説明

抗血栓性複合体を有する医療装置用コーティング

【課題】物品の1表面の少なくとも1部分に適用されるコーティング材料の提供。
【解決手段】抗血栓剤と生体吸収性ポリマーとの複合体を含むコーティングを、植え込み可能なデバイスの少なくともいくつかの部分に適用することによって、デバイス50の表面10に血栓が形成されるのを防ぐ方法。コーティングの第1層又は下側層20は、ポリマー材料及び生物学的活性薬剤を溶媒と混合調製し、これにより均質な溶液を形成する。第2層又は外側層30は、抗血栓性ヘパリン40−生体吸収性ポリマー複合体を含む。このコーティングは、ディップコーティング又はスプレーコーティングプロセスで行い、乾燥後、抗血栓性ヘパリン40−生体吸収性ポリマー複合体はコーティングの外側層に残り、内側層からの薬剤がここを通り抜けて溶出される。また、最も外側の層は、血栓形成を防ぎ、コーティングの内側層(複数)内に含まれる薬剤の放出動力学を調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2007年2月21日に提出された先行出願第11/677,190号の一部継続出願である。
【0002】
〔発明の背景〕
1.発明の分野
本発明は、物品の1表面の少なくとも1部分に適用されるコーティング材料に関する。特に、本発明は多層コーティングを有する抗血栓性及び抗再狭窄性コーティング組成物に関し、この多層コーティングにおいて、第1層又は内側層はポリマー及び1つ以上の生物学的活性薬剤から形成され、第2層又は外側層は抗血栓性ヘパリン生体吸収性ポリマー複合体を含む。本発明はまた、ヘパリン生体吸収性ポリマー複合体の製造方法、並びにそのような抗血栓性ヘパリン生体吸収性ポリマー複合体を含むコーティング材料を、植え込み可能な医療デバイスの表面の少なくとも1部に適用する方法に関する。
【0003】
2、関連技術の考察
アテローム性動脈狭窄化(狭窄)、及び血管形成術又はステント植え込み後の血管の漸進的狭窄化(再狭窄)は、一般的に起こる2つの血管疾患である。狭窄は、血管の狭窄化又は緊縮を指し、これは通常、脂肪、コレステロール、及びその他の物質が長期間にわたって蓄積することによるものである。重篤な場合は、狭窄により血管が完全に詰まり得る。血栓症は、血管内に植え込まれたデバイス上又はその近くでの、凝血塊の形成を指す。凝血塊は通常、細胞要素が捕捉されることによる、血液因子(主に血小板及びフィブリン)の凝集によって形成される。血栓症は、狭窄と同様、その形成の場所においてしばしば血管閉塞を惹き起こす。再狭窄と血栓症の両方は、医療介入を必要とする重篤かつ致命的な可能性のある2つの疾患である。
【0004】
狭窄のために緊縮又は詰まった動脈をきれいにする1つのアプローチは、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)又はバルーン冠動脈形成術である。この処置においては、遮断物を除去するために、血管の収縮部分にバルーンカテーテルが挿入され、膨らまされる。PTCAを受ける患者の約3分の1は、処置から約6ヶ月間以内に、広げた部分が再び狭まる再狭窄を発症する。再狭窄した動脈には、もう一度血管形成術が必要となることがある。
【0005】
再狭窄は、血管形成の代わりに、又は血管形成と共に、動脈の変化領域(effected region)にステントを挿入することからなる一般的な処置により防ぐことができる。ステントとは、金属又はプラスチック製のチューブで、1枚壁(solid walls)又はメッシュ壁のいずれかを有し得る。使用されている多くのステントは金属製であり、自己膨張型又はバルーン膨張可能のいずれかである。ステント挿入処置を実施する決断は、動脈狭窄の特定の特徴によって左右される。これには、動脈の太さ、及び狭窄の位置が含まれる。ステントの機能は、血管形成を使用して最近広げられた動脈を支えることであり、又は血管形成が使用されていない場合は、動脈の弾性反動を防ぐためにステントが使用される。ステントは典型的に、カテーテルを経由して植え込まれる。バルーン膨張可能ステントの場合、このステントは小さな直径に折り畳まれ、バルーンカテーテル上をスライドする。カテーテルは次に、患者の脈管構造を通して、患部又は最近広げられた部分まで導かれる。目的の位置に達したら、ステントが膨張され、定位置に固定される。ステントは動脈内に持続的に留まり、その箇所を開いた状態で保持し、動脈の血流を向上させ、症状(通常は胸痛)を緩和する。
【0006】
ステントは、植え込み部位の再狭窄を防ぐのに完全に有効な方法ではない。ステントの長さにわたって及び/又はステントの端の外側で、再狭窄が起こり得る。最近では、平滑筋細胞増殖を阻害する薬剤を搭載した薄いポリマーフィルムでコーティングされた、新しいタイプのステントが、医師に採用されている。このコーティングは、例えば溶媒蒸発技法などの当該技術分野において周知の方法を用いて、動脈内に挿入される前のステントに適用される。溶媒蒸発技法では、ポリマーと薬剤を溶媒内で混合することが必要となる。ポリマー、薬剤、及び溶媒を含む溶液を、次に、浸漬又はスプレーのいずれかによってステントの表面に適用することができる。ステントには次に、乾燥プロセスが実施され、この間に溶媒が蒸発し、薬剤が中に分散しているポリマー材料が、ステント上に薄いフィルム層を形成する。
【0007】
ポリマー材料からの薬剤の放出メカニズムは、ポリマー及び組み込まれる薬剤の性質によって異なる。薬剤はポリマーを経て、ポリマー−体液界面へと拡散し、体液内に広がる。放出はまた、ポリマー材料の分解によっても起こり得る。ポリマー材料の分解は、加水分解又は酵素消化プロセスによって生じさせることができ、これにより、組み込まれた薬剤が周辺組織へ放出される。
【0008】
コーティングされたステントを使用する際の重要な考慮点は、コーティングからの薬剤の放出速度である。ステントからは、血管形成処置又はステントの植え込みの後の生物学的過程の持続時間(duration of the biological processes following and an angioplasty procedure or the implantation of a stent)をカバーできるよう、合理的に長期間にわたってステントから薬剤の治療的有効量が放出されるのが望ましい。バースト放出(植え込み直後の高速度での放出)は望ましくなく、持続性の問題となる。通常、患者に対しては有害ではないが、バースト放出は、必要な有効量の数倍を放出することにより、薬剤の限られた供給を「浪費」することになり、放出期間の持続時間を短くする。バースト放出を低減するための試みにおいて、いくつかの技法が開発されている。例えば、米国特許第6,258,121 B1号(Yang et al.)には、放出速度を変えた2種類のポリマーを混合し、これを単層に組み込むことによって、放出速度を変える方法が開示されている。
