説明

把持治具、並びに、それを用いた計測装置および把持装置

【課題】脆弱な把持対象物であっても、破損することなく把持することができる把持治具、並びに、それを用いた、計測装置および把持装置を提供する。
【解決手段】把持対象物1の把持表面28とされる面に対する傾斜角度を把持傾斜角度49と定義した場合に、把持傾斜角度49の把持傾斜面48を有した第1把持部58と、把持表面28と略平行な平面上を把持傾斜面48に向かってスライド可能に第1把持部58と連結された第2の把持部56と、第2把持部56の、把持傾斜面48と対向する位置に設けられ、第2把持部56が把持傾斜面48に向かってスライドした場合に、把持傾斜面48と当接しつつ、把持傾斜面48により把持表面28に向けて弾性変形することにより、把持対象物26を押圧して把持することが可能な弾性把持部62と、を含む把持治具3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は把持治具、並びに、それを用いた計測装置および把持装置に関し、更に詳しくは、脆弱な把持対象物であっても、破損することなく把持することができる把持治具と、その把持治具を用いて、内部に流体の流路を有した把持対象物を気密性を確保しながら把持しつつ、把持対象物内部の流路における流体の流路特性を計測可能な計測装置に関する。また更に詳しくは、フィルタの圧力損失を、安定かつ簡便に測定することが可能な計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な形状を有したガラス製品、陶磁製品、セラミックス構造物、セラミックスハニカム構造体等の脆弱性の高い製品の製造ラインにおいて、従来より、大量かつ低コストに製造するために、製造工程、検査工程、出荷工程等の各工程において自動化の要求があった。例えば、特許文献1に記載の碍子の把持方法においては、碍子を把持するエアバックが開示されている。
【0003】
しかしこれら立体的な形状を有し、脆弱性の高い製品の加工、運搬、測定等を自動化するために必要な把持手段については、その脆弱性のために自動化ラインの各工程の途中で人手が要求される場合も多く、全自動化することが困難であった。また、自動化された把持手段によっては高価な制御システムが必要とされるばかりでなく、その制御システムの調整、運用、保守にかかるコストも多い。更には、搬送、加工、検査、運搬時に倒れたり、衝撃が加わって破損することを防ぐために自動化ラインの速度に限界があった。
【0004】
ところで、エンジンから排出される排ガスを浄化するための触媒担持体として、複数の隔壁によって2つの端面間を互いに並行して連通する複数のセルが形成されたハニカム構造体が広く用いられる。またディーゼルエンジンから排出される排ガスのような含塵流体に含まれる粒子状物質を捕集除去するためのフィルタとして、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が広く用いられている。DPFは、上記ハニカム構造体の隔壁がより多数の細孔(連通孔)が形成された多孔質となっており、所定のセルの流入端面および残余のセルの流出端面とが交互に目封じされた構造を有するものである。この流入端面側からセル内に流入した粒子状物質を含む排ガスは濾過層として機能する隔壁を経由して流出端面側から流出されるが、粒子状物質は多孔質の隔壁上に捕捉される。
【0005】
このようなハニカム構造体やDPF(以下、合わせてハニカム構造体と呼ぶ)は、一般的にはエンジンから排出される排ガスの流路上に設置されて使用されるが、ハニカム構造体の物理的特性はエンジンの性能に少なからず影響を及ぼすため、種々の物理的特性を予め測定しておくことが必要である。特に、任意の一定流速下における圧力損失をそのハニカム構造体のスペックの一部として予め測定しておくことが必要とされる。
【0006】
