説明

打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッド

【課題】
胴に張設されたヘッドを打叩してヘッドの振動で発音する膜鳴タイプの打楽器について、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整を可能にする。
【解決手段】
胴に張設されたヘッド2を打叩してヘッド2の振動で発音する膜鳴タイプの打楽器のヘッド2の打叩面21の裏面22に粘着剤5で貼着されて使用される。ヘッド2に貼着される裾部41から胴の内部に突出される頂部42に向けて径が小さくなるように形成された中空のコーン形の調整筒4からなる。調整筒4には、貼着代45,ビード46が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴に張設されたヘッド(皮,膜)を打叩してヘッドの振動で発音する膜鳴タイプの打楽器の音色の調整に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
最近、音楽の嗜好性の多様化から、打楽器の音色にも変化が求められるようになってきている。膜鳴タイプの打楽器では、ヘッドの振動が変化すると音色も変化することから、ヘッドに音色の調整具を取付けることが試みられている。
【0003】
従来、膜鳴タイプの打楽器における音色の調整の技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0004】
特許文献1には、ヘッドの打叩面の裏面に環状の振動吸収材を張設する技術が記載されている。
【0005】
特許文献1に係る技術は、振動吸収材によってヘッドの振動を吸収することで、音量を減衰するという調整を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3004768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術では、単に音量を減衰するという調整が行われるにすぎず、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整を期すことができないという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整を可能にする打楽器用音色調整具と、この打楽器用音色調整具が取付けられた打楽器用ヘッドとを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するため、本発明に係る打楽器用音色調整具は、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載の手段を採用する。
【0010】
即ち、請求項1では、胴に張設されたヘッドを打叩してヘッドの振動で発音する膜鳴タイプの打楽器のヘッドの打叩面の裏面に貼着されて使用されるものであって、ヘッドに貼着される裾部から胴の内部に突出される頂部に向けて径が小さくなるように形成された中空のコーン形の調整筒からなることを特徴とする。
【0011】
この手段では、ヘッドの打叩面の裏面にコーン形の調整筒が貼着されることで、打叩されたヘッドの振動波の一部が調整筒の内部で反射されて複雑に集合され頂部から指向性をもって放出される。
【0012】
また、請求項2では、請求項1の打楽器用音色調整具において、調整筒は裾部の外周縁にヘッドに当接されるリング形の貼着代が設けられていることを特徴とする。
【0013】
この手段では、調整筒の裾部に貼着代が設けられることで、調整筒をヘッドに安定的に貼着することができるようになる。
【0014】
また、請求項3では、請求項1または2の打楽器用音色調整具において、調整筒は頂部,裾部の間の中腹部に環状のビードが設けられていることを特徴とする。
【0015】
この手段では、調整筒の中腹部にビードが設けられることで、調整筒が補強されるとともに、ヘッドの振動波の反射,集合がより複雑化される。
【0016】
前述の課題を解決するため、本発明に係る打楽器用ヘッドは、特許請求の範囲の請求項4,5に記載の手段を採用する。
【0017】
即ち、請求項4では、請求項1〜3の打楽器用音色調整具の調整筒が中心をヘッドの打叩点の中心に一致させてヘッドに貼着されていることを特徴とする。
【0018】
この手段では、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整がなされる打楽器用音色調整具がヘッドの打叩点に貼着された状態で製品化されることで、ヘッドへの打楽器用音色調整具の貼着作業が不要になる。
【0019】
また、請求項5では、請求項4の打楽器用ヘッドにおいて、ヘッドの打叩点の中心がヘッドの中心に設定されていることを特徴とする。
【0020】
