説明

手拇指運動支援装置

【課題】拇指の機能回復のためにリハビリテーション訓練を施すに際し、拇指に半円錐状の内外転運動を他動的に与え得るようにする。
【解決手段】固定部材48をリンク片の1つとした第1リンク機構40が設けられ、前記第1リンク機構40には、半円弧状のリンク片74,76を備えた第2リンク機構42が連結される。前記第2リンク機構42の上端には、拇指を保持する拇指アタッチメント44が取付けられる。前記固定部材48に配設したサーボモータ46の正転・逆転制御により第1リンク機構40リンク変形させ、第1リンク機構40のリンク変形に伴なって第2リンク機構42がリンク変形し、これにより拇指アタッチメント44に半円錐状の回転運動が付与される。手部に装着したホルダーグローブを拇指アタッチメント44に取付けることで、拇指が前記拇指アタッチメント44に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手拇指運動支援装置に関し、特に、運動機能の回復訓練(リハビリテーション)を要する上肢の患側の拇指を他動的に回転運動させることができる手拇指運動支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳卒中等の脳外科系疾患や、災害事故で人体に大きな衝撃が加わった場合の脊髄損傷等により、身体(主に手足)の一部の運動機能が著しく低下したり、麻痺により損なわれたりすることがある。特に脳卒中等の脳外科系疾患の場合、全身の運動機能の全てが損なわれるのではなく、いずれか一方の半身(左半身若しくは右半身)の運動機能が損なわれることが多い。なお、医療関係者の間では正常な運動機能を有する半身側を「健側」、運動機能が低下し機能回復訓練の必要な半身側を「患側」と呼称するので、本明細書中でもこの用語を使用する。
【0003】
いずれか一方の半身の運動機能が低下した患者は、損なわれた機能に応じた種々のリハビリテーション(機能回復訓練)の実施が有効である。このリハビリテーションは、専門医或いは理学療法士等の医療スタッフが在籍する医療施設で行われることが多い。該医療施設では、患者の運動機能の状況に応じたリハビリテーションプログラムに沿って最適なリハビリテーションを実施する。
【0004】
前述したリハビリテーションの場合、患者は医療スタッフが常駐する専用の医療施設へ通院する必要がある。このため、1日に何回もリハビリテーションを受けることが難しくなり、回復に遅れを生じたり、若しくは回復し得なくなったりすることがある。そこでリハビリテーションに関しては、患者が一人で手軽に、一日に何回でも、できれば自宅で行うことができる装置があることが好ましい。
【0005】
ところで、上肢運動すなわち、肩、肘、及び手関節の動作を補助するリハビリテーション機器は、開発例が多くあり、製品化もなされている。一方、手指のリハビリテーション機器は、5本の指の全ての関節を一度に屈曲伸展させるCPM装置しか製品化されていないのが現状である。
【0006】
そこで、出願人は、既に特許文献1の上肢手指リハビリシステムを提案している。このシステムは、脳卒中のように例えば右側半分といったような、左右のどちらか一方の半身に疾患が現れる場合、正常な健側の運動をもとに、患側の訓練運動を教示するように左右対称マスタ−スレーブ型の上肢手指リハビリシステムである。このシステムに使用されている上肢手指機能回復訓練装置に患側の手指を付けることにより健側上肢手指の運動と同じ運動を他動的に患側上肢手指に対して無理なく行わせることができる。
【0007】
なお特許文献2は、ロボット型ハンドを用いて脳機能障害による手指の運動機能異常を計測し、手指運動軌跡と脳波活動状態をモニタすることによって、身体障害の程度を予測して、回復訓練プログラムの作成等を行うものであるが、上肢手指、特に拇指に取り付けされる動作支援機構の具体的な構成に関しては何ら開示がされていない。
【特許文献1】特開2004−267254号公報
【特許文献2】特開2003−569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の上肢手指機能回復訓練装置では、拇指と拇指以外の他の4本の指に夫々取着される動作支援機構はいずれも同じ構成となっており、拇指の対立運動が考慮されていないため、拇指の運動が制限され、小物を摘む等の拇指特有の細かな指先運動の実現が困難である問題があった。
【0009】
そこで本件の出願人は、拇指の運動を制限することなく、小物を摘んだり物を操作したりする拇指に特有の運動を患側の上肢手指に付与し得る上肢手指機能回復訓練装置を、特願2006−248416号として既に出願した。この既出願の発明に係る訓練装置は、拇指に有効な対立運動の動作支援をなし得るものであって、従来の装置では実現し得なかったところを実用化した点において優れたものである。
【0010】
しかし、拇指の拇指CM関節(拇指手根中手関節)を中心として半円錐状に内外転運動させると有効である、という運動補助の観点からは改良の余地がある。すなわち、手指の中でも拇指は、物を摘んだり操作したりする場合に、他の4つの指に較べて特殊な運動を行うようになっている。例えば図13に示す如く、外科学的に手の拇指F1の骨構造は、先端側から内側に向けて末節骨Ba、基節骨Bc、中手骨Bdとからなり、中手骨Bdは、手根骨Beに拇指CM関節Jを介して接がっている。このため拇指F1は、前記拇指CM関節Jを頂点とする円錐状の回転範囲(可動領域)が大きく、物を他の指との間に摘んだり操作したりする等の細かい動作に容易に対応し得るものである。
【0011】
逆に言えば手の拇指F1は、他の4つの指F2〜F5より摘み動作等での働きの重要度が大きく、従って拇指F1の動きに障害を生じたときは日常の手による諸動作での不便が一層増大するものである。そこで、拇指F1の機能回復のためのリハビリテーション訓練では、図14に実線で示すように、前記拇指CM関節Jを頂点として仮想される半円錐状の内外転運動(内転運動および外転運動)を拇指F1に与えるのが効果的である。