従来、一般的なハニカム構造体の圧力損失の測定は、所定の流体流路上に圧力損失測定対象となるハニカム構造体を配設し、ブロワ等の流体通過手段により所定の流速で流体を通過させ、その際に生ずる流体の差圧を測定することにより行われていた(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、特許文献3においては、ハニカム構造体の圧力損失測定装置が開示されており、この圧力損失測定装置にハニカム構造体保持手段(把持手段)が用いられている。ハニカム構造体の圧力損失測定装置に用いられるこのハニカム構造体保持手段においては、フィルタの流入端面側を保持する第一の保持手段要素と、ハニカム構造体の流出端面側を保持する第二の保持手段要素とからなるとともに、第一の保持手段要素および第二の保持手段要素の少なくとも一方が、少なくともその一部が中空部を有するチューブ状に形成されるとともに環状に配設された一以上の弾性シール部材と、弾性シール部材に外設される枠体とを備えてなり、弾性シール部材の内側に、流入端面および/又は流出端面を含むハニカム構造体の端部が挿入されるとともに、弾性シール部材の中空部に気体又は液体が導入されることにより弾性シール部材が膨張し、ハニカム構造体の外周面と弾性シール部材、枠体と弾性シール部材、および前記弾性シール部材どうしが密着しつつ、ハニカム構造体を保持することが可能なものである。
【0008】
また、特許文献3に記載のハニカム構造体保持手段は、チューブ状の弾性シール部材によって、ハニカム構造体の流入端面側およびハニカム構造体の流出端面側で、ハニカム構造体内部の気密性を確保している。このとき、把持対象となるハニカム構造体の全体形状が円柱状体であるとき、即ち断面形状が円形であるときには充分な気密性を確保しつつ把持することが可能である。
【0009】
また、近年の環境基準の厳格化に伴って、ハニカム構造体の軽量化や省スペース化などにより、円形以外の断面形状を有したハニカム構造体の需要が高まってきている。特許文献3に示すハニカム構造体保持手段は、このような形状のハニカム構造体を把持対象とした場合、チューブ状の弾性シール部材が把持対象物の形状に応じて変形し、把持対象物の断面形状における曲率半径が部分的に小さくなった部分で隙間が生じ、変形して気密性を保てないことがあった。
【0010】
そして上述した円形以外の断面形状を有したハニカム構造体とされるセラミックスハニカム構造体は一般に一体成形されることによって、製造されたものが多い。ところが、一体成形されたハニカム構造体の断面における外径の寸法精度は、外周コートを施されたハニカム構造体と比較して劣る場合が多い。このような場合にも特許文献3に示すような保持手段では気密性が劣り、正確で安定した圧力損失を得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−266278号公報
【特許文献2】特許第2807370号公報
【特許文献3】特開2005−172652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、脆弱な物品であっても把持することができる把持治具、およびそれを用いた計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、以下の構成を採用することにより上記課題を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下に示す通りである。
【0014】
[1] 把持対象物の把持表面とされる面に対する傾斜角度を把持傾斜角度と定義した場合に、前記把持傾斜角度の把持傾斜面を有した第1把持部と、前記把持表面と略平行な平面上を前記把持傾斜面に向かってスライド可能に前記第1把持部と連結された第2把持部と、前記第2把持部の、前記把持傾斜面と対向する位置に設けられ、前記第2把持部が前記把持傾斜面に向かってスライドした場合に、前記把持傾斜面と当接しつつ、前記把持傾斜面により前記把持表面に向けて弾性変形することにより、前記把持対象物を押圧して把持することが可能な弾性把持部と、を含む把持治具。
【0015】
[2] 前記第2把持部がスライド可能な方向をスライド方向と定義した場合の、前記スライド方向に垂直な平面において、前記把持表面と対向する位置と形状に、前記把持傾斜面と、前記弾性把持部とが設けられた前記[1]に記載の把持治具。
【0016】
[3] 前記スライド方向に垂直な平面において、前記把持表面の断面形状における曲率半径の大小に応じて前記把持傾斜角度を前記スライド方向に増減させた前記[1]または[2]に記載の把持治具。
【0017】
[4] 前記把持傾斜面と、前記弾性把持部とが、環状に設けられ、前記把持対象物の全周に渡って前記把持表面を前記弾性把持部で気密に把持することが可能な前記[1]〜[3]のいずれかに記載の把持治具。
