説明

抗腫瘍剤

【課題】 新規な抗腫瘍剤を提供する。
【解決手段】 一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を抗腫瘍剤の有効成分とする。


式中、R1は炭素数3〜8のアルキル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤および細胞増殖阻害剤に関する。なお、本発明において抗腫瘍剤とは広く腫瘍の治療に用いることのできる薬剤をいい、悪性腫瘍に対して用いられる抗癌剤を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
抗癌剤はがん治療やがん患者延命のために臨床的に使用されてきたが、副作用などの問題を含め未解決の問題は少なくない。しかしながら、近年、抗癌剤による副作用を軽減する薬剤との併用や、複数の抗癌剤の組合せによる治療、有効な新規抗癌剤の登場などによって抗癌剤の有用性は再認識されている。したがって、今後も新規抗癌剤の開発は重要な課題といえる。
【0003】
細胞性粘菌であるディクチオステリュウム ディスコイディウム(Dictyostdium discoideum)から単離された化合物が抗腫瘍活性を有することが知られていた(非特許文献1参照)。しかしながら、さらなる抗腫瘍活性を有する化合物の探索が求められていた。
【非特許文献1】Biochem Biophys Res Commun. 1997 Jul 18;236(2):418-22.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な抗腫瘍剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、一般式(I)で表される化合物が白血病由来の細胞株であるK562細胞やHL-60細胞の増殖を抑制することを見出した。このことから、この化合物が抗腫瘍剤や細胞増殖阻害剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
【化1】

式中、R1は炭素数3〜8のアルキル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
(2)下記式(II)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
【化2】

(3)下記一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする細胞増殖阻害剤。
【化3】

式中、R1は炭素数3〜8のアルキル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【発明の効果】
【0007】
上記一般式(I)で表される化合物は、抗腫瘍剤や細胞増殖阻害剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明の抗腫瘍剤は、一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする。
【化4】

ここでR1は炭素数3〜8のアルキル基を示す。なお、アルキル基は直鎖でもよいし、枝分かれを有してもよい。R1はn−ペンチル基であることが特に好ましい。
2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R2はメチル基であることが特に好ましい。
【0009】
一般式(I)の化合物としては、下記式(II)で表される化合物が特に好ましい。
【化5】

