説明

手術用パッド材

【課題】
手術時に切開部組織の乾燥を抑止することができると共に組織への固着が極めて少なく、かつ造影効果が得られる手術用パッド材を提供する。
【解決手段】
セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが、熱融着樹脂を介して、またはオレフィン系樹脂シートの熱融着によって接合されてなり、さらにX線造影部材を具備することを特徴とする手術用パッド材であって、好適には前記の熱融着樹脂にX線造影部材としてX線造影剤が配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳外科手術等の切開手術の際の体内組織の保護に好適に用いられる手術用パッド材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切開手術の際には、一般に、体内組織の保護や隔離を目的として、また、血液あるいは体液等を吸収し、術野をクリアに保つことを目的として、ガーゼ、不織布およびスポンジ等の物品が用いられている。これらの物品は、手術終了時に体内から取り除かれる。しかしながら、これらの物品は、手術中に血液等を吸収し、目視では体内組織との区別が困難となってしまうため、体内に残留されてしまう恐れがある。
【0003】
そのため、不織布の端部に糸を縫い付けて、その糸を術野外に伸ばしておくことにより、手術終了時の不織布の体内からの回収を容易にして残留を防止したり(特許文献1参照。)、X線造影糸を配設したガーゼを使用し、手術終了時に手術部位をX線撮影することにより、体内残留の有無を確認するという方法が採られている(特許文献2および3参照。)。
【0004】
しかしながら、前者の場合には、不織布の端部に縫い付けられた糸が操作の邪魔になる場合もあり、また後者の場合には、残留防止造影糸入りのガーゼは硬く変形し難いため、細かな部位に対して用いることは困難であった。
【特許文献1】特開2005−305044号公報(第6頁の図1)
【特許文献2】特開2004−194994号公報
【特許文献3】特開2006−34507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、手術時に切開部組織の乾燥を抑止することができると共に、組織への固着が極めて少なく、かつ造影効果が得られる手術用パッド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の手術用パッド材は、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが接合されてなり、さらにX線造影部材を具備することを特徴とするものである。
【0007】
本発明の手術用パッド材の好ましい態様によれば、前記のセルロース系スポンジシートと前記のオレフィン系樹脂シートとが熱融着樹脂によって接合されている接合構造を有するものである。
【0008】
本発明の手術用パッド材の好ましい態様によれば、前記の熱融着樹脂は、オレフィン系樹脂であり、そしてX線造影部材としての硫酸バリウムを10重量%〜300重量%の範囲内で含有しているものである。
【0009】
本発明の手術用パッド材の好ましい態様によれば、前記のセルロース系スポンジシートと前記のオレフィン系樹脂シートとが該オレフィン系樹脂シートの熱融着によって接合されている接合構造を有するものである。
【0010】
本発明の手術用パッド材の好ましい態様によれば、前記のセルロース系スポンジシートと前記のオレフィン系樹脂シートとの接合部に、X線造影部材としてのX線造影糸が配されている。
【0011】
本発明の手術用パッド材の好ましい態様によれば、前記のオレフィン系樹脂シートは、オレフィン系樹脂フィルムまたはオレフィン系樹脂繊維からなる不織布である。
【0012】
本発明の手術用パッド材の好ましい態様によれば、前記のオレフィン系樹脂シートには、スリットが入っているものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明の手術用パッド材によると、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが接合されているので、優れた吸液性を実現すると同時に要保護部位である切開部組織の乾燥を防ぐことができ、さらにX線造影部材を具備しているので未回収の手術用パッド材の確認を容易に行うことができるため、体内残留等のリスクを軽減することができる。
【0014】
請求項2に係る発明の手術用パッド材によると、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが熱融着樹脂によって接合されているので、接着剤成分の溶出や溶剤の揮発等の恐れがなく、安全性が高い。
【0015】
