説明

抗菌溶液

【課題】病院の感染対策や、飲食店の食中毒対策、飛行機等を含む運送業、家庭内の除菌等の幅広い分野で使用することが可能な安全性が高く持続効果の高い抗菌溶液を提供する。
【解決手段】25ppm以下の銀イオンを銀クロロ錯塩として含み、塩化アンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を塩化物イオンとして含む水溶液中に、プロピレングリコールまたはグリセリンを添加した塩化銀を生成しない安定した液状体であることを特徴とする抗菌溶液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日用品、工業用品等に使用する抗菌溶液に関し、特に抗菌に有効で塩化銀を生成しない安定性のある無機銀錯塩およびプロピレングリコールまたはグリセリン等からなる抗菌溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生洗浄用品を始めとする抗菌剤入りの製品が数多く提供されている。その中でも液状又は水溶性の抗菌剤は使用し易いこともあり需要が増加しており、アルコール系、フェノール系、第四アンモニウム塩系、あるいは銀など殺菌性のある金属とアミノ酸、チオ硫酸、チオシアン酸などとの錯塩系の抗菌剤が実用化されている。
【0003】
抗菌剤のうち、細菌やカビに対して長期間、抗菌性が持続するものとして、亜鉛、銀、銅等の重金属イオンを含むものが用いられている。重金属イオンの中でも、銀イオンは、抗菌作用とともに安全性に優れているため特に広く用いられて来ており、銀イオンを含有する様々な実用品の商品化が進められている。
【0004】
特に銀イオンの抗菌剤は安全性の高さから、家庭用の日用品等の商品の表面に塗布、添加し抗菌作用を施すだけではなく、病院・老人ホーム等の施設の感染予防に使用されたり、農業分野での微生物感染・切花の延命や、旅客機・リサイクル品の清掃による抗菌等、幅広い分野において利用することが可能であるため近年需要が拡大している。そのため、低コストで優れた抗菌作用を持つ商品が特に望まれている。
【0005】
液状又は水溶性の抗菌剤については、物品表面に塗布適用するだけで、後から抗菌性を付与できるというメリットがある。しかし、これらの抗菌剤に共通する問題点として、物品表面に塗布適用しても水洗等によりほぼ完全に溶出し、効果が簡単に失われてしまうという大きな欠点があった。また、銀の抗菌性は物品表面に現れていないと効果が得られないうえに、銀イオンによる抗菌剤は温度、光、酸化に対して耐久性が弱く、使用とともに性能が劣化し易いという問題があった。
【0006】
また、予め銀を使用して抗菌加工された製品も数多く販売されている。これらの抗菌剤入りの製品は、予め混練または特殊加工によって製品表面に銀が固定されている。しかし、表面加工された銀イオンは、液状の塗布添加型の抗菌剤と同様、耐久性の弱さとともに、製品表面の汚れや傷により性能が劣化し易く、持続性に問題があった。
【0007】
また、銀イオンを安定させる方法として塩化物イオンを含有させた抗菌剤が使用されている。しかし、従来、銀イオンの有効な含有量を増やし安定性を得るためには溶液中の塩化物イオンの含有量を多くする必要があり多様な用途をカバーする抗菌剤の商品化が難しいという問題があった。また、銀イオンの含有量が一定以上の状態で一定量の塩化ナトリウム(食塩)が添加されている為に塩化銀を生成しないが、濃度が変化すると塩化銀を形成し、銀イオンが単体として存在しなくなるため銀イオンの効果が期待できなくなるという問題点があった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−182326号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するために、病院の感染対策や、飲食店の食中毒対策、飛行機等を含む運送業および家庭内の除菌等、幅広い分野で使用することが可能であり、安全性が高く、濃度に関わらず、塩化銀を生成しない安定で持続効果の高い抗菌溶液を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するために本発明の抗菌溶液は、25ppm以下の銀イオンを銀クロロ錯塩として含み、塩化アンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を塩化物イオンとして含む水溶液中に、プロピレングリコールまたはグリセリンを添加した塩化銀を生成しない安定した液状体を保つ構成である。