【0010】
一般式(II)の化合物は、細胞性粘菌の一種であるDictyostelium mucoroides (ディクチオステリュウム ムコロイデス)の子実体から後述の実施例に示すような方法で単離精製することによって得ることができる。
より具体的には、D-(+)-glucose 0.5%, Polypepton 0.5%, yeast extract 0.05%, KH2PO4 0.225%, Na2HPO4・12H2O 0.137%, MgSO4・7H2O 0.05%を含む培地に、餌としてのエシェリヒア・コリを加え、この中でDictyostelium mucoroidesを培養し、得られた子実体から、メタノール抽出、酢酸エチル抽出、及びシリカゲルカラムクロマトグラフィを行うことで上記化合物を得ることができる。なお、本発明によって上記化合物が抗腫瘍活性を有することが明らかとなったため、抗腫瘍活性を精製の指標としてもよい。
化合物はNMRやマススペクトルなどの方法によって同定することができる。
なお、Dictyostelium mucoroidesは、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC:住所 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, 1,United States of America)より分譲を受けることができる。ATCCには複数のDictyostelium mucoroidesの株がそれぞれ登録番号22245、26827、34072、42609、56588、MYA-2554、MYA-3450で登録されており、これらのいずれを用いることもできる。
なお、上記化合物を得る方法は上記の方法に限定されず、化学合成によって得られたものを用いることもできる。
【0011】
一般式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、各種腫瘍細胞に対して増殖抑制効果を有する。したがって、細胞増殖阻害剤、さらには、抗腫瘍剤として用いることができる。抗腫瘍剤の適用対象となる腫瘍の種類は特に制限されないが、肺癌、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、消化器癌(例えば、胃癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肝癌、結腸癌、直腸癌等)、乳癌、卵巣癌、骨軟部肉腫(例えば、骨肉腫等)、膀胱癌、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病の急性転化を含む急性白血病等)、腎臓癌、および前立腺癌等が例示される。
【0012】
式(I)の化合物の薬学的に許容される塩としては、無機酸付加塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、有機カルボン酸・スルホン酸付加塩(例えばギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等)、あるいは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属塩が挙げられる。なお、式(I)の化合物は水和物であってもよい。
【0013】
一般式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含有してなる医薬は、医薬製剤の製造法で一般的に用いられている公知の手段に従って、該化合物またはその薬学的に許容される塩を、そのまま、あるいは薬理学的に許容される担体と混合して、例えば、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤、(ソフトカプセルを含む)、液剤、注射剤、坐剤、徐放剤等の医薬製剤として、経口的または非経口的(例、局所、直腸、静脈投与等)に安全に投与することができる。
式(I)の化合物またはその塩の抗腫瘍剤中の含有量は、製剤全体の約0.01ないし約100重量%である。
式(I)の化合物またはその塩の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより異なり特に制限されないが、一般的に、患者(体重60kgとして)に対して、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。
【0014】
薬理学的に許容される担体としては、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等が挙げられる。更に必要に応じ、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味
剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。結合剤としては、例えば結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L−ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、等の界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。等張化剤としては、例えばブドウ糖、 D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられる。緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。無痛化剤としては、例えばベンジルアルコール等が挙げられる。防腐剤としては、例えばパラヒドロキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロール等が挙げられる。
なお、本発明の抗腫瘍剤はその他の薬剤と併用してもよい。
【実施例】
【0015】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0016】
[化合物の精製]
Dictyostelum mucoroides の子実体の培養
滅菌した 50 mL 遠沈管に A 液体培地 (D-(+)-glucose 0.5%, Polypepton 0.5%, yeast
extract 0.05%, KH2PO4 0.225%, Na2HPO4・12H2O 0.137%, MgSO4・7H2O 0.05%) を約 20
mL とり,寒天培地上の E.coli を白金耳でとり,懸濁させた。これを,37 ℃で一晩振盪培養したものを菌液とした。A 寒天培地(agar 1.5%, 直径 15 cm ペトリシャーレ,約
75 mL) に E. coli Br の菌液をマイクロピペットで 550 μL とり,コンラージ棒で均一に塗布した。そこに細胞性粘菌Dictyostelum mucoroidesの子実体を滅菌した爪楊枝で接種し,コンラージ棒でのばした。光の照射下,22 ℃で4 日間培養した。なお、培地は,オートクレーブ (121℃, 20 分) で滅菌したものを用いた。
【0017】
抽出と精製
得られたD. mucoroides の子実体 (524 g(シャーレ 2000 枚分) にメタノール 2 L を加え,室温にて 3日間放置してメタノール抽出液を得た。抽出は3回繰り返し,得られた抽出液を合わせて濾過,減圧濃縮し,メタノール抽出物を 16.0 g を得た。この抽出物を水に懸濁後,酢酸エチル(500 mL) で3回抽出し,酢酸エチル可溶画分 (3.5 g) を得た。
酢酸エチル可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチ
ル、酢酸エチル-メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた13画分のうち、ヘキサン-酢酸エチル (2:1) で溶出した画分 88 mg をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-クロロホルムの混合溶媒系で溶出を行った。得られた8画分のうち、ヘキサン-クロロホルム (1:4) で溶出した画分より、化合物 Dm-1 11 mg を得た。その化学構造は以下に示す 1H および 13C NMRスペクトル,マススペクトルにより決定した。
【0018】
1H NMR (400MHz, CDCl3): ・ 6.25 (1H, d, J = 2.4 Hz), 6.19 (1H, d, J = 2.4 Hz),
4.99 (2H, br.s), 2.51 (2H, dd, J = 7.9, 7.7 Hz), 2.09 (3H, s), 1.47-1.56 (2H, m), 1.30-1.35 (4H, m), 0.89 (3H, t, J = 7.0 Hz).
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ154.4, 153.5, 143.8, 114.0, 108.5, 100.2, 33.8, 31.8, 30.1, 22.6, 14.1, 10.6.
EIMS: m/z 194 [M]+, 138 (base), 123, 43.
高分解能EIMS : 実測値 m/z 194.1315 [M]+ (計算値194.1306 (C12H18O2 として)).
【0019】
その結果、化合物Dm-1は以下の構造を有していることがわかった。
【化6】

【0020】
(実施例1)
ヒト白血病細胞株であるK562細胞(5X104細胞/ml)を12穴プレートに1mlずつ分注し、そこに、Dm-1を加えて、3日間培養した後、細胞数を比較した。細胞数はこの化合物を加えない場合に対する相対値(%)で示し、結果は4回の実験の平均値と標準偏差を示す(図1)。これにより、Dm-1がK562細胞の増殖を強く抑制することがわかった。なお、有意差検定(P値算定)は、ANOVA (Analysis of Variance)法によって行った。
【0021】
(実施例2)
別の種類のヒト白血病細胞株であるHL-60細胞(5X104細胞/ml)を12穴プレートに1mlずつ分注し、そこに、Dm-1を加えて、3日間培養した後、細胞数を比較した。細胞数はこれらの化合物を加えない場合に対する相対値(%)で示し、結果は4回の実験の平均値と標準偏差を示す(図2)。これにより、Dm-1がHL-60細胞の増殖を強く抑制することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Dm-1のK562細胞に対する増殖抑制効果を示す図。**は非添加時(*)に比べてp<0.0001で有意であることを示し、***は非添加時(*)に比べてp<0.001で有意であることを示す。
【図2】Dm-1のHL-60細胞に対する増殖抑制効果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
【化1】

式中、R1は炭素数3〜8のアルキル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【請求項2】
下記式(II)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
【化2】

【請求項3】
下記一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする細胞増殖阻害剤。
【化3】

式中、R1は炭素数3〜8のアルキル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−204392(P2007−204392A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22530(P2006−22530)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】