説明

抗菌性カチオン界面活性剤

【課題】抗菌性カチオン界面活性剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)、等で示される抗菌性カチオン界面活性剤。


一般式(1)において、Rは、炭素数1以上のアルキル基、Rはアルキレン基で、R−CH−CH−R−は炭素数9〜25の炭化水素基、R、Rはメチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基より選ばれた基、Rはメチル基、エチル基、ジヒドロキシプロピル基より選ばれた基を示す。C2n+1はアルキル基で、nは1から20の整数を示す。Aはハロゲンを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規カチオン界面活性剤に関し、分子中に4級アンモニウム塩基と水酸基とを隣接した置換基として有する非対称な2鎖2親水基型(ジェミニ型)の抗菌性カチオン界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン(陽イオン)界面活性剤は、水溶液中において正に帯電し、殺菌性、脱臭性、吸着性の強さなどに特徴があり、その性質を利用して、柔軟剤、帯電防止剤、殺菌剤、ヘアーリンス基剤など多種の製品に利用されている。需要量はアニオン界面活性剤等の他の種類の界面活性剤と比べて少ないものの、他の種類の界面活性剤にはない特有の性質を有している。カチオン界面活性剤は、4級アンモニウム塩型とアミン・アミン塩型とに大別される。
【0003】
2鎖2親水基型界面活性剤(ジェミニ型界面活性剤)は、臨界ミセル濃度(cmc)が通常の1鎖1親水基型界面活性剤と比べ、1/10から1/1000程度低く、また高い表面張力低下能を示す等、優れた特徴を持つことから、様々な構造のジェミニ型界面活性剤が合成されており(特許文献1、非特許文献1)、種々の用途への応用が期待されている。4級アンモニウム塩を2つ持つ対称な形のカチオン性ジェミニ型界面活性剤は、アルキレンジアミン化合物に親水基及び疎水基を導入したり、2分子の第三級アミン化合物をアルキレンや酸無水物の連結基で結合するなど、合成が容易であるため、多くの化合物が合成されている(特許文献1、2)。一方、異なる親水基を持つ非対称なジェミニ型界面活性剤も合成されており(非特許文献2)、特許文献3、非特許文献3に記載されているようなカチオン性親水基である4級アンモニウム塩基と、ノニオン性親水基である水酸基とを持った非対称なジェミニ型のカチオン界面活性剤も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−509571号公報
【特許文献2】特開2010−144031号公報
【特許文献3】特表2004−527473号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. Zana, J. Xia (Eds.), Gemini Surfactants, Synthesis, Interfacial and Solution−Phase Behavior, and Applications, Marcel Dekker, New York, 2003.
【非特許文献2】E. Alami and K. Holmberg, Advances in Colloid and Interface Science 100−102 (2003) 13−46
【非特許文献3】T. Zhou, J. Zhao, Journal of Colloid and Interface Science 331 (2009) 476−483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、工業的実施を前提にしてこのカチオン性親水基である4級アンモニウム塩基と、ノニオン性親水基である水酸基とを持った非対称なジェミニ型のカチオン界面活性剤の分子設計を考えるとき、特許文献3に記載のカチオン界面活性剤は毒性が高く、爆発の危険のあるアジ化ナトリウムの使用を余儀なくされ、工業的に製造するには、安全性に問題があった。本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、4級アンモニウム塩基と隣接する水酸基を有する2鎖2親水基含有の非対称なジェミニ型カチオン界面活性剤が容易に製造でき、界面活性及び抗菌性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、下記一般式(1)又は(2)で示される抗菌性カチオン界面活性剤を要旨とする。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
