説明

抗カテキン類抗体

【課題】ガレート基を有するカテキン類を特異的に認識する抗体を作成し、該抗体を用いるガレート基を有するカテキン類の免疫学的な分析方法を開発すること。
【解決手段】本発明は、ガレート基を有するカテキン類に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片か、該抗原結合断片を含むキメラ抗体又は組換え抗体か(以下「抗カテキン類抗体等」という)を提供する。本発明は、前記抗カテキン類抗体等を不動化した、ガレート基を有するカテキン類の検出用バイオセンサーと、該バイオセンサー又は前記抗カテキン類抗体等を用いるガレート基を有するカテキン類の検出又は測定方法とを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレート基を有するカテキン類に対する抗体又はその抗原結合断片と、該抗体又はその抗原結合断片を不動化したガレート基を有するカテキン類の検出用バイオセンサーと、前記抗体又はその抗原結合断片を用いるガレート基を有するカテキン類の検出又は測定方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶の薬効は1987年のがん予防効果の発見に始まり、生化学的細胞実験、動物実験、疫学調査、さらには、ヒトでのがん予防効果が証明されるまで発展しているが、同時に、抗菌作用、血中コレステロール低下作用、抗アレルギー作用等様々な薬理活性も報告されている。
【0003】
緑茶の可溶性主要成分は、緑茶ポリフェノールのうちフラバン−3−オール骨格を有するカテキン類で、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)、(−)−エピカテキンガレート(ECG)、(−)−エピガロカテキン(EGC)、(−)−エピカテキン(EC)、(−)−ガロカテキンガレート(GCG)、(−)−カテキンガレート(CG)、(±)−ガロカテキン(GC)、(±)−カテキン(C)の8種のカテキンの存在が知られている。これらカテキン類の含有量は、原料のチャ(Camellia sinensis)の品種、栽培条件、緑茶への加工法によって異なるが、大体5重量%〜18重量%である(非特許文献1)。
【非特許文献1】日本食品科学工業学会誌、46巻、第3号、138−147頁(1999年)
【0004】
最近カテキン類のうち、ガレート基を有するカテキン類である、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)、(−)−エピカテキンガレート(ECG)、(−)−カテキンガレート(CG)および(−)−ガロカテキンガレート(GCG)には、継続的な摂取による女性のコレステロール値低下作用が報告された(非特許文献2)。
【非特許文献2】梶本修身ら、Health Sci.22巻、60−71頁(2005年12月)
【0005】
ガレート基を有するカテキン類は上記のような効果を有するため、ガレート基を有するカテキン類の体内分布、臓器内分布、細胞内分布を研究することは重要である。しかし従来は、放射性同位体で標識されたカテキンを投与し、その分布動態を追跡する方法が主に用いられ、ガレート基を有するカテキン類を特異的に認識する抗体による免疫学的な分析の報告は知られていない。それは、ガレート基を有するカテキン類を特異的に認識する抗体が利用できなかったからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、ガレート基を有するカテキン類を特異的に認識する抗体を作成し、該抗体を用いるガレート基を有するカテキン類の免疫学的な分析方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ガレート基を有するカテキン類と特異的に結合することを特徴とする抗体又はその抗原結合断片を提供する。本発明の抗体又はその抗原結合断片は、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−カテキンガレートおよび(−)−ガロカテキンガレートに結合するが、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキン、(±)−ガロカテキン及び(±)−カテキンとは結合しない場合がある。
【0008】
本発明の抗体はモノクローナル抗体の場合がある。
【0009】
本発明は、本発明のモノクローナル抗体の抗原結合断片を含むガレート基を有するカテキン類に特異的に結合するキメラ抗体又は組換え抗体を提供する場合がある。
【0010】
