説明

抗がん剤治療の有効性予測方法

【課題】 患者がためらうことなく抗がん剤治療に踏み切れるように、特定の抗がん剤治療が有効であることを高確率で予測できる抗がん剤治療の有効性予測方法を提供する。
【解決手段】 患者から採取した腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼの活性値、発現量、及び活性値と発現量の比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、選択されたパラメータに対応する閾値とを比較する工程;及び前記比較工程の結果に基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む方法である。複数のCDKについて、各パラメータと該当する閾値と比較し、それらの比較結果の組み合わせによって予測してもよい。閾値は、所定のがんに対して所定の抗がん剤が投与された抗がん剤治療結果と相関のあるパラメータについて、抗がん剤治療結果に基づいて設定されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個々のがん患者に対して、抗がん剤治療が有効か否か、とりわけ有効であることを高確率で予測することができる抗がん剤治療の有効性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療方法の一つとして、抗がん剤治療方法がある。しかし、がんの病態は、その種類、発症部位あるいは進行度等により様々であり、こうした多様性と患者個人の応答性の違いは、抗がん剤治療が有効な患者だけでなく、有効でない患者も多く存在する原因となっている。抗がん剤が効かない患者に抗がん剤を投与し続けることは、その抗がん剤の副作用による悪い面だけがクローズアップされることになり、患者には苦痛を強いるだけに成りかねない。
このため、抗がん剤治療に踏み切る場合、その抗がん剤が対象となる患者に効くか効かないかを、治療前に知ることが求められている。
【0003】
現在、抗がん剤に対する感受性を予測する方法としては、例えば特許文献1に、感受性の違いが遺伝子多型にあるとして、被検細胞のBCRPの遺伝子多型を同定する、被検細胞の抗がん剤に対する感受性判定方法が開示されている。
【0004】
BCRPは、ABCトランスポータの1つで、抗がん剤の耐性に関与していることが知られており、またこのBCRPの発現の個人差が一塩基多型にあることが知られている。このようなことから、特許文献1に開示の感受性判定方法は、患者由来のガン細胞からDNAの塩基配列を調べ、BCRPの遺伝子多型を同定し、感受性、副作用の程度を判定するという方法である。
【0005】
また、特許文献2に、培養がん細胞株の抗がん剤感受性と該細胞のインタクトな状態における遺伝子発現プロファイルに基づき抗がん剤適合性マーカー遺伝子を特定し、特定した抗がん剤適合性マーカー遺伝子と該遺伝子を利用した未知検体の抗がん剤適合性予測方法が開示されている。
【0006】
この方法では、検体中のがん細胞において、相対的発現量が高い遺伝子群の特定の抗がん剤に対して相関が高い遺伝子群と一致する率が高ければ、該検体はその抗がん剤に対して適合性であると予測し、検体中のがん細胞において相対的発現量が高い遺伝子群が特定の抗がん剤に対して相関が高い遺伝子群と全く一致しなければ、該検体はその抗がん剤に対して適合性が低いと予測するものである。
【0007】
しかし、この方法で適合と判定されたものであっても、抗がん剤治療が実際に有効であるか否かは80%程度であるといわれている。有効性が80%というのは、治療に踏み切るにあたっての指標としては、決して高いといえない。かなりの確実性をもって有効であるといった指標が与えられることが患者にとっては重要である。
【0008】
一方、がん抑制遺伝子産物であるp53やRBタンパク質(網膜芽細胞腫タンパク、Retinoblastoma protein)が、細胞周期制御に関与することが知られ、細胞周期タンパク質とがんとの関係について、近年、研究が進められている。
【0009】
特許文献3には、細胞周期関連タンパク質を少なくとも2種以上測定し、細胞周期プロファイリングを行なうことにより、薬剤耐性試験及び予後診断が可能となるということは示唆されているが、その具体的方法、効果については一切開示されていない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−199585号
【特許文献2】特開2003−304884号
【特許文献3】WO2004/076686
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、患者がためらうことなく抗がん剤治療に踏み切れるように、特定の抗がん剤治療が有効であることを高確率で予測できる抗がん剤治療の有効性予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、実際に患者から採取された腫瘍細胞について、細胞周期関連タンパク質のプロファイリングを種々検討し、さらに実際に抗がん剤治療を行なったときの効果との関係を鋭意検討した結果、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の抗がん剤治療の有効性予測方法は、患者から採取した腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、選択されたパラメータに対応する閾値とを比較する工程;及び前記比較工程の結果に基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む。
【0014】
有効性の予測に採用するサイクリン依存性キナーゼ(CDK)は、1種類であってもよいし(第1の有効性予測方法)、2種類以上であってもよい(第2の有効性予測方法)。
【0015】
