説明

抗体のクラスを変換する方法

【課題】 抗体のクラスを変更する方法の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、抗体産生B細胞が産生するモノクローナル抗体の重鎖定常領域遺伝子を所望の他のクラスの重鎖定常領域遺伝子と置き換えた、キメラ重鎖抗体遺伝子を作製し、該キメラ遺伝子を元の抗体産生細胞へ形質導入することにより、所与のモノクローナル抗体産生B細胞を所望の他のクラスに変化した抗体を産生するB細胞に転換する手段を提供するものである。また、本発明の手段により取得される所望の他のクラスに変化した抗体も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体のクラスを変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は特定の抗原を認識することで、様々な生体内現象を惹起し、生体内防御の担い手として重要な役割を果たしている。特に、抗体による抗体依存性細胞障害(ADCC;antibody dependent cell−mediated cytotoxicity)活性や、補体依存性細胞障害(CDC;complement dependent cytotoxicity)活性は、ガン細胞などの除去に有効であることから制ガン剤としての用途に用いられている。このような抗体の作用に着目し、実用化された抗体製剤も多く、良好な治療効果を示す製剤も少なくない。さらに、医薬製剤としての用途以外においても、例えば、種々の診断検査薬、あるいは、研究開発上の有効なツールとして広く使用されている。従って、各用途に応じた種々の抗体を多量かつ容易に提供する技術が必要となってくる。
【0003】
任意の抗原に対して高い特異性を持つ抗体を多量かつ容易に生産する技術として、ADLibシステムと称される方法が注目を浴びつつある(特許文献1、非特許文献2参照)。この方法によると、所望の特異性及び親和性を有する抗体を簡便な方法により提供することができる。この方法により生産される抗体は、主としてIgMであるが、上述した抗体の様々な用途に対応するためには、IgM以外の他のクラス(IgG,IgA,IgD,IgE)の抗体を調製する必要も生じてくる。
【0004】
抗体のクラスを変換する方法としては、B細胞を特定の組成物で刺激することにより高い効率でIgAクラスを発現させる方法(特許文献2)、トランスジェニック非ヒト動物を用いて所望のアイソタイプを産生させる方法(特許文献3)など、様々な方法が報告されているが、現在のところ、有効に実用化されるに至ったものは少ない。B細胞は本来抗体を産生する浮遊細胞であるため、高濃度の抗体産生、高密度培養などの点で、他の動物細胞発現系に無い長所があり、B細胞で所望のクラスの抗体産生が可能になることで、抗体産生の効率を向上することが可能になる。しかしながら、既にスクリーニングされたモノクローナル抗体産生B細胞に、抗体重鎖の定常領域遺伝子を形質導入し、産生モノクローナル抗体を他のクラスに変換する有効な手法は開発されていなかった。
【0005】
【非特許文献1】Seoら,Nature Biotech. 23:731−735, 2005
【特許文献1】国際公開公報WO2004/011644
【特許文献2】国際公開公報WO96/27390
【特許文献3】国際公開公報WO99/03991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記事情に鑑み、抗体のクラスを簡便に変換する方法に関し鋭意研究を行った結果、抗体産生B細胞から産生される抗体の重鎖可変領域遺伝子と所望のクラスの重鎖定常領域遺伝子とのキメラ重鎖遺伝子を、主として該抗体産生B細胞に形質導入することのみで、所望のクラスの定常領域を保持した抗体を、該抗体産生B細胞から産生させ得ることを明らかにした。このような手法だけでは、細胞内で改変型キメラ抗体重鎖と既に存在する抗体軽鎖がアセンブリーするかどうかは不明であったが、解析の結果、意外にも有効な機能を保持するキメラIgGの生成が確認された。この手法によれば、CHO細胞などで行われているように軽鎖と重鎖の双方を形質転換する必要がないため、キメラ抗体の作製の手順が少なくとも1/2となる。また、本来抗体を産生している浮遊性のB細胞を用いるため、抗体の大量発現などに適した細胞株が容易に入手できるなどの利点があることが判明した。
よって、本発明は、産生する抗体のクラスが変換した抗体産生B細胞の調製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(8)に関する。
(1)本発明の第1の態様は、「元来産生するモノクローナル抗体のクラスと異なるクラスの抗体を産生する抗体産生B細胞を改良又は調製する方法であって、以下の(a)及び(b)の工程を含む方法。
