説明

抗菌部材

【課題】安定して金属イオンを供給でき、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能な抗菌部材を提供する。
【解決手段】三次元網目構造状の多孔質体からなり、前記多孔質体が、0.01wt%以上0.1wt%以下のPを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成されていることを特徴する。さらに、0.01wt%以上0.1wt%以下のCaを含む。また、多孔質体の比表面積が、0.001m/g以上0.2m/g以下の範囲内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、飲料用水、工業用水等の抗菌処理等に用いられる抗菌部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中に存在する様々な菌を除去する方法として、例えば銀、銅、亜鉛等の抗菌作用を有する金属イオンを水に供給するものが広く提供されている。ここで、銀をそのまま水に接触させたとしても、銀イオンが溶出する速度が遅く、充分な抗菌処理を行うことができないことが知られている。
そこで、上述の金属イオンを供給する抗菌部材として、例えば特許文献1、2に示すように、銀、銅、亜鉛等の金属イオンを、イオン交換により結晶質のゼオライトに担持させたものや、イオン交換によってアルミノ珪酸塩に担持させたものが提案されている。
また、特許文献3には、多孔質のシリカの細孔内に、高い殺菌性能を有するリン酸銀化合物を担持させたものが提案されている。さらに、特許文献4には、シリカゲルの表面に、金属イオンを保持する抗菌性アルミノ珪酸塩層を形成したものが提案されている。
【0003】
上述のような従来の抗菌部材においては、抗菌作用を有する金属イオン等を、多孔質のセラミックスの孔内に物理的若しくは化学的にセラミックスに担持、吸着させたものであり、この抗菌部材を処理対象の水に接触させることによって、金属イオンを水へと放散し、抗菌処理を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−181002号公報
【特許文献2】特開昭62−070221号公報
【特許文献3】特許第3572353号公報
【特許文献4】特許第2965488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の抗菌部材を用いて水の抗菌処理を行う場合には、金属イオン等を担持する多孔質のセラミックスを水中に長期間浸漬させることになる。すると、セラミックス自体が劣化して微粉化してしまい、担持されていた金属イオン等が流失してしまうため、抗菌処理を長期間安定して行うことができないといった問題があった。
【0006】
また、金属イオン等は多孔質のセラミックスに物理的若しくは化学的に担持されているが、セラミックスと金属イオン等との接合が強固なものではないため、水の流れや振動等によって金属イオン等が脱落してしまい、金属イオンを供給できなくなってしまうといった問題があった。
すなわち、従来のように、セラミックス等の多孔質材に金属イオン等を担持させたものでは、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることが困難であった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、安定して金属イオンを供給でき、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能な抗菌部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の抗菌部材は、三次元網目構造状の多孔質体からなり、前記多孔質体が、0.01wt%以上0.1wt%以下のPを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成されていることを特徴としている。
【0009】
このような構成とされた本発明の抗菌部材においては、三次元網目構造状の多孔質体からなり、前記多孔質体が、Pを0.01wt%以上添加されたAg合金で構成されているので、多孔質体の表面から銀イオンを効率良く溶出させることが可能となり、水等の抗菌処理を行うことができる。すなわち、Agに微量のPを含有させることによって、Agの水への溶出速度が向上し、抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能となり、抗菌部材として利用することができるのである。
【0010】
なお、Pの含有量が0.1wt%を超える場合には、この多孔質体を粉末焼結する際に、PとAgの化合物がAg粉末の表面に過度に存在することになり、焼結性が著しく阻害されることになる。このため、Pの含有量は0.1wt%以下に設定する必要がある。
さらに、多孔質体であることから、水との接触面積が大きくなり、Agイオンを効率的に溶出させることが可能となる。
【0011】
そして、多孔質体がAg合金で構成されていることから、従来のようにセラミックスからなる多孔質体に比べて、耐久性が高く、劣化して微粉化するおそれがない。また、多孔質体自体がAg合金で構成されていて、Agイオンの供給源となっていることから、Agイオンが、水の流れや振動等によって多孔質体から流出してしまうおそれがない。
よって、本発明の抗菌部材によれば、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能となる。
【0012】
また、本発明の抗菌部材は、三次元網目構造状の多孔質体からなり、前記多孔質体が、0.01wt%以上0.1wt%以下のPと、0.01wt%以上0.1wt%以下のCaを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成されていることを特徴としている。