【0018】
[5] 前記[4]に記載の把持治具を、前記第1の把持治具および前記第2の把持治具として2つ用いた計測装置であって、流体が流入する流入端面と、前記流体が流出する流出端面と、前記流体を内部で流入出させる流路と、を有した前記把持対象物の内部の前記流路を前記流体が通過するように駆動する流体通過手段と、前記把持対象物を通過する前記流体の流路特性を計測する流路特性計測手段と、を含み、前記把持対象物の、前記流入端面側の側面の全周に渡る前記把持表面を前記第1の把持治具で気密に把持しながら、前記流出端面側の側面の全周に渡る前記把持表面を前記第2の把持治具で気密に把持しつつ、前記流体が通過する際に生ずる前記流体の流路特性を前記流路特性計測手段により測定する計測装置。
【0019】
[6] 前記流路特性計測手段として前記流入端面側と前記流出端面側とに設けられた一対の圧力計測手段を含み、前記一対の圧力計測手段で計測された圧力差で前記把持対象物を通過する際に生ずる圧力損失を測定する前記[5]に記載の計測装置。
【0020】
[7] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の把持治具を用いた把持装置であって、少なくとも一つの把持治具が設けられた支持部と、前記支持部に設けられ、少なくとも一つの前記把持治具の前記把持傾斜面と対向する位置に配置された、押さえ治具と、を有し、前記把持治具と、前記押さえ治具とで前記把持対象物を把持する把持装置。
【0021】
[8] 少なくとも一つの把持治具が設けられた前記支持部と、前記支持部に設けられ、前記少なくとも一つの把持治具の前記把持傾斜面と対向する位置に配置された、押さえ治具と、を有し、前記把持治具と、前記押さえ治具とで前記把持対象物を把持する前記[7]に記載の把持装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の把持治具は、脆弱な把持対象物であっても、破損することなく把持することができ、その把持治具を用いた計測装置は、内部に流体の流路を有した把持対象物を気密性を確保しながら把持しつつ、把持対象物内部の流路における流体の流路特性を計測可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明の把持治具の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図1B】本発明の把持治具の一実施形態を示す模式的平面図であり、図1A中の領域Aの一部拡大断面図である。
【図2A】把持治具を4個設けた把持装置の一実施形態を示す模式的平面図である。
【図2B】把持治具を4個設けた把持装置の一実施形態を示す模式的断面図であり、図2A中のB−B’断面図である。
【図3】本発明の把持装置の他の実施形態を示す模式的平面図である。
【図4A】把持対象物の一例であり、断面が楕円状のハニカム構造体の断面図である。
【図4B】把持対象物の一例であり、断面がレーストラック状のハニカム構造体の断面図である。
【図4C】把持対象物の一例であり、断面が丸身を帯びた台形のハニカム構造体の断面図である。
【図5A】本発明の把持治具の他の実施形態を示す模式的平面図である。
【図5B】本発明の把持治具の他の実施形態を示す模式的断面図であり、図5A中のC−C’断面図である。
【図5C】本発明の把持治具の他の実施形態を示す一部拡大模式的断面図であり、図5B中の領域Dの一部拡大断面図である。
【図6A】環状に設けられた第1把持部の一例を示す模式的斜視図である。
【図6B】環状に設けられた第2把持部の一例を示す模式的斜視図である。
【図7A】本発明の把持治具を用いた把持装置の一例を示す説明図である。
【図7B】本発明の把持治具を用いた把持装置の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の把持治具を用いた計測装置におけるハニカム構造体の把持状態の一例を示す図面である。
【図9】本発明の把持治具を用いた計測装置におけるハニカム構造体の把持状態の一例を示す図面である。
【図10】従来の把持治具を用いた計測装置のハニカム構造体把持状態を説明する模式的説明図である。
