙げられるがこれに限定されない。
抗体産生細胞の由来する生物が性ホルモンとしてエストロゲンを有する場合、あるいは抗体産生細胞がエストロゲンに対する応答性を有する場合には、エストロゲン結合活性を低下させた変異型エストロゲンレセプターを用いることが望ましい。また、部位特異的組み換え酵素との融合タンパク質とする場合には、そのリガンド結合ドメインのみを用いることも出来る。
【0084】
変異型エストロゲンレセプターの作製は、当業者であれば、例えば以下の文献(1)に記載の方法に基づき行うことが出来る(この文献では複数の変異型が作成されている)。また文献(2)には、アミノ酸配列の525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに変異することによって、本来のリガンドであるエストラジオールには反応せず、4-ヒドロキシタモキシフェンにのみ反応することが報告されている。文献(3)及び(4)にも変異型エストロゲンレセプターのタモキシフェン結合部位を融合タンパク質として用いることが開示されており、当業者であればこれらの文献を適宜参照することにより、部位特異的組換え酵素遺伝子構築物を作成することができる。なお本発明の実施例で用いているものは、変異型エストロゲンレセプターのタモキシフェン結合部位(配列番号:40、41(図25))を融合したCreリコンビナーゼ(例えば配列番号:51(図27))である。本発明の実施例で用いている変異型エストロゲンレセプターは、文献(4)(例えばFigure 1)で報告されているものである。
(1)Fawell et al. Characterization and colocalization of steroid binding and dimerization activities in the mouse estrogen receptor. Cell (1990) vol. 60 (6) pp. 953-62
(2)Danielian et al. Identification of residues in the estrogen receptor that confer differential sensitivity to estrogen and hydroxytamoxifen. Mol Endocrinol (1993) vol. 7 (2) pp. 232-40
(3)Littlewood et al. A modified oestrogen receptor ligand-binding domain as an improved switch for the regulation of heterologous proteins. Nucleic Acids Res (1995) vol. 23 (10) pp. 1686
(4)Zhang et al. Inducible site-directed recombination in mouse embryonic stem cells. Nucleic Acids Res (1996) vol. 24 (4) pp. 543-8
【0085】
本発明の部位特異的組換え酵素遺伝子構築物として以下の構造を有する構築物(上記文献(4)のFigure 1に記載の構築物に相当する構築物)が挙げられるがこれらに限定されない。
以下(1)及び(2)のDNAを含む構築物であって、(1)のDNAと(2)のDNAが機能的に結合したDNAを有する構築物(上記文献(4)のFigure 1aにおいてpANCreMerとして記載の構築物);
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)以下(i)及び(ii)がインフレームで結合したDNA、
(i)その開始コドン直後に核移行シグナルをコードするDNA断片を含む部位特異的組換え酵素をコードするDNA及び
(ii)エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドをコードするDNA。
以下(1)及び(2)のDNAを含む構築物であって、(1)のDNAと(2)のDNAが機能的に結合したDNAを有する構築物(上記文献(4)のFigure 1bにおいてpANMerCreMerとして記載の構築物);
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)以下(i)及び(ii)がベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって(ii)、(i)、(ii)の順番にインフレームで結合したDNA、
(i)その開始コドン直後に核移行シグナルをコードするDNA断片を含む部位特異的組換え酵素をコードするDNA及び
(ii)エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドをコードするDNA。
部位特異的組換え酵素をコードするDNAはその3’末端にポリA付加配列を含むことが好ましい。
【0086】
作製した部位特異的組換え酵素遺伝子構築物を当業者に周知の方法で抗体産生細胞に導入することにより、部位特異的組換え酵素遺伝子構築物を含む細胞を取得することが出来る。導入された部位特異的組換え酵素遺伝子構築物はゲノムに組み込まれることが好ましい。
【0087】
部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されないことを特徴とする。
本発明において「細胞外刺激の存在下において活性化され」とは、該刺激によって、部位特異的組換え酵素が活性型の状態で核内に移行する形で発現すること、または発現していた部位特異的組換え酵素が核内に移行することを意味する。すなわち、細胞内で部位特異的組換え酵素がゲノム中の部位特異的組換え酵素認識配列に作用して該配列を特異的に切断し得る状態になることをいう。したがって、該刺激に応答して部位特異的組換え酵素をコードするDNAの発現または部位特異的組換え酵素の活性化が起こるような形態であれば、どのような形態であってもよい。当業者であれば種々の刺激によるかかる発現または活性化の制御システムを想到し得、その中から適切なものを選択することが可能である。例えば、部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドとの融合タンパク質として発現し得るような形で、エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドをコードする遺伝子と部位特異的組換え酵素のcDNAとをインフレームで連結したDNA構築物が挙げられる(詳細には、JP 2006-109711の実施例を参照されたい)。この場合、細胞外刺激を細胞に与えると、部位特異的組換え酵素の活性化が誘導される。したがって、該刺激を作用させたときにのみ、部位特異的組換え酵素が活性化され(ここで、上記融合タンパク質が核内に移行して、部位特異的組換え酵素が部位特異的組換え酵素認識配列に作用し得ることを指す)、AID遺伝子を含む部位特異的組換え酵素認識配列に挟まれた領域が反転する。それと同時に互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNAが除去される。
【0088】
細胞外刺激としては、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインへの刺激が挙げられるがこれに限定されない。「エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインへの刺激」としては、エストロゲン(例えばエストラジオールなど)またはその誘導体(例えばエストロゲンのアンタゴにストである4-ヒドロキシタモキシフェン)による刺激が挙げられるがこれに限定されない。
【0089】
本発明の抗体産生細胞は、以下(a)及び(b)の特徴を有してもよい。
(a)抗体産生細胞由来のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている。
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
【0090】
AID遺伝子による、抗体産生細胞由来のタンパク質をコードするDNAの変異は、主として遺伝子変換という機構により行われる。一塩基の置換による点突然変異も起こるが低頻度である。一方、遺伝子変換型変異が優勢であるDT40細胞において、変異様式を遺伝子変換型から点突然変異型に転換させる方法に関する報告があり、XRCC3(X-ray repair complementing defective repair in Chinese hamster cells 3)遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみを不活性化させることによって、細胞に点突然変異型の変異を起こすことが可能なことが知られている(JP 2009-60850)。本発明はこのような、XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化した抗体産生細胞も含む。
【0091】
XRCC3は染色体の安定性維持とDNA損傷の修復に関与する遺伝子であり、細胞の相同組換えに関与する。ニワトリXRCC3遺伝子は、8個のエキソンを有する。ニワトリXRCC3遺伝子の塩基配列を配列番号:39に示す。配列番号:39中、8個のエキソンの位置は以下のとおりである。エキソン1: 1-215、エキソン2: 216-284、エキソン3: 285-422、エキソン4: 423-635、エキソン5: 636-790、エキソン6: 791-1003、エキソン7: 1004-1050、エキソン8: 1051-1935。
【0092】
本発明の抗体産生細胞は、細胞の相同染色体のそれぞれに存在する2つのXRCC3対立遺伝子のうち、片方のみが不活性化されていてもよい。ここで、遺伝子の不活性化とは上述の通りである。遺伝子の不活性化した細胞は、例えば上述したようなターゲッティングベクターによる相同組換えなど、当業者に公知の方法によって行うことが出来る。
【0093】
本発明においては、ニワトリXRCC3遺伝子の8個のエキソンのうち、いずれのエキソンを分断してもよい。また、複数のエキソンを分断してもよい。好ましくは第6エキソンを分断する。
【0094】
本発明の方法に用いる抗体産生細胞として、B細胞、ヒトバーキットリンパ腫細胞株(Ramos、BL2など)、マウスプレB細胞株18-81、マウス未熟B細胞株WEHI-231などが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、ニワトリ由来のB細胞、例えばニワトリ抗体産生細胞由来のDT40細胞株、DT40-SW細胞株が挙げられる。
【0095】
また本発明は、以下の工程を含むポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法に関する。
(a)本明細書に記載の抗体産生細胞の製造方法を用いて、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを単離する工程。
DNAの単離は当業者に周知の方法によって行うことが出来る。
本発明のポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞は、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞表面に提示する抗体産生細胞、及び、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞外に分泌する抗体産生細胞、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドが細胞質に存在する抗体産生細胞を含む。
【0096】
また本発明は、以下の工程を含むポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法に関する。
(a)本明細書に記載の抗体産生細胞の製造方法を用いて、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞又は該細胞の分泌物からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを単離する工程。
抗体産生細胞がポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞表面に提示する場合、膜画分を可溶化処理、アフィニティークロマトグラフィー処理することによってポリペプチドを単離することが出来る。
また抗体産生細胞がポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞外に分泌する場合、培養上清を濃縮後、アフィニティークロマトグラフィーによってポリペプチドを単離することが出来る。
また抗体産生細胞がポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドが細胞質に存在する場合、無細胞抽出液を作製後、アフィニティークロマトグラフィーなどの操作によって精製することによってポリペプチドを単離することが出来る。
【0097】
また本発明は、以下の工程を含むポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法に関する。
(a)上記ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法によって、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを製造する工程、及び
(b)工程(a)で製造されたDNAがコードするポリペプチドを取得する工程。
所望のポリペプチドをコードするDNAが得られれば、当業者であれば周知の方法によって当該DNAからポリペプチドを取得することが出来る。例えば、当該DNAが挿入された遺伝子発現ベクターを細胞に導入し、当該細胞で発現するポリペプチドを回収する方法などが挙げられるがこれに限定されない。
【0098】
また本発明は、抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下のDNA構築物と相同的に組換えられた抗体産生細胞を提供する。
該DNA構築物は、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を有するDNA構築物。
本発明の細胞が有するDNA構築物については上述の通りである。
【0099】
本発明の細胞は、本明細書に記載の全ての特徴を有する細胞であることが出来る。そのような細胞として以下の細胞が挙げられるがこれに限定されない。
・抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下のDNA構築物(a)と相同的に組換えられた抗体産生細胞であって、以下(a)から(c)、または(a)から(d)に記載のDNA構築物を含む細胞であって、内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞;
該DNA構築物は、
(a)(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
を含むDNA構築物、
(b)該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA、
を含むDNA構築物、
(c)該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物であって、該部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されないDNA構築物、
(d)2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化されているXRCC3遺伝子を含むDNA構築物、
上記(c)のDNA構築物は、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び部位特異的組換え酵素と、エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを含むDNA構築物
と表現することも出来る。
このような細胞は上述の方法によって作成することが出来る。
上記(a)から(c)のDNA構築物を有する細胞としては、DT40-SW細胞などが挙げられるがこれに制限されない。
【0100】
また本発明は、本明細書に記載の細胞を含むキットに関する。当該キットは、例えば、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する際に用いることが出来る。また、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造するために用いることが出来る。
本発明のキットには、本明細書に記載の細胞に加え、本明細書に記載の遺伝子ターゲッティングベクターを含むことが出来る。
【0101】
また本発明は本明細書に記載のターゲティングベクターを提供する。また本発明は、本発明のターゲッティングベクターを含む細胞を提供する。本発明の細胞は、例えば変異が導入されたポリペプチドを産生する細胞の製造に用いることが出来る。細胞としては後述のものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0102】
また本発明は、本発明のターゲッティングベクターを含むキットを提供する。本発明キットは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と以下のDNA構築物を相同的に組換えるために使用することが出来る。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含むDNA構築物。
本発明のキットは本明細書に記載の抗体産生細胞を含むことが出来る。
【0103】
また本発明は、配列番号:7に記載の塩基配列を含むDNAを提供する。このようなDNAは、本発明の遺伝子ターゲッティングベクターの構築に用いるための材料として有用である。このようなDNAは、ニワトリ由来の抗体産生細胞より、例えば実施例に記載の方法により取得することが出来る。
【0104】
本発明で新たに特定した配列は、配列番号:7に記載の塩基配列における1-3120番目、3882-7891番目の塩基である。
【0105】
また本発明は、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)等で大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールにより判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script等が挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7等が挙げられる本発明のDNAによってコードするポリペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blue等の大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーター等を持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET等が挙げられる。
【0106】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0107】
大腸菌以外にも、例えば本発明のDNAを発現するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8 )、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)等が挙げられる。
【0108】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーター等を持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418等)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13等が挙げられる。
【0109】
本発明のDNAの細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えば電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)などにより実施することができる。
【0110】
また本発明は、本発明のDNA又はベクターが導入された細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明のポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系は、in vitroおよびin vivo の産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0111】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS 、3T3、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney )、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358-340 )、あるいは昆虫細胞、例えば、sf9 、sf21、Tn5が知られている。CHO 細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO 細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220 )やCHO K-1 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0112】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum )由来の細胞がポリペプチド生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces )属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae )、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus )属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger )が知られている。
【0113】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli )、例えば、JM109、DH5α、HB101 等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照により本明細書中に組み入れられる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明者らや他のグループでDT40やRamos細胞の抗体遺伝子座に目的遺伝子が組み込まれることにより、変異が導入されうることが示された(Wang, L., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 16745-16749 (2004); Kanayama, N., et al. Nucleic Acids Res. 34, e10 (2006); Arakawa, H., et al. Nucleic Acids Res. 36, e1 (2008))。本発明者らはこれらの事実より、以下のような特徴を備えるDT40への外来抗体遺伝子導入系を構築すれば、外来の抗体をDT40の抗体作製系で効率よく親和性成熟できると考えた。
(1)導入した抗体遺伝子に変異が導入される。
(2)導入した抗体遺伝子が細胞表面に提示発現される。
(3)導入した抗体遺伝子が培地上清に分泌発現される。
【0115】
一方、抗体遺伝子座は、プロモーター下流に小胞体へのターゲッティングに必要なシグナルを含むリーダーペプチドをコードするエキソン、可変部をコードするエキソン、および定常部をコードするエキソンから構成される(図1)。重鎖の場合は、定常部は複数のエキソンから構成され、抗体が分泌型あるいは膜結合型として発現されるかは使用するエキソンの違いによって決定される。したがって、上記のような特徴を備えた系を構築するためには、ニワトリ抗体遺伝子座の可変部エキソンを外来抗体遺伝子の可変部と置換することが、最も効率的な方法であるとの着想に至った(図1A)。本発明者らは、重鎖、軽鎖両遺伝子において可変部を外来抗体由来のものに置換することによって、可変部が外来抗体由来、定常部がニワトリ由来のキメラ抗体を発現するDT40を作製することができると考えた(図2)。
【0116】
キメラ抗体を発現するDT40を作製するためには、(1)ニワトリ抗体遺伝子の単離と構造解析、(2)ニワトリ抗体遺伝子座の可変部エキソンを置換するターゲッティングベクターの構築が必要である。ゲノム解析の進展により、軽鎖抗体遺伝子領域は塩基配列が明らかになっていたが、重鎖については部分的な情報しか無かった。そこで本発明者らは、抗体重鎖の未知領域を単離し、その配列を明らかにした。明らかにした情報を元に抗体可変部遺伝子の置換のための様々なターゲッティングベクターを作製し、DT40-SW細胞への導入を検討した。しかしながら、通常の遺伝子ノックアウトに比べて目的の遺伝子改変が起こった細胞を取得する効率が悪いことが判明した。そこで本発明者らは、有効な解決策を見いだし、本発明の方法でのみ効率よくキメラ抗体を産生する細胞を樹立できることを見出した。さらに、作製した細胞の変異機能によって外来抗体遺伝子への変異導入を試みたところ、野生型DT40-SWが内因性の抗体遺伝子に変異導入する場合と同等の効率で変異導入することに成功した。
以下に本発明の実施例をより詳細に示す。
【0117】
1)ニワトリ重鎖抗体遺伝子のクローニングと解析
可変部遺伝子へのターゲティングベクターを構築するには、可変部遺伝子の上流および下流の遺伝子断片が必要である。ニワトリ重鎖抗体遺伝子の解析は、ある程度行われてきたが(Reynaud, C-A., et al. Cell 59, 171-183 (1989); Kitao, H., Immunol. Lett. 52, 99-104 (1996); Kitao, H. et al., Int. Immunol. 12, 959-968 (2000))、可変部遺伝子周辺の情報は、ほとんど明らかにされていない。抗体重鎖遺伝子が非常に不安定であると考えられるが(Reynaud, C-A., et al. Cell 59, 171-183 (1989))、その原因は明らかになっていない。今回、DT40より作製されたゲノムDNAライブラリー(京都大学、武田俊一先生より供与)から、ニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子を単離した。
【0118】
プローブの作製のため、抗体重鎖可変部遺伝子の上流域を、DNA walking法を用いて単離した。PCR反応は、KOD-plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、25 μl の反応液中で行った。1st PCRでは、アンチセンスプライマーとしてJH下流域のプライマー(cJH1R1: 5’-GGGGTACCCGGAGGAGACGATGACTTCGG-3’)(配列番号:1)、センスプライマーとして各種配列を用いた。PCR反応は、DT40のゲノムDNAを鋳型として [94℃ 15sec, 68℃ (-0.7℃/サイクル) 30sec, 68℃ 4min]15サイクル+[94℃ 15sec, 57℃ 30sec, 68℃ 4min]15サイクルで行った。2nd PCRは、テンプレートに1st PCR反応液5μl、アンチセンスプライマーは(cJH-R: 5’-CTTCGGTCCCGTGGCCCCATGCGTCGAT -3’)(配列番号:2)、センスプライマーは1st PCRと同一のものを用い、[94℃ 15sec, 62℃ 30sec, 68℃ 4min]30サイクルで行った。センスプライマーとして(TdT-2: 5’-GGTTCAATGTAGTCCAGTCC -3’)(配列番号:3)を用いた時に、約1kbpのPCR産物を得たので、pCR-Bluntベクター(Invitrogen社)にクローニングして配列を解析したところ、ニワトリ抗体重鎖VDJ遺伝子の配列を含んでおり、さらに、可変部遺伝子の上流域として知られている配列(M30319; Reynaud, C-A., et al. Cell 59, 171-183 (1989))およびさらに上流域の配列464bpを含んでいた(図19)(配列番号:4)。抗体重鎖可変部周辺域の遺伝子をクローニングするため、この遺伝子断片を鋳型とし、センスプライマー(CHCupF-Xba: 5’- GTGGCCATTCTAGAATTAATTGCACC-3’)(配列番号:5)、アンチセンスプライマー(CHCupR-Bam: 5’- GGAGGGATCCGGCTTCGTTAGC-3’)(配列番号:6)を用いて、PCR DIG Probe Synthesis Kit (Roche社)によってDIG標識プローブを作製した。
20kbp程度に切断されたDT40ゲノムDNAが組み込まれたλDASH IIファージライブラリーから、上記プローブを用いてRoche社の標準的なプロトコールにしたがってスクリーニングを行った。20万pfuのファージライブラリーから2つの陽性クローンを得られ、そのうちの一方から約20kbpのNotI断片をpBluescript II SKにサブクローニングした。さらに、このサブクローンから得た重鎖可変部遺伝子およびその上流約3.5kbp、下流約4.0kbpの計約8kbpを含むXbaI-NotI断片について、制限酵素地図を作製し(図3)、配列解析を行った。その結果、その断片はニワトリ抗体重鎖遺伝子を7891bp含んでいた(図20)(配列番号:7)。Reynaud, C-Aら(Cell 59, 171-183 (1989))によって報告された配列を含む可変部遺伝子周辺域761bpを除くすべての領域は、これまでに報告のない新規配列であった。この配列を、重鎖可変部遺伝子へのターゲティングベクターの構築に用いた。
【0119】
2)重鎖可変部遺伝子ターゲティングベクターの構築
外来抗体可変部遺伝子を導入するため、シグナルペプチド配列の付近とJH下流のイントロン部分に制限酵素サイトを導入した(図4−6、21、22)。シグナルペプチド配列に導入する制限酵素サイトの異なる2種類のターゲティングベクターを構築した。
【0120】
(VHターゲティングベクター1:図4、5、21)
VHの3番目および4番目のアミノ酸をコードするコドンをPvuIIに変更した(図4A)。この変更により、コードされるアミノ酸がトレオニン-ロイシンからグルタミン-ロイシンに変わっている。また、VHの第一番目のアミノ酸は比較的多くのマウスモノクローナル抗体で使用されているグルタミン酸に変更した。一方、JHの下流側にはSpeIサイトを導入した。PvuIIによる切断は平滑末端を生じることから、挿入する外来抗体可変部遺伝子は、5’末端は平滑末端になるようにデザインし、また、JH3’末端に、スプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’)(配列番号:42)を付加する(図4B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。。これらの工夫により、広い範囲の抗体遺伝子断片を挿入できる。
ニワトリ抗体重鎖遺伝子のXbaI-NotI断片を、あらかじめPvuIIで切断してマルチクローニングサイトを除いたpBluescript II SKベクターにオリゴヌクレオチドリンカーを介して挿入した(図5A)。BamHIサイト付近のセンスプライマー(CHFup1k-Bam: 5’-GTGGGATCCCTAATTAATGTTGGCG-3’)(配列番号:8)およびPvuII、SpeI、SacIIサイトを含むシグナルペプチド配列付近のアンチセンスプライマー(CJH4R-PSS: 5’- TATTCCGCGGACTAGTACGTCAGCTGAACCTCCGCCATCAGCCCTGTGGGGA-3’)(配列番号:9)を用いてニワトリ重鎖抗体遺伝子を鋳型としてPCR断片を作製し、マウス抗体重鎖遺伝子のBamHI-SacII部分と置換した(図5B)。上流のXbaI-BamHI部分および下流のXhoI-NotI部分を段階的に除去した(図5C)。SacIIサイトにリンカー(5’- CAGATCTGGC -3’)(配列番号:43)を使ってBglIIサイトを導入し (図5D)、pLoxBsr (Arakawa, H., et al. BMC Biotechnol. 1, 7 (2001))からloxP配列で挟まれたβアクチンプロモーターDNA、ブラストサイジンS耐性遺伝子およびポリA付加配列を含むDNA断片をBamHIで切り出してBglIIサイトに挿入した(図5E)。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよび薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトであれば別のものを用いても良い。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体重鎖遺伝子の転写方向とは逆向きにブラストサイジンS耐性遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VHターゲティングベクター1の配列は図21(配列番号:10)に示す。
【0121】
(VHターゲティングベクター2:図5, 6, 22)
シグナルペプチド直下に外来抗体可変部遺伝子を挿入できるように、シグナルペプチド末端の塩基配列を改変し、SphIサイトを導入した(図6A)。JH側の構造はVHターゲティングベクター1と同じである。外来抗体遺伝子をベクターに挿入する場合は、構造遺伝子部分の配列を変更することなく5’側にSphIサイトと塩基g(5’-gcatgcg-3’)、3’側にVHターゲティングベクター1の場合と同様にスプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’) (配列番号:42)を付加する(図6B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。
ニワトリ抗体重鎖遺伝子を鋳型として、上流域に対するセンスプライマー(VHupF2: 5’- TTAGAAGGGGACAAATTAATGAGGAAACACGACTTTGG -3’)(配列番号:11)、 SpeIおよびSphIサイトを導入したアンチセンスプライマー(VHupR2: 5’- CGACTAGTCCGCATGCAGCCCTGTGGGGAAGGGCAGAGAGCGCTGAC-3’)(配列番号:12)を用いてPCRにより遺伝子断片を作製し、断片内のSfiIおよびSpeIで切断して、VHターゲティングベクター1のSfiI-SpeI断片と置換した(図5F)。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体重鎖遺伝子の転写方向とは逆向きにブラストサイジンS耐性遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VHターゲティングベクター2の配列は図22(配列番号:13)に示す。
【0122】
3)軽鎖可変部遺伝子ターゲティングベクターの構築
