説明

抗微生物材料

少なくとも1つの水に不溶性のセラミック化合物及び少なくとも1つの金属種を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料、組成物、及び医療用デバイス。前記材料、組成物、及び医療用デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料、特に抗微生物性の銀種、前記材料を含む組成物、これらの材料または組成物を含む医療用デバイス、前記材料、組成物、及びデバイスの供給方法、並びに前記材料、組成物、またはデバイスを使用する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀及び銀化合物の臨床上の抗微生物活性及び抗微生物効果はよく知られている。このような金属ベースの抗菌を含めた抗微生物材料の活性は、しばしば水に可溶性であり、且つ処置されるべき領域へ送達される金属ベースの種の放出によるものである。医療用デバイス用途のためには、数日にわたる放出のプロファイルが好ましい。
【0003】
細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための金属ベースの材料は、様々な放出プロファイルを示す。従って、銀金属からの銀種の例えば水性媒体の中への送達速度(可溶化)は、実に非常に低い。銀の可溶化率を増大させるために、例えば硝酸銀処理等の銀塩が使用されている。しかし、硝酸銀は水に非常に溶けやすく、数日にわたる医療用デバイス用途にとって、即時の溶解は望ましくない。
【0004】
スルファジアジン銀は、それが適用される局所的な生体環境において、即時に溶解せず、数日にわたる放出プロファイルを有する。しかし、これらの銀塩中の対イオンの存在は、所定質量の材料中に供給され得る銀の量を効果的に希釈する(硝酸銀では総重量の63.5%が銀であるが、スルファジアジン銀ではわずか30.2%である)。
【0005】
酸化銀のin vitro抗微生物効果が、最近商業的関心を引いている。これらの効力は、他の銀化合物を上回り得るものであり、例えばO2-等の低質量の対イオン存在により、所定質量の材料中に提供され得る銀の量は、希釈がより少なくなる。
【0006】
しかしながら、抗菌を含めた抗微生物の酸化銀(及び銀(I)塩)は、固有の構造不安定性及び/または感光性の欠点があり、このことが、乏しい貯蔵安定性及び乏しいデバイス適合性をもたらし、これらの医療上の活用を制限している。
【0007】
銀イオンの安定性を高め、且つ抗微生物/抗菌活性を保証するための従来のアプローチは、スルファジアジン等の安定化配位子と個々の銀イオンの錯体形成である。関連する銀錯体を生成するために必要とされる配位子及び/またはこれらの調製方法は、しばしば複雑であり及び/または高価である。
【0008】
別のアプローチは、電気化学的または化学的手法(酸素源、例えばO2またはO3の存在下での蒸着を含む)によって基材上で安定化した酸化銀粒子を生成することである。
【0009】
US 5 151 122から、ホスフェート等の固体基材上にin situで銀イオンを錯体化する(complex)ことが知られている。例えば、ホスフェート粒子を、水溶液中に存在する銀(I)イオンに都合よく添加してよい。その後、生成物を焼成して、銀イオンを含む立体的な抗菌性セラミックデバイスを提供する。US 5 151 122の目的は、銀イオンがいかなる接触する媒体にも溶出することのない抗菌性セラミック材料を提供することである。前述のように、医療用デバイス用途のために、数日にわたる実質的な放出プロファイルが好ましい。
【特許文献1】US 5 151 122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
抗菌を含めた既知の抗微生物材料の限界を克服する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料、すなわち、数日にわたる放出プロファイルを有し、その効力が従来の金属種(例えば、銀(I)塩)を上回り、対イオンの存在により所定質量の材料中に供給され得る活性のある金属種(例えば、銀種)の量を比較的わずかしか効果的に希釈せず、且つ通常の周囲条件下で安定である材料の提供が望まれている。
【0011】
また、これらの材料を含む組成物及びデバイス、前記材料、組成物、及びデバイスの供給方法、並びに前記材料、組成物、またはデバイスを使用する細菌を含めた微生物の感染の処置または予防方法を提供することが望まれている。
【0012】
活性のある銀がデバイスの表面上または表面に存在する、例えば、外科的、急性及び慢性創傷を含む創傷の管理のための局所用包帯、人工関節、固定用具、縫合糸、ピンまたはネジ、カテーテル、ステント、及びドレーン管等の長期用移植物等の医療用デバイスの既知の製造方法は、銀及び非銀製品用の単一製造ラインが長時間の洗浄のための停止時間を要するという不利な点を有する。
【0013】
従って、銀金属または銀化合物の組込みが最後の処理工程である、前記デバイスの製造方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも1つの水に不溶性のセラミック化合物及び少なくとも1つの金属種を含み、使用中、媒体と接触した際に金属種を放出する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料が提供される。
【0015】
前記第1の態様の材料は、少なくとも1つの水に不溶性のセラミック化合物及び少なくとも1つの金属種の反応生成物を含んでよい。
【0016】
前記第1の態様の材料は、少なくとも1つの水に不溶性のセラミック化合物及び少なくとも1つの金属種の複合体を、前記少なくとも1つのセラミック化合物及び前記少なくとも1つの金属種とともに含んでよい。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、
