説明

抄紙用ロール及びその加工方法

【課題】 抄紙機で用いる抄紙用ロールに関するものであり、特にプレスパートで用いる抄紙用プレスロールに関し、抄紙用プレスロールから紙離れが良く、多層紙の場合は紙の剥離防止効果も得られ、抄紙用プレスロール交換に起因する不稼動時間の短縮が可能な抄紙用ロール及びその加工方法に関する。
【解決手段】 基材の表面を粗研磨加工方法又は貼付加工方法により加工し、加工した基材を抄紙用ロールの表面に粘着材を介して巻き付ける抄紙用ロール及びその加工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機で用いる抄紙用ロールに関するものであり、特にプレスパートで用いる抄紙用プレスロールに関し、抄紙用プレスロールから紙離れが良く、多層紙の場合は紙の剥離防止効果も得られ、抄紙用プレスロール交換に起因する不稼動時間の短縮が可能な抄紙用ロール及びその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機では、水と繊維を含む原料から湿紙を形成し、形成した湿紙をプレスパートでプレスしながら脱水を行い、乾燥させることで乾紙の製品としている。このとき、プレスパートでは、例えば多層紙の紙層を形成するために、抄紙用プレスロールで紙層の水分を除去しているが、抄紙用プレスロールの材質、表面性及びプレス条件等によって、紙の地合いや風合いに大きな影響を与えている。したがって、プレスパートでの脱水精度は、紙(製品)を製造する中で大変重要な工程となっており、プレスパートで使用する抄紙用プレスロールに関する課題が多いのが現状である。
【0003】
抄紙用プレスロールは、抄紙用トッププレスロールと抄紙用ボトムプレスロールで一対となっており、通常、抄紙機は抄紙用プレスパートを複数箇所有しており、プレスパートを通過するごとに徐々に紙層の脱水を行っていく。また、プレスパートの具体的な脱水方法は、原料から形成され多くの水分を含んだ湿紙を、フェルト上に保持した状態で加圧された一対の抄紙用プレスロール間を通過させ、湿紙の水分をフェルト側に移行させることによって脱水を行う。
【0004】
この構成によると、湿紙の片面(下面)はフェルトに保持されているため、フェルトを介して抄紙用ボトムプレスロールと接触していないが、湿紙の別の片面(上面)は抄紙用トッププレスロールと直接接触することとなる。
【0005】
また、プレスローラから、プレスローラ又は次工程に湿紙を送り出す際に、湿紙はフェルトから剥離され、次工程のロールに直接湿紙が移送されることから、湿紙を抄紙用トッププレスロールの所定位置で剥離させる必要がある。そこで、剥離を容易にするために、抄紙用トッププレスロールには天然の花崗岩製のロールが用いられていた。また、抄紙用ボトムプレスロールには、抄紙用トップロールよりも軟質な樹脂製やゴム製のロールが用いられていた。
【0006】
天然の花崗岩製のロールは、表面を鏡面状に仕上げることができるため紙の表面に平滑性を持たせることが可能であり、さらに表面硬度が高いため耐久性があることから利点は多かった。しかし、抄紙機の高速化、高温化によるロールの破損が懸念されるようになると、天然資源である花崗岩を用いることは資源の枯渇を招くこととなり、数年後には花崗岩の入手自体が困難になると予想された。
【0007】
天然の花崗岩の代替石として、硬質樹脂や硬質ゴムに花崗岩や硅砂のような粉粒を混入して造った合成ストーンが提案され使用されるようになった(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、プレスパートでの脱水効率の増大を図る別の手段として、ダブルフェルトプレスが提案されている。これは、サクションロールと溝付プレスボトムロールで加圧し、二枚のフェルトを介して湿紙から脱水を行う構成となっており、溝付プレスボトムロールの硬度がサクションロールの硬度より低くなるように、溝付プレスボトムロールの表面をゴム層で形成したものである(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