【図11】従来の把持治具を用いた計測装置のハニカム構造体把持状態の一例を示す断面図である。
【図12】本発明の把持治具を用いた計測装置の一実施形態を模式的に示す計測装置の説明図である。
【図13A】本発明の把持治具の別の実施形態を示す模式的平面図である。
【図13B】本発明の把持治具の別の実施形態を示す模式的断面図であり、図13AのE−E’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0025】
図1Aは、本発明の把持治具の一例を示す模式的断面図である。図1Bは、図1中の領域Aの一部拡大断面図である。図2Aは、この把持治具を一定間隔をおいて環状に4個設けた把持装置100を示す平面図である。図2Bは、図2A中のB−B’断面図である。本発明の把持治具3は、把持対象物26の把持表面28とされる面に対する傾斜角度49を把持傾斜角度αと定義した場合に、把持傾斜角度αの把持傾斜面48を有した第1把持部46と、把持表面28と略平行な平面上を把持傾斜面48に向かってスライド可能に第1把持部46と連結された第2把持部56とを有している。そして本発明の把持治具3は更に、第2把持部46の、把持傾斜面48と対向する位置に設けられた弾性把持部62を有している。この弾性把持部62は、第2把持部56が把持傾斜面48に向かってスライドした場合に、把持傾斜面48と当接しつつ、把持傾斜面48により把持表面28に向けて弾性変形することにより、把持対象物26を押圧して把持することが可能なものである。
【0026】
弾性把持部62は柔軟性を持っており、脆弱な製品を搬送する際においても破損することなく確実に把持することができる。そして把持傾斜面48の把持傾斜角度49αを把持対象物26の把持表面28と対応させて増減することにより、より確実な把持を実現することができる。そして、第1把持部46と第2把持部56とがスライド可能に連結されており、把持力の制御をこのスライド運動により生じせしめるため、正確かつ微妙な制御を可能とする。従って、脆弱性の高い把持対象部においても好適に用いられる。また、例えば、このスライド運動をエアシリンダによって制御する場合には、等圧の制御が容易であり、機械的な制御システムを導入する必要がないため、好ましい。また、気体の圧力による制御のために把持対象物を破損しにくいため好ましい。また、保守性にも優れているため、好ましい。
【0027】
本発明の把持治具を用いた把持装置においては、第2把持部がスライド可能な方向をスライド方向と定義した場合の、スライド方向に垂直な平面において、把持対象物26の断面形状に沿って把持傾斜面48と、弾性把持部62とを設けることが好ましい(図2A、図2B、図3参照)。
【0028】
図2Aは把持対象物の、スライド方向に垂直な平面における、断面形状が円である場合に、この断面形状に沿った4個の把持治具3を設けた把持装置100である。図2Bは、図2A中のB−B’断面図である。図3は把持対象物の、スライド方向に垂直な平面における断面形状が楕円である場合に、この断面形状に沿った4個の把持治具3を設けた把持装置101である。この把持装置101においては、把持対象物26として、スライド方向に垂直な平面における、断面形状が楕円であるハニカム構造体227を採用した場合のものである。
【0029】
把持装置101においては、ハニカム構造体227の、スライド方向に垂直な平面における、断面形状の楕円に沿った形状の把持傾斜面48と、弾性把持部62とが設けられた把持治具3を用いている。このような形状とすることにより、把持対象物を確実に把持することができる。また、弾性把持部62の材質は、例えば、合成ゴムや樹脂であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の把持治具を用いた把持装置の他の実施形態としては、把持治具を少なくとも一つ有し、これに対向する位置に押さえ治具を設け、これら把持治具および、押さえ治具が支持部に設けられた把持装置を挙げることができる。図13aは、把持治具を一つと、これに対向する位置に設けられた押さえ治具71とが、支持部171に設けられた把持装置である。このような構成とすることにより、少ないコストでも、確実に把持することができる。
【0031】
