抗体発現最適化配列を使用する発現制御
本発明は、抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージを提供し、上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、かつ下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含み、ジシストロニックなメッセージがAEOS1(配列番号1)、AEOS2(配列番号2)、AEOS3(配列番号3)、AEOS4(配列番号4)、AEOS5(配列番号5)、AEOS6(配列番号6)、AEOS7(配列番号7)、AEOS8(配列番号8)、AEOS9(配列番号9)、AEOS10(配列番号10)及びAEOS11(配列番号11)から選択される配列を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖がジシストロニックなメッセージ内にあるDNAによってコードされている抗体の生成方法に関する。より具体的には本発明は、抗体がジシストロニックなメッセージとして発現される場合に、抗体の発現及び収量を最適化するための1組の配列を提供する。
【背景技術】
【0002】
WO03/048208は、抗体の発現及び収量を最適化するために使用できる具体的なジシストロニックなメッセージを記載している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、抗体がジシストロニックなメッセージとして発現される場合に、抗体の発現及び収量を改善するために使用できる11個からなる1組の抗体発現最適化配列(AEOS)を提供する。このように、本発明は、抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージであって、その上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、その下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含む、ジシストロニックなメッセージにおいて、
【化1】
から選択される配列を含むことを特徴とする、ジシストロニックなメッセージを提供する。
【0004】
本発明のジシストロニックなメッセージは、特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖をコードする。本発明の抗体は、可変領域(VH/VL)及び定常領域(CH/CL)を有する任意の重鎖及び軽鎖の対であることができ、好ましくはその抗体の軽鎖定常領域はκアイソタイプである。本発明の抗体は、抗体全体或いは特にFab若しくはFab’又はWO2005/003170に記載の切断型Fab断片などのその断片であることもできる。
【0005】
本発明のFab’断片は、天然又は改変ヒンジ領域を有することができる。天然ヒンジ領域は、抗体分子のCH1ドメインと正常に結合しているヒンジ領域である。改変ヒンジ領域は、天然のヒンジ領域と長さ及び/又は組成の点において異なっている任意のヒンジである。そのようなヒンジは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ又はヤギのヒンジ領域などの任意の適切な種由来のヒンジ領域を含むことができる。他の改変ヒンジ領域は、そのCH1ドメインとは異なるクラス又はサブクラスの抗体に由来する全ヒンジ領域を含むこともできる。このように、例えばクラスγ1のCH1ドメインがクラスγ4のヒンジ領域に結合することもできる。また、改変ヒンジ領域は、天然ヒンジ領域又は繰り返しの各単位が天然ヒンジ領域由来である繰り返し単位の一部分を含むこともできる。さらにまた、天然ヒンジ領域を1つ若しくは複数のシステイン又は他の残基をアラニンなどの中性残基に変換すること或いは適切な位置の残基をシステイン残基に変換することによって改変することもできる。このような方法によって、ヒンジ領域中のシステイン残基の数を増加又は減少させることができる。加えて、軽鎖の鎖間システインからヒンジシステインの間の距離、ヒンジのシステインの間の距離、及び可動性などのヒンジの特性に影響を与え得るヒンジ中の他のアミノ酸の組成などのヒンジの他の特徴を制御することができる。例えばグリシンは回転性の可動性を増大させるためにヒンジに組み込むことができ、プロリンは可動性を減少させるために組み込むことができる。また、荷電した残基又は疎水性の残基の組合せを多量体化特性を付与するためにヒンジ中に導入することもできる。他の改変ヒンジ領域は、完全に合成によることもできるし、長さ、組成及び可動性などの望ましい特性を有するように設計することもできる。例えばUS5677425、WO99/15549、WO98/25971及びWO2005/003171において、多数の改変ヒンジ領域が既に記載されており、これらを本明細書に参考文献として援用する。
【0006】
本発明の抗体は、例えばIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを含む任意の抗体のアイソタイプ、並びに例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むそれらのサブクラス由来であることができる。好ましくは、本発明の抗体はIgG1由来である。好ましくは、軽鎖定常領域はκイソタイプである。抗体は、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヤギ又はヒトを含む任意の種から得ることができる。好ましくは、本発明の抗体の少なくとも定常領域はヒトである。抗体の一部分は複数の種から得ることができ、例えば抗体はキメラであることができる。一例において、定常領域はある1つの種由来でありかつ可変領域は他の種由来である。他の例においては、抗体の可変領域は、組換えDNA工学技術を使用して作製されている。このような工学的に作り出されたバージョンは、例えば天然の抗体のアミノ酸配列への挿入、欠失又は変更によって天然の抗体の可変領域から作製されたものを含む。このタイプの具体的な例は、ある1つの抗体に由来する、少なくとも1つのCDR及び場合によって1つ又は複数のフレームワークアミノ酸と、第二の抗体に由来する、可変領域ドメインの残りの部分とを含有する工学的に作り出された可変領域ドメインを含む。
【0007】
組換え抗体を作製及び製造するための方法は、当業者に周知である(例えば、Bossら、US4816397;Cabillyら、US6331415;Shraderら、WO92/02551;Orlandiら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86、3833;Riechmannら、1988、Nature、322、323;Queenら、US5585089;Adair、WO91/09967;Mountain及びAdair、1992,Biotechnol.Genet.Eng.Rev、10、1〜142;Vermaら、1998、Journal of Immunological Methods、216、165〜181を参照)。
【0008】