【0009】
薬剤溶出ステントの植え込みにかかわる問題として他に可能性があるのは、ステントの植え込み後の異なる時間に起こり得る血栓症である。ステント表面での血栓形成はしばしば致命的であり、血管内の血栓症を患う患者の20〜40%の高死亡率がもたらされる。
【0010】
ステント血栓症の形成に対処する1つの方法は、ヘパリンなどの有効な抗凝固剤の使用によるものである。ヘパリンは、その抗凝固能力でよく知られる物質である。溶媒蒸発技法を使用してステント表面にヘパリンを搭載した薄いポリマーコーティングを適用することは、当該技術分野において既知である。例えば、米国特許第5,837,313号(Ding et al.)は、ヘパリンコーティング組成物を調製する方法を記述している。残念ながらヘパリンは親水性であるため、血栓が生じるインプラント表面に留まることなく、ポリマーマトリックスから急速に溶出する。ヘパリン分子の浸出、及び抗再狭窄剤が含まれるポリマーマトリックスへの水の湿潤は、ポリマーマトリックスからの薬剤の急速な溶出を惹き起こすことがあり、これにより、薬剤の有効性が望むよりも低くなり得る。薬剤の安定性はまた、水の存在によって悪影響を受けることがある。
【0011】
血栓症を防ぐために使用されるもののような治療用又は生物学的活性薬剤は、コーティングの中に含まれ、これにより、デバイスの植え込み後に、治療用薬剤がコーティングから身体の周囲の組織へと溶出する。よって、コーティングは、製薬学的薬剤又は治療的薬剤がその中に浸透できるものでなければならない。このコーティングはまた、下のベースコートから製薬学的薬剤又は治療的薬剤の溶出を制御するための、物理的バリヤー、化学的バリヤー、又はこれらの組み合わせとして機能することが望ましい。これは、水及び他の体液が治療的薬剤にアクセスするのを制御することによって達成される。流量の調節がない場合、この薬剤は望むよりも急速に溶出することになる。例えば、薬剤を1ヶ月以内に放出させることが望ましい場合、急速な水和によって薬剤が数日中に放出されてしまうことがある。
【0012】
DESに利用されているコーティングの構成成分のいくつかは、再狭窄を低減させるのには有効であっても、血栓症のリスクを高めることがある。薬剤溶出性ステントは典型的に、ステント植え込みの後、急性及び亜急性血栓症(SAT)、又は中期的血栓症(ステント植え込みから30日後)の増加には関連しない。しかしながら長期的な臨床追跡検査では、これらのデバイスが、非常に長期的な血栓症(LST)の発生率を高めていることに関与している可能性があることを示唆している。LSTの増加は1%未満であることが見出されているが、高死亡率は通常、LSTに関連している。これを防ぐ1つの方法は、例えばヘパリンなどの抗凝固剤のコーティングをデバイス上含むことである。
【0013】
薬剤が埋め込まれたコーティングが血栓症に寄与しないことを確実にし、同時に再狭窄を防ぐために薬剤を送達できるようなデバイスはほとんどない。明らかな解決策は、コーティング内で薬剤と抗凝固剤とを組み合わせることであるが、これは抗凝固剤の親水性により、うまくいかない。例えば、治療用薬剤は、溶媒処理により、ポリマーコーティングのマトリックス内に埋め込まれる。抗凝固剤もこのポリマーマトリックス内に埋め込まれると、これにより制御できない状態で水が引き付けられることになる。これは、製造中、又はコーティングされたデバイスが植え込まれたときに起こる可能性があり、薬剤の安定性又は有効性に悪影響を与え、かつ/あるいは望ましい溶出特性を妨げる。
【0014】
それにもかかわらず、抗血栓薬剤と治療薬とを、植え込み可能な医療用デバイス用のコーティング内で組み合わせた、いくつかのアプローチが提案されている。米国特許第5,525,348号(Whitbourne)は、製薬学的剤(ヘパリンを含む)を四級アンモニウム化合物又はその他のイオン性界面活性剤と複合体にし、抗血栓性コーティング組成物として非水溶性ポリマーに結合させる方法を開示している。この方法は、性質として不均質であり、かつ植え込み部位に望ましくない炎症反応を起こし得る、セルロース、又はその誘導体などの天然由来ポリマーの導入の可能性がある。これらの、ヘパリンなどの抗血栓剤と、逆帯電した担体ポリマーとのイオン性複合体は、コーティングの一体性に悪影響ももたらし、追加の製薬学的剤が存在する場合、これらの製薬学的剤の貯蔵安定性及び放出動力学に影響を与える可能性がある。
【0015】
わずかに異なるアプローチが、米国特許第6,702,850号、同第6,245,753号、及び同第7,129,224号(Byun)に開示されており、ここにおいて抗血栓剤(ヘパリンなど)は、非吸収性ポリマー(ポリアクリル酸など)に共有結合で複合化して(covalently conjugated)から、コーティング製剤に使用される。これら複合体の全体の疎水性は、オクタデシルアミン(長鎖炭化水素を有するアミン)などの疎水性薬剤を加えることによって更に調整される。このアプローチは、ヘパリンが生体内で代謝された後、ポリアクリル酸の既知の毒性など、いくつかの潜在的欠点を有する。疎水性アミンの添加では、組織適合性、及びそれぞれの工程での置換反応の再生についての懸念も提起される。更に、コーティングの他の構成成分は生分解性ではない。
【0016】
ヘパリン及びその誘導体の溶解度及び潜在的な混和性を高める別のアプローチは、有機溶媒により高い溶解度を有し、表面改質及び薬剤溶出性医療用デバイス製造に一般的に用いられているコーティングプロセスにより修正しやすい、ヘパリンのプロドラッグを作製することによって行われる。例えば、米国特許第7,396,541 B2号(Hossainy and Ding)は、ヘパリンプロドラッグの作製方法を開示している。ヘパリン生成物は、ヘパリン及び改変ヘパリン種(CHO(アルデヒド)などの特定の基を含む)と、エベロリムスなどの薬剤若しくはポリ(リジン)などのポリマーとの間で複合体となることが可能である。このようなスキームの基本的な要件は、ヘパリンのカルボキシル基又はCHO基の利用である。しかしながら、このアプローチは、次のような欠点を抱える:すなわち、反応が複雑であり、追加の化学的形質転換が特殊なヘパリン誘導体を作製するために含まれることがあり、かつ反応が非特異的であり、転換度のパーセンテージを制御することができない。最終的に、複合体が分解すると、分解は非特異的であるため、薬剤、ヘパリン分子、及びポリマーの特異的活性が失われ得る。
【0017】
