説明

抗体の精製方法

【課題】抗体の変性あるいは凝集を引き起こさないpH条件で使用可能な抗体の精製方法を提供する。
【解決手段】抗体を含有する混合液から抗体を精製するための方法であって、アニオン交換基を有する多孔膜を用いて、混合液から不純物を吸着除去する工程と、不純物を除去する工程の次に、トリプトファンを担持した吸着体を用いて抗体を吸着した後、溶出回収する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の精製技術に関し、特にバイオ医薬品としての抗体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、標的物質を高い特異性で認識し、結合する。そのため抗体は、研究用試薬や臨床検査試薬として極めて有用である。こと近年においては、種々の治療用抗体が開発され、従来治療が困難であったリウマチや癌などの分野において、画期的な治療薬として医療技術の進歩に大きく貢献している。抗体の精製方法は、大まかに培養及び精製の二工程を含む。培養工程においては、免疫した動物あるいは抗体産性能を持つ細胞を用いて、抗体を含有する血液、腹水、あるいは細胞培養液等が得られる。細胞培養液等には抗体以外の様々なタンパク質やデオキシリボ核酸(DNA)等の不純物が含まれる。そのため、精製工程においては、不純物を減じ、抗体の純度を著しく高めることが求められる。
【0003】
精製工程において重要な役割を果たしているのが、アフィニティリガンドとして用いられる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインA、あるいはその組換え体であるプロテインGである。プロテインA及びプロテインGは抗体に対して非常に特異的であり、かつ高い親和性を有する。そのため、プロテインA及びプロテインGを用いた抗体の精製方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、プロテインA及びプロテインGは、通常、大変高価である。また、プロテインA及びプロテインGを用いた抗体の精製工程では、pH3付近の低pH緩衝液のみが用いられる。そのため、プロテインA及びプロテインGは、低pHで変性する抗体には適用できず、また、適用できたとしても抗体の凝集を引き起こすことが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、ヒトへ投与した場合に、抗体の凝集体は抗原性を示すことが懸念されており、こと治療用抗体の製造においては、凝集体の除去及び残留量のモニタリングが求められる(例えば、非特許文献2参照。)。
【0004】
さらに、プロテインA及びプロテインGは、微生物由来のタンパク質であるため、プロテインA及びプロテインGを含む抗体医薬品が投与された場合に、感受性の高い患者ではアナフィラキシー様の症状を引き起こす可能性がある(例えば、非特許文献3参照。)。そのため、抗体医薬品の製造工程の後段において、プロテインA及びプロテインGを除去し、残留量をモニタリングすることが必須となる。
【0005】
以上の課題を解決するため、イオン交換クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーを組み合わせた方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また有機化学的に合成されたプロテインA模倣リガンドを用い、プロテインAを用いない抗体の精製方法も報告されている(例えば、特許文献3参照。)。また、プロテインA模倣リガンドは、プロテインAそのものと比較すると、抗体の選択的吸着性が劣るため、吸着後に溶出した溶出液の抗体の精製度が充分でない。一方、弱酸性付近の緩衝液を用いてプロテインAから抗体を脱離させる方法が報告されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】欧州特許第310719号明細書
【特許文献2】特開平7−267997号公報
【特許文献3】国際公開第2007/064281号パンフレット
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ファーマシューティカル・サイエンス(Journal of Pharmaceutical Sciences)、2007年、第96巻、p.1−26
【非特許文献2】エイミー・S・ローゼンブルグ(Amy S. Rosenberg)著、「Overview S ignificance of Protein Aggregation to Therapeutic Protein Products」、[平成2 0年9月12日検索]、インターネット<URL : http://www.fda.gov/cder/regulatory/follow_on/200512/200512_rosenberg.pdf>
