説明

抗アレルゲン性組成物および抗アレルゲン性製品

【課題】無機粉末を含む抗アレルゲン剤を繊維やフィルム等の材料に加工するためには、流動性のある組成物とすることが好ましいが、流動体中では無機粉末の分散安定性が十分でないと凝集や沈降などの問題が起きて加工された製品の抗アレルゲン性能が十分に発揮されない問題があった。
【解決手段】pKaで4.0以下である無機固体酸と、分散剤を含む流動性のある抗アレルゲン性組成物は取り扱い易く、安定性に優れており、上記の抗アレルゲン性組成物で加工した繊維、不織布、フィルター、フィルム、紙、綿および塗料などの抗アレルゲン加工製品は優れた抗アレルゲン性能を発現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維、不織布、フィルター、フィルム、紙、綿、塗料、糊などに抗アレルゲン機能を付与するための加工が容易となる流動性を有し、なおかつ安定性が高い抗アレルゲン性組成物およびそれを用いた抗アレルゲン性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スギ花粉等による花粉症や、ダニ等が原因のハウスダストによる気管支喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患に悩む人が増加し深刻な問題となっており、アレルギー症状を誘発する原因物質であるアレルゲンを生活空間において抑制する抗アレルゲン剤が非常に注目されている。従来の抗アレルゲン剤としてはカテキンやタンニン酸などのポリフェノール、ジルコニウム系、ゼオライト系などの無機物など様々なものが知られている。
【0003】
これらの抗アレルゲン剤を実際の生活空間で利用するためには剤そのものだけでは効果を発揮させにくいので、繊維、不織布、フィルター、フィルム、紙、綿、塗料、糊などの何らかの材料に付着、含浸などの方法で加工したうえで、衣服、カバー、エアフィルター、被膜などとすることが一般的である。上記の抗アレルゲン剤のうち、ポリフェノールは水溶性であるため洗濯や雨水などによって流出してしまう問題があったため、特許文献1にはポリフェノールを変性してバインダー樹脂と共に材料に固着する方法が開示されている。しかし、ポリフェノールは濃い色があるため美観を損ねる問題は未解決であり、衣料やマスク、カーシート、カーペット等の視線に触れる用途では好ましく使用することができなかった。
【0004】
一方、無機物の抗アレルゲン剤の多くはポリフェノールのような濃い着色の問題がないが、繊維やフィルム等の材料に無機物粉末を散布するだけではすぐにこぼれ落ちてしまうので、エマルションバインダーや樹脂などの何らかの媒体に分散させたうえで材料と接触させ、加工することが一般的である。しかし、通常無機物粉末を流動体に分散させようとすると、粉末が凝集あるいは沈降してしまうという問題が起きて分散が不十分となり、抗アレルゲン剤加工製品の加工不良が起こったり、抗アレルゲン性能が十分に発揮されなかったりすることがあった。
【0005】
無機粉末の抗アレルゲン剤の分散性向上については特許文献2に、平均粒子径1〜300nmの水不溶性粒子であるアレルゲン低減化剤を繊維処理剤として用いるための液状組成物において、ポリエチレングリコール、アルコールエトキシレート、カチオン界面活性剤等を共存させることによって分散安定性が向上できることが開示されている。しかし、特許文献2で開示された無機粉末は具体的にはコロイダルシリカや酸化アルミニウムゾルなどのヒドロゾルと呼ばれる超微粒子分散系であり、本来固体粒子同士の表面電荷の反発によって分散系が安定化するものであるので、平均粒径が300nmを超える系には応用が難しかった。また、本願発明の開示する無機固体酸粉末は、表面の酸点が抗アレルゲン機能を発揮するものであるが、カチオン界面活性剤は酸点と強固に結合するので、特許文献2の開示する発明を応用した場合は分散性向上の効果は期待できるものの、無機固体酸の酸点に基づく抗アレルゲン効果は損ねる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−50743号公報
【特許文献2】WO2005/014770号国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無機粉末を含む抗アレルゲン剤を繊維やフィルム等の材料に加工するためには、流動性のある組成物とすることが好ましいが、流動体中では無機粉末の分散安定性が十分でないと凝集や沈降などの問題が起きて加工された製品の抗アレルゲン性能が十分に発揮されない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の<1>、<7>、<8>に記載の手段により、上記課題を解決することを見いだした。好ましい実施態様である<2>〜<6>とともに以下に記載する。
<1>酸強度がpKaで4.0以下である無機固体酸と、分散剤を含有する、抗アレルゲン性組成物。
<2> 前記無機固体酸が、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、リン酸スズ、リン酸セリウム、リン酸チタニウム、H置換Y型ゼオライト、H置換ZSM−5型ゼオライト、アンチモン酸、SiO2−Al23複合酸化物、SiO2−TiO2複合酸化物、SiO2−ZrO複合酸化物、SiO2−Ga23複合酸化物、TiO2−Al23複合酸化物、TiO2−ZrO複合酸化物、TiO2−SnO複合酸化物、TiO2−ZnO複合酸化物およびケイ酸マグネシウムよりなる群から選択された少なくとも1つである、<1>1に記載の抗アレルゲン性組成物
<3> さらに、ポリフェノール化合物を含有する、<1>または<2>に記載の抗アレルゲン性組成物。
<4> 無機固体酸とポリフェノール化合物と分散剤の合計量を基準として、無機固体酸を5〜60重量%、分散剤を0.1〜15重量%含有する、<1>〜<3>のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物。
<5> 酸性官能基を有する共重合体である分散剤を含む<1>〜<4>のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物。
<6> 前記ポリフェノール化合物がタンニン酸である、<1>〜<5>のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物。
<7> <1>〜<6>のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物を用いた抗アレルゲン製品の加工方法。
