説明

抗菌性化粧用ブラシ及びそのブラシ毛の製造方法

【課題】地球生態環境を保護しつつ、衛生的且つ安全で、しかも長期に亘って抗菌性が発現される化粧用ブラシを提供する。
【解決手段】本発明の化粧用ブラシは、そのブラシ毛が合成繊維から形成される化粧用ブラシであって、ブラシ毛は、無機系抗菌剤を含有する合成繊維を、ブラシ毛100重量部中に20重量部以上含み、無機系抗菌剤を含有する合成繊維は、その100重量部中に、無機系抗菌剤が0.02〜3重量部含有される。この化粧用ブラシは、熱可塑性樹脂から選ばれる一種の樹脂70〜90重量部に、無機系抗菌剤の30〜1重量部を配合し、溶融して分散させた後、押し出し成形によってマスターバッチを製造し、ついで、熱可塑性の原料樹脂に前記マスターバッチを配合して、溶融,分散させ、この後、紡糸してブラシ毛とする。マスターバッチは、ブラシ毛100重量部中に、無機系抗菌剤の0.02〜3重量部が含有されるように、配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する化粧用ブラシ及びそのブラシ毛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、化粧用ブラシのブラシ毛には一般的に獣毛が使用されているが、動物愛護や地球生態保護などの観点から、次第にその入手が困難になりつつある。そこで、現在、このような獣毛に代わる素材として合成繊維を用いる試みが行われている。
【0003】
一方、社会の健康,清潔志向の高まりにつれ、日用品,台所用品,浴用品,トイレ周り用品,家電製品等の広い分野で抗菌性を付与する試みが行われている。
【0004】
合成繊維をブラシ毛として用いた化粧用ブラシにおいても、有機系抗菌剤をブラシ毛の表面に吸着、浸透または反応させることにより付着させて抗菌性を付与する試みが行われている。
【0005】
このような抗菌性を有する化粧用ブラシの製造方法として、従来、獣毛及び/又は合成繊維からなるブラシ毛を有機系抗菌剤の溶液に浸漬等して、ブラシ毛の表面に有機系抗菌剤を付着させる方法が知られている(特開2002−223857号公報、特開2005−323953号公報、特開2006−141991号公報及び特開2006−346493号公報参照)。この方法は種々の形態の化粧用ブラシに、浸漬等の簡単な加工を施すだけで抗菌性を付与することができるので、非常に簡便に抗菌性を備えた化粧用ブラシを得ることができる。
【0006】
また、特開平9−23925号公報には無機系抗菌剤を含有する合成繊維と天然獣毛との混合毛を用いた化粧用ブラシが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−223857号公報
【特許文献2】特開2005−323953号公報
【特許文献3】特開2006−141991号公報
【特許文献4】特開2006−346493号公報
【特許文献5】特開平9−23925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上述した有機系抗菌剤を付着させる方法では、有機系抗菌剤で表面処理した直後こそ、効果的な抗菌性が発現されるものの、抗菌性の持続性が不十分であるという問題があった。即ち、化粧用ブラシの使用を繰返すと、付着された抗菌剤が溶出脱離して、表面における抗菌剤の濃度が低下し、このため、抗菌性が発現されなくなるのである。また有機系抗菌剤には素肌の荒れを引き起こす等、安全面においても問題があった。
【0009】
また、化粧用ブラシを清潔に保つためには、使用後に洗浄することが望ましいが、獣毛を用いたブラシの場合には、獣毛の水離れ性が劣っているために、洗浄後の乾燥に時間がかかるという欠点があった。
【0010】
このため、一般的には、使用後に化粧料を拭き取る程度のことしかなされておらず、とても、使用者の満足できる清潔感が得られていないのが現状であった。
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、地球生態環境を保護しつつ、衛生的且つ安全で、しかも長期に亘って抗菌性が発現される化粧用ブラシの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、ブラシ毛が合成繊維から形成される化粧用ブラシであって、該ブラシ毛は、無機系抗菌剤を含有する合成繊維を、該ブラシ毛100重量部中に20重量部以上含み、該無機系抗菌剤を含有する合成繊維は、その100重量部中に、無機系抗菌剤が0.02〜3重量部含有されてなることを特徴とする抗菌性化粧用ブラシに係る。
