説明

投球アーム

【課題】ばねの付勢力により投球アームを高速回転させて投球を可能にする場合において、この投球の精度を向上させるようにし、また、ばねを軽量かつ小型にさせると共に、投球アームの寿命を向上させるようにする。
【解決手段】投球アームは、左右に延びる軸心8側から外方に向かって突出し、軸心8回りの一方向Aの回転における所定回転範囲αでばね22の付勢力により高速回転可能とされる。所定回転範囲αの直前に球2を載置可能とする球受部15を投球アーム10の突出端部に形成する。投球アーム10の高速回転により球受部15上に載置された球2が前方に向かって投球されるようにする。球受部15を中空構造となるよう強化樹脂30により形成する。所定回転範囲αの直前に位置した投球アーム10を、その長手方向に沿った視線で見た断面視(図5)で、球受部15の断面をV字形状にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球練習用などに用いられるアーム式投球機の一部を構成する投球アームであって、ばねの付勢により高速回転して球を投球可能とする投球アームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記投球アームには、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、投球アームは、左右に延びる軸心側から外方に向かって突出し、この軸心回りの一方向の回転における所定回転範囲でばねの付勢力により高速回転可能とされる。上記所定回転範囲の直前に球を載置可能とする球受部が上記投球アームの突出端部に形成されている。そして、この投球アームの上記所定回転範囲における開始点からの高速回転により、上記球受部上に載置された球が前方に向かって投球されるようになっている。
【0003】
また、上記したように、投球アームはばねの付勢力により所定回転範囲で高速回転させられるが、この投球アームはその慣性力により、一旦、上記所定回転範囲の終点を越えるまで回転する。そして、この際、この投球アームの慣性力により上記ばねは引張されて弾性変形させられる。これにより、このばねには上記投球アームを逆回転させようとする負の付勢力が発生する。このため、この負の付勢力により、投球アームは所定回転範囲の終点を越えると急減速させられ、かつ、これに続いて投球アームは逆回転させられる。
【0004】
以下、上記ばねの正、負の交互の付勢力により、上記投球アームは、所定回転範囲の終点を挟み正、逆回転が交互に繰り返されて激しく振動し、これに伴うばねの弾性エネルギーの減衰と共に、上記振動も減衰する。その後、上記投球アームは駆動装置により他の回転範囲で一方向に徐々に回転させられて、上記所定回転範囲の開始点に戻され、以下、上記動作が繰り返される。
【特許文献1】特開2005−65978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の技術では、投球アームの球受部は板金製とされており、このため、次のような問題点がある。
【0006】
第1点として、上記球受部は2つの板金材を左右から重ね合わせた重ね板構造とされている。このため、上記断面視におけるこの球受部の縦方向の強度は確保し得るが、全体的な剛性を十分に確保することは容易でない。このため、上記のように投球アームを高速回転させて投球をする際、上記球からの反力により、上記球受部にはわずかではあるが弾性的な捩り変形が生じるおそれがある。そして、この場合には、投球の精度が低下するという不都合が生じる。
【0007】
第2点として、上記のように球受部は板金製とされていて重くなりがちである。そして、これに伴い、投球アームの慣性力も大きくなりがちである。このため、この投球アームを上記所定回転範囲で所望速度で高速回転させようとすると、この投球アームの慣性力の大きさに応じて上記ばねの容量も大きくさせる必要が生じる。この結果、このばねが重くなったり、大型になったりする、という不都合が見られる。
【0008】
第3点として、上記のように投球アームは重くなりがちのため、この投球アームの高速回転時の慣性力に加えて遠心力も大きくなりがちである。このため、この高速回転時には、特に、上記投球アームの突出端部を構成して回転速度が速い球受部に生じる応力が過大になるおそれがあり、これは投球アームの寿命上好ましくない。
