説明

手造り履物とその製造方法及び手造り履物キット

【課題】素人でも特別な道具を用いずに簡単に手造りできるシューズ等の履物とそのキット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】足の底面及び周側面等を被覆できる左右一対の本体部10と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる左右一対の甲被覆部20と、縫い針及び縫糸15と、一対の靴紐27とをセットにした。本体部10は足の踵対応部の2箇所に切込部12を設けて平面シート状に形成され且つその外面には靴底部材11が接合され、その内面には中底部材22と敷皮部材23が接合されている。本体部10の前方周縁部と甲被覆部20の前方周縁部には針穴が設けられ、これらを手縫いして靴の前方部分が形成され、前記切込部12の縁部の複数の針穴を相互に手縫いすることにより靴の後方部分が縫製される。足首部に対応する本体部10と甲被覆部20には靴紐挿通部17, 25を設け、ここに靴紐27を挿通できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手造り履物とその製造方法、並びにその手造り履物の構成部材とその製作用具をセットにした手造り履物キットに関するものである。
また、本発明は、ベビー用シューズの手造りキットの開発から生まれたものであるが、その技術思想はベビー用シューズに限らず、一般用シューズ、或はサンダルやミュール、スリッパ、更にはブーツ等の他の履物にも適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、靴の製造方法としては昔から各種のものが知られており、古くは専門職人がハンドメイドで製作していたが、現在では各種機械を用いて工業的に生産されている。
従来の製法としては、グッドイヤーウエルト式製法、マッケイ式製法、セメンテッド式製法、ステッチダウン式製法、或はカリフォルニヤ式製法など様々な製法を挙げることができる。
その製造工程も、所定の木型を選定し、この木型からパターンを作成し、サンプルの作成から抜型を作成して、革の裁断を行う。そして製甲作業から底付作業、この底付作業では、先芯やカウンター入れ、つり込み作業、バフ起毛処理をした後に靴底部材(本底)を接着剤で接合接着する。そして最後に、シワ取りやつや出し等の仕上げ作業を行って、靴が完成するのである。
【0003】
このように各種の靴は、専門の職人により木型を用いて各種の工具や専用機械を使用して製造しているのが現状で、一般の素人が特別な機械を用いずに、簡単に手造りできるようなものではないのである。
しかしながら、本発明は、上記のような状況にも係わらず、一般人である素人が特別な道具を用いずに容易に手造りで簡易な靴を製造できるようにすることをその目的としている。
特に、生れたばかりの赤ん坊の靴を愛情込めて母親が手造りで製作できるベビーシューズのキットを提供することがその最初の目的であった。
しかも、このような手造りのベビーシューズ・キットというようなものは、これまでに全く存在しないものであった。
【0004】
但し、下記特許文献に記載の「デザインシューズキット」の考案においては、無地の一足の靴と、油性塗料と、筆と、油性希釈液とを一つの箱に収容し、購入者自らが靴の彩色や模様等を施して自分なりのデザインを付加できるシューズキットは存在している。
しかし、このシューズキットには、完成した靴がセットされ、その外表面に色や模様を付加するものであって、靴自体を製作するものでは全く無いものである。
【特許文献1】登録実用新案第3009812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題とするところは、既に上記した通り、一般人である素人が特別な道具を用いずに容易に手造りで簡易な靴、或はサンダルやスリッパ、更にはブーツ等を製作することができるようにすること。また、そのためのセット製品を開発することである。
更に、上記簡易な手造りシューズのための特別な構成部材を製作する方法を提供することにより、即ち、特別な仕様の構成部材を製造する方法を創案することにより、簡易な手造り履物を完成させることである。