本発明の抗体分子は、一般に抗原に選択的に結合することができる。抗原は、例えば細菌細胞、酵母細胞、T細胞、内皮細胞若しくは腫瘍細胞などの細胞上の細胞表面抗原である任意の細胞関連抗原であることができるし、又は可溶性抗原であることもできる。抗原は、例えば受容体及び/若しくはそれらに対応するリガンドなど、疾患時又は感染時に上方制御される抗原などの医学関連抗原であることもできる。細胞表面抗原の具体的な例は、例えばVLA−4であるβ1インテグリンなどのインテグリン、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチンを例とする接着分子、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD45、CDW52、CD69、がん胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、及びVEGF、並びに適当な場合これらの受容体を含む。可溶性抗原は、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12、IL−16又はIL−17などのインターロイキン、例えば呼吸器多核体ウイルス抗原又はサイトメガロウイルス抗原などのウイルス抗原、IgEなどの免疫グロブリン、インターフェロンα、インターフェロンβ又はインターフェロンγなどのインターフェロン、腫瘍壊死因子α、腫瘍壊死因子β、G−CSF又はGM−CSFなどのコロニー刺激因子、及びPDGF−α及びPDGF−βなどの血小板由来増殖因子、並びに適当な場合これらの受容体を含む。
【0009】
本発明のジシストロニックなメッセージは、合成DNA、cDNA若しくはゲノムDNA又はこれらの任意の組合せを含むことができる。
【0010】
具体的な抗体についてのDNAコード配列は、当業者に周知の方法によって得ることができる。例えば、抗体の重鎖及び軽鎖の一部分又は全部をコードするDNA配列は、決定されているDNA配列又は対応するアミノ酸配列に基づいて要望通りに合成することができる。
【0011】
分子生物学の標準的技術を、特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖をコードし、本発明によって提供される配列を含むDNA配列を調製するために使用できる。望ましいDNA配列を、オリゴヌクレオチド合成技術を使用して完全に又は部分的に合成することができる。必要に応じて、部位特異的突然変異誘発及びポリメーラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用することもできる。
【0012】
本発明のジシストロニックなメッセージは、抗体鎖の1つをコードするDNA配列に融合している、エフェクター又はレポータータンパク質をコードするDNA配列を含むことができる。
【0013】
本発明のジシストロニックなメッセージは、ジシストロニックなメッセージから発現される抗体にエフェクター若しくはレポータータンパク質又は分子が続いて結合できるように、抗体鎖の1つをコードするDNA配列に融合しているペプチドリンケージをコードするDNA配列を含むこともできる。
【0014】
本発明のジシストロニックなメッセージは、ペリプラズム又は細胞の外側への抗体鎖のターゲティングを可能にするために、抗体鎖の1つ又は両方をコードするDNA配列の上流に融合している分泌シグナル配列も含むことができる。
【0015】
好ましくは、分泌シグナル配列は、OmpAペプチド配列である。好ましくは重鎖及び軽鎖両方のための分泌シグナル配列は、OmpAペプチド配列である。
【0016】
好ましくは、本発明のジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体分子は、抗腫瘍壊死因子α抗体である。さらに好ましくは、本発明のジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体分子は、ヒトTNFαに特異性を有し、かつ図8において示す配列(配列番号24)から成る軽鎖及び図9において示す配列(配列番号25)から成る重鎖を含む。好ましくは、ジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体が抗TNF−α抗体Fab’断片である場合、ジシストロニックなメッセージは、配列AEOS11(配列番号11)を含む。一実施形態において、ジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体が抗TNF−α抗体Fab’断片である場合、ジシストロニックなメッセージはIGS17の配列(配列番号22)を含む。好ましい一実施形態において、本発明のジシストロニックなメッセージは、図10において提供する配列(配列番号26)を含む。
【0017】
本発明の抗体発現最適化配列は、2つのシストロンの改善された翻訳カップリングが成されるように、長さ、配列及び二次構造に関して改変されている。
【0018】
WO03/048208において記載の通り、下流のシストロンの翻訳に影響を与えることができるジシストロニックなメッセージの特性がいくつかある。これらは、上流のシストロン中のシャイン・ダルカーノ(SD)モチーフの存在、SDモチーフの性質、SD部位と下流のシストロンのAUG開始コドンとの間の距離、上流のシストロンの終止コドンと下流のシストロンのAUG開始コドンとの間の距離並びにこの間の介在配列の性質を含む。
【0019】
本発明のAEO配列は全てシャイン・ダルカーノ(SD)モチーフ(リボソーム結合部位)及びそこからジシストロン中の2つの遺伝子の第2の開始(スタート)コドンへの特定の範囲のヌクレオチド距離を有している。以前記載された配列(WO03/048208参照)とは対照的に、シストロン中の第2の遺伝子の発現レベルを最適化するために、同一のSD及び終止コドンが各配列において使用された。
【0020】
本発明によって提供されるAEOヌクレオチド配列は、図1に示す通り
【化2】
である。
示した配列は、
i)3’12bpのヒトcκ(NRGECCをコード)
ii)内部シャイン・ダルカーノ部位(下線)
iii)TAA終止コドン(*)及び終止コドンと開始コドンATGとの間の遺伝子間スペーサー配列
iv)開始コドンATG
を含む。
【0021】
最初のシストロンの終止コドンと2番目のシストロンのATGとの間の距離も示されている。
【0022】
開始コドンATGがGTG及びTTGなどの他の適切なコドンによって置換できることは、理解される。
【0023】
特定の抗体分子に最適な抗体発現最適化配列は、以下の方法を使用して経験的に決定することができる。方法は、抗体分子に試験のために挿入することができる
【化3】
から選択される一連のAEO配列バリアントを含む、一連の適切な発現ベクターを構築することを含む。各抗体についての各AEO配列の経験的試験は、適切な宿主へ発現ベクターを形質転換し、抗体の発現及び収量を分析することによって行うことができる。長さ及び配列が変化している本願に記載の1組のAEO配列を、特定の抗体分子に最適なAEO配列を選択することができる前記ベクターを構築するために使用できる。クローンの構築を容易にするために同一の制限酵素部位を使用している各AEO配列を含む1組のDNAカセットも本発明によって提供される(図2)。これらのカセットは、抗体分子の重鎖及び軽鎖それぞれの挿入に適するHindIII及びMunIの制限酵素部位を含み、ここでOmpAリーダー配列が重鎖の配列に先行している。これらのカセットは、最初のシストロンに軽鎖定常領域のC末端、cκ(SFNRGEC)を、及び二番目のシストロンに、OmpAリーダー配列のN末端の一部(MKKTAIAI)を含んでいる。本発明によって提供されるカセット配列は
【化4】
である。
【0024】
したがって、本発明は、本発明のジシストロニックなメッセージを含む発現ベクターも提供する。
【0025】
適切な発現ベクターは、当業者において周知である。そのようなベクターの例はWO03/048208に記載の通りpTTO及びpTTODを含む。
【0026】
