説明

抗菌組成物およびその製造方法

【課題】人体や動植物に対する有害性が低く、取り扱いが容易な抗菌組成物を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌組成物は、水と、抗菌作用を有する金属ナノ粒子と、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子と、金属ナノ粒子とリン酸カルシウム系化合物のナノ粒子とを結合する結合材とを含む。本発明の抗菌組成物は、金属ナノ粒子として、Ptナノ粒子および/またはAgナノ粒子を含み、結合材として、アミノ基及びカルボキシル基を有する水溶性化合物および/または−HNC=O基を有する水溶性化合物を含み、生体親和性の高いリン酸カルシウム系化合物を含んでいるから有害性が低い。本発明の抗菌組成物中では金属ナノ粒子が結合材を介してリン酸カルシウム系化合物と結合しており、リン酸カルシウム系化合物が捕獲した菌類に金属ナノ粒子が接触して、抗菌作用を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の増殖を防ぐ抗菌剤としては、高濃度アルコール、塩素、ヨウ素、次亜塩素酸化合物、オゾン、過酸化水素、クレゾール、イミダゾール系化合物等の合成化学品(例えば、特許文献1を参照)、およびユーカリ油などの天然物抽出物質などが知られており、用途・目的に応じ使い分けられている。
【0003】
これらの抗菌剤は、抗菌効果が高いことから多用されているが、誤飲や揮発成分の吸引により人体に入ると危険であるし、安全な濃度が人により相違し、接触により皮膚炎などのアレルギー症状をおこすなどの問題がある。
【0004】
また、特許文献1に記載の抗菌組成物に使用されているイミダゾール系化合物などの合成化学品は、多用すると耐性菌が発現するという問題もある。
【特許文献1】特開2004−339102公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記以外の抗菌剤としては、たとえば鳥インフルエンザ発生現場において使用される石灰、光触媒酸化チタン、銀イオン含有抗菌剤、農業用の殺菌剤、家畜などに投与される抗生物質などが知られている。これらのうち、石灰は水との接触により発熱し強アルカリ性を示すことから、接触によるやけどなどの発生が懸念され、使用の際には、細心の注意を払う必要がある。
【0006】
光触媒酸化チタンは、紫外線存在下では優れた抗菌効果を発揮できるが、紫外線の存在が不可欠であり、周辺の有機物を区別することなく分解するという欠点を有している。
銀イオン含有抗菌剤は、抗菌性に優れ、安全性も高いが、銀イオンは、多くの細胞よりもはるかに小さいサイズであるため、皮膚などの消毒に用いると皮膚の細胞内に入るおそれがある。
【0007】
農業用の殺菌剤としては、ボルドー液、石灰硫黄合剤、ジチオカーバメート、ベンズイミダゾール系抗生物質などの薬品が使用されるが、散布者は使用濃度、散布回数、十二分な防護服の着用、および周囲への配慮が必要である。
家畜類や魚類などの病気を予防するために投与される抗生物質は、耐性菌の発現や、これらを食する人間への健康についても配慮する必要がある。
したがって、従来から、抗菌剤として使用されているものは、抗菌効果が高い半面、毒性などの有害性が高かったり、有用なものを分解したり、細胞内に入るおそれがあるなどの欠点を有しており、安全かつ効果的に使用するのが容易ではなかった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、人体や動植物に対する有害性が低く、取り扱いが容易な抗菌組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、水と、抗菌作用を有する金属ナノ粒子と、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子と、前記金属ナノ粒子と前記リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子とを結合する結合材とを含み、前記金属ナノ粒子が、Ptナノ粒子および/またはAgナノ粒子であり、前記結合材が、アミノ基及びカルボキシル基を有する水溶性化合物および/または−HNC=O基を有する水溶性化合物であることを特徴とする抗菌組成物、およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗菌組成物中では、抗菌作用を有する金属ナノ粒子と、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子とが結合材を介して結合しており、この結合粒子の大きさは金属イオンよりもかなり大きいから、細胞内に入りにくい。
【0010】
本発明の抗菌組成物に含まれている、リン酸カルシウム系化合物は生体との親和性が高い成分であり、Ptナノ粒子、Agナノ粒子、アミノ基及びカルボキシル基を有する水溶性化合物のナノ粒子、および−HNC=O基を有する水溶性化合物のナノ粒子は人体や動植物に対する有害性の低い成分である。
したがって、本発明の抗菌組成物は、細胞内に入り難く、人体や動植物に対する有害性が低い。
【0011】
また、本発明の抗菌組成物中に含まれるリン酸カルシウム系化合物のナノ粒子は、生体成分とのなじみがよい成分であるため、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子に付着した菌類は簡単には離脱できずに、そのまま捕獲される。
そしてこのリン酸カルシウム系化合物と結合材を介して結合している抗菌作用を有する金属ナノ粒子が、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子に捕獲された菌類に接触して、抗菌作用を発揮するから、確実にかつ早期に抗菌効果が発現する。