但し、一般式(1)、(2)において、Rは、炭素数1以上のアルキル基、Rはアルキレン基で、R−CH−CH−R−は炭素数9〜25の炭化水素基、R、Rはメチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基より選ばれた基、Rはメチル基、エチル基、ジヒドロキシプロピル基より選ばれた基を示す。C2n+1はアルキル基で、nは1から20の整数を示す。Aはハロゲンを示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗菌性カチオン界面活性剤は、従来の1鎖1親水基型界面活性剤に比べて高い界面活性能を有し、例えば抗菌剤として使用する場合には少量の添加で済み有用である。本発明のカチオン界面活性剤は、低濃度から、髪などの表面に吸着し、密なパッキングをするため、パーソナルケア製品への配合基剤としても利用が可能である。衣料用の抗菌剤、帯電防止剤や柔軟剤などの繊維処理剤としても利用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般式(1)又は(2)で示される本発明の抗菌性カチオン界面活性剤は、1個の二重結合を有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸と、炭素数1〜20のアルキルアミンとの反応により得られる下記一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドの二重結合部分を一旦エポキシ化した後、二級アミンを反応させ、アミノ基と水酸基を隣接して導入した一般式(4)又は(5)で示されるN−アルキル(もしくはN−ヒドロキシアルキル)アミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドと、ハロゲン化アルキル(水酸基を持つものを含む)との反応により得ることができ、一般式(1)、(2)の混合物として得られる。
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドを構成する、二重結合を1個有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸としては、例えばカプロレイン酸等のデセン酸(C´10)、ウンデセン酸(C´11)、ラウロレイン酸等のドデセン酸(C´12)、トリデセン酸(C´13)、ミリストレイン酸等のテトラデセン酸(C´14)、ペンタデセン酸(C´15)、パルミトレイン酸等のヘキサデセン酸(C´16)、ヘプタデセン酸(C´17)、エライジン酸等のオクタデセン酸(C´18)、ノナデセン酸(C´19)、ゴンドイン酸等のエイコセン酸(C´20)、ヘンエイコセン酸(C´21)、エルカ酸等のドコセン酸(C´22)、トリコセン酸(C´23)、セラコレイン酸等のテトラコセン酸(C´24)、ペンタコセン酸(C´25)、ヘキサコセン酸(C´26)等が挙げられるが、デセン酸、オクタデセン酸、ドコセン酸が好ましい。炭素数1〜20のアルキルアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘプチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、エイコシルアミン等の脂肪族第1アミンが挙げられるが、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミンが好ましい。一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドは、不飽和脂肪酸の炭素数と、脂肪族第1アミンの炭素数の合計は11〜46となるが、18〜34が好ましく、特に好ましくは、炭素数の合計が22〜30である。つまり、2−デセン酸の場合は、脂肪族第一アミンは、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセン酸の場合は、脂肪族第一アミンは、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミンが好ましい。さらにドコセン酸の場合は、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミンが好ましい。
【0017】
一般式(4)、(5)で示されるN−アルキル(もしくはN−ヒドロキシアルキル)アミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドは、一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドに、m−クロロ過安息香酸、過酸化水素とギ酸、過酸化水素とタングステン酸等を反応させて二重結合部分をエポキシ化した後、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの2級アミンと反応させることによりエポキシ環を開環させ、エポキシ環の開環した部分に隣接する水酸基と、アミノ基とを導入して得ることができる。反応性の観点から、2級アミンとしては、ジメチルアミン、または、ジエチルアミン、N−メチルエタノールアミン等が好ましい。