【0013】
このような構成とされた本発明の抗菌部材においては、Pを0.01wt%以上0.1wt%以下含有したAg合金によって構成されているので、前述のように、Agイオンを効率的に溶出させることができ、抗菌処理を行うことが可能となる。また、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能となる。
【0014】
さらに、Caを0.01wt%以上含有していることから、Agイオンの溶出がさらに促進されることになる。
なお、Caの含有量が0.1wt%を超える場合には、この多孔質体を粉末焼結する際に、CaとAgの化合物がAg粉末の表面に過度に存在することになり、焼結性が著しく阻害されることになる。このため、Caの含有量は0.1wt%以下に設定する必要がある。
【0015】
ここで、前述の抗菌部材においては、前記多孔質体の比表面積を、0.001m/g以上0.2m/g以下の範囲内に設定してもよい。
多孔質体の比表面積が0.001m/g未満であると、水との接触面積が比較的小さくなり、効率的にAgイオンを溶出させることができない。また、Agイオンの溶出量を確保するためには、銀の重量を増加させる必要がある。
一方、多孔質体の比表面積が0.2m/gを超えると、剛性が不十分となり、多孔質体が崩壊してしまうおそれがある。また、多孔質体を焼結する前の状態において、構造体として保持されなくなる。
このため、多孔質体の比表面積は、0.001m/g以上0.2m/g以下の範囲内に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定して金属イオンを供給でき、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能な抗菌部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である抗菌部材の概略説明図である。
【図2】図1に示す抗菌部材の製造方法を示すフロー図である。
【図3】図2に示す抗菌部材の製造方法に用いられる成形装置の説明図である。
【図4】実施例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である抗菌部材10は、図1に示すように、相互に連通状態の空孔部11が入り込むことによって、スポンジ状をなす三次元網目構造とされた骨格部12を有する多孔質体とされている。
【0019】
この多孔質体(抗菌部材10)は、0.01wt%以上0.1wt%以下のPと、0.01wt%以上0.1wt%以下のCaを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成されている。なお、本実施形態では、さらに、Pの含有量を0.03wt%以上0.06wt%以下に限定している。
そして、この多孔質体(抗菌部材10)の比表面積は、0.001m/g以上0.2m/g以下の範囲内に設定されている。
【0020】
次に、この抗菌部材10の製造方法について、図2に示すフロー図を参照して、各工程ごとに説明する。
【0021】
(金属粉末作製工程S1)
まず、0.01wt%以上0.1wt%以下(本実施形態では、0.03wt%以上0.06wt%以下)のPを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金からなる金属粉末を準備する。この銀粉末は、水アトマイズ法、プラズマアトマイズ法等のアトマイズ法、酸化還元法、カルボニル反応法等の公知の手段によって製造することが可能である。なお、水アトマイズ法によって金属粉末を作製する場合には、溶湯にリン酸銀粉末を添加することによってP量を調整することが可能である。
ここで、本実施形態では、Ag合金からなる金属粉末の粒径を、0.5μm以上30μm以下とした。
【0022】
(スラリー作製工程S2)
前述のようにして得られた金属粉末に、バインダ(水溶性樹脂結合剤)、発泡剤、水、と、必要に応じて界面活性剤や可塑剤を混合して発泡性のスラリーを作製する。
ここで、バインダ(水溶性樹脂結合剤)としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、エチルセルロース、ポリビニルアルコールなどを使用することが可能である。
【0023】
発泡剤としては、ガスを発生してスラリー中に気泡を形成できるものであればよく、揮発性有機溶剤、例えばペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、ベンゼン、オクタン、トルエンなどの炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤を使用することができる。この発泡剤の含有量としては、スラリーS全体の0.1質量%以上5重量%以下とすることが好ましい。
【0024】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤や、ポリエチレングリコール誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン性界面活性剤、及び、両性界面活性剤などを使用することができる。
【0025】
可塑剤は、スラリーSを成形して得られる成形体に可塑性を付与するために添加されるものであり、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール。グリセリンなどの多価アルコール、鰯油、菜種油、オリーブ油などの油脂、石油エーテルなどのエーテル類、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジオクチル、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレートなどのエステル等を使用することができる。
