説明

手袋及びその製造方法

【課題】 細かな作業等の際に縫着線が邪魔にならず作業性に優れ、指先における装着感も良く、低コストで効率よく生産可能な手袋及びその製造方法を提供せんとする。
【解決手段】 縫製原手2を、ポリウレタン弾性繊維を含む繊維生地20、21より構成し、手型に装着した縫製原手2に外力を与えて、少なくとも指先の縫着線22を爪先対応位置23よりも甲部側にずらし、外力を取り除いても、ポリウレタン弾性繊維による生地の伸び及び締め付け作用により、縫着線22が甲側にずれた位置に維持し、その表面所定箇所に、ゴム又は樹脂のコーティング材3を被着して固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁業、農業、食品産業、医療、ハイテク産業等における種々の作業用手袋として、或いはスポーツ用手袋として好適な手袋に係わり、より詳しくは、繊維生地を縫製して作られた原手の表面にゴム又は樹脂のコーティング材を設けた手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維製の編み生地を縫製した手袋原手の表面に、ゴム又は樹脂素材のコーティング材を被着させ、防水性や補強を施した作業用手袋が広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この原手は、同一の生地を用いて甲側および掌側の二つの略同一形状の繊維生地を製作し、これらを互いに縫着することにより構成されるが、この原手にコーティング材を被着させてなる従来の手袋は、手に装着された状態において、繊維生地の縫着線が手の甲と掌の略中間に位置し、特に指先部分では指先の腹部分や先端部分、指先と爪先の間の部分などに前記縫着線が位置するため、指先で細かい物を掴んだりする作業の際に当該縫着線が障害になるといった問題や、指先の装着感を悪化させる原因になるといった問題があった。
【0003】
そこで、このような欠点を改善するため、原手の製作に際し、指の長さを甲側よりも掌側を長く裁断するなど、掌側の繊維生地を甲側よりもひとまわり大きく裁断し、これら二つを周縁部で縫着するものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、このような方法は、大きさの異なる甲側と掌側の繊維生地の作製・管理が煩わしく、またこれら二つの部分の縫着作業は、その周縁部の長さが大きく異なることから通常の平面上でのミシン縫いを行うことができず、極めて難しく現実的な方法ではなかった。
【0004】
また、本出願人は、甲部側および掌側の繊維生地を互いに伸びの違う素材により構成し、それらを縫製した後に、ゴム又は樹脂でコーティングし、指先の縫着線が爪先から甲側にずれた位置に固定させる手法を、先に出願(特願2005−23896)している。しかし、この手法においては、互いに伸びの異なる2種類の素材を使って甲部側および掌側の繊維生地を作製しなければならない。
【0005】
【特許文献1】特許第3110365号公報
【特許文献2】特開平8−284006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、細かな作業等の際に縫着線が邪魔にならず作業性に優れ、指先における装着感も良く、低コストで効率よく生産可能な手袋及びその製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、縫製原手を手型に装着した状態で表面にコーティング材を被着して作製される手袋であって、前記縫製原手を、ポリウレタン弾性繊維を含む繊維生地より構成し、手型に装着される前記縫製原手における少なくとも指先の縫着線を爪先対応位置よりも甲側にずらし、該手型上の縫製原手の表面所定箇所にゴム又は樹脂のコーティング材を被着させ、前記縫着線が甲側にずれた位置に固定されてなることを特徴とする手袋を構成した。
【0008】
ここで、前記繊維生地が、ポリウレタン弾性繊維を1〜35重量%含んでなるものが好ましい。
【0009】
また、縫着される掌部側及び甲部側の繊維生地が略同一形状であるものが好ましい。
【0010】
さらに、前記縫製原手を構成する繊維生地が、編み生地であるものが好ましい。
【0011】