抗体重鎖の場合と同様に、外来抗体可変部遺伝子を導入するため、シグナルペプチド配列の付近とJL下流のイントロン部分に制限酵素サイトを導入した(図7−9、23,24)。シグナルペプチド配列に導入する制限酵素サイトの異なる2種類のターゲティングベクターを構築した。
【0123】
(VLターゲティングベクター1:図7、8、23)
VLの2番目および3番目のアミノ酸をコードするコドンをHpaIに変更した(図7A)。この変更により、コードされるアミノ酸がロイシン-トレオニンからバリン-アスパラギン酸に変わっている。一方、JLの下流側にはVHターゲティングベクターと同様にSpeIサイトを導入した。HpaIによる切断は平滑末端を生じることから、挿入する外来抗体可変部遺伝子は、5’末端は平滑末端になるようにデザインし、また、JL3’末端に、スプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’)(配列番号:42)を付加する(図7B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。これらの工夫により、広い範囲の抗体遺伝子断片を挿入できる。
【0124】
ニワトリ軽鎖遺伝子は、すでにクローニングされており(Reynaud, C.-A., et al., Cell 40, 283-291 (1985))、ゲノム解析により周辺の塩基配列も明らかになっている(International Chicken Genome Sequencing Consortium, Nature 432, 695-716 (2004))(図8A)。したがって、DT40細胞より抽出したゲノムDNAを鋳型として、以下に示すプライマーを用いてPCRによって遺伝子断片を得た。抗体軽鎖可変部遺伝子の5’上流領域を、センスプライマー(IgLU53: 5’-ACGACCCTGGCACCAACAGAGACCTGC-3’) (配列番号:14)、HpaIおよびSpeIを含むアンチセンスプライマー(IgLU32: 5’- ACTAGTTGGTTAACCGCTGCCTGCACCAGGGAACCTGGAG -3’) (配列番号:15)を用いて、3’下流領域を、SpeIおよびBamHIを含むセンスプライマー(IgLD53: 5’- ACTAGTCTCGGATCCTCTTCCCCCATCGTGAAATTGTGAC -3’) (配列番号:16)、アンチセンスプライマー(IgLD34: 5’-AGCGGGTGGAGCCATCGATGACCCAATCCACAGTCA-3') (配列番号:17)を用いて増幅し、pCR-Bluntベクター(Invitrogen社)にクローニングした。5’側断片をSacIとSpeIで切り出し、3’側断片が組み込まれたベクターに挿入した(図8B)。SpeI下流のBamHIサイトに、loxP配列で挟まれたβ-アクチンプロモーターDNA、ブラストサイジンS耐性遺伝子およびポリA付加配列を含むDNA断片(Arakawa, H., et al. BMC Biotechnol. 1, 7 (2001))またはloxP配列で挟まれたβ-アクチンプロモーターDNA、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子およびポリA付加配列を含むDNA断片(Arakawa, H., et al. PLoS Biol., 2 E179 (2004))をBamHIで切り出して挿入した(図8C)。loxPで挟まれたプロモーターDNAおよび薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトであれば別のものを用いても良い。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体軽鎖遺伝子の転写方向と順向きにマーカー遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VLターゲティングベクター1の配列は図23(配列番号:18)に示す。
【0125】
(VLターゲティングベクター2:図8,9, 24)
VHターゲティングベクター2と同様に、シグナルペプチド直下に外来抗体可変部遺伝子を挿入できるように、シグナルペプチド末端の塩基配列を改変し、SphIサイトを導入した(図9A)。JL側の構造はVLターゲティングベクター1と同じである。外来抗体遺伝子をベクターに挿入する場合は、構造遺伝子部分の配列を変更することなく5’側にSphIサイトと塩基a(5’-gcatgca-3’)、3’側にVLターゲティングベクター1の場合と同様にスプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’)(配列番号:42)を付加する(図9B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。
DT40ゲノムDNAを鋳型として、VLターゲティングベクター1の場合と同様に、上記の5’域に対するセンスプライマーとSpeIおよびSphIサイトを導入したアンチセンスプライマー(IgLU33: 5’- GAACTAGTGCTGCATGCACCAGGGAACCTGGAGAGGGAG -3’)(配列番号:19)を用いてPCRにより遺伝子断片を作製し、pCR-Bluntベクターにクローニングした。クローニングした断片をSacIおよびSpeIで切断して、VLターゲティングベクター1のSacI-SpeI断片と置換した(図8D)。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体軽鎖遺伝子の転写方向と順向きにマーカー遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VLターゲティングベクター2に配列は図24(配列番号:20)に示す。
【0126】
4)マウスモノクローナル抗体の可変部遺伝子の導入と変異
モデルとして、ハプテン4-hydroxy-3-nitrophenylacetyl (NP)に対するモノクローナル抗体17.2.25由来の可変部遺伝子をベクターによってDT40に再導入した場合の、抗体の発現および変異導入について評価した。
【0127】
(マウス抗体重鎖可変部遺伝子の導入)
抗NPモノクローナル抗体17.2.25の抗体重鎖をノックインしたマウス(Quasi-monoclonalマウス, Cascalho, M., et al., Science 272, 1649- (1996))の脾臓細胞より作製した抗NP IgM抗体産生ハイブリドーマ(Kanayama, N., et al., J. Immunol. 169, 6865-6874 (2002))から、全RNAをTRIzol(Invitrogen社)によって抽出し、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen社)とオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、センスプライマー(VHTF: 5’-GAGGTTCAGCTGCAGCAGTCTGGG-3') (配列番号:21)とSpeIを導入したアンチセンスプライマー(VHT-Spe_S: 5’- ACTAGTACTCACCTGAGGAGACGGTGACT -3’) (配列番号:22)を用いてPCRによって抗NP抗体重鎖可変部(VHT)を増幅し、SpeIで切断したPCR断片を、PvuIIおよびSpeIで切断したVH ターゲティングベクター1に挿入した(図10A)。
抗体遺伝子への自発的変異能力を有するニワトリB細胞株DT40を改変した細胞株DT40-SWを、構築したターゲティングベクターを導入する宿主細胞に用いた。DT40-SWは、以下の特徴を備える。(i)Cre組換え酵素/エストロゲン受容体融合タンパク質遺伝子をCMVプロモーターの制御下に発現させるDNAコンストラクトを導入し、Cre組換え酵素/エストロゲン受容体融合タンパク質を不活性型で構成的に発現する、(ii)内因性のAID遺伝子座の一方の対立遺伝子を破壊し、もう一方の対立遺伝子をCAGプロモーターによって発現され、互いに逆向きの二つのloxP配列で挟まれたAID遺伝子と置換している、(iii) AID遺伝子にはIRESとともにAID遺伝子と同方向にGFP遺伝子およびポリA付加配列、AID遺伝子と逆方向にポリA付加配列およびピューロマイシン耐性遺伝子がこの順に連結され、二つのloxP配列の間に挿入されている、(iv)4-ヒドロキシタモキシフェンを細胞に添加すると、(i)のCreリコンビナーゼが活性化され、(ii)(iii)のloxP配列で挟まれたAID遺伝子を含むDNAコンストラクトが反転し、CAGプロモーターとAID遺伝子が同方向の場合、AID遺伝子が発現され、逆方向だと発現されない、(v) AID遺伝子を発現する細胞はGFP遺伝子を発現する細胞として単離でき、AID遺伝子の発現がOFFの細胞は、ピューロマイシン耐性遺伝子の発現により薬剤耐性により選択できる(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75; 特開2006-109711)。
DT40-SWへのターゲティングベクターの遺伝子導入方法は以下の通りである。15μgのベクターをBamHIで切断して直鎖化し、1×107細胞のDT40-SWと混合して500μlの懸濁液とし、4mmギャップのエレクトロポレーションキュベットに添加して、550V、25μFの条件で電気穿孔を行った。エレクトロポレーション法にはGene Pulser Xcell(バイオラッド社)用いた。電気穿孔後、細胞を10mlの増殖培地(PRMI1640、Invitrogen社;10%ウシ胎児血清、Invitrogen社;1%ニワトリ血清、Sigma社)に懸濁して24時間培養後、10mlの2×選択培地(増殖培地+ブラストサイジンS(科研製薬))を添加し、20μg/mlの濃度のブラストサイジンSとして96穴プレートに分注して10〜14日間培養した。終濃度20μg/mlのブラストサイジンSにより選択されたコロニーが16クローン得られた。コロニーを形成した細胞を、フィコエリスリン標識した抗ニワトリIgMマウスモノクローナル抗体(Southern Biotechnology社)で染色し、FACS Calibur(BD Bioscience社)で解析した。目的どおり、ターゲティングされた細胞は、抗体重鎖を発現できなくなるため、抗ニワトリIgM抗体で染色されない5クローンを選択した。遺伝子レベルでの確認をするために、内因性の抗体重鎖遺伝子のうち、VDJ組換えをしている対立遺伝子を、センスプライマー(cVH1F2: 5’-GGCGGCTCCGTCAGCGCTCTCT-3’) (配列番号:23)およびアンチセンスプライマー(cJH-R: 5’-CTTCGGTCCCGTGGCCCCATGCGTCGAT-3’) (配列番号:2)を用いて、胚型の対立遺伝子をセンスプライマーcVH1F2とアンチセンスプライマー(cVH1 intron-R: 5’-TTCACCGCCTTGGGTTGCAACGGTGG-3’) (配列番号:24)を用いて増幅した(図10B)。その結果、VDJ組換え後の内因性重鎖可変部遺伝子のバンドが消失した3クローンを選択した(図10B)。これらは、目的の遺伝子がVDJ組換えをしている対立遺伝子へターゲティングされていると考えられる。ターゲティングはゲノミックサザンブロット解析によって確認した(図10C)。各クローンからゲノムDNAを単離し、EcoRIで消化後、電気泳動し、ハイボンドNナイロンメンブレン(GEヘルスケア社)に転写後、ゲノムDNAをクローニングしたときに用いたDIG標識した遺伝子断片をプローブとして検出を行った。解析した3クローンのうち、マーカー遺伝子挿入によるバンド長の増加が明瞭なクローンC2,C3を選択した。選択したクローンは、ベクターの設計どおり抗体を産生しないことがフローサイトメトリーにより確認できた(図11A)。目的の外来遺伝子のターゲティングが起こっている細胞を、細胞表面への抗体発現の消失により選別することにより、効率的に遺伝子導入細胞の作製が可能であった。
【0128】
(マウス抗体重鎖可変部の発現)
これらのクローンを、以前に報告したように50nMの4-ヒドロキシタモキシフェンで処理すると(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75 (2005))、細胞表面のIgM抗体の発現が復活した細胞の出現がフローサイトメトリーにより確認され、これらの細胞は薬剤耐性を失っていた(図11B)。それに伴って、サザンブロット解析では、薬剤耐性遺伝子の消失に伴うバンドのシフトが見られた(図10D)。これらの細胞を、VHTのCDR3に特異的な抗イディオタイプ ラットモノクローナル抗体(R2.438, T. Imanishi-Kari博士より供与)で染色した(Kanayama, N., et al. J. Immunol. 169, 6865-6874 (2002))(図11C)。陽性コントロールとして用いたVHTを組み込まれたマウスのB細胞と同レベル染色が認められ、DT40-SWに組み込んだVHT遺伝子が発現していることが確認された。抗体を発現するようにスイッチしたクローンC2, C3を限外希釈し、サブクローニングした細胞を再度、フローサイトメトリーによって細胞表面の抗体発現の解析を行った(図11D)。各クローンからRNAを単離してcDNAを作製し、プライマーを用いたPCRによって増幅した遺伝子断片の配列解析により、可変部遺伝子と定常部遺伝子のスプライシングを確認したところ、設計どおり外来可変部遺伝子3’末端に連結したスプライシングサイトが機能して可変部遺伝子エキソンと定常部遺伝子エキソンが予想通り結合していることが確認された。すなわち、この方法により導入した外来抗体重鎖可変部遺伝子が正常に転写、翻訳され、ニワトリ抗体重鎖定常部とのキメラ抗体として発現可能であることが示された。表面抗体の発現が確認されたが、野生型と比べてやや発現量の低下が認められた。これは、軽鎖がニワトリ抗体であるために、キメラ抗体の発現効率が悪いことが推定され、軽鎖を外来抗体重鎖に対する軽鎖に置換することにより解決すると考えられる。
【0129】
(マウス抗体重鎖可変部への変異導入)
作製したVHT発現細胞におけるVHT遺伝子への変異導入を解析するために、この細胞の変異機構を以前に報告済みの方法によりAID遺伝子の発現をONにした(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75 (2005))。4-ヒドロキシタモキシフェンによって細胞を処理後、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞として単離し、30日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、CVH1F2(5’- GGCGGCTCCGTCAGCGCTCTCT-3’)(配列番号:25)およびCJH1R2(5’-GCCGCAAATGATGGACCGAC-3’)(配列番号:26)プライマーを用いて重鎖可変部領域をPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングして配列解析した。野生型のDT40-SWと同様の頻度(図12A)で、クローンC2およびC3においても変異導入が認められた(図12B,C)。すなわち、この方法によりDT40のニワトリ重鎖可変部遺伝子座に導入された任意の外来抗体可変部遺伝子に変異導入による改変が可能であることが証明された。VH ターゲティングベクター2を用いることによっても、同様の効果が得られる。
【0130】
(マウス抗体軽鎖可変部遺伝子の導入)
上記の抗NP IgM抗体産生ハイブリドーマの全RNAから作製したcDNAを鋳型として、λ1軽鎖可変部遺伝子に対するセンスプライマーmIgVL51(5’-ACTCAGGAATCTGCACTCACCACATCACCT-3’) (配列番号:27),アンチセンスプライマーmIgVL133(5’-GTTCTAGACACTCACCTAGGACAGTCAGTTTGGTTCCT -3’) (配列番号:28)を用いてλ1可変部遺伝子断片を増幅後、XbaIで消化して、VLターゲティングベクター1のHpaI-SpeI部位に挿入した。15μgのベクターを、SacIで消化して直鎖化し、上記で作製したマウスVHTを発現するクローンC2にエレクトロポレーションにより導入した。ブラストサイジンSの選択下で形成したコロニー(45クローン)の細胞表面の抗体の発現を、重鎖の場合と同様にフローサイトメトリーにより確認し、抗体発現を失った細胞を選別し、10クローンの陽性クローンを得た。そのうち5クローンの細胞からゲノムDNAを抽出し、ターゲティングベクターの組み込みを、上流領域をプライマーIgLU-up (5’-TGCCTGGGGTAAGGGTAGTACTCTGTGC-3’) (配列番号:29)とcJL12 (5’-AACGGTAGGGGATCCGAGACTAG-3’) (配列番号:30)、および、下流領域をBSR1 (5’-GAGAAAGGTAGAAGACCCCAAGGACTTTCCTTCAGAATTGC-3’) (配列番号:31)とcCL3 (5’-GCAGAGTCAGCACTAGTTCAGTGTCGTGTT-3’) (配列番号:32)を用いてPCRにより確認した(図13B)。また、VJ組換えをして抗体を産生する対立遺伝子へのターゲティングを、プライマーCVLF6 (5’-CAGGAGCTCGCGGGGCCGTCACTGATTGCCG-3’) (配列番号:33)とCVLR3 (5’-GCGCAAGCTTCCCCAGCCTGCCGCCAAGTCCAAG-3’) (配列番号:34)を用いてPCRにより確認した(図13C)。目的どおりターゲティングされた細胞ではPCR産物の特異的な増幅が見られ(図13B)、かつ、抗体産生対立遺伝子への組み込みによるバンドの消失を基準としてクローンを選別した(図13C)。その結果、すべてのクローンにおいて目的遺伝子が目的位置にターゲティングしていることが分かった。目的細胞のスクリーニングにおいて、細胞表面における抗体発現を指標として用いることが極めて有効であることがここでも示された。
【0131】
(マウス抗体軽鎖可変部遺伝子の発現)
マウスVHTを導入したC2にマウスλ1を導入して作製した細胞のうち、クローンB4を以降の実験に用いた。これらの細胞を重鎖の場合と同様に4-ヒドロキシタモキシフェンで処理すると、細胞表面のニワトリIgM抗体の発現が復活した細胞の出現がフローサイトメトリーで確認され、これらの細胞は薬剤耐性を失っていた(図14)。また、抗体発現するようにスイッチしたB4を限外希釈し、これらの細胞におけるマウスλ1鎖可変部の発現を、フローサイトメトリーにより確認した。マウスλ鎖可変部への結合が期待されるビオチン化ラットモノクローナル抗体(抗Igλ1,λ2,&λ3軽鎖、クローンR26-46; BD Bioscience社)により細胞を処理し、フィコエリスリン標識されたストレプトアビジンにより可視化すると、マウスλ鎖可変部の発現が確認された(図15)。VHTの発現も、抗イディオタイプ抗体により検出されることから、導入したマウス抗体重鎖および軽鎖が会合して細胞表面に発現していると考えられる。各クローンからRNAを単離してcDNAを作製し、PCRによる増幅と、増幅した遺伝子断片の配列解析により、導入可変部遺伝子と定常部遺伝子のスプライシングを確認した。プライマーmIgVL51とcCL3によりキメラ軽鎖遺伝子mRNA、cVL1とcCL3により内因性IgL遺伝子のmRNAの生成を確認したところ、クローンB4ではキメラ軽鎖cDNAのみが増幅され、設計どおり外来可変部遺伝子3’末端に連結したスプライシングサイトが機能して可変部遺伝子エキソンと定常部遺伝子エキソンが結合していることが確認された(図16)。actin3 (5’-CTGACTGACCGCGTTACTCCCACAGCCAGC-3’) (配列番号:35)とactin4 (5’-TTCATGAGGTAGTCCGTCAGGTCACGGCCA-3’) (配列番号:36)によるβ-アクチン遺伝子の増幅は、内部標準に用いた。スプライシングの結合部分は正確にスプライシングされていることは、配列解析により明らかにした。マウスVHT/λ1を導入したクローンB4の培養上清に分泌された抗体をELISAによって分析した。ヤギ抗ニワトリIgM抗体(ベッチル社)を96ウェルプレートにコーティングし、HRP標識したヤギ抗ニワトリIgM抗体(ベッチル社)で、培養上清中の抗体産生量をDT40-SWと比較したところ、DT40-SWに匹敵するレベルの抗体産生が見られた(図17A)。また、以前に報告した方法(Kanayama, N., et al., J. Immunol. 169, 6865-6874 (2002))によってNPをウシ血清アルブミンに結合させ、これを抗原として96ウェルプレートをコーティングした。培養上清中の抗体の抗原への結合を、HRP標識したヤギ抗ニワトリIgM抗体によって検出した。HRP標識したヤギ抗マウスIgM抗体(ベクター社)によって検出されたマウス抗NP IgM抗体産生ハイブリドーマの上清を用いた陽性コントロールと同様に、VHT/λ1抗体産生B4クローンの培養上清もNP化抗原に対する結合性を示した(図17B)。一方、DT40-SWが産生する抗体は、NP化抗原には結合しなかったことから、クローンB4はNP特異的抗体を産生していると言える。すなわち、この方法により導入した外来抗体軽鎖可変部遺伝子がニワトリ抗体軽鎖定常部とのキメラ抗体として正常に転写、翻訳されることが示された。さらに、重鎖および軽鎖ともに可変部がマウス由来の外来抗体に置換されたキメラ抗体を、本来の機能を保持した形で発現するDT40細胞の作製に成功した。
【0132】
(マウス抗体軽鎖可変部への変異導入)
マウスVHT/λ1を発現するクローンB4とB7を4-ヒドロキシタモキシフェンによって細胞を処理後、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞としてソートし、30日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、CVLF6(配列番号:37)およびCVLR3(配列番号:38)プライマーを用いて軽鎖可変部領域をPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングして配列解析した。野生型のDT40-SWと同様の頻度で、クローンB4およびB7においても変異導入が認められた(図18)。すなわち、この方法によりDT40のニワトリ軽鎖可変部遺伝子座に導入された任意の外来抗体可変部遺伝子に変異導入による改変が可能であることが証明された。VL ターゲティングベクター2を用いることによっても同様の効果が得られる。
【0133】
5)ニワトリ抗体軽鎖可変部の導入
DT40の抗体軽鎖可変部遺伝子は、一度も変異機能をONにしたことがないDT40-SWの全RNAからcDNAを合成し、このcDNAを鋳型として、センスプライマー(cVL1: 5’- ACTCAGCCGTCCTCGGTGTCAGCAAACCCGGGA -3')(配列番号:48)とSpeIを導入したアンチセンスプライマー(cJL1: 5’- CGAGACTAGTTCAGCGACTCACCTAGGACGGTCAG-3’)(配列番号:49)を用いてニワトリ抗体軽鎖可変部(cVL)をPCRによって増幅し、PCR断片をSpeIで消化して、VL ターゲティングベクター1のHpaI-SpeI部位に挿入した(図28A)。ベクターは、SacIで切断して直鎖化しエレクトロポレーション法によってDT40-SW細胞に導入した。電気穿孔後、終濃度20μg/mlのブラストサイジンSにより選択しコロニーを形成した細胞(54クローン)を、フィコエリスリン標識した抗ニワトリIgMマウスモノクローナル抗体で染色し、FACS Caliburで解析した。ターゲティングされた細胞を得るため、抗体重鎖を発現できなくなったクローンを、抗ニワトリIgM抗体で染色して選別した(3クローン)。遺伝子レベルでの確認をするために、これらの細胞からゲノムDNAを抽出し、ターゲティングベクターの組み込みを、プライマーIgLU-upとcJL12、および、BSR1とcCL3を用いてPCRにより確認した(図28B)。また、VJ組換している対立遺伝子にターゲティングされていることを、プライマーCVLF6とCVLR3を用いてPCRにより確認した(図28C)。その結果、すべてのクローンで目的の遺伝子がターゲティングされていた。
これらの細胞からクローンC2を選び、上記の場合と同様に4-ヒドロキシタモキシフェンで処理すると、細胞表面のニワトリIgM抗体の発現が復活した細胞の出現がフローサイトメトリーで確認された(図29)。また、抗体発現するようにスイッチした細胞から、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞としてソーティングし、30日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、CVLF6およびCVLR3プライマーを用いて軽鎖可変部領域をPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングして配列解析した。野生型のDT40-SWと同様の頻度で、導入したニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子に変異導入が認められた(図30)。すなわち、この方法によりDT40に導入されたニワトリ軽鎖可変部遺伝子は野生型遺伝子と同等の頻度で変異が導入されることが示された。
【0134】
産業上の利用可能性
本発明のDNAにより、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入するためのターゲッティングベクターが提供される。
本発明により、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAを導入することにより、特定条件下で所望のポリペプチドを産生することが出来る。
また抗体産生細胞の変異導入能力を利用して、変異が導入されたポリペプチドを産生することが出来る。
本発明は、ポリペプチドの機能改変に有用である。
【技術分野】
【0001】
本出願は、日本国特許出願(特願)2009-264398(2009年11月19日提出)、および米国仮特許出願61/263,285(2009年11月20日提出)の恩典を主張し、これらの全内容は参照により本明細書中に組み入れられる。
本発明は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に所望のポリペプチドをコードするDNAを導入する方法に関する。また本発明は、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法、変異が導入されたポリペプチドの製造方法等に関する。さらに本発明は当該方法に使用する細胞及び遺伝子ターゲッティングベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、抗原刺激を受けて産生されてくる抗体の親和性が経時的に上昇してくる。これを親和性成熟と呼ぶが、活性化されて盛んに分裂する抗原特異的B細胞において、抗体可変部遺伝子に高頻度体細胞突然変異が起こり、生じた多様な変異B細胞集団から、高親和性を獲得したB細胞クローンが厳密に選択されることにより進行する。この原理を利用して、動物への反復免疫とハイブリドーマ作製によるモノクローナル抗体の作製は広く使われているが、抗体取得には多大な労力と時間がかかり、得られた抗体の抗原に対する特異性や親和性をもはや改変することができない。しかし、医薬や診断薬に得られた抗体を応用するためには、さらなる特異性や親和性の改良が必要になる場合が多い。そのため、in vitroの技術であるファージディスプレー法が現在よく用いられている。ファージディスプレー法では、ハイブリドーマ法に比べて抗体選択の操作を迅速に行えるが、ライブラリーの質に抗体作製の成否が大きく依存する、Fv領域をscFvとして組み換えてファージ上にディスプレーするため、完全抗体に戻して発現させたときに特異性が変わることが多い、といった問題があることも知られている。特に、鍵となる変異ライブラリー作製には多大な労力と高度な遺伝子組換技術が必要である。
【0003】
そこで、生体内での抗体産生系をin vitro培養細胞系で再現することが出来れば、迅速かつ効率的に抗体を作製できると考えられる。抗体遺伝子への変異導入能力を保持するニワトリB細胞株DT40は、以下の点で、この目的を達成する上で適している。
(1)自発的変異導入能力により培養のみで多様な抗体ライブラリーを形成する。
(2)細胞表面上と培養上清中に抗体を発現し、抗原への結合に基づく特定のクローンの選択が可能である。
(3)相同組換え効率が非常に高いので、遺伝子ノックアウトなどにより細胞の機能改変が容易である。
【0004】
本発明者らは、DT40の変異機能を任意にON/OFFできる細胞株DT40-SWを樹立し、DT40-SWを用いたin vitro抗体作製法を開発した(特許文献1; 非特許文献1)。この方法では、変異機能をONにして培養して得られた抗体ライブラリーから、従来法では取得が困難であるものを含む様々な抗原に対する抗体取得に成功している(非特許文献2; 非特許文献3)。また、この方法では、得られた抗体産生細胞に再度変異を導入することにより多様化させ、選択を繰り返すことにより抗体の親和性成熟が可能である(特許文献2)。この方法により得られる抗体は、ニワトリIgM抗体であり、この方法で得られた抗体の親和性成熟のみ可能である。したがって、この方法を、ハイブリドーマ法やファージディスプレー法などで取得された抗体に応用することができれば、これまでに蓄積されてきたモノクローナル抗体の特異性の改良や親和性の向上に活用可能であり、非常に有用な技術となる。
【0005】
ハイブリドーマ法により取得した抗体の特性を改変するためには、ファージディスプレー法などのin vitro系を利用しなければならないが、ファージディスプレーによる抗体の機能改変も必ずしも簡便な技術ではない。また、DT40などの変異能力を有する細胞株は、本来保持する抗体遺伝子に変異を導入してライブラリーとして用いられてきた(非特許文献2、4-5)。しかし、これらの細胞株で外来の抗体遺伝子を改変した例はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-109711
【特許文献2】特開2009-60850
【特許文献3】WO 2007/026661
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75
【非特許文献2】Todo, K., et al. J. Biosci. Bioeng. 102, 478-481 (2006);
【非特許文献3】Kanayama, N., et al. YAKUGAKU ZASSHI 129, 11-17 (2009)
【非特許文献4】Cumbers, S. J., et al. Nat. Biotechnol. 20, 1129-1134 (2002);
【非特許文献5】Seo, H., et al. Nat. Biotechnol. 23, 731-735 (2005);
【非特許文献6】Fawell et al. Characterization and colocalization of steroid binding and dimerization activities in the mouse estrogen receptor. Cell (1990) vol. 60 (6) pp. 953-62
【非特許文献7】Danielian et al. Identification of residues in the estrogen receptor that confer differential sensitivity to estrogen and hydroxytamoxifen. Mol Endocrinol (1993) vol. 7 (2) pp. 232-40
【非特許文献8】Littlewood et al. A modified oestrogen receptor ligand-binding domain as an improved switch for the regulation of heterologous proteins. Nucleic Acids Res (1995) vol. 23 (10) pp. 1686
【非特許文献9】Zhang et al. Inducible site-directed recombination in mouse embryonic stem cells. Nucleic Acids Res (1996) vol. 24 (4) pp. 543-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DT40等の抗体産生細胞の抗体遺伝子座に、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子を導入することができれば、抗体産生細胞の有する変異導入能力により、当該DNAを改変することが可能になる。しかし、抗体産生細胞の抗体遺伝子座に、外来DNAを導入するための有効な技術は開発されていない。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に、所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する方法を提供することを課題とする。
また本発明は、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法、ポリペプチドの製造方法、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法、及び変異が導入されたポリペプチドの製造方法を提供することを課題とする。
また本発明は、当該方法に使用する細胞及び当該細胞を含むキットを提供することを課題とする。
また本発明は、当該方法に使用する遺伝子ターゲッティングベクター、当該ベクターを含む細胞及びキットを提供することを課題とする。
さらに本発明はニワトリ抗体重鎖可変部をコードするDNAを含むDNA、当該DNAを含むベクター、当該DNA又はベクターを含む細胞を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
自発的変異導入能力を有するニワトリB細胞株DT40の変異株であるDT40-SWの抗体可変部遺伝子座に、所望のアミノ酸配列をコードするDNAを効率よく導入する方法を開発した。これによって導入されたDNAを変異させ、より優れた機能を持つポリペプチドへ改変することを可能にした。特に本発明では、DT40細胞株の抗体重鎖可変部の遺伝子座の塩基配列が明らかにされた。これにより、DT40細胞株の抗体重鎖可変部の遺伝子座を効率よく所望のアミノ酸配列をコードするDNAに置換することが可能なターゲッティングベクターの構築に成功した。
本発明はこのような知見に基づくものであり、以下〔1〕から〔59〕に関する。
〔1〕抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
〔2〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕以下(a)及び(b)の工程を含む細胞を選択する方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程。
〔4〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔3〕に記載の方法。
〔5〕以下(a)から(c)の工程を含む、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
〔6〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔5〕に記載の方法。
〔7〕(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、〔5〕に記載の方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