i)金属種の溶液を調製する工程;
ii)水に不溶性のセラミック化合物を前記金属種の溶液と接触させる工程;
iii)前記材料をろ過して取り出す工程;及び
iv)前記材料を乾燥させる工程;
を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料を調製する方法が提供される。
【0018】
前記第2の態様の方法は、光の存在下で実施される1つ以上のi)〜iv)の工程を含んでよい。
【0019】
前記第2の態様の方法は、光の非存在下で実施される1つ以上のi)〜iv)の工程を含んでよい。
【0020】
本発明の第3の態様によれば、使用中、媒体と接触した際に金属種を放出する、前記第2の態様の方法によって得られる、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料が提供される。
【0021】
好ましくは、本発明の第1または第3の態様の媒体は水性媒体である。前記媒体は、体液、例えば血清及び/または傷からの浸出液であってよい。
【0022】
好ましくは、本発明の第1または第3の態様の材料は、媒体と接触した際に1日以上、特に数日にわたる放出プロファイルを有する。
【0023】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1または第3の態様の材料を含む組成物が提供される。
【0024】
前記少なくとも1つの水に不溶性のセラミック化合物は、ホスフェート、カーボネート、シリケート、アルミネート、ボラート、ゼオライト、ベントナイト、及びカオリンからなる群から選択されてよい。
【0025】
好ましくは、前記セラミック化合物は、ホスフェートベースの化合物である。前記ホスフェートベースの化合物は誘導体化されていてもよい。
【0026】
前記少なくとも1つの金属種は、銀、銅、亜鉛、マンガン、金、鉄、ニッケル、コバルト、カドミウム、または白金の種であってよい。
【0027】
好ましくは、前記金属種は銀種である。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「金属種」は、金属塩等の金属イオンを含む任意の材料を意味する。例えば、銀種は、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、銀トリフレート、フッ化銀、酸化銀、及び水酸化銀を含む。銀種は、銀及び酸素原子の少なくとも1つの各原子が、もう一方に直接結合している銀及び酸素原子を含み、ゆえに、酸化物及び水酸化物を含むが、これに制限されない。そのような種は、本明細書で銀−オキソ種と称される。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「水に不溶性で場合によって誘導体化されているホスフェートベースの化合物」は、1つ以上のホスフェート単位を含み、そのそれぞれが場合によって1つ以上の基、例えばハロ基等(例えば、フルオロ基またはクロロ基、またはヒドロキシル基)で置換されている、任意の水に不溶性の材料を意味する。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「水に不溶性の」は、10〜40℃の範囲の温度で、中性に近いpH値にて、水または生理食塩水に不溶性、実質的に不溶性、または難溶性である任意の材料を意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「銀種と水に不溶性で場合によって誘導体化されているホスフェートベースの化合物との反応生成物」は、少なくとも1つのホスフェート単位の少なくとも1つの酸素原子が銀種に直接結合している、任意のそのような材料、特に銀種を意味する。
【0032】
好ましくは、銀及び/または反応生成物の種は、ホスフェートベースの材料の表面上に特に粒子形態で存在し、その上で水酸化物及び酸化物を含む銀−オキソ種を形成するための適度に安定な分子テンプレートを提供する。効果的に、銀種及び/または銀種とホスフェートベース化合物との反応生成物のコーティングは、ホスフェートベース化合物の表面上に形成される。好ましいホスフェートベース化合物は、複雑且つ/または高価でない種である。
【0033】
本発明の第1の態様の材料は、既知の抗菌材料を含む抗微生物材料の制限を克服する。例えば、それらは数日にわたる放出プロファイルを有する。
【0034】
前記材料は、例えば水性媒体中への、関連する活性種のさまざまな放出プロファイル及び送達速度を示す。前記材料の組成物及び成分は、例えば水性媒体中で特定の所望の放出速度を生じるように調製され得る。例えば、これは、前記ホスフェートベース化合物の添加(loading)、原子構造、及び/または化学的性質を改変することによって達成され得る。
【0035】
所定質量中に提供され得る銀の量は、ホスフェートベース化合物の添加によって効果的に制御される。
【0036】
本発明の銀ホスフェートベース化合物材料は、酸化銀と比較して増大した安定性を示す。それらを含む組成物は、従来の無菌包装で、周囲の温度及び圧力にて長期間(数年間まで)保存され得る。前記銀ホスフェートベース化合物材料は、標準的な医療用デバイス包装材料でパッケージされた場合に、感光性ではない。
【0037】
本発明の材料中の銀原子の原子パーセンテージは、適切には0.001〜100%の範囲であってよい。20原子%を上回る銀添加が達成され得る。
【0038】
適切なホスフェートベース化合物の例には、1つ以上のホスフェートモノマー成分を有するポリホスフェートが含まれる。ポリホスフェートは、直鎖状及び分枝状のポリマー鎖、並びに環状構造として存在し得、柔軟性のない形状のホスフェートの2D及び3Dアレイを提供する。
【0039】