そして、生れたばかりの赤ちゃんに履かせるためのシューズを、母親が愛情込めて簡単な手縫いによって縫製できる手造りシューズ・キットを提供することもその課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1のものは、足の底面及び周側面等を被覆できる本体部と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる甲被覆部とからなり、前記本体部は、足の踵対応部の少なくとも2箇所に切込部が設けられて平面状に形成されており、且つこの本体部の外面の足底面対応部には靴底部材が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材及び/又は敷皮部材が接合されており、前記本体部の前方周縁部には、甲被覆部の前方周縁部に穿設された複数の針穴と対応する位置に複数の針穴が設けられ、これら相互の針穴を縫糸を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成でき、足の踵に対応する位置に形成された前記切込部の縁部にもそれぞれ複数の針穴が設けられ、これら針穴を相互に縫糸により手縫いすることによって立体的な靴形状に手造り縫製できることを特徴とする手造り履物である。
【0007】
本発明の第2のものは、上記第1の発明において、足首部に対応する本体部の適宜位置と甲被覆部の適宜位置に靴紐挿通部を設け、この靴紐挿通部に靴紐部材を挿通したことを特徴とする手造り履物である。
本発明の第3のものは、上記第1又は第2の発明において、足首部に対応する本体部周縁部を上方に延長し、甲被覆部を前記本体部の延長長さに適合するように延長することによってブーツ形状に手造り縫製できることを特徴とする手造り履物である。
【0008】
本発明の第4のものは、足の底面及び前方周側面等を被覆できる本体部と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる甲被覆部とからなり、前記本体部は、平面状に形成されており、且つこの本体部の外面の足底面対応部には靴底部材が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材及び/又は敷皮部材が接合されており、前記本体部の前方周縁部には、甲被覆部の前方周縁部に穿設された複数の針穴と対応する位置に複数の針穴が設けられ、これら相互の針穴を縫糸を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成することによってサンダル又はスリッパ等の形状に手造り縫製できることを特徴とする手造り履物である。
【0009】
本発明の第5のものは、足の底面及び周側面を被覆できる大きさを有し、足の踵に対応する部位に2つの切込部を設けて展開した平面形状に裁断した平面シート状の本体部と、足の爪先部上面と甲部を被覆できる形状を有する平面シート状の甲被覆部とを用意し、 前記本体部の前方周縁部と、足の踵に対応する部位の切込部のそれぞれの縁部に複数の針穴を設け、また甲被覆部の前方周縁部にも複数の針穴を設け、前記本体部の外面の足底面対応部に靴底部材を接合し、その内面の足底面対応部に中底部材及び/又は敷革部材を接合する工程を有し、その後、本体部前方周縁部と甲被覆部前方周縁部に設けられたそれぞれの針穴を利用して針と縫糸により手縫いをし、更に、足の踵に対応する部位の2つの切込部の縁部に設けられた針穴を利用して針と縫糸により手縫いをすることにより靴形状に縫製できることを特徴とする手作り履物の製造方法である。
【0010】
本発明の第6のものは、足の底面及び周側面を被覆できる左右一対の本体部と、足の爪先部上面と甲部を被覆できる左右一対の甲被覆部と、縫い針及び縫糸と、一対の靴紐部材とをセットにしたものからなり、前記本体部は、足の踵対応部の少なくとも2箇所に切込部を設けて平面シート状に形成され、且つこの本体部の外面の足底面対応部には靴底部材が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材及び/又は敷革部材が接合されており、
前記本体部の前方周縁部には、甲被覆部の前方周縁部に穿設された複数の針穴と対応する位置に複数の針穴が設けられ、これら相互の針穴を針と縫糸を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成することができ、足の踵に対応する位置に形成された前記切込部の縁部にもそれぞれ複数の針穴が設けられ、これら針穴を相互に針と縫糸により手縫いすることによって立体的な靴形状に手造り縫製することができ、足首部に対応する本体部の適宜位置と甲被覆部の適宜位置には靴紐挿通部が設けられており、これらの靴紐挿通部に靴紐部材を挿通することにより手作りシューズが製作されることを特徴とする手造り履物キットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の手造り履物においては、その主要構成部材が本体部と甲被覆部のみであって、これら両者を縫糸を用いて針で手縫いすることができ、一般の素人が簡単に縫製することによってシューズを完成させることができる。
