説明

抗体の精製のためのプロセス

本発明は、タンパク質を精製するための方法および組成物に関する。非イオン性ポリマー(例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよび、ポリマーとしてポリエチレングリコール)を用い、タンパク質凝集物を除去するクロマトグラフィー工程と、その後に、溶解度を高める添加剤(例えば、尿素化合物、アルキレングリコールまたは双性イオン、特に、グリシン)を用いたイオン交換クロマトグラフィー工程とを含む、タンパク質、特に、IgMを精製するための方法が本発明により提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願との相互参照)
本願は、米国特許仮出願第61/058545号(2008年6月3日出願)からの優先権を主張する。この仮特許出願は、その全体が参照により、本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、タンパク質を精製するための方法および組成物に関し、特に、イオン交換クロマトグラフィー中に、抗体の溶解度を高め、凝集物の生成または閉塞を防ぐために、凝集物を除去し、溶解度を高める添加剤(例えば、双性イオンを含有する組成物)を使用することを含み、凝集物を実質的に含まない高純度タンパク産物が得られるような、抗体精製プロセスのための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
IgM抗体は、血液およびリンパ液中にみられ、通常は、感染に対する反応時に作られる第1の種類の抗体であり、これにより、他の免疫系細胞が、異物を破壊するようにしむけることができる。IgMは、有望な治療用途を有しているが、IgMは、標準的な抗体精製ツールの適用を限定してしまうような、いくつかの特性を有する。IgMは、IgGよりも溶解度が低い傾向があり、極端なpH条件や、導電率の低い条件では変性(凝集物精製を含め、析出)しやすい。IgMは、一般的に、イオン交換クロマトグラフィーでは有用であり得る高い塩濃度には強いが、疎水性の強い表面にさらされると変性しやすく、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)での有用性が限定されてしまう場合がある。さらに、IgMは、適度に低い塩濃度であれば、十分に規定されるピークとして、HICで使用するような疎水性が中程度の担持体から溶出させることができるが、疎水性が中程度の媒体に対して良好な能力を担保するのに好ましいような、もっと高い塩濃度では、IgMは析出してしまうであろう。IgMは、典型的に、IgGよりも帯電しているため、IgMは、イオン交換体およびヒドロキシアパタイトに対してIgGよりも強く結合し、ほとんどの夾雑物よりもかなり強く結合することが多い。IgMが大きいことも、拡散定数が小さくなるため、精製の際に課題となることがあり、物質移動が拡散に依存する、多孔性粒子に基づくクロマトグラフィー媒体の場合には問題となることがある。拡散速度が遅いことは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)にとっては特に制限事項となり、すでに、容量が低くなり、流速が遅くなるという問題をかかえている。
【0004】
IgMのいくつかの特性が、標準的な生成ツールの用途を限定する場合があるが、IgMモノクローナルの電荷特性は、IgGではほとんどうまくいかないか、まったくうまくいかないような精製の機会を与えることもある。これらの電荷特性によって、生成物に不必要なストレスを与えることなく、少ない工程で精製する、全く異なるプロセスを開発することができる。実際に、臨床品質のIgMの精製は、一般的に、ヒドロキシアパタイト、アニオン交換、カチオン交換を用いた3種類の結合−溶出クロマトグラフィー工程で達成することができる。IgM精製の改良は、ほとんど、高い結合能を有し、大きな流速に耐えることができる能力を有するモノリス状イオン交換体を使用することによる。さらに、モノリス状および膜状のイオン交換体は、拡散ではなく、物質移動の対流に依存しており、拡散は、大きさおよび流速に依存しないため、容量および分解能は、IgMが大きいことによって影響を受けない。また、アフィニティ工程を行わないことは、精製を効率的に行い、経済的な精製プロセスにするために、良い影響を与える。サンプルをローディングするためにライン内での希釈を用いることによって、中間的なダイアフィルトレーションを避けることは、プロセスの経済性を高める場合がある。それぞれの工程で、回収率は、IgG精製で達成される回収率に匹敵している非特許文献1;Gagnonら、IgM Purification:The Next Generation,13th Annual Waterside Conference,Miami,February 4−6,2008、www.validated.comで、Document No.PSG−080129として入手可能)。
【0005】
(凝集物除去)
IgG、IgMのような抗体を含む多くのタンパク質は、凝集物を生成してしまうことがあり、治療用タンパク質として必要とされる純度を有するタンパク産物を得て、生成物の安全性を担保するために、精製中に除去しなければならない。凝集物の除去は、生成物の安全性を決める鍵となる因子であるが、プロセス開発の困難性が増し、精製コストが上昇し、最後の(「最終」)精製のオプションの中で、選択肢が制限されてしまうことがある。例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、凝集物を除去し、バッファーを交換することができるが、SECは、遅く、容量が少なく、過度に大きなカラムが必要な場合には、優れた充填技術が必要となり、必要なバッファー容積も大量となる。吸着による方法も、選択性が、タンパク質の大きさに直接関係しておらず、凝集物は、凝集していないタンパク質よりも強く保持される傾向があり(おそらく、吸着性固相との多くの相互作用が関与している)、クローン間の電荷分布、生成物の凝集している形態と凝集していない形態との電荷分布が変動するため、分離度が予測できないことから、凝集物を除去することに対する有用性は制限されている。
【0006】
非イオン性ポリマーおよびタンパク質は、抗体を沈殿させる薬剤として使用されることが多く、バッファーに加えると、タンパク質の大きさに比例した効果を与えることができる。非イオン性ポリマーおよびタンパク質は、吸着方法と適合する添加剤を与え、吸着方法によって凝集していない抗体から凝集物を分離する性能を高め、ヒトに注射可能な製品を処理するための規制基準を満たすように選択することができる。例えば、非イオン性ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)は、毒性がないと考えられ、USPグレードのものが容易に入手可能であり、タンパク質を安定化させる性質を有し、高価ではない。PEGは、タンパク質表面から優先的に除外されるため、タンパク質の周りに、純粋な水による水和の覆いが作られ、純水による覆いと、PEGが濃縮した塊状の溶媒との間の不連続性が、熱力学的に好ましくない。タンパク質がPEG溶液と接触すると、互いに水和水をいくらか共有し、それによって、塊状の溶媒にいくらかが放出され、個々のタンパク質の表面積があわさったものよりも小さな表面で存在する。タンパク質の表面積が、タンパク質の大きさに比例するため、非イオン性有機ポリマーが与える影響の大きさは、タンパク質の大きさに比例し、ポリマーの長さおよび濃度を選ぶことによって高めることが可能な、サイズ選択性が得られる。例えば、IgMを沈殿させるPEG−6000(バッファー添加剤として)の割合の範囲は、IgGを沈殿させる割合の範囲よりも低い。
【0007】
PEGによって付与されるサイズ選択性は、他の用途にも用いることができ、その結果、PEGの効果を、種々のクロマトグラフィー分離中に活用することができる。PEGが、イオン交換条件でバッファー添加剤として含まれる場合、イオン交換によって、凝集していない小さなタンパク質を、大きな凝集物から分離することができる。また、PEGを含有するバッファーを用い、ヒドロキシアパタイトで凝集物を分離することができ、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによって凝集物を除去することができる。通常は、他の夾雑物に対するPEGの効果を予想することができ、これらの効果を考慮し、生成物精製中に、最適なクリアランスを達成することができる。例えば、宿主細胞のタンパク質(HCP)は、一般的に、IgGよりも小さく、PEGがこれらのカラム保持時間を長くする効果は少ないはずであり、一方、DNA、内毒素、ウイルスは、一般的に、IgGよりも大きく、PEGがこれらのカラム保持時間を長くする効果は大きいはずであり、生成物からの夾雑物の分離性は良好になるはずである。したがって、PEGを用い、凝集物の除去効率を顕著に高め、所望な場合、他の夾雑物、特に、ウイルス粒子を含む夾雑物の除去性を高めることができる(Gagnonら、サンファン、プエルトリコ、2007年4月23〜25日の12th Annual Waterside Conferenceで示された「Nonionic Polymer Enhancement of Aggregate Removal in Ion Exchange and Hydroxyapatite Chromatography」、www.validated.comで、Document No.PSG−070430として入手可能)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gagnonら、Purification of IgM Monoclonal antibodies,BioPharm International Supplements,March 2008,pages 26−35(2008年3月2日)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特定の実施形態では、タンパク産物と、このタンパク産物の凝集物とを含むサンプルから、タンパク産物を精製するプロセスを提供し、このプロセスは、(i)上述のタンパク産物の凝集物を除去するために非イオン性ポリマーの使用を含む第1のクロマトグラフィー工程で、上述の非イオン性ポリマーが、このクロマトグラフィー条件で上述のタンパク産物の凝集物からの上述のタンパク産物の分離を促進するのに十分な濃度で存在し、その結果、実質的に凝集物を含まないタンパク産物を含むフラクションが、この工程の後に集められる、第1のクロマトグラフィー工程と;(ii)溶解度を高める添加剤と、上述の第1のクロマトグラフィー工程で得たタンパク産物を含むフラクション、またはその後で、上述の第1のクロマトグラフィー工程で得たタンパク産物を含むフラクションから誘導され、得られたタンパク産物を含むフラクションとを混合し、上述の溶解度を高める添加剤が、双性イオン、尿素化合物、アルキレングリコールからなる群より選択される工程と;(iii)イオン交換クロマトグラフィー(または、第1のクロマトグラフィー工程がイオン交換クロマトグラフィーである場合、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)の使用を含む第2のクロマトグラフィー工程で、上述の溶解度を高める添加剤が、タンパク産物の溶解度を高め、このクロマトグラフィー条件で実質的に閉塞を防ぐのに十分な濃度で存在し、この溶解度を高める添加剤が、第2のクロマトグラフィー工程を妨害しないような、第2のクロマトグラフィー工程と、を含み、このプロセスによって、実質的に凝集物を含まない、精製されたタンパク産物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例3に記載したような、セラミックヒドロキシアパタイト(CHT)クロマトグラフィーによる、IgM抗体LM1を初期精製する際のリファレンスプロフィールを示し、タンパク質の合計量(A280、A300)、濁度(A600)、導電性、pHを連続して測定した。
【図2】図2は、実施例3に記載したような、アニオン交換クロマトグラフィーによる、LM1を中間精製する際のリファレンスプロフィールを示し、タンパク質の合計量(A280、A300)、濁度(A600)、導電性、pHを連続して測定した。
【図3】図3は、実施例3に記載したような、アニオン交換クロマトグラフィーによる、LM1中間精製中のLM1溶出ピークの高分解能リファレンスプロフィールを示し、タンパク質の合計量(A280、A300)、濁度(A600)、導電性、pHを連続して測定した。
【図4】図4は、実施例3に記載したような、カチオン交換クロマトグラフィーによる、LM1を最終(最後の)精製する際のリファレンスプロフィールを示し、タンパク質の合計量(A280、A300)、濁度(A600)、導電性、pHを連続して測定した。
【図5】図5は、実施例3に記載したような、カチオン交換クロマトグラフィーによる、LM1最終精製中のLM1溶出ピークの高分解能リファレンスプロフィールを示し、タンパク質の合計量(A280、A300)、濁度(A600)、導電性、pHを連続して測定した。
【図6】図6は、最終精製後に、精製されたLM1をHPSECによってサイズ排除クロマトグラフィー分析する際のリファレンスプロフィールを示し、タンパク質の合計量(A280、A300)、濁度(A600)、導電性、pHを連続して測定した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、特定の実施形態では、第1のクロマトグラフィー分離工程において、凝集物の除去を促進するための非イオン性ポリマーの使用を含み、次いで、イオン交換クロマトグラフィー工程を含む精製プロセスによる、タンパク産物を精製するための方法および組成物を提供し、ここで、この方法以外では閉塞しやすいプロセス条件で、イオン交換クロマトグラフィーを含む第2のクロマトグラフィー工程において、特定の溶解度を高める添加剤は、タンパク産物の溶解度を高め、閉塞を阻止するのに十分高い濃度で使用される。本明細書で使用する場合、クロマトグラフィー工程に関連する第1および第2という表示は、相対的な順序を指すが、第1工程の前、または第1工程と第2工程との間にある、クロマトグラフィー工程を含むプロセスを除外するものではない。
【0012】
本開示は、特定の実施形態では、非イオン性ポリマーの使用を含む第1のクロマトグラフィー工程と、イオン交換クロマトグラフィーを含む第2のクロマトグラフィー工程とを含み、本発明の溶解度を高める添加剤を用いない場合、精製プロセス条件のイオン交換中に、タンパク産物は、凝集物を生成するか、またはそれ以外の方法で閉塞を促進してしまう場合がある、混合物からタンパク産物を精製する多段階工程プロセスのための方法および組成物を提供する。特定の実施形態では、このプロセスは、溶解度を高める添加剤を使用する前に、混合物からの凝集物の除去を促進するための少なくとも1つの工程で、非イオン性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))を使用することを含む。
【0013】
非イオン性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)を用いることを含む第1のクロマトグラフィー工程から下流の地点で、タンパク産物の凝集物からのタンパク産物の分離を促進するために、溶解度を高める添加剤と、タンパク産物を含むフラクションとを混合する。特定の実施形態では、第1のクロマトグラフィー工程から集めたタンパク産物を含むフラクションを、溶解度を高める添加剤を含む組成物に集める。さらなる実施形態では、第1のクロマトグラフィー工程の後に集めたタンパク産物を含むフラクションに、さらに分離工程または精製工程を行い、次いで、これらから誘導され、得られたフラクションを、溶解度を高める添加剤と混合する。
【0014】
溶解度を高める添加剤は、特定の実施形態では、タンパク産物の溶解度を促進するが、イオン交換クロマトグラフィーの実施を妨害しないような十分に低い導電性を有する双性イオンである。特定の実施形態では、このプロセスは、この方法以外では凝集または閉塞しやすいプロセス条件で、双性イオン(例えば、グリシン)を、タンパク産物の溶解度を高め、閉塞を阻止するのに十分な濃度で使用することを含み、双性イオンを含有する組成物は、少なくとも1つのイオン交換工程で使用するのに適しており、このプロセスによって、凝集物を実質的に含まない高純度タンパク産物が得られる。
