説明

抗体特異性をリダイレクトするための高親和性アダプター分子

血中抗体と標的分子の双方に結合して、血中抗体の特異性を標的分子にリダイレクトする高親和性アダプター分子を同定する方法を開示する。例示的な高親和性アダプター分子も同様に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年10月5日に提出された米国特許仮出願第61/248,778号および2009年11月2日に提出された米国特許仮出願第61/257,351号に対する優先権を主張する。上記出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
新しい標的を攻撃するように免疫系をリダイレクトするという考え方は、標的化免疫療法の魅力的な戦略として長く科学者たちの興味をかき立ててきた。癌、自己免疫疾患、および感染疾患などの疾患領域における所望の標的を攻撃するよう血中ヒト自然抗体をリダイレクトすることによって、特殊な免疫化の必要性をなくすことができる。この戦略は、当初成功する見込みを示したものの、ほとんどの試験はインビトロでの証明の域を超えて前進しなかった。たとえば、この戦略は、一般的集団に既に存在する抗体を利用する場合に特に貴重であり、経口投与を行うことができるであろう。このように、当技術分野において、抗体特異性をリダイレクトする改善された方法が必要である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、単離されたアダプター分子、特に高い結合親和性および選択性で抗体と所望の標的分子の双方に結合する二重特異性アダプターペプチドを提供する。本発明のアダプター分子は、その高い結合親和性および選択性により、血中抗体を、抗体分子によって通常結合されない標的分子に効率よくリダイレクトすることができる。その上、本明細書において開示されるアダプター分子は、従来の抗体媒介性の治療物質に対して以下の長所の1つまたは複数を提供する:1)多数の抗体クラスエフェクター機能の同時動員を可能にする;2)本発明の方法を用いて迅速に開発することができる;3)低コストの物品を有する;および4)対象に投与した場合にIgE媒介過敏症を引き起こさない。
【0004】
アダプター分子は一般的に、1つまたは複数のリガンド部分に連結された1つまたは複数の標的化部分を含む。ある態様において、リガンド部分は、1つまたは複数のGal抗原(たとえば、Gal-α-1-3-Gal)またはその模倣体を含む。1つの態様において、標的化部分は、ペプチド、たとえばVEGFまたはTNFα-結合ペプチドを含む。例示的なVEGF-結合ペプチドは、SEQ ID NO:1、2、3、および/または4に記載のアミノ酸配列の1つまたは複数を有する。もう1つの好ましい態様において、ペプチド(たとえば、SEQ ID NO:1、2、3、および/または4に記載のペプチド配列)は、1つまたは複数のGal抗原を含むリガンド部分(たとえば、Gal-α-1-3-Gal二糖類)に連結される。
【0005】
他の態様において、標的化部分は、1つまたは複数の抗体、またはその抗原結合断片を含む。適した抗体には、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、および/またはゴリムマブ、またはその抗原結合断片が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい態様において、抗体(たとえば、前記で開示した抗体の1つまたは複数)またはその抗原結合断片は、1つまたは複数のGal抗原を含むリガンド部分(たとえば、Gal-α-1-3-Gal)に連結される。もう1つの好ましい態様において、抗体(たとえば、前記で開示した抗体の1つまたは複数)またはその抗原結合断片は、1つのGal-α-1-3-Gal二糖類を含むリガンド部分に連結される。もう1つの好ましい態様において、1つまたは複数のGal抗原を含むリガンド部分(たとえば、Gal-α-1-3-Gal)は、抗体の1つまたは複数の可変領域に連結される。
【0006】
他の態様において、標的化部分は、抗体様分子を含む。適した抗体様分子には、アドネクチン(Adnectin)、アフィボディ(Affibody)、DARPins、アンチカリン(Anticalin)、アビマー(Avimer)、およびバーサボディ(Versabody)、またはその抗原結合断片が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい態様において、抗体様分子は、1つまたは複数のGal抗原を含むリガンド部分(たとえば、Gal-α-1-3-Gal)に連結される。
【0007】
他の態様において、本発明の標的化部分は、細胞表面受容体の細胞外部分、またはその断片を含む。適した細胞表面受容体には、TNFファミリー受容体(たとえば、TNFα受容体、たとえばヒトTNFα受容体)、およびチロシンキナーゼファミリーの増殖因子受容体(たとえば、p185HER2)が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい態様において、細胞表面受容体分子の細胞外部分は、1つまたは複数のGal抗原を含むリガンド部分(たとえば、Gal-α-1-3-Gal)に連結される。もう1つの好ましい態様において、細胞表面受容体分子の細胞外部分は、1つのGal-α-1-3-Gal二糖類を含むリガンド部分に連結される。
【0008】
他の態様において、標的化部分は、細胞表面受容体のリガンドを含む。好ましい態様において、リガンドは、1つまたは複数のGal抗原を含むリガンド部分(たとえば、Gal-α-1-3-Gal)に連結される。もう1つの好ましい態様において、リガンドは、1つのGal-α-1-3-Gal二糖類を含むリガンド部分に連結される。
【0009】
もう1つの局面において、本発明はまた、以下の段階を含む、単離されたアダプター分子を同定する方法も提供する:候補標的化部分の集団をコードする無作為化ライブラリを提供する段階;標的分子に対して高い親和性および/または選択性で結合する標的化部分をディスプレイライブラリから選択する段階;候補アダプター分子を形成するように、連結部分を介して標的化部分をリガンド部分に連結する段階;および候補アダプター分子が、血中抗体の特異性を標的分子にリダイレクトする能力を評価する段階。本発明の方法において用いるための適したスクリーニング法には、mRNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、酵母ディスプレイ、ファージディスプレイ、または合成ペプチドライブラリのスクリーニングが挙げられる。1つの好ましい態様において、mRNAディスプレイライブラリを用いて標的化ペプチドを選択する。もう1つの好ましい態様において、ファージディスプレイライブラリを用いて標的化ペプチドを選択する。
【0010】
本発明のさらなる局面は、本発明の単離されたアダプター分子の有効量を対象に投与して、それによって疾患を処置する段階を含む、対象における疾患(たとえば、癌、感染疾患、または自己免疫疾患)を処置する方法を提供する。特異的態様において、疾患は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、乾癬、糖尿病、心血管虚血、リウマチ性関節炎、および変形性関節炎の少なくとも1つである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の例示的なアダプター分子の概要である。アダプター分子は、関心対象標的にダイレクトされる高親和性ペプチド標的化部分と、抗gal抗体の糖ペプチドエピトープを含むリガンド部分とを含む二重特異性ペプチドである。標的分子と天然に存在する抗gal抗体の双方に結合することによって、アダプター分子は、標的分子に作用するように抗体のエフェクター機能をリダイレクトすることができる。
【図2】mRNAディスプレイの際に行われる様々な方法の段階の概要を提供する。
【図3】高親和性アダプターペプチドを選択するためのmRNAディスプレイにおいて用いられうる例示的なペプチドライブラリを描写する。
【図4】本発明の4つの例示的な高親和性VEGF標的化ペプチドを描写する。
【図5】標的部分(たとえば、本発明のVEGF標的化部分)をリガンド部分にカップリングさせるための例示的な方法およびリンカーを描写する。
【図6】標的部分/リガンド部分カップリング反応のHPLCおよび質量分析の解析を描写する。
【図7】最適化された標的部分/リガンド部分カップリング反応のHPLCおよび質量分析の解析を描写する。