【非特許文献3】Eds.C.S.F.イースモン及びC.アドラム(Eds. C.S.F. Easmon and C. Adlam)著、「Staphylococci and Staphylococcal infections 2」、(英国)、アカデミック・プレス(Academic Press Inc.)、1983年、p.429−480
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2におけるイオン交換クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーを組み合わせた方法では、プロテインA及びプロテインGに比べて結合特性が低いことから、汎用性に乏しく、抗体の工業的な生産に広く用いられるに至っていない。
【0007】
また、特許文献3では、人工的に合成された化合物を用いる以上、プロテインA模倣リガンドを含む抗体医薬品が投与された場合、感受性の高い患者においてアナフィラキシー様の症状が引き起こされる可能性を免れない。さらに、特許文献3では、プロテインAを用いた方法をベースにしている以上、上記課題の根本的な解決に至っていない。
【0008】
かかる事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、抗体の変性あるいは凝集を引き起こさないpH条件で使用可能であり、安価にかつ簡便に、高い精度で抗体を精製可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記問題を解決するため、種々の吸着体及び精製方法について鋭意研究を重ねた結果、アニオン交換基が固定された多孔膜を用いて混合液をろ過することにより、不純物を除去する工程と、次いでトリプトファンを低分子リガンドとした吸着体を用いたアフィニティカラムで抗体を吸着後溶出回収する工程とを組み合わせることにより、高い精度で抗体を精製可能であることを見出し、本発明に係る方法を完成させるに至った。トリプトファンは必須アミノ酸のひとつであり、大量に摂取しない限り毒性はない。因みにマウスへ腹腔内投与した場合の半数致死量(LD50)は4.8g/kgである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る抗体の精製方法を用いることにより、抗体の変性を引き起こさず、異種タンパク質、人工合成化合物、あるいは抗体凝集体の混入のない抗体を得ることが可能となる。また、高価なプロテインAリガンドを有するカラム担体を用いることなく、高い精度で抗体を精製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
(第1の実施形態)
本実施の形態の精製方法は、抗体を含有する混合液から前記抗体を精製するための方法であって、アニオン交換基を有する多孔膜を用いて、前記混合液から不純物を吸着除去する工程と、前記不純物を吸着除去する工程の次に、トリプトファンを担持した吸着体を用いて前記抗体を吸着した後、前記抗体を溶出し回収する工程と、を含む。
【0013】
最初に、本実施の形態における不純物を吸着除去する工程について説明する。本実施の形態に係るアニオン交換基を有する多孔膜は、基材となる多孔質体と、多孔質体の細孔の側壁表面に化学的又は物理的に固定されたアニオン交換基を備える。ここで、多孔膜が細孔の側壁表面にグラフト鎖を有し、かつグラフト鎖にアニオン交換基が固定されていると、吸着容量が高いためより好ましい。グラフト鎖の材質は特に限定しないが、細孔の側壁表面に導入しやすいことから、メタクリル酸グリシジル又は酢酸ビニルの重合体が好ましく、アニオン交換基を化学的に固定しやすいことから、メタクリル酸グリシジルの重合体がより好ましい。
【0014】
多孔質体の素材は特に限定はされないが、機械的性質の保持のためにはポリオレフィン系重合体又はオレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体から構成されていることが好ましい。これらの素材の中でも、機械的強度に特に優れ、かつ高い吸着容量が得られる素材である点で、ポリエチレン及びポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
【0015】
多孔質体の最表面及び細孔の側壁表面に、グラフト鎖を導入し、グラフト鎖にさらにアニオン交換基を固定する方法は、限定されるものではないが、例えば、特開平2−132132号公報に開示されている。
【0016】
アニオン交換基としては、DNA、宿主細胞由来のタンパク質(HCP)、ウィルス、及びエンドトキシン等の不純物を吸着するアニオン交換基であれば限定されるものではないが、ジエチルアミノ基(DEA)、四級アンモニウム基(Q)、四級アミノエチル基(QAE)、ジエチルアミノエチル基(DEAE)、及びジエチルアミノプロピル基等が挙げられる。中でも、多孔質体に導入されたグラフト鎖への化学的な固定が容易であり、高い吸着容量が得られることから、ジエチルアミノ基及び四級アンモニウム基が好ましく、ジエチルアミノ基がより好ましい。