一方、プレスパートにおいては紙離れ不良が課題となっている。紙離れ不良とは、図6に示すように、抄紙用トッププレスロール(9)と抄紙用ボトムロール(10)に加圧された湿紙(11)は、加圧点(12)を過ぎると抄紙用トッププレスロール(9)から剥離しフェルト(13)上に保持されて次工程へ進むのだが、この剥離すべき個所(14)を過ぎても剥離せず、抄紙用トッププレスロール(9)の表面に付着したまま引きつけられて回転する現象のことである。このような紙離れ不良は、プレスパートで用いる抄紙用プレスロール以外でも、抄紙機上において水分を40%以上含む湿紙が通過するロールで課題となっている。
【0010】
この紙離れ不良を改善する手段の一つとして、ロールの表面にセラミック膜を形成したロールが提案されている。これは、抄紙用プレスロール本体を構成する鋳鋼製のロールシェルの表面に、例えば95%Ni−5%Alの合金によるアンダーコーティング層を形成する。その上にAl(アルミナ)にTiO(二酸化チタン)を13%以上添加してなるセラミックス粉末又はTiOを100%としてなるセラミックス粉末を溶射して、セラミックス溶射被膜を形成した抄紙用プレスロールである(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
さらに、紙離れ不良を改善する別の手段として、抄紙用プレスロールに常に薬液を塗布しながら抄紙する方法が提案されている。これは、回転する抄紙用プレスロールの表面に対して、紙離れ向上剤としてのワックスを一定量ずつ供給付与し続けることにより、ワックスが抄紙用プレスロールの表面に一様に行き渡りワックス膜が形成され、紙離れを良くするものである(例えば、特許文献4参照)。
【0012】
一方、水分が40%に満たない湿紙が通過するロール、例えば乾燥工程におけるロールについては、汚れやキズ等の要因によりロール交換を行っている。
【0013】
【特許文献1】特開昭50−090704号公報
【特許文献2】特開平08−013372号公報
【特許文献3】特開平10−219581号公報
【特許文献4】特開2000−345489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特開昭50−090704号公報で提案されている合成ストーンは天然の花崗岩製のロールと比べ、表面の平滑性や保水性に劣るため、水分を多く含んでいる湿紙においてはロールから紙離れしにくくなり、紙切れなどの不良を生じている。
【0015】
また、特開平08−013372号公報で提案されているダブルフェルトは、湿紙の片面だけにフェルトを保持し、一般的な抄紙用プレスロールで加圧して脱水する場合と比べ脱水力は向上するが、紙離れ性を優先するとフェルトの材質によっては加圧力が低下する場合があり、紙離れ性と脱水力の両立までには至らない。
【0016】
また、特開平10−219581号公報で提案されているセラミックス膜を形成した抄紙用プレスロールは、表面にセラミックス被膜を溶射法等によって形成するための工程が別途必要であるため、抄紙用プレスロールの製造コストと比較すると価格が高く、特に小ロット生産の製品は製造コストが高くなることが懸念される。また、再加工や巻き替えに要する日数が長くなり、加工日数の短縮化に課題が残る。
【0017】
また、特開2000−345489号公報で提案されている薬液塗布手段は、薬液の塗布量が紙離れ性に大きく影響を及ぼすため、薬液の塗布量に微調整を要し、塗布量が少なすぎると紙離れの効果を減少させてしまうこととなり、逆に塗布量が多すぎると湿紙への影響が懸念されることとなる。また、薬液によるフェルトの汚れが発生しやすくなり、その結果、脱水力の低下を引き起こす可能性がある。
【0018】
さらに、抄紙機において、特に長網抄紙機で二層紙や三層紙などの紙層構造が異なる種類の紙を製造する場合、その種類の数だけ抄紙用プレスロールが必要となりコストがかさむこととなる。それに加え、紙質替えごとに抄紙用プレスロールの交換作業を要するため、不稼働時間が長くなってしまう。また、多層紙の場合は上層のみがロールから紙離れせず、多層紙における紙層間の層間剥離を生じている。
【0019】
また、実際の抄紙作業とは別に、抄紙用プレスロールの表面材質の仕様を検討する際、高額の抄紙用プレスロールを何種類も購入して表面適性テストを行う以外に方法がないため、装置導入に伴うコスト面及び交換作業に伴う不稼働時間により、生産的なコストがかさむ。
【0020】
また、抄紙機においては、プレスパートで用いる抄紙用プレスロールの他にも、水分が40%に満たない湿紙が通過する部位でもロールが用いられており、ロールの汚れやキズ等による交換作業を要するため、不稼働時間が長くなってしまう。