また、前記プロピレングリコールまたはグリセリンは、他のグリコール系溶剤、例えば、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、またはソルビトール、若しくは、ショ糖脂肪酸エステルとすることが可能である。
【0011】
また、水溶液中の塩化物イオンの含有量が5×10−2モル/リットル以下の構成とすることも可能であり、また、水溶液中に、0.1V/V%〜100V/V%のプロピレングリコールまたはグリセリンを含む抗菌溶液でもある。
【0012】
さらに、水溶液中にエタノールおよびリモネンを含む抗菌溶液である。また、水溶液中に植物乾留エキスを含む抗菌溶液とすることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る抗菌溶液は、上記詳述した通りの構成であるので、以下のような効果を奏する、
1.銀濃度が高く、安全な抗菌溶液を提供することが可能である。無機銀は体内に残ることなく体外に出ていくため、安全性の高い室内のスプレー型抗菌剤や、身体の消臭剤としても有効な抗菌溶液を提供できる。塩化銀生成して沈殿することがなく、高温でも安定した抗菌溶液である。また、太陽光・紫外線に対しても長期間安定が保てる構造である。また、安全性が高く、介護衛生にも適した抗菌溶液である。さらに、銀濃度を高くすることができるため、高い抗菌効果が発揮できる。
2.プロピレングリコール、グリセリンで安定させることができるため、コストも低く安全な抗菌溶液とすることができる。また、プロピレングリコール、グリセリンに替わり他のグリコール系溶剤、ソルビトール、またはショ糖脂肪酸エステルを選択して含有させることが可能であり、使用用途に応じた抗菌溶液とすることができる。
【0014】
3.銀による抗菌作用効果を維持しながら塩化物濃度が低く安定性のある抗菌溶液とすることが可能である。また、他の成分との溶解能力が高く、添加し易い抗菌溶液を提供することができる。
4.銀が5ppm以上の高濃度でも塩化銀を発生することなく安定した溶液とすることができ、抗菌効果の高い抗菌溶液とすることができる。さらに、持続性のある抗菌効果が発揮できる。
【0015】
5.エタノールおよびリモネンを含有することで、乾燥性が高く、即効性の殺菌力と持続性のある殺菌力を備えた抗菌溶液とすることができる。また、油分の除去も可能である。
6.植物乾留エキスによる抗菌・抗酸化・消臭等の作用と銀による抗菌作用が併用可能な抗菌溶液である。また、安全性の高い抗菌溶液として幅広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の抗菌溶液は、塩化アンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を塩化物イオンとして含む水溶液中に、25ppm以下の銀イオンを銀クロロ錯塩として含むとともに、プロピレングリコールまたはグリセリンを添加した抗菌溶液である。
塩化物イオンと銀イオンにより生成した塩化銀は光により変色する。また、酸化により黒くなると抗菌性がなくなり、商品としての価値がなくなってしまう。しかし、プロピレングリコールまたはグリセリンを添加することにより、銀を高濃度にしても塩化銀を生成することなく、安定性のある抗菌溶液となる。
【0017】
本発明における抗菌剤に含まれ、銀クロロ錯塩を安定化させる、塩化物イオンを供給する塩化物としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンを対イオンとして含む塩化物が考えられる。また、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンを対イオンとして含む塩化物も利用可能である。脂肪族4級アンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩類や、エチレンジアミン塩酸塩、ヘキサメチレンジアミン塩酸塩、ヘキサメチレントリアミン塩酸塩等のポリアミン塩酸塩類、また、メチルアミン塩酸塩、エチルアミン塩酸塩等の1級アミン塩酸塩類、更に、ジメチルアミン塩酸塩、ジエチルアミン塩酸塩等の2級アミン塩酸塩類、また、トリメチルアミン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩等の3級アミン塩酸塩類、また更に、ピリジン塩酸塩、アニリン塩酸塩、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ピリジニウム、塩化イミダゾリニウム等の芳香族アミン類、等が挙げられる。