【0015】
ある例示的で非限定的な実施形態では、混合物から、例えば、細胞培養物の上澄みからIgMを精製する多段階工程プロセスで使用するための方法および組成物が提供され、このプロセスは、少なくともいくつかのIgM凝集物を除去する少なくとも1つの工程で、PEGを含有するバッファーを使用することを含み、IgM(IgMモノマー)を豊富に含むサンプルを提供し、このプロセスは、導電率が低い双性イオンを含有する組成物を使用することをさらに含み、プロセス条件下でのイオン交換工程の下流で、この方法以外では凝集しやすいか、または閉塞しやすいプロセス条件での、IgMの溶解度を高め、IgMの凝集物生成を阻止するのに十分な濃度で双性イオンは、存在し、このプロセスは、少なくとも1つのイオン交換工程を含み、このプロセスによって、凝集物を実質的に含まない高純度IgM産物が得られる。
【0016】
本明細書で提供される場合、特定の精製プロセス工程中に、タンパク質の溶解度を高め、凝集物の生成または閉塞を防ぐために、双性イオンを含有する組成物を使用することによって、タンパク質の溶解度を高め、凝集物の生成を防ぐために高濃度の塩バッファーを使用する場合(高濃度の塩バッファーは、イオン交換媒体と直接適合可能ではない)とは対照的に、イオン交換媒体と直接適合可能な、導電率が低いサンプルバッファーが得られる。さらに、本明細書で提供される場合、凝集物の除去性を高めるために、非イオン性ポリマーを含有するバッファーを、双性イオンを含有する組成物に直接導入し、タンパク質の溶解度を高め、凝集物の生成を実質的に防ぎ、それによって、精製されたタンパク産物の収率および/または品質に影響を与えるような、脱塩、ポリマーの除去、またはバッファーの交換といったさらなる操作を避けることができる。本方法および本組成物によって、別個の全く異なる精製工程と適合させることが可能になる。
【0017】
本開示は、ある例示的で非限定的な実施形態では、細胞培養物の上澄みからIgMを精製する多段階工程プロセスで使用するための方法および組成物を提供し、このプロセスは、IgM凝集物からのIgMモノマーの分離性を高め、少なくともいくつかのIgM凝集物の除去を可能にする様式で、少なくとも1つの工程でPEGを使用することを含み、このプロセスは、その後の工程で、導電率が低い双性イオンを含有する組成物を使用することをさらに含み、双性イオンは、この方法以外では凝集しやすい条件で、IgMの溶解度を高め、IgMの凝集物生成を阻止するのに十分な濃度で存在する。このプロセスは、さらに、イオン交換精製工程を含み、双性イオンを含有する組成物は、このようなイオン交換工程を妨害しない。一実施形態では、イオン交換クロマトグラフィー中に凝集物が生成しやすいか、または閉塞しやすい条件で、IgMの溶解度を高め、IgMの凝集物の生成または閉塞を阻止するのに十分な濃度で、グリシンを、双性イオンとして使用する。さらに、多くの用途で、この精製プロセスを一旦開始したら、高められた溶解度を維持し、凝集物生成のリスクを減らすために、中断せずに確実に完結させることに注意をはらうべきである。
【0018】
溶解度を高める添加剤は、特定の実施形態では、双性イオン、尿素、尿素誘導体、例えば、アルキル尿素(メチル尿素、エチル尿素など)またはアルキレングリコール(例えば、エチレングリコールまたはプロピレングリコール)である。本発明の異なる種類の溶解度を高める添加剤について、機構は異なっていると考えられるが、すべて、タンパク産物を含むフラクションと、タンパク産物を含むフラクション中にその前のクロマトグラフィー工程でこれらを使用した結果存在する非イオン性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)とが関与するイオン交換クロマトグラフィー工程において、タンパク産物の精製度を高めると考えられる。特定の実施形態では、溶解度を高める添加剤が尿素である場合、尿素は、6モル濃度までの濃度で存在してもよいが、好ましくは、2モル濃度未満の濃度で存在する。特定の実施形態では、溶解度を高める添加剤がエチレングリコールである場合、エチレングリコールは、50%までの濃度で存在してもよいが、好ましくは、20%未満の濃度で存在する。過剰な濃度のエチレングリコールまたは尿素は、IgM抗体にいくらか損傷を与える場合があるため、ある実施形態では、溶解度を高める添加剤の濃度は、第2のクロマトグラフィー工程中の閉塞を防ぐのに必要な、ほぼ最少の濃度になるように調節される。
【0019】
(双性イオンを含有する組成物)
本方法および本組成物で使用するのに適した双性イオンは、電気的に中性であるが、形式的に、異なる原子に正電荷と負電荷を有する化学化合物であると理解される。双性イオンは、極性であり、通常は、水に対し高い溶解度を有し、ほとんどの有機溶媒への溶解度は低い。
【0020】
グリシン(Gly;G)は、イオン化可能なアミノ基と、イオン化可能なカルボン酸基とを有する小さなアミノ酸である。水溶液中、中性pHまたは中性付近のpHで、グリシンは、大部分は双性イオンとして存在するであろう。グリシンの等電点または電位が等しくなるpHは、グリシン分子が存在する環境下で、アミノ基のpK値とカルボン酸基のpK値との中央に位置すると理解される。グリシンは、1モル濃度あたりの誘電率の増分が約18であり、グリシンは、溶媒の極性をかなり高めると理解され、これにより、タンパク質のような帯電した分子の溶解能が高くなるはずである。水の誘電率は約80であるが、ほとんどの生命体では、水の誘電率は約100である。1.0Mグリシンの誘電率も約100である。グリシンは、本明細書で提供する方法および組成物で使用するのに適した双性イオンである。この理論によって限定されることを望まないが、グリシンは、特に、本明細書で提供される方法および組成物で使用されるpH範囲でグリシンが双性イオンであり、その結果、グリシンが、溶液の導電性になんら寄与せず、したがって、その後のイオン交換工程を妨害しないため、本方法および本組成物で使用するのに適していることがわかっている。グリシンの緩衝能は、本明細書中で提供される方法および組成物で使用するpH範囲では、低いか、ゼロであるため、グリシンは、バッファー調製を顕著に妨害するわけではないことを理解されたい。グリシンが、タンパク質とイオン交換体との相互作用に及ぼす影響は、ゼロであるか、ほとんど測定できないレベルであることが観察されており、本明細書で提供される精製プロセスの実施に対し、グリシンが望ましくない影響を与えることは観察されていない。
【0021】
他の適切な双性イオンとしては、限定されないが、酸性基と塩基性基の両方を含む(両性)ような、両性電解質の等電点では双性イオンとして存在する両性電解質、「グッド(Good)」バッファー、例えば、アミノスルホン酸系バッファーであるMESバッファー、MOPSバッファー、HEPESバッファー、PIPESバッファー、CAPSバッファー、アミノ酸(アミノ−カルボン酸)バッファー、例えば、グリシン、その誘導体であるビシンおよびトリシン、アラニン、洗浄剤として使用可能なバッファー、例えば、CHAPSO、特定のアルカロイドおよびベタインを含む天然産物があげられる。
【0022】
用語「双性イオンを含有する組成物」は、本明細書全体で使用する場合、この方法以外では凝集しやすい条件で、タンパク質の溶解度を高め、凝集物の生成を阻止するのに十分な濃度で双性イオンを含有する、緩衝化された溶液および緩衝化されていない溶液を包含する。本明細書で提供されるような双性イオンを含有する組成物の含有量は、組成物の目的となる使用によって変わってもよく、当業者は、特定の使用を目的とする双性イオンを含有する組成物にとって適切な含有量を決定することができる。以下の実施例で記載する非限定的で例示的な実施形態では、双性イオンを含有する組成物のいくつかは緩衝化されておらず、例えば、約pH7(±0.2)の1.0Mグリシン(緩衝化されていない)水溶液であり、他の例示的な実施形態では、双性イオンを含有する組成物は、緩衝化剤と、他の要素(例えば、50mM Tris、1Mグリシン、2mM EDTA(pH8.0)、または50mM MES、1.0Mグリシン(pH6.2)、またはバッファーB:20mMクエン酸塩、1.0Mグリシン(pH6.2))とを含む。例示的な実施形態で示されるように、目的の機能にとって十分な双性イオン(例えば、1.0Mグリシン)を含む、双性イオンを含有する組成物は、双性イオン系緩衝化剤(例えば、MES)または非双性イオン系緩衝化剤(例えば、Tris)をさらに含んでいてもよい。
【0023】
本明細書で提供される双性イオンを含有する組成物が、特定の使用に十分な濃度で双性イオンを含む場合、この組成物は、特定の使用に必要な最少濃度よりも過剰な濃度で双性イオンを含んでいてもよいことが理解される。双性イオンを含有する組成物は、予防的な手段として、なんらかの望ましくない影響を与えずに、特定の使用に必要な最低量よりも高い濃度で双性イオンを含んでいてもよい。当業者は、特定の使用に適した双性イオン濃度を決定することができ、同様に、双性イオン濃度を上げた場合、または下げた場合の影響を決定することができる。
【0024】
さらに、この方法以外では凝集しやすいか、または閉塞しやすいイオン交換プロセス条件で、本明細書で提供される双性イオンを含有する組成物を使用すると、凝集または閉塞のリスクは下がるが、凝集または閉塞のようなリスクをなくすことはできないことも理解されたい。したがって、凝集しやすい条件にさらされる時間を最小限にするために、このプロセスを中断せずに完結させることが有益な場合がある。
【0025】
(精製プロセス)
本開示は、限定されないが、サンプルを捕捉し、凝集物を除去する工程、および種々の精製段階を含む、多段階工程の精製プロセスのための方法および組成物を提供し、プロセス条件が、精製されたタンパク質が凝集しやすい条件である場合に、溶解度を高める添加剤を含有する組成物を使用する。
【0026】
特に、本開示は、IgMまたはIgAのような抗体を精製するのに有益に使用可能な、多段階工程の精製プロセスのための方法および組成物を提供する。当業者は、任意のタンパク質を精製するために、本明細書で提供される方法および組成物を実施することができることが理解されるが、以下に記載する非限定的な記載は、本方法および本組成物を抗体精製に使用することに特に注目している。さらに、当業者は、任意の抗体を精製するために、本明細書で提供される方法および組成物を実施することができることが理解されるが、以下に記載する非限定的な記載、および実施例で与えられる例示的な実施形態は、IgMを精製するために、本方法および本組成物を使用することに特に対処したものである。IgMを精製するために本方法および本組成物を使用する、以下の非限定的な記載および実施例中の非限定的な記載は、当業者が、他のタンパク質を精製するために本発明を行うことができるように、十分な助言と、作業例を与える。
【0027】
本開示は、タンパク質を精製する多段階工程プロセスのための方法および組成物を提供し、この工程を行うための物質、試薬、条件は、特定の用途の条件および環境に依存して、当業者が選択することができる。同様に、本開示は、タンパク質を精製する多段階工程プロセスのための方法および組成物を提供し、この工程は、任意の順序で行ってもよい。
【0028】
ある局面によれば、凝集物の除去は、非イオン性ポリマー(例えば、PEG)を含むバッファー中にタンパク産物を含有する溶液を、サイズ排除では機能しないクロマトグラフィー媒体(例えば、ヒドロキシアパタイトまたはイオン交換媒体)にローディングして提供され、その結果、タンパク産物(モノマー)が、少なくともいくつかの凝集物から分離され、タンパク産物を豊富に含み、凝集物を実質的に含まないサンプルが集められる。当業者は、異なるクロマトグラフィー媒体および条件を用いる、PEGを含有するバッファーの最適な使用を決定することができる。本開示によって限定されることは望まないが、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー(特に、セラミックヒドロキシアパタイトを用いる)中にPEGを含有するバッファーを用いて凝集物を除去することは、信頼性が高く、達成しやすいことがわかったが、アニオン交換クロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィー中にPEGを含有するバッファーを用いて凝集物を除去することは、問題がある場合があり、さらに、アニオン交換媒体またはカチオン交換媒体から、PEGを含有するバッファーで溶出したサンプルは、新しく凝集物を生成することがあり、再び懸濁させるさらなる処理(例えば、高濃度の塩および/またはグリシン)が必要であった。
【0029】
別の局面によれば、プロセス条件が、凝集しやすいと思われる場合、タンパク産物を含む溶液は、冷却、低いpH、または低い導電性のような、凝集しやすいプロセス条件で、タンパク産物の溶解度を高め、凝集物の生成を阻止するのに十分な濃度で、双性イオンを含む。一実施形態では、タンパク産物を含む溶液を、双性イオンを含有する環境に導入する。例えば、タンパク産物を含む溶液を希釈した後に、双性イオンの有効性が維持されるような、双性イオンの濃度が十分に高い、双性イオンを含有する組成物に上述の溶液を集める。特に、グリシンを含有する組成物は、プロセス条件が凝集しやすい条件である場合に使用するのに適している。当業者は、グリシンを含有する溶液の溶媒の極性が上がることにより、タンパク質のような帯電した分子に対する、溶液の溶解能が上がるため、グリシンによって、タンパク質の溶解度が上がるであろうことを理解するであろう。一例として、PBS中10mg/mlで濁るポリクローナルIgM溶液は、1Mグリシン中、100mg/mlで無色透明である。グリシンが、この精製プロセスで使用するpH範囲で双性イオンであるため、グリシンが、導電性になんら寄与せず、したがって、その後のイオン交換工程を妨害しないことを、当業者は理解するであろう。同様に、グリシンの緩衝能は、本方法および本組成物で使用するpH範囲ではゼロであるため、グリシンは、バッファー調製を顕著に妨害するわけではない。最後に、タンパク質とイオン交換体との相互作用は、高い誘電率を有する溶媒中では、わずかに弱くなるが、イオン交換基が、溶媒と競争しなければならないことが理解されているため、約100の誘電率を有するグリシンが、タンパク質とイオン交換体との相互作用に及ぼす影響は、多様な例示的な実施形態では、ほとんど測定可能なレベルではないことが観察されており、その結果、グリシンは、本精製プロセスに及ぼす現実的な影響はなんら観察されなかった。グリシンを、約50mM〜約5M、または約100mM〜約4M、または約250mM〜約3M、または約500mM〜約2M、または約750mM〜約1Mの範囲の濃度で、本明細書で提供するような、溶解度を高める添加剤として使用することができる。グリシンを、約50mM、または約100mM、または約250mM、または約500mM、または約750mM、または約1M、または約1.1M、または約1.2M、または約1.3M、または約1.4M、または約1.5M、または約1.6M、または約1.7M、または約1.8M、または約1.9M、または約2Mの溶液で使用することができる。グリシンを、予防的な手段として、所望の効果(例えば、タンパク質の溶解度を高めること、および/または凝集物の生成を避けること)を達成するのに必要な濃度よりも高い濃度で使用することができ、当業者は、特定の用途で許容されるグリシン濃度を決定することができることが理解される。
【0030】
本明細書に提供されるようなタンパク産物の精製によって、凝集物を実質的に含まない、精製されたタンパク産物が得られる。凝集物を実質的に含まない、精製されたタンパク質サンプルの凝集物の含有量は、本明細書で提供されるように、約5%未満であってもよく、約1%未満、または約0.5%未満、または約0.1%未満であると予想され、凝集物の含有量を測定するのに使用する方法の検出限界未満であってもよい。特に、凝集物を実質的に含まない、精製されたIgMサンプルの凝集物含有量は、約5%未満であってもよく、約1%未満、または約0.5%未満、または約0.1%未満であると予想され、凝集物の含有量を測定するのに使用する方法の検出限界未満であってもよい。
【0031】