【0012】
本発明の目的は、手の拇指の機能回復のためにリハビリテーション訓練を施すに際し、前記拇指に半円錐状の内外転運動を他動的に与え得る手拇指運動支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の発明は、
拇指のリハビリテーションを要する上肢の前腕を支持する前腕支持台と、
前記前腕支持台の前方下部に設けた固定部材をリンク片の1つとし、該固定部材に枢支されて昇降傾動し得る第1リンク機構と、
前記第1リンク機構における1つのリンク片に一体的に設けたリンク片と第1リンク機構に変位的に枢着したリンク片とを備え、両リンク片の端部にアタッチメント用リンク片を枢着した第2リンク機構と、
前記アタッチメント用リンク片に取付けられ、拇指に装着される拇指アタッチメントと、
前記第1リンク機構を昇降傾動させてリンク変形させると共に、このリンク変形に伴ない前記第2リンク機構もリンク変形させて、前記拇指アタッチメントに半円錐状の回転運動を与える作動手段とを備えることを要旨とする。
【0014】
従って、請求項1に係る発明によれば、作動手段により前記固定部材に枢支した第1リンク機構に昇降傾動を与えてリンク変形させ、該第1リンク機構に連携している第2リンク機構も変形させることで、拇指アタッチメントに半円錐状の回転運動を付与することができる。すなわち、拇指アタッチメントにより保持された患者の拇指を、拇指CM関節を頂点とする半円錐状の内外転運動によるリハビリテーション支援運動を与えて、該拇指の対立運動の動作支援を他動的に行なうことができる。なお、拇指の半円錐状の内外転運動は、前記作動手段の正転・逆転制御により所要時間毎に反復される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記第2リンク機構における2つのリンク片は、リハビリテーションを要する他の手指との干渉を回避し得る方向へ湾曲して、手部の通過を許容する空間を確保しつつ前記拇指アタッチメントを該手部の上方へ位置させていることを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、拇指アタッチメントが取付けられる側となる第2リンク機構の2つのリンク片を湾曲させることにより、他の手指との干渉を回避し得る。殊に、拇指以外の他の4指についても、そのリハビリテーション支援運動を付与する機構を設けるときは、第2リンク機構のリンク片が湾曲しているために干渉することがなく、設計の自由度を高めることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記作動手段はモータであって、該モータに所定の時間間隔で正転・逆転制御を与えることで、前記固定部材に枢支した前記第1リンク機構を反復的に昇降傾動させることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、作動手段として採用したモータの回転を、固定部材に枢支した第1リンク機構に歯車伝達すると共に、前記モータを間欠的に正転・逆転させることで、第1リンク機構に対して上昇傾動・下降傾動を反復的に与えることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記第1リンク機構の反復的な昇降傾動により、前記拇指アタッチメントには拇指CM関節を頂点として仮想される半円錐状の往復回転が付与されることを要旨とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、患側の拇指を保持する拇指アタッチメントには、第1リンク機構に反復される昇降傾動により外科学上に言う拇指CM関節を頂点とする半円錐状の回転運動が与えられるため、拇指に有効な対立運動の動作支援が行われる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記2つのリンク片のアタッチメント用リンク片への各枢支位置が相互に偏位させてあり、これにより前記拇指アタッチメントには、該拇指アタッチメントに設けた拇指取付具が常に前記半円錐状の回転運動の中心を向くよう姿勢変位しながら、半円錐状の回転が生起されることを要旨とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、第2リンク機構のリンク片は、拇指アタッチメントが取付けられるアタッチメント用リンク片への枢支位置を相互に偏位させてある。すなわち、両リンク片がリンク変形するに際し、一方のリンク片の枢支位置が他方のリンク片の枢支位置より偏位している結果として、拇指アタッチメントに設けた拇指取付具が常に半円錐状の回転運動の中心を向くよう姿勢変位させる円錐状の回転が拇指アタッチメントに生起される。
【0019】
請求項6に記載の発明は、手部に装着されるグローブと、
前記グローブの前記拇指アタッチメントと対応する位置に設けられ、拇指アタッチメントに設けた拇指取付具に分離可能に保持される保持部と、
前記グローブに取付けられ、このグローブに収容した前記拇指に該グローブを固定する指固定部材とを備え、
前記手部に装着した前記グローブの保持部を前記拇指アタッチメントの拇指取付具に取付け、前記拇指を該拇指アタッチメントに保持させることを要旨とする。
従って、請求項6に係る発明によれば、手部に装着したグローブにより、拇指が拇指アタッチメントに保持される。そして、指固定部材により拇指にグローブが固定されるので、手拇指運動支援装置による拇指の運動動作支援中に拇指が拇指アタッチメントからずれることがない。また、指固定部材を外すことで、グローブが拇指アタッチメントに取付けられた状態でも、手部を該グローブから取外すことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る手拇指運動支援装置によれば、手の拇指の機能回復のためにリハビリテーション訓練を施すに際し、第1リンク機構および第2リンク機構を作動手段でリンク変形させることで、前記拇指を保持する拇指アタッチメントに半円弧状の回転運動を付与し、これにより拇指に半円錐状の内外転運動を他動的に与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明に係る手拇指運動支援装置について、添付図面を参照しながら、以下説明する。