適切なホスフェート/ホスフェートベース化合物の例には、オルトホスフェート、第一リン酸カルシウム、リン酸オクタカルシウム、第二リン酸カルシウム水和物(ブルッシャイト)、第二リン酸カルシウム無水物(モネタイト)、無水リン酸三カルシウム、ホワイトロッカイト(whitlockite)、リン酸テトラカルシウム、非晶質リン酸カルシウム、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、ヒドロキシアパタイト、不定比アパタイト、カーボネートアパタイト、及び生物学的に誘導されたアパタイト、並びに特にリン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、及びアパタイトが含まれる。
【0040】
ホスフェートベース化合物骨格(scaffold)の表面上での銀種の生成は、銀(I)イオン源、有利には水溶性の銀(I)塩、及びホスフェートベース化合物の組み合わせによって達成され得る。
【0041】
これは、経験ある化学者に既知の任意の方法によって達成され得る。例えば、固体のホスフェートベース化合物を銀(I)塩の水溶液中に導入し、次いで、所望の程度の反応に相当する期間の後、例えばろ過によって分離することができる。これは、テンプレート合成の一例である。
【0042】
本発明の第4の態様の適切な組成物には、それ自体が局所または内部投与のための液体、ゲル、及びクリーム、あるいは流体相中に分散した例えば関連する銀ホスフェートベース化合物の複合体粒子を含む局所用包帯の成分としての液体、ゲル、及びクリームが含まれる。
【0043】
例として、外科的、急性及び慢性創傷を含む創傷の管理のための、ヒドロゲル及びキセロゲル、例えば架橋カルボキシメチルセルロースヒドロゲル等のセルロース系ヒドロゲルが含まれる。
【0044】
適切な組成物はまた、特に、人工関節、固定用具、縫合糸、ピンまたはネジ、カテーテル、ステント、及びドレーン管等の長期用移植物を含む移植可能なデバイスのための、表面滅菌組成物を含む。
【0045】
本発明の第5の態様では、本発明の第1の態様の材料または本発明の第4の態様の組成物を含む医療用デバイスが提供される。
【0046】
適切なデバイスは、外科的、急性及び慢性創傷、並びに火傷を含む創傷の管理のための局所用包帯を含む創傷用医薬材料(dressing);人工関節、固定用具、縫合糸、ピンまたはネジ、カテーテル、ステント、及びドレーン管を含む移植物;人工臓器及び組織修復のための足場;並びに、例えば手術台を含む病院用機器を含む。
【0047】
本発明の第4の態様の組成物は、しばしば、前記医療用デバイスの表面上のコーティングまたはその成分として存在する。この第5の態様のデバイスは、従来の無菌包装で、周囲の温度及び圧力にて、数年間までの長期間保存され得る。
【0048】
前記デバイスの適切な製造方法は、当業者に既知であり、粘着性または粉末状のコーティング剤または吹き付け剤による浸漬、液体または粉末コーティング、及び吸着を含む。
【0049】
本発明の第6の態様によれば、第1の態様の材料または第4の態様の組成物を医療用デバイスに組込む工程を含む、第5の態様の医療用デバイスの製造方法が提供される。
【0050】
前記第6の態様の方法は、:
a)セラミック化合物骨格の表面上に金属種を生成することによって材料を形成する工程;
b)場合によって、組成物中に前記材料を配合する工程;及び
c)医療用デバイスの上または中に前記材料または組成物を適用または組込む工程;
を含んでよい。
【0051】
好ましくは、前記第6の態様の方法は、:
a)場合によって、組成物中にセラミック化合物骨格を配合する工程;
b)医療用デバイスの上または中に前記セラミック化合物骨格または組成物を適用または組込む工程;及び
c)前記セラミック化合物骨格の表面上に金属種を生成する工程;
を含む。
【0052】
すなわち、最終製造工程としての、金属種−セラミック化合物材料のin situ生成。
【0053】
例えば、ホスフェートベース化合物骨格の表面上での銀種の生成は、銀(I)イオン源、従来的な水溶性の銀(I)塩、及びホスフェートベース化合物の組み合わせをともなってよい。
【0054】
本発明の第7の態様では、本発明の第1の態様の材料、本発明の第4の態様の組成物、または本発明の第5の態様の医療用デバイスの使用を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための方法が提供される。
【0055】
細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のためのそのような方法は、特に、外科的、急性及び慢性創傷、並びに火傷を含む創傷の管理に有用である。
【0056】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0057】
<実施例1:リン酸水素カルシウム二水和物上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0058】
<実施例2:リン酸三カルシウム上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸三カルシウム(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0059】
<実施例3:ホワイトロッカイト上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、ホワイトロッカイト(200mg)を添加した。浸漬すると、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は徐々に黄色になり、色の変化が止まるまで1時間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0060】
