説明

抄紙用プレスフェルトの連結方法

【課題】基体の表面平滑性を損なうことなく、高い連結強度で基体を連結することができる、抄紙用プレスフェルトの連結方法を提供すること。
【解決手段】連結方法は、基体20の互いに連結すべく突き合わせられた側端上に跨がるように熱接着シート50を配置し、さらにその上に補助シート60を配置し、加熱体70を補助シート60に当て、補助シート60を介して熱接着シート50を加熱し、熱接着シート50を補助シート60とともに基体20に接着させ、その後、基体20に、バット繊維をニードルパンチにより絡合一体化させることからなる。この方法により、補助シートを使用しない場合に見られた加熱体への接着がなくなり、基体の表面平滑性を損なうことなく、作業性の向上及び面接着による均一で且つ高い連結強度で基体を連結することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用プレスフェルトの連結方法に関し、特に、抄紙用プレスフェルト(以下、単に「フェルト」ということがある。)の基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体の連結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抄紙工程のプレスパートにはフェルトが使用され、プレスパート内に設けられたプレス加圧部内へフェルトと湿紙とを通過させ、湿紙の水分をフェルトへと移行させることにより湿紙から水分を搾水している。なお、プレス加圧部は、一対のプレスロールにより構成されるものや、プレスロールとプレスロールの周面に対応した形状を有するシューとにより構成されるものが一般的である。
【0003】
この抄紙用プレスフェルトの構成を図2に基づき説明する。フェルト10は、基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体20と、基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体20に絡合一体化されたバット層30とで構成されている。なお、基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体20は、フェルト全体10の強度を発現させるために必要不可欠である。そして、基体としては、経糸と緯糸とを織製することにより構成される無端状の基布が、通常使用されている。
【0004】
そして、フェルト10の製造にあっては、まず完成されるフェルト10の幅とほぼ同幅で、且つ、所望の長さを有する無端状の織布である基体20が製造される。この基体20の製造にあっては、経糸と緯糸を織機により袋織にして無端状の基布を製造したり、有端状の織布を織製した後、両端部を縫合して無端状とするのが一般的である。基体20を製造した後、基体20にバット繊維を載置し、ニードルパンチングによりバット繊維と基体20とを絡合一体化させ、フェルト10を完成させる。
また、基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体は、基体の圧縮・回復性を補強する手段として、特許文献1に記載されているような、立体編物が好適に使用できる。以下、説明を容易にするため基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体20を、一括して基体20と呼ぶ。
【0005】
上記構成の従来のフェルトは、使用される抄紙機のプレスパートには様々なサイズや機械構成があるので、各プレスパート毎にそれぞれ別個に製造されなければならない。しかし、フェルト製造業者にあっては、通常、一台の織機で様々なサイズの基布に対応しなくてはならない為に、基布の製造に非常に時間と工数がかかり、工程の簡略化及びコストダウンを図ることが非常に困難であった。
【0006】
この問題を解決すべく、完成されるフェルトよりも狭い幅の帯状体を予め製造しておき、帯状体を螺旋状に巻回することにより、基体を構成する方法が特許文献2に開示されている。
【0007】
この方法を図3に基づき説明する。
まず、完成されるフェルトの性能に対応して選択された糸材等により、帯状体23を形成する。次に、一対のガイドロールGR同士の間隔を、完成されるフェルトの長さに合わせて調整する。
そして、一対のガイドロールGRを駆動することにより、帯状体23を両ガイドロールGR上へ繰出す。この際、帯状体23は螺旋状に巻回され、帯状体23の側面同士が隣接して配置されるように、ガイドロールGR上に対する繰出し角度を調整する。
なお、この巻回作業は、隣接する帯状体23同士により構成される幅寸法が、所望のフェルトとほぼ同寸法になるまで継続する。
そして、螺旋状の帯状体23の側面同士を互いに連結して一体化し、基体を製造した後、基体にバット層を形成し、抄紙用プレスフェルトを完成させる。
【0008】
さらに、図4に示すような方法もある(例えば、特許文献3参照。)。
この方法においては、プレスフェルト10の幅よりも狭い幅の帯状体21の始端と終端を接合することで無端状の部分基体22を形成し、複数の部分基体22を側面41同士が隣接するように配置し、その側面41において連結・一体化させて基体20を構成し、基体20の外周面及び内周面にバット層30(湿紙側層31及びマシン側層32)を形成して、抄紙用プレスフェルトを完成させる。
この方法によれば、所望の寸法の抄紙用プレスフェルト10を、比較的短い時間と工数で製造することができる。また、部分基体を角度を設けずに並置すればよいので、部分基体の離間や、離間に伴う連結強度の低下、離間した部分基体の側面の湿紙への転写等を防ぐことができる。
【0009】