本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片か、該抗原結合断片を含むキメラ抗体又は組換え抗体かを不動化したガレート基を有するカテキン類の検出用バイオセンサーを提供する。
【0011】
本発明はガレート基を有するカテキン類の検出又は測定方法を提供する。該方法は、本発明のカテキン類検出バイオセンサーへのガレート基を有するカテキン類の結合の有無又は結合量を表面プラズモン共鳴法で測定するステップを含む場合がある。本発明のガレート基を有するカテキン類の検出又は測定方法は、本発明の抗体又はその抗原結合断片か、該抗原結合断片を含むキメラ抗体又は組換え抗体かを結合させるステップを含む場合がある。
【0012】
本明細書においてカテキン類とは、緑茶ポリフェノールのうちフラバン−3−オール骨格を有するカテキン類で、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)、(−)−エピカテキンガレート(ECG)、(−)−エピガロカテキン(EGC)、(−)−エピカテキン(EC)、(−)−ガロカテキンガレート(GCG)、(−)−カテキンガレート(CG)、(±)−ガロカテキン(GC)及び(±)−カテキン(C)等の分子種を含むがこれらに限定されない。本明細書においてガレート基を有するカテキン類とは、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)、(−)−エピカテキンガレート(ECG)、(−)−カテキンガレート(CG)および(−)−ガロカテキンガレート(GCG)等の分子種を含むがこれらに限定されない。本明細書においてガレート基を有しないカテキン類とは、(−)−エピガロカテキン(EGC)、(−)−エピカテキン(EC)、(±)−ガロカテキン(GC)及び(±)−カテキン(C)等の分子種を含むがこれらに限定されない。
【0013】
本発明のカテキン類は、Fujiki, H.及びOkuda,T.、(−)−Epigallocatechin gallate、Drugs and Future,17(6):462−464に従って、茶葉をメタノールと水との1:1の溶液で抽出し、カラムクロマトグラフィー法により精製して調製される。EGCGについてはさらに再結晶化して精製される場合がある。
【0014】
本発明のカテキン類は、キャリア高分子と結合した複合体(以下、「カテキン類複合体」という。)として、本発明のモノクローナル抗体の作成、及び/又は、本発明のカテキン類の検出又は測定方法の実施に用いられる場合がある。前記キャリア高分子は、ハプテンに免疫原性を付与することのできるいずれかの高分子をいい、タンパク質、多糖類等の生体高分子でも、ポリリジン等の合成高分子でもかまわない。前記複合体のキャリア高分子に用いられるタンパク質は、ウシ血清アルブミン、ニワトリオバルブミン、チログロブリン(thyroglobulin)及びスカシ貝ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanine)を含むがこれらに限られない。
【0015】
前記複合体におけるカテキン類とキャリア高分子とは、カテキン類のいかなる官能基とキャリア高分子との間で結合されてもかまわない。例えば、カテキン類のアミノ基又はカルボキシル基とキャリア高分子のいずれかの側鎖との間を適当な架橋剤を介して共有結合する場合がある。前記架橋剤は、グルタールアルデヒド(GA)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N−[ε−マレイミドカプロイルオキシ]スクシニミドエステル(EMCS)、スクシニミジル4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カクロキシラート(SMCC)及びN−[γ−マレイミドブチリロキシ]スクシニミドエステル(GMBS)を含むがこれらに限られない。前記架橋剤は、例えば、Pierce Biotechnology,Inc.(フナコシ株式会社)から購入することができる。
【0016】
本発明の抗体はポリクローナル抗体とモノクローナル抗体とを含む。本発明の抗体は、マウス、ラット、ヤギ、ウサギ、ウマ、ニワトリ、ヒトを含むがこれらに限られないさまざまな種の動物に由来する場合がある。
【0017】
本発明の抗体の抗原結合断片は、抗原結合に参加する抗体の部分を指す。前記抗原結合部位は、重(H)鎖及び軽(L)鎖のN末端の可変(V)領域のアミノ酸残基によって形成される。前記抗原結合断片には、Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片等が含まれるがこれらに限られない。