【0009】
また、前記した従来の技術のように、ばねの付勢力により投球アームが高速回転して所定回転範囲の終点に達したときには、この投球アームは上記ばねにより急減速させられると共に、激しく振動させられる。ここで、上記球受部が上記第1点にいうように十分な剛性を有していない場合や、上記第2点にいうように重い場合には、上記した投球アームの急減速時や振動時には、上記球受部に大きい繰り返し応力が生じがちとなり、これも投球アームの寿命上好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、ばねの付勢力により投球アームを高速回転させて投球を可能にする場合において、この投球の精度を向上させるようにし、また、上記ばねを軽量かつ小型にさせることによりこの投球アームを適用した投球機をコンパクトに構成できるようにするとともに、投球アームの寿命を向上させるようにすることである。
【0011】
請求項1の発明は、左右に延びる軸心8側から外方に向かって突出し、この軸心8回りの一方向Aの回転における所定回転範囲αでばね22の付勢力により高速回転可能とされる投球アーム10であって、上記所定回転範囲αの直前に球2を載置可能とする球受部15を上記投球アーム10の突出端部に形成し、この投球アーム10の上記高速回転により上記球受部15上に載置された球2が前方に向かって投球されるようにした投球アームにおいて、
上記球受部15を中空構造となるよう強化樹脂30により形成したことを特徴とする投球アームである。
【0012】
請求項2の発明は、上記所定回転範囲αの直前に位置した上記投球アーム1を、その長手方向に沿った視線で見た断面視(図5)で、上記球受部15の断面をV字形状にしたことを特徴とする請求項1に記載の投球アームである。
【0013】
請求項3の発明は、上記投球アーム10のアーム基部14を上記軸心8側から外方に向かって突出するパイプ材とし、このアーム基部14の突出端部に上記球受部15を一体的に結合し、上記断面視(図5)で、上記V字形状の底部に相当する上記球受部15の球受基部15aと、この球受部15の球受基部15aに上記長手方向で連なる上記アーム基部14の突出端部とに跨るようにリブ28を一体的に形成したことを特徴とする請求項2に記載の投球アームである。
【0014】
請求項4の発明は、上記断面視で、上記球受部15の外面に沿った各部厚さ寸法Tを互いにほぼ同じとしたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の投球アームである。
【0015】
請求項5の発明は、上記球受部15を繊維強化樹脂により形成し、この繊維31としてアラミド繊維とPBO繊維とのうち、少なくともいずれか一方を用いるようにしたことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の投球アームである。
【0016】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明による効果は、次の如くである。
【0018】
請求項1の発明は、左右に延びる軸心側から外方に向かって突出し、この軸心回りの一方向の回転における所定回転範囲でばねの付勢力により高速回転可能とされる投球アームであって、上記所定回転範囲の直前に球を載置可能とする球受部を上記投球アームの突出端部に形成し、この投球アームの上記高速回転により上記球受部上に載置された球が前方に向かって投球されるようにした投球アームにおいて、
上記球受部を中空構造となるよう強化樹脂により形成している。
【0019】
このため、上記断面視で、上記球受部の各部幅寸法を増大させても、その中空構造により重量の増加が抑制される。そして、このように各部幅寸法の増大と、この球受部を強化樹脂により形成したこととにより、この球受部の剛性を十分に向上させることができる。
【0020】
よって、上記球受部に球を載置し、投球アームを高速回転させて投球をする際、上記球受部は球から反力を受けるが、この反力によって球受部に捩りが生じることは防止され、このため、投球の精度が向上する。
【0021】