<8> <7>に記載の抗アレルゲン製品の加工方法によって加工された抗アレルゲン製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗アレルゲン性組成物は、抗アレルゲン剤粒子の分散性が良好であるために材料への加工性に優れたものであり、均一な加工が可能である。それを用いて加工した製品は優れたアレルゲン不活性を発現することができる。また、本発明の抗アレルゲン性組成物は長期保存しても沈降が少なく安定であり、経済的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明について説明する。
本発明において、アレルゲンとしては、人および動物がアレルゲンと皮膚接触あるいは粘膜接触することでアレルギー性が惹起されるものであればなんら限定されないが、具体的には、イヌやネコや鳥などの体毛や上皮由来のアレルゲン、スギ、ヒノキ、ヨモギ、ケヤキ、オオアワガエリ、ハルガヤ、ブタクサ等の花粉、天然ゴムラテックス等の植物由来のアレルゲン、カビ由来のアレルゲン、ダニ、ゴキブリ本体もしくは排泄物などの動植物蛋白質を例示することができる。好ましくは、一般に家屋内でハウスダストとして接触する事が多い屋内塵性ダニ類由来のアレルゲンや花粉症の原因物質となる花粉アレルゲンである。
【0011】
本発明に用いる無機固体酸とは、無機物質であってその表面にH+を放出し酸性を示す部分(酸点もしくは活性点)を持つ固体である。無機固体酸の具体例には、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、リン酸スズ、リン酸セリウム、リン酸チタニウム、H置換Y型ゼオライト、H置換ZSM−5型ゼオライト、アンチモン酸、SiO2−Al23複合酸化物(通称シリカーアルミナ)、SiO2−TiO2複合酸化物(通称シリカーチタニア)、SiO2−ZrO複合酸化物、SiO2−Ga23複合酸化物、TiO2−Al23複合酸化物、TiO2−ZrO複合酸化物、TiO2−SnO複合酸化物、TiO2−ZnO複合酸化物およびケイ酸マグネシウム、特殊な無機イオン交換体などが挙げられる。なかでも耐熱性に優れる無機物質からなり、高い固体酸性を有することから、リン酸ジルコニウム、H置換ZSM−5型ゼオライト、H置換Y型ゼオライト、SiO2-Al23複合酸化物(通称シリカーアルミナ)が好ましい固体酸である。このうちさらに好ましいものは酸強度が大きいリン酸ジルコニウムであり、その中でも結晶系が層状構造を持つ層状リン酸ジルコニウムは特に酸強度が大きいので最も好ましいものである。
【0012】
本発明に用いる無機固体酸の形状には、粉末状、塊状、板状および繊維状などが挙げられるが、様々な材質や形態への加工に適用させるために粉末状が好ましい。粉末状である場合の好ましい平均粒径は0.01〜50μmであり、より好ましくは0.02〜20μmである。平均粒径が0.01μm以上の粉体は再凝集し難いため取り扱い易いという長所があり、また、抗アレルゲン性組成物として繊維等に後加工する場合、平均粒径が50μm以下の粒子は、分散性がよくて繊維の風合いを損ねないことや、繊維に練りこんだ場合に糸切れを起こし難いことなどの長所があり好ましい。
【0013】
本発明で用いる無機固体酸の色調に限定はないが、様々な材質や形態への加工に適用させるために白色または明度の高い淡色が好ましい。好ましい明度は黒色を0%、白色を100%とした時に60%以上のものである。
【0014】
本発明における無機固体酸の酸強度とは、無機固体酸表面の酸点が塩基にプロトンを与える能力あるいは塩基から電子対を受け取る能力である。酸強度の測定は酸塩基指示薬を用いる方法で実施できる。塩基として適当な酸塩基指示薬を選べば、その指示薬の塩基型をその共役酸型に変える能力として酸強度を測定することが可能となる。
【0015】
酸強度の測定に用いることができる酸塩基指示薬および変色pKa値の例としては、ニュートラルレッド(+6.8)、メチルレッド(+4.8)、4−フェニルアゾ−1−ナフチルアミン(+4.0)、ジメチルイエロー(+3.3)、2−アミノ−5−アゾトルエン(+2.0)、4−フェニルアゾ−ジフェニルアミン(+1.5)、4−ジメチルアミノアゾ−1−ナフタレン(+1.2)、クリスタルバイオレット(+0.8)、p−ニトロベンゼンアゾ−p’−ニトロ−ジフェニルアミン(+0.43)、ジシンナミルアセトン(−3.0)、ベンザルアセトフェノン(−5.6)、アントラキノン(−8.2)等がある。これら酸強度(pKa)の知られた種々の酸塩基指示薬を使うことにより酸強度を測定することができる。pKa値の小さい指示薬を変色するものほどその酸強度は大きい。
【0016】
上記酸塩基指示薬を用いた無機固体酸の酸強度の測定方法は以下のとおりである。
試験管に固体酸を0.1g採取し、ベンゼン2mLを加え軽く振り混ぜる。そこへ、指示薬の0.1%ベンゼン溶液(クリスタルバイオレットは0.1%エタノール溶液)を2滴添加し軽く振り混ぜ、色の変化を観察する。
酸塩基指示薬を含有する上記ベンゼン溶液は、酸塩基指示薬の前記変色pKa値より酸性側では酸性色に呈色し、酸塩基指示薬の前記変色pKa値より塩基性側では塩基性色に呈色し、酸塩基指示薬の前記変色pKa値およびその近傍(「変色域」ともいう。)では酸性色および塩基性色の混ざり合った色に呈色する。
変色域の確認された酸塩基指示薬があった場合は、当該酸塩基指示薬の変色pKa値を無機固体酸の酸強度として表記する。また、変色域の確認された酸塩基指示薬がなかった場合は、無機固体酸の酸強度(pKa値)は、酸性色が確認された最も小さい酸強度の酸塩基指示薬の酸強度(酸性色の確認された最も小さい変色pKa値を有する酸塩基指示薬の変色pKa値)より小さく、また、塩基性色が確認された最も大きい酸強度の酸塩基指示薬の酸強度(塩基性色の確認された最も大きい変色pKa値を有する酸塩基指示薬の変色pKa値)より大きいとして表記する。
【0017】
また、下限を示す適当な酸塩基指示薬がない場合、無機固体酸のpKa値は(酸性色の確認された最も小さい変色pKa値を有する酸塩基指示薬のpKa値)より小さい、および上限を示す適当な指示薬がない場合、無機固体酸のpKa値は(塩基性色の確認された最も大きい変色pKa値を有する酸塩基指示薬のpKa値)より大きいとして表記されるのが一般的である。
【0018】
本発明で用いる無機固体酸の酸強度は、pKa値が低いほど抗アレルゲン効果が高いため好ましい。具体的には、pKaが4.0以下であることが必須であり、より好ましくはpKaが3.3以下、さらに好ましくはpKaが1.5以下である。このなかでもpKaが1.5以下の固体酸の抗アレルゲン効果は特に優れており、様々なアレルゲン物質に対して高い効果を示す。また、pKaが4.0以下の無機固体酸と、ポリフェノール化合物を併用したものは抗アレルゲン効果に優れるので好ましい。
【0019】