(a)抗体産生B細胞が元来産生するモノクローナル抗体の重鎖遺伝子の可変領域遺伝子と、他のクラスの定常領域遺伝子とを作用可能に連結したキメラ遺伝子を作製する工程、
(b)工程(a)で作製したキメラ遺伝子を発現ベクターに発現可能に挿入し、該発現ベクターを該抗体産生B細胞に形質導入する工程」である。
(2)本発明の第2の態様は、「前記モノクローナル抗体産生B細胞から元来産生される抗体のクラスがIgMである上記(1)に記載の方法」である。
(3)本発明の第3の態様は、「前記他のクラスがIgGである上記(1)又は(2)に記載の方法」である。
(4)本発明の第4の態様は、「前記抗体産生B細胞が、DT40細胞である上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の方法」である。
(5)本発明の第5の態様は、「前記抗体産生B細胞が、該細胞中に存在する全ての抗体重鎖遺伝子の機能を喪失しているものである上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法」である。
(6)本発明の第6の態様は、「前記定常領域遺伝子が、マウス由来である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の方法」である。
(7)本発明の第7の態様は、「前記定常領域遺伝子が、ヒト由来である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の方法」である。
(8)本発明の第8の態様は、「前記定常領域遺伝子が、ウサギ由来である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の方法」である。
(9)本発明の第9の態様は、「上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の方法により調製された細胞から取得した、クラスが変化した抗体」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る方法を用いることにより、目的抗原に対するモノクローナルIgM抗体産生B細胞を、所望のクラスの特性を有する抗体を産生するB細胞に容易に転換することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.抗体産生細胞
本発明において使用する細胞は、抗体を産生するB細胞であればいかなるものでも使用することができ、由来する動物の種類も、いかなる動物であってもよい。また、株化されたものでも、されていないものでも使用できるが、好ましくは、株化された細胞が使用され、特に好ましくは、ニワトリ由来B細胞の株化培養細胞であるDT40細胞である。
さらに、抗体産生細胞は、染色体に何らかの修飾(例えば、特定の遺伝子の組換え、挿入、削除等)が加えられた、誘導体株、サブラインも含む。例えば、元来保持していた抗体重鎖遺伝子の機能を低下又は喪失させるために修飾を加えた細胞であってもよい。抗体重鎖遺伝子の機能を低下又は喪失させる方法は、当該技術常識に基づいて容易に実施可能であるが、例えば、元来抗体産生細胞に内在する抗体重鎖遺伝子に突然変異を導入する方法、目的遺伝子全体を破壊する方法、RNA干渉(RNAi)を利用する方法、目的遺伝子に対するアンチセンスを細胞内に導入する方法等、当業者にとって周知の方法が使用可能である。好ましくは、目的遺伝子に突然変異を導入する方法、目的遺伝子全体を破壊する方法又はRNA干渉(RNAi)を利用する方法であり、より好ましくは、目的遺伝子全体を破壊する方法又はRNA干渉(RNAi)を利用する方法であり、最も好ましくは、目的遺伝子全体を破壊する方法である。
【0010】
本発明で用いる細胞の培養条件は当該技術分野において周知の方法によって行われるが、選択される抗体産生B細胞に適した培地、培養条件(培養温度、CO濃度)下で行われることは言うまでもない。しかして、選択される抗体産生細胞がDT40細胞である場合、例えば、培地はIMDM(Invitrogen社)を用い、培養温度は例えば39.5℃、5%のCO濃度条件下で行う。培養は、細胞濃度を一定に保ちながら行い、適当な期間毎(例えば、日毎、週毎)に目的の細胞から産生される抗体のクラスのチェックを行う。
【0011】
2.キメラ抗体重鎖遺伝子の調製
本発明を実施するにあたり、目的の抗体産生B細胞から元来産生される抗体の重鎖遺伝子の調製は、当該技術分野における通常の技術常識に基づいて行うことができる。例えば、目的の抗体産生B細胞からRT−PCR法などを用いて、目的の抗体重鎖遺伝子領域を増幅し、適当なベクター等にクローニングすることができる。この場合、RT−PCRに用いるプライマーは、抗体産生細胞の所持する遺伝子に関する公知のデータベースなどから、抗体重鎖遺伝子の配列情報を取得し、この情報に基づいて容易に設計することができる。
