説明

抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬

【課題】抗原性の高い麻疹ウイルスの抗原タンパク質を用いた抗麻疹ウイルス抗体検出試薬を提供することを課題とする。
【解決手段】麻疹ウイルスの抗原タンパク質を、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させて得ることにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬に関する。より詳細には、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質を含む、抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬に関する。また、本発明は、抗麻疹ウイルス抗体検出用イムノアッセイ試験キットおよび抗麻疹ウイルス抗体の検出方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
麻疹とは、はしかとも呼ばれ、麻疹ウイルスを原因とする感染症である。麻疹ウイルスは、患者の咳の飛沫、鼻汁などを介して健常者に感染し、8〜12日間の潜伏期間の後、発熱、咳、鼻炎、結膜炎などの症状が数日間現れる(カタル期)。カタル期の終わりに口腔粘膜に生じるコプリック斑は、麻疹に特徴的な症状である。カタル期の後、体幹や顔面に発疹が生じる(発疹期)。発疹期は、約5日間続き、その後、回復期へと向かう。
【0003】
麻疹ウイルスは、パラミクソウイルス科モルビリウイルス属に分類される一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであり、脂質二重膜からなるエンベロープを有する。該エンベロープは、赤血球凝集素(Haemagglutinin:H)タンパク質および膜融合(Fusion:F)タンパク質から構成される。該エンベロープ内に存在するヌクレオキャプシドは、ウイルスゲノムと4種のタンパク質からなる。
【0004】
麻疹ウイルスへの感染の確認は、血清中の抗麻疹ウイルス抗体の抗体価を、ゼラチン凝集法(PA法)、赤血球凝集抑制試験、中和試験、補体結合試験、酵素免疫測定法(EIA法)などで測定することにより行うことができる。
また、麻疹は、ワクチン接種により予防することができるが、該ワクチン接種後に麻疹に対する免疫を獲得できたか否かの確認も、血清中の抗麻疹ウイルス抗体の抗体価を測定することにより行うことができる。
【0005】
上記の抗体価の測定には、多量の抗原タンパク質を必要とする。抗体価の測定を行うための抗原タンパク質は、麻疹ウイルスを培養して得ることもできるが、麻疹ウイルスを培養することによる抗原タンパク質の生産性は高いとはいえない。そのため、これまでに麻疹ウイルスの抗原タンパク質を多量に製造するための様々な方法が開発されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、麻疹ウイルス変異株である亜急性硬化性全脳炎(SSPE)ウイルスの構造遺伝子領域の核タンパク質をコードするcDNAを挿入した組み換えバキュロウイルスを、昆虫細胞であるSf細胞に感染させ、Sf細胞内でSSPEウイルスの核タンパク質を発現させ、発現した核タンパク質を採取することにより、麻疹ウイルス核タンパク質の抗原性を有するタンパク質を製造する方法が開示されている。さらに、特許文献1には、SSPEウイルスの核タンパク質は、麻疹ウイルスエドモンストン株と相同性が高く、麻疹ウイルス核タンパク質の抗原性を有することが開示されている。この方法によれば、麻疹ウイルス核タンパク質の抗原性を有するタンパク質を高い生産性で製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−172214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなウイルス発現系を用いて得られた抗原タンパク質は、抗麻疹ウイルス抗体に対する力価(抗原性)が満足できるものではなかった。そのため、これらの方法により作製された抗原タンパク質を用いた抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬は、抗麻疹ウイルス抗体の検出感度が低いという点において問題があった。
よって、本発明は、高い生産性で製造することができ、かつ、検出感度の高い抗麻疹ウイルス抗体検出試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質が、抗麻疹ウイルス抗体に対する高い力価(抗原性)を有することを見出して、本発明を完成した。
【0010】
よって、本発明は、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質を含む、抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬を提供する。
【0011】
また、本発明は、抗原抗体反応によって抗麻疹ウイルス抗体に結合可能な第1結合物質が担持された試験具と、抗原抗体反応によって抗麻疹ウイルス抗体に結合可能な第2結合物質を含む試薬とを含み、該第1結合物質および該第2結合物質の少なくとも一方が、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質である、抗麻疹ウイルス抗体検出用イムノアッセイ試験キットも提供する。
【0012】