【0013】
無機系抗菌剤を含有する合成繊維は、熱可塑性樹脂から選ばれる一種の樹脂70〜99重量部に、無機系抗菌剤の30〜1重量部を配合し、溶融して分散させた後、押し出し成形によってマスターバッチを製造し、ついで、熱可塑性の原料樹脂に前記マスターバッチを配合して、溶融,分散させ、この後、紡糸することによって製造され、前記マスターバッチの配合にあたっては、合成繊維100重量部中に、無機系抗菌剤の0.02〜3重量部が含有されるように、前記マスターバッチが配合される。
【0014】
尚、前記無機系抗菌剤の含有量は0.05〜2重量部であるのがより好ましい。また、前記無機系抗菌剤の平均粒子径は10μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上5μm以下がより好ましい。
【0015】
また、前記マスターバッチの樹脂と原料樹脂とは、これらが同じ樹脂であるのが好ましく、最も好ましいのはポリブチレンテレフタレート樹脂である。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、本発明に係る抗菌性化粧用ブラシは、無機系抗菌剤を内部に含有する合成繊維を20重量部以上含んで形成される。無機系抗菌剤は安全性に優れており、特に、荒れ等の皮膚に対する問題を引き起こさないという利点を有する。
【0017】
また、合成繊維から構成されているため、獣毛を含むブラシ毛からなる従来の化粧用ブラシに比べて乾燥速度が速く、このため、使用後に洗浄しても迅速に乾燥するので、使用者は何らためらうことなく使用後の洗浄を行なうことができ、化粧用ブラシを常に清浄な状態に保つことができる。
【0018】
また、無機系抗菌剤はブラシ毛の内部に含有されているので、ブラシ毛表面に付着した有機系抗菌剤のように容易に溶出することがなく、ブラシ毛中に内包された無機系抗菌剤から抗菌性金属イオンが緩やかに徐放されるだけであるので、洗浄を繰返しても、洗浄によって除去できなかった人間の皮膚由来の常在菌や、ブラシの保存中に付着した落下菌に対して、長期に亘って抗菌性を持続させることができる。
【0019】
また、無機系抗菌剤は耐熱性に優れており、熱可塑性樹脂に混合し高温で溶融紡糸しても変質しないので、その抗菌効果を失活させずに合成繊維(ブラシ毛)に練り込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る抗菌性化粧用ブラシのブラシ毛は、合成繊維からなり、無機系抗菌剤を合成繊維の原料樹脂に配合し、これを繊維化した無機抗菌剤含有の合成繊維を少なくとも含んで構成される。
【0021】
ブラシ毛となる合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート,ポリナフタレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ポリエステル・エーテルブロック共重合等のポリエステルエラストマー系繊維、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ナイロン6,ナイロン12,ナイロン10,ナイロン17,ナイロン46,ナイロン66,ナイロン69,ナイロン612,ナイロン610等のポリアミド(ナイロン)系繊維、ポリアクリロニトリル,ポリモダアクリル等のアクリル系繊維を挙げることができる。
【0022】
そして、無機抗菌剤含有の合成繊維は、当該合成繊維が、ポリエステル系繊維,ポリオレフィン系繊維やポリアミド(ナイロン)系繊維等の熱可塑性樹脂から製造される繊維である場合には、溶融状態にある原料樹脂に所定量の無機系抗菌剤を配合,分散させ、分散させた原料樹脂から溶融紡糸法によって製造される。
【0023】
また、無機系抗菌剤を原料樹脂に配合,分散させる手法としては、まず、前記熱可塑性樹脂から選ばれる一種の樹脂70〜99重量部に、無機系抗菌剤の30〜1重量部を配合し、溶融して分散させた後、押し出し成形によってチップ状のマスターバッチを製造し、次に、所望の原料樹脂に前記マスターバッチを適宜量配合して、溶融,分散させるという手法をとるのが好ましい。
