説明

抗CD147抗体、方法及び使用

本発明は、腫瘍細胞による神経芽細胞からのMMPの刺激、VEGFの放出、及び血管新生の促進などの、悪性疾患に関連したCD 147の生物活性を遮断することができる、ヒトCD 147に免疫特異的な抗体を提供する。本発明の抗体は、悪性疾患、並びに目、肺、及び心血管系の疾病などの、CD 147活性が発症に役割を果たす疾病の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2008年9月29日出願の米国特許出願第61/100,848号の優先権を主張するものであり、出願の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、抗CD147抗体及び治療薬としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
CD147は、様々な組織内の大多数の異なる細胞上に発現される免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのメンバーである。これは元々ヒトBasiginと命名され(基本的な免疫グロブリンスーパーファミリーに関して)、1991年頃に最初にクローン化された。(Miyauchi et al.J Biochem(Tokyo)110:770〜774(1991);Kanekura et al.Cell.Struct Funct 16:23〜30(1991);Miyauchi et al.J Biochem(Tokyo)110:770〜774(1991))。EMMPRIN(細胞外マトリックス金属タンパク質誘導因子」)アイソフォームII(NCBI Accession No.NP_940991)としても知られるbsg遺伝子産物、CD147は、22又は24アミノ酸長のシグナルペプチド、183アミノ酸の細胞外ドメイン、残基208〜228の膜貫通ドメイン、及び残基229〜269th残基の細胞内ドメインを有する269アミノ酸長のプロポリペプチド(SEQ ID NO:1、図1)である。管理された(curated)NCBI記録によれば、細胞外ドメイン(ECD)は2つの免疫グロブリン様ドメイン:残基22〜103のC2型ドメインと、残基105〜199のV様ドメインとを含む(図1)。多数のスプライス変異体が報告されている。
【0004】
CD147は、胎児発生、網膜機能、及びT細胞成熟に役割を有する多面的分子である。CD147は、シクロフィリンの細胞表面受容体であることが示されている。CD147は、組織リモデリングの範囲:腫瘍、子宮内膜、胎盤、皮膚及び血管新生を受けている領域内で発現され(Iacono et al.2007.Exp Mol.Path 83:283〜295参照)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)及びVEGF産生を刺激する。CD147は単球分化により誘導され、ヒトアテローム内で発現される(Major TC,Liang L,Lu X,Rosebury W,Bocan TM.2002.Arterioscler Thromb Vasc Biol.22:1200〜1207)。CD147は、腫瘍周囲の間質細胞によるMMP及びウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子系の誘導を介して、異なる腫瘍型の浸潤及び転移を促進することが示されている。CD147はまた、血管新生、アノイキス耐性、乳酸放出、多剤耐性、及び癌細胞における細胞増殖にも関与している。CD147の過剰発現及び/又は機能は、炎症反応、肺線維症、関節リウマチ、エリテマトーデス、心不全、アルツハイマー病、並びにリンパ球内でのヒト免疫不全ウイルス及びコロナウイルスの感染性サイクルなどの他の病理過程に関連している(Ruiz et al,J.Biol.Chem.,Vol.283,(9),5554〜5566,2008参照)。加えて、CD147の切断及びCD147断片の脱落は、CD147調節又は活性破片の放出に関与し得る(Egawa et al.2006 J Biol Chem 281(49):37576〜85)。
【0005】
抗CD147抗体が報告されている。マウス抗体IgM Mab、CBL1(Billings et al.Hybridoma 1:303〜311,1982、米国特許第5330896号及び同第5643740号)がステロイド抵抗性急性移植片対宿主病にて試験された(Heslop et al.The Lancet 346:805〜806;Deeg et al.2001 Blood 98:2052〜8)。ECDの膜貫通ドメインの付近の、CBL1(aka ABX−CBL)のエピトープと重複するエピトープに結合するヒト等価Mabも開発された(米国特許第2007048305A1号)。Koch et al.(Internat Immunol 11(5)777〜786,1999)は、T及びB細胞活性化に関連したCD147エピトープをマッピングし、CD147に形成される抗体グループの最も高い親和性を有するモノクローナル抗体(MEM−M6/6)のみが、MABによるCD3、OKT3に対抗するヒトT細胞活性化及び増殖の防止に有効であることを報告した。腫瘍細胞由来のヒトCD147に対するマウス抗体、EIIF4(Ellis,1989 Cancer Res 49:3385〜91;Biswas et al.Cancer Research 55,434〜439,1995)は、ヒト線維芽細胞からの肺癌CD147誘導によるコラゲナーゼ(マトリックスメタロプロテイナーゼ−1、即ちMMP−1)の活性を遮断する能力を示した。CD147に対するEIIF4抗体の結合は、N−末端Igドメインが欠損した突然変異体ECDが調製された際に無効になることが示された(Biswas,C.et al.,Cancer Res 55,434〜439,1995)。Ku et al.(Scan J Immunol 65(5)435〜443,2007)は、切断CD147配列を使用することによって、CD147関連のMMP軸の阻害性として記載されたMABを同定し、CD147 MMP誘導活性のためのN−末端(22A〜50V)におけるキー残基を同定した。
