説明

抗菌・抗カビ剤

【課題】抗菌性と抗カビ性の両特性に優れているほか、耐久性や加工性も良好な抗菌・抗カビ剤を提供する。
【解決手段】下式(1)で表されるCo−Ag−Coの三核錯体を含有する抗菌・抗カビ剤である。



nは1〜3の整数であり、
〜R12は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
Nに結合するR〜Rのいずれかの基、R〜Rのいずれかの基、R〜R
いずれかの基、R10〜R12のいずれかの基は、他のいずれかの基と架橋結合を有
していても良く、
13は、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Co−Ag−Coの三核錯体を含有する抗菌・抗カビ剤に関するものである。本発明の抗菌・抗カビ剤は、例えば、紙、繊維、布帛、フィルターなどの紙・繊維製品類;木材、石膏ボードなどの建材製品のほか、フィルム、プラスチックなどの素材などに広く適用可能である。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤は、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤に大別される。このうち無機系抗菌剤は、光や熱に弱く、ハロゲンなどにも鋭敏なため、耐久性に劣っている。また、長寿命の無機系抗菌剤として注目されている酸化チタンは、抗菌性発現のために光が必要であり、固体状態でしか加工できないなどの問題がある。このような耐久性や加工性などの問題は、無機系抗菌剤を紙、繊維、布帛などの基材に担持した抗菌製品の開発に大きな支障をもたらしている。また、抗菌製品には、好ましくは抗カビ性も更に有していることが要求され、抗菌性と抗カビ性の両特性を兼ね備えた抗菌・抗カビ剤の開発が望まれている。
【0003】
銀イオンは、人体に対する毒性が低く、広い抗菌スペクトルを有しているため、種々の工業製品の抗菌処理に利用されている。例えば、特許文献1〜特許文献3には、銀錯体の抗菌剤が提案されている。本発明者らも、非特許文献1に、下式(5)のCo−Ag−Co三核錯体が大腸菌Y1090(E. coli strain Y1090)に対して優れた抗菌活性を有していることを報告している。この錯体は、モノチオラト−コバルト(III)錯体と銀(I)イオンとの反応によって得られ、AgとCoが硫黄(S)で架橋されたS架橋ヘテロ三核錯体である。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−263712号公報
【特許文献2】特開2000−86668号公報
【特許文献3】特開2002−212444号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Application of Co-Ag-Co trinuclear thiolato complexes toward eco-friendly type antimicrobial agent”、T.Yonemura、T.Ama、H.Kawaguchi、 Program No.635. 2005 Abstract Viewer、 The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、抗菌性と抗カビ性の両特性に優れているほか、耐久性や加工性も良好な新規な抗菌・抗カビ剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできた本発明の抗菌・抗カビ剤は、下式(1)で表されるCo−Ag−Coの三核錯体を含有するところに要旨を有している。
【0009】
【化2】



式中、
nは1〜3の整数であり、
〜R12は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
Nに結合するR〜Rのいずれかの基、R〜Rのいずれかの基、R〜R
いずれかの基、R10〜R12のいずれかの基は、他のいずれかの基と架橋結合を有
していても良く、
13は、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基である。
【0010】
本発明の好ましい抗菌・抗カビ剤は、下式(2)、下式(3)、および下式(4)で表されるCo−Ag−Coの三核錯体の少なくとも一種を含有している。
【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】