【0022】
(実施例)
図1は、実施例の手拇指運動支援装置16を備えた上肢手指機能回復訓練装置10の全体斜視図であり、また図3は、上肢手指機能回復訓練装置10に上肢Aの前腕A1を保持した状態を示した平面図である。前記上肢手指機能回復訓練装置10は、図1に示すように、前腕A1の回内・回外運動を支援する前腕運動支援装置12と、手関節Wの伸展・屈曲運動を支援する手関節運動支援装置14と、拇指F1の屈曲運動および半円錐状の内外転運動を支援する実施例の手拇指運動支援装置16と、拇指F1以外の4本の指F2,F3,F4,F5の屈曲運動を支援する手指運動支援装置18とを備えている(但し図3では、手関節運動支援装置14および手指運動支援装置18は省略してある)。そこで先ず、上肢手指機能回復訓練装置10の全体構成につき、図1を引用しながら概略説明する。なお、説明の便宜上、前腕運動支援装置12に前腕A1を挿通させる側を上肢手指機能回復訓練装置10の後側、手先側を前側と指称し、前側から見て左方向を上肢手指機能回復訓練装置10の左側、右方向を右側と指称する。従って図1は、右斜め前から上肢手指機能回復訓練装置10を見た斜視図である。
【0023】
前述した前腕A1の回内・回外運動とは、前腕A1を前方へ突き出した状態で手部Hを左側または右側に回転させる運動であり(図3参照)、手部Hを体幹側へ回転する動作を回内運動といい、手部Hを体幹と反対側へ回転する動作を回外運動という。前腕A1の回内・回外運動を支援する前記前腕運動支援装置12は、図1〜図4に示すように、支持板20の上面に配設された前腕支持台22を備えている。この前腕支持台22には、手指のリハビリテーションを要する患側の上肢Aにおける前腕A1を周囲から保持する前腕保持部材24と、半円筒状に形成されて周方向への回転が可能に配設された前腕支持体26と、前腕支持体26を回転させる駆動手段(図示せず)等が配設されている。すなわち、駆動手段により前腕支持体26を周方向へ所定角度(150〜180度)に回動させることにより、前腕保持部材24に保持した前腕A1を、手の平が下方を指向した状態および手の平が上方を指向した状態の間で回転させて、該前腕A1に前記回内運動および回外運動を付与し得る。
【0024】
前述した手関節Wの伸展・屈曲運動とは、手首を反らせる運動であり(図3参照)、手部Hを手の平側へ曲げるように手首を反らせる動作を伸展運動といい、手部Hを手の甲側へ曲げるように手首を反らせる動作を屈曲運動という。手関節Wの前記伸展・屈曲運動を支援する前記手関節運動支援装置14は、図1に示すように、前記前腕支持台22の左右両側から水平前方へ延出した一対の支持アーム28,28と、両支持アーム28,28の先端に枢支された一対の旋回アーム30,30と、両旋回アーム30,30の自由端間に架設されて前記手指運動支援装置18および手拇指運動支援装置16が設置される支持フレーム32とを備えている。また、前腕支持台22の右側部には、前記右側の旋回アーム30に連係された駆動モータ34が配設され、この駆動モータ34の駆動により、右側の旋回アーム30を前記右側の支持アーム28に対して旋回運動させるようになっている。このように構成された手関節運動支援装置14は、両旋回アーム30,30が垂直下方を指向した状態(図1の状態)が中立位置とされ、前記駆動モータ34を正転・逆転制御により、両旋回アーム30,30が水平前方へ延出した状態および両旋回アーム30,30が水平後方へ延出した状態まで回転する。すなわち、駆動モータ34により両旋回アーム30が前後方向へ約180度回転し、これにより前腕支持台22の前方に位置する手関節Wに前記伸展運動および屈曲運動を付与し得る。
【0025】
次に、実施例の手拇指運動支援装置16について、図2〜図10を引用して詳細に説明する。実施例の手拇指運動支援装置16は、前記前腕支持台22の前方下部に設けた第1リンク機構40と、前記第1リンク機構40に連結された第2リンク機構42と、前記第2リンク機構42に取付けた拇指アタッチメント44と、前記第1リンク機構40に連係された作動手段としてのサーボモータ46とを備えている。すなわち、実施例の手拇指運動支援装置16は、前記サーボモータ46の正転・逆転制御により、前記第1リンク機構40を昇降傾動させてリンク変形させると共に、該第1リンク機構40のリンク変形に伴なって前記第2リンク機構42をリンク変形させ、これにより前記拇指アタッチメント44に半円錐状の回転運動を付与する。
【0026】
前記第1リンク機構40は、図2〜図10に示すように、前記前腕支持台22の前方下部において前記支持フレーム32の上面に立設固定される固定部材48を第1リンク片とし、該固定部材48に枢支されて昇降傾動する。すなわち第1リンク機構40は、支持フレーム32の定位置に固定される第1リンク片48と、前記第1リンク片48に第1ピン50を介して枢着される第2リンク片52と、前記第2リンク片52に第2ピン54を介して枢着される第3リンク片56と、一端を第3ピン58を介して前記第3リンク片56に枢着され、他端を第4ピン62を介して前記第1リンク片48に枢着される第4リンク片60とで構成されている。
【0027】
第2リンク片52および第4リンク片60は細長のレバー状部材であって、図2に示すように、第2リンク片52における前記第1ピン50と前記第2ピン54との間隔は、第4リンク片60における前記第3ピン58と前記第4ピン62との間隔と同一に設定されている。また、前記第1リンク片48における前記第1ピン50と前記第4ピン62との間隔は、前記第3リンク片56における前記第2ピン54と前記第3ピン58との間隔と同一に設定されている。従って、第1リンク機構40は所謂平行リンクであり、第3リンク片56は常に第1リンク片48と平行に保持され、また第2リンク片52と第4リンク片60も常に平行に保持される。