本明細書で提供されるタンパク産物精製を、生成物を分離し、回収するために、線形勾配、段階的な勾配、または線形勾配と段階的な勾配との組み合わせを用いて行ってもよい。ある局面によれば、凝集物および/または他の夾雑物(例えば、HCP)からタンパク産物を良好に分離するために、線形勾配を用いてもよい。別の局面によれば、溶出した生成物の容積を減らすために、段階的な勾配を使用してもよい。同じ終点に到達するための、線形勾配および/または段階的な勾配の選択は、どちらの選択によって、純度および凝集物の含有量に影響を与え得る選択性をわずかに移動させるかという理解によってなされる。段階的な勾配および/または線形勾配の選択は、段階の間隔の設定点が、部分的に、カラムローディングの関数であり、貫流容量の95%までローディングされたカラムの設定点が、50%までローディングされたカラムの設定点よりもかなり低いという理解からなされる。特定の実施形態に対し、勾配を選択し、使用することは、当業者に既知の因子および方法を用いて行うことができる。
【0032】
(初期精製)
初期精製を達成するために、第1工程を実施し、タンパク産物を豊富に含むフラクションが得られる。初期精製が、サンプルの捕捉を含む場合、初期精製の後に集めた、タンパク産物を豊富に含むフラクションは、出発物質よりも、タンパク産物の濃度が高いと予想される。初期精製が、サンプルの捕捉を含まない場合、タンパク産物を豊富に含むフラクションは、タンパク産物の濃度が顕著に高くなっているわけではないが、それでも、出発物質中の少なくともいくらかの夾雑物から分離するため、タンパク産物を豊富に含むであろう(例えば、出発物質が、特定の夾雑物と結合するが、タンパク産物とは結合しない媒体を通る)。初期精製が、凝集物の除去を含む場合、タンパク産物を豊富に含むフラクションは、凝集物を実質的に含まないと予想される。初期精製が、凝集物の除去を含まない場合、凝集物は、別の精製工程で除去されるであろう。一実施形態では、第1工程によって、サンプルが捕捉され、凝集物が除去され、初期精製が達成され、タンパク産物を非常に豊富に含み、凝集物を実質的に含まないフラクションが得られ、タンパク産物の濃度は、出発物質中の濃度よりも高い。別の実施形態では、第1工程によって、サンプルが捕捉され、初期精製が達成されるが、第1工程は凝集物の除去は含まず、出発物質中の濃度よりも高いタンパク産物濃度を有するフラクションが得られ、このフラクションは、タンパク産物を少なくともいくらかの夾雑物から分離するため、タンパク産物を豊富に含み、フラクションは、第1工程の前および/または第1工程の間に生成した凝集物を含む。場合により、このプロセス条件が凝集しやすい条件であると予想される場合、初期精製は、双性イオンを含有する組成物を用いて行ってもよい。
【0033】
(中間精製)
中間精製を達成するために別の工程を行い、初期精製の後に集めたフラクションよりもタンパク産物をさらに非常に豊富に含む、タンパク産物フラクションが得られる。初期精製が、サンプルの捕捉を含まなかった場合、タンパク産物の濃度を高めるためのサンプル捕捉を、中間精製の間に行ってもよい。初期精製が、凝集物の除去を含まなかった場合、凝集物の除去を、中間精製の間に行ってもよい。一実施形態では、サンプルの捕捉と凝集物の除去を含む初期精製の後、さらに濃縮され、実質的に凝集物を含まないタンパク産物フラクションを、イオン交換(例えば、アニオン交換またはカチオン交換)でさらに精製し、もっと高い純度を有する、濃縮され、実質的に凝集物を含まないタンパク産物フラクションが得られる。別の実施形態では、サンプルの捕捉を含む初期精製の後、濃縮されたタンパク産物フラクションを、凝集物の除去を含む中間精製でさらに精製し、より高い純度を有する、濃縮され、実質的に凝集物を含まないタンパク産物フラクションが得られる。別の実施形態では、タンパク産物を特定の夾雑物から分離する初期精製の後、サンプルの捕捉および凝集物の除去を含め、タンパク産物フラクションをさらに精製し、より高い純度を有する、濃縮され、実質的に凝集物を含まないタンパク産物フラクションが得られる。中間精製を、双性イオンを含む組成物存在下で行ってもよいし、存在しない状態で行ってもよく、このプロセス条件が、凝集しやすい条件である場合、中間精製を、双性イオンを含有する組成物を用いて行うであろうことが理解される。
【0034】
(最後の、最終精製)
タンパク産物の最後の、または「最終」精製を達成するために、さらなる工程を行う。この工程の後に集めたタンパク産物フラクションは、99%を超える純度を有すると予想され、検出可能な夾雑物または凝集物は存在しない。最終精製を、双性イオンを含有する組成物または他の溶解度を高める添加剤存在下で行ってもよいし、存在しない状態で行ってもよく、このプロセス条件が、凝集しやすい条件である場合、最終精製を、双性イオンを含有する組成物を用いて行うであろうことが理解される。最終精製を、限定されないが、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを含む任意の適切な方法を用いて行うことができる。
【0035】
(さらなる工程)
本明細書で提供されるような精製プロセスは、限定されないが、濾過、ウイルス不活性化(例えば、溶媒/洗浄剤(S/D)による方法)、またはさらなる夾雑物除去工程を含むさらなる工程を含んでいてもよい。このプロセスは、任意の濾過、脱塩、ダイアフィルトレーション、またはバッファー交換工程を含んでいてもよいが、本明細書で提供される方法および組成物は、多くのこのような工程を減らすか、またはなくすと予想される。例えば、多段階工程で集めたサンプルの純度、サンプルの凝集物含有量を評価するため、種々のプロセスパラメーターの効果を決定するために、分析のための測定は、このプロセス中の任意の時間点で行われてもよい。最終精製の後で集めたIgMフラクションの純度を、SEC分析(例えば、実施例4のHPSEC)、電気泳動による測定(例えば、変性ゲルまたは未変性ゲルによる電気泳動、IEF、1−D電気泳動または2−D電気泳動など)、ペプチドフィンガープリンティング(GC−MS、Maldi−TOFなど)のような種々の分析による測定で評価することができる。ある局面によれば、最終精製した後のタンパク産物フラクションのSEC分析(例えば、HPSEC)を行い、タンパク産物の純度が99%を超え、検出可能な夾雑物を含まないことを確認することができる。
【0036】
(プロセス工程の順番)
本明細書で提供されるプロセス工程の順序は、非イオン性ポリマーを用いて凝集物が除去され、必要な場合、溶解度を高める添加剤(例えば、双性イオンを含有する組成物)を用いて、高められた溶解度を維持し、クロマトグラフィー態様との適合性を付与するような予防措置がとられる限り、任意の順序にしたがってもよい。以下の実施例で記載する例示的な実施形態では、第1の精製工程は、PEG存在下(凝集物の分離、除去のための)、セラミックヒドロキシアパタイト(CHT)でのサンプルの捕捉、凝集物の除去、初期精製を含み、CHTから得たフラクションを、次の工程であるアニオン交換媒体での中間精製と適合性である双性イオンを含有する組成物に集め、次いで、カチオン交換媒体での最終精製工程へと続く。本発明にしたがって、異なる工程順序を用い、精製を行うことができる。別の実施形態では、第1工程は、サンプルの捕捉、カチオン交換での初期精製、次いで、CHT(PEGを含む)での中間精製および凝集物の除去、最後の工程であるアニオン交換による最終精製を含む。さらに別の実施形態では、第1工程は、アニオン交換でのサンプルの捕捉、初期精製、次いで、CHT(PEGを含む)での中間精製および凝集物の除去、最後の工程であるカチオン交換による最終精製を含む。さらに別の実施形態では、第1工程は、カチオン交換でのサンプルの捕捉、初期精製、次いで、アニオン交換による中間精製、CHTでの凝集物の除去、最後の工程である最終精製を含む。さらに別の実施形態では、第1工程は、アニオン交換でのサンプルの捕捉、初期精製、次いで、カチオン交換での中間精製、次いで、CHTでの凝集物の除去、最後の工程である最終精製を含む。
【0037】
特定の実施形態では、第1のクロマトグラフィー工程は、凝集物を除去するのに十分な量でポリエチレングリコールを含むカチオン交換クロマトグラフィーを含み、第2のクロマトグラフィー工程は、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーまたはアニオン交換クロマトグラフィーを含む。特定の他の実施形態では、第1のクロマトグラフィー工程は、凝集物を除去するのに十分な量でポリエチレングリコールを含むアニオン交換クロマトグラフィーを含み、第2のクロマトグラフィー工程は、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィーを含む。
【0038】
(IgM抗体の精製)
本開示は、IgMを精製するのに有益に使用可能な特定の方法および組成物を提供する。IgMの特定の特性によって、少ない工程で有意なIgMの精製が達成される条件で、全く異なる精製手順を開発し、用いることができ、これにより、回収されるIgMの収率および/または純度を下げるような不必要な工程をなくすことができる。例えば、ほとんどのIgM(モノクローナルIgMを含む)は、高度に帯電しており、したがって、中程度のpH値で、高い結合能を保持するイオン交換体によって、十分強く保持される。それに加えて、IgMは、IgM精製でヒドロキシアパタイトを使用しやすい生理学的なpH値および導電性で、ヒドロキシアパタイトに強く結合する。
【0039】
したがって、精製に有益であろうIgMの特定の特徴を利用し、IgMの特定の特徴のために、精製中に生じ得る問題を減らすか、または避ける方法および組成物が提供される。例えば、IgMの精製は、IgGの精製とは異なっており、IgMは、IgGよりも可溶性である条件範囲が狭い傾向があり、IgMは、IgGよりも変性しやすく、IgMは、疎水性表面(例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー中)にさらされると変性してしまうことが多く、IgMは、極端なpHに感受性であり、IgGのアニオン交換またはアフィニティ精製で通常使用する条件で沈殿する傾向があり、導電性の低い溶液は、IgMのpH感受性を悪化させる傾向がある。したがって、特定の実施形態では、溶解度を高める添加剤を使用すると、イオン交換クロマトグラフィー中の閉塞が抑制される。
【0040】
本方法および本組成物は、PEGを含有する溶液を使用し、細胞培養物の上澄みのような複雑な混合物からのIgM凝集物の除去性を高めることを含み、さらに、この方法以外では凝集しやすい条件で、イオン交換クロマトグラフィー中に双性イオンを含有する組成物(例えば、グリシンを約1.0Mで含む)を使用し、IgMの溶解度を高め、IgMを安定化させることを含む、IgM精製プロセスを提供し、ここで、このプロセスは、IgM精製プロセス中の新しい凝集物の生成を避けるか、または少なくとも減らすことを目的とする。
【0041】
本方法および本組成物の非限定的で例示的な実施形態を、以下の実施例に示す。実施例において、3種類の異なるモノクローナルIgMであるSAM6、CM1、LM1を、本明細書で提供したように精製する。以下に記載した実施形態では、以下の精製工程を実施する。(I)PEGを含有するバッファー存在下、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによるサンプルの捕捉、初期精製;(II)双性イオンを含有する組成物存在下、アニオン交換クロマトグラフィーによる中間精製;(III)双性イオンを含有する組成物存在下、カチオン交換クロマトグラフィーによる最終精製によって、凝集物を実質的に含まない、非常に精製されたIgMを得る。本明細書で提供される精製工程の順序は、このプロセスが、凝集物の除去を達成し、IgMの溶解度を高め、IgMの凝集を避けるために、双性イオンを含有する組成物を使用することを達成する様式で実施される限り、任意の順序にしたがってもよい。本明細書で提示する別の局面によれば、精製工程の順序は、異なる工程で、異なるクロマトグラフィー様式に適合するバッファーを与える様式で行ってもよい。
【0042】
(細胞培養物からのIgMの初期精製)
以下の実施例に示す例示的な実施形態では、PEGを含有するバッファー存在下、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを、サンプルの捕捉、凝集物の除去、初期精製工程に用い、IgMを非常に豊富に含み、凝集物を実質的に含まないフラクションが得られ、次いで、IgMを含有するフラクションを、双性イオンを含有する組成物に入れる。PEG存在下、IgM(モノマー)およびIgM凝集物は、ヒドロキシアパタイトに結合するが、バッファー添加剤としてのPEGが有するサイズ選択性の効果によって、異なる溶出プロフィールを有する。セラミックヒドロキシアパタイト(CHT)は、この工程に適している。
【0043】
サンプルをローディングした後に十分に洗浄することは、この工程で最適な精製性能を達成するのに重要であることを理解されたい。サンプルをローディングし、カラム(媒体)を十分に洗浄した後、線形勾配または段階的な勾配によって、塩濃度を所定の濃度まで高めることによってサンプルを溶出させ、その後、抗体ピークが溶出するまで、カラムをこの塩濃度に維持する。一例として、IgMは、5CVでリン酸ナトリウム125mMから350mMまでの線形勾配(実施例1、バッファーB25%から70%)を用いて、または、5CVでリン酸ナトリウム165mMから365mMまでの線形勾配(実施例2、バッファーB33%から73%)によって、または5CVでリン酸ナトリウム100mMから325mMまでの線形勾配(実施例3、バッファーB20%から65%)によって、CHTから溶出させることができる。すべてのバッファーは、pH7.0であり、10% PEG−600を含んでいた。
【0044】
ヒドロキシアパタイトから溶出させている間、溶出ピークの前側で初期に溶出する夾雑物を除外することが予想される戦略にしたがって、IgM溶出ピークの中心部からフラクションを集めることによって、サンプル精製度を高めることができ、さらに重要なことに、IgM溶出ピークの後側で、IgMより後に溶出する凝集物を除外することが予想される。以下に記載するように、IgM溶出ピークを、双性イオン(例えば、1Mグリシン)を含有する組成物に直接集めることができる。凝集物が存在することによって濁りが生じることがあるため、「無色透明」のIgM溶出ピークは、おおよそ凝集物を含んでいないと考えられ、IgMフラクションは、1Mグリシンに集めた後も透明なままである。線形勾配の部分を、段階的な勾配に変換し、溶出する生成物の容積を減らすことができる。
【0045】
初期精製工程の後のサンプルの純度(例えば、タンパク質合計量の%として、保存されているIgM溶出ピークフラクションのIgM含有量)は、約50%を超えていてもよく、または約60%を超えていてもよく、または約70%を超えていてもよく、または約80%を超えていてもよく、または約85%を超えていてもよく、または約90%を超えていてもよく、または約95%を超えていてもよい。当業者は、特定の用途のために、この工程の後にサンプルの純度を測定することができ、所望な場合、サンプルの純度を高めるために、プロセス条件を変えてもよい。以下の例示的な実施形態では、CHTの後のSAM6サンプルの純度は、90%を超えており、可能な場合、95%を超えており(実施例1)、CHTの後のLM1サンプルの純度は、90%であった。以下の実施例2の例示的な実施形態では、CHTの後のCM1サンプルの純度は、わずか約50%であったようだが、その後のアニオン交換工程で、夾雑物が簡単に除外されたので、許容範囲であると考える。
【0046】
