説明

抗菌方法

【課題】安全性が高く且つ抗菌対象物に対して優れた抗菌効果を発揮せしめる、抗菌方法及び抗菌剤を提供すること。
【解決手段】象物に抗菌性を付与するための抗菌方法であって、カテキン類及びpHを7.5〜9.0に調整するためのpH調整剤を含有する抗菌剤を用いて対象物を処理することを特徴とする抗菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に抗菌性を付与するための抗菌方法及び抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の気密性向上や冷暖房の普及により、生活空間は、細菌や黴にとって好適な増殖環境となっている。従って、微生物による環境汚染を防止することは健康衛生上重要である。
【0003】
従来、食品、洗剤、化粧品、医薬品等には、保存料や防腐剤を添加して、微生物の繁殖を防ぎ、品質を保持することが行われ、また、医療用機械器具、文具類、繊維製品、紙製品、日用雑貨品などにおいても、抗菌性物質を用いてこれらに抗菌性を付与することが行われている。
【0004】
斯かる抗菌性物質としては、従来からソルビン酸、安息香酸及びその塩類、パラベン類等の合成保存料、卵白リゾチーム、プロタミン、キトサン、ペクチン分解物、茶抽出物(カテキン類)等の天然系の保存料が使用されている。
しかし、これらの抗菌性物質では、抗菌力の点で十分満足できるものでなかったり、その物質自身が特有のにおいや味、色を有していることにより、使用対象や添加量が制限されるという問題点があった。
【0005】
一方、カテキン類は、黄色ブドウ球菌や腸炎ビブリオ等の食中毒細菌、薬剤耐性細菌及び植物病原菌に対して抗菌作用を示すことが報告されている(特許文献1〜5、非特許文献1)。
しかしながら、カテキン類の当該抗菌作用が、特定のpH領域において向上することについては全く知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開平2−276562号公報
【特許文献2】特開平2−117608号公報
【特許文献3】特開平3−246227号公報
【特許文献4】特開平8−38133号公報
【特許文献5】特開2000−328443号公報
【非特許文献1】FFI Reports、Technical Reports「カテキン」 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社、ホームページ、http://www.saneigenffi.co.jp/foods/index.html、平成18年9月12日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性が高く且つ抗菌対象物に対して優れた抗菌効果を発揮せしめる、抗菌方法及び抗菌剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カテキン類の抗菌性について検討した結果、カテキン類とpH調整剤を含有する抗菌剤を用いて、pH7.5〜9.0の条件下で対象物を処理することにより、カテキン類の抗菌活性を増強でき、対象物に優れた抗菌性を付与できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、対象物に抗菌性を付与するための抗菌方法であって、カテキン類及びpHを7.5〜9.0に調整するためのpH調整剤を含有する抗菌剤を用いて対象物を処理することを特徴とする抗菌方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記殺菌方法に使用される抗菌剤であって、カテキン類及びpHを7.5〜9.0に調整するためのpH調整剤を含有する抗菌剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、種々の対象物に対して、優れた抗菌性を付与することができる。カテキン類が低濃度でも発揮し得ることから有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の抗菌剤において含有されるカテキン類とは、カテキン、カテキンガレート、ガロカテキン及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類、並びにエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類の総称であり、これらの一種以上を含有するのが好ましい。また、カテキン類は、非重合体であるのが好ましい。
【0013】
当該カテキン類は、一般的には茶葉から直接抽出すること、又はその茶抽出物を濃縮若しくは精製することにより得ることができるが、他の原料由来のもの、カラム精製品及び化学合成品でもあってもよい。
【0014】
当該茶葉抽出は、Camellia属、例えばC.sinensis、C.assamica、またはそれらの雑種から得られる茶葉より製茶された茶葉に、水や熱水、場合によってはこれらに抽出助剤を添加して抽出することにより行うことができる。また、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法を併用してもよい。
製茶された茶葉には、(1)煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜煎り茶などの緑茶類;(2)総称して烏龍茶と呼ばれる鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶などの半発酵茶;(3)紅茶と呼ばれるダージリン、ウバ、キーマンなどの発酵茶が含まれる。
抽出助剤としては、アスコルビン酸ナトリウム等の有機酸又はこれら有機酸塩類が挙げられる
【0015】
当該茶抽出物の濃縮は、上記抽出物を濃縮することにより行うことができ、当該茶抽出物の精製は、溶剤やカラムを用いて精製することにより行うことができる。茶抽出物の濃縮物や精製物の形態としては、固体、水溶液、スラリー状等種々のものが挙げられる。
例えば、当該茶抽出物(茶カテキンともいう。)は、特開昭59-219384号、特開平4-20589号、特開平5-260907号、特開平5-306279号等に詳細に例示されている方法で調製することができる。また、市販品を用いることもでき、斯かる市販品としては、三井農林(株)「ポリフェノン」、(株)伊藤園「テアフラン」、太陽化学(株)「サンフェノン」、DSMニュートリショナル・プロダクツ「テアビゴ」、サントリー(株)「サンウーロン」等が挙げられる。
【0016】
当該茶抽出物中のカテキン類は、非重合体若しくは重合体で存在し、かつ液に溶解しているもの又は茶の微細粉末の懸濁物に吸着若しくは包含された固形状のものとして存在する。
