説明

抗酸化剤

【課題】新規な抗酸化剤を提供する。
【解決手段】 乳タンパク質中のアミノ酸配列中に見いだされる3〜6つのアミノ酸からなるアミノ酸配列を有し、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2つ以上含み、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸をN末端及びC末端に有するか、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2個連続して有するペプチドを有効成分とし、ペプチドのORAC活性値がBHAのORAC活性値よりも大きい抗酸化剤を提供する(但し、WYSLAMのアミノ酸配列を有するペプチドを除く)。これらのペプチドはα−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンなどの乳タンパク質の酵素分解により、またはペプチド合成により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗酸化剤、具体的には乳タンパク質中に見いだされるアミノ酸配列からなるORAC活性を有するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
ORACとは、Oxygen Radical Absorbance Capacityの頭文字であり、1992年に米国のNational Institute on Aging(国立老化研究所)でGuohua Caoらによって開発された。ORACは日本語では活性酸素吸収能力(以下「ORAC活性」)と呼ばれ、食品などに含まれる種々の抗酸化物質(カテキン、フラボノイド、ビタミンEなど)の抗酸化能力を表す一方法である。この方法は、親水性と親油性の抗酸化能力を分別定量できる方法である。そして、食品やサプリメントの抗酸化能力を科学的に分析する基準として世界において用いられるようになってきている。事実、米国においてはORAC活性値を表記した多くの食品が上市されており、その数値が具体的に表示されている。
【0003】
これまで、アミノ酸の抗酸化作用については、例えば非特許文献1〜6に報告があるが、これらの文献はORAC活性を指標とするものではなく、ORACを指標とするものではわずかに非特許文献5や6の報告があるのみである。これらの報告のうち、非特許文献5では、乳タンパク質であるβ−カゼインやβ−ラクトグロブリンの脂質酸化抑制作用が調べられ、Trp-Tyr-Ser-Leu-Ala-Met-Ala-Ala-Ser-Asp-Ileのアミノ酸配列(配列番号31)を有するペプチドが、抗酸化物質としてよく知られているBHA(Butylated Hydroxyanisole)とほぼ同様な活性を示すことが開示されている。また、このペプチド以外にも、Met-His-Ile-Arg-Leuのアミノ酸配列(配列番号32)を有するペプチドやTyr-Val-Glu-Glu-Leuのアミノ酸配列(配列番号33)を有するペプチドもORAC活性を示すことが示されている。
【0004】
しかしながら、配列番号31で示されるペプチドのORAC活性値は、トリプトファン単独のORAC値よりも小さく、当該ペプチドを構成するアミノ酸の混合物のORAC活性値と比べても小さいことが示されている(非特許文献1)。これらのことはペプチド結合やペプチドの立体構造の影響によるものと推測されている。また、配列番号32や配列番号33で示されるペプチドのORAC活性値も同様に、当該ペプチドを構成するアミノ酸の混合物が示すORAC活性値の総和よりも小さく、計算上の合計値であるORAC理論値に比べても小さい。さらに、これらのペプチドが有するORAC活性値は各アミノ酸が有するORAC活性値の計算上の合計値(ORAC理論値:各アミノ酸のORAC活性値の総和)に比べてかなり小さいことも理解される(表3参照)。
【0005】
また、非特許文献6では、配列番号31で示されるペプチドを基礎として、このペプチドのC末端側から、ペプチドを構成するアミノ酸を2個、3個と順に1つずつ除去したペプチドについてのORAC活性が示されている。そして、これらのペプチドを構成するアミノ酸の混合物が有するORAC活性値とこれらのペプチドのORAC活性値との比較が行われている。その結果、Trp-Tyrのアミノ酸配列(配列番号35)を有するペプチド、Trp-Tyr-Serのアミノ酸配列(配列番号36)を有するペプチド、Trp-Tyr-Ser-Leu-Ala-Metのアミノ酸配列(配列番号39)を有するペプチドのORAC活性値が、個々のアミノ酸混合物のORAC活性値よりも有意に大きいことが示されている。そして、これは既に非特許文献7において報告されているSer-Ala-Leu-Ala-Metのアミノ酸配列(配列番号34)を有するペプチドのORAC活性値の約3倍であることが示されている。
【0006】