【0028】
前記サーボモータ46は、図5〜図10に示すように、出力軸を前記第2リンク片52側に延出した状態で前記固定部材48の上部に前側から取付けられ、前記出力軸には第1ギア64が取付けられている。また、前記第1ギア64に噛合する第2ギア66が、前記第2リンク片52に回転不能に固定した状態で前記第1ピン50に枢支されている。従って、前記サーボモータ46に所定の時間間隔で正転・逆転制御を与えることで、第1ギア64および第2ギア66を介して該サーボモータ46の駆動力が前第2リンク片52に伝達され、これにより第2リンク片52が前記第1ピン50を中心として揺動する。これにより第1リンク機構40は、約45度の右下がり状態(図5および図9)および略垂直状態(図8および図9)の間で反復的に昇降傾動する。すなわち、第1リンク機構40が反復的に昇降傾動すると、固定されている第1リンク片(固定部材)48に対して、第2リンク機構42が連結された第3リンク片56側が昇降する。なお、第2リンク片52の第3リンク片56側と反対側の端部および第4リンク片60の第3リンク片56側と反対側の端部には、図2に示すように、バランスウェイト68,68が夫々装着されている。
【0029】
前記第2リンク機構42は、図2〜図10に示すように、前記第2ピン54が枢着される側の前記第2リンク片52の延長部70に第5ピン72を介して枢着される第5リンク片74と、前記第3リンク片56に一体的に設けられて前記第5リンク片74と対をなす第6リンク片76と、一端を第5リンク片74に第6ピン78を介して枢着され、他端を第6リンク片76に第7ピン80を介して枢着される第7リンク片(アタッチメント用リンク片)82とで構成されている。そして、第7リンク片82に、前記拇指アタッチメント44が取付けられる。
【0030】
第5リンク片74および第6リンク片76は、各図に示すように、リハビリテーションを要する手部Hおよび他の手指との干渉を回避し得る方向、すなわち装置10の右方向へ突出するよう湾曲した半円弧状に形成され、リンク動作時に手指との回避しながら前記拇指アタッチメント44を該手部Hの上方へ位置させ得るようになっている。そして、図5に示すように、第2ピン54と第7ピン80とを結ぶ直線上での間隔は、第5ピン72と第6ピン78とを結ぶ直線上での間隔と同一に設定されている。また、延長部70における第2ピン54と第5ピンとの間隔は、前記第7リンク片82における前記第6ピン78と前記第7ピン80との間隔と同一に設定されている。従って、第2リンク機構42は所謂平行リンクであり、第7リンク片82は常に延長部70と平行に保持される。
【0031】
拇指アタッチメント44は、図1〜図4に示すように、第2リンク機構42における前記第7リンク片82に取付けられる。具体的に拇指アタッチメント44は、前記第7リンク片82にボルト84,84を利用して取付けられるブラケット86と、このブラケット86に回転可能に連結された第3アーム部92と、第3アーム部92に回転可能に連結された第2アーム部90と、第2アーム部90に回転可能に連結された第1アーム部88とを備える。これら第1〜第3の各アーム部88,90,92は、互いに回転可能に連結された後アーム88B,90B,92Bおよび前アーム88A,90A,92Aを備えている。
【0032】
前記第1アーム部88の前アーム88A先端には、拇指F1の前記末節骨Baに対応する末節骨部Fa(図13参照)を保持する第1拇指取付具94が回転可能に配設されている。前記第2アーム部90の前アーム90A先端には、拇指F1の前記基節部Bcに対応する基節骨部Fcを保持する第2拇指取付具96が回転可能に配設されている。また、前記第3アーム部92の前アーム92A先端には、拇指F1の前記中手骨Bdに対応する中手骨部Fdを保持する第3拇指取付具98が回転可能に配設されている。これら第1拇指取付具94、第2拇指取付具96および第3拇指取付具98は、同一に構成されており、力覚センサを内部に備えると共に、ネオジ磁石片100を先端に備えている。
【0033】
更に、前記第2アーム部90の前アーム90Aには、第1アーム部88に屈伸動作を発現する第1作動モータ102が配設され、IP関節(指節間関節)の可動範囲に沿って拇指F1に屈曲運動を付与する。前記第3アーム部92の前アーム92Aには、第2アーム部90に屈伸動作を発現する第2作動モータ104が配設され、MP関節(中手指節間関節)の可動範囲に沿って拇指F1に屈曲運動を付与する。前記ブラケット86には、第3アーム部92に屈伸動作を発現する第3作動モータ106が配設され、拇指CM関節Jの可動範囲に沿って拇指F1に屈曲運動を付与する。
【0034】
前記拇指アタッチメント44が取付けられた前記第2リンク機構42は、図9に示すように、第5リンク片74および第6リンク片76の第7リンク片82への各枢支位置(第6ピン78および第7ピン80の位置)を相互に偏位させてある。従って、前記サーボモータ46の正転・逆転制御により、前記第1リンク機構40を反復的に昇降傾動させると、第7リンク片82に取付けた前記拇指アタッチメント44に半円錐状の回転運動が生起される。すなわち図9に示すように、第1リンク機構40の反復的な昇降傾動により、拇指アタッチメント44には、前記拇指CM関節Jを頂点として仮想される半円錐状の往復回転運動が生起される。
【0035】
