説明

打撃スパナと併用するクリップ

【課題】ナットが下向きや横向きの場合でも、打撃スパナでナットを強固に締め付ける作業の安全性を向上させることができる打撃スパナと併用するクリップを提供する。
【解決手段】枢軸18を境に一端側の操作部17aを閉じると他端側の挟持部17bが開くように一対の挟持部材17を枢止結合し、この両挟持部材17に弾性部材19で挟持部17bが常時閉じる方向の弾性を付勢し、前記両挟持部17bの対向面に、ねじ軸15へ外嵌するよう設けた凹欠部22の内周面にねじ軸15の雄ねじ15aに噛み合う雌ねじ23を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボルトに螺合したナットを打撃スパナで締め付ける場合に、打撃スパナがナットから離脱することのないように使用するクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトとナットを用いて各種部材を締結する作業において、ナットを強く締め付けて強固な締結状態を得る場合、打撃スパナが用いられる。
【0003】
上記打撃スパナ1は、図3のように、柄2の先端に位置する頭部2aに多角形の星型孔3を設けたメガネレンチによって形成され、図3(c)の如く、ボルト4に螺合したナット5に星型孔3を外嵌した状態で、打撃スパナ1の柄2をハンマー6で叩くことにより、ナット5を強固に締め付けるものである。
【0004】
ところで、打撃スパナ1の柄2をハンマー6で叩く場合、ナット5に対して星型孔3は少し余裕があるので、ナット5に打撃スパナ1を固定することができず、このため、ハンマー6で叩こうとしたとき打撃スパナ1が落下し、ハンマー6を空振りすることによる怪我が生じるという危険がある。
【0005】
このような危険を防ぐため、従来の打撃スパナ1における脱落防止手段としては、図3で示したように、柄2に設けた孔7に引っ張り紐8を連結した構造を有し、この引っ張り紐8をナット5のねじ込み方向に引くことで、ナット5に対する打撃スパナ1の固定化を図り、この状態で打撃スパナ1の柄2をハンマー6で叩くようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引っ張り紐8で打撃スパナ1をねじ込み方向に引く方法は、ナット5が上向きの場合、それなりに効果はあるが、ナット5が下向きや横向きにある場合、引っ張り紐8が少しでも緩むと、ナット5から打撃スパナ1が離脱することになり、十分な安全確保になっていないので、作業現場で何人もの負傷者が発生しているのが実情である。
【0007】
そこで、この発明の課題は、ナットが下向きや横向きの場合でも、打撃スパナをナットから外れることなく保持することができ、打撃スパナでナットを強固に締め付ける作業の安全性を向上させることができる打撃スパナと併用するクリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明は、一対の挟持部材を枢軸で、この枢軸を境に一端側の操作部を閉じると他端側の挟持部が開くように枢止結合し、この両挟持部材に弾性部材で挟持部が常時閉じる方向の弾性を付勢し、前記両挟持部の対向面にねじ軸へ外嵌する弧状の凹欠部を設け、この凹欠部の内周面にねじ軸の雄ねじに噛み合う雌ねじを形成したものである。
【0009】
ここで、上記した一対の挟持部材は、厚みのある板状となり、両挟持部材は、対向面の一方に設けた二又リブと他方に設けたリブを嵌め合わせてこの部分を枢軸で結合し、この枢軸を境として一端側が操作部で他端側が挟持部となり、前記操作部は対向面が枢軸から端部に向けて離反する傾斜面となり、端部に向けて細幅に形成され、また、挟持部は操作部よりも長い角棒状となり、その対向面の中間部に、ボルトのねじ軸に外嵌する半円状の凹欠部が設けられ、この凹欠部の内周に設けた雌ねじがボルトのねじ軸に形成した雄ねじのピッチに一致している。
【0010】
上記弾性部材は、バネを用い、両挟持部材を結合する枢軸の部分に、両操作部を押し開くように組み込まれ、両挟持部に常時閉じる方向の弾性を付勢し、両操作部を指先で閉じると、両挟持部は枢軸を支点に拡開することになり、この両挟持部の拡開量は、ボルトのねじ軸に対して凹欠部を出し入れすることができるように設定されている。
【発明の効果】
【0011】
この発明によると、ナットを打撃スパナで締め付けるとき、ナットから突出するねじ軸を両挟持部で弾力的に挟めば、両挟持部の凹欠部に設けた雌ねじがねじ軸の雄ねじに噛み合い、クリップをねじ軸に対して固定化できるので、ナットに外嵌係合させた打撃スパナをナットから離脱しないように保持することができ、ナットが下向きや横向きの場合でも、打撃スパナをハンマーで確実に叩くことが可能になり、打撃スパナの落下や空振りによる怪我の発生をなくし、打撃スパナでナットを強固に締め付ける作業の安全性を向上させることができる
【0012】
また、クリップは、両操作部を閉じる操作だけでねじ軸に対して着脱できるので、取り扱い操作が簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を図示例に基づいて説明する。
【0014】
図1(a)は、この発明のクリップ11の使用例を示し、パッキン12を挟んで重なる部材13、13をボルト14とこのボルト14のねじ軸15に螺合したナット16で締結する場合に、ナット16は打撃スパナ1で締め付けるようにし、クリップ11はナット16から突出するねじ軸15に取付けるようにする。
【0015】
この発明のクリップ11は、図1(b)と図2に示すように、金属等の硬質材料を用いた一対の挟持部材17と、両挟持部材17を結合する枢軸18と、両挟持部材17に挟持弾性を付勢する弾性部材19とで形成されている。