本体部には、靴底部材と中底部材及び/又は敷革部材とが予め接合されているために、これらを接合する手間が不要である。
本体部の前方周縁部と、踵対応部の切込部の縁部には予め複数の針穴が設けられ、また甲被覆部の前方周縁部にも複数の針穴が設けられているために、製作者は容易に針と縫糸により手縫いすることが可能となる。
【0012】
本発明の第2の手造り履物においては、上記効果に加えて、靴紐挿通部と靴紐部材とが備えられているため、靴紐付きのシューズとして製品化することができ、デザイン的にも多様化され得る。
本発明の第3の手造り履物におては、本体部及び甲被覆部の裁断形状を適宜設計変更して、即ち足首部に対応する本体部周縁部を上方に延長し、これに適合するように甲被服部も延長することにより、その履物をブーツ形状に形成することができ、そのデザインの多様化に貢献できる。
【0013】
本発明の第4の手造り履物においては、上記第3の発明に係る履物と同様に、その本体部の裁断形状を設計変更して、その本体部の形状を足底面と足前方周縁部等を被覆できるような平面形状に形成することにより、つまり、足の踵対応部を無くすることにより、その完成された履物形状をサンダルやスリッパ等の形状に手造り縫製することができ、やはり履物のデザインの多様化に貢献できる。
【0014】
本発明の第5の手造り履物の製造方法においても、この製法により上記第1の発明に係る手造りシューズを製造することができ、これによって一般の素人でも容易に手造りシューズを縫製することが可能となるものである。
取り分け、この製造方法においては、本体部の外面の足底面対応部に靴底部材を接合し、その内面の足底面対応部に中底部材及び/又は敷皮部材を接合する工程を含み、この工程により本発明に係る手造り履物の本体部が製造されうるものである。
【0015】
本発明の第6の手造り履物キットにおいては、左右一対の本体部と、左右一対の甲被覆部と、縫い針及び縫糸と、一対の靴紐部材とをセットにしたものから構成されており、これらの構成部材を用いて、一足の靴紐付きのシューズを簡単に縫製して手造りすることが可能となるものである。
本キットをベビーシューズ用のものとした場合には、生れたばかりの赤ちゃん用のシューズを母親が愛情込めて手造りしてあげることができ、またこのキットを製品化してギフト用とすれば、誕生祝としても最適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付の図面と共に本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る手造り履物の一実施形態であるベビー用シューズの完成した状態を示す全体斜視図である。
この手造りシューズ1は、足の底面と周側面等を被覆できる本体部10と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる甲被覆部20とからなる。
本体部10は、最高級ソフト人工皮革の1枚のシート状体のものからなり、後述するが、その外面の略中央部部(足底面対応部)には、靴底部材11が接着されており、図1には表われていないが、その内面の略中央部、丁度靴底部材11に対応する内面側には、中底部材が、そしてその上面に敷皮部材が接着されている。
【0017】
本体部10は、後に説明するが、足の踵の対応部の2箇所に切込部12、12が設けられており、これにより本体部10は、平面シート状に展開される。
また、本体部10の前方周縁部には、複数の針穴が設けられ、甲被覆部20の前方周縁部に設けられている針穴同士を麻糸からなる縫糸15によって手縫いすることができる。
更に、本体部10の踵対応部に設けられた切込部12のそれぞれの縁部にも針穴が複数設けられており、これらの針穴を麻糸からなる縫糸15によって手縫いすることができる。
【0018】
本体部10の足首対応部前方部には、靴紐挿通部としての靴紐挿通穴17が複数設けられており、これらの靴紐挿通穴17に靴紐部材としての靴紐27を挿通することができる。また、甲被覆部20の足首対応部にはスリット25、25が設けられ、前記靴紐27が挿通し得る。
甲被覆部20は、シュリンク牛革を適宜形状に裁断したものを使用し、前記した通り、その前方周縁部には複数の針穴が設けられ、本体部10と縫着され、足の前方部分を被覆できる立体的形状に手縫いできる。