【0018】
一般式(1)、(2)で示される本発明のカチオン界面活性剤は、一般式(4)、(5)で示されるN−アルキル(もしくはN−ヒドロキシアルキル)アミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドと、ハロゲン化アルキルとを反応させることにより得ることができる。ハロゲン化アルキルとしては、臭化メチル、塩化メチル、臭化エチル、塩化エチル、3−クロロ−1,2−プロパンジオール等が挙げられるが、臭化メチル、塩化メチル、3−クロロ−1、2−クロロプロパンジオールが好ましい。特に、N−ヒドロキシアルキルアミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドと反応させる時は、反応性の観点から、臭化メチル、臭化エチルが好ましい。
【0019】
以下の化6に示す反応は、本発明の抗菌性カチオン界面活性剤を製造するより具体的な一例として、cis−9−オクタデセン酸アルキルアミドを出発物質として用いた場合を示す。尚、cis−9−オクタデセン酸アルキルアミドは、例えばcis−9−オクタデセン酸に、1〜10倍当量のオキサリルクロリドやチオニルクロリドを0〜30℃で1〜10時間攪拌下に反応させ、過剰のオキサリルクロリドやチオニルクロリドを除去した後、ピリジンやトリエチルアミン等の塩基を用い、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒中で、1〜5倍当量のアルキルアミンを滴下して10〜50℃で1〜10時間反応させて得ることができる。
【0020】
【化6】

【0021】
上記化6に示す反応において、工程1はcis−9−オクタデセン酸アルキルアミドを、クロロホルム等の塩素系有機溶媒中において、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)等の過酸を用いてエポキシ化して9,10−エポキシオクタデカン酸アルキルアミドを得るエポキシ化反応の工程を示す。工程2は、9,10−エポキシオクタデカン酸アルキルアミドのエポキシ環を開環させて、9位(又は10位)に水酸基と、10位(又は9位)にN−アルキルアミノ基を導入したN−アルキルアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドを得るアミノアルコール化反応の工程を示す。N−アルキルアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドは、9,10−エポキシオクタデカン酸アルキルアミドをTHF等の有機溶媒に溶解し、50%ジメチルアミン水溶液などの二級アミンと必要により過塩素酸リチウム(LiClO)を加え、100〜180℃で5〜50時間、好ましくは10〜20時間反応させて得ることができる。工程3はN−アルキルアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドから本発明のカチオン界面活性剤を得る4級アンモニウム化の工程を示す。本発明の抗菌性カチオン界面活性剤は、THF等の有機溶媒中でN−アルキルアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドと、1〜5倍当量の臭化メチルなどのハロゲン化アルキルを、10〜60℃、好ましくは20〜40℃で、1〜72時間攪拌しながら反応させることにより得ることができる。得られた抗菌性カチオン界面活性剤は、アセトンやアセトン−水等の溶媒を用いた再結晶や、シリカゲルを固定相とし、クロロホルム・メタノール・混合溶媒を移動相とするカラムクロマトグラフィー等によって精製することができる。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
1)アミド化反応
cis−9−オクタデセン酸80.1g(0.285モル)に、オキサリルクロリド150g(1.17モル)を滴下し、室温で2時間攪拌後、反応液から未反応のオキサリルクロリドを減圧留去し、cis−9−オクタデセン酸クロリドを得た。これに、テトラヒドロフラン660ミリリットルとピリジン22.8g(1.17モル)を加え、氷冷攪拌し、n−デシルアミン45.6g(0.288モル)を滴下し、発熱が収まった時点で氷浴を外し、さらに室温で3時間反応を行った。析出した結晶を吸引ろ過により取り除き、ろ液を減圧留去し、ろ液の残渣にジエチルエーテルを600ミリリットル加えて溶解させ、5%塩酸で2回、水で1回、洗浄を行った。ジエチルエーテルを留去後、酢酸エチルで再結晶を2回行い、白色固体のcis−9−オクタデセン酸デシルアミド84g(収率70%)を得た。