2種類以上のCDKを採用する場合、前記比較工程は、複数のサイクリン依存性キナーゼについて、各キナーゼのパラメータを、それぞれ選択されたパラメータに対応する閾値と比較することにより行ない、前記予測工程は、各キナーゼの比較結果の組み合わせにより、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する方法であってもよいし(第2−1の有効性予測方法);第1の有効性予測方法の予測工程において前記抗がん治療の有効性が疑われると判定された腫瘍細胞について、第1有効性予測方法で採用したCDK(第一CDK)とは異なるCDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択されるパラメータと、該パラメータに対応する閾値とを比較することにより、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む方法であってもよい(第2−2の有効性予測方法)。
【0016】
第2−2の有効性予測方法で、第1CDKと異なるCDKは、1種類のCDK(第2CDK)であってもよいし、複数種類のCDKを用いてもよい。第2CDKの場合、第2CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択されるパラメータと、該パラメータに対応する閾値とを比較することにより、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む。複数種類のCDKを用いる場合、それぞれのCDKについて、各CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、該パラメータに対応する閾値とを比較し、各キナーゼの比較結果の組み合わせに基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する。
【0017】
さらに、CDKだけでなく、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)の発現量を、対応する閾値と比較し、前記CDKの比較結果と、前記CDKインヒビターの比較結果との組み合わせに基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測してもよい(第3の有効性予測方法)。
【0018】
第1〜第3の有効性予測方法において、前記サイクリン依存性キナーゼは、CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6からなる群より選択されることが好ましく、第3の有効性予測方法において、前記CDKインヒビターは、p21であることが好ましい。
【0019】
第1〜第3の有効性予測方法において、前記閾値は、所定のがんに対して所定の抗がん剤が投与された抗がん剤治療結果と相関のあるパラメータについて、抗がん剤治療結果に基づいて設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗がん剤治療の有効性予測方法は、実際の抗がん剤治療効果の有無との相関性が大変高く、本発明の予測方法で有効と判定される場合は、ほぼ100%近く抗がん剤治療が有効な場合に限られるので、抗がん剤治療に踏み切るか否かの指標として優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の抗がん剤治療の有効性予測方法は、患者から採取した腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、選択されたパラメータに対応する閾値とを比較する工程;及び前記比較工程の結果に基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む。
【0022】
本発明の方法で予測する治療の有効性には、術前療法、術後療法の双方が含まれる。術前療法では、原発巣が存在する状態で抗がん剤を投与し続けた結果、原発巣が縮小ないし消失する場合が有効となり、術後療法では、腫瘍の摘出手術を行なった後に抗がん剤を投与し続けた結果、再発しない場合が有効となる。術後療法では、目に見えない転移などに対して、抗がん剤が有効であるかどうかが再発の有無となって現れる。
【0023】
本発明の予測方法に用いられる試料となる細胞は、患者から採取した腫瘍細胞である。術後療法の場合、手術により摘出された腫瘍組織から腫瘍細胞を得ることができる。術前療法の場合には、患者の腫瘍組織から生検した腫瘍細胞などを用いることができる。
【0024】
サイクリン依存性キナーゼとは、サイクリンと結合して活性化される酵素群の総称で、その種類に応じて、細胞周期の特定時期で機能している。
【0025】
ここで、細胞が増殖を開始し、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て、2つの娘細胞となって出発点に戻るまでのサイクルである細胞周期は、図1に示すように、G1期、S期、G2期、M期の4期に分けられる。S期はDNAの複製期であり、M期は分裂期である。G1期は有糸分裂の完了からDNA合成の開始までの間で、M期にはいるための準備点検期である。G1期にある臨界点(動物細胞ではR点)をすぎると、細胞周期は始動し、通常途中でとまることなく、一巡する。G2期は、DNA合成の終了から有糸分裂の開始の間である。細胞周期の主なチェックポイントは、G1期からS期にはいる直前、G2期から有糸分裂への入り口である。特にG1期チェックポイントはS期開始の引き金をひくため、重要である。G1期のある点をすぎると、細胞は増殖シグナルがなくなっても、増殖を停止することなく、S→G2→M→G1と細胞周期を進行させるからである。尚、増殖を停止した細胞で、G1期のDNA含量をもった休止期(G0)があり、細胞周期からはずれた状態にある。増殖誘導により細胞周期内のG1期よりやや長い時間の後にS期へ進行することができる。
【0026】
本発明の方法で用いられるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)としては、CDK1、CDK2、CDK4、CDK6、サイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、及びサイクリンD依存性キナーゼなどが挙げられ、がんの種類、抗がん剤の種類に応じて適宜選択される。つまり、がんには種々の種類があり、各患者のがん細胞がもっている細胞周期に関連する性格が抗がん剤治療の有効性に大いに関係するからである。