これらのことより、配列番号39で示されるペプチドにおいては、ORAC活性値の高いTrp及びTyrの存在及びその位置が重要な要素であるとされている。また、配列番号36及び37で示されるペプチドのうちSerの欠落がORAC活性値の増加に重要な要素であると結論づけられている。
【0007】
【非特許文献1】富田裕一郎, 鹿児島大学農学部学術報告, 1971
【非特許文献2】Levine R.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 15036-15040(1996)
【非特許文献3】Park EY. et al., J. Agric. Food Chem., 53, 8334-8341(2005)
【非特許文献4】Ellas RJ. et al. J. Agric. Food Chem., 53, 10248-10253(2005)
【非特許文献5】Hernandez-Ledesma B. et. al., J. Agric. Food Chem., 53, 588-593(2005)
【非特許文献6】Hernandez-Ledesma B. et. al., J. Agric. Food Chem., 55, 3392-3397(2007)
【非特許文献7】Davalos, A., J. Food Prot., 67, 1939-1944(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、ペプチドの有するORAC活性値とペプチドを構成するアミノ酸の混合物が有するORAC活性値や各アミノ酸が有するORAC活性値から計算されるORAC理論値とは全く関係がなく、ペプチドのORAC活性値は特定のアミノ酸の有無及びこれらのアミノ酸の位置に依存するものと考えられる。
【0009】
本発明者らは栄養価に優れた乳中に含まれる乳タンパク質に着目し、非特異性のペプチダーゼにより任意の位置で切断されたペプチドから、ORAC活性値の高いペプチドを分離してこれらを利用することができれば、抗酸化活性にすぐれたより有効な乳製品を提供できると考えた。
【0010】
そこで、本発明者らは、乳タンパク質を構成するアミノ酸について独自にORAC活性を測定すると共に、高いORAC活性を示したTrp、Tyr、Met、Cys、Hisの5つのアミノ酸に着目し、これらのアミノ酸を含むペプチドについてORAC活性を測定したところ、ORAC活性に優れた数多くのペプチドを見つけ出した。そして、これらペプチドの有するアミノ酸配列には共通する特徴があることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の抗酸化剤は、
(1)乳タンパク質中のアミノ酸配列中に見いだされる3〜6つのアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドであって、
(2)W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2つ以上含み、
(3)W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸をN末端及びC末端に有するか、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2個連続して有し、
(4)ORAC活性がBHAが有するORAC活性以上である抗酸化剤。
(5)但し、WYSLAMのアミノ酸配列を有するペプチドを除く。
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると新規な抗酸化剤が提供される。これらの抗酸化剤は、乳タンパク質をペプチダーゼにより酵素分解すれば得ることができるものであり、BHAに比べると同等な抗酸化力を有しながらそれよりも安全なものであると考えられる。また、乳製品の新たな用途を提供する道を開くものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の抗酸化剤は、(1)乳タンパク質中に見いだされる3〜6つのアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドを有効成分とするものであり、次の(2)〜(4)の特徴を有する。
(2)W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2つ以上含む。
(3)W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸をN末端及びC末端に有するか、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2個連続して有し、(4)ORAC活性がBHAが有するORAC活性値以上である。
(5)但し、WYSLAMのアミノ酸配列を有するペプチドは本発明の抗酸化剤からは除かれる。
【0014】
