説明

手動式放射性液体投与装置の補助器具

【課題】PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを立てた状態で机の上等に置くことで、シリンジシールドにおける種々の扱いを極めて容易に行い、医療従業者の被曝量を低く抑えることのできる手動式放射性液体投与装置の補助器具を提供する。
【解決手段】本発明は、針を付けたままの状態のPET薬剤用シリンジを、シリンジシールドにセットしたまま立て掛けておく補助器具であって、シリンジシールドの一部を嵌め入れるために補助器具の一端に形成された嵌合凹部と、シリンジシールドにセットされているPET薬剤用シリンジの針部分を挿入するために該嵌合凹部の中央に形成された円形挿入部と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放射断層撮影法(以下PETと称す)に使用されるアイソトープ標識された、例えば、18F−FDG(2−デオキシ−2−フルオロ−D−グルコース)等の液状PET薬剤の体内投与により、診断や検査を行う際に使用される、手動式放射性液体投与装置の補助器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、陽電子を放出するアイソトープで標識された18F−FDG(2−デオキシ−2−フルオロ−D−グルコース)等の液状PET薬剤を体内に投与し、その体内分布を特殊カメラ等で映像化して診断を行うポジトロンCTとも称するPETによる、例えば、ガン等の診断方法が行われている。
【0003】
このPETに使用される18F−FDG(2−デオキシ−2−フルオロ−D−グルコース)は、グルコースの水酸基のひとつを18−Fに置換したもので、薬剤の寿命である半減期は約110分と短く、また、薬剤から放出される陽電子と体内の陰電子との対消滅によって放射されるγ線のエネルギーが高く且つこのエネルギーの透過能力も高いものである。
【0004】
しかも、デリバリー供給により入手できるPET薬剤の放射線量にも限りがあり、被曝量は人体に殆ど影響がないものとして知られている。
【0005】
このようなPET薬剤を被験者に投与(静脈注射)する際には、いかに確実に、また、短時間の内に被験者に投与できるかが重要であり、それが検査のクオリティの向上と医療従業者の被曝の低減につながっている。
【0006】
このため近年におけるPET検査施設においては、医療従業者の被曝を考慮して、PET薬剤の自動投与装置の導入が進められている。
【0007】
しかし、このような自動投与装置は、非常に高額であることに加えて、装置が故障した場合には、必ず手動にて投与を行わなければならないことから、今後も手動投与装置の必要性や需要が依然として存在している。
【0008】
このため、手動投与装置の作業改善が課題とされ、今後も自動投与装置をバックアップするものとして、広く活用される傾向にある。
【0009】
次に、従来の手動式放射性液体投与装置(例えば、UG−150P)による、PET薬剤の投与の手順について説明する。
【0010】
a.手動式放射性液体投与装置とPET薬剤の洗い出し用の生理食塩水用シリンジを用意する。
【0011】
b.放射線量測定装置(キュリーメータ)を準備しておく。
【0012】
c.PET薬剤用シリンジをシリンジシールド(例えば、UG−150W)にセットし、バイアルからPET薬剤を吸引する。
【0013】
d.シリンジシールドにセットしたPET薬剤用シリンジを、放射線量測定装置の手前に置く。
【0014】
e.シリンジシールドのロックを外し、PET薬剤用シリンジをシリンジシールドから取り外す。
【0015】
f.PET薬剤用シリンジに吸引したPET薬剤の放射線量を、放射線量測定装置で測定する。
【0016】
g.測定後、PET薬剤用シリンジに針を付けたまま、これをシリンジシールドに入れる。
【0017】
h.シリンジシールドを片手で押さえながら、ロックを開放した状態でシリンジをいれる。
【0018】
i.シリンジシールドのロックを行い、PET薬剤用シリンジのセットを完了する。
【0019】
j.手動式放射性液体投与装置にシリンジシールドをセットし、三方活栓を介して生理食塩水用シリンジとつなぐ。
【0020】
h.PET薬剤と洗い出し用の生理食塩水を被験者に投与する。このとき、圧力で三方活栓が外れないように、片手でしっかりと押さえておく。
【特許文献1】特になし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上述したPET薬剤の投与の手順において、PET薬剤をバイアルからシリンジに吸引した後の放射線量の測定にかなりの時間を費やしていた。
【0022】