【0006】
このように、CD147の所定の抗体及び他のアンタゴニストは既知であるが、2つの免疫グロブリンドメインを含むタンパク質の複雑な性質が、種々の生物学的活性にどのように影響を与えるかは完全には解明されていない。ドメイン特異的なアンタゴニストは、CD147表示及び/又は様々な組織上での活性化に関連した様々な病変の処置に有用な治療的候補であると証明され得る。例えば、CD147により誘導されるMMP産生又はVEGF活性を遮断可能な治療薬は、癌治療に有利であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、CD147−依存性疾患の症候を軽減又は除去するための治療に使用するためのヒトCD147に特異的なヒト抗体、並びに既知の抗体又はその断片に対する改良を供給する必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、血管新生、VEGF産生、マトリックスメタロプロテイナーゼ産生(MMP−1、MMP−2、及びMMP−9)を含むが、これらに限定されないCD147に関連した1つ以上の生物活性を遮断可能であり、ヒトCD147上に特異的結合部位を有する、抗CD147モノクローナル抗体を提供する。
【0009】
本発明の一態様は、SEQ ID NO:9、11、13及び15に示されるような軽鎖相補性決定領域(CDRs)のアミノ酸配列と、SEQ ID NO:10、12、14及び16に示されるような重鎖CDRsのアミノ酸配列とを有する、モノクローナル抗体の抗原結合能力を有する、ヒトCD147タンパク質と反応する単離された抗体である。
【0010】
本発明の別の態様は、CD147タンパク質のSEQ ID NO:1の残基65〜75に位置するCD147タンパク質エピトープと反応する単離された抗体である。
【0011】
本発明の別の態様は、それぞれSEQ ID NO:10、12及び14に示される配列から選択される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3(Hc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3)アミノ酸配列と、式(I):
Gln Gln Xaa1 Tyr Ser Xaa2 Pro Xaa3Thr
(I)
(式中、Xaa1は、Tyr又はAspであり;Xaa2は、Tyr又はSerであり;Xaa3は、Phe又はTyr又は非存在であり;Xaa4は、Thr又はPheである)に示されるような軽鎖CDR3(Lc−CDR3);並びにそれぞれSEQ ID NO:9及び11に示されるような配列から選択される軽鎖CDR1(Lc−CDR1)及び軽鎖CDR2(Lc−CDR2)アミノ酸配列と、を有する、単離された抗体である。
【0012】
本発明の別の態様は、SEQ ID NO:10に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:9に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体である。
【0013】
本発明の別の態様は、SEQ ID NO:12に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:11に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体である。
【0014】
本発明の別の態様は、SEQ ID NO:14に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:13に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2、及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体である。
【0015】
本発明の別の態様は、SEQ ID NO:16に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:15に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2、及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体である。
【0016】
本発明の別の態様は、本発明の抗体をコードする、単離されたポリヌクレオチドである。
【0017】
別の態様において、本発明は、抗体4A5及び5F6により規定される共通エピトープに結合する、及び/又はCD147に対する結合に関して抗体4A5若しくは5F6と競合する、又はSEQ ID NO:1の残基65〜74におけるD2交換に対する保護などの、抗体4A5及び5F6により示される他の機能的結合特性を有する、抗体に関する。そのような抗体には、例えば抗体4A5又は5F6と競合し、10-7M未満の、例えば10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、又はそれ未満(例えば、10-11M未満)などの解離定数(KD)でCD147に結合するものが挙げられる。