また、元来産生している抗体の重鎖遺伝子の定常領域を他のクラスの定常領域と置き換えるためには、他のクラスの定常領域をコードする遺伝子を調製する必要がある。この遺伝子は、当該他のクラスの定常領域が由来する細胞などのライブラリーなどから取得するか、または、公知の遺伝子配列情報に基づいて、適当なcDNAライブラリーなどから、目的の遺伝子をPCR法により増幅することができる。
【0012】
取得した抗体産生B細胞由来の抗体重鎖遺伝子の可変領域遺伝子と、他のクラスの定常領域遺伝子を作用可能に連結する必要がある。ここで、「作用可能に」とは、可変領域遺伝子と他のクラスの定常領域遺伝子とを連結した場合に、定常領域遺伝子が所望のポリペプチドを発現し得るように、すなわち、定常領域遺伝子の読み枠(フレーム)を可変領域遺伝子の読み枠と一致させた状態で連結させることを意味する。可変領域遺伝子と他のクラスの定常領域遺伝子とは直接結合されても、又は、スぺーサーとなるアミノ酸配列が挿入されていてもよい。スペーサーが挿入される場合でも、定常領域遺伝子が所望のポリペプチドを発現し得るように、その読み枠(フレーム)を調整する必要があることは言うまでもない。また、他のクラスの定常領域遺伝子に、さらなる遺伝子、例えば、精製を容易にするためのタグとなるようなペプチド(例えば、Hisタグなどのエピトープタグペプチド、GSTなど)をコードする遺伝子などが作用可能に連結させてもよい。
上記のように作製したキメラ遺伝子は、抗体産生B細胞由来の抗体重鎖遺伝子の可変領域遺伝子がコードするポリペプチドに、他のクラスの定常領域遺伝子がコードするポリペプチドが連結されたキメラ状態の抗体重鎖ポリペプチドをコードする。
【0013】
3.キメラ抗体遺伝子発現ベクターの細胞内への導入
作製したキメラ遺伝子を、適当な発現ベクターに組み込むことにより、キメラ状態の抗体重鎖ポリペプチドを発現させることができる。発現ベクターとしては、用いた抗体産生B細胞内で目的タンパク質を発現可能にする、プロモータ−、エンサンサーなどの構成要素を有するものがよい。
作製した発現ベクターの抗体産生B細胞への導入は、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質による方法等、公知の方法を使用して容易に行うことができる。
【0014】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
1.細胞培養
DT40細胞の細胞培養は、基本的には、以下の方法で行った。培養機はCO恒温槽を用い、5%のCO存在下、39.5℃で培養した。培地は、IMDM培地(Invitrogen社)を用い、10%FBS、1%ニワトリ血清、ペニシリン100単位/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、2−メルカプトエタノール 55μMを加えて使用した。また、トリコスタチンA(和光純薬)は、DMSO 2mg/mlに溶解したものをストックとし、最終濃度が1.25ng/mL、m2.5ng/mLとなるように、適宜培地で希釈して用いた。
【0016】
2.抗FITC抗体産生B細胞取得
FITC共役BSAを抗原とし、ADLibシステムにより抗体産生細胞を得た。具体的には以下の実験プロセスをとった。
2−1.FITC共役BSA磁気ビーズの作製:
磁気ビーズはDynabeads M−280 Tosylactivated(Dynal社)を、また磁気スタンドはDynal MPC(Dynal社)を用いた。ビーズ200μlを500μlのバッファーA(0.1M Na−Phosphate pH7.4)で3回洗った後、バッファーA200μl中で120μgのFITC共役BSA(SIGMA社)と37℃で一晩、回転により攪拌しながら反応させた。次にビーズをバッファーC(PBS+0.1% BSA)、200μlで2回洗浄した。その後バッファーD(0.2M Tris−HCl pH8.5、0.1% BSA)、200μlを加え、37℃で4時間、回転により攪拌しながら反応させ、ブロッキングを行った。その後500μlのバッファーCで2回洗浄した後、0.02%アジ化ナトリウムを含むバッファーC200μlに懸濁した。
【0017】
2−2.FITC共役BSA磁気ビーズによる抗体産生クローンの選択
トリコスタチンA、2.5ng/mlで処理した野生型DT40細胞約1×10個を洗浄バッファー(1%BSAを含むPBS)10mlで1回、さらに1mlで一回洗浄したのち、1mlの洗浄バッファー中でFITC共役BSA磁気ビーズ5×10個と混合し、4℃で30分間、穏やかに回転させつつインキュベートした。その後1mlの洗浄バッファーで5回洗浄した。最後に、磁気ビーズに結合した細胞を500μlに懸濁し、これを30mlの培地に加えたのち、96穴プレートに300μlずつ分注し、39.5℃で培養した。
【0018】
2−3.抗FITC抗体産生クローンのスクリーニング