【0024】
2)エポキシ化反応
cis−9−オクタデセン酸デシルアミド50.7g(0.12モル)にクロロホルム1080ミリリットルを加え、攪拌し溶解させた。一方、クロロホルム600ミリリットルにm-クロロ過安息香酸39.3g(0.228モル)を溶解させ、これを1時間かけて室温で9−オクタデセン酸デシルアミド溶液に滴下した。滴下後、還流攪拌を12時間行った。反応液を室温まで冷却後、炭酸水素ナトリウム水溶液による洗浄を3回行い、硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶媒を減圧留去して、白色固体の9,10−エポキシオクタデカン酸デシルアミド49.5g(収率94%)を得た。
【0025】
3)アミノアルコール化反応
9,10−エポキシオクタデカン酸デシルアミド3.0g(0.00685モル)にテトラヒドロフラン30ミリリットルに溶解させた。その溶液をオートクレーブに移し、過塩素酸リチウム0.73g(0.00686モル)を加え、更に50%ジメチルアミン水溶液水20g(0.22モル)を加え、直ちに密閉した。オートクレーブをオイルバスに入れ、設定温度140℃で15時間攪拌した。その後、反応液を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルムを300ミリリットル加え、飽和塩化ナトリウム水溶液による洗浄を3回行った。洗浄操作でエマルションになる場合は過剰の塩化ナトリウムを加えエマルションを破壊した。硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶液を減圧留去し、淡黄色粘体の9−ジメチルアミノ−10−ヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドと、10−ジメチルアミノ−9−ヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドの混合物(以下、単にジメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド)3.1g(収率94%)を得た。
【0026】
4)4級アンモニウム化
19%臭化メチルTHF溶液20ミリリットルに上記ジメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド0.5g(0.00103モル)を滴下し、室温で48時間攪拌を行った。反応溶液を減圧留去し、アセトンで再結晶を繰り返すことで、白色固体0.29g(収率50%)を得た。
【0027】
得られた白色固体を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで構造を確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0028】
FT−IRの結果:
3201、3301cm−1(O−H,N−H, st),1645cm−1(C=O,st),1553cm−1(N−H,δ)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDCl)の結果:
δ0.86−0.89(t,6H),1.26−1.76(m,43H),2.17−2.20(t,2H),3.19−3.23(q,3H),3.44(s,9H),4.05(s,1H),5.35−5.48(q, 1H), 5.94−6.03(d, 1H)にピークが認められた。
【0029】
ESI−MSの結果:
[M−Br]=497.5025(calc.497.5046)
元素分析結果(C3165Br):
実測値(%) C:64.81%,H:11.15%,N:4.83%
計算値(%) C:64.44%,H:11.34%,N:4.85%
【0030】
これらの結果より、下記一般式(1a)又は(1a′)で示される構造のカチオン界面活性剤の混合物であることが確認された。
【0031】
【化7】

【0032】
実施例2
実施例1と同様の1)アミド化反応、2)エポキシ化反応、3)アミノアルコール化反応工程により得たジメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドを、下記の4級アンモニウム化した。
【0033】
4)4級アンモニウム化
ジメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド2.0g(0.0041モル)に3−クロロ−1、2−プロパンジオール0.5g(0.0045モル)を溶解させたエタノール20ミリリットルを加え、還流下で24時間攪拌を行った。反応溶液を減圧留去し、アセトン−エタノール混合溶媒で再結晶を繰り返すことで、白色固体1.6g(収率60%)を得た。