さらに、本発明は、抗麻疹ウイルス抗体が含まれることが疑われる生体試料と、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質とを接触させて、前記抗麻疹ウイルス抗体と前記麻疹ウイルスの抗原タンパク質との複合体を形成させる工程と、前記工程において形成された前記複合体を検出する工程と、を含む、抗麻疹ウイルス抗体の検出方法も提供する。
【発明の効果】
【0013】
コムギ胚芽発現系を用いることにより、力価(抗原性)の高い麻疹ウイルスの抗原タンパク質を得ることができる。さらに、コムギ胚芽発現系を用いることにより、細胞培養に比べて高い生産性で抗原タンパクを得ることができる。ゆえに、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬は、生体試料中の抗麻疹ウイルス抗体を高感度に検出でき、かつ、高い生産性で製造することが可能である。また、本発明において用いるコムギ胚芽発現系は無細胞の発現系であることから、麻疹ウイルスを培養する方法やバキュロウイルスを用いる方法において懸念される感染などの危険を低減でき安全に、かつ簡便な操作により抗原タンパク質を取得することができる。さらに、力価(抗原性)の高い麻疹ウイルスの抗原タンパク質を用いることによりイムノクロマト法によって麻疹ウイルス検体を検出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬を用いてELISA法によりIgGを検出した際のOD値を示した分散図である。
【図2】麻疹ウイルス核タンパク質の全長アミノ酸の一部を欠損させたタンパク質を用いてIgGを検出した際のOD値を示したグラフである。
【図3】本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬および比較例の試薬を用いてELISA法によりIgMを検出した際のOD値を示したグラフである。縦軸に本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬によるOD値、横軸に比較例の試薬によるOD値を示した。
【図4】本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬を用いてイムノクロマト法によりIgMを検出した際の固相メンブレンの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「コムギ胚芽発現系」とは、コムギの胚芽をすり潰して得られる抽出物と、製造しようとする目的のタンパク質をコードするmRNAとを適当な緩衝液中に混合することにより、混合液中で目的のタンパク質を合成する無細胞タンパク質合成系を意味する。
コムギ胚芽の単離方法としては、例えば、Johnston, F. B.ら,Nature,179,160-161(1957)に記載の方法などが挙げられる。また、単離したコムギ胚芽から抽出物を得る方法としては、例えば、Erickson, A. H.ら,Meth. In Enzymol.,96,38-50(1996)に記載の方法が挙げられる。
コムギ胚芽発現系としては、ENDEXT(商標)Wheat Germ Expression kit(セルフリーサイエンス社)、Wheat Germ Extract Plus(プロメガ社)など、市販のキットを挙げることができる。
【0016】
よって、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬(以下、単に「本発明の試薬」ともいう)に含まれる抗原タンパク質は、抗原タンパク質をコードするmRNAをコムギ胚芽抽出物と混合して得られるものである。
【0017】
本明細書において、「麻疹ウイルスの抗原タンパク質」とは、麻疹ウイルスが有する抗原タンパク質、すなわち、生体内に取り込まれたときに抗麻疹ウイルス抗体の産生が惹起されるタンパク質を意味する。そのような抗原タンパク質としては、例えば、麻疹ウイルスの核(Nucleocapsid:N)タンパク質、赤血球凝集素(Haemagglutinin:H)タンパク質、膜融合(Fusion:F)タンパク質などが挙げられ、より具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。
【0018】
上記の配列番号1のアミノ酸配列を有する麻疹ウイルスの抗原タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、1または複数のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を有し、抗原性を有するタンパク質も含む。そのようなタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも85%以上、好ましくは少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有する。
【0019】
本明細書において、「同一性」とは、2つの核酸分子またはペプチドの間の配列の同一性を意味する。同一性は、配列の比較のために整列させた各配列中の塩基またはアミノ酸の位置を比較することによって決定できる。比較する配列中の位置が同じ塩基またはアミノ酸によって占められている場合、両分子はその位置において同一である。2つの配列の間の同一性の計算には、例えば、標準設定で使用できるFASTAまたはBLASTを含む、様々な整列アルゴリズムおよび/またはプログラムを使用できる。
【0020】
