説明

手持ち式動力作業機のハンドル支持構造

【課題】重量の増大を抑え、防振性と操作性がよい手持ち式動力作業機のハンドル支持構造を提供する。
【解決手段】ヘッジトリマ1は、支持部材10の後側に取り付けられたフロントハンドル40を備える。このハンドルは、前後方向に延びる第1〜第3の支持アーム45,50,55で支持される。各支持アームの先端部の接続位置は平面的に配置されて防振部材46,51,56を介して接続される。各支持アームの長さは、ハンドルを握った作業者の手の親指Htの位置からハンドル基端部までの長さより長く、第1支持アーム45の接続位置47と第2支持アーム50のそれとを繋ぐ直線Lは平面視でハンドルを通る。第1及び第3の支持アームの防振部材46,56は、上下方向の力に対して引っ張り・圧縮変形し、前後方向の力に対して剪断変形する。第2支持アーム50の防振部材51は、前後方向の力に対して剪断変形し、左右方向の力に対して引っ張り・圧縮変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルを握って作業機自体を持ち上げた状態で作業を行う手持ち式動力作業機のハンドル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
このような手持ち式動力作業機には、作業者がハンドルを把持して操作して刈取部によって刈取作業を行うヘッジトリマが知られている。このヘッジトリマは、刈取部を支持する支持部材にハンドルを設けると、作業機自体に取り付けられた動力供給部や刈取部から発生する振動が作業者の手に伝わって作業者に苦痛を強いることになるので、防振部材を介して支持部材にハンドルを取り付ける方法が一般的に知られている。また、特許文献1には、支持部材(文献ではカバープレート)に取り付けられた担持板にハンドルを設けた担持板を対向配置し、これらの担持板を複数個の防振ゴムを介して接続して、支持部材及び担持板を介してハンドルに伝わる振動を複数個の防振部材(文献では防振ゴム)で吸収するハンドル支持構造が提案されている。
【0003】
このような防振部材を設けた従来のヘッジトリマは、防振部材の硬さを柔らかくすると、防振性能を上げることができるが、刈取作業の際に支持部に対するハンドルの位置が不安定になって操作性が悪くなるという問題が発生する。またこのようなヘッジトリマは、通常は、操作性が優先されるため、防振部材の硬さを柔らかくすることができない。その結果、防振性能が不十分となり、作業者に苦痛を強いているのが現状である。
【0004】
一方、特許文献2には、前側のハンドルと後側のハンドルを一体化し、この一体化されたハンドルに動力供給部と刈取部とを防振部材を介して連結したヘッジトリマが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−16980号公報
【特許文献2】米国特許第377742号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献2に記載のヘッジトリマは、高い防振性能を備えているが、一体化されたハンドル部は、比重の比較的に小さい合成樹脂材料で形成されていても形状が大きいために重い。このため、作業者が両手で持って刈取作業を行うヘッジトリマにとって、重量が重いことは、作業者への負担を増大させて、刈取作業の作業性を悪化させるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、重量を増大させることなく、防振性能が優れ且つ操作性がよい手持ち式動力作業機のハンドル支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、本発明は、支持部材の前側に設けられた刈取部と、支持部材の後端部に設けられて刈取部に動力を供給する動力供給部(例えば、実施形態におけるエンジン30,ギアケース31)と、支持部材に取り付けられて該支持部材の前後方向に対する左右方向一方側に延びるハンドル(例えば、実施形態におけるフロントハンドル40)とを備えた手持ち式動力作業機(例えば、実施形態におけるヘッジトリマ1)のハンドル支持構造であって、ハンドルは、該ハンドルの基端部から前後方向に延びる第1支持アーム、第2支持アーム及び第3支持アームによって少なくとも支持され、第1支持アームは、ハンドルの基端部よりも前側に延びて先端部が防振部材を介して支持部材に接続され、第2支持アームは、ハンドルの基端部よりも後側に延びて支持部材の左右方向一方側に先端部が防振部材を介して接続され、第3支持アームは、ハンドルの基端部よりも後側に延びて支持部材の左右方向他方側に先端部が防振部材を介して接続され、第1支持アーム、第2支持アーム及び第3支持アームの各長さは、ハンドルを握った作業者の親指位置から該ハンドルの基端部までの長さより長くなるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、ハンドルは少なくとも3つの支持アームによって支持され、第1支持アームは、ハンドル基端部よりも前側に延びて先端部が防振部材を介して支持部材に接続され、第2支持アームは、ハンドル基端部よりも後側に延びて支持部材の左右方向一方側に先端部が防振部材を介して接続され、第3支持アームは、ハンドル基端部よりも後側に延びて支持部材の左右方向他方側に先端部が防振部材を介して接続されることにより、各支持アームの先端部の接続位置を平面的に分散して配置することができる。このため、作業者がハンドルを握って刈取部を上下方向に移動させる操作を行うと、ハンドル基端部を中央にして支持部材の左右方向一方側又は他方側に接続された第2支持アーム又は第3支持アームの先端部にハンドル操作を抑制する方向の反力が作用して、第1支持アームの先端部とハンドル基端部とを通る軸周りに回転力が発生する事態を阻止するので、ハンドルを上下方向に操作したときに作業機自体が回転することはなく、操作性が悪化することはない。また作業者がハンドルを把持して刈取作業を行う場合において、各支持アームの先端部に作用する荷重をバランスよく作用させることができる。従って、防振部材に過大な荷重が作用することはなく、作業時の作業機の安定性と防振部材の寿命低下を防止することができる。
【0010】
さらに第1支持アーム、第2支持アーム及び第3支持アームの各長さは、ハンドルを握った作業者の親指位置からハンドルの基端部までの長さより長くすることにより、操作時に作用するハンドル基端部に作用する回転力を、小さくして各支持アームの先端部に作用させることができる。従って、防振部材に作用する力の大きさが小さくなるので、防振部材の硬さを柔らかくして防振性能を高めても防振部材の変形量を抑制することができ、操作性の悪化を防止することができる。
【0011】
また本発明の刈取部は、支持部材が延びる方向に沿って相互に重なり合うようにして往復動自在に設けられた上刃及び下刃を備え、第2及び第3の支持アームは、先端部が動力供給部を収容するケースに接続され、第1支持アームの先端部が支持部材に接続された接続位置と第2支持アームの先端部がケースに接続された接続位置とを繋ぐ直線は、平面視でハンドルを通るように構成されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、刈取部は往復動自在に設けられた上刃及び下刃を備えることにより、枝葉等の刈取作業を容易に行うことができる。また、第1支持アームの先端部が支持部材に接続された接続位置と第2支持アームの先端部がケースに接続された接続位置とを繋ぐ直線を平面視でハンドルに通すことにより、作業者のハンドル握り位置と直線との長さが短くなり、作業者がハンドルを把持して刈取作業を行う場合、ハンドルを上下方向に操作すると、直線周りの作業機の回転をケースに接続された第3支持アームの先端部が規制する。このため、作業機の姿勢を安定化することができ、操作性の悪化を防止することができる。またハンドルに繋がる複数の支持アームは、ハンドルの近傍に配置される支持部材やケースに接続可能なものであるので、支持アームの長さを比較的に短くすることができる。このため、ハンドル及び支持アームを有してなるハンドル支持構造の大きさを比較的に小さくすることができ、作業機の重量の増大を抑制することができる。
【0013】