また、上記したように、球受部を、中空構造となるよう強化樹脂により形成したため、投球アームを所望強度に保ったままで軽量化が達成される。よって、この投球アームを高速回転させるためのばねの容量は小さく抑制されることから、このばねを軽量かつ小型にできる。この結果、上記投球アームやばねを適用した投球機をコンパクトかつ軽量にすることができる。
【0022】
しかも、上記したように球受部の軽量化が達成されたため、上記投球アームの高速回転時に、上記球受部に、その遠心力に基づき生じる応力は小さく抑制される。また、上記したように、球受部の剛性の向上と軽量化とが達成されたため、前記のように投球アームが高速回転後に急減速させられたり、激しく振動させられたりした場合でも、上記球受部に大きい繰り返し応力が生じることは抑制される。よって、投球アームの寿命を向上させることができる。
【0023】
請求項2の発明は、上記所定回転範囲の直前に位置した上記投球アームを、その長手方向に沿った視線で見た断面視で、上記球受部の断面をV字形状にしている。
【0024】
ここで、上記した球受部のV字形状の断面は、その上面側で球を載置する上で好都合であると共に、この球受部が投球時に球から受ける反力は、上記V字形状の左右各側壁においてその各面方向で主に支持される。よって、上記球受部は十分な剛性をより確実に保持できることから、上記請求項1の効果が十分に助長される。
【0025】
請求項3の発明は、上記投球アームのアーム基部を上記軸心側から外方に向かって突出するパイプ材とし、このアーム基部の突出端部に上記球受部を一体的に結合し、上記断面視で、上記V字形状の底部に相当する上記球受部の球受基部と、この球受基部に上記長手方向で連なる上記アーム基部の突出端部とに跨るようにリブを一体的に形成している。
【0026】
ここで、上記球受部は、上記断面視でV字形状をなしているため、そのV字形状の底部に相当する球受基部と、この球受基部から斜め外側方に向かって互いに離れるよう一体的に突出する左右一対の球受突片とを備えている。そして、この球受部において上記のようにリブを形成したため、この球受部では、その球受基部から上記各球受突片とリブとが放射状に突出することとなる。よって、上記球受部の剛性が更に向上することから、投球の精度が更に向上する。
【0027】
しかも、上記リブを、上記球受部と上記アーム基部の突出端部とに跨るように形成したため、上記したようにアーム基部をパイプ材という簡単な構成にした場合でも、これらアーム基部から球受部の遷移部に応力集中が生じることは防止される。よって、上記投球アームを簡単な構成にでき、また、上記リブにより投球アームの曲げ剛性と強度が向上するため、この投球アームによる投球の精度が向上すると共に、この投球アームの寿命の向上も達成される。
【0028】
請求項4の発明は、上記断面視で、上記球受部の外面に沿った各部厚さ寸法を互いにほぼ同じとしている。
【0029】
このため、上記空洞部は、上記球受部の内部の一部に偏ることなく、全体にわたり形成される。よって、上記球受部をより軽量にできる。
【0030】
請求項5の発明は、上記球受部を繊維強化樹脂により形成し、この繊維としてアラミド繊維とPBO繊維とのうち、少なくともいずれか一方を用いるようにしている。
【0031】
ここで、上記各繊維は引張強度が極めて大きいものであるため、上記投球アームの長期にわたる使用により、球受部に仮にクラックが生じたとしても、上記球受部が不意に破断することは上記繊維により防止される。よって、投球アームの破断前において、新しいものへの交換が円滑にできて、有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の投球アームに関し、ばねの付勢力により投球アームを高速回転させて投球を可能にする場合において、この投球の精度を向上させるようにし、また、上記ばねを軽量かつ小型にさせると共に、投球アームの寿命を向上させるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0033】
即ち、投球アームは、左右に延びる軸心側から外方に向かって突出し、この軸心回りの一方向の回転における所定回転範囲でばねの付勢力により高速回転可能とされるものである。上記所定回転範囲の直前に球を載置可能とする球受部が上記投球アームの突出端部に形成される。そして、この投球アームの上記高速回転により上記球受部上に載置された球が前方に向かって投球される。
【0034】
