説明

抗菌性化粧用ブラシ及びそのブラシ毛の製造方法

【課題】経済的に低コストで生産でき、持続性の高い抗菌性が発現される、抗菌性化粧用ブラシを提供する。
【解決手段】本発明の抗菌性化粧用ブラシは、平均粒子径が10μm以下の無機系抗菌剤をブラシ毛の表面に固着させたものであり、このような化粧用ブラシは、平均粒子径が10μm以下である無機系抗菌剤を分散させた分散液中に浸漬させた後、これを引き上げて乾燥させることによって得られるブラシ毛を用いて製造される。無機系抗菌剤のブラシ毛への固着量は15ppm以上であるのが好ましく、固着量が15ppm以上となるようにブラシ毛を分散液中に浸漬させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する化粧用ブラシ及びそのブラシ毛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の健康,清潔志向の高まりにつれ、日用品,台所用品,浴用品,トイレ周り用品,家電製品等の幅広い分野で抗菌性を付与する試みが行われている。
【0003】
獣毛や合成繊維をブラシ毛として用いた化粧用ブラシにおいても、有機系抗菌剤をブラシ毛の表面に吸着、浸透または反応させることにより付着させて抗菌性を付与する試みが行われている。
【0004】
このような抗菌性を有する化粧用ブラシの製造方法として、従来、獣毛及び/又は合成繊維からなるブラシ毛を有機系抗菌剤の溶液に浸漬等して、ブラシ毛の表面に有機系抗菌剤を付着させる方法が知られている(特開2002−223857号公報、特開2005−323953号公報、特開2006−141991号公報及び特開2006−346493号公報参照)。この方法は種々の形態の化粧用ブラシに、浸漬等の簡単な加工を施すだけで抗菌性を付与することができるので、非常に簡便に抗菌性を備えた化粧用ブラシを得ることができる。
【0005】
また、実開平1−77434号公報には、無機系抗菌剤を含有する合成繊維を用いたブラシが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−223857号公報
【特許文献2】特開2005−323953号公報
【特許文献3】特開2006−141991号公報
【特許文献4】特開2006−346493号公報
【特許文献5】実開平1−77434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上述した有機系抗菌剤を付着させる方法では、有機系抗菌剤で表面処理した直後こそ、効果的な抗菌性が発現されるものの、抗菌性の持続性が不十分であるという問題があった。即ち、化粧用ブラシの使用を繰返すと、付着された抗菌剤が溶出脱離して、表面における抗菌剤の濃度が低下し、このため、抗菌性が発現されなくなるのである。また有機系抗菌剤には素肌の荒れを引き起こす等、安全面においても問題があった。
【0008】
また、無機系抗菌剤を含有する合成繊維を用いたブラシにおいては、抗菌性の発現性や持続性については良好であるが、その製造にあたり、合成繊維に無機系抗菌剤を含有させるために、抗菌剤粒子と合成繊維樹脂とを予め混合し、これを繊維化するという煩雑な工程を必要とするため、所謂小回りのきく少量多品種生産には不向きであるという欠点があった。
【0009】
更に、ブラシ毛に含有される抗菌剤粒子の内、その表面近傍に存在する抗菌剤粒子は、抗菌性の発現に効果的に寄与するものの、多くの内部に存在する抗菌剤粒子については、抗菌性の発現という面では大きな働きをせず、高価な抗菌剤を有効に機能させることが出来ないという点で、経済的にも不利であった。
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであって、経済的に低コストで生産でき、しかも持続性の高い抗菌性が発現される、抗菌性化粧用ブラシの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するための本発明の抗菌性化粧用ブラシは、平均粒子径が10μm以下の無機系抗菌剤をブラシ毛の表面に固着せしめたことを特徴とする。
【0012】
そして、このようなブラシ毛は、平均粒子径が10μm以下である無機系抗菌剤を分散させた分散液中に当該ブラシ毛を浸漬させた後、これを引き上げて乾燥させることにより得られる。
【0013】
尚、無機系抗菌剤のブラシ毛への固着量は15ppm以上であるのが好ましく、固着量が15ppm以上となるようにブラシ毛を分散液中に浸漬させる。
【0014】
また、前記ブラシ毛としては、特に限定されるものではないが、獣毛若しくは合成繊維、又は獣毛と合成繊維の混合物を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る抗菌性化粧用ブラシは、無機系抗菌剤を用いるので安全性に優れており、特に、肌荒れ等の皮膚に対する問題を引き起こさないという利点を有する。
【0016】
また、無機系抗菌剤はブラシ毛の表面に固着しているので、少量の抗菌剤で効果的な抗菌性が発現される。
【0017】
また、無機系抗菌剤は耐水性に優れているので、有機系抗菌剤のように容易に溶出することがなく、抗菌性金属イオンを緩やかに徐放するものの、表面に長時間存在し続けるので、長期に亘って抗菌性が持続される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のより好ましい実施形態について説明する。
【0019】
本発明の抗菌性化粧用ブラシは、その表面に無機系抗菌剤の粒子が固着されたブラシ毛からなる。
【0020】
本発明のブラシ毛には天然獣毛や合成繊維が使用され、これらを単独又は混合して使用することができる。