<実施例4:ベータリン酸三カルシウム上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、ベータリン酸三カルシウム(200mg)を添加した。浸漬すると、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は徐々に黄色になり、色の変化が止まるまで1時間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0061】
<実施例5:酸性リン酸カルシウム上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、酸性リン酸カルシウム(200mg)を添加した。浸漬すると、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は徐々に黄色になり、色の変化が止まるまで1時間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0062】
<実施例6:リン酸三カルシウム上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸三カルシウム(200mg)を添加した。浸漬すると、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は徐々に黄色になり、色の変化が止まるまで1時間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0063】
<実施例7:ベータリン酸三カルシウム骨間隙充填材上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(10ml)中で作製された硝酸銀(I)(100mg)の溶液に、ベータリン酸三カルシウム骨間隙充填材(JAX、Smith & Nephew Orthopaedics社)(1g)を添加した。浸漬すると、白色のリン酸塩(ホスフェート)ベースの構築物は徐々に黄色になり、色の変化が止まるまで1時間放置した。溶液から黄色の構築物を分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0064】
<実施例8:ヒドロキシアパタイト/キトサン複合繊維上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された硝酸銀(I)(50mg)の溶液に、30%重量のヒドロキシアパタイト(200mg)を含むヒドロキシアパタイト/キトサン複合繊維を浸漬させた。浸漬の直後に、白色の繊維は黄色になり、色の変化が止まり且つ最終的に茶色になるまで5時間放置した。溶液から茶色の繊維を分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0065】
<実施例9:実施例2の抗微生物活性>
実施例2で生成された粉末を、抑制域テストによって抗菌活性について試験した。
【0066】
緑膿菌NCIMB 8626及び黄色ブドウ球菌NCTC 10788を集菌した。1:10の連続希釈を行い、108細菌/mlの最終濃度を得た。接種カウント用に、10-8細菌/mlまでさらに希釈を行い、混釈平板法を用いて1mlあたりの細菌数を測定した。
【0067】
次いで、2個の大きなアッセイプレートを用意し、140mlのミューラーヒントン寒天を大きなアッセイプレートに均一に添加し、乾燥させた(15分間)。さらに140mlの寒天に対応する試験微生物を播種し、前の寒天層上に注いだ。寒天が固まった時点で(15分間)、フタをはずしたまま37℃で30分間、プレートを乾燥させた。生検パンチによって、プレートから8mm断片を取り出した。
【0068】
10mgの実施例2で調製された組成物を、三重で、プレートのウェルにスパーテルで移した。
【0069】
次いで、プレートをシールし、37℃で24時間インキュベートした。細菌域の大きさをノギス(Vernier calliper)計測器で測定し、3つの値を平均化した。両方の微生物について、区域は3mmを超えていた。
【0070】
<実施例10:リン酸水素カルシウム二水和物上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された過塩素酸銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0071】
<実施例11:リン酸水素カルシウム二水和物上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された酢酸銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0072】
<実施例12:リン酸水素カルシウム二水和物上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製されたテトラフルオロホウ酸銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0073】
<実施例13:リン酸水素カルシウム二水和物上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製された銀(I)トリフレート(50mg)の溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0074】
<実施例14:リン酸水素カルシウム二水和物上への銀種表面層の沈着>
蒸留水(5ml)中で作製されたフッ化銀(I)(50mg)の溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(200mg)を添加した。浸漬の直後に、白色のリン酸塩(ホスフェート)粉末は黄色になり、色の変化が止まるまで10分間放置した。鮮やかな黄色の粉末を、ブフナーろ過によって分離し、乾燥及び光の非存在下での保存の前に多量の蒸留水で洗浄した。