【0018】
本発明は、本明細書に定義されるヒトCD147に結合可能な典型的な抗体配列に由来し、血管新生、VEGF産生及びマトリックスメタロプロテイナーゼ産生(MMP−1、MMP−2及び/又はMMP−9産生)を含むがこれらに限定されない、CD147に関連した1つ以上の生物活性に関連した活性を遮断する、特異的結合ドメインを提供する。特異的結合ドメインは、可変領域として特定されるドメインであり、SEQ ID NO:9〜16にて特定されるCDR残基である。本発明は更に、KD 10-7M未満の親和性でヒトCD147に免疫特異的に結合する能力を維持し、CD147に対する結合に関して抗体2H3、4A5又は5F6と競合し、CD147の生物活性を遮断する、ヒト化若しくは再構築された抗体などのSEQ ID NO:9〜16に由来する抗体、又は抗体結合ドメインを含む。
【0019】
したがって、本発明の一態様は、ヒト化重鎖及びヒト化軽鎖を含むヒト化抗体に関し、
(1)ヒト化重鎖可変領域は、マウス2H3、4A5、5F6又は2C8重鎖からの3つの相補性決定領域(CDRS)と、場合により1つ以上のヒトフレームワーク残基置換を有する、ヒトアクセプター抗体重鎖からのフレームワークと、を含み、
(2)ヒト化軽鎖可変領域は、マウス2H3、4A5、5F6又は2C8軽鎖からの3つの相補性決定領域と、場合により1つ以上のヒトフレームワーク残基置換を有する、ヒトアクセプター抗体軽鎖からのフレームワークと、を含み、ヒト化抗体は、ヒトCD147に特異的に結合する。
【0020】
更なる実施形態において、ヒト化抗体は、更に1つ以上の置換又は削除により操作された1つ以上のCDRs、例えば、2H3、4A5、5F6又は2C8の1つ以上のCDRsと90%、95%、98%又は99.5%同一のものから構成されてもよい。
【0021】
別の実施形態は、治療的又は予防的に有効な量の本発明の1つの抗体、又は本発明の複数の抗体の混合物を、処置を必要とする対象に投与することによる、CD147生物活性に関連した病態の処置又は予防に関する。
【0022】
更なる実施形態では、ワクチンの成分としての抗原エピトープが提供される。SEQ ID NO:1残基65〜74、又は本発明の抗体により尚認識されるその保存的変更を含む上述したエピトープは、宿主を能動的に免疫化して、CD147生物活性に関連した病態と戦い又は病態を予防することができる、CD147に対抗する抗体の産生を誘発するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ヒトCD147アイソフォーム2のドメインマップ及び一文字アミノ酸コードでのプロペプチドの配列。
【図2】Fc−コンストラクトとしてのCD147 ECD及びサブドメイン(N−ドメインは残基19〜117であり、C−ドメインは残基95〜204である)の、NHLF内での濃度依存性刺激MMP−1産生における相対的な活性を示すグラフ。
【図3】Fc−コンストラクトとしてのCD147 ECD及びサブドメイン(N−ドメインは残基19〜117であり、C−ドメインは残基95〜204である)の、NHLF内での濃度依存性刺激VEGF産生における相対的な活性を示すグラフ。
【図4】VEGF又は(B)MMP−1の分泌を刺激するのに使用されたCD147 ECD又はサブドメインFc−コンストラクト(A)に対するAkt−v、Akt依存性シグナル伝達経路阻害剤の効果。
【図5】生きたMDA−MB−231細胞(A)に結合する(mIgG1)が、NHLF細胞(B)に結合しないマウス抗体(10ug/mL)の棒グラフ。
【図6】選択された精製マウス抗体(mIgG1)が、NHLF内でCD147(CD147)刺激MMP−1産生を遮断する相対的な能力を示すグラフ。
【図7】ヒト腫瘍及びヒト神経芽細胞の共培養物中でのMMP−2及びMMP−9産生を遮断する選択されたマウス抗体(mIgG1)の相対的な能力を示す酵素電気泳動像。
【図8】組み換え抗CD147抗体2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)により減弱された、ヒト腫瘍及びヒト神経芽細胞の共培養物中でのMMP−2放出を示す酵素電気泳動像。
【図9】抗CD147抗体2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)が、NHLFからのCD147誘導によるVEGFを阻害することを示す棒グラフ。
【図10】1日目及び4日目に10mg/kg Mabのi.p.注射を受容した後のヌードマウスから採取した、PANC−1(ヒト膵臓腫瘍細胞)と共に移植された8日目のマトリゲルプラグ内のヘモグロビン(Hb)含有量の棒グラフ。
【図11】エフェクター陽性アイソタイプ(E+)又はPBSである、組み換え抗CD147抗体、2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)を受容しているマウスにおける、ある時間に亘る腫瘍容積変化。
【図12】4A5(上)又は5F6(下)結合領域のいずれかと複合されたAsp19−Asn117コンストラクトの簡略化H/D交換マップ。
【図13】ELISAフォーマットにおけるAsp19−Glu 192−Fcコンストラクトの結合に関して4A5又は5F6と競合する2H3 Mabの競合的結合アッセイを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