本発明の抗酸化剤であるペプチドは、乳タンパク質、具体的に言えば、α−カゼイン(α−Casein)、β−カゼイン(β−Casein)、γ−カゼイン(γ−Casein)、κ−カゼイン(κ−Casein)、α−ラクトアルブミン(α−Lactalbumin)及びβ−ラクトグロブリン(β−Lactoglobulin)中から見いだされるアミノ酸配列を有するペプチドである。さらに具体的には、配列番号1〜6で示されるペプチドはα−S1カゼイン中に、配列番号7〜11で示されるペプチドはγ−カゼイン中に、配列番号12〜14で示されるペプチドはβ−カゼイン中に、配列番号15〜21で示されるペプチドはκ−カゼイン中に、配列番号22〜25で示されるペプチドはα−ラクトアルブミン中に、配列番号26〜29で示されるペプチドはβ−ラクトグロブリン中に見いだされる。なお、これらペプチドを構成するアミノ酸はL型であるのが望ましい。
【0015】
これらのペプチドは、上記の乳タンパク質を基質非特異性のペプチダーゼによって消化し、クロマトグラフィーなどの適当な分離手段を用いた分取により得られる。また、各種のペプチド合成法、例えば固相合成法や液相合成法などによる合成により得られる。
【0016】
本発明者らは、必須アミノ酸のORAC活性を測定したところ、Met(メチオニン:「M」で示される)、Cys(システイン:「C」で示される)、Tyr(チロシン:「Y」で示される)、Trp(トリプトファン:「W」で示される)、His(ヒスチジン:「H」で示される)が、高いORAC活性を示した(図1及び表1参照)。これは、非特許文献5で示されたのとほぼ同様の傾向であった。
【0017】
本発明の抗酸化剤となるペプチドは、上記ORAC活性の高いアミノ酸を数多く含むアミノ酸配列を乳タンパク質中から見いだしたものである。この結果、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2つ以上含み、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸をN末端及びC末端に有するか、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2個連続して有する3〜6つのアミノ酸からなるペプチドが高いORAC活性を示した。そして、これらのペプチドのなかから、抗酸化物質として汎用されているBHAのORAC活性値以上の活性値を有するペプチドを見いだすことができた。なお、BHAのORAC活性値は非特許文献5によると2.43(μmol Trolox/μmol BHA)とされているが、本願発明者らの実験によるとBHAのそれは2.207±0.142(μmol Trolox/μmol BHA)であった。
【0018】
すなわち、表1に各アミノ酸のORAC値が示されたが、これらのアミノ酸の中でもW、Y、M、C、Hは他のアミノ酸に比べて高いORAC値を示す。従って、これらのアミノ酸を多く含めば含むほどペプチドのORAC活性は大きくなることが予想される。しかしながら、非特許文献5、6に示されているように、必ずしもW、Y、M、C、Hのアミノ酸を含むからと言えども、ペプチドのORAC活性値は高くなるものではない。例えば、既報で述べられているように配列番号31のペプチドはW、Y、Mの3つのアミノ酸を含むが、このペプチドのORAC活性値は各アミノ酸のORAC活性値の総和(ORAC理論値)よりも小さく、理論値の約40%の活性値しか示さない(表3参照)。また、これらの5つのアミノ酸の何れか1つ又は2つを有していても、配列番号32や33に示されるペプチドでは大きくてもORAC理論値の50%程度の活性値しか有しない。
【0019】
しかしながら、本願発明者らによると、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2つ以上含む場合であって、ペプチドのN末端及びC末端にこれら5つのアミノ酸のいずれかを有するものが、各アミノ酸のORAC活性値の総和とほぼ同じかそれ以上、良好なものであれば理論値の80%以上、少なくとも理論値の70%以上のORAC活性を有するようになる。その一方で、ペプチドのN末端及びC末端にこれら5つのアミノ酸のいずれかを有しなくても、アミノ酸配列中にこれら5つのアミノ酸のいずれかが連続していると、各アミノ酸のORAC活性値の総和とほぼ同じかそれ以上、少なくとも理論値の60%、良好なものであれば理論値の80%以上のORAC活性を有する傾向にある。例えば配列番号15や16、23に示されるアミノ酸配列を有するペプチドである。もっとも、BHAとほぼ同等ないしそれよりも小さいORAC活性のペプチドではこれに当てはまらない場合もある。例えば配列番号29、30に示されるアミノ酸配列を有するペプチドでは、ORAC理論値の50%程度の活性しか発揮しない。
【0020】
これらのうち、Yが2つ連続する場合には(例えば配列番号16や17)、各アミノ酸のORAC活性値の総和よりも大きくなる傾向があり、少なくとも理論値の80%以上のORAC活性値が得られるようになる。また、上記ペプチドのうち、C末端やN末端にYを有するペプチドが理論値の70%のORAC活性を有する傾向にある。
