説明

打撃工具

【課題】作業性を損なうことなくドリルモードへの切替を可能とする。
【解決手段】インパクトドライバ1において、スピンドル9の外面に前後方向の摺動溝46を凹設して、摺動溝46内にストッパピン48を、ハンマー25に設けた係止凹部53に係止する前進位置と、係止凹部53から離間する後退位置との間で前後方向へ摺動可能に嵌合し、スピンドル9にチェンジリング37を外装して、インナーハウジング8内に、チェンジリング37の第1の回転位置でストッパピン48を前進位置に摺動させ、第2の回転位置でストッパピン48を後退位置に摺動させる変換機構を設けて、チェンジリング37の第1の回転位置への回転操作に伴うストッパピン48の前進位置への摺動により、ストッパピン48をスピンドル9とハンマー25とに跨って係止させてハンマー25をスピンドル9と一体回転させるドリルモードを選択可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングの前方へ突出させたアンビルに回転打撃力を発生させるインパクトドライバ等の打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
インパクトドライバ等の打撃工具は、ハウジング内でモータによって回転するスピンドルと、そのスピンドルに外装されて両者に設けた溝に跨って嵌合するボールを介して連結され、前面に爪を突設したハンマーと、ハウジングに同軸で軸支され、ビットが装着される前端をハウジングの前方へ突出させ、後端にアームを放射状に形成したアンビルと、ハンマーを爪とアームとが回転方向で係合する前進位置に付勢するコイルバネとを備えている。すなわち、アンビルのトルクが高まった際には、溝内を転動するボールの案内でハンマーが後退してアームから離れ、再びコイルバネの付勢によって回転しながら前進してアームに係合する動作を繰り返すことで、アンビルに回転打撃力(インパクト)を間欠的に発生させるものである。
【0003】
このような打撃工具は、例えば下穴にネジ止めを行うような場合に、まず電動ドリルで下穴を穿設した後、インパクトドライバ等の打撃工具でネジ止めを行うというように作業に応じて使い分けられている。従って、工具の準備や交換が必要となって作業性が低下してしまう。インパクトドライバにドリルビットを装着すれば穿孔は可能であるが、タイル等の比較的脆い被加工材であると、インパクトの発生によって破損するおそれがある。
そこで、特許文献1に示すように、ハンマーの後方に、軸方向へのスライドによってハンマーの後端に係脱する切替リングを設けて、ハウジングに設けた回転スライダを外部から操作して切替リングを前後にスライドさせることで、ハンマーをアンビルに係脱させるインパクトモードと、ハンマーを常にスピンドルと一体回転させるドリルモードとを切替可能とした打撃工具が発明されている。この打撃工具によれば工具の使い分けが不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007003037号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されるモード切替機構は、ハンマーの後方に切替リングをスライド可能に配置するため、切替リングを保持する支持部材を新たに設けたりする必要が生じ、部品点数が増えてコストアップに繋がる。また、スピンドルとその後段の減速機構との外側で回転スライダと切替リングとを連結させるため、ハウジングが大径化してコンパクト化の障害にもなる。
【0006】
そこで、本発明は、低コスト且つコンパクトとなる構造でドリルモードを得ることができる打撃工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、スピンドルの外面に前後方向の摺動溝を形成して、摺動溝内にピン部材を、ハンマーに設けた係止凹部に係止する前進位置と、係止凹部から離間する後退位置との間で前後方向へ摺動可能に嵌合し、スピンドルに、ハウジングの外部から回転操作可能な切替部材を外装して、ハウジング内に、切替部材の第1の回転位置でピン部材を前進位置に摺動させ、第2の回転位置でピン部材を後退位置に摺動させる変換機構を設けて、切替部材の第1の回転位置への回転操作に伴うピン部材の前進位置への摺動により、ピン部材をスピンドルとハンマーとに跨って係止させてハンマーをスピンドルと一体回転させるドリルモードを選択可能としたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、変換機構は、摺動溝の後端からスピンドルの外面周方向に連設される案内溝と、その案内溝に対向して切替部材の内面周方向に形成される押圧溝と、案内溝と押圧溝とに跨って収容されるボールと、を