【0016】
上記挟持部材17は、厚みのある板状となり、両挟持部材17は、対向面の一方に設けた二又リブ20と他方に設けたリブ21を嵌め合わせてこの部分を貫通する枢軸18で結合し、この枢軸18を境として一端側が操作部17aで他端側が挟持部17bとなっている。
【0017】
上記操作部17aは、対向面が枢軸18から端部に向けて離反する傾斜面となり、端部に向けて細幅に形成され、また、挟持部17bは操作部17aよりも長い角棒状で先端が円弧面となり、その対向面の中間部に、ボルト14のねじ軸15に外嵌する半円状の凹欠部22が設けられ、この凹欠部22の内周にボルト14のねじ軸15に形成した雄ねじ15aのピッチに一致する雌ねじ23が形成されている。
【0018】
上記弾性部材19は、バネを用い、両挟持部材17を結合する枢軸18の部分に、両操作部17aを押し開くように組み込まれ、これによって枢軸18を支点として両挟持部17bに常時閉じる方向の弾性を付勢し、両操作部17aを指先で閉じると、両挟持部17bは枢軸18を支点に拡開することになり、この両挟持部17bの拡開量は、図2(c)のように、ボルト14のねじ軸15に対して凹欠部22を出し入れすることができるように設定されている。
【0019】
図示の場合、両挟持部17bの上面には、前後の位置に打撃スパナ1へ当接する間隔保持用の低い突起24を設け、両挟持部17bの対向面における先端部の一方に突部25と他方にこの突部25の嵌る凹部26を設け、両挟持部17bが閉じた状態で厚み方向への位相のずれが生じないようにしている。
【0020】
なお、上記打撃スパナ1は、図3で示したようなメガネレンチを使用することになる。
【0021】
この発明のクリップ11は、上記のような構成であり、図1(a)のように、パッキン12を挟んで重なる部材13、13をボルト14とこのボルト14のねじ軸15に螺合したナット16で締結する場合に、ナット16を打撃スパナ1で締め付けるときに使用する。
【0022】
予め、ナット16に対して打撃スパナ1の頭部2aを外嵌係合させた状態で、上記クリップ11を、図2(c)のように、両操作部17aを指先で閉じるようにつまんで閉じることで両挟持部17bを拡開させ、この開いた両挟持部17bの対向面間を凹欠部22がボルト14のねじ軸15に臨むように外嵌し、上面の突起24を打撃スパナ1の下面に当接させ、両操作部17aのつまんだ力を解き、弾性部材19の作用で両挟持部17bが閉じるようにする。
【0023】
両挟持部17bが閉じると、凹欠部22がねじ軸15に外嵌して両側から抱持し、この凹欠部22の内周面に設けた雌ねじ23がねじ軸15の雄ねじ15aに噛み合い、これによって、クリップ11は、ねじ軸15に対して軸方向に移動しないように強固に固定され、図1(a)のように、ナット16に嵌めてある打撃スパナ1は、手が離れるようなことがあってもナット16から脱落することのないようクリップ11によって保持される。
【0024】
このように、打撃スパナ1は、ナット16から脱落しないようになるので、打撃スパナ1をハンマーで叩いて締め付ける作業時に、空振りをしたり、打撃スパナ1が打撃時の衝撃で飛散するようなことがなく、打撃スパナ1によるナット16の締め付けが安全に行えることになる。
【0025】
上記ナット16の締め付けが完了すると、クリップ11の両操作部17aを指先で閉じて両挟持部17bを開き、クリップ11をねじ軸15から取外した後、ナット16から打撃スパナ1を取外せば、作業が完了する。
【0026】
なお、クリップ11の使用は、図示の場合、ナット16が下向きの場合を示したが、ナット16が横向きや上向きの条件での使用も当然可能である。
【0027】
また、ねじ軸15の雄ねじ15aに対するクリップ11の雌ねじ23の噛み合わせ量は、2ピッチ程度あれば十分な強度を確保することができ、ねじ軸15のナット16からの突出長さが短い場合でも、ねじ軸15に対してクリップ11を取付けて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)はこの発明に係るクリップの使用状態を示す縦断面図、(b)はクリップの斜視図
【図2】(a)はクリップの平面図、(b)は同側面図、(c)はクリップの挟持部を開いた状態を示す平面図
【図3】(a)は打撃スパナの平面図、(b)は同側面図、(c)は打撃スパナによるナット締め付け時の底面図
【符号の説明】
【0029】
11 クリップ
12 パッキン
13 部材
14 ボルト
15 ねじ軸
16 ナット
17 挟持部材
17a 操作部
17b 挟持部
18 枢軸
19 弾性部材
20 二又リブ
21 リブ
22 凹欠部
23 雌ねじ
24 突起
25 突部
26 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の挟持部材を枢軸で、この枢軸を境に一端側の操作部を閉じると他端側の挟持部が開くように枢止結合し、この両挟持部材に弾性部材で挟持部が常時閉じる方向の弾性を付勢し、前記両挟持部の対向面にねじ軸へ外嵌する弧状の凹欠部を設け、この凹欠部の内周面にねじ軸の雄ねじに噛み合う雌ねじを形成した打撃スパナと併用するクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120097(P2010−120097A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293401(P2008−293401)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(500176366)株式会社オスカエンジニアリング (2)
【Fターム(参考)】