すなわち、PET薬剤用シリンジに針を付け、例えば、タングステン製等の重量1kgもあるシリンジシールドで遮蔽を行い、PET薬剤をバイアルから吸引するのであるが、この吸引の後の放射線量を測定する際に、例えば、机の上に寝かせるように置いているシリンジシールドから、PET薬剤の入ったシリンジを横方向に取り出すのにかなりの時間がかかっていたのである。
【0023】
また、放射線量を測定した後に、机の上に寝かせるように置いているシリンジシールドに、PET薬剤用シリンジを横方向から入れるのも非常に面倒であった。
【0024】
このような弊害は、例えば、シリンジシールドを左手に持ち、右手でPET薬剤用シリンジを持ってシリンジシールドにPET薬剤用シリンジをセットすれば解消できるが、医療従業者の被曝量が増えてしまう。
【0025】
さらに、PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを手に持って運び、シリンジシールドを手動式放射性液体投与装置にセットする際にも、医療従業者が被曝していた。
【0026】
そこで、本発明は、如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを立てた状態で机の上等に置くことで、シリンジシールドにおける種々の扱いを極めて容易に行い、医療従業者の被曝量を低く抑えることのできる手動式放射性液体投与装置の補助器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、針を付けたままの状態のPET薬剤用シリンジを、シリンジシールドにセットしたまま立て掛けておく補助器具であって、シリンジシールドの一部を嵌め入れるために補助器具の一端に形成された嵌合凹部と、シリンジシールドにセットされているPET薬剤用シリンジの針部分を挿入するために該嵌合凹部の中央に形成された円形挿入部と、を備えたことで、上述した課題を解決した。
【0028】
また、補助器具は、所定の場所に安定して載置できるよう、略矩形筒状に形成されていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0029】
さらに、補助器具は、発泡合成樹脂製、もしくは、プラスチック製の素材により形成されていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0030】
また、補助器具の円形挿入部に、挿入された針部分から発生するPET薬剤の放射線を遮蔽するシールド部材を配置していることで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、針を付けたままの状態のPET薬剤用シリンジを、シリンジシールドにセットしたまま立て掛けておく補助器具であって、シリンジシールドの一部を嵌め入れるために補助器具の一端に形成された嵌合凹部と、シリンジシールドにセットされているPET薬剤用シリンジの針部分を挿入するために該嵌合凹部の中央に形成された円形挿入部と、を備えたことから、PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを立てた状態で机の上等に置くことが可能となり、シリンジシールドにおける種々の扱いを極めて容易に行うことができる。
【0032】
すなわち、PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを立てた状態で机の上等に置くため、その状態でシリンジシールドから、針を付けたままの状態のPET薬剤用シリンジを簡単に取り外すことができる。
【0033】
そのため、PET薬剤用シリンジを放射線量測定装置に簡単にセットすることができ、放射線量の測定を迅速に行うことができる。その結果、医療従業者の被曝量を低く抑えることができるのである。
【0034】
また、シリンジシールドを直接手で持つことがなく、補助器具を介してシリンジシールドを持ち運べるため、この点においても医療従業者の被曝量を低く抑えることができる。
【0035】
さらに、シリンジシールドが立っている状態を維持しているので、シリンジシールドにPET薬剤用シリンジに簡単に取り付けることができる。そのため、PET薬剤をバイアルから吸引した後、PET薬剤用シリンジをシリンジシールドに簡単に取り付けることができる。
【0036】
また、放射線量の測定を終えたときも、放射線量測定装置からPET薬剤用シリンジを外し、シリンジシールドに簡単に取り付けることができる。
【0037】
すなわち、従来においては、シリンジシールドが、机の上に寝かせるように置かれていることから、PET薬剤の入ったシリンジを横方向に取りださなければならず、その作業に時間がかかっていた。また、机の上に寝かせるように置いているシリンジシールドに、PET薬剤用シリンジを横方向から入れるのも非常に面倒であった。
【0038】
本発明は、このような弊害を解消するために、PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを、立てた状態で机の上等に置くことを可能としたのである。