ELISAは以下のとおりに行った。上記2−2のステップの6日後、FITC共役BSA 2.5μg/mLで96穴イムノプレートU−96 Maxisorp (Nunc社)に100μLずつ分注し一晩放置した。なお、抗体の特異性を検討するために、コントロールとしてFITCラベルしていない、BSAも同様にプレートに固定した。翌日プレートの中身を捨て、ブロッキングバッファー(0.5% スキムミルクを含むPBS)200μLを入れ、室温で2時間インキュベートした。ELISA洗浄バッファー(0.05% Tween20を含むPBS)200μLで3回洗浄した。上記2−2で選別して生じたコロニー由来の培養上清それぞれ100μLを入れ、室温で1時間インキュベートした。ELISA洗浄バッファー200μLで5回洗浄したのち、二次抗体をPBSで2000倍に希釈したものを100μL入れ、室温で45分インキュベートした。なお二次抗体は抗ニワトリIgM−HRP(BETHYL社)を使用した。ELISA洗浄バッファー200μLで5回洗浄したのち、TMB+(Dako社)100μL入れ、10分インキュベートした。その後反応を1Nの硫酸100μLで停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0019】
3. 抗FITCニワトリIgMとマウスIgG2aキメラ抗体(以下、キメラ抗体)遺伝子の作製
3−1.トータルRNA抽出
抗FITC抗体産生細胞からのトータルRNA抽出には、RNeasy Plus Mini kit(QIAGEN社)を使用し、キットに添付のマニュアルに従って抽出作業を行った。なお、その際、細胞ライセートの調製にはQIAshredder(QIAGEN社)を使用した。
3−2.RT−PCRによる抗FITCニワトリIgM重鎖遺伝子の単離
抗FITC抗体重鎖遺伝子は、RT−PCRにより単離した。RT−PCRはInvitrogen社のOne Step RT−PCRを用いた。トータルRNA 1μlを鋳型とし、2種のプライマー(VH−F1:配列番号1、VH−R:配列番号2)を用いた。反応条件は以下の通りである。55℃、30minの後、94℃で2min処理し、94℃15秒、60℃で30秒、68℃で1分を28サイクル行った。その後68℃で5分インキュベートした。RT−PCRにより得られた重鎖断片はDH5α株を用いてpCR2.1−TOPOベクター(Invitrogen社)にTAクローニングし、pANTI−FITC−HCを得た。シークエンスの確認はABI社ABIprism377シーケンサーにより行った。
【0020】
3−3.マウスIgG2aの単離
マウスIgG2aクローニングはMouse Spleen BD Marathon−ReadycDNA(Clontech社)を鋳型とし、2種のプライマー(mIgG2aF−1:配列番号3、mIgG2aR−1:配列番号4)を用いてPyrobest polymerase(宝酒造)によりPCRにて行った。反応条件は以下の通りである。98℃2分の後、98℃30秒、55℃30秒、72℃2分を30サイクルの後、72℃で5分反応させた。ここで得られたマウスIgG2aのFc領域断片は、ExTaq(宝酒造)を加えて72℃15分反応させることで「A」を付加し、DH5α株を用いてpCR2.1−TOPOベクター(Invitrogen社)にTAクローニングし、pMIgG2aを得た。なお、シークエンスの確認はABI社ABIprism377シーケンサーにより行った。
【0021】
3−4.抗FTICニワトリIgM−マウスIgG2a融合遺伝子作製
抗FITCニワトリIgMとマウスIgG2aキメラ抗体(以下、キメラ抗体)遺伝子は、Pyrobest polymeraseによりPCRを用いて作成した。はじめに、 (i)pANTI−FITC−HCを鋳型とし、プライマーはVH−F1およびGdIgM−CH1+mIgG2a−R:配列番号5の組み合わせ、さらに(ii)pMIgG2aを鋳型としてプライマーはGdIgM−CH1+mIgG2a−F:配列番号6およびmIgG2aR−1:配列番号4で行った。なお、条件は98℃2分の後、98℃30秒、55℃30秒、72℃1分を15サイクルの後、72℃で5分反応させた。(i)および(ii)で増幅されたバンドをQiaquick Gel Extraction Mini kit(QIAGEN社)により精製し、断片を1μLずつ混合したものを鋳型とし、(i)、(ii)と同様の反応条件でPCRを行った。なお、プライマーはVH−F1および、mIgG2aR−1を用い、以下の条件で行った。得られたキメラ遺伝子断片はExTaq(宝酒造)を加えて72℃15分反応させることで「A」を付加し、DH5α株を用いてpCR2.1ベクターにTAクローニングし、pANTI−FITC−mG2aを得た。シークエンスの確認はABI社ABIprism377シーケンサーにより行った。
【0022】