また、茶葉中のカテキン類の大部分はエピ体カテキン類として存在しており、このエピ体カテキン類を用いて熱や酸やアルカリ等の処理により立体異性体である非エピ体に変化させることができる。従って、非エピ体カテキン類を使用する場合には、緑茶類、半発酵茶類又は発酵茶類からの抽出液や茶抽出液の濃縮物を水溶液にして、例えば40〜140℃、0.1分〜120時間加熱処理して得ることができる。また非エピカテキン類含有量の高い茶抽出液の濃縮物を使用してもよい。それらは単独又は併用してもよい。
【0017】
抗菌剤のカテキン類の含有量は、0.0005〜0.5質量%であるのが好ましく、0.001〜0.2質量%であるのがより好ましい。
【0018】
本発明の抗菌剤において含有されるpHを調整する剤としては、抗菌剤を対象物に適用した場合にそのpHを7.5〜9.0に調整できるものであれば良く、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム、アンモニア、アンモニア水、エタノールアミン類、低級アルカノールアミン類、アルギニンやリジン等の塩基性アミノ酸等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いてもよく、さらに他のpH調整剤と適宜組み合わせてもよい。
【0019】
後記実施例に示すとおり、カテキン類の微生物に対する抗菌力は、pH7.5〜9.0の範囲で、その効果が最も発揮されることが明らかとなった。従って、対象物のpHを当該領域にした状態でカテキン類を存在させることにより、対象物に優れた抗菌効果を付与することができる。しかも、使用するカテキン量を低減することができる。
ここで、アルカリ性領域でカテキン類の抗菌力が増強される細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ属(Salmonella)細菌、ビブリオ属(Vibrio)細菌、シュードモナス属(Pseudomonas)細菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、セバシア菌(Burkholderia cepacia)、バシラス属(Bacillus)細菌等が挙げられる。
【0020】
抗菌剤中のpH調整剤の含有量は、0.0005〜0.5質量%であるのが好ましく、0.001〜0.2質量%であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の抗菌剤は、例えば、カテキン類及びpH調整剤を例えば水等の溶媒に溶解し、混和、浸潤、塗抹、添加する等の公知の製造法により得ることができる。
【0022】
本発明の抗菌剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、増粘安定剤、着色剤、香料、乳化剤、甘味料、栄養強化剤、製造用剤、品質改良剤等を含有してもよい。
【0023】
本発明において、「対象物」とは、本発明の抗菌剤を用いて抗菌性を付与すべき対象物であり、pH7.5〜9.0の条件下におけるものであれば特に限定されず、液体状、固体状のいずれものもでも良く、具体的には、例えば食品、洗剤、化粧品、医薬品の他、医療用機械器具、文具類、繊維製品、紙製品、日用雑貨品、浴室製品、清涼飲料、アルコール飲料(醸造酒、蒸留酒、雑酒等)等が挙げられる。
【0024】
本発明の抗菌方法を用いた対象物の処理は、抗菌対象物に対して、pH7.5〜9.0の条件下で、上記の抗菌剤が適用されるようにすればよく、対象物が液体状であれば、抗菌剤を添加して混合すればよく、固体状であれば、当該抗菌剤を直接表面に塗布又は内部に浸透させること等により行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【実施例】
【0025】
(1)試料調製
カテキン類(「POLYPHENON 70A」(三井農林(株)製)を、10000ppmとなるように純水に溶解し、各pHに調整し、段階希釈にて10000, 5000, 2500, 1250, 625, 312.5, 156, 78ppmとして、希釈後、ろ過滅菌(0.2μm、関東化学社製)し、各濃度のカテキン溶液を調製した。
pH調整として0.1N水酸化ナトリウム溶液を用いて各種pHに調製した。
対象細菌は、pH6.6に調整したBL培地にて24時間、30℃、振とう培養を行い、107〜108CFU/mL菌液に調製した。尚、好塩細菌の場合には、食塩終濃度2.0質量%とし、接触試験の際も同様の終濃度とした。
【0026】
(2)抗菌試験
9mLの50%LB培地液体に各濃度カテキン類溶液を1mL添加した。そして、105〜106CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(終菌数103〜105CFU/mL)、30または37℃で48時間静置培養(時々ボルテックス)した。2日後の生菌数は平板塗抹法により求めた。カテキン類未添加の場合は培養液の10倍連続希釈系列を滅菌水で作製し、各希釈液100μLをTSA寒天平板に塗抹して48時間、37℃で静置培養した。培養後のコロニー数から生菌濃度を算出した。
使用培地:TSA(Tryptic Soy Agar)(Becton Dickinson 社)寒天平板培地:1.7%カゼイン分解物、0.3%大豆酵素分解物、0.25%デキストロース、0.5%塩化ナトリウム、1.5%寒天、pH7。
【0027】
試験例1
試験菌としてEscherichia coli O157:H7 を用い、表1に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
E. coli O157:H7に対し、pH7.5〜9.0おいて、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した。
【0030】
試験例2
試験菌としてSalmonella Enteritidis IFO 3313を用い、表2に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
Salmonella Enteritidisに対し、pH7.5〜9.0において、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した。
【0033】
試験例3
試験菌としてStaphylococcus aureus IFO 3060を用い、表3に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表3に併せて示す。
【0034】
【表3】