式中、nおよびR13は前と同じ意味である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗菌・抗カビ剤は、広範囲の抗菌性・抗カビ性を有し、耐光性、耐熱性、無機塩に対する安定性などの耐久性に優れているほか、溶液・固体のいずれの状態でも基材に適用可能であるなど加工性にも優れている。従って、本発明の抗菌・抗カビ剤は、様々な製品に適用可能であり、例えば、紙類、繊維・布帛、フィルター類のほか、木材などの建材製品、プラスチック類などの素材に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、X線結晶構造解析の結果を示す図である。
【図2】図2は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定結果を示す図である。
【図3】図3は、可視−紫外(UV−Vis)吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
【図4】図4は、赤外(IR)吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例2において、固体状態および液体状態でのキセノン光照射下におけるUV−Vis吸収スペクトルの経時変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例3において、無機塩を0.1%添加したときの波長650nmにおける吸光度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、式(1)で表されるCo−Ag−Co三核錯体の新規用途発明に関するものである。式(1)には、非特許文献1に記載の式(5)の銀コバルト錯体も包含される。詳細には、後記する実施例に示すように、式(1)の銀コバルト錯体が、(ア)黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌、肺炎桿菌などに対する抗菌性に優れているだけでなく、クロコウジカビ、ススカビ、クロカビなどの抗カビ性にも優れており、広範囲の抗菌・抗カビ特性を有していること、(イ)光、熱、無機塩の共存下などにも安定で耐久性に優れていること、および(ウ)溶液・固体のいずれの状態でも紙類・布帛などの基材に適用可能であり加工性に優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
まず、本発明に用いられる式(1)の化合物について説明する。
【0018】
上式(1)に示すように、本発明に用いられる化合物は、金属イオンとしてAg1個、Co2個を含み、配位子としてチオラト配位子、アミン配位子を有する銀コバルト錯体である。詳細には、Agイオンを中心核として持ち、AgとCoがSで架橋されたCo−Ag−Coの三核錯体であり、それぞれのSに(C1〜3)−C−NHが結合した構造を有している。前述した非特許文献1には、上式(1)に包含される式(2)の銀コバルト錯体(n=1、R13=H)について、特定の大腸菌(Y1090)に対する抗菌作用が報告されているだけで、当該化合物が、汎用の大腸菌(Escherichia coli)や、黄色ブドウ球菌などに対する抗菌性にも優れていることや、様々な種類のカビ類に対して優れた抗カビ作用を有することは報告されていない。後記する実施例で実証したように、上記化合物は、カビ類の最小発育阻止濃度(Minimum Inhibition Concentration、MIC)が非常に低く、銀イオンと同程度またはそれ以上の抗カビ作用を有していることが判明した。抗菌作用剤の多くは抗カビ作用を有していないことは周知であり、上式(1)の銀コバルト錯体が、広範囲の抗菌作用を発揮するだけでなく優れた抗カビ作用を有することは、本発明によって初めて見出された知見である。
【0019】
上記の錯イオンは+5価であり、アニオンとしては、例えば、NO、ClO、PF、BF、CFSOなどが挙げられ、下式で表される。
(NO)l(ClO)m(PF)n(BF)o(CFSO)p
式中、l、m、n、o、およびpは0〜5の整数であり、l+m+n+o+p=5である。
【0020】
上式(1)において、Nに結合するR〜R12は、例えば、上式(2)〜上式(4)に示すように、架橋結合を有していることが好ましい。ただし、本発明はこれらに限定する趣旨ではない。本発明の抗菌・抗カビ剤は、式(2)〜式(4)の化合物を少なくとも一種含有することができる。