別の抗血栓性コーティングアプローチが、米国特許第6,559,132号(Holmer)、同第6,461,665号(Scholander)、及び同第6,767,405号(Eketrop)に開示されており、これらにおいてキトサンなどの担体分子が、医療用デバイスの活性化された金属表面に結合している。その後、ヘパリンは中間体分子に共有結合している。このプロセスは、目的の抗血栓性層が達成されるまで、複数回繰り返すことができる。別の方法としては、このコーティングはバッチプロセスモードで達成することができる。しかしながら、このアプローチは、製薬学的剤を含むポリマーコーティングでコーティングされた医療用デバイスには容易には適用されない。シロリムスなどのこれらの有用な抗再狭窄剤のうちのいくつかは、この複合体化プロセス、特に水性プロセスが関与しているこれらのプロセス中に、損傷することがある。
【0018】
PCT出願WO2005/097223 A1号(Stucke et al)で開示されている方法では、ヘパリン混合物が、ポリ(ブチルメタクリレート)及びポリ(ビニルピロリドン)などの他の耐久性ポリマー中に同じコーティング溶液内に溶解又は分散した状態で、光活性架橋剤と結合し、その溶液中で、又はコーティングが適用された後に、紫外線で架橋される。このアプローチの欠点として可能性があるのは、組み込まれた薬剤が、架橋プロセス中の高エネルギー紫外線で悪影響を受ける可能性があり、また更に悪い場合は、薬剤が紫外線エネルギーで活性化され得る官能基を有している場合、マトリックスポリマーに架橋してしまうことがある。
【0019】
米国特許第2005/0191333 A1号、同第2006/0204533 A1、及びWO 2006/099514 A2号(すべてHsu,Li−Chien,et al.)に開示されている別の一般的なアプローチでは、ヘパリンの低分子量複合体及びその対イオン(ステアリルコニウムヘパリン)、又は高分子量の高分子電解質複合体(例えばデキストラン、ペクチン)を用いて、抗血栓性物質の複合体を形成する。これらの抗血栓性複合体は更に、ポリマーマトリックス中に分散され、これが薬剤を更に含み得る。このようなアプローチは、薬剤及びヘパリンの親水性種の不均質マトリックスを生成し、ここにおいてこの親水性種は、植え込みの前又は後に水を引き付け、薬剤の安定性及び放出動力学に悪影響を与える。加えて、ヘパリン及び類似の薬剤の望ましい抗血栓性機能は、好ましくは表面にあるべきであり、コーティングされた医療用デバイスの表面から溶出して失われるべきではない。よって、医療用デバイスの少なくとも1つの表面に適用するために、上述のように厳しい要件を満足することができ、かつコーティングに浸透させた感受性の高い製薬学的薬剤又は治療用薬剤に適合性のあるプロセスによって調製し得る、コーティング材料の要求が依然として存在する。これは、薬剤溶出ステントの外側表面に適用されたときに、再狭窄と血栓防止の両方を治療するコーティングの要求を充足するのにも役立つ。
【0020】
〔発明の概要〕
ヘパリンと遊離カルボキシル末端基を有する生体吸収性ポリマーとの間の複合体が提供される。加えて、ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含むコーティングを、植え込み可能なデバイスの少なくとも1部分に適用することによって、デバイスの表面に血栓が形成されるのを防ぐ又は低減するための方法が提供される。コーティングの最も外側の層には本発明の複合体が含まれ、これが血栓の形成を防ぎ、かつまたコーティング内側層(複数)内に含まれている薬剤(複数)の放出動力学を調節する働きも提供する。
【0021】
コーティングの第1層又は下層は、ポリマー材料及び生物学的活性薬剤を溶媒と混合することによって調製し、これにより均質な溶液を形成する。ポリマー材料は、幅広い合成材料から選択され得るが、1つの例示的な実施形態においては、ポリ(ラクチド−グリコリド)(PLGA)が使用される。生物学的活性薬剤は、望ましい治療結果に応じて選択される。例えば、パクリタキセルなどの抗増殖剤、ラパマイシンなどの免疫抑制剤、及び/又はデキサメタゾンなどの抗炎症剤が、内側層に含まれ得る。溶液が調製されたら、浸漬又はスプレープロセスによってデバイスに適用することができる。乾燥の際に溶媒が蒸発し、生物学的活性薬剤を搭載したポリマー材料の薄い層がステントの表面にコーティングされて残る。本発明は、1層だけの内側層に限定されるものではなく、あるいは層あたり1つだけの生物学的活性薬剤に限定されるものでもないことが、留意されるべきである。1つ以上の異なる生物学的活性薬剤をそれぞれの層に加えること、及び/又は生物学的活性薬剤を搭載した内側層を複数有することは、本発明の範囲内である。
【0022】
第2層又は外側層は、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含む。このコーティングは、例えば、ディップコーティング又はスプレーコーティングプロセスを用いて、薬剤含有の内側層の上に適用することができる。本発明の1つの例示的な実施形態において、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含む外側層は、酢酸エチル(EA)及びイソプロパノール(IPA)を含む混合溶媒系に溶かすことができる。この溶液を、上記のように薬剤を含む層ですでにコーティングされているデバイスの表面に、スプレーする。乾燥後、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体はコーティングの外側層に残り、内側層からの薬剤がここを通り抜けて溶出される。
【0023】
コーティングされたデバイスは、デバイスの性質に応じた適切な手順を用いて、体内の患部(例えば冠状動脈などの脈管)に挿入される。定位置に配置されると、デバイスはその脈管を開いた状態に保つ。生物学的活性薬剤は第1層から放出され、これにより望ましい治療結果(例えば平滑筋細胞増殖の阻害など)がもたらされる。最も外側の層の抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体は部分的に水和し、デバイス上及び周辺での凝血を防ぐことにより、血栓症及び亜急性用具血栓症(subacute device thrombosis)が阻害される。加えて、最も外側の層の抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体は更に、生物学的活性薬剤が薬剤含有内側層からバースト放出されるのを低減又は防止することができ、これにより比較的長期間にわたる放出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の前述の及び他の特徴及び利点は、以下の付随する図面に示される本発明の好ましい実施態様のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図1】反応開始剤として水を用いた、ラクチド及びグリコリド二量体の混合物の開環重合により、カルボキシル基末端の生体吸収性ポリマー(PLGA)が形成されるのを表わす概略図。