【表1】

【0025】
略語
CDR−相補性決定領域、HC−重鎖、GvHD移植片対宿主病、LC−軽鎖、IFN−インターフェロン(a、α;b、β)、Ig−免疫グロブリン、Mab−モノクローナル抗体、MMP−マトリックスメタロプロテイナーゼ、NHLF−正常ヒト肺線維芽細胞、NHDF−正常ヒト皮膚線維芽細胞線、VEGF−血管内皮増殖因子、VL−可変部軽鎖、VH−可変部重鎖
【0026】
定義
本明細書で使用されるとき、「抗体」は、抗体全体、及びその任意の抗原結合断片又は短鎖を含む。したがって、抗体は、本発明の抗体の中に取り込むことのできる、少なくとも1つの重鎖若しくは軽鎖の相補性決定領域(CDR)若しくはそのリガンド結合部、重鎖若しくは軽鎖可変領域、重鎖若しくは軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域若しくはその任意の部分、又は結合タンパク質の少なくとも一部分などであるが、これらに限定されない免疫グロブリン分子の少なくとも一部分を含む、任意のタンパク質又はペプチド含有分子を含む。用語「抗体」は、更に、抗体、その消化断片、特定部分及び変異体を包含することを意図し、これには抗体模倣薬が挙げられ、又は抗体の構造及び/若しくは機能を模倣する抗体の部分若しくはその特定断片若しくは一部を含み、単鎖抗体及びその断片が挙げられる。機能的断片は、予め選択された標的に対する抗原結合断片を含む。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例は、(i)Fab断片、VL、VH、CL及びCH、ドメインからなる一価断片;(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域にてジスルフィド架橋により結合された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VH及びCH、ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単腕(single arm)のVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544〜546);並びに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。更に、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは別個の遺伝子によりコードされているが、それらは組み換え方法を使用して、合成リンカーにより連結されることができ、前記合成リンカーは、VL及びVH領域が組み合わされて一価分子を形成している単一タンパク質鎖(単鎖Fv(scFv)として既知、例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423〜426、及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad Sci.USA 85:5879〜5883参照)として作製されることを可能にする。そのような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることを意図する。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来の技術を使用して得られ、これらの断片はインタクト抗体と同一の方法で、有用性に関してスクリーニングされる。逆に、scFvコンストラクトのライブラリを使用して抗原結合能力に関してスクリーニングした後、従来の技術を使用して、ヒト生殖系列遺伝子配列をコードする他のDNAにスプライスしてもよい。そのようなライブラリの1つの例は、「HuCAL:ヒトコンビナトリアル抗体ライブラリ」(Knappik,A.et al.J Mol Biol(2000)296(1):57〜86)である。
【0027】
用語「CDR」は、抗原結合に関与する、抗体の相補性決定領域又は高頻度可変領域アミノ酸残基を指す。抗体のヒトIgGサブタイプの高頻度可変領域、即ち「CDR」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)]に記載されているように、軽鎖可変部ドメイン内の残基24〜34(L1)、50〜56(L2)及び89〜97(L3)と、重鎖可変部ドメイン内の31〜35(H1)、50〜65(H2)及び95〜102(H3)とからのアミノ酸残基、並びに/又は高頻度可変ループ(即ち、[Chothia et al.,J.Mol.Biol.196:901〜917(1987)]により記載されているように、軽鎖可変部ドメイン内の残基26〜32(L1)、50〜52(L2)及び91〜96(L3)と、重鎖可変部ドメイン内の26〜32(H1)、53〜55(H2)及び96〜101(H3))からの残基を含む。フレームワーク又はFR1〜4残基は、高頻度可変領域以外の、一括する可変部ドメイン残基である。より最近になって、普遍的な付番システム(universal numbering system)、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標)(IMGT)(LaFranc,et al.2005.Nucl Acids Res.33:D593〜D597)が開発され、広く採用されている。本明細書において、CDRは、アミノ酸配列と、軽鎖又は重鎖における位置との両方の観点において意味される。免疫グロブリン可変部ドメインの構造内のCDRの「位置」は、種の間で保存され、ループと称される構造で存在するため、可変部ドメイン配列を構造的特徴に従って整合する付番システムを使用することにより、CDR及びフレームワーク残基は容易に特定される。この情報は、1つの種の免疫グロブリンからのCDR残基を、典型的にはヒト抗体からのアクセプターフレームワーク内に移植及び置き換えるのに使用される。