また本発明は、第3支持アームの先端部がケースに接続された接続位置から直線に下ろした垂線の長さは、ハンドルを握った作業者の親指位置から直線に下ろした垂線の長さより長くなるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、第3支持アームの先端部の接続位置から直線に下ろした垂線の長さを、ハンドルを握った作業者の親指位置から直線に下ろした垂線の長さより長くすることで、操作時に作用するハンドル基端部に作用する回転力を小さくして第3支持アームの先端部に作用させることができる。このため、前述した第3支持アームの長さに関する技術と相まって防振部材に作用する力の大きさをより小さくすることができるので、防振部材の硬さを柔らかくして防振性能を高めても防振部材の変形量をより抑制することができ、操作性の悪化を防止することができる。
【0015】
また本発明の第1支持アームの先端部は、支持部材に締結されて接続され、第1支持アームの締結位置は、上刃の刃部と下刃の刃部が対向して往復動する範囲内に設けられていることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、第1支持アームの先端部を上刃の刃部と下刃の刃部が対向して往復動する範囲内の支持部材に締結することにより、締結位置において上刃及び下刃の往復移動方向に対して直交する方向の上刃及び下刃の各刃部の間隔が広がる事態を防止することができ、同時に振動を低減でき、締結位置周辺を往復動する上刃及び下刃の刈取性能を向上することができる。
【0017】
また本発明の第1支持アーム及び第3支持アームの各先端部に設けられた防振部材は、上下方向の力を受けると引っ張り変形及び圧縮変形可能であり、前後方向の力を受けると剪断変形可能に配置され、第2支持アームの先端部に設けられた防振部材は、前後方向を有した力を受けると剪断変形可能であり、左右方向を有した力を受けると引っ張り変形及び圧縮変形可能に配設されることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、作業機に前後方向の力が発生すると第1〜第3の支持アームの各先端部に設けられた防振部材は剪断変形し、作業機に上下方向の力が発生すると第1及び第3の支持アームの各先端部に設けられた防振部材は引っ張り変形及び圧縮変形し、作業機に左右方向の力が発生すると第2支持アームの先端部に設けられた防振部材は引っ張り変形及び圧縮変形する。また前後方向の振動成分が最も大きい刈取機の場合には、前後方向の振動に対して3つの防振部材が剪断変形によって振動を吸収する。
【0019】
本発明の防振部材は、前後方向の振動を防振部材が最も柔軟になる剪断方向で受けて吸収するようにしたものである。また、ハンドル操作時に防振部材に作用する力は、一般に上下方向成分及び左右方向成分の合力であるので、左右方向のハンドル操作に対しては、第2アーム部の先端部に設けられた防振部材が作用点となって圧縮変形又は引っ張り変形し、上下方向のハンドル操作に対しては、第3アーム部の先端部に設けられた防振部材が作用点となって圧縮変形又は引っ張り変形する。このように、前後方向の振動に対しては防振部材を柔軟に作用させ、操作力に対しては防振部材を強固に作用させることができ、防振性能及び操作性がともによいハンドル支持構造を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係わる手持ち式動力作業機のハンドル支持構造によれば、ハンドルは少なくとも3つの支持アームによって支持され、第1支持アームは、ハンドル基端部よりも前側に延びて先端部が防振部材を介して支持部材に接続され、第2支持アームは、ハンドル基端部よりも後側に延びて支持部材の左右方向一方側に接続され、第3支持アームは、ハンドル基端部よりも後側に延びて支持部材の左右方向他方側に接続され、これらの支持アームの各長さは、ハンドルを握った作業者の親指位置からハンドル基端部までの長さより長くなるように構成することで、重量を増大させることなく、防振性能が優れ且つ操作性がよい手持ち式動力作業機のハンドル支持構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係わる手持ち式動力作業機のハンドル支持構造の好ましい実施の形態を図1から図4に基づいて説明する。本実施の形態は、手持ち式動力作業機のうち、生垣や植込みの高さや形状等を整えるヘッジトリマを例にして説明する。先ず、本発明のハンドル支持構造を説明する前に、ハンドル支持構造を備えるヘッジトリマについて説明する。なお、説明の都合上、図1に示す矢印の方向を前後方向及び左右方向として、以下説明する。
【0022】