【0018】
水溶液中の銀イオンは塩化物イオンと反応して塩化銀の沈澱を生成する。塩化銀は水に難溶性であるので分離して沈殿する。
【0019】
(化1) Ag++Cl- → AgCl
【0020】
しかし、水溶液中の塩化物イオン濃度を増加させると、3×10-3モル/リットルまでは陰イオンの共通イオン効果により塩化銀の溶解度は一旦低下するものの、その塩化物イオン濃度を越えると下記化学式2の反応により水に可溶なジクロロ銀酸イオンが生成されるため、塩化銀の溶解度は次第に増加する。
【0021】
(化2) AgCl+Cl- → [AgCl-
【0022】
銀イオンを水溶液中に留めておくために化学式2の反応を起こす塩化物イオンが必要であり、銀イオンの濃度を高めるためには水溶液中の塩化物イオンの濃度を高く保つ必要があった。本発明では、プロピレングリコールを添加することにより、塩化物イオンの濃度を高めることなく、塩化銀を生成しない安定した液状体である抗菌溶液を得ることが可能である。
【0023】
本発明の抗菌溶液は、プロピレングリコールに替えてグリセリンを使用することも可能である。また、他のグリコール系溶剤、例えば、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、または、ジエチレングリコール等を使用することも可能である。さらに、これらに替えてソルビトール、または、ショ糖脂肪酸エステル等を使用することも可能である。
【0024】
プロピレングリコールは、医薬品や化粧品、食料品などに保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液、溶媒などとして広範囲で用いられる化合物であり、安全性および市場性も高く最適である。また、グリセリンも化粧品や医療分野で使用され、安全性も高く抗菌溶液として適している。
【0025】
プロピレングリコールを含有することで、水溶液中の塩化物イオンの含有量が5×10−2モル/リットル以下であっても安定した抗菌溶液とすることが可能となる。
銀クロロ錯塩と塩化物イオンを供給する塩化物との割合は、銀クロロ錯塩が不安定化して塩化銀を生成することがなく、かつ、抗菌性を発揮できる所定の範囲である必要がある。塩化物その他の成分の濃度を実用性のある範囲に希釈して、結果的に銀クロロ錯塩の濃度が極めて低くなるように希釈する事が必要である。
【0026】
従来は、テトラクロロ銀(I)ナトリウムに塩化ナトリウム等の塩化物の混合して銀イオンによる抗菌効果を発揮させていた。この構成では銀イオンを安定させるための塩化物イオンの量は多量に必要となり、銀濃度を1ppmとするために塩分30%以上が必要となっていた。塩分濃度が高いため商品化が困難であるとともに、他の成分と混合することによりさらに希釈されるため、効果的な銀濃度を得ることが困難であった。
これに対して、本発明で開発した構成によれば、プロピレングリコールを含有させることにより、低い塩化物濃度であっても安定性が保てることが解明され、従来、実用化されている商品についても銀濃度が0.05ppmから0.5ppm程度であった抗菌溶液を1ppm以上でも安定させることが可能となった。
【0027】
抗菌溶液となる水溶液中のプロピレングリコールおよびグリセリンの含有量は、0.1V/V%〜100V/V%である。
水溶液中に、0.6V/V%以上のプロピレングリコールを含有させることで、銀濃度が5ppm以上でも安定した抗菌溶液とすることが可能である。また、10V/V%のプロピレングリコールを含有することで、銀濃度が10ppm、20ppmでも安定した抗菌溶液となる。また、グリセリンを使用した場合、グリセリン1V/V%で銀濃度5ppmの安定した抗菌溶液を得ることができる。
【0028】
水溶液中の銀濃度は0.01ppm以上で抗菌効果を発揮するが、5ppm以上である場合、塩化物イオンの濃度が5×10−2モル/リットル以上必要であった。塩化物イオンの濃度が高いと他の成分を溶解させる能力が低くなり、そのため、他成分を添加して実用化するためには銀濃度の低い抗菌剤となっていた。しかし、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤を含有させることにより低い塩化物濃度でありながら安定した抗菌溶液となり、高濃度の銀イオンを存在させることが可能であるため、他の成分と溶解させ、幅広く活用できる抗菌溶液を提供することができる。