【0027】
本明細書における「がん」は、上皮細胞がん、造血器由来のがん、肉腫などを含む。がんの種類としては、例えば、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、前立腺がん、白血病、骨肉腫等が挙げられる。
【0028】
本明細書における「抗がん剤」とは、上述のがんに対して抗腫瘍効果のある化学物質のことをいう。
【0029】
本明細書における「抗がん剤治療」とは、上述の抗がん剤を生体に投与することにより生体の悪性腫瘍を治療することである。
【0030】
乳がんに対する抗がん剤治療としては、例えばCMF(シクロフォスファミド、メトトレキシエート、フルオロウラシルの3剤を併用して投与する療法)、ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系抗がん剤、CE(シクロフォスファミド、エピルビシンの2剤を併用して投与する療法)、AC(ドキソルビシン、シクロフォスファミドの2剤を併用して投与する療法)、CAF(フルオロウラシル、ドキソルビシン、シクロフォスファミドの3剤を併用して投与する療法)、FEC(フルオロウラシル、エピルビシン、シクロフォスファミドの3剤を併用して投与する療法)、トラスツズマブとパクリタキセルの2剤を併用して投与する療法、カペシタビン等が挙げられ、胃がんに対する抗がん剤治療としては、例えばFAM(フルオロウラシル、ドキソルビシン、マイトマイシンCの3剤を併用して投与する療法)、FAP(フルオロウラシル、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤を併用して投与する療法)、ECF(エピルビシン、シスプラチン、フルオロウラシルの3剤を併用して投与する療法)、マイトマイシンCとテガフールの2剤を併用して投与する療法、フルオロウラシルとカルムスチンの2剤を併用して投与する療法等が挙げられ、大腸がんに対する抗がん剤治療としては、例えばフルオロウラシルとロイコボリンの2剤を併用して投与する療法、マイトマイシンとフルオロウラシルの2剤を併用して投与する療法等が挙げられ、卵巣がんに対する抗がん剤治療としては、例えばTP(パクリタキセル、シスプラチンの2剤を併用して投与する療法)、TJ(パクリタキセル、カルボプラチンの2剤を併用して投与する療法)、CP(シクロフォスファミド、シスプラチンの2剤を併用して投与する療法)、CJ(シクロフォスファミド、カルボプラチンの2剤を併用して投与する療法)等が挙げられる。
【0031】
判定の指標とするのは、CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比から選択される1つ又は2つのパラメータである。活性値と発現量の比は、CDK活性値/CDK発現量で示されるCDK比活性であってもよいし、CDK発現量/CDK活性値の値であってもよい。
【0032】
上記のパラメータを所定の閾値と比較することにより抗がん剤治療が有効か否か判定できる。ここで活性値、発現量および活性値と発現量の比から選択されるパラメータとは、抗がん剤の種類、がんの種類により適宜選択されるパラメータである。このパラメータは、過去に抗がん剤治療が行われ、その結果が判明しているがん患者から抗がん剤治療の前に摘出されて保存されていた腫瘍細胞について、CDKの活性値と発現量を測定し、それぞれのパラメータについて、抗がん剤治療結果を解析し、抗がん剤治療結果と相関のあるパラメータを抗がん剤の有効性判定に用いるパラメータとして選択したものである。
【0033】
閾値と比較するパラメータは、所定のCDKにおける1つのパラメータであってもよいし、2つのパラメータの組合せであってもよい。2つのパラメータを選択する場合、それぞれにおけるパラメータをそれぞれの閾値と比較する。
【0034】
判定の指標となるCDKは、1種類であってもよいし(第1の有効性予測方法)、2種類以上であってもよい(第2の有効性予測方法)。
【0035】
2種類以上のCDKを採用する場合、複数のCDKについて、それぞれにおけるパラメータをそれぞれの閾値と比較し、各キナーゼの比較結果の組み合わせにより、有効性を予測してもよい(第2−1の有効性予測方法)。この場合、閾値と比較するパラメータの種類は、複数のCDKにおいて、同じ種類のパラメータ(例えば発現量)を用いてもよいし、異なる種類のパラメータ(例えば一方のCDKについては発現量を比較し、他方のCDKについては活性値を比較する)を用いてもよい。
【0036】
また、複数種類のCDKを採用する場合において、まず第1の有効性予測方法で、第1のCDKに基づいて予測し、第1の有効性予測方法で有効性が疑われると判定された腫瘍細胞に関して、第1のCDKとは異なるCDKについて、活性値、発現量および活性値と発現量との比から選択されるパラメータと、該パラメータに対応する閾値と比較することによって、有効性を予測してもよい(第2−2の有効性予測方法)。第2−2の有効性予測方法で、第1CDKと異なるCDKは、1種類のCDK(第2CDK)であってもよいし、複数種類のCDK(第3、第4・・・CDK)を用いてもよい。複数種類のCDKを用いる場合、それぞれのCDKについて、各CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、該パラメータに対応する閾値とを比較し、これらの比較結果の組み合わせに基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する。
【0037】
第2のCDKについて、有効性の判定に用いるパラメータは、上記群から選ばれる。パラメータは1つだけ選択してもよいし、2つのパラメータを選択して、それぞれの閾値と比較してもよい。また、異なるCDKとして複数種類のCDK、すなわち第2、さらには第3、第4のCDKについて測定する場合、判定に使用するパラメータは、全て同種のパラメータ(例えば発現量)を用いてもよいし、異なる種類のパラメータ(例えば第2のCDKは発現量とし、第3のCDKは活性値とするなどの組合わせ)を用いてもよい。