【0075】
<実施例15:ヒドロキシアパタイト上への銀種表面層の沈着>
蒸留水中で作製された1% w/v硝酸銀(Aldrich Chemical社)の溶液に、ヒドロキシアパタイトをコーティングした、チタンビーズの、ダンベル状の移植物(8mm径×14mmの端フランジを有する円柱)を約5分間浸漬させた。低い周辺光の条件がこの反応を通して実施された。HAコーティングはこの期間に黄色になり、前記コーティングの表面上での銀種の提供を示した。ダンベルを取り出し、過剰の蒸留水で注ぎ、大気中で40℃にて乾燥させる前に70%エタノールで殺菌した。
【0076】
<実施例16:実施例15の抗微生物活性>
実施例15で生成された移植物を、抑制域テストによって抗菌活性について試験した。コントロールは実施例15の方法で処理されたが、硝酸銀を欠いている。
【0077】
銀処理されたデバイス及びコントロールを、6ウェル培養プレート(BD 353046)のウェル中の5mlの黄色ブドウ球菌培養懸濁物(1×107cfu/ml)中に個々に浸漬させた。培養プレートを37℃で24時間動かしながら(150rpm)インキュベートした。このインキュベーションの後、各ダンベルを5mlのリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、live/dead染色試薬(Molecular Probes社)で15分間染色した。各デバイス上での細菌の増殖を共焦点顕微鏡で評価した。
【0078】
各デバイスのその表面上での細菌増殖を抑制する能力には、有意な差があった。コントロールデバイスは完全にコロニー形成しており、一方、銀処理されたデバイスは概して細菌がいなかった。
【0079】
<実施例17:創傷用医薬材料上への銀種表面層の沈着>
5% w/wリン酸水素カルシウムの粉末(Aldrich Chemical社)を含むように、ポリウレタン発泡体(Allevyn、Smith & Nephew Medical社)を配合した。1% w/v硝酸銀(I)水溶液中に発泡体を浸漬させた。この手順は、低い周辺光の条件下で実施された。
【0080】
白色の発泡体は数秒後に黄色になり、色の変化が止まった時点(約1分間)で取り出され、循環圧縮下で多量の蒸留水で注いだ。結果として生じる発泡体を、光の非存在下で30℃にて48時間乾燥させた。周辺光の条件下で、発泡体を切断して包装し、γ線照射(44KGy)によって殺菌した。
【0081】
銀塩とホスフェートベースのセラミックとの組み合わせは、熱力学的に安定な反応生成物を生じる。使用されたセラミックの結晶構造及び使用された金属の酸化金属の結晶構造の検討後、酸化銀及びセラミックホスフェートの構造は適合性(酸化銀中の酸化物の酸素配位が、セラミックホスフェート中の酸素配位と合致する)の最大の可能性を提供した、と(本発明を決して制限することなく)仮定されている。銀イオンは、周囲のセラミックホスフェート構造の障害を最小限で、セラミックホスフェート中のカルシウムまたはナトリウムイオンに置換し得ると推測されている。他の金属種も同様の適合性を有する可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの水に不溶性のセラミック化合物及び少なくとも1つの金属種を含み、使用中、媒体と接触した際に金属種を放出する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料。
【請求項2】
媒体と接触した際の金属種の放出プロファイルが1日以上である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記媒体が水性である、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
前記セラミック化合物が、ホスフェート、カーボネート、シリケート、アルミネート、ボラート、ゼオライト、ベントナイト、及びカオリンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記セラミック化合物がホスフェートベースの化合物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
前記ホスフェートベース化合物がポリホスフェートである、請求項5に記載の材料。
【請求項7】
前記ホスフェートベース化合物が、オルトホスフェート、第一リン酸カルシウム、リン酸オクタカルシウム、第二リン酸カルシウム水和物、第二リン酸カルシウム無水物、無水リン酸三カルシウム、ホワイトロッカイト、リン酸テトラカルシウム、非晶質リン酸カルシウム、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、ヒドロキシアパタイト、不定比アパタイト、カーボネートアパタイト、生物学的に誘導されたアパタイト、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、及びアパタイトからなる群から選択される、請求項5に記載の材料。
【請求項8】
前記ホスフェートベース化合物が誘導体化されている、請求項5から7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
前記誘導体化されているホスフェートベース化合物が、フルオロ基またはクロロ基、またはヒドロキシル基からなる群から選択される1つ以上の基で置換されている1つ以上のホスフェート単位を含む、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記金属種が、銀、銅、亜鉛、マンガン、金、鉄、ニッケル、コバルト、カドミウム、及び白金の種からなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