【図8】天然に存在する抗gal抗体をVEGFに結合するようリダイレクトすることに関する本発明のVEGF結合アダプターの効能を証明するインビトロアッセイの結果を描写する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本明細書は、とりわけ高い結合親和性および選択性で抗体と標的分子の双方に結合する新規アダプター分子の同定および産生を記述する。本明細書において用いられる「アダプター」という用語は、抗体とそれに対して抗体が通常結合しない標的分子との機能的相互作用を容易にするペプチドの能力を指す。たとえば、本発明のアダプター分子は、抗体と標的とが互いに非常に近位に存在するように、抗体と標的分子の双方に結合することができる。ある態様において、抗体は、標的分子に対する抗体応答を容易にすることができる。例示的な抗体応答には、標的分子(たとえば、サイトカインまたは増殖因子などの可溶性因子)の中和またはオプソニン化が挙げられうる。または、標的分子がウイルスの表面上に存在する場合、抗体はウイルスの中和またはオプソニン化を容易にしうる。他の態様において、標的分子は細胞(たとえば、感染細胞または腫瘍細胞)の表面上に存在して、アダプターペプチドによって抗体が細胞に動員されると、抗体媒介エフェクター応答の誘導(たとえば、補体カスケードまたは抗体依存的細胞障害性(ADCC)の誘導)が容易となる。本明細書において開示されるアダプター分子は、それらが好塩基球を認識可能に活性化せず、それゆえに対象に投与した場合にIgE過敏反応を引き起こさないという点において特に有利である。
【0013】
本発明のアダプター分子は、少なくとも3つの部分を含む:(a)標的化部分、(b)リガンド部分、および(c)リンカー部分。標的化部分(a)は、高い親和性および/または選択性で標的分子に結合する部分である。リガンド部分(b)は、それに対して血中抗体が高い親和性および/または選択性で結合する部分である。標的化部分およびリガンド部分は、介在するリンカー部分(c)を介して機能的に連結される。該リンカー部分は、共有結合、化学リンカー、もしくはペプチドアミノ酸配列、またはアダプターペプチドの標的化部分およびリガンド部分に連結することができる任意の他の部分でありうる。
【0014】
(a)標的化部分
本発明の標的化部分は、標的分子に対する高い親和性および/または選択性での結合能に関して選択されている。特定の態様において、標的化部分は、解離定数(KD)100ナノモル濃度またはそれ未満(たとえば、10 nMもしくはそれ未満、1 nMもしくはそれ未満、100 pMもしくはそれ未満、10 pMもしくはそれ未満、または1 pMもしくはそれ未満)で標的分子に特異的に結合する。他の態様において、標的化部分は、高い選択性を示す。「特異的に結合する」とは、その部分が標的分子を認識して相互作用するが、試料、たとえば生物学的試料中の他の分子を実質的に認識せず、相互作用しないことを意味する。特定の態様において、標的分子の標的化部分の結合親和性は、非標的分子に対するその結合親和性より少なくとも1000倍高い(たとえば、103倍、104倍、105倍、106倍、または107倍高い)。
【0015】
標的化部分は、実質的に任意の標的分子に対する高い選択性および/または親和性での結合能に関して選択することができる。ある態様において、標的化部分は、ウイルス(たとえば、HAV、HBV、またはHCV、HIV、インフルエンザウイルス)、細菌、酵母、寄生虫、または真菌の表面タンパク質または抗原が挙げられるがこれらに限定されない病原体関連標的分子に結合する。他の態様において、標的分子は、感染宿主細胞または腫瘍細胞からの細胞表面抗原または受容体が挙げられるこれらに限定されない細胞表面タンパク質である。例示的な腫瘍関連抗原には、チロシンキナーゼファミリーの増殖因子受容体、p185HER2が挙げられる。他の態様において、標的分子はホルモンまたは増殖因子である。例示的なホルモンまたは増殖因子には、腫瘍壊死因子α(TNFα)または血管内皮増殖因子(VEGF)が挙げられる。他の態様において、標的分子は抗体(たとえば、自己抗体)である。
【0016】
1つの好ましい態様において、本発明の標的化部分はペプチド部分を含む。ペプチド標的化部分の長さは、望ましくはアミノ酸少なくとも3〜200個であり、好ましくはアミノ酸少なくとも3〜100個、より好ましくはアミノ酸3〜50個であり、なおより好ましくはアミノ酸3〜30個(たとえば、アミノ酸3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個)である。標的化部分として用いるための例示的なペプチドは、その全内容が参照により本明細書に組み入れられるWO/2010/014830に記述される。好ましい態様において、ペプチドは、以下のアミノ酸配列の任意の1つもしくは複数を含むもしくはそれらからなるVEGF結合ペプチド、またはそのVEGF結合部分である:

【0017】
他の態様において、本発明の標的化部分は、抗体またはその結合断片(たとえば、CDR(たとえば、CDRH3)、可変ドメイン(VHまたはVL)、またはFab断片)を含む。任意の動物種からの任意の抗体またはその断片が、本明細書において記述される方法および組成物において用いるために企図される。適した抗体および抗体断片には、一本鎖抗体(たとえば、その各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Bird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 85:5879-5883を参照されたい)、ドメイン抗体(たとえば、その各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,291,158号;第6,582,915号;第6,593,081号;第6,172,197号;第6,696,245号を参照されたい)、ナノボディ(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,765,087号を参照されたい)、およびユニボディ(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、WO2007/059782を参照されたい)が挙げられるがこれらに限定されない。ある態様において、抗体は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、および/またはゴリムマブ、またはその抗原結合断片である。
【0018】
他の態様において、本発明の標的化部分は、抗体様分子を含む。適した抗体様分子には、アドネクチン(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、WO 2009/083804を参照されたい)、アフィボディ(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,831,012号を参照されたい)、DARPins(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2004/0132028号を参照されたい)、アンチカリン(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第7,250,297号を参照されたい)、アビマー(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第200610286603号を参照されたい)、およびバーサボディ(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2007/0191272号を参照されたい)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0019】
他の態様において、本発明の標的化部分は、細胞表面受容体を発現する細胞にアダプター分子を動員することができる、細胞表面受容体のリガンドを含む。
【0020】
他の態様において、本発明の標的化部分は、細胞表面受容体またはその断片が細胞表面受容体の同源のリガンドにアダプター分子を動員させることができる、細胞表面受容体の細胞外部分またはその断片を含む。適した細胞表面受容体には、TNFファミリー受容体(たとえば、TNFα受容体、たとえばヒトTNFα受容体)およびチロシンキナーゼファミリーの増殖因子受容体(たとえば、p185HER2)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0021】
ある例示的な態様において、本発明の標的化部分は、Fc融合タンパク質またはイムノアドヘシン(たとえば、エタネルセプトなどのTNF受容体-Fc融合体)を含む。
【0022】
(b)リガンド部分
本発明のリガンド部分は、対象に存在するイムノアドヒージョン(immunoadhesion)(Fc融合タンパク質)によって結合される抗原性ドメインを含む。いくつかの態様において、リガンド部分は、血中抗体によって結合される。血中抗体は、自然獲得免疫により対象に存在しうる。または、血中抗体は、対象のこれまでのワクチン接種の結果として存在する。たとえば血中抗体は、痘瘡、麻疹、ムンプス、風疹、ヘルペス、肝炎、およびポリオに対する小児期のワクチン接種の結果として存在しうる。したがって、リガンド部分は、これらの血中抗体によって認識される1つまたは複数のエピトープを含みうる。
【0023】