【0028】
用語「EMMPRIN」は、本明細書にて「細胞外マトリックス金属タンパク質誘導因子」、CD147、ヒトbasigin(BSG)遺伝子の産物、ヒト白血球活性化抗原M6、ラットOX−47の種ホモログ、マウスbasigin、及びニワトリHT7分子、腫瘍細胞由来コラゲナーゼ刺激因子、ニューロセリン(neurothelin)を意味するよう使用され、CD147の全ての変異体、アイソフォーム及び種ホモログを含む。したがって、本発明の抗体は、所定の場合では、ヒト以外の種からのCD147と交差反応することができる。他の場合では、抗体は、ヒトCD147に対して完全に特異的であってもよく、種の又は他のタイプの交差反応性を示さない。
【0029】
「エピトープ」という用語は、抗体に対する特異的結合が可能なタンパク質決定因子を意味する。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの化学的に活性な分子表面基で構成されており、通常、特定の3次元構造特性並びに特定の電荷特性を有する。構造的及び非構造的エピトープは、後者ではなく前者に対する結合が、変性溶媒の存在下で損失するという点で区別される。
【0030】
「ヒト化」(再構築又はCDR移植とも称される)は、異種源(通常、げっ歯類)からのモノクローナル抗体(mAb)の免疫原性を低減し、親和性又はエフェクター機能(ADCC、補体活性化、C1q結合)を向上させる確立された技術を含む。操作されたmAbは、ファージ表示された無作為化配列を用いて分子生物学の技術により生成され、又はデノボで合成されることができる。例えば、非ヒト種からのCDR領域を組み込んだヒト化抗体を構築するために、デザインは、CDRの残基内の保存的アミノ酸置換、及び非ヒトmAbからの残基のヒトフレームワーク領域内への逆置換(逆突然変異)などのバリエーションを含み得る。位置は、配列比較方法、コンセンサス配列分析、又は可変領域の3D構造の構造的分析により識別又は同定することができる。選択された候補の免疫グロブリン配列について、可能性の高い3次元立体構造を図示及び表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらのディスプレイを調べることにより、候補の免疫グロブリン配列の機能における残基の役割として可能性の高いものの分析、即ち候補の免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能となる。この方法で又は単純な配列アラインメントアルゴリズム(例えば、Clustal W)により、FR(フレームワーク)残基を、公にアクセス可能なVBASE又はKabatのようなデータベース内に見出される既知の抗体配列から選択することができ、また標的抗原(1つ以上)に対する親和性などの所望の抗体特性が達成されるようコンセンサス配列が最適化される。抗体構造に関する既知のパラメータのデータセットが増加するにつれて、これらの技術が洗練及び精密化される。ヒト化の他の手法は、ヒトmAbに見出される最も通常の残基によってげっ歯類配列の表面残基のみを修飾することであり、「表面再構成(resurfacing)」又は「化粧張り(veneering)」と称されている。現在、多数のヒト及び非ヒトIg配列の両方が既知であり、自由に入手することができ、例えば、LeFranc et alにより開発され、IMGTの名称で見出されるデータベース及びツール;U.S.National Center for Biologics(NCBI)により管理されるウェブサイトが当業者により使用され、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Dept.Health(1983)も目下非常に拡張され、オンラインで入手可能であり、これらはそれぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明の抗体のヒト化又は操作は、既知の任意の方法、又はヒト免疫グロブリン配列情報を用いて開発された方法により行うことができる。そのような方法は、例えばWinterの米国特許第6982361号、及びBowdish et al.の国際公開第03/025019号に教示され、それらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
本明細書で使用されるとき、KDは、解離定数、詳細には既定の抗原についての抗体の解離定数KDを意味し、特異的標的に対する抗体の親和性の尺度である。高親和性抗体は、既定の抗原について、有するKDが10-8M以下、より好ましくは10-9M以下、更に好ましくは10-10M以下である。KDの逆数は、KA、会合定数である。本明細書で使用されるとき、用語「kdis」又は「k2」又は「kd」は、特定の抗体−抗原相互作用の解離速度を意味するよう意図されている。「KD」は、会合速度(k1)又は「オン速度(kon)」に対する、「オフ速度(koff)」とも呼ばれる解離速度(k2)の比である。よってKDはk2/k1又はkoff/konに等しく、モル濃度(M)で表わされる。KDが小さくなるほど、結合は強いということになる。よって、KDが10-6M(又は1マイクロM)とは、10-9M(又は1nM)に比べ、弱い結合を表わす。
【0032】
本明細書で使用されるところの「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一分子組成物からなる抗体分子の製剤を意味する。モノクローナル抗体組成物は、特定エピトープの単一の結合特異性及び親和性を示す。この用語はまた、「組み換え抗体」及び「組み換えモノクローナル抗体」も含み、(a)動物、又は抗体分泌動物細胞と融合パートナーとの融合により調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するよう形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマから単離された抗体、(c)組み換えの、ヒト又は他の種のコンビナトリアル抗体ライブラリから単離された抗体、並びに(d)免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライスすることを含む任意の他の手段により調製、発現、作製又は単離された抗体、などの全ての抗体は、組み換え手段により調製、発現、作製又は単離される。本明細書で使用されるとき、「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に有さない抗体を指すことが意図される。しかしながら、ヒトCD147のエピトープ、アイソフォーム又は変異体に特異的に結合する、単離された抗体は、他の関連した抗原、例えば他の種(例えば、CD147種ホモログ)由来の抗原に対して交差反応性を有する場合がある。また、単離された抗体は、他の細胞材料及び/又は化学薬品を有さない場合がある。本発明の一実施形態では、異なる特異性を有する「単離された」モノクローナル抗体の組み合わせを、明確に規定された組成物中で混ぜ合わせる。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「特異的な結合」、「免疫特異的な結合」及び「免疫特異的に結合する」は、所定の抗原に結合する抗体を指す。典型的に、抗体は、解離定数(KD)が10-7M以下で結合し、既定の抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン、又はその他任意の特定ポリペプチド)に結合するためのKDに比べ、少なくとも2分の1のKDで、既定の抗原に結合する。「抗原を認識する抗体」及び「抗原に特異的な抗体」という表現は、本明細書において、「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と同義的に使用される。本明細書で使用されるとき、「高度に特異的な」結合は、特定の標的エピトープに対する抗体の相対的なKDが、他のリガンドに対する抗体の結合に関するKDの少なくとも10倍小さいことを意味する。
【0034】
本明細書で使用されるとき、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラス(例えば、IgM又はIgG)を指す。いくつかの抗体クラスは更にサブクラスを包含し、サブクラスも重鎖定常領域によりコードされ、更に定常領域ドメイン(例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)内の特定の残基においてオリゴ糖により装飾され、抗体に生物学的機能が更に付与されている。例えば、ヒト抗体アイソタイプにおいて、IgG1、IgG3、及び現存するより少数のIgG2は、マウスIgG2a抗体と同様、エフェクター機能を示す。
【0035】
「エフェクター」機能又は「エフェクターポジティブ(effector positive)」は、抗体が抗原特異的結合ドメインから区別されるドメインを含み、ドメインは、受容体、又は補体などの他の血液成分と相互作用して、例えばマクロファージの動員、及び抗体の抗原結合ドメインに結合された細胞の破壊をもたらす事象を引き起こすことができる。抗体は、エフェクター分子の結合により仲介される数種のエフェクター機能を有する。例えば、抗体に対する補体のC1成分の結合は、補体系を活性化させる。補体の活性化は、オプソニン作用と、細胞の病原体の溶解に重要である。補体の活性化は、炎症性応答を刺激し、また自己免疫過敏症にも関与し得る。更に、抗体は、Fc領域を介して細胞に結合し、抗体Fc領域上のFc受容体部位が細胞上のFc受容体(FcR)と結合する。IgG(γ受容体)、IgE(η受容体)、IgA(α受容体)及びIgM(μ受容体)を含む、抗体の異なるクラスに特異的な多数のFc受容体が存在する。細胞表面上のFc受容体に対する抗体の結合は、多数の重要で多様な生物学的応答を誘発し、生物学的応答には、抗体被覆粒子の貪食及び破壊、免疫複合体の排除、キラー細胞による抗体被覆標的細胞の溶解(抗体依存性細胞介在性細胞傷害、又はADCCと称される)、炎症性メディエーターの放出、胎盤通過、並びに免疫グロブリン産生の制御が含まれる。
【0036】
本発明の抗体
本発明のCD147抗体は、インビトロ、インサイチュ及び/又はインビボで、少なくとも1つのCD147の活性若しくは結合、又はCD147の活性若しくは結合を、阻害し、又は遮断し、又は妨害する抗体である。好適な抗CD147抗体、特異的部分、又は変異体はまた、場合により、RNA、DNA、又はタンパク質合成、タンパク質放出、CD147受容体シグナル伝達、CD147切断、CD147活性、CD147生成及び/又は合成などであるがこれらに限定されない、少なくとも1つのCD147活性又は機能に影響を及ぼすことができる。