【0021】
本発明の抗酸化剤は、乳タンパク質中のアミノ酸配列から見いだされたものであり、乳タンパク質を基質非特異性のペプチダーゼで処理することにより得ることができるものである。従って、このペプチダーゼによる乳タンパク質の酵素消化物を用いることによって、栄養価が高く、しかも抗酸化活性を有する種々の機能性食品が提供される。
【0022】
もちろん、本発明の抗酸化剤はそのまま摂取することもできるが、通例は、スターチなどの賦形剤やスクロースなどの矯味料、着色料や酸化防止剤などの保存料等を用いて、錠剤や顆粒剤、カプセルなど医薬品類似の形態をしたいわゆる健康食品と称される人工的に作られた組成物として提供されうる。また、チーズやヨーグルト、発酵乳、牛乳、アイスクリームなどの乳製品その他の食品中に添加して用いることもできる。
【実施例1】
【0023】
次に本発明について以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
〔ORAC活性の測定〕
ORAC活性の測定は、Albert Davalosらの方法(Davalos, A. et al. J. Agric. Food Chem., 48-54 (2004))に準じて行われた。
【0024】
(試薬の調製)
1)Trolox標準溶液
Trolox(6-hyrodxy-2,5,7,8-tetoramethyl-chroman-2-carboxilic acid, CALBIOCHEM社製)50mgを、10mLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に溶解して20mmol/Lとした。使用時にこの液100μLを75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で20倍希釈して1mmol/L溶液とし、さらにこの溶液50μLを950μLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で20倍希釈し、最終的に50μmol/Lとした。
【0025】
2)活性酸素溶液
活性酸素試薬AAPH(2,2'-Azobis(2-amidinopropane)dihydrochloride, 和光純薬社製)108mgを、10mLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に溶解して40mmol/Lとした(用時調製)。
【0026】
3)蛍光試薬
蛍光試薬(Sodium Fluorescein, 和光純薬社製)22mgを、50mLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に溶解して1.17mmol/Lとした。使用時に、この溶液0.1mLを9.9mLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で100倍希釈して11.7μmol/Lとし、さらにこの溶液0.1mLを9.9mLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で100倍希釈して、最終濃度117nmol/Lとした。
【0027】
(ペプチドの合成)
ORAC活性の高いアミノ酸を含む配列として、表2に示すペプチドが合成された。合成は(株)ベックス社によって行われた。合成ペプチドの純度は、配列番号28のペプチドが93.1%、配列番号9のペプチドが95.0%であった他、その他のペプチドは純度がほぼ100%であった。
【0028】
(試料溶液の調製)
各ペプチド及び各アミノ酸並びにBHAをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して、最終濃度を5mmol/Lとした。この溶液50μLを、450μLの75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で10倍希釈し、500μmol/Lとした。その後、この溶液10μLを75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)でさらに50倍希釈して、最終濃度10μmol/Lの試料溶液を調製した。なお、Cysteineについては、還元型のCysteine(Cys)及び酸化型のCystine(Cys-Cys)の両者について測定を行った。
【0029】
(ORAC活性の測定)
ORAC活性の測定は、Perkin-Elmaer社製のARVOsx 1420 Multi Label Counter が用いられた。Labsystem社製 White Combiplate 8の各wellに、蛍光試液を120μLを分注し、Troloxの標準溶液又は試料溶液を、各wellに20μLずつを添加した。また、バックグランドには、75mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)を20μLを添加した。
【0030】