【0038】
本発明の第2の有効性予測方法は、予測の正答率を上げる点で有効である。さらに第2−2の予測方法により、第1の予測方法で有効であると判定されない場合であっても、抗がん剤治療が有効な場合が少なくないので、第2の有効性予測方法を採用する意義がある。
また、抗がん剤治療の効き方にも、さらに病状が悪化することを防止するレベルと、腫瘍を縮小させて、病状を快方に向かわせることができるレベルとに分類することができ、第2の有効性予測方法、特に第2−2の有効性予測方法により、抗がん剤治療の効き方のレベルを加味した予測を行なうこともできる。
【0039】
本発明の有効性予測方法は、CDKだけでなく、さらにサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)の発現量を、対応する閾値と比較し、前記CDKの比較結果と、前記CDKインヒビターの比較結果との組み合わせに基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測してもよい(第3の有効性予測方法)。CDKインヒビターは、サイクリン・CDK複合体に結合し、その活性を阻害する因子群で、INK4ファミリーとCIP/KIPファミリーに分類される。本発明の有効性予測方法では、CIP/KIPファミリーが好ましく用いられ、特にp21が好ましく用いられる。p21は、細胞増殖サイクルにおけるG1期及びG2期チェックポイントの双方で進行を阻害するインヒビターで、損傷したDNAの修復のための時間を与えることができる。
【0040】
第3の有効性予測方法は、CDKを所定パラメータについて閾値と比較した結果と、CDKインヒビターの発現量を閾値と比較した結果の組み合わせに基づいて、抗がん剤治療の有効性を予測してもよいし、第1段階でCDKを所定パラメータについて閾値と比較し、有効性を予測判定した(第1の有効性予測方法)後、有効であると判定されなかった腫瘍細胞について、第2段階でCDKインヒビターの発現量を閾値と比較し、有効である可能性が高いものを選び出すようにしてもよい。
【0041】
尚、CMF投与の治療有効性予測因子として、Her2やp21が報告されている。The international Breast Cancer Study Group(IBCSG)のトライアルでは、Her2が過剰発現している乳がん患者に対してCMF投与が無効であることが示され、p21に関しては、p21高発現患者群における無病生存率が、低発現患者群よりも有意に悪いことが報告されている。しかし、Her2,p21ともにCMF療法に対する効果の低い患者群に予測する因子であり、積極的に治療効果のある患者群を予測する因子の報告例はない。一方、本発明の予測方法は、有効であることを積極的に示すもので、しかも閾値を厳格にすることで、100%に近い有効性を期待できる場合を提示することができる。
【0042】
本発明の有効性予測方法において、閾値は、抗がん剤の種類、がんの種類により適宜設定される値である。具体的には所定のがんに対して所定の抗がん剤を投与した抗がん剤治療結果と上記のパラメータとの関係を、多くの抗がん剤治療結果について調べ、多数の抗がん剤治療結果と相関のあるパラメータに関して、その抗がん剤治療結果が有効であった場合を選択できるように設定された値である。好ましくは抗がん剤治療結果が全て有効であった場合のみを選択できるように閾値を設定する。このように、実際の臨床治療結果に基づいて閾値の設定が行われるため、確度の高い有効性の判定が可能となる。閾値の設定に用いる臨床治療結果の数を増加させることにより、有効性判定の確度を向上させることができる。なお、抗がん剤治療結果としては、所定の抗がん剤治療を続けることにより生じた腫瘍サイズの変化や、抗がん剤投与を5〜6年続けて再発の有無を調べた結果等が挙げられる。
【0043】
CDK活性値とは、試料中に含まれるCDKにより基質に導入されたリン酸量に基づく値であり、リン酸量を測定する際に用いられた標識物(例えば32P、蛍光)の標準品の測定値から定量的に計算される値(単位をU(ユニット)で表す)である。具体的には、検体の細胞可溶化液から活性型CDKを含む試料を調製し、32P標識したATP(γ−〔32P〕−ATP)を用いて、基質タンパク質に32Pを取り込ませ、標識されたリン酸化基質の標識量を測定し、標準品で作成された検量線をもとに定量する方法がある。また放射性物質の標識を用いない方法としては、特開2002−335997号に開示の方法が挙げられる。この方法は、検体の細胞可溶化液から、目的の活性型CDKを含む試料を調製し、アデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(ATP−γS)と基質を反応させて、該基質タンパク質のセリン又はスレオニン残基にモノチオリン酸基を導入し、導入されたモノチオリン酸基の硫黄原子に標識蛍光物質又は標識酵素を結合させることによって基質タンパク質を標識し、標識されたチオリン酸基質の標識量(標識蛍光物質を用いた場合には蛍光量)を測定し、標準品で作成された検量線に基づいて定量する方法である。
【0044】
活性測定に供する試料は、検体の細胞可溶化液から目的のCDKを特異的に採集することにより調製する。この場合、目的のCDKに特異的な抗CDK抗体を用いて調製してもよいし、特定のサイクリン依存性キナーゼ(例えばサイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、サイクリンE依存性キナーゼ)活性測定の場合には、抗サイクリン抗体を用いて調製する。いずれの場合も活性型CDK以外のCDKが試料に含まれることになる。例えばサイクリン・CDK複合体にCDKインヒビターが結合した複合体も含まれる。また、抗CDK抗体を用いた場合には、CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体などが含まれる。従って、活性値は、活性型、不活性型、各種競合反応が混在する状態下で、リン酸化された基質の単位(U)として測定される。