含み、切替部材の第1の回転位置では、押圧溝が案内溝から周方向にずれることでボールを押圧して摺動溝に進入させて、ピン部材を前進位置に摺動させることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、変換機構に、スピンドルの軸心に形成されて摺動溝と連通する軸孔内で前後移動可能に設けられ、ピン部材の前方で摺動溝内に突出する突出部を備えた戻し部材と、その戻し部材を後方へ押圧して突出部を介してピン部材を後退位置に付勢する付勢手段と、を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、本来のインパクトモードに加えて、インパクトが発生しないドリルモードでも使用できる。よって、工具の使い分けが不要となって作業性が良好となる。而も、切替部材の回転をスピンドルの外面に設けたピン部材の摺動に変換してハンマーに係脱させるので、少ない部品点数且つ省スペースでモード切替が可能となり、低コスト且つコンパクトな構造となる。
請求項2の発明によれば、請求項1の効果に加えて、ボールの移動量がそのままピン部材の移動量となり、切替部材の回転を効率良くピン部材の摺動に変換することができる。
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、切替部材の第2の回転位置でピン部材をハンマーから確実に離間させることができ、モード切替の信頼性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インパクトドライバの一部縦断面図である(インパクトモード)。
【図2】内部機構の分解斜視図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1のA−A線断面図である(ドリルモード)。
【図6】規制ピン部分の横断面図である。
【図7】図5から45°位相を変えた縦断面図である。
【図8】震動機構部分の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、打撃工具の一例であるインパクトドライバ1を示す。このインパクトドライバ1は、左右の半割ハウジング3,3を組み付けて形成され、モータ4を収容する本体ハウジング2を有し、その本体ハウジング2の前方(図1の右側)に、遊星歯車減速機構7を収容したギヤハウジング6を組み付けると共に、筒状のインナーハウジング8を、後部が本体ハウジング2内に挿入される格好で組み付けている。インナーハウジング8の内部には、スピンドル9、打撃機構10、アンビル11がそれぞれ収容されて、アンビル11がインナーハウジング8及びその前端に固定される前ハウジング12に軸支されて前方へ突出している。本体ハウジング2の下方には、モータ4を駆動させるトリガー14を備えたハンドル13が形成されている。
【0011】
モータ4の出力軸5には、ピニオン15が嵌着されてギヤハウジング6内の軸心に突出している。遊星歯車減速機構7は、一段目の遊星歯車17を保持する第1キャリア16と、二段目の遊星歯車19を保持する第2キャリア18とを備え、ピニオン15に一段目の遊星歯車17を噛合させている。また、第2キャリア18は、スピンドル9の後端へ一体に形成されてインナーハウジング8内でボールベアリング20に軸支されている。また、二段目の遊星歯車19が遊星運動するインターナルギヤ21は、第2キャリア18と遊星歯車19との双方に噛合する前進位置と、遊星歯車19のみに噛合する後退位置との間でスライド可能に設けられている。
【0012】
ギヤハウジング6及びインナーハウジング8の内周面には、インターナルギヤ21の外周と係合するスライドスリーブ22が前後移動可能に収容されている。このスライドスリーブ22の外周には、ギヤハウジング6及びインナーハウジング8の外部に突出する突起23が設けられて、この突起23が、本体ハウジング2に前後へスライド可能に設けたスライドスイッチ24に保持されている。
よって、スライドスイッチ24の前後へのスライド操作により、スライドスリーブ22を介してインターナルギヤ21の位置を前後へ切替可能となり、スピンドル9の回転速度を二段階に選択できる。
【0013】
一方、打撃機構10は、図2にも示すように、スピンドル9の前端に外装され、アンビル11の後端に設けられた一対のアーム27,27に係合する一対の爪26,26を前面に突設したハンマー25と、そのハンマー25を爪26がアーム27に係合する前進位置へ付勢するコイルバネ28とを備えている。ハンマー25は、その内周面に前端から後方へ向けて凹設されて後端が先細りとなる山形溝29,29と、スピンドル9の外周面で先端を前方に向けて凹設されたV字溝30,30とに跨って嵌合するボール31,31を介してスピンドル9と連結されている。