4.キメラ抗体遺伝子発現コンストラクト作製およびその導入
4−1.キメラ抗体発現コンストラクトの作製
発現ベクターはpEGFP−C1(Clontech社)を使用した。pEGFP−C1を制限酵素NheI及びBamHIで消化し、クレノウフラグメント(Klenow fragment)(宝酒造)によりベクターの末端を平滑化したのち、BAP(宝酒造)により脱リン酸化処理した。インサートとなるキメラ遺伝子は、pANTI−FITC−mG2a由来のEcoRI断片を平滑化して得た。ベクター、インサートともにQiaquick Gel Extraction kit(Qiagen社)により精製したのち、Ligation kit ver2(宝酒造)によりライゲーションを行った。トランスフォーメーションはDH5α株に行った。
【0023】
4−2.遺伝子導入
上記4−1で得られたキメラ抗体の発現コンストラクトを、抗FITC抗体産生株に遺伝子導入した。遺伝子導入は、エレクトロポレーションを用いて行った。約20μg相当を制限酵素MluIにより消化して一本鎖にし、精製後、PBS、500μLに溶解した。抗FITC抗体産生株約10個に対し、約550V、25μFの条件でエレクトロポレーションを行ったのち氷上で10分放置し、20mLの培地に移し、37℃で一晩培養した。翌日培養液を遠心(190xg、10分)し、細胞をペレットに回収後、2mg/mLのG418(Invitrogen社)を含む培地80mLに懸濁し、96穴プレートに、200μL/穴で分注した後、39.5℃で培養した。
【0024】
5.キメラ抗体の発現および抗原認識の確認
ELISAは以下のとおりに行った。FITC共役BSA10μg/mLで96穴イムノプレートU−96 Maxisorp(Nunc社)に100μLずつ分注し一晩放置した。なお、抗体の特異性を検討するために、コントロールとしてFITCラベルしていない、BSAも同様にプレートに固定した。翌日プレートの中身を捨て、ブロッキングバッファー(0.5% スキムミルクを含むPBS)200μLを入れ、室温で2時間インキュベートした。ELISA洗浄バッファー(0.05% Tween20を含むPBS)200μLで3回洗浄した。その後キメラ抗体産生候補クローン18クローン由来の培養上清それぞれ100μLを入れ、室温で1時間インキュベートした。ELISA洗浄バッファー200μLで5回洗浄したのち、二次抗体をPBSで2000倍に希釈したものを100μL入れ、室温で45分インキュベートした。なお二次抗体は抗マウスIgG−HRP(BETHYL社)を使用した。ELISA洗浄バッファー200μLで5回洗浄したのち、TMB+(Dako社)100μL入れ、10分インキュベートした。その後反応を1Nの硫酸100μLで停止し、650nmの吸光度を測定した。結果を図1に示す。ナンバー3のクローンが、マウスIgG2aとのキメラ抗体を発現していることが確認できた。
【0025】
6.精製キメラ抗体の生化学的検証
上記5で調製したナンバー3のクローンからキメラ抗体を精製し、その特性についてさらに詳細な検討を加えた。
6−1.精製キメラ抗体の調製
6−1−1.ニワトリ血清成分の調製
500xgで遠心し、沈殿物を除去したニワトリ血清(Invitrogen社)10mLに飽和硫安溶液10mLを加え、4℃で一晩硫安沈殿を行った。翌日9100xgで15分間遠心し、上清をとった。再度9100xgで15分間遠心し、上清をとった。上清は0.45μmのフィルター(ザルトリウス社)でろ過し、透析チューブ(スペクトラポア社、MWCO:3500,9.3mL/cm)に移し、1LのPBSに対し3回(うち2回は4時間、1回は一晩)、4℃で透析した。翌日透析チューブからサンプルを取り出し、Centriplus YM3(Millipore社)により、2330xgで10mLになるように濃縮した。濃縮後、0.22μmのフィルター(ザルトリウス社)により滅菌し、適量ずつ分注して−30℃にて凍結保存した。
【0026】
6−1−2.培養上製の作製
抗FITCのキメラ抗体産生ナンバー3のクローンを、無血清培地AIM−V(Invitrogen社)に、ニワトリ血清成分を5%添加して作製した培地(以下、「準無血清培地」と呼ぶ)で培養した。細胞を2x10/mLになるように準無血清培地で希釈したものを14cmシャーレ(Nunc社)4枚分にそれぞれ50mL(計200mL)ずつ準備した。これをCOインキュベータで39.5℃、5%COで5日間培養した。ここで得られた培養液を2330xgで15分間遠心し、上清を回収した。上清は再度2330xgで15分間遠心し、これを培養上清とした。
【0027】
6−1−3.キメラ抗体の精製
MabTrap kit(GEヘルスケア社)を用い、マニュアルに従ってキメラ抗体を精製した。ペリスタポンプを用い、ほぼ全量の培養上清をMabTrapにかけた(コントロール用に10mLだけ分取した)。10mLのbinding bufferで洗浄し、5mLのelution bufferで溶出した。その際、1mLずつ5本のフラクションで回収した。タンパク濃度が最大の溶出フラクション(No.2)をSlide−A−Lizer(10K)(PIERCE社)によりPBSに透析した。
