説明

抗血液凝固作用を有する希少元素セリウム及びその誘導体

【課題】本発明は抗血液凝固剤に関する。血栓症状の予防および治療、あるいは医療用具の表面処理に使用できる、安価で安全な抗血液凝固剤、そしてこの抗血液凝固剤を含む抗血栓症剤、また、この抗血液凝固剤を含む医療用具の血液接触面処理剤を提供する。容易に入手することができ、かつ優れた抗血液凝固性を示し、しかも多方面にわたる血液検査に対しても悪影響を与えない抗血液凝固剤を提供する。
【解決手段】本発明は、ヘパリン抗血液凝固剤の代替となる優れた安全性を備える抗血液凝固剤および、従来のヘパリン系抗血液凝固剤に比べ、生産性が高く、安価に使用できる希少元素セリウム及びその誘導体を用いたヒト抗血液凝固剤を提供することにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希少元素セリウム及びその誘導体を用いた抗血液凝固剤・医療用具の血液接触面処理剤・血栓形成防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なCa2+結合蛋白質(例えば要因Xおよびトリプシン)に関する研究は、これまで知られている。結晶学に基づいて、ランタニド元素イオンがこれらの蛋白質の金属結合部位へ、化学量論的に、その部位のCa2+より用量的にしっかりと結合するように見える。カルシウムイオンは、内因系と外因系による血液凝固カスケードおよびフイブリン生成にとって重要である。
【0003】
Furie等は、活性化第X要因 (第Xa要因)によって、プロトロンビンからトロンビンの生成に必要なカルシウムイオンにランタニド元素イオンが代用されるかもしれないと報告した。さらに、第XIII要因が、その蛋白質を分解されて活性化される間のCa2+の存在は、活性化された第XIII要因の生成および最適な酵素活性の発現の両方に重要であると報告されている
【0004】
近年の医療技術の進歩に対する臨床検査の果す役割は極めて大きく、特に、血液検査は疾病診断や治療の経過判断、或いは予防医学に関して非常に重要なものであり、そのための抗血液凝固剤の重要性が認識されている。
【0005】
抗血液凝固剤としてはヘパリン塩系の抗血液凝固剤がよく知られており、人工透析や体外循環時の血液凝固防止のために患者の血液中に投与がなされ、また、検査或いは治療時に血液が接触する医療用材料の表面処理用として多量に用いられている。
【0006】
また、血液検査を目的とした抗血液凝固剤としてはエチレンジアミン四酢酸やクエン酸の金属塩系の抗血液凝固剤が知られている。
【特許文献1】特開2004-002355
【特許文献2】特開2000-279511
【非特許文献1】Biochemistry International,28(1), p113-119, (1992).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗血液凝固剤のうち、ヘパリン系抗血液凝結剤の場合は、その原料であるヘパリンは現在では各種動物の臓器からの抽出によってのみ得られるため、生産性が悪く、生産コストも高く、患者の経済性に大きな負担となっている。また、原料を各種動物の臓器に依存しているので、病原菌等の不純物の混入の危険性も否定出来ず、安全性の面でも問題がある。
【0008】
また、エチレンジアミン四酢酸やクエン酸の金属塩系の抗血液凝固剤の場合は、血液形態検査や凝固・線溶系検査として日常用いられているが、これら抗血液凝固剤は生体系への悪影響のために生体内への投与は不可能であるので、ヘパリン系抗血液凝固剤の代替とはならないという問題がある。
【0009】
そこで、従来のヘパリン系抗血液凝固剤の代替となり、優れた安全性を有し、かつ生産性が高くて、生産コストの安い抗血液凝固剤の出現が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、ヘパリン抗血液凝固剤の代替となる優れた安全性を備える抗血液凝固剤および、従来のヘパリン系抗血液凝固剤に比べ、生産性が高く、安価に製造することが出来る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の抗血液凝固剤は、抗血液凝固作用を有する希少元素セリウム及びその誘導体
から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
発明の抗血液凝固剤は、従来の合成高分子を利用した抗血液凝固剤では使用不可能であった人工透析や体外循環治療用等の抗血液凝固剤としてヘパリン系抗血液凝固剤の代替品として使用することが出来ると共に、従来のヘパリン系抗血液凝固剤に比較して病原菌等の不純物の混入の危険性がなく、生体に対して優れた安全性を有する等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、我々は種々の異なるセリウムを用いた実験条件での凝固時間に及ぼす影響を解析し、セリウムによる抗血液凝固抑制効果を発見した。
【実施例1】
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0015】
血液凝固時間の測定には(a)カルシウム再加凝固法、(b)活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、(c)プロトロンビン時間(PT)を用いた。
【0016】
カルシウム再加凝固法による血液凝固時間の測定結果を図1に示した。ヒト血漿では、塩化セリウム(CeCl3)、塩化カドミウム(CdCl2)を加えた場合に凝固時間の延長が見られたが、塩化鉄(FeCl3)を加えた場合は、対照群との差は見られなかった。統計的に、塩化セリウム(CeCl3)と塩化カドミウム(CdCl2)では対照群と比較して、危険率1%で有意な差が認められた。ただし、塩化カドミウムでは凝固時間が長すぎたために正確な時間は測定できなかった。
【0017】
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)による血液凝固時間の測定結果を図2に示した。ヒト血漿では、塩化セリウム(CeCl3)、塩化カドミウム(CdCl2)および塩化鉄(FeCl3)を加えた全ての場合に凝固時間の延長が見られた。しかし、統計的に対照群と有意な差が認められたのは、塩化セリウム(CeCl3)と塩化カドミウム(CdCl2)だけで、1%の危険率で有意であった。
【0018】
プロトロンビン時間( PT )による血液凝固時間の測定結果を図3に示した。実験結果をFig.5に示した。ヒト血漿では塩化セリウム(CeCl3)と塩化カドミウム(CdCl2)を加えた場合に、凝固時間の延長が見られた。しかし、APTTの時とは違い、塩化鉄(FeCl3)を加えても対照群と比べて凝固時間の差は見られなかった。統計的に塩化セリウム(CeCl3)と塩化カドミウム(CdCl2)は、対照群と比べて危険率1%で有意であった。
【0019】
今回の実験結果をまとめると、ヒト血漿では、希土類元素(塩化セリウム)と重金属(塩化カドミウム)のどちらでもAPTTとPTの延長が見られたことから、共通系凝固因子(第X因子)活性の阻害が考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ヒト血清における希少元素セリウム及び重金属の凝固時間に対する影響。カルシウム再加凝固法による血液凝固時間の測定結果を示した。
【図2】ヒト血清における希少元素セリウム及び重金属の凝固時間に対する影響。活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)による血液凝固時間の測定結果を示した。
【図3】ヒト血清における希少元素セリウム及び重金属の凝固時間に対する影響。プロトロンビン時間( PT )による血液凝固時間の測定結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希少元素セリウム及びその誘導体を用いたヒト抗血液凝固剤
【請求項2】
希少元素セリウム及びその誘導体を用いたヒトの抗血液凝固剤を含む、医療用具の血液接触面処理剤。
【請求項3】
希少元素セリウム及びその誘導体を用いたヒト血栓形成防止剤

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−298815(P2006−298815A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121908(P2005−121908)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】