本発明において、麻疹ウイルスの抗原タンパク質をコードする核酸の調製のために用いる麻疹ウイルスは、野生型および弱毒性生ワクチン株のいずれであってもよい。野生型株としては、Edomonston、IC−B、SA203などが挙げられ、弱毒性生ワクチン株としては、Yamagata、Schwarz FF8、AIK−c、CAM−70、AIK−HDC、TD−97、Moraten、Connaughtなどが挙げられる。
【0021】
本発明において、麻疹ウイルスの抗原タンパク質をコードするmRNAは、上記の麻疹ウイルスの培養上清から全RNAを当業者に公知の方法により抽出し、得られた全RNA中の目的のRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、cDNAを転写することにより得ることができる。
【0022】
本発明において、麻疹ウイルスの抗原タンパク質は、例えば、上記のmRNAと、市販のコムギ胚芽発現系キットに付属のコムギ胚芽抽出液と、を適当な緩衝液中で混合してmRNAを翻訳し、翻訳産物を回収することにより得ることができる。
【0023】
得られた抗原タンパク質は、そのまま本発明の試薬に用いることができるが、精製工程に付すことが好ましい。そのような精製工程としては、抗麻疹ウイルス抗体に対する抗原性を損なうものでなければ、特に限定されないが、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、超遠心分離などが挙げられる。
【0024】
麻疹ウイルスの抗原タンパク質は、抗原タンパク質の精製を容易にするために、アフィニティータグを含むことができる。アフィニティータグは、対応する結合物質が存在するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリペプチド、ハプテンなどを用いることができる。具体的には、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ヒスチジン、マルトース結合タンパク質、FLAGペプチド(シグマ社)、Mycタグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、Strepタグ(IBA GmbH社)、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどを用いることができる。
【0025】
上記のアフィニティータグを含む麻疹ウイルスの抗原タンパク質は、例えば、グルタチオンもしくは抗GST抗体、ニッケル、アミロース、抗FLAG抗体(シグマ社)、抗Myc抗体、抗HA抗体、Strep−Tactin(IBA GmbH社)などを用いて精製できる。
【0026】
上記のアフィニティータグを含む麻疹ウイルスの抗原タンパク質は、上記のアフィニティータグと麻疹ウイルスの抗原タンパク質との間に、プロテアーゼの認識配列を含むことにより、抗原タンパク質の精製後に該プロテアーゼを用いて、該抗原タンパク質からアフィニティータグを除去することができるので、好ましい。このようなプロテアーゼ認識配列およびプロテアーゼは、当該技術において公知のものを用いることができ、例えば、AcTEVプロテアーゼ認識配列およびAcTEVプロテアーゼを用いることができる。
【0027】
本発明の試薬は、酵素免疫測定法(EIA法もしくはELISA法)、イムノクロマト法などにより生体試料中の抗麻疹ウイルス抗体を検出する場合に、好適に用いることができる。例えば、ELISA法の場合では、次のようにして検出を行うことができる。まず、マイクロプレートの各ウェルに本発明の試薬を添加して、ウェル底面に麻疹ウイルスの抗原タンパク質を感作させる。次いで、該マイクロプレートの各ウェルに生体試料を添加して、該試料中に含まれる抗麻疹ウイルス抗体と抗原タンパク質の複合体を形成させる。そして、各ウェルに抗麻疹ウイルス抗体を特異的に認識する標識抗体を添加して、上記の複合体に該標識抗体を結合させ、該標識抗体の標識に基づいて、抗麻疹ウイルス抗体の存在を検出することができる。
【0028】
本発明の試薬の一実施形態として、抗麻疹ウイルス抗体検出用イムノアッセイ試験キット(以下、「本発明の試験キット」ともいう)が挙げられる。本発明の試験キットは、生体試料中の抗麻疹ウイルス抗体をイムノアッセイ、例えば、酵素免疫測定法(EIA法もしくはELISA法)、イムノクロマト法などにより検出するための試験キットである。
【0029】
よって、本発明の試験キットは、抗原抗体反応によって抗麻疹ウイルス抗体に結合可能な第1結合物質が担持された試験具と、抗原抗体反応によって抗麻疹ウイルス抗体に結合可能な第2結合物質を含む試薬とを含み、該第1結合物質および該第2結合物質の少なくとも一方が、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質である。
【0030】
本発明の試験キットにおいて、上記の第1結合物質が麻疹ウイルスの抗原タンパク質である場合、上記の第2結合物質としては、抗麻疹ウイルス抗体を特異的に認識する抗体、例えば、抗IgG抗体などが挙げられる。また、上記の第2結合物質が麻疹ウイルスの抗原タンパク質である場合、上記の第1結合物質としては、抗麻疹ウイルス抗体を特異的に認識する抗体、例えば、抗IgM抗体などが挙げられる。
【0031】
本発明の試験キットにおいては、上記の第1結合物質は試験具に担持される。そのような試験具としては、抗原タンパク質または抗体を担持できるものであれば、該試験具の形態および材質は特に限定されないが、例えば、イムノアッセイにおいて通常用いられるメンブレン、チューブ、マイクロプレートなどが挙げられる。具体的には、該試験具として、ニトロセルロース、カルボキシセルロース、ポリフッ化ビニリデンなどからなるメンブレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどからなるチューブ、マイクロプレートなどが挙げられる。