そして、本体部10の踵対応部に設けられた2箇所の切込部12の縁部に設けられた複数の針穴同士を手縫いすることにより足の踵部を被覆するように立体的形状に手縫いでき、立体的な靴形状に縫製される。
【0019】
図2は、上記本体部10の内面側の平面図である。
図3は、上記甲被覆部20の外面側の平面図である。
図2から解る通り、本体部10は、ソフト人工皮革を魚のエイの如き形状に抜き型を用いて裁断したシート状のものである。裁断と同時に針穴14や靴紐挿通穴17等も穿設される。
その中央部には、赤ちゃんの足の大きさと形状にほぼ合致する形状の中底部材22が接着されている。中底部材22は、丁度図面の裏側に接合されている靴底部材とほぼ同一位置に接合されており、その素材としてはソフトEVA(Ethylene-Vinyl Acetate:エチレン‐酢酸ビニル共重合樹脂)スポンジを使用し、クッション性を向上させている。
【0020】
本体部10の前方周縁部には、複数の針穴14,14、…が抜き型により裁断と同時に穿設される。この針穴14の数は、図3に図示した甲被覆部20に設けられている針穴24,24、…と同一数にしている。両者を手縫いするためであり、針穴の数が一致しないと余分な針穴が残り、防水性が損なわれるからである。
他方、本体部10の踵対応部位には、2つの切込部12、12が設けられている。この切込部12の存在により、本体部10が平面形状に展開され得る。
これら切込部12のそれぞれの縁部12e、12fにも、上記抜き型による裁断と同時に複数の針穴16、18を列設する。切込部12のそれぞれの縁部12eと縁部12fに列設するそれぞれの針穴16と針穴18の数も同一数にしている。
【0021】
これらの複数の針穴14、16,18を利用して、麻糸からなる縫糸を針を用いて手縫いすることができる。
従って、図2の本体部10は、その前方周縁部(針穴が設けられている部分)が図面表面側に起立して甲被覆部20と縫製され、本体部10の後方の踵対応部も図面表面側に起立して立体的に縫製されるのである。
本体部10の足首対応部前方両側には2つずつ靴紐を挿通するための靴紐挿通穴17、17が設けられている。
【0022】
尚、甲被覆部20の手前側、図3中下側中央部に2本のスリット25、25を設けており、これらのスリットが靴紐挿通部となり、これらのスリット25に靴紐を挿通させることができる。これにより甲被覆部20の手前側が靴内部に折り込まれてしまうことが防止される。
甲被覆部20の図中左側には、切込マーク29を設けているが、この切込マーク29が左側に設けられたものが右靴用のものとなる。つまり、この切込マーク29の位置により左右何れのものかを判別することができるようにしている。
これらスリット25と切込マーク29も、抜き型による裁断と同時に形成される。
【0023】
図4は、更に上記本体部10の詳細を示す分解斜視図である。
本体部10は、図2で示した通りの魚のエイの如き形状を有し、その周縁部には適宜針穴14、14、…、靴紐挿通穴17、17、…が設けられ、その外面側(図中下側)の略中央部(足底面対応部)には靴底部材11が接着され、その内面側(図中上側)の略中央部、靴底部材11と対応する位置に中底部材22が接着され、更にその上には敷皮部材23が接着される。
図4において、先ず靴底部材11を本体部10の外面略中央部に接着剤を用いて接着し、その後中底部材22を本体部10の内面略中央部、つまり足の底面対応部40に接着し、その上に敷皮部材23を接着することとなる。
【0024】
靴底部材11としては厚さ約5mm程度の軽量EVA(Ethylene-Vinyl Acetate:エチレン‐酢酸ビニル共重合樹脂)を使用し、中底部材22には約2mm程度のソフトEVAスポンジを使用し、敷皮部材には約1mm程度のブタ革を使用している。
上記の実施形態の靴底部材11は、軽量EVAを使用しているが、EVA底の他、TR底、ウレタン底、塩化ビニール底、生ゴム底、合成クレープ底等各種のものを使用することができる。しかし、本実施形態では、軽量でグリップ力が高いため、上記軽量EVAを使用している。
使用するそれぞれの部材の厚みは適宜必要に応じたものを使用することができる。
更に、靴底部材11の表面には、箔打ちをして、お祝いマークやネーム入れを行うことができる。同様に敷皮部材にもお祝いメッセージやネームを入れることができる。
【0025】
図5は、上記本体部10と甲被覆部20を手縫いする状態を図示する説明図である。
まずこれら両者の縫製方法は種々のものがあるが、例えばその代表的なものとして、糸と糸の両端に針を付けて縫う二本針法によりコの字編み方により行うことができる。