また、本願発明は、縫製原手を手型に装着した状態で表面にコーティング材を被着して作製される手袋の製造方法であって、前記縫製原手を、ポリウレタン弾性繊維を含んでなる繊維生地より構成し、手型に装着される前記縫製原手の生地に対し、掌部側から甲部側へ引張り又は押し込みの外力を与えることにより、少なくとも指先の縫着線を爪先対応位置よりも甲側にずれた位置に移動させた後、前記ポリウレタン弾性繊維による生地の伸び及び締め付け作用により、前記縫着線が甲側にずれた位置に維持され、該手型上の縫製原手の表面所定箇所にゴム又は樹脂のコーティング材を被着させることにより、前記縫着線を甲側にずれた位置に固定してなることを特徴とする手袋の製造方法をも提供する。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる本発明の手袋及びその製造方法によれば、少なくとも指先の縫着線が爪先対応位置よりも甲側にずれた位置に固定されることから細かな作業等の際に縫着線が邪魔にならず作業性に優れ、指先における装着感も良好な手袋が得られる。このことは、特に指部を細くして指に密着する様に作られる手袋において顕著である。また、甲部側及び掌部側に、略同一形状の繊維生地を用いることができるので縫製も容易であり、しかも甲部側及び掌部側に同一素材の繊維生地を用いることができるので、繊維生地の管理が簡単であり、低コストで効率よく生産することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0014】
図7は、本発明に係る手袋を示す説明図であり、図1〜8は代表的な実施形態を示し、図中符号1は手袋、2は縫製原手、3はコーティング材をそれぞれ示している。
【0015】
本発明の手袋1は、甲部側と掌部側の繊維生地20、21を縫着して縫製原手2を作成し、該縫製原手2を手型4に装着した状態で、前記縫製原手2における少なくとも指先の縫着線22を爪先対応位置23よりも甲側にずらし、該手型上の縫製原手2の表面にコーティング材3を被着して作製され、特に、繊維生地20、21をポリウレタン弾性繊維を含んでなる生地とし、図7に示すように、少なくとも指先の縫着線22が爪先対応位置よりも甲側にずれた位置に固定されてなることを特徴としている。
【0016】
このようにして作製された手袋は、指先の縫着線が爪先より甲側にずれていて、手袋を嵌めて作業するとき、嵌め心地が良く、作業性がよい。
【0017】
繊維生地20、21は、伸縮性があるメリヤス編み生地であることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、繊維生地20、21は、ポリウレタン弾性繊維を含んだものであれば、従来から用いられている種々の繊維と組み合わせて用いることが可能である。特に、ポリウレタン弾性繊維を芯糸とし、該芯糸を長さ方向に引っ張った状態で、その周りに弾性繊維以外の糸を巻きつけて作製されるFTY(フィラメント・ツイステッド・ヤーン)が好ましい。このようなFTYは、低コストであり、しかも弾性繊維以外の糸を巻きつけているため加工性が良好で、容易に編み込んで生地を構成することができる。周囲に巻きつける糸としては、弾性繊維以外の糸であれば広く適用でき、捲縮加工していない糸を用いてもよいが、捲縮加工が施されたナイロンやポリエステルなどが好ましく、これらを用いることにより、ウーリーな風合の生地が得られるとともに、感触がソフトなものとなる。
【0018】
また、綿、ウールなどの紡績工程においてポリウレタン弾性繊維を芯糸として挿入したCSY(コア・スパン・ヤーン)を用いることも可能である。周りの繊維としては、ソフトな触感が得られる点、および後述する手型4との摩擦の観点から、綿が好ましい。
【0019】
繊維生地20、21は、前記ポリウレタン弾性繊維を芯糸としたFTYやCSYを単独で用いて編み込んでもよく、弾性のない他種の糸と併用して編み込んでもよい。
【0020】
ポリウレタン弾性繊維の含有率は、例えばFTYやCSYには、5〜35重量%含有されていることが好ましく、他種の繊維と併用して編み込む場合には、生地トータル中に1〜35重量%の含有率となることが好ましい。ポリウレタン弾性繊維が生地トータル中に1重量%未満となると、生地の弾性が不十分となる。一方、ポリウレタン弾性繊維が生地トータル中に35重量%を超えると、生地の編み込みが困難となるなどの問題が生じやすくなる。
【0021】
そして、これら繊維生地20、21は、同じ形状・寸法に裁断され、2枚を重ね合わせて縁部をミシン掛けされるのであり、面積の小さな指部なども容易に縫着することができる。図2は、縫着後の生地を裏返した縫製原手を示している。
【0022】
本発明は、図3〜7に示すように、手型4に装着した縫製原手2に外力を与えて、指先の縫着線22を甲部側にずらし、これにコーティング材3を被着させて固定するものであり、コーティング材3が被着させるまで縫着線22をずれた位置に維持するために、前記ポリウレタン弾性繊維による生地の伸び及び締め付け作用が重要であり、特に指の長さ方向に沿った縦方向の伸びと、これと垂直な横方向の締付け力が重要である。