【図2a】カルボキシル末端PLGAポリマーとヘパリン分子のアミン基との複合体形成反応の別の概略図。
【図2b】カルボキシル末端PLAポリマーとヘパリン分子のアミン基との複合体形成反応の別の概略図。
【図2c】カルボキシル末端PLGAポリマーとヘパリン分子のヒドロキシル基との複合体形成反応の別の概略図。
【図2d】カルボキシル末端PLAポリマーとヘパリン分子のヒドロキシル基との複合体形成反応の別の概略図。
【図3】本発明の複合体が外側層に存在するように医療用デバイスの表面に適用されたコーティング構成の概略図。
【0025】
〔好適な実施形態の詳細な説明〕
1層以上のポリマー組成物層が、医療用デバイスに適用され、コーティングを医療用デバイスに提供する。ポリマー組成物は異なる機能を行う。例えば、ある層は、次の追加層を接着することができるベースコートを含み得る。追加層(複数)は、それらのポリマーマトリックス内に生物活性薬剤を擁することができる。あるいは、単一コーティングが適用され得、ポリマー組成物は、例えばコーティングをデバイスに接着させ、血栓を防ぐ薬剤を収容することを可能にするなどの複数の機能をそのコーティングが行うようなものである。他の機能には、再狭窄を防ぐ薬剤を収容することが含まれる。しかしながらしばしば、それぞれの薬剤の化学的要件から、コーティングが保持し得る薬剤の数は制限される。例えば、抗血栓薬剤は親水性である傾向があり、抗増殖剤は比較的疎水性である傾向がある。ゆえに、水への曝露を制限し、マトリックスからの溶出を制御するためには、疎水性薬剤をポリマーコーティングのマトリックス内に捕捉することが望ましい。本発明は、ヘパリンと遊離カルボキシル末端基を有する生体吸収性ポリマーとの間の複合体を提供することにより、異なる性質を有する2つの薬剤をごく近接させて保持する。複合体は、医療用デバイスにコーティングされると、抗血栓剤が実質的に、ポリマーマトリックス内に収容され得る疎水性薬剤から離れる方向に向くようになることを確実にする。
【0026】
下記の定義は、本発明の理解を容易にするために提供されるものであり、本発明の記述をいかなる意味でも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0027】
本明細書で使用される「ステント」は、任意の生体適合性材料で構築された全体に管状の構造であり、導管内に挿入されてその内腔を開いた状態に保ち、狭窄又は外的圧力による閉塞を防ぐものを意味する。
【0028】
本明細書で使用される「生物学的活性薬剤」は、生きている生物に対して治療的価値を有する薬剤又は他の物質を意味し、これには抗血栓剤、抗癌剤、抗凝固剤、抗血小板剤、血栓溶解剤、抗増殖剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤、再狭窄を阻害する薬剤、平滑筋細胞阻害剤、抗生物質など、及び/又はこれらの混合物、並びに/又は生きている生物に対して治療的価値を提供する機能を実施する別の物質を補助し得る任意の物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
例示的な抗癌剤には、アシビシン、アクラルビシン、アコダゾール(acodazole)、アクロニシン(acronycine)、アドゼレシン、アラノシン、アルデスロイキン、アロプリノールナトリウム(allopurinol sodium)、アルトレタミン、アミノグルテチミド、アモナフィド(amonafide)、アンプリゲン(ampligen)、アムサクリン、アンドロゲン、アングイジン(anguidine)、アフィジコリングリシナート、アサレイ(asaley)、アスパラギナーゼ、5−アザシチジン、アザチオプリン、カルメット‐ゲラン菌(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG)、ベーカーズアンチフォール(Baker's Antifol)(可溶性)、β−2’−デオキシチオグアノシン(beta-2'-deoxythioguanosine)、ビスアントレンHCl(bisantrene hcl)、硫酸ブレオマイシン、ブスルファン、ブチオニンスルホキシミン、セラセミド(ceracemide)、カルベチマー(carbetimer)、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、クロロキノクキサリン−スルホンアミド、クロロゾトシン、クロモマイシンA3、シスプラチン、クラドリビン、コルチコステロイド、コリネバクテリウムパルバム、CPT−11、クリスナトール(crisnatol)、シクロシチジン、シクロホスファミド、シタラビン、シテムベナ(cytembena)、ダビスマレアート、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシンHCl、デアザウリジン、デクスラゾキサン、ジアンヒドロガラクチトール、ジアジクオン、ジブロモズルシトール、ジデムニンB、ジエチルジチオカルバミン酸、ジグリコアルデヒド、ジヒドロ−5−アザシチジン、ドキソルビシン、エチノマイシン、エダトレキサート、エデルフォシン、エフロミチン(eflomithine)、エリオット溶液、エルサミトルシン(elsamitrucin)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、リン酸エストラムスチン、エストロゲン、エタニダゾール、エチオフォス(ethiofos)、エトポシド、ファドラゾール(fadrazole)、ファザラビン(fazarabine)、フェンレチニド、フィルグラスチム、フィナステリド、フラボン酢酸、フロクスウリジン、リン酸フルダラビン、5−フルオロウラシル、Fluosol(登録商標)、フルタミド、硝酸ガリウム、ゲムシタビン、酢酸ゴセレリン、ヘプスルファム(hepsulfam)、ヘキサメチレンビスアセタミド、ホモハリングトニン、硫酸ヒドラジン、4−ヒドロキシアンドロステンジオン(4-hydroxyandrostenedione)、ヒドロジウレア(hydrozyurea)、イダルビシンHCl、イフォスファミド、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン−1α及びβ、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−6、4−イポメアノール(4-ipomeanol)、イプロプラチン(iproplatin)、イソトレチノイン、ロイコボリンカルシウム(leucovorin