しかし、いくつかの態様において、リガンド部分は、対象に投与されている抗体と相互作用する。たとえば、本発明のアダプター分子のリガンド部分と相互作用する抗体を、アダプター分子と同時投与することができる。さらに、リガンド部分と相互作用する抗体は、対象に通常存在しない可能性があるが、対象は、対象における抗体の高い力価を生成するために、生物材料または抗原(たとえば、血清、血液、または組織)の導入によって抗体を獲得している。たとえば、輸血を受ける対象は無数の抗体を獲得し、そのいくつかは、アダプターペプチドのリガンド部分と相互作用することができる。
【0024】
リガンド部分は、ペプチド、炭水化物、脂質、抗体、または抗体様分子が挙げられるがこれらに限定されない抗体に結合することができる任意の化合物を含むことができる。いくつかの態様において、リガンド部分(たとえば、ペプチド、抗体または抗体様分子)は、1つまたは複数の非天然アミノ酸を含むことができる。好ましくは、リガンド部分は、「高力価抗体」に結合するエピトープを含む。本明細書において用いられる「高力価抗体」という用語は、抗原(たとえば、抗原性ドメイン上のエピトープ)に対して高い親和性を有する抗体を指す。たとえば、固相酵素免疫測定法(ELISA)において、高力価抗体は、適切な希釈緩衝液においておよそ1:100から1:1000の範囲に血清を希釈した後、アッセイにおいてなおも陽性である血清試料中に存在する抗体に対応する。他の希釈範囲には、1:200〜1:1000、1:200〜1:900、1:300〜1:900、1:300〜1:800、1:400〜1:800、1:400〜1:700、1:400〜1:600等が挙げられる。ある態様において、血清と希釈緩衝液の比率は、およそ1:100、1:150、1:200、1:250、1:300、1:350、1:400、1:450、1:500、1:550、1:600、1:650、1:700、1:750、1:800、1:850、1:900、1:950、1:1000である。
【0025】
ある態様において、リガンド部分は、抗体の公知の標的分子(たとえば、病原体、腫瘍細胞、または感染宿主細胞からの表面タンパク質)から得られた抗原性ペプチドである。ペプチドリガンド部分の長さは、望ましくはアミノ酸少なくとも3〜200個、好ましくはアミノ酸少なくとも3〜100個、より好ましくはアミノ酸3〜50個、およびなおより好ましくはアミノ酸10〜25個(たとえば、アミノ酸3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個)である。いくつかの態様において、ペプチドは、天然のアミノ酸を含む。他の態様において、ペプチドは、1つまたは複数の非天然アミノ酸(たとえば、D-アミノ酸)を含む。
【0026】
ある態様において、リガンド部分は、グリコシル化リガンド部分である。グリコシル化リガンド部分は、対象における抗体によって認識される抗原性の糖類またはグリカン部分を含むことができ、またはそれらからなることができる。いくつかの態様において、グリコシル化リガンド部分は、アダプター分子の標的化部分に直接または間接的に(すなわちリンカー部分を介して)連結される。そのようなリガンド部分は、抗原性ペプチド部分を欠損する。他の態様において、グリコシル化リガンド部分は、追加の抗原性ペプチドエレメント(たとえば、病原体のペプチドまたはエピトープを含む抗原性ドメイン)を含む糖ペプチドである。
【0027】
例示的なグリコシル化リガンド部分は、血液型抗原に由来する。これらの抗原は一般的に、赤血球の膜の外側に位置する表面マーカーである。これらの表面マーカーのほとんどはタンパク質であるが、いくつかは、脂質またはタンパク質に結合した炭水化物である。構造的に、本明細書において記述される態様と共に用いることができる血液型決定因子は、I型およびII型として知られる2つの基本的範疇に入る。I型は、ガラクトース1-3β連結N-アセチルグルコサミンを含む骨格を含むが、II型は、その代わりに同じ構築ブロックのあいだに1-4β連結を含む。これらの骨格構造のフコシル化の位置および程度は、ルイス型およびH型特異性を生じる。たとえば、骨格のガラクトース部分におけるC2-ヒドロキシルのみにおけるa-モノフコシル分岐の存在は、H型特異性(I型およびII型)を構成するが、a-連結ガラクトースまたはa-連結N-アセチルガラクトサミンの置換によってさらに入れ替えると、周知の血清学的血液型分類A、B、およびOの分子的基礎を提供する。患者の特定の組の血液型抗原を最初に決定することにより、このリガンド部分を含むアダプター分子に対して強力な応答を生成して、それによって患者に存在する抗体を、該アダプター分子の標的化部分によって結合される標的分子にリダイレクトするために、患者のレパートリー外にある1つまたは複数の血液型抗原を含むリガンド部分を選択することができる。例示的な血液型抗原は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,318,926号の表2に詳細に記載される。
【0028】
ある好ましい態様において、グリコシル化リガンド部分は、gal抗原の1つまたは複数のgal-α-1-3 gal二糖類糖単位を含む。gal抗原は、グリコシル化酵素ガラクトシルトランスフェラーゼ(α(1,3)GT)によってブタ、マウス、および広鼻猿類の細胞において大量に産生される。ヒトおよび旧世界サルはgal抗原を欠損することから、それらはgal抗原に対して免疫寛容ではなく、消化管細菌による抗原性刺激に応答して、一生のあいだに抗gal抗原抗体(抗Gal)を産生する。抗gal抗体は、ヒトにおいて血中IgGの2%より多くを表し、および血中IgMの1〜8%を表すと推定されている。ドナー臓器における内皮細胞表面上の糖脂質および糖タンパク質上に発現されるgal抗原に対する抗Galの結合によって、補体カスケードの活性化および超急性拒絶が起こり、同様に補体非依存的遅延型異種移植片拒絶の発生においても重要な役割を果たす。したがって、gal抗原は、強力な免疫応答の生成能を有する。
【0029】
ある好ましい態様において、アダプター分子に接合されるまたは組み入れられるグリコシル化リガンド部分は、本質的に1つまたは複数のGal-α(1-3)-Gal二糖類の糖単位からなり、Gal抗原の任意の残りの部分(たとえば、GlcNacまたはGlc)を欠損する。たとえば、1つまたは複数のGal-α(1-3)-Gal二糖類は、二糖類単位の還元末端で遊離のヒドロキシル基(たとえば、グリコシド結合に関与しないC1炭素のヒドロキシル基)を介してアダプター分子の標的化部分に連結されうる。ある態様において、Gal二糖類は、遊離のヒドロキシル基でスペーサー部分(たとえば、C1-C6アルキルスペーサー)を介して標的化部分に連結される。いかなる特定の理論にも制限されないが、Gal抗原のGal-α(1-3)-Gal二糖類部分は、抗Gal抗体に選択的に結合するが、レクチン(たとえば、ガレクチン-3)またはGal抗原の他の部分(たとえばGal-β(1-4)-GlcNAc部分)に結合する他の分子に対しては限られた結合を示す。他の態様において、アダプター分子に接合されるまたは組み入れられるグリコシル化リガンド部分は、Gal抗原の追加の糖残基を含む。たとえば、gal抗原の1つまたは複数の三糖類(Gal-α(l-3)-Gal-β(l-4)-GlcNAcまたはGal-α(l-3)-Gal-β(l-4)-Glc)、四糖類(Gal-α(l-3)-Gal-β(l-4)-GlcNAc-β(l-3)-Gal)または五糖類(Gal-α(l-3)-Gal-β(l-4)-GlcNAc-β(l-3)-Gal-β(l-4)-Glc)単位を組み入れてもよい。
【0030】
ある態様において、アダプター分子に接合されるまたは組み入れられるgal抗原は、gal-α-(1,3)galシリーズのネオ糖タンパク質から選択され、以下を挙げることができる:Galα1-3Gal-BSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Gal-BSA(14-原子スペーサー)、Galα1-3Gal-HSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Gal-HSA(14-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-BSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-BSA(14-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-HSA(3-原子スペーサー)、Galαl-3Galβ1-4GlcNAc-HSA(14-原子スペーサー)、Galα1-3Gal-五糖類-BSA(3-原子スペーサー)等。他の態様において、gal抗原は、Galα1-3Galβ1-4Glc-BSA(3-原子スペーサー)、Galα1- 3Galβ1-4Glc-HSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-3GlcNAc-BSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-3GlcNAc-HSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-4(3-デオキシGlcNAc)-HSA(3-原子スペーサー)、Galα1-3Galβ1-4(6-デオキシGlcNAc)-HASが挙げられるgalα(1,3)galアナログネオ糖タンパク質から選択することができる。