一方、このような基体の連結手段としては、様々な手段がある。例えば、水溶性の繊維による縫合をする場合、フェルト完成後には、多量の水分に曝されることになるので、水溶性繊維を溶解させることができる。かくして、縫合に使用した繊維がなくなることにより、連結部分と他の箇所との物性差を減少させることが可能となる。
この場合、水溶性繊維が溶解しても、バット繊維のニードリング作業により、連結部分はバット繊維を介して連結されているので、連結部分の連結状態は保たれる。よって、水溶性繊維の溶解後も、帯状体の端部は剥離することはなく、基体としての強度を発現させることができる。
なお、このような水溶性繊維としては、常温で溶解する繊維や、PVA(ポリビニルアルコール)等のような温水で溶解する繊維を使用することができる。
【0010】
これ以外にも、不溶性の繊維による縫合、接着剤による接着、溶融繊維の不織材料の(超音波溶接による)溶接等がある。特許文献4には、超音波エネルギーを用いて織布帯の隣接ターンを互いに連結する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−232098号公報
【特許文献2】特表平6−503385号公報
【特許文献3】特開2004−36046号公報
【特許文献4】特開平10−226978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、縫合により連結する場合、以下のような問題がある。
(1)連結する複数の基体において、基体への縫合糸の貫通部分を糸の張力で引寄せているが、基体貫通部付近とそれ以外の部分とでは、引寄せる力が異なる。すなわち、縫合糸の連結では糸による点(基体への貫通部分)と線(押え)での連結であるため、糸による点と点の間に糸張力が働いて引っ張られるが、点から外れた区間での基体は弛んだ状態に置かれる。このような弛んだ状態に置かれた場合に、部分的な斑を内在した基体の縫合では、後工程において部分的な寸法変化斑が生じ、寸法変化が大きい場合、連結部分が部分的に開くことがある。
(2)基体を連結後にニードル工程へ運搬する場合や、ニードル機械に基体を掛け入れる場合などのハンドリングの際に、基体の糸貫通部分に応力が集中するため、基体間の口空きや基体の損傷、縫合糸の切断や伸びが生じる場合がある。
(3)ミシン縫合時の目飛び、ハンドリング時の縫合糸切れが生じた場合、部分的な口開きが生じることがある。なお、ハンドリングとは基体を作製し、ニードル工程へ運搬する等の、機械的又は人的取扱いを云う。
(4)圧縮性の高いシートの場合、縫合する際に、基体間に隙間がないように、2枚の基体を強く引寄せるため、糸張力を高くするが、この糸の張力を高くすると、シートの縫合糸貫通部分付近がへこみ、連結部分に凹凸が生じる。
【0012】
また、超音波を用いて連結する場合、連結部分の圧縮性がなくなるという問題がある。
さらに、溶融繊維の不織材料による溶接において、超音波を用いないで加熱体により熱圧着(熱プレス)させることも行われてきたが、熱圧着の際に不織材料が加熱体に接着することが多く、基体の表面平滑性が損なわれたり、連結強度が低下したりする問題がある。
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑み、基体の表面平滑性を損なうことなく、高い連結強度で基体を連結することができる、抄紙用プレスフェルトの連結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、抄紙用プレスフェルトの基体の連結すべき部分に跨がるように熱接着シートを、さらにその上に補助シートをそれぞれ配置し、加熱体を前記補助シートに当て、前記補助シートを介して前記熱接着シートを加熱し、前記熱接着シートを前記基体の連結すべき部分に前記補助シートとともに接着させ、前記基体にバット繊維をニードルパンチにより絡合一体化させることを特徴とする抄紙用プレスフェルトの連結方法によって、前記の課題を解決した。本発明では、基体の連結すべき部分において、基体の表裏の少なくとも一方に跨るように、熱接着シートと、さらにその上に補助シートをそれぞれ配置するか、又は表裏両面に配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱接着シートの上に補助シートを配置し、補助シートを介して熱接着シートを加熱して、熱接着シートを補助シートとともに連結すべき部分に接着させることにより、補助シートを使用しない場合に見られた加熱体への接着がなくなり、基体の表面平滑性を損なうことなく、作業性の向上及び面接着による均一且つ高い連結強度で基体を連結することができる。特に、基体を面接着で固定しているので、従来の縫合のような問題が無く、部分的な斑も内在しないので、均一且つ連結強度の高い基体が構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を図1に基づいて説明する。
本発明の連結方法は、基体20の互いに連結すべく突き合わせられた側端上に跨がるように熱接着シート50を配置し、さらにその上に補助シート60を配置し、加熱体70を補助シート60に当て、補助シート60を介して熱接着シート50を加熱し、熱接着シート50を補助シート60とともに基体20に接着させ、その後、基体20に、バット繊維をニードルパンチにより絡合一体化させることからなる。
熱接着シート50は、熱融着繊維より構成される不織布、織布、又はフィルムからなり、アイロンや熱ローラ等の加熱体70で補助シート60を介して加熱されることにより、熱接着シート50は基体20の連結すべき側端を跨がって接着される。熱融着繊維としては、60〜160℃の範囲で接着性を有するものであることが好ましく、例えば、コポリアミド繊維等を用いることができる。