図示した通り、麻糸からなる適宜長さの縫糸15の両端に針30をそれぞれ取り付ける。
甲被覆部20を本体部10に重ねて、最初の針穴14と針穴24とに針を通して、両側を同じ長さとし、同じ針穴に針を挿通して二重の輪にする。
【0026】
次に、上糸、下糸それぞれ一つ前の針穴に挿通する。糸をそれぞれ強く引いて、どちらか一方の糸を輪を作るようにして外側に回して同じ穴に挿通する。これで最初の一つ目のコの字が出来上がり、順次これを繰り返すことによってシューズの前方部分の縫製がコの字状に形成される。最後の針穴では、縫糸を2重に回し、一つ前の針穴に戻して両端の縫糸を靴内部で団子結びにして固定する。
本体部10に形成されている針穴14と甲被覆部20に形成されている針穴24の数は、同一であり、従って、本体部10側の針穴14の間隔は当然、甲被覆部20のそれよりも大きい。それ故、縫製されると本体部10の周縁部は、大きく絞られ図1に示されたように、その周縁部(甲被覆部と接続する部分)にシワが沢山寄る状態となる。
【0027】
図6は、上記本体部10と甲被覆部20との縫製が完成した後、本体部10の踵対応部に設けられた切込部12の縫製を行う状態を図示する説明図である。
ここでは、上記のようなコの字縫いでなく、1本の針30を用いて、×状に縫製する。
即ち、麻糸からなる適宜長さの縫糸15の先端に針30を取り付け、本体部10の後方踵対応部19を起立させて切込部の縁部12eと12fとを合致させ、最初の針穴16から対応する縁部12fの第2番目の針穴18に縫糸15を斜めに挿通する。つまり、一番下の針穴18には縫糸を挿通しないで置く。
これを繰り返して、斜めに一番上まで縫糸15を挿通させて、今度は逆に下方に斜めに縫糸を挿通させて行く。この間縫糸はその都度よく引き絞って縫い上げてゆく。そして、最初に飛ばした一番下の針穴18まで戻って、そこで輪状に縫糸を挿通して輪止めし、靴の内側で固結びをして、適宜必要に応じて手芸用固着剤などにより固定しておく。
上記手縫い方法は一例であって、好みに応じて種々異なる縫い方又は編み方を採用することができる。
【0028】
以上、本発明に係る手造りシューズの一実施形態について説明したが、その製造方法の詳細は以下のようになる。
1)ソフト人工皮革を抜き型を用いて魚のエイの如き形状に裁断して本体部10を形成する。
この際、踵対応部には切込部が設けられているために平面形状に裁断でき、また、裁断と同時に針穴や靴紐挿通穴等も同時に穿設できる。
2)同様にして、抜き型を用いて針穴、スリット、切込マークと共に甲被覆部20を形成する。
3)本体部10の外面の足底面対応部に靴底部材11を接着剤を用いて小型圧着器により接着する。
4)本体部10の内面の足底面対応部(靴底対応部)に中底部材22を接着する。
【0029】
5)中底部材22の上面に敷皮部材23を接着する。
6)本体部10と甲被覆部20を縫糸で手縫いする。
7)本体部10の踵対応部の切込部12の縁部を相互に縫糸で手縫いする。
後に説明するが、本発明の手造りシューズ・キットにおいては、本体部に既に靴底部材と中底部材が接着されているために、本キットの利用者は、上記の5)、6)、7)の3つの作業を行い、靴紐を挿通させるだけで、簡単に手造りシューズが完成することとなる。
【0030】
次に、上記の製造方法において、本体部10の外面略中央部(足底面対応部)に靴底部材11を接着する方法についてより詳しく説明する。
本体部としては、上述した通り、ソフト人工皮革を使用しており、その表面にはポリウレタン樹脂がコーティングされている。従って、この本体部表面に直接EVA樹脂からなる靴底部材を接着してもその接着力の強度を保障することができない。
そこで本発明においては、本体部表面のポリウレタン樹脂のみを溶解する特定の処理液を使用してその樹脂を溶解するようにしている。
即ち、本体部に液の流し込み型(靴底部材形状)を利用し、この流し込み型を本体部に万力等で固定して、前記処理液に揮発促進剤を付加したものを流し込み、本体部表面のポリウレタン樹脂を溶解させているのである。
その後に靴底部材をEVA樹脂用接着剤を用いて圧着器によって強力に接着することができるのである。
【0031】
更に、靴底部材を本体部に接着するに先立って、本体部10に工夫を凝らしている。
以下、これについて図4を用いて詳説する。
即ち、本体部を抜き型によって裁断する際に、靴底対応部に適宜ポンチ穴41を開けておくのである。図4では、理解容易化のためこのポンチ穴を少し大きく表現しているが、靴底対応部位の前方中央位置と後方中央位置並びに内側側縁位置の3箇所に設けている。このポンチ穴41は、靴底圧着時の靴底の配置の目安となり、従来のようなラインコードが不要となるというメリットがある。