【0035】
黄色ブドウ球菌に対し、アルカリ領域において、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した。
【0036】
試験例4
試験菌として、Pseudomonas aeruginosa IFO 13275を用い、表4に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表4に併せて示す。
【0037】
【表4】

【0038】
Pseudomonas aeruginosa IFO 13275に対し、pH9.0及び8.0において、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した
【0039】
試験例5
試験菌として、Burkholderia cepaciaを用い、表5に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表5に併せて示す。
【0040】
【表5】

【0041】
Burkholderia cepaciaに対し、アルカリ領域において、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した。
【0042】
試験例6
試験菌として、Vibrio cholerae O1 FKを用い、表6に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表6に併せて示す。
【0043】
【表6】

【0044】
Vibrio cholerae O1 FKに対し、pH9において、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した。
【0045】
試験例7
試験菌として、Bacillus subtilis JCM 1465を用い、表7に示すカテキン類終濃度及びpHにて、抗菌力を測定した。結果を表7に併せて示す。
【0046】
【表7】

【0047】
Bacillus subtilis に対し、アルカリ領域において、より低濃度のカテキン類で抗菌性を示した。
【0048】
以上のことより、カテキン類は、各種細菌に対して、pH7.5〜9.0において、より低濃度で優れた抗菌力を発揮することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に抗菌性を付与するための抗菌方法であって、カテキン類及びpHを7.5〜9.0に調整するためのpH調整剤を含有する抗菌剤を用いて対象物を処理することを特徴とする抗菌方法。
【請求項2】
pH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム、アンモニア、アンモニア水、エタノールアミン類、低級アルカノールアミン類及び塩基性アミノ酸から1種以上選ばれるものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2項記載の殺菌方法に使用される抗菌剤であって、カテキン類及びpHを7.5〜9.0に調整するためのpH調整剤を含有する抗菌剤。

【公開番号】特開2008−174487(P2008−174487A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9313(P2007−9313)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】