請求項3に係る発明の手術用パッド材によると、熱融着樹脂が硫酸バリウムを10〜300重量%の範囲内で含有しているので、造影部を二次元とすることができるため高い造影効果を得ることができると共に、手術時に任意形状にしても造影効果が低減しにくく、またX線造影部材の脱落も防止することができる。
【0016】
請求項4に係る発明の手術用パッド材によると、熱融着樹脂をオレフィン系樹脂とすることにより、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートの柔軟性を損なうことなく、強固に接合することができる。
【0017】
請求項5に係る発明の手術用パッド材によると、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが、オレフィン系樹脂シートの熱融着によって接合されているので、シート自体を形成するオレフィン系樹脂がセルロース系スポンジシート内に浸入し接合・一体化できるので、強固に接合することができる。
【0018】
請求項6に係る発明の手術用パッド材によると、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとの接合部にX線造影糸を配しているので、X線造影糸自体の強度が高くない場合においても切断や脱落等は生じ難く、識別がより容易になるような造影効果を得ることができる。
【0019】
請求項7に係る発明の手術用パッド材によると、オレフィン系樹脂シートとしてオレフィン系樹脂フィルムを用いるので、優れた吸液性を実現すると同時に要保護部位である切開部組織の乾燥を防ぐことができる。
【0020】
請求項8に係る発明の手術用パッド材によると、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂繊維からなる不織布とが接合されているので、優れた吸液性を実現すると同時に不織布層から適度に水分を蒸散させることができ、要保護部位である切開部組織の乾燥を適度に防ぐことができる。
【0021】
請求項9に係る発明の手術用パッド材によると、オレフィン系樹脂シートにスリットが入っているので、使用時にスリット部分から吸液することによりセルロース系スポンジシートが寸法変化をしても、手術用パッド材のカールを防ぐことができる。また、スリット部分から適度に水分を蒸散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の手術用パッド材を図面に基づいてより具体的に説明する。
【0023】
図1は、本発明にかかる手術用パッド材の構成を例示説明するための概略斜視図である。図1において、手術用パッド材1は、体液や血液等を吸収する吸収性部材であるセルロース系スポンジシート2とオレフィン系樹脂シート3とが熱融着樹脂4を介して接合された構成となっており、熱融着樹脂4には、X線造影部材としてのX線造影剤(図示せず)が配合されている。図1の手術用パッド材1は、1面がセルロース系スポンジシート2で他面がオレフィン系樹脂シート3で構成されている。
【0024】
本発明において用いられるセルロース系スポンジシートは、従来からの製造プロセスで製造されるセルローススポンジをそのまま用いて構わない。また、セルローススポンジには、補強繊維として綿(コットン)、亜麻、ラミー、パルプを単独またはそれらを組合せて含むことも好ましく、これら補強繊維を含むことによりスポンジとしての強度が増し、リントを抑制することができる。
【0025】
市販のセルロース系スポンジシートとしては、東レセルローススポンジ(東レ・ファインケミカル(株)製、商品名)等を使用することができる。このセルローススポンジ原反は、概ね100mm×170mm×600mm程度の断面が長方形、6角形および楕円形等の食パン状(ブロック状)の形状のものであり、これらをスライスし、カットしあるいは打ち抜いたりして、本発明の手術用パッド材で用いられるセルロース系スポンジシートの大きさに形成することができる。
【0026】
セルロース系スポンジシートは、液体の吸収性能と拡散速度が大きい。セルロースはそれ自体が吸水性を備えているので、セルロース系スポンジシートは、吸水性能を付与する特別な後加工等を行う必要がなく、後加工工程が増えることや後加工に用いる薬剤の安全性についてのリスク管理に伴うコスト増加を抑えることが可能となる。また、セルロース系スポンジシートは、リントの発生が少なく、手術時の取扱性に優れており、さらに切開部組織への固着が極めて少ないという特性を有するため手術終了時の回収も容易である。
【0027】
本発明の手術用パッド材を構成するセルロース系スポンジシートは、使用に先立って水等で湿潤させておいてもよいが、乾燥状態のものや乾燥圧縮したものを使用してもよい。
【0028】
