説明

払拭部材

【課題】表面にこびりついた油汚れやこげ汚れを落とす性能が高く、かつ表面に傷をつけにくい払拭部材を提供すること。
【解決手段】払拭部材1は、基材層10と、基材層10の第1の表面12に存在し、バインダーと粉末活性炭とを含む研磨コーティング層16とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃対象物に傷をつけずにこびりついた汚れを落とす払拭部材に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、調理器具、キッチンの流し台、浴室、洗面台、あるいはトイレ等及びその周辺に用いられる材料は多様化している。通常これらの場所を清掃する際には、雑巾やたわし類などを用いて払拭することにより汚れを落とすが、このような多様な材料は、その材料の個々の性質により、汚れの種類、汚れの付き具合、汚れの落としやすさも多様である。また、傷つきやすさも多様であり、特に、比較的硬度の小さい材料でできた器具等に比較的硬度の大きな汚れが付着すると、傷をつけずに汚れを落とすことは難しい。
【0003】
例えば、近年急速に普及しているIH(Induction Heating)調理器の天板は一般にガラス素材が用いられているが、付着する汚れは油汚れやこげ汚れが多く、天板のガラス素材に傷を付けずにこれらの汚れを落とすのは困難である。また、ガスコンロの場合もIH調理器と同様のガラス素材が使用される傾向にあり、同様の問題が生じている。
【0004】
また、近年の環境保護を重視する観点から、できるだけ界面活性剤を用いた洗剤を使用しないことが奨励されている。
【0005】
特許文献1には、液体の保持が可能な基材シートに水性洗浄剤が含浸されており、基材シートの少なくとも一面は液透過性の繊維集合体からなり、該繊維集合体を構成する繊維にモース硬度が5以下の研磨粒子が保持固定されている湿式の清掃用シートが記載されている。
【0006】
特許文献2には、スポンジ状の板状芯材の一面又は両面に、粒子径が0.9mm〜5.5mmの炭粒を充填した袋体を有する浴用洗浄具が記載されている。炭粒を充填した袋体及びこの袋体を被覆する布材は、炭粒の出入りが自在である。
【0007】
従って、多様化する調理器具、キッチンの流し台、浴室、洗面台、あるいはトイレ等及びその周辺に用いられる材料の表面にこびりついた汚れを、洗剤を使用せず、当該表面に傷を付けずに落とすことができる払拭部材が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−225187号公報
【特許文献2】特開2001−327429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こびりついた油汚れやこげ汚れを落とす性能が高く、かつ比較的硬度の小さい材料からなる払拭対象物の表面に傷をつけにくい払拭部材を提供する。さらに、洗剤を使用せずにこびりついた油汚れやこげ汚れを落とすことができる払拭部材を提供する。またさらに、IH調理器やガスコンロのガラス素材製天板に傷を付けず、洗剤を使用せずにこびりついた油汚れやこげ汚れを落とすことができる払拭部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材層と、前記基材層の表面の少なくとも一部に存在し、バインダーと粉末活性炭とを含む研磨コーティング層とを含む払拭部材を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、粉末活性炭よりもモース硬度の大きい材料でできた清掃対象物、特に、セラミック製、ガラス製、ホーロー製等の清掃対象物にこびりついた汚れを落とすことができ、かつ当該清掃対象物の表面に傷をつけにくい払拭部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の払拭部材の一例を示す図である。
【図2】本発明の払拭部材の一例を示す図である。
【図3】本発明の払拭部材の一例を示す図である。
【図4】本発明の払拭部材の一例を示す図である。
【図5】本発明の払拭部材の一例を示す図である。
【図6】本発明の払拭部材の一例を示す図である。
【図7】本発明の払拭部材が有する研磨コーティング層の一例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の払拭部材は、基材層と、基材層の表面の少なくとも一部に存在する研磨コーティング層とを含む。基材層の表面は、第1の表面とその反対側の第2の表面とを有してもよく、この場合、これら第1及び第2の表面が基材層の厚さを画定する。
【0014】