【0012】
以上より、本発明によれば、人体や動植物に対する有害性が低く、取り扱いが容易な抗菌組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の抗菌組成物(以下、単に「組成物」ともいう)には、水と、抗菌作用を有する金属ナノ粒子と、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子と、金属ナノ粒子と無機化合物のナノ粒子とを結合する結合材として作用する水溶性化合物のナノ粒子とが含まれる。
【0014】
抗菌作用を有する金属としては、Pt、Ag、Cu、Zn、Pb、Ni、Cr、青銅および黄銅などが挙げられるが、安全性が高く、用途が広範であるという観点から、AgおよびPtが好ましい。
【0015】
Agは、抗菌作用があるにもかかわらず、古くから食器にも用いられており、食品添加物として製菓材料のアラザンや清涼剤(仁丹)の表面コートに使用される程度に安全性が高いという点と、Ptと比較すると低価格であることから特に好ましい。
【0016】
本発明においては上記抗菌作用を有する金属を、電解法、ビーズミル粉砕法などの方法により、金属粒子を所望の大きさに粉砕してナノ粒子としたものや、市販されている金属ナノ粒子などを用いることができる。
【0017】
上記金属をナノサイズ粒子に粉砕する方法のうち、平均粒子径が10nm以下の微細な粒子を得ることができるという点で電解法が好適である。
【0018】
抗菌作用を有する金属をナノ粒子とすることで、菌類との接触表面積を広くし、少ない量でありながら効率よく抗菌性を発揮することができるとともに、水中で均一に分散させることができる。
なお、本明細書において、「菌類」とは、ウイルス、細菌、真菌などの微生物を意味する語として用いる。
【0019】
本発明で使用する金属ナノ粒子の平均粒子径は、3nm〜50nmであるのが好ましく、3nm〜15nmであるとさらに好ましい。金属ナノ粒子の平均粒子径が50nmを超えると、水中での安定性や分散性が十分でなくなることがあるからである。
【0020】
金属ナノ粒子とともに、本発明の組成物に含まれるリン酸カルシウム系化合物は、生体のタンパク質やリン酸基と結合しやすい性質(生体親和性が高い)を有し、ヒトや動植物に対して親和性が高いだけではなく、菌類が付着しやすく簡単には離脱しないという性質をも有する。
【0021】
本発明において、リン酸カルシウム系化合物としては、CaHPO(モネタイト)、CaHPO・2HO(リン酸一水素カルシウム)、Ca(PO(リン酸三カルシウム:TCP)、Ca(POO(リン酸四カルシウム:TeCP)、Ca10(PO(OH)(ヒドロキシアパタイト:HAP)、Ca(PO・5HO(リン酸八カルシウム:OCP)、3Ca(PO・Ca(OH)[ボーンアッシュ(骨灰)]、CaHPO・2HO+Ca(OH)(骨リン)及び、ボーンチャイナ(焼成不良、成型不良などの不用品)などの難溶性のリン酸カルシウム類を用いることができる。
【0022】
上記リン酸カルシウム系化合物のうち、CaHPO・2HO(リン酸一水素カルシウム)、Ca(PO(リン酸三カルシウム:TCP)、Ca10(PO(OH)(ヒドロキシアパタイト:HAP)は、安全性が高いという点で、好ましく、生体との親和性が高いという点でHAPが特に好ましい。
【0023】
なお、HAP以外のリン酸カルシウム系化合物を、pHが5未満の状態で、水に溶解させると、HAPに転化し、CaCO(炭酸カルシウム)存在下、pH7未満の状態でリン酸一水素カルシウムやCaHPOを水に溶解すると、HAPへの転化が進行する。本発明においては、このようにして得られたHAPを使用してもよい。
【0024】
本発明では、上記リン酸カルシウムを以下の方法により粉砕してナノ粒子としたものを用いる。
ボーンチャイナ以外の上記リン酸カルシウム系化合物は、例えばビーズミル法(ジルコニウムボール使用)により粉砕してナノ粒子とし、ボーンチャイナは、粗粉砕してから、ボールミルで平均粒子径が10〜100μm程度になるまで粉砕し、さらにビーズミル法によりナノ粒子とする。
【0025】
リン酸カルシウム系化合物の平均粒子径は、50nm〜500nmであるのが好ましく、100nm〜350nmであるとさらに好ましい。平均粒子径が500nmを超えると水中に浮遊・分散し難くなるからである。
なお、リン酸カルシウム系化合物と同様に生体親和性材料として知られている、生体ガラスや金属チタンをそのまま使用したりその表面にアパタイトを被覆したものを使用することも考えられるが、これらをナノサイズ化しさらにその表面に金属ナノ粒子を被覆するのは、時間と費用がかかる点で好ましくない。
【0026】
本発明の組成物に含まれる、金属ナノ粒子とリン酸カルシウム系化合物のナノ粒子とを結合する結合材としては、アミノ基及びカルボキシル基を有する水溶性化合物や−HNC=O基を有する水溶性化合物等を用いることができる。
【0027】
アミノ基およびカルボキシル基を有する化合物としては、アラニン、アルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、ヒドロキシプロリン、プロリン、セリン、アスパラギン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、リシン(リジン)などの水溶性のアミノ酸などが挙げられる。
【0028】
−HNC=O基を有する化合物としては、上記アミノ酸を含む水溶性のペプチドや水溶性タンパク質、N−ポリビニルピロリドンのポリマー、N−ジメチルアクリルアミドポリマーなどが挙げられる。
【0029】
本発明に用いる結合材には、金属ナノ粒子とリン酸カルシウム系化合物とを結合する機能とともに、金属ナノ粒子を安定化する役割と、水中での分散性や溶解性が求められる。