〔8〕産生されるポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、〔5〕から〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、〔4〕、〔6〕、〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、〔4〕、〔6〕、〔7〕、〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕以下(a)から(c)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
〔12〕(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、〔11〕に記載の方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
〔13〕以下(a)から(e)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程、
(d)AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
〔14〕(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、〔13〕に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
〔15〕(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、〔13〕に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物、及び、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物
を含む細胞であり、該部位特異的組換え酵素が、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下において活性化されない細胞に、
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
〔16〕産生される変異が導入されたポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、〔11〕から〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕工程(b)の細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、〔11〕から〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕工程(b)の細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、〔11〕から〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質であって、
細胞外刺激が、該エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドである、〔15〕に記載の方法。
〔20〕エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインであって、
エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドが、4−ヒドロキシタモキシフェンである、〔19〕に記載の方法。
〔21〕抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、〔11〕から〔20〕のいずれかに記載の方法;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
〔22〕XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、〔21〕に記載の方法。
〔23〕抗体産生細胞がB細胞である、〔11〕から〔22〕のいずれかに記載の方法。
〔24〕B細胞がニワトリ由来である、〔23〕に記載の方法。
〔25〕部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、〔2〕、〔4〕、〔6〕、〔7〕、〔9〕、〔10〕、〔12〕、〔14〕及び〔15〕のいずれかに記載の方法;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、および
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
〔26〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、〔1〕から〔25〕のいずれかに記載の方法。
〔27〕所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、〔26〕に記載の方法。
〔28〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、〔1〕から〔25〕のいずれかに記載の方法。
〔29〕以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法;
(a)〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔11〕から〔24〕のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを単離する工程。
〔30〕以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔11〕から〔24〕のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞又は該細胞の分泌物からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを単離する工程。
〔31〕以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)〔29〕に記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを製造する工程、及び
(b)工程(a)で製造されたDNAがコードするポリペプチドを取得する工程。
〔32〕抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物と相同的に組換えられた抗体産生細胞;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
〔33〕(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、〔32〕に記載の細胞。
〔34〕抗体産生細胞がAID遺伝子を発現している細胞である、〔32〕又は〔33〕に記載の細胞。
〔35〕抗体産生細胞がAID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る細胞である、〔32〕又は〔33〕に記載の細胞。
〔36〕内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む、〔35〕に記載の細胞。
〔37〕抗体産生細胞が、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物をさらに有し、該部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されない、
〔36〕に記載の細胞。
〔38〕部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質である、〔37〕に記載の細胞。
〔39〕エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインである、〔38〕に記載の細胞。
〔40〕抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、〔32〕から〔39〕のいずれかに記載の細胞;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
〔41〕XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、〔40〕に記載の細胞。
〔42〕抗体産生細胞がB細胞である、〔32〕から〔41〕のいずれかに記載の細胞。
〔43〕B細胞がニワトリ由来である、〔42〕に記載の細胞。
〔44〕部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、〔33〕、〔36〕から〔38〕のいずれかに記載の細胞;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、および
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
〔45〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、〔32〕から〔44〕のいずれかに記載の細胞。
〔46〕所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、〔45〕に記載の細胞。
〔47〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、〔32〕から〔44〕のいずれかに記載の細胞。
〔48〕〔32〕から〔47〕のいずれかに記載の細胞を含むキット。
〔49〕以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)クローニングサイトを含むDNA、
(3)DNA構築物から除去され得るDNAであって、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNA。
〔50〕(3)に記載のDNAが、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAであり、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNAである、〔49〕に記載のベクター。
〔51〕クローニングサイトに所望のアミノ酸配列をコードするDNAが挿入された、〔49〕又は〔50〕に記載のベクター
〔52〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、〔49〕から〔51〕のいずれかに記載のベクター。
〔53〕所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、〔52〕に記載のベクター。
〔54〕所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、〔49〕から〔51〕のいずれかに記載のベクター。
〔55〕〔49〕から〔54〕のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含む細胞。
〔56〕〔49〕から〔54〕のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含むキット。
〔57〕配列番号:7に記載の塩基配列を含むDNA。
〔58〕〔57〕に記載のDNAを含むベクター。
〔59〕〔57〕に記載のDNA又は〔58〕に記載のベクターを含む細胞。
【発明の効果】
【0010】
本発明のDNAにより、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入するためのターゲッティングベクターが提供される。
本発明により、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAを導入することにより、特定条件下で所望のポリペプチドを産生することが出来る。
また抗体産生細胞の変異導入能力を利用して、変異が導入されたポリペプチドを産生することが出来る。
本発明は、ポリペプチドの機能改変に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】外来抗体可変部遺伝子の導入方法と可変部を置換したキメラ抗体の模式図である。A:抗体遺伝子座の模式図と外来抗体可変部遺伝子の導入方法を示す。ニワトリ抗体可変部遺伝子をジーンターゲティングにより外来抗体可変部遺伝子に置換して、外来抗体可変部とニワトリ抗体定常部のキメラ抗体を発現するようにDT40細胞のゲノム上の抗体遺伝子座を改変する。B:可変部を置換したキメラ抗体の模式図を示す。可変部遺伝子を置換することにより発現する抗体は外来抗体可変部とニワトリ抗体定常部のキメラとなる。
【図2】外来抗体可変部-ニワトリ抗体定常部キメラ抗体を産生するDT40の作製法を示す図である。A:ターゲティングベクターの構造を示す。B:ターゲティング後の細胞の抗体遺伝子座の構造を示す。C:ターゲティング後の細胞を4-ヒドロキシタモキシフェンにより処理し、Creリコンビナーゼを活性化して薬剤耐性遺伝子を除去した後の抗体遺伝子座の構造を示す。D:外来抗体可変部遺伝子を導入したDT40細胞の作製スキーム例を示す。
【図3】抗体重鎖可変部遺伝子の制限酵素地図を示す図である。*で示す制限酵素サイトはλDASH II由来である。
【図4】VHターゲティングベクター1における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVHターゲティングベクター1への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VH、JHをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図5】VHターゲティングベクターの構築スキームを示す図である。A:VHターゲティングベクターの構築に用いたニワトリ抗体重鎖遺伝子のXbaI−NotI断片。B〜E:VHターゲティングベクター1の構築スキームを示す。F:VHターゲティングベクター2の構造を示す。
【図6】VHターゲティングベクター2における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVHターゲティングベクター2への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VH、JHをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図7】VLターゲティングベクター1における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVLターゲティングベクター1への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VL、JLをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図8】VLターゲティングベクターの構築スキームを示す図である。A:VLターゲティングベクターの構築に用いたニワトリ抗体軽鎖遺伝子周辺の断片。B〜C:VLターゲティングベクター1の構築スキームを示す。D:VLターゲティングベクター2の構造を示す。
【図9】VLターゲティングベクター2における制限酵素サイトの位置を示す図である。A:ニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子の配列と外来抗体可変部遺伝子を挿入するための制限酵素サイトの位置を示す。B:外来抗体可変部遺伝子のVLターゲティングベクター2への挿入方法を示す。各破線矢印は、それぞれsignal peptide、VL、JLをコードする領域を示す。縦の矢印はsignal peptideの切断部位を示す。
【図10】マウスVHT遺伝子のターゲティングを示す図および写真である。A:マウスVHT遺伝子のターゲティングベクターの構造とターゲティング後のニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子付近のゲノム構造を示す。B:ターゲティング後の内在性抗体重鎖遺伝子の構造をPCRにより確認した結果を示す。VHTはマウスVHT遺伝子のターゲティングを行ったクローンであり、rearrange鎖のバンド消失が確認できる。SWはターゲティングを行っていないDT40-SWを示す。 C:ターゲティング後の内在性抗体重鎖遺伝子の構造をサザンブロットにより確認した結果を示す。SWはターゲティングを行っていないDT40-SWであり、C2及びC3はPCRによりrearrange鎖のバンドの消失が確認されたクローンである。C2及びC3のうち左側は4-ヒドロキシタモキシフェン処理前のものであり、右側は4-ヒドロキシタモキシフェン処理後のものである。
【図11】マウスVHT 遺伝子をターゲティングした細胞における抗体発現を示す写真である。A:細胞表面のIgM抗体の発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。マウスVHT遺伝子のターゲティングに成功した細胞(VHT)では細胞表面の抗体発現が失われた。B:4-ヒドロキシタモフェン処理後のIgM抗体の発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。4-ヒドロキシタモキシフェンでAの細胞を処理すると、細胞表面の抗体発現が復活した。C:VHTの発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。Bで抗体発現が復活した細胞は、遺伝子導入したマウス抗体(VHT)を発現する。D:4-ヒドロキシタモフェン処理後にクローン化した細胞(C2、C3)における抗体発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。4-ヒドロキシタモキシフェン処理後、クローン化した細胞でも安定して抗体の発現が見られる。
【図12A】変異導入による変異の解析結果を示す図である。DT40-SWの変異解析の結果を示す。円グラフは全クローン数の変異の入ったクローンの数を示す。
【図12B】変異導入による変異の解析結果を示す写真である。C2の変異解析結果を示す。下線部はVHTのCDR領域を表す。円グラフは変異の入ったクローンの数を示す。表はどの塩基が変化したかを示す。
【図12C】変異導入による変異の解析結果を示す写真である。C3の変異解析結果を示す。下線部はVHTのCDR領域を表す。円グラフは変異の入ったクローンの数を示す。表はどの塩基が変化したかを示す。
【図13】マウスλ1遺伝子のターゲティングを示す図および写真である。A:マウスλ遺伝子のターゲティングベクターの構造とターゲティング後のニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子付近のゲノム構造を示す。B:ターゲティング後の内在性抗体軽鎖遺伝子の構造をPCRにより確認した結果を示す。VHT-λ1-B4はターゲティングを行ったクローンであり、SWはターゲティングを行っていないDT40-SWを示す。C:ニワトリ抗体軽鎖遺伝子上へのターゲティングベクターの挿入をPCRにより確認した結果を示す。
【図14】マウスVHTおよびλ1遺伝子をターゲティングした細胞の作製の流れと抗体発現の推移を示す写真である。
【図15】マウスVHTおよびλ1遺伝子をターゲティングした細胞におけるキメラ抗体発現を示す写真である。マウスVHTおよびλ1遺伝子をターゲティングした細胞(VHT-λ1 クローンB4)における抗体発現を確認した。VHT-λ1クローンB4、DT40-SW細胞(陰性コントロール)、QMマウス脾臓細胞(陽性コントロール)を、無染色(-)あるいはマウスVHTに対する抗体(α-Id)およびマウスλ軽鎖に対する抗体(α-λ1,2,3)で染色し、フローサイトメトリーで解析した。
【図16】マウスVHTおよびマウスλ1遺伝子をターゲティングした細胞(VHT-λ1B4)における抗体遺伝子軽鎖発現をPCRにより確認した結果示す図および写真である。
【図17】マウスVHT/λ1遺伝子をターゲティングした細胞(VHT-λ1B4)における抗体発現をELISAにより評価した結果を示す図である。A: IgM抗体発現量の評価。B:抗体の特異性の評価。
【図18】マウスλ1遺伝子をターゲティングした細胞におけるマウスλ1抗体への変異導入の頻度を示す図である。
【図19】抗体重鎖可変部上流域の断片配列を示す図である(配列番号:4)。DNA walking法により取得した抗体重鎖可変部遺伝子の上流域の配列であり、新規に明らかにした部分のみを含む。
【図20】DT40の抗体重鎖可変部遺伝子付近の塩基配列を示す図である(配列番号:7)。図3で制限酵素地図を示した抗体重鎖遺伝子の全塩基配列を含む。下線部(1-3120, 3882-7891)は新規に塩基配列を明らかにした部分である。位置1-3223:5’上流領域、位置3224-3269, 3453-3463:シグナルペプチドコード配列(位置3270-3452はイントロンであり、スプライシングにより除去されて、位置3224-3269と3453-3463が結合してシグナルペプチド配列を形成する)。位置3464-3839:シグナルペプチドを除く抗体重鎖可変部遺伝子領域、位置3840-7931:3’下流領域。実施例で作成したVHターゲティングベクターでは、アームとして位置1829-3223(BamHIサイトから開始コドン直前まで), 3869-6548(JHコード領域直後のSacIIサイトからXhoIサイトまで)の配列を利用し、シグナルペプチドとして位置3224-3463の配列を利用した。
【図21】VHターゲティングベクター1の塩基配列を示す図である(配列番号:10)。基本ベクター部分を除いたものであり、図5Eで示した構造の全塩基配列を含む。下線部はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。
【図22】VHターゲティングベクター2の塩基配列を示す図である(配列番号:13)。基本ベクター部分を除いたものであり、図5Fで示した構造の全塩基配列を含む。下線部はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。
【図23】VLターゲティングベクター1の塩基配列を示す図である(配列番号:18)。基本ベクター部分を除いたものであり、図8Cで示した構造の全塩基配列を含む。下線部(1869-1914, 2040-2056)はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。ニワトリ軽鎖抗体遺伝子周辺配列と相同なアーム部分は、1-1868(シグナルペプチド配列を除く)及び5011-6870である。
【図24】VLターゲティングベクター2の塩基配列を示す図である(配列番号:20)。基本ベクター部分を除いたものであり、図8Dで示した構造の全塩基配列を含む。下線部(1869-1914, 2040-2056)はシグナルペプチド配列を示し、二重下線部はloxP配列を示す。ニワトリ軽鎖抗体遺伝子周辺配列と相同なアーム部分は、1-1868(シグナルペプチド配列を除く)及び5002-6861である。
【図25】変異型エストロゲンレセプターのうちタモキシフェン結合部位の配列を示した図である(配列番号:40)。変異部位は下線で示す。塩基のG to C置換によってこのコドンにコードされるアミノ酸は、グリシン(G)からアルギニン(R)に変わる。
【図26】AID発現カセットに用いたニワトリAID cDNA塩基配列を示す図である。下線部(6-597)はタンパクコード領域を示す。
【図27】変異型エストロゲンレセプターとの融合に用いられた改変型Creリコンビナーゼ遺伝子の塩基配列を示す図である。最後の終始コドンは融合タンパクでは削除されている。下線部(4-21)はSV40 large T抗原由来の核移行シグナルを示す。
【図28】ニワトリVL遺伝子のターゲティングを示す図および写真である。A:ニワトリVL遺伝子のターゲティングベクターの構造とターゲティング後のニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子付近のゲノム構造を示す。B:ターゲティング後の内在性抗体軽鎖遺伝子の構造をPCRにより確認した結果を示す。cVL-C4はターゲティングを行ったクローンを示す。C:ニワトリ抗体軽鎖遺伝子上へのターゲティングベクターの挿入をPCRにより確認した結果を示す。
【図29】ターゲティングしたニワトリVL遺伝子の発現の推移を示した写真である。
【図30】ターゲティングしたニワトリVL遺伝子への変異導入の頻度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法に関する。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
本発明においてターゲッティングベクターは遺伝子ターゲッティングベクターと表現することも出来る。
また抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法とは、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する方法と表現することも出来る。
【0013】
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域は、抗体遺伝子座におけるDNA、抗体可変部をコードするDNAの周辺領域、抗体可変部をコードするDNAとその5’側に位置するプロモーター領域を含むDNA領域、抗体可変部をコードするDNAとその5’側のDNAを含む領域、抗体可変部をコードするDNAとその3’側のDNAを含む領域、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAとその両脇のDNA領域などと表現することも出来る。
本発明のターゲッティングベクターは上記(1)から(3)に記載のDNAに加え、抗体遺伝子座におけるDNAと相同なDNAを含むことが出来る。抗体遺伝子座におけるDNAと相同なDNAは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNA、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーター領域の5’側領域と相同な塩基配列を有するDNA、抗体可変部をコードするDNAの3’側領域と相同な塩基配列を有するDNA、抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA、抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの両脇のDNA領域と相同な塩基配列を有するDNAなどと表現することも出来る。
本発明において5’側のDNAは5’側上流領域のDNAと表現することも出来る。また3’側のDNAは3’側下流領域のDNAと表現することも出来る。
本発明のベクターを抗体産生細胞に導入すると、ベクター内に含まれる抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNAと、抗体産生細胞のゲノム上の抗体可変部をコードするDNAの周辺領域との間で相同組み換えが起こる。その結果、上記(1)から(3)に記載のDNAを有するDNA構築物が、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と組換えられる。
なお、上記(1)に記載のDNAが抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーターである場合には、上記(1)に記載のDNAも抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNAと表現することが出来る。また、抗体可変部をコードするDNAの周辺領域と相同な塩基配列を有するDNAは、抗体可変部をコードするDNAの両脇のDNA領域と相同な塩基配列を有するDNAと表現することが出来る。この場合、本発明の方法は、以下のように表現することも出来る。
抗体産生細胞に、以下(1)及び(2)に記載のDNAを有するDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法;
(1)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(2)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
上記「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺のDNA領域と相同な塩基配列を有するDNA」は、ベクターアーム又はアームと表現することが出来る。特に「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA」は上流アーム、5’側のアーム、又はレフトアームとも表現できる。また「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA」は下流アーム、3’側のアーム、又はライトアームとも表現できる。アームは、一般には長い方が好ましいと考えられているが、遺伝子ターゲッティングに通常利用される長さを有していればよい(A. Joyner 著 Gene Targeting, IRL Press Practical Approach series, Oxford Univ. Press)。例えば、ライトアーム、レフトアームそれぞれが1kb以上、両方合わせたサイズとして3kb以上が挙げられるがこれに限定されない。またベクターの全長は12kbp以下が望ましいがこれに限定されない(J.-M. Buesrstedde, S. Takeda 編 Subcellular Biochemistry Volume 40: Reviews and Protocols in DT40 Research, Springer (2006))。
本発明の「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA」は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーターを有するものと有さないものの両方を含む。
「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA」が抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーターを有さない場合、当該DNAは、「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置するプロモーター領域の5’側領域と相同な塩基配列を有するDNA」とも表現しうる。
また本発明の「抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA」は、抗体産生細胞の抗体定常部をコードするDNAを有するものと有さないものの両方を含む。
【0014】
本発明のベクターアーム又はアームの塩基配列は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの周辺のDNA領域と完全に相同的(同一)である必要はなく、相同組換えが生じる程度の類似性を有していればよい。
【0015】
抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAは、抗体産生細胞の種類に応じて、適宜選択することが出来る。抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAとしては、ニワトリβ-アクチンプロモーター、ヒト伸長因子1α(EF-1α)プロモーター(Yang, S.Y. et al., J. Exp. Med. 203:2919-2928 (2006))が挙げられるがこれらに限定されない。また、ウイルスプロモーターDNAの例として、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kanayama, N., et al. Nucleic Acids Res. 34, e10 (2006))、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(Arakawa, H., et al. Nucleic Acids Res. 36, e1 (2008))が挙げられるがこれらに限定されない。
また、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAは、該抗体産生細胞由来のプロモーターであってもよく、該抗体可変部をコードするDNAの5’側に位置する抗体遺伝子プロモーターDNAであってもよい。
【0016】
本発明において「所望のアミノ酸配列をコードするDNA」は「任意のアミノ酸配列をコードするDNA」、「目的のアミノ酸配列をコードするDNA」と表現することも出来る。
また所望のアミノ酸配列としては抗体可変部(抗体重鎖可変部、抗体軽鎖可変部)のアミノ酸配列、酵素のアミノ酸配列、レセプターのアミノ酸配列、人工的なペプチド配列などが挙げられるがこれに限定されない。
【0017】
所望のアミノ酸配列をコードするDNAがシグナルペプチドをコードするDNAを有さない場合、所望のアミノ酸配列をコードするDNAによってコードされるポリペプチドの細胞表面への発現あるいは分泌を促進するために、遺伝子ターゲッティングベクター中の所望のアミノ酸配列をコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを挿入してもよい。シグナルペプチドをコードするDNAの挿入位置は、シグナルペプチドをコードするDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAから転写されて生成するmRNA上において、両ペプチドをコードする領域がインフレームで結合するような位置であればよい。例えば、シグナルペプチドをコードするDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAとの間にイントロンが挿入されてもよい。また、後述するように、シグナルペプチドをコードするDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAとの間に上記(3)に記載のDNAが挿入されてもよい。シグナルペプチドをコードするDNAは、抗体産生細胞においてポリペプチドを細胞表面へ発現又は分泌する機能を有すれば特に限定されないが、該抗体産生細胞由来のものであってもよく、抗体可変部5’側のシグナルペプチドをコードするDNAであってもよい。
シグナルペプチドとしてはニワトリ抗体重鎖あるいは軽鎖のシグナルペプチド、マウスあるいはヒトなどの哺乳動物の抗体重鎖あるいは軽鎖のシグナルペプチド、鳥類やほ乳類の細胞外に分泌されるサイトカインや増殖因子などのタンパク質のシグナルペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
所望のアミノ酸配列をコードするDNAは、どのような生物由来のものであってもよい。抗体産生細胞由来の生物と同種の生物由来のものであってもよく、異種の生物由来のものであってもよい。また、キメラポリペプチド等の人工的に改変されたポリペプチドをコードするDNAであってもよい。
「所望のアミノ酸配列を含むポリペプチド」としては、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられるがこれに限定されない。