【0032】
従来においては、この靴底の位置決めのために、靴底を接着する位置に線を引く、線引き工程が必要であり、更に、この線引き工程を省略するために、抜型である裁断型に靴底の接着位置にラインを刻印できるプラスチック製のラインコードが設けられたものを用いていたが、上記ポンチ穴41を開けることにより、線引きやラインコードが不要となるのである。
このポンチ穴41は、抜き型に予め設けておき、裁断と同時に形成される
更に、靴底接着対応部位に複数の穴42、42、…を設け、接着剤と空気を逃がす機能を保持させたこともこの製法において特徴となっている。
【0033】
これらのポンチ穴41と穴42により、接着剤が塗布された靴底部材11を本体部10の外面の所望の位置に接合し、足底面の対応部の外側から内側方向(矢印D)に向かって接着し、その後圧着器を利用して接着することができる。
以上により、靴底部材の本体部への接着に際し、良好なエアー抜きが行われ、接着剤の泡の破裂やはみ出しを良好に防止できるのである。
また、上記4)の工程における中底部材の接着に関しては、中底部材の裁断後、糊引き器でシール状にし圧着している。
【0034】
最後に、本発明に係る手造り履物キットの構成部材は、以下の通りである。
左右一対の本体部と、左右一対の甲被覆部と、一対の靴紐と、縫い針2本と、縫糸とをセットにし、包装袋に収納したものから構成されている。勿論包装袋内には、製作説明書も一緒に収納している。
本体部には、靴底部材と中底部材が予め接着されている。従って、製作者は、本体部の中底部材の上面に敷皮部材を接着し、その後本体部と甲被覆部を手縫いし、また本体部の踵対応部の切込部を手縫いして、ベビー用シューズを手造り縫製することができる。
敷皮部材の下面には接着剤が塗布されており、その表面に剥離紙が貼着されているため、製作者は、その剥離紙を剥がして簡単に中底部材の上面にこの敷皮部材を貼着することができるように構成されている。
靴底部材や敷皮部材の表面には、適宜お祝いのメッセージやネーム等がプリントされており、自分の赤ちゃん用、或はお祝い用のギフトとして本キットを利用することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下の通りその実施形態を変更することができる。
まず、上記実施形態においてはベビー用シューズとしての例を説明したが、本発明に係る手造りシューズは、ベビー用に限られることなく、一般の大人用の手造りシューズとして実施することも可能である。
従って、その本体部と甲被覆部の大きさ及び形状等は、使用する人に応じて赤ちゃんから大人まで、種々の大きさに裁断して構成することができる。
尚、上記の実施形態においては、ベビー用で足首部まで被覆できるように上方に少し延長したスタイルのものとしてデザインしたが、くるぶし部が出る短靴スタイルのものとして実施化することも容易に出来る。
【0036】
更に、本発明においては、適宜その本体部及び甲被覆部の裁断形状を変更することにより、通常のシューズ形状でなく、ブーツ形状、サンダルやスリッパ形状等に設計変更することも容易に可能である。
即ち、本体部の足首に対応する周縁部を上方に延長し、甲被覆部を前記本体部の延長長さに適合するように延長して形成することによってブーツ形状の履物として実施することも出来る。
更に、上記のベビーシューズにおいて、踵を被覆する部分を無くすることによって、容易にサンダル形状やスリッパ形状に形成することも可能となる。
【0037】
より詳しくは、足の底面及び足の前方の周側面等を被覆できる本体部と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる甲被覆部とから構成し、前記本体部は、平面状に形成されており、且つこの本体部の外面の足底面対応部には靴底部材が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材及び/又は敷皮部材が接合されており、前記本体部の前方周縁部には、甲被覆部の前方周縁部に穿設された複数の針穴と対応する位置に複数の針穴が設けられ、これら相互の針穴を縫糸を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成することによってサンダル又はスリッパ等の形状に手造り縫製できる手造り履物として実施することができるのである。
【0038】
靴底部材や中底部材並びに敷皮部材等の形状、大きさや厚みも使用する人の足に応じて設定することができる。