具体的に、第1リンク機構40が図5に示す右下がり状態(下死点まで傾動し切った状態)においては、前記拇指アタッチメント44の第1〜第3の各拇指取付具94,96,98は、前記延長部70および第7リンク片82と同じく左斜め上方を指向するようになり、拇指アタッチメント44は、手部Hが手の平側を完全に開いた状態における拇指F1を斜め下方が保持する。第1リンク機構40が図6に示す水平状態においては、前記拇指アタッチメント44の第1〜第3の各拇指取付具94,96,98は、前記延長部70および第7リンク片82と同じく水平左方を指向するようになり、拇指アタッチメント44は、手部Hからやや立上がった拇指F1を横から保持する。また、第1リンク機構40が図7に示す右上がり状態においては、前記拇指アタッチメント44の第1〜第3の各拇指取付具94,96,98は、前記延長部70および第7リンク片82と同じく左斜め下方を指向するようになり、拇指アタッチメント44は、手の平から略鉛直に立上がった拇指F1を斜め上方から保持する。更に、第1リンク機構40が図8に示す略垂直状態(上死点まで傾動し切った状態)においては、前記拇指アタッチメント44の第1〜第3の各拇指取付具94,96,98は、前記延長部70および第7リンク片82と同一角度で略真下を指向するようになり、拇指アタッチメント44は、手の平の上面に倒伏する拇指F1を上方から保持する。すなわち、実施例の手拇指運動支援装置16では、前記サーボモータ46による前記第1リンク機構40および第2リンク機構42のリンク変形により、拇指CM関節Jの可動範囲に沿って拇指F1に半円錐状の内外転運動を付与する。そして拇指アタッチメント44に設けた第1拇指取付具94、第2拇指取付具96および第3拇指取付具98は、常に半円錐状の回転運動の中心を向くように姿勢変位するようになり、半円錘状の内外転運動をする拇指F1を外側から回り込むように保持し、該拇指F1を安定的に保持し得ると共に該拇指F1に負荷を掛けることがない。
【0036】
従って、実施例の手拇指運動支援装置16は、拇指アタッチメント44に配設した前記第1および第2の各作動モータ102,104を個別に作動させると、IP関節またはMP関節の可動範囲に沿った屈曲運動を拇指F1に付与する。また、拇指アタッチメント44に配設した前記第1〜第3の各作動モータ102,104,106を同期的に作動させることで、拇指CM関節Jの可動範囲に沿った屈曲運動を拇指F1に付与し得る。更に、前記サーボモータ46の正転・逆転制御により、前記第1リンク機構40および第2リンク機構42が夫々リンク変形することで、拇指CM関節Jの可動範囲に沿った半円錐状の内外転運動を、拇指F1に他動的かつ反復的に付与することも可能である。
【0037】
拇指F1以外の4本の指F2,F3,F4,F5の運動を支援する各手指運動支援装置18,18,18,18は、図1に示すように、前記支持フレーム32に設置された支持フレーム32の上面に、左右に横並び状に配設されている。各手指運動支援装置18は、基本的構成が同一であり、前記拇指アタッチメント44とはアーム部の数が異なる指アタッチメント107を備えている。すなわち、各手指運動支援装置18の指アタッチメント107は、前記支持フレーム32の上面に取付けられたブラケット108と、このブラケット108の前側に回転可能に配設された第2アーム部112と、この第2アーム部112の先端に回転可能に配設された第1アーム部110とを備えている。
【0038】
前記第1アーム部110の先端に第1指取付具114が配設されると共に、第2アーム部112の先端に第2指取付具116が配設されている。これら第1指取付具114および第2指取付具116は、前記第1拇指取付具94、第2拇指取付具96および第3拇指取付具98と同様に、力覚センサを内部に備えると共に、ネオジ磁石片118を先端に備えている。各第1指取付具114は各指F2,F3,F4,F5の中節骨部Fb(図13参照)を保持し、各第2指取付具116は各指F2,F3,F4,F5の基節骨部Fc(図13参照)を保持する。また、第2アーム部112には第1アーム部110を作動させる第4作動モータ120が配設され、前記ブラケット108には第2アーム部112を作動させる第5作動モータ122が配設される。このように構成された各手指運動支援装置18は、前記第4および第5の各作動モータ120,122を作動させることで、PIP関節(近位指節間関節)およびMP関節(指節間関節)の可動範囲に沿った屈曲運動を各指F2,F3,F4,F5に付与し得る。
【0039】
前記上肢手指機能回復訓練装置10による手指のリハビリテーションは、図3および図11に示すホルダーグローブ(グローブ)124を手部Hに装着して、該ホルダーグローブ124を前記手拇指運動支援装置16の拇指アタッチメント44および手指運動支援装置18の指アタッチメント107に磁力吸着させたもとで実施される。図11は、左手用のホルダーグローブ124を、手の甲に対応する側から見たものであり、このホルダーグローブ124は、伸縮性に富んだ素材から形成されている。そしてホルダーグローブ124は、拇指F1が収納される第1指収容部124Aと、残りの4本の指F2,F3,F4,F5が収納される第2〜第5の各指収容部124B,124C,124D,124Eとの夫々に、収納した拇指F1および各指F2〜F5に巻付ける指締付ベルト(指固定部材)126が、対応の指に対する締付状態を調整し得るように配設されている。これら指締付ベルト126は、面ファスナー等の伸縮性を有さない素材から形成されている。また第1指収容部124Aには、前記拇指アタッチメント44の第1〜第3の各拇指取付具94,96,98に配設した前記ネオジ磁石片100に対応する位置に、該ネオジ磁石片100と磁力吸着可能なネオジ磁石片(保持部)128が配設される。第2〜第5の各指収容部124B〜124Eには、前記指アタッチメント107の第1および第2の各指取付具114,116に配設した前記ネオジ磁石片118に対応する位置に、該ネオジ磁石片118と磁力吸着可能なネオジ磁石片128が配設されている。
【0040】