【0021】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、合成高分子材料の表面を所望の粗さに加工し、加工した合成高分子材料を抄紙用ロールの表面に粘着材を介して巻き付ける抄紙用ロール及びその加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明における抄紙用ロールは、抄紙用ロールの表面に粘着層を形成し、かつ粘着層の上に、合成高分子材料を有する上層を形成させたことを特徴とする。
【0023】
本発明における抄紙用ロールは、上層が多層構造で、かつ上層における最外の層が合成高分子材料で形成され、層間が接着剤で固着されたことを特徴とする。
【0024】
本発明における抄紙用ロールは、抄紙用プレスロールであることを特徴とする。
【0025】
本発明における抄紙用ロールは、合成高分子材料の厚さが0.03mm〜5.0mmを有する樹脂、スポンジ又は合成ゴムのうち、いずれか一つから選定されることを特徴とする。
【0026】
本発明における抄紙用ロールは、合成高分子材料の表面硬度がA30〜A100であることを特徴とする。
【0027】
本発明における抄紙用ロールは、合成高分子材料の表面粗さRyが5μm〜70μmであることを特徴とする。
【0028】
本発明における抄紙用ロールの加工方法は、抄紙用ロールの表面に粘着層を形成し、粘着層の上に、シート状の合成高分子材料を巻き付けて形成することを特徴とする。
【0029】
本発明における抄紙用ロールの加工方法は、抄紙用ロールの表面に粘着層を形成し、粘着層の上に、シート状の合成高分子材料を巻き付け、シート状の合成高分子材料のオーバーラップ部を除去して形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
抄紙機において、製造する紙質の特性に応じてシート状あるいは薄い金属板の表面に、樹脂やスポンジ、合成ゴム等で必要な厚みの材質を貼り合わせ、さらには表面仕上げとして砥石研磨やダイヤモンド研磨、フィルム研磨等で最適な表面を具備した抄紙用ロールを得ることができ、脱水力向上と紙離れ性向上を両立することが可能となる。
【0031】
特に、多層紙製造の場合、抄紙用のプレスパートでトップロールの表面粗さが紙の剥離性、特に上層部のみの剥離に影響を受けるが、本方法によれば、表面粗さの異なった種類のトップロールを容易に交換可能であり、短時間でプレス条件の見極めが行える。
【0032】
基材に安価な樹脂フィルム、シート又は金属板等を用い、樹脂や合成ゴム等からなる合成高分子材料を接着剤によって貼り合わせ、それを既設の抄紙用ロールに巻き替えるだけでよく、別途高額な人工ストンロールや樹脂ロールを購入する必要がない。また、紙離れを良くするための高額な薬品塗布装置を具備する必要がなく、システムのメンテナンスが不要など、低コスト化が望める。
【0033】
紙質替えごとの抄紙用ロールの交換作業が不要となり、代わりに紙質に適した合成高分子材料を巻きかえるだけで適応できるため、抄紙用ロール交換作業に伴う不稼働時間が短縮でき、作業者への負担も軽減される。
【0034】
汚れやキズ等による抄紙用ロールの交換作業が不要となり、新しい合成高分子材料を巻きかえるだけで適応できるため、抄紙用ロール交換作業に伴う不稼働時間が短縮でき、作業者への負担も軽減される。
【0035】
基材に安価な樹脂フィルム、シート又は金属板等を用い、樹脂や合成ゴム等からなる表面材料を接着剤によって貼り合わせた構造とし、一般的に流通している比較的入手しやすい材料を用いることで、安定した材料供給を受けることが可能となる。
【0036】
抄紙用ロールの表面材質の仕様を検討する際、表面材質の異なる高額な抄紙用ロールを何種類も購入する必要がなく、また、実製造ラインにおいて数種の表面材質を短時間で変更し、品質や適性を見極めることが可能であり、製造する紙質の特性に応じて多くの表面材質の中から最適な基材と表面材質の選択が可能となる。これにより、高速な抄紙機においても短時間で最適な抄紙用ロールの表面材質を選定することができ、従来と同様の構造で紙離れ性に優れた抄造が可能となる。
【0037】