研磨コーティング層は、バインダーと粉末活性炭(粒子群)とを含む。粉末活性炭のモース硬度が、約2以上約7未満であるため、本発明の払拭部材により、粉末活性炭のモース硬度よりも大きいモース硬度(例えば約7以上)の表面の汚れを、当該表面に傷を付けずに落とすことができる。粉末活性炭がバインダーに埋没した状態であっても、バインダーの厚さが可及的に薄くなるように素材調整を行うことで、研磨コーティング層の硬度は粉末活性炭の硬度が支配的になり、結果として、払拭対象表面に傷を付けることなく、粉末活性炭の微細な凹凸による研磨作用によって汚れを効果的に除去できる。粉末活性炭がバインダーから部分的に露出した構成とすれば、粉末活性炭自体が有する吸着作用により、洗剤を使用せずに汚れを落とすことができるため、環境に配慮した使い勝手の良い払拭部材を提供することができる。
【0015】
本発明の払拭部材の一の態様を図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、第1の表面12とその反対側の第2の表面14とを有する基材層10の、第1の表面12の全体に研磨コーティング層16を有する払拭部材1を示す。払拭部材1の厚さdは、第1の表面12と第2の表面14とにより画定される基材層10の厚さとほぼ等しい。払拭部材1は、例えば、基材層10の第1の表面12の全体に液体バインダーと粉末活性炭とを含むスラリーをスプレーコートして、研磨コーティング層16を形成することにより得られる。厚さdは、特に限定されないが、例えば、約5mm〜約50mmとすることができる。また、第1の表面12の全体に研磨コーティング層16を形成した基材層10を、所望の形状にカットすることにより、製品としての払拭部材1を得ることもできる。
【0017】
図2は、第1の表面22とその反対側の第2の表面24とを有する基材層20の、第1の表面22の一部に研磨コーティング層26を有する払拭部材2を示す。払拭部材2は、例えば、基材層20の第1の表面22を部分的にマスクした状態で液体バインダーと粉末活性炭とを含むスラリーをスプレーコートして、マスクしていない部分に研磨コーティング層26を形成することにより得られる。
【0018】
図3は、第1の表面32とその反対側の第2の表面34とを有する六面体形状の基材層30の、第1の表面32及び第2の表面34を含む6つの面全てに研磨コーティング層36を有する払拭部材3を示す。払拭部材3は、例えば、基材層30の第1の表面32及び第2の表面34に液体バインダーと粉末活性炭とを含むスラリーをスプレーコートし、必要に応じて基材層30を所望の製品形状にカットした後、第1の表面32及び第2の表面34を除く4つの側面に、さらに同様のスラリーをスプレーコートして、研磨コーティング層36を全表面に形成することにより得られる。
【0019】
図4は、第1の表面42とその反対側の第2の表面44とを有する基材層40の、第1の表面42とこれに隣接する二つの側面とのそれぞれの一部に研磨コーティング層46を有する払拭部材4を示す。払拭部材4は、例えば、基材層40の第1の表面42を部分的にマスクした状態で液体バインダーと粉末活性炭とを含むスラリーをスプレーコートし、マスクしていない部分に研磨コーティング層46を設けた後、必要に応じて基材層40を所望の製品形状にカットし、続いて第1の表面42の研磨コーティング層46に隣接する基材層40の2つの側面のそれぞれの一部に、同様にマスクを用いて、同様のスラリーをスプレーコートして研磨コーティング層46を形成することにより得られる。
【0020】
図5は、第1の表面52とその反対側の第2の表面54とを有する基材層50の、第1の表面52と、第1の表面52に隣接する4つの側面の、第1の表面52から厚さd1に至る部分とに、研磨コーティング層56を有する払拭部材5を示す。払拭部材5は、例えば、基材層50の第1の表面52側の所定厚さ部分を液体バインダーと粉末活性炭とを含むスラリーに浸漬、乾燥して研磨コーティング層56を形成することにより得られる。
【0021】
図6は、凹凸形状の第1の表面62とその反対側の第2の表面64とを有する基材層60の、第1の表面62の全体に研磨コーティング層66を有する払拭部材6を示す。払拭部材6は、例えば払拭部材1と同様にして得られる。払拭部材6の最大厚さd2は、第1の表面62と第2の表面64とにより画定される基材層60の最大厚さとほぼ等しく、特に限定されないが、例えば、約5mm〜約50mmとすることができる。
【0022】
図7(a)は、本発明の払拭部材が有する研磨コーティング層の一例を示す拡大断面図である。粉末活性炭の一粒子72が、バインダー70の中に全体に埋没している様子を示している。図7(b)は、研磨コーティング層の他の一例を示す拡大断面図である。粉末活性炭の一粒子72が、バインダー70から部分的に露出している様子を示している。研磨コーティング層に含有される全ての粉末活性炭72のうち少なくとも一部がバインダー70から部分的に露出することにより、粉末活性炭自体の吸着効果が発揮され、油汚れ等を吸着できるため、洗剤を使用する必要がない。また、粉末活性炭72の優れた研磨作用及び吸着作用により、払拭部材を用いて表面を払拭した後に別部材により空拭きを行う等のいわゆる二度拭きも回避できる。粉末活性炭72は、初期状態でバインダー70から部分的に露出する構成に限らず、例えば払拭部材の使用中にバインダー70から部分的に露出することもあるが、微細な粉体であるから、粒状活性炭等に比べればバインダー70から脱落しにくい。