【0026】
これら金属粉末、バインダ(水溶性樹脂結合剤)、発泡剤、水、界面活性剤、可塑剤以外に、他の成分を添加してもよい。例えば、防腐剤を添加してスラリーSの保存性を向上させてもよい。あるいは、結合助剤としてポリマー系化合物を加えて成形体の強度を向上させてもよい。
また、本実施形態においては、得られたスラリーSに塩化カルシウムを添加し、Ca濃度を調整した。
【0027】
本実施形態では、バインダーとして、メチルセルロースを使用した。発泡剤として、ヘキサンを使用した。可塑剤として、ポリエチレングリコールを使用した。界面活性剤として、α−オレフィンスルホン酸塩を使用した。
これらの原料を、金属粉末:5〜80質量%、バインダー:0.5〜20質量%、発泡剤:0.05〜1質量%、可塑剤:0.1〜15質量%、界面活性剤:0.05〜50質量%、塩化カルシウム:0〜3質量%水:残部、の比率で混合して、スラリーSを作製した。
【0028】
このようにして成形されたスラリーSは、図3に示す成形装置20によってグリーンシートGが形成されることになる。
この成形装置20は、スラリーSを貯留するホッパ21と、ホッパ21から供給されたスラリーSを移送するキャリアシート22と、キャリアシート22を支持するローラ23と、キャリアシート22上に載置されたスラリーSを所定の厚さに成形するブレード24と、成形されたスラリーSを発泡させる発泡槽25と、発泡したスラリーを乾燥させる乾燥槽26と、を備えている。
【0029】
(成形工程S3)
まず、均一化したスラリーSをホッパ21に貯留しておき、このホッパ21からキャリアシート22上にスラリーSを供給する。このキャリアシート22は、ローラ23によって後段側(図3において右側)に向けて移送される。キャリアシート22上に載置されたスラリーSは、キャリアシート22とともに移送され、ブレード24によって薄板状に成形される。本実施形態では、幅20〜300mm、厚さ0.3〜3mmの薄板状に成形するように構成されている。
【0030】
(発泡工程S4)
薄板状に成形されたスラリーSは、キャリアシート22とともに、発泡槽25へと移送される。この発泡槽25内は、例えば温度30〜40℃、湿度75〜95%に調整されており、薄板状に成形されたスラリーSは、この発泡槽25内を、例えば10〜20分かけて通過する。このように発泡槽25内を通過する際に、スラリーS中の発泡剤が発泡することになる。
【0031】
(乾燥工程S5)
発泡したスラリーSは、さらにキャリアシート22とともに乾燥槽26へと移送される。この乾燥槽26内は、例えば温度50〜70℃に調整されており、発泡したスラリーSが、この乾燥槽26内を、例えば10〜20分かけて通過する。このように乾燥槽26内を通過する際に、発泡したスラリーSが乾燥される。
これにより、スポンジ状のグリーンシートGが得られることになる。
【0032】
(脱脂工程S6)
次に、成形装置20によって成形されたスポンジ状のグリーンシートGを、脱脂炉に装入し、例えば、大気雰囲気で、450〜550℃、25〜30分間保持する。これにより、グリーンシートに含まれる脂分(有機バインダー等)が揮発除去される。
【0033】
(焼結工程S7)
そして、脱脂されたグリーンシートGを、焼結炉内に装入し、例えば、大気雰囲気で、800〜900℃、60〜120分間保持する。これにより、スポンジ状をなすグリーンシートGが焼結される。
これにより、三次元網目構造をなす多孔質体(抗菌部材10)が製造される。なお、多孔質体(抗菌部材10)の比表面積は、スラリーSに混合される発泡剤の材質、量、発泡工程S4の条件等によって調整される。
【0034】
このような構成とされた本実施形態である抗菌部材10においては、0.01wt%以上0.1wt%以下のPを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成された多孔質体とされているので、耐久性が高く、水中に長期間にわたって浸漬しても微粉化するおそれはない。また、Pが添加されることによって、Agイオンの溶出が促進され、抗菌作用を十分に奏功せしめることが可能となる。また、多孔質体(抗菌部材10)自体がAgイオンの供給源とされているので、水の流れや振動によってAgイオンが脱落するおそれがない。
よって、安定して金属イオンを供給でき、長期間にわたって安定した抗菌作用を十分に奏功せしめることができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、0.01wt%以上0.1wt%以下のCaを含有しているので、CaによってAgイオンの溶出がさらに促進されることになる。
また、Pの含有量が0.1wt%以下、Caの含有量が0.1wt%以下とされていることから、焼結性が確保され、本実施形態である抗菌部材10を良好に製造することが可能となる。
さらに、本実施形態では、Pの含有量が、0.03wt%以上0.06wt%以下に限定されていることから、上述の作用効果を確実に奏功せしめることができる。
【0036】
また、本実施形態である抗菌部材10は、比表面積が0.001m/g以上0.2m/g以下の範囲内に設定されているので、水との接触面積が確保されてAgイオンを効率的に溶出させることができるとともに、抗菌部材10の剛性が確保されることになる。また、比表面積が0.2m/g以下のとされていることから、焼結前のグリーンシートGの状態で形状を保持することが可能となる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、Pの含有量の調整を、Ag粉末作製工程S1において行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、スラリーに対して添加してもよいし、焼結時に添加してもよい。焼結後の多孔質体(抗菌部材)において、P量が調整されていればよい。