【0023】
指の長さ方向に沿った縦方向の伸びは、具体的には引張伸度(生地上の2点間を略5mm幅、2.5kgで引張った際の伸び率をいい、例えば元の距離の2倍に伸びた場合は200%の引張伸度となる。)で、200%以上であることが好ましい。
【0024】
また、横方向の締付け力については、原手における各指部の周長、これら指部に対応する手型指部の周長、及び生地の弾性力によって適宜設定される。
【0025】
従来の弾性繊維を用いない場合には、原手指部の周長は、対応する手型指部の周長に対して80%程度に設定されるが、本発明では、好ましくは65%〜75%、より好ましくは70%程度に設定される。これにより十分な締付け力、すなわち逢着線をずれた位置に維持する手型に対する十分な保持力を発揮させることができる。このような小さな周長が可能となる理由は、本発明では弾性繊維を用いていることから、使用の際には生地が十分に伸び、支障が生じないためである。
【0026】
縫着線22をずれた位置で維持するためには、縫製原手2と手型4との間の摩擦も重要である。そのため、手型4としては、鋳物、陶器などが使用でき、特に限定はないが、その表面に、通常のサンドペーパーやサンドブラストなどを用いて、微細な凹凸を形成させたものが、縫製原手2との間に適度な摩擦が生じ、指先の縫着線を甲部側にずれた位置に維持するために好ましい。
【0027】
尚、本発明は、例えば図8に示すように甲部側と掌側を一枚の繊維生地で構成することもできる。図示したものは、親指覆い生地24を掌部側の繊維生地21Aに別途付け縫いするタイプのものであり、甲部側と掌部側を一枚の繊維生地21Aとし、該繊維生地21Aには親指以外の4本の指覆い部と、親指の腹覆い部25に沿ってU字状の切り込みを設け、この腹覆い部25である片を折返した後、前記切り込み及び腹覆い部25の片外縁に沿って、別途用意した親指の背を覆う親指覆い生地24を縫着して縫製原手2Aを構成したものである。その他、親指の腹側、背側の両方を覆う袋状の親指覆い部を別に作成し、これを親指以外の4本の指覆い部と親指部を縫い付けるための開口部を設けた繊維生地に、縫い付けたものでもよい。また、このような親指覆い部を別途設けることなく、甲部側と掌側の親指を含む5本の指覆い部を一枚の繊維生地に設けたものでもよい。
【0028】
本実施形態の手袋1の製造手順は、まず、図1に示すようにポリウレタン弾性繊維を含む、同一の繊維生地20、21を、互いに縫着して裏返すことにより、図2に示すような縫製原手2を作製する。
【0029】
次に、図3に示すように、この縫製原手2を手型4に装着し、前記縫製原手の生地に対し、掌部側から甲部側へ引張り又は押し込みの外力を与えることにより、少なくとも指先の縫着線22を爪先対応位置23よりも甲側にずれた位置に移動させ、外力を取り除いても、前記ポリウレタン弾性繊維による生地の伸び及び締め付け作用により、前記縫着線が甲側にずれた位置に維持される。すなわち掌部側の繊維生地21が指の長さ方向に沿った縦方向によく伸びるとともに、これと垂直な横方向の締付け力が作用することにより、外力を除いたとしても、指先の縫着線22がもとの位置に戻ることなく、少なくとも爪先対応位置23よりも甲側にずれた位置に維持されるのである。
【0030】
そして、図6に示すように手型4に装着した縫製原手2の表面所定箇所、本例では掌側の略全面及び指先部に、ゴム又は樹脂のコーティング材3を被着させ、乾燥固着させることにより、図7に示すように前記縫着線22が甲側にずれた位置に固定され、手型4から外して本発明の手袋1が完成される。なお、コーティング材3を表層にのみ被着させるものだけでなく、原手生地に含浸状態で被着されることも含まれる。
【0031】
コーティング材3は、従来と同様、例えばDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)に溶解した湿式成膜性ウレタン樹脂やNBRラテックスの熱架橋性配合物などを用いることができ、被着箇所は、本例では手袋1の掌部側の略全面及び指先部とした例を示しているが、勿論、手袋1の甲部側をも含めた全面に被着してもよいし、或いは指部だけの被着であったり、また所定の指先のみ被着してもよく、その他の形態であってもよい。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例1】
【0033】
(縫製原手の繊維生地)