このような点を考慮すると、本発明において結合材としては、ヒスチジン、システイン、アルギニン、リシン、メチオニン、セリンなどの水溶性のアミノ酸や、これらのアミノ酸のうち少なくとも一種を含む水溶性のペプチドや水溶性のタンパク質、N−ポリビニルピロリドンが好ましい(詳細は、試験例1を参照)。
【0030】
上記結合材のうち、水溶性のアミノ酸は、ラットにおける経口投与によるLD50が、体重1kg当たり10g以上のものが大半であり(システインのみ3.1g)、安全性が高いので特に好ましい。
【0031】
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
まず、上述した方法により所定の大きさに粉砕した金属ナノ粒子または市販の金属ナノ粒子と、結合材とを別々に水に分散させて金属ナノ粒子の水分散液(A)および結合材の水溶液(C)を調製し、リン酸カルシウム系化合物を粉砕してナノ粒子としたもの(B)を作製する。
このようにして得られた(A)、(B)、(C)を混合すると本発明の組成物が得られる。
【0032】
上述したように、本発明において結合材は金属ナノ粒子を安定化する役割をも有しているため、金属ナノ粒子の水分散液(A)と結合材の水溶液(C)を混合してから、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子(B)を添加して混合するのが好ましい。このような順で混合することで、結合材により安定化された金属ナノ粒子が、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子の表面に確実に付着される。
【0033】
(A)と(B)とを混合した後(C)を混合したとしても、金属ナノ粒子と、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子とが結合材を介して結合するが、上記方法により製造した組成物と同様の状態になるまでに、時間がかかる。
なお、本発明において使用する水は、純水であるのが好ましい。陰イオン成分(塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン)などを含む水を用いると、金属ナノ粒子との反応により沈殿や色の変化を生じるからである。
【0034】
本発明の組成物中の各成分の量(実際に使用される状態での組成物中の量)は以下の通りである。
抗菌性を有する金属ナノ粒子の含有量は、適用する菌種、用途(即効性が求められるか否か等)、結合材の種類によって選択されるが、多すぎるとコスト高になる上に、変色しやすくなるため、組成物全体に対して1ppm〜1000ppmであるのが好ましく、3〜300ppmであるのがさらに好ましい。
【0035】
リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子の含有量は、組成物全体に対しては、5ppm〜1000ppmが好ましく、5ppm〜80ppmであるとさらに好ましい。
【0036】
結合材の含有量は、金属ナノ粒子の含有量の1/10量〜10倍量であるのが好ましい。結合材が金属ナノ粒子の量の10倍量を超えて含まれていると、金属ナノ粒子の抗菌作用が有効に発揮できなくなるからである。
【0037】
本発明の組成物には、pHの変動を防ぐために、上記以外の成分としてリン酸緩衝液などを添加してもよい。本発明の組成物には、他の抗菌剤を添加することもできるが、その際には、安全性を考慮する必要がある。
本発明の組成物は、たとえば、手指の消毒や、犬や猫などのペットの身体を洗うために用いたり、病気の予防のためにペットや家畜の飲用水として用いたり、切り花の鮮度保持用の水や、植物の洗浄水、病院等の空調用の水などとして用いることができる。
【0038】
<試験例1>
本発明に用いる結合材には、金属ナノ粒子とリン酸カルシウム系化合物とを結合する機能とともに、金属ナノ粒子を安定化する役割が求められるため、以下の方法により、金属ナノ粒子を安定化するのに適した結合材について検討を行った。
(1)安定性試験1
金属ナノ粒子の水分散液としては、粒子径が4nmで濃度が150ppmのAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を用い、このAgナノ粒子と、純水(pH6.5〜7.5)とを使用して、100ppmの濃度のAgナノ粒子の水分散液を調製した。
上記Agナノ粒子の水分散液とは別に、表1に示す各種アミノ酸と純水とを使用して、各種アミノ酸を100ppm濃度で含有するアミノ酸の水溶液を調製した。本試験および以下に記載する試験例においては、アミノ酸として、市販されている試薬(L体のもの)を用いた。
【0039】
ポリエチレンテレフタレート(PET)製の透明ビンに、アミノ酸の水溶液と、Agナノ粒子の100ppm濃度の水分散液とを、1/1(質量比)の割合で入れてから、混合したものを2個ずつ用意した(Agナノ粒子とアミノ酸の最終濃度はそれぞれ50ppm)。比較のために、Agナノ粒子のみを100ppm濃度で含む水分散液を2個用意した。
2個のうち一方を40℃で10日間、他方を20℃で30日間、直射日光があたらないように放置し、変色の有無を観察し、結果を以下の判定基準により判断して表1に示した。
【0040】
◎:変化なし
○:若干の変色が認められた
△:少し変色した
×:変色した
【0041】
【表1】

【0042】
表1から、20℃で30日放置した後の安定性は、ヒスチジン、システイン、アルギニン、リシン、メチオニン、セリン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニンで良好であった。