この手段では、ヘッドの打叩点の中心であるヘッドの中心に打楽器用音色調整具が貼着されることで、ヘッドへの打楽器用音色調整具の貼着が容易となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る打楽器用音色調整具は、ヘッドの打叩面の裏面にコーン形の調整筒が貼着されることで、打叩されたヘッドの振動波の一部が調整筒の内部で反射されて複雑に集合され頂部から指向性をもって放出されるため、打叩されたヘッドの振動波が複雑化して、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整がなされ、特に高音領域での出力に優れたものとなる。
【0022】
また、請求項2として、調整筒の裾部に貼着代が設けられることで、調整筒をヘッドに安定的に貼着することができるようになるため、ヘッドが激しく打叩されても脱落しない耐久性が得られる効果がある。
【0023】
また、請求項3として、調整筒の中腹部にビードが設けられることで、調整筒が補強されるとともに、ヘッドの振動波の反射,集合がより複雑化されるため、強度面での耐久性が高くなるとともに、音楽の嗜好性の多様化に対応したより微妙な音色の調整がなされる効果がある。
【0024】
さらに、本発明に係る打楽器用ヘッドは、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整がなされる打楽器用音色調整具がヘッドの打叩点に貼着された状態で製品化されることで、ヘッドへの打楽器用音色調整具の貼着作業が不要になるため、打楽器用音色調整具のヘッドへの適正な位置への面倒な位置合わせが不要になる効果がある。
【0025】
また、請求項5として、ヘッドの打叩点の中心であるヘッドの中心に打楽器用音色調整具が貼着されることで、ヘッドへの打楽器用音色調整具の貼着が容易となるため、製造コストを低減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第1例の断面図である。
【図2】図1の全体の一部を透視した斜視図である。
【図3】図1の音色の調整の機能を説明する簡略図である。
【図4】図1の音色の調整の機能を裏付けるグラフである。
【図5】本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第2例の断面図である。
【図6】本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第3例の断面図である。
【図7】本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第4例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1〜図4は、本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第1例を示すものである。
【0029】
第1例では、図2に示すように、円筒形の胴1の両側にヘッド2,3が張設されたドラムからなる打楽器に適用されるものを示してある。
【0030】
第1例は、図1に示すように、打楽器用音色調整具が打面となる側のヘッド2に貼着されて使用される調整筒4として構成される。
【0031】
調整筒4は、裾部41から頂部42に向けて径が小さくなるように形成された中空のコーン形からなるもので、スピーカのコーンに近似した形状に、織布を用いた芯材にフェノール樹脂等の合成樹脂を含浸させて加熱成形したもの等で形成されている。従って、裾部41が相対的に大きく開口され、頂部42が相対的に小さく開口されている。裾部41の外周縁には、頂部42方向に隆起した格好の断面形状が円弧形の緩衝部43が環状に設けられ、緩衝部43の外側にヘッド2の打叩面21の裏面22に当接されるリング形の代44が設けられている。裾部41,頂部42の間の中腹部45には、環状のビード46が複数個設けられている。
【0032】
この調整筒4は、図1,図2に示すように、打面となる側のヘッド2の打叩面21の裏面22に粘着剤5で貼着されて使用される。粘着剤5は、調整筒4の貼着代44に塗布される。なお、粘着剤5については、予め調整筒4の貼着代44に塗着して剥離紙で被覆しておき、貼着の際に剥離紙を剥離して露出させるようにすると、調整筒4の貼着が便利になる。
【0033】
ヘッド2に貼着された調整筒4は、頂部42が胴1の内部に突出して反対側のヘッド3に対面される格好となる。
【0034】
調整筒4が貼着されたヘッド2が打叩されると、図3に示すように、ヘッド2の反対側のヘッド3に向かう振動波の一部aが調整筒2の内部で直進を阻まれ反射されて直進する他の一部bと複雑に集合され相対的に小さく開口されている頂部42から指向性をもって放出されることになる。この結果、調整筒4の頂部42の開口rに相当する部分のヘッド2の振動波が他の振動波と相違することになって、打叩されたヘッドの振動波が複雑化して、音楽の嗜好性の多様化に対応した微妙な音色の調整がなされる。この微妙な音色の調整については、人の感性で表現が異なるものの、「ヘッド2の打叩音が変化(強化,明瞭化)した」,「バスドラムに落着感が得られる」,「アンサンブルでドラムが目立ちすぎなくなる」等の感想が得られている。なお、これ等の感想を裏付けるものとして、図4に示すように、調整筒4が貼着されたヘッド2の振動波が高音域になるほど音圧が高くなることが実験で実証された。即ち、図4において、白棒グラフが調整筒4の貼着されないヘッド2について及び黒棒グラフが調整筒4の貼着されたヘッド2についての変化であり、1.0kHz〜5.0kHzの比較的低周波域での出力を残しつつ、5.0kHz以上の高周波域において音圧レベルが大きな値を示し、高音領域での出力に優れた効果のあることが確認された。