【0024】
その際、マスターバッチの樹脂と原料樹脂とは、これらが同じ樹脂であるのが好ましい。これは、同一の樹脂である場合には、マスターバッチの樹脂と原料樹脂との混合性が良く、無機系抗菌剤が全体的に均一に分散するが、異なる樹脂の場合には、マスターバッチの樹脂と原料樹脂との混合性が必ずしも良くない(相溶性が良くない)からであり、このため無機系抗菌剤を均一に分散させることができず、得られた繊維の抗菌性の持続性が劣るという問題があり、また、分散性が悪いために、紡糸時に糸切れを生じ易いという問題があるからである。
【0025】
尚、アクリル系繊維の場合には、樹脂を溶解した原液に所定量の無機系抗菌剤を配合,分散させ、溶液紡糸法によって製造される。
【0026】
また、これら各種樹脂から成る合成繊維のうち、ポリブチレンテレフタレートからなる繊維が、柔らかい使用感が得られて好ましい。
【0027】
また、柔らかい使用感を得るには、前記合成繊維の繊維径は0.2mm以下であるのが好ましい。
【0028】
さらに、使用用途に適した使用感を発現させるためには、異なる繊維径の合成繊維を複数混ぜて使用するとよい。
【0029】
また、前記合成繊維は、これを、異なる分子量又は種類の樹脂をSide By SideやSheath−Core型に配置した複合繊維としても良い。内側と外側を別種の樹脂から構成したSheath−Core型の場合、抗菌性の発現に高い効果を示す外側の樹脂にのみ無機系抗菌剤を配合すると経済的に有利である。また、前記合成繊維は、その断面がY孔,W字型,三角中空,星型形等の所謂「異形断面糸」であっても良い。
【0030】
また、化粧用ブラシのソフトな使用感を高め、且つ液体,エマルジョン,クリーム,ジェル,ゲル,泡,粉体等の化粧料のブラシへの含み性を向上させる為に、繊維にクリンプをつけたり、繊維の先端を分割したり、先端を細くしたテーパー状にしたりする化学処理によって、後加工を施しても良い。
【0031】
前記無機系抗菌剤としては、銀,亜鉛,銅の一種若しくは2種以上の抗菌性金属を無機化合物に担持させたものを用いることができる。担持体としては、ゼオライト,アパタイト,リン酸ジルコニウム,酸化チタン,シリカゲル,アルミニウム硫酸塩水酸化物,燐酸カルシウム,珪酸カルシウム等を挙げることができる。また、リン酸系,硼酸系,珪酸系の各系ガラスの一種若しくは2種以上をガラス形成成分としたガラスに、銀,亜鉛,銅の一種若しくは2種以上の抗菌性金属を含有せしめたガラス質抗菌剤も無機系抗菌剤として用いることができる。当然、抗菌性金属を担持させた抗菌剤とガラス質抗菌剤とを併用して用いることもできる。
【0032】
本発明における無機系抗菌剤は、抗菌性の発現のし易さ、並びに工業製品として生産性や紡糸時の糸切れ等の作業性の面から、その平均粒子径は小さい方が望ましいが、あまりに小さいと粉砕,分級にコストがかかって経済的に不利であり、逆に大きすぎると抗菌性が発現され難く、また繊維化時の糸切れを起こす等の問題があるため、当該平均粒子径は、10μm以下、特に、0.1μm以上5μm以下の範囲であるのが好ましい。
【0033】
また、合成繊維に含まれる無機系抗菌剤の含有量が少なすぎると、良好な抗菌性の発現は得られず、一方多すぎると紡糸時にノズル詰まりを起したり、化粧用ブラシの使用感が硬くなる等の問題があり、また、無機系抗菌剤は高価であるので経済的に不利となる。したがって、合成繊維100重量部に含まれる前記無機系抗菌剤の含有量は、0.02〜3重量部であるのが好ましく、0.05〜2重量部であるのが更に好ましい。
【0034】
尚、本発明において、合成繊維に所望の特性を付与するために、本発明の目的を損なわない範囲内で、公知の隠蔽剤,耐熱剤,耐候剤,可塑剤,酸化防止剤,帯電防止剤,導電剤,染料や顔料などを含有させても良い。
【0035】
また、本発明における抗菌性化粧用ブラシでは、複数の前記合成繊維からなる複数のブラシ毛を混ぜ合わせたものを使用することができる。
【0036】