これらのうち、ヒスチジン、システイン、アルギニン、リシン、メチオニン、セリンは40℃10日放置後の安定性も良好であった。
【0043】
以上より、本発明に使用する結合材としては、ヒスチジン、システイン、アルギニン、リシン、メチオニン、セリンが好ましいということがわかった。
【0044】
(2)安定性試験2
安定性試験1の結果が、20℃で30日放置後の結果が◎、○、△だったアミノ酸について、以下に示す安定性試験2を行った。
粒子径が4nmで濃度が150ppmのAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]と、純水(pH6.5〜7.5)とを使用して、20ppm、50ppm、100ppmの濃度のAgナノ粒子の水分散液をそれぞれ調製した。
【0045】
安定性試験1の結果が、20℃で30日放置後の結果が◎、○、△だった各種アミノ酸を100ppm濃度で含有するアミノ酸の水溶液を調製した。
【0046】
PET製の透明ビンに、アミノ酸の水溶液と、Agナノ粒子の水分散液とを入れて[1/1(質量比)]、混合したものをAgナノ粒子の濃度ごとに用意した。比較のためにアミノ酸を含まず、Agナノ粒子を100ppm濃度で含む水分散液を用意した。
これらを20℃で30日間、直射日光があたらないように放置し、変色の有無を観察し、結果を以下の判定基準により判断して表2に示した。
【0047】
◎:変化なし。
○:若干の変色が認められた。
△:少し変色した。
×:変色した。
【0048】
表2に記載のAgナノ粒子の濃度は、アミノ酸水溶液との混合後の最終濃度で示した。表中、Agナノ粒子の最終濃度が75ppmのものは、上記の150ppmの濃度のAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]をそのまま用いて調製し、Agナノ粒子の最終濃度が150ppmのものは、粒子径が4nmで濃度が300ppmのAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を用いて調製した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から、銀の濃度が高いものほど、安定性が悪くなるということがわかった。
【0051】
(3)安定性試験3
結合材としてN−ビニルピロリドンポリマーを検討した。
金属ナノ粒子の水分散液としては、粒子径が4nmで濃度が150ppmのAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を用いた。
このAgナノ粒子の水分散液と、純水(pH6.5〜7.5)とを使用して、100ppmの濃度のAgナノ粒子の水分散液を調製した。
【0052】
N−ビニルピロリドンポリマー[BASF(株)製、商品名「Luvitec K−30」]30%水溶液と純水とを使用して、N−ビニルピロリドンポリマーを100ppm濃度で含有する結合材の水溶液を調製した。
【0053】
次に、PET製の透明ビンに、上記結合材の水溶液と、Agナノ粒子の100ppm濃度の水分散液とを入れて[1/1(質量比)]混合し、40℃で10日間、直射日光があたらないように放置し、変色の有無を観察すると、やや変色が認められた(上記安定性試験1および2で示した判定基準△に相当)。
【0054】
<試験例2>
次に本発明の組成物を作製し、その抗菌性について調べた。
(1)実施例1の組成物の調製
金属ナノ粒子の水分散液として、粒子径が4nmのAgナノ粒子を5000ppm含有するAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を用いた。
結合材として、ヒスチジンを用い、ヒスチジンを5000ppmの濃度で含有する結合材の水溶液を調製した。
【0055】
リン酸カルシウム系化合物としてヒドロキシアパタイト(宇部マテリアルズ製)を用い、粒子径が300nmになるように粉砕してから、固形分の濃度が10質量%となるように純水に分散させてヒドロキシアパタイトの水分散液を調製した。
【0056】
最終濃度が、Agナノ粒子1000ppm、ヒスチジン1000ppm、ヒドロキシアパタイト10000ppmとなるように、Ag水分散液と、結合材水溶液とを混合してからヒドロキシアパタイトの水分散液を添加して混合し、得られた組成物を実施例1の組成物とした。
なお、本実施例および以下の実施例および比較例において、組成物および水分散液の調製に使用する水としては、特に断りのない限り、純水を用いた。
【0057】
(2)抗菌性試験
比較例1としてヒドロキシアパタイトを10000ppmの濃度で含む水分散液、比較例2として精製水を使用して、以下の方法によりウイルスに対する抗菌性を調べた。
【0058】
ウイルスとして、鳥インフルエンザウイルス[1983年に島根県で野生のコハクチョウから分離された、A/whistling swan/schimane/499/83(H5N3)]を用いた。
【0059】
まず、10日齢発育鶏卵を用いて上記鳥インフルエンザウイルスを増殖させたウイルス漿尿液を、精製水で約106.0EID50/0.1mlに希釈したもの(以下、ウイルス希釈液という)を調製した。なお、EID50とはegg−infectious dose(50%発育鶏卵感染量)を意味する。
【0060】
次に、全量が6.0mlとなるように、実施例1の組成物、比較例1の水分散液および比較例2の精製水(以下、試験品ともいう)に、それぞれウイルス希釈液を0.6mlずつ加えて、試験品−ウイルス液を調製した。
この試験品−ウイルス液を4℃で1時間攪拌したものと6時間攪拌したものとを用意した。攪拌後の試験品−ウイルス液の一部を回収し、10倍段階希釈した後、10日齢の発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.1mlずつ接種した。