【0018】
本発明の抗体は、当業者に知られたさまざまな技術によって調製される場合がある。例えば、Harlow及びLane、Using Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring HarborLaboratory、1999を参照せよ。
【0019】
本発明の抗体を作成するためにカテキン類を免疫原とする際には、ウシ血清アルブミン又はスカシ貝ヘモシアニンのようなキャリアタンパク質とカテキン類との複合体を形成させる場合がある。前記免疫原は、1回又は2回以上のブースター免疫を取り込んだ予め定められたスケジュールに従って、前記動物宿主に注射されることが好ましい。前記免疫原は、完全又は不完全フロイントアジュバントその他の免疫増強剤と混合及び/又は乳化混和して前記動物宿主に注射される場合がある。注射部位は、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、足裏(food pad)等があるが、これらに限られない。
【0020】
本発明で用いられるモノクローナル抗体は、Koehler及びMilstein、Eur.J.Immunol.6:511−519、1976の技術と、その改良技術を用いて調製される場合がある。これらの方法は、所望の特異性を有する抗体を産生できる不死性細胞株の調製を伴う。かかる細胞株は上記のとおり免疫された動物宿主の脾臓、リンパ節その他の臓器由来の細胞から作成される場合がある。前記臓器由来の細胞は、さまざまな方法で不死化され、抗体産生能を有する不死化細胞株が調製される。前記臓器由来の細胞は、例えば、前記免疫された動物と同種かあるいは異種の動物由来のミエローマ細胞との融合によって不死化される。当業者に周知のさまざまな融合技術を用いる場合がある。例えば、前記臓器由来の細胞とミエローマ細胞とは非イオン性界面活性剤と数分間混合され、それからハイブリッド細胞の増殖は支持するがミエローマ細胞の増殖は支持しない選択培地に低濃度でプレートされる。好ましい選択技術はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を用いる。通常約1ないし2週間の十分な時間の後、ハイブリッドのコロニーが観察される。シングルコロニーが選択され、その培養上清が前記ポリペプチドに対する結合活性についてテストされる。反応性及び特異性が高いハイブリドーマが好ましい。限界希釈法によるクローニングを繰り返すことにより、反応性及び特異的が高い抗体を安定的に大量に産生するハイブリドーマのクローンが選択される。モノクローナル抗体は増殖中の選択されたハイブリドーマクローン由来の細胞株のコロニーの上清から単離される場合がある。さらに、マウスのような適当な脊椎動物宿主の腹腔内に前記ハイブリドーマ細胞株を移植する等、収率を向上させるためのさまざまな技術が用いられる場合がある。モノクローナル抗体は前記ハイブリドーマ細胞を移植した動物の腹水又は血液から回収される場合がある。汚染物又は夾雑物は、クロマトグラフィー、ゲルろ過、沈殿及び抽出のような従来技術によって前記抗体から除去される場合がある。
【0021】
本発明で用いられる抗体の抗原結合断片は、それぞれタンパク質分解酵素パパイン又はペプシンでモノクローナル抗体の免疫グロブリンを分解して得られるFab断片又はF(ab’)断片の他、Fv断片を含む。該Fv断片は、Vを含むサブユニットとV領域を含むサブユニットとからなるヘテロ2量体であって、天然抗体分子の抗原認識能及び結合能の多くを保持する抗原結合部位を含む。
【0022】
本発明で用いられる組換え抗体は、適当な細菌宿主への形質転換か、適当なほ乳類細胞宿主へのトランスフェクションかを含む抗体遺伝子の発現クローニングによって調製される場合がある。本発明で用いられるキメラ抗体は、前記本発明の組換え抗体の抗原結合部位がカテキン類と特異的に結合できるように同種又は異種の抗体の定常ドメインによって支持された融合タンパク質である。本発明で用いられるキメラ抗体には、抗体軽鎖可変領域(V)に操作可能に連結された抗体重鎖可変領域(V)を含む短鎖可変部抗体(scFv)と、ラクダ科(Camelidae、ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマを含む)の動物が産生する軽鎖がないIgGのクラスであるラクダ重鎖抗体(HCAb)又はその重鎖可変部ドメイン(VHH)とを含む。本発明の組換え抗体は原核生物及び真核生物由来の遺伝子発現システムを用いて大量に調製することができる。
【0023】