【0045】
CDK発現量とは、細胞可溶化液から測定される目的のCDK量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物から目的のタンパク質量を測定する従来公知の方法で測定できる。例えば、ELISA法、ウェスタンブロット法などを使用してもよいし、特開2003−130871号に開示の方法で測定することもできる。目的のタンパク質(CDK)は、特異的抗体を用いて捕捉すればよい。例えば、抗CDK1抗体を用いることにより、細胞内に存在するCDK1のすべて(CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体を含む)を捕捉できる。
【0046】
細胞可溶化液は、腫瘍細胞を含む組織などの生体試料を用いて調製することができる。具体的には、生体試料に緩衝液を添加し、緩衝液中の生体試料をホモジナイズして細胞膜内又は核膜内に存在する物質を緩衝液中に遊離させる。得られたホモジネートを遠心分離して採取される上清を細胞可溶化液とすることができる。この細胞可溶化液には、細胞膜内又は核膜内に存在するタンパク質などの分子が含まれている。遠心分離前及び/又は遠心分離後に、タンパク質の生成や抽出などの処理を行なっていてもよい。上述の緩衝液には、界面活性剤、プロテアーゼインヒビターなどを適宜添加してもよい。
【0047】
尚、CDK活性値/CDK発現量(CDK比活性)、又はCDK発現量/CDK活性値で示される比は、細胞に存在しているCDKのうち、活性を示すCDKの割合に相当し、測定対象である腫瘍細胞が固有のものとして示す増殖状態に基づくCDK活性レベルといえ、測定に供する試料の調製方法に依存しない。測定試料調製方法、特に生検材料から調製される細胞可溶化液は、実際に採取された組織中に含まれる非細胞性組織、例えば細胞外基質の多寡による影響をうけやすい。従って、CDK活性値と発現量との比を用いることにより、測定試料調製時に不可避の影響を控除することができ、タンパク質に着目した判定方法であっても、高精度に有効性を判定することができる。
【0048】
CDKインヒビター発現量とは、細胞可溶化液から測定される目的のCDKインヒビター量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物から目的のタンパク質量を測定する従来公知の方法で測定できる。例えば、ELISA法、ウェスタンブロット法などを使用してもよい。目的のタンパク質(CDKインヒビター)は、特異的抗体を用いて捕捉すればよい。目的のタンパク質と特異的に結合できるものであれば、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。例えば、p21を捕捉する場合、抗p21モノクローナル抗体、抗p21ポリクローナル抗体のいずれも用いることができる。
【実施例】
【0049】
はじめに、下記実施例で用いた測定方法について説明する。
〔測定方法〕
(1)CDK活性の測定
目的とする腫瘍細胞を含む組織から調製した検体(細胞可溶化液)から、1.5ml容量のエッペンドルフチューブに、500μlの溶解緩衝液中に溶解物の全タンパク質量が100μgとなる量を加えて試料を調製した。
活性測定しようとするCDKに特異的抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社のポリクローナル抗CDK1抗体又はポリクローナル抗CDK2抗体)2μg及び20μlのプロテインAをコートしたセファロースビーズ(バイオラッド社製)を、上記サンプルに加えて4℃で1時間反応させた後、ビーズを緩衝液(0.1%NP−40、50mMのトリス塩酸、pH7.0)で3回洗浄し、15μlのキナーゼ緩衝液中に再懸濁させて、目的のCDKが結合したビーズを含む試料を得た。
【0050】
この試料においては、CDK単体、サイクリン結合した活性型CDK、活性型CDKとCDKインヒビターの複合体、CDKとCDKインヒビターの複合体の全て(以下、これらを区別しないときは「CDK群」という)がCDK特異的抗体により捕捉され、ビーズに結合した状態となっている。このような試料中のCDK群の活性を、下記方法により測定した。
【0051】
CDK1及びCDK2に対応する基質であるヒストンH1(アップステイトバイオテクノロジー製)10μg、5mMのアデノシン5’−O−(8−チオ3リン酸)(ATP−γS、シグマ社製)、及び緩衝液(20mMトリス塩酸(pH7.4)、0.1%TritonX−100)を含む基質溶液を調製し、この基質溶液を上記CDK含有試料に加えて50μlとし、37℃で10分間振とうしてインキュベートした。下記式に示すように、基質のセリン又はスレオニン残基が、活性型CDKによりリン酸化され、モノチオリン酸化基質が得られる。
【0052】
【化1】

【0053】
反応後、2000rpmで20秒間遠心して、ビーズを沈殿させ、モノチオリン酸を溶解した上澄み液18μlを採取した。この上澄み液18μlに、150mMトリス塩酸、pH9.2、5mMのEDTAを含む結合緩衝液15μlを加えた。さらに、10mMのヨードアセチルビオチン溶液(100mMトリス塩酸(pH7.5)、1mM EDTA)中で暗所において90分間室温にてインキュベートすることにより、モノチオリン酸化基質のチオリン酸中の硫黄をビオチン化標識した。ヨードアセチルビオチンとチオリン酸との反応の停止は、6−メルカプトエタノールの添加により行った。
【0054】
ビオチン標識されたチオリン酸化基質0.4μgを、スロットブロッターを用いてPVDF膜上に添加し、吸引した。得られた膜を1%のウシ血清アルブミン(BSA)で30分間ブロックし、アビジン−FITC(ベクター製)を37℃で1時間反応させた。その後、膜を50mM TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mMのNaCl)で10分間3回洗浄した。洗浄後、膜上のイメージを蛍光イメージアナライザー(バイオラッド社製)により分析した。活性は、検量線に基づいて算出した。