【0014】
アンビル11は、後面軸心に形成した軸受孔32に、スピンドル9の前端に突設した小径部33を嵌合させて、スピンドル9の前端を同軸で軸支している。軸受孔32には、コイルバネ34によって小径部33の端面に押圧されてスラスト方向の荷重を受けるボール35が収容されている。
さらに、前ハウジング12から突出するアンビル11の前端には、ビットの装着孔36が形成されると共に、装着孔36に挿入されたビットを抜け止め装着するために、アンビル11に設けたボール77,77を後退位置で装着孔36内へ押圧するスリーブ76と、スリーブ76を後退位置へ付勢するコイルバネ78とからなるチャック機構75が設けられている。
【0015】
そして、インナーハウジング8内において、スピンドル9には、切替部材としてのチェンジリング37が、第2キャリア18の前方で回転可能に外装されている。このチェンジリング37は、前面内周側に周方向の押圧溝38,38を点対称に凹設した円盤状で、外周に設けたフランジ39の後面には、放射方向に稜線を有する複数の歯40,40・・が、周方向へ等間隔で全周に亘って形成されている。
また、チェンジリング37の外側でインナーハウジング8内には、前方を開口した皿状の受けリング41が回転可能に収容されて、前面に、放射方向に稜線を有する複数の歯42,42・・が、周方向へ等間隔で全周に亘って形成されている。この前面にチェンジリング37のフランジ39の後面が噛み合うことで、チェンジリング37と受けリング41とが一体回転するようになっている。受けリング41の外周で点対称位置には、半径方向へ突出する一対の連結ピン43,43が突設されている。
【0016】
一方、スピンドル9の外周面には、チェンジリング37の押圧溝38に対応した周方向の案内溝45と、その案内溝45の端部と連通して前方へ伸びる軸方向の摺動溝46とからなるL字溝44が、点対称位置で一対形成されて、押圧溝38と案内溝45とに跨って、3つのボール47,47・・が転動可能に嵌合している。また、摺動溝46には、ピン部材となるストッパピン48が前後移動可能に収容されている。
【0017】
49は、チェンジリング37の前方でスピンドル9に外装された保持リングで、点対称位置に一対の膨出部50,50が形成されると共に、膨出部50と90°位相が異なる点対称位置に一対の保持片51,51が前方へ向けて切り起こし形成されている。この保持リング49は、案内溝45の前方でスピンドル9へ直交状に貫通された一対の係止ピン52,52の両端に膨出部50,50を係止させると共に、コイルバネ28の後端を外周に当接させることで、係止ピン52に係止する位置で前後動及び回転を規制された状態で保持されている。この位置で、保持片51,51は摺動溝46,46と同じ位相にあってストッパピン48,48を外側から保持し、摺動溝46からの脱落を防止している。
【0018】
よって、受けリング41と共にチェンジリング37が、押圧溝38が案内溝45から略ずれるまで前方に対して右回転する第1の回転位置にある場合、押圧溝38の端面が最後尾のボール47を周方向へ押圧し、ボール47を案内溝45から摺動溝46へ転動させる。これにより最前部のボール47がストッパピン48を押圧して摺動溝46の前方へ押し上げることになる。この押し上げ位置では、ストッパピン48の先端が、ハンマー25の後端内周に形成された係止凹部53,53に係止して、ストッパピン48を介してスピンドル9とハンマー25とを回転方向で一体に連結することになる。なお、ハンマー25は、コイルバネ28の付勢によって、スピンドル9が回転しない状態では常にボール31が山形溝29とV字溝30との尖端間で嵌合する位相となっており、この位相で摺動溝46に対して係止凹部53が前後方向で並ぶように形成されている。
【0019】
また、スピンドル9の軸心には、図3にも示すように、摺動溝46の前側部分と一対の連通孔54a,54aを介して連通し、前方が閉塞された軸孔54が形成されて、この軸孔54内に戻し部材としての戻しプレート55が設けられている。この戻しプレート55は、軸孔54内で前後移動可能且つ前方に設けた付勢手段としてのコイルバネ57によって後方へ付勢されて、両端に設けた一対の突出部56,56を、連通孔54a,54aを貫通して摺動溝46内へ突出させて、ストッパピン48,48の前端に当接させている。
【0020】
従って、受けリング41と共にチェンジリング37が、押圧溝38が案内溝45に一致する第2の回転位置にある場合、図4にも示すように、戻しプレート55によってストッパピン48,48が後方へ押圧されることで、ボール47もストッパピン48に押圧されて摺動溝46から案内溝45内に収まることになる。この位置ではストッパピン48,48は係止凹部53,53から離間している。