本発明のカテキン類の検出又は測定方法は、表面プラズモン共鳴法により検出又は測定される場合がある。表面プラズモン共鳴法は、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance、SPR)とよばれる光学現象を利用して、固体支持体上に不動化した分子と相互作用の相手となる分子との、固体支持体上における特異的相互作用を微細な質量変化として測定する手法である。この手法を適用することで、固体支持体に不動化された本発明のカテキン類と特異的に結合するモノクローナル抗体、その抗原結合断片、キメラ抗体及び組換え抗体(以下「抗カテキン類抗体等」という。)に結合したカテキン類の量を、固体支持体の質量変化として数値化することができる。表面プラズモン共鳴法を実施するためのシステムとしては、例えばビアコアシステム(ビアコア株式会社)が市販されている。
【0024】
本発明のカテキン類検出バイオセンサーは、表面プラズモン共鳴(SPR)法の測定用チップ(以下、「SPRチップ」という。)に本発明の抗カテキン類抗体等が不動化されたものである。本発明のカテキン類検出バイオセンサーは、本発明の抗カテキン類抗体等が直接共有結合によってSPRチップに不動化される場合がある。あるいは、本発明の抗カテキン類抗体等と特異的に結合する特異的結合パートナーが共有結合によってSPRチップに不動化され、本発明の抗カテキン類抗体等は該特異的結合パートナーとの特異的結合を介してSPRチップに不動化される場合がある。前記特異的結合パートナーは、抗体タンパク質と特異的に結合するプロテインA又はプロテインGと、マウス抗体に対する二次抗体とを含む。本発明の抗カテキン類抗体がビオチンで標識される場合には、アビジンが前記特異的結合パートナーとして用いられる。ビオチンとアビジンのかわりに、ヒスチジン残基が連続するアミノ酸配列からなるHisタグ、ヒトc−mycタンパク質の410番−419番の10個のアミノ酸の配列に対応するmycタグ、ヒトインフルエンザウィルスのヘマグルチニン(HA)の98番−106番の9個のアミノ酸に対応するHAタグ等のペプチドタグと該ペプチドタグと特異的に結合する抗体とを用いる場合もある。前記ペプチドタグで抗カテキン類抗体等を標識するには、前記ペプチドタグを共有結合等により抗カテキン類抗体等に結合させる場合の他、前記ペプチドタグのアミノ酸配列を含むキメラ抗体又は組換え抗体を作成する場合がある。
【0025】
本発明のカテキン類の検出又は測定方法は、免疫組織化学的方法、光学顕微鏡又は電子顕微鏡による免疫細胞化学的方法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、化学発光酵素免疫測定法の他、微粒子又はナノ微粒子の凝集による比濁度の変化に基づく分析方法が含まれるが、これらに限られない免疫学的分析方法によって検出又は測定される場合がある。本発明のカテキン類の免疫学的分析方法には、競合的な結合に基づく方法と非競合的な結合に基づく方法とが含まれる。カテキン類を検出・定量するために、本発明の抗カテキン類抗体等又はカテキン類が、ビオチンのような低分子リガンド、酵素、放射性同位元素、色素等で標識される場合があり、本発明の抗カテキン類抗体等に対する2次抗体か、前記ビオチンのような低分子リガンドと特異的に結合するアビジンのような生体高分子かが、酵素、放射性同位元素、色素等で標識される場合がある。
【0026】
本発明のカテキン類の免疫学的分析方法は、本発明の抗カテキン類抗体等が不動化された固体支持体か、カテキン類又はカテキン類複合体が不動化された固体支持体かを用いる場合がある。前記固体支持体は、前記カテキン類又は前記カテキン類複合体と抗カテキン類抗体等との特異的結合能を失わせず不動化できるものであればよく、さまざまな材料又は形状の固体を利用することができる。前記固体支持体は、ポリマー材料、ガラス、セラミック、ゲル、膜、天然繊維、シリコーン、金属およびこれらの複合材料を含むがこれらに限定されない材料から加工される場合がある。前記固体支持体は、マルチウェルプレート、マイクロタイタープレート、マルチアレイチップ、センサーチップ、ラテックス凝集法用微粒子又はナノ微粒子のような、自動診断システムによって取り扱うのに適する形状が含まれる。
【0027】
本発明のカテキン類又はカテキン類複合体は、静電気による吸着により前記固体支持体上に不動化される場合のほか、前記カテキン類又はカテキン類複合体の官能基と前記固体支持体の官能基との共有結合により前記固体支持体上に不動化される場合がある。
【0028】