【0017】
多孔膜の最大細孔径は、濁質成分及びバクテリアをカットし、なおかつ高い透過流速を得るために、0.1μm以上、1.0μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm乃至0.6μmの範囲内であり、より好ましくは0.22μm乃至0.5μmの範囲内である。
【0018】
多孔膜の形態は、平膜、不織布、中空糸膜、モノリス、キャピラリー、円板又は円筒状など、多孔質体であれば形態は限定しない。しかし、製造のしやすさ、スケールアップ性、モジュール成型した際の膜のパッキング性などから、中空糸膜であることが好ましい。
【0019】
(請求項4のサポート)
前述のように、抗体を含有する混合液から不純物を吸着除去する目的のためには、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜を、モジュールに内蔵されていることが好ましい。中空糸膜モジュールは、多孔質体の最表面及び細孔の側壁表面にアニオン交換基が化学的又は物理的に固定された多孔質中空糸よりなる中空糸多孔膜を内蔵するモジュールである。該モジュールを用いて、溶存するあるいは濁質成分としての不純物を混合液から吸着除去することができる。
【0020】
次に、本実施の形態におけるトリプトファンを担持した吸着体を用いて前記抗体を吸着した後、前記抗体を溶出し回収する工程を説明する。吸着体は、担体にトリプトファンを担持することにより形成される。担体の素材及び形態は、特に限定されないが、天然高分子又は合成高分子からなる粒子、多孔膜、多孔中空糸、不織布等が使用可能である。また、担体へのトリプトファンの固定化方法は、pH3乃至9で安定であり、pH3乃至9の条件下における溶出物濃度が人体に毒性を示す濃度未満となる方法であれば特に限定されない。吸着体として、具体的には、トリプトファン固定化ポリビニルアルコールゲル(以下TR−PVA担体)等が使用可能である。
【0021】
本実施の形態において、吸着した抗体の溶出には、pH3乃至9の緩衝液が使用される。pH3乃至9の緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及び希塩酸溶液等が使用可能である。また、緩衝液には、例えば塩化ナトリウム、アルギニン等の種々の添加物を添加してもよい。
【0022】
(第2の実施形態)
本実施の形態における別の精製方法は、抗体を含有する混合液から前記抗体を精製するための方法であって、トリプトファンを担持した吸着体を用いて前記抗体を吸着した後、前記抗体を溶出し回収する精製工程に次いで、以下の工程の少なくとも一つを含む方法により、さらに不純物を除去する。
(1)アニオン交換クロマトグラフィーで精製する工程、
(2)カチオン交換クロマトグラフィーで精製する工程、
(3)疎水性クロマトグラフィーで精製する工程。
【0023】
トリプトファンを担持した吸着体を用いて前記抗体を吸着した後、前記抗体を溶出し回収する工程は、前記第1の実施形態と同様である。
吸着体から抗体を溶出回収した後、さらに抗体を精製するために、アニオン交換クロマトグラフィーで精製する工程、カチオン交換クロマトグラフィーで精製する工程、及び疎水性クロマトグラフィーで精製する工程から選ばれる、少なくとも一つの精製工程が実施されてもよい。これらのクロマトグラフィー工程においては、リガンドが固定された樹脂を充填したクロマトグラフィーカラム、あるいはリガンドが固定された多孔膜を用いることができる。ここでリガンドの種類は、抗体精製の目的に適したものであれば、特に限定されない。
【0024】
本実施の形態(第1及び第2の実施形態を含む。)に適用される、抗体を含有する混合液は特に限定されない。例えば血漿、血清、腹水、あるいは細胞培養液等に、本実施の形態を適用可能である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例によって、本実施の形態をより具体的に説明するが、本発明の実施の形態は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
(製造例1) アニオン交換膜モジュールの作成
外径3mm、内径2mm、細孔径0.3μm、空孔率70%のポリエチレン中空糸に、特開平2−132132号公報に開示されている方法に従って、グラフト鎖を導入した。その後、アニオン交換基としてジエチルアミノ基をグラフト鎖に固定した。得られた中空糸3本を束ね、中空糸の中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で量末端をポリスルホン酸製モジュールケースに固定し、アニオン交換基を有する中空糸モジュールを作製した。得られたモジュールの内径は9mm、長さは約33mm、モジュールの内容積は約2mL、モジュール内に占める多孔質中空糸の有効体積は0.85mL、中空部分を除いた中空糸多孔膜のみの体積は0.54mLであった。