また、ポリフェノール化合物と併用する場合、無機固体酸が含有する水分によりポリフェノール化合物が水和膨潤して、アレルゲンとなるタンパク質と作用しやすくなると考えられ。従来のポリフェノール化合物単独の抗アレルゲン剤においては、無水の状態ではアレルゲン不活化性能が弱く、一方で過剰な水分を添加すればポリフェノール化合物を洗い流してしまうために耐水性に問題があった。吸湿性をもつ無機固体酸を使用すると、水分と共にポリフェノール化合物を保持するため、アレルゲン不活化性能が発揮されるうえ、過剰な水にさらされてもアレルゲン不活化性能が低下しないと考えられる。吸湿剤を併用することにより、低湿度から多量の水との接触までの広い条件範囲でより高い抗アレルゲン効果を発現することができる。具体的には、空気清浄フィルターや各種カバー布、カーペット、服地、カーテン地など、比較的低湿度で使用される繊維製品に用いる場合には特に好ましいものである。
【0020】
本発明の抗アレルゲン性組成物は、無機固体酸と分散剤を必須成分としてポリフェノール化合物を含有してもよいものである。本発明におけるポリフェノール化合物とは分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)をもつ有機化合物である。このうち、工業的に安価に入手できるのはエピカテキン、ガロタンニン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等の混合物からなるカテキンと総称される低分子量ポリフェノールと高分子量のタンニン酸であり、ともに好ましく用いられる。本発明でさらに好ましいのは無機固体酸と併用したときの相乗効果が大きいタンニン酸である。
【0021】
本発明の抗アレルゲン性組成物は、無機固体酸と分散剤を必須成分としており、ポリフェノール化合物を併用しない場合には耐熱性と耐変色性が高いことに特徴がある。そして、ポリフェノールを併用した場合には、アレルゲン不活化性能が相乗的に高くなるので、添加量が少なくて済み、応用製品の風合いが優れるうえ、ポリフェノール化合物単独で用いる場合に比べると耐熱変色性が優れており、熱によるアレルゲン不活化性能の低下も少ない。
【0022】
また、ポリフェノールを併用する場合には含有する無機固体酸とポリフェノール化合物の重量比率は無機固体酸の割合が一定以上であると(ポリフェノール化合物の割合が一定以下であると)と相乗効果が高く、アレルゲン不活性化能が高く、さらに、ポリフェノール化合物由来の着色が少ないので好ましい。また、無機固体酸の割合が一定以下であると、ポリフェノール化合物とのアレルゲン不活性化能の高い相乗効果が得られるので好ましい。よって本発明の抗アレルゲン剤の無機固体酸/ポリフェノール化合物の重量比率は5/95〜90/10が好ましく、より好ましくは20/80〜80/20であり、さらに好ましくは60/40〜80/20である。
【0023】
また、本発明における無機固体酸とポリフェノール化合物は、単に併用するだけでも相乗効果を発揮するが、無機固体酸の表面付近にポリフェノール化合物が存在している状態がより好ましい。無機固体酸の表面付近にポリフェノール化合物を存在させる工程を複合化と呼ぶ。無機固体酸とポリフェノール化合物の複合化方法としては、ポリフェノール水溶液を調製して無機固体酸に塗布、スプレー、浸漬などを用いる方法や、乳鉢やボールミル、リボンミキサー等の複合装置を用いて複合化する方法、ポリフェノール化合物の前駆体を無機固体酸の表面に付着させてからポリフェノールに変える方法などがある。
【0024】
本発明における、上記方法により複合化された無機固体酸とポリフェノール化合物は、粉末状、塊状、板状および繊維状などが挙げられるが、様々な材質や形態への加工に適用させるために粉末状が好ましい。粉末状である場合の好ましい平均粒径は0.01〜50μmであり、より好ましくは0.02〜20μmである。平均粒径が0.01μm以上の粉体は再凝集し難いため取り扱い易いという長所があり、また、バインダー等の表面処理剤に分散させてコーティング組成物として用いる場合、平均粒径が50μm以下の粒子は、分散性がよくてコーティングされた製品の風合いを損ねないことや、繊維に練りこんだ場合には糸切れを起こし難いことなどの長所があり好ましい。なお、平均粒径は一般的なレーザー粒度分布計で測定された値を用いることができる。
【0025】
本発明で用いることのできる無機固体酸とポリフェノール化合物との複合体の色調に限定はないが、様々な材質や形態への加工に適用させるために白色または黄色度の低い淡色が好ましい。好ましい黄色度はJIS−K7103−1977規格で示されるYI値が50以下であり、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下である。
【0026】
本発明で用いる無機固体酸は耐水性があり、それを用いた抗アレルゲン製品にも雨水や水洗、洗濯等による水での流出に対し耐水性を示し、抗アレルゲン効果を持続して発揮することができる。
【0027】
本発明における分散剤は、本発明で用いる無機固体酸および/または無機固体酸とポリフェノール化合物との複合体を分散媒に分散できるものであれば限定するものではないが、好ましくは酸性官能基を有する共重合体であり、当該基本骨格は、エステル連鎖、ビニル連鎖、アクリル連鎖、エーテル連鎖および/またはウレタン連鎖などで構成されているものが例示でき、これら分子中の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい。これらの中でもアクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびアルキド樹脂が好ましく、特にアクリル樹脂とポリエステル樹脂が好適である。当該酸性官能基としては、カルボキシル基、スルホン基およびリン酸基などが例示され、なかでもリン酸基が好ましい。酸性官能基を有する分散剤の酸価は、5〜150mgKOH/gであることが好ましく、30〜130mg/KOHが特に好ましい。また酸価が150mgKOH/gを超えると抗アレルゲン性組成物粒子の表面に吸着した分散剤の立体的反発層の比率が少なくなり、十分な抗アレルゲン性組成物粒子の分散安定性が得られないことがある。当該酸性官能基は、樹脂の分子中に全くランダムに配置されていてもよいが、ブロックまたはグラフト構造により、酸性官能基が分子中の末端部分に配置されているものが抗アレルゲン性組成物粒子が吸着したときに溶媒和による抗アレルゲン性組成物粒子の分散安定化構造をとり易いため好ましい。当該カウンターカチオンとしては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩およびアミン塩などが例示でき、特にアルキルアンモニウム塩が好適である。また、非イオン性の分散剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルのような非イオン性界面活性剤などを例示できる。また、これらを複数使用してもよい。