初期精製工程が、PEGを含有するバッファー存在下、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーである場合、この工程は、主要な凝集物除去工程を提供する。タンパク質サンプルの凝集物の含有量(サイズ排除クロマトグラフィー分析によって、タンパク質合計量の%として測定)は、約5%未満であってもよく、約1%未満であると予想される。特に、IgMサンプルの凝集物の含有量は、約5%未満であってもよく、約1%未満であると予想される。凝集物の含有量が、約1%よりも大きい場合、当業者は、凝集物からIgMを良好に分離するために、例えば、ヒドロキシアパタイトから溶出させるときの最終塩濃度を下げることによって、溶出条件を変えることができる。特定の実施形態では、凝集物の存在は、G4000SWXLを用いたサイズ排除クロマトグラフィー分析で検出することができず、検出限界は、約0.1%であると推定され、その結果、検出可能な凝集物が存在しないことは、一般的に、凝集物の含有量が0.1%未満であることを示すと解釈する。その後の精製工程からのIgMフラクションを分析し、凝集物は、完全に存在しないか、またはほとんど存在せず、このことは、出発物質中にみられた凝集物が、細胞培養中に生成していることを示唆している。この結果は、IgGでみられる凝集物生成パターンと一致している。しかし、この工程の後で、残りの精製プロセス中に新しい凝集物が生成してしまう条件を避けなければならない。したがって、残りの精製プロセス中に、IgMの溶解度を高め、凝集物の生成を避けるために、双性イオンを含有する組成物を使用すべきである。
【0047】
当業者は、この工程で適切であろうPEGポリマーおよび濃度を特定することができる。以下に記載する非限定的な実施形態では、PEG−600およびPEG−1000は、同じ濃度で、相互に置き換え可能に使用することができる。PEG−1000の効果の方がわずかに大きく、抗体の溶出を少し遅らせ、同様に、凝集物の除去性を高めることが観察されている。PEGを完全に取り除くと、IgMは、かなり速く溶出すると考えられ、洗浄バッファーおよび溶出バッファーの塩濃度をそれに応じて調節した。
【0048】
1Mグリシンの双性イオン濃度は、必要な濃度より高くてもよく、このように、予防的な措置であると考えてもよい。IgM産物の収率および/または純度に対するリスクがない状態で、グリシンの濃度を下げることが可能であるが、分取用の精製であっても、大スケールの精製であっても、グリシン濃度を下げる前に、双性イオン濃度を下げたときの影響を実験的に確認しておくべきである。
【0049】
以下に示すように、溶媒/洗浄剤(S/D)によってウイルスを不活性化する方法を、この工程中、抗体がCHTに結合している間、またはCHTから溶出させた後に行ってもよい。
【0050】
(II.アニオン交換クロマトグラフィーによる、IgMの中間精製)
以下の実施例に示す例示的な実施形態では、中間精製工程中にIgMサンプルをさらに精製するために、双性イオンを含有する組成物存在下、アニオン交換を行ってもよい。例示的な実施形態では、凝集物の除去は、CHTでの初期精製中に、PEGを含有するバッファーを用いて達成されたため、その後の精製工程中の溶液は、PEGを含んでおらず、IgM溶解度を高め、凝集物の生成を避けるのに十分な濃度で双性イオン(グリシン)を含んでいる。アニオン交換クロマトグラフィーによるIgMの中間精製を、CHTでの初期精製の後、可能な限りすぐに、例えば、CHTでの初期精製が終了して24時間以内に開始することが推奨される。
【0051】
例示的な実施形態では、サンプル溶液のpH(CHTから集めたIgM溶出ピークを1Mグリシンに入れ、保存しておいたフラクション)を、適切な高いpH(Tris 50mM、pH8.0)に調節し、アニオン交換媒体(例えば、CIM(登録商標) QA(CIM(登録商標)Convective Interaction Media,BIA Separations,Klagenfurt,Austria)のような、四級アミン強アニオン交換体)にローディングした。DEAEまたはEDAのような弱イオン交換体を含む、QAよりも容量が高いであろう、他のアニオン交換媒体を使用してもよいが、弱アニオン交換体に対する選択性および緩衝効果の違いにより、もっと広範囲なカラム平衡化のような調整が必要になる場合があり、溶出中のpHコントロールがうまくいかない場合もある。利用可能な場合、以下の実施例に示すような、モノリス形態のアニオン交換体を使用してもよいが、モノリス型ではないアニオン交換体を使用してもよく、流速のようなプロセスパラメーターを調節し、容量および夾雑物除去性、特に、ウイルス除去性の低下の可能性を考慮に入れておく。工程は、任意の順序で行ってもよいが、サンプルが、高い塩濃度で第1工程から溶出する場合(例えば、IgMがCHTから高い塩濃度で溶出する場合)、アニオン交換は、カチオン交換よりも塩耐性が高いため、第2の工程としてアニオン交換クロマトグラフィーを行うことが有益な場合があり、その結果、比較的高い塩濃度でCHTから溶出したフラクションは、特に、サンプルローディング中に、かなり希釈した後に、アニオン交換にともなう適合性の問題点を示さない。
【0052】
IgMを含有するサンプルを、ライン内で希釈することによってカラムにローディングし、凝集(変性)しやすいであろう、pH、バッファー組成または塩濃度の突然の変化にIgMがさらされるのを避ける。実施例に示される例示的な実施形態では、あるポンプで供給される、IgMを含有するサンプル1部を、異なるポンプで供給されるローディングバッファー2部に対してライン内で希釈することによって、全体的な希釈率は、CHTカラムから溶出したIgMフラクションの容積の10倍になった。他のライン内での希釈または異なるサンプルローディング技術を用い、中間精製にサンプルを導入することができた。
【0053】
サンプルをローディングした後、カラムを十分に洗浄し、物質の小さなピークを溶出させてもよい。線形勾配または段階的な勾配によって、塩濃度を所定の濃度まで高めることによってIgMを溶出させ、その後、抗体ピークが溶出するまで、カラムをこの塩濃度に維持する。実施例の例示的な実施形態では、NaClの勾配によって、約200mM NaCl、0.5MグリシンでSAM6が溶出し(実施例1)、約225mM NaCl、0.5MグリシンでCM1が溶出し(実施例2)、リン酸ナトリウムバッファーは、約250mMリン酸ナトリウム、0.5MグリシンでLM1を溶出させる。前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを集め、集めたフラクションを保存しておいた。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。溶出バッファーのpHが低い(6.2)ため、IgMを含有するフラクションの保存は、この工程の後、約24時間未満とすることが推奨される。アニオン交換は1時間未満で終了するが、流速を下げても、カラム性能は上がりも下がりもしないことが理解されているように、簡便化のために、ゆっくりと行ってもよい。ウイルス濾過工程が想定され、この工程があらかじめ行われていない場合、ウイルス濾過をアニオン交換工程による中間精製の後に行ってもよい。
【0054】
(カチオン交換クロマトグラフィーによる、IgMの最終精製)
次いで、中間精製の後に保存しておいたフラクションに、最後の精製または「最終」精製を実施する。実施例で示す例示的な実施形態では、アニオン交換クロマトグラフィーによる中間精製から溶出し、保存しておいたIgMを含有するフラクションを、双性イオンを含有する組成物を用いたカチオン交換クロマトグラフィーでさらに精製した。初期のバッファーの導電性値が低い(塩濃度が低い)ので、カチオン交換条件で、タンパク質の溶解度を維持し、凝集物の生成を避けるのに、双性イオンを含有する組成物(例えば、1Mグリシン)を用いることが重要である。適切な媒体としては、本方法および本組成物を当業者が実施することによって選択され、使用されることが可能な、スルホン酸系の強カチオン交換体であるCIM(登録商標)SO3(モノリス)、または種々の形態での他の強カチオン交換媒体または弱カチオン交換媒体が挙げられる。
【0055】
サンプルをローディングした後、カラムを十分に洗浄する。バッファー交換およびカラム適合性の問題は、IgMサンプルを、1Mグリシンを含むカチオン交換カラム平衡バッファーでライン内希釈する(例えば、10倍)ことによって避けることができる。
【0056】
線形勾配または段階的な勾配によって、塩濃度を所定の濃度まで高めることによってIgMを溶出させ、その後、抗体ピークが溶出するまで、カラムをこの塩濃度に維持する。前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側の所定のカットオフ値のところまでを集め、集めたフラクションを保存することによって高純度IgMを回収する。この溶液に任意の凝集物が存在する場合、任意の残留凝集物は、IgMピークの後側で溶出すると予想される。IgMピークの後側で、IgMフラクションを集めるためのカットオフ値は、最大ピーク高さの40%、または最大ピーク高さの30%、または最大ピーク高さの25%、または最大ピーク高さの20%、または最大ピーク高さの15%、または最大ピーク高さの10%であってもよい。
【0057】
この工程の回収効率は、カラムに添加された検出可能な全IgMの約75%を超えていてもよく、または、約80%を超えていてもよく、または、約85%を超えていてもよく、または、約90%を超えていてもよく、または、約95%を超えていてもよい。最終精製の後に集めたIgMフラクションの純度を、種々の分析による測定(例えば、実施例4のHPSEC)によって、評価することができる。最終精製の後の純度は、約80%を超えていてもよく、または、約90%を超えていてもよく、または、約95%を超えていてもよく、または、約99%を超えていてもよい。最終的なIgM調製物は、検出可能な凝集物を含まないことが予想される(すなわち、任意の凝集物が存在する場合、検出限界未満の量で存在する)。
【0058】
カチオン交換工程が行われる場合、凝集物の生成を避けるという観点から、カチオン交換によって、抗体が、凝集しやすい条件(低いpH、低い導電性)にさらされるため、カチオン交換工程が、プロセス全体で最も重要なプロセスであろうことを理解されたい。溶解度を最大にするために、高いグリシン濃度が非常に重要であるが、グリシン濃度または別の適切な双性イオンの濃度が高くても、凝集のリスクは減るだけで、相殺はされないことも理解されたい。本明細書で提供される方法および組成物は、望ましくない凝集生成を避ける、さらなる手段を提供する。例えば、カチオン交換中の中断は避けるべきであり、カチオン交換プロセスを一旦開始したら、中断せずに完結させることに注意をはらうべきである。
【0059】
他の意味であると定義されていない限り、本明細書で用いる技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解している意味を有する。本明細書で使用する場合、以下の用語は、他の意味であると特定されていない限り、その用語が属する意味を有する。
【0060】
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」および「〜である(is)」は、他の内容であることが明確に示されていない限り、複数形のものも含む。したがって、例えば、「1つの化合物(a compound)」と言えば、複数の化合物を含み、「1つの残基(a residue)」または「1つのアミノ酸(an amino acid)」と言えば、1つ以上の残基およびアミノ酸を指す場合も含む。
【0061】
本明細書で引用したすべての刊行物、特許、特許明細書を、明確に、あらゆる目的のために本明細書に参考として援用する。
【実施例】
【0062】
(実施例1.SAM6の精製手順)
(I.ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、サンプル捕捉および初期精製)
細胞培養物の上澄み1mlあたり、約200μgのIgMを含む細胞培養物の透明な上澄み1Lの出発物質から、SAM6 IgMを精製した。第1に、0.22ミクロン(0.22μm)フィルターを用い、細胞培養物の上澄みを濾過し、次いで、500mM リン酸Na(pH7.0)を1%(v:v)で加え、最終的なリン酸塩濃度が5mMのものを得た。サンプルにすでにリン酸塩が含まれている場合、リン酸塩濃度を少なくとも5mMにするのに必要な最小限の量の500mMリン酸Na(pH7)を、上述の濾過した上澄みに加えた。1M Tris(pH8.0)溶液を1%(v:v)で加え、最終的なTris濃度を10mMにすると、最終的なpHは6.8〜7.2になると予想された。このサンプル溶液を室温(18〜23℃)にした。
【0063】
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CHT II型、40ミクロン、ATOLL 11.3×100mmカラム
流速:100〜200cm/時間(Atollカラムで、1.67〜3.34ml/分)
バッファーA:10mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーB:500mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーC:1.0Mグリシン(緩衝化されていない)pH7(±0.2)
バッファーD:600mM KPO、pH7
バッファーE:1.0M NaOH
バッファーF:0.1M NaOHまたは20%エタノール、5mMリン酸ナトリウム pH7
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)
カラム(セラミックヒドロキシアパタイトCHTTM II型 40ミクロン(Bio−Rad Laboratories、ハーキュリーズ、カリフォルニア)、ATOLL Gmbhであらかじめ充填された11.3×100mmカラム)を、バッファーA(上述)で平衡化した。サンプルを、バッファーA 100カラム容積(100CV)に添加した。サンプルをローディングした後、カラムを、2〜5CVのバッファーAで洗浄した(洗浄1)。次いで、280nmでの吸光度A280を測定することによって決定される読みがベースライン値に戻るまで、カラムをバッファーB25%(125mMリン酸塩、10% PEG−600)で洗浄した(洗浄2)。
【0064】
バッファーB70%(350mMリン酸塩、10% PEG−600)までの線形勾配を有する1CVで、サンプルをカラムから溶出させ、次いで、生成物のピークが溶出するまで、カラムをバッファーB70%に保持した。0.5CVのフラクションを、1.15CVの1Mグリシン(バッファーC)に直接集めた。溶出したピークは、無色透明であり、グリシンで希釈しても無色透明のままであった。フラクションを4℃で保存した。推奨されるように、前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを、さらなる精製のために保存しておいた。この収集/保存方法によって、このサンプルピークの後側で溶出し始めると思われる凝集物が除外されると予想された。CHTカラムを5〜10CVのバッファーDで浄化し、バッファーEで再生させ、バッファーF中で保存した。
【0065】
流速20mg/時間、層の高さ10cmで、CHTでの初期精製には、サンプルをローディングするための約5時間を含め、約6時間が必要であった。サンプルのIgM純度は、90%を超えており、凝集物濃度は、1%未満であった。
【0066】
(初期精製に関する見解)
予備データから、100容積をCHT 1容積に添加した場合、IgMのほとんどが結合していることが示唆された。後で、カラムを通ったフラクションにおいて、生成物が顕著に失われていることが検出された場合には、サンプルの添加容積をそれに応じて減らすべきである。処理時間は、層の高さにともなって長くなり、その結果、層の高さを2倍にすると、処理時間が2倍になると算出された。したがって、このような条件で、層15cmで十分であるようなフルスケールの処理および、良好な充填剤性能を一定して与えることができるかによるが、層が10cmで、十分であると考えられ得る、フルスケールの処理の場合、層20cmを超えるべきではないと結論づけられた。
【0067】
サンプルをローディングした後に十分に洗浄することは、この工程で最適な精製性能を達成するのに重要である。この洗浄で大量のピークが溶出する場合、可能であれば、その後のIgM溶出ピークの大きさの2倍のピークが溶出する場合、生成物の見かけ損失は5%までであることが示唆され、このピークは、完全なIgMとフラグメントとを区別できない抗IgM抗体によって依然として検出されてしまうことが多いIgMフラグメントだけではなく、宿主細胞のタンパク質(HCP)のような種々の夾雑物を含んでいると考えられた。見かけのIgM損失を防ぐために洗浄バッファーの塩濃度を下げても、HPCによる夾雑物が増える場合がある。
【0068】