このプレートを測定機器にセットして15分間のプレインキュベーションを行った後、機器に設定されたプログラムに従って測定が行われた。
〔設定条件〕
活性酸素溶液の分注料:60μL
測定温度:37℃
反復測定回数:40回
測定間インターバル:1分
プレート撹拌時間:5秒 Fast
Excitation波長:485nm
Emission波長:535nm
【0031】
アミノ酸の測定結果が図1及び表1に、ペプチドの測定結果が図2及び表2、表3に示された。図中及び表中のORAC活性は、μmol Trolox/μmol Amino Acid or Peptideを意味している。なお、表3はORAC活性値が大きい順にペプチドを並べたものであって、表3には公知であるペプチドも含まれる。また、表3中、配列番号に網掛けされたペプチドは、非特許文献5,6に例示されたペプチド(参考例)であり、アミノ酸配列中の網掛けは、W、Y、M、C、Hで示されるアミノ酸を示している。標準的な抗酸化性物質であるBHA(butylated hydroxyanisole)のORAC活性は、2.207μmol Trolox/μmol BHA(S.D.=±0.142)であった。また、表3に示されるORAC理論値は、配列番号1〜30のアミノ酸配列を有するペプチドでは、本願発明者等が実施したアミノ酸のORAC値を元にして算出されたものであり、配列番号31〜40のアミノ酸配列を有するペプチドでは、非特許文献5に示されたアミノ酸のORAC値を元にして算出されたものである。
【0032】
抗酸化物質として代表的なものであるBHAの抗酸化力(ORAC活性値)は、非特許文献5の記載によると2.43(μmol Trolox/μmol BHA)であるのに対し、本願発明者の実施によると2.207(μmol Trolox/μmol BHA)でありほぼ同等の結果が得られた。表3から理解されるように、配列番号1〜28に示されたペプチドは、非特許文献5に記載されたBHAのORAC活性値や本願発明者の実施によるBHAのORAC活性値のいずれよりも強い抗酸化力が認められた。また、配列番号1〜28に示された本発明のペプチドの抗酸化活性(ORAC活性値)は、各アミノ酸のORAC活性値の総和(ORAC理論値)の少なくとも60%以上の活性が認められた。一方、比較例と言える配列番号29に示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、BHAよりも抗酸化活性が劣るものであって、ORAC理論値の50%程度の活性しかなかった。さらに、比較例と言える配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、ORAC理論値に比べると非常に高い活性を有するものであったが、BHAに比べてほとんど抗酸化活性がないと判断されるものであった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【表3】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、安全性かつ有効性の高い抗酸化剤が提供される。本発明の抗酸化剤は、乳タンパク質のアミノ酸配列中に存在するので、栄養価が高くなおかつ新たな効能を有する乳製品の提供が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】アミノ酸のORAC活性を示す図である。
【図2】ペプチドのORAC活性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)乳タンパク質中のアミノ酸配列中に見いだされる3〜6つのアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドであって、
(2)W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2つ以上含み、
(3)W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸をN末端及びC末端に有するか、W、Y、M、C、Hからなる群から選ばれるアミノ酸を2個連続して有し、
(4)ORAC活性がBHAが有するORAC活性以上である抗酸化剤。
(5)但し、WYSLAMのアミノ酸配列を有するペプチドを除く。
【請求項2】
連続する2つのYを含む請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
N末端及びC末端がYである請求項1に記載の抗酸化剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132574(P2010−132574A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307557(P2008−307557)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】