【0061】
接種後の発育鶏卵を37℃、2日間培養した後、赤血球凝集(HA)試験により漿尿膜腔でのウイルス増殖の有無を確認し、試験品−ウイルス液中のウイルス力価をReed and Muenchの方法により算出した。結果を以下に示した。
【0062】
なお、試験品との混合前のウイルス希釈液のウイルス力価は6.5(ウイルス不活性率0%)であった。ウイルス力価の数値は低いほどウイルスの不活性率が高いことを示す。具体的には、ウイルス力価が5.5の場合ウイルスの不活性率は約90%であり、ウイルス力価が1低くなると、ウイルスの活性率が約1/10減少する。
【0063】
実施例1 (1時間攪拌)ウイルス力価0.5
(6時間攪拌)ウイルス力価−0.5
比較例1 (1時間攪拌)ウイルス力価3.3
(6時間攪拌)ウイルス力価1.8
比較例2 (1時間攪拌)ウイルス力価2.5
(6時間攪拌)ウイルス力価1.5
【0064】
上記の結果より、実施例1の組成物を用いると、1時間攪拌するだけでウイルス力価が顕著に低くなった。このことから本発明の組成物は、充分な抗菌作用を有していることがわかった。
【0065】
<試験例3>
Agナノ粒子の濃度を変えた組成物を各種作製し、その抗菌性について調べた。
(1)実施例2〜9の組成物の調製
最終濃度がAgナノ粒子1ppm、ヒスチジン1ppm、ヒドロキシアパタイト1ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例2の組成物を調製した。
【0066】
最終濃度がAgナノ粒子5ppm、ヒスチジン5ppm、ヒドロキシアパタイト5ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例3の組成物を調製した。
最終濃度がAgナノ粒子10ppm、ヒスチジン25ppm、ヒドロキシアパタイト25ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例4の組成物を調製した。
最終濃度がAgナノ粒子15ppm、ヒスチジン5ppm、ヒドロキシアパタイト5ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例5の組成物を調製した。
最終濃度がAgナノ粒子20ppm、ヒスチジン25ppm、ヒドロキシアパタイト25ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例6の組成物を調製した。
最終濃度がAgナノ粒子25ppm、ヒスチジン25ppm、ヒドロキシアパタイト25ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例7の組成物を調製した。
最終濃度がAgナノ粒子100ppm、ヒスチジン100ppm、ヒドロキシアパタイト100ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例8の組成物を調製した。
最終濃度がAgナノ粒子1000ppm、ヒスチジン1000ppm、ヒドロキシアパタイト1000ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして実施例9の組成物を調製した。
【0067】
最終濃度がAgナノ粒子0ppm、ヒスチジン1000ppm、ヒドロキシアパタイト1000ppmとなるようにした以外は実施例1と同様にして比較例3の組成物を調製した。
【0068】
(2)抗菌性試験(銀濃度)
全量が6.0mlとなるように、実施例2〜9および比較例3の組成物(以下、試験品ともいう)に、それぞれウイルス希釈液を0.6mlずつ加えて、試験品−ウイルス液を調製した。
実施例2〜8の組成物を用いた、試験品−ウイルス液を4℃で1時間攪拌し、攪拌後の試験品−ウイルス液の一部を回収し、10倍段階希釈した後、10日齢の発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.1mlずつ接種した。
【0069】
接種後の発育鶏卵を37℃、2日間培養した後、試験例2の(2)の抗菌性試験と同様にして、ウイルス力価を測定し、結果を表3に示した。
【0070】
(3)抗菌性試験(反応時間)
ウイルス希釈液との攪拌時間を変えた場合の抗菌性について調べた。
実施例8および9の組成物を用い、試験品−ウイルス液の攪拌時間を10分、および30分としたこと以外は、(2)の抗菌性試験(銀濃度)と同様にしてウイルス力価を測定し、結果を、(2)の結果とともに表3に示した。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示す結果より、Agナノ粒子が1ppm含まれていれば、抗菌性を発揮し、Agナノ粒子の量が多くなるに従い、早期に抗菌性が発現することがわかった。
【0073】
<試験例4>
次に、本発明の組成物を人体に適用した場合の抗菌性について調べた。
(1)実施例10の組成物の調製
金属ナノ粒子の水分散液として、粒子径が4nmのAgナノ粒子[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を150ppm含有するAgナノ粒子の水分散液を調製した。
結合材として、メチオニンを用い、メチオニンを100ppmの濃度で含有する結合材の水容液を調製した。
【0074】
リン酸カルシウム系化合物としてリン酸三カルシウム(宇部マテリアルズ製)を、ジルコニウムビーズを用いてビーズミルにて平均粒子径が300nmまで粉砕してから、濃度が50ppmとなるように純水に分散させてリン酸三カルシウムの水分散液を調製した。
【0075】
最終濃度が、Agナノ粒子25ppm、メチオニン25ppm、リン酸三カルシウム25ppmとなるように、Ag水分散液と、結合材水溶液とを混合してからリン酸三カルシウムの水分散液を添加して混合し、得られた組成物を実施例10の組成物とした。