また、製紙機械メーカの利点としては、ロール交換を行わなくても実製造ラインで効果を容易に確認してもらえるので、最適な材質を製紙メーカに推奨することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明における粗研磨加工方法により抄紙用プレスローラの表面へ合成高分子材料を巻き付ける工程を示す。図2は、本発明における貼付加工方法により抄紙用プレスローラの表面へ合成高分子材料を巻き付ける工程を示す。図3は、本発明における抄紙用プレスロールに研磨済み合成高分子材料又は合成高分子材料付き基材を巻き付けた後の余剰部分を示す。図4は、本発明における余剰部分を切除した後の基材の接合状態を示す。図5は、本発明における粗研磨加工方法及び貼付加工方法の手順を示す。
【0039】
抄紙用プレスロールの表面材質の加工方法としては、粗研磨加工方法と貼付加工方法が挙げられる。
【0040】
まず、粗研磨加工方法について図1、図3、図4及び図5を用いて説明する。
【0041】
第一に、抄紙用プレスロールよりも面長が長い仮ロール(1)を旋盤機にセットし、仮ロール(1)全面に粘着材を塗布するか、又は両面テープを貼り付ける。粘着材又は両面テープにより粘着性を持たせた仮ロール(1)の表面に、樹脂、スポンジ又は合成ゴム(鉱物質を混合した物を含む)から選定されるシート状の合成高分子材料(2)を巻き付ける。
【0042】
合成高分子材料(2)の硬度は、合成ゴムの場合の表面硬度A100、その他は表面硬度A30〜A100が好ましく、厚さは巻き付け作業時の柔軟性を考慮して0.03mm〜5.0mmが好ましい。
【0043】
また、合成高分子材料(2)の条件(パラメータ範囲)としては、コア部のレベル差(表面粗さRy)5.0μm〜70.0μm、吐出谷部深さ(深度)3.0μm〜30.0μm、油溜まり量(容積)0.03/mm〜1.00mm、水膜凝集力(表面張力)145dyne/cmが好ましい。
【0044】
第二に、仮ロール(1)に巻き付けた合成高分子材料(2)に対し、砥石研磨、ダイヤモンド研磨又はフィルム研磨を行う。砥石研磨は、旋盤機に設置した状態で砥石によって研磨する。その際の粗さの番手としては、#12〜#1000の範囲が好ましく、その中でも#30〜#100の範囲が最適である。一方、フィルム研磨は旋盤機に設置した状態でサンドペーパ又はフィルムで研磨する。
【0045】
研磨は、表面粗さ測定器における表面粗さRyが5.0μm〜70.0μmの範囲内となるように研磨することが好ましく、5.0μm〜60.0μmの範囲内となるように研磨すると、より好ましい。表面粗さRyが5.0μmに満たないと紙離れ不良を起こす可能性があり、逆に表面粗さRyが70.0μmを超えると紙の表面にスジが入る可能性がある。
【0046】
第三に、研磨が終了した研磨済み合成高分子材料(3)を仮ロール(1)から取り外し、合成高分子材料(2)に両面テープを貼るか、スプレー又はロール転写方式で粘着剤を塗布し、研磨済み合成高分子材料(3)の表面加工を施さない片面に粘着性を持たせる。
【0047】
第四に、粘着性を持たせた面を抄紙用プレスロール(4)の表面に粘着させながら、抄紙用プレスロール(4)の外周に研磨済み合成高分子材料(3)を巻き付ける。この際の抄紙用プレスロールの構造としては、内側から、抄紙用プレスロール、粘着層、研磨済み合成高分子材料の順に、最外の層が合成高分子材料で形成された多層構造となる。
【0048】
第五に、図3に示すように、余剰部分(7)があればカッター等で切除する。余剰部分(7)とは、研磨済み合成高分子材料(3)を抄紙用プレスロール(4)に巻き付けた際に、オーバーラップする部分のことである。
【0049】
第六に、図4に示すように、研磨済み合成高分子材料(3)の両端を接合するように張り合わせて仕上げる。接合部(8)は、隙間が生じないように研磨済み合成高分子材料(3)を重ねて合わせ切りし、オーバーラップする部分を切除して貼り合わせる。研磨済み合成高分子材料(3)の接合部分は、抄紙用プレスロール(4)の回転方向に逆らう方向に切除して接合することが好ましい。これは、抄紙機が運転された際に、回転する抄紙用プレスロール(4)から研磨済み合成高分子材料(3)を剥がれにくくするためである。
【0050】
次に、貼付加工方法について図2、図3、図4及び図5を用いて説明する。
【0051】
第一に、フィルム、シート又は金属板等から選定される基材(5)の表裏どちらか一方の面に、ロール転写方式、ブレード方式又はスプレー方式で接着剤を塗布し、樹脂、スポンジ又は合成ゴム等のシート状の合成高分子材料(2)を貼り合わせ、合成高分子材料付き基材(6)を作製する。
【0052】