また更に、本発明の把持治具を用いた把持装置の更に他の実施形態としては、図7Aに示すように、産業用ロボット等の自動制御可能なアーム253を備えた把持装置105を挙げることができる。図7Aに示すように、アーム253の先端の支持部171に把持治具3が取り付けられたことにより、自動化ライン等において、人手作業を必要とせず、正確かつ確実に把持対象物が把持された状態で、搬送、または各工程において位置や状態を保持することが可能となる。特に把持対象物がハニカム構造体である場合には、その製造工程において、様々な検査や加工工程が含まれており、その効果は著しいものである。
【0032】
また更に、本発明の把持治具を用いた把持装置の更に他の実施形態としては、図7Bに示すように、自動搬送システム等の自動制御可能な搬送手段252を備えた把持装置106を挙げることができる。図7Bに示すように、搬送手段253の支持部171に把持治具3が取り付けられたことにより、自動化ライン等において、人手作業を必要とせず、正確かつ確実に把持対象物が把持された状態で、搬送、または各工程において位置や状態を保持することが可能となる。特に把持対象物がハニカム構造体である場合には、その製造工程において、様々な検査や加工工程が含まれており、その効果は著しいものである。
【0033】
図7Aに示すようなアームの先端に本発明の把持装置を取り付けた把持装置105や、図7Bに示すような搬送手段252を備えた把持装置106を組み合わせて用いることにより、例えば、把持対象物26をハニカム構造体のような脆弱性の生産物の製造工程の各工程において、安定した搬送および効率的な加工による不良率の低減や、生産効率の向上を実現できる。
【0034】
本発明においては、把持対象物26の、スライド方向に垂直な平面における、断面形状における曲率半径の大小に対応して把持傾斜角度を部分的に増減させることが好ましい。このような形状とすることにより複数の曲率半径を持つ把持対象物の当該曲率半径に応じて確実に、第2把持部56の押圧力を変えることなく、かつ把持圧力の特定部位への集中を防止しつつ、把持することができる。図4Aは、把持対象物の一例であり、スライド方向に垂直な平面における、断面が楕円状のハニカム構造体227の断面図である。このとき、S1とS2とでは、曲率半径が異なるが、S1より曲率半径の小さいS2においては把持傾斜角度αを増大させるように設けることが好ましい。
【0035】
図4Bは、把持対象物の一例であり、スライド方向に垂直な平面における、断面がレーストラックのハニカム構造体228の断面図である。図4Cは、把持対象物の一例であり、断面が丸身を帯びた台形のハニカム構造体229の、スライド方向に垂直な平面における、断面図である。把持表面の曲率半径に応じて、把持傾斜角度αを適宜対応させることが好ましい。
【0036】
本発明の把持治具においては、把持傾斜面と、弾性把持部とが、環状に設けられ、把持対象物の全周に渡って把持表面を弾性把持部で気密に把持することが可能なものとすることが好ましい。図5Aは把持傾斜面と、弾性把持部とが、把持対象とされる把持表面に沿うように環状に設けられた把持治具102の模式的平面図である。図5Bは把持傾斜面と、弾性把持部とが、環状に設けられた把持治具102の側面から見た断面図であり、図5A中のC−C’断面図である。また、図6Aは、環状に設けられた第1把持部146を示す。また、図6Bは、環状に設けられた第2把持部156である。
【0037】
図5Cは、図5B中の領域Dの一部拡大断面図である。図5Cに示すように、環状に設けられた弾性把持部162はスライド手段58に加圧され、把持傾斜面48に押圧されることにより弾性変形して把持対象物26を押圧して把持するものである。また、環状に設けられた弾性把持部162は、把持傾斜面側先端面64と把持傾斜面48とがスライド手段により加圧接触し、気密性を確保されるものである。また、環状に設けられた弾性把持部162は、把持傾斜面側先端面64と把持傾斜面48とがスライド手段により加圧接触し、気密性を確保されるものである。
【0038】
このような環状に設けられた把持治具102を用いれば、気密性を確保した把持が可能であるため、次に示すような把持対象物(例えば、ハニカム構造体等)内部の流路特性を計測する計測装置に好適に用いられる。
【0039】