【0076】
(2)抗菌性試験
実施例10の組成物をスプレー容器に入れ、約5mlを3本の手指に吹き付けた後、2分経過後、6分経過後、および15分経過後に、手指に存在する菌類の状況を観察した。
具体的には、実施例10の組成物を吹き付ける前と、吹き付けてから上記所定時間経過した手指をこすりつけたバイオチェッカーTTCを35℃で3日間養生して菌類の状況を観察した。
【0077】
スプレー吹き付け前のものに関しては10のコロニーが観察され、吹きつけ後2分経過後のもの、吹きつけ後6分経過後、および吹きつけ後15分経過後のものに関してはコロニーは観察されなかった。
このことから本発明によれば、短時間に抗菌効果が発揮されることがわかった。
【0078】
<試験例5>
さらに、本発明の組成物中のリン酸カルシウム系化合物の量について検討した。
(1)実施例11〜13および比較例4の組成物の調製
金属ナノ粒子の水分散液として、粒子径が4nmのAgナノ粒子[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を150ppm含有するAgナノ粒子の水分散液を調製した。
【0079】
結合材として、メチオニンを用い、メチオニンを100ppmの濃度で含有する結合材の水溶液を調製した。
リン酸カルシウム系化合物としてヒドロキシアパタイト(宇部マテリアルズ製)を用い、ジルコニウムビーズを用いてビーズミルにて平均粒子径が100nmまで粉砕してから、固形分の濃度が10質量%となるように純水に分散させてヒドロキシアパタイトの水分散液を調製した。
【0080】
最終濃度が、Agナノ粒子2.5ppm、メチオニン2.5ppm、ヒドロキシアパタイト5ppmとなるように、Ag水分散液と、結合材分散液とを混合してからヒドロキシアパタイトの水分散液を添加して混合し、得られた組成物を実施例11の組成物とした。
【0081】
最終濃度がAgナノ粒子2.5ppm、メチオニン2.5ppm、ヒドロキシアパタイト50ppmとなるようにした以外は実施例11と同様にして、得られた組成物を実施例12の組成物とした。
【0082】
最終濃度がAgナノ粒子2.5ppm、メチオニン2.5ppm、ヒドロキシアパタイトが100ppmとなるようにした以外は実施例11と同様にして、得られた組成物を実施例13の組成物とした。
【0083】
ヒドロキシアパタイトを含まないこと以外は、実施例11と同様にして得られた組成物を比較例4の組成物とした。
【0084】
(2)抗菌性試験
ヒトインフルエンザウイルス A/Aichi/2/68(H3N2)と、イヌパルボウイルス Cp49株を用いて以下の方法により抗菌試験を行った。
実施例8〜10および比較例4の組成物をそれぞれ上記2種のウイルスと混合し、37℃で30分間振とうした後、遠心して上清を試料として残存ウイルス数を評価した。
具体的には、ヒトインフルエンザウイルスはMDCK細胞を、イヌパルボウイルスはCRFK細胞を用いて、財団法人畜産生物安全科学研究所の方法により残存ウイルス数を評価した。
表4には、試験結果と実施例11〜13および比較例4の組成物のヒドロキシアパタイトの最終濃度を示した。
【0085】
【表4】

【0086】
ヒドロキシアパタイトを含む実施例11〜13の組成物では、ヒドロキシアパタイトを含まない比較例4の組成物と比較して、ウイルスの残存数が顕著に少ないという結果が得られた。
【0087】
これは、ヒドロキシアパタイトのナノ粒子が、菌類が付着しても簡単には離脱しないという生体親和性を有していることから、ヒドロキシアパタイトのナノ粒子によって捕獲された菌類にAgナノ粒子が接触して、抗菌作用を発揮できたからではないかと考えられる。
【0088】
ヒドロキシアパタイトの濃度が50ppmもの(実施例12)と100ppmのもの(実施例13)を用いた場合の、ウイルス残存数を比較すると、ヒトインフルエンザウイルスに対しては同じであり、イヌパルボウイルスに対しても効果の差に大差がなかった。
【0089】
このことから、ヒドロキシアパタイトの濃度が50ppm以下の場合には、ヒドロキシアパタイトの濃度を高くすることにより、抗菌性が顕著に向上するということがわかった。
【0090】
<試験例6>
さらに、本発明の組成物中の結合材の量について検討した。
(1)実施例14〜19の組成物の調製
金属ナノ粒子の水分散液として、平均粒子径が4nmのAgナノ粒子を150ppm含有するAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を使用した。
結合材として、ヒスチジンを用い、ヒスチジンを150ppmの濃度で含有する結合材の水分散液を調製した。
リン酸カルシウム系化合物としてヒドロキシアパタイト(宇部マテリアルズ製)を用い、ジルコニウムビーズを用いてビーズミルにて平均粒子径が100nmになるまで粉砕してから、所定の濃度となるように純水に分散させてヒドロキシアパタイトの水分散液を調製した。
【0091】
最終濃度が、Agナノ粒子を5ppm、ヒドロキシアパタイトを5ppm、ヒスチジンを1ppmとなるように、Ag水分散液と、結合材水溶液とを混合してからヒドロキシアパタイトの水分散液を添加して混合し、得られた組成物を実施例14の組成物とした。
【0092】
最終濃度が、Agナノ粒子を50ppm、ヒドロキシアパタイトを50ppm、ヒスチジンを8ppmとなるようにした以外は実施例14と同様にして、得られた組成物を実施例15の組成物とした。
【0093】
最終濃度が、Agナノ粒子を150ppm、ヒドロキシアパタイトを150ppm、ヒスチジンを25ppmとなるようにした以外は実施例14と同様にして、得られた組成物を実施例16の組成物とした。
【0094】