また、Caの添加についても、本実施形態に限定されることはなく、上述のPと同様に、焼結後の多孔質体(抗菌部材)において、Ca量が調整されていればよい。
【0038】
また、金属粉末として、平均粒径0.5〜30μmのこれに限定されることはなく、粉末のサイズに制限はなく、焼結性、多孔質体のサイズ等を考慮して適宜設計変更することができる。
さらに、バインダー、発泡剤、可塑剤、界面活性剤等は、本実施形態に限定されることはなく、他のバインダー、発泡剤、可塑剤、界面活性剤等を用いてもよい。
【0039】
また、水の抗菌処理を行う抗菌部材として説明したが、これに限定されることはなく、水を含有する対象物に対して抗菌処理を行うことができる。例えば空気中の水分等にAgイオンを放出して抗菌処理を行うことも可能である。
【実施例1】
【0040】
本発明の作用効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
まず、Agイオンの溶出量について評価した。
上述の実施形態に記載された製造方法によって抗菌部材を作製した。このとき、Ag粉末のP濃度を調整するとともに、スラリーを作製する際に、Ag粉末に塩化カルシウムを添加した。P、Caをともに添加しなかったサンプルを比較例とし、Pのみを添加したものを本発明例1とし、P、Caをともに添加したものを本発明例2とした。ここで、比較例、本発明例1、2の試験片は、10mm角×厚さ1.5mmの平板状とし、重量を0.2gとした。
【0041】
比較例、本発明例1、2について、成分分析した結果を表1に示す。なお、成分分析は、蛍光X線分析装置による定性分析結果から半定量分析によって測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
また、従来例1として、リン酸銀をシリカに担持させた粒状の抗菌部材を1g準備した。さらに、従来例2として、Agイオンをシリカゲルに担持させたタブレット状の抗菌部材を1g準備した。なお、これらの抗菌部材は、従来より、水の抗菌処理に使用されているものである。
【0044】
これらの試験片を、それぞれ80℃、100ccの純水中に浸漬し、攪拌しながら100時間保持した。その後、純水中のAgイオン濃度をICP−AES(プラズマ発光分光分析)によって測定した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
P、Caを含まない比較例では、純水中のAgイオン濃度が0.1mg/Lと少なく、単にAgを浸漬しただけではAgイオンが充分に溶出されず、抗菌処理を行うことができないことが確認される。
一方、Pを含有する本発明例1、2においては、純水中のAgイオン濃度が2mg/L、4mg/Lであって、従来例1、2と同等のAgイオン濃度をなっている。このことから、Pを含有させることによって、Agイオンの溶出が促進されることが確認される。
さらに、Caを含有した本発明例2においては、Caを含有しない本発明例1よりも、Agイオン濃度が高くなっていることから、Caの添加により、さらにAgイオンの溶出が促進されることが確認される。
【実施例2】
【0047】
次に、Agイオンの溶出量の安定性について評価した。
上述の本発明例2、従来例1、2の試験片を、それぞれ80℃、100ccの純水中に浸漬し、攪拌しながら24時間保持し、純水中のAgイオン濃度をICP−AES(プラズマ発光分光分析)によって測定した。その後、純水を全て入れ替えて、さらに24時間保持し、純水中のAgイオン濃度をICP−AES(プラズマ発光分光分析)によって測定した。これを繰り返して、Agイオンの溶出量の安定性について評価した。評価結果を図4に示す。
【0048】
図4に示すように、従来例1においては、日数が経過する毎にAgイオン濃度が大きく低下していき、8日経過後には、初期の40%となった。また、従来例2においても7日経過後からAgイオン濃度の低下が顕著となり、10日経過後には、初期の40%となった。このように、従来例1、2では、時間の経過に伴ってAgイオンの溶出量が低下しており、抗菌作用も劣化していることが確認される。
【0049】
一方、本発明例2においては、Agイオン濃度は比較的安定しており、10日経過後においても、初期の80%以上を確保している。このことから、本発明例2によれば、Agイオンを長期間にわたって安定して溶出できることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
10 抗菌部材
S スラリー
G グリーンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目構造状の多孔質体からなり、
前記多孔質体が、0.01wt%以上0.1wt%以下のPを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成されていることを特徴する抗菌部材。
【請求項2】
三次元網目構造状の多孔質体からなり、
前記多孔質体が、0.01wt%以上0.1wt%以下のPと、0.01wt%以上0.1wt%以下のCaを含み、残部がAgと不可避不純物とからなるAg合金で構成されていることを特徴する抗菌部材。
【請求項3】
前記多孔質体の比表面積が、0.001m/g以上0.2m/g以下の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の抗菌部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−184917(P2010−184917A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31851(P2009−31851)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】