「所望のアミノ酸配列を含むポリペプチド」としては、以下のアミノ酸配列を含むポリペプチド(キメラポリペプチド)が挙げられるがこれらに限定されない。
・抗体可変部(抗体重鎖可変部、抗体軽鎖可変部)のアミノ酸配列及び、抗体定常部(抗体重鎖定常部、抗体軽鎖定常部)のアミノ酸配列
・酵素のアミノ酸配列及び、抗体定常部(抗体重鎖定常部、抗体軽鎖定常部)のアミノ酸配列
・レセプターのアミノ酸配列及び、抗体定常部(抗体重鎖定常部、抗体軽鎖定常部)のアミノ酸配列
【0018】
本発明において所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAとは、当該DNAの存在により、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAからの転写、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする領域を含むmRNAのスプライシング、当該mRNAからの翻訳、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドのプロセッシング(例えばフォールディング)のいずれかの段階が阻害され、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの正常な産生を抑制するDNAを意味する。
【0019】
上記(3)に記載のDNAは、
該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
と表現することも出来る。
本発明のマーカー遺伝子はその3’末端にポリA(アデニン)付加配列を有することが好ましい。ポリA付加配列によりマーカー遺伝子の転写が終結する。
プロモーターは、当業者であれば様々なものを想到し得、適切なものを選択することができる。例えば、β-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。
選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素を生成しうる酵素遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0020】
プロモーターとマーカー遺伝子は当該プロモーターによりマーカー遺伝子の発現が可能なように機能的に結合することが好ましい。
本発明において機能的に結合とは、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAに転写因子が結合することにより、マーカー遺伝子の発現が誘導されるように、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子とが結合していることをいう。従って、マーカー遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、マーカー遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合」の意に含まれる。
【0021】
部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせとしては、Creリコンビナーゼ/loxP、FLPリコンビナーゼ/FRTが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の部位特異的組換え酵素認識配列は、部位特異的組換え酵素によって認識される限り変異型の配列でもよい。
・loxPの配列は以下の文献で参照可能である。
Hoess et al. P1 site-specific recombination: nucleotide sequence of the recombining sites. Proc Natl Acad Sci USA (1982) vol. 79 (11) pp. 3398-402
Hoess and Abremski. Interaction of the bacteriophage P1 recombinase Cre with the recombining site loxP. Proc Natl Acad Sci USA (1984) vol. 81 (4) pp. 1026-9
・FLPリコンビナーゼの配列は以下の文献で参照可能である。
Hartley and Donelson. Nucleotide sequence of the yeast plasmid. Nature (1980) vol. 286 (5776) pp. 860-865
・FRTの配列は以下の文献で参照可能である。
Hartley and Donelson. Nucleotide sequence of the yeast plasmid. Nature (1980) vol. 286 (5776) pp. 860-865
Andrews et al. The FLP recombinase of the 2 micron circle DNA of yeast: interaction with its target sequences. Cell (1985) vol. 40 (4) pp. 795-803
Gronostajski and Sadowski. Determination of DNA sequences essential for FLP-mediated recombination by a novel method. J Biol Chem (1985) vol. 260 (22) pp. 12320-7
Senecoff et al. The FLP recombinase of the yeast 2-micron plasmid: characterization of its recombination site. Proc Natl Acad Sci USA (1985) vol. 82 (21) pp. 7270-4
【0022】
本発明の遺伝子ターゲッティングベクターは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と上記DNA構築物を相同的に組換えることが可能な限り特に限定されないが、例えば以下(A)又は(B)のベクターが挙げられる。
【0023】
(A)ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(3)所望のアミノ酸配列をコードするDNA。
上記(A)のベクターは、所望のアミノ酸配列をコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。その場合、上記(2)のDNAと上記(3)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。あるいは、上記(1)のDNAと上記(2)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
【0024】
(B)ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
上記(B)のベクターもまた、所望のアミノ酸配列をコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。その場合、上記(1)のDNAと上記(2)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれに限定されない。
【0025】
また上記(A)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって
(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び
(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含む、
DNA。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(β)のDNAの間、上記(β)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0026】
(i)の相同なDNAは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと組換え可能である。該5’側のDNAとしては、例えば重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ重鎖抗体遺伝子座において抗体重鎖可変部のシグナルペプチドをコードするDNAの5’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに上流(5’側)のDNA領域に存在する最初のBamHIサイト、最初のXhoIサイト、最初のXbaIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
また例えば、軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ軽鎖抗体遺伝子座において抗体軽鎖可変部のシグナルペプチドをコードするDNAの5’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに上流(5’側)のDNA領域に存在する最初のSacIサイト、最初のBamHIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
なお、抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNAを始点として5’側のDNAを取得する場合には、5’側のDNAに抗体遺伝子プロモーターが含まれるため、別途プロモーターDNAを挿入する必要はない。
【0027】
また(iii)の相同なDNAは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと組換え可能である。該3’側のDNAとしては、例えば重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ重鎖抗体遺伝子座において抗体重鎖可変部をコードするDNAの3’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに下流(3’側)のDNA領域に存在する最初のXhoIサイト、最初のClaIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
また例えば、軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターの場合、ニワトリ軽鎖抗体遺伝子座において抗体軽鎖可変部をコードするDNAの3’末端の塩基を始点とし、該始点よりもさらに下流(3’側)のDNA領域に存在する最初のClaIサイト、最初のEcoRIサイトまでのDNA断片などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
また上記(A)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(v)に記載のDNAを含むDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNA、
(ii)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(iii)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(iv)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び
(v)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNA。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(iv)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。
上記(v)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0029】
また本発明の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ抗体重鎖遺伝子座の周辺領域を含む以下のDNA断片を元に設計することが出来るがこれらに限定されない。
・BamHI - XhoI断片
・BamHI - ClaI断片
・XhoI - XhoI断片
・XhoI - ClaI断片
・XbaI - XhoI断片
・XbaI - ClaI断片
また本発明の軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ抗体軽鎖遺伝子座の周辺領域を含む以下のDNA断片を元に設計することが出来るがこれらに限定されない。
・SacI - ClaI断片
・BamHI - EcoRI断片
・SacI - ClaI断片
・BamHI - EcoRI断片
本発明では、上記制限酵素サイトはニワトリ抗体遺伝子座に天然に存在するものに限られない。プライマーに制限酵素サイトを付加してPCRにより増幅すれば所望の制限酵素サイトを含むDNA断片を取得することが出来る。本発明の制限酵素サイトはこのようにして得られるものも含まれる。
【0030】
また本発明の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ重鎖抗体遺伝子座の抗体可変部コード領域5’側のBamHIサイトから開始コドン直前までの塩基配列(配列番号:44)を含むDNA断片、抗体可変部コード領域3’側のSacII-XhoI断片(配列番号:45)を含むDNA断片、上記(ii)のDNAを含むDNA断片を有するDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターと表現することも出来る。配列番号:44に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに5’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。配列番号:45に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに3’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。
また本発明の軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、ニワトリ軽鎖抗体遺伝子座のSacIサイトから開始コドン直前までの塩基配列(配列番号:46)を含むDNA断片、配列番号:47に記載の塩基配列を含むDNA断片、上記の(ii)のDNAを含むDNA断片を有するDNA構築物を有する遺伝子ターゲッティングベクターと表現することも出来る。配列番号:46に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに5’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。配列番号:47に記載の塩基配列を含むDNA断片としては、さらに3’側の領域を含むDNA断片が挙げられるが、これに限定されない。
【0031】
本発明の遺伝子ターゲッティングベクターは、上述の全ての特徴を有してもよい。すなわち本発明の上記(A)の遺伝子ターゲッティングベクターは以下のように表現することが出来る。
(重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体重鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって
(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び
(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含む、
DNA。
(軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体軽鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって
(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び
(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含む、
DNA。
上記の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター及び軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(β)のDNAの間、上記(β)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0032】
また上記(B)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAを含み、
(iii)のDNAが、(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNAを含み、
(α)のDNAと(ii)のDNAは機能的に結合している、
DNA。
(i)の相同なDNA、及び、(iii)の相同なDNAについては上述の通りである。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれらに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0033】
また上記(B)の遺伝子ターゲッティングベクターは、以下のように表現することも出来る。
・ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(v)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNA、
(ii)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(iii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(iv)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、及び
(v)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNA。
上記の遺伝子ターゲッティングベクターは、(iii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。
上記(v)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
【0034】
また上記(B)の遺伝子ターゲッティングベクターは以下のように表現することが出来る。
(重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体重鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体重鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAを含み、
(iii)のDNAが、(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNAを含み、
(α)のDNAと(ii)のDNAは機能的に結合している、
DNA。
(軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター)
ベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって以下(i)から(iii)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体軽鎖可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(i)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの5’側と相同なDNAを含むDNA、
(ii)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、及び、
(iii)抗体産生細胞のゲノムDNAにおける抗体軽鎖可変部をコードするDNAの3’側と相同なDNAを含むDNAであって、
(i)のDNAが、(α)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNAを含み、
(iii)のDNAが、(β)所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNAを含み、
(α)のDNAと(ii)のDNAは機能的に結合している、
DNA。
上記の重鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクター及び軽鎖可変部を標的とする遺伝子ターゲッティングベクターは、(ii)のDNAよりも5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来る。より具体的には、上記(α)のDNAと上記(ii)のDNAの間にシグナルペプチドをコードするDNAを有することが出来るがこれに限定されない。
上記(iii)のDNAは抗体定常部をコードするDNAを有することが出来る。
上記(B)のベクターにおいては、所望のアミノ酸配列をコードするDNAの3’末端にスプライシングドナーコンセンサス配列が付加されてもよい。スプライシングドナーコンセンサス配列としては、「AG GTRAGT」(R=A or G、下線部がイントロン配列)を付加することができるが、これに限定されない。
所望のアミノ酸配列をコードするDNAにスプライシングドナーコンセンサス配列を連結する場合、スプライシング後、mRNA上で所望のアミノ酸配列をコードする領域と抗体定常部をコードする領域とがインフレームとなるようにスプライシングドナーコンセンサス配列の前に適宜塩基を追加又は削除する必要がある。
上記(B)のベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNA((ii)のDNA)と、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA((β)のDNA)は、出来る限り近い距離にあることが好ましい。また(β)のDNAがマーカー遺伝子を含むものである場合には、マーカー遺伝子の3’側にポリA付加配列を有することが好ましい。
【0035】
また本発明は上述の遺伝子ターゲティングベクターを提供する。また本発明は、上述のターゲティングベクターにおいて所望のアミノ酸配列をコードするDNAの代わりにクローニングサイトを有するベクターを提供する。より具体的には本発明は、
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と以下のDNA構築物を相同的に組換えるための遺伝子ターゲッティングベクターであって、以下のDNA構築物を含むベクターを提供する。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)クローニングサイトを含むDNA、
(3)DNA構築物から除去され得るDNAであって、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNA
を含むDNA構築物。
【0036】
(3)に記載のDNAは、
部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAであり、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNA
と表現することも出来る。
マーカー遺伝子はその3’末端にポリA配列を有していてもよい。
【0037】
本発明の遺伝子ターゲッティングベクターは、クローニングサイトに所望のアミノ酸配列コードするDNAが挿入されていてもよい。
クローニングサイトとしてはマルチクローニングサイトが挙げられるがこれに限定されない。
【0038】
以下に、上述の(B)のベクターにおいて所望のアミノ酸配列をコードするDNA((ii)のDNA)がクローニングサイトに置き換えられたベクターの具体例を示すがこれらに限定されない。
配列番号:10(図21)は、本発明の重鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:10に記載の塩基配列(特に1−7277番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図21(配列番号:10)において、
1-1395番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1396-1441番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1442-1624番目の塩基はイントロンDNA、
1625-1635番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1671-1704番目の塩基はloxP_REのDNA配列(TACCGTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTAT、(配列番号:37))、
1711-2697番目の塩基はマーカーのポリA付加配列を含むDNA、
2720-3142番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3186-4527番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
4555-4588番目の塩基はloxP_LEのDNA配列(ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAACGGTA(配列番号:38))、
4598-7277番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列
に対応する。
1442-1624番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1397-1441番目の塩基と1625-1635番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
なお上記に例示したターゲティングベクターでは変異型loxP配列を用いている(Albert H., et al., Plant J. 7:649 (1995)、Araki K., et al., Nucleic Acids Res. 25:868 (1997))。
また本発明では、DT40用のマーカー遺伝子を用いた(Arakawa H., BMC Biotechnol. 1:7 (2001))。DT40用のマーカー遺伝子は上述の通りである。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0039】
また配列番号:13(図22)は、本発明の重鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:13に記載の塩基配列(特に5-7266番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図22(配列番号:13)において、
5-1399番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1400-1445番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1446-1628番目の塩基はイントロンDNA、
1629-1639番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1660-1693番目の塩基はloxP_REのDNA配列(TACCGTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTAT(配列番号:37))、
1700-2686番目の塩基はマーカー遺伝子のポリA付加配列を含むDNA
2709-3131番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3175-4516番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
4544-4577番目の塩基はloxP_LEのDNA配列(ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAACGGTA(配列番号:38))、
4587-7266番目の塩基は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列
に対応する。
1446-1628番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1400-1445番目の塩基と1629-1639番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0040】
また配列番号:18(図23)は、本発明の軽鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:18に記載の塩基配列(特に1−6870番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図23(配列番号:18)において、
1-1868番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1869-1914番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1915-2039番目の塩基はイントロンDNA、
2040-2056番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
2085-2118番目の塩基はloxP_REのDNA配列、
2146-3487番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
3531-3953番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3976-4962番目の塩基はマーカー遺伝子のポリA付加配列を含むDNA配列、
4969-5002番目の塩基はloxP_REのDNA配列、
5011-6870番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列、に対応する。
1915-2039番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1869-1914番目の塩基と2040-2056番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0041】
また配列番号:20(図24)は、本発明の軽鎖可変部を標的とした遺伝子ターゲッティングベクターの塩基配列の一例である。すなわち本発明は、配列番号:20に記載の塩基配列(特に1-6861番目の塩基配列)を含むDNA構築物を含むターゲティングベクターを提供する。
図24(配列番号:20)において、
1-1868番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの5’側のDNAと相同なDNA配列(プロモーターを含む、抗体可変部をコードするDNAの開始コドン直前までの配列)、
1869-1914番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
1915-2039番目の塩基はイントロンDNA、
2040-2056番目の塩基は抗体可変部のシグナルペプチドをコードするDNA、
2076-2109番目の塩基はloxP_LEのDNA配列、
2137-3478番目の塩基はマーカー遺伝子のプロモーター配列、
3522-3944番目の塩基はマーカー遺伝子のDNA配列、
3967-4953番目の塩基はマーカー遺伝子のポリA付加配列を含むDNA配列
4960-4993番目の塩基はloxP_REのDNA配列、
5002-6861番目の塩基は抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAの3’側のDNAと相同なDNA配列、に対応する。
1915-2039番目の塩基(イントロンDNA)はスプライシングにより除去され、1869-1914番目の塩基と2040-2056番目の塩基が結合し、シグナルペプチド配列を形成する。
上記ベクターにおいて、所望のアミノ酸配列をコードするDNAはシグナルペプチドをコードするDNAとloxP_REのDNA配列の間に挿入される。
【0042】
本発明のターゲティングベクターの細胞への導入方法は、特に制限されないが、当業者であれば、選択した抗体産生細胞に応じて好適な導入法を選択することができる。例えば抗体産生細胞が哺乳動物細胞である場合には、例えばリン酸カルシウム沈降法、核マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、DEAE-デキストラン法、細胞融合、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、リポフェクション法、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)、エレクトロポレーション法を用いた方法などの方法が例示できるかこれらに限定されない。
【0043】
本発明に用いる抗体産生細胞は、抗体を産生し得る限り、由来動物種、細胞株種は限定されない。ヒト、マウス、ヒツジ、ラット、ウサギ、ニワトリなどの抗体産生細胞若しくはその細胞株又はそれらの変異株を用いることができる。また抗体産生細胞は、B細胞、ヒトバーキットリンパ腫細胞株(Ramos、BL2など)、マウスプレB細胞株18-81、マウス未熟B細胞株WEHI-231などが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、ニワトリ由来のB細胞、例えばニワトリ抗体産生細胞由来のDT40細胞株、DT40-SW細胞株が挙げられる。DT40細胞株は、Bリンパ腫由来の細胞であり、第2染色体がトリソミーという特徴をもつ(Baba, T.W., Giroir, B.P. and Humphries, E.H.:Virology 144 : 139-151,1985)。また、野生型DT40株又は本発明者らが独自に樹立したDT40-SW株(変異機能を司るAID遺伝子の発現を可逆的にスイッチすることにより、その抗体変異機能をON/OFF制御できる変異株(詳細はKanayama, N., Todo, K., Reth, M., Ohmori, H. Biochem. Biophys. Res. Commn. 327:70-75 (2005)及び特開2006-109711号公報に記載されている))を用いることができる。
また本発明の抗体産生細胞には、遺伝子操作により人工的に抗体産生能を付与した細胞も含まれる。人工的に抗体産生能を付与した細胞の場合、完全な抗体分子を産生可能である必要はなく、抗原に結合するために必要な可変領域を含む抗体フラグメントを産生し得る細胞でもよい。またキメラ抗体またはヒト化抗体等、非天然型の抗原に結合し得る分子およびそのフラグメントを産生し得る細胞でもよい。