望ましい場合、または必要な場合、溶媒/洗浄剤(S/D)によってウイルスを不活性化する方法を、この工程中、抗体がCHTに結合している間、またはCHTから溶出させた後に行ってもよい。抗体がCHTに結合している間に行う場合、この操作は、第1の洗浄(バッファーA)の後に行うべきである。ある方法では、CVのS/D試薬を、当該技術分野で知られている方法にしたがって調製し、第1のCVのS/D試薬を、すばやく(200cm/時間)カラムに通し、その後、第2のCVのS/D試薬を、1時間かけてカラムにゆっくりと通す。S/D工程中に、カラムを、少なくとも10CVの10mMリン酸塩+洗浄剤を使用して洗浄し、残留する2%のトリ(n−ブチル)ホスフェート(TNBP)を除去し、次いで、5CVのバッファーAで洗浄し、残留する洗浄剤を除去し、精製を再開する。または、S/D処理がその後のアニオン交換工程と相性が良いため、S/D処理をCHT工程の後に行ってもよい。この抗体に対してS/D処理が及ぼす影響は、評価していないことを注記しておく。
【0069】
(II.アニオン交換クロマトグラフィーによる、中間精製)
CHTによる初期精製を終了してから24時間以内に、アニオン交換クロマトグラフィーによる中間精製を開始した。
【0070】
(アニオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM(登録商標)QAモノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:50mM Tris、1Mグリシン、2mM EDTA、pH8.0
バッファーB:50mM MES、10mM NaCl、1.0Mグリシン、pH6.2
バッファーC:50mM MES、500mM NaCl、pH6.2
バッファーD:1.0M NaOH
バッファーE:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(アニオン交換クロマトグラフィー)
CHTから集め、保存しておいたフラクションに、1M Tris(pH8.0)溶液を5%(v:v)で加え、最終的なTris濃度が50mMのものを得て、このサンプル溶液を室温(18〜23℃)にした。
【0071】
8mlの強アニオン交換剤であるCIM(登録商標)QAモノリスを含むカラムをバッファーAで平衡化し、サンプル溶液を、バッファーA2部(ポンプBで供給)に対し、サンプル1部(ポンプAで供給)になるようにライン内で希釈して、カラムにローディングした。このサンプル希釈によって、全体で、CHTカラムから溶出した容積の10倍に希釈した。この工程で使用したQAモノリスの推定カラム容量は、モノリス1mlあたり、IgM約30mgであった。このカラムをバッファーBで洗浄し(洗浄1)、バッファーB77%、バッファーC23%で洗浄し(洗浄2)、小さなピークを溶出させた。所望な場合、バッファーCは、もっと有効に浄化するために、1M NaClを含むように配合してもよいが、勾配の設定値は、それに応じて調節する。
【0072】
次いで、サンプルを、バッファーB52%、バッファーC48%に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB52%、バッファーC48%に保持した。IgMを含有するサンプルピークを、約200mM NaClおよび0.5M グリシンで溶出させ、これは透明であった。前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを集め、保存しておいた。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。カラムをバッファーC100%で浄化し、数種類の夾雑物と混合した少量のIgMを含む、小さな鋭いピークが得られ、その後、連続してその他の小さな夾雑物ピークが得られた。カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。この中間精製工程は、1時間未満で終了した。
【0073】
バッファーAにおいて、EDTAは、CHT工程中にサンプルにとりこまれているかもしれない任意のカルシウムを除去すると予想され、この媒体の結合能を高めるために、pH8.0を用いた。宿主細胞のタンパク質(HCP)の除去性を高め、その後のカチオン交換による精製で使用するバッファーと直接適合するようなpHで溶出サンプルを得るために、pH6.2で洗浄および溶出を行った。溶出バッファーのpHが低い(6.2)ため、IgMを含有するフラクションの保存は、この工程の後、約24時間未満とした。
【0074】
(中間精製に関する見解)
ウイルス濾過工程が想定され、この工程があらかじめ行われていない場合、アニオン交換工程の後に行ってもよく、この場合、50mM MES、150mM NaCl(pH6.2)のチェイス(chase)溶液を使用すべきであり、以下のカチオン交換工程中に、抗体を再び濃縮すべきである。
【0075】
溶媒/洗浄剤(S/D)によってウイルスを不活性化する方法をCHT工程の後で行う場合(上の見解を参照)、例えば、アニオン交換バッファーAに洗浄剤を加え、サンプルを加えた後に少なくとも10CVのバッファーAを加えることによって、アニオン交換プロセスに、さらなる洗浄剤による洗浄を適用すべきである。この場合、バッファーBによる洗浄で精製を再開する。
【0076】
この抗体は、アニオン交換剤に対する結合が強いので、溶出pHをさらに下げることが可能であることを示唆している。しかし、これにより、生成物が変性するリスクが高まり、高濃度のグリシン溶液はこのリスクを下げるものの、相殺することはできない。
【0077】
(III.カチオン交換クロマトグラフィーによる、最終精製)
アニオン交換工程(上述)から24時間以内に、カチオン交換クロマトグラフィーを開始した。
【0078】
(カチオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM(登録商標)SO3モノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:50mM MES、1.0Mグリシン、pH6.2
バッファーB:20mMクエン酸塩、1.0Mグリシン、pH6.2
バッファーC:250mMクエン酸塩、pH6.2
バッファーD:1.0M NaOH
バッファーE:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(カチオン交換クロマトグラフィー)
一旦開始したら、カチオン交換クロマトグラフィーを用いた最後の精製工程は、中断することなく終了させた。
【0079】
サンプル(アニオン交換から保存しておいたフラクション)を室温(18〜23℃)にした。バッファーAでカラムを平衡化した。バッファーA9部に対し、サンプル溶液1部になるようにライン内で希釈し、サンプルをローディングした。CIM SO3媒体の容量は、約30mg IgM/mlであると思われた。カラムを2〜5CVのバッファーAで洗浄し(洗浄1:2CVは十分な量であり、5CVを超えない)、次いで、5CVのバッファーB95%、バッファーC5%で洗浄し(洗浄2)、小さなピークを得た。
【0080】
サンプルを、バッファーB60%、バッファーC40%に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB60%、バッファーC40%に保持した。前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを集め、保存しておいた。溶出したIgMは透明であった。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。この保存しておいたフラクションに、500mMリン酸塩(pH7)溶液を10%(v:v)で加えてpHを上げ、この溶液を4℃で保存した。カラムをバッファーBで洗浄し、小さなピークが得られた。カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。
【0081】
(最終精製に関する見解)
カチオン交換工程は、低いpH、低い導電性を含む、抗体が凝集しやすい条件にさらされるため、プロセス全体で最も重要な工程であろう。溶解度を最大にするために、高いグリシン濃度が非常に重要であるが、リスクは減るだけで、相殺はされない。中断は避けるべきであり、カチオン交換プロセスを一旦開始したら、確実に中断せずに完結させることに注意を払わなければならない。
【0082】
(実施例2.CM1の精製手順)
(I.ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、捕捉および初期精製)
細胞培養物の上澄み1mlあたり、約200μgのIgMを含む細胞培養物の透明な上澄み500mlの出発物質から、CM1 IgMを精製した。第1に、細胞培養物の上澄みを室温(18〜23℃)にし、次いで、0.22ミクロン(0.22μm)フィルターを用い、細胞培養物の上澄みを濾過し、次いで、500mM リン酸Na(pH7.0)を1%(v:v)で加え、最終的なリン酸塩濃度が5mMのものを得た。上澄みにすでにリン酸塩が含まれている場合、リン酸塩濃度を少なくとも5mMにするのに必要な最小限の量の500mMリン酸Na(pH7.0)を、上述の濾過した上澄みに加えた。
【0083】
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CHT II型、40ミクロン、ATOLL 11.3×100mmカラム
流速:200cm/時間(Atollカラムで3.34ml/分)まで
バッファーA:10mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーB:500mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーC:1.0Mグリシン(緩衝化されていない)pH7(±0.2)
バッファーD:600mM KPO、pH7
バッファーE:1.0M NaOH
バッファーF:0.1M NaOHまたは20%エタノール、5mMリン酸ナトリウム pH7
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)
カラム(セラミックヒドロキシアパタイトCHT II型 40ミクロン、11.3×100mmカラム、ATOLL Gmbh)を、バッファーAで平衡化した。サンプル溶液を、50カラム容積(CV)に添加した。サンプルをローディングした後、カラムを、2〜5CVのバッファーAで洗浄した(洗浄1:2CVは十分な量であり、5CVを超えないことが必要であり、ベースラインになるまで洗浄する必要はない)。次いで、読みがベースラインに戻るまで、カラムをバッファーB23%(165mMリン酸塩、10% PEG−600)で洗浄した(洗浄2)。第2の洗浄工程で、生成物ピークとほぼ同じ大きなピークが溶出し、IgMフラグメントは、この洗浄で溶出すると予想された。上に示したように、5〜10%の範囲の生成物の見かけ損失は、この洗浄で移動したフラグメントであると考えられ、完全な生成物の損失が多すぎると思われる場合、バッファーBの濃度を減らしてもよいが、この場合、HPCによる夾雑物が増える場合がある。
【0084】
バッファーB73%(365mMリン酸塩、10% PEG−600)までの線形勾配を有する5CVで、サンプルをカラムから溶出させ、その後、生成物のピークが溶出するまで、カラムをバッファーB73%に保持した。0.5CVのフラクションを、1.15CVの1Mグリシン(バッファーC)に直接集めた。溶出したピークは、無色透明であり、グリシンで希釈しても無色透明のままであった。前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを、さらなる精製のために保存しておいた。この収集/保存方法によって、このピークの後側で溶出し始めると思われる凝集物が除外されると予想された。フラクションを4℃で保存した。CHTカラムを5〜10CMのバッファーDで浄化し、バッファーEで再生させ、バッファーF中で保存した。
【0085】
流速200cm/時間、層の高さ10cmで、CHTでの初期精製には、サンプルをローディングするための約2.5時間を含め、約3.5時間が必要であった。CHT後のサンプル純度は、アニオン交換の結果に依存し、約50%であった。このサンプル純度は、実質的に、SAM6の場合(上の実施例1)またはLM1の場合(以下の実施例3)よりも低いが、以下のアニオン交換工程で、夾雑物は簡単に除去された。CHT工程は、このプロセスで主要な凝集物除去工程であることが確立されており、凝集物は、G4000SWXLでの分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって検出することができなかっため(データは示していない)、凝集物含有量が0.1%未満であることを示していると解釈した。洗浄工程で主にIgMフラグメントが失われ、浄化工程で凝集物が失われるため、カラムにローディングした最初のサンプルと比較して、合計回収率は低かった。
【0086】
(初期精製に関する見解)
CHT工程の結合能は、精製プロセスの定義されているパラメーターのうち、最も小さなものであってもよい。予備データから、50容積のサンプルをCHT 1容積に添加した場合、IgMのほとんどが結合していることが示唆された。CHTに対するCM1の結合が強いので(LM1およびSAM6のどちらよりも強い)、実質的に、カラム容量を高くすることが可能であるが、主要な夾雑物(以下に記載)による競争が、制限事項となる場合があることが示唆された。任意の用途で通常どおり、流れ込むフラクションは、最初の何回かの操作中、保持されており、カラム容量を確認するために、IgM含有量について試験した。有効な結合を確認する場合、ローディング容積を増やしてもよい。後で、カラムを通ったフラクションにおいて、生成物が顕著に失われていることが検出された場合には、サンプルを添加する容積をそれに応じて減らすべきである。同様に、カラム寿命を予測することができないため、CHTの高い密度および高い沈降速度になじむように設計されたCHT工程専用のカラムを調製することが示唆され、この専用カラムは、空気を導入することが必要な場合や、性能が度重なって低下している場合を除き、決して開封しない方がよい。
【0087】
予想されるように、この工程の回収率は、特に、フラグメントが失われ(洗浄中)、凝集物が失われる(浄化工程中)ことによって、最も低かった。その後の両イオン交換工程からは90%の回収率が得られるため、全体的なプロセス回収率60%を達成するには、CHT工程では、必要な回収率は、75%あればよかった。ほとんどの商業的なIgGプロセスは、初期の凝集物濃度が高くない限り、全体的なプロセス回収率50〜60%を達成しており、初期の凝集物濃度が高い場合には、全体的なプロセス回収率は、25%以下になることもある。この段階でのデータを、臨床に適した品質の物質を得るという目的にしたがって評価した。ここで、このプロセスについて、プロセスの経済的な効率を最適にしておく必要はなく、プロセス開発段階中は、必要とされない。
【0088】
CM1とLM1は、カチオン交換体に対する結合が弱いという、重要な共通の化学的特徴を有しており、LM1は、PEGをいくつかの条件で用いた場合に問題があったため、CM1を用いてさらなる実験を行い、同様の感度を示すかどうかを決定した。10% PEG−600中、CHTから溶出させたCM1は、溶出の際に無色透明であり、室温でも透明性を維持していたが、4℃では速やかに濁ってしまった。1Mグリシンで希釈することによって濁りはすぐにとれたが、LM1で観察されたように、この結果から、1.0Mグリシン希釈剤にCM1を直接集めることが望ましいことがわかった(1.0M(緩衝化されていない)グリシン(pH7)2.3部に対し、サンプル1部)。希釈した後、溶解度の問題はみられなかったが、CHT工程を終了させてから24時間以内に次の工程を開始することを推奨しておくのが賢明だと思われた。冷却の可能性および/またはCM1が不溶性であるという問題についても考慮した。CHT工程で使用されるようなPEGは、新しく溶解性をもたらす現象を作り出すことはないが、すでに存在する状況を補強する。さらに、過去に凍結した物質の場合、任意の種類の処理を行う前に、完全に再溶解させておくことにも、十分に注意をはらうべきであることがわかった。
【0089】