【0017】
また、熱接着シート50は不織布からなることが好ましく、これは、ニードルパンチングでバット繊維を基体20に絡合一体化させる際に、長繊維からなる不織布のようにバット繊維と交絡しやすいため、連結作業の効率化に寄与するからである。また、熱接着シート50にフィルムを使用した場合、フィルムを挟んで内側のバット繊維と外側のバット繊維とが交絡しづらく、バット繊維の移動が損なわれる欠点を有する。
補助シート60は、不織布、織布、又は、フィルムからなる。この補助シート60によって、アイロンや熱ローラ等の加熱体70が熱接着シート50に直接接触することがないので、基体20の表面平滑性を損なうことなく、高い連結強度で基体20を連結することができる。
なお、図1には、基体の互いに連結すべき側端を突き合わせて連結する方法が図示されているが、これに限るものではなく、連結すべき端部を重ね合わせて連結するものであってもよい。
【0018】
熱接着シート及び補助シートの厚みや目付によって、部分的な段差や重量斑等が生じ、プレスパートでフェルトを使用する際に、振動が発生したり、段差が紙に転写するといった問題を生じることがある。
これを防ぐために、熱接着シートをできる限り軽量のものとし、しかも、補助シートを水溶性とすることが好ましい。このように、補助シートを水溶性とすれば、ニードル工程終了後やフェルトの精練時(水洗等)、又は抄紙工程でフェルトが使用される時点で、多量の水分に曝されることになるので、それに伴って補助シートを消失させることができる。補助シートを水溶性繊維で構成する場合、水溶性繊維としては、常温で溶解する繊維や、PVA(ポリビニルアルコール)等のような温水で溶解する繊維を使用することができる。また、補助シートを水溶性とせず、或る溶剤に溶ける材料で構成しても同様の効果を奏する。
【0019】
さらに、熱接着シートそのものも水溶性の材料又は或る溶剤に溶ける材料で構成してもよい。この場合、熱接着シートが溶解しても、バット繊維のニードリング作業により、基体の連結部分はバット繊維を介して連結されているので、基体の連結強度は保たれる。よって、熱接着シートの溶解後も、基体の連結部分は剥離することはなく、基体としての強度を発現させることができる。
しかし、より高い強度を必要とする連結部分においては、本発明の連結方法と縫合との併用がより望ましい。特に、基体を面接着で固定しているので、縫合との併用によって従来の縫合のような問題が無く、部分的な斑も内在しないので、均一且つ連結強度の高い基体が構成できる。
【0020】
本発明の連結方法は、図3に示すような帯状体23の側端同士の連結や、図4に示すような、部分基体22の側端41同士の連結に好適に利用できるものであるが、これに限るものではなく、例えば、図4に示すような帯状体21の始端と終端を連結したり、従来の有端状の織布を織製した後、両端部を連結して無端状とする場合にも好適に利用できる。
また、連結部分は、直線状(平面)に限るものではなく、斜面、凸状、或いは、階段状のものであってもよい。
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、熱接着シートの上に補助シートを配置し、補助シートを介して熱接着シートを加熱して、熱接着シートを補助シートとともに連結すべき部分に接着させることにより、基体の表面平滑性を損なうことなく、高い連結強度で基体を連結することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の抄紙用プレスフェルトの連結方法を示す説明図。
【図2】抄紙用プレスフェルトの断面図。
【図3】従来の抄紙用プレスフェルト製造方法を示す説明図。
【図4】他の従来の抄紙用プレスフェルト製造方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0023】
10:抄紙用プレスフェルト
20:基体
30:バット層
50:熱接着シート
60:補助シート
70:加熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙用プレスフェルトの基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体の連結すべき部分に跨がるように熱接着シートを、さらにその上に補助シートをそれぞれ配置し、
加熱体を前記補助シートに当て、前記補助シートを介して前記熱接着シートを加熱し、前記熱接着シートを前記基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体の連結すべき部分に前記補助シートとともに接着させ、
前記基体及び/又は基体とともに抄紙用プレスフェルトを構成する有端状又は無端状帯状体にバット繊維をニードルパンチにより絡合一体化させることを特徴とする、
抄紙用プレスフェルトの連結方法。
【請求項2】
前記熱接着シート及び/又は前記補助シートが水又は或る溶剤に溶ける性質のものであり、前記ニードルパンチ後、前記熱接着シート及び/又は前記補助シートを前記水又は前記或る溶剤によって消失させるステップをさらに含む、請求項1の抄紙用プレスフェルトの連結方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−83504(P2006−83504A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271547(P2004−271547)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】