【0021】
本発明に用いられる銀コバルト錯体は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0022】
まず、コバルト錯体を製造する。具体的には、原料物質として、(ア)硝酸コバルトなどのCoイオン含有化合物と、(イ)2−アミノエタンチール、シスタミンなどの含硫黄アミン配位子;D,L−システイン、D,L−ペニシラミン等の含硫黄アミノ酸配位子などの含硫黄配位子と、(ウ)トリス(2−アミノエチル)アミン、トリエチレンテトラミン、エチレンジアミンなどの2〜4座のアミン配位子を水溶液中に徐々に加え、pHを約8.0〜8.5に調整しながら混合する。pHは、使用するアミン配位子の種類に応じて上記範囲内で適宜調整すれば良い。原料物質である上記(ア)〜(ウ)の比率は、使用するアミン配位子の種類によっても変化するが、おおむね、(ア):(イ):(ウ)=1:1:1〜1:1:2の比率(モル比)に制御することが好ましい。上記のpHを維持しながら、室温で90〜120分攪拌する。この反応液の不要物を濾過により取り除いた後、Coに対するモル比で2.5〜5倍当量程度の過塩素酸ナトリウム水溶液を加えると、コバルト錯体の結晶が得られる。
【0023】
次に、このようにして得られたコバルト錯体にAgイオンを反応させる。具体的には、上記のコバルト錯体を蒸留水に溶かし、硝酸銀などのAgイオン含有化合物を、おおむね、Co:Ag=2:1の比率で加えて水溶液中(おおむね、30〜40℃)で反応させる。次いで、硝酸ナトリウムや過塩素酸ナトリウムなどを、Agに対するモル比で5倍当量程度、Coに対するモル比で2.5倍当量程度加えると、所望の銀コバルト錯体が得られる。後記する実施例では、含硫黄配位子として、2−アミノエタンチオールを用いた。
【0024】
なお、後記する実施例では、上式(2)において、n=1、R13=Hである式(5)の化合物を製造して実験を行なったので、詳細は実施例を参照すれば良い。また、上式(3)や上式(4)の化合物は、チオラト配位子やアミン配位子の種類を変え、pHや反応温度などを適宜改変するなどして製造することができる。
【0025】
本発明の抗菌・抗カビ剤は、固体状態のままで使用しても良いし、水などの溶媒に溶解した溶液状態で使用しても良い。溶液状態で使用するときの濃度は、所望の抗菌・抗カビ作用が発揮されるように適宜調整すれば良いが、おおむね、0.1〜2.0質量%の濃度に調整して用いることが好ましい。
【0026】
また、本発明の抗菌・抗カビ剤は、基材と担持して使用することができる。
【0027】
本発明に用いられる基材は、抗菌・抗カビ剤を担持する抗菌・抗カビ製品に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、紙、繊維、布帛、フィルターなどの紙・繊維製品類;木材、石膏ボードなどの建材製品;フィルム、プラスチック、金属、ガラスなどの素材などが挙げられる。後記する実施例で実証したように、本発明に用いられる銀コバルト錯体は、固体・液体のいずれの状態でも基材に適用可能であるため、加工性に極めて優れている。
【0028】
本発明の抗菌・抗カビ剤を基材に担持し、成形物(製品)を得る方法は特に限定されず、基材の種類に応じて、通常用いられる方法を適宜採用すれば良い。例えば、基材を製品に加工した後、抗菌・抗カビ剤の溶液を当該製品の表面に被覆したり、当該製品に浸漬するなどの方法が挙げられる。あるいは、製品に加工する前に、基材と抗菌・抗カビ剤を混合するなどの方法を採用しても良い。
【0029】
基材に担持する抗菌・抗カビ剤の配合量は、使用する基材の種類や用途などに応じ、適宜適切に制御すればよい。例えば、紙類や布帛類などの基材に本発明の抗菌・抗カビ剤を用いる場合、基材全体に対し、おおむね、0.05〜0.5質量%を配合することが好ましい。
【0030】