【0028】
本発明における分散剤は、界面活性効果を有していても良い。界面活性剤の種類としては、特に制限はなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤といった公知の界面活性剤を使用することができ、好ましくはアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤である。具体的には、p−ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシリン酸二ナトリウム等のアニオン界面活性剤や、ステアリン酸ポリエチレングリコール、ペンタエリスリットステアリン酸モノエステル等のノニオン界面活性剤や、ラウリルジメチルペタイン等の両性界面活性剤が挙げられ、これらの一種を単独で、または、二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明における分散剤の好ましい重量平均分子量は、800〜100,000の範囲で、より好ましくは800〜10,000である。分子量が800未満では分散効果が低下する場合があり、また100,000を上回ると凝集作用や粘度上昇が起こる恐れがあるため好ましくない。
【0030】
本発明における分散剤の好ましい添加量は、無機固体酸100部に対して、0.1〜15部であり、更に好ましくは、0.5〜12部であり、特に好ましくは2〜10部である。添加量が0.1部より少ないと、抗アレルゲン性組成物の表面を分散剤が十分に被わないため分散が十分でなく再凝集しやすく、また、15部より多いと抗アレルゲン性組成物の表面に吸着できる分以上の分散剤が添加されることになるため、過剰な分散剤の影響で分散性が低下したり、抗アレルゲン効果が低下することがあるので好ましくない。
【0031】
本発明における分散剤の具体例として、BYK−Chemie社製のDisperb
yk−110、Disperbyk−170、Disperbyk−180およびDis
perbyk−190など、SERVODELDENBV製のSER−ADFA192お
よびSER−ADFA196など、ゼネカカラーズ製のソルスパース3000,9000
,13240,13940,17000,17240,17940,21000,240
00,26000および27000など、共栄社化学株式会社製のフローレンG−700
、味の素株式会社製のアジスパーPA111などを挙げることができる。これらは塗料イ
ンキ用の顔料分散剤として用いられているが、抗アレルゲン性組成物の分散剤としても使用できると考えられる。
【0032】
本発明の抗アレルゲン性組成物は、無機固体酸および分散剤に分散媒を加えて製造することができる。本発明における分散媒は水溶性または親水性を有する溶媒であればとく制限なく用いることができるが、水や、アルコール類、ジメチルホルムアミド、アセトン、グリオキサール系樹脂、エポキシ系樹脂等の公知の有機溶媒が挙げられ、これらの一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。この中でも、肌への刺激が小さく生体への影響が小さいことから、溶媒として、水性溶媒を用いることが好ましく、特に、水および/または炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールを用いることが好ましい。かかる炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、これらは一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の抗アレルゲン性組成物は、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、必要に応じて添加剤を適宜添加することができる。本発明の抗アレルゲン性組成物の使用形態は特に制限がなく、用途に応じて適宜他の成分と混合したり、他の材料と複合したりして分散剤とすることができる。例えば、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、造粘剤、吸湿剤、難燃剤、酸化防止剤、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、防炎剤、防食、肥料および建材等の各種の添加剤あるいは材料と併用することもできる。本発明の抗アレルゲン性組成物がポリフェノールを含むとき、酸化防止剤は特に変色防止に有効である。好ましい酸化防止剤は
ヒンダートアミン系、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキノン、メトキノン、ビタミンCなど公知のものを何でも用いることができるが、好ましいのは二酸化硫黄(SO2)、ピロ亜硫酸カリウムなどの亜硫酸誘導体である。
【0034】
本発明の抗アレルゲン性組成物と、水不溶性の4価金属リン酸塩に銀、銅、亜鉛、マンガン等から選ばれる1種以上の金属を担持した粒子を併用することができ、水不溶性または水溶性の卵殻膜を併用することもできる。
【0035】
本発明の抗アレルゲン性組成物の製造は、通常の無機粉末の分散液を作製する方法のいずれも用いることができる。例えば、水などの分散媒に高分子系分散剤および必要に応じて界面活性剤、消泡剤、防腐剤、粘度調整剤などを添加し、更に抗アレルゲン性組成物を添加し、サンドミル、ディスパー、ボールミルなどにより攪拌し分散させればよい。消泡剤は破泡性、抑泡性、脱泡性のものがあるがいずれのものを用いてもよい。破泡性の例としてはポリシロキサン溶液をあげることができる。粘度調整剤はいずれのものも用いることができ、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系増粘剤、アラビアガム、トランガンガム、グアーガムなどの天然多糖類、各種ポリアクリルアミド系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコールなどがある。本発明では無機固体酸および/または無機固体酸とポリフェノールの複合体に、他の添加剤を同時に溶媒成分に分散、希釈させてもよいし、いずれか一方を先に分散、希釈させ、その後他方を分散希釈させるようにしてもよい。
【0036】
本発明の抗アレルゲン性組成物中の固形分中の無機固体酸の配合割合は少ない程、抗アレルゲン性組成物や、それを希釈した液の粘度が低いため取り扱い易くなり、一方高い方が抗アレルゲン性組成物の安定性は高くなる。固形分中の好ましい無機固体酸の割合は5〜60重量%である。本発明の抗アレルゲン性組成物自体は必ずしも液状でなくてもよく、分散剤と無機固体酸との組み合わせや組成比、環境等によって液状、半固体状、固体状などの形態をとり得る。
