説明

抄紙用バインダー脂肪族ポリエステル繊維

【課題】本発明の目的は低温での熱接着性に優れた抄紙用バインダー脂肪族ポリエステル繊維を提供することである。
【解決手段】上記目的は、脂肪族ポリエステルからなり、繊度が0.5〜20.0dtex、繊維長が1〜20mm、破断伸度が60〜300%、複屈折率が0.01以下であるバインダー用脂肪族ポリエステル繊維によって達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での熱接着性に優れた抄紙用バインダーポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抄紙用の合成繊維としてビニロン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、芳香族ポリエステル繊維などが使用されてきた。近年、機械的特性、電気的特性、耐熱性、寸法安定性等に優れ、かつコスト優位性の高いポリエチレンテレフタレート繊維を抄紙用原料の一部又は全部に使用することが多くなってきている。しかしポリエチレンテレフタレート繊維はガラス転移温度が約70℃、融点が約260℃と高温であることから、抄紙のカレンダー加工工程においては、200℃近い温度をかけないと十分な不織布強力が得られないという欠点を有していた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−313726号公報
【特許文献2】特開2003−339257号公報
【特許文献3】特開2004−218110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は低温での熱接着性に優れた抄紙用バインダー脂肪族ポリエステル繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明の抄紙用バインダーポリエステル繊維を発明するに至った。すなわち本発明は脂肪族ポリエステルからなり、繊度が0.5〜20.0dtex、繊維長が1〜20mm、破断伸度が60〜300%、複屈折率が0.02以下であるバインダー用(熱接着性)脂肪族ポリエステル繊維である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低温での熱接着性に優れる抄紙用バインダー脂肪族ポリエステル繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の抄紙用バインダー繊維に用いられるポリマーとしては、脂肪族ポリエステルが好ましく用いられる。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸若しくはポリカプロラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸又は
ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート等の脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールから得られる脂肪族ポリエステルが挙げられる。中でも、ポリ乳酸が好ましく用いられる。
【0008】
なおこれらのポリマーには、公知の添加剤、例えば顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、抗菌剤、消臭剤、蛍光増白剤、難燃剤、紫外線吸収剤、滑剤等を含んでもよい。特に艶消し剤として二酸化チタンが含まれる場合を好ましく採用することができる。
【0009】
本発明の抄紙用バインダー繊維の単糸繊度は、0.5〜20.0dtexであることが必要である。より好ましくは、1.0〜10.0dtexである。単糸繊度が0.5dtexより小さいと、繊維が極めて柔軟であるため、抄紙の際に繊維同士が絡まりやすく分散性が阻害され、十分な品位の湿式不織布が得られない。また単糸繊度が20.0dtexより大きいと、単位面積あたりのバインダー繊維数が少なくなるため、接着点の数が減少し、得られる湿式不織布の強度が十分でない。
【0010】
本発明の抄紙用バインダー繊維の長さは、1〜20mmであることが必要である。より好ましくは、2〜10mmである。繊維の長さが1mm未満であると、水中への分散性が低下するだけでなく、製造時の切断抵抗が大きくなるため、繊維が伸ばされたり短繊維同士が絡みやすくなり、安定した切断が難しくなるとともに、得られるバインダー繊維中に繊維塊が多くなって水中への分散性が極端に悪くなるので好ましくない。また20mmを越えて長くなると、抄紙の際に十分な分散性が得られず、好ましくない。
【0011】
本発明のバインダー用脂肪族ポリエステル繊維の破断伸度は、60〜300%であることが必要である。より好ましくは、80〜200%である。破断伸度が60%未満であると、得られる湿式不織布の強度が十分でない。また300%を越えると、抄紙の際に繊維が絡まりやすくなり、分散性を阻害する。
【0012】
本発明の脂肪族ポリエステルの複屈折率は、0.02以下であることが必要である。複屈折率が0.02を越えると分子配向が進んでいるため、接着性が不足し、得られる湿式不織布の強度が十分でない。その繊維の複屈折率0.01以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の抄紙用繊維は、優れた低温での接着性を有するので、抄紙加工時のエネルギーコストを低減することができる。
【0014】
次に本発明の抄紙用バインダー繊維の製造方法について説明する。本発明のバインダー繊維は、脂肪族ポリエステルを用い、紡糸口金のノズルから吐出されたポリマー流に冷却風をあて、紡糸速度1300m/min以下で引き取り、未延伸糸条を得る。
【0015】
次いで、CDR(冷延伸倍率:cold draw ratio)の0.8倍以下の倍率で延伸、もしくは延伸処理を実施せずに糸条束に抄紙用の油剤を付与し、捲縮を付与することなく、熱処理を施すことなく、1〜20mmの長さに切断して抄紙用バインダー繊維が製造される。このとき延伸倍率がCDRの0.8倍を超えると、分子の配向が進み、接着性が低下する。また熱処理を施すと分子の結晶化が進み、接着性が低下する。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)繊度