【0032】
上記の第1結合物質は、上記の試験具に直接担持されてもよく、間接的に担持されてもよい。ここで、「間接的に担持される」とは、第1結合物質と試験具の表面との間に介在物質を介在させて、試験具に該第1結合物質が担持されることを意味する。上記の介在物質としては、検出対象である抗麻疹ウイルス抗体と結合しない物質であれば特に限定されないが、例えば、第1結合物質を特異的に認識する抗体、あるいは、第1結合物質が上記のアフィニティータグを有する場合は、上記のアフィニティータグと結合できる結合物質を用いることができる。
【0033】
本発明の試験キットにおいて、上記の第2結合物質が抗麻疹ウイルス抗体を特異的に認識する抗体である場合、第2結合物質を含む試薬としては、該抗体に標識物質を直接結合させた標識抗体を含むことが好ましい。また、上記の第2結合物質が麻疹ウイルスの抗原タンパク質である場合、上記の第2結合物質を含む試薬としては、該抗原タンパク質に標識物質を直接または間接的に結合させた標識タンパク質を含むことが好ましい。ここで、「標識物質を間接的に結合させる」とは、麻疹ウイルスの抗原タンパク質を特異的に認識する抗体に標識物質を直接結合させた標識抗体を、該抗原タンパク質と複合化させることにより、標識物質を抗原タンパク質に結合させることを意味する。
【0034】
なお、第2結合物質を含む試薬として、麻疹ウイルスの抗原タンパク質に標識物質を間接的に結合させた標識タンパク質を用いる場合は、該タンパク質と該タンパク質を特異的に認識する標識抗体とを予め複合化させた1つの試薬としてもよく、あるいは、両者を異なる2つの容器に入れて、試薬セットとしてもよい。
【0035】
また、麻疹ウイルスの抗原タンパク質を特異的に認識する抗体にビオチン(またはアビジンもしくはストレプトアビジン)を結合させたものと、アビジンもしくはストレプトアビジン(またはビオチン)を有する標識物質とを用いることにより、麻疹ウイルスの抗原タンパク質に標識物質を間接的に結合させることができる。この場合、ビオチンとアビジン(もしくはストレプトアビジン)とを介して、抗原タンパク質を特異的に認識する抗体に標識物質を実質的に結合させることができ、これを該抗原タンパク質に複合化できる。
【0036】
上記の標識物質としては、検出可能なシグナルを発する物質であれば、特に限定されないが、例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素などが挙げられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン、クマリン、エオシン、フェナントロリン、ピレン、ローダミンなどが挙げられる。酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。放射性同位元素としては例えば、32P、33P、131I、125I、3H、14C、35Sなどが挙げられる。
【0037】
標識物質として酵素を用いる場合、シグナルの検出は、これらの酵素に対する基質との反応に由来する発色または発光を検出することにより行うことができる。例えば、酵素がアルカリホスファターゼである場合、基質としては、ニトロテトラゾリウムブルークロライド(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルホスフェイト(BCIP)の混合物が挙げられ、酵素がペルオキシダーゼである場合、基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)が挙げられる。
【0038】
本発明の試験キットは、抗麻疹ウイルス抗体に対し優れた抗原性を有するコムギ胚芽発現系により得られた麻疹ウイルスの抗原タンパク質を用いるので、該試験キットを用いたイムノアッセイにおいては、生体試料中の抗麻疹ウイルス抗体を高感度に検出することができる。
特にイムノアッセイがイムノクロマト法である場合、従来のバキュロウイルスにより得られた麻疹ウイルスの抗原タンパク質を用いた試験キットでは、抗麻疹ウイルス抗体の検出が不可能であったが、本発明の試験キットでは該検出を高感度に行うことができる。
また、上記の標識物質から得られるシグナルを定量的に測定することにより、抗麻疹ウイルス抗体と抗原タンパク質との複合体の定量的検出、すなわち、抗麻疹ウイルス抗体の抗体価を測定することもできる。
【0039】
本発明の抗麻疹ウイルス抗体の検出方法(以下、「本発明の検出方法」ともいう)は、抗麻疹ウイルス抗体が含まれることが疑われる生体試料とコムギ胚芽発現系を用いて得られた麻疹ウイルスの抗原タンパク質とを接触させて、前記抗麻疹ウイルス抗体と前記抗原タンパク質との複合体を形成させる工程と、該工程において形成された複合体を検出する工程とを含む。
【0040】
本明細書において、「抗麻疹ウイルス抗体が含まれることが疑われる生体試料」(以下、単に「生体試料」ともいう)とは、麻疹に罹患している可能性がある生体か、または過去に麻疹に罹患したか、もしくは麻疹のワクチン接種を受けた生体より得られた試料を意味する。そのような生体試料は、抗麻疹ウイルス抗体を含み得る試料であれば特に限定されず、生体の血液(全血、血漿、血清を含む)、髄液、尿、咽頭拭い液、唾液などを用いることができる。
【0041】
本発明の検出方法においては、まず、上記の生体試料と、コムギ胚芽発現系を用いて得られた麻疹ウイルスの抗原タンパク質とを接触させて、抗麻疹ウイルス抗体と麻疹ウイルスの抗原タンパク質との複合体を形成させる。この工程は、生体試料と抗原タンパク質とを混合することにより行うことができ、通常、周囲温度(約10〜40℃)にて15分〜2時間行えばよい。