58は、第2キャリア18とチェンジリング37との間に配置されるクリック板で、第2キャリア18の前面に突出する遊星歯車19の支軸60の端部に内周が係合してスピンドル9と回転方向で一体に連結されている。このクリック板58に切り起こし形成したクリック片59が、第1、第2の回転位置に合わせてチェンジリング37の後面に凹設した2箇所の凹部37aへそれぞれ弾性係止することで、チェンジリング37の各回転位置での位置決めが行われるようになっている。
【0021】
このチェンジリング37の回転位置は、受けリング41を介して本体ハウジング2の外部から操作可能となっている。
まず、受けリング41の外周に設けた各連結ピン43は、インナーハウジング8へ周方向に形成された一対のスリット61を貫通している。このスリット61の両端がそれぞれチェンジリング37の第1、第2の回転位置に対応し、クリック片59によるチェンジリング37の位置決めがなされるようになっている。各スリット61の両端には、後方側へ傾斜して連結ピン43を後方へ案内する傾斜部62A,62Bが形成されて、位置決めされたチェンジリング37から受けリング41を一旦後退させるようにしている。また、各傾斜部62Bの後端には、周方向の第2スリット61aがそれぞれ連設されている。
【0022】
さらに、インナーハウジング8の外周には、連結スリーブ63が設けられている。この連結スリーブ63は、スリット61を貫通した各連結ピン43が挿入する一対の透孔64,64を有する一方、外周面に、一対の軸方向の突条65,65を形成して、インナーハウジング8へ回転可能に外装されている。また、透孔64,64は、スリット61から傾斜部62A,62Bへの連結ピン43の前後方向の移動を許容するために前後に伸びる長円となっている。
【0023】
この連結スリーブ63の外側に、操作スリーブ66が外装されている。この操作スリーブ66は、連結スリーブ63に形成した突条65,65が嵌合する図示しない溝を内面に備えて本体ハウジング2と前ハウジング12との間で回転可能に設けられて、操作スリーブ66の回転によって連結スリーブ63を一体に回転可能としている。67は、操作スリーブ66の後端内側でインナーハウジング8へ点対称に設けられる規制ピンで、この規制ピン67は、前進位置のハンマー25のすぐ後方でインナーハウジング8の内面から軸心に向けて出没可能に設けられている。インナーハウジング8の外側で規制ピン67には、規制ピン67の外端に設けたサークリップ68との間でコイルバネ69が外装されて、常態では規制ピン67を、その内端がインナーハウジング8の内面から突出しない外側位置に付勢している。この規制ピン67との干渉を回避するために、連結スリーブ63の中間部位には逃げ部70が形成されている。
【0024】
従って、操作スリーブ66を回転させると、連結スリーブ63も一体に回転し、透孔64に挿入する連結ピン43を介して受けリング41が回転し、これと噛み合うチェンジリング37が回転することになる。
また、操作スリーブ66の後端内周には、図6にも示すように、周方向の両側が傾斜面となる一対の山形突起71,71が点対称に突設されている。この山形突起71は、チェンジリング37を第1の回転位置に回転させる操作スリーブ66の回転位置で規制ピン67,67と同じ位相となるもので、この状態で規制ピン67,67をコイルバネ69の付勢に抗して内端がインナーハウジング8内へ突出する内側位置へ押圧する。
【0025】
一方、前ハウジング12内には、アンビル11の震動機構80が設けられている。この震動機構80は、図2及び図7,8に示すように、アンビル11が圧入されて一体に回転する固定リング81と、その固定リング81の後方でアンビル11へ別体回転可能に外装される可動リング82と、その可動リング82に対して後方から係脱可能な切替リング83と、その切替リング83を可動リング82との係止位置へ付勢するコイルバネ84と、切替リング83を操作スリーブ66の回転操作に連係させる一対の連係金具85とを含んでなる。
固定リング81と可動リング82との互いの対向面には、半径方向が稜線となる複数の山形歯からなる噛み合い面86,87が形成されている。可動リング82の後方でインナーハウジング8の前面には、可動リング82の後面に当接する複数のボール88,88・・を転動可能に支持するリング状の受け金具89が設けられて、可動リング82をボール88,88・・によって回転可能に支持している。
【0026】