本発明は、本発明によるジシストロニックなメッセージを含むクローニングベクターも提供する。
【0027】
発現ベクター及びクローニングベクターを構築することができる一般的な方法、形質転換方法及び培養方法は当業者に周知である。
【0028】
本発明は、特定の抗体分子を生成するための方法であって、本発明の発現ベクターで形質転換された細菌宿主細胞を、当該抗体分子をコードするDNAの発現を誘導するのに適した条件下で培養すること及び当該抗体分子を単離することを含み、当該抗体の発現レベルが最適化されている、方法も提供する。
【0029】
任意の適切な細菌宿主細胞を、本発明によるジシストロニックなメッセージによってコードされた特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖の発現のために使用することができる。好ましくは、細菌宿主細胞はグラム陰性であり、非限定的にサルモネラ(Salmonella)、エルウィニア(Erwinia)及び大腸菌(E.coli)を含む。好ましくは大腸菌宿主細胞が使用される。他の微生物システムも使用できる。
【0030】
抗体分子を、適切なシグナル配列によって、細胞の外へ分泌したり又はペリプラズムにターゲティングしたりすることができる。また抗体分子を、細胞の細胞質中に蓄積させてもよい。生成する抗体及び使用する方法に依存して、抗体分子をリホールドし、機能的コンホメーションを形成させることが望ましい場合がある。抗体分子をリホールドさせるための方法は当業者に周知である。
【0031】
本発明の抗体分子は、宿主細胞で生成されれば当業者に既知である任意の適切な方法を使用して抽出及び精製することができる。適切な精製方法は、非限定的にサイズ排除、疎水性相互作用クロマトグラフィー、プロテインA、G又はLアフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換を含む。
【0032】
本発明によるジシストロニックなメッセージによって生成される抗体分子は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤若しくは担体との組合せで特定の抗体を含む治療用又は診断用組成物を作製するために使用できる。
【0033】
抗体分子は、治療用又は診断用組成物中で唯一の活性成分であってもよく、或いは例えば抗T細胞抗体、抗IFNγ抗体若しくは抗LPS抗体などの他の抗体成分、又はキサンチンなどの非抗体成分を含む1つ又は複数の他の活性成分を伴ってもよい。
【0034】
本発明によって生成される特定の抗体分子は、それが使用される療法に応じて任意の適切な形態及び量で投与することができる。
【0035】
投与のための適切形態は、例えばボーラス注射若しくは持続輸液などの、例えば注射投与又は輸液といった非経口投与に適する形態を含む。生成物が注射用又は輸液用である場合、それは油性若しくは水溶性の媒体中の懸濁液、溶液又は乳液の形態であることができるし、懸濁剤、保存剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤用薬剤を含むこともできる。
【0036】
また抗体分子は、使用前に適切な滅菌液体で再構成するための乾燥形態であることもできる。
【0037】
例えば抗体断片である場合など抗体分子が経口投与に適する場合、製剤は活性成分に加えて経口投与組成物の製剤中に使用される適切な添加剤を含むことができる。
【0038】
治療用及び診断用組成物は、単位投与形態であることができ、その場合各単位投与量は有効量の特定の抗体分子を含んでいる。投与量は患者の年齢及び状態に応じて選択されることになる。
【0039】
抗体分子が短い半減期(例えば2から10時間)を有すると、1日当たり1回又は複数回の投与を行う必要がある場合がある。一方、抗体分子が長い半減期(例えば2から15日間)を有すれば、1日1回、1週間に1回、又はさらに1ヶ月若しくは2ヶ月ごとに1回の投与を行う必要があるだけの場合もある。
【0040】
本発明を、添付の図を参照する以下の例において例示的方法によってさらに説明する。
【実施例】
【0041】
一般的方法
抗TNFα抗体をコードするジシストロニックなメッセージ
本発明のジシストロニックなメッセージを、WO01/94585に記載の抗TNFαFab’断片の高レベルでの発現を達成するために使用した。上流のシストロンは抗体の軽鎖をコードし(図8)、一方下流のシストロンは抗体の重鎖をコードした(図9)。ペリプラズムへの効率的な分泌を行うためにOmpAシグナルペプチドをコードするDNA配列を軽鎖及び重鎖のそれぞれをコードするDNAの5’末端に結合した。
【0042】
一定範囲の異なる抗体発現最適化配列(AEOS)をコードする1連のオリゴヌクレオチドカセット(図2)を、重鎖の発現レベルを変化させるためにジシストロニックなメッセージに使用した。異なるAEOSの使用は、重鎖の翻訳開始速度を変化させ、翻訳された重鎖生成物の蓄積速度の範囲に変動を生じた。
【0043】
方法は、本質的にWO03/048208に記載の通りであった。IGS1、2、3及び4は、WO03/048208による。
【0044】
構築物は、5’HindIII部位からOmpAにわたる長い順方向5’オリゴを使用して作製された。発現実験は、標準的方法、W3110へのプラスミドの形質転換、及び21個のフラスコ中での200ml LB 30℃での震盪フラスコでの実験、200μM IPTGでのOD600=0.5における誘導であった。決めた時点での試料を、Tris/EDTA抽出用緩衝液(100mM/10mM pH7.4)中に1ml当たり30OD600に再懸濁し、30℃で一晩震盪した。抗ヒト−κHRP複合体(Southern Biotech HP6062)での6045捕捉(抗CH1)及び検出を使用する、アセンブリーELISAによって、Fab’濃度をアッセイした。
【0045】
発現の経時変化は、IGS7〜14の全てが以前記載されたIGS1及びIGS2と同程度又はより良いレベルでFab’を発現できることを示した(図3)。IGS9は、IGS2と比較して、これら両者が終止コドンと開始コドンの間に同じスペーシング(+1)を有するにもかかわらず、収量の増大を生じており、これらはHindIII部位の存在/不在、スペーシングヌクレオチドA対T、及びOmpAIIの最初の2つリシンのコドンのAAG AAG対AAA AAGにおいて異なっている。
【0046】
図4は、どちらも−1の遺伝子間スペーシングを有する2つのIGSプラスミド(IGS1及びIGS7)を比較している。これらのプラスミドからのFab’の発現が有意には異ならないことは、HindIII部位の存在及びOmpAIIの2つリシンのコドンのAAG AAGからAAA AAGへの変化が発現レベルの変化を生じないことを示唆している。このため、他のIGS構築物においても存在するこれら2つの変化は、異なるIGSの間で比較する場合おそらく無視することができる。したがって以下の例において重要なことはAEO配列である。
【0047】
図5a〜e:IGS10〜13(スペーシング+2、+3、+4及び+5)に対するIGS2(スペーシング+1)の比較は、IGS2を超える収量の改善は2つの要因、IGS2において使用されるGAGGGG配列よりもむしろGAGGAG SD配列の使用、及びSDとATG開始コドンの間に最適な距離を有することによることを示している。データは、+4及び+5のスペーシングで収量が一定の低減傾向にあり、+2及び+3のスペーシングがこのFab’に最適であることを示唆している。この傾向は、IGS2(+1)での収量とほぼ同程度であるIGS14(+6)での収量のさらなる低下によって支持される、図5e参照。
【0048】