【0037】
一実施形態において、抗ヒトCD147抗体は、SEQ ID NO:9〜16に示すようなアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)又は重鎖可変(VH)領域を含む結合領域を有し、抗体又はその結合部分は、CD147に免疫特異的に結合する。本発明の別の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分はCD147タンパク質に結合し、加えて抗体は、本発明の抗体の特定の機能的特性を所有し、特性は、例えば
ELISAにおいてヒトCD147に結合し、
MDA−MB−231乳癌細胞に対するヒトCD147の結合を阻害し、
NHLFからのヒトCD147媒介性のMMP−1放出を、Fab 5F6のIC50以下のIC50で阻害し、
ヒト線維芽細胞からの腫瘍細胞媒介性のMMP−2の放出を阻害し、
ヒトCD147媒介性のVEGF放出刺激を阻害し、
100nM(10-7M)未満のKdでヒトCD147に結合し、
100nM未満の、より好ましくは10nM未満のKDでカニクイザルCD147に結合し、
SEQ ID NO:1の残基64〜75(DALPGQKTEF)により包含されるヒトCD147アイソフォーム2上のエピトープに結合する。
【0038】
本発明の別の態様では、2H3、5F6、又は4A5結合ドメインの構造的特徴が使用されて、CD147に対する結合などの、本発明の抗体の少なくとも1つの機能的特性を維持する、構造的に関連したヒト抗CD147抗体を作製する。より詳細には、2H3、5F6、又は4A5の1つ以上のCDR領域(SEQ ID NO:9〜14の特定の残基)を既知のヒトフレームワーク領域及びCDRと組み換えにより組み合わせて、組み換えにより操作された本発明の更なるヒト抗CD147抗体を作製することができる。
【0039】
抗体重鎖及び軽鎖CDRドメインは、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たすことが周知であるため、上述したように調製される本発明の組み換え抗体は、2H3の軽鎖及び重鎖CDR3(それぞれ、SEQ ID NO:9及び10)を含むことが好ましい。抗体は、更に2H3のCDR2を含んでもよい。抗体は、更に2H3のCDR1を含んでもよい。したがって、本発明は更に、(1)ヒト重鎖フレームワーク領域、ヒト重鎖CDR1領域、ヒト重鎖CDR2領域、及びヒト重鎖CDR3領域(ヒト重鎖CDR3領域は、SEQ ID NO:10に示すような2H3のCDR3から選択される)と、(2)ヒト軽鎖フレームワーク領域、ヒト軽鎖CDR1領域、ヒト軽鎖CDR2領域、及びヒト軽鎖CDR3領域(ヒト軽鎖CDR3領域は、SEQ ID NO:9に示すような2H3のCDR3から選択される)と、を含む抗CD147抗体を提供し、抗体はCD147に結合する。抗体は、2H3の重鎖CDR2及び/又は軽鎖CDR2を更に含んでもよい。抗体は、2H3の重鎖CDR1及び/又は軽鎖CDR1を更に含んでもよい。
【0040】
非限定的な例として、抗体又は抗原結合部分又は変異体は、本明細書に記載され、SEQ ID NO:10、12、14、又は16からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3、並びに/又はSEQ ID NO:9、11、13、及び15のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3、の少なくとも1つを含んでもよい。特定の実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、本明細書に記載され、SEQ ID NO:10、12、14、又は16からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つの重鎖CDR(即ち、CDR1、CDR2及び/又はCDR3)の少なくとも一部分を含む抗原結合領域を有することができる。別の特定の実施形態において、抗体又は抗原結合部分又は変異体は、本明細書に記載され、SEQ ID NO:9、11、13、及び15からなる群より選択される対抗するCDR1、2及び/又は3のアミノ酸配列を有する少なくとも1つの軽鎖CDR(即ち、CDR1、CDR2及び/又はCDR3)の少なくとも一部分を含む抗原結合領域を有することができる。好ましい実施形態では、抗体又は抗原結合断片の3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRは、本明細書に記載のような、mAb 2H3、5F6、4A5、及び2C8のうちの少なくとも1つの対応するCDRのアミノ酸配列を有する。かかる抗体は、組み換えDNA技術の従来技術を使用して抗体をコードする(即ち、1つ以上の)核酸分子を調製する及び発現させることによって、又は任意の他の適切な方法を使用することによって、従来技術を使用して、抗体の様々な部分(例えば、CDR、フレームワーク部分)を一緒に化学的に連結させることにより調製できる。
【0041】