本発明の上記一対の把持治具を第1の把持治具および第2の把持治具として使用した計測装置について説明する。流体が流路を介して流入出する流入端面および流出端面を有する把持対象物(例えば、ハニカム構造体等)に対してその流路内部の流路特性を計測することができる。流路特性としては、流量、圧力、流入端面と流出端面との圧力損失が挙げられる。例えば、本発明の一実施形態における測定装置としては、図8,12に示すような流体が通過するように駆動する流体通過手段と、把持対象物(ハニカム構造体2)を通過する流体の流路特性を計測する流路特性計測手段(超音波流量計5)と、を含むものである。そして、本発明の一実施形態における測定装置としては、更に把持対象物26の、流入端面33a側の側面の全周に渡る把持表面を第1の把持治具103a(図8参照)で気密に把持しながら、流出端面33b側の側面の全周に渡る把持表面を第2の把持治具103b(図8参照)で気密に把持しつつ、流体が通過する際に生ずる流体の流路特性を流路特性計測手段により測定する計測装置が挙げられる。
【0040】
本発明の把持治具を用いた計測装置の一実勢形態としては、流路を備えた把持対象物26(例えば、ハニカム構造体2)の流入端面側と、流出端面側との圧力損失を測定可能な圧力損失測定装置を挙げることができる。図12は、本発明のハニカム構造体の圧力損失測定装置とされた計測装置の一実施形態を示す模式図である。図12に示すように、本実施形態の圧力損失測定装置1は、把持対象物としてハニカム構造体2を保持することが可能な把持治具3を具備する。
【0041】
なお、本実施形態の圧力損失測定装置1には、例えばサンプルボックス40等に、ハニカム構造体2の圧力損失を測定するに際しての温度計T、圧力計P2をはじめとする、測定環境を表す物理量(例えば、温度、大気圧等)を計測可能な計測手段を更に備えることが、測定環境の相違に起因する測定値の誤差を抑制して、より安定した測定結果を得ることができるために好ましい。
【0042】
また、図12に示す圧力損失測定装置1は、ハニカム構造体2を流体(空気)が通過するように駆動する流体通過手段となるブロワ4を備えている。ブロワ4は、測定対象となるハニカム構造体2のサイズ、圧力損失の値の大きさ等に応じた性能(回転数(速度)、排気量等)を有するものであればよく、その回転数をインバータ制御可能であるものが好ましい。更に、このブロワ4は、吐出圧力5kPa以上のターボブロワであることが、流通させる流体(空気)の脈動の発生を抑制することができ、正確な流速設定、および測定誤差の少ない圧力損失の測定が可能となるために好ましい。なお、流通させる流体(空気)の脈動の発生をより効果的に抑制し、更に正確な流速設定、および測定誤差の少ない圧力損失の測定を可能とするため、流体通過手段として吐出圧力8kPa以上のターボブロワを用いることが更に好ましく、10kPa以上のターボブロワを用いることが特に好ましい。
【0043】
更に、図12に示す圧力損失測定装置1は、ハニカム構造体2を通過する空気の流速を計測する流速計測手段となる超音波流量計5と、上述してきた四つの手段(ハニカム構造体保持手段、流体通過手段、流速計測手段、および圧力損失測定手段)の相互間を空気が通過できるように連結し、空気の取入れ口となるサンプルボックス40から吐出口9まで連通する流路6を備えている。流速計測手段としては、図12に示す超音波流量計5以外にも種々の流量計(流速計)を用いることができる。なお、流路6における、超音波流量計5の上流側に整流ハニカム12等の整流手段を配設し、誤差の少ない安定した流速の計測を行うことが好ましい。
【0044】
また、本実施形態の圧力損失測定装置1においては、流体通過手段であるブロワ4の、流路6における上流側および/又は下流側に、サイレンサ(吸入サイレンサ14、吐出サイレンサ15)を配設することが、ブロワ4の騒音を軽減するために好ましい。
【0045】
従来、ハニカム構造体の保持には、ハニカム構造体の流入端面上、および流出端面上にOリング等のシール部材を介した状態で保持部材等により挟み、流入端面と流出端面を結ぶ直線方向に適当な保持圧力を付与する方法が採用されていたが、この方法によると、ハニカム構造体の端面の排ガスが流入出し得る部分の一部がOリングにより塞がれてしまうため、正確な圧力損失を測定することが困難となる場合があった。しかし、図5A〜図5Cの把持治具や、図9の把持治具の把持状態に示すような実施形態の、圧力損失測定装置を構成するための第1、第2の把持治具103a、103bによれば、ハニカム構造体2の端面を塞ぐことがなく、より正確な圧力損失を測定することが可能となるために好ましい。また、弾性把持部62の膨張・収縮により、ハニカム構造体2の保持・脱離が可能であるため、ハニカム構造体2のサイズにバラツキがある場合であっても、ハニカム構造体保持手段自体を交換等することなく圧力損失を測定することができるといった効果を奏する。