図6は、構築物間の差異が終止コドンとATGとの間のスペーシングだけである2つのプラスミド間に有意差があることを確証している。IGS10(+2)及びIGS14(+6)は同一のHindIII、SD配列、TAA終止コドン及びAAA AAGのOmpAIIコドンを有する。このデータは、ポリシストロン中の2番目の遺伝子の発現レベルがIGS中のSD−ATGスペーシングの長さによって精密に調整でき、したがってIGSカセット中のAEO配列に依存していることを確証している。
【0049】
新規IGSカセット7〜14の増殖プロフィールを実験し、IGS1及びIGS2と比較した。OD600が0.5に達した時に培養を誘導し、次いで4時間続けた。ほとんどの培養は、2つの注目すべき例外を除き同じ様に観察された。IGS9(+1)をコードするプラスミドは、より高いOD600に細胞を培養可能にし、誘導後も他のIGSカセットよりもより良い増殖が継続する。次に良い増殖プロフィールは、IGS2(+1)をコードするプラスミドである。これら2つのIGSが有する共通の性質は、+1残基のスペーシングギャップだけである。IGS2及び9は、それぞれ±HindIII、GAGGGG対GAGGAGであり、TAAとATGの間にA対Tを有し、かつリシンコドンにAAG AAG対AAA AAGを有する。IGS9の収量がIGS2よりいくぶん高いことから、この増殖の有利点は、タンパク質生成物の生成量が少ないことによるストレスの低下によるものではないであろう。したがってこれらのデータは、+1の終止−ATGスペーシングに、転写/翻訳メカニズムに対する恩恵によって付与される生物学的利点があることを示唆する。
【0050】
IGS10、17及び18に対するIGS2の種々の1リットル培養試験での発現の比較についての増殖プロフィールは、新規IGSはFab’誘導の前又は後で大腸菌の増殖に有害な影響を及ぼさないことを示した。図7a、b及びcは、ペリプラズム成分(プロテインG HPLCアッセイによって測定)及び培養上清成分(Fab’サンドイッチELISAによって測定)についてのFab’蓄積のプロフィールを示す。データは、IGS17及び18についてのFab’収量がIGS2と比較して減少していないことを示している。培養データは、試料採取及びアッセイの変動によって生じるノイズを必然的に有する傾向があるが、3セットの培養データを合わせて考慮すると、IGS17が約10〜20%のFab収量の改善を示すことが示唆される。
【0051】
IGS17を含む抗TNFα抗体Fab’断片をコードするジシストロニックなメッセージを図10に示し、この配列の翻訳を図11に示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明において使用する抗体発現最適化配列(AEOS)を示す表である。
【図2】抗体発現最適化配列を含むカセットを示す表である。
【図3】以前記載されたIGS1及びIGS2とIGS7〜14とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図4】両方が−1の遺伝子間スペーシングを有する2つのIGSカセット(IGS1及びIGS7)を比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5a】IGS2とIGS10とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5b】IGS2とIGS11とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5c】IGS2とIGS12とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5d】IGS2とIGS13とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5e】IGS2とIGS14とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図6】IGS10とIGS14とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図7a】IGS2、IGS10、IGS17及びIGS18を使用する1リットル培養でのペリプラズムFab’及び培地上清Fab’についてFab’の蓄積の経時変化を示すグラフである。
【図7b】IGS2、IGS17及びIGS18を使用する1リットル培養でのペリプラズムFab’及び培地上清Fab’についてFab’の蓄積の経時変化を示すグラフである。
【図7c】IGS2及びIGS17を使用する1リットル培養でのペリプラズムFab’及び培地上清Fab’についてFab’の蓄積の経時変化を示すグラフである。
【図8】抗TNFαFab’断片の軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図9】抗TNFαFab’断片の重鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図10】AEOS11及びOmpAリーダーを含む抗TNFαFab’断片の全コード領域を示す図である。
【図11】AEOS11を含む抗TNFαFab’断片の全コード領域と翻訳を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖がジシストロニックなメッセージ内にあるDNAによってコードされている抗体の生成方法に関する。より具体的には本発明は、抗体がジシストロニックなメッセージとして発現される場合に、抗体の発現及び収量を最適化するための1組の配列を提供する。
【背景技術】
【0002】
WO03/048208は、抗体の発現及び収量を最適化するために使用できる具体的なジシストロニックなメッセージを記載している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、抗体がジシストロニックなメッセージとして発現される場合に、抗体の発現及び収量を改善するために使用できる11個からなる1組の抗体発現最適化配列(AEOS)を提供する。このように、本発明は、抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージであって、その上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、その下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含む、ジシストロニックなメッセージにおいて、
【化1】
から選択される配列を含むことを特徴とする、ジシストロニックなメッセージを提供する。
【0004】
本発明のジシストロニックなメッセージは、特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖をコードする。本発明の抗体は、可変領域(VH/VL)及び定常領域(CH/CL)を有する任意の重鎖及び軽鎖の対であることができ、好ましくはその抗体の軽鎖定常領域はκアイソタイプである。本発明の抗体は、抗体全体或いは特にFab若しくはFab’又はWO2005/003170に記載の切断型Fab断片などのその断片であることもできる。
【0005】