上記所定回転範囲の直前に位置した上記投球アームを、その長手方向に沿った視線で見た断面視で、上記球受部の断面がV字形状とされ、この球受部は中空構造となるよう強化樹脂により形成されている。
【実施例】
【0035】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0036】
図において、符号1は野球練習用のアーム式投球機で、矢印Frは、この投球機1による球2の投球方向の前方を示している。
【0037】
上記投球機1は、野球練習用のグランドである地面3上の被投球部に向かって、かつ、前方に向かって球2を投球する投球機本体4と、この投球機本体4によって球2を投球させるために多数の球2を貯留可能にすると共に、その球2を一つずつ上記投球機本体4に供給する不図示の球供給装置と、これら投球機本体4と球供給装置とを支持して上記地面3上の任意位置にまで移動可能とさせる台車5とを備えている。
【0038】
上記投球機本体4は、上記台車5に支持される架台7と、左右に延びる軸心8回りに回転可能となるよう上記架台7に支持される回転軸9と、この回転軸9に取り付けられてこの回転軸9と共に回転する投球アーム10とを備えている。この投球アーム10は、上記回転軸9に外嵌されてこの回転軸9に締結具12により固着されるボス部13と、このボス部13から上記回転軸9の径方向の外方に向けて一体的に突出する円形パイプ材製のアーム基部14と、このアーム基部14の突出端部に一体的に結合され、このアーム基部14からその突出方向の外方に向かって突出する球受部15とを備えている。この球受部15は、上記投球アーム10の突出端部に形成されている。
【0039】
図2中二点鎖線で示すように、上記投球アーム10が、上記回転軸9から後方かつほぼ水平に突出した状態から、上記軸心8回りで少し上方に回転した状態に至るまでの姿勢が「球載置姿勢」とされる。そして、この投球アーム10の「球載置姿勢」における上記球受部15上に対し上記球供給装置から一つの球2が供給可能とされる。また、このように供給された球2は上記球受部15上に載置可能とされる。
【0040】
上記投球アーム10の「球載置姿勢」では、上記球受部15上の球2はアーム基部14側に向かって転動しようとする。この場合、この転動を阻止するストッパ17が設けられている。このストッパ17は、上記投球アーム10の「球載置姿勢」において、上記アーム基部14の突出端部の上面に一体的に突設されるストッパ基部18と、このストッパ基部18の突出端部に締結され、上記球受部15の球2の中心に向かって突出するストッパボルト19とを備えている。
【0041】
図2において、上記投球機本体4は、上記回転軸9を弾性的に付勢するばね22と、このばね22の弾性力に対抗して上記回転軸9を投球アーム10と共に、上記軸心8回りの一方向Aに向かって回転駆動可能とする駆動装置23とを備えている。
【0042】
上記投球アーム10は、上記ストッパ基部18回りの上記一方向Aの回転における所定回転範囲αで、上記駆動装置23に係りなく、ばね22の付勢力によって上記一方向Aに高速回転可能とされる。そして、この投球アーム10の上記高速回転により、上記球受部15上に載置された球2が前方に向かって投球される。
【0043】
上記投球アーム10の上記所定回転範囲αにおける高速回転の終了後には、上記一方向Aで上記所定回転範囲αに続く他の回転範囲βにおいて、上記投球アーム10は、上記駆動装置23により一方向Aに徐々に回転させられて、上記「球載置姿勢」に戻される。ここで、上記投球アーム10の球受部15上に対し次の一つの球2が供給され、以下、上記各動作が繰り返されて、球2が一つずつ前方に向かって投球される。
【0044】
上記所定回転範囲αの直前である「球載置姿勢」の投球アーム10を、その長手方向に沿った視線で見た断面視(図5)で、上記球受部15の長手方向の各部断面は、上記球2を載置可能とするV字形状とされて、その上面に凹部16が形成され、かつ、左右対称形とされている。具体的には、上記球受部15は上記断面視(図5)で上記V字形状の底部に相当する球受基部15aと、この球受基部15aから斜め外側方に向かって互いに離れるよう一体的に突出する左右一対の球受突片15b,15bとを備え、これら両球受突片15b,15bの間に凹溝形状の上記凹部16が形成されている。また、この球受部15は、その内部に空洞部26を有する中空構造(閉断面構造)とされている。