【0037】
本発明の抗アレルゲン性組成物にアクリル酸系やウレタン系などの繊維、不織布、シートなどの表面処理に通常使用されているバインダー樹脂を混合することも可能である。このとき、バインダー樹脂と抗アレルゲン性組成物を含んだ混合物の固形分中の無機固体酸の配合割合は0.5〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜30重量%である。また、抗アレルゲン性組成物とバインダー樹脂との混合比は、抗アレルゲン性組成物100部に対し、バインダー樹脂固形分10〜300部が好ましい。バインダー樹脂固形分が300部を超えると、繊維、不織布、シートなどに加工した際に、抗アレルゲン性組成物が樹脂で覆われアレルゲン不活性化性能が十分発現しないため好ましくない。また、通常、抗アレルゲン効果は、物品の表面で抗アレルゲン成分とアレルゲンとが接触することによって発現するので、前記のコーティング組成物で物品の表面に抗アレルゲン成分濃度が高くなるように固定することは、より少ない量の抗アレルゲン性組成物で大きな効果を得ることができるので好ましい。
【0038】
本発明の抗アレルゲン性組成物に用いるバインダーとしては、特に限定されないが、以下のものが例示できる。すなわち、天然樹脂、天然樹脂誘導体、フェノール樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、クマロン・インデン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルプラチラール、塩素化ポリプロピレン、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンおよびセルロース誘導体等である。このうち、特に好ましいものとしては、アクリル系の一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することであり、コーティング組成物として特に繊維加工に使用したときに、繊維の風合いを損ねずに抗アレルゲン性組成物を強固に固着させることができ、洗濯や摩耗に対する耐久性を向上させることができるため好ましい。
【0039】
ここで、本発明の抗アレルゲン性組成物を用いた加工処理の対象となる物品としては特に制限はなく、人が接触する可能性のあるもの、たとえば樹脂、紙、プラスチック、ゴム、ガラス、金属、コンクリート、木材、塗料、繊維、革、石など何でもよく、加工することによって生活空間におけるアレルゲンを不活化させることが可能である。これらの中で、繊維に加工する場合、対象となる繊維に制限はないが、綿、羊毛、絹、麻等の天然繊維や、ナイロン、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート等の合成繊維、あるいはこれらから選択される複数種からなる混紡繊維や複合繊維等からなる繊維布帛のほか、合成皮革等が挙げられる。このような繊維の形態は特に限定されず、織物、編物、不織布等が挙げられる。また、精練、染色、抗菌加工、SR加工、防炎加工、帯電防止加工等の各処理、加工が施されたものであってもよい。また、衣類、肌着等の縫製品や手袋、靴下、寝具(シーツ、カバー、布団側等)の製品に加工したものであってもよいし、加工する前のものであってもよい。
【0040】
本発明の抗アレルゲン性組成物を用いた繊維等の物品の処理方法としては、任意の処理方法でよいが、例えば、浸漬法、スプレー法、パディング法等を使用できる。浸漬法の例としては、室温静置法、加熱撹拌法等が挙げられる。パディング法としては、パッドドライ法、パッドスチーム法等があり、いずれの方法を使用してもよい。
このようにして処理された繊維は、乾燥工程にかけることにより、水分が好適に除去され、抗アレルゲン性組成物が繊維に付着されることとなる。乾燥温度は、特に制限はないが、例えば、50〜150℃程度とすればよく、80〜120℃程度とすることが好ましい。好ましくは5分〜2時間乾燥することによって抗アレルゲン性組成物を繊維等の物品に定着させることができる
【0041】
本発明の抗アレルゲン性組成物を繊維等の物品を加工する方法における、抗アレルゲン性組成物の添着量は、物品の表面積1m2に対して0.1g以上あると明らかな効果を発現し易いので好ましく、経済的理由や添加する物品や繊維製品等の物性や風合いや色合いなどを損なわない点で20g以下が好ましい。より好ましくは0.5g〜10g、さらに好ましくは1g〜5gである。
【0042】
本発明の抗アレルゲン性組成物を用いた樹脂組成物は、本発明の抗アレルゲン性組成物を樹脂と配合することにより得ることができる。樹脂組成物に用いることができる樹脂の種類に特に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂、半合成樹脂のいずれであってもよく、また熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的な樹脂としては成形用樹脂、繊維用樹脂、ゴム状樹脂のいずれであってもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネート、PBT、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、メラミン、ユリア樹脂、四フッ化エチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、レーヨン、アセテート、アクリル、ポリビニルアルコール、キュプラ、トリアセテート、ビニリデンなどの成形用または繊維用樹脂、天然ゴム、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム、ブタジエンゴム、合成天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどのゴム状樹脂がある。また、樹脂成分に加えて、各種添加剤を含有させることもできる。添加剤として用いることができるものは酸化亜鉛や酸化チタンなどの顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸などの滑剤、防湿剤および増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、抗菌剤、木粉、防黴剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤などがある。
【0043】
上記の樹脂組成物の成形加工には、各種樹脂の特性に合わせてあらゆる公知の成形加工技術と機械装置が使用可能であり、適当な温度または圧力で加熱および加圧または減圧しながら混合、混入または混練りの方法によって容易に調製することができ、それらの具体的操作は常法により行えばよく、塊状、スポンジ状、フィルム状、シート状、糸状またはパイプ状或いはこれらの複合体など、種々の形態に成形加工できる。