【0046】
次に、本発明のハニカム構造体の圧力損失測定装置の使用方法について、図12に示す圧力損失測定装置1を例に挙げて説明する。先ず、上述してきた方法に従い、基準となるハニカム構造体2(初期試料)を把持治具3に保持する。次いで、ブロワ4を駆動させ、ハニカム構造体2および流路6内に空気を通過させる。このとき、サーボ弁21の流路開閉部材9を回転させながら超音波流量計5による空気の流速の計測値をモニタリングし、ブロワ4の回転数を、主流路7および支流路8の開閉による流速調整を実効的に行うことのできる回転数に設定する。
【0047】
その後、順次、ハニカム構造体2を交換して圧力損失を測定する。ハニカム構造体2を通過する空気の流速の調整は、ブロワ4の回転数は一定にした状態で、サーボ弁21により行うことができるため、大量のハニカム構造体2の圧力損失を、流速を一定に維持した状態で簡便に、かつ、短時間で測定することができる。
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(実施例、比較例)
各実施例、比較例の各種セラミックスハニカム構造体である把持対象物について、図12に示すような圧力損失測定装置1を使用して圧力損失を測定した。実施例1〜7においては、ハニカム構造体2は図5A〜5Cに示す本発明の一実施形態の把持治具102を用いた二つ用いて、第1の把持治具103a、第2の把持治具103bとし、それぞれハニカム構造体の流入端面33a、流出端面33bの側面で気密性を保持しながら把持した。比較例1〜10においては、図10、図11に示すような従来のチューブ状の弾性シール部材31によってハニカム構造体2を気密に把持する把持治具68,69を使用して圧力損失を測定した。比較例1〜10においては、実施例の第1の把持治具103a、第2の把持治具103bをそれぞれ把持治具68,69と置き換えて行った。また、各実施例、比較例において、寸法や特性の異なる多様なハニカム構造体を用いて比較試験を行った。把持対象物として使用したハニカム構造体は表1の通り(各種DPF、各種ハニカム構造体)。測定結果を表1に示す。
【0050】
(従来の把持治具)
図10、図11に示すようなチューブ状の弾性シール部材31を浮き輪状に環状に設け、内部に気体を圧入することにより収縮・拡張せしめ、これによりハニカム構造体を気密に把持する把持治具68,69が従来使用されていた。比較例1〜9において、この従来の把持治具を用いて、ハニカム構造体を気密に把持し、圧力損失を測定した。
【0051】
(評価)
評価基準風洞により測定した圧力損失(kPa)の値を基準値、各実施例、比較例の圧力損失測定装置および把持対象物により測定した圧力損失(kPa)の値を測定値とした場合、基準値に対する測定値の絶対評価誤差が±2%以内なら良、この値より大きい場合には否と判定した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(考察)
比較例より、従来のチューブ状弾性シール部材31を用いた把持方法は、外周コートした寸法精度の高いハニカム構造体には適用できるが、一体成形や断面が円形以外のハニカム構造体にはチューブ状の弾性シール材がその曲率半径や表面粗さに追随できず、適用できないことが明らかとなった。