【0023】
基材層の材料としては、例えば不織布又は発泡体を使用することができる。
【0024】
不織布は、例えば熱可塑性繊維をカード法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブロー法又は湿式法などの方法によって加工することにより得られる。不織布の材料は、従来公知の材料を用いることができ限定されない。具体的には例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレンなど)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6/6及びナイロン10)など、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、アクリル系モノマーを含有するコポリマー、ならびにそれらのブレンド及びコポリマーから選択することができる。また、半合成繊維(アセテート繊維など)、天然繊維(綿、紙など)、再生繊維(セルロース、レーヨンなど)及びその他の非熱可塑性繊維を、熱可塑性繊維とブレンドすることもできる。
【0025】
発泡体としては、例えば再生セルロース発泡体、ウレタン樹脂系発泡体、メラミン樹脂系発泡体、オレフィン樹脂系発泡体等のフォーム材料から適宜選択することができる。発泡体にはスポンジも含む。
【0026】
基材層の目付けは、特に限定されないが、例えば、約50g/m以上約800g/m以下、又は約80g/m以上約700g/m以下とすることができる。
【0027】
基材層が第1の表面及び第2の表面を有する場合、これら表面は、実質的に平坦であっても、種々の形状の凹凸を有してもよい。この場合、第1の表面及び第2の表面により画定される基材層の厚さは、ほぼ一定とすることができる。「ほぼ一定」とは、基材が柔軟性等の物理的性質を有することによる測定誤差を加味した表現であり、基材の材料となる素材の厚さを意図的には変化させていない状態を示す。
【0028】
研磨コーティング層は、バインダーによって基材層の表面に保持された粉末活性炭を含む。粉末活性炭は、バインダー全体に分散させてもよいし、バインダーの一部に分散させることもできる。研磨コーティング層中の粉末活性炭とバインダーの割合は、特に限定されないが、例えば、研磨コーティング層全体を100質量部とした場合に、粉末活性炭を約5質量部以上約40質量部以下とすることができる。
【0029】
研磨コーティング層は、基材層を構成する不織布や発泡体の繊維や樹脂等の表面に存在し、その厚さは、粉末活性炭を保持できる程度であれば良く特に限定されないが、例えば、約1μm以上約300μm以下とすることができる。
【0030】
研磨コーティング層中に存在する粉末活性炭は、そのすべてがバインダー中に埋没していても良いし、バインダー中に埋没しているものと、バインダーから部分的に露出しているものとが混在していてもよい。さらに、バインダー中のすべての粉末活性炭が、バインダーから部分的に露出していても良い。少なくとも一部の粉末活性炭がバインダーから部分的に露出することにより、粉末活性炭の存在による研磨効果に加えて、粉末活性炭自体の吸着効果が発揮される。
【0031】
研磨コーティング層のバインダーは、粉末活性炭を基材層上に保持する。バインダーとしては、有機の重合性樹脂を含む液体バインダーを使用することができる。このような重合性樹脂としては、例えばフェノール樹脂(レゾール及びノボラックの両方)、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アクリル化ウレタン、アクリル化エポキシ、エチレン系不飽和化合物、ペンダント不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1つのペンダントアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1つのペンダントアクリレート基を有するイソシアネート誘導体、ビニルエーテル、エポキシ樹脂、それらの混合物及び組み合わせが挙げられる。
【0032】
粉末活性炭は、例えば、木粉、褐炭、石炭、コークス、木炭、ヤシガラ、竹炭、樹脂、石油残査、動物の骨などを原料として公知の方法により製造されたものを使用することができる。粉末活性炭のモース硬度は、約2以上約7未満のものを使用することができる。
【0033】
粉末活性炭の粒子径は特に限定されないが、例えば約20μm以上約500μm以下、又は約20μm以上約200μm以下とすることができる。また、粉末活性炭の平均粒子径は、例えば約150μmとすることができる。
【0034】