本発明のFab’断片は、天然又は改変ヒンジ領域を有することができる。天然ヒンジ領域は、抗体分子のCH1ドメインと正常に結合しているヒンジ領域である。改変ヒンジ領域は、天然のヒンジ領域と長さ及び/又は組成の点において異なっている任意のヒンジである。そのようなヒンジは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ又はヤギのヒンジ領域などの任意の適切な種由来のヒンジ領域を含むことができる。他の改変ヒンジ領域は、そのCH1ドメインとは異なるクラス又はサブクラスの抗体に由来する全ヒンジ領域を含むこともできる。このように、例えばクラスγ1のCH1ドメインがクラスγ4のヒンジ領域に結合することもできる。また、改変ヒンジ領域は、天然ヒンジ領域又は繰り返しの各単位が天然ヒンジ領域由来である繰り返し単位の一部分を含むこともできる。さらにまた、天然ヒンジ領域を1つ若しくは複数のシステイン又は他の残基をアラニンなどの中性残基に変換すること或いは適切な位置の残基をシステイン残基に変換することによって改変することもできる。このような方法によって、ヒンジ領域中のシステイン残基の数を増加又は減少させることができる。加えて、軽鎖の鎖間システインからヒンジシステインの間の距離、ヒンジのシステインの間の距離、及び可動性などのヒンジの特性に影響を与え得るヒンジ中の他のアミノ酸の組成などのヒンジの他の特徴を制御することができる。例えばグリシンは回転性の可動性を増大させるためにヒンジに組み込むことができ、プロリンは可動性を減少させるために組み込むことができる。また、荷電した残基又は疎水性の残基の組合せを多量体化特性を付与するためにヒンジ中に導入することもできる。他の改変ヒンジ領域は、完全に合成によることもできるし、長さ、組成及び可動性などの望ましい特性を有するように設計することもできる。例えばUS5677425、WO99/15549、WO98/25971及びWO2005/003171において、多数の改変ヒンジ領域が既に記載されており、これらを本明細書に参考文献として援用する。
【0006】
本発明の抗体は、例えばIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを含む任意の抗体のアイソタイプ、並びに例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むそれらのサブクラス由来であることができる。好ましくは、本発明の抗体はIgG1由来である。好ましくは、軽鎖定常領域はκイソタイプである。抗体は、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヤギ又はヒトを含む任意の種から得ることができる。好ましくは、本発明の抗体の少なくとも定常領域はヒトである。抗体の一部分は複数の種から得ることができ、例えば抗体はキメラであることができる。一例において、定常領域はある1つの種由来でありかつ可変領域は他の種由来である。他の例においては、抗体の可変領域は、組換えDNA工学技術を使用して作製されている。このような工学的に作り出されたバージョンは、例えば天然の抗体のアミノ酸配列への挿入、欠失又は変更によって天然の抗体の可変領域から作製されたものを含む。このタイプの具体的な例は、ある1つの抗体に由来する、少なくとも1つのCDR及び場合によって1つ又は複数のフレームワークアミノ酸と、第二の抗体に由来する、可変領域ドメインの残りの部分とを含有する工学的に作り出された可変領域ドメインを含む。
【0007】
組換え抗体を作製及び製造するための方法は、当業者に周知である(例えば、Bossら、US4816397;Cabillyら、US6331415;Shraderら、WO92/02551;Orlandiら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86、3833;Riechmannら、1988、Nature、322、323;Queenら、US5585089;Adair、WO91/09967;Mountain及びAdair、1992,Biotechnol.Genet.Eng.Rev、10、1〜142;Vermaら、1998、Journal of Immunological Methods、216、165〜181を参照)。
【0008】
本発明の抗体分子は、一般に抗原に選択的に結合することができる。抗原は、例えば細菌細胞、酵母細胞、T細胞、内皮細胞若しくは腫瘍細胞などの細胞上の細胞表面抗原である任意の細胞関連抗原であることができるし、又は可溶性抗原であることもできる。抗原は、例えば受容体及び/若しくはそれらに対応するリガンドなど、疾患時又は感染時に上方制御される抗原などの医学関連抗原であることもできる。細胞表面抗原の具体的な例は、例えばVLA−4であるβ1インテグリンなどのインテグリン、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチンを例とする接着分子、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD45、CDW52、CD69、がん胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、及びVEGF、並びに適当な場合これらの受容体を含む。可溶性抗原は、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12、IL−16又はIL−17などのインターロイキン、例えば呼吸器多核体ウイルス抗原又はサイトメガロウイルス抗原などのウイルス抗原、IgEなどの免疫グロブリン、インターフェロンα、インターフェロンβ又はインターフェロンγなどのインターフェロン、腫瘍壊死因子α、腫瘍壊死因子β、G−CSF又はGM−CSFなどのコロニー刺激因子、及びPDGF−α及びPDGF−βなどの血小板由来増殖因子、並びに適当な場合これらの受容体を含む。
【0009】
本発明のジシストロニックなメッセージは、合成DNA、cDNA若しくはゲノムDNA又はこれらの任意の組合せを含むことができる。
【0010】
具体的な抗体についてのDNAコード配列は、当業者に周知の方法によって得ることができる。例えば、抗体の重鎖及び軽鎖の一部分又は全部をコードするDNA配列は、決定されているDNA配列又は対応するアミノ酸配列に基づいて要望通りに合成することができる。
【0011】
分子生物学の標準的技術を、特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖をコードし、本発明によって提供される配列を含むDNA配列を調製するために使用できる。望ましいDNA配列を、オリゴヌクレオチド合成技術を使用して完全に又は部分的に合成することができる。必要に応じて、部位特異的突然変異誘発及びポリメーラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用することもできる。
【0012】
本発明のジシストロニックなメッセージは、抗体鎖の1つをコードするDNA配列に融合している、エフェクター又はレポータータンパク質をコードするDNA配列を含むことができる。
【0013】
本発明のジシストロニックなメッセージは、ジシストロニックなメッセージから発現される抗体にエフェクター若しくはレポータータンパク質又は分子が続いて結合できるように、抗体鎖の1つをコードするDNA配列に融合しているペプチドリンケージをコードするDNA配列を含むこともできる。
【0014】
本発明のジシストロニックなメッセージは、ペリプラズム又は細胞の外側への抗体鎖のターゲティングを可能にするために、抗体鎖の1つ又は両方をコードするDNA配列の上流に融合している分泌シグナル配列も含むことができる。
【0015】
好ましくは、分泌シグナル配列は、OmpAペプチド配列である。好ましくは重鎖及び軽鎖両方のための分泌シグナル配列は、OmpAペプチド配列である。
【0016】