【0042】
次いで、上記の工程において形成された抗麻疹ウイルス抗体と麻疹ウイルスの抗原タンパク質との複合体を検出する。この工程は、該複合体の有無の検出または該複合体の定量的検出により行うことができる。
【0043】
本発明の検出方法を実施する場合、本発明の試薬または試験キットを好適に用いることができる。例えば、本発明の検出方法において、本発明の試験キットを用いた場合、上記の複合体形成工程は、生体試料と抗IgM抗体が担持された試験具とを接触させた後、麻疹ウイルスの抗原タンパク質に標識物質を直接または間接的に結合させた標識タンパク質を含む試薬を添加することにより行われ、上記の検出工程は、上記の標識物質に基づいて前記複合体を検出することにより行われる。
【0044】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例における具体的な操作手順は、各キットおよび試薬類に添付のマニュアルならびにHasegawa T.ら,Hybridoma,vol.28,241-249(2009)の記載に従って行った。
【実施例】
【0045】
(作製例1)コムギ胚芽発現系による麻疹ウイルスの抗原タンパク質の作製
以下に示す方法により麻疹ウイルスの抗原タンパク質を作製した。
(1)発現ベクターの構築
(1-1)麻疹ウイルスの核タンパク質をコードするcDNAの調製
Edomonston株を培養し、培養上清を得た。次いで、この上清から、Qia amp virus RNAキット(QIAGEN社)を用いて、麻疹ウイルスの全RNAを抽出した。そして、得られた全RNA中の目的RNAを、SuperScript One-Step RT-PCR System(Invitrogen社)およびPlatinum Taq(Invitrogen社)を用いて逆転写を行い、cDNAを得た。
上記で得られたcDNAを鋳型として、以下のプライマーを用いて、1回目のPCRを行った。なお、上記の麻疹ウイルスの核タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号2に示す。
フォワードプライマーとしてのMV−NP−1−Fの配列は、以下のとおりである:5'-CCGCTCGAGATGGCCACACTTTTAAGGAGC-3' (配列番号3)
リバースプライマーとしてのMV−NPD9−1580−R−TEの配列は、以下のとおりである:5'-CCTGAAAATACAGGTTTTCTTCAAGTACGGCGTCTAGAAGATCTCTGTCA
TTGTA-3' (配列番号4)
【0046】
上記の1回目PCRで得られた増幅産物を鋳型として、上記のフォワードプライマーと下記のリバースプライマーを用いて、2回目のPCRを行った。なお、このPCRにより、得られた増幅産物にAcTEVプロテアーゼ(Invitrogen社)の認識配列が付与される。
EV−NotI−Rの配列は、以下のとおりである:5'-TTTGCGGCCGCTGAAGGAGCC
CTGAAAATACAGGTTTTCTTCAA-3' (配列番号5)
2回目のPCRにより、麻疹ウイルスの核タンパク質およびAcTEVプロテアーゼ認識配列をコードする増幅産物を得た。
【0047】
(1-2)GSTをコードするcDNAの調製
プラスミドpGEX-4T-3(GE Healthcare社)を鋳型として、以下のプライマーを用いて、PCRを行い、GSTをコードする増幅産物を得た。
フォワードプライマーとしてのGST−1−Fの配列は、以下のとおりである:5'-GCGGCCGCATGTCCCCTATACTAGGTTATTGG-3' (配列番号6)
リバースプライマーとしてのGST−1−Rの配列は、以下のとおりである:5'-TTGGATCCTTAATCCGATTTTGGAGGATGGTCG-3' (配列番号7)
(1-3)発現ベクターの構築
上記で得られた麻疹ウイルスの核タンパク質コードするcDNAを、XhoIおよびNotIで消化した。上記で得られたGSTをコードするcDNAをNotIおよびBamHIで消化した。得られたDNA断片をライゲーションし、ENDEXT(商標)Wheat Germ Expression kit(セルフリーサイエンス社)に付属のプラスミドpEU-E01のXhoIおよびBamHIサイトを含むマルチクローニングサイトに挿入して、コムギ胚芽発現系用タンパク質発現ベクターを得た。
(2)抗原タンパク質の調製
ENDEXT(商標)Wheat Germ Expression kit(セルフリーサイエンス社)に付属の緩衝液に、上記の発現ベクターと付属の試薬とを添加してインキュベートし、緩衝液中で発現ベクターのマルチクローニングサイトを転写してmRNAを得た。ENDEXT(商標)Wheat Germ Expression kit(セルフリーサイエンス社)に付属の緩衝液に、得られたmRNAと、付属のコムギ胚芽抽出液を含む試薬とを添加してmRNAを翻訳し、GSTタグおよびAcTEVプロテアーゼ認識配列を有する麻疹ウイルスの核タンパク質を生成させた。得られた反応液に、50%容量の400μlのグルタチオンセファロース4B(GE Healthcare社)を添加し、4℃で一晩ローテーションした。その後、該セファロースを15 mlの洗浄液(50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、0.1%Tween-20、1x complete(Roche社))で3回洗浄した。そして、セファロースにAcTEVプロテアーゼを含む緩衝液(AcTEVプロテアーゼ 1000 U、50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、0.5 mM EDTA;Invitrogen社)を1 ml加え、30℃で4時間反応させた。この反応により、GSTタグが除去される。そして、得られた反応液を、His SpinTrap(商標)カラム(GE Healthcare社)を用いて精製し、プロテアーゼが除去された麻疹ウイルスの核タンパク質(以下、「作製例1の抗原」という)を得た。