【0031】
なお他の態様において、Gal抗原のペプチド模倣体を、本発明のアダプター分子に組み入れることができる。例示的なペプチド模倣体には、αGal連結糖ペプチドGal-α-YWRY、Gal-α-TWRY、およびGal-α-RWRYが挙げられる。Xian et al.(参照により本明細書に組み入れられる、J. Comb. Chem., 6: 126-134 (2004)を参照されたい)の方法を用いて、抗Gal抗体結合活性に関してαGal糖ペプチドの無作為化ライブラリをスクリーニングすることによって、他のペプチド模倣体を同定することができる。
【0032】
Gal抗原、またはそのペプチド模倣体を、当技術分野において認められた任意の手段を用いて標的化部分に連結させることができる(共有的および/または非共有的に)。当技術分野において認められる非共有的連結には、ビオチン-アビジンまたはビオチン-ストレプトアビジン連結、および他の高親和性結合パートナー(たとえば、ロイシンジッパー等)が挙げられる。共有的結合のための適した手段には、図4およびその全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第20100183635号に記載される手段が挙げられるがこれらに限定されない。たとえば、gal抗原(またはペプチド模倣体)を、合成化学リンカーを介してポリペプチド標的化部分のポリペプチド骨格に直接連結してもよい。例示的な合成化学リンカーには、二官能性リンカー部分、たとえばマレイミド官能性を有するリンカーが挙げられる。たとえば、二官能性リンカー部分は、標的化部分のアミノ基およびリガンド部分のチオール基を介して、またはその逆により、標的化部分およびリガンド部分に連結しうる。1つの例示的な態様において、マレイミドリンカー(たとえば、スルホ-SMCC)を用いて、アミノ修飾Gal抗原(たとえば、図5のBdi-(CH2)3-NH2)のアミノ基にポリペプチド標的化部分のシステイン残基を連結する。加えてもしくはまたは、gal抗原は、糖タンパク質標的化部分のN-連結オリゴ糖に連結されうる。いくつかの態様において、1つまたは複数のGal抗原(たとえば、gal-α-(1,3)gal)またはそのペプチド模倣体は、標的部分の1つの部位に連結される。他の態様において、1つまたは複数のGal抗原(たとえば、gal-α-(1,3)gal)またはそのペプチド模倣体は、標的部分の多数の部位に連結される。ある態様において、リンカー部分は、酵素的または化学的分解を低減するために化学修飾される。
【0033】
本明細書において開示されるGal抗原を含むアダプター分子は、それらが好塩基球を認識可能に活性化せず、それゆえ対象に投与した場合にIgE媒介過敏反応を引き起こさないという点において特に有利である。それにもかかわらず、いくつかの態様において、本発明のアダプター分子は、好塩基球の活性化能に関してアッセイされるであろう。好塩基球活性化を測定するための適したアッセイは、当技術分野において公知である(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、J. Allergy Clin Immunol (2002) 110102-9を参照されたい)。
【0034】
ある態様において、リガンド部分は、モノマーがアミノ酸ではないポリマー結合分子を含む。
【0035】
ある例示的な態様において、高親和性アダプター分子は、以下からなる群より選択される:

ここで、Xは、マレイミド官能性を有する二官能性化学リンカーであり;かつYはアミノ修飾Gal-1-3-Gal二糖類である。
【0036】
(c)修飾されたアダプター分子
本発明のアダプター分子の1つまたは複数の部分を修飾してもよい。ある態様において、アダプター分子のペプチド部分が修飾される。たとえば、アダプター分子のペプチド部分は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,559,126号に記述されるアミノ酸などの非天然アミノ酸を含めるように修飾することができる。たとえば、本発明のペプチドは、D-型光学異性体である1つもしくは複数の、または最も好ましくは全てのアミノ酸で構成されうる。これらのD-ペプチドは、抗体および他のタンパク質治療物質に関していくつかの長所を有する。D-ペプチドの大きさがより小さいことおよび安定性がより大きいことにより、D-ペプチドを肺、表面、および経口送達用に調製することはより単純である。D-ペプチドはまた、免疫原性が弱いことが知られている(Dintzis et al. (1993) PROTEINS: Structure, Function, and Genetics 16, 306-308)。さらに、酵素的分解に対するその抵抗性、およびポリマーとの複合体形成能により、他のペプチド薬と比較して改良された薬物動態が得られる。同様に、D-ペプチドは、消費者に転嫁されうる製造コストが低減される。
【0037】
アダプター分子のペプチド成分はまた、任意の多様な標準的な化学法によって修飾することができる(たとえば、アミノ酸を保護基によって修飾することができ;カルボキシ末端アミノ酸を末端アミド基にすることができ;アミノ末端残基をたとえば親油性を増強する基によって修飾することができ;またはポリペプチドを、安定性もしくはインビボ半減期を増加させるために化学的にグリコシル化するまたはそれ以外となるように修飾することができる)。本発明のアダプター分子は、溶解性を促進する化学修飾または特定のアミノ酸配列を含めるように設計されうる。たとえば、いくつかの態様において、ペプチド部分は、N-末端またはC-末端領域にアミノ酸DDDまたはKKKを含めるように合成されうる。加えてもしくはまたは、ペプチドおよび他の標的化部分は、たとえばN-末端および/またはC-末端領域でPEG化部分を含めるように合成されうる。例示的なPEG化部分には、PEG2-NH2およびPEG2-Cys-NH2部分が挙げられる。
【0038】
本発明はまた、本明細書において記述される配列の「保存的配列改変」または「保存的アミノ酸改変」、すなわちヌクレオチド配列によってコードされるまたはアミノ酸配列を含有するペプチドの結合特徴に有意に影響を及ぼさないまたは変化させないアミノ酸配列改変を包含する。そのような保存的配列改変には、ヌクレオチドおよびアミノ酸の置換、付加、および欠失が挙げられる。部位特異的変異誘発およびPCRによる変異誘発などの当技術分野において公知の標準的な技術によって、配列に改変を導入することができる。いくつかの態様において、改変は合理的設計によって選択され、設計されたペプチドは一般的に本明細書において記述される化学合成によって生成される。「保存的アミノ酸改変」は、アミノ酸残基が類似の側鎖(たとえば、類似の大きさ、形状、電荷、共有結合または水素結合の形成能を含む化学特性等)を有するアミノ酸残基に交換されている置換である保存的アミノ酸置換を含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(たとえば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β-分岐側鎖(たとえば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。
【0039】
本発明のペプチドまたはその模倣体は、特に標的タンパク質と相互作用しないと予想されるタンパク質の部分における1つまたは複数の置換によって改変されうる。ペプチドにおけるアミノ酸の5%、10%、20%、30%、40%、50%、または50%以上もの多くのアミノ酸を保存的置換によって変更してもよく、それでも標的に関するタンパク質の親和性を実質的に変更しないと予想される。そのような変化は、インビボでポリペプチドの免疫原性を変更し、免疫原性が減少すれば、そのような変化が望ましい可能性がある。本発明のペプチド分子の構造において作製することができる同族の置換のさらに非制限的な例には、D-フェニルアラニンとD-チロシン、D-ピリジルアラニン、またはD-ホモフェニルアラニンとの置換、D-ロイシンと、D-バリンまたは脂肪族側鎖を有する他の天然もしくは非天然アミノ酸との置換、および/またはD-バリンとD-ロイシンまたは脂肪族側鎖を有する他の天然もしくは非天然アミノ酸との置換が挙げられる。いくつかの態様において、単独の、すなわちアミノ酸欠失または付加を有しない保存的アミノ酸置換が、好ましいタイプのアミノ酸改変である。当業者は、そのような改変または置換がDNAレベルで行われて、このように変更されたもしくは置換されたペプチドをコードしうること、または改変もしくは置換がたとえば直接化学合成によってタンパク質レベルで行われうることを認識するであろう。