セルロース系スポンジシートは、生理食塩水が含浸された状態での厚さが0.5〜5mmの範囲内にあることが好ましく、0.5〜3mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0029】
本発明で用いられるオレフィン系樹脂シートは、加工が容易であるとともに強度、耐薬品性および生物学的安全性の高い素材で、かつ患部へ接触した際に患部に損傷を与えない程度の柔軟性がある素材である点から手術用パッド材には好適である。
【0030】
オレフィン系樹脂シートとしては、オレフィン系樹脂フィルムおよびオレフィン系樹脂繊維からなる不織布が好適である。また、オレフィン系樹脂シートを構成するオレフィン系樹脂には撥水性があるので、表面が血液等で汚染され難く、例えばオレフィン系樹脂シートをそれ自体、体内組織や血液との識別が容易な色に着色しておくと、手術終了時の手術用パッド材の回収を目視によっても容易に行うことが可能となる。
【0031】
オレフィン系樹脂シートとしてオレフィン系樹脂繊維からなる不織布を用いた場合、不織布層から適度に水分を蒸散させることができ、要保護部位である切開部組織の乾燥を適度に防ぐことができる。
【0032】
オレフィン系樹脂シートを構成するオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンやポリエチレン等を用いることができる。
【0033】
オレフィン系樹脂シートの厚さは、取扱性や柔軟性の観点から、10〜100μmの範囲内にあることが好ましく、10〜50μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0034】
また、オレフィン系樹脂シートの大きさは、3cm×10cm程度の大面積の場合は、厚みがあった方が取り扱い性が良く、また5mm角〜1cm角程度の小面積の場合は、組織への追従性の点から薄い方が好ましい。
【0035】
また、オレフィン系樹脂シートがオレフィン系樹脂フィルムの場合は、上記のシート厚さの範囲であれば、例えば不織布を溶融しフィルム状にしたものでもよい。オレフィン系樹脂シートは、セルロース系スポンジシートが生理食塩水を含む場合、その生理食塩水の蒸発を抑制する作用を有する。
【0036】
好適なオレフィン系樹脂シートには、上記のようにオレフィン系樹脂フィルムとオレフィン系樹脂繊維からなる不織布が挙げられるが、オレフィン系樹脂シートの役割は術時にセルロース系スポンジシートに含ませた乾燥防止用の生理食塩水の効果を長時間持続させることが主の目的であり、その意味においてはオレフィン系樹脂フィルムが好ましく用いられる。またその際に、適度にオレフィン系樹脂シート層にスリットや穴から水分を蒸発させることにより、蒸発量を制御させたいとの要望に対してはオレフィン系樹脂繊維からなる不織布の形態や、あらかじめ穴のあるオレフィン系樹脂シートを用いたり、接合後にオレフィン系樹脂シート等に穴をあけたりすることができる。
【0037】
本発明の手術用パッド材は、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが接合構成されている。本発明の手術用パッド材の大きさ(サイズ)は、用途や目的あるいは要求特性等によって異なるが、好ましくは5mm角〜3cm×10cmであり、生理食塩水に含浸された状態で厚みは好ましくは1mm〜5mmである。用いられるセルロース系スポンジシートは、上記の厚みに適合する厚みにスライスされる。本発明の手術用パッド材は、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートを上記サイズに裁断し接合してもよく、大きめのセルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートの接合体を形成し、それを上記サイズに裁断してもよい。
【0038】
本発明にかかる手術用パッド材は、さらに、X線造影部材を具備するものである。X線造影部材としては、例えば、X線造影部材として硫酸バリウムをオレフィン樹脂等と混練して糸状に紡糸したX線造影糸を用いたり、X線造影剤をオレフィン系樹脂シートやセルロース系スポンジシートに塗布して配設したり、熱融着樹脂に配合して使用することができる。
【0039】
X線造影糸としては、例えば、アコーディス スペシャリティ ファイバーズ社(Acordis Speciality Fibres Ltd)製の「マイクロペイク(Micropake)」(商品名)等を用いることができる。
【0040】