【0021】
前記獣毛としては、山羊,馬,リス,イタチ,テン,狸,猫などの毛を挙げることができる。また、合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート,ポリナフタレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ポリエステル・エーテルブロック共重合等のポリエステルエラストマー系繊維、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ナイロン6,ナイロン12,ナイロン10,ナイロン17,ナイロン46,ナイロン66,ナイロン69,ナイロン612,ナイロン610等のポリアミド(ナイロン)系繊維、ポリアクリロニトリル,ポリモダアクリル等のアクリル系繊維を挙げることができ、これらポリマーはホモポリマーやコポリマーやポリマーのブレンド物であってもよい。
【0022】
また、本発明において、合成繊維をブラシ毛に用いる場合には、その繊維径は0.2mm以下であるのが、柔らかい使用感を得られることから好適である。
【0023】
また、本発明において、前記合成繊維としては、ポリマーをSide By SideやSheath−Core型に配置した複合繊維であっても良い。
【0024】
また、合成繊維は、その断面がY孔,W字型,三角中空,星型形等である、所謂「異形断面糸」であっても良い。また、化粧用ブラシのソフトな使用感を高め、且つ液体,エマルジョン,クリーム,ジェル,ゲル,泡,粉体等の化粧料のブラシへの含み性を向上させる為に、合成繊維にクリンプをつけたり、繊維の先端を分割したり、先端を細くしたテーパー状にしたりする化学処理を施しても良い。
【0025】
本発明において、無機系抗菌剤としては、銀,亜鉛,銅の一種若しくは2種以上の抗菌性金属を無機化合物に担持させたものを用いることができ、担持体としては、ゼオライト,アパタイト,リン酸ジルコニウム,酸化チタン,シリカゲル,アルミニウム硫酸塩水酸化物,燐酸カルシウム,珪酸カルシウム等を挙げることができる。また、リン酸系,硼酸系,珪酸系の各系ガラスの一種若しくは2種以上をガラス形成成分としたガラスに、銀,亜鉛,銅の一種若しくは2種以上の抗菌性金属を含有せしめたガラス質抗菌剤も無機系抗菌剤として用いることができる。当然、抗菌性金属を担持させた抗菌剤とガラス質抗菌剤とを併用して用いることもできる。
【0026】
本発明における無機系抗菌剤は、抗菌性の発現のし易さから、その平均粒子径は小さい方が望ましいが、あまりに小さいと粉砕,分級にコストがかかって経済的に不利であり、逆に大きすぎると抗菌性が発現され難く、また、抗菌性の耐久性に劣るため、当該平均粒子径は、10μm以下、特に、0.1〜5μmの範囲であるのが好ましい。
【0027】
本発明において、無機系抗菌剤をブラシ毛の表面に固着させる方法としては、例えば、ブラシ毛を、無機系抗菌剤を分散させた分散液(スラリー)中に常温で浸漬させた後、これを引き上げて乾燥させる方法を一例として挙げることができる。その際、上記のように無機系抗菌剤の平均粒子径を10μm以下にすると、バインダーを用いなくても、無機系抗菌剤をブラシ毛表面にしっかりと固着させることができる。これは、無機系抗菌剤の平均粒子径を10μm以下という微粒子にすることにより、当該無機系抗菌剤がファンデルワールス力によってブラシ毛表面に固着されるためだと思われる。
【0028】
このように、本発明では、バインダーを用いることなく(バインダーによらないで)、無機系抗菌剤をブラシ毛の表面に固着させているので、ブラシ毛はバインダー成分によって繊維が硬くなることがなく、肌触りや風合いが良いものとなり、化粧用ブラシとして好適なものとなる。
【0029】
また、前記浸漬処理の際にカチオン系水性物質を併用使用して、無機系抗菌剤粒子のブラシ毛表面への固着を促進したり、或いは、常温浸漬に代えて、浸漬処理の際に加熱処理しても良い。更に、浸漬処理を一般の染色工程と同時に行ってもよい。
【0030】
また、本発明において、前記無機系抗菌剤の固着量は、少なすぎては良好な抗菌性の発現は得られず、一方多すぎると無機系抗菌剤は高価なものであるので経済的に不利となる。本発明において無機系抗菌剤の固着量はブラシ毛に対して15ppm以上、好ましくは30ppm以上、更に好ましくは100ppm以上である(尚、ここにいう単位「ppm」は、ブラシ毛に対する重量比を意味している)。そして、前記浸漬処理では、このような固着量となるように浸漬処理する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体的な実施例を用いてより詳しく説明する。
【0032】
まず、各実施例及び比較例に係る化粧用ブラシの評価方法について説明する。
【0033】
(前洗浄処理)
各試料となる化粧用ブラシの抗菌持続性を評価するために、以下の要領で洗浄操作を行った。即ち、JAFET標準洗剤を0.14%含有する水を洗浄液として用い、以下の洗い工程及び濯ぎ工程からなる工程を1回の洗浄とし、これを所定回数繰り返して洗浄を行った。尚、ここでJAFET洗剤とは(社)繊維評価技術協議会が規定する標準洗剤をいう。
洗い工程:500mlの洗浄液を用い、40℃で30秒間振り洗いの後、手絞りで水切りを行う。
濯ぎ工程:500mlの水を用い、40℃で30秒間の振り濯ぎの後、手絞りでの水切りを2回繰返して行う。
【0034】
(抗菌性評価)
上記前洗浄を行なった後の化粧用ブラシを、JIS L 1902の菌液吸収法に従って黄色ブドウ球菌に対する抗菌試験を行い、JIS L 1902に定める静菌活性値にて抗菌性を評価した。静菌活性値が2以上で抗菌効果ありと判定される。
【0035】