ヘッジトリマ1は、図1(斜視図)に示すように、支持部材10の前側に設けられた刈取部20と、支持部材10の後端部に設けられて刈取部20に動力を供給するエンジン30と、支持部材10に取り付けられて支持部材10から右側に延びるフロントハンドル40を有してなる。
【0023】
エンジン30の下部にはギアケース31が接続され、エンジン30の後端部には左右方向に延びるリアハンドル32が取り付けられている。エンジン30は、リコイルスタータ33により始動し、ギアケース31内に収められた運動変換機構によりエンジン30の回転動力を往復動力に変換して、刈取部20の上刃21及び下刃23を往復駆動するようになっている。支持部材10の前側上部には、刈取部20によって刈り取られた枝葉等が周囲に飛散するのを防止する葉受板25が取り付けられている。
【0024】
作業者は、フロントハンドル40とリアハンドル32を握り、刈取部20を刈取対称物に接触させて刈取作業を行う。またリアハンドル32に装着されたコントロールレバー34を操作することで、エンジン30の動力が制御されて上刃21及び下刃23の往復速度を制御することが可能である。
【0025】
刈取部20は、ギアケース31から外側に延びる支持部材10の長手方向に沿って相互に重なり合うようにして延びる上刃21及び下刃23を備える。刈取部20は、下刃23及び葉受板25間にボルト26を挿通して上刃21及び下刃23を摺動可能に締結している。上刃21及び下刃23は、各基端側の端部がギアケース31内に収容された運動変換機構(図示せず)に接続されて往復駆動可能になっている。
【0026】
支持部材10は、その基端側端部がボルト等を介してギアケース31の先端部に締結されて固定されている。支持部材10は、アルミニウム等の軽合金で形成されて軽量化されている。
【0027】
このように構成されたヘッジトリマ1のフロントハンドル40は、この基端部に取り付けられた防護カバー41を介して前後方向に延びる第1支持アーム45、第2支持アーム50及び第3支持アーム55によって支持されている。防護カバー41は支持部材10から上方へ延びるとともに前後方向に延びて側面視において略楕円形状を有し、フロントハンドル40を把持した作業者の手を覆うように湾曲している。
【0028】
第1支持アーム45は、図2(斜視図)、図3(平面図)、図4(側面図)に示すように、防護カバー41の下端部よりも前側に略真っ直ぐ延びて先端部が防振部材46を介して支持部材10上に接続されている。第2支持アーム50は、防護カバー41の下端部よりも後方斜め右側方向に延びて先端部が支持部材10よりも右側に延びるギアケース31の右側面に防振部材51を介して接続されている。
【0029】
第3支持アーム55は、防護カバー41の下端部よりも後方斜め左側方向に延びて先端部が支持部材10よりも左側に延びるギアケース31の左側面に防振部材56を介して接続されている。このように、フロントハンドル40は、防護カバー41、第1支持アーム45、第2支持アーム50、第3支持アーム55及び防振部材46,51,56からなるハンドル支持構造によって支持されている。フロントハンドル40及びこれを支持するハンドル支持構造は、合成樹脂等で一体に剛性的に形成されて軽量化されている。なお、防振部材46,51,56の詳細については後述する。
【0030】
第1支持アーム45、第2支持アーム50及び第3支持アーム55の各長さは、通常の位置でフロントハンドル40を握った作業者の手Hの親指Htの位置から防護カバー41の下端部までの長さAより長くなるように構成されている。即ち、図3に示すように、第1支持アーム45の長さをB、第2支持アーム50の長さをC、第3支持アーム55の長さをDとすると、B>A、C>A、D>Aとなるように各支持アームが構成されている。なお、本実施例では、C>D>B>Aなる関係に各支持アームが構成されている。
【0031】