好ましくは、本発明のジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体分子は、抗腫瘍壊死因子α抗体である。さらに好ましくは、本発明のジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体分子は、ヒトTNFαに特異性を有し、かつ図8において示す配列(配列番号24)から成る軽鎖及び図9において示す配列(配列番号25)から成る重鎖を含む。好ましくは、ジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体が抗TNF−α抗体Fab’断片である場合、ジシストロニックなメッセージは、配列AEOS11(配列番号11)を含む。一実施形態において、ジシストロニックなメッセージによってコードされる抗体が抗TNF−α抗体Fab’断片である場合、ジシストロニックなメッセージはIGS17の配列(配列番号22)を含む。好ましい一実施形態において、本発明のジシストロニックなメッセージは、図10において提供する配列(配列番号26)を含む。
【0017】
本発明の抗体発現最適化配列は、2つのシストロンの改善された翻訳カップリングが成されるように、長さ、配列及び二次構造に関して改変されている。
【0018】
WO03/048208において記載の通り、下流のシストロンの翻訳に影響を与えることができるジシストロニックなメッセージの特性がいくつかある。これらは、上流のシストロン中のシャイン・ダルカーノ(SD)モチーフの存在、SDモチーフの性質、SD部位と下流のシストロンのAUG開始コドンとの間の距離、上流のシストロンの終止コドンと下流のシストロンのAUG開始コドンとの間の距離並びにこの間の介在配列の性質を含む。
【0019】
本発明のAEO配列は全てシャイン・ダルカーノ(SD)モチーフ(リボソーム結合部位)及びそこからジシストロン中の2つの遺伝子の第2の開始(スタート)コドンへの特定の範囲のヌクレオチド距離を有している。以前記載された配列(WO03/048208参照)とは対照的に、シストロン中の第2の遺伝子の発現レベルを最適化するために、同一のSD及び終止コドンが各配列において使用された。
【0020】
本発明によって提供されるAEOヌクレオチド配列は、図1に示す通り
【化2】
である。
示した配列は、
i)3’12bpのヒトcκ(NRGECCをコード)
ii)内部シャイン・ダルカーノ部位(下線)
iii)TAA終止コドン(*)及び終止コドンと開始コドンATGとの間の遺伝子間スペーサー配列
iv)開始コドンATG
を含む。
【0021】
最初のシストロンの終止コドンと2番目のシストロンのATGとの間の距離も示されている。
【0022】
開始コドンATGがGTG及びTTGなどの他の適切なコドンによって置換できることは、理解される。
【0023】
特定の抗体分子に最適な抗体発現最適化配列は、以下の方法を使用して経験的に決定することができる。方法は、抗体分子に試験のために挿入することができる
【化3】
から選択される一連のAEO配列バリアントを含む、一連の適切な発現ベクターを構築することを含む。各抗体についての各AEO配列の経験的試験は、適切な宿主へ発現ベクターを形質転換し、抗体の発現及び収量を分析することによって行うことができる。長さ及び配列が変化している本願に記載の1組のAEO配列を、特定の抗体分子に最適なAEO配列を選択することができる前記ベクターを構築するために使用できる。クローンの構築を容易にするために同一の制限酵素部位を使用している各AEO配列を含む1組のDNAカセットも本発明によって提供される(図2)。これらのカセットは、抗体分子の重鎖及び軽鎖それぞれの挿入に適するHindIII及びMunIの制限酵素部位を含み、ここでOmpAリーダー配列が重鎖の配列に先行している。これらのカセットは、最初のシストロンに軽鎖定常領域のC末端、cκ(SFNRGEC)を、及び二番目のシストロンに、OmpAリーダー配列のN末端の一部(MKKTAIAI)を含んでいる。本発明によって提供されるカセット配列は
【化4】
である。
【0024】
したがって、本発明は、本発明のジシストロニックなメッセージを含む発現ベクターも提供する。
【0025】
適切な発現ベクターは、当業者において周知である。そのようなベクターの例はWO03/048208に記載の通りpTTO及びpTTODを含む。
【0026】
本発明は、本発明によるジシストロニックなメッセージを含むクローニングベクターも提供する。
【0027】
発現ベクター及びクローニングベクターを構築することができる一般的な方法、形質転換方法及び培養方法は当業者に周知である。
【0028】
本発明は、特定の抗体分子を生成するための方法であって、本発明の発現ベクターで形質転換された細菌宿主細胞を、当該抗体分子をコードするDNAの発現を誘導するのに適した条件下で培養すること及び当該抗体分子を単離することを含み、当該抗体の発現レベルが最適化されている、方法も提供する。
【0029】
任意の適切な細菌宿主細胞を、本発明によるジシストロニックなメッセージによってコードされた特定の抗体分子の重鎖及び軽鎖の発現のために使用することができる。好ましくは、細菌宿主細胞はグラム陰性であり、非限定的にサルモネラ(Salmonella)、エルウィニア(Erwinia)及び大腸菌(E.coli)を含む。好ましくは大腸菌宿主細胞が使用される。他の微生物システムも使用できる。
【0030】
抗体分子を、適切なシグナル配列によって、細胞の外へ分泌したり又はペリプラズムにターゲティングしたりすることができる。また抗体分子を、細胞の細胞質中に蓄積させてもよい。生成する抗体及び使用する方法に依存して、抗体分子をリホールドし、機能的コンホメーションを形成させることが望ましい場合がある。抗体分子をリホールドさせるための方法は当業者に周知である。
【0031】
本発明の抗体分子は、宿主細胞で生成されれば当業者に既知である任意の適切な方法を使用して抽出及び精製することができる。適切な精製方法は、非限定的にサイズ排除、疎水性相互作用クロマトグラフィー、プロテインA、G又はLアフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換を含む。
【0032】
本発明によるジシストロニックなメッセージによって生成される抗体分子は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤若しくは担体との組合せで特定の抗体を含む治療用又は診断用組成物を作製するために使用できる。
【0033】
抗体分子は、治療用又は診断用組成物中で唯一の活性成分であってもよく、或いは例えば抗T細胞抗体、抗IFNγ抗体若しくは抗LPS抗体などの他の抗体成分、又はキサンチンなどの非抗体成分を含む1つ又は複数の他の活性成分を伴ってもよい。
【0034】
本発明によって生成される特定の抗体分子は、それが使用される療法に応じて任意の適切な形態及び量で投与することができる。
【0035】
投与のための適切形態は、例えばボーラス注射若しくは持続輸液などの、例えば注射投与又は輸液といった非経口投与に適する形態を含む。生成物が注射用又は輸液用である場合、それは油性若しくは水溶性の媒体中の懸濁液、溶液又は乳液の形態であることができるし、懸濁剤、保存剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤用薬剤を含むこともできる。
【0036】
また抗体分子は、使用前に適切な滅菌液体で再構成するための乾燥形態であることもできる。
【0037】
例えば抗体断片である場合など抗体分子が経口投与に適する場合、製剤は活性成分に加えて経口投与組成物の製剤中に使用される適切な添加剤を含むことができる。
【0038】