実施例においては、どのようなタイプのハニカム構造体においても気密性を確保して、全てを基準値から±2%以内とすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の把持治具は、脆弱な把持対象物であっても、破損することなく把持することができ、それを用いた計測装置は、内部に流体の流路を有した把持対象物を気密性を確保しながら把持しつつ、把持対象物内部の流路における流体の流路特性を計測可能であり、例えば車載用のハニカム構造体であるDPFの圧力損失を短時間で簡便に測定することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:圧力損失測定装置、2:ハニカム構造体、3:把持治具、4:ブロワ、5:超音波流量計、6:流路、13:吐出口、14:吸入サイレンサ、21:サーボ弁、26:把持対象物、27;ガイド突起、28:把持表面、31チューブ状弾性シール部材、33a:流入端面、33b:流出端面、40:サンプルボックス、46:第1把持部、48:把持面側傾斜面、49:把持傾斜角度、48:把持傾斜面、56:第2把持部、58:スライド手段、62:弾性把持部、64:傾斜面側先端面、66,67:共通枠部、68,69:専用枠部、71:押さえ治具、100:把持装置、101:把持装置、102:把持治具(把持装置)、101:把持装置、103a:第1の把持治具、103b:第2の把持治具、127:ガイド突起、146:環状に設けられた第1把持部、156:環状に設けられた第2把持部、162:環状に設けられた弾性把持部、170a:環状支持部、170b:環状支持部、171:支持部、253:アーム、252:搬送手段、P1,P2:圧力計、T:温度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持対象物の把持表面とされる面に対する傾斜角度を把持傾斜角度と定義した場合に、
前記把持傾斜角度の把持傾斜面を有した第1把持部と、
前記把持表面と略平行な平面上を前記把持傾斜面に向かってスライド可能に前記第1把持部と連結された第2把持部と、
前記第2把持部の、前記把持傾斜面と対向する位置に設けられ、前記第2把持部が前記把持傾斜面に向かってスライドした場合に、前記把持傾斜面と当接しつつ、前記把持傾斜面により前記把持表面に向けて弾性変形することにより、前記把持対象物を押圧して把持することが可能な弾性把持部と、を含む把持治具。
【請求項2】
前記第2把持部がスライド可能な方向をスライド方向と定義した場合の、前記スライド方向に垂直な平面において、
前記把持表面と対向する位置と形状に、前記把持傾斜面と、前記弾性把持部とが設けられた請求項1に記載の把持治具。
【請求項3】
前記スライド方向に垂直な平面において、
前記把持表面の断面形状における曲率半径の大小に応じて前記把持傾斜角度を前記スライド方向に増減させた請求項1または2に記載の把持治具。
【請求項4】
前記把持傾斜面と、前記弾性把持部とが、環状に設けられ、
前記把持対象物の全周に渡って前記把持表面を前記弾性把持部で気密に把持することが可能な請求項1〜3のいずれか1項に記載の把持治具。
【請求項5】
請求項4に記載の把持治具を、前記第1の把持治具および前記第2の把持治具として2つ用いた計測装置であって、
流体が流入する流入端面と、前記流体が流出する流出端面と、前記流体を内部で流入出させる流路と、を有した前記把持対象物の内部の前記流路を前記流体が通過するように駆動する流体通過手段と、
前記把持対象物を通過する前記流体の流路特性を計測する流路特性計測手段と、を含み、
前記把持対象物の、前記流入端面側の側面の全周に渡る前記把持表面を前記第1の把持治具で気密に把持しながら、前記流出端面側の側面の全周に渡る前記把持表面を前記第2の把持治具で気密に把持しつつ、前記流体が通過する際に生ずる前記流体の流路特性を前記流路特性計測手段により測定する計測装置。
【請求項6】
前記流路特性計測手段として前記流入端面側と前記流出端面側とに設けられた一対の圧力計測手段を含み、
前記一対の圧力計測手段で計測された圧力差で前記把持対象物を通過する際に生ずる圧力損失を測定する請求項5に記載の計測装置。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の把持治具が支持部に設けられ、前記把持治具で前記把持対象物を把持する把持装置。
【請求項8】
少なくとも一つの把持治具が設けられた前記支持部と、
前記支持部に設けられ、少なくとも一つの前記把持治具の前記把持傾斜面と対向する位置に配置された、押さえ治具と、を有し、
前記把持治具と、前記押さえ治具とで前記把持対象物を把持する請求項7に記載の把持装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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