一実施形態において、操作された本発明の抗体は、2H3、5F6、4A5、及び2C8の正確な配列、CDR1、2及び/又は3を有する。CDRが、例えばヒトフレームワーク内に移植されている操作された抗体に加えて、当業者は、抗体が有効にCD147に結合する能力を維持したまま、元のマウス抗体の正確なCDR配列から幾分かの逸脱が可能であり(例えば、保存的置換)、又は望ましい場合があることを理解するであろう。したがって、別の実施形態において、抗体は、SEQ ID NO:9〜16に特定する可変領域の1つ以上のCDRと例えば90%、95%、98%、又は99.5%同一である1つ以上のCDRから構成されてもよい。上述したような操作された抗体は、CD147を単に結合することに加えて、インビボでの腫瘍細胞の増殖阻害をもたらす血管新生を阻害する能力などの、本発明の抗体の他の機能的特性を維持するよう選択されてもよい。
【0042】
CD147に対する本発明のヒトモノクローナル抗体の結合は、例えば標準的なELISAにより試験することができる。
【0043】
別の実施形態では、本発明の抗体により結合されたエピトープ、より詳細にはSEQ ID NO:1の64〜75(DALPGQKTEF)、又はその核酸コード配列を使用して対象を免疫化して宿主内で本発明の抗体を直接生成し、CD147の産生に関連した疾病の症候を処置し、予防し、又は寛解させることができる。
【0044】
抗CD147抗体の生成
本発明の抗CD147抗体は、場合により、Kohler and Milstein(1975)Nature 256:495の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術(ハイブリドーマ法)を含む、多様な技術により生成されてもよい。ハイブリドーマ法では、マウス、又はハムスター若しくはマカクザルなどの他の適切な宿主動物を本明細書に記載するように免疫化して、免疫化に使用したタンパク質に特異的に結合する抗体を生成する又は生成できるリンパ球を誘発する。代替的に、リンパ球はインビトロで免疫化されてもよい。次いで、リンパ球をポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を使用して骨髄腫細胞と融合して、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59〜103(Academic Press,1986))。
【0045】
抗CD147抗体はまた、所望により、本明細書に記載及び/又は当該技術分野において既知であるように、ヒト抗体のレパートリーを生成することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、非ヒト霊長類など)の免疫化により生じる場合もある。ヒト抗CD147抗体を生成する細胞を、このような動物から単離し、本明細書に記載の方法のような、好適な方法を用いて不死化してもよい。代替的に、本明細書に教示されたかつ当該技術分野で既知の方法により、抗体コード配列を好適なベクター内にクローン化して導入し、これを宿主細胞のトランスフェクションに使用して抗体を発現させ、単離してもよい。
【0046】
ヒト免疫グロブリン(Ig)lociを保有するトランスジェニックマウスを、その生殖系列構造(configuration)に使用することにより、正常なヒト免疫系が耐性を有するヒト自己抗原を含む多様な目標に対して指向された高親和性の完全ヒトモノクローナル抗
体の単離が提供される(Lonberg,N.et al.,US5569825,US6300129 and 1994,Nature 368:856〜9;Green,L.et al.,1994,Nature Genet.7:13〜21;Green,L.& Jakobovits,1998,Exp.Med.188:483〜95;Lonberg,N and Huszar,D.,1995,Int.Rev.Immunol.13:65〜93;Kucherlapati,et al.US6713610;Bruggemann,M.et al.,1991,Eur.J.Immunol.21:1323〜1326;Fishwild,D.et al.,1996,Nat.Biotechnol.14:845〜851;Mendez,M.et al.,1997,Nat.Genet.15:146〜156;Green,L.,1999,J.Immunol.Methods 231:11〜23;Yang,X.et al.,1999,Cancer Res.59:1236〜1243;Bruggemann,M.and Taussig,M J.,Curr.Opin.Biotechnol.8:455〜458,1997;Tomizuka et al.WO02043478)。このようなマウスの内因性免疫グロブリン遺伝子座を分断又は欠失させ、内因性遺伝子によりコードされた、抗体を産生する動物の能力を除去することができる。加えて、Abgenix,Inc.(Freemont,Calif.)及びMedarex(San Jose,Calif.)などの会社は、上述したような技術を使用して、選択された抗原に対して指向されるヒト抗体を提供するよう従事し得る。
【0047】
別の実施形態では、ヒト抗体はファージライブラリから選択され、そのファージはヒト免疫グロブリン遺伝子を含み、ライブラリは、例えば単鎖抗体(scFv)、Fabなど、又は対の若しくは対でない抗体可変領域を示すいくつかの他のコンストラクトなどのヒト抗体結合ドメインを発現する(Vaughan et lo al.Nature Biotechnology 14:309〜314(1996):Sheets et al.PITAS(USA)95:6157〜6162(1998));Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks et al.J.Mol.Biol.,222:581(1991))。本発