また、本発明の化粧用ブラシでは、無機系抗菌剤を含有する合成繊維を、化粧用ブラシ毛全体を100重量部として、20重量部以上含むのが好ましく、30重量部以上含むのがより好ましい。これは、無機系抗菌剤を含有する合成繊維の使用比率が少ないと、化粧用ブラシとしての抗菌性が劣るからである。この意味で、化粧用ブラシは、前記無機系抗菌剤を含有する合成繊維のみから構成することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を具体的な実施例を用いてより詳しく説明する。
【0038】
まず、各実施例及び比較例に係る化粧用ブラシの評価方法について説明する。
【0039】
(前洗浄処理)
各試料となる化粧用ブラシの抗菌持続性を評価するために、以下の要領で洗浄操作を行った。即ち、JAFET標準洗剤を0.14%含有する水を洗浄液として用い、以下の洗い工程及び濯ぎ工程からなる工程を1回の洗浄とし、これを所定回数繰り返して洗浄を行った。尚、ここでJAFET洗剤とは(社)繊維評価技術協議会が規定する標準洗剤をいう。
洗い工程:500mlの洗浄液を用い、40℃で30秒間振り洗いの後、手絞りで水切りを行う。
濯ぎ工程:500mlの水を用い、40℃で30秒間の振り濯ぎの後、手絞りでの水切りを2回繰返して行う。
【0040】
(抗菌性評価)
上記前洗浄を行なった後の化粧用ブラシを、JIS L 1902の菌液吸収法に従って黄色ブドウ球菌に対する抗菌試験を行い、JIS L 1902に定める静菌活性値にて抗菌性を評価した。静菌活性値が2以上で抗菌効果ありと判定される。
【0041】
(感性評価)
各化粧用ブラシを10人に2ヶ月間毎日使用させ、そのソフトな使用感を評価させた。また、使用後に化粧用ブラシを毎回石鹸液で1回洗浄し、次いで水で2回濯ぎ洗いした後、乾燥布で水分を充分拭い取り、自然放置して乾燥させ、乾燥後12時間経過後にブラシ毛を肌に接触させてその乾燥感を評価させた。使用感及び乾燥感は、1〜6点で評価し、その平均値を各試料の評価点として、以下の基準により判定した。
良好(○) :評価点が4点以上
やや良好(△):評価点が2点以上、4点未満
不良(×) :評価点が2点未満
【0042】
(実施例1〜4)
まず、平均粒子径が0.5μmの銀系リン酸・硼酸ガラスからなる無機系抗菌剤と、酸化チタンと、無機系抗菌剤を含まないポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)又はポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)とを用いて2種類のマスターバッチ(マスターバッチA及びB)を作成した。その組成を下表表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
次に、繊維の原料樹脂となるポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)と前記マスターバッチA又はBとを用い、これらを所定の割合で溶融,混合し、ついで溶融紡糸法によって繊維径が0.05mmの合成繊維を紡糸し、この合成繊維をブラシ毛として用いて実施例1〜4に係る化粧用ブラシを得た。そして、得られた実施例1〜4の化粧用ブラシについて、上記手法に従って、その抗菌性を評価した。その結果を下表表2に示す。表中の()内の数値は、合成繊維100重量部に含まれる無機系抗菌剤の含有量を示している。
【0045】
【表2】

【0046】
上記表2に示すように、実施例1〜4に係る化粧用ブラシは、いずれも洗浄回数を15回繰り返しても良好な抗菌性が発現されていることが分かる。
【0047】
特に、繊維の原料樹脂とマスターバッチBの樹脂とを同じ樹脂(共にポリブチレンテレフタレート樹脂)とした実施例3及び4に係る化粧用ブラシでは、抗菌持続性に関し60回以上の耐洗浄性を備えている。これは、繊維の原料樹脂とマスターバッチBの樹脂とを同じ樹脂とすることで、これらを溶融混合させた際の相溶性が良好で、無機系抗菌剤が繊維の全体に亘って均一に分散されていることによるものと思われる。
【0048】
尚、表2に示していないが、実施例2の繊維は、その紡糸の際に糸切れが多発した。
【0049】
(実施例5〜9及び比較例1)