【0039】
この他、補助器具は、略矩形筒状に形成されているので、補助器具を所定の場所に安定した状態で載置できる。
【0040】
さらに、補助器具は、発泡合成樹脂製、もしくは、プラスチック製の素材により形成されているので、補助器具の軽量化を図ることができる。
【0041】
また、補助器具の円形挿入部に、シールド部材を配置しているので、挿入された針部分から発生するPET薬剤の放射線を遮蔽することができる。
【0042】
このように、本発明によれば、PET薬剤用シリンジを取り付けているシリンジシールドを立てた状態で机の上等に置くことで、シリンジシールドにおける種々の扱いを極めて容易に行い、医療従業者の被曝量を低く抑えることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0044】
本発明に係る手動式放射性液体投与装置Tの補助器具1は、例えば、発泡合成樹脂製もしくはプラスチック製等の素材を用いて形成されている。また、補助器具1は、図1に示すように、所定の場所に安定して載置しておくことのできるように略矩形筒状に形成されている。
【0045】
この補助器具1は、図3・図4に示すように、針Pを付けたままの状態のPET薬剤用シリンジQを、シリンジシールドS(例えばUG−150W)にセットし、この状態のままシリンジシールドS自体を立て掛けておくことができる。
【0046】
シリンジシールドSは、図7に示すように、手動式放射性液体投与装置Tの台座T2にセットされ、三方活栓Rを介して生理食塩水用シリンジLとつないだ状態で、PET薬剤と生理用食塩水が被験者に投与される。
【0047】
このとき、手動式放射性液体投与装置Tの台座T2に、PET薬剤用シリンジQを装着したシリンジシールドSをセットすることにより、PET薬剤用シリンジQのピストン側は、手動式放射性液体投与装置Tの押圧操作棒T1の先端に配置され、該押圧操作棒T1の押圧操作を介してピストンが押し込まれるものでる。
【0048】
補助器具1は、図1に示すように、その一端に、シリンジシールドSの一部を嵌め入れるための、所定の深さを有する略矩形状の嵌合凹部2が形成されている。
また、この嵌合凹部2の中央には、シリンジシールドSにセットされているPET薬剤用シリンジQの針P部分を挿入するために、有底の円形挿入部3が形成されている。
【0049】
この円形挿入部3には、図2に示すように、挿入された針P部分から発生するPET薬剤の放射線を遮蔽するために、若干先細となっているパイプ状のシールド部材4が挿入されている。
【0050】
また、図3に示すように、シリンジシールドS(例えば、UG−150W)は、PET薬剤用シリンジQのシリンダ部分が嵌め入れられる嵌挿孔S1が形成されている。
【0051】
そして、PET薬剤用シリンジQをセットした際には、図4に示すように、シリンダの一端のフランジ部Fが嵌挿孔S1の開口縁部に係止される。また、開口縁部近傍に配した回転式のロックレバーS2を、フック部S3に係架させることによって、フランジ部Fがロックされるようにしている。この状態で、嵌挿孔S1の反対側から、PET薬剤用シリンジQの針P部分のみが外部に露出するようになっている。
【0052】
従って、補助器具1の嵌合凹部2に、シリンジシールドSの一部が嵌め入れられると、補助器具1の円形挿入部3内に針P部分のみが挿入される。こうして、図4に示すように、針Pを付けたままの状態でPET薬剤用シリンジQをシリンジシールドSごと、所定の場所に立て掛けておくのである。
【0053】
また、バイアルVからPET薬剤を吸引する際には、図5に示すように、PET薬剤用シリンジQをシリンジシールドSにセットしたままの状態で、針PのみをバイアルV内に挿入して吸引する。
【0054】
次に、以上のように構成された本発明の最良の形態について、使用の一例を説明する。
【0055】
先ず、図3・図4に示すように、シリンジシールドSにセットしたPET薬剤用シリンジQに針Pを付けたままの状態で、補助器具1の上にシリンジシールドSを立てた状態で載せる。
【0056】
このとき、補助器具1の嵌合凹部2に、シリンジシールドSの一部が嵌め入れられ、補助器具1の円形挿入部3内に針P部分のみが挿入される。また、シリンジシールドSのロックレバーS2で、PET薬剤用シリンジQのフランジ部Fが固定された状態となっている。
【0057】
この状態で、補助器具1を手に持って所定の場所に移動させる。
【0058】
そして、図5に示すように、補助器具1からシリンジシールドSを取り外し、図5に示すように、バイアルVからPET薬剤を吸引する。
【0059】
PET薬剤の吸引後は、図4に示すように、補助器具1の上にシリンジシールドSを再度載せ、補助器具1を手に持って放射線量測定装置Mに近い位置に移動させる。
【0060】