図2は、本発明にかかる手術用パッド材の他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。X線造影糸を用いる場合は、X線造影糸を手術用パッド材の表面に貼付してもよいが、図2に示すように、セルロース系スポンジシート2とオレフィン系樹脂シート3との間の接合部にX線造影糸5を挟みこむ形にすると、X線造影糸の切断や脱落等が起こりにくく、好ましい態様である。具体的に、図2ではX線造影糸5は、オレフィン系樹脂シート3と熱融着樹脂4との接合面に挟みこまれているが、熱融着樹脂4とセルロース系スポンジシート2との接合面に挟みこむように構成することもできる。X線造影糸5は、オレフィン系樹脂シート3を通してX線造影糸(通常黒色)が視認できるという観点からは、図2のように、オレフィン系樹脂シート3と熱融着樹脂4との接合面に挟みこまれていることが好ましい。
図2の手術用パッド材1は、1面がセルロース系スポンジシート2で他面がオレフィン系樹脂シート3で構成されている。
【0041】
図3は、本発明にかかる手術用パッド材において、オレフィン系樹脂フィルムを分断する形でスリットが入った他の実施態様を例示説明するための概略斜視図であり、図4は、本発明にかかる手術用パッド材において、オレフィン系樹脂フィルムに碁盤目にスリットが入った他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。
【0042】
本発明においては図3と図4に示すように、セルロース系スポンジシート2と接合しているオレフィン系樹脂シート3には、スリット(切れ込み)6が入っていることが好ましい。セルロース系スポンジシートは、乾燥状態でオレフィン系樹脂シートと接合するが、セルロース系スポンジシートは湿潤すると10%程度膨張するため、オレフィン系樹脂シートとの接合後に湿潤させると両シートの膨張率の違いから手術用パッド材にカールが発生しやすい。オレフィン系樹脂シートにスリット(切れ込み)6を入れておくと、セルロース系スポンジシートの寸法変化にも追従することができ、手術用パッド材のカールを抑えることが可能となる。また、スリット(切れ込み)6の幅や間隔を調整することにより、体液等の蒸発量の制御をすることも可能である。
【0043】
スリット(切れ込み)6は、オレフィン系樹脂シート3をセルロース系スポンジシートに接合した後に入れてもよいし、複数枚のオレフィン系樹脂シートを並べて接合してもよい。スリット(切れ込み)6は、図3のようにオレフィン系樹脂シート3を分断するような形で入れてもよいし、図4のように碁盤の目状にスリット6を形成してもよい。
【0044】
スリットによる効果としては、蒸発量と生理食塩水含浸時のカールや、接触面へのパッド材の追従性(なじみ)等が挙げられる。手術用パッド材が小面積のものでは、図3のようなスリット形態で十分であるが、大面積の手術用パッド材を使用する場合は、接触させたい箇所が複雑形状であれば図4のような碁盤の目状のスリット形態のものが有効な場合もある。また、大面積の手術用パッド材を、術時の状況により裁断して用いる場合には、スリットのないものや図3のような分断するようなスリットの方が好ましい。
スリット間隔は、セルロース系スポンジシートの寸法変化に対する追従性の点から1〜10mmピッチであることが好適である。
【0045】
図3と図4の手術用パッド材1は、1面がセルロース系スポンジシート2で他面がオレフィン系樹脂シート3で構成されている。
【0046】
セルロース系スポンジシート2とオレフィン系樹脂シート3との接合には、接着剤や粘着材または粘着テープ等を用いたり、オレフィン系樹脂シートが不織布の場合には、ニードルパンチ等の物理的な接合方法で両者を一体化することができる。接合手段としては、オレフィン系樹脂シート自体を熱プレス等でセルロース系スポンジシートに熱融着する方法や、セルロース系スポンジシート2とオレフィン系樹脂シート3を熱融着樹脂4を用いて熱接着させる方法等が挙げられる。物理的な接合方法による場合には、接着剤成分の溶出や溶剤の揮発等の恐れがなく、薬液に対する安定性もあり、高い安全性が得られる。製造プロセスを簡略化し接着強度を向上させることができるという点からは、上記したように、オレフィン系樹脂シート自体を熱プレス等でセルロース系スポンジシートに熱融着する方法や、熱融着樹脂4を用いて熱接着させる方法を用いることが好ましい。
【0047】
熱融着樹脂の融点は、80℃以上であることが好ましい。手術用パッド材を、使用前にオートクレーブ等で加熱殺菌処理を行う場合には、融点の高い樹脂を使用することが好ましい。加熱殺菌処理の必要がない用途においては、使用時の温度自体は常温に近いため汎用の熱融着樹脂であればよいが、融点の高い熱融着樹脂を採用することで手術用パッド材の使用範囲の制約が少なくなる。
【0048】
また、熱融着樹脂の融点は、セルロース系スポンジシートの黄変(炭化)を考慮すると160℃以下であることが好ましく、より好ましくは150℃以下である。
【0049】