【0029】
さらに、本発明の抗菌溶液は、水溶液中にエタノールおよびリモネンを含有することで、抗菌作用に加え、即乾性で、液晶面、ガラス面等の手垢、油脂分除去が可能な抗菌クリーナー溶液として使用することが可能である。エタノールにより、乾燥性が高く、即効性の殺菌力が可能となり、液晶画面等が瞬時に殺菌、除菌され、リモネンにより手垢等の油分が除去が可能であるとともに、高濃度の銀イオンにより抗菌作用が長時間持続し、無機銀であるため安全性も高い。
【0030】
また、本発明の抗菌溶液は、水溶液中に植物乾留エキスを含有することができる。例えば、緑茶乾留エキスを含有させることで消臭効果を得ることもできる。従来の銀イオンを含有した抗菌溶液では、安定性に問題が起きるため植物乾留エキスを含有することが困難であった。しかし、本発明の抗菌溶液では、塩化銀の沈殿や酸化を起こすことなく、植物乾留エキスおよび高濃度の銀を含有した抗菌溶液として使用することが可能である。
【0031】
さらに、不織布や繊維をボール状に形成したものを本発明の抗菌溶液に浸し、乾燥させたものを水槽に挿入することで、水槽内の微生物の繁殖を抑えることができ、水槽内を長期間清潔に保つことができる。
また、抗菌溶液に浸漬させ乾燥させた布等を清掃用具として使用することで、清掃時の感染防止、殺菌効果とともに抗菌作用を持続させる効果がある。本発明の抗菌溶液は、溶液中の無機銀の性質により、清掃対称となる商品等の表面に銀の皮膜をつくり、ウィルス(特にノロウィルス)、菌を不活化する効果がある。また、銀による抗菌効果により、腐敗菌をカットし、防臭効果を発揮させる。プロピレングリコール等を添加したことにより、光に弱く、経時安定性が悪いという銀の欠点が解消され、安定性が高く、酸化銀になりにくい抗菌溶液である。
【0032】
本発明の抗菌溶液により、製造が容易で安価であるとともに、無臭で、長期保存が可能であり、揮発性のない持続性のある抗菌作用をもった抗菌剤を提供することができる。また、植物乾留エキスやエタノール等の揮発性のある化合物と混合しても同様の抗菌効果を発揮し、安定性を有した抗菌溶液を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25ppm以下の銀イオンを銀クロロ錯塩として含み、塩化アンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を塩化物イオンとして含む水溶液中に、プロピレングリコールまたはグリセリンを添加した塩化銀を生成しない安定した液状体を保つことを特徴とする抗菌溶液。
【請求項2】
前記プロピレングリコールまたはグリセリンは、他のグリコール系溶剤、例えばエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、またはソルビトール、若しくは、ショ糖脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1記載の抗菌溶液。
【請求項3】
前記抗菌溶液は、水溶液中の塩化物イオンの含有量が5×10−2モル/リットル以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の抗菌溶液。
【請求項4】
前記抗菌溶液は、水溶液中に、0.1V/V%〜100V/V%のプロピレングリコールまたはグリセリンを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抗菌溶液。
【請求項5】
前記抗菌溶液は、水溶液中に、エタノールおよびリモネンを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗菌溶液。
【請求項6】
前記抗菌溶液は、水溶液中に、植物乾留エキスを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の抗菌溶液。


【公開番号】特開2009−196928(P2009−196928A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39947(P2008−39947)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(508055054)メイク株式会社 (1)
【Fターム(参考)】