また、可動リング82の外周には、周方向に複数の外突起90,90・・が突設されて、可動リング82より大径となる切替リング83の内周には、可動リング82の外突起90が周方向で係合可能な複数の内突起91,91・・が突設されて、切替リング83が可動リング82の外側に外装される状態で、可動リング82の回転を規制可能となっている。さらに、切替リング83は、インナーハウジング8の前面に突設された筒状の保持壁8a内で、切替リング83の外周に突設した複数の規制突起92,92・・を、保持壁8aの内面で前後方向に凹設された案内溝93に嵌合させることで、回転が規制された状態で前後移動可能に保持されている。
【0027】
連係金具85は、切替リング83の外周で点対称に突設した一対の小突起94,94を前端に貫通させた板状体で、インナーハウジング8の外面に凹設したガイド溝95に嵌合して前後方向へ移動可能に設けられている。連係金具85の後部には、後端が外側へ折り返される係止片96が形成されている。
この係止片96は、受けリング41の連結ピン43,43が傾斜部62A,62B間で移動する操作スリーブ66の左回転位置と中間回転位置との間では、操作スリーブ66の前端内周へ周方向に突設した突条97と係止して連係金具85をコイルバネ84の付勢に抗して後退させるものである。これにより切替リング83は、可動リング82から離間して可動リング82の回転をフリーにする。
【0028】
一方、係止片96は、受けリング41の連結ピン43,43が第2スリット61aの端部に移動する操作スリーブ66の右回転位置では、突条97から外れて連係金具85及び切替リング83をコイルバネ84の付勢によって前進させる。これにより、切替リング83が可動リング82の外周に係合し、可動リング82の回転を規制することになる。なお、突条97の端部には、係止片96の相対的な乗り降りをガイドする傾斜面98が形成されている。
【0029】
以上の如く構成されたインパクトドライバ1においては、操作スリーブ66を左回転させると、受けリング41は、連結ピン43,43がスリット61の左端に達する位置に回転すると共に、チェンジリング37は第2の回転位置に回転してクリック片59に一方の凹部37aを係止させる。ここからさらに操作スリーブ66を左回転位置まで回転させると、受けリング41は、連結ピン43,43が傾斜部62Aに進入することでチェンジリング37から後方へ離間する。
【0030】
この状態では、前述のようにストッパピン48は戻しプレート55を介したコイルバネ57の付勢によってL字溝44の摺動溝46内を後退しているため、ストッパピン48はハンマー25の係止凹部53に係止しないインパクトモードとなる。
よって、ハンドル13に設けたトリガー14を操作してモータ4を駆動させると、出力軸5の回転が遊星歯車減速機構7を介してスピンドル9に伝わり、スピンドル9を回転させる。スピンドル9は、ボール31を介してハンマー25を回転させ、ハンマー25が係合するアンビル11を回転させるため、アンビル11の先端に装着したビットによってネジ締め等が可能となる。
【0031】
ネジ締めが進んでアンビル11のトルクが高まると、ハンマー25の回転とスピンドル9の回転とにずれが生じるため、ハンマー25は、ボール31がV字溝30に沿って転動することで、スピンドル9に対して相対的に回転しながらコイルバネ28の付勢に抗して後退する。
そして、ハンマー25の爪26がアーム27から外れると、ハンマー25はコイルバネ28の付勢により、ボール31がV字溝30の先端に向けて転動することで回転しながら前進する。よって、ハンマー25の爪26が再びアーム27に係合して回転打撃力(インパクト)を発生させる。このアンビル11への係脱を繰り返すことで増し締めが行われる。
【0032】
一方、操作スリーブ66を右回転させると、受けリング41は、連結ピン43,43が傾斜部62Aから再びスリット61内に復帰することで前進してチェンジリング37と噛み合い、連結ピン43,43がスリット61の右端に達する回転位置に回転すると共に、チェンジリング37はクリック片59が他方の凹部37aに係止する第1の回転位置に回転する。さらに操作スリーブ66を中間回転位置まで右回転させると、受けリング41は、連結ピン43,43が傾斜部62Bに進入することでチェンジリング37から後方へ離間する。
この状態では、図5に示すように、ストッパピン48はチェンジリング37の押圧溝38によってボール47を介して押圧され、コイルバネ57の付勢に抗してL字溝44の摺動溝46内を前進するため、ストッパピン48がハンマー25の係止凹部53に係止するドリルモードとなる。
【0033】
このインパクトモードからドリルモードへの切り替えの際、ハンマー25の爪26がアーム27に係合せずにその後面へ乗り上がっている場合がある。この場合、ハンマー25が前進位置に達していないので、ハンマー25の側面が規制ピン67の突出側に位置することになる。従って、操作スリーブ66を回転させると、突出が規制される規制ピン67が山形突起71に乗り上がらず、山形突起71と干渉して操作スリーブ66の回転が規制される。これにより、ハンマー25がアンビル11と連結されないままドリルモードとして使用されるおそれがなくなる。なお、この規制は、インパクトモードで一旦スピンドル9及びハンマー25を回転させれば、ハンマー25の爪26が再びアーム25に係合する前進位置へ復帰するため、操作スリーブ66の回転操作が可能となる。