このように、第1支持アーム45の先端部の接続位置47は支持部材10上であり、第2支持アーム50及び第3支持アーム55の各先端部の接続位置52,57は、前後方向に延びる支持部材10を中央にして左右両側に配置されており、各支持アームの接続位置47,52,57は平面的に分散して配置されている。このため、作業者の手Hがフロントハンドル40を握って刈取部20を上下方向に移動させる操作を行うと、第1支持アーム45の先端部が支点として作用し、第3支持アーム55の先端部が作用点として作用し、この第3支持アーム55の先端部に第1支持アーム45の先端部とハンドル基端部とを繋ぐ軸周りの回転力の発生を阻止する方向の反力が作用する。その結果、フロントハンドル40を上下方向に操作したときにヘッジトリマ自体が回転することはなく、操作性の悪化を防止することができる。また作業者がフロントハンドル40を把持して刈取作業を行う場合において、各支持アームの先端部に作用する荷重をバランスよく作用させることができる。従って、防振部材46,51,56に過大な荷重が作用することはなく、作業時のヘッジトリマ1の安定性と防振部材46,51,56の寿命低下を抑制することができる。
【0032】
さらに第1支持アーム45、第2支持アーム50及び第3支持アーム55の各長さは、フロントハンドル40を握った作業者の手Hの親指Htの位置から防護カバー41の下端部までの長さより長くすることで、操作時に防護カバー41の下端部に作用する回転力を小さくして各支持アームの接続位置47,52,57に作用させることができる。従って、防振部材46,51,56に作用する力が小さくなるので、防振部材46,51,56の硬さを柔らかくして防振性能を高めても防振部材46,51,56の変形量を抑えることができ、操作性の悪化を防止することができる。
【0033】
またフロントハンドル40を支持する3つの支持アームは、フロントハンドル40の近傍に配置された支持部材10やギアケース31に接続されるので、各支持アームの長さは比較的に短い。このため、フロントハンドル40及びこれを支持するハンドル支持構造は比較的に小さく、ヘッジトリマ1の重量増加を抑制することができる。
【0034】
さて、第2支持アーム50の先端部の接続位置52は、第1支持アーム45の先端部の接続位置47と第2支持アーム50の接続位置52とを繋ぐ直線Lが平面視でフロントハンドル40を通るように配置されている。このように第2支持アーム50の先端部を配置すると、作業者のハンドル握り位置と直線Lの長さが短くなり、作業者がフロントハンドル40を把持して刈取作業を行う場合において、フロントハンドル40を上下方向に操作すると、直線Lが支軸として作用し、第3支持アーム55の先端部が作用点として作用して、第3支持アーム55の先端部が直線L周りのヘッジトリマ1の回転を規制する。このため、操作中のヘッジトリマ1の姿勢を安定化することができ、操作性の悪化を防止することができる。
【0035】
また、第3支持アーム55の先端部は、その接続位置57から直線Lに下ろした垂線の長さαがフロントハンドル40を握った作業者の手Hの親指Htの位置から直線Lに下ろした垂線の長さβより長くなるような位置に配置されている。このようにすると、作業者がフロントハンドル40を把持して刈取作業を行う場合、ハンドル操作時に作用するフロントハンドル40の基端部に作用する回転力を小さくして第3支持アーム55の先端部に作用させることができる。このため、前述した第3支持アーム55の長さに関する技術と相まって防振部材56に作用する力の大きさをより小さくすることができ、防振部材56の硬さを柔らかくして防振性能を高めても防振部材56の変形量を抑えることができ、操作性の悪化を防止することができる。
【0036】
また第1支持アーム45の先端部は、図1に示す上刃21の刃部21aと下刃23の刃部23aが対向して往復動する範囲内の支持部材10にボルト60・ナット61を介して締結されている。このようにすると、第1支持アーム45の先端部の締結位置47において往復動する上刃21及び下刃23の各刃部21a、23aの移動方向(前後方向)に対して直交する方向(上下方向)の間隔が広がる事態を防止することができ、同時に振動を低減でき、締結位置周辺を往復動する刃部21a、23aの刈取性能を向上することができる。尚、第1支持アーム45の先端部を、刈取頻度の高い箇所に締結することで、より刈取性能を向上できる。
【0037】
このように構成された第1支持アーム45、第2支持アーム50及び第3支持アーム55の各先端部は、円環状に形成されており、前述した防振部材46,51,56の外周に嵌合するようにして取り付けられている。これら防振部材46,51,56は、ゴム等で形成され、弾性を有して円筒状である。防振部材46,51,56は、その中心軸線に沿った方向の力を受けると、圧縮変形又は引っ張り変形し、中心軸線に対して直交する方向の力を受けると、剪断変形する。