(無機抗菌剤固着量)
無機抗菌剤の主要構成元素を1種選び、その元素を対象にブラシ毛試料のICP(Inductively Coupled Plasma)法による元素の定量分析を行い、ブラシ毛に固着された無機系抗菌剤の量を算定した。
【0036】
(実施例1〜6)
繊維径が0.07mmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)製繊維を種々の濃度の平均粒子径が0.3μmの銀担持ゼオライトの無機抗菌剤スラリーに浸漬処理した後、乾燥させて、無機系抗菌剤の固着量を変化させたブラシ毛からなる実施例1〜6の化粧用ブラシを得た。尚、浸漬処理工程においては、130℃で30分の加熱処理を行った。このようにして得られた実施例1〜6の化粧用ブラシについて、上記手法に従って、無機抗菌剤の固着量を算定するとともに、その抗菌性を評価した。その結果を下表表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、実施例1〜6に係る化粧用ブラシは、いずれも洗浄回数を15回繰り返しても良好な抗菌性が発現されていることが分かる。特に、15ppm以上の無機系抗菌剤が固着された実施例2〜6の化粧用ブラシは、抗菌持続性に関し30回程度の耐洗浄性を備えている。
【0039】
(実施例7〜12)
各種比率の繊維から成る繊維束を平均粒子径が0.5μmの銀・亜鉛担持ゼオライトの無機抗菌剤スラリーに浸漬処理した後、乾燥させたブラシ毛からなる実施例7〜12の化粧用ブラシを得た。尚、PBT及びポリエチレンテレフタレート(PET)繊維については、高濃度アルカリ液で処理することによって先端がテーパー状になった直径が0.1mmのものを使用した。また、浸漬処理工程では、80℃で15分の加熱処理を行った。このようにして得られた実施例7〜12の化粧用ブラシについて、上記手法に従って、無機抗菌剤の固着量を算定するとともに、その抗菌性を評価した。その結果を下表表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、無機系抗菌剤が適宜量固着されていれば、繊維の種類に関わりなく良好な抗菌性が発現され、且つ、抗菌持続性に関し良好な耐洗浄性を備えていることが分かる。
【0042】
(実施例13〜16及び比較例1)
繊維径が0.07mmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)製繊維を、無機系抗菌剤が銀系リン酸ガラスと銀担持ゼオライトとが等重量の混合物である種々の平均粒子径の無機抗菌剤スラリーに浸漬処理した後、乾燥させたブラシ毛からなる実施例13〜16及び比較例1の化粧用ブラシを得た。尚、浸漬処理工程では、無機系抗菌剤の固形分の1/10重量に相当するカチオン系の繊維柔軟剤を併用し、室温で60分の処理を行った。このようにして得られた実施例13〜16及び比較例1の化粧用ブラシについて、上記手法に従って、無機抗菌剤の固着量を算定するとともに、その抗菌性を評価した。その結果を下表表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示すように、無機系抗菌剤の平均粒子径が10μm以下である実施例13〜16の化粧用ブラシでは、良好な抗菌性が発現され、且つ、抗菌持続性に関し良好な耐洗浄性を備えているが、無機系抗菌剤の平均粒子径が20μmである比較例1の化粧用ブラシでは、当初の抗菌性は良好であるが、抗菌持続性については、耐洗浄性に欠けることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、高い洗浄持続性(耐洗浄性)を備えた化粧用ブラシを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10μm以下である無機系抗菌剤がブラシ毛の表面に固着されていることを特徴とする抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項2】
前記無機系抗菌剤の固着量が15ppm以上であることを特徴とする請求項1記載の抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項3】
前記ブラシ毛が、獣毛若しくは合成繊維、又は獣毛と合成繊維の混合物からなることを特徴とする請求項1又は2記載の抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項4】
平均粒子径が10μm以下の無機系抗菌剤を分散させた分散液中にブラシ毛を浸漬させた後、これを引き上げて乾燥させるようにしたことを特徴とする化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項5】
前記ブラシ毛を分散液中に浸漬させる工程において、分散液を加熱するようにしたことを特徴とする請求項4記載の化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項6】
前記ブラシ毛を分散液中に浸漬させる工程において、15ppm以上の前記無機系抗菌剤が前記ブラシ毛に固着されるように浸漬させることを特徴とする請求項4又は5記載の化粧用ブラシ毛の製造方法。

【公開番号】特開2009−261751(P2009−261751A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116723(P2008−116723)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(502332991)富士ケミカル株式会社 (20)
【Fターム(参考)】