【0045】
上記球受部15のうち、上記アーム基部14側の端部における球受基部15aの部分は、上記アーム基部14の突出端部とほぼ同じ円形のパイプ形状とされている。上記アーム基部14の内孔と上記球受部15の空洞部26とは互いに連通している。上記各球受突片15bの内部にも上記空洞部26の一部が形成されている。上記断面視(図5)で、上記各球受突片15bは、その突出端側から球受基部15a側に向かうに従い幅寸法が大きくなる台形状に形成されている。
【0046】
上記投球アーム10の「球載置姿勢」の側面視(図1)で、上記球受部15の球受基部15aの下面と、この球受基部15aに上記投球アーム10の長手方向で連なる上記アーム基部14の突出端部の下面とに跨るように下方に向かって突出するリブ28が一体的に形成されている。また、このリブ28は上記アーム基部14の突出端部と、球受部15の上記アーム基部14側の端部とに跨って形成されている。また、上記リブ28の下方への突出端縁は上記投球アーム10の上方に中心点29を有する円弧形状とされている。上記リブ28の内部にも上記空洞部26の一部が形成されている。
【0047】
上記断面視(図5)で、上記アーム基部14および球受部15の各外面に沿った各部厚さ寸法Tは互いにほぼ同じとされている。
【0048】
上記投球アーム10は全体的に強化樹脂30により形成されている。この強化樹脂30は、繊維31と樹脂32とにより形成された繊維強化樹脂である。上記繊維31は、2枚の外層31a,31aと、これら両外層31a,31aに挟まれる2枚の中間層31b,31bとこれら両中間層31b,31bに挟まれる内層31cとを備えている。
【0049】
上記外層31aはガラス繊維とされ、上記中間層31bは炭素繊維とされる。また、上記内層31cは引張強度が大きいアラミド、もしくはPBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維であり、特に、このPBO繊維はスチール繊維の10倍程度の高い引張強度を有している。また、上記樹脂32は、熱硬化性樹脂であり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステルなどの樹脂である。
【0050】
なお、上記各層31a〜31cの材質は種々選択自由であり、上記各外層31aの各外面に上記PBO繊維の層を追加するなど、層の枚数も選択自由である。
【0051】
また、上記空洞部26には、上記強化樹脂30よりも比重が十分に小さいポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタンなどの発泡樹脂34が充填されて、上記投球アーム10が補強や振動減衰効果を高めている。なお、上記発泡樹脂34は設けなくてもよい。
【0052】
上記投球アーム10の球受部15の形成方法につき簡説する。
【0053】
まず、アームの形状を小さくした円柱状のコアの外面に熱硬化性の樹脂32を含侵させた繊維31であるシート(プリプレグ)を順次貼り付け中間品を形成する。次に、この中間品から上記コアを引き抜いた後、内部に加圧用のチューブを挿入した上で、上記中間品を割金型のキャビティ内にセットする。このキャビティの内面は、上記球受部15の外面に相当している。
【0054】
次に、上記中間品の内圧を空気圧や油圧により高めて膨張させ、上記キャビティの内面に圧接させる。この際、上記中間品を150℃程度で加熱して、硬化させる。すると、上記球受部15が形成される。
【0055】
上記発泡樹脂34は、上記中間品の加熱時に、上記空洞部26内で樹脂材を発泡させてこの空洞部26に充填させてもよく、球受部15の形成後に、この球受部15の空洞部26内で発泡させてもよい。
【0056】
一方、上記投球機1のボス部13とアーム基部14とを上記強化樹脂30により形成し、これらボス部13とアーム基部14とを強化樹脂30や締結具などにより上記球受部15に結合させれば、投球機1の形成が完了する。
【0057】
上記構成によれば、球受部15を中空構造となるよう強化樹脂30により形成している。
【0058】
このため、上記断面視(図5)で、上記球受部15の各部幅寸法を増大させても、その中空構造により重量の増加が抑制される。そして、このように各部幅寸法の増大と、この球受部15を強化樹脂30により形成したこととにより、この球受部15の剛性を十分に向上させることができる。