【0044】
本発明における抗アレルゲン効果は抗原の検出・定量法として広く用いられているELISA法のサンドイッチ法により評価し、式1に示すアレルゲン不活性化率として表示した。初期アレルゲン量とはELISA評価に用いたアレルゲン量を示し、残存アレルゲン量とは試料との接触後のアレルゲン量を示す。また、本発明におけるアレルゲン不活性化とは、アレルゲンの特異抗体との反応を抑えることであり、アレルゲン不活性化率が高いほど好ましい。具体的には、アレルゲン不活性化率50%以上が好ましく、より好ましくはアレルゲン不活性化率90%以上、さらに好ましくはアレルゲン不活性化率99%以上である。
アレルゲン不活化率
=(1−残存アレルゲン量/初期アレルゲン量)×100(%) <式1>
試験の対象が抗アレルゲン性組成物を含むコーティング剤や抗アレルゲン性組成物を練りこんだ樹脂や抗アレルゲン性組成物を付着させた繊維等の抗アレルゲン性組成物以外のものを含む物品である場合、これらの物品の構成から抗アレルゲン性組成物を除いたもので空試験を行い、空試験のアレルゲン不活化率を0とするように、他の測定結果を規格化することがある。この場合も測定結果を規格化したことをことわれば、規格化後の数値をアレルゲン不活化率として使用してよい。
【0045】
本発明の抗アレルゲン性組成物は抗アレルゲン性の付与が求められる様々な製品に利用可能である。例えば、繊維、不織布、シートなどのように、組成物を水などで希釈した加工液中に基材をディップすることにより抗アレルゲン性組成物を基材に添着できるものや、あるいは、アクリル繊維のように湿式紡糸法によって製造する繊維には、溶剤に本発明の組成物を添加することにより抗アレルゲン性組成物が練り込まれた繊維に加工することができる。具体的な用途としては、カーペット、カーテン、壁紙、畳、障子紙、床用ワックス、カレンダーなどの室内用品、ふとん、ベッド、シーツ、枕、枕カバーなどの寝具類、空気清浄機、エアコンなどのフィルター類、ソファー、椅子などの家具類、チャイルドシート、座席シートなどの車内用品、電気掃除機の集塵袋、衣料品、マスク、ぬいぐるみ、キッチン用品、各種繊維、不織布、紙製品、綿、断熱材があげられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
また塗料に本発明の抗アレルゲン性組成物を混合することで抗アレルゲン性を有する塗料とすることができ、これを塗布したあらゆる物に簡単に抗アレルゲン性を付与することができる塗料となる。この塗料としては、水性塗料、エマルション型塗料などが挙げられる。また、本発明の抗アレルゲン性組成物は、接着剤に添加して使用することもできる。本発明の抗アレルゲン性組成物の分散媒が水系の場合は、エマルション型接着剤が好適となる。
【実施例】
【0047】
以下に説明する実施例によって、本発明を更に詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
実施例に記載した平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定器(MALVERN MASTERSIZER 2000型)で測定して得られた体積基準のメジアン径を示す。また、%は重量%を示す。
【0048】
酸強度の測定は、試験管に無機固体酸を0.1g採取し、ベンゼン2mLおよび指示薬の0.1%ベンゼン溶液(ただし、クリスタルバイオレットは0.1%エタノール溶液)を2滴添加し、軽く振り混ぜ、色の変化を観察した。固体酸の酸強度は指示薬の変色が確認された最も強い酸強度(最も低いpKa値)以下であり、指示薬が変色しなかった最も弱い酸強度(最も高いpKa)より高いと考えられるのでその範囲をpKa値として記録した。なお、使用した指示薬はメチルレッド(pKa=4.8)、4−フェニルアゾー1−ナフチルアミン(pKa=4)、ジメチルイエロー(pKa=3.3)、4−フェニルアゾージフェニルアミン(pKa=1.5)、クリスタルバイオレット(pKa=0.8)、ジシンナミルアセトン(pKa=−3)、ベンザルアセトフェノン(pKa=−5.6)、アントラキノン(pKa=−8.2)である。
【0049】
無機固体酸の含水率は、試料を温度25℃相対湿度60%の恒温恒湿槽に3日間置いたもので測定した。乾燥機中250℃で1時間恒量したアルミカップに試料約5gを秤量し(0.1mg単位まで秤量)、乾燥機中で250℃で2時間乾燥後、再度秤量し(0.1mg単位まで秤量)、乾燥減分を乾燥前の重量で除したものを%表示として無機固体酸の含水率とした。
【0050】
抗アレルゲン効果は、コナヒョウダニアレルゲン(一般的にDerfIIと呼ばれるアレルゲン)およびスギ花粉アレルゲン(一般的にCryj1と呼ばれるアレルゲン)を用いるELISA法のサンドイッチ法により評価した。コナヒョウダニアレルゲンを用いた場合の試験操作は次のようである。コナヒョウダニアレルゲン(DerfII)特異的抗体(15E11抗体、アサヒビール株式会社製)を用いて常法により抗体コートウェルを作製した。
抗アレルゲン性組成物または比較例の試料を3mgまたは20mg秤量し、抗原希釈液で40ng/mLに調製したコナヒョウダニアレルゲン(DerfII)を500μL添加した。混合物をよく撹拌して、試料とアレルゲンを接触させた後、遠心沈降させ、上澄み液を回収し、ブロッキング剤で処理してある15E11抗体コートウェルに添加して室温で静置した。1時間後試料を捨て、各ウェルを洗浄バッファーで洗浄し、洗浄バッファーで200ng/mLに希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗DerfIIモノクローナル抗体13A4PO(アサヒビール株式会社)を各ウェルへ添加し室温で静置した。1時間後抗体液を捨て、各ウェルを洗浄バッファーで洗浄し、基質液を各ウェルへ添加して室温で静置した。その後2N硫酸を加え反応を停止させ、490nmの吸光度を測定した。結果は、試料を用いずに評価を行うことで吸光度に対するアレルゲン量の関係を求め、各種試料を評価した場合の吸光度から残存アレルゲン量を求め、式1から算出することにより各種試料のアレルゲン不活性化率%を表示した。
アレルゲン不活化率
=(1−残存アレルゲン量/初期アレルゲン量)×100(%) <式1>
【0051】
スギ花粉アレルゲンを用いた場合のELISA法のサンドイッチ法による試験操作は次のようである。スギ花粉アレルゲン(Cryj1)特異的抗体(生化学工業株式会社製Anti-Cryj1mAb013)を用いて常法により抗体コートウェルを作製した。