【0040】
いくつかの態様において、アダプター分子のペプチドまたはペプチド部分は、環状であるように作製されうる。そのような「環状ペプチド」は、2つのアミノ酸を接続する分子内連結を有する。環状ペプチドはしばしば、タンパク質分解に対して抵抗性であり、このように経口投与のための良好な候補物質である。分子内連結は、中間連結基を包含してもよく、またはアミノ酸残基のあいだに直接共有結合を伴ってもよい。いくつかの態様において、N-末端およびC-末端アミノ酸が連結される。他の態様において、1つまたは複数の内部アミノ酸が環状化に関係する。当技術分野において公知の他の方法を使用して、本発明のペプチドを環状化してもよい。たとえば、環状ペプチドは、側鎖アジド-アルキン1,3-双極性環状付加により形成されうる(参照により本明細書に組み入れられる、Cantel et al. J. Org. Chem., 73 (15), 5663-5674, 2008)。ペプチドの環状化はまた、全て参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5596078号;第4033940号;第4216141号;第4271068号;第5726287号;第5922680号;第5990273号;第6242565号;およびScott et al. PNAS. 1999. vol.96 no.24 P.13638-13643に開示される方法によっても達成されうる。いくつかの態様において、分子間連結は、そうでなければジスルフィド結合によって作製されるであろう構造を保存するジスルフィド結合模造体またはジスルフィド結合模倣体である。
【0041】
いくつかの特に好ましい態様において、ペプチドの環状化は、分子内ジスルフィド結合を介して起こる。いくつかの好ましい態様において、分子内ジスルフィド結合の形成はペプチドの親和性を増加させる。したがって、本発明のペプチドまたはその模倣体を選択するかつ/または親和性成熟させるために用いられる方法論は、選択の前および選択の際にジスルフィド結合を形成させる条件(たとえば、酸化条件)下で行われうる。いくつかの特に好ましい態様において、ジスルフィド結合は、ライブラリもしくはペプチドに天然に存在する、または1回もしくは複数回の選択ラウンドの際に変異プロセスによって導入されるシステイン残基のあいだで形成されうる。他の態様において、ペプチドは、残基がジスルフィド結合に関与することが知られている特定の位置でシステイン残基を含有するように設計されうる。システイン残基間の分子内ジスルフィド結合は、当技術分野において公知の方法によって導入されうる(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4572798号;第6083715号;第6027888号、およびWIPO公開番号WO/2002/103024)。
【0042】
いくつかの態様において、ジスルフィド結合の形成(または環状化もしくは分子内連結構造全般の形成)は、標的結合にとって重要である特定の構造をペプチドに付与する。したがって、ジスルフィド結合および/または環状化は、好ましくは、結合形成によって作製されたおそらく都合のよい構造が選択されうるように、ペプチド選択の前に生じる。いくつかの態様において、本発明のペプチドまたはその模倣体は、1つより多く、2つ、3つ、またはそれより多くのジスルフィド結合を有しうる。分子内ジスルフィド結合、分子内ジスルフィド結合置換、および他の分子内連結を有するペプチドを生成および選択するための当技術分野において公知のさらなる方法を使用してもよい。たとえば、参照により本明細書に組み入れられるWO03040168に記載される方法は、いくつかの態様において本発明の方法と共に使用されうるペプチドアプタマー、コノチド(conotide)、および他の環状ペプチドを生成して選択する方法を記述する。
【0043】
関連する態様において、結合にとって有益である(たとえば、結合親和性を増加させる)ペプチドのコンフォメーションまたは構造は、化学クロスリンクまたは他のペプチド安定化法によって保存または模倣されうる。たとえば、ジスルフィド結合によって形成される有益なペプチドコンフォメーションまたは構造は、化学処置または反応によって安定化されて、このようにジスルフィド結合を必要とすることなく構造を保存させる。実際に、ジスルフィド結合が当初存在するか否かによらず、ペプチド安定化技術を使用して本発明のペプチドを安定化させてもよい。たとえば、Jackson, et al. J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 9391-9392; Phelan, et al. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 455-460; Bracken, et al. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 6431-6432に記述される技術を用いて、本発明のペプチドまたはペプチド部分を安定化させてもよい。
【0044】
ペプチドおよびペプチド構造を安定化させるために他の方法、たとえばO-アルキルセリン残基を通してのヘリックスのオレフィンクロスリンク(参照により本明細書に組み入れられる、Blackwell, H. E.; Grubbs, R. H. Angew. Chem., Int. Ed. 1998, 37, 3281-3284)、全炭化水素クロスリンク(参照により本明細書に組み入れられる、Schafmeister and Verdine J. Am. Chem. Soc. 2000, 122 (24), 5891-5892)、および米国特許第7183059号に開示される方法を用いてもよい。Blackwell et al.およびSchafmeister et al.に開示される方法は、「ステープル」ペプチド、すなわち特定のコンフォメーション状態もしくは二次構造となるよう共有結合によりロックされるペプチド、またはそれらが特定のコンフォメーションもしくは構造を形成しやすくする特定の分子内共有連結を有するペプチドの産生として記述されうる。このように処置されたペプチドが、例えば、標的結合にとって重要であるα-ヘリックスを形成する傾向がある場合、結合に関するエネルギー閾値は低下するであろう。そのような「ステープル」ペプチドは、プロテアーゼに対して抵抗性であることが示されており、同様に細胞膜をより有効に通過するように設計されうる(同様に、参照により本明細書に組み入れられる、Walensky et al. Science 2004: Vol. 305. no. 5689, pp. 1466-1470; Bernal et al. J Am Chem Soc. 2007, 129(9):2456-7を参照されたい)。したがって、本発明のペプチドまたはペプチド部分は、このようにステープルされうる、またはそうでなければ特異的コンフォメーション形状にそれらをロックするように修飾されうる、またはそれらは結合にとって有益である特定のコンフォメーションもしくは二次構造になりやすくなるように修飾されうる。そのようなペプチドの修飾は、任意のコンフォメーション拘束の恩恵が選択されうるように、ペプチド選択の前に起こりうると企図される。または、いくつかの態様において、結合にとって有益であることが知られているコンフォメーションを保持するために、またはペプチド候補体をさらに改良するように、選択後に修飾を行ってもよい。
【0045】
他の態様において、アダプター分子のリガンド部分を修飾することができる。該修飾は、たとえば、妨害分子による競合的結合を最小限にするために、またはリガンド部分の酵素的もしくは化学的分解を低減するために作製することができる。本明細書において用いられる「妨害分子」という用語は、アダプター分子に対する結合に関して血中抗体と競合して、その意図される治療効果を発揮するのを妨害する(たとえば、アダプター分子を血液中から急速に消失させることによって)結合分子(たとえば、血中または細胞表面の受容体)を指す。たとえば、グリコシル化リガンド部分は、抗Gal抗体による選択的結合を増強するために化学修飾されている一方、レクチン(たとえばガレクチン3)または他の妨害分子による望ましくない結合を最小限にする、gal抗原または模倣体を含みうる。加えてもしくはまたは、グリコシル化リガンド部分は、たとえば酵素的もしくは化学的分解を低減させるために、または共有的連結を容易にするために化学修飾されている、gal抗原または模倣体を含みうる。例示的な修飾には、たとえば脱水的カップリング、還元的アミノ化、またはたとえばガラクトースオキシダーゼによる酵素的酸化を介しての、gal抗原の糖残基上の反応性ヒドロキシル基への生物学的不活性の保護基の付加が挙げられる。Galエピトープの末端のGal残基上のC-6'OHに保護基を付加してもよい(たとえば、Andreana et al., Glycoconjugate J., 20: 107-118 (2004)を参照されたい)。例示的な保護基には、アミン(たとえば、アミノピリジン)およびオキシム置換基(たとえば、O-Me-オキシム、O-Et-オキシム、O-tBu-オキシム、O-Bn-オキシム、およびO-アリル-オキシム)が挙げられる。または、極性のC-6' OH基を、非極性の水素に交換して、6-デオキシ-α-Gal誘導体を形成することができる(参照により本明細書に組み入れられる、Janczuk et al., Carbohydrate Research, 337: 1247-1259 (2002)を参照されたい)。ある例示的な態様において、Galエピトープをアミノ修飾基(たとえば、アルキル-NH2置換基)によって修飾すると(たとえば、C-1OHで)、標的化部分との連結を容易にすることができる。次に、修飾されたgal抗原に対する抗Gal抗体の結合を、当技術分野において認められた方法論(たとえば、ELISA)を用いて評価することができる。