最終濃度が、Agナノ粒子を5ppm、ヒドロキシアパタイトを5ppm、ヒスチジンを0.5ppmとなるようにした以外は実施例14と同様にして、得られた組成物を実施例17の組成物とした。
【0095】
最終濃度が、Agナノ粒子を50ppm、ヒドロキシアパタイトを50ppm、ヒスチジンを4ppmとなるようにした以外は実施例14と同様にして、得られた組成物を実施例18の組成物とした。
【0096】
最終濃度が、Agナノ粒子を150ppm、ヒドロキシアパタイトを150ppm、ヒスチジンを15ppmとなるようにした以外は実施例14と同様にして、得られた組成物を実施例19の組成物とした。
【0097】
(2)抗菌性試験
サルモネラ菌(Salmonella typhimurum:GP42−Lyモルモット頚部リンパ節腫膿病変由来)と大腸菌O157型(Escherichia coli O157:H7北里大学医学部由来)を用いて以下の方法により抗菌試験を行った。
【0098】
サルモネラ菌を10CFU/50μl、大腸菌O157型を6.7×10CFU/50μl使用して、SCD寒天培地にて18時間培養し、培養されたサルモネラ菌、大腸菌を1白金耳量(3.5mg)ずつとり、それぞれを滅菌蒸留水1mlに懸濁した。この菌液を100μlずつ実施例14〜19の組成物10mlに加えた。
【0099】
菌液をそれぞれ実施例14〜19の組成物に滴下してから、ボルテックスにて数秒間攪拌後、直ちにマンニット食塩培地3枚に50μlずつ接種した(振とう・混釈0分)。
上記とは別に、菌液を実施例14〜19の組成物に滴下した後、シェーカーにて60分間振とう・混釈後、マンニット食塩培地3枚に50μlずつ接種した(振とう・混釈60分)。
菌液を接種した後の培地を35℃で3日間養生して菌類の状況を観察した結果を以下に示す。
【0100】
菌液と組成物との振とう・混釈時間が60分のものを接種したすべての培地では、菌のコロニーは認められず、菌の発生・発育を抑制できた。
菌液と組成物との振とう・混釈時間が0分のものであって、サルモネラ菌液を滴下した組成物を接種した培地では、Agナノ粒子やヒスチジンの濃度にかかわらず、0〜5コロニーが観察され、その発育を抑制できなかった。
菌液と組成物との振とう・混釈時間が0分のものであって、大腸菌液を滴下した組成物を接種した培地のうち、組成物中のAgナノ粒子の濃度が50ppmのものと150ppmのものでは、ヒスチジンの濃度にかかわらず、菌の発生・発育を完全に抑制できたが、Agナノ粒子の濃度が5ppmのものでは菌の発生・発育を完全に抑制できなかった。
【0101】
本試験の結果より、ヒスチジンの濃度は抗菌効果に影響を与えておらず、Agナノ粒子の濃度が50ppm以上であれば、振とう・混釈時間が短くても、充分な抗菌効果が得られることがわかった。
【0102】
<試験例7>
金属ナノ粒子の水分散液として、平均粒子径が4nmのAgナノ粒子を150ppm含有するAgナノ粒子の水分散液[(株)朝日商会製、商品名「シルバリア」]を使用し、結合材として、システインを用い、システインを150ppmの濃度で含有する結合材の水分散液を調製した。
リン酸カルシウム系化合物としてヒドロキシアパタイト(宇部マテリアルズ製)を用い、ジルコニウムビーズを用いてビーズミルにて平均粒子径が100nmになるまで粉砕してから、所定の濃度となるように純水に分散させてヒドロキシアパタイトの水分散液を調製した。
【0103】
最終濃度が、Agナノ粒子を25ppm、ヒドロキシアパタイトを25ppm、システインを25ppmとなるように、Ag水分散液と、結合材水溶液とを混合してからヒドロキシアパタイトの水分散液を添加して混合し、得られた組成物を実施例20の組成物とした。
【0104】
(1)抗菌性試験1
本発明の組成物を塗布した布について、以下の方法により抗菌性試験を行った。
実施例20の組成物を100g/m塗布後、乾燥した、50mm×50mmの大きさの綿製の布片と、本発明の組成物を未塗布の綿製の布片について、JIS Z 2801 5.2に準拠した抗菌試験を行った。結果を表5に示す。
表5中、処理とは本発明の組成物を塗布したものを示し、無処理とは本発明の組成物の塗布を行わなかったものを示す。
【0105】
【表5】

【0106】
表5より本発明の組成物を塗布したものでは、枯草菌、緑膿菌、MRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)に対する抗菌性があるということがわかった。
【0107】
(2)かび抵抗性試験
本試験例の(1)抗菌性試験1と同様にして、実施例20の組成物を塗布した布について、以下の方法により抗菌性試験を行った。
実施例20の組成物を100g/m塗布後、乾燥した、50mm×50mmの大きさの綿製の布片を用いて、JIS Z 2911−2000に準拠してかび抵抗性試験を行った。
本試験には、Aspergillus niger NBRC 6341、Penicillium funiculosum IAA7013、Paecilomyces variotii IAM5001、Gliocladium virens NBRC 6355、Chaetomium globosum NBRC 6347を用いた。
その結果、2週間経過後、4週間経過後ともにかびの発育はみられなかった。
このことから本発明の組成物はカビに対しても効果があることがわかった。
【0108】
(3)臭気指標試験
本発明の組成物を家畜の飼料に混合して適用した例について以下の試験を行った。
生後1年の雌鳥に、実施例20の組成物を混合した飼料を1週間食べさせた後、鶏糞の臭気を測定した。
実施例20の組成物の混合量が、組成物混合後の食餌全体に対して3質量%となるようにして、この組成物を混合した食餌を、雌鳥に一日当たり35g与えた。 鶏糞の臭気はODOR CONCENTRATION METER COSMOS XR329IIIを用いて測定した。