抗アレルゲン性組成物または比較例の試料を3mgまたは20mg秤量し、抗原希釈液で10ng/mLに調製したスギ花粉アレルゲン(Cryj1)を500μL添加した。混合物をよく撹拌して、サンプルとアレルゲンを接触させた後、遠心沈降させ、上澄み液を回収し、ブロッキング剤で処理してあるAnti-Cryj1mAb013抗体コートウェルに添加して室温で静置した。1時間後サンプルを捨て、各ウェルを洗浄バッファーで洗浄し、洗浄バッファーで250ng/mLに希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗Cryj1モノクローナル抗体053(生化学工業株式会社製)を各ウェルへ添加し室温で静置した。2時間後抗体液を捨て、各ウェルを洗浄バッファーで洗浄し、基質液を各ウェルに添加して室温で静置した。その後2N硫酸を加え反応を停止させ、490nmの吸光度を測定した。結果は、コナヒョウダニアレルゲンと同様の方法で式1から算出することにより各種試料のアレルゲン不活性化率%を表示した。
【0052】
繊維加工製品の抗アレルゲン効果は、アレルゲンにはコナヒョウヒダニアレルゲン(DerfII)を用い、繊維9cm2を8等分して、抗アレルゲン性組成物と同様のELISA法評価により吸光度を測定し、抗アレルゲン性組成物を添加していない繊維製品を用いた場合の吸光度と比較して上記式1によりアレルゲン不活性化率%を評価した。
【0053】
<実施例1>
(無機固体酸の製造)
[実施例1−1]
層状リン酸ジルコニウム
75%リン酸水溶液に15%オキシ塩化ジルコニウム水溶液を添加し、24時間加熱還流後、沈殿物をろ過、水洗、乾燥、解砕することで層状リン酸ジルコニウムを得た。得られた層状リン酸ジルコニウムは白色で、レーザー回折式粒度分布計による体積基準の平均粒径が1μm、本発明の酸塩基指示薬によるpKaの測定値が−8.2〜−5.6、含水率が4.6%であった。結果を表1に示した。
【0054】
[実施例1−2]
網目状リン酸ジルコニウム
イオン交換水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.2モルおよび塩化アンモニウム0.1モルを溶解後、撹拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を28%アンモニア水を用いてpHを2.7に調整後、98℃で14時間撹拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、700℃で焼成することにより網目状リン酸ジルコニウムを得た。得られた網目状リン酸ジルコニウムの色調、平均粒径、含水率測定した結果を表1に示した。
【0055】
[実施例1−3]
H置換型ゼオライトZSM−5型ゼオライト
市販のゼオライトZSM−5(水沢化学工業製EX122)を塩酸水溶液中に浸漬後、ろ過、水洗、乾燥、解砕し、固体酸であるH置換型ゼオライトZSM−5を調整した。得られたH置換型ゼオライトZSM−5の色調、平均粒径、酸強度および含水率を測定した結果を表1に示した。
【0056】
[実施例1−4]
アンチモン酸
五塩化アンチモンに水を加えた後、70℃で熟成しアンチモン酸を得た。得られたアンチモン酸の色調、平均粒径、酸強度および含水率を測定した結果を表1に示した。
【0057】
[実施例1−5]
シリカ−アルミナ
原料に水ガラスと硝酸アルミニウムを用いて得られた沈殿物を500℃で焼成処理後、粉砕することでシリカ−アルミナを調整した。得られたシリカーアルミナの色調、平均粒径、酸強度および含水率を測定した結果を表1に示した。
【0058】
[実施例1−6]
H置換型Y型ゼオライト
市販のゼオライトY(水澤化学工業株式会社製ミズカシーブスY400)を塩酸水溶液中に浸漬後、ろ過、水洗、乾燥、解砕し、固体酸であるH置換型Y型ゼオライトを調整した。
得られたH置換型ゼオライトYの色調、平均粒径、酸強度および含水率を測定した結果を表1に示した。
【0059】
<比較例1−1>
二酸化珪素、酸化亜鉛、酸化アルミニウムからなる複合鉱物
市販の二酸化珪素、酸化亜鉛、酸化アルミニウムからなる複合鉱物(水澤化学工業株式会社製ミズカナイトHP)の色調、平均粒径、酸強度を測定した結果を表1に示した。
【0060】
<比較例1−2>
A型ゼオライト
市販のゼオライトA(水澤化学工業株式会社製SilitonB)の色調、平均粒径、酸強度を測定した結果を表1に示した。
【0061】
<比較例1−3>
X型ゼオライト
市販のゼオライトX(水澤化学工業株式会社製CPT−30)の色調、平均粒径、酸強度を測定した結果を表1に示した。
【0062】
<比較例1−4>
ZSM−5型ゼオライト
市販のゼオライトZSM−5(水澤化学工業株式会社製EX122)の色調、平均粒径、酸強度を測定した結果を表1に示した。
【0063】
<比較例1−5>
ハイドロタルサイト
市販のハイドロタルサイト(堺化学工業株式会社製HT−P)の色調、平均粒径、酸強度を測定した結果を表1に示した。
【0064】
<比較例1−6>
酸化アルミニウム
試薬の酸化アルミニウムの色調、平均粒径、酸強度を測定した結果を表1に示した。
【0065】
<比較例1−7>
酸化亜鉛
市販の酸化亜鉛(堺化学工業製 酸化亜鉛2種)の色調、平均粒径、酸強度測定した結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
(抗アレルゲン性組成物の製造)
実施例1−1の層状リン酸ジルコニウムに、分散剤として、Disperbyk−180(リン酸基を含むブロック共重合体のアルキルアンモニウム塩、酸価94mgKOH/g、アミン価94mgKOH/g、平均分子量1000、BYK−Chemie社製)を加え、分散媒としてイオン交換水を加え、その他の添加剤を加えて抗アレルゲン性組成物を製造した。
【0068】
その製造方法は、イオン交換水100部に対して上記の層状リン酸ジルコニウムを50部、分散剤を2.3部(無機固体酸100部に対して4.6部となる)、防腐剤ベストサイド#300(大日本インキ化学工業株式会社製)を0.3部、消泡剤Disperbyk−022(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.2部および増粘剤メトロースSH15000(信越化学工業株式会社製)の4%水溶液を13部添加し、サンドミルにて3000rpm、20分攪拌し、ペースト状の抗アレルゲン性組成物を得た。この抗アレルゲン性組成物中の無機固体酸の配合量は30重量%となる。実施例1−1に対応する抗アレルゲン性組成物を組成物Aとした
【0069】
同様に、実施例1−2〜実施例1−6、比較例1−1〜比較例1−7に対応する組成物を製造して組成物B〜Nと名づけた。組成物20mgを採取してELISA法によるスギ花粉アレルゲンおよびダニアレルゲン不活化率の測定をおこなった結果を表2に示す。
【表2】

【0070】
<実施例2>