【0046】
(d)多価アダプター分子
本明細書において開示される種類の複数のペプチドまたはペプチド部分を接続して、アビディティまたは価数が増加した複合アダプター分子を作製することができると企図される。同様に、アダプター分子のペプチドまたはペプチド部分を、蛍光ポリペプチド、標的化ポリペプチド、および明確な治療効果を有するポリペプチドなどの、任意の数の他のポリペプチドに結合させてもよい。
【0047】
II.高親和性アダプター分子を同定する方法
ある局面において、本発明は、高い結合親和性または選択性を有するアダプター分子を同定する方法を提供する。本発明の方法は、(i)高親和性標的化部分(たとえば、標的化ペプチド部分および/またはリガンドペプチド部分)を同定するための少なくとも1つの選択段階、および(ii)アダプター分子の標的化およびリガンド部分が連結されてアダプター分子を形成する連結段階、を含む。
【0048】
ある態様において、本発明の方法は、アダプター分子の1つまたは複数の標的化部分を同定するための選択段階としてリボソームまたはmRNAディスプレイを使用する。リボソームおよびmRNAディスプレイ法の全般的概要は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Lipovsek and Pluckthun(J. Immunological Methods, 290: 51-67 (2004))によって提供される。好ましい態様において、アダプター分子の標的化部分(たとえば、ペプチド標的化部分)は、mRNAディスプレイを用いて同定される。例示的なmRNAディスプレイ方法論を図2に描写する。簡単に説明すると、たとえば直接DNA合成によってまたはインビトロもしくはインビボ変異誘発を通して開始ライブラリを得る。次に、二本鎖DNAライブラリをインビトロで転写して(たとえば、T7ポリメラーゼを用いて)、ピューロマイシン様リンカーに結合させる。ピューロマイシン様リンカーが新生翻訳産物と反応するインビトロ翻訳を行う。精製後の結果は、ペプチド-RNA融合分子の非常に多様な(〜1013個)ライブラリである。逆転写は、転写されたペプチドに共有的に連結されたcDNA/RNAハイブリッドを生成する。次に、この複合体を標的分子(標的化ペプチド部分の場合)または抗体(リガンドペプチド部分の場合)を用いることによって選択する。標的または抗体分子に結合する(たとえば、ストリンジェントな洗浄条件下で)ペプチドを選択して、cDNAを容易に溶出して選択されたペプチドを同定する。高親和性結合体を同定するために、選択を複数回行うことができる。選択の方法論は、分子内ジスルフィド結合が選択の際にペプチドに存在するような条件で行われうることに注意すべきである。他の態様において、望ましければ、ジスルフィド結合の形成を防止してもよい。
【0049】
追加のまたは代替の態様において、本発明の方法は、アダプター分子の1つまたは複数の標的化(たとえば、ペプチド)部分を同定するために、選択段階としてファージディスプレイおよび/または酵母ディスプレイ技術を使用する。そのようなライブラリスクリーニング法の非制限的な例は、たとえば、その各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第7,195,880号;第6,951,725号;第7,078,197号;第7,022,479号:第5,922,545号;第5,830,721号;第5,605,793号;第5,830,650号;第6,194,550号;第6,699,658号に記述される。
【0050】
他の態様において、本発明の方法は、合成ペプチドのライブラリを使用する。そのような合成ペプチドは、化学合成するかまたは酵素的に産生することができる(たとえば、RNAからのインビトロ翻訳によって、または既存のタンパク質の酵素的消化によって)。いくつかの態様において、合成ペプチドのライブラリは、固相基質(たとえば、スライドガラス)上でアレイにされる。
【0051】
ある態様において、本発明の方法は、特定の標的または抗体分子と相互作用することが知られているより大きいポリペプチドの一部に対応する無作為化ペプチドをコードするmRNAライブラリ(たとえば、mRNAディスプレイライブラリ)を使用する。例示的なmRNAディスプレイライブラリを図3に描写する。たとえば、ペプチドライブラリは、ペプチドのアミノ酸配列が、分子内で1つまたは複数のアミノ酸位置(好ましくは少なくとも10またはそれより多くのアミノ酸位置)で無作為化される直線状のペプチド分子の集団を含みうる。ペプチド配列のこの無作為化部分は、親ポリペプチドからの1つまたは複数の定常領域によって隣接されうる。
【0052】
ある態様において、本発明の方法は、候補標的化部分(たとえば、ペプチドまたはポリペプチド)の無作為化集団をコードするmRNAディスプレイライブラリを提供する段階を含む。例として、標的化ペプチドは、可溶性リガンド、たとえばVEGFに由来する無作為化ペプチドでありうる。高親和性標的化ペプチドは、ライブラリからのペプチドRNA-cDNA融合体をスクリーニングすることによって選択される。多数の選択サイクルは、好ましくは標的分子(たとえば、VEGF受容体)に結合する分子に関して分子の集団を濃縮するために行われる。各選択段階における標的分子の濃度を減少させることによって、最も高い親和性を有する標的分子に結合するペプチドを集団においてさらに濃縮することができる。各選択段階において使用することができる追加の選択技法には:(1)非特異的ペプチドを除去するための逆選択;(2)部位特異的ペプチドを同定するための競合的溶出;および(3)安定なペプチドを同定するための特異的溶液条件(たとえば、高ストリンジェントな洗浄条件)での選択が挙げられる。
【0053】
ある態様において、ライブラリのメンバーは、リンカー(たとえば、二官能性リンカー)と反応して、連結部分を形成することができるカップリング部分を含めるように選択前に修飾される。他の態様において、ライブラリのメンバーは、連結部分に対する連結を容易にするために選択段階後にカップリング部分によって修飾される。例示的なカップリング部分には、末端アミノ酸(たとえば、C-またはN-末端システインまたはシステインアナログ)、またはマレイミド官能性を有する二官能性リンカーと反応することができるアミノ酸側鎖(たとえば、システインまたはシステインアナログ側鎖)が挙げられる。
【0054】
高親和性標的化部分が同定された後、予め選択されたリガンド部分に連結部分を介してペプチドを連結させて、それによってアダプター分子を作製することができる。ある態様において、リガンド部分は、mRNAディスプレイ法を用いて予め選択されている。または、標的化部分は、候補リガンドの無作為化集団をコードする第二のmRNAディスプレイライブラリ内の定常領域として挿入することができる。次に、この第二のmRNAディスプレイライブラリを、アダプター分子を同定するためにライブラリメンバーが抗体に対してスクリーニングされる、さらなる選択段階に供することができる。このように、候補リガンドは好ましくは、抗体リガンドの一部(たとえば、エピトープ)に対応する。1つの態様において、抗体リガンド部分は、それに対して抗体が結合する抗原のエピトープでありうる。もう1つの態様において、抗体リガンド部分は、それに対して第二の抗イディオタイプ抗体が結合する第一の抗体のイディオタイプでありうる。なおもう1つの態様において、抗体リガンド部分は、Fc結合タンパク質(たとえば、Fc受容体)のFc結合部分でありうる。
【0055】
標的分子と抗体分子の双方に対して高い親和性および/または選択性で結合するアダプター分子を選択した後、アダプター分子を、抗体の特異性を標的分子にリダイレクトできるか否かに関して評価することができる。たとえば、標的分子が細胞表面分子である場合、アダプター分子のエフェクター機能誘導能(たとえば、抗体依存的細胞障害性(ADCC)または補体依存的細胞障害性(CDC)および細胞死滅)を、当技術分野において認められた技術を用いて評価することができる。
【0056】