calcium)、酢酸ロイプロリド、レバミソール、リポソームのダウノルビシン、リポソーム内に捕捉されたドキソルビシン、ロムスチン、ロニダミン、マイタンシン、塩酸メクロレタミン、メルファラン、メノガリル、メルバロン、6−メルカプトプリン、メスナ、カルメット‐ゲラン菌のメタノール抽出残留物、メトトレキセート、N−メチルホルムアミド、ミフェプリストン、ミトグアゾン、マイトマイシン−C、ミトタン、塩酸ミトキサントロン、単球/マクロファージコロニー刺激因子、ナビロン、ナフォキシジン、ネオカルジノスタチン、酢酸オクトレオチド、オルマプラチン(ormaplatin)、オキサリプラチン、パクリタキセル、パラ(pala)、ペントスタチン、ピペラジンジオン(piperazinedione)、ピポブロマン、ピラルビシン、ピリトレキシム、塩酸ピロキサントロン(piroxantrone hydrochloride)、PIXY−321、プリカマイシン、ポルフィマーナトリウム、プレドニムスチン、プロカルバジン、プロゲスチン、ピラゾフリン(pyrazofurin)、ラゾキサン、サルグラモスチム、セムスチン、スピロゲルマニウム、スピロムスチン、ストレプトニグリオン、ストレプトゾシン、スロフェヌル(sulofenur)、スラミンナトリウム、タモキシフェン、タキソテール、テガフール、テニポシド、テレフタルアミジン、テロキシロン(teroxirone)、チオグアニン、チオテパ、チミジン注射、チアゾフリン、トポテカン、トレミフェン、トレチノイン、塩酸トリフロペラジン、トリフルリジン、トリメトレキサート、腫瘍壊死因子、ウラシルマスタード、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ビンゾリジン、Yoshi 864、ゾルビシン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0030】
例示的な抗炎症剤には、伝統的な非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)(例えばアスピリン、ジクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、テノキシカム、トルメチン、ケトロラク、オキサプロシン、メフェナム酸、フェノプロフェン、ナムブメトン(レラフェン)、アセトアミノフェン(Tylenol(登録商標)、及びこれらの混合物)、COX−2阻害剤(例えばニメスリド、NS−398、フロスリド(flosulid)、L−745337、セレコキシブ、ロフェコキシブ、SC−57666、DuP−697、パレコキシブナトリウム、JTE−522、バルデコキシブ、SC−58125、エトリコキシブ、RS−57067、L−748780、L−761066、APHS、エトドラク、メロキシカム、S−2474、及びこれらの混合物)、グルココルチコイド(例えばヒドロコルチゾン、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、フルプレニゾロン、ベータメタゾン、デキサメタゾン、フルドロコルチゾン、デソキシコルチコステロン、及びこれらの混合物)、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
例示的な抗再狭窄剤には、ラパマイシン、又はそのさまざまな誘導体及び類似体が挙げられる。最も重要なラパマイシン薬剤には、シロリムス、エベロリムス、ビオリムス、ゾタロリムス及びCC1−779が挙げられる。ラパマイシンは、米国特許第3,929,992号に開示されているように、ストレプトマイセスハイグロスコピカスにより産生される大環状トリエン抗生物質(macroyclic triene antibiotic)である。ラパマイシンは、生体内で血管平滑筋細胞の増殖を阻害することが見出されている。したがって、ラパマイシンは、特に生物学的若しくは機械的に惹き起こされる血管損傷後の哺乳動物における内膜平滑筋細胞過形成、再狭窄及び血管閉塞の処置に使用され、又は哺乳動物がそのような血管損傷をこうむるであろう場合において使用され得る。ラパマイシンは、平滑筋細胞増殖を阻害するよう機能し、血管壁の再内皮化を妨害しない。
【0032】
ラパマイシンは、数多くのメカニズムを経て、平滑筋細胞増殖を阻害するように機能する。加えて、ラパマイシンは、血管の外傷(例えば、炎症)によって生じる他の影響を低減する。ラパマイシンの使用及びさまざまな機能が下記に詳しく述べられる。本出願全体に使用されているラパマイシンには、FKBP12を結合するラパマイシン、ラパマイシン類似体、誘導体、及び同属物であり、ラパマイシンと同じ薬理学的特性を有するものが挙げられる。
【0033】
ラパマイシンは、血管形成術中に放出される細胞分裂促進シグナルに応答した平滑筋増殖を拮抗することにより、血管過形成を低減する。細胞周期の後期G1期における増殖因子及びサイトカインによる平滑筋増殖の阻害は、ラパマイシンの主な作用メカニズムであると思われる。しかしながら、ラパマイシンはまた、全身投与された際に、T細胞増殖及び分化を防止することも知られている。これは、その免疫抑制活性、及びそのグラフト拒絶を防止する能力の基礎である。
【0034】
新生内膜過形成の程度及び期間を低減するように作用する、既知の抗増殖剤であるラパマイシンの作用を担う分子事象は、いまだに解明中である。しかしながら、ラパマイシンは細胞に入り込み、FKBP12と称される高親和性の細胞質タンパク質に結合することが知られている。ラパマイシンとFKPB12との複合体は、次に「ラパマイシンの哺乳動物標的」又はmTORと称されるホスホイノシチド(Pl)−3キナーゼに結合し、これを阻害する。ラパマイシンの哺乳動物標的は、平滑筋細胞及びTリンパ球内での細胞分裂促進性増殖因子及びサイトカインに関連した下流シグナリング事象を仲介する際に、鍵となる役割を果たすタンパク質キナーゼである。これらの事象には、p27のリン酸化、p70 s6キナーゼのリン酸化、及びタンパク質翻訳の重要な制御因子である4BP−1のリン酸化が含まれる。
【0035】
本明細書で使用される「ポリマー」は、繰り返しのモノマー単位又はコモノマー単位からなる巨大分子を意味する。
【0036】
本明細書で使用される「巨大分子」は、合成巨大分子、タンパク質、生体ポリマー及び他の分子であって、分子量が典型的に1000を超えるものを意味する。
【0037】
本明細書で使用される「有効量」は、非毒性であるが、任意の医学的治療に伴う、望ましい局所的又は全身的効果、及び妥当な利益/リスク比での性能をもたらすのに十分な、薬理学的活性薬剤の量である。