また、熱融着性樹脂やオレフィン系樹脂シート自体による熱接着においては、セルロース系スポンジシートのスポンジの空隙内に、熱接着樹脂やオレフィン系樹脂シートの一部が適度に浸入し、熱接着樹脂やオレフィン系樹脂シートが冷却固化したときに、アンカー効果を保持できる形とすることが好ましい。
【0050】
一方、オレフィン系樹脂シートの熱接着においては、同一系の素材同士の接着であれば容易に接着することが可能なので、熱融着樹脂としてオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。オレフィン系樹脂を用いると、薬液や体液が浸透しにくく、また、オレフィン系樹脂シートとの親和性がありセルロース系スポンジシートとの接着性にも柔軟性を損なうことなくアンカー効果による固定性に優れるため、良好な接合強度が得られる。
【0051】
熱融着樹脂は、溶融したものを塗布して用いることもできるし、不織布等のシート状に構成したものをセルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとの間に挟みこみ、熱により軟化、溶融させて接着させることもできる。
【0052】
また、熱融着樹脂の耐薬品性が高ければ、消毒薬液等による前処理も可能となる。オレフィン系樹脂は、生物学的な安全性があり、アルカリ、酸およびその他の薬剤に対する耐性がある。
【0053】
オレフィン系樹脂シートと熱融着樹脂には、必要に応じて粒子や耐電防止剤等の添加物を含有させても良く、他の成分が共重合されていても良い。
【0054】
熱融着樹脂として体内組織や血液との識別が容易な色に着色されたものを用いると、オレフィン系樹脂シートが着色されていない場合でも、手術時の視認が容易となり、回収も容易に行うことができる。
【0055】
本発明の手術用パッド材は、X線造影部材を具備するものであるが、上述のように、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとを接合する熱融着樹脂に造影効果を持たせることも可能である。その場合、熱融着樹脂にX線造影部材としてのX線造影剤である硫酸バリウムを10重量%〜300重量%の範囲内で含有させることが好ましく、さらに好ましい含有量は50重量%〜250重量%である。硫酸バリウムの含有量が10重量%未満であると十分な造影効果が得られず、300重量%を超えると熱融着樹脂の接合効果を阻害してしまう傾向がある。
【0056】
熱融着樹脂に造影効果を持たせることにより、手術用パッド材の全体を二次元で造影させることができる。また、X線造影糸を数本だけ具備した構成の手術用パッド材では、X線造影糸が骨格部分に隠れたり、また、X線照射の方向によってはX線撮影による確認が難しくなる場合もあるが、熱融着樹脂全体が造影される構成では確認が容易であり、好適に使用することができるのでより好ましい態様である。X線造影剤である硫酸バリウムを熱融着樹脂に含有させると、熱融着樹脂が白色となるために、前述のとおり手術中の視認も容易となるという効果も発揮される。
【0057】
熱融着樹脂の別の態様として、X線造影剤である硫酸バリウムを含有した熱融着樹脂をフィルムや不織布等のシート状に成形して用いると、作業性よくセルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとを貼り合わせることができる。
【0058】
セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとの接合部には、上述のように、さらにX線造影糸を配することもできる。ガーゼ等にX線造影糸を織り込んだり圧着させたりする場合と異なり、本発明では、X線造影糸がセルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとの間に挟み込ませることができるので、X線造影糸自体の強度不足や抜け落ちは問題とならない。X線造影糸を単独で用いる場合には、強度がないと切断や脱落の恐れがあるが、強度を保とうとするとX線造影糸に含有されるX線造影剤の濃度を高くすることができず、X線撮影時に確認が難しいということがあった。X線造影糸を太くすることにより確認を容易にするという手段もあるが、その場合はX線造影糸の剛性が大きくなり、柔軟性が低減するという問題が生じうる。これに対し、本発明では、セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとの接合部にX線造影糸を挟み込んだり、熱融着樹脂層に併せて配置したりするので、X線造影糸自体の強度は重要ではない。
【0059】
図5は、X線造影糸の配置に特徴がある、本発明にかかる手術用パッド材の他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。図5において、手術用パッド材1は、セルロース系スポンジシート2とオレフィン系樹脂シート3とが熱融着樹脂4を介して接合された構成となっており、オレフィン系樹脂シート3と熱融着樹脂4の接合面にX線造影糸5が螺旋状に配置されている。このように、X線造影糸5を図形を描くように配することにより、手術用パッド材を固有に識別することができる。