繊維の原料樹脂となるポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)と前記マスターバッチBとを用い、これらを所定の割合で溶融,混合し、ついで溶融紡糸法によって繊維径が0.08mmの合成繊維を紡糸し、この合成繊維をブラシ毛として用いて実施例5〜9及び比較例1に係る化粧用ブラシを得た。そして、得られた実施例5〜9及び比較例1に係る化粧用ブラシについて、上記手法に従って、その抗菌性を評価した。その結果を下表表3に示す。表中の()内の数値は、合成繊維100重量部に含まれる無機系抗菌剤の含有量を示している。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に示すように、繊維の100重量部(%)に対して、無機系抗菌剤が0.02重量部(%)以上含まれている実施例5〜9の化粧ブラシについては、いずれも、抗菌持続性に関し、30回程度の耐洗浄性を備えており、その抗菌性に優れていることが分かる。
【0052】
一方、無機系抗菌剤が0.008重量部(%)しか含まれていない比較例1の化粧ブラシについては、その抗菌性が発現されておらず、このことから、抗菌持続性に関し、良好な耐洗浄性を付与するには、合成繊維に対して、0.02〜3重量部(%)の無機系抗菌剤を含有させる必要があることが分かる。
【0053】
尚、無機系抗菌剤は高価であるため、経済的な面と、抗菌性の効果の面の両面を併せ考えると、無機系抗菌剤の含有量は0.05〜2重量部の範囲内であるのがより好ましい。
【0054】
(実施例10〜13及び比較例2)
まず、銀・亜鉛系ゼオライトと銀系リン酸ガラスの等量混合物からなる各種平均粒子径の無機系抗菌剤と、酸化チタンと、無機系抗菌剤を含まないポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)とを用いてマスターバッチCを作成した。尚、このマスターバッチCの組成は表1に示したマスターバッチBと同じである。
【0055】
次に、繊維の原料樹脂となるポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)と前記マスターバッチCとを用い、これらを所定の割合で溶融,混合し、ついで溶融紡糸法によって繊維径が0.04mmの合成繊維を紡糸し、この合成繊維をブラシ毛として用いて実施例10〜13及び比較例2に係る化粧用ブラシを得た。そして、得られた実施例10〜13及び比較例2の化粧用ブラシについて、上記手法に従って、その抗菌性を評価した。その結果を下表表4に示す。尚、表中の()内の数値は、合成繊維100重量部に含まれる無機系抗菌剤の含有量を示している。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示すように、無機系抗菌剤の平均粒子径が0.1〜10μmである実施例10〜13の化粧用ブラシについては、いずれも、抗菌持続性に関し、30回程度の耐洗浄性を備えており、その抗菌性に優れていることが分かる。
【0058】
特に、実施例10〜12の化粧用ブラシについては、60回以上の耐洗浄性を備えており、以上のことから、無機系抗菌剤の平均粒子径は、10μm以下であるのが好ましく、0.1〜5μmであるのがより好ましいことが分かる。
【0059】
尚、比較例2の繊維については、その紡糸時に糸切れが頻発したため、試料となるような繊維を製造することができなかった。このため、表4に示すように、抗菌性については評価できなかった。
【0060】
(実施例14及び比較例3〜5)
表2に示した実施例3の繊維と山羊毛とを用い、これらの混合比率を変えて混合した混毛ブラシ毛を用いて、実施例14及び比較例3〜5に係る化粧用ブラシを作成した。そして、得られた実施例14及び比較例3〜5に係る化粧用ブラシについて、上記手法に従って、その使用感及び乾燥感を評価した。その結果を下表表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5に示すように、実施例3に係る繊維のみをブラシ毛として用いた実施例14の化粧用ブラシは、使用感及び乾燥感の双方とも良好であったが、獣毛たる山羊毛の混毛割合が高くなるほど、乾燥感が悪くなった。
【0063】
(実施例15〜18及び比較例6及び7)
繊維径が異なる、上記実施例11の合成繊維、及びPBTのみで紡糸した無機系抗菌剤を含有しない標準繊維を作成し、これらの混合比率変えて混合した混毛ブラシ毛を用いて実施例15〜18、並びに比較例6及び7に係る化粧用ブラシを作成した。そして、得られた実施例15〜18、並びに比較例6及び7に係る化粧用ブラシについて、前記手法に従って抗菌性、使用感及び乾燥感を評価した。その結果を下表表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