また、これら本体部、甲被覆部、靴底部材、中底部材、敷皮部材の材質に関しても適宜必要に応じて適切なものを選択して利用することができる。
靴紐部材は、必要に応じて付加すればよく、靴紐を設けずに、スリップ・オン・スタイルのシューズとして本発明を実施することも可能である。但し、ベビーシューズの場合は靴が脱げないように、靴紐付きの方がベターである。
更に、本発明においては、上記の靴紐部材でなく、その足首部の収束部材としては、面ファスナーを利用したマジックベルトタイプ、止めホックを利用したベルトホックタイプ、リボン固定タイプ、甲ゴムタイプ等と種々変更して実施することもできる。
本体部や甲被覆部は、特に言及していないが、各種の色合いを付加したり、模様を付けるのも自由であり、靴紐部材も色や模様を付加することが出来ることは勿論である。
【0039】
製造方法においては、上記実施形態では靴底部材を接着剤により接着しているが、接着と共に縫製により行うことも出来るし、その接合方法は自由に選択することができる。
同様に、中底部材や敷皮部材の接合方法も全く自由に行うことができる。
本発明の手造りシューズ・キットにおいては、縫い針等をキットに組み込まなくとも実施することは可能であるが、このキットに全ての構成部材と手造り用具を備えることによって、その他の如何なる部材及び用具をも必要とせずに、手作りシューズが製作できることを意図して、全てのものをセットして包装袋に収納したものである。
以上、本発明は、誰でも容易に手造りシューズ等を製作できるような手造り履物、その製造方法、並びにその手造り履物キットを提供することができ、極めて趣向に富んだ、愛情溢れる製品を創作することができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る手造りシューズの一実施形態であるベビー用シューズの完成した状態を示す全体斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る本体部の内面側の平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る甲被覆部の外面側の平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る本体部の詳細を示す分解斜視図である。
【図5】本発明に係る本体部と甲被覆部を手縫いする状態を図示する説明図である
【図6】本発明に係る本体部の踵対応部に設けられた切込部の縫製を行う状態を図示する説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 手造りシューズ
10 本体部
11 靴底部材
12 切込部
15 縫糸
14、16、18 針穴
17 靴紐挿通穴
20 甲被覆部
22 中底部材
23 敷皮部材
27 靴紐
30 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の底面及び周側面等を被覆できる本体部(10)と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる甲被覆部(20)とからなり、
前記本体部(10)は、足の踵対応部の少なくとも2箇所に切込部(12, 12)が設けられて平面状に形成されており、且つこの本体部(10)の外面の足底面対応部には靴底部材(11)が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材(22)及び/又は敷皮部材(23)が接合されており、
前記本体部(10)の前方周縁部には、甲被覆部(20)の前方周縁部に穿設された複数の針穴(24, 24, …)と対応する位置に複数の針穴(14,14, …)が設けられ、これら相互の針穴(24, 24, …)(14,14, …)を縫糸(15)を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成でき、
足の踵に対応する位置に形成された前記切込部(12, 12)の縁部にもそれぞれ複数の針穴(16, 16, …)(18, 18, …)が設けられ、これら針穴(16, 16, …)(18, 18, …)を相互に縫糸(15)により手縫いすることによって立体的な靴形状に手造り縫製できることを特徴とする手造り履物。
【請求項2】
足首部に対応する本体部(10)の適宜位置と甲被覆部(20)の適宜位置に靴紐挿通部(17, 17, …)(25, 25)を設け、この靴紐挿通部(17, 17, …)(25, 25)に靴紐部材(27)を挿通したことを特徴とする請求項1に記載の手造り履物。