【0028】
6−2.精製キメラ抗体を用いたELISAによる検討
精製キメラ抗体をx5,x25,x125,x625,x3125,x15625倍希釈したものでHRP標識抗マウスIgG二次抗体を用いて、FITCに対してELISAを行った。なお、ELISAは「5.キメラ抗体の発現および抗原認識の確認」と同様に行った。結果を図2に示す。精製キメラ抗体がELISAレベルでFITCに反応していることを示している。
【0029】
6−3.ウエスタンブロット法による精製キメラ抗体のキャラクタリゼーション
精製キメラ抗体をウエスタンブロットで解析した。4% ポリアクリルアミドゲル(BioRad社)で電気泳動し、ナイロンメンブレン(Millipore社)に転写後、5%スキムミルクでブロッキングし、HRP標識した抗マウスIgG二次抗体を反応させた。0.1%Tween20を含むPBSで15分ずつ3回洗浄し、ECL plus(GEヘルスケア社)による化学発光でシグナルを得た。なおシグナルは、LAS−1000(富士写真フィルム)により検出した。結果を図3に示す。精製キメラ抗体は抗マウスIgG二次抗体に反応し、特異的なバンドが生じている。なお培養上清のレーンにおいて、キメラ抗体のバンドが精製キメラ抗体のそれよりも移動度が大きいが、これはAIM−V培地に含まれる、重鎖に分子量の近いタンパク質の量が極めて多いためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、抗体産生B細胞が産生する抗体のクラスを用途に応じた所望のクラスに変更させることができるため、抗体製剤、抗体診断薬等の分野、または、研究上のツールとして広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、DT40細胞が産生する抗FITC抗体とマウスIgG2aとのキメラ抗体の産生の有無を確認した結果を示す。
【図2】図2は、HRP標識抗マウスIgG二次抗体を用いた精製したキメラ抗体に対するELISAの結果を示す。
【図3】図3は、HRP標識抗マウスIgG二次抗体を用いた精製したキメラ抗体に対するウエスタンブトロティングの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元来産生するモノクローナル抗体のクラスと異なるクラスの抗体を産生する抗体産生B細胞を改良又は調製する方法であって、以下の(a)及び(b)の工程を含む方法。
(a)抗体産生B細胞が元来産生するモノクローナル抗体の重鎖遺伝子の可変領域遺伝子と、他のクラスの定常領域遺伝子とを作用可能に連結したキメラ遺伝子を作製する工程、
(b)工程(a)で作製したキメラ遺伝子を発現ベクターに発現可能に挿入し、該発現ベクターを該抗体産生B細胞に形質導入する工程
【請求項2】
前記モノクローナル抗体産生B細胞から元来産生される抗体のクラスがIgMである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記他のクラスがIgGである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体産生B細胞が、DT40細胞である請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記抗体産生B細胞が、該細胞中に存在する抗体重鎖遺伝子の機能を喪失しているものである請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記定常領域遺伝子が、マウス由来である請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記定常領域遺伝子が、ヒト由来である請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記定常領域遺伝子が、ウサギ由来である請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法により調製された細胞から取得した、クラスが変化した抗体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−291073(P2009−291073A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256757(P2006−256757)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(505368531)株式会社カイオム・バイオサイエンス (2)
【Fターム(参考)】