【0038】
本発明の1つの例示的な実施形態において、コーティングの第1層又は内側層は、ラパマイシンのような、平滑筋細胞の増殖及び移動を防ぐ生物学的活性薬剤を搭載したポリマーフィルムを含む。薬剤がポリマーマトリックス内に配置される1つの方法には、溶媒又は溶媒の混合物を用い、この中に薬剤及びポリマーが溶解されることが含まれる。混合物が乾くと、溶媒が除去され、薬剤がポリマーのマトリックス内に捕捉されて残る。内側/第1ポリマー層の作製に使用することができる例示的なポリマーには、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PLLA−ポリ−グリコール酸(PGA)コポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)ポリ−(ヒドロキシブチラート−co−ヒドロキシバレラート)コポリマー(PHBV)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Teflon(登録商標))、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(ポリ−HEMA)、ポリ(エーテルウレタン尿素)、シリコーン、アクリル、エポキシド、ポリエステル、ウレタン、ポリホスファゼンポリマー、フルオロポリマー、ポリアミド、ポリオレフィン、及びこれらの混合物が挙げられる。内側/第1ポリマーフィルムの作製に使用することができる例示的な生体吸収性ポリマーには、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸(DL−PLA)、ポリ−L−乳酸(L−PLA)、ポリ(ヒドロキシブチラート)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、及び脂肪族ポリカーボネートが挙げられる。
【0039】
第2層又は最も外側の層は、強い抗凝固特性を備えた抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含み得る。この抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体の第2層は、加えて、第1層又は内側層に分散している生物学的活性薬剤のバースト放出を防ぐ効果を有し、これにより、この生物学的活性薬剤の比較的長い放出期間が得られる。第1層は、2種以上の生物学的活性薬剤を含み得る。
【0040】
本発明の説明の目的のため、コーティング(複数)は、ステント及び/又はステントグラフトなどの医療用デバイスに適用される。また、有機体液などに接触している任意の基材、医療用デバイス、又はこれらの1部分も、本発明でコーティングされ得ることが理解されよう。例えば、大静脈フィルター及び吻合デバイスなどの他のデバイスも、中に薬剤を有するコーティングと共に使用することができ、又はデバイス自体を、中に薬剤を含むポリマー材料で作製することができる。本明細書に記述されているステント及び他の医療用デバイスは、局所又は部分的薬物送達に利用することができる。バルーン膨張可能ステントは、任意の数の脈管又は導管内で利用することができ、特に冠状動脈内での使用に適している。一方、自己膨張型ステントは、例えば、頸動脈など、破壊回復が重要な因子である脈管内で使用するのに特に適している。
【0041】
一般に、例えばステンレススチール、コバルトクロム合金などで製造された(あるいはプラスチック又は他の適切な材料も使用される)金属製のステントが使用され得るが、ポリマー製ステントにコーティングを適用することもできる。1つの実施形態において、ステントは、L605コバルトクロム合金である。第1コーティング及び第2コーティングが全ステント表面の少なくとも1部分を覆っていることが望ましいが、必須ではない。第1層の適用は、溶媒蒸発プロセスによって、又は他の既知の方法で、達成される。溶媒蒸発プロセスには、ポリマー材料と生物学的活性薬剤とをテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒と組み合わせることが必要であり、これを攪拌により混合して、混合物を形成する。第1層の例示的なポリマー材料にはポリウレタンが含まれ、例示的な生物学的活性薬剤にはラパマイシンが含まれる。この混合物を次に、(1)溶液をステントにスプレーするか、又は(2)ステントを溶液に浸漬するか、のいずれかによって、ステント表面に適用する。この混合物を適用した後、ステントは乾燥プロセスを経て、この間に溶媒が蒸発し、ポリマー材料及び生物学的活性薬剤がステント上に薄いフィルムを形成する。別の方法としては、複数の生物学的活性薬剤が第1層に添加され得る。
【0042】
ステントコーティングの第2層又は最も外側の層は、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含む。この抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体は、有機溶媒又はさまざまな極性の有機溶媒の混合物に可溶であり得る。ヘパリンは、未分画ヘパリン、分画されたヘパリン、低分子量ヘパリン、脱硫酸ヘパリン及びさまざまな哺乳動物由来のヘパリンを含み得る。例示的な抗血栓性薬剤には、ビタミンK拮抗薬(例えばアセノクマロール、クロリンジオン、ジクマロール(Dicumarol、Dicoumarol)、ジフェナジオン、エチルビスクムアセテート、フェンプロクモン、フェニンジオン、チオクロマロール、ワルファリン)、ヘパリン群抗血小板凝固阻害剤(例えばアンチトロンビンIII、ベミパリン、ダルテパリン、ダナパロイド、エノキサパリン、ヘパリン、ナドロパリン、パルナパリン、レビパリン、スロデキシド、チンザパリンなど)、その他の血小板凝固阻害剤(例えばアブシキシマブ、アセチルサリチル酸(アスピリン)、アロキシプリン、ベラプロスト、ジタゾール、カルバサラートカルシウム、クロリクロメン、クロピドグレル、ジピリダモール、エプチフィバチド、インドブフェン、イロプロスト、ピコタミド、プラスグレル、プロスタサイクリン、チクロピジン、チロフィバン、トレプロスチニル、トリフルサルなど)、酵素系抗凝固剤(例えばアルテプラーゼ、アンクロッド、アニストレプラーゼ、ブリナーゼ、ドロトレコギンアルファ、フィブリノリジン、プロテインC、レテプラーゼ、サルプラーゼ、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、ウロキナーゼなど)、直接血栓阻害剤(例えばアルガトロバン、ビバリルジン、ダビガトラン、デシルジン、ヒルジン、レピルジン、メラガトラン、キシメラガトランなど)、及び他の抗血栓阻害剤(例えばダビガトラン、デフィブロチド、デルマタン硫酸、フォンダパリナックス、リバロキサバン)が挙げられ得る。