【0060】
また、図6は、X線造影による二次元での認識が可能となるような、本発明にかかる手術用パッド材の他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。図6において、手術用パッド材1は、セルロース系スポンジシート2とオレフィン系樹脂シート3とが熱融着樹脂4、4を介して接合された構成となっており、その熱融着樹脂4、4の間にX線造影糸5を含む布帛が挟み込まれている。このように、手術用パッド材を二次元で認識可能とするように、X線造影糸5をリング状にしたりクロスさせて2次元配置したりすることも可能となる。
【0061】
本発明の手術用パッド材においては、二次元での認識を可能とする目的からは、図1や図3〜4のように、X線造影剤をオレフィン系樹脂等の熱融着樹脂と混練して2次元状に配合することが好ましい。また、図5のようにX線造影糸を螺旋状にひろげたり、あるいは図6のようにX線造影糸5を含む布帛を用いることにより、二次元での認識を可能とすることも好ましい態様である。
【0062】
本発明の手術用パッド材は、脳外科手術等に好適に用いられる。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
セルローススポンジ(東レ・ファインケミカル製 CA107原反)を湿潤状態で、バーチカルカッターにて3mm(厚み)×150mm(幅)×580mm(長さ)に裁断後、60℃の温度のオーブン中に24時間放置し乾燥した。乾燥したセルローススポンジを熱プレス機にて、120℃の温度で0.3mmの厚さに圧縮し、圧縮シートを作製した。次に、ポリオレフィン製のホットメルト接着剤(TEX YEAR INDUSTRIES INC.製 スプレーメルト 977T)100部を溶融し、硫酸バリウム粉末80部を均一になるよう混合し、その後冷却して硫酸バリウム粉末をブレンドしたホットメルト接着剤(熱融着樹脂)を作成した。この硫酸バリウム入りのホットメルト接着剤を、ホットメルトガン(三洋貿易 TR60.3)に投入し180℃の温度で圧縮したセルローススポンジの片面に噴霧状に均一なるように塗布し、市販のポリプロピレンフィルム(0.3mm厚)を貼り合わせた。貼り合わせたシートを再度上記熱プレス機でプレスし、冷却後裁断し、0.6mm(厚み)×30mm(幅)×100mm(長さ)の手術用パッド材を作成した。得られた手術用パッド材を生理食塩水に含浸すると、厚みは約3.6mmに膨張し、セルローススポンジ内に十分水分が含浸されていることが確認された。更に、この手術用パッド材をレントゲン撮影すると、形状が白色化して撮影されており、造影効果のあることが確認された。
【0064】
(実施例2)
実施例1で得られた0.6mm(厚み)×30mm(幅)×100mm(長さ)の手術用パッド材のポリプロピレンフィルム表面をNC連続打ち抜き機を用い、3mmピッチで長さ方向に3カ所の切り込みを寸止めカット(深さ0.3mm)加工を実施し、図3に示す手術用パッド材を得た。この手術用バッド材に生理食塩水を含浸すると、切り込み部分に約0.3mmの隙間が形成され、水分を蒸発させやすい構造となることが確認された。
【0065】
(実施例3)
セルローススポンジ(東レ・ファインケミカル製 CA107原反)を湿潤状態で、バーチカルカッターにて3mm(厚み)×150mm(幅)×580mm(長さ)に裁断後、60℃の温度のオーブン中に24時間放置し乾燥した。乾燥したセルローススポンジを熱プレス機にて、120℃の温度で0.3mmの厚さに圧縮し、圧縮シートを作製した。次に、ポリオレフィン製のホットメルト接着剤(TEX YEAR INDUSTRIES INC.製 スプレーメルト 977T)100部を溶融し、硫酸バリウム粉末80部を均一になるよう混合し、その後冷却して硫酸バリウム粉末をブレンドしたホットメルト接着剤(熱融着樹脂)を作成した。圧縮したセルローススポンジの片面に、あらかじめホットメルト接着剤(TEX YEAR INDUSTRIES INC.製 スプレーメルト 977T)をホットメルトガン(三洋貿易 TR60.3)に投入し180℃の温度で噴霧状に均一になるように塗布した後に、作成した硫酸バリウム入りのホットメルト接着剤を、ホットメルトガン(三洋貿易 TR60.3)に投入し180℃の温度でスパイラル状に約30mm直径の円を描くように塗布し、さらに市販のポリプロピレンフィルム(0.3mm厚)を貼り合わせた。貼り合わせたシートを再度上記熱プレス機にてプレスし、冷却後裁断し、0.6mm(厚み)×30mm(幅)×100mm(長さ)の図5に示す手術用パッド材を作成した。