【0048】
(作製例2)バキュロウイルス発現系による麻疹ウイルスの抗原タンパク質の作製
(1)発現ベクターの構築
上記のコムギ胚芽発現系用タンパク質発現ベクターのマルチクローニングサイトに挿入した核酸を、プラスミドpFast-Bac(Invitrogen社)に挿入して、得られたプラスミドを、DH10Bacに導入して形質転換させた後、バクミドを抽出した。
(2)抗原タンパク質の調製
得られたバクミドをSf9細胞にトランスフェクションして、組み換えバキュロウイルスを得た。そして得られたウイルスを、1 moiとなるように90%コンフルエントのSf9細胞に感染させ、84時間培養した。そして、細胞を回収し、該細胞を30 mlの可溶化緩衝液(50 mMホウ酸ナトリウム、150 mM NaCl、1% NP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム1x complete(Roche社))を用いて氷上で可溶化した。そして、遠心分離により細胞残渣を除き、上清を得た。得られた上清について、上記1.(2)と同様の操作を行って、麻疹ウイルスの核タンパク質(以下、「作製例2の抗原」という)を得た。
【0049】
(試験例1)ELISA法による力価(抗原性)の評価
上記の作製例1の抗原と作製例2の抗原について、抗麻疹ウイルス抗体に対する力価(抗原性)を以下に示すELISA法により評価した。ELISA法による測定には、麻疹ウイルスの核タンパク質を特異的に認識する抗体MV2-2649の溶液(8μg/ml)で感作した96ウェルプレート(NUNC社)を用いた。
上記で得られた作製例1および作製例2の各抗原液(2.0μg/ml)を、上記のプレートに50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer II(10 mMリン酸、150 mM NaCl、0.05%Tween-20)で洗浄し、標識抗体液(0.125μg/mlビオチン化MV3-320抗体(麻疹ウイルスの核タンパク質を特異的に認識する抗体)、18.8 mU/ml ストレプトアビジンHRP(SA5004;Vector Laboratories社)、2 w/v% BSAを含むTBS(pH 7.0))を50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、HRPの基質であるOPDを含む基質液を100μl/ウェルで添加して10分間静置し、2 N 硫酸を100μl/ウェルで添加して反応を停止させた。なお、MV3-320抗体は、ハイブリドーマMV3-320によって産生される抗体である。ハイブリドーマMV3-320は、シスメックス株式会社によって国際寄託されたものであり、国際受託番号NITE BP-566が付与されている。
【0050】
各ウェル中の反応液の492 nmの吸光度を、マイクロプレートリーダSpectraMax Plus384(Molecular Devices社製)を用いて測定した。抗原液を添加していないウェルをブランクとして用い、作製例1および作製例2の各抗原タンパク質の抗麻疹ウイルス抗体に対する力価(抗原性)を、以下の式より算出した。
力価=(サンプルの吸光度−ブランクの吸光度)/添加したタンパク質量
得られた各抗原タンパク質の力価(OD/μg)は、以下のとおりである。
作製例1の抗原(コムギ胚芽発現系で得られた抗原タンパク質) :178.93
作製例2の抗原(バキュロウイルス系で得られた抗原タンパク質) : 6.25
上記の結果より、コムギ胚芽発現系で得られた抗原タンパク質(作製例1の抗原)の方が、バキュロウイルス系で得られた抗原タンパク質(作製例2の抗原)よりも、顕著に抗麻疹ウイルス抗体に対する力価(抗原性)が優れていることが分かる。
【0051】
(実施例1)抗麻疹ウイルス抗体(IgG)の検出
麻疹への感染の初期段階では、患者の血中における抗麻疹ウイルス抗体は、IgMのみが存在し、IgGは見られないことが知られている。以下で、IgGを含むか、または含まない血漿について、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬を用いてELISA法によりIgGを検出できるかを検討した。
上記の作製例1で得たGSTタグを有する麻疹ウイルスの核タンパク質の溶液を、本発明の試薬として用いた。検体として、ウイルス抗体EIA「生研」麻疹IgG(以下、対照キットという;デンカ生研株式会社)によりIgGが検出されなかった血漿(IgG陰性検体)およびIgGが検出された血漿(IgG陽性検体)を、それぞれBuffer I’(2 w/v% BSAを含むTBS(pH 7.0))で200倍に希釈したものを用いた。また、ELISA法による測定には、抗GST抗体の溶液(20μg/ml)で感作した96ウェルプレート(NUNC社)を用いた。