本発明の抗菌・抗カビ剤は、後記するように、優れた抗菌・抗カビ作用を有している。適用可能な細菌類としては、例えば、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeなどの汎用菌が挙げられる。また、カビ類としては、風呂などの衛生加工品などに繁殖し易いクロコウジカビAspergillus niger、ススカビAlternaria alternate、クロカビCladosporium cladosporioidesなどが挙げられる。また、抗菌・抗カビ剤の配合量などを適切に制御すれば、食品などに繁殖し易いアオカビPenicillium citrinumなどにも適用可能である。また、酵母類などにも適用可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0032】
以下の実施例では、上式(5)の銀コバルト錯体を試料として用い、(ア)抗菌・抗カビ性(実施例1)、(イ)光および無機塩に対する耐久性(実施例2および3)、および(ウ)布帛に適用したときの抗菌・抗カビ性(実施例4)を調べた。
【0033】
本実施例に用いた銀コバルト錯体は、以下の方法で製造した。
【0034】
まず、Co(NO・6HO28mmolを200cmの水に溶かし、これに2−アミノエタンチオール(「aet」と略記)28mmol水溶液50cmを加えた。さらにトリス(2−アミノエチル)アミン(「tren」と略記)28mmolの50cm水溶液をpH8.0に調整しながら徐々に加えた。pHを8.0に維持しながら室温で90分攪拌した。この反応液を自然濾過し、不要物を取り除いた。濾過後、140mmolのNaClO水溶液を加えて冷蔵庫に一晩放置すると、赤紫色の結晶が析出した。吸引濾過により濾液を濾別した後、メタノールと水(1:1)の混合溶媒50cmで洗浄し、アセトンで乾燥してコバルト錯体[Co(aet)(tren)](ClOを得た。
【0035】
次に、生成した[Co(aet)(tren)](ClO2.4mmolを60cmの蒸留水に溶かし、これに少量の蒸留水に溶かしたAgNO1.2mmolを加え、30℃で5時間攪拌した。反応液を濾過した後、少量の蒸留水に溶かしたNaClOを6mmol加えると赤色の結晶または粉末が析出した。これを吸引濾過して結晶または粉末を濾取した後、冷水で洗浄し、所望とする銀コバルト錯体である式(5)の化合物を得た。
【0036】
このようにして得られた化合物の立体構造を明らかにするため、X線結晶構造解析、および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定を行なった。図1にX線結晶構造解析の結果を、図2にNMRスペクトルの結果を、それぞれ示す。また、可視−紫外(UV−Vis)、赤外(IR)吸収スペクトルの測定を行い、分光学的特性を調べた。その結果を図3、4に示す。
【0037】
実施例1 銀コバルト錯体の抗菌・抗カビ試験
本実施例では、上記の方法で得られた銀コバルト錯体を用い、以下のようにして抗菌・抗カビ試験を行なった。
(1)試験に用いた試料溶液の調製
上記の銀コバルト錯体を水に溶解して1000ppm濃度の試料溶液を得た。この溶液を2倍系列で希釈し、500ppm、250ppm、125ppm、63ppm、32ppm、16ppm、8ppm、4ppm、2ppmの各濃度に調製した。比較のため、銀イオン(硝酸銀AgNO)を用い、上記と同様の各濃度に調製した。
(2)抗菌試験
(2−1)試験菌液の調製
試験細菌として、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeを用いた。
【0038】
上記の各細菌を普通寒天培地(NA、ニッスイ)に接種し、35℃で24時間培養した後、生理食塩水を用いて細菌の菌数が108個/mLになるように調製したものを試験菌液とした。
【0039】
(2−2)試験方法
上記のようにして得た各濃度の試料溶液に試験菌液を0.1mL接種し、35℃で24時間培養した。培養後、細菌の発育の有無を肉眼で観察し、MIC(ppm)を判定した。
【0040】
(3)抗カビ試験
(3−1)試験胞子液の調製
試験カビとして、クロコウジカビAspergillus niger、ススカビAlternaria alternate
、クロカビCladosporium cladosporioidesを用いた。
【0041】
上記の各カビをポテトデキストロース寒天培地に接種し、25℃で7日間培養した後、0.05%tween80液(界面活性剤Poly(Oxyethylene)sorbitan monooleate)を用いて胞子の個数が10/mLになるように調製したものを試験胞子液とした。
【0042】
(3−2)試験方法