【0066】
(実施例4)
セルローススポンジ(東レ・ファインケミカル製 CA107原反)を湿潤状態で、バーチカルカッターにて3mm(厚み)×150mm(幅)×580mm(長さ)に裁断後、60℃の温度のオーブン中に24時間放置し乾燥した。乾燥したセルローススポンジを熱プレス機にて、120℃の温度で0.3mmの厚さに圧縮し、圧縮シートを作製した。次に、造影糸入りガーゼ(白十字社製)を長さ方向中央部にX線造影糸が配置されるように150mm(幅)×580mm(長さ)に裁断しX線造影糸入りの布帛を得た。次に、ポリオレフィン製のホットメルト接着剤(TEX YEAR INDUSTRIES INC.製 スプレーメルト 977T)を圧縮したセルローススポンジの片面にホットメルトガン(三洋貿易 TR60.3)に投入し180℃の温度で噴霧状に均一になるように塗布した後に、布帛を貼り付け、さらに貼り付けた布帛の表面に同様にホットメルト接着剤を噴霧状に均一になるように塗布し、さらに市販のポリプロピレンフィルム(0.3mm厚)を貼り合わせた。貼り合わせたシートを再度上記熱プレス機でプレスし、冷却後裁断し、図6に示す手術用パッド材を作成した。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明にかかる手術用パッド材の例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明にかかる手術用パッド材の他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。
【図3】図3は、本発明にかかる手術用パッド材において、オレフィン系樹脂シートを分断する形でスリットが入った他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。
【図4】図4は、本発明にかかる手術用パッド材において、オレフィン系樹脂シートに碁盤目にスリットが入った他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。
【図5】図5は、X線造影糸の配置に特徴がある、本発明にかかる手術用パッド材の他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。
【図6】図6は、X線造影による二次元での認識が可能となるような、本発明にかかる手術用パッド材の他の実施態様を例示説明するための概略斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 : 手術用パッド材
2 : セルロース系スポンジシート
3 : オレフィン系樹脂シート
4 : 熱融着樹脂
5 : X線造影糸
6 : スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが接合されてなり、さらにX線造影部材を具備することを特徴とする手術用パッド材。
【請求項2】
セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが熱融着樹脂によって接合されている接合構造を有する請求項1記載の手術用パッド材。
【請求項3】
熱融着樹脂が、オレフィン系樹脂である請求項1または2記載の手術用パッド材。
【請求項4】
熱融着樹脂が、X線造影部材としての硫酸バリウムを10重量%〜300重量%の範囲内で含有している請求項1〜3のいずれかに記載の手術用パッド材。
【請求項5】
セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとが該オレフィン系樹脂シートの熱融着によって接合されている接合構造を有する請求項1記載の手術用パッド材。
【請求項6】
セルロース系スポンジシートとオレフィン系樹脂シートとの接合部に、X線造影部材としてのX線造影糸が配されている請求項1〜5のいずれかに記載の手術用パッド材。
【請求項7】
オレフィン系樹脂シートが、オレフィン系樹脂フィルムである請求項1〜6のいずれかに記載の手術用パッド材。
【請求項8】
オレフィン系樹脂シートが、オレフィン系樹脂繊維からなる不織布である請求項1〜6のいずれかに記載の手術用パッド材。
【請求項9】
オレフィン系樹脂シートにスリットが入っている請求項1〜8のいずれかに記載の手術用パッド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−89899(P2009−89899A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263514(P2007−263514)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)