【0027】
(製造例2) 抗体含有細胞培養液の調整
無血清培地にて培養したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培養液(塩濃度約0.9質量%、たんぱく質濃度約1g/L、細胞密度1.1×107/mL)196mLに抗体50mg/mLを含むヒトγ−グロブリン溶液(ベネシス社、ヴェノグロブリン)4mLを添加し、塩酸によりpH5.0に調整した後、0.45μmの精密ろ過膜を透過させることにより、抗体1mg/mLを含有する細胞培養液を調整した。得られた培養液中の代表的な不純物であるHCP濃度を、ELISA法を用いて測定した。具体的には、Cygnus Technologies製、CHO Host Cell Protein ELISA Kitの96ウェルプレートに細胞培養液を滴下し、GEヘルスケアバイオサイエンス製、Ultrospec Visible Plate Reader II96のプレートリーダーを用いてHCP濃度を測定した。その結果、細胞培養液中のHCP濃度は、346μg/mLであった。さらに他の代表的な不純物であるDNAの定量は、invitrogen製、Quant−iT(登録商標)dsDNA HS Assay Kitを用いて評価する細胞培養液を処理した後、Qubit(登録商標)フルオロメーターを用いて行った。その結果、細胞培養液中のDNA濃度は7340ng/mLであった。
【0028】
(実施例1) 抗体精製その1:アニオン交換膜に次いでTR−PVA担体を用いた抗体精製
製造例1で作成したアニオン交換膜モジュールに20mmol/L酢酸−0.2mol/L NaCl緩衝液(pH5.0)10mLを通液して平衡化した後、製造例2で調整した抗体含有細胞培養液54mLを透過させ、不純物が除去された抗体含有細胞培養液を得た。次に、2mLのTR−PVA担体を充填したカラムを、20mmol/L酢酸−0.2mol/L NaCl緩衝液(pH5.0)20mLを用いて平衡化した後、不純物が除去された抗体含有細胞培養液20mLを通液し、カラムに抗体を吸着させた。その後、カラムに上記緩衝液40mLを通液して洗浄した後、0.1mol/Lのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)を20mL通液して、抗体を溶出回収した。得られた溶出回収液に、等量の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.2)を添加し中和した後、1.5mmol/LのTris−HCl(pH8.0)で回収液をpH8.0に調整し、抗体の精製液を得た。
【0029】
得られた抗体の精製液中のHCP濃度を製造例2と同様にして測定した結果、3.18μg/mLであった。また製造例2と同様にしてDNA濃度を測定した結果、33.2ng/mLであった。さらに得られた回収液を10倍希釈し、波長280nmの吸光度を測定し、抗体の吸光係数1.3を用いて得られた精製液中の抗体重量は18.2mgであった。アニオン交換膜で不純物を除去した後の抗体含有細胞培養液20mL中の抗体濃度を1mg/mLとすると、カラムに添加された抗体の重量は20mgである。したがって、カラム処理後の抗体の回収率は91%であった。よって、本実施の形態に係る精製方法により、高い精製度と回収率で抗体を回収できることが示された。
【0030】
(比較例1) 抗体精製その2:TR−PVA担体のみを用いた抗体精製
製造例2で作成した抗体含有細胞培養液30mLを0.2μm除菌膜(ザルトリウス社製、Minisart plus)に通液した後、実施例1と同様にして、TR−PVA担体を用いて吸着、溶出回収し、pH8.0に調整して、抗体の精製液を得た。製造例2と同様にして、得られた抗体の精製液中のHCP濃度及びDNA濃度を測定したところ、それぞれ15.3μg/mL及び84.5ng/mLであった。また実施例1と同様の方法で抗体の回収率を測定したところ93%であった。この結果より、TR−PVA担体のみを用いた精製でも不純物は除去されるが、事前にアニオン交換膜を用いて不純物除去をした場合と比較して、精製度が大幅に劣ることが示された。
【0031】
(実施例2) 抗体精製その3:TR−PVA担体に次いでアニオン交換膜を用いた抗体精製
製造例1で作製したアニオン交換膜モジュールに10mmol/LのTris−HCl緩衝液(pH8.0)20mLを通液して平衡化した。その後、アニオン交換膜モジュールに、比較例1でTR−PVA担体を用いて得られたpH8.0の抗体精製液22.5mLを通液し、さらに上記平衡化緩衝液10mLを通液して併せて回収し、アニオン交換膜によるTR−PVA担体カラム後の精製液を得た。製造例2と同様にして、この抗体精製液中のHCP濃度及びDNA濃度を測定したところ、それぞれ56ng/mL及び1.1ng/mLであった。また実施例1と同様の方法で抗体の回収率を測定したところ84%であった。