上記のようにして得た各濃度の試料溶液に試験胞子液を0.1mL接種し、25℃で7日間培養した。培養後、カビの発育の有無を肉眼で観察し、MIC(ppm)を判定した。
【0043】
これらの結果を表1〜表7に示す。MICが小さい程、抗菌性/抗カビ性に優れていることを意味する。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
これらの表より、以下のように考察することができる。
【0052】
まず、抗菌性について検討すると、本発明例は、銀イオンに比べ、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性に特に優れていることが分かる。また、他の細菌に対する抗菌作用も、概ね、良好であることが確認された。
【0053】
次に、抗カビ性について検討すると、本発明例は、銀イオンに比べ、クロカビに対する抗カビ性に特に優れており、他のカビ類についても銀イオンと同程度の作用が確認された。
【0054】
このように本発明例は、特に広い抗カビスペクトルを有している点で、銀イオンよりも抗菌・抗カビ剤として有用であることが分かった。
【0055】
実施例2 耐光性試験
本実施例では、上記の方法で得られた銀コバルト錯体を用い、固体状態および液体状態での光(紫外光)に対する安定性を調べた。固体試料および液体試料は、いずれも、上記の銀コバルト錯体の粉末を用いて調製した。
【0056】
(1)固体試料での耐光性試験
まず、試料(粉末)を5.25×10-5mol量り取り、200Wキセノン光を照射
したときのUV−Vis吸収スペクトルの時間変化を測定した。ここでは、浜松フォトニクス社製「L3451−01型」の紫外線照射装置(200W水銀−キセノンランプ)を使用した。ライト・ガイドの光出射口からの距離は15cmに固定した。照射後0、2時間、40時間に7.5×10-6molを量り取り、5mlメスフラスコを用いて1.5mmol・dm−3の水溶液を調製し、UV−Vis吸収スペクトル(650〜350nm領域)を測定した。
【0057】
(2)溶液試料での耐光性試験
試料(粉末)を7.5×10-5mol量り取り、50mlメスフラスコを用いて1.5mmol・dm−3溶液を調製した。これをビーカーに移し、上記(1)と同様にして紫外光照射を行い、0、30分、60分、90分、120分後に、UV−Vis吸収スペクトル(650〜350nm領域)を測定した。
【0058】
これらの結果を図5に示す。図5に示すように、固体状態では、40時間という長時間の光照射下でも、スペクトルの変化は殆ど認められなかった。また、水溶液状態では、照射時間を長くするとスペクトルの変化が若干観察されたが、大きな変化は見られなかった。従って、本発明例は、固体状態でも液体状態でも、光に対する安定性に優れていることが確認された。
【0059】
実施例3 無機塩の影響
本実施例では、共存塩イオンの影響を調べるため、上記の方法で得られた銀コバルト錯体に種々のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を添加したときの、大腸菌に対する抗菌性の影響を調べた。
【0060】
まず、上記のようにして得られた試料の溶液を0.5mL(濃度は2000ppm)を用意した。また、大腸菌Y1090(E. Coli strain Y1090)をLB(Luria−Bertani)液体培地(bacto tryptone:10g、bacto yeast extract:5g、NaCl:10g、5NのNaOH:0.2mlを水1Lに溶解して調製)に接種し、35℃で24時間培養した後、LB液体培地を用いて20倍に希釈したものを試験菌液とした。
【0061】
上記の試料溶液0.5mLを試験菌液4.5mLに添加し、試料濃度が200ppmの溶液を調製した。この溶液に、図6に示す種々のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の濃度が1000ppm(0.1%)になるように添加した溶液を調製し、抗菌活性に及ぼす各種無機塩類の影響を以下のようにして評価した。
【0062】
具体的には、上記のようにして得られた溶液を試験管にいれ、37℃で18時間振とう培養を行い、可視−紫外(UV−Vis)分光光度計を用いて波長650nmにおける吸光度(濁度)を測定した。比較のため、無機塩および試料を添加しないものを用意し、上記と同様にして吸光度を測定した。