【0035】
音色の調整においては、調整筒4の緩衝部43がヘッド2振動で弾性変形して、調整筒4のヘッド2との無用の衝突音等の異音の発生を防止している。また、調整筒4のビード46が調整筒4の内部における振動波の反射,集合をより複雑化している。なお、調整筒4のビード46は、調整筒4を補強して強度面での耐久性が高めることにも寄与している。
【0036】
第1例の使用においては、調整筒4に貼着代44が設けられているため、調整筒4がヘッド2に安定的に貼着されヘッド2が激しく打叩されても脱落しない耐久性が得られる。
【0037】
なお、複数個の調整筒4をヘッド2に貼着することも可能である。
【0038】
また、調整筒4は、中心(軸線)がヘッド2の打叩点の中心に位置されていることが理想的である。従って、ヘッド2の打叩点が一定であるバスドラム用としては、調整筒4をヘッド2に貼着した打楽器用ヘッドを製品として提供するのが好ましい。このように提供された打楽器用ヘッドでは、ヘッド2への打楽器用音色調整具(調整筒4)の貼着作業が不要になるため、打楽器用音色調整具(調整筒4)のヘッド2への適正な位置への面倒な位置合わせが不要になる。なお、バスドラム等では、通常ヘッド2の打叩点がヘッド2の中心に設定されているため、打楽器用音色調整具(調整筒4)の位置合わせが面倒になることもない。
【0039】
図5は、本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第2例を示すものである。
【0040】
第2例は、調整筒4の中腹部45が外側に膨出した椀形に近いコーン形とされている。
【0041】
第2例によると、調整筒4の内部における振動波の反射,集合をより複雑化することができる。
【0042】
図6は、本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第3例を示すものである。
【0043】
第3例は、調整筒4の中腹部45が内側に凹んだ漏斗形に近いコーン形とされている。ある。
【0044】
第3例によると、調整筒4の内部における振動波の反射,集合をより複雑化することができる。
【0045】
図7は、本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドを実施するための形態の第4例を示すものである。
【0046】
第4例は、調整筒4の中腹部45が内外側に出入りする波形となったコーン形とされている。
【0047】
第4例によると、調整筒4の内部における振動波の反射,集合をより複雑化することができる。
【0048】
以上、図示した各例の外に、調整筒4をヘッド2に打楽器用ヘッドを製品として提供する際の貼着には、粘着剤による他、接着剤及び熱溶着等の他の貼着手段を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る打楽器用音色調整具および打楽器用ヘッドは、ドラム以外の広範な膜鳴タイプの打楽器に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 胴
2 ヘッド
21 打叩面
22 裏面
4 調整筒
41 裾部
42 頂部
44 貼着代
46 ビード
5 粘着剤5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴に張設されたヘッドを打叩してヘッドの振動で発音する膜鳴タイプの打楽器のヘッドの打叩面の裏面に貼着されて使用されるものであって、ヘッドに貼着される裾部から胴の内部に突出される頂部に向けて径が小さくなるように形成された中空のコーン形の調整筒からなることを特徴とする打楽器用音色調整具。
【請求項2】
請求項1の打楽器用音色調整具において、調整筒は裾部の外周縁にヘッドに当接されるリング形の貼着代が設けられていることを特徴とする打楽器用音色調整具。
【請求項3】
請求項1または2の打楽器用音色調整具において、調整筒は頂部,裾部の間の中腹部に環状のビードが設けられていることを特徴とする打楽器用音色調整具。
【請求項4】
請求項1〜3の打楽器用音色調整具の調整筒が中心をヘッドの打叩点の中心に一致させてヘッドに貼着されていることを特徴とする打楽器用ヘッド。
【請求項5】
請求項4の打楽器用ヘッドにおいて、ヘッドの打叩点の中心がヘッドの中心に設定されていることを特徴とする打楽器用ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37547(P2012−37547A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174442(P2010−174442)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(510200185)株式会社アサプラ (1)