なお他の態様において、ライブラリのメンバーを、選択段階の前にリガンド部分に連結させる。たとえば、スクリーニングされるライブラリの各メンバーを、Gal抗原によって誘導体化した後、高親和性アダプター分子を同定するためにスクリーニング段階に供することができる。該Gal抗原を、各ペプチドの末端アミノ酸またはアミノ酸側鎖に連結してもよい。
【0057】
なお他の態様において、標的化部分が第一の選択段階(または第一のシリーズの選択段階)において選択され、第二の選択段階(または第二のシリーズの選択段階)においてリガンド部分の選択を容易にするために、標的化部分の配列がmRNA-ペプチド融合体の定常領域に組み入れられる、反復選択プロセスを使用してもよい。たとえば、第一および第二の選択段階(または一連の選択段階)を連続する選択ラウンドにおいて交互にして、高親和性アダプター分子を同定することができる。
【0058】
III.高親和性アダプター分子を合成する方法
高親和性アダプター分子の成分が、本明細書において記述される方法を用いて同定された後、それらは当技術分野において公知の標準的な方法を用いて産生されうる。たとえば、組み換えDNA法を用いてペプチドを産生して、組み換え型発現ベクターにポリペプチドをコードする核酸配列(たとえば、cDNA)を挿入して、発現を促進する条件下でDNA配列を発現させてもよい。核酸操作のための全般的技術は、たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2 ed., 1989、またはF. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (Green Publishing and Wiley-Interscience: New York, 1987)、および定期的更新物において記述される。細菌、真菌、酵母、および哺乳動物細胞宿主と共に用いるための適切なクローニングおよび発現ベクターは、その関連する開示が参照により本明細書に組み入れられる、Cloning Vectors: A Laboratory Manual, (Elsevier, New York, 1985)において見いだすことができる。他の組み換え型DNA法は、全てが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4356270号、第4399216号、第4506013号、第4503142号、第4952682号、第5618676号、第5854018号、第5856123号、第5919651号、および第6455275号において記述される。
【0059】
アダプター分子およびその成分はまた、当技術分野において周知である技術を用いて化学合成によっても作製されうる。たとえば、適切な保護基を用いることを伴う固相合成法において、D-アミノ酸の段階的付加を用いてD-ペプチドを合成することができる。L-ペプチドに関して一般的に用いられる固相ペプチド合成技術は、これらの参考文献の全てが参照により本明細書に組み入れられる、Meinhofer, Hormonal Proteins and Peptides, vol. 2, (New York 1983); Kent, et al., Ann. Rev. Biochem., 57:957 (1988); Bodanszky et al, Peptide Synthesis, (2d ed. 1976); Atherton et al.(1989) Oxford, England: IRL Press. ISBN 0199630674; Stewart et al.(1984). 2nd edition, Rockford: Pierce Chemical Company, 91. ISBN 0935940030;およびMerrifield (1963) J. Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154によって記述される。D-ペプチドの固相合成において用いられるD-アミノ酸は、多数の販売元から得ることができる。D-ペプチドならびにL-およびD-アミノ酸の混合物を含有するペプチドは、当技術分野において公知である。同様に、D-アミノ酸のみを含有するペプチド(D-ペプチド)も合成されている。Zawadzke et al., J. Am. Chem. Soc, 114:4002-4003 (1992); Milton et al., Science 256: 1445-1448 (1992)を参照されたい。D-ペプチドを作製する追加の方法が当技術分野において記述されており、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、WIPO公開番号WO/1997/013522、および米国特許出願第60/005,508号において少なくとも見いだすことができる。
【0060】
本発明のペプチドは、タンパク質化学の分野で一般的に公知であるタンパク質に関する単離/精製法によって精製することができる。非制限的な例には、抽出、再結晶、塩析(たとえば、硫酸アンモニウムまたは硫酸ナトリウムによる)、遠心分離、透析、限外濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、ゲル透過クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、電気泳動、向流分配またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。精製後、ペプチドを異なる緩衝液に交換する、かつ/または濾過および透析が挙げられるがこれらに限定されない当技術分野において公知の多様な任意の方法を用いて濃縮させてもよい。精製されたポリペプチドは、好ましくは少なくとも85%または90%純粋であり、より好ましくは少なくとも93%または95%純粋であり、および最も好ましくは少なくとも97%、98%、または99%純粋である。純度の正確な数値にかかわらず、ペプチドは、薬剤として用いるために十分に純粋である。
【実施例】
【0061】
本発明を、図面および以下の実施例によってさらに説明するが、これらはさらなる制限として解釈すべきではない。本出願を通して引用された全ての図面および全ての参考文献、特許、ならびに公開された特許出願の内容は、その全内容が明白に参照により本明細書に組み入れられる。
【0062】
実施例1.標的化部分としての高親和性抗VEGFペプチドの選択およびαGalリガンド部分とのコンジュゲーション
図2に描写されるmRNAディスプレイ法を用いて、無作為化ペプチド配列のライブラリを、VEGFに対する高親和性結合に関してスクリーニングした。4つの高親和性抗VEGFペプチド配列(SEQ ID NO:1〜4)を選択した。Gal抗原(Bdi-(CH2)-NH2、二糖類)に対する化学カップリングを容易にするために、各ペプチドをC-末端でPEG2-NH2またはPEG2-Cys-NH2部分によってPEG化した(図4を参照されたい)。
【0063】
Gal二糖類に対する各ペプチドの化学的コンジュゲーションを容易にするために、マレイミドとスルホ-NHS官能基を有する二官能性リンカー(スルホ-SMCC、PIERCE)を使用した。リンカーは、二糖類に存在するアミノ基およびペプチドのC-末端システイン残基のスルフヒドロキシル基におけるマレイミド官能基と反応した。所望の化合物を得るため、ならびに任意のさらなる反応および副産物の形成を回避するために、インキュベーションの直後に反応物をRP-HPLC精製に供した。副産物の形成を回避するために、反応物の量の割合を最適化した。例示的な合成において、二糖類化合物Bdi-(CH2)-NH2 6 mg(〜15μmol)を、20%MeCNを含有するpH 6.0の0.1 M Hepes緩衝液100μlに溶解した。スルホ-SMCCリンカー1.3 mg(〜3μmol)を、20%MeCNを含有するpH 6.0の0.1 M Hepes緩衝液100μlに溶解して;および双方の溶液を混合して、反応試験管を絶えず回転させながら室温で30分間インキュベートした。ペプチド07-090(07-090;凍結乾燥物、TFA付加生成物、M.W. 3474 g/mol;〜320 nmol)1 mgを80:20%H2O/MeCN 1 mlに溶解した。調製直後に、澄明なペプチド溶液をリンカー-二糖類溶液に加えて、反応管を絶えず回転させて室温でさらに90分間インキュベートした。反応混合物を氷中に入れて、アリコートをRP-HPLC-C18カラムにおいて分析した。緩衝液A:H2O/5%MeCN、0.1%TFA、緩衝液B:H2O/5%MeCN、0.1%TFAの0から50%のHPLC勾配を用いることによって、所望の化合物(Bdi-(CH2)-NH-リンカー-S-07-090-ペプチド)を精製した。HPLC分画を、65%メタノール、0.5%ギ酸によって希釈後、ESI-TOF-MS分析によって分析して産物分画を同定した。関連する産物ピーク分画を-80℃で凍結して、その後所望の化合物を有するように完全に乾固するまで凍結乾燥した。
【0064】
実施例2.抗VEGF特異的アダプター分子は、天然の抗αGal抗体をVEGFにリダイレクトすることができる