【0043】
例示的な実施形態において、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体は、次のように調製される。第1に、d,l−ラクチドの環状二量体を約140℃の高温で、触媒オクタン酸第1スズ(catalyst Stannous Octoate)(Sn(Oct)及び所定量の水(開環反応開始剤として)の存在下において重合する。開環重合により、ポリエステルのホモポリマーを含む最終製品が得られる。それぞれのポリマーの分子量は、環状二量体と反応開始剤との間の比によって決定される。環状二量体の反応開始剤に対する比が高いほど、ポリマーの分子量が大きくなる。開環重合に使用される反応開始剤は、重合したポリエステルの末端基を決定する。エタノールなどの1官能基反応開始剤は、末端にヒドロキシル基を1つだけ有する最終ポリマーをもたらす。エチレングリコールなどの2官能基反応開始剤は、両方の末端にヒドロキシル基を有するポリマーをもたらす。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、水などの反応開始剤は、最終ポリマーの一方の末端にカルボキシル基を生成し、これは更に容易に、続いて起こるヘパリン分子との複合化反応に使用される。第1工程で合成された、カルボキシル末端基を有する生体吸収性ポリマーは、ヘパリン分子のアミン基又はヒドロキシル基とのカップリング反応の前に、N,N−ジシクロへキシルカルボジイミド塩酸塩(DDC)及びN,N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を使用することによって活性化され得る。ヘパリン分子、組換え型ヘパリン、ヘパリン誘導体又はヘパリン類似体(望ましい分子量1.661×10−21〜1.661×10−18g(1,000〜1,000,000ダルトン)を有する)の任意のものをこのカップリング反応に使用して、最終的な抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体が生成されるが、脱硫酸ヘパリンを使用して反応のカップリング効率を高めるのが望ましい。
【0045】
抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体が調製されたら、抗血栓性ヘパリンポリマー複合体を含む第2層を、溶媒蒸発手法又は他の好適な方法を使用して、第1層の上に直接適用することができる。植え込み可能医療用デバイスの表面から溶媒が蒸発した後、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含む薄いフィルムが、デバイスの最も外側の表面に形成される。
【0046】
下記の実施例は、本発明の趣旨に従った複合体の作製を説明する。
【0047】
I.実施例1
カルボキシル末端基を有する生体吸収性ポリマーの調製
所定量のd,l−ラクチド及びグリコリド(モル比50:50、両方ともPurac USAより入手)を、電磁攪拌棒を備えた乾燥した丸底フラスコのガラス製反応器に入れる。所定量の水及びオクタン酸第1スズを含むトルエン溶液を、このガラス製反応器に加える。ガラス製反応器を次にストッパーで密封し、アルゴンガス通気と減圧を3回繰り返して、反応器内の空気及び酸素を除去する。密封された反応器を次に、電磁攪拌棒で攪拌し続けながら減圧下で140℃まで徐々に加熱する。反応が完了したら、ポリマーを塩化メチレンに溶かし、エタノール中で沈殿させ、減圧下、低い熱で乾燥させる。このプロセスは図1に概略的に示されている。
【0048】
同様に、上記と同じ反応において、d,l−ラクチドだけを(ラクチドとグリコリドの混合物の代わりに)使用し、複合体のためのPDLAを合成することができる。
【0049】
II.実施例2a
抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体の調製
実施例1で作成した生体吸収性PDLGAポリマーを、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かし、次にN−ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)及びジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)に溶解させる。PDLGA、NHS、及びDCCのモル比は、1:1.6:1.6である。結果として得られた溶液を、室温で減圧下に5時間保つ。副生成物のジシクロへキシル尿素(DCU)、及び未反応のDCC及びNHSは、濾過及び水での抽出により除去される。活性化した生体吸収性ポリマーを次に、DMFに溶かし、脱硫酸ヘパリンと室温で4時間反応させる。最終的に得られるヘパリンPLGA複合体を、次に沈殿させ、凍結乾燥させる。このプロセスは図2aに概略的に示されている。
【0050】
実施例2b
抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体の調製
上記で作成した生体吸収性PDLAポリマーを、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かし、次にN−ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)及びジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)に溶解させる。PLA、NHS、及びDCCのモル比は、1:1.6:1.6である。結果として得られた溶液を、室温で減圧下に5時間保つ。副生成物のジシクロへキシル尿素(DCU)、及び未反応のDCC及びNHSは、濾過及び水での抽出により除去される。活性化した生体吸収性ポリマーを次に、DMFに溶かし、脱硫酸ヘパリンと室温で4時間反応させる。最終的に得られるヘパリンPLGA複合体を、次に沈殿させ、凍結乾燥させる。このプロセスは図2bに概略的に示されている。
【0051】
実施例2c
抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体の調製