表6に示すように、実施例15〜18、並びに比較例6及び7に係る化粧用ブラシは、何れも使用感及び乾燥感については良好であったが、比較例6及び7については、抗菌性が低いものであった。この表6から、無機系抗菌剤を含有する合成繊維は、化粧用ブラシ毛全体を100重量部として、これを20重量部以上混合するのが好ましく、30重量部以上混合するのがより好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、衛生的且つ安全で、しかも長期に亘って抗菌性が発現される化粧用ブラシを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシ毛が合成繊維から形成される化粧用ブラシであって、該ブラシ毛は、無機系抗菌剤を含有する合成繊維を、該ブラシ毛100重量部中に20重量部以上含み、該無機系抗菌剤を含有する合成繊維は、その100重量部中に、無機系抗菌剤が0.02〜3重量部含有されてなることを特徴とする抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項2】
前記無機系抗菌剤の含有量が0.05〜2重量部である請求項1記載の抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項3】
前記無機系抗菌剤の平均粒子径が10μm以下である請求項1又は2記載の抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項4】
前記無機系抗菌剤の平均粒子径が0.1μm以上5μm以下である請求項1又は2記載の抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項5】
前記合成繊維がポリブチレンテレフタレートからなる繊維である請求項1乃至4記載のいずれかの抗菌性化粧用ブラシ。
【請求項6】
熱可塑性樹脂から選ばれる一種の樹脂70〜99重量部に、無機系抗菌剤の30〜1重量部を配合し、溶融して分散させた後、押し出し成形によってマスターバッチを製造し、ついで、熱可塑性の原料樹脂に前記マスターバッチを配合して、溶融,分散させ、この後、紡糸してブラシ毛とする化粧用ブラシ毛の製造方法であって、
前記ブラシ毛100重量部中に、前記無機系抗菌剤の0.02〜3重量部が含有されるように、前記マスターバッチを配合するようにしたことを特徴とする化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項7】
前記無機系抗菌剤の0.05〜2重量部が含有されるように、前記マスターバッチを配合するようにしたことを特徴とする請求項6記載の化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項8】
前記無機系抗菌剤の平均粒子径が10μm以下である請求項6又は7記載の化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項9】
前記無機系抗菌剤の平均粒子径が0.1μm以上5μm以下である請求項6又は7記載の化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項10】
前記マスターバッチの樹脂と原料樹脂とを同じ樹脂としたことを特徴とする請求項6乃至9記載のいずれかの化粧用ブラシ毛の製造方法。
【請求項11】
前記マスターバッチの樹脂及び原料樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂としたことを特徴とする請求項10記載の化粧用ブラシ毛の製造方法。

【公開番号】特開2009−285445(P2009−285445A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196005(P2008−196005)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(502332991)富士ケミカル株式会社 (20)
【Fターム(参考)】