そして、補助器具1にセットされたままの状態で、シリンジシールドSのロックレバーS2を外し、PET薬剤用シリンジQをシリンジシールドSから取り外す。
【0061】
次に、図6に示すように、PET薬剤用シリンジQを放射線量測定装置Mにセットし、PET薬剤用シリンジQに吸引されているPET薬剤の放射線量を測定する。
【0062】
測定後、PET薬剤用シリンジQに針Pを付けたままの状態で、これを補助器具1にセットされているシリンジシールドSに入れて、ロックレバーS2で固定する。
【0063】
この状態で補助器具1を手に持ち、手動式放射性液体投与装置Tに近い位置に移動させる。
【0064】
次に、補助器具1からシリンジシールドSを取り外し、図7に示すように、手動式放射性液体投与装置Tの台座T2にシリンジシールドSをセットする。このとき、三方活栓Rを介して生理食塩水用シリンジLとつなぐ。
【0065】
この状態で、三方活栓RのコックR1のいずれかの方向への90度回転操作により、投入ラインR2を通じて、PET薬剤と生理用食塩水が被験者に投与される。
【0066】
このとき、PET薬剤用シリンジQが投入ラインR2に連通する状態となるようにコックR1を回動させることで、手動式放射性液体投与装置Tの押圧操作棒T1の押圧操作により、PET薬剤用シリンジQから投入ラインR2を通ってPET薬剤が被験者に投与される。
【0067】
また、生理食塩水用シリンジLが投入ラインR2に連通する状態となるようにコックR1を回動させることで、生理食塩水用シリンジLから投入ラインR2を通って生理食塩水が被験者に投与される。
【0068】
被験者への投与が終了したときは、手動式放射性液体投与装置TからシリンジシールドSを取り外し、補助器具1の上にシリンジシールドSを再度載せ、所定の場所に移動させて、全体の作業を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る補助器具1は、診断や検査を行う際に使用される手動式放射性液体投与装置以外の、種々の液体投与装置の補助器具1として幅広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】一端に嵌合凹部と円形挿入部を備えている補助器具の全体構成を示す斜視図である。
【図2】補助器具の円形挿入部にシールド部材を装着する状態を示す分解斜視図である。
【図3】PET薬剤用シリンジを装着したシリンジシールドを、補助器具の嵌合凹部にセットする状態を示す斜視図である。
【図4】PET薬剤用シリンジを装着したシリンジシールドを、補助器具の嵌合凹部にセットした状態を示す斜視図である。
【図5】PET薬剤用シリンジをシリンジシールドにセットしたままの状態で、バイアルからPET薬剤を吸引している状態を示す斜視図である。
【図6】PET薬剤用シリンジをシリンジシールドから取り外し、放射線量測定装置にセットした状態を示す斜視図である。
【図7】手動式放射性液体投与装置にシリンジシールドをセットし、三方活栓を介して生理食塩水用シリンジとつないでいる状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
P…針
Q…PET薬剤用シリンジ
F…フランジ部
S…シリンジシールド
S1…嵌挿孔
S2…ロックレバー
S3…フック部
V…バイアル
M…放射線量測定装置
T…手動式放射性液体投与装置
T1…押圧操作棒
T2…台座
R…三方活栓
R1…コック
R2…投入ライン
L…生理食塩水用シリンジ
1…補助器具
2…嵌合凹部
3…円形挿入部
4…シールド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針を付けたままの状態のPET薬剤用シリンジを、シリンジシールドにセットしたまま立て掛けておく補助器具であって、シリンジシールドの一部を嵌め入れるために補助器具の一端に形成された嵌合凹部と、シリンジシールドにセットされているPET薬剤用シリンジの針部分を挿入するために該嵌合凹部の中央に形成された円形挿入部と、を備えたことを特徴とする手動式放射性液体投与装置の補助器具。
【請求項2】
補助器具は、所定の場所に安定して載置できるよう、略矩形筒状に形成されている請求項1に記載の手動式放射性液体投与装置の補助器具。
【請求項3】
補助器具は、発泡合成樹脂製、もしくは、プラスチック製の素材により形成されている請求項1または2に記載の手動式放射性液体投与装置の補助器具。
【請求項4】
補助器具の円形挿入部に、挿入された針部分から発生するPET薬剤の放射線を遮蔽するシールド部材を配置している請求項1乃至3のいずれかに記載の手動式放射性液体投与装置の補助器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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