【0034】
よって、トリガー14を操作してモータ4を駆動させると、スピンドル9の回転に伴ってハンマー25が回転し、ハンマー25とアンビル11とが一体に回転する。
そして、アンビル11のトルクが高まっても、ハンマー25はストッパピン48に係止して後退と共にスピンドル9との相対回転が規制されるため、ハンマー25はアンビル11に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル11はスピンドル9と一体回転することになる。
なお、このドリルモードとインパクトモードでは、前述のように切替リング83は後退して可動リング82と係合していない。従って、アンビル11と共に固定リング81が回転しても、可動リング82は固定リング81と共に回転するため、アンビル11に震動は発生しない。
【0035】
そして、ドリルモードから操作スリーブ66をさらに右回転位置まで回転させると、受けリング41は、チェンジリング37から離間したまま連結ピン43,43が傾斜部62Bから第2スリット61aに進入する位置に回転する。チェンジリング37は第1の回転位置のままである。
この状態では、前述のように切替リング83は前進して可動リング82と係合し、可動リング82を回転規制する震動ドリルモードとなる。アンビル11のアーム27と、インナーハウジング8の内部前面に設けたワッシャー99との間には、隙間が設定されてアンビル11が前後へ微動可能となっているため、アンビル11が回転すると、アンビル11と一体回転する固定リング81と回転規制される可動リング82との噛み合い面86,87同士の干渉により、アンビル11に震動が発生することになる。
【0036】
このように、上記形態のインパクトドライバ1によれば、スピンドル9の外面に前後方向の摺動溝46を凹設して、摺動溝46内にストッパピン48を、ハンマー25に設けた係止凹部53に係止する前進位置と、係止凹部53から離間する後退位置との間で前後方向へ摺動可能に嵌合し、スピンドル9に、インナーハウジング8の外部から回転操作可能なチェンジリング37を外装して、インナーハウジング8内に、チェンジリング37の第1の回転位置でストッパピン48を前進位置に摺動させ、第2の回転位置でストッパピン48を後退位置に摺動させる変換機構を設けて、チェンジリング37の第1の回転位置への回転操作に伴うストッパピン48の前進位置への摺動により、ストッパピン48をスピンドル9とハンマー25とに跨って係止させてハンマー25をスピンドル9と一体回転させるドリルモードを選択可能としたことで、本来のインパクトモードに加えて、インパクトが発生しないドリルモードでも使用できる。よって、工具の使い分けが不要となって作業性が良好となる。而も、チェンジリング37の回転をスピンドル9の外面に設けたストッパピン48の摺動に変換してハンマー25に係脱させるので、少ない部品点数且つ省スペースでモード切替が可能となり、低コスト且つコンパクトな構造となる。
【0037】
特にここでは、変換機構を、摺動溝46の後端からスピンドル9の外面周方向に連設される案内溝45と、その案内溝45に対向してチェンジリング37の内面周方向に形成される押圧溝38と、案内溝45と押圧溝38とに跨って収容されるボール47と、を含むものとして、チェンジリング37の第1の回転位置では、押圧溝38が案内溝45から周方向にずれることでボール47を押圧して摺動溝46に進入させて、ストッパピン48を前進位置に摺動させようにしているので、ボール47の移動量がそのままストッパピン48の移動量となり、チェンジリング37の回転を効率良くストッパピン48の摺動に変換することができる。
【0038】
また、変換機構に、スピンドル9の軸心に形成されて摺動溝46と連通する軸孔54内で前後移動可能に設けられ、ストッパピン48の前方で摺動溝46内に突出する突出部56を備えた戻しプレート55と、その戻しプレート55を後方へ押圧して突出部56を介してストッパピン48を後退位置に付勢するコイルバネ57と、を設けたことで、チェンジリング37の第2の回転位置でストッパピン48をハンマー25から確実に離間させることができ、モード切替の信頼性が高まる。
【0039】
なお、スピンドルの外面に設けるボールの数は適宜増減可能で、L字溝と係止凹部の数も一対ずつに限らず、3つ以上設けることは可能である。また、ストッパピンの摺動溝やボールの案内溝を、凹設でなくスピンドルの外面に突設した一対の突条によって形成したりしてもよい。