【0059】
よって、上記球受部15に球2を載置し、投球アーム10を高速回転させて投球をする際、上記球受部15は球2から反力を受けるが、この反力によって球受部15に捩りが生じることは防止され、このため、投球の精度が向上する。
【0060】
また、上記したように、球受部15を、中空構造となるよう強化樹脂30により形成したため、投球アーム10を所望強度に保ったままで軽量化が達成される。よって、この投球アーム10を高速回転させるためのばね22の容量は小さく抑制されることから、このばね22を軽量かつ小型にできる。この結果、上記投球アーム10やばね22を適用した投球機1をコンパクトかつ軽量にすることができる。
【0061】
しかも、上記したように球受部15の軽量化が達成されたため、上記投球アーム10の高速回転時に、上記球受部15に生じる応力は小さく抑制される。また、上記したように、球受部15の剛性の向上と軽量化とが達成されたため、前記のように投球アーム10が高速回転後に急減速させられたり、激しく振動させられたりした場合でも、上記球受部15に大きい繰り返し応力が生じることは抑制される。よって、投球アーム10の寿命を向上させることができる。
【0062】
また、前記したように、所定回転範囲αの直前に位置した上記投球アーム1を、その長手方向に沿った視線で見た断面視(図5)で、上記球受部15の断面をV字形状にしている。
【0063】
ここで、上記した球受部15のV字形状の断面は、その上面側で球2を載置する上で好都合であると共に、この球受部15が投球時に球2から受ける反力は、上記V字形状の左右各側壁においてその各面方向で主に支持される。よって、上記球受部15は十分な剛性をより確実に保持できることから、前記諸効果が十分に助長される。
【0064】
また、前記したように、投球アーム10のアーム基部14を上記軸心8側から外方に向かって突出するパイプ材とし、このアーム基部14の突出端部に上記球受部15を一体的に結合し、上記断面視(図5)で、上記V字形状の底部に相当する上記球受部15の球受基部15aと、この球受基部15aに上記長手方向で連なる上記アーム基部14の突出端部とに跨るようにリブ28を一体的に形成している。
【0065】
ここで、上記球受部15は、上記断面視(図5)でV字形状をなしている。このため、そのV字形状の底部に相当する球受基部15aと、この球受基部15aから斜め外側方に向かって互いに離れるよう一体的に突出する左右一対の球受突片15b,15bとを備えている。そして、この球受部15において上記のようにリブ28を形成したため、この球受部15では、その球受基部15aから上記各球受突片15bとリブ28とが放射状に突出することとなる。よって、上記球受部15の剛性が更に向上することから、投球の精度が更に向上する。
【0066】
しかも、上記リブ28を、上記球受部15と上記アーム基部14の突出端部とに跨るように形成したため、上記したようにアーム基部14をパイプ材という簡単な構成にした場合でも、これらアーム基部14から球受部15の遷移部に応力集中が生じることは防止される。よって、上記投球アーム10を簡単な構成にでき、また、上記リブ28により投球アーム10の曲げ剛性と強度が向上するため、この投球アーム10による投球の精度が向上すると共に、この投球アーム10の寿命の向上も達成される。
【0067】
また、前記したように、断面視で、上記球受部15の外面に沿った各部厚さ寸法Tを互いにほぼ同じとしている。
【0068】
このため、上記空洞部26は、上記球受部15の内部の一部に偏ることなく、全体にわたり形成される。よって、上記球受部15をより軽量にできる。また、この場合、応力が大きくなり易い部分の厚さを比較的に大きくして、球受部15の各部強度をバランスよく向上させてやることが好ましい。
【0069】
また、前記したように、球受部15を繊維強化樹脂により形成し、この繊維31としてアラミド繊維とPBO繊維とのうち、少なくともいずれか一方を用いるようにしている。
【0070】