本発明の試薬(抗原タンパク質濃度2.0μg/ml)を上記のプレートに50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、各検体を50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、標識抗体液(0.5μg/mlビオチン化抗IgG抗体(DAKO社)、80 mU/ml ストレプトアビジンHRP(SA5004;Vector Laboratories社)、2 w/v% BSAを含むTBS(pH 7.0))を50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、OPDを含む基質液を100μl/ウェルで添加して10分間静置し、2 N 硫酸を100μl/ウェルで添加して反応を停止させた。
【0052】
各ウェル中の反応液の492 nmの吸光度を、マイクロプレートリーダSpectraMax Plus384(Molecular Devices社製)を用いて測定した。抗原液を添加していないウェルをブランクとした。測定したOD値を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
また、これらのOD値を分散図として図1に示す。この結果より、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬によって感染後期に分泌されるIgGを検出できることがわかる。
【0055】
(作製例3)一部欠損タンパク質の作製
実施例1では、麻疹ウイルスの抗原タンパク質として、核タンパク質の全長アミノ酸を有するタンパク質を用いてIgGを検出できることを示した。以下では、核タンパク質の全長アミノ酸のうち一部を欠損させたタンパク質を作製し、その反応性を検証した。
【0056】
作製例1において構築したコムギ胚芽発現系用タンパク質発現ベクターを基に、下記のプライマーセットおよびKOD plus Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用いてPCRを行い、麻疹ウイルス核タンパク質の321位からC末端までのアミノ酸を除くプラスミド全周を増幅した。
フォワードプライマーの配列は、以下のとおりである:
5'-GCCGTACTTGAAGAAAACCT -3' (配列番号8)
リバースプライマーの配列は、以下のとおりである:
5'-AATTGAGTTCTCCAGGATTACCA -3' (配列番号9)
増幅産物をセルフライゲーションさせて環状化し、一部欠損タンパク質発現用ベクターを構築した。
【0057】
得られた一部欠損タンパク質発現用ベクターを、ENDEXT(商標)Wheat Germ Expression kit(セルフリーサイエンス社)を用いて、作製例1と同様の手法により転写翻訳し、麻疹ウイルスの核タンパク質の321位からC末端までを欠損し、かつ、GSTタグを有する抗原タンパク質を生成した。
【0058】
(実施例2)一部欠損タンパク質を用いた抗麻疹ウイルス抗体(IgG)の検出
上記の作製例3で得たGSTタグを有する麻疹ウイルスの核タンパク質の溶液を、本発明の試薬として用いた。試験に用いた検体および試験プロトコルは、実施例1と同様である。その結果を図2に示す。
【0059】
図2に示すように、一部欠損タンパク質は、全長タンパク質とほぼ同等の検出感度を有することがわかる。この結果より、コムギ胚芽発現系を用いて発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質は、アミノ酸配列の一部が欠損している場合にあっても、高い検出感度でIgGを検出できることがわかる。
【0060】
(実施例3)抗麻疹ウイルス抗体(IgM)の検出
上記のIgGが検出されなかった(IgMのみを含む)血漿を検体として、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬およびバキュロウイルス発現系により得られた抗原タンパク質を用いてELISA法によりIgMを検出できるかを検討した。
上記の作製例1においてコムギ胚芽発現系およびバキュロウイルス発現系により得たGSTタグを有する麻疹ウイルスの核タンパク質の溶液を、それぞれ本発明の実施例の試薬および比較例の試薬として用いた。検体として、上記のIgGが検出されなかった(IgMのみを含む)血漿を、Buffer I’で200倍に希釈したものを用いた。また、ELISA法による測定には、抗IgM抗体(DAKO社)の溶液(20μg/ml)で感作した96ウェルプレート(NUNC社)を用いた。
上記のプレートに、検体を50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後Buffer IIで洗浄した。本発明の試薬(抗原タンパク質濃度2.0μg/ml)および比較例の試薬(抗原タンパク質濃度3.0μg/ml)を、それぞれ50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、標識抗体液(0.125μg/mlビオチン化MV3-320抗体、18.8 mU/ml ストレプトアビジンHRP(SA5004;Vector Laboratories社)、2 w/v% BSAを含むTBS(pH 7.0))を50μl/ウェルで添加し、45分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、OPDを含む基質液を100μl/ウェルで添加して10分間静置し、2 N 硫酸を100μl/ウェルで添加して反応を停止させた。
【0061】