実施例1で作成した生体吸収性PDLGAポリマーを、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かし、次にN−ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)及びジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)に溶解させる。PDLGA、NHS、及びDCCのモル比は、1:1.6:1.6である。結果として得られた溶液を、室温で減圧下に5時間保つ。副生成物のジシクロへキシル尿素(DCU)、及び未反応のDCC及びNHSは、濾過及び水での抽出により除去される。活性化した生体吸収性ポリマーを次に、DMFに溶かし、ヘパリンと室温で4時間反応させる。最終的に得られるヘパリンPLGA複合体を、次に沈殿させ、凍結乾燥させる。このプロセスは図2cに概略的に示されている。
【0052】
実施例2d
抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体の調製
上記で作成された生体吸収性PDLAポリマーを、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かし、次にN−ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)及びジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)に溶解させる。PDLA、NHS、及びDCCのモル比は、1:1.6:1.6である。結果として得られた溶液を、室温で減圧下に5時間保つ。副生成物のジシクロへキシル尿素(DCU)、及び未反応のDCC及びNHSは、濾過及び水での抽出により除去される。活性化した生体吸収性ポリマーを次に、DMFに溶かし、ヘパリンと室温で4時間反応させる。最終的に得られるヘパリンPLGA複合体を、次に沈殿させ、凍結乾燥させる。このプロセスは図2dに概略的に示されている。
【0053】
III.実施例3
ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含む最も外側の層を備えた薬剤溶出性ステントのコーティング
本発明によるコーティングされた医療用デバイス50は、図3に概略的に示されている。コバルトクロム製ステントの表面10に、薬剤含有ポリマー溶液20(これは例えば、PLGA及びラパマイシンを含む酢酸エチル(EA)を含み得る)をスプレーコーティングする。PLGAとラパマイシンとの重量比は、2:1である。薬剤含有層20が乾燥した後、ヘパリン−生体吸収性ポリマー複合体を含んだコーティング溶液30が、第1の薬剤含有層20の上にスプレーコーティングされる。コーティング溶液30が乾燥すると、最も外側の表面に実質的に配置されたヘパリン40を有する薄いフィルムが得られる。
【0054】
最も実際的で好ましいと思われる実施形態を示し記載したが、記載し示した特定の構成及び方法からの逸脱は、それ自体が当業者に示唆され、本発明の趣旨から逸脱することなく使用され得ることは明らかである。本発明は、記載及び図示された特定の構成に限定されず、添付の特許請求の範囲内に含まれ得る全ての変更物と一致するよう構成されるべきである。
【0055】
〔実施の態様〕
(1) ヘパリンと、追加の製薬学的又は生物学的活性官能基を有さない生分解性ポリマーとの複合体を含むコーティングであって、該生分解性ポリマーは、少なくとも1つの環状ラクトンから開環重合を経て形成される、コーティング。
(2) 前記ヘパリンが、未変更のヘパリン、部分的に分解されたヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、及び脱硫酸ヘパリンからなる群から選択される、実施態様1に記載のコーティング。
(3) 前記環状ラクトンが、L,L−ラクチド、D,L−ラクチド、グリコリド、カプロラクトン(capralactone)、塩化トリメチレン(TMC)、ジオキサノン及びこれらのラクトンからなる群から選択される、実施態様1に記載のコーティング。
(4) 次の式の構造:
【化1】

を有し、
式中、n及びmが、独立して1〜1000の整数である、実施態様1に記載のコーティング。
(5) スプレーコーティング、ディップコーティング、及びインクジェットにより、医療用デバイスの表面に適用される、実施態様1に記載のコーティング。
(6) 抗再狭窄性、抗炎症性、抗血栓性、及び抗増殖性の化合物からなる群から選択される製薬学的剤又は生物学的活性化合物を更に含む、実施態様1に記載のコーティング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリンと、追加の製薬学的又は生物学的活性官能基を有さない生分解性ポリマーとの複合体を含むコーティングであって、該生分解性ポリマーは、少なくとも1つの環状ラクトンから開環重合を経て形成される、コーティング。
【請求項2】
前記ヘパリンが、未変更のヘパリン、部分的に分解されたヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、及び脱硫酸ヘパリンからなる群から選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記環状ラクトンが、L,L−ラクチド、D,L−ラクチド、グリコリド、カプロラクトン、塩化トリメチレン(TMC)、ジオキサノン及びこれらのラクトンからなる群から選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
次の式の構造:
【化1】

を有し、
式中、n及びmが、独立して1〜1000の整数である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
スプレーコーティング、ディップコーティング、及びインクジェットにより、医療用デバイスの表面に適用される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
抗再狭窄性、抗炎症性、抗血栓性、及び抗増殖性の化合物からなる群から選択される製薬学的剤又は生物学的活性化合物を更に含む、請求項1に記載のコーティング。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−19918(P2011−19918A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−161311(P2010−161311)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(510197221)コーディス・コーポレイション (11)
【氏名又は名称原語表記】Cordis Corporation
【住所又は居所原語表記】430 Route 22, Bridgewater, NJ  08807, United States of America
【Fターム(参考)】