治療用及び診断用組成物は、単位投与形態であることができ、その場合各単位投与量は有効量の特定の抗体分子を含んでいる。投与量は患者の年齢及び状態に応じて選択されることになる。
【0039】
抗体分子が短い半減期(例えば2から10時間)を有すると、1日当たり1回又は複数回の投与を行う必要がある場合がある。一方、抗体分子が長い半減期(例えば2から15日間)を有すれば、1日1回、1週間に1回、又はさらに1ヶ月若しくは2ヶ月ごとに1回の投与を行う必要があるだけの場合もある。
【0040】
本発明を、添付の図を参照する以下の例において例示的方法によってさらに説明する。
【実施例】
【0041】
一般的方法
抗TNFα抗体をコードするジシストロニックなメッセージ
本発明のジシストロニックなメッセージを、WO01/94585に記載の抗TNFαFab’断片の高レベルでの発現を達成するために使用した。上流のシストロンは抗体の軽鎖をコードし(図8)、一方下流のシストロンは抗体の重鎖をコードした(図9)。ペリプラズムへの効率的な分泌を行うためにOmpAシグナルペプチドをコードするDNA配列を軽鎖及び重鎖のそれぞれをコードするDNAの5’末端に結合した。
【0042】
一定範囲の異なる抗体発現最適化配列(AEOS)をコードする1連のオリゴヌクレオチドカセット(図2)を、重鎖の発現レベルを変化させるためにジシストロニックなメッセージに使用した。異なるAEOSの使用は、重鎖の翻訳開始速度を変化させ、翻訳された重鎖生成物の蓄積速度の範囲に変動を生じた。
【0043】
方法は、本質的にWO03/048208に記載の通りであった。IGS1、2、3及び4は、WO03/048208による。
【0044】
構築物は、5’HindIII部位からOmpAにわたる長い順方向5’オリゴを使用して作製された。発現実験は、標準的方法、W3110へのプラスミドの形質転換、及び21個のフラスコ中での200ml LB 30℃での震盪フラスコでの実験、200μM IPTGでのOD600=0.5における誘導であった。決めた時点での試料を、Tris/EDTA抽出用緩衝液(100mM/10mM pH7.4)中に1ml当たり30OD600に再懸濁し、30℃で一晩震盪した。抗ヒト−κHRP複合体(Southern Biotech HP6062)での6045捕捉(抗CH1)及び検出を使用する、アセンブリーELISAによって、Fab’濃度をアッセイした。
【0045】
発現の経時変化は、IGS7〜14の全てが以前記載されたIGS1及びIGS2と同程度又はより良いレベルでFab’を発現できることを示した(図3)。IGS9は、IGS2と比較して、これら両者が終止コドンと開始コドンの間に同じスペーシング(+1)を有するにもかかわらず、収量の増大を生じており、これらはHindIII部位の存在/不在、スペーシングヌクレオチドA対T、及びOmpAIIの最初の2つリシンのコドンのAAG AAG対AAA AAGにおいて異なっている。
【0046】
図4は、どちらも−1の遺伝子間スペーシングを有する2つのIGSプラスミド(IGS1及びIGS7)を比較している。これらのプラスミドからのFab’の発現が有意には異ならないことは、HindIII部位の存在及びOmpAIIの2つリシンのコドンのAAG AAGからAAA AAGへの変化が発現レベルの変化を生じないことを示唆している。このため、他のIGS構築物においても存在するこれら2つの変化は、異なるIGSの間で比較する場合おそらく無視することができる。したがって以下の例において重要なことはAEO配列である。
【0047】
図5a〜e:IGS10〜13(スペーシング+2、+3、+4及び+5)に対するIGS2(スペーシング+1)の比較は、IGS2を超える収量の改善は2つの要因、IGS2において使用されるGAGGGG配列よりもむしろGAGGAG SD配列の使用、及びSDとATG開始コドンの間に最適な距離を有することによることを示している。データは、+4及び+5のスペーシングで収量が一定の低減傾向にあり、+2及び+3のスペーシングがこのFab’に最適であることを示唆している。この傾向は、IGS2(+1)での収量とほぼ同程度であるIGS14(+6)での収量のさらなる低下によって支持される、図5e参照。
【0048】
図6は、構築物間の差異が終止コドンとATGとの間のスペーシングだけである2つのプラスミド間に有意差があることを確証している。IGS10(+2)及びIGS14(+6)は同一のHindIII、SD配列、TAA終止コドン及びAAA AAGのOmpAIIコドンを有する。このデータは、ポリシストロン中の2番目の遺伝子の発現レベルがIGS中のSD−ATGスペーシングの長さによって精密に調整でき、したがってIGSカセット中のAEO配列に依存していることを確証している。
【0049】
新規IGSカセット7〜14の増殖プロフィールを実験し、IGS1及びIGS2と比較した。OD600が0.5に達した時に培養を誘導し、次いで4時間続けた。ほとんどの培養は、2つの注目すべき例外を除き同じ様に観察された。IGS9(+1)をコードするプラスミドは、より高いOD600に細胞を培養可能にし、誘導後も他のIGSカセットよりもより良い増殖が継続する。次に良い増殖プロフィールは、IGS2(+1)をコードするプラスミドである。これら2つのIGSが有する共通の性質は、+1残基のスペーシングギャップだけである。IGS2及び9は、それぞれ±HindIII、GAGGGG対GAGGAGであり、TAAとATGの間にA対Tを有し、かつリシンコドンにAAG AAG対AAA AAGを有する。IGS9の収量がIGS2よりいくぶん高いことから、この増殖の有利点は、タンパク質生成物の生成量が少ないことによるストレスの低下によるものではないであろう。したがってこれらのデータは、+1の終止−ATGスペーシングに、転写/翻訳メカニズムに対する恩恵によって付与される生物学的利点があることを示唆する。
【0050】
IGS10、17及び18に対するIGS2の種々の1リットル培養試験での発現の比較についての増殖プロフィールは、新規IGSはFab’誘導の前又は後で大腸菌の増殖に有害な影響を及ぼさないことを示した。図7a、b及びcは、ペリプラズム成分(プロテインG HPLCアッセイによって測定)及び培養上清成分(Fab’サンドイッチELISAによって測定)についてのFab’蓄積のプロフィールを示す。データは、IGS17及び18についてのFab’収量がIGS2と比較して減少していないことを示している。培養データは、試料採取及びアッセイの変動によって生じるノイズを必然的に有する傾向があるが、3セットの培養データを合わせて考慮すると、IGS17が約10〜20%のFab収量の改善を示すことが示唆される。
【0051】
IGS17を含む抗TNFα抗体Fab’断片をコードするジシストロニックなメッセージを図10に示し、この配列の翻訳を図11に示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明において使用する抗体発現最適化配列(AEOS)を示す表である。
【図2】抗体発現最適化配列を含むカセットを示す表である。