αGal-連結抗VEGFペプチドが、αGalに対して特異的な天然の抗体をVEGFに結合するようにリダイレクトすることができるか否かを試験するためのアッセイを設計した。アッセイは、固相上の組み換え型VEGFについて設計された。αGal連結抗VEGFペプチドの一連の希釈液をrVEGFと共にインキュベートした後、高レベルの抗αGalを含有するマウスからの血清と共にインキュベートした。結合した抗αGalの量は、酵素にコンジュゲートした抗マウス抗体によって示される。酵素の存在は、比色測定基質を加えることによって示され、色の増加を、490 nmでの吸光度を決定することによって測定した。図8に示されるデータは、ペプチドまたは抗血清の量の減少によって、吸光度の減少が起こったことから、αGal連結抗VEGF抗体が、天然の抗αGal抗体をVEGFにリダイレクトすることができたことを明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含み、それによってアダプター分子を同定する、抗体特異性をリダイレクトすることができる高親和性アダプター分子を同定する方法:
(a)候補標的化ペプチド集団をコードする無作為化ライブラリを提供する段階;
(b)高い親和性および/または選択性で標的分子に結合する標的化ペプチドをディスプレイライブラリから選択する段階;
(c)候補アダプター分子を形成するように、連結部分を介してリガンド部分に標的化ペプチドを連結する段階;および
(d)候補アダプター分子の、血中抗体の特異性を標的分子にリダイレクトする能力を評価する段階。
【請求項2】
段階(a)〜(d)が連続的に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
連結する段階(c)が段階(b)の前に行われる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ライブラリがmRNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、酵母ディスプレイ、ファージディスプレイ、または合成ペプチドライブラリである、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
標的化ペプチドが、結合親和性1 nMまたはそれ未満で標的分子に結合する、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
リガンド部分がグリカン部分を含む、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
リガンド部分が血液型抗原である、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
リガンド部分がgal抗原またはそのエピトープである、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
リガンド部分が1つまたは複数のgal-α-1-3-gal二糖類単位からなる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
リガンド部分が、妨害分子による競合的結合を低減させる修飾を有する修飾gal抗原である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
リガンド部分が、酵素的または化学的分解を低減させる修飾を有する修飾gal抗原である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
修飾gal抗原が末端ガラクトース残基のC6'位で保護基を含む、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
リガンド部分がgal抗原のペプチド模倣体である、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
リガンド部分がペプチドリガンド部分である、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
ペプチドリガンド部分が、血中抗体の抗原結合部位によって選択的に結合されるエピトープを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ペプチドリガンド部分が、血中抗イディオタイプ抗体によって選択的に結合される抗体のイディオタイプを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ペプチドリガンド部分が、Fc結合タンパク質の結合部位部分を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ペプチドリガンド部分が、(i)候補ペプチドリガンド部分の集団をコードする無作為化mRNAディスプレイライブラリを提供する段階;および(ii)血中抗体に対して高い親和性および/または選択性で結合するペプチドリガンド部分を段階(i)のディスプレイライブラリから選択する段階、によって選択される、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
候補ペプチドリガンド部分が、選択する段階(ii)の前に標的化ペプチドに融合される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
候補ペプチドリガンド部分が、選択する段階(ii)後に標的化ペプチドに融合される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
標的分子が可溶性の疾患関連分子である、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
リダイレクトされた抗体特異性が、可溶性分子のオプソニン化または中和を測定することによって評価される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
リガンド部分が、二官能性リンカー部分によって標的化部分に連結される、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
二官能性リンカー部分が、標的化部分のアミノ基およびリガンド部分のチオール部分を介して、標的化部分およびリガンド部分に連結する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
標的分子が、感染細胞または新生細胞の表面上に存在する、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
リダイレクトされた抗体特異性が、細胞のADCCまたはCDC依存的死滅を測定することによって評価される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
(i)標的分子に高い親和性または選択性で結合する標的化部分、(ii)血中抗体に特異的に結合するリガンド部分;および(iii)標的化部分をリガンド部分に連結させるリンカー部分を含む、前記請求項のいずれか1項記載の方法に従って同定される高親和性アダプター分子であって、抗体と標的分子とのあいだの機能的相互作用を容易にする、アダプター分子。
【請求項28】
標的化部分がペプチド標的化部分である、請求項27記載の高親和性アダプター分子。
【請求項29】
標的化部分が、高い親和性または選択性でVEGFリガンドに結合する、請求項27または28記載のアダプター分子。
【請求項30】
標的化部分が、SEQ ID NO:1、2、3および4から選択される1つまたは複数の配列を含む、請求項27〜29のいずれか1項記載のアダプター分子。
【請求項31】
標的化部分がPEG化される、請求項27〜29のいずれか1項記載のアダプター分子。
【請求項32】
リガンド部分が、血中抗Gal抗体に特異的に結合するGal抗原を含む、請求項27〜30のいずれか1項記載のアダプター分子。
【請求項33】
以下からなる群より選択される高親和性アダプター分子:

ここで、
Xはマレイミド官能性を有する二官能性化学リンカーであり;かつ
Yはアミノ修飾Gal-1-3-Gal二糖類である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−506435(P2013−506435A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533246(P2012−533246)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/051484
【国際公開番号】WO2011/044133
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(512088534)オプソニック セラピューティクス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】