合成高分子材料(2)の硬度は、表面硬度A30〜A100が好ましく、厚さは巻き付け作業時の柔軟性を考慮して0.03mm〜5.0mmが好ましい。
【0053】
また、合成高分子材料(2)の条件(パラメータ範囲)としては、コア部のレベル差(表面粗さRy)5.0μm〜70.0μm、吐出谷部深さ(深度)3.0μm〜30.0μm、油溜まり量(容積)0.03/mm〜1.00mm、水膜凝集力(表面張力)145dyne/cmが好ましい。
【0054】
接着剤は、溶剤系のものを用いることが好ましい。
【0055】
選定する合成高分子材料(2)の条件は、紙の表面品質に影響を及ぼさずに紙離れ性を得るために、表面粗さRy5.0μm〜70.0μmが好ましい。厚さは巻き付け作業時の柔軟性を考慮すると、0.03mm〜5.0mmが好ましい。
【0056】
第二に、合成高分子材料付き基材(6)の裏面に両面テープを貼るか、ロール転写方式、ブレード方式又はスプレー方式で粘着剤を塗布し、合成高分子材料付き基材(6)の表面加工を施さない片面に粘着性を持たせる。
【0057】
粘着剤は、アクリル系エマルションタイプを用いる。粘着する際の条件は、粘着層の厚みは粘着面に接する対象物の表面が平滑な場合は0.01mm〜0.05mmが好ましく、多孔質や乱面の場合は0.05mm〜0.5mmの塗布量が好ましい。
【0058】
第三に、粘着性をもたせた面を抄紙用プレスロール(4)の表面に粘着させながら、抄紙用プレスロール(4)の外周に合成高分子材料付き基材(6)を巻き付ける。この際の抄紙用プレスロールの構造としては、内側から、抄紙用プレスロール、粘着層、基材、接着層、合成高分子材料の順に、最外の層が合成高分子材料で形成された多層構造となる。
【0059】
第四に、図3に示すように、余剰部分(7)があればカッター等で切除する。余剰部分(7)とは、合成高分子材料付き基材(6)を抄紙用プレスロール(4)に巻き付けた際に、オーバーラップする部分のことである。
【0060】
第五に、図4に示すように、合成高分子材料付き基材(6)の両端を接合するように張り合わせて仕上げる。接合部(8)は、隙間が生じないように合成高分子材料付き基材(6)を重ねて合わせ切りをし、オーバーラップする部分を切除して貼り合わせる。研磨済み合成高分子材料(3)の接合部分は、抄紙用プレスロール(4)の回転方向に逆らう方向に切除して接合することが好ましい。これは、抄紙機が運転された際に、回転する抄紙用プレスロール(4)から研磨済み合成高分子材料(3)を剥がれにくくするためである。
【0061】
合成高分子材料(2)の表面粗さRyを5μm〜70μmとしているが、抄紙機において抄造する紙が単層の場合と多層の場合とでは、層間剥離の課題の有無により、適した表面粗さRyが異なる。つまり、単層の場合、湿紙とロールとの紙離れ性のみを観点に表面粗さRyを決定するのに対し、多層の場合、湿紙とロールとの紙離れ性に加え、紙層間の層間剥離の観点の両面から表面粗さRyを決定する必要がある。このことから考えると、層間剥離を防止するためには、ロールからの紙離れ性をより良くしなければならず、単層に比べ多層の方が表面を粗くする必要があると言え、多層の場合の表面粗さRyは50μm〜70μmがより好ましい。
【0062】
抄紙用プレスロール(4)の表面材質の加工方法として、粗研磨加工方法と貼付加工方法を挙げて説明したが、これらはいずれも、抄紙用プレスロール(4)を抄紙機から取り外す必要が無く、合成高分子材料付き基材(6)を抄紙用プレスロール(4)に巻き付けるだけで良いことが利点である。
【0063】
しかし、抄紙機から抄紙用プレスロール(4)を取り外し、表面材質の加工を行うことも可能である。その場合、まず抄紙用プレスロール(4)に両面テープを貼るか、又は樹脂、スポンジ、合成ゴム(鉱物質を混合した物を含む)等から選定される合成高分子材料(2)の裏面に粘着材を塗布し巻き付ける。その後、抄紙用プレスロール(4)を旋盤機に設置し砥石によって研磨する。研磨終了後、抄紙用プレスロール(4)を抄紙機にセットする、といった方法もあるが、不稼働時間や作業者の負担等を考慮すると、前述した粗研磨加工方法又は貼付加工方法で行うことが好ましい。
【0064】
以下に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。実施例1は、長網抄紙機で多層紙を製造する場合における抄紙用プレスロールに粗研磨加工の合成高分子材料を巻き付ける方法について例を挙げ、実施例2は、長網抄紙機で多層紙を製造する場合における抄紙用プレスロールに貼付加工の合成高分子材料を巻き付ける方法について例を挙げる。