本発明の競合的な結合を利用する方法は、(1)前記固体支持体を用意するステップと、(2)カテキン類を含む試料と前記抗カテキン類モノクローナル抗体との混合溶液を調製するステップと、(3)前記混合溶液を前記固体支持体に接触させるステップと、(4)前記固体支持体に結合した抗カテキン類モノクローナル抗体を検出・定量するステップとを含む場合がある。
【0029】
本発明の競合的な結合を利用する方法において、(1)前記固体支持体を用意するステップは、前記抗カテキン類モノクローナル抗体と、前記カテキン類複合体が不動化された固体支持体と、前記試料とが、手作業により、あるいは、自動的に用意される。
【0030】
本発明の競合的な結合を利用する方法において、(2)カテキン類を含む試料と前記抗カテキン類モノクローナル抗体との混合溶液を調製するステップでは、試料中のカテキン類と前記抗カテキン類モノクローナル抗体とが抗原抗体反応を行う。したがって、ステップ(2)には、試料中のカテキン類と前記抗カテキン類モノクローナル抗体との間の抗原抗体反応が完了するのに十分な条件で前記混合溶液をインキュベーションすることを含む。
【0031】
本発明の競合的な結合を利用する方法において、(3)前記混合溶液を前記固体支持体に接触させるステップでは、前記固体支持体に不動化されたカテキン類複合体のカテキン類と、ステップ(2)で試料中のカテキン類と反応しなかった抗カテキン類モノクローナル抗体とが抗原抗体反応を行う。したがって、ステップ(3)には、前記固体支持体に不動化されたカテキン類複合体のカテキン類と、試料中のカテキン類と反応しなかった抗カテキン類モノクローナル抗体との間の抗原抗体反応が完了するのに十分な条件で前記混合溶液をインキュベーションすることを含む。
【0032】
本発明の競合的な結合を利用する方法において、(4)前記固体支持体に結合した抗カテキン類モノクローナル抗体を検出・定量するステップは、前記固体支持体に結合しなかった抗カテキン類モノクローナル抗体を洗浄により除去するステップを含む場合がある。また、前記抗カテキン類モノクローナル抗体は、該モノクローナル抗体又は2次抗体等の標識により検出及び/又は定量される。前記定量するステップは、既知の濃度のカテキン類を含む試料を用いて固体支持体のカテキン類と反応した抗カテキン類モノクローナル抗体の量を数値化してプロットした検量線を作成するステップと、未知の濃度のカテキン類を含む試料についてステップ(1)ないし(3)を行って、前記固体支持体に結合した前記抗カテキン類モノクローナル抗体量から前記検量線を用いて試料中のカテキン類濃度を算出するステップとを含む。
【0033】
本発明の検量線とは、試料中のカテキン類濃度と、固体支持体のカテキン類と反応した抗カテキン類モノクローナル抗体の量とを対応づけるグラフ又は関係式をいう。検量線の作成に用いる濃度既知のカテキン類を含む試料は少なくとも2点あればよいが、定量精度確保の観点から3点又は4点以上であることが望ましい。
【0034】
前記固体支持体のカテキン類と反応した抗カテキン類モノクローナル抗体の量を数値化する手法は特に限定されないが、ELISA法及び表面プラズモン共鳴(SPR)法のほか、ラテックス凝集法が含まれる。
【0035】
ELISA法は、抗カテキン類抗体等に対する酵素標識2次抗体を該抗カテキン類抗体等に結合させ、前記標識酵素の基質を添加し、酵素反応産物を検出することにより前記目的の抗体を検出・定量する手法である。2次抗体を用いる代わりに、前記抗カテキン類抗体等にビオチンのような低分子リガンドを結合させておいて、該低分子リガンドと特異的に結合するアビジンのような生体高分子を用いる場合がある。前記標識に用いられる酵素標識には、ペルオキシダーゼ(POD)、ベータガラクトシダーゼ(β-gal)、アルカリホスファターゼ(ALP)等があり、適当な基質を用いる発色反応や化学発光反応によって検出される。
【0036】
ラテックス凝集法では、固体支持体であるラテックス等の微粒子又はナノ微粒子に結合したモノクローナル抗体の量に応じた微粒子の凝集反応の程度を比濁度の変化として分光光度計で測定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に示す実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の詳細な説明のために一例として示すものであり、これらの実施例によって本発明の範囲が制限されると理解するべきではない。
【実施例1】
【0038】
1.1 カテキン類の精製
茶葉をメタノールと水との1:1溶液で抽出し、DIAION HP−20、Toyopearl HW−40及びMCL gel CHP−20Pのカラムで精製した。溶出は水に対してメタノール、エタノールの濃度を上昇させることにより行なった。(−)−エピガロカテキンガレートはさらに再結晶化を行なって精製した。
【0039】
1.2 カテキン類複合体の調製
精製されたカテキン類とアオガイヘモシアニン(KHL)又はチログロブリン(TG)とを架橋剤で共有結合させ、得られたカテキン類複合体(以下、「KHL−カテキン類」及び「TG−カテキン類」という。)を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に透析した。
【0040】
1.3 動物の免疫感作
KHL又はTGをキャリア高分子とするカテキン類複合体(1mg/mL)と、フロイント完全アジュバント(RM606−1、株式会社三菱化学ヤトロン)とを同じ体積で混和しエマルジョン化して、それぞれBalb/c系統のマウスのメス個体4匹の足裏(foot pad)に投与した。最初の免疫感作を第1日として、第4日目及び第7日目にそれぞれ2回目及び3回目の免疫感作を行い、第10日目にリンパ節を摘出して、内部のリンパ球とミエローマ細胞P3U1との細胞融合を行なった。
【0041】
1.4 ハイブリドーマクローンのスクリーニング
細胞融合後96穴プレートで培養し、通常のHAT選別を行なって、コロニー形成がみられたウェルの培養上清について、免疫原として用いたカテキン類複合体が吸着した固体支持体に結合する抗体を含むかどうか、ELISA法によってスクリーニングした。陽性のコロニーは細胞を単離して96穴プレートで限界希釈してクローニングし、カテキン類複合体と結合する抗体を安定的に産生するクローンを得た。
【0042】
2.結果
KHL−カテキン類及びTG−カテキン類で免疫したマウス4匹のリンパ球とミエローマ細胞株P3U1との細胞融合からはいずれも約800ウェルでコロニー形成がみられた。KHL−カテキン類で免疫した場合には、免疫原に用いたKHL−カテキン類と結合する抗体を産生することがELISA法で確認できたハイブリドーマのクローンが4種類得られた。TG−カテキン類で免疫した場合には、TG−カテキン類と結合する抗体を産生するハイブリドーマのクローンが38種類得られた。
【実施例2】
【0043】
1.表面プラズモン共鳴法によるモノクローナル抗体の解析
実施例1で得られたハイブリドーマのクローンが産生する抗体について、カテキン類との結合の特異性を検討するために表面プラズモン共鳴法による解析を行なった。
【0044】
表面プラズモン共鳴の分析にはビアコアシステム(ビアコア株式会社)を用いた。製造者の指示に従って、CM5センサーチップに黄色ブドウ球菌由来プロテインAを共有結合で不動化した。次にハイブリドーマ上清を前記センサーチップに流して、プロテインAを介してハイブリドーマ上清中のモノクローナル抗体を前記センサーチップに不動化した。この状態で前記センサーチップに異なる分子種のカテキン類をそれぞれ異なる濃度で流して、表面プラズモン共鳴のレゾナンス値の変化から、カテキン類とモノクローナル抗体との結合の特異性を検討した。
【0045】
2.結果
KHL−カテキン類を免疫原とするハイブリドーマには、カテキン類と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するクローンは確認できなかった。TG−カテキン類を免疫原とするハイブリドーマにはカテキン類と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するクローンが1種類だけ確認できた。
【0046】
図1は、TG−カテキン類を免疫原とするハイブリドーマのクローンTG6、TG38及びTG60が不動化されたセンサーチップに、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を流したときに表面プラズモン共鳴のレゾナンス値の変化を示す波形図である。横軸は時間(単位:秒)で、EGCGがセンサーに流入した時点を0とし、120秒後にEGCGを含まない緩衝液がセンサーに流入する。縦軸は表面プラズモン共鳴のレゾナンス値である。図1に示すとおり、TG6の波形はEGCGがセンサーに流入しても変化がないので、モノクローナル抗体TG6がEGCGと全く相互作用しないことがわかる。TG60の波形はEGCGがセンサーに流入すると少しレゾナンス値が上昇するので、モノクローナル抗体TG60は多少EGCGと相互作用することがわかる。しかし、EGCGを含まない緩衝液に切り替わると速やかにレゾナンス値が基線レベルまで下降するので、モノクローナル抗体TG60とEGCGとの結合は強くはない。これに対し、TG38の波形はEGCGが流入するとレゾナンス値が大幅に上昇するので、モノクローナル抗体TG38とEGCGとの相互作用がかなり強力であることがわかる。そしてセンサーにEGCGを含まない緩衝液が流入してもレゾナンス値は基線レベルより高いから、一定量のEGCGがモノクローナル抗体TG38に結合したまま保持されていることがわかる。