ここで、上記各繊維は引張強度が極めて大きいものであるため、上記投球アーム10の長期にわたる使用により、球受部15に仮にクラックが生じたとしても、上記球受部15が不意に破断することは上記繊維31により防止される。また、ボス部13とアーム基部14とを締具などにて結合させた部分付近を円周方向に上記繊維で同様に補強することにより、破断を防止することができる。よって、投球アーム10の破断前において、新しいものへの交換が円滑にできて、有益である。
【0071】
なお、以上は図示の例によるが、上記投球機1を強化樹脂30により一体的に形成してもよい。また、上記断面視で、球受部15の断面をV字形状としたが、これは厳密にV字形に限定されるものではなく、倒立台形状のようなものも含む概念である。また、上記投球機1における球受部15の断面を円形状や矩形状とし、その上面に凹部16を形成してもよい。
【0072】
また、上記ストッパ17のストッパ基部18を上記アーム基部14とは別体に設けて、このアーム基部14に固着具により固着させてもよい。また、上記空洞部26は、上記球受部15の球受基部15aおよび球受突片15bと、リブ28とのうち、上記球受基部15aのみに形成してもよい。また、上記リブ28は左右一対など、複数条形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図2の一点鎖線で示した投球アームに相当する図である。
【図2】投球機の全体側面図である。
【図3】投球アームの平面図である。
【図4】投球アームの部分底面図である。
【図5】(a)は図1のa−a線矢視断面図、(b)は図1のb−b線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 投球機
2 球
4 投球機本体
8 軸心
10 投球アーム
14 アーム基部
15 球受部
15a 球受基部
15b 球受突片
16 凹部
17 ストッパ
18 ストッパ基部
19 ストッパボルト
22 ばね
26 空洞部
28 リブ
29 中心点
30 強化樹脂
31 繊維
31a 外層
31b 中間層
31c 内層
32 樹脂
34 発泡樹脂
A 一方向
T 厚さ寸法
α 所定回転範囲
β 他の回転範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に延びる軸心側から外方に向かって突出し、この軸心回りの一方向の回転における所定回転範囲でばねの付勢力により高速回転可能とされる投球アームであって、上記所定回転範囲の直前に球を載置可能とする球受部を上記投球アームの突出端部に形成し、この投球アームの上記高速回転により上記球受部上に載置された球が前方に向かって投球されるようにした投球アームにおいて、
上記球受部を中空構造となるよう強化樹脂により形成したことを特徴とする投球アーム。
【請求項2】
上記所定回転範囲の直前に位置した上記投球アームを、その長手方向に沿った視線で見た断面視で、上記球受部の断面をV字形状にしたことを特徴とする請求項1に記載の投球アーム。
【請求項3】
上記投球アームのアーム基部を上記軸心側から外方に向かって突出するパイプ材とし、このアーム基部の突出端部に上記球受部を一体的に結合し、上記断面視で、上記V字形状の底部に相当する上記球受部の球受基部と、この球受基部に上記長手方向で連なる上記アーム基部の突出端部とに跨るようにリブを一体的に形成したことを特徴とする請求項2に記載の投球アーム。
【請求項4】
上記断面視で、上記球受部の外面に沿った各部厚さ寸法を互いにほぼ同じとしたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の投球アーム。
【請求項5】
上記球受部を繊維強化樹脂により形成し、この繊維としてアラミド繊維とPBO繊維とのうち、少なくともいずれか一方を用いるようにしたことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の投球アーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−273648(P2009−273648A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127588(P2008−127588)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000108258)ゼット株式会社 (36)
【出願人】(000134187)株式会社トーアスポーツマシーン (8)