【実施例1】
【0065】
合成高分子材料(2)としてPETフィルムを用い、研磨方法としてフィルム研磨を選定して、粗研磨加工方法によって加工したシート状のPETフィルムを抄紙用プレスロール(4)に巻き付ける方法について、図1、図3、図4及び図5を用いて説明する。
【0066】
第一に、抄紙用プレスロール(4)よりも面長が長い仮ロール(1)を旋盤機にセットし、シート状のPETフィルムの裏面に両面テープを巻き付けた。両面テープにより粘着性を持たせた仮ロール(1)の表面に、合成高分子材料(2)となる厚さ0.3mmのPETフィルムを巻き付けた。巻き付けた後に、PETフィルムがオーバーラップする部分をカッターで切除し、接合部に重なりや隙間ができないように貼り合わせた。
【0067】
第二に、仮ロール(1)に巻き付けたPETフィルムに対しフィルム研磨を行った。フィルム研磨は、#30のサンドペーパを取り付けた研磨冶具をバイトの送り装置にセットし、ロールの有効面長内の表面粗さ測定器における表面粗さRyの平均値が70.0μmになるように研磨した。
【0068】
第三に、研磨が終了した研磨済みPETフィルムを仮ロール(1)から取り外し、いったん粘着材をアルコールで洗浄した後、研磨済みPETフィルムの裏面に両面テープを貼ることで、研磨済みPETフィルムの表面加工を施さない面に粘着性をもたせた。
【0069】
第四に、粘着性を持たせた面を抄紙用プレスロール(4)の表面に粘着させながら、抄紙用プレスロール(4)の外周に研磨済みPETフィルムを巻き付けた。
【0070】
第五に、図3に示すように、研磨済みPETフィルムの余剰部分(7)をカッターで切除した。余剰部分(7)とは、研磨済みPETフィルムを抄紙用プレスロール(4)に巻き付けた際に、オーバーラップする部分のことである。
【0071】
第六に、図4に示すように、研磨済みPETフィルムの両端を接合するように張り合わせて仕上げた。接合部(8)は、隙間が生じないように研磨済みPETフィルムを重ねて合わせ切りをし、オーバーラップする部分を切除して貼り合わせた。
【0072】
第七に、研磨済みPETフィルムを巻き付けた抄紙用プレスロール(4)を加圧状態で運転し、圧着することによって全体をなじませ、30分程度慣らし運転を行った後、通常どおり通紙して三層紙を製造した。
【0073】
第八に、抄造後に紙質換えを行う際は、研磨済みPETフィルムを剥がし、アルコール及び水で軽く洗浄した後、元のロールの状態で通常どおりの抄造を行った。
【実施例2】
【0074】
基材(5)としてPETフィルムを用い、シート状の合成高分子材料(2)としてウレタンスポンジを用いて、貼付加工方法によって加工したウレタンスポンジを抄紙用プレスロール(4)に巻き付ける方法について、図2、図3、図4及び図5を用いて説明する。
【0075】
第一に、厚さ0.3mmの基材であるPETフィルムの片面に溶剤系の接着剤をスプレー塗布し、接着剤を塗布した面に厚さ0.8mm、表面粗さRy70.0μmのウレタンスポンジを接着して、ウレタンスポンジ付きPETフィルムを作製した。
【0076】
第二に、ロール群及び駆動部で構成される駆動装置に、厚さ0.3mmのウレタンスポンジ付きPETフィルムをセットし、コンプレッサ、攪拌装置、減圧弁、ホース、ノズルから構成されるスプレー装置でウレタンスポンジ付きPETフィルムの裏面(ウレタンスポンジを張り合わせていない面)にアクリル系エマルションタイプの粘着剤を塗布した。駆動装置にセットした状態で、粘着剤を塗布した面に片面がシリコン塗布された剥離紙を貼り、粘着面の養生保護を行った。
【0077】
第三に、ウレタンスポンジ付きPETフィルムの粘着性を持たせた面を抄紙用プレスロール(4)の表面に粘着させながら、抄紙用プレスロール(4)の走行面と平行になるようにウレタンスポンジ付きPETフィルムを巻き付けた。抄紙用プレスロール(4)を回転させ、剥離紙を剥ぎながらウレタンスポンジ付きPETフィルムがオーバーラップするまで貼り付けた。
【0078】
第四に、図3に示すように、ウレタンスポンジ付きPETフィルムの余剰部分(7)をカッター等で切除した。余剰部分とは、ウレタンスポンジ付きPETフィルムを抄紙用プレスロール(4)に巻き付けた際に、オーバーラップする部分のことである。
【0079】