すなわち第1指収容部124Aにおいては、拇指F1の末節骨部Faおよび基節骨部Fcに対応する位置に、指締付ベルト126が該第1指収容部124Aの外面に巻付可能に配設されている。また、末節骨部Fa、基節骨部Fcおよび中手骨部Fdの外側に対応する位置に、ネオジ磁石片128が夫々取付けられている。一方、第2〜第5の各指収容部124B,124C,124D,124Eにおいては、各指F2,F3,F4,F5における中節骨部Fbおよび基節骨部Fcに対応する位置に、指締付ベルト126が該指収容部124B,124C,124D,124Eの外面に巻付可能に配設されている。また、指締付ベルト126の配設位置と同位置に、ネオジ磁石片128が取付けられている。
【0041】
なお、各ネオジ磁石片128は、図12(a)および図12(b)に示すように、各指収容部124A〜124Eに縫合されるカバー130で被覆された状態で配設される。また各指締付ベルト126は、長手方向の一端が各指収容部124A〜124Eに縫合され、ネオジ磁石片128に対応する部分に円形状の開口132が形成されており、対応の指収容部124A〜124Eに巻付けた際に、前記開口132がネオジ磁石片128(カバー130)に整合するようになっている。
【0042】
(実施例の作用)
次に、前述のように構成した上肢手指機能回復訓練装置10に備えられた手拇指運動支援装置16による拇指F1のリハビリテーションについて説明する。ここでは、主に本発明の対象である手拇指運動支援装置16の作用について説明し、前腕運動支援装置12,手関節運動支援装置14および各手指運動支援装置18の作用については説明を省略する。なお、上肢手指機能回復訓練装置10の初期状態では、前記手関節運動支援装置14および各手指運動支援装置18は、図1に示す状態に保持されていると共に、手拇指運動支援装置16は、図5に示した状態に保持されている。
【0043】
リハビリテーションに先立ち、患側の上肢Aにおける手部Hに、前記ホルダーグローブ124を装着する。そして、拇指F1および各指F2,F3,F4,F5を第1〜第5の各指収容部124A〜124Eに夫々収容させた後、各指締付ベルト126を拇指F1および各指F1〜F5に巻付けて、該ホルダーグローブ124を手部H(拇指F1および各指F2〜F5)に固定する。なお、上肢手指機能回復訓練装置10に患側の上肢Aにおける前腕A1をセットする前に手部Hにホルダーグローブ124を装着し得るので、上肢Aや手指に障害がある人であっても該ホルダーグローブ124の装着を簡易に行ない得る。
【0044】
そして、前記ホルダーグローブ124を手部Hに装着した状態で、前腕運動支援装置12の前腕支持台22に対して後方側から上肢Aを挿通させ、手の平を上に指向させた状態で前腕H1を前腕保持部材24で保持する。これにより、図3に示すように、第1指収容部124Aに配設した各ネオジ磁石片128が、手拇指運動支援装置16の拇指アタッチメント44における第1〜第3の各拇指取付具94,96,98に配設した各ネオジ磁石片100に近接し、両ネオジ磁石片100,128のS極とN極との磁力吸着により、拇指F1が拇指アタッチメント44に保持される。また、第2〜第5の各指収容部124B〜124Eに配設した各ネオジ磁石片128が、各手指運動支援装置18の指アタッチメント107における第1および第2の各指取付具114,116に配設した各ネオジ磁石片118に近接し、両ネオジ磁石片118,128のS極とN極との磁力吸着により、第2〜第5の各指F2〜F5が各指アタッチメント107に各々保持される。これにより手部Hは、手の平側を開いた状態で保持される。
【0045】
手拇指運動支援装置16および手指運動支援装置18に対する拇指F1および各指F2〜F5の保持が完了したら、前記第1〜第3の作動モータ102,104,106およびサーボモータ46を一括制御して、拇指F1の運動支援が行なわれる。例えば、拇指アタッチメント44に配設した前記第1および第2の各作動モータ102,104を個別に作動させれば、IP関節およびMP関節の可動範囲に沿った屈曲運動を拇指F1に付与し得る。また、拇指アタッチメント44に配設した前記第1〜第3の各作動モータ102,104,106を同期的に作動させれば、拇指CM関節Jの可動範囲に沿った屈曲運動を拇指F1に付与し得る。
【0046】
更に、前記サーボモータ46を正転・逆転制御して、前記第1リンク機構40に反復的な昇降傾動を付与すると共に、該第1リンク機構40のリンク変形によって前記第2リンク機構42をリンク変形させることで、拇指アタッチメント44に前記拇指CM関節Jを頂点として仮想される半円錐状の回転運動が付与される。これにより、前記拇指アタッチメント44に保持された拇指F1には、拇指CM関節Jの可動範囲に沿った半円錐状の回転運動が付与され、これにより拇指F1の内外転運動が支援される。なお、前記サーボモータ46に対する正転・逆転制御を連続的に行なうことにより、拇指F1の半円錐状の内外転運動が所要時間毎に反復される。
【0047】
なお、上肢手指機能回復訓練装置10による手指のリハビリテーションが完了した際には、第1〜第5の各指収容部124A〜124Eに配設した各指締付ベルト126を緩める。これにより、手拇指運動支援装置16の拇指アタッチメント44および手指運動支援装置18の指アタッチメント107に、各ネオジ磁石片100,118,128の磁力によりホルダーグローブ124が保持されていても、該ホルダーグローブ124から手部Hを簡単に引抜くことができる。但し、各指締付ベルト126を緩めずに、手部Hにホルダーグローブ124を装着した状態で、該手部Hを手拇指運動支援装置16および手指運動支援装置18から離間させることも可能である。
【0048】
前述のように構成された実施例の手拇指運動支援装置16によれば、次のような作用効果を奏する。
(1)サーボモータ46に正転・逆転制御により、固定部材48に枢支した第1リンク機構40に昇降傾動を与えてリンク変形させ、第1リンク機構40のリンク変形に伴って第2リンク機構42も変形することで、拇指アタッチメント44に半円錐状の回転運動を与えることができる。すなわち、拇指アタッチメント44により保持された患者の拇指F1に、外科学上に言う拇指CM関節Jを頂点とする半円錐状の内外転運動が付与されるため、拇指F1に有効な動作支援を他動的に行なうことができる。