【0063】
無機塩の濃度が0.1%の結果を図6に示す。
【0064】
この図より、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩を0.1%添加しても、抗菌活性には影響を及ぼさないことが分かった。さらに、塩化物を用いた場合でも塩化銀の白濁は見られず、ハロゲン化物イオンに対する耐性があることも分かった。
【0065】
実施例4 銀コバルト錯体を布帛に塗布した後の光照射後における抗菌・抗カビ試験
本実施例では、上記のようにして得られた銀コバルト錯体を布帛(基材)に塗布し、耐光性試験を行なった後の抗菌・抗カビ性を調べた。
【0066】
(1)試験菌液の調製
本実施例では、試験細菌として、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeを用いた。
【0067】
上記の試験細菌を普通寒天培地(NA、ニッスイ)に接種し、35℃で24時間培養した。これを20倍に希釈した普通ブイヨンを用い、菌数が10/mLのオーダーになるように調製したものを試験菌液とした。
【0068】
(2)試験胞子液の調製
本実施例では、試験カビとして、ススカビAlternaria alternate、クロカビCladosporium cladosporioidesを用いた。
【0069】
上記の各カビをポテトデキストロース寒天培地に接種し、25℃で7日間培養した後、20倍に希釈したブドウ糖ペプトン培地(Glucose Peptone Broth)を用いて胞子の個数が10/mLのオーダーになるように調製したものを試験胞子液とした。
【0070】
(3)基材
本実施例では、スパンレース不織布(三昭紙業株式会社製のKP9380)を用いた。
【0071】
(4)試験検体の調製
まず、上記のようにして得られた銀コバルト錯体に水を添加し、濃度が4000ppmになるように調製した。次いで、この溶液を基材に塗布し、銀コバルト錯体含浸基材を得た。塗布には霧吹き器を用いた。また、基材への塗布濃度は、塗布前後の重量変化から当該濃度が3000ppmになるように調製した。
【0072】
このようにして得られた銀コバルト錯体含浸基材に対し、28℃で照射照度550W/mで100時間照射(これは、直射日光下で約1年間照射に相当する。)を行った。照射後の基材を無菌的に細かく切り、滅菌アンプル瓶に0.4g入れたものを試験検体とした。
【0073】
(5)耐光試験後の抗菌性
このようにして得られた試験検体に上記の試験菌液を4mL接種し、35℃で24時間培養した。培養後、滅菌水10mLで洗浄したものを試験液とし、水で希釈し、10倍希釈液を用意した。
【0074】
この希釈液をSCDLP(不活化剤含有一般生菌数測定用培地Soybean Casein Digest Agar with Lecithin, Polysobate 80)寒天培地に接種し、35℃で48時間培養した。培養後、形成された集落をカウントし、生菌数(個/mL)を計測し、抗菌性を評価した。これにより、長時間光照射を行なった環境下での本発明例の抗菌作用を確認できる。
【0075】
比較のため、耐光試験前の銀コバルト錯体含浸基材(コントロール)について上記と同様の実験を行った。これにより、光照射を行なわない通常環境下での本発明例の抗菌作用を確認できる。
【0076】
(6)耐光試験後の抗カビ性
このようにして得られた試験検体に上記の試験検体に各試験胞子液を4mLずつ接種し、25℃で24時間培養した。培養後、滅菌水10mLで洗浄し、水で希釈して10倍希釈液を得た。
【0077】
このようにして得られた希釈液をGPLP(不活化剤含有真菌数測定用培地、Glucose Peptone Broth with Lecithin,Polysorbate 80)寒天培地に接種し、25℃で5日間培養した。培養後、形成された集落をカウントし、胞子数(個/mL)を計測し、耐光試験後の抗カビ性を評価した。これにより、長時間光照射を行なった環境下での本発明例の抗カビ作用を確認できる。
【0078】
比較のため、耐光試験前の銀コバルト含浸基材(コントロール)について上記と同様の実験を行った。これにより、光照射を行なわない通常環境下での本発明例の抗カビ作用を確認できる。
【0079】
これらの結果を表8〜表13(基材への塗布濃度3000ppm)に示す。
【0080】
【表8】