【請求項3】
足首部に対応する本体部(10)周縁部を上方に延長し、甲被覆部(20)を前記本体部(10)の延長長さに適合するように延長することによってブーツ形状に手造り縫製できることを特徴とする請求項1又は2に記載の手造り履物。
【請求項4】
足の底面及び前方周側面等を被覆できる本体部(10)と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる甲被覆部(20)とからなり、
前記本体部(10)は、平面状に形成されており、且つこの本体部(10)の外面の足底面対応部には靴底部材(11)が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材(22)及び/又は敷皮部材(23)が接合されており、
前記本体部(10)の前方周縁部には、甲被覆部(20)の前方周縁部に穿設された複数の針穴(24, 24, …)と対応する位置に複数の針穴(14,14, …)が設けられ、これら相互の針穴(24, 24, …)(14,14, …)を縫糸(15)を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成することによってサンダル又はスリッパ等の形状に手造り縫製できることを特徴とする手造り履物。
【請求項5】
足の底面及び周側面等を被覆できる大きさを有し、足の踵に対応する部位に少なくとも2つの切込部(12, 12)を設けて展開した平面形状に裁断した平面シート状の本体部(10)と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる形状を有する平面シート状の甲被覆部(20)とを用意し、
前記本体部(10)の前方周縁部と、足の踵に対応する部位の切込部(12)のそれぞれの縁部に複数の針穴(14, 14, …)(16, 16, …)(18, 18, …)を設け、また甲被覆部(20)の前方周縁部にも複数の針穴(24, 24, …)を設け、
前記本体部(10)の外面の足底面対応部に靴底部材(11)を接合し、その内面の足底面対応部に中底部材(22)及び/又は敷皮部材(23)を接合する工程を有し、
その後、本体部(10)前方周縁部と甲被覆部(20)前方周縁部に設けられたそれぞれの針穴(14,14, …)(24, 24, …)を利用して針(30)と縫糸(15)により手縫いをし、
更に、足の踵に対応する部位の2つの切込部(12, 12)の縁部に設けられた針穴(16, 16, …)(18, 18, …)を利用して針(30)と縫糸(15)により手縫いをすることにより靴形状に縫製できることを特徴とする手作り履物の製造方法。
【請求項6】
足の底面及び周側面等を被覆できる左右一対の本体部(10, 10)と、足の爪先部上面と甲部等を被覆できる左右一対の甲被覆部(20, 20)と、縫い針(30)及び縫糸(15)と、一対の靴紐部材(27)とをセットにしたものからなり、
前記本体部(10)は、足の踵対応部の少なくとも2箇所に切込部(12, 12)を設けて平面シート状に形成され、且つこの本体部(10)の外面の足底面対応部には靴底部材(11)が接合され、その内面の足底面対応部には中底部材(22)及び/又は敷皮部材(23)が接合されており、
前記本体部(10)の前方周縁部には、甲被覆部(20)の前方周縁部に穿設された複数の針穴(24, 24, …)と対応する位置に複数の針穴(14,14, …)が設けられ、これら相互の針穴(24, 24, …)(14,14, …)を針(30)と縫糸(15)を用いて手縫いすることにより足の前方部分を被覆できる立体形状に形成することができ、
足の踵に対応する位置に形成された前記切込部(12, 12)の縁部にもそれぞれ複数の針穴(16, 16, …)(18, 18, …)が設けられ、これら針穴(16, 16, …)(18, 18, …)を相互に針(30)と縫糸(15)により手縫いすることによって立体的な靴形状に手造り縫製することができ、
足首部に対応する本体部(10)の適宜位置と甲被覆部(20)の適宜位置には靴紐挿通部(17, 17, …)(25, 25)が設けられており、これらの靴紐挿通部(17, 17, …)(25, 25)に靴紐部材(27)を挿通することにより手作りシューズが製作されることを特徴とする手造り履物キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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