(2)拇指アタッチメント44が取付けられる第2リンク機構42の第5リンク片74および第6リンク片76を湾曲させてあるので、該第2リンク機構42と手部Hおよび手指または他の機器との干渉を回避し得る。殊に、拇指F1以外の他の各指F2〜F5に対してリハビリテーション支援運動を付与する手指運動支援装置18と第2リンク機構42とが干渉することがないので、装置の設計の自由度を高めることができる。
(3) サーボモータ46と固定部材48に枢支した第1リンク機構40とが第1ギア64および第2ギア66で連係されているので、前記サーボモータ46を間欠的に正転・逆転させることで、第1リンク機構40に対して上昇傾動・下降傾動を確実に与えることができる。
(4)第2リンク機構42の第5リンク片74および第6リンク片76は、拇指アタッチメント44が取付けられる第7リンク片82への枢支位置を相互に偏位させてある。従って、両リンク片74,76がリンク変位するに際し、第5リンク片74の枢支位置が第6リンク片76の枢支位置より偏位している結果として、拇指アタッチメント44に半円錐状の回転運動が生起される。
(5)拇指アタッチメント44が、手の外科学上に言う拇指F1の末節骨部Fa、基節骨部Fcおよび中手骨部Fdの夫々に、第1〜第3の各拇指取付具94,96,98を介して取付けられるため、拇指F1の確実な保持がなされる。
(6)手拇指運動支援装置16および各手指運動支援装置18に対する拇指F1および各指F2〜F5の保持が、手部Hに装着したホルダーグローブ124に配設したネオジ磁石片128と、手拇指アタッチメント44および指アタッチメント107に配設した各ネオジ磁石片100,118との磁力吸着によりなされるので、手部Hを簡単かつ容易にセットできる。そして、リハビリテーション終了後には、ホルダーグローブ124の各指締付ベルト126を緩めるだけで、手拇指アタッチメント44および指アタッチメント107に保持されているホルダーグローブ124から手部Hを簡単に外すことができる。また、指締付ベルト126により拇指F1および各指F2〜F5にホルダーグローブ124が固定されるので、手拇指運動支援装置16および手指運動支援装置18による運動支援中に、拇指F1および各指F2〜F5が拇指アタッチメント44および指アタッチメント107からずれることがない。
【0049】
(変更例)
(1)手拇指運動支援装置16の動力供給源となる作動手段46は、正転・逆転制御の容易なサーボモータを採用したが、この作動手段46はサーボモータに限定されず、例えばパルスモータ、空圧シリンダのようなリニアアクチュエータ、電磁ソレノイド等を使用してもよい。
(2)手拇指運動支援装置16の第2リンク機構42における第5リンク片74および第6リンク片76は、手部H、手指および機器等に接触しなければ(手部Hの通過を許容するのであれば)、半円弧状に湾曲した形状でなくてもよい。例えば「コ」字形をなす屈曲形状としてもよいし、また直線の細長板状や棒状としてもよい。
(3)手拇指運動支援装置16の第1リンク機構40における第2リンク片52および第4リンク片60は、直線のレバー状に限るものではなく、第2リンク機構42の第5リンク片74および第6リンク片76のように湾曲形状としてもよい。
(4)前記各拇指取付具94,96,98、各指取付具114,116およびホルダーグローブ124に配設したネオジ磁石片100,118,128は、フェライト磁石等に代えてもよい。また、ホルダーグローブ124には、ネオジ磁石片128に代えて、前記各拇指取付具94,96,98、各指取付具114,116に配設したネオジ磁石片100,118に吸着可能な鉄片または鋼片等としてもよい。
(5)実施例では、左腕の手指に対するリハビリテーションを行なう手拇運動支援装置16を示したが、第1リンク機構40および第2リンク機構42の延出方向を左右対称とすることで、右腕の手指用にも容易に対応できる。
(6)実施例では、ホルダーグローブ124に設けた指固定部材126として面ファスナーからなる指締付ベルトを例示したが、この指固定部材126は、ホルダーグローブ124を手部H(拇指F1および各指F2〜F5)に適切に固定し得るものであればよく、例えば適度の伸縮性を有して、伸張させながら拇指F1および各指F2〜F5に巻付けた際に適度の締付力を発現し得るゴム製の指締付ベルト等であってもよい。
【0050】
なお、本願の手拇指運動支援装置は、次のような構成としてもよい。
拇指のリハビリテーションを要する上肢の前腕を支持する前腕支持台と、
前記前腕支持台の前方下部で定位置に固定される第1リンク片と、第1リンク片に第1ピンを介して枢着される第2リンク片と、第2リンク片に第2ピンを介して枢着される第3リンク片と、一端を第3ピンを介して第3リンク片に枢着され、他端を第4ピンを介して第1リンク片に枢着される第4リンク片とからなる第1リンク機構と、
前記第2ピンが枢着される側の第2リンク片の延長部に第5ピンを介して枢着される第5リンク片と、前記第3リンク片に一体的に設けられて前記第5リンク片と対をなす第6リンク片と、一端を第5リンク片に第6ピンを介して枢着され、他端を第6リンク片に第7ピンを介して枢着される第7リンク片とからなる第2リンク機構と、
前記第2リンク機構の第7リンク片に取付けられ、拇指に装着される拇指アタッチメントと、
前記第2リンク片を第1ピンを中心として反復的に昇降傾動させて前記第1リンク機構をリンク変形させると共に、このリンク変形に伴い前記第2リンク機構を変形させて、前記拇指アタッチメントに半円錐状の回転運動を与える作動手段とを備える
ことを特徴とする手拇指運動支援装置。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例に係る手拇指運動支援装置を備えた上肢手指機能回復訓練装置の全体斜視図である。
【図2】手拇指運動支援装置の正面図である。
【図3】手拇指運動支援装置の平面図である。
【図4】手拇指運動支援装置の左側面図である。