このプロセスのすべての工程で、サンプルを18〜23℃にしておくという仕様が予防手段となり得るであろう。4℃で保存しておいた物質を直接取り出して実施した実験について品質確認したところによれば、物質を4℃で使うことも可能であり、プロセス全体の速度が上がり、より簡便なものとなった。わかっている場合には、予想される容器詰め濃度で、または容器詰め濃度がわからない場合は、20mg/mlで、4℃〜約23℃の温度溶解度曲線を作成した。
【0090】
PEG−600およびPEG−1000は、このプロセスで、相互に置き換え可能に使用することができる。PEG−1000の効果は、PEG−600の効果よりもわずかに大きく、抗体の溶出を少し遅らせ、同様に、凝集物の除去性を高めるであろう。PEGを完全に取り除くと、抗体は、かなり速く溶出し、洗浄時の溶出/溶出の設定値は、それぞれ、約75mMリン酸塩、235mMリン酸塩であった。
【0091】
現時点でのグリシン濃度は、予防的なものであり、生成物に対するリスクがなければ減らすことも可能であるが、大スケールで実施する前に実験的に確認すべきである。
【0092】
CHT後の放置時間は、1週間まで長くすることも可能であるが、実験的に確認すべきである。長い放置時間を評価する1つの様式は、濁度を確認すること(600nmでの分光光度法で)であってもよく、サイズ排除分析によるプロフィールを確認すること(凝集物の含有量について)であってもよく、どちらも日常的に確認される。
【0093】
上述のように、溶媒/洗浄剤によってウイルスを不活性化する方法を、抗体がCHTに結合している間、またはCHTから溶出させた後に行ってもよい。
【0094】
(II.アニオン交換クロマトグラフィーによる、中間精製)
CHTによる初期精製を終了してから24時間以内に、アニオン交換クロマトグラフィーによる中間精製を開始した。
【0095】
(アニオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM(登録商標)QAモノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:50mM Tris、1.0Mグリシン、2mM EDTA、pH8.0
バッファーB:50mM MES、10mM NaCl、1.0Mグリシン、pH6.2
バッファーC:50mM MES、500mM NaCl、pH6.2
バッファーD:1.0M NaOH
バッファーE:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(アニオン交換クロマトグラフィー)
CHTから集め、保存しておいたフラクションに、1M Tris(pH8.0)溶液を5%(v:v)で加え、最終的なTris濃度が50mMのものを得た。バッファーAでカラムを平衡化した。サンプル溶液を、バッファーA2部に対し、サンプル溶液1部になるようにライン内で希釈して、カラムにローディングした。このサンプル希釈によって、全体で、CHT工程から溶出したサンプル溶液の容積の10倍に希釈した。カラムの容積は、モノリス(媒体)1mlあたり、IgMが少なくとも30mgであると予想され、結合能をさらに高めるために、アルカリ性のpHが予想された。このカラムをバッファーBで洗浄し(洗浄1)、種々の宿主細胞のタンパク質(HCP)を含有する小さなピークを得た。次いで、このカラムをバッファーB71%、バッファーC29%で洗浄し(洗浄2)、IgMもいくらか含んでいるかもしれない大きな夾雑物ピークを得た。MESバッファーは、この実施例で使用される場合、双性イオンであり、アニオン交換体およびカチオン交換体の両方を良好に緩衝化させることができる。
【0096】
サンプルを、バッファーB53%、バッファーC47%に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、次いで、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB53%、バッファーC47%に保持した。最大ピーク高さの10%のところから集め始め、ピーク高さの10%まで下がったところまで(後側)のフラクションを集め、保存しておいた。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。カラムをバッファーC100%で浄化し、数種類の夾雑物と混合した少量のIgMを含む、大きなピークが得られ、その後、連続してその他の小さな夾雑物ピークが得られた。バッファーCは、もっと有効に浄化するために、500mM CaClの代わりに1M NaClを含むように配合してもよいが、任意の混合物または勾配は、NaCl濃度がもっと高くなるように調節しなければならないであろう。次いで、カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。この中間精製工程は、1時間未満で終了した。約0.5MグリシンおよびNaClの平均濃度が約225mMで、アニオン交換体から溶出した生成物(CM1)は、SAM6(上の実施例1)またはLM1(下の実施例3)よりもわずかに多かった。この工程後のIgM純度は、約95〜98%であった。この工程の回収率は、約90%であった。
【0097】
8mlのCIM QAモノリスカラムは、上に引用した供給容積でCHT工程から回収されるIgMの量に対し、十分に大きいものであった。別の実験では、1mlのモノリス(多量の3×0.34mlの円盤状)を4ml/分で操作すると、細胞培養物の上澄み250mlをローディングしたCHTカラム5mlから得られたIgMがすべて結合していることがわかり、このことから、8mlのモノリスは、少なくとも2Lの細胞培養物の上澄みをローディングしたCHTカラムから得られるIgMを保持することが可能であることが示唆された。上述のように、平衡バッファー中のEDTAは、CHT工程中に生成物にとりこまれているかもしれない任意のカルシウムを除去すると予想され、この媒体の結合能を高めるために、pH8が予想された。洗浄工程および溶出工程は、HCPの除去性を高め、その後のカチオン交換工程で使用するバッファーと直接適合するような溶出サンプルを得るために、pH6.2で行われた。しかし、溶出サンプルがpH6.2の状態にある時間をできるだけ短くするために、次の工程は、可能な限りすぐに、好ましくは24時間以内に行うことが推奨された。以下のカチオン交換工程で使用するために溶液のpHを上げることは、結合効率を低下させ、CM1 IgMは、最良の環境下でさえカチオン交換媒体との結合が弱いため、現実的ではない。
【0098】
(III.カチオン交換クロマトグラフィーによる、最終精製)
アニオン交換工程(上述)から24時間以内に、カチオン交換クロマトグラフィーを開始した。
【0099】
(カチオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM SO3モノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:10mM クエン酸塩、1.0Mグリシン、pH6.2
バッファーB:250mMクエン酸塩、pH6.2
バッファーC:1.0M NaOH
バッファーD:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(カチオン交換クロマトグラフィー)
サンプル溶液(アニオン交換から保存しておいたフラクション)を室温(18〜23℃)にした。バッファーAでカラムを平衡化した。サンプル1部、バッファーA9部で、ライン内で希釈することによってサンプルをローディングした。バッファーAは、10mMクエン酸塩を含有しており、他の実施例のカチオン交換クロマトグラフィーで使用するバッファーAとは異なっていることを注記しておく。この媒体の容量は、モノリス1mlあたり、少なくとも30mg IgMであると思われた。カラムを2〜5CVのバッファーAで洗浄した(洗浄1:2CVは十分な量であり、5CVを超えない)。サンプルを、バッファーB12%に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、次いで、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB12%に保持した。IgMは、透明な、非常に鋭いピークで溶出した。最大ピーク高さの10%のところから集め始め、ピーク高さの10%まで下がったところまで(後側)のフラクションを集め、保存しておいた。凝集物は、この後側に、高さの低い長く続くピークで溶出すると予想されたため、後側に最大ピーク高さの10%のところより後ろの部分から最大ピーク高さの約5%のところまで集めたものは、主要ピークから集めたフラクションと一緒には保存しなかった。保存しておいた主要ピークのフラクションに、500mMリン酸塩(pH7)溶液を10%(v:v)で加え、pHと導電性を上げた。高度に精製されたIgMの溶液が得られ、この溶液は、約25mMクエン酸塩、50mMリン酸塩、800mMグリシン(pH約6.7)を含んでおり、4℃で保存するか、または、フラクションをリン酸塩希釈剤(500mMリン酸塩、pH7)に直接集めてもよい。カラムをバッファーBで浄化し、小さなピークが得られ、このピークは、主に凝集物を含んでいた。カラムをバッファーCで再生し、バッファーD中で保存した。
【0100】
この工程は1時間未満で終了するが、所望な場合、ゆっくりと行ってもよい。流速を下げても、カラム性能は上がりも下がりもしないことがわかった。合計回収率は約90%であり、主要な溶出ピークから集めたフラクションのIgM純度は、99%を超えていた。
【0101】
IgM CM1がさらされるカチオン交換条件は、凝集しやすい条件であり(低いpH、極端に低い溶液導電性)、溶液中のグリシンによって溶解度を高めることができるが、グリシンは、凝集のリスクを下げるだけであり、完全になくすことはできないため、一旦開始したら、カチオン交換クロマトグラフィーを用いる最後の精製工程は、中断せずに完結させた。
【0102】
8mlのカラムは、上述の供給容積でCHT工程から回収されるIgMの量に対し、十分に大きいものであった。別の実験では、1mlのモノリス(重ね合わせた3×0.34mlの円盤状)は、細胞培養物の上澄み250mlをローディングしたCHTカラム5mlの後、アニオン交換工程から溶出するIgMを、すべて結合させることができた。この結果から、8mlのモノリスは、少なくとも2Lの細胞培養物の上澄みをローディングしたCHT(「CHT供給物」)から得られるIgMを保持し、放出させることが可能であることが示唆された。
【0103】
(実施例3.LM1の精製手順)
(I.ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、捕捉および初期精製)
細胞培養物の上澄み1mlあたり、約200μgのIgMを含む細胞培養物の透明な上澄み1Lの出発物質から、LM1 IgMを精製した。第1に、0.22ミクロン(0.22μm)フィルターを用い、細胞培養物の上澄みを濾過した。500mM リン酸Na(pH7.0)溶液を1%(v:v)で加え、最終的なリン酸塩濃度が5mMの溶液を得た。上澄みにすでにリン酸塩が含まれている場合、リン酸塩濃度を少なくとも5mMにするのに必要な最小限の量の500mMリン酸Na(pH7.0)を、上述の濾過した上澄みに加えた。溶液pHを測定し、pHが6.8未満の場合、1M Tris(pH8.0)溶液を加え、最終的なpHを6.8〜7.2にした。サンプル溶液を室温(18〜23℃)にした。
【0104】
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CHT II型、40ミクロン、ATOLL 11.3×100mmカラム
流速:100〜200cm/時間(Atollカラムで、1.67〜3.34ml/分)
バッファーA:10mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーB:500mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーC:50mM Tris、1.0Mグリシン、2mM EDTA、pH8(±0.2)
バッファーD:600mM KPO、pH7
バッファーE:1.0M NaOH
バッファーF:0.1M NaOHまたは20%エタノール、5mMリン酸ナトリウム pH7
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)
バッファーAでカラムを平衡化した。サンプル溶液を、100カラム容積(CV)で添加した。カラムを、2〜5CVのバッファーAで洗浄した(洗浄1:2CVは十分な量であり、5CVを超えず、ベースラインになるまで洗浄する必要はない)。次いで、カラムをバッファーB20%(100mMリン酸塩、10% PEG−600)で洗浄し、この洗浄で大きなピークが溶出した(洗浄2)。このピークには、宿主細胞のタンパク質(HCP)が含まれていた。この工程で、IgMを最適に精製するのに、「ベースラインになるまで洗浄すること」が重要であったため、読みがベースラインに戻るまで、カラムをバッファーB20%で洗浄した。
【0105】
この第2の洗浄工程中に溶出したピークの内容物は、時には、5%までの生成物の見かけ損失が示されることもあるが、これらの生成物は、IgMフラグメントであると思われた。しかし、生成物の損失が多すぎると思われる場合、バッファーBの濃度を減らしてもよいが、バッファーBの濃度を下げると、HCPによる夾雑物が増える場合があることを理解されたい(すなわち、洗浄工程中にHCPの除去が完全に行われず、HCPが他の工程に持ち越される)。または、生成物の損失がほとんどみられないか、まったくみられない場合、洗浄工程中のリン酸塩濃度を上げ、もっと少ない洗浄容積で、読み(280nmでのUV吸光度)をベースラインに戻し、多くのHCPを除去した。
【0106】
バッファーB65%(325mMリン酸塩、10% PEG−600)に到達する線形勾配を有する5CVで溶出を行い、その後、生成物のピークが溶出するまで、カラムをB65%に保持した。0.5CVのフラクションを、1.15CVの1Mグリシン(バッファーC、50mM Tris、1.0Mグリシン、2mM EDTA、pH8)に直接集めた。溶出したピークは、無色透明であり、グリシンで希釈しても無色透明のままであった。前側に溶出ピーク高さの10%のところからフラクションを集め始め、夾雑物のピークが、後側にかぶり始めると思われるところまでを集めた(図1に示す、CHTからLM1が溶出するリファレンスプロフィールを参照)。このピークの後側で凝集物が溶出し始めると思われるが、この収集/保存戦略によって、凝集物が除外されるはずである。よりよい生成物純度を得るために、勾配の終点(おそらく、300mMリン酸塩)ではわずかに低下しているであろうことがわかったが、後のプロセス工程で夾雑物が除外されるので、この段階でこの戦略を続けざるを得ない理由もないことが理解された。フラクションを4℃で保存した。このカラムを5〜10CVのバッファーDで浄化し、バッファーEで再生させ、バッファーF中で保存した。
【0107】
希釈すると、サンプルのローディング時間が倍になり、希釈したサンプルの塩化ナトリウム含有量が下がるほど、結合する夾雑物の量が増え、IgMフラクションの純度が低くなるため、この例では、実施例1および2で記載したようなサンプルの希釈は行わなかった。結果から、100容積をCHT 1容積に添加した場合(すなわち、サンプル容積100CV)、IgMのほとんどが結合していることが示されたが、サンプルのローディング容積とカラム容量との関係が確認されるまで、最初の数回の操作では、流れ込んだフラクションは保持されているはずである。効率的な結合が確認されたら、ローディング容積を増やしてもよい。後でカラムを通ったフラクションにおいて、生成物が顕著に失われていることが検出された場合には、サンプルの添加容積をそれに応じて減らすべきである。異なる生成物濃度で、異なる細胞培地を用いる場合、動的結合能を独立して決定する必要がある。
【0108】