【0038】
このように構成された防振部材のうち、第1支持アーム45及び第3支持アーム55の各先端部に取り付けられた防振部材46,56は中心軸線が上下方向に延びるようにして配置されており、この防振部材46,56に上下方向の力が作用すると、引っ張り変形及び圧縮変形し、防振部材46,56に前後方向の力が作用すると剪断変する。一方、第2支持アーム50の先端部に設けられた防振部材51は、中心軸線が左右方向に延びるように配置されており、この防振部材51に前後方向を有した力が作用すると剪断変形し、左右方向の力を受けると引っ張り変形及び圧縮変形する。
【0039】
第2支持アーム50及び第3支持アーム55の先端部に取り付けられた防振部材51,56は、防振部材51,56の貫通孔51a内に挿通された係止部材63の先端部をギアケース31の側面に設けられたフランジ部31a,31bの表面に当接した状態で係止部材63内を挿通したボルト60をフランジ部31a,31bに締結することによって、ギアケース31に取り付けられている。一方、第1支持アーム45の先端部に取り付けられた防振部材46は、防振部材46内に挿通された係止部材63の先端部を支持部材10の上面に当接した状態で係止部材63及び支持部材10に挿通したボルト60にナットを締結して取り付けられている。
【0040】
なお、防振部材46,51,56は、取り付けられた状態において、軸方向に僅かな隙間を有して設け、又は防振部材46,51,56が自然長で隙間が無い状態で設けてもよい。
【0041】
このように、3つの支持アームの各先端部に防振部材46,51,56を介して取り付けると、ヘッジトリマ1に前後方向の力が発生すると、防振部材46,51,56の全てが剪断変形して前後方向成分の振動を吸収する。ヘッジトリマ1は、刈取部20を構成する上刃21及び下刃23が互いに摺接しながら前後方向に移動するため、前後方向成分の振動が大きいが、この前後方向の振動を全ての防振部材46,51,56が剪断変形によって吸収する。
【0042】
一般に、弾性体は比例限度内において応力とひずみが比例し、一方向の垂直応力と縦ひずみとの比を縦弾性係数Eといい、剪断応力と剪断ひずみとの比を横弾性係数Gという。そして、均質等方な弾性体では、E=2G(1+1/m)なる関係が成立する。ここで、mはポアソン比を表す。この関係式から、横弾性係数Gは縦弾性係数Eより小さいので、弾性体は、圧縮・引っ張り方向の変形と比較すると、剪断方向に変形し易い(柔らかい)。その結果、弾性体に作用する軸方向の力と剪断方向に作用する力の大きさが同じと仮定した場合、剪断方向のひずみは軸方向のそれより大きくなるので、剪断方向に作用する力のエネルギをより多く吸収することができる。
【0043】
このため、作業時において、ヘッジトリマ1に前後方向の振動が発生すると、防振部材46,51,56は最も柔軟になる剪断方向で振動を受けて吸収する。またハンドル操作時では、防振部材46,51,56に作用する力は上下方向成分と左右方向成分を有した合力となる。このとき、左右方向のハンドル操作に対しては、第1支持アーム45の先端部が支点となり第2支持アーム50の先端部が作用点となって、第2支持アーム50の先端部に設けられた防振部材51が圧縮変形又は引っ張り変形する。また上下方向のハンドル操作に対しては、直線Lが支軸となり第3支持アーム55の先端部が作用点となって、第3支持アーム55の先端部に設けられた防振部材56が圧縮変形又は引っ張り変形する。
【0044】
このように、フロントハンドル40を支持するハンドル支持構造は、前後方向の振動に対して全ての防振部材46,51,56を柔軟に作用させ、フロントハンドル40の操作力に対して防振部材46,51,56を強固に作用させることができる。このため、防振性能及び操作性がともによいヘッジトリマ1のハンドル支持構造を提供することができる。尚、防振部材46,51,56は、同様に弾性係数に特徴を持った、つる巻きばねや板ばねで構成してもよい。
【0045】
なお、前述した実施例では、手持ち式動力作業機の一例としてヘッジトリマ1を説明したが、同様の構成を有する刈払機でもよい。その場合、支持部材は操作桿、刈取部は回転刈刃として置き換えればよく、当業者であれば容易に応答できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態に係わるヘッジトリマの斜視図を示す。