本発明の抗体産生細胞は後述の特徴を有するものでもよい。
【0044】
また本発明は、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する方法に関する。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA
相同的な組換えは上述の方法によって行うことが出来る。組換えられた細胞の選択は、例えばマーカー遺伝子の発現を指標として行うことが出来る。また、抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行うことが出来る。あるいはこれら2つの指標を組み合わせて細胞の選択をすることも可能であるが、これらに限定されない。
抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組み換えられた細胞は、内因性抗体を産生することができなくなる。そのため、細胞表面への内因性抗体の提示の有無を指標として、相同的に組み換えられた細胞を選択することができる。さらに、本発明においては、上記(3)のDNAの存在により、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が阻害される。より具体的には、上記(3)のDNAの存在により、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が阻害される。そのため、細胞表面への提示のために所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した場合であっても、上記(3)のDNAが存在する限り、該ポリペプチドと抗体定常領域とを含むポリペプチドが細胞表面に提示されることはない。これにより、抗体定常部に対する抗体を用いて、細胞表面における抗体分子の有無を指標として効率的に相同的に組換えられた細胞を選択することが可能になる。細胞表面における抗体分子の有無を指標とした細胞の選択は、例えばフローサイトメトリー、抗体産生細胞の産生する抗体に特異的に結合する抗体を結合させた磁気ビーズなどにより行うことができるが、これらに限定されない。
また、上記(3)のDNAは、細胞増殖による選択圧をかけるために、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含むことが好ましい。薬剤耐性遺伝子としては、例えばネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
また本発明は、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造は、本明細書に記載の方法によって組換え細胞を取得し、後述の方法で当該細胞のゲノムDNAから、後述する以下のDNAを除去することによって行うことが出来る。必要に応じて、以下のDNAが除去された細胞を選択する工程を含んでもよい。ポリペプチドの産生を指標に、以下のDNAが除去された細胞を選択することが出来る。
ここで以下のDNAとは、
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA
を指し、より具体的には、
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA
を指す。
【0046】
また本発明は、以下(a)から(c)の工程を含むポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
【0047】
本発明のポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、抗体産生細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に、部位特異的組換え酵素を作用させる。これにより、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが、抗体産生細胞のゲノムDNAから除去される。
互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAの存在により、所望のアミノ酸配列をコードするDNA又は抗体定常部をコードするDNAのいずれか又は両方の転写が阻害されるため、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAの転写産物の正常な産生が阻害される。あるいは所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAの転写産物の正常なスプライシング、翻訳又は翻訳産物のプロセッシング(例えばフォールディング)が阻害されるため、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの正常な産生が阻害される。そのため、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAの除去により、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が回復する。当該ポリペプチドにシグナルペプチドが付加されている場合には、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが細胞表面に提示される。又は、細胞外に分泌される。この場合、ポリペプチドの細胞表面への提示の有無により、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが除去されたことを確認することが出来る。また、細胞表面にポリペプチドが提示されることにより、抗体可変部をコードする領域へのターゲティングが成功したことを確認することが出来る。
【0048】
本発明のポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、ポリペプチドがシグナルペプチドを有する場合もしくはシグナルペプチドが付加されている場合、当該ペプチドは細胞の表面に提示される。又は、該細胞の細胞外に分泌される。
【0049】
本発明の方法においては、(i)所望のアミノ酸配列として抗体重鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
また、(ii)所望のアミノ酸配列として抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
本発明の方法において(i)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、内因性の抗体軽鎖を含む抗体が産生される。
また(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖、及び、内因性の抗体重鎖を有する抗体が産生される。
また(i)及び(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、(i)のベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、(ii)のベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖を有する抗体が産生される。
本発明はこのような抗体を産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
【0050】
また本発明は、以下(a)から(c)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法を提供する。
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
【0051】
さらに必要に応じて、(d)(3)のDNAが除去された細胞を選択する工程、を含んでもよい。ポリペプチドの産生を指標に、(3)のDNAが除去された細胞を選択することが出来る。
本発明のターゲッティングベクターは上記(1)から(3)に記載のDNAに加え、抗体遺伝子座におけるDNAと相同なDNAを含むことが出来る。
また所望のアミノ酸配列をコードするDNAがシグナルペプチドをコードするDNAを有さない場合、当該DNAによってコードされるポリペプチドの細胞表面への発現あるいは分泌を促進するために、遺伝子ターゲッティングベクター中の所望のポリペプチドをコードするDNAの5’側にシグナルペプチドをコードするDNAを挿入してもよい。
【0052】
「変異が導入されたポリペプチド」は「改変ポリペプチド」と表現することも出来る。
変異には、置換、挿入、欠失、付加、及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0053】
本発明の方法においては、(i)所望のアミノ酸配列として抗体重鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
また、(ii)所望のアミノ酸配列として抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列をコードするDNAを含む遺伝子ターゲティングベクターを抗体産生細胞に導入することが出来る。
本発明の方法において(i)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、内因性の抗体軽鎖を有する抗体が産生される。
また(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、ベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖、及び、内因性の抗体重鎖を有する抗体が産生される。
また(i)及び(ii)のベクターを抗体産生細胞に導入した場合、(i)のベクターに挿入された外因性の抗体重鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体重鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体重鎖、及び、(ii)のベクターに挿入された外因性の抗体軽鎖可変部のアミノ酸配列及び内因性の抗体軽鎖定常部のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖を有する抗体が産生される。
ここで、AID遺伝子の発現により、内因性の抗体可変部のアミノ酸をコードするDNAと同様に(i)のベクターに挿入された抗体重鎖可変部のアミノ酸をコードするDNA及び(ii)のベクターに挿入された抗体軽鎖可変部のアミノ酸をコードするDNAにも一定の頻度で変異が導入されるため、所望の抗体可変部に変異が導入された抗体が産生される。
本発明はこのような変異が導入された抗体を産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
【0054】
上記変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、工程(a)の(3)に記載のDNAは、
該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
と表現することが出来る。
また工程(c)は
工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程
と表現することが出来る。
【0055】
また本発明のAID遺伝子を発現している細胞としては、内因性のAID遺伝子を有する細胞であってAID遺伝子を発現することが可能な細胞が挙げられる。より具体的には、ニワトリB細胞株DT40、ヒトバーキットリンパ腫細胞株(Ramos、BL2など)、マウスプレB細胞株18-81、マウス未熟B細胞株WEHI-231などが挙げられるがこれらに限定されない。ここで、細胞が内因性のAID遺伝子を発現している細胞の場合、抗体可変部遺伝子座に組み換えられた所望のアミノ酸配列をコードするDNAに変異が導入される。
【0056】
また本発明は、以下(a)から(e)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法を提供する。
(a)AID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程、
(d)AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【0057】
上記変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、工程(b)は、
内因性の抗体を細胞表面に提示しない細胞を選択する工程、マーカー遺伝子を発現する細胞を選択する工程、又は、マーカー遺伝子を発現し内因性の抗体を細胞表面に提示しない細胞を選択する工程、と表現することが出来る。
【0058】
また本発明は、以下の工程を含む変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【0059】
また本発明は、以下の工程を含む変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法に関する。
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物、及び、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物
を有する細胞であり、該部位特異的組換え酵素が、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下において活性化されない細胞に、
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
本発明の変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法では、ポリペプチドがシグナルペプチドを有する場合もしくはシグナルペプチドが付加されている場合、当該ペプチドは細胞の表面に提示される。又は、該細胞の細胞外に分泌される。
【0060】
本発明の抗体産生細胞は、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、AID遺伝子の発現及び非発現を制御する(AID遺伝子の発現のON、OFFを変換する)ことが出来る。これにより、所望のアミノ酸配列をコードするDNAへの変異の導入を開始または停止することが可能である。AID遺伝子の発現がONの場合には、所望のアミノ酸配列をコードするDNAへの突然変異を導入する機能がONとなり、継続的に変異が導入される。一方AID遺伝子の発現がOFFの場合には、DNAへの変異は起こらない状態が維持される。すなわち、OFFになった時点で変異を受けたDNAはその後さらなる変異を受けることなく変異が維持される。
【0061】
なおAID遺伝子の発現が開始してからDNAに変異が導入されるまでに時間がかかる場合がある。もしAID遺伝子の発現が開始してもすぐにDNAに変異が導入されない場合、該細胞を一定時間(例えば1ヶ月間)培養することが好ましい。培養条件は、40℃、5%CO2存在下とすることが出来るがこれに限定されない。
【0062】
このような、AID遺伝子の発現のON、OFFによる遺伝子突然変異制御のメカニズムを利用して、対象とする所望のアミノ酸配列をコードするDNAに変異を導入することが可能である。あるいは逆に、一定の突然変異を受けたDNAにさらなる突然変異が起こらないようにすることが可能である。
【0063】
抗体産生細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが除去され、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生が回復する。このような細胞を選択することにより、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドを産生する抗体産生細胞を取得することが出来る。また、このような細胞を選択することにより、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドや当該ポリペプチドをコードするDNAを取得することが出来る。もし必要であれば、部位特異的組換え酵素を作用させた細胞が変異が導入されたポリペプチドを産生するようになるまで、一定の時間細胞を培養してもよい。
【0064】
また本発明のAID遺伝子を発現している抗体産生細胞は、AID遺伝子の発現及び非発現を人為的に制御できる細胞とすることが出来る。このような細胞として、内因性のAID遺伝子を有さない抗体産生細胞に外部からAID遺伝子を導入した細胞、内因性のAID遺伝子が不活性化されている抗体産生細胞に外部からAID遺伝子を導入した細胞などが挙げられるがこれらに限定されない。外部からAID遺伝子を導入した細胞は、導入された細胞内で機能するプロモーターとAID遺伝子が機能的に結合したDNAを含むベクターを、抗体産生細胞に導入することにより取得することが出来る。プロモーターは、当業者であれば様々なものを想到し得、適切なものを選択することができる。例えば、β-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0065】
また本発明の抗体産生細胞として、内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、かつ、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、外因性のAID遺伝子を含むDNAを含むDNA構築物を有し、部位特異的組換え酵素によって部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが反転され得る細胞が挙げられる。本明細書では、このDNA構築物を「外因性AID遺伝子構築物」と称する場合がある。
【0066】
「遺伝子が機能的に破壊されている」ことを、「遺伝子が不活性化されている」、「遺伝子が欠損している」、「遺伝子がノックアウトされている」と表現することも出来る。また遺伝子の不活性化は、遺伝子の発現が完全に抑制されている場合だけでなく、部分的に抑制されている場合も含まれる。
本発明において遺伝子の不活性化とは、遺伝子の塩基配列に部分的に欠失、置換、挿入、付加等が生じ遺伝子の発現が抑制されていることをいう。「遺伝子の発現を抑制」とは、遺伝子自体は発現するが、正常な機能を有する蛋白質が産生されない場合も含まれる。
本発明においては、対立遺伝子の一方のみを不活性化するため、AID遺伝子をヘテロでノックアウトすることも可能である(JP 2006-109711、Biochem. Biopys. Res. Commun. 327:70 (2005))。AID遺伝子のノックアウトは、例えば、遺伝子ターゲッティングベクターを用いた相同組換えにより行うことができる。相同組換えは、染色体上の遺伝子と外来DNAとの間で相同的遺伝子組換えを行い、目的の遺伝子を改変する方法をいう。相同組換えが起こった細胞を同定するために、遺伝子ターゲッティングベクターには選択マーカーが挿入されていてもよい。選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素タンパク質遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。なお、これらのマーカー遺伝子には3‘末端にポリAを付加してもよい。
【0067】
本発明の外因性AID遺伝子構築物は、抗体産生細胞のゲノムに組み込まれていることが好ましい。該構築物のゲノム上への組み込み位置は特に限定されないが、例えば外因性AID遺伝子構築物は、内因性遺伝子座の一方の対立遺伝子の位置に組み込まれてもよい(JP 2006-109711、Biochem. Biopys. Res. Commun. 327:70 (2005))。その場合、例えばJP 2006-109711の図3などの情報をもとに、抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、及び、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれた外因性のAID遺伝子(例えば配列番号:50(図26)、GeneBank accession NO. XM_416483)が機能的に結合したDNAを含むDNA構築物を含有するAID遺伝子ターゲッティングベクターを作製して、該細胞に導入する。これにより、抗体産生細胞の内因性AID遺伝子と、上記DNA構築物の間で相同組換えが生じる。これにより、外因性AID遺伝子構築物をゲノム上に有する抗体産生細胞を取得することが出来る。
プロモーターとしては上述のものを用いることが出来るがこれらに限定されない。
上記部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれた外因性のAID遺伝子は、部位特異的組換え酵素を作用させることにより反転し得る。外因性のAID遺伝子がプロモーターDNAに対して順方向である場合には、該プロモーターDNAと外因性のAID遺伝子は機能的に結合されAID遺伝子が発現する。一方、外因性のAID遺伝子がプロモーターDNAに対して逆方向である場合には、AID遺伝子は発現しない。
【0068】
もし細胞が、内因性のAID遺伝子が不活性化され、かつ、外因性AID遺伝子構築物を有する場合、該細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、該部位特異的組換え酵素が細胞内の部位特異的組換え酵素認識配列を認識し、2つの部位特異的組換え酵素認識配列により挟まれている領域が反転する(すなわち、AID遺伝子の向きがプロモーターに対して逆方向から順方向へ、または順方向から逆方向へ変換する)。これによって、AID遺伝子の向きがプロモーターに対して逆方向から順方向になった場合、AID遺伝子の発現がOFFからONに変換される。逆に、AID遺伝子の向きがプロモーターに対して順方向から逆方向になった場合、AID遺伝子の発現がONからOFFに変換される。
【0069】
より具体的には、細胞が外因性AID遺伝子構築物を有し、該構築物においてプロモーターとAID遺伝子が順方向を向いている場合、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、当該構築物上の外因性AID遺伝子の向きがプロモーターに対して逆方向に反転する。その結果、AID遺伝子の発現が停止し、これにより抗体産生細胞のゲノムに組み込まれた所望のアミノ酸配列をコードするDNAから発現されるポリペプチドへの変異の導入が停止する。
もし部位特異的組換え酵素を作用させることにより外因性AID遺伝子構築物の外因性AID遺伝子の向きが反転しない場合、AID遺伝子が該遺伝子のプロモーターに対して順方向に配置されているので、該プロモーターによりAID遺伝子が発現し続ける。
本発明では、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させた結果プロモーターとAID遺伝子が順方向を向いている細胞を選択することにより、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドを産生する抗体産生細胞を取得することが出来る。また、所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドや当該ポリペプチドをコードするDNAを取得することが出来る。
【0070】
また細胞が外因性AID遺伝子構築物を有し、該構築物においてプロモーターとAID遺伝子が逆方向を向いている場合、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させることにより、当該構築物上の外因性AID遺伝子の向きがプロモーターに対して順方向に反転する。その結果、AID遺伝子の発現が開始し、これにより抗体産生細胞のゲノムに組み込まれた所望のアミノ酸配列をコードするDNAから発現されるポリペプチドに変異が導入される。
もし部位特異的組換え酵素を作用させることにより外因性AID遺伝子構築物の外因性AID遺伝子の向きが反転しない場合、AID遺伝子が該遺伝子のプロモーターに対して逆方向に配置されたままなので、該プロモーターによるAID遺伝子の発現は停止したままである。
本発明では、細胞に部位特異的組換え酵素を作用させた結果プロモーターとAID遺伝子が順方向を向いている細胞を選択することにより、改変ポリペプチドを産生する抗体産生細胞を取得することが出来る。また、改変ポリペプチドをコードするDNAを取得することが出来る。
【0071】
AID遺伝子に対して順方向に導入されたマーカー遺伝子と、逆方向に導入されたマーカー遺伝子の2つのマーカー遺伝子を含む外因性AID遺伝子構築物を設計すると、AID遺伝子がプロモーターに対して順方向および逆方向いずれの方向を向いている場合であってもマーカー遺伝子による選択ができるため、有利である。このような構築物として、以下の特徴を有する外因性AID遺伝子構築物が挙げられる。
・5’側から3’側に向かって、第1の部位特異的組換え酵素認識配列、順方向の第1のマーカー遺伝子、逆方向の第2のマーカー遺伝子、逆向きのAID遺伝子、第2の部位特異的組換え酵素認識配列が存在するようなDNA配列を含む外因性AID遺伝子構築物
いずれのマーカー遺伝子も、マーカー遺伝子がプロモーターに対して順方向に存在する時にのみ発現可能であるように設計することが必要である。上記に例示した構築物においては、例えば第2のマーカー遺伝子として例えばGFP遺伝子を用いる場合、GFP遺伝子の十分な発現を得るためにIRES配列を第2のマーカー遺伝子とAID遺伝子との間に挿入しておくとよい。例えば、5’側から3’側に向かって、順方向のプロモーター、第1の部位特異的組換え酵素認識配列、順方向の第1のマーカー遺伝子、順向きポリA付加配列、逆向きポリA付加配列、逆方向の第2のマーカー遺伝子、逆方向のIRES配列、逆方向のAID遺伝子、第1の部位特異的組換え酵素認識配列とは逆方向の第2の部位特異的組換え酵素認識配列が配置されたDNA構築物を利用することが出来る。
【0072】
あるいはまた、上記とは別の態様として、AID遺伝子を同方向に向いた2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟む形態を取るDNA構築物を導入した細胞を用いることもできる。この場合には部位特異的組換え酵素が作用すると、AID遺伝子は切り出されて脱落し、細胞は不可逆的にAID欠損となる。この細胞のAID遺伝子の発現を再びONにするためには再度AID遺伝子を導入する必要があるが、AID遺伝子のOFFは100%の効率で達成できるので、この方法を採用してもよい。
【0073】
AID遺伝子が特定の方向にあるクローンを効率的に選択するために、外因性AID遺伝子構築物は種々のマーカー遺伝子を有することが出来る。選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素生成タンパク質遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0074】
外因性AID遺伝子構築物において、抗体産生細胞で機能し得るプロモーターとAID遺伝子が順方向を向いているためにAID遺伝子が発現可能な状態で存在している場合には、マーカー遺伝子も発現可能なように、AID遺伝子とマーカー遺伝子が同じ向きに存在するようにDNA構築物を設計する。この場合、マーカー遺伝子を発現している抗体産生細胞は、AID遺伝子も発現し得る状態にあるため、マーカー遺伝子の発現を指標に(表現型に基づいて)、AID遺伝子を発現する細胞を選択することができる。
【0075】
逆に、外因性AID遺伝子構築物において、抗体産生細胞で機能し得るプロモーターとAID遺伝子が逆方向を向いているためにAID遺伝子が発現不可能な状態で存在している場合には、マーカー遺伝子の発現が可能なように、AID遺伝子とマーカー遺伝子が逆方向に(プロモーターとマーカー遺伝子が同じ方向に)存在するようにDNA構築物を設計する。この場合、マーカー遺伝子を発現している抗体産生細胞は、AID遺伝子を発現しない状態にあるため、マーカー遺伝子の発現を指標に(表現型に基づいて)、AID遺伝子を発現しない細胞を選択することができる。
【0076】
本発明では、変異が導入されたポリペプチドを産生する細胞の選択は、AID遺伝子の発現がONの状態、OFFの状態のいずれでも行うことが出来る。単離した細胞から所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAを単離し、それが所望のポリペプチド又はそれをコードするDNAであるか否かを決定する。もし単離したポリペプチド又はDNAが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAでない場合であって、細胞のAID遺伝子の発現がONの状態の場合、さらに培養を続けることも可能である。培養を継続することにより、ポリペプチドに変異が蓄積する。培養を継続後の細胞からポリペプチド又はそれをコードするDNAを単離し、それが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAであるか否かを決定することも可能である。
一方、もし単離したポリペプチド又はDNAが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAでない場合であって、細胞のAID遺伝子の発現がOFFの状態の場合、ONに変換する。これにより、細胞はさらに変異が導入されたポリペプチドを産生する。当該細胞から変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAを単離し、それが所望の変異が導入されたポリペプチド又はそれをコードするDNAであるか否かを決定することも可能である。
【0077】
本発明の方法の一例を以下に示すがこれに限定されない。
(1)例えば、AID遺伝子を発現しない抗体産生細胞(AID遺伝子の発現がOFFの抗体産生細胞)に本発明の遺伝子ターゲッティングベクターを導入する。ベクターの導入に成功した細胞では、内因性抗体分子は発現しない(もし仮にAID遺伝子を発現する抗体産生細胞(AID遺伝子の発現がONの抗体産生細胞)に本発明の遺伝子ターゲッティングベクターを導入した場合も、ベクターの導入に成功した細胞では内因性抗体分子を発現しない)。
(2)内因性抗体分子を発現しない細胞を選択する。
(3)次にベクターが導入された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させる。これにより部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAが除去され、ポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を発現する。また部位特異的組換え酵素を細胞に作用させることにより、外因性AID遺伝子構築物上のAID遺伝子の向きが反転する。AID遺伝子の向きが反転する結果、該遺伝子の発現が起こる(AID遺伝子の発現がONになる)。なおこの時、AID遺伝子の向きが反転しない場合がある。その場合、AID遺伝子の発現がONの細胞とOFFの細胞の両方が存在する結果となる。
(4)次にポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を産生し、かつAID遺伝子を発現する細胞を選択する。あるいは、ポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を産生し、かつAID遺伝子を発現しない細胞を選択する。後者の細胞を選択した場合、再度、部位特異的組換え酵素を細胞に作用させる。作用させた結果AID遺伝子の発現がONに変換された細胞を選択する。
(5)次に、選択したポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)及びAID遺伝子の両方を発現する細胞から所望の性質を有するポリペプチドを産生する細胞を単離する。あるいは、選択した細胞を一定期間培養し、培養後の細胞から所望の性質を有するポリペプチドを産生する細胞を選択する。細胞を単離する前又は後に、部位特異的組換え酵素を細胞に作用させ、AID遺伝子の発現をOFFにしてもよい。
(6)所望の性質を有するポリペプチド(所望のアミノ酸配列と抗体定常部のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質)を産生する細胞が得られなかった場合には、一定期間培養し、(5)の工程を繰り返すことが出来る。(5)でAID遺伝子の発現をOFFにした場合には、培養の前にAID遺伝子の発現を再度ONにする。
(7)単離した細胞からDNAを単離し、実際に変異が導入されていることを確認してもよい。
【0078】
変異が導入されたポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするDNAの単離は後述の方法によって行うことが出来る。変異が導入されたポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするDNAが所望のものであるか否かは、変異が導入されたポリペプチドの活性または当該ポリペプチドをコードするDNAの塩基配列を調べることによって確認することが出来る。あるいは、変異が導入されたポリペプチドが抗体、サイトカインレセプターなどの場合、抗原やリガンドへの結合活性(特異性、親和性など)を指標に、酵素などであれば、酵素活性を指標に、変異が導入されたポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするDNAが所望のものであるか否かを判定することが出来る。
このようにして、得られる細胞群から目的とする変異が導入されたポリペプチドを産生するクローンを単離することができる。また、単離したクローンで再度AID遺伝子の発現を0Nにして更なる変異の導入を繰り返すことで、より望ましい変異が導入されたポリペプチドを産生するクローンを得ることが可能である。
【0079】
また、所望の性質を有するポリペプチドを産生する細胞の選択は、産生されたポリペプチドが所望の性質を有するか否かを指標としてスクリーニングすることにより行うことが出来る。細胞からポリペプチドを単離して行ってもよいが、細胞のまま行うことも出来る。このとき、ポリペプチドを細胞表面に提示又は細胞外に分泌させるために、抗体産生細胞で機能するDNAと所望のアミノ酸配列をコードするDNAとの間にシグナルペプチドをコードするDNAを挿入してもよい。ポリペプチドが細胞外に分泌される場合には、細胞培養液をスクリーニングに用いてもよい。上記のように細胞を選択した後、細胞からDNAを単離して変異の導入された塩基配列を確認してもよい。
【0080】
本発明において、細胞への部位特異的組換え酵素の作用は、例えば以下の方法で行うことが出来るがこれらに限定されない。
(1)テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどの制御性プロモーターの3’側に、核移行シグナルを導入した(あるいは含む)部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物を含む細胞に、テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどを加える。
・Gossen, M. Bujard, H. (1992) Tight control of gene expression in mammalian cells by tetracycline responsive promoters. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551.