前記金属種が銀種である、請求項1から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
前記銀種が、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、銀トリフレート、フッ化銀、酸化銀、及び水酸化銀からなる群から選択される、請求項11に記載の材料。
【請求項13】
前記銀種がホスフェートベース化合物の表面上でコーティングを形成する、請求項5から9のいずれか一項に従属する場合の請求項11または12に記載の材料。
【請求項14】
i)金属種の溶液を調製する工程;
ii)水に不溶性のセラミック化合物を前記金属種の溶液と接触させる工程;
iii)前記材料をろ過して取り出す工程;及び
iv)前記材料を乾燥させる工程;
を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料の調製方法。
【請求項15】
工程i)〜iv)の1つ以上が光の存在下で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程i)〜iv)の1つ以上が光の非存在下で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
使用中、媒体と接触した際に金属種を放出する、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法によって得られる、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料。
【請求項18】
請求項2から13のいずれか一項に従属する場合の請求項17に記載の材料。
【請求項19】
請求項1から13、17、または18のいずれか一項に記載の材料を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための組成物。
【請求項20】
前記組成物が液体、ゲル、またはクリームの形態をとる、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物がヒドロゲルまたはキセロゲルの形態をとる、請求項19または20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1から13、17、または18のいずれか一項に記載の材料、あるいは請求項19から21のいずれか一項に記載の組成物を含む医療用デバイス。
【請求項23】
前記材料または組成物が医療用デバイスの少なくとも一部の上でコーティングを形成する、請求項22に記載の医療用デバイス。
【請求項24】
創傷用医薬材料、移植物、人工臓器、組織修復のための足場、及び病院用機器からなる群から選択される、請求項22または23に記載の医療用デバイス。
【請求項25】
請求項1から13、17、または18のいずれか一項に記載の材料、あるいは請求項19から21のいずれか一項に記載の組成物を医療用デバイスに組込む工程を含む、請求項22から24のいずれか一項に記載の医療用デバイスの製造方法。
【請求項26】
a)セラミック化合物骨格の表面上に金属種を生成することによって材料を形成する工程;
b)場合によって、組成物中に前記材料を配合する工程;及び
c)医療用デバイスの上または中に前記材料または組成物を適用または組込む工程;
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
a)場合によって、組成物中にセラミック化合物骨格を配合する工程;
b)医療用デバイスの上または中に前記セラミック化合物骨格または組成物を適用または組込む工程;及び
c)前記セラミック化合物骨格の表面上に金属種を生成する工程;
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
請求項1から13、17、または18のいずれか一項に記載の材料、請求項19から21のいずれか一項に記載の組成物、あるいは請求項22から24のいずれか一項に記載の医療用デバイスの使用を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防の方法。
【請求項29】
実質的に本願明細書に記載されているような、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料。
【請求項30】
実質的に本願明細書に記載されているような、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための組成物。
【請求項31】
実質的に本願明細書に記載されているような、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料の調製方法。
【請求項32】
実質的に本願明細書に記載されているような、医療用デバイスの製造方法。
【請求項33】
実質的に本願明細書に記載されているような、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防の方法。

【公表番号】特表2009−528074(P2009−528074A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551878(P2008−551878)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000279
【国際公開番号】WO2007/085852
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】