JIS L1015:2005 8.5.1 A法により測定した。
(2)伸度
JIS L1015:2005 8.7.1 法により測定した。
(3)複屈折率
市販の偏光顕微鏡によって、光源にナトリウムランプを用い、試料をα−ブロムナフタリンに浸漬した状態下でBerekコンペンセータ法からレタデーションを求めて計算した。なお、測定回数(n数)を5回としてその平均値を求めた。
(4)裂断長
繊維を水中でよく撹拌、混合して分散させ、大きさが約25cm×約25cmで、目付けが約50g/cmのシートを作製する。該シートを濾紙の間に挟んで、熊谷理機工業株式会社製の高温用回転型乾燥機を使って表面温度80℃の条件で、熱処理を行う。この熱処理されたシートを表面温度120℃、線圧180kg/cmの条件でカレンダー加工を行う。得られたシートを、JIS P8113に従って引張り強さを測定し、裂断長で表した。
【0017】
[参考例1]
ネイチャーワークス社製ポリ−L−乳酸チップを乾燥後、225℃で溶融し、孔数が1008の紡糸口金を通して、510g/分で吐出し、1300m/分の速度で引取った。この繊維を収束し、約14万dtexのトウにした後、温水中で2.4倍に延伸し、酸成分がモル比でテレフタル酸が80%、イソフタル酸が20%と数平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%とを共重合した数平均分子量が約10000のポリエーテル・ポリエステル共重合体のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、乾燥せずに5mmの繊維長に切断し、単糸繊度が1.6dtexの抄紙用主体繊維を得た。
【0018】
[実施例1]
ネイチャーワークス社製ポリ−L−乳酸チップを乾燥後、225℃で溶融し、孔数が3006の紡糸口金を通して、440g/分で吐出し、1000m/分の速度で引取った。この繊維を収束し、約14万dtexのトウにした後、延伸せずに、酸成分がモル比でテレフタル酸が80%、イソフタル酸が20%と数平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%とを共重合した数平均分子量が約10000のポリエーテル・ポリエステル共重合体のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、乾燥せずに5mmの繊維長に切断し、単糸繊度が1.5dtexの抄紙用バインダー繊維を得た。該抄紙用バインダー繊維40重量%と参考例1により作製したポリ乳酸主体繊維60重量%からなる湿式不織布の裂断長を評価した結果を表1に示した。
【0019】
[参考例2]
ポリエチレンテレフタレートチップを乾燥後、285℃で溶融し、孔数が600の紡糸口金を通して、350g/分で吐出し、1200m/分の速度で引取った。この繊維を収束し、約14万dtexのトウにした後、温水中で3.3倍に延伸し、酸成分がモル比でテレフタル酸が80%、イソフタル酸が20%と数平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%とを共重合した数平均分子量が約10000のポリエーテル・ポリエステル共重合体のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、乾燥せずに5mmの繊維長に切断し、単糸繊度が1.6dtexの抄紙用主体繊維を得た。
【0020】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレートチップを乾燥後、285℃で溶融し、孔数が1192の紡糸口金を通して、181g/分で吐出し、1300m/分の速度で引取った。この繊維を収束し、約14万dtexのトウにした後、延伸せずに、酸成分がモル比でテレフタル酸が80%、イソフタル酸が20%と数平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%とを共重合した数平均分子量が約10000のポリエーテル・ポリエステル共重合体のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、乾燥せずに5mmの繊維長に切断し、単糸繊度が1.2dtexの抄紙用バインダー繊維を得た。該抄紙用バインダー繊維40重量%と参考例2により作製したポリエチレンテレフタレート主体繊維60重量%からなる湿式不織布の裂断長を評価した結果を表1に示した。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、低温での接着性に優れた抄紙用バインダー繊維を得ることができ、該バインダー繊維を用いた場合、抄紙加工時のカレンダー加工工程の温度を下げることができ、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルからなり、単糸繊度が0.5〜20.0dtex、繊維長が1〜20mm、破断伸度が60〜300%、複屈折率が0.02以下であるバインダー用脂肪族ポリエステル繊維。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である請求項1記載のバインダー用脂肪族ポリエステル繊維。
【請求項3】
繊維の単糸繊度が1.0〜10.0dtexである請求項1又は2記載のバインダー用脂肪族ポリエステル繊維。
【請求項4】
繊維の繊維長が2〜10mmである請求項1〜3のいずれか1項記載のバインダー用脂肪族ポリエステル繊維。
【請求項5】
繊維の破断伸度が80〜200%である請求項1〜4のいずれか1項記載のバインダー用脂肪族ポリエステル繊維。
【請求項6】
繊維の複屈折率が0.01以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のバインダー用脂肪族ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2010−185157(P2010−185157A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31142(P2009−31142)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】