【0047】
図2及び図3は、TG38をプロテインAを介して不動化したセンサーチップにカテキン類の分子種のそれぞれを異なる濃度で流した場合の表面プラズモン共鳴のレゾナンス値の変化を示す波形図である。EGCG、(−)−エピカテキンガレート(ECG)、(−)−カテキンガレート(CG)、(−)−ガロカテキンガレート(GCG)、(−)−エピガロカテキン(EGC)、(−)−エピカテキン(EC)、(±)−ガロカテキン(GC)及び(±)−カテキン(C)のそれぞれが、1mM、0.5mM、0.33mM、0.25mM、0.125mM及び0.1mMの濃度でTG38を不動化したセンサーチップに流入させ、120秒後にカテキン類を含まない緩衝液を流入させる実験の結果を示す。図2から、EGCG、ECG、CG及びGCGはモノクローナル抗体TG38と強い相互作用を示すことがわかった。図3から、EGC、EC、GC及びCはモノクローナル抗体TG38とはほとんど、あるいは、全く相互作用を示さないことがわかった。
【0048】
以上の結果から、モノクローナル抗体TG38はEGCG、ECG、CG及びGCGなどガレート基を有するカテキン類に特異的に結合し、そのうちEGCGと最も強く結合することが示された。なお、TG38のアイソタイプはIgG2aであった。EGCGは茶の抽出物に含まれるカテキン類のうち主要な成分であることから、モノクローナル抗体TG38は、茶を飲用して摂取されたガレート基を有するカテキン類の体内分布、臓器内分布、細胞内分布を研究するための試薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】EGCGとモノクローナル抗体との相互作用を示す表面プラズモン共鳴波形図。
【図2】カテキン類の分子種の一部とモノクローナル抗体TG38とが特異的に結合することを示す表面プラズモン共鳴波形図。
【図3】カテキン類の分子種の別の一部とモノクローナル抗体TG38とが結合しないことを示す表面プラズモン共鳴波形図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレート基を有するカテキン類と特異的に結合することを特徴とする抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−カテキンガレートおよび(−)−ガロカテキンガレートに結合するが、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキン、(±)−ガロカテキン及び(±)−カテキンとは結合しないことを特徴とする請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記抗体はモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
請求項3に記載の抗原結合断片を含み、ガレート基を有するカテキン類と特異的に結合することを特徴とするキメラ抗体又は組換え抗体。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片か、請求項4に記載のキメラ抗体又は組換え抗体かを不動化したことを特徴とするガレート基を有するカテキン類の検出用バイオセンサー。
【請求項6】
請求項5に記載のカテキン類検出バイオセンサーへのカテキン類の結合の有無又は結合量を表面プラズモン共鳴法で測定するステップを含むことを特徴とするガレート基を有するカテキン類の検出又は測定方法。
【請求項7】
不動化したカテキン類に、請求項1ないし3のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片か、請求項4に記載のキメラ抗体又は組換え抗体かを結合させるステップを含むことを特徴とするガレート基を有するカテキン類の検出又は測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84199(P2009−84199A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255460(P2007−255460)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【出願人】(508173864)
【出願人】(508173875)
【出願人】(508173886)
【Fターム(参考)】