【0055】
尚、検量線は、既存量のタンパク質(ビオチン標識免疫グロブリン)をPVDF膜上に吸着させ、上記と同様の方法でFITC標識し、タンパク質の蛍光強度を蛍光イメージアナライザー(バイオラッド社製)で測定することにより作成した。従って、測定されるCDK活性1Uは、前記タンパク質1ngのときの蛍光量と同等の蛍光強度を示す値をいう。
【0056】
(2)CDK発現量の測定
TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mMのNaCl)に浸漬して初期化したPVDFメンブレン(ミリポア社製)をセットしたスロットブロッターの各ウェル(2×2×3mm、許容量100μl)に、目的の腫瘍細胞を含む組織から調製した細胞可溶化液を50μlずつ注入した。各ウェルには、タンパク質が総量で5〜15μgずつ含まれている。
【0057】
注入後、ウェルの底面、すなわちメンブレンの裏面から負圧約150mmHgで約50秒間吸引し、膜に試料を吸着させた。
【0058】
次いで、試料に特異的に結合するウサギ抗CDK1抗体又はウサギ抗CDK2抗体(一次抗体)の溶液を、各ウェルに注入し、室温で約30分間静置した後、ウェル底面から負圧500mmHgで約50秒間吸引して、その後、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mMのNaCl)で洗浄した。
【0059】
次に、ビオチン化した抗ウサギ抗体(二次抗体)の溶液を各ウェルに注入し、室温で約30分間静置した後、ウェル底面から負圧500mmHgで約50秒間吸引して、その後、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mMのNaCl)で洗浄した。
【0060】
FITC標識ストレプトアビジン試薬を40μlずつ注入し、約30分間室温で静置して、二次抗体をFITCで標識した。ウェル底面から負圧500mmHgで約50秒間吸引して、その後、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mMのNaCl)で洗浄した。
【0061】
PVDFメンブレンをプレートから取外して蒸留水で洗浄し、20%メタノールに5分間浸漬した。次いで、約15分間室温で乾燥させた後、膜に吸着されたタンパク質の蛍光強度を、イメージアナライザ(バイオラッド社)によって分析、測定し、予め作成した検量線をもとに、FITC標識されたタンパク質(CDK1又はCDK2又はCDK4)を定量(CDK個数に対応する量を標準タンパク質の重量(ng)で換算)した。このようにして測定されるCDK量は、細胞中に存在しているCDK群(CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体など)の総量である。
【0062】
尚、検量線は、0.005%のNP−40及び50μg/mlのBSAを含むTBS中に、5種類の濃度の純品の組換えCDKタンパク質の溶液を、上記と同様に処理したウェルに50μlずつ注入し、上記と同様の方法でFITC標識し、蛍光強度を測定して、蛍光強度と量の関係を表すことにより標準曲線を作成した。
【0063】
(3)CDK比活性の算出
上記で測定したCDK活性及びCDK発現量の測定値から、下記式により、CDK比活性(mU/ng)を算出した。
CDK比活性=CDK活性値/CDK発現量
【0064】
(4)p21の発現量
CALBIOCHEMp21WAF1 ELISAキット(EMD Bioscience社)を用いて定量した。
WAF1スタンダード(20ユニット/mlのlyophilizeされたWAF1)を、検体である細胞可溶化液で段階的に希釈したwaf1試料液(WAF1スタンダードと検体の混合液)を調製する。なお、各試料液において、細胞可溶化液は4倍以上希釈されたものとなっている。
WAF1に特異的なウサギポリクローナル抗体(一次抗体)を固定した96穴プラスチックウエルに、上記WAF1試料液及びWAF1スタンダードのみをそれぞれ100μl/ウェルで加える。ウェルプレートをシールし、室温で2時間インキュベートして、一次抗体と反応させた。
洗浄用バッファー(20倍濃縮液25mlを、475mlの脱イオン水に加えて調製)、3回洗浄した後、検出用抗体(ビオチン化抗WAF1モノクローナル抗体)を100μl/ウェルを加え、ウェルプレートをシールして、室温で1時間、反応させた。
各ウェルを洗浄用バッファーで3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン希釈液100μl/ウェルを加え、緩やかに攪拌し、プレートをシールして、室温で30分間反応させた後、未反応のペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを除去した。
各ウェルを洗浄用バッファーで3回洗浄した後、各ウェルに、基質溶液(色素源基質)100μl加え、室温で30分間、暗所で反応させる。30分後、各ウェルに、停止液(2.5N硫酸)100μl加えて、反応を停止させ、各ウェルの吸光度を、プレートリーダーを用いて、450/540nmで計測した。
WAF1スタンダードよりなる検量線から、WAF1試料液中のp21WAF1濃度を計算した。
【0065】
〔実施例1:乳がん細胞のCDK1比活性に基づく予測判定と抗がん剤治療有効性との関係〕
(1)腫瘍細胞及び検体(細胞可溶化液)の調製
測定用腫瘍細胞として、25人の乳がん患者の手術のより摘出されたがん組織で、5〜6年保存されたものを使用した。尚、摘出手術前には、抗がん剤治療は行なわれていなかったものである。
これらの25人の患者は、表1に示すように、摘出手術後、CMF群の投与治療を受け、25人中、No.1〜16は再発せず、No.17〜25が再発した。
【0066】
【表1】

【0067】