【0032】
(比較例2) 抗体精製その4:プロテインAカラムを用いた抗体精製
製造例2で得られた抗体含有細胞培養液25mLを0.2μm除菌膜(ザルトリウス製、Minisart plus)に通液した後、20mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)10mLで平衡化したプロテインAカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製HiTrap ProteinA HP 1ml)に10mL添加し、抗体を吸着させた。カラムに上記緩衝液20mLを通液して洗浄した後、0.1mol/Lのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)を10mL通液して、抗体を溶出回収した。得られた溶出回収液に、等量の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.2)を添加し中和した後、1.5mol/LのTris−HCl(pH8.0)で回収液をpH8.0に調整し、抗体の精製液を得た。
【0033】
得られた抗体の精製液中のHCP濃度を製造例2と同様にして測定した結果、2.93μg/mLであった。また製造例2と同様にしてDNA濃度を測定した結果、63.2ng/mLであった。さらに得られた回収液を10倍希釈し、波長280nmの吸光度を測定し、抗体の吸光係数1.3を用いて得られた抗体の回収率は90%であった。この結果を比較例1の結果と比較すると、TR−PVA担体のみによる抗体の精製度は、プロテインAカラムのみによる精製度より劣ることが示された。これに対し、実施例1の結果と比較すると、アニオン交換膜で不純物を除去した後に、TR−PVA担体で抗体を精製した場合の精製度は、プロテインAカラムのみによる精製度と同等とであることが示された。
【0034】
(比較例3) 抗体精製その5:プロテインAカラムに次いでアニオン交換カラムを用いた抗体精製
アニオン交換クロマトグラフィーカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製HiTrapQ FF 1ml)に10mmol/LのTris−HCl緩衝液(pH8.0)10mLを通液して平衡化した。その後、アニオン交換クロマトグラフィーカラムに比較例2でプロテインAカラムを用いて得られたpH8.0の抗体精製液22.5mLを通液し、さらに上記平衡化緩衝液10mLを通液して併せて回収し、アニオン交換クロマトグラフィーカラムによるプロテインAカラム後の精製液を得た。製造例2と同様にして、得られた抗体の精製液中のHCP濃度及びDNA濃度を測定したところ、それぞれ48ng/mL及び1.0ng/mLであった。また実施例1と同様の方法で抗体の回収率を測定したところ83%であった。この結果を実施例2と比較することにより、TR−PVA担体を用いて不純物を除去した後、さらにアニオン交換膜を用いて抗体を精製した場合の精製度は、プロテインAカラムに次いでアニオン交換カラムを用いて抗体を精製した場合の精製度と同等であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る抗体の精製方法は、製薬産業及び医療産業等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を含有する混合液から前記抗体を精製するための方法であって、
アニオン交換基を有する多孔膜を用いて、前記混合液から不純物を吸着除去する工程と、
前記不純物を吸着除去する工程の次に、トリプトファンを担持した吸着体を用いて前記抗体を吸着した後、前記抗体を溶出し回収する工程と、
を含む抗体の精製方法。
【請求項2】
前記アニオン交換基が、前記多孔膜の細孔の側壁表面に結合したグラフト鎖に固定されている、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項3】
前記アニオン交換基を有する多孔膜がモジュール内に格納されており、前記混合液を前記多孔膜に透過させることにより、前記混合液から前記不純物を吸着除去する請求項1又は2に記載の抗体の精製方法。
【請求項4】
抗体を含有する混合液から前記抗体を精製するための方法であって、トリプトファンを担持した吸着体を用いて前記抗体を吸着した後、前記抗体を溶出し回収する精製工程に次いで、以下の工程の少なくとも一つを含む方法により、さらに不純物を除去する抗体の精製方法。
(1)アニオン交換クロマトグラフィーで精製する工程、
(2)カチオン交換クロマトグラフィーで精製する工程、
(3)疎水性クロマトグラフィーで精製する工程。
【請求項5】
前記クロマトグラフィーで精製する工程において、リガンドが担持された多孔膜又は樹脂を用いる、請求項4に記載の抗体の精製方法。