【0081】
【表9】

【0082】
【表10】

【0083】
【表11】

【0084】
【表12】

【0085】
【表13】

【0086】
はじめに、抗菌性(表8〜11を参照)について考察する。
【0087】
まず、各表の「耐光試験前スパンレース不織布」の結果を参照する。初発菌数に比べて48時間後の生菌数が減少した場合、本発明例の銀コバルト錯体は、光照射を行なわない通常環境下で抗菌作用を有しているといえる。表8〜11を参照すると、いずれの菌についても、初発菌数に比べて48時間後の生菌数は減少し、本発明例が広範囲の抗菌作用を有することが確認された。特に、黄色ブドウ球菌(表8)および枯草菌(表11)に対しては、48時間後の生菌数が10個/mL未満となり、極めて強い抗菌作用が確認された。
【0088】
次いで、各表の「耐光試験後スパンレース不織布」の結果を参照する。初発菌数に比べて48時間後の生菌数が減少した場合、本発明例の銀コバルト錯体は、長時間光照射を行なった環境下(直射日光下で約1年間照射に相当する環境下)で抗菌作用を有しているといえる。表8〜11を参照すると、いずれの菌についても、初発菌数に比べて48時間後の生菌数は減少し、本発明例が、耐光試験後も広範囲の抗菌作用を持続していることが確認された。特に、黄色ブドウ球菌(表8)および枯草菌(表11)に対しては、48時間後の生菌数が10〜10個/mLオーダーまで減少し、極めて強い抗菌作用が確認された。
【0089】
次に、抗カビ性(表12、13を参照)について考察する。本実施例の抗カビ試験は、使用したカビの胞子が胞子→菌糸→胞子と順次増殖していく胞子数(各表では「生菌数」と記載)を測定するものであり、慣用のJIS Z2911に記載のカビ抵抗性試験(カビの胞子から菌糸の発育だけを評価する定性試験)に比べ、抗カビ性を定量的に評価する試験である。この抗カビ試験によれば、初発菌数(初発胞子数)に比べて5日後の生菌数が有意に超えていなければ、「抗カビ性あり」と評価できる。
【0090】
まず、各表の「耐光試験前スパンレース不織布」の結果を参照する。クロカビに対しては、表12に示すように、初発菌数に比べて5日後の生菌数が有意に減少しており、優れた抗カビ作用が確認された。また、ススカビに対しては、表13に示すように、クロカビよりも効果が若干劣るものの、5日後の生菌数の有意な増加は認められず、抗カビ作用が確認された。
【0091】
次いで、各表の「耐光試験後スパンレース不織布」の結果を参照する。上記と同様の傾向は、長時間光照射を行なった環境下でも見られた。詳細には、クロカビに対しては、表12に示すように、初発菌数に比べて5日後の生菌数が有意に減少しており、耐光試験後も優れた抗カビ作用が確認された。また、ススカビに対しては、表13に示すように5日後の生菌数の有意な増加は認められず、耐光試験後も抗カビ作用が確認された。
【0092】
上記の実験結果より、本発明の銀コバルト錯体は、良好な抗菌・抗かび作用を有しており、上記作用は、耐光試験後も充分に維持されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表されるCo−Ag−Coの三核錯体を含有することを特徴とする抗菌・抗カビ剤。
【化1】


式中、
nは1〜3の整数であり、
〜R12は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
Nに結合するR〜Rのいずれかの基、R〜Rのいずれかの基、R〜R
いずれかの基、R10〜R12のいずれかの基は、他のいずれかの基と架橋結合を有
していても良く、
13は、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基である。
【請求項2】
下式(2)、下式(3)、および下式(4)で表されるCo−Ag−Coの三核錯体の少なくとも一種を含有する請求項1に記載の抗菌・抗カビ剤。
【化2】


【化3】


【化4】


式中、nおよびR13は前と同じ意味である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−256346(P2009−256346A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75819(P2009−75819)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度および平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業シーズ発掘試験、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】