・Gossen, M., Freundlieb, S., Bender, G., Muller, G., Hillen, W. Bujard, H. (1995) Transcriptional activation by tetracycline in mammalian cells. Science 268:1766-1769.
・Urlinger, S., Baron, U., Thellmann, M., Hasan, M.T., Bujard, H. Hillen, W. (2000) Exploring the sequence space for tetracycline-dependent transcriptional activators: Novel mutations yield expanded range and sensitivity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(14):7963-7968.
(2)部位特異的組換え酵素発現ベクターを一過性にトランスフェクションする。
(3)核移行シグナルを導入した(あるいは含む)部位特異的組換え酵素を細胞に導入する。
(4)細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されない部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物を有する細胞に細胞外刺激(例えば4-ヒドロキシタモキシフェン)を加える。
【0081】
本発明の抗体産生細胞は、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAを含むDNA構築物を含むことが出来る。以下本明細書では、このDNA構築物を「部位特異的組換え酵素遺伝子構築物」と称する場合がある。
抗体産生細胞で機能するプロモーターとしては、上述の通りβ-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターなどが挙げられるがこれらに限定されない。
部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、細胞外刺激の非存在下においては活性されない形態とすることが出来る。そのような形態の部位特異的組み換え酵素としては、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドと部位特異的組換え酵素との融合タンパク質が挙げられるが、これに限定されない。
本発明の部位特異的組換え酵素遺伝子構築物は、部位特異的組換え酵素のN末端部分に核移行シグナルが挿入されていてもよい。また、部位特異的組換え酵素あるいはエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドと部位特異的組換え酵素との融合タンパク質の3’末端にポリA付加配列を含むことが好ましい。
【0082】
また本発明の部位特異的組換え酵素遺伝子構築物は選択マーカー遺伝子を有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、β-ラクタマーゼなどの色素生成タンパク質遺伝子等を用いることができるがこれらに限定されない。マーカー遺伝子の3‘末端にはポリAが付加されてもよい。
【0083】
本発明のエストロゲンレセプターは、リガンドとの結合活性を有する限り限定されず、野生型のエストロゲンレセプター(例えば、配列番号:52、53)及び変異型エストロゲンレセプターの両方を含む。変異型エストロゲンレセプターとしては、本来のリガンドであるエストラジオールには反応せず4-ヒドロキシタモキシフェンのみに反応するものなどが挙げられる。より具体的には、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプターが挙げられるがこれに限定されない。
抗体産生細胞の由来する生物が性ホルモンとしてエストロゲンを有する場合、あるいは抗体産生細胞がエストロゲンに対する応答性を有する場合には、エストロゲン結合活性を低下させた変異型エストロゲンレセプターを用いることが望ましい。また、部位特異的組み換え酵素との融合タンパク質とする場合には、そのリガンド結合ドメインのみを用いることも出来る。
【0084】
変異型エストロゲンレセプターの作製は、当業者であれば、例えば以下の文献(1)に記載の方法に基づき行うことが出来る(この文献では複数の変異型が作成されている)。また文献(2)には、アミノ酸配列の525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに変異することによって、本来のリガンドであるエストラジオールには反応せず、4-ヒドロキシタモキシフェンにのみ反応することが報告されている。文献(3)及び(4)にも変異型エストロゲンレセプターのタモキシフェン結合部位を融合タンパク質として用いることが開示されており、当業者であればこれらの文献を適宜参照することにより、部位特異的組換え酵素遺伝子構築物を作成することができる。なお本発明の実施例で用いているものは、変異型エストロゲンレセプターのタモキシフェン結合部位(配列番号:40、41(図25))を融合したCreリコンビナーゼ(例えば配列番号:51(図27))である。本発明の実施例で用いている変異型エストロゲンレセプターは、文献(4)(例えばFigure 1)で報告されているものである。
(1)Fawell et al. Characterization and colocalization of steroid binding and dimerization activities in the mouse estrogen receptor. Cell (1990) vol. 60 (6) pp. 953-62
(2)Danielian et al. Identification of residues in the estrogen receptor that confer differential sensitivity to estrogen and hydroxytamoxifen. Mol Endocrinol (1993) vol. 7 (2) pp. 232-40
(3)Littlewood et al. A modified oestrogen receptor ligand-binding domain as an improved switch for the regulation of heterologous proteins. Nucleic Acids Res (1995) vol. 23 (10) pp. 1686
(4)Zhang et al. Inducible site-directed recombination in mouse embryonic stem cells. Nucleic Acids Res (1996) vol. 24 (4) pp. 543-8
【0085】
本発明の部位特異的組換え酵素遺伝子構築物として以下の構造を有する構築物(上記文献(4)のFigure 1に記載の構築物に相当する構築物)が挙げられるがこれらに限定されない。
以下(1)及び(2)のDNAを含む構築物であって、(1)のDNAと(2)のDNAが機能的に結合したDNAを有する構築物(上記文献(4)のFigure 1aにおいてpANCreMerとして記載の構築物);
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)以下(i)及び(ii)がインフレームで結合したDNA、
(i)その開始コドン直後に核移行シグナルをコードするDNA断片を含む部位特異的組換え酵素をコードするDNA及び
(ii)エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドをコードするDNA。
以下(1)及び(2)のDNAを含む構築物であって、(1)のDNAと(2)のDNAが機能的に結合したDNAを有する構築物(上記文献(4)のFigure 1bにおいてpANMerCreMerとして記載の構築物);
(1)抗体産生細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)以下(i)及び(ii)がベクターDNA鎖の5’側から3’側に向かって(ii)、(i)、(ii)の順番にインフレームで結合したDNA、
(i)その開始コドン直後に核移行シグナルをコードするDNA断片を含む部位特異的組換え酵素をコードするDNA及び
(ii)エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドをコードするDNA。
部位特異的組換え酵素をコードするDNAはその3’末端にポリA付加配列を含むことが好ましい。
【0086】
作製した部位特異的組換え酵素遺伝子構築物を当業者に周知の方法で抗体産生細胞に導入することにより、部位特異的組換え酵素遺伝子構築物を含む細胞を取得することが出来る。導入された部位特異的組換え酵素遺伝子構築物はゲノムに組み込まれることが好ましい。
【0087】
部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されないことを特徴とする。
本発明において「細胞外刺激の存在下において活性化され」とは、該刺激によって、部位特異的組換え酵素が活性型の状態で核内に移行する形で発現すること、または発現していた部位特異的組換え酵素が核内に移行することを意味する。すなわち、細胞内で部位特異的組換え酵素がゲノム中の部位特異的組換え酵素認識配列に作用して該配列を特異的に切断し得る状態になることをいう。したがって、該刺激に応答して部位特異的組換え酵素をコードするDNAの発現または部位特異的組換え酵素の活性化が起こるような形態であれば、どのような形態であってもよい。当業者であれば種々の刺激によるかかる発現または活性化の制御システムを想到し得、その中から適切なものを選択することが可能である。例えば、部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドとの融合タンパク質として発現し得るような形で、エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むポリペプチドをコードする遺伝子と部位特異的組換え酵素のcDNAとをインフレームで連結したDNA構築物が挙げられる(詳細には、JP 2006-109711の実施例を参照されたい)。この場合、細胞外刺激を細胞に与えると、部位特異的組換え酵素の活性化が誘導される。したがって、該刺激を作用させたときにのみ、部位特異的組換え酵素が活性化され(ここで、上記融合タンパク質が核内に移行して、部位特異的組換え酵素が部位特異的組換え酵素認識配列に作用し得ることを指す)、AID遺伝子を含む部位特異的組換え酵素認識配列に挟まれた領域が反転する。それと同時に互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNAが除去される。
【0088】
細胞外刺激としては、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインへの刺激が挙げられるがこれに限定されない。「エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインへの刺激」としては、エストロゲン(例えばエストラジオールなど)またはその誘導体(例えばエストロゲンのアンタゴにストである4-ヒドロキシタモキシフェン)による刺激が挙げられるがこれに限定されない。
【0089】
本発明の抗体産生細胞は、以下(a)及び(b)の特徴を有してもよい。
(a)抗体産生細胞由来のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている。
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
【0090】
AID遺伝子による、抗体産生細胞由来のタンパク質をコードするDNAの変異は、主として遺伝子変換という機構により行われる。一塩基の置換による点突然変異も起こるが低頻度である。一方、遺伝子変換型変異が優勢であるDT40細胞において、変異様式を遺伝子変換型から点突然変異型に転換させる方法に関する報告があり、XRCC3(X-ray repair complementing defective repair in Chinese hamster cells 3)遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみを不活性化させることによって、細胞に点突然変異型の変異を起こすことが可能なことが知られている(JP 2009-60850)。本発明はこのような、XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化した抗体産生細胞も含む。
【0091】
XRCC3は染色体の安定性維持とDNA損傷の修復に関与する遺伝子であり、細胞の相同組換えに関与する。ニワトリXRCC3遺伝子は、8個のエキソンを有する。ニワトリXRCC3遺伝子の塩基配列を配列番号:39に示す。配列番号:39中、8個のエキソンの位置は以下のとおりである。エキソン1: 1-215、エキソン2: 216-284、エキソン3: 285-422、エキソン4: 423-635、エキソン5: 636-790、エキソン6: 791-1003、エキソン7: 1004-1050、エキソン8: 1051-1935。
【0092】
本発明の抗体産生細胞は、細胞の相同染色体のそれぞれに存在する2つのXRCC3対立遺伝子のうち、片方のみが不活性化されていてもよい。ここで、遺伝子の不活性化とは上述の通りである。遺伝子の不活性化した細胞は、例えば上述したようなターゲッティングベクターによる相同組換えなど、当業者に公知の方法によって行うことが出来る。
【0093】
本発明においては、ニワトリXRCC3遺伝子の8個のエキソンのうち、いずれのエキソンを分断してもよい。また、複数のエキソンを分断してもよい。好ましくは第6エキソンを分断する。
【0094】
本発明の方法に用いる抗体産生細胞として、B細胞、ヒトバーキットリンパ腫細胞株(Ramos、BL2など)、マウスプレB細胞株18-81、マウス未熟B細胞株WEHI-231などが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、ニワトリ由来のB細胞、例えばニワトリ抗体産生細胞由来のDT40細胞株、DT40-SW細胞株が挙げられる。
【0095】
また本発明は、以下の工程を含むポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法に関する。
(a)本明細書に記載の抗体産生細胞の製造方法を用いて、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを単離する工程。
DNAの単離は当業者に周知の方法によって行うことが出来る。
本発明のポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞は、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞表面に提示する抗体産生細胞、及び、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞外に分泌する抗体産生細胞、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドが細胞質に存在する抗体産生細胞を含む。
【0096】
また本発明は、以下の工程を含むポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法に関する。
(a)本明細書に記載の抗体産生細胞の製造方法を用いて、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞又は該細胞の分泌物からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを単離する工程。
抗体産生細胞がポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞表面に提示する場合、膜画分を可溶化処理、アフィニティークロマトグラフィー処理することによってポリペプチドを単離することが出来る。
また抗体産生細胞がポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを細胞外に分泌する場合、培養上清を濃縮後、アフィニティークロマトグラフィーによってポリペプチドを単離することが出来る。
また抗体産生細胞がポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドが細胞質に存在する場合、無細胞抽出液を作製後、アフィニティークロマトグラフィーなどの操作によって精製することによってポリペプチドを単離することが出来る。
【0097】
また本発明は、以下の工程を含むポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法に関する。
(a)上記ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法によって、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを製造する工程、及び
(b)工程(a)で製造されたDNAがコードするポリペプチドを取得する工程。
所望のポリペプチドをコードするDNAが得られれば、当業者であれば周知の方法によって当該DNAからポリペプチドを取得することが出来る。例えば、当該DNAが挿入された遺伝子発現ベクターを細胞に導入し、当該細胞で発現するポリペプチドを回収する方法などが挙げられるがこれに限定されない。
【0098】
また本発明は、抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下のDNA構築物と相同的に組換えられた抗体産生細胞を提供する。
該DNA構築物は、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を有するDNA構築物。
本発明の細胞が有するDNA構築物については上述の通りである。
【0099】
本発明の細胞は、本明細書に記載の全ての特徴を有する細胞であることが出来る。そのような細胞として以下の細胞が挙げられるがこれに限定されない。
・抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下のDNA構築物(a)と相同的に組換えられた抗体産生細胞であって、以下(a)から(c)、または(a)から(d)に記載のDNA構築物を含む細胞であって、内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞;
該DNA構築物は、
(a)(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
を含むDNA構築物、
(b)該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA、
を含むDNA構築物、
(c)該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物であって、該部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されないDNA構築物、
(d)2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化されているXRCC3遺伝子を含むDNA構築物、
上記(c)のDNA構築物は、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び部位特異的組換え酵素と、エストロゲンレセプターまたはそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを含むDNA構築物
と表現することも出来る。
このような細胞は上述の方法によって作成することが出来る。
上記(a)から(c)のDNA構築物を有する細胞としては、DT40-SW細胞などが挙げられるがこれに制限されない。
【0100】
また本発明は、本明細書に記載の細胞を含むキットに関する。当該キットは、例えば、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入する際に用いることが出来る。また、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造するために用いることが出来る。
本発明のキットには、本明細書に記載の細胞に加え、本明細書に記載の遺伝子ターゲッティングベクターを含むことが出来る。
【0101】
また本発明は本明細書に記載のターゲティングベクターを提供する。また本発明は、本発明のターゲッティングベクターを含む細胞を提供する。本発明の細胞は、例えば変異が導入されたポリペプチドを産生する細胞の製造に用いることが出来る。細胞としては後述のものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0102】
また本発明は、本発明のターゲッティングベクターを含むキットを提供する。本発明キットは、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と以下のDNA構築物を相同的に組換えるために使用することが出来る。
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
を含むDNA構築物。
本発明のキットは本明細書に記載の抗体産生細胞を含むことが出来る。
【0103】
また本発明は、配列番号:7に記載の塩基配列を含むDNAを提供する。このようなDNAは、本発明の遺伝子ターゲッティングベクターの構築に用いるための材料として有用である。このようなDNAは、ニワトリ由来の抗体産生細胞より、例えば実施例に記載の方法により取得することが出来る。
【0104】
本発明で新たに特定した配列は、配列番号:7に記載の塩基配列における1-3120番目、3882-7891番目の塩基である。
【0105】
また本発明は、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)等で大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールにより判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script等が挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7等が挙げられる本発明のDNAによってコードするポリペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blue等の大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーター等を持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET等が挙げられる。
【0106】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0107】
大腸菌以外にも、例えば本発明のDNAを発現するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8 )、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)等が挙げられる。
【0108】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーター等を持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418等)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13等が挙げられる。
【0109】
本発明のDNAの細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えば電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)などにより実施することができる。
【0110】
また本発明は、本発明のDNA又はベクターが導入された細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明のポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系は、in vitroおよびin vivo の産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0111】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS 、3T3、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney )、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358-340 )、あるいは昆虫細胞、例えば、sf9 、sf21、Tn5が知られている。CHO 細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO 細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220 )やCHO K-1 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0112】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum )由来の細胞がポリペプチド生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces )属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae )、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus )属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger )が知られている。
【0113】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli )、例えば、JM109、DH5α、HB101 等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照により本明細書中に組み入れられる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明者らや他のグループでDT40やRamos細胞の抗体遺伝子座に目的遺伝子が組み込まれることにより、変異が導入されうることが示された(Wang, L., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 16745-16749 (2004); Kanayama, N., et al. Nucleic Acids Res. 34, e10 (2006); Arakawa, H., et al. Nucleic Acids Res. 36, e1 (2008))。本発明者らはこれらの事実より、以下のような特徴を備えるDT40への外来抗体遺伝子導入系を構築すれば、外来の抗体をDT40の抗体作製系で効率よく親和性成熟できると考えた。
(1)導入した抗体遺伝子に変異が導入される。
(2)導入した抗体遺伝子が細胞表面に提示発現される。
(3)導入した抗体遺伝子が培地上清に分泌発現される。
【0115】
一方、抗体遺伝子座は、プロモーター下流に小胞体へのターゲッティングに必要なシグナルを含むリーダーペプチドをコードするエキソン、可変部をコードするエキソン、および定常部をコードするエキソンから構成される(図1)。重鎖の場合は、定常部は複数のエキソンから構成され、抗体が分泌型あるいは膜結合型として発現されるかは使用するエキソンの違いによって決定される。したがって、上記のような特徴を備えた系を構築するためには、ニワトリ抗体遺伝子座の可変部エキソンを外来抗体遺伝子の可変部と置換することが、最も効率的な方法であるとの着想に至った(図1A)。本発明者らは、重鎖、軽鎖両遺伝子において可変部を外来抗体由来のものに置換することによって、可変部が外来抗体由来、定常部がニワトリ由来のキメラ抗体を発現するDT40を作製することができると考えた(図2)。
【0116】
キメラ抗体を発現するDT40を作製するためには、(1)ニワトリ抗体遺伝子の単離と構造解析、(2)ニワトリ抗体遺伝子座の可変部エキソンを置換するターゲッティングベクターの構築が必要である。ゲノム解析の進展により、軽鎖抗体遺伝子領域は塩基配列が明らかになっていたが、重鎖については部分的な情報しか無かった。そこで本発明者らは、抗体重鎖の未知領域を単離し、その配列を明らかにした。明らかにした情報を元に抗体可変部遺伝子の置換のための様々なターゲッティングベクターを作製し、DT40-SW細胞への導入を検討した。しかしながら、通常の遺伝子ノックアウトに比べて目的の遺伝子改変が起こった細胞を取得する効率が悪いことが判明した。そこで本発明者らは、有効な解決策を見いだし、本発明の方法でのみ効率よくキメラ抗体を産生する細胞を樹立できることを見出した。さらに、作製した細胞の変異機能によって外来抗体遺伝子への変異導入を試みたところ、野生型DT40-SWが内因性の抗体遺伝子に変異導入する場合と同等の効率で変異導入することに成功した。
以下に本発明の実施例をより詳細に示す。
【0117】
1)ニワトリ重鎖抗体遺伝子のクローニングと解析
可変部遺伝子へのターゲティングベクターを構築するには、可変部遺伝子の上流および下流の遺伝子断片が必要である。ニワトリ重鎖抗体遺伝子の解析は、ある程度行われてきたが(Reynaud, C-A., et al. Cell 59, 171-183 (1989); Kitao, H., Immunol. Lett. 52, 99-104 (1996); Kitao, H. et al., Int. Immunol. 12, 959-968 (2000))、可変部遺伝子周辺の情報は、ほとんど明らかにされていない。抗体重鎖遺伝子が非常に不安定であると考えられるが(Reynaud, C-A., et al. Cell 59, 171-183 (1989))、その原因は明らかになっていない。今回、DT40より作製されたゲノムDNAライブラリー(京都大学、武田俊一先生より供与)から、ニワトリ抗体重鎖可変部遺伝子を単離した。
【0118】