上記乳がん細胞No.1〜25のそれぞれについて、0.1w/v%ノニデットP−40(NP−40)(カルビオケム社製)、50mMのトリス塩酸(pH7.4)、5mMのEDTA、50mMのフッ化ナトリウム、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム及び100μl/mlのプロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ社)を含む溶解緩衝液中で、電動ホモジナイザを用いて上記乳がん細胞をホモジナイズし、細胞溶解液を調製した。
不溶物を15000rpmで5分間、4℃で遠心除去し、検体となる上清(細胞可溶化液)を得た。
【0068】
(2)CDK1比活性と術後再発の有無との相関関係
(1)で調製した細胞可溶化液について、上記測定方法に従って、CDK1活性及びCDK発現量を測定し、比活性を求めた。
【0069】
各検体のCDK1比活性を、図2に示す。閾値(カットオフ値)として90を設定した場合、比活性が90以上の8例(No.1,6,9,11〜15)は、CMF治療が有効であると判定された。表1より、この8例の患者はいずれも再発が確認されなかった。以上より、CDK1比活性を測定し、所定の閾値と比較することによって、上記8例(No.1,6,9,11〜15)の患者はCMFによる治療が有効であると予測できることがわかった。
【0070】
〔実施例2:乳がん細胞のCDK2及びCDK4発現量に基づく予測判定と抗がん剤治療の有効性との関係〕
実施例1で比活性が90未満であった患者(患者No.2〜5,7,8,10及び16〜25)のがん細胞を用いて、CDK2及びCDK4の発現量(ng/μg lysate)を測定した。結果を図3に示す。
【0071】
CDK2の閾値を0.19、CDK4の閾値を3に設定した。CDK2の発現量が閾値以上且つCDK4の発現量が閾値以上の場合は、CMF治療が有効であると予測した。また、CDK2の発現量が閾値未満又はCDK4の発現量が閾値未満の場合は、CMF治療の有効性が低いと予測した。図3及び表1より、2例の例外を除いて、CDK2の発現量が閾値以上且つCDK4の発現量が閾値以上の場合、CMF治療後いずれも再発がなく、CMF治療が有効であったと確認された。また、2例の例外を除いて、CDK2の発現量が閾値未満又はCDK4の発現量が閾値未満の場合、CMF治療後いずれも再発が認められ、CMF治療の有効性が低かったことが確認された。以上より、CDK1の比活性に基づく予測によって有効性が判定されない場合であっても、CDK2及びCDK4の発現量に基づいて予測することによって、抗がん剤治療の有効性を高確率で判定できることがわかった。
【0072】
〔実施例3:マウス異種移植片におけるCDK2及びp21に基づく予測性判断と抗がん剤治療有効性との関係〕
(1)検体(細胞可溶化液)の調製
5種類のヒト由来乳がん培養細胞(細胞A〜E)を、マウスの背中の皮下に移植し、21〜28日間飼育して、乳がん細胞を生着させた。このようにして得られた、表2に示す乳がん細胞の担がんマウスNo.1〜50について、背中から2.5mm×2.5mmの組織片(約50mg)を切り取り、0.1w/v%ノニデットP−40(NP−40)(カルビオケム)、50mMのトリス塩酸(pH7.4)、5mMのEDTA、50mMのフッ化ナトリウム、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム及び100μl/mlのプロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ社)を含む溶解緩衝液中で、電動ホモジナイザを用いて、上記乳がん細胞をホモジナイズし、細胞溶解液を調製した。
不溶物を15000rpmで5分間、4℃で遠心除去し、検体となる上清(細胞可溶化液)を得た。
【0073】
(2)CDK2比活性の測定及び判定
(1)で調製した細胞可溶化液について、上記CDK活性の測定及びCDK発現量の測定方法に従って、CDK2活性及びCDK2発現量を測定し、CDK2比活性を求めた。
【0074】
(3)p21発現量の測定
(1)で調製した細胞可溶化液について、上記p21発現量の測定方法に従って、測定した。
【0075】
(4)担がんマウスの抗がん剤治療結果
担がんマウスNo.1〜50に、パクリタキセルを20mg/kg(マウス体重)/日で、1日1回、5日間、投与し、投与開始から11日目までの腫瘍サイズを測定した。腫瘍サイズの変化に応じて、No.1〜50のマウスを、タイプI、タイプII及びタイプIIIのいずれかに分類した。
タイプIのマウスは、抗がん剤に対する感受性が高いと確認されたマウスであり、このタイプのマウスへパクリタキセルを投与することにより、腫瘍はほぼ消失する。タイプIIのマウスは、抗がん剤に対する感受性は中程度であると確認されたマウスであり、このタイプのマウスへパクリタキセルを投与することにより腫瘍サイズの増大が抑制される。タイプIIIのマウスは、抗がん剤の感受性が低いと確認されたマウスであり、このタイプのマウスへパクリタキセルを投与しても腫瘍サイズは増大し続ける。
【0076】
(5)抗がん剤治療判定及び正誤率
(2)で測定されたCDK2比活性について、カットオフ値400に設定して、「High」(400以上)及び「Low」(400未満)のいずれであるかを判定した。また、(3)で測定されたp21発現量について、カットオフ値8に設定して、「High](8以上)及び「Low」(8未満)のいずれであるかを判定した。
さらに、CDK2比活性及びp21発現量に基づいて、図4に示すフローチャートに従って、それぞれのマウスが、薬剤感受性が高いタイプI、薬剤感受性が中程度のタイプII、及び薬剤感受性が低いタイプIIIのいずれに該当するかを予測判定した。それぞれの測定値とともに予測判定結果を、表2に示す。
【0077】
尚、閾値としては、50例のパラメータ測定値から抗がん剤治療有効性との関係で正答率が最も高くなるカットオフ値を設定した。
【0078】
【表2】

【0079】
表2では、(5)においてCDK2及びCDKインヒビターを用いた有効性の予測結果(表2中、「予測判定」)と、(4)において実際に抗がん剤を投与した結果(表2中、「抗がん剤治療結果」)とが同じ場合は「正」と示し、異なっている場合は「誤」と示した。