【0034】
得られた白色固体を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで構造を確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0035】
FT−IRの結果:
3201、3301cm−1(O−H,N−H, st),1647cm−1(C=O,st),1554cm−1(N−H,δ)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDCl)の結果:
δ0.86−0.89(t,6H),1.26−1.76(m,43H),2.17−2.20(t,2H),3.19−3.23(q,3H),3.44(s,6H),3.45−3.60(m、4H)、4.05−4.17(m,2H),5.07−5.11(s、1H)、5.35−5.48(q, 1H),5.53−5.55(s、1H)、 5.94−6.03(d, 1H)にピークが認められた。
【0036】
ESI−MSの結果:
[M−Br]=557.5293(calc.557.5257)
元素分析結果(C3369Br):
実測値(%) C:62.22%,H:11.35%,N:4.45%
計算値(%) C:62.14%,H:10.90%,N:4.39%
【0037】
これらの結果より、下記一般式(2a)又は(2a′)で示される構造のカチオン界面活性剤の混合物であることが確認された。
【0038】
【化8】

【0039】
実施例3
1)アミド化反応
cis−13−ドコセン酸100g(0.295モル)に、チオニルクロリド52.7g(0.443モル)を滴下し、室温で3時間攪拌後、反応液から未反応のチオニルクロリドを減圧留去し、cis−13−ドコセン酸クロリドを得た。これに、テトラヒドロフラン750ミリリットルとピリジン35.0g(0.443モル)を加え、氷冷攪拌し、n−ヘキシルアミン32.9g(0.325モル)を滴下し、発熱が収まった時点で氷浴を外し、さらに室温で3時間反応を行った。析出した結晶を吸引ろ過により取り除き、ろ液を減圧留去し、ろ液の残渣にジエチルエーテルを500ミリリットル加えて溶解させ、5%塩酸で2回、水で1回、洗浄を行った。ジエチルエーテルを留去後、酢酸エチルで再結晶を2回行い、白色固体のcis−13−ドコセン酸ヘキシルアミド87g(収率70%)を得た。
【0040】
2)エポキシ化反応
cis−13−ドコセン酸ヘキシルアミド(64g、0.152モル)にクロロホルム600ミリリットルを加え、攪拌し溶解させた。一方、クロロホルム400ミリリットルにm−クロロ過安息香酸49.9g(0.289モル)を溶解させ、これを1時間かけて室温でcis−13−ドコセン酸ヘキシルアミド溶液に滴下した。滴下後、還流攪拌を12時間行った。反応液を室温まで冷却後、炭酸水素ナトリウム水溶液による洗浄を3回行い、硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶媒を減圧留去して白色固体の13,14−エポキシドコサン酸ヘキシルアミド61.2g(収率92%)を得た。
【0041】
3)アミノアルコール化反応
13,14−エポキシドコサン酸ヘキシルアミド10.7g(0.0244モル)にテトラヒドロフラン30ミリリットルを加え、加熱溶解させた。その溶液をオートクレーブに移し、過塩素酸リチウム2.6g(0.0244モル)を加え、更に50%ジメチルアミン水溶液70.7g(0.78モル)、直ちに密閉した。オートクレーブをオイルバスに入れ、設定温度140℃で15時間攪拌した。その後、反応液を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルムを300ミリリットル加え、飽和塩化ナトリウム水溶液による洗浄を3回行った。洗浄操作でエマルションになる場合は過剰の塩化ナトリウムを加えエマルションを破壊した。硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶液を減圧留去し、淡黄色粘体の13−ジメチルアミノ−14−ヒドロキシドコサン酸ヘキシルアミドと、14−ジメチルアミノ−13−ヒドロキシドコサン酸ヘキシルアミドの混合物(以下、単にジメチルアミノヒドロキシドコサン酸ヘキシルアミド)11.0g(収率93%)を得た。
【0042】
4)4級アンモニウム化
19%臭化メチルTHF溶液80ミリリットルに上記ジメチルアミノヒドロキシドコサン酸ヘキシルアミド2.0g(0.041モル)を滴下し、室温で48時間攪拌を行った。反応溶液を減圧留去し、アセトンで再結晶を繰り返すことで、白色固体1.24g(収率52%)を得た。
【0043】