CHTでの初期精製には、流速200cm/時間、層の高さ10cmで、サンプルをローディングするための約5時間を含め、約6時間が必要であった。処理時間は、層の高さに直接比例して長くなり、層の高さを2倍にすると、処理時間が2倍になることがわかり、このことは、初期精製のためのCHTカラムは、層15cmで十分であるようなフルスケールの処理および、層が10cmの場合、良好な充填剤性能を一定して与えることができるかによるが、十分であると考えられ得るフルスケールの処理では、層20cmを超えるべきではないことを示していることがわかった。CHTから溶出した後のサンプルの純度は、90%であった。CHTでの初期精製によって、IgM精製中に主要な凝集物除去工程が提供され、CHTから溶出させた後の凝集物濃度は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で確認した場合、1%未満であった。凝集物濃度が1%よりも高い場合、バッファーBの濃度を下げる(例えば、上述のように、バッファーBを60%まで下げる)と、SECから得られる結果は、一貫して、1%未満の凝集濃度を示していたが、この段階でプロセスを調整する明らかな理由はみられなかった。
【0109】
(初期精製に関する見解)
PEG−600およびPEG−1000は、CHT工程で、同じ濃度で、相互に置き換え可能に使用することができることがわかった。PEG−1000の効果の方がわずかに大きく、抗体の溶出を少し遅らせ、同様に、凝集物の除去性を高めるであろう。しかし、PEG−600の方が融点が低く、わずかに粘性が低い。PEGを完全に取り除くと、抗体は、かなり速く溶出し、洗浄時の溶出/溶出の設定値は、それぞれ、約50mMリン酸塩、210mMリン酸塩であり、凝集物はほとんど除去されなかった。臨床で使用する生成物を精製するためのプロセスを開発する目的で、凝集物の除去性を損なうことなく、PEG濃度をどれほど多く減らすことが可能かを調べることは、価値が高いであろう。これの代わりに、またはこれに加え、PEG−400に置き換えてもよく、PEG−400は室温で液体であるため、バッファーの調製が単純化されるであろう。
【0110】
すでに示したように、溶媒/洗浄剤によってウイルスを不活性化する方法を、抗体がCHTに結合している間、またはCHTから溶出させた後に行ってもよい。
(II.アニオン交換クロマトグラフィーによる、中間精製)
(アニオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM QAモノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:50mM Tris、1 Mグリシン、2mM EDTA、pH8.0
バッファーB:10mMリン酸ナトリウム、1.0Mグリシン、pH7.0
バッファーC:500mM リン酸ナトリウム、pH7
バッファーD:1.0M NaOH
バッファーE:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(アニオン交換クロマトグラフィー)
サンプルを室温(18〜23℃)にした。バッファーAでカラムを平衡化した。通常は、2.5CV/分での8mlのモノリスについて、流速2.5CV/分を使用し、サンプル容量の測定は、12CV/分で行った。サンプルを、バッファーA2部に対し、サンプル溶液1部になるようにライン内で希釈して、カラムにローディングし、全体的な希釈率は、CHT工程から溶出したサンプル容積の10倍を示した。サンプルを完全に希釈した状態で、抗体の溶解度を高め、IgMの凝集を抑制するために、ローディング溶液にグリシンが含まれていた。カラムの容量は、モノリス1mlあたり、IgMが少なくとも30mgであると予想された。このカラムをバッファーBで洗浄し(洗浄1)、5CVまでのバッファーB85%、バッファーC15%で洗浄し(洗浄2)、小さなピークが得られたが、顕著なIgMの消失をもたらさなかった。
【0111】
サンプルを、バッファーB51%、バッファーC49%に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、その後、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB51%、バッファーC49%に保持した。LM1は、約250mMリン酸ナトリウム(約0.5Mグリシン)で溶出した。IgMを含むフラクションは、透明な状態で溶出した。最大ピーク高さの10%のところから集め始め、ピーク高さの10%まで下がったところまで(後側)のフラクションを集め、保存しておいた。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。次いで、カラムをバッファーC100%で浄化し、数種類の夾雑物と混合した少量のIgMを含む、小さな鋭いピークが得られ、その後、連続してその他の小さな夾雑物ピークが得られた。カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。この中間精製工程は、1時間未満で終了したが、所望な場合、もっとゆっくりと行ってもよい。
【0112】
図2および図3は、以下に示す特定の条件で、アニオン交換クロマトグラフィーによってLM1を中間精製する場合のリファレンスプロフィールを示している。図2は、精製工程全体のリファレンスプロフィールを示しており、図3は、アニオン交換クロマトグラフィーによる、LM1の中間精製中に溶出したピークの高分解能プロフィールを示している。
【0113】
(図2および図3における、LM1のアニオン交換クロマトグラフィーの運転条件)
CIM(登録商標)QA、1つのハウジングに重ねられた、3×0.34mlの円盤、4ml/分
バッファーA:50mM Tris、1Mグリシン、2mM EDTA、pH8
バッファーB:10mM NaPO、1Mグリシン、pH7
バッファーC:500mM NaPO、pH7
カラムを平衡化
CHTから保存しておいたフラクションのサンプル(バッファーAで、すでに3.3倍に希釈したもの)を、サンプル1部、バッファーA2部を用いて、ライン内で希釈することによってローディング
バッファーAで洗浄
バッファーBで洗浄
溶出:B100%になるまで、線形勾配で48CV
上述のように、平衡バッファー中のEDTAは、CHTが、タンパク質調製物から、カルシウム以外の金属を除去し、カルシウムと置き換える能力を有するため、CHT工程中に生成物にとりこまれているかもしれない任意のカルシウムを除去すると予想された。この媒体の結合能を高めるために、ローディング溶液をpH8に維持して媒体の結合能を高めた。洗浄工程および溶出工程は、HCPの除去性を高め、その後のカチオン交換工程のバッファーと直接適合するような溶出サンプルを得るために、pH7.0で行われた。ウイルス濾過工程を行っていなかった場合、および所望な場合、アニオン交換の後に、ウイルス濾過を行ってもよい。
【0114】
(III.カチオン交換クロマトグラフィーによる、LM1の最終精製)
(カチオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM SO3モノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで;流速を下げても、性能は下がらないが、顕著に上がりもしなかった
バッファーA:10mM リン酸ナトリウム、1Mグリシン、pH7
バッファーB:500mM リン酸ナトリウム、pH7
バッファーC:1.0M NaOH
バッファーD:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(カチオン交換クロマトグラフィー)
サンプル溶液(アニオン交換から保存しておいたフラクション)を室温にした。バッファーAでカラムを平衡化した。サンプルを、サンプル溶液1部、バッファーA9部で、ライン内で希釈することによってローディングした。この条件でのカラム容量は、モノリス1mlあたり、少なくとも30mg IgMであると思われた。カラムを2〜5CVのバッファーAで洗浄した(洗浄1:2CVは十分な量であり、5CVを超えない)。サンプルを、バッファーB15%(75mMリン酸塩)に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、その後、ピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB15%に保持した。IgMを含有するフラクションは、透明な状態で溶出した。LM1は、導電性値が低い(塩濃度が低い)状態で溶出するため、抗体を安定化させ、凝集を防ぐために、NaClを、例えば、最終濃度が0.1Mになるように加えてもよいことがわかった。溶出させたすぐ後にNaClを加えるか、または高濃度の塩を含む希釈剤にフラクションを直接集めてもよい。集めたフラクションを4℃で保存した。カラムをバッファーBで浄化し、かなりの量のIgMを含むピークが得られた。カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。
【0115】
図4および図5は、以下に示す特定の条件で、カチオン交換クロマトグラフィーによってLM1を最終精製する場合のリファレンスプロフィールを示している。図4は、精製工程全体のリファレンスプロフィールを示しており、図5は、LM1の最終精製中に溶出したピークの高分解能プロフィールを示している。
【0116】
(図4および図5における、最終精製の運転条件)
CIM(登録商標)SO3、1つのハウジングに重ねられた、3×0.34mlの円盤、4ml/分
バッファーA:10mM NaPO、1Mグリシン、pH7
バッファーB::500mM NaPO、pH7
カラムを平衡化
アニオン交換から保存しておいたフラクションのサンプルを、サンプル1部、バッファーA9部を用いて、ライン内で希釈することによってローディング
バッファーAで洗浄
溶出:B100%になるまで、線形勾配で48CV
カチオン交換クロマトグラフィーによってLM1を精製する場合、溶出ピークの形状は、ピークの後側で鮮明さを欠き、不定型な形であった(図4および図5、特に図5を参照)。したがって、凝集物を集めてしまうのを避けるために、後側をほとんど除外するように保存の仕方を設定した。例えば、IgMピークとともに、その後側に溶出しているおそれがある凝集物を確実に集めないために、フラクションを、後側に、ピークが最大ピーク高さの25%まで減少したところまでを集めた。この戦略の有効性を、実施例4で開示したような最終精製の後、LM1ピークのフラクションを高速サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)で分析して評価すると、凝集物の存在は検出できず(すなわち、凝集物の濃度は、検出限界未満(約0.1%未満)であり)、このアプローチによって、検出可能な凝集物を含まないIgMが調製されたことが確認された。
【0117】
(実施例4.精製されたLM1のサイズ排除クロマトグラフィー分析)
最終精製クロマトグラフィーから得たIgMを含有するフラクションの、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析を行い、精製されたIgMの大きさ(分子半径)、純度、IgMを含有するサンプルの他の特性を評価した。上の実施例4に記載したようなカチオン交換クロマトグラフィーによって、LM1を最終精製し、溶出したピークから集め、保存しておいたフラクションから、100μlのLM1サンプルを、GSW4000 SEC媒体(Toso BioSep、シュトゥットガルト、ドイツ)にローディングし、SECバッファー(25mM MES、0.5Mグリシン、0.5M NaCl、0.2Mアルギニン、pH6.8)を用い、流速0.5ml/分で操作した。280nmおよび300nmでの吸光度を測定することによって、SEC溶出物を分析し、タンパク質の合計量を測定し、600nmでの吸光度を測定することによって、濁度を測定した。溶液の導電性も測定した。このサンプルのSEC分析プロフィールを図6に示している。LM1は、1本のピークで溶出し、このことは、IgMフラグメントやIgM凝集物のような夾雑物がほぼ完全に含まれていないことを示している。LM1ピークの中心は、注入後、8.55分であった(図6)。LM1の溶出時間は、精製されたCM1で観察されたSEC溶出ピーク(データは示していない)よりも1.03分遅く、精製されたSAM6のSEC溶出ピーク(データは示していない)よりも約0.85分遅かった。SECバッファーは、非特異的な水素結合、イオン性相互作用および疎水性相互作用を防ぐように、特に配合されており、この結果、LM1 IgMは、他の2つの抗体(CM1およびSAM6)よりも流体力学半径が小さいことが示された。また、LM1は、カチオン交換媒体からの溶出プロフィールが一般的なものではなく、カチオン交換溶出プロフィール、LM1で観察したpHに対する感度を示した。
【0118】
LM1を含有するフラクションのSEC中、注入して20分後にみられる溶出ピークは、A280およびA300の測定値を並行して調べることによって示されるように、バッファーによるアーチファクトであった。注入してから29分後および30分後に観察されたアーチファクトピークは、A280、A300、A600の測定値を並行して調べることと、導電性の測定値が同時に増加していることによって示されるように、カラムから溶出したサンプルバッファーの屈折率が変わったことによって生じたものであった。
【0119】
(実施例5.SAM6の精製手順)
(I.ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、サンプル捕捉および初期精製)
実施例1のプロセスで、1Mグリシンの代わりに2M尿素を用いることによって、SAM6の精製手順を行った。尿素を含有するバッファーを、使用前にアニオン交換フィルター(例えば、Sartobind Q(SingleStep nano 1ml)で濾過した。ACSグレードまたはそれ以上のグレードの尿素を用いることを強く勧める。尿素を含有するバッファーは、カルバミル化の可能性を最小限にするという予防の意味で、使用期限は7日を超えないようにした。
【0120】
細胞培養物の上澄み1mlあたり、約200μgのIgMを含む細胞培養物の透明な上澄み1Lの出発物質から、SAM6 IgMを精製した。第1に、0.22ミクロン(0.22μm)フィルターを用い、細胞培養物の上澄みを濾過し、次いで、500mM リン酸Na(pH7.0)を1%(v:v)で加え、最終的なリン酸塩濃度が5mMのものを得た。サンプルにすでにリン酸塩が含まれている場合、リン酸塩濃度を少なくとも5mMにするのに必要な最小限の量の500mMリン酸Na(pH7)を、上述の濾過した上澄みに加えた。1M Tris(pH8.0)溶液を1%(v:v)で加え、最終的なTris濃度を10mMにすると、最終的なpHは6.8〜7.2になると予想された。このサンプル溶液を室温(18〜23℃)にした。
【0121】
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CHT II型、40ミクロン、ATOLL 11.3×100mmカラム
流速:100〜200cm/時間(Atollカラムで、1.67〜3.34ml/分)
バッファーA:10mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーB:500mM リン酸ナトリウム、10% PEG−600、pH7.0
バッファーC:10mM リン酸ナトリウム、2M尿素、2mM EDTA、pH7
バッファーD:600mM KPO、pH7
バッファーE:1.0M NaOH
バッファーF:0.1M NaOHまたは20%エタノール、5mMリン酸ナトリウム pH7
(ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)
カラム(セラミックヒドロキシアパタイトCHTTM II型 40ミクロン(Bio−Rad Laboratories、ハーキュリーズ、カリフォルニア)、ATOLL Gmbhであらかじめ充填された11.3×100mmカラム)を、バッファーA(上述)で平衡化した。サンプルを、バッファーA 100カラム容積(100CV)に約0.1ml/分で添加した。サンプルをローディングした後、カラムを、2〜5CVのバッファーAで洗浄した(洗浄1)。次いで、280nmでの吸光度A280を測定することによって決定される読みがベースライン値に戻るまで、カラムをバッファーB25%(125mMリン酸塩、10% PEG−600)で洗浄した(洗浄2)。
【0122】
流れを止め、Sartobind Q膜アニオン交換フィルターをCHTカラムの底部に接続し、次いで、監視によって、Qカートリッジが平衡状態に達するまで、流れを洗浄条件で再開させた(1mLのカートリッジを10mLのCHTカラムに加える、ほぼ10倍であるが、これより多くてもよい)。
【0123】