【0080】
表2に示すように、CDK2比活性が閾値(400)以上(「High」と判定される)マウスは全てタイプIに分類され、閾値未満(「Low」と判定される)マウスは、いずれもタイプII又はタイプIIIに分類された。従って、CDK2の比活性と閾値とを比較することにより、抗がん剤治療が有効であることを100%の確率で予測することができた。
【0081】
また、p21発現量が閾値(8)未満(「Low」と判定される)マウスは、No.8のマウス(タイプIIIに分類されている)以外、タイプI又はタイプIIに分類された。p21発現量が閾値以上のマウスは、No.37,38,41,42,47,48以外、タイプIIIに分類された。従って、p21発現量と閾値とを比較することにより、抗がん剤治療によって腫瘍が消滅あるいは縮小することを高確率で予測することができた。
【0082】
また、図4のフローチャートに従って抗がん剤治療の有効性を予測した結果は、(4)による実際の抗がん剤治療の結果と、高確率で整合していた。即ち、表2及び表3に示すように、50例中、間違ったのは7例(正答率86%)であったが、特に抗がん剤治療が有効であると判定されるタイプI及びIIについては、36例中、間違ったのは1例だけで、正答率97%であった。
【0083】
【表3】

【0084】
以上のように、CDK2とCDKインヒビターの2種類を用いて、閾値と比較することによって、抗がん剤治療の有効性を、高確率で予測することができた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の抗がん剤治療の有効性予測方法は、個々の患者について、抗がん剤治療が有効である場合に有効であると判定するもので、有効であると判定された場合には、高確率で有効な治療が期待できるので、抗がん剤治療を行なうか否かの、有用な判断指標として、医療現場で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】細胞周期を説明するための図である。
【図2】乳がん細胞No.1〜25のCDK1比活性の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1で有効と判定されなかった乳がん細胞のCDK2及びCDK4発現量の測定結果を示す散布図である。
【図4】実施例3で採用した有効性予測のフローチャートを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から採取した腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、選択されたパラメータに対応する閾値とを比較する工程;及び
前記比較工程の結果に基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程;
を含む抗がん剤治療の有効性予測方法。
【請求項2】
前記比較工程は、複数のサイクリン依存性キナーゼについて、各キナーゼのパラメータを、それぞれ選択されたパラメータに対応する閾値と比較することにより行ない、
前記予測工程は、各キナーゼの比較結果の組み合わせにより、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する、
請求項1に記載の有効性予測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の予測工程において、前記抗がん剤治療の有効性が疑われると判定された腫瘍細胞について、
前記サイクリン依存性キナーゼ(第一CDK)とは異なる第二サイクリン依存性キナーゼの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つの第2パラメータと、該第2パラメータに対応する閾値とを比較することにより、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む抗がん剤治療の有効性予測方法。
【請求項4】
請求項1に記載の予測工程において、前記抗がん剤治療の有効性が疑われると判定された腫瘍細胞について、
前記サイクリン依存性キナーゼ(第一CDK)とは異なる複数のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)それぞれについて、各CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、該パラメータに対応する閾値とを比較し、各キナーゼの比較結果の組み合わせに基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する工程を含む抗がん剤治療の有効性予測方法。
【請求項5】
さらに、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)の発現量を、対応する閾値と比較し、
前記予測工程は、前記CDKの比較結果と、前記CDKインヒビターの比較結果との組み合わせに基づいて、前記患者の抗がん剤治療の有効性を予測する、
請求項1に記載の有効性予測方法。
【請求項6】
前記サイクリン依存性キナーゼが、CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6からなる群より選択される請求項1〜6のいずれかに記載の有効性予測方法。
【請求項7】
前記CDKインヒビターは、p21である請求項5に記載の有効性予測方法。
【請求項8】
前記閾値は、所定のがんに対して所定の抗がん剤が投与された抗がん剤治療結果と相関のあるパラメータについて、抗がん剤治療結果に基づいて設定される請求項1〜7のいずれかに記載の有効性予測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−6882(P2007−6882A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4337(P2006−4337)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】