得られた白色固体を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで構造を確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0044】
FT−IRの結果:
3203、3299cm−1(O−H,N−H, st),1644cm−1(C=O,st),1551cm−1(N−H,δ)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDCl)の結果:
δ0.88−0.95(m,6H), 1.31−1.64(m,42H),2.15(t,2H),3.15(t、2H)、3.20−3.23(m,1H),3.44(s,9H),4.05(s,1H),5.35−5.48(q, 1H), 5.94−6.03(d, 1H)にピークが認められた。
【0045】
ESI−MSの結果:
[M−Br]=497.5031(calc.497.5046)
元素分析結果(C3165Br):
実測値(%) C:64.54%,H:11.83%,N:4.95%
計算値(%) C:64.44%,H:11.34%,N:4.85%
【0046】
これらの結果より、下記一般式(3a)又は(3a′)で示される構造のカチオン界面活性剤の混合物であることが確認された。
【0047】
【化9】

【0048】
実施例4
1)アミド化反応
cis−9−オクタデセン酸80.1g(0.285モル)に、オキサリルクロリド150g(1.17モル)を滴下し、室温で2時間攪拌後、反応液から未反応のオキサリルクロリドを減圧留去し、cis−9−オクタデセン酸クロリドを得た。これに、テトラヒドロフラン660ミリリットルとピリジン22.8g(1.17モル)を加え、氷冷攪拌し、n−ドデシルアミン53.4g(0.288モル)を滴下し、発熱が収まった時点で氷浴を外し、さらに室温で3時間反応を行った。析出した結晶を吸引ろ過により取り除き、ろ液を減圧留去し、ろ液の残渣にジエチルエーテルを600ミリリットル加えて溶解させ、5%塩酸で2回、水で1回、洗浄を行った。ジエチルエーテルを留去後、酢酸エチルで再結晶を2回行い、白色固体のcis−9−オクタデセン酸ドデシルアミド95g(収率74%)を得た。
【0049】
2)エポキシ化反応
cis−9−オクタデセン酸ドデシルアミド54g(0.12モル)にクロロホルム1150ミリリットルを加え、攪拌し溶解させた。一方、クロロホルム600ミリリットルにm-クロロ過安息香酸39.3g(0.228モル)を溶解させ、これを1時間かけて室温でcis−9−オクタデセン酸ドデシルアミド溶液に滴下した。滴下後、還流攪拌を12時間行った。反応液を室温まで冷却後、炭酸水素ナトリウム水溶液による洗浄を3回行い、硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶媒を減圧留去して、白色固体の9,10−エポキシオクタデカン酸ドデシルアミド53.1g(収率95%)を得た。
【0050】
3)アミノアルコール化反応
9,10−エポキシオクタデカン酸ドデシルアミド5.0g(0.0107モル)にテトラヒドロフラン30ミリリットルに溶解させた。その溶液をオートクレーブに移し、過塩素酸リチウム0.73g(0.0113モル)を加え、更にジエチルアミン23.5g(0.32モル)を加え、直ちに密閉した。オートクレーブをオイルバスに入れ、設定温度150℃で20時間攪拌した。その後、反応液を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルムを300ミリリットル加え、飽和塩化ナトリウム水溶液による洗浄を3回行った。洗浄操作でエマルションになる場合は過剰の塩化ナトリウムを加えエマルションを破壊した。硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶液を減圧留去し、淡黄色粘体の9−ジエチルアミノ−10−ヒドロキシオクタデカン酸ドデシルアミドと、10−ジエチルアミノ−9−ヒドロキシオクタデカン酸ドデシルアミドの混合物(以下、単にジエチルアミノヒドロキシオクタデカン酸ドデシルアミド)4.9g(収率85%)を得た。
【0051】
4)4級アンモニウム化
19%臭化メチルTHF溶液118ミリリットルに上記ジエチルアミノヒドロキシオクタデカン酸ドデシルアミド3.2g(0.0059モル)を滴下し、室温で48時間攪拌を行った。反応溶液を減圧留去し、アセトンで再結晶を繰り返すことで、白色固体2.0g(収率55%)を得た。
【0052】
得られた白色固体を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで構造を確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0053】
FT−IRの結果:
3204、3299cm−1(O−H,N−H, st),1645cm−1(C=O,st),1553cm−1(N−H,δ)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDCl)の結果:
δ0.86−0.89(t,6H),1.25−1.76(m,50H),2.17−2.20(t,2H),3.19−3.23(q,3H),3.42−3.44(m,7H),4.05(s,1H),5.35−5.48(q, 1H), 5.94−6.03(d, 1H)にピークが認められた。
【0054】
ESI−MSの結果:
[M−Br]=553.5610(calc.553.5672)
元素分析結果(C3573Br):
実測値(%) C:66.37%,H:12.01%,N:4.44%
計算値(%) C:66.32%,H:11.61%,N:4.42%
【0055】
これらの結果より、下記一般式(4a)又は(4a′)で示される構造のカチオン界面活性剤の混合物であることが確認された。
【0056】
【化10】

【0057】
実施例5
実施例1〜4で得たカチオン界面活性剤及び比較例として下記化11(比較例1)、化12(比較例2)で示される1鎖型の界面活性剤を用いて、Wilhelmy法により、25℃で、表面張力の測定を行い、臨界ミセル濃度(cmc)、cmcにおける表面張力(γcmc)を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(化11)
CH(CH12(CHBr
【0060】
(化12)
CH(CH15(CHBr
【0061】
実施例1〜4のカチオン界面活性剤は、比較例の化合物と比較して、1/35〜1/172程度の低い臨界ミセル濃度(cmc)を示した。これらの結果から、パーソナルケア製品への配合基剤、衣料用の抗菌剤、帯電防止剤や柔軟剤などの繊維処理剤としても利用する際に、従来の1鎖1親水基型界面活性剤に比べて少量の添加量で済むことができる。
【0062】
実施例6
抗菌性試験
実施例1〜4のカチオン界面活性剤及び比較例2の界面活性剤、下記化13で示すカチオン界面活性剤(比較例3)について、以下に示す方法にて、抗菌性を測定した。これらの結果を表2に示す。
<抗菌性試験>
寒天培地希釈時に所定濃度(128−0.25μg/mL)となるように2倍希釈系列を調製したカチオン性界面活性剤水溶液1mLを、シャーレに分注し、寒天培地を9mL添加し、寒天培地上に供試菌を約10cfu/mL含むよう調製した接種菌液を白金耳で画線塗抹し、37℃で18時間静置培養して菌の発育を確認した。菌の発育が肉眼的に認められない最小の薬剤濃度をもって最小育成阻止濃度(MIC)とした。尚、供試菌として、Staphylococcus aureus IFO13276(黄色ブドウ球菌)を用いた。
【0063】
【表2】

【0064】
(化13)
(CH(CH10(CHCl
【0065】
表2の結果より、実施例1〜4のカチオン界面活性剤は、比較例2、3のカチオン界面活性剤と比べ、同等もしくはそれ以上の抗菌性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の抗菌性カチオン界面活性剤は、工業的に入手し易い天然由来の脂肪酸や毒性、危険性の少ない原料を用いることにより、容易かつ安全に合成することができるので、産業上の利用可能性は非常に大きい。本発明の抗菌性カチオン界面活性剤は、低濃度であっても優れた界面活性及び抗菌性を有するため、バス・シャワー、ヘアケア、スキンケア、トイレタリー、カラーコスメティック等用途のパーソナルケア製品への配合基剤、衣料用の抗菌剤、帯電防止剤や柔軟剤などの繊維処理剤への配合基剤としても利用が可能であることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で示される抗菌性カチオン界面活性剤。
【化1】

【化2】

但し、一般式(1)、(2)において、Rは、炭素数1以上のアルキル基、Rはアルキレン基で、R−CH−CH−R−は炭素数9〜25の炭化水素基、R、Rはメチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基より選ばれた基、Rはメチル基、エチル基、ジヒドロキシプロピル基より選ばれた基を示す。C2n+1はアルキル基で、nは1から20の整数を示す。Aはハロゲンを示す。

【公開番号】特開2012−62246(P2012−62246A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205137(P2010−205137)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【出願人】(509122083)
【出願人】(598069939)
【Fターム(参考)】