バッファーB70%(350mMリン酸塩、10% PEG−600)までの線形勾配を有する1CVで、サンプルをカラムから溶出させ、次いで、生成物のピークが溶出するまで、カラムをバッファーB70%に保持した。0.5CV以下のフラクションを集め、保存したものを、もともとの保存容積の3.3倍になるまでバッファーCで希釈した。溶出したピークは、無色透明であり、尿素で希釈しても無色透明のままであった。フラクションを4℃で保存した。推奨されるように、前側に最大ピーク高さの10%のところから、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを、さらなる精製のために保存しておいた。この収集/保存戦略によって、このサンプルピークの後側で溶出し始めると思われる凝集物が除外されると予想された。CHTカラムを5〜10CVのバッファーDで浄化し、バッファーEで再生させ、バッファーF中で保存した。
【0124】
(II.アニオン交換クロマトグラフィーによる、中間精製)
CHTによる初期精製を終了してから24時間以内に、アニオン交換クロマトグラフィーによる中間精製を開始し、AKTA Explorer 100を用い、最小流速4ml/分で行った。
【0125】
(アニオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM(登録商標)QAモノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:10mMリン酸ナトリウム、2M尿素、pH7
バッファーB:50mM MES、10mM NaCl、2M尿素、pH6.2
バッファーC:50mM MES、500mM NaCl、pH6.2
バッファーD:1.0M NaOH
バッファーE:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(アニオン交換クロマトグラフィー)
CHTから集め、保存しておいたフラクションに、1M Tris(pH8.0)溶液を5%(v:v)で加え、最終的なTris濃度が50mMのものを得て、このサンプル溶液を室温(18〜23℃)にした。
【0126】
8mlの強アニオン交換剤であるCIM(登録商標)QAモノリスを含むカラムをバッファーAで平衡化し、サンプル溶液を、バッファーA4部(ポンプBで供給)に対し、サンプル1部(ポンプAで供給)になるようにライン内で希釈して、カラムにローディングした。このサンプル希釈によって、全体で、CHTカラムから溶出した容積の10倍に希釈した。この工程で使用したQAモノリスの推定カラム容量は、モノリス1mlあたり、IgM約30mgであった。このカラムをバッファーBで洗浄し(洗浄1)、次いで、バッファーB95%、バッファーC5%で洗浄した(洗浄2)。
【0127】
次いで、サンプルを、バッファーB52%、バッファーC48%に到達する線形勾配を有する5CVを用いて溶出させ、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB52%、バッファーC48%に保持した。前側に最大ピーク高さの10%のところから集め始め、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを集め、保存しておいた。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。カラムをバッファーC100%で浄化し、数種類の夾雑物と混合した少量のIgMを含む、小さな鋭いピークが得られ、その後、連続してその他の小さな夾雑物ピークが得られた。カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。中間精製工程は、1時間未満で終了した。
【0128】
(中間精製に関する見解)
1〜2M NaClが、カラムの浄化性を上げる可能性があることを注記しておく。唯一の欠点は、さらなるバッファーを調製することである。カラムをベンゾナーゼで時々浄化し、蓄積したDNAを除去すると、カラムの寿命が延びる場合がある(例えば、10回の操作後、または背圧が大きくなりすぎたらいつでも)。
【0129】
精製は、合理的な範囲で生成物ができるだけ尿素にさらされないように可能な限り素早く、次の工程に進むべきである。Tris尿素バッファーがアルカリ性pHであることによって、カルバミル化のリスクが高まるが、接触時間を短くすることによって打ち消される。このプロセスの初期の態様では、pH7のリン酸塩を用い、容量の仕様をこのpHで設定しており、そのため、精製性能を損なうことなく、もともとのこのバッファーをTrisのpH8に代えることも可能であろう。
【0130】
(III.カチオン交換クロマトグラフィーによる、最終精製)
アニオン交換工程(上述)から24時間以内にカチオン交換クロマトグラフィーを開始し、AKTA Explorer 100を用い、最小流速4ml/分で行った。
【0131】
(カチオン交換クロマトグラフィーの条件および試薬)
媒体/カラム:CIM(登録商標)SO3モノリス(8ml)
流速:1分あたり、10CVまで
バッファーA:10mMリン酸ナトリウム、2M尿素、pH7
バッファーB:20mMクエン酸塩、2M尿素、pH6.2
バッファーC:250mMクエン酸塩、pH6.2
バッファーD:1.0M NaOH
バッファーE:0.01M NaOHまたは20%エタノール
(カチオン交換クロマトグラフィー)
一旦開始したら、カチオン交換クロマトグラフィーを用いた最後の精製工程を、中断せずに完結させた。
【0132】
サンプル(アニオン交換から保存しておいたフラクション)を室温(18〜23℃)にした。バッファーAでカラムを平衡化した。バッファーA9部に対し、サンプル溶液1部になるようにライン内で希釈し、サンプルをローディングした。CIM SO3媒体の容量は、約30mg IgM/mlであると思われた。カラムを2〜5CVのバッファーAで洗浄し(洗浄1:2CVは十分な量であり、5CVを超えない)、次いで、5CVのバッファーB95%、バッファーC5%で洗浄し(洗浄2)、小さなピークを得た。
【0133】
サンプルを、バッファーB60%、バッファーC40%に到達する5CVの線形勾配を用いて溶出させ、次いで、サンプルのピークが完全に溶出し終わるまで、カラムをバッファーB60%、バッファーC40%に保持した。前側に最大ピーク高さの10%のところから集め始め、後側に最大ピーク高さの10%のところまでのフラクションを集め、保存しておいた。溶出したIgMは透明であった。任意の残留凝集物は、この後側で溶出すると予想された。この保存しておいたフラクションに、500mMリン酸塩(pH7)溶液を10%(v:v)で加えてpHを上げ、この溶液を4℃で保存した。カラムをバッファーBで洗浄し、小さなピークが得られた。カラムをバッファーDで再生し、バッファーE中で保存した。
【0134】
(最終精製に関する見解)
IgMは、精製して尿素を除去してすぐに、最終的な配合物になるようにダイアフィルトレーションすべきである。
【0135】
(実施例6.LM1の精製手順)
実施例5のプロセスで、SAM6をLM1に代え、使用するバッファーをいくらか変更し、LM1の精製手順を行った。アニオン交換クロマトグラフィー工程を用いた中間精製の間、バッファーAおよびバッファーBを以下のように調製した。
【0136】
バッファーA:50mM Tris、2M尿素、2mM EDTA、pH8.0
バッファーB:10mM リン酸ナトリウム、2M尿素、pH7.0
カチオン交換クロマトグラフィー工程による最終精製の間、第2の洗浄を行わず、バッファーBと、バッファーBおよびCの混合物を、以下のバッファーBと交換した。500mMリン酸ナトリウム、pH7。バッファーB15%(75mlリン酸塩)までの5CVの線形勾配を用いて、溶出工程を行った。最大ピーク高さの10%のところから、ピークの後ろの最大ピーク高さの25%のところまでを保存した。抗体を安定化させ、凝集を阻止するために、NaClを、濃度が0.1Mになるまで加えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク産物と、該タンパク産物の凝集物とを含むサンプルから、該タンパク産物を精製するプロセスであって、該プロセスは、
(a)該タンパク産物の凝集物を除去するために非イオン性ポリマーの使用を含む第1のクロマトグラフィー工程で、該非イオン性ポリマーが、該クロマトグラフィー条件で該タンパク産物の凝集物からの該タンパク産物の分離を促進するのに十分な濃度で存在し、その結果、実質的に凝集物を含まないタンパク産物を含むフラクションが、この工程の後に集められる、第1のクロマトグラフィー工程と;
(b)溶解度を高める添加剤と、該第1のクロマトグラフィー工程で得たタンパク産物を含むフラクション、またはその後で、前記第1のクロマトグラフィー工程で得たタンパク産物を含むフラクションから誘導される、得られたタンパク産物を含むフラクションとを混合し、該溶解度を高める添加剤が、双性イオン、尿素化合物、アルキレングリコールからなる群より選択される工程と;
(c)イオン交換クロマトグラフィーの使用を含む第2のクロマトグラフィー工程で、前記溶解度を高める添加剤が、タンパク産物の溶解度を高め、該クロマトグラフィー条件で実質的に閉塞を防ぐのに十分な濃度で存在し、該溶解度を高める添加剤が、第2のクロマトグラフィー工程を妨害しないような、第2のクロマトグラフィー工程と、を含み、該プロセスによって、実質的に凝集物を含まない、精製されたタンパク産物が得られる、プロセス。
【請求項2】
前記サンプルが、細胞培養物の上澄みである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記タンパク産物が、免疫グロブリンまたはそのフラグメントである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記免疫グロブリンがIgMである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶解度を高める添加剤が、グリシン、ベタイン、尿素、エチレングリコール、ポリエチレングリコールからなる群より選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記第1のクロマトグラフィー工程の非イオン性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記第1のクロマトグラフィー工程が、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを含み、前記非イオン性ポリマーが、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー条件で、前記凝集物からの前記タンパク産物の分離性を高めるのに十分な濃度で存在する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記非イオン性ポリマーが、ポリエチレングリコールであり、前記溶解度を高める添加剤が、グリシン、尿素からなる群より選択される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの後に集めたフラクションを、前記溶解度を高める添加剤を含む組成物に集める、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
第1のクロマトグラフィー工程の後に集めたタンパク産物を含むフラクションに、さらに分離工程または精製工程を行い、第1のクロマトグラフィーから得たフラクションから誘導されるタンパク産物を含むフラクションを得た後、このようなフラクションと溶解度を高める添加剤とを混合する工程を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記第2のクロマトグラフィー工程が、アニオン交換クロマトグラフィーを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記第2のクロマトグラフィー工程が、カチオン交換クロマトグラフィーを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第2のクロマトグラフィー工程が、カチオン交換クロマトグラフィーをさらに含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記第1のクロマトグラフィー工程から得られたタンパク産物を含むフラクションを、前記溶解度を高める添加剤を含む組成物と混合する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項15】
前記溶解度を高める添加剤が双性イオンである、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記第2のクロマトグラフィー工程から得たフラクションのイオン交換クロマトグラフィーを含む、第3のクロマトグラフィー工程を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第2のクロマトグラフィー工程が、アニオン交換クロマトグラフィーであり、前記第3のクロマトグラフィー工程が、カチオン交換クロマトグラフィーである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記第2のクロマトグラフィー工程が、カチオン交換クロマトグラフィーであり、前記第3のクロマトグラフィー工程が、アニオン交換クロマトグラフィーである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
前記溶解度を高める薬剤がグリシンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記第1のクロマトグラフィー工程が、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを含み、前記非イオン性ポリマーが、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー条件で、IgM凝集物からのIgMの分離性を高めるのに十分な濃度で存在する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項21】
前記非イオン性ポリマーがポリエチレングリコールである、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記非イオン性ポリマーが、約10%の濃度のポリエチレングリコールである、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記非イオン性ポリマーが、ポリエチレングリコールであり、前記溶解度を高める添加剤が、双性イオン、尿素からなる群より選択される、請求項21に記載のプロセス。
【請求項24】
前記溶解度を高める添加剤がグリシンである、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
約0.5M〜約1Mの濃度のグリシン存在下で前記第2のクロマトグラフィー工程を行い、このプロセスによって、IgM凝集物を実質的に含まないIgMが得られ、IgMが、約99%を超える純度を有する、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
さらに、前記第1のクロマトグラフィー工程のヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの後に集めたフラクションが、約1Mの濃度のグリシンを含む組成物に集められる、請求項25に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−522055(P2011−522055A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512579(P2011−512579)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/045947
【国際公開番号】WO2009/149067
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(509147743)パトリス リミテッド (4)
【Fターム(参考)】