その結果、本発明の組成物を混合した飼料を1週間摂取した後の鶏糞の臭気指標は、本発明の組成物を混入しない飼料を食べさせた場合の臭気指標の1/13に低下した。
このことから、本発明の組成物は、糞便の臭気を低減する作用があるということがわかった。
【0109】
<まとめ>
上記試験例1〜7によれば、組成物中にAgナノ粒子を1ppm以上1000ppm以下の濃度で含んでいれば、抗菌性を発揮することができることがわかった。
【0110】
Agナノ粒子の濃度が高くなるに従い抗菌性は向上するが、安定性が低下するので、保存時の問題がある。したがって、組成物中のAgナノ粒子の濃度は、保存時の問題、適用する菌種、用途(即効性が求められるか否か等)、結合材の種類によって適宜選択するのが好ましいと考えられる。
【0111】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例においては、抗菌作用を有する金属ナノ粒子としてAgナノ粒子を使用するものを示したが、抗菌作用を有する金属ナノ粒子として、Ptナノ粒子を用いることもできる。
【0112】
(2)上記実施例においては、平均粒子径が4nmのAgナノ粒子を用いたが抗菌作用を有する金属ナノ粒子の平均粒子径は4nmに限定されず、10nm、25nm、40nmなどであってもよい。
【0113】
(3)上記実施例においては、リン酸カルシウム系化合物として、ヒドロキシアパタイトと、リン酸三カルシウムを使用するものを用いたが、リン酸一水素カルシウム、リン酸四カルシウム、ボーンアッシュ、骨リン、ボーンチャイナを用いてもよい。
【0114】
(4)上記実施例においては、アミノ酸として、市販の試薬(L体)のヒスチジン、メチオニン、システインを用いた組成物を例示したが、他のアミノ酸(合成品、D体、DL体含む)やペプチド、タンパク質、ポリビニルピロリドン等を含むものであってもよい。
【0115】
(5)上記試験例においては、鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、イヌパルボウイルス、サルモネラ菌、大腸菌O157型、枯草菌、緑膿菌、MRSA、各種カビ類に本発明の組成物を適用した例を示したが、本発明の組成物は、ブドウ球菌、赤痢菌、肺炎桿菌、腸炎ビブリオ、セレウス菌、ボツリヌス菌、ウエルシュ菌、破傷風菌、炭疽菌、クレブシェラ、レジオネラ菌、シュードモナス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ヘルペスウイルスなどの菌類にも適用できる。
【0116】
(6)上記試験例では、本発明の組成物を直接菌類に使用したり、人間の手指や布に塗布したり、雌鳥の食餌に混合した例を示したが、魚類や植物等に適用して病気を防いだり、空気中に噴射して空気中の菌類に適用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、抗菌作用を有する金属ナノ粒子と、リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子と、前記金属ナノ粒子と前記リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子とを結合する結合材とを含み、
前記金属ナノ粒子が、Ptナノ粒子および/またはAgナノ粒子であり、
前記結合材が、アミノ基及びカルボキシル基を有する水溶性化合物および/または−HNC=O基を有する水溶性化合物であることを特徴とする抗菌組成物。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム系化合物が、CaHPO・2HO(リン酸一水素カルシウム)、Ca(PO(リン酸三カルシウム)、Ca10(PO(OH)(ヒドロキシアパタイト)のうちの一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
前記結合材が、ヒスチジン、システイン、アルギニン、リシン、メチオニン、およびセリンからなる群より選ばれるアミノ酸、前記アミノ酸を一種以上含むペプチド、前記アミノ酸を一種以上含むタンパク質、またはN−ビニルピロリドンのポリマーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子が、前記抗菌組成物の全重量に対して3ppm〜600ppm含まれることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の抗菌組成物。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径が3nm〜50nmであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の抗菌組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の抗菌組成物の製造方法であって、
前記金属ナノ粒子の水分散液と、前記結合材の水分散液とを混合した後、前記リン酸カルシウム系化合物のナノ粒子を添加して混合することを特徴とする抗菌組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−46410(P2009−46410A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212869(P2007−212869)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(503397672)
【出願人】(399077939)株式会社朝日商会 (5)
【Fターム(参考)】