各ウェル中の反応液の492 nmの吸光度を、マイクロプレートリーダSpectraMax Plus384(Molecular Devices社製)を用いて測定した。抗原液を添加していないウェルをブランクとした。測定したOD値を図3に示す。なお、検体(N=12)から得られたOD値の3SDをカットオフとして設定した(図中に斜線で示す)。この結果より、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬によって感染初期に分泌されるIgMを検出できることがわかる。また、本発明の試薬は、比較例の試薬よりもIgMに対して抗原性が高いことがわかる。
【0062】
(実施例4)イムノクロマト法によるIgMの検出
イムノクロマト法は、ELISA法に比べて、簡便に抗麻疹ウイルス抗体を検出することができるが、多量の抗原タンパク質を必要とする。そのため、バキュロウイルス発現系などの従来の方法により得られた抗原タンパク質では、イムノクロマト法を実施できなかった。以下で、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬を用いてイムノクロマト法により、IgMを検出した。
(1)固相メンブレンの作製
ニトロセルロースメンブレン(Millipore社)に抗IgM抗体(DAKO社)の溶液(2.0 mg/ml)を塗布し、50℃で30分間乾燥させた。乾燥後、ブロッキング液(1 w/v% BSAを含むPBS)でメンブレンをブロッキングし、50℃で30分間乾燥させた。乾燥後、PVPブロッキング液(0.25% PVP(ポリビニルピロリドン)を含むPBS)でブロッキングした。そして、洗浄液(0.01 % SDSを含むPBS)で90秒間の洗浄を3回行い、40℃で2時間乾燥させた。乾燥後、メンブレンをバッキングシート(BioDot社)上に張り合わせて、固相メンブレンを得た。
【0063】
(2)イムノクロマト法によるIgMの検出
上記の作製例1においてコムギ胚芽発現系により得たGSTタグを有する麻疹ウイルスの核タンパク質の溶液を、本発明の実施例の試薬として用いた。検体として、対照キットによりIgGが検出されなかった(IgMを含む)血清を、Buffer I’で48倍に希釈したものを用いた。
検体を固相メンブレン上に展開した。さらに、本発明の試薬(抗原タンパク質濃度42.0μg/ml)を展開させた後、MV3-320抗体が感作された青色ラテックス粒子(粒径0.3μm)をBuffer I’で懸濁液(0.2%)を展開した。そして、50μlのPOCTEM検体抽出液(シスメックス株式会社製)でメンブレンを洗浄して、シグナルを得た。結果を図4に示す。なお、図4中のOD値は、ELISA法により測定されたものである。この結果より、本発明の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬を用いてイムノクロマト法により、IgMを検出できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質を含む、抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬。
【請求項2】
前記麻疹ウイルスの抗原タンパク質が、麻疹ウイルスの核タンパク質である、請求項1に記載の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬。
【請求項3】
前記麻疹ウイルスの核タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質である、請求項2に記載の抗麻疹ウイルス抗体検出用試薬。
【請求項4】
抗原抗体反応によって抗麻疹ウイルス抗体に結合可能な第1結合物質が担持された試験具と、
抗原抗体反応によって抗麻疹ウイルス抗体に結合可能な第2結合物質を含む試薬と
を含み、
前記第1結合物質および前記第2結合物質の少なくとも一方が、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質である、抗麻疹ウイルス抗体検出用イムノアッセイ試験キット。
【請求項5】
前記第1結合物質が、抗IgM抗体であり、
前記第2結合物質が、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質である、請求項4に記載の抗麻疹ウイルス抗体検出用イムノアッセイ試験キット。
【請求項6】
抗麻疹ウイルス抗体が含まれることが疑われる生体試料と、コムギ胚芽発現系を用いて組み換え発現させた麻疹ウイルスの抗原タンパク質とを接触させて、前記抗麻疹ウイルス抗体と前記麻疹ウイルスの抗原タンパク質との複合体を形成させる工程と、
前記工程において形成された前記複合体を検出する工程と、
を含む、抗麻疹ウイルス抗体の検出方法。
【請求項7】
前記の複合体を形成させる工程が、前記生体試料と、抗IgM抗体が担持された試験具とを接触させた後、麻疹ウイルスの抗原タンパク質に標識物質を直接または間接的に結合させた標識タンパク質を含む試薬を添加することにより行われ、
前記の複合体を検出する工程が、前記標識物質に基づいて前記複合体を検出することにより行われる、請求項6に記載の抗麻疹ウイルス抗体の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−128073(P2011−128073A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288222(P2009−288222)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月10日 Mary Ann Liebert,Inc.発行の「HYBRIDOMA 28巻 第4号」に発表
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】