【図5】手拇指運動支援装置における第1リンク機構が、下死点まで傾動し切った状態での要部正面図である。
【図6】図5における第1リンク機構が、水平位置にある状態での要部正面図である。
【図7】図5における第1リンク機構が、斜め上方へ傾動して上死点に近づいた状態での要部正面図である。
【図8】図5における第1リンク機構が、上死点まで傾動し切った状態での要部正面図である。
【図9】図5〜図8までの第1リンク機構および第2リンク機構の動きを合成した要部正面図であって、拇指アタッチメントを外した状態でのリンク片における2つの枢支ピンの軌跡を間欠的に示している。
【図10】手拇指運動支援装置における第1リンク機構および第2リンク機構を示す右側図面である。
【図11】ホルダーグローブの構成を示した平面図である。
【図12】(a)は、ホルダーグローブに設けたネオジ磁石片および指締付ベルトを示した断面図であり、(b)は、(a)の斜視図である。
【図13】手の骨格を外科的に観察した概略説明図である。
【図14】手の拇指CM関節を頂点位置として、拇指に半円錐状の回転運動を与える状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
22 前腕支持台,40 第1リンク機構,42 第2リンク機構
44 拇指アタッチメント,46 サーボモータ(作動手段)
48 固定部材(第1リンク片),50 第1ピン,52 第2リンク片,54 第2ピン
56 第3リンク片(リンク片),58 第3ピン,60 第4リンク片,62 第4ピン
70 延長部,72 第5ピン,74 第5リンク片(リンク片)
76 第6リンク片(リンク片),78 第6ピン,80 第7ピン
82 第7リンク片(アタッチメント用リンク片),94 第1拇指取付具(拇指取付具)
96 第2拇指取付具(拇指取付具),98 第3拇指取付具(拇指取付具)
124 ホルダーグローブ(グローブ),126 指締付ベルト(指固定部材)
128 ネオジ磁石片(保持部),A1 前腕,F1拇指,Fd 中手骨部,H 手部
J 拇指CM関節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拇指(F1)のリハビリテーションを要する上肢の前腕(A1)を支持する前腕支持台(22)と、
前記前腕支持台(22)の前方下部に設けた固定部材(48)をリンク片の1つとし、該固定部材(48)に枢支されて昇降傾動し得る第1リンク機構(40)と、
前記第1リンク機構(40)における1つのリンク片(56)に一体的に設けたリンク片(76)と第1リンク機構(40)に変位的に枢着したリンク片(74)とを備え、両リンク片(76,74)の端部にアタッチメント用リンク片(82)を枢着した第2リンク機構(42)と、
前記アタッチメント用リンク片(82)に取付けられ、拇指(F1)に装着される拇指アタッチメント(44)と、
前記第1リンク機構(40)を昇降傾動させてリンク変形させると共に、このリンク変形に伴ない前記第2リンク機構(42)もリンク変形させて、前記拇指アタッチメント(44)に半円錐状の回転運動を与える作動手段(46)とを備える
ことを特徴とする手拇指運動支援装置。
【請求項2】
前記第2リンク機構(42)における2つのリンク片(76,74)は、リハビリテーションを要する他の手指との干渉を回避し得る方向へ湾曲して、手部(H)の通過を許容する空間を確保しつつ前記拇指アタッチメント(44)を該手部(H)の上方へ位置させている請求項1記載の手拇指運動支援装置。
【請求項3】
前記作動手段(46)はモータであって、該モータに所定の時間間隔で正転・逆転制御を与えることで、前記固定部材(48)に枢支した前記第1リンク機構(40)を反復的に昇降傾動させる請求項1または2記載の手拇指運動支援装置。
【請求項4】
前記第1リンク機構(40)の反復的な昇降傾動により、前記拇指アタッチメント(44)には拇指CM関節(J)を頂点として仮想される半円錐状の往復回転が付与される請求項1〜3の何れか一項に記載の手拇指運動支援装置。
【請求項5】
前記2つのリンク片(76,74)のアタッチメント用リンク片(82)への各枢支位置が相互に偏位させてあり、これにより前記拇指アタッチメント(44)には、該拇指アタッチメント(44)に設けた拇指取付具(94,96,98)が常に前記半円錐状の回転運動の中心を向くよう姿勢変位しながら、半円錐状の回転が生起される請求項1〜4の何れか一項に記載の手拇指運動支援装置。
【請求項6】
手部(H)に装着されるグローブ(124)と、
前記グローブ(124)の前記拇指アタッチメント(44)と対応する位置に設けられ、拇指アタッチメント(44)に設けた拇指取付具(94,96,98)に分離可能に保持される保持部(128)と、
前記グローブ(124)に取付けられ、このグローブ(124)に収容した前記拇指(F1)に該グローブ(124)を固定する指固定部材(126)とを備え、
前記手部(H)に装着した前記グローブ(124)の保持部(128)を前記拇指アタッチメント(44)の拇指取付具(94,96,98)に取付け、前記拇指(F1)を該拇指アタッチメント(44)に保持させる請求項1〜5の何れか一項に記載の手拇指運動支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−219804(P2009−219804A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70421(P2008−70421)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17〜19年度、経済産業省、人間支援型ロボット実用化基盤技術開発事業、委託研究(リハビリ支援ロボット及び実用化技術の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(508082924)
【出願人】(504331392)株式会社丸富精工 (11)