プローブの作製のため、抗体重鎖可変部遺伝子の上流域を、DNA walking法を用いて単離した。PCR反応は、KOD-plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、25 μl の反応液中で行った。1st PCRでは、アンチセンスプライマーとしてJH下流域のプライマー(cJH1R1: 5’-GGGGTACCCGGAGGAGACGATGACTTCGG-3’)(配列番号:1)、センスプライマーとして各種配列を用いた。PCR反応は、DT40のゲノムDNAを鋳型として [94℃ 15sec, 68℃ (-0.7℃/サイクル) 30sec, 68℃ 4min]15サイクル+[94℃ 15sec, 57℃ 30sec, 68℃ 4min]15サイクルで行った。2nd PCRは、テンプレートに1st PCR反応液5μl、アンチセンスプライマーは(cJH-R: 5’-CTTCGGTCCCGTGGCCCCATGCGTCGAT -3’)(配列番号:2)、センスプライマーは1st PCRと同一のものを用い、[94℃ 15sec, 62℃ 30sec, 68℃ 4min]30サイクルで行った。センスプライマーとして(TdT-2: 5’-GGTTCAATGTAGTCCAGTCC -3’)(配列番号:3)を用いた時に、約1kbpのPCR産物を得たので、pCR-Bluntベクター(Invitrogen社)にクローニングして配列を解析したところ、ニワトリ抗体重鎖VDJ遺伝子の配列を含んでおり、さらに、可変部遺伝子の上流域として知られている配列(M30319; Reynaud, C-A., et al. Cell 59, 171-183 (1989))およびさらに上流域の配列464bpを含んでいた(図19)(配列番号:4)。抗体重鎖可変部周辺域の遺伝子をクローニングするため、この遺伝子断片を鋳型とし、センスプライマー(CHCupF-Xba: 5’- GTGGCCATTCTAGAATTAATTGCACC-3’)(配列番号:5)、アンチセンスプライマー(CHCupR-Bam: 5’- GGAGGGATCCGGCTTCGTTAGC-3’)(配列番号:6)を用いて、PCR DIG Probe Synthesis Kit (Roche社)によってDIG標識プローブを作製した。
20kbp程度に切断されたDT40ゲノムDNAが組み込まれたλDASH IIファージライブラリーから、上記プローブを用いてRoche社の標準的なプロトコールにしたがってスクリーニングを行った。20万pfuのファージライブラリーから2つの陽性クローンを得られ、そのうちの一方から約20kbpのNotI断片をpBluescript II SKにサブクローニングした。さらに、このサブクローンから得た重鎖可変部遺伝子およびその上流約3.5kbp、下流約4.0kbpの計約8kbpを含むXbaI-NotI断片について、制限酵素地図を作製し(図3)、配列解析を行った。その結果、その断片はニワトリ抗体重鎖遺伝子を7891bp含んでいた(図20)(配列番号:7)。Reynaud, C-Aら(Cell 59, 171-183 (1989))によって報告された配列を含む可変部遺伝子周辺域761bpを除くすべての領域は、これまでに報告のない新規配列であった。この配列を、重鎖可変部遺伝子へのターゲティングベクターの構築に用いた。
【0119】
2)重鎖可変部遺伝子ターゲティングベクターの構築
外来抗体可変部遺伝子を導入するため、シグナルペプチド配列の付近とJH下流のイントロン部分に制限酵素サイトを導入した(図4−6、21、22)。シグナルペプチド配列に導入する制限酵素サイトの異なる2種類のターゲティングベクターを構築した。
【0120】
(VHターゲティングベクター1:図4、5、21)
VHの3番目および4番目のアミノ酸をコードするコドンをPvuIIに変更した(図4A)。この変更により、コードされるアミノ酸がトレオニン-ロイシンからグルタミン-ロイシンに変わっている。また、VHの第一番目のアミノ酸は比較的多くのマウスモノクローナル抗体で使用されているグルタミン酸に変更した。一方、JHの下流側にはSpeIサイトを導入した。PvuIIによる切断は平滑末端を生じることから、挿入する外来抗体可変部遺伝子は、5’末端は平滑末端になるようにデザインし、また、JH3’末端に、スプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’)(配列番号:42)を付加する(図4B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。。これらの工夫により、広い範囲の抗体遺伝子断片を挿入できる。
ニワトリ抗体重鎖遺伝子のXbaI-NotI断片を、あらかじめPvuIIで切断してマルチクローニングサイトを除いたpBluescript II SKベクターにオリゴヌクレオチドリンカーを介して挿入した(図5A)。BamHIサイト付近のセンスプライマー(CHFup1k-Bam: 5’-GTGGGATCCCTAATTAATGTTGGCG-3’)(配列番号:8)およびPvuII、SpeI、SacIIサイトを含むシグナルペプチド配列付近のアンチセンスプライマー(CJH4R-PSS: 5’- TATTCCGCGGACTAGTACGTCAGCTGAACCTCCGCCATCAGCCCTGTGGGGA-3’)(配列番号:9)を用いてニワトリ重鎖抗体遺伝子を鋳型としてPCR断片を作製し、マウス抗体重鎖遺伝子のBamHI-SacII部分と置換した(図5B)。上流のXbaI-BamHI部分および下流のXhoI-NotI部分を段階的に除去した(図5C)。SacIIサイトにリンカー(5’- CAGATCTGGC -3’)(配列番号:43)を使ってBglIIサイトを導入し (図5D)、pLoxBsr (Arakawa, H., et al. BMC Biotechnol. 1, 7 (2001))からloxP配列で挟まれたβアクチンプロモーターDNA、ブラストサイジンS耐性遺伝子およびポリA付加配列を含むDNA断片をBamHIで切り出してBglIIサイトに挿入した(図5E)。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよび薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトであれば別のものを用いても良い。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体重鎖遺伝子の転写方向とは逆向きにブラストサイジンS耐性遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VHターゲティングベクター1の配列は図21(配列番号:10)に示す。
【0121】
(VHターゲティングベクター2:図5, 6, 22)
シグナルペプチド直下に外来抗体可変部遺伝子を挿入できるように、シグナルペプチド末端の塩基配列を改変し、SphIサイトを導入した(図6A)。JH側の構造はVHターゲティングベクター1と同じである。外来抗体遺伝子をベクターに挿入する場合は、構造遺伝子部分の配列を変更することなく5’側にSphIサイトと塩基g(5’-gcatgcg-3’)、3’側にVHターゲティングベクター1の場合と同様にスプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’) (配列番号:42)を付加する(図6B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。
ニワトリ抗体重鎖遺伝子を鋳型として、上流域に対するセンスプライマー(VHupF2: 5’- TTAGAAGGGGACAAATTAATGAGGAAACACGACTTTGG -3’)(配列番号:11)、 SpeIおよびSphIサイトを導入したアンチセンスプライマー(VHupR2: 5’- CGACTAGTCCGCATGCAGCCCTGTGGGGAAGGGCAGAGAGCGCTGAC-3’)(配列番号:12)を用いてPCRにより遺伝子断片を作製し、断片内のSfiIおよびSpeIで切断して、VHターゲティングベクター1のSfiI-SpeI断片と置換した(図5F)。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体重鎖遺伝子の転写方向とは逆向きにブラストサイジンS耐性遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VHターゲティングベクター2の配列は図22(配列番号:13)に示す。
【0122】
3)軽鎖可変部遺伝子ターゲティングベクターの構築
抗体重鎖の場合と同様に、外来抗体可変部遺伝子を導入するため、シグナルペプチド配列の付近とJL下流のイントロン部分に制限酵素サイトを導入した(図7−9、23,24)。シグナルペプチド配列に導入する制限酵素サイトの異なる2種類のターゲティングベクターを構築した。
【0123】
(VLターゲティングベクター1:図7、8、23)
VLの2番目および3番目のアミノ酸をコードするコドンをHpaIに変更した(図7A)。この変更により、コードされるアミノ酸がロイシン-トレオニンからバリン-アスパラギン酸に変わっている。一方、JLの下流側にはVHターゲティングベクターと同様にSpeIサイトを導入した。HpaIによる切断は平滑末端を生じることから、挿入する外来抗体可変部遺伝子は、5’末端は平滑末端になるようにデザインし、また、JL3’末端に、スプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’)(配列番号:42)を付加する(図7B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。これらの工夫により、広い範囲の抗体遺伝子断片を挿入できる。
【0124】
ニワトリ軽鎖遺伝子は、すでにクローニングされており(Reynaud, C.-A., et al., Cell 40, 283-291 (1985))、ゲノム解析により周辺の塩基配列も明らかになっている(International Chicken Genome Sequencing Consortium, Nature 432, 695-716 (2004))(図8A)。したがって、DT40細胞より抽出したゲノムDNAを鋳型として、以下に示すプライマーを用いてPCRによって遺伝子断片を得た。抗体軽鎖可変部遺伝子の5’上流領域を、センスプライマー(IgLU53: 5’-ACGACCCTGGCACCAACAGAGACCTGC-3’) (配列番号:14)、HpaIおよびSpeIを含むアンチセンスプライマー(IgLU32: 5’- ACTAGTTGGTTAACCGCTGCCTGCACCAGGGAACCTGGAG -3’) (配列番号:15)を用いて、3’下流領域を、SpeIおよびBamHIを含むセンスプライマー(IgLD53: 5’- ACTAGTCTCGGATCCTCTTCCCCCATCGTGAAATTGTGAC -3’) (配列番号:16)、アンチセンスプライマー(IgLD34: 5’-AGCGGGTGGAGCCATCGATGACCCAATCCACAGTCA-3') (配列番号:17)を用いて増幅し、pCR-Bluntベクター(Invitrogen社)にクローニングした。5’側断片をSacIとSpeIで切り出し、3’側断片が組み込まれたベクターに挿入した(図8B)。SpeI下流のBamHIサイトに、loxP配列で挟まれたβ-アクチンプロモーターDNA、ブラストサイジンS耐性遺伝子およびポリA付加配列を含むDNA断片(Arakawa, H., et al. BMC Biotechnol. 1, 7 (2001))またはloxP配列で挟まれたβ-アクチンプロモーターDNA、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子およびポリA付加配列を含むDNA断片(Arakawa, H., et al. PLoS Biol., 2 E179 (2004))をBamHIで切り出して挿入した(図8C)。loxPで挟まれたプロモーターDNAおよび薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトであれば別のものを用いても良い。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体軽鎖遺伝子の転写方向と順向きにマーカー遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VLターゲティングベクター1の配列は図23(配列番号:18)に示す。
【0125】
(VLターゲティングベクター2:図8,9, 24)
VHターゲティングベクター2と同様に、シグナルペプチド直下に外来抗体可変部遺伝子を挿入できるように、シグナルペプチド末端の塩基配列を改変し、SphIサイトを導入した(図9A)。JL側の構造はVLターゲティングベクター1と同じである。外来抗体遺伝子をベクターに挿入する場合は、構造遺伝子部分の配列を変更することなく5’側にSphIサイトと塩基a(5’-gcatgca-3’)、3’側にVLターゲティングベクター1の場合と同様にスプライシングドナーコンセンサス配列とSpeIサイト(5’-ggtgagtactagt-3’)(配列番号:42)を付加する(図9B)。AvrII、XbaI、またはNheIによる消化は、SpeI消化と同一の突出末端を生じるので、外来抗体可変部遺伝子にはSpeIの代わりにこれらのサイトを連結しても良い。
DT40ゲノムDNAを鋳型として、VLターゲティングベクター1の場合と同様に、上記の5’域に対するセンスプライマーとSpeIおよびSphIサイトを導入したアンチセンスプライマー(IgLU33: 5’- GAACTAGTGCTGCATGCACCAGGGAACCTGGAGAGGGAG -3’)(配列番号:19)を用いてPCRにより遺伝子断片を作製し、pCR-Bluntベクターにクローニングした。クローニングした断片をSacIおよびSpeIで切断して、VLターゲティングベクター1のSacI-SpeI断片と置換した(図8D)。loxP配列で挟まれたプロモーターDNAおよびマーカー遺伝子を含むDNAコンストラクトの標的遺伝子に対する向きは限定されないが、本実施例では、抗体軽鎖遺伝子の転写方向と順向きにマーカー遺伝子が挿入されたベクターを用いた。VLターゲティングベクター2に配列は図24(配列番号:20)に示す。
【0126】
4)マウスモノクローナル抗体の可変部遺伝子の導入と変異
モデルとして、ハプテン4-hydroxy-3-nitrophenylacetyl (NP)に対するモノクローナル抗体17.2.25由来の可変部遺伝子をベクターによってDT40に再導入した場合の、抗体の発現および変異導入について評価した。
【0127】
(マウス抗体重鎖可変部遺伝子の導入)
抗NPモノクローナル抗体17.2.25の抗体重鎖をノックインしたマウス(Quasi-monoclonalマウス, Cascalho, M., et al., Science 272, 1649- (1996))の脾臓細胞より作製した抗NP IgM抗体産生ハイブリドーマ(Kanayama, N., et al., J. Immunol. 169, 6865-6874 (2002))から、全RNAをTRIzol(Invitrogen社)によって抽出し、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen社)とオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、センスプライマー(VHTF: 5’-GAGGTTCAGCTGCAGCAGTCTGGG-3') (配列番号:21)とSpeIを導入したアンチセンスプライマー(VHT-Spe_S: 5’- ACTAGTACTCACCTGAGGAGACGGTGACT -3’) (配列番号:22)を用いてPCRによって抗NP抗体重鎖可変部(VHT)を増幅し、SpeIで切断したPCR断片を、PvuIIおよびSpeIで切断したVH ターゲティングベクター1に挿入した(図10A)。
抗体遺伝子への自発的変異能力を有するニワトリB細胞株DT40を改変した細胞株DT40-SWを、構築したターゲティングベクターを導入する宿主細胞に用いた。DT40-SWは、以下の特徴を備える。(i)Cre組換え酵素/エストロゲン受容体融合タンパク質遺伝子をCMVプロモーターの制御下に発現させるDNAコンストラクトを導入し、Cre組換え酵素/エストロゲン受容体融合タンパク質を不活性型で構成的に発現する、(ii)内因性のAID遺伝子座の一方の対立遺伝子を破壊し、もう一方の対立遺伝子をCAGプロモーターによって発現され、互いに逆向きの二つのloxP配列で挟まれたAID遺伝子と置換している、(iii) AID遺伝子にはIRESとともにAID遺伝子と同方向にGFP遺伝子およびポリA付加配列、AID遺伝子と逆方向にポリA付加配列およびピューロマイシン耐性遺伝子がこの順に連結され、二つのloxP配列の間に挿入されている、(iv)4-ヒドロキシタモキシフェンを細胞に添加すると、(i)のCreリコンビナーゼが活性化され、(ii)(iii)のloxP配列で挟まれたAID遺伝子を含むDNAコンストラクトが反転し、CAGプロモーターとAID遺伝子が同方向の場合、AID遺伝子が発現され、逆方向だと発現されない、(v) AID遺伝子を発現する細胞はGFP遺伝子を発現する細胞として単離でき、AID遺伝子の発現がOFFの細胞は、ピューロマイシン耐性遺伝子の発現により薬剤耐性により選択できる(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75; 特開2006-109711)。
DT40-SWへのターゲティングベクターの遺伝子導入方法は以下の通りである。15μgのベクターをBamHIで切断して直鎖化し、1×107細胞のDT40-SWと混合して500μlの懸濁液とし、4mmギャップのエレクトロポレーションキュベットに添加して、550V、25μFの条件で電気穿孔を行った。エレクトロポレーション法にはGene Pulser Xcell(バイオラッド社)用いた。電気穿孔後、細胞を10mlの増殖培地(PRMI1640、Invitrogen社;10%ウシ胎児血清、Invitrogen社;1%ニワトリ血清、Sigma社)に懸濁して24時間培養後、10mlの2×選択培地(増殖培地+ブラストサイジンS(科研製薬))を添加し、20μg/mlの濃度のブラストサイジンSとして96穴プレートに分注して10〜14日間培養した。終濃度20μg/mlのブラストサイジンSにより選択されたコロニーが16クローン得られた。コロニーを形成した細胞を、フィコエリスリン標識した抗ニワトリIgMマウスモノクローナル抗体(Southern Biotechnology社)で染色し、FACS Calibur(BD Bioscience社)で解析した。目的どおり、ターゲティングされた細胞は、抗体重鎖を発現できなくなるため、抗ニワトリIgM抗体で染色されない5クローンを選択した。遺伝子レベルでの確認をするために、内因性の抗体重鎖遺伝子のうち、VDJ組換えをしている対立遺伝子を、センスプライマー(cVH1F2: 5’-GGCGGCTCCGTCAGCGCTCTCT-3’) (配列番号:23)およびアンチセンスプライマー(cJH-R: 5’-CTTCGGTCCCGTGGCCCCATGCGTCGAT-3’) (配列番号:2)を用いて、胚型の対立遺伝子をセンスプライマーcVH1F2とアンチセンスプライマー(cVH1 intron-R: 5’-TTCACCGCCTTGGGTTGCAACGGTGG-3’) (配列番号:24)を用いて増幅した(図10B)。その結果、VDJ組換え後の内因性重鎖可変部遺伝子のバンドが消失した3クローンを選択した(図10B)。これらは、目的の遺伝子がVDJ組換えをしている対立遺伝子へターゲティングされていると考えられる。ターゲティングはゲノミックサザンブロット解析によって確認した(図10C)。各クローンからゲノムDNAを単離し、EcoRIで消化後、電気泳動し、ハイボンドNナイロンメンブレン(GEヘルスケア社)に転写後、ゲノムDNAをクローニングしたときに用いたDIG標識した遺伝子断片をプローブとして検出を行った。解析した3クローンのうち、マーカー遺伝子挿入によるバンド長の増加が明瞭なクローンC2,C3を選択した。選択したクローンは、ベクターの設計どおり抗体を産生しないことがフローサイトメトリーにより確認できた(図11A)。目的の外来遺伝子のターゲティングが起こっている細胞を、細胞表面への抗体発現の消失により選別することにより、効率的に遺伝子導入細胞の作製が可能であった。
【0128】
(マウス抗体重鎖可変部の発現)
これらのクローンを、以前に報告したように50nMの4-ヒドロキシタモキシフェンで処理すると(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75 (2005))、細胞表面のIgM抗体の発現が復活した細胞の出現がフローサイトメトリーにより確認され、これらの細胞は薬剤耐性を失っていた(図11B)。それに伴って、サザンブロット解析では、薬剤耐性遺伝子の消失に伴うバンドのシフトが見られた(図10D)。これらの細胞を、VHTのCDR3に特異的な抗イディオタイプ ラットモノクローナル抗体(R2.438, T. Imanishi-Kari博士より供与)で染色した(Kanayama, N., et al. J. Immunol. 169, 6865-6874 (2002))(図11C)。陽性コントロールとして用いたVHTを組み込まれたマウスのB細胞と同レベル染色が認められ、DT40-SWに組み込んだVHT遺伝子が発現していることが確認された。抗体を発現するようにスイッチしたクローンC2, C3を限外希釈し、サブクローニングした細胞を再度、フローサイトメトリーによって細胞表面の抗体発現の解析を行った(図11D)。各クローンからRNAを単離してcDNAを作製し、プライマーを用いたPCRによって増幅した遺伝子断片の配列解析により、可変部遺伝子と定常部遺伝子のスプライシングを確認したところ、設計どおり外来可変部遺伝子3’末端に連結したスプライシングサイトが機能して可変部遺伝子エキソンと定常部遺伝子エキソンが予想通り結合していることが確認された。すなわち、この方法により導入した外来抗体重鎖可変部遺伝子が正常に転写、翻訳され、ニワトリ抗体重鎖定常部とのキメラ抗体として発現可能であることが示された。表面抗体の発現が確認されたが、野生型と比べてやや発現量の低下が認められた。これは、軽鎖がニワトリ抗体であるために、キメラ抗体の発現効率が悪いことが推定され、軽鎖を外来抗体重鎖に対する軽鎖に置換することにより解決すると考えられる。
【0129】
(マウス抗体重鎖可変部への変異導入)
作製したVHT発現細胞におけるVHT遺伝子への変異導入を解析するために、この細胞の変異機構を以前に報告済みの方法によりAID遺伝子の発現をONにした(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75 (2005))。4-ヒドロキシタモキシフェンによって細胞を処理後、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞として単離し、30日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、CVH1F2(5’- GGCGGCTCCGTCAGCGCTCTCT-3’)(配列番号:25)およびCJH1R2(5’-GCCGCAAATGATGGACCGAC-3’)(配列番号:26)プライマーを用いて重鎖可変部領域をPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングして配列解析した。野生型のDT40-SWと同様の頻度(図12A)で、クローンC2およびC3においても変異導入が認められた(図12B,C)。すなわち、この方法によりDT40のニワトリ重鎖可変部遺伝子座に導入された任意の外来抗体可変部遺伝子に変異導入による改変が可能であることが証明された。VH ターゲティングベクター2を用いることによっても、同様の効果が得られる。
【0130】
(マウス抗体軽鎖可変部遺伝子の導入)
上記の抗NP IgM抗体産生ハイブリドーマの全RNAから作製したcDNAを鋳型として、λ1軽鎖可変部遺伝子に対するセンスプライマーmIgVL51(5’-ACTCAGGAATCTGCACTCACCACATCACCT-3’) (配列番号:27),アンチセンスプライマーmIgVL133(5’-GTTCTAGACACTCACCTAGGACAGTCAGTTTGGTTCCT -3’) (配列番号:28)を用いてλ1可変部遺伝子断片を増幅後、XbaIで消化して、VLターゲティングベクター1のHpaI-SpeI部位に挿入した。15μgのベクターを、SacIで消化して直鎖化し、上記で作製したマウスVHTを発現するクローンC2にエレクトロポレーションにより導入した。ブラストサイジンSの選択下で形成したコロニー(45クローン)の細胞表面の抗体の発現を、重鎖の場合と同様にフローサイトメトリーにより確認し、抗体発現を失った細胞を選別し、10クローンの陽性クローンを得た。そのうち5クローンの細胞からゲノムDNAを抽出し、ターゲティングベクターの組み込みを、上流領域をプライマーIgLU-up (5’-TGCCTGGGGTAAGGGTAGTACTCTGTGC-3’) (配列番号:29)とcJL12 (5’-AACGGTAGGGGATCCGAGACTAG-3’) (配列番号:30)、および、下流領域をBSR1 (5’-GAGAAAGGTAGAAGACCCCAAGGACTTTCCTTCAGAATTGC-3’) (配列番号:31)とcCL3 (5’-GCAGAGTCAGCACTAGTTCAGTGTCGTGTT-3’) (配列番号:32)を用いてPCRにより確認した(図13B)。また、VJ組換えをして抗体を産生する対立遺伝子へのターゲティングを、プライマーCVLF6 (5’-CAGGAGCTCGCGGGGCCGTCACTGATTGCCG-3’) (配列番号:33)とCVLR3 (5’-GCGCAAGCTTCCCCAGCCTGCCGCCAAGTCCAAG-3’) (配列番号:34)を用いてPCRにより確認した(図13C)。目的どおりターゲティングされた細胞ではPCR産物の特異的な増幅が見られ(図13B)、かつ、抗体産生対立遺伝子への組み込みによるバンドの消失を基準としてクローンを選別した(図13C)。その結果、すべてのクローンにおいて目的遺伝子が目的位置にターゲティングしていることが分かった。目的細胞のスクリーニングにおいて、細胞表面における抗体発現を指標として用いることが極めて有効であることがここでも示された。
【0131】
(マウス抗体軽鎖可変部遺伝子の発現)
マウスVHTを導入したC2にマウスλ1を導入して作製した細胞のうち、クローンB4を以降の実験に用いた。これらの細胞を重鎖の場合と同様に4-ヒドロキシタモキシフェンで処理すると、細胞表面のニワトリIgM抗体の発現が復活した細胞の出現がフローサイトメトリーで確認され、これらの細胞は薬剤耐性を失っていた(図14)。また、抗体発現するようにスイッチしたB4を限外希釈し、これらの細胞におけるマウスλ1鎖可変部の発現を、フローサイトメトリーにより確認した。マウスλ鎖可変部への結合が期待されるビオチン化ラットモノクローナル抗体(抗Igλ1,λ2,&λ3軽鎖、クローンR26-46; BD Bioscience社)により細胞を処理し、フィコエリスリン標識されたストレプトアビジンにより可視化すると、マウスλ鎖可変部の発現が確認された(図15)。VHTの発現も、抗イディオタイプ抗体により検出されることから、導入したマウス抗体重鎖および軽鎖が会合して細胞表面に発現していると考えられる。各クローンからRNAを単離してcDNAを作製し、PCRによる増幅と、増幅した遺伝子断片の配列解析により、導入可変部遺伝子と定常部遺伝子のスプライシングを確認した。プライマーmIgVL51とcCL3によりキメラ軽鎖遺伝子mRNA、cVL1とcCL3により内因性IgL遺伝子のmRNAの生成を確認したところ、クローンB4ではキメラ軽鎖cDNAのみが増幅され、設計どおり外来可変部遺伝子3’末端に連結したスプライシングサイトが機能して可変部遺伝子エキソンと定常部遺伝子エキソンが結合していることが確認された(図16)。actin3 (5’-CTGACTGACCGCGTTACTCCCACAGCCAGC-3’) (配列番号:35)とactin4 (5’-TTCATGAGGTAGTCCGTCAGGTCACGGCCA-3’) (配列番号:36)によるβ-アクチン遺伝子の増幅は、内部標準に用いた。スプライシングの結合部分は正確にスプライシングされていることは、配列解析により明らかにした。マウスVHT/λ1を導入したクローンB4の培養上清に分泌された抗体をELISAによって分析した。ヤギ抗ニワトリIgM抗体(ベッチル社)を96ウェルプレートにコーティングし、HRP標識したヤギ抗ニワトリIgM抗体(ベッチル社)で、培養上清中の抗体産生量をDT40-SWと比較したところ、DT40-SWに匹敵するレベルの抗体産生が見られた(図17A)。また、以前に報告した方法(Kanayama, N., et al., J. Immunol. 169, 6865-6874 (2002))によってNPをウシ血清アルブミンに結合させ、これを抗原として96ウェルプレートをコーティングした。培養上清中の抗体の抗原への結合を、HRP標識したヤギ抗ニワトリIgM抗体によって検出した。HRP標識したヤギ抗マウスIgM抗体(ベクター社)によって検出されたマウス抗NP IgM抗体産生ハイブリドーマの上清を用いた陽性コントロールと同様に、VHT/λ1抗体産生B4クローンの培養上清もNP化抗原に対する結合性を示した(図17B)。一方、DT40-SWが産生する抗体は、NP化抗原には結合しなかったことから、クローンB4はNP特異的抗体を産生していると言える。すなわち、この方法により導入した外来抗体軽鎖可変部遺伝子がニワトリ抗体軽鎖定常部とのキメラ抗体として正常に転写、翻訳されることが示された。さらに、重鎖および軽鎖ともに可変部がマウス由来の外来抗体に置換されたキメラ抗体を、本来の機能を保持した形で発現するDT40細胞の作製に成功した。
【0132】
(マウス抗体軽鎖可変部への変異導入)
マウスVHT/λ1を発現するクローンB4とB7を4-ヒドロキシタモキシフェンによって細胞を処理後、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞としてソートし、30日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、CVLF6(配列番号:37)およびCVLR3(配列番号:38)プライマーを用いて軽鎖可変部領域をPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングして配列解析した。野生型のDT40-SWと同様の頻度で、クローンB4およびB7においても変異導入が認められた(図18)。すなわち、この方法によりDT40のニワトリ軽鎖可変部遺伝子座に導入された任意の外来抗体可変部遺伝子に変異導入による改変が可能であることが証明された。VL ターゲティングベクター2を用いることによっても同様の効果が得られる。
【0133】
5)ニワトリ抗体軽鎖可変部の導入
DT40の抗体軽鎖可変部遺伝子は、一度も変異機能をONにしたことがないDT40-SWの全RNAからcDNAを合成し、このcDNAを鋳型として、センスプライマー(cVL1: 5’- ACTCAGCCGTCCTCGGTGTCAGCAAACCCGGGA -3')(配列番号:48)とSpeIを導入したアンチセンスプライマー(cJL1: 5’- CGAGACTAGTTCAGCGACTCACCTAGGACGGTCAG-3’)(配列番号:49)を用いてニワトリ抗体軽鎖可変部(cVL)をPCRによって増幅し、PCR断片をSpeIで消化して、VL ターゲティングベクター1のHpaI-SpeI部位に挿入した(図28A)。ベクターは、SacIで切断して直鎖化しエレクトロポレーション法によってDT40-SW細胞に導入した。電気穿孔後、終濃度20μg/mlのブラストサイジンSにより選択しコロニーを形成した細胞(54クローン)を、フィコエリスリン標識した抗ニワトリIgMマウスモノクローナル抗体で染色し、FACS Caliburで解析した。ターゲティングされた細胞を得るため、抗体重鎖を発現できなくなったクローンを、抗ニワトリIgM抗体で染色して選別した(3クローン)。遺伝子レベルでの確認をするために、これらの細胞からゲノムDNAを抽出し、ターゲティングベクターの組み込みを、プライマーIgLU-upとcJL12、および、BSR1とcCL3を用いてPCRにより確認した(図28B)。また、VJ組換している対立遺伝子にターゲティングされていることを、プライマーCVLF6とCVLR3を用いてPCRにより確認した(図28C)。その結果、すべてのクローンで目的の遺伝子がターゲティングされていた。