【図3】以前記載されたIGS1及びIGS2とIGS7〜14とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図4】両方が−1の遺伝子間スペーシングを有する2つのIGSカセット(IGS1及びIGS7)を比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5a】IGS2とIGS10とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5b】IGS2とIGS11とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5c】IGS2とIGS12とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5d】IGS2とIGS13とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図5e】IGS2とIGS14とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図6】IGS10とIGS14とを比較した、震盪フラスコ中で実施したFab’発現の経時変化を示すグラフである。
【図7a】IGS2、IGS10、IGS17及びIGS18を使用する1リットル培養でのペリプラズムFab’及び培地上清Fab’についてFab’の蓄積の経時変化を示すグラフである。
【図7b】IGS2、IGS17及びIGS18を使用する1リットル培養でのペリプラズムFab’及び培地上清Fab’についてFab’の蓄積の経時変化を示すグラフである。
【図7c】IGS2及びIGS17を使用する1リットル培養でのペリプラズムFab’及び培地上清Fab’についてFab’の蓄積の経時変化を示すグラフである。
【図8】抗TNFαFab’断片の軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図9】抗TNFαFab’断片の重鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図10】AEOS11及びOmpAリーダーを含む抗TNFαFab’断片の全コード領域を示す図である。
【図11】AEOS11を含む抗TNFαFab’断片の全コード領域と翻訳を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージであって、上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、かつ下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含む、ジシストロニックなメッセージにおいて、
【化1】
から選択される配列を含むことを特徴とする、ジシストロニックなメッセージ。
【請求項2】
抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージであって、上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、かつ下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含む、ジシストロニックなメッセージにおいて、
【化2】
から選択される配列を含むことを特徴とする、ジシストロニックなメッセージ。
【請求項3】
前記メッセージによってコードされる前記抗体分子の軽鎖が、配列番号24に記載の配列を含み、かつ前記メッセージによってコードされる前記抗体分子の重鎖が、配列番号25に記載の配列を含む、請求項1又は請求項2に記載のジシストロニックなメッセージ。
【請求項4】
前記メッセージが配列番号26に記載の配列を含む、請求項3に記載のジシストロニックなメッセージ。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4のいずれか一項に記載のジシストロニックなメッセージを含む発現ベクター。
【請求項6】
発現ベクターがpTTO−1又はpTTODである、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
宿主細胞が大腸菌(E.coli)である、請求項7に記載の宿主細胞。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の宿主細胞を培養することを含む抗体分子を生成するための方法。
【請求項1】
抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージであって、上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、かつ下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含む、ジシストロニックなメッセージにおいて、
【化1】
から選択される配列を含むことを特徴とする、ジシストロニックなメッセージ。
【請求項2】
抗体分子を生成するためのジシストロニックなメッセージであって、上流のシストロンが抗体の軽鎖をコードするDNAを含み、かつ下流のシストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含む、ジシストロニックなメッセージにおいて、
【化2】
から選択される配列を含むことを特徴とする、ジシストロニックなメッセージ。
【請求項3】
前記メッセージによってコードされる前記抗体分子の軽鎖が、配列番号24に記載の配列を含み、かつ前記メッセージによってコードされる前記抗体分子の重鎖が、配列番号25に記載の配列を含む、請求項1又は請求項2に記載のジシストロニックなメッセージ。
【請求項4】
前記メッセージが配列番号26に記載の配列を含む、請求項3に記載のジシストロニックなメッセージ。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4のいずれか一項に記載のジシストロニックなメッセージを含む発現ベクター。
【請求項6】
発現ベクターがpTTO−1又はpTTODである、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
宿主細胞が大腸菌(E.coli)である、請求項7に記載の宿主細胞。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の宿主細胞を培養することを含む抗体分子を生成するための方法。
【図1】
【図2−1】
【図2−2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】
【図2−1】
【図2−2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】
【公表番号】特表2009−509561(P2009−509561A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534065(P2008−534065)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003640
【国際公開番号】WO2007/039714
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507073918)ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム (70)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003640
【国際公開番号】WO2007/039714
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507073918)ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム (70)
【Fターム(参考)】
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