(無機固体酸+ポリフェノール複合体)
[実施例2−1]
実施例1−1と同様に調製した層状リン酸ジルコニウムと、ポリフェノールとしてタンニン酸を重量混合比6/4で混合し、ボールミルにより3時間複合化し、ロータースピードミルにより粉砕して無機固体酸+ポリフェノール複合体を得た。得られた複合体の黄色度、平均粒径を測定した結果を表3に示した。
実施例2−1と同様に、無機固体酸の種類とタンニン酸の組成比を変更して実施例2−2〜2−6の無機固体酸+ポリフェノール複合体を製造した。
【0071】
(抗アレルゲン性組成物の製造)
実施例2−1の層状リン酸ジルコニウム+ポリフェノール複合体に、分散剤として、Disperbyk−180(リン酸基を含むブロック共重合体のアルキルアンモニウム塩、酸価94mgKOH/g、アミン価94mgKOH/g、平均分子量1000、BYK−Chemie社製)を、分散媒としてイオン交換水を加え、その他の添加剤を加えて抗アレルゲン性組成物を製造した。
【0072】
その製造方法は、水100部に対して上記の層状リン酸ジルコニウム+ポリフェノール複合体を50部、分散剤を2.3部(無機固体酸+ポリフェノール複合体の100部に対して4.6部となる)、防腐剤ベストサイド#300(大日本インキ化学工業株式会社製)を0.3部、消泡剤Disperbyk−022(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.2部添加し、サンドミルにて3000rpm、20分攪拌し、ペースト状の抗アレルゲン性組成物を得た。この抗アレルゲン性組成物中の無機固体酸の配合量は23重量%となる。実施例2−1に対応する抗アレルゲン性組成物を組成物Oとした。
【0073】
同様に、実施例2−2〜実施例2−6、比較例2−1に対応する組成物を製造して組成物P〜Uと名づけた。組成物3mgを採取してELISA法によるスギ花粉アレルゲンおよびダニアレルゲン不活化率の測定をおこなった結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
(抗アレルゲン性組成物の安定性)
実施例1−1の層状リン酸ジルコニウムを用い、分散剤のDisperbyk−180を加えない他は組成物Aと同じ方法で組成物ANを製造した。組成物Aと組成物ANをそれぞれ50gづつ100ミリリットル容量のガラス瓶に密封して、40℃で3ヵ月保管し、上部から5gの組成物を採取して良く攪拌後、20mgを分取してELISA法によるスギ花粉アレルゲンおよびダニアレルゲンのアレルゲン不活化率の測定をおこなった結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
分散剤を用いない組成物ANでは3ヵ月後に瓶の底部に白い沈降物があり、上部には透明な上澄みができていたが、本発明の分散剤を用いたAでは外観に変化が無く、瓶上部から採取した抗アレルゲン性組成物は製造直後(当日)と40℃で3ヵ月保管した後とで同等の性能を示した。一方、本発明の分散剤を用いないANではダニアレルゲン(DerfII)を用いたアレルゲン不活化率の結果が著しく劣っていた。
【0078】
<繊維への加工例>
実際の繊維加工工程を想定し、抗アレルゲン性組成物Aと分散剤を用いない組成物ANとを用いて繊維加工ラインでの加工試験を行なった。まず、抗アレルゲン性組成物Aとアクリルエマルションバインダー(東亞合成株式会社製ケスモンバインダーKB1300、固形分45%)とを固形分重量比で10/3になるように混ぜ合わせ、加工液タンクで攪拌しながら一部を取り出して布(成分:綿/アクリル繊維=1/1)にスプレーし、120℃で15分乾燥の加工を行い、無機固体酸の固定量5g/m3、の抗アレルゲン布を1000m連続で製造した。そして巻き出しから100m、500m、900mの3点で布を切り取り、コナヒョウヒダニアレルゲン(DerfII)を用いて抗アレルゲン布のアレルゲン不活化効果を測定した。この試験では抗アレルゲン剤を用いない場合でも布への吸着等により試験前後でアレルゲンが減少するため、抗アレルゲン剤を用いない空試験を行ってそのときのアレルゲン不活化率が0になるように測定結果を規格化して表5に示した。
【0079】
【表5】

【0080】
本発明の抗アレルゲン性組成物Aを用いた繊維加工では、1000mの加工布の3点で測定したアレルゲン不活化率に差はなかったが、分散剤を用いない組成物ANを用いた場合では、巻き出し100mですでにAを用いた例よりもアレルゲン不活化率が低く、尺が進むにつれてさらに不活化率が低くなって性能が劣ることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸強度がpKaで4.0以下である無機固体酸と、分散剤を含有する、抗アレルゲン性組成物。
【請求項2】
前記無機固体酸が、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、リン酸スズ、リン酸セリウム、リン酸チタニウム、H置換Y型ゼオライト、H置換ZSM−5型ゼオライト、アンチモン酸、SiO2−Al23複合酸化物、SiO2−TiO2複合酸化物、SiO2−ZrO複合酸化物、SiO2−Ga23複合酸化物、TiO2−Al23複合酸化物、TiO2−ZrO複合酸化物、TiO2−SnO複合酸化物、TiO2−ZnO複合酸化物およびケイ酸マグネシウムよりなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1に記載の抗アレルゲン性組成物
【請求項3】
さらに、ポリフェノール化合物を含有する、請求項1または2に記載の抗アレルゲン性組成物。
【請求項4】
無機固体酸とポリフェノール化合物と分散剤の合計量を基準として、無機固体酸を5〜60重量%、分散剤を0.1〜15重量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物。
【請求項5】
酸性官能基を有する共重合体である分散剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物。
【請求項6】
前記ポリフェノール化合物がタンニン酸である、請求項1〜5のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の抗アレルゲン性組成物を用いた抗アレルゲン製品の加工方法。
【請求項8】
請求項7に記載の抗アレルゲン製品の加工方法によって加工された抗アレルゲン製品。

【公開番号】特開2010−235701(P2010−235701A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83114(P2009−83114)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】