第五に、図4に示すように、ウレタンスポンジ付きPETフィルムの両端を接合するように張り合わせて仕上げた。接合部(8)は、隙間が生じないようにウレタンスポンジ付きPETフィルムを重ねて合わせ切りをし、オーバーラップする部分を切除して貼り合わせた。
【0080】
第六に、ウレタンスポンジ付きPETフィルムを巻き付けた抄紙用プレスロールを加圧状態で運転し、圧着することによって全体をなじませ、30分程度慣らし運転を行った後、通常どおり通紙して三層紙を製造した。
【0081】
第七に、抄造後に紙質換えを行う際は、ウレタンスポンジ付きPETフィルムを剥がし、アルコール及び水で軽く洗浄した後、元のロールの状態で通常どおりの抄造を行った。
【0082】
発明を実施するための最良の形態及び実施例においては、抄紙用プレスロールに研磨済み合成高分子材料又は合成高分子材料付き基材を巻き付ける例を示したが、プレスロールに限定されることはなく、抄紙機に用いられているロール全てにおいて対応可能であり、用いるロールのパートにより表面加工方法及び表面加工条件を調整することとする。
【0083】
また、発明を実施するための最良の形態及び実施例においては、長網抄紙機で三層紙を製造する場合について説明したが、これに限定されることはなく、円網抄紙機におけるロールにでも対応可能であり、また、単層紙や二層紙、四層紙以上を製造する場合においても対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明における、粗研磨加工方法により抄紙用プレスローラの表面へ合成高分子材料を巻き付ける工程を示す図である。
【図2】本発明における、貼付加工方法により抄紙用プレスローラの表面へ合成高分子材料を巻き付ける工程を示す図である。
【図3】本発明における抄紙用プレスロールに研磨済み合成高分子材料又は合成高分子材料付き基材を巻き付けた後の余剰部分を示す図である。
【図4】本発明における余剰部分を切除した後の基材の接合状態を示す図である。
【図5】本発明における粗研磨加工方法及び貼付加工方法の手順を示す図である。
【図6】紙離れ不良の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1 仮ロール
2 合成高分子材料
3 研磨済み合成高分子材料
4 抄紙用プレスロール
5 基材
6 合成高分子材料付き基材
7 余剰部分
8 接合部
9 抄紙用トッププレスロール
10 抄紙用ボトムプレスロール
11 湿紙
12 加圧点
13 フェルト
14 剥離すべき点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙用ロールの表面に粘着層を形成し、かつ前記粘着層の上に、合成高分子材料を有する上層を形成させたことを特徴とする抄紙用ロール。
【請求項2】
前記上層が多層構造で、かつ前記上層における最外の層が合成高分子材料で形成され、層間が接着剤で固着されたことを特徴とする請求項1記載の抄紙用ロール。
【請求項3】
前記抄紙用ロールが、抄紙用プレスロールであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の抄紙用ロール。
【請求項4】
前記合成高分子材料の厚さが0.03mm〜5.0mmを有する樹脂、スポンジ又は合成ゴムのうち、いずれか一つから選定されることを特徴とする請求項1または請求項3記載の抄紙用ロール。
【請求項5】
前記合成高分子材料の表面粗さRyが5μm〜70μmであることを特徴とする請求項1または請求項4記載の抄紙用ロール。
【請求項6】
抄紙用ロールの表面に粘着層を形成し、
前記粘着層の上に、シート状の合成高分子材料を巻き付けて形成することを特徴とする抄紙用ロールの加工方法。
【請求項7】
抄紙用ロールの表面に粘着層を形成し、
前記粘着層の上に、シート状の合成高分子材料を巻き付け、
前記シート状の合成高分子材料のオーバーラップ部を除去して形成することを特徴とする抄紙用ロールの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−81870(P2008−81870A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261596(P2006−261596)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】