一方、チェンジリングの回転操作に係る構造も、例えば受けリングをなくしてチェンジリングの外周に連結ピンを突設して連結スリーブのスリットに挿通させたり、連結スリーブをなくして操作スリーブをチェンジリングの外側に位置させて、受けリング又はチェンジリングに設けた連結ピンを直接結合させたり等して差し支えない。また、連結ピンと透孔との関係を逆にしてもよい。
【0040】
その他、例えばハウジングについては、インナーハウジングがないものや、インナーハウジングや前ハウジングもなく本体ハウジングにハンマーケースが結合されるもの等、遊星歯車減速機構については、三段以上の速度切替が可能なものや、速度切替機構がないもの、震動機構がないもの等、それぞれ形態は適宜変更可能である。勿論インパクトドライバ以外に、アングルインパクトドライバやインパクトレンチ等の他の打撃工具であっても本発明は採用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1・・インパクトドライバ、2・・本体ハウジング、4・・モータ、5・・出力軸、7・・遊星歯車減速機構、8・・インナーハウジング、8a・・保護壁、9・・スピンドル、10・・打撃機構、11・・アンビル、14・・トリガー、25・・ハンマー、26・・爪、27・・アーム、28,57・・コイルバネ、31・・ボール、37・・チェンジリング、37a・・凹部、38・・押圧溝、40,42・・歯、41・・受けリング、43・・連結ピン、44・・L字溝、45・・案内溝、46・・摺動溝、47・・ボール、48・・ストッパピン、49・・保持リング、52・・係止ピン、53・・係止凹部、55・・戻しプレート、56・・突出部、61・・スリット、61a・・第2スリット、62A,62B・・傾斜部、63・・連結スリーブ、64・・透孔、66・・操作スリーブ、67・・規制ピン、71・・山形突起、75・・チャック機構、80・・震動機構、81・・固定リング、82・・可動リング、83・・切替リング、86,87・・噛み合い面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内でモータによって回転するスピンドルと、そのスピンドルの前方で前記ハウジングに同軸で軸支され、ビットが装着される前端を前記ハウジングの前方へ突出させ、後端にアームを放射状に突設したアンビルと、そのアームに係合する爪を前面に突設して前記スピンドルに外装され、前記アンビルのトルクに応じて前後移動して前記アームと係脱し、前記スピンドルの回転を回転打撃力として前記アンビルに伝達するハンマーと、を備えた打撃工具であって、
前記スピンドルの外面に前後方向の摺動溝を形成して、前記摺動溝内にピン部材を、前記ハンマーに設けた係止凹部に係止する前進位置と、前記係止凹部から離間する後退位置との間で前後方向へ摺動可能に嵌合し、
前記スピンドルに、前記ハウジングの外部から回転操作可能な切替部材を外装して、前記ハウジング内に、前記切替部材の第1の回転位置で前記ピン部材を前記前進位置に摺動させ、第2の回転位置で前記ピン部材を前記後退位置に摺動させる変換機構を設けて、
前記切替部材の前記第1の回転位置への回転操作に伴う前記ピン部材の前記前進位置への摺動により、前記ピン部材を前記スピンドルとハンマーとに跨って係止させて前記ハンマーを前記スピンドルと一体回転させるドリルモードを選択可能とした
ことを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
前記変換機構は、前記摺動溝の後端から前記スピンドルの外面周方向に連設される案内溝と、その案内溝に対向して前記切替部材の内面周方向に形成される押圧溝と、前記案内溝と押圧溝とに跨って収容されるボールと、を含み、前記切替部材の第1の回転位置では、前記押圧溝が前記案内溝から周方向にずれることで前記ボールを押圧して前記摺動溝に進入させて、前記ピン部材を前記前進位置に摺動させることを特徴とする請求項1に記載の打撃工具。
【請求項3】
前記変換機構に、前記スピンドルの軸心に形成されて前記摺動溝と連通する軸孔内で前後移動可能に設けられ、前記ピン部材の前方で前記摺動溝内に突出する突出部を備えた戻し部材と、その戻し部材を後方へ押圧して前記突出部を介して前記ピン部材を後退位置に付勢する付勢手段と、を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の打撃工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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