スパンデックス(20dスパンデックス、旭化成ロイカ)を芯材とし、その周りに捲縮加工した50dナイロンを巻きつけたFTYを用いて、片面メリヤス編みにより、同形状の甲部側と掌部側の繊維生地を構成した。
指部の周長は、対応する手型指部の周長に対して70%とした。
編み密度(度目)は、指の長さ方向に沿った縦方向70/inch、それと垂直な横方向45/inchとした。
引張伸度は、縦方向240%、横方向260%である。
【0034】
(コーティング材)
DMFに溶解した湿式成膜性ウレタン樹脂(例、大日本インキ化学工業製 クリスボン7667)10〜13%溶液を用いた。
【0035】
(加工方法)
上記構成の生地で作製した原手を、手型に被せ、前記縫製原手の生地に対し、掌部側から甲部側へ引張りの外力を与えることにより、少なくとも指先の縫着線を爪先対応位置よりも甲側にずらした後、前記外力を除いた。この時、前記ポリウレタン弾性繊維による生地の伸び及び締め付け作用により、前記縫着線は甲側にずれた位置に維持されている。
次に、原手を被せた状態で、上記のウレタン溶液に浸漬し、引き上げる。
次に、50℃の温水に60分間漬けて、樹脂液の溶剤DMFを水で置換する。
その後、水から引き上げて、乾燥し、手型から外す。
【0036】
このようにして作製された手袋は、指先のミシン目が爪先より甲側にずれていて、手袋を嵌めて作業するとき、嵌め心地が良く、作業性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る手袋の甲部側、掌部側の繊維生地を示す説明図。
【図2】(a)、(b)は、同じく繊維生地を縫着した縫製原手の説明図。
【図3】同じく縫製原手を手型に装着した様子、および外力を与える方向を示す説明図。
【図4】(a)は、同じく縫製原手を手型に装着したときの指部の様子、および外力を与える方向を示す説明図、(b)は、同じく縫製原手を手型に装着し、外力を与えた後の指部の様子を示す説明図。
【図5】同じく縫製原手を手型に装着し、外力を与えた後の様子を示す説明図。
【図6】縫製原手にコーティング材を被着させる様子を示す説明図。
【図7】完成した手袋を示す説明図。
【図8】(a)、(b)は、甲部側と掌部側とを一体とした繊維生地と、親指覆い生地とから縫製原手を構成する変形例を示す説明図。
【符号の説明】
【0038】
1 手袋
2、2A 縫製原手
3 コーティング材
4 手型
20、21、21A 繊維生地
22 縫着線
23 爪先対応位置
24 親指覆い生地
25 腹覆い部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫製原手を手型に装着した状態で表面にコーティング材を被着して作製される手袋であって、
前記縫製原手を、ポリウレタン弾性繊維を含む繊維生地より構成し、手型に装着される前記縫製原手における少なくとも指先の縫着線を爪先対応位置よりも甲側にずらし、該手型上の縫製原手の表面所定箇所にゴム又は樹脂のコーティング材を被着させ、前記縫着線が甲側にずれた位置に固定されてなることを特徴とする手袋。
【請求項2】
前記繊維生地が、ポリウレタン弾性繊維を1〜35重量%含んでなる請求項1記載の手袋。
【請求項3】
縫着される掌部側及び甲部側の繊維生地が略同一形状である請求項1又は2記載の手袋。
【請求項4】
前記縫製原手を構成する繊維生地が、編み生地である請求項1〜3の何れか1項に記載の手袋。
【請求項5】
縫製原手を手型に装着した状態で表面にコーティング材を被着して作製される手袋の製造方法であって、
前記縫製原手を、ポリウレタン弾性繊維を含んでなる繊維生地より構成し、
手型に装着される前記縫製原手の生地に対し、掌部側から甲部側へ引張り又は押し込みの外力を与えることにより、少なくとも指先の縫着線を爪先対応位置よりも甲側にずれた位置に移動させた後、
前記ポリウレタン弾性繊維による生地の伸び及び締め付け作用により、前記縫着線が甲側にずれた位置に維持され、
該手型上の縫製原手の表面所定箇所にゴム又は樹脂のコーティング材を被着させることにより、前記縫着線を甲側にずれた位置に固定してなることを特徴とする手袋の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−219777(P2006−219777A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33828(P2005−33828)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】