【図2】ヘッジトリマのフロントハンドルを支持するハンドル支持構造の斜視図を示す。
【図3】ハンドル支持構造の平面図を示す。
【図4】ハンドル支持構造の側面図を示す。
【符号の説明】
【0047】
1 ヘッジトリマ(手持ち式動力作業機)
10 支持部材
20 刈取部
21 上刃
23 下刃
30 エンジン(動力供給部)
31 ギアケース(動力供給部、ケース)
40 フロントハンドル(ハンドル)
45 第1支持アーム
46,51,56 防振部材
50 第2支持アーム
55 第3支持アーム
L 直線
O ハンドルの基端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材の前側に設けられた刈取部と、前記支持部材の後端部に設けられて前記刈取部に動力を供給する動力供給部と、前記支持部材に取り付けられて該支持部材の前後方向に対する左右方向一方側に延びるハンドルとを備えた手持ち式動力作業機のハンドル支持構造であって、
前記ハンドルは、該ハンドルの基端部から前後方向に延びる第1支持アーム、第2支持アーム及び第3支持アームによって少なくとも支持され、
前記第1支持アームは、前記ハンドルの基端部よりも前側に延びて先端部が防振部材を介して前記支持部材に接続され、前記第2支持アームは、前記ハンドルの基端部よりも後側に延びて前記支持部材の左右方向一方側に先端部が防振部材を介して接続され、前記第3支持アームは、前記ハンドルの基端部よりも後側に延びて前記支持部材の左右方向他方側に先端部が防振部材を介して接続され、
前記第1支持アーム、前記第2支持アーム及び前記第3支持アームの各長さは、前記ハンドルを握った作業者の親指位置から該ハンドルの基端部までの長さより長くなるように構成されていることを特徴とする手持ち式動力作業機のハンドル支持構造。
【請求項2】
前記刈取部は、前記支持部材が延びる方向に沿って相互に重なり合うようにして往復動自在に設けられた上刃及び下刃を備え、
前記第2及び第3の支持アームは、先端部が前記動力供給部を収容するケースに接続され、
前記第1支持アームの先端部が前記支持部材に接続された接続位置と前記第2支持アームの先端部が前記ケースに接続された接続位置とを繋ぐ直線は、平面視で前記ハンドルを通るように構成されることを特徴とする請求項1に記載の手持ち式動力作業機のハンドル支持構造。
【請求項3】
前記第3支持アームの先端部が前記ケースに接続された接続位置から前記直線に下ろした垂線の長さは、前記ハンドルを握った作業者の親指位置から前記直線に下ろした垂線の長さより長くなるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の手持ち式動力作業機のハンドル支持構造。
【請求項4】
前記第1支持アームの先端部は、前記支持部材に締結されて接続され、
前記第1支持アームの締結位置は、前記上刃の刃部と前記下刃の刃部が対向して往復動する範囲内に設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の手持ち式動力作業機のハンドル支持構造。
【請求項5】
前記第1支持アーム及び前記第3支持アームの各先端部に設けられた前記防振部材は、上下方向の力を受けると引っ張り変形及び圧縮変形可能であり、前後方向の力を受けると剪断変形可能に配置され、
前記第2支持アームの先端部に設けられた前記防振部材は、前後方向を有した力を受けると剪断変形可能であり、左右方向を有した力を受けると引っ張り変形及び圧縮変形可能に配設されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の手持ち式動力作業機のハンドル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−11793(P2008−11793A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186707(P2006−186707)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000237215)株式会社マキタ沼津 (27)