粉末活性炭の粒子径及び平均粒子径は、JIS K1474(2007)の方法により測定することができる。
【0035】
払拭部材は、基材層に、従来公知の方法を用いて研磨コーティング層を設けることにより製造することができる。
【0036】
研磨コーティング層は、例えば、液状のバインダーに粉末活性炭を分散させてスラリーを調製した後、このスラリーを基材層の表面にスプレーコーティング法やロールコーティング法等従来公知のコーティング方法により適用し、続いてバインダーを硬化又は固化させることにより得られる。
【0037】
このとき、不織布等からなる基材層の前処理として、スラリーを基材層の表面に適用する前に、基材層の表面にプレコート層を設けてもよい。かかる前処理により、後から適用する研磨コーティング層がより良好に基材層に保持され、また基材層を構成する素材が繊維の場合には、繊維がまとまり強度が上がる。
【0038】
払拭部材の形状は特に限定されず、種々の形状とすることができる。払拭部材が第1の表面及びその反対側の第2の表面を有する場合、これら表面の形状は例えば、矩形(正方形、長方形、ひし形、平行四辺形、台形など)、三角形、多角形、星型、円又は楕円とすることができる。このような形状の払拭部材は、従来公知の方法を組合せて製造することが可能である。例えば、基材をこれらの形状にカットしたのち、所望の部分に研磨コーティング層を設けるか、あるいは第1の表面及び第2の表面の少なくとも一方に研磨コーティング層を設けた後に所望形状にカットし、必要に応じてさらに基材層の側面に研磨コーティング層を設けることにより、払拭部材を得ることができる。
【0039】
本発明の払拭部材は、モース硬度が約2以上約7未満である粉末活性炭を使用するため、キッチンの流し台、浴室、洗面台、あるいはトイレ等及びその周辺器具のうち、その表面を構成する材料のモース硬度が粉末活性炭のモース硬度よりも大きい(例えば約7以上の)材料で構成される器具に付着した油汚れやこげ汚れを、で表面に傷を付けずに落とすことができる。また、粉末活性炭が油を吸着するため、洗剤が不要であり、場合によっては二度拭きも不要である。モース硬度が約7以上であり、本発明の払拭部材による清掃に適するものとして例えば、セラミック、ガラス、ホーロー等から構成される調理器具等を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
払拭部材の製造
ランドウェーバー機を用いて、ポリエステル繊維(17デシテックス)を加工し、厚さ約15mm及び目付け230g/mの不織布を作成した。得られた不織布を二本のゴムロールの間を通しながら、表1に記載のプレコート溶液を表面に塗布し、185℃で10分間加熱し硬化してプレコート層を設けた。得られた不織布の乾燥塗布重量は580g/mであった。続いて、表2に示すスラリーを調製した。用いた粉末活性炭の平均粒子径は約150μmであった。得られたスラリーをプレコート層を設けた不織布の一表面の全体にスプレーコートにより塗布した。塗布重量は2.2g/100cmであった。その後、スラリーが塗布された不織布を160℃で10分間加熱して、図1に示す払拭部材1を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【符号の説明】
【0043】
1、2、3、4、5、6 払拭部材
10、20、30、40、50、60 基材層
12、22、32、42、52、62 第1の表面
14、24、34、44、54、64 第2の表面
16、26、36、46、56、66 研磨コーティング層
d、d2 払拭部材の厚さ
d1 研磨コーティング層を有する部分の基材層の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の表面の少なくとも一部に存在し、バインダーと粉末活性炭とを含む研磨コーティング層と、
を含む払拭部材。
【請求項2】
前記基材層の前記表面が、第1の表面と該第1の表面の反対側の第2の表面とを含んでおり、前記第1の表面及び前記第2の表面が前記基材層の厚さを画定する請求項1に記載の払拭部材。
【請求項3】
前記粉末活性炭の粒子径が、20μm以上500μm以下である請求項1又は2に記載の払拭部材。
【請求項4】
前記基材層が、不織布又は発泡体から形成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の払拭部材。
【請求項5】
さらに、前記基材層の前記表面と前記研磨コーティング層との間に設けられるプレコート層を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の払拭部材。
【請求項6】
前記研磨コーティング層において、少なくとも一部の前記粉末活性炭が前記バインダーから部分的に露出している請求項1〜5のいずれか一項に記載の払拭部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate