説明

抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬

【課題】血清干渉の発生を防止して、梅毒の感染の診断を精度良く行うことが可能な抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を提供することを目的とする。
【解決手段】梅毒感染の診断に用いられる抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬であって、抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持した不溶性担体と、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメント及び親水性モノマーに由来するセグメントを有する共重合体とを含有する抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清干渉の発生を防止して、梅毒の感染の診断を精度良く行うことが可能な抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
梅毒の病原体であるトレポネーマ・パリダム(Treponema Pallidum)が生体に感染すると、該病原体に対する抗体が産生される。抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬は血中の抗トレポネーマ・パリダム抗体の有無を測定することにより、梅毒の感染を判定する試薬である。
【0003】
従来、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定は血球凝集を利用したTPHA等の用手法で行われていたが、近年、生化学自動分析装置に適用可能な試薬(自動化試薬)が発売されている。この自動化試薬においては、患者の採血負担を軽減する目的で、用手法と比べて少量の血清で測定されることが多い。そのため、試薬と血中の抗体の反応により起こる抗原抗体反応量も少量となる。よって、自動化試薬においては、抗原抗体反応を促進する増感剤を添加する場合がある。一般に用いられる増感剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン等がある。また、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬における増感剤としては、特許文献1にグルコシド誘導体をモノマー単位として含む水溶性重合体及び/又は溶性共重合体が効果を示すことが開示されている。
【0004】
しかしながら、このような増感剤は、抗原抗体反応を促進する効果には優れているが、一部の検体で正確な測定結果が得られないという問題があった。具体的には、検体が血清である場合に、血清中に含まれている成分が変動することにより、測定に悪影響を与える血清干渉と呼ばれる現象が発生し、正確な測定結果が得られないという問題があった。
【特許文献1】特許第2947600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、血清干渉の発生を防止して、梅毒の感染の診断を精度良く行うことが可能な抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、梅毒感染の診断に用いられる抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬であって、抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持した不溶性担体と、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメント及び親水性モノマーに由来するセグメントを有する共重合体とを含有する抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬である。
以下に、本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬中に、増感剤として2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメント及び親水性モノマーに由来するセグメントを有する共重合体を含有させることにより、血清中の抗トレポネーマ・パリダム抗体を測定する場合に、血清干渉の発生を防止して、抗トレポネーマ・パリダム抗体の測定を精度良く行うことが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬は、梅毒に対する抗原を担持した不溶性担体と、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメント及び親水性モノマーに由来するセグメントを有する共重合体(以下、単に共重合体ともいう)とを含有する。
上記親水性モノマーとして、メタクリル酸を用いた場合における上記共重合体の構造を下記一般式(1)に示す。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬は、上記共重合体を含有することで、検体として血清を使用する場合であっても、血清干渉を引き起こしてしまうことがなく、正確な測定結果を得ることができる。
なお、上記血清干渉を確認する方法としては、例えば、添加回収試験という方法を用いることができる。上記添加回収試験は、被測定物質である抗原又は抗体が高濃度で含まれる標準物質を、0.1〜5%程度になるように生理食塩水(変動成分がない血清のモデル)に添加して添加前後での測定値の差を求めた後、同様にして標準物質を被測定物質である抗原又は抗体を含む血清に添加して添加前後での測定値の差を求め、標準物質を生理食塩水に添加した場合での測定値の差を100%としたときの割合を回収率として算出することにより、血清干渉の発生を確認する試験である。
【0011】
上記2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは、メタクリロイル基を有することから、他の重合性モノマーと共重合することが可能である。共重合可能な親水性モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸系単量体等が挙げられる。
【0012】
上記親水性モノマーとしては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。なかでも、血液成分中のタンパク質等と静電反発することが期待される理由から、カチオン性である(メタ)アクリル酸が好適である。
ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0013】
上記共重合体における上記2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメントと、親水性モノマーに由来するセグメントとの比としては特に限定されず、必要に応じて適宜選択されればよいが、モル比で5:5〜3:7であることが好ましい。上記2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメントの比がこれ未満であると、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定における血清干渉の発生を効果的に防ぐことができないことがある。
【0014】
上記共重合体の重量平均分子量としては特に限定されないが、好ましい下限は5万、好ましい上限は500万である。5万未満であると、凝集促進効果がなくなることがあり、500万を超えると、試薬中に添加した場合に粘性が上がりすぎ、再現性等が悪化してしまうことがある。
【0015】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬における上記共重合体の含有量の好ましい下限は0.1(w/v)%、好ましい上限は1.2(w/v)%である。0.1(w/v)%未満であると、血清干渉の発生を効果的に防止できないことがあり、1.2(w/v)%を超えると、試薬の粘性が上がりすぎ、再現性が低下することがある。
より好ましい下限は0.2(w/v)%、より好ましい上限は0.8(w/v)%である。
【0016】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬は、上記共重合体に加えて、抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持した不溶性担体を含有する。
【0017】
上記抗トレポネーマ・パリダム抗原としては、例えば、トレポネーマ・パリダム菌体由来抗原を用いることが好ましい。
【0018】
上記不溶性担体としては特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、スチレン−スチレンスルホン酸塩重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレート等からなるものが挙げられる。
【0019】
上記不溶性担体の粒子径としては、用いる測定方法や測定機器にもよるが、好ましい下限が0.05μm、好ましい上限は1.0μmである。0.05μm未満であると、凝集による光学的変化量が小さく、測定に必要な高い感度が得られないことがあり、1.0μmを超えると、ラテックス粒子の凝集による光学的変化量が測定可能域を超えてしまい、測定範囲が小さくなることがある。
【0020】
上記不溶性担体に抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持させる方法としては特に限定されず、公知の方法により、物理的、化学的結合により担持させる方法等が挙げられる。なお、このときに用いる抗トレポネーマ・パリダム抗原は、菌体破砕物であってもよく、精製物であってもよい。また、遺伝子組み換え技術により人工的に合成されたものを1種又はそれ以上組み合わせたものでもよい。
【0021】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬は、上記抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持した不溶性担体と、上記共重合体とを同一の媒体に分散及び溶解させることにより1液系のラテックス試薬として使用してもよく、また、上記抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持した不溶性担体を含有する第1試薬と、上記共重合体を媒体に添加した緩衝液からなる第2試薬とで構成された2液系の試薬として使用してもよい。
【0022】
上記媒体としては特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩緩衝液等が挙げられる。
【0023】
上記1液系のラテックス試薬中には、更に、ウシ血清アルブミン、ショ糖、塩化ナトリウム、EDTA・2Na、界面活性剤等を適宜溶解させもよい。
また、2液系の試薬として使用する場合にも、それぞれにウシ血清アルブミン、ショ糖、塩化ナトリウム、EDTA・2Na、界面活性剤等を適宜溶解させてもよい。
【0024】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を用い、検体中の抗トレポネーマ・パリダム抗体との抗原抗体反応により生じる凝集の度合いを光学的に測定又は目視にて観察することにより、検体中の抗トレポネーマ・パリダム抗体を測定することができる。
【0025】
本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を用い、抗原抗体反応を行う際のpHの好ましい上限は4.5、好ましい下限は10.0であり、より好ましい下限は6.0、より好ましい上限は8.0である。
また、反応温度の好ましい下限は0℃、好ましい上限は50℃であり、反応時間は適宜選択される。
【0026】
上記凝集の度合いを光学的に測定する方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、用いる不溶性担体の粒子の大きさ、濃度の選択、反応時間の設定により、散乱光強度、吸収光度、透過光強度の増減を測定する。また、これらの方法を併用することも可能である。また、上記測定を行う際の光の波長としては、300〜900nmが好ましい。
【0027】
上記の光学的測定方法に用いる装置としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出できる光学機器が挙げられ、一般的に使用されている生化学自動分析機であればいずれのものであっても使用することができる。
【0028】
上記凝集の度合いを目視にて観察する方法としては、通常、検体と本発明の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬とを含む溶液を判定板上で混合し、混合液を揺り動かした後、凝集の有無を判定する方法等を用いることができる。なお、凝集の度合いの観察には、目視による方法以外に、凝集状態をビデオカメラで撮影し、画像処理を施す方法を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、血清干渉の発生を防止して、梅毒の感染の診断を精度良く行うことが可能な抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(1)抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬の調製
以下の手順に従い抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液からなる第1試薬と、検体希釈液からなる第2試薬とから構成される2液系の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を調製した。
【0032】
(1−1)抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液の調製
100mMリン酸緩衝液(pH7.4)に150μg/mlの蛋白濃度で溶解した抗トレポネーマ・パリダム抗原液400μlを平均粒径0.400μmのポリスチレンラテックス(固形分10(w/v)%、積水化学工業社製)100μlに添加し、4℃にて1時間攪拌した。次いで、ウシ血清アルブミン(セロロジカル製;BSA)を1(w/v)%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)2mlを添加し、1.5時間攪拌した。
得られた液体を10℃にて30分間、18,000rpmで遠心分離し、得られた沈殿物を、BSAを0.25(w/v)%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)4mlに添加し、ラテックスを懸濁させることにより抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0033】
(1−2)検体希釈液の調製
BSAを1%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)にLipidure(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸との共重合体:分子量100万;日本油脂社製)を0.2(w/v)%添加した。
【0034】
(実施例2)
実施例1の(1−1)抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液の調製において、得られた沈殿物にBSAを0.25(w/v)%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)5mlを添加するとともに、(1−2)検体希釈液の調製において、Lipidureを0.6(w/v)%添加した以外は、実施例1と同様にして、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を調製した。
【0035】
(実施例3)
実施例1の(1−1)抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液の調製において、得られた沈殿物にBSAを0.25(w/v)%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)12mlを添加するとともに、(1−2)検体希釈液の調製において、Lipidureを1.0(w/v)%添加した以外は、実施例1と同様にして、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を調製した。
【0036】
(比較例1)
実施例1の(1−2)検体希釈液の調製において、BSAを1%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)に、Lipidureの代わりにpGEMA(グリコシルエチルメタクリレートのホモポリマー、平均分子量114万、日本精化社製)を1(w/v)%添加した以外は実施例1と同様にして、抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を調製した。
【0037】
(評価)
(1)抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液の測定
抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液として、梅毒陽性標準血清(積水化学工業社製、5濃度)16μLを採取し、これに検体希釈液175μLを混和し、37℃で適時保持した後、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液25μLを添加、撹拌した後、約80秒から300秒までの間の波長700nmでの吸光度の変化量を測定し、吸光度変化量(△abs)とした。測定は自動分析装置日立7170型を使用した。結果を表1に示した。なお、T.U.は抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬であるメディエースTPLA(積水化学工業社製)で血清を測定した場合の抗トレポネーマ・パリダム抗体の抗体価を表す単位であり、10T.U.以上を陽性とする。
【0038】
【表1】

【0039】
(2)添加回収試験
生理食塩水245μLに、2,000T.U.の抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液5μLを添加し、評価(1)と同様の方法で添加前後の吸光度変化量を測定することにより、添加前後の抗体価の測定値の差を求めた。同様にして、5種類の梅毒陽性血清245μLのそれぞれに2,000T.U.の抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液5μLを添加し、添加前後の抗体価の測定値の差を求めた後、生理食塩水に抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液を添加した場合における添加前後の抗体価の測定値の差を100%として回収率を算出した。結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、Lipidureを反応促進剤として使用した実施例1〜3では、各検体ともpGEMAを反応促進剤として使用した比較例1よりも添加回収率が大幅に改善していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、血清干渉の発生を防止して、梅毒の感染の診断を精度良く行うことが可能な抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅毒感染の診断に用いられる抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬であって、
抗トレポネーマ・パリダム抗原を担持した不溶性担体と、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来するセグメント及び親水性モノマーに由来するセグメントを有する共重合体とを含有する
ことを特徴とする抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬。
【請求項2】
抗トレポネーマ・パリダム抗原は、トレポネーマ・パリダム菌体由来抗原であることを特徴とする請求項1記載の抗トレポネーマ・パリダム抗体測定試薬。