これらの細胞からクローンC2を選び、上記の場合と同様に4-ヒドロキシタモキシフェンで処理すると、細胞表面のニワトリIgM抗体の発現が復活した細胞の出現がフローサイトメトリーで確認された(図29)。また、抗体発現するようにスイッチした細胞から、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞としてソーティングし、30日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、CVLF6およびCVLR3プライマーを用いて軽鎖可変部領域をPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングして配列解析した。野生型のDT40-SWと同様の頻度で、導入したニワトリ抗体軽鎖可変部遺伝子に変異導入が認められた(図30)。すなわち、この方法によりDT40に導入されたニワトリ軽鎖可変部遺伝子は野生型遺伝子と同等の頻度で変異が導入されることが示された。
【0134】
産業上の利用可能性
本発明のDNAにより、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列をコードするDNAを導入するためのターゲッティングベクターが提供される。
本発明により、抗体産生細胞の抗体可変部の遺伝子座に所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAを導入することにより、特定条件下で所望のポリペプチドを産生することが出来る。
また抗体産生細胞の変異導入能力を利用して、変異が導入されたポリペプチドを産生することが出来る。
本発明は、ポリペプチドの機能改変に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
【請求項2】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下(a)及び(b)の工程を含む細胞を選択する方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程。
【請求項4】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
以下(a)から(c)の工程を含む、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
【請求項6】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、請求項5に記載の方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
【請求項8】
産生されるポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、請求項5から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、請求項4、6、7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、請求項4、6、7、9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
以下(a)から(c)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
【請求項12】
(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、請求項11に記載の方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
【請求項13】
以下(a)から(e)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程、
(d)AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【請求項14】
(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、請求項13に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【請求項15】
(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、請求項13に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物、及び、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物
を含む細胞であり、該部位特異的組換え酵素が、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下において活性化されない細胞に、
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【請求項16】
産生される変異が導入されたポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、請求項11から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程(b)の細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、請求項11から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
工程(b)の細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、請求項11から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質であって、
細胞外刺激が、該エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインであって、
エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドが、4−ヒドロキシタモキシフェンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、請求項11から20のいずれかに記載の方法;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
【請求項22】
XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
抗体産生細胞がB細胞である、請求項11から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
B細胞がニワトリ由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、請求項2、4、6、7、9、10、12、14及び15のいずれかに記載の方法;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、又は
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
【請求項26】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法;
(a)請求項5、6、7、8、11から24のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを単離する工程。
【請求項30】
以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)請求項5、6、7、8、11から24のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞又は該細胞の分泌物からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを単離する工程。
【請求項31】
以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)請求項29に記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを製造する工程、及び
(b)工程(a)で製造されたDNAがコードするポリペプチドを取得する工程。
【請求項32】
抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物と相同的に組換えられた抗体産生細胞;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
【請求項33】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
抗体産生細胞がAID遺伝子を発現している細胞である、請求項32又は33に記載の細胞。
【請求項35】
抗体産生細胞がAID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る細胞である、請求項32又は33に記載の細胞。
【請求項36】
内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む、請求項35に記載の細胞。
【請求項37】
抗体産生細胞が、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物をさらに有し、該部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されない、
請求項36に記載の細胞。
【請求項38】
部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質である、請求項37に記載の細胞。
【請求項39】
エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインである、請求項38に記載の細胞。
【請求項40】
抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、請求項32から39のいずれかに記載の細胞;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
【請求項41】
XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、請求項40に記載の細胞。
【請求項42】
抗体産生細胞がB細胞である、請求項32から41のいずれかに記載の細胞。
【請求項43】
B細胞がニワトリ由来である、請求項42に記載の細胞。
【請求項44】
部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、請求項33、36から38のいずれかに記載の細胞;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、又は
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
【請求項45】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項32から44のいずれかに記載の細胞。
【請求項46】
所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、請求項45に記載の細胞。
【請求項47】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、請求項32から44のいずれかに記載の細胞。
【請求項48】
請求項32から47のいずれかに記載の細胞を含むキット。
【請求項49】
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)クローニングサイトを含むDNA、
(3)DNA構築物から除去され得るDNAであって、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNA。
【請求項50】
(3)に記載のDNAが、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAであり、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNAである、請求項49に記載のベクター。
【請求項51】
クローニングサイトに所望のアミノ酸配列をコードするDNAが挿入された、請求項49又は50に記載のベクター
【請求項52】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項49から51のいずれかに記載のベクター。
【請求項53】
所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、請求項52に記載のベクター。
【請求項54】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、請求項49から51のいずれかに記載のベクター。
【請求項55】
請求項49から54のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含む細胞。
【請求項56】
請求項49から54のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含むキット。
【請求項57】
配列番号:7に記載の塩基配列を含むDNA。
【請求項58】
請求項57に記載のDNAを含むベクター。
【請求項59】
請求項57に記載のDNA又は請求項58に記載のベクターを含む細胞。
【請求項1】
抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入する工程を含む、該抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える方法;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
【請求項2】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下(a)及び(b)の工程を含む細胞を選択する方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程。
【請求項4】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
以下(a)から(c)の工程を含む、ポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、及び
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
【請求項6】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、請求項5に記載の方法;
(a)抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
【請求項8】
産生されるポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、請求項5から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、請求項4、6、7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、請求項4、6、7、9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
以下(a)から(c)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程。
【請求項12】
(a)から(c)の工程がそれぞれ以下(a)から(c)の工程である、請求項11に記載の方法;
(a)AID遺伝子を発現している抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、及び
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程。
【請求項13】
以下(a)から(e)の工程を含む、変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞の製造方法;
(a)AID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る抗体産生細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノムDNAから(3)のDNAを除去する工程、
(d)AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【請求項14】
(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、請求項13に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む細胞に、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させることで、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【請求項15】
(a)から(e)の工程がそれぞれ以下(a)から(e)の工程である、請求項13に記載の方法;
(a)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されている抗体産生細胞であって、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物、及び、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物
を含む細胞であり、該部位特異的組換え酵素が、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下において活性化されない細胞に、
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含むターゲッティングベクターを導入し、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換える工程、
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNA、
(b)抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物が相同的に組換えられた細胞を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを該細胞のゲノムDNAから除去する工程、
(d)工程(b)で選択された細胞への細胞外刺激により部位特異的組換え酵素活性を活性化させることで、該細胞のゲノム上の部位特異的組換え酵素認識配列に部位特異的組換え酵素を作用させ、互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAを反転させ、AID遺伝子の発現の有無を制御する工程、及び
(e)AID遺伝子を発現する細胞を選択する工程。
【請求項16】
産生される変異が導入されたポリペプチドが、該細胞の表面に提示される、及び/又は、該細胞の細胞外に分泌される、請求項11から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程(b)の細胞の選択がマーカー遺伝子の発現を指標として行われる、請求項11から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
工程(b)の細胞の選択が抗体産生細胞の内因性抗体の非発現を指標として行われる、請求項11から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質であって、
細胞外刺激が、該エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
エストロゲンレセプター、又はそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインであって、
エストロゲン結合ドメインに結合し得るリガンドが、4−ヒドロキシタモキシフェンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、請求項11から20のいずれかに記載の方法;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
【請求項22】
XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
抗体産生細胞がB細胞である、請求項11から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
B細胞がニワトリ由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、請求項2、4、6、7、9、10、12、14及び15のいずれかに記載の方法;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、又は
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
【請求項26】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAの製造方法;
(a)請求項5、6、7、8、11から24のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを単離する工程。
【請求項30】
以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)請求項5、6、7、8、11から24のいずれかに記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを産生する抗体産生細胞を製造する工程、及び
(b)工程(a)の抗体産生細胞又は該細胞の分泌物からポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドを単離する工程。
【請求項31】
以下の工程を含む、ポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドの製造方法;
(a)請求項29に記載の方法によってポリペプチド又は変異が導入されたポリペプチドをコードするDNAを製造する工程、及び
(b)工程(a)で製造されたDNAがコードするポリペプチドを取得する工程。
【請求項32】
抗体可変部をコードするDNAを含む領域が、以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物と相同的に組換えられた抗体産生細胞;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)所望のアミノ酸配列をコードするDNA、
(3)該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、DNA構築物から除去され得るDNA。
【請求項33】
(3)に記載のDNAが、該所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含み、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAである、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
抗体産生細胞がAID遺伝子を発現している細胞である、請求項32又は33に記載の細胞。
【請求項35】
抗体産生細胞がAID遺伝子の発現の有無が人為的に制御され得る細胞である、請求項32又は33に記載の細胞。
【請求項36】
内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、
該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、
互いに逆方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであって、部位特異的組換え酵素によって反転され得るDNAであり、外因性のAID遺伝子を含むDNA
を含むDNA構築物を含む、請求項35に記載の細胞。
【請求項37】
抗体産生細胞が、該細胞で機能するプロモーターDNA、及び、部位特異的組換え酵素をコードするDNAを含むDNA構築物をさらに有し、該部位特異的組換え酵素は、細胞外刺激の存在下において活性化され、かつ細胞外刺激の非存在下においては活性化されない、
請求項36に記載の細胞。
【請求項38】
部位特異的組換え酵素が、エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインを含むタンパク質と部位特異的組換え酵素との融合タンパク質である、請求項37に記載の細胞。
【請求項39】
エストロゲンレセプター、またはそのエストロゲン結合ドメインが、525番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型マウスエストロゲンレセプター、またはその変異型マウスエストロゲン結合ドメインである、請求項38に記載の細胞。
【請求項40】
抗体産生細胞が以下(a)及び(b)の特徴を有する、請求項32から39のいずれかに記載の細胞;
(a)抗体産生細胞のXRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方のみが不活性化されている、及び
(b)点突然変異導入の頻度が両方のXRCC3遺伝子を有する細胞に比べ上昇している。
【請求項41】
XRCC3遺伝子の2つの対立遺伝子の片方の第6エキソンが不活性化された、請求項40に記載の細胞。
【請求項42】
抗体産生細胞がB細胞である、請求項32から41のいずれかに記載の細胞。
【請求項43】
B細胞がニワトリ由来である、請求項42に記載の細胞。
【請求項44】
部位特異的組換え酵素と部位特異的組換え酵素認識配列の組み合わせが以下(i)又は(ii)である、請求項33、36から38のいずれかに記載の細胞;
(i)部位特異的組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がloxP配列である、又は
(ii)部位特異的組換え酵素がFLPリコンビナーゼであり、部位特異的組換え酵素認識配列がFRT配列である。
【請求項45】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項32から44のいずれかに記載の細胞。
【請求項46】
所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、請求項45に記載の細胞。
【請求項47】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、請求項32から44のいずれかに記載の細胞。
【請求項48】
請求項32から47のいずれかに記載の細胞を含むキット。
【請求項49】
以下(1)から(3)に記載のDNAを含むDNA構築物を含む遺伝子ターゲッティングベクターであって、抗体産生細胞の抗体可変部をコードするDNAを含む領域と該DNA構築物を相同的に組換えるために用いられる遺伝子ターゲッティングベクター;
(1)該細胞で機能するプロモーターDNA、
(2)クローニングサイトを含むDNA、
(3)DNA構築物から除去され得るDNAであって、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNA。
【請求項50】
(3)に記載のDNAが、部位特異的組換え酵素によってDNA構築物から除去され得るDNAであり、(2)のDNAに挿入されるDNAがコードする所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドの産生を阻害するDNAであって、互いに同じ方向の2つの部位特異的組換え酵素認識配列で挟まれたDNAであり、該細胞で機能するプロモーターDNAとマーカー遺伝子を含むDNAである、請求項49に記載のベクター。
【請求項51】
クローニングサイトに所望のアミノ酸配列をコードするDNAが挿入された、請求項49又は50に記載のベクター
【請求項52】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、所望のアミノ酸配列及び抗体定常部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項49から51のいずれかに記載のベクター。
【請求項53】
所望のアミノ酸配列が抗体可変部のアミノ酸配列である、請求項52に記載のベクター。
【請求項54】
所望のアミノ酸配列を含むポリペプチドが抗体重鎖又は軽鎖である、請求項49から51のいずれかに記載のベクター。
【請求項55】
請求項49から54のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含む細胞。
【請求項56】
請求項49から54のいずれかに記載のターゲッティングベクターを含むキット。
【請求項57】
配列番号:7に記載の塩基配列を含むDNA。
【請求項58】
請求項57に記載のDNAを含むベクター。
【請求項59】
請求項57に記載のDNA又は請求項58に記載のベクターを含む細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図12B】
【図12C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
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【図22】
【図23】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図12B】
【図12C】
【公表番号】特表2013−511258(P2013−511258A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523755(P2012−523755)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/JP2010/006759
【国際公開番号】WO2011/061937
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(509320771)株式会社免疫工学研究所 (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/JP2010/006759
【国際公開番号】WO2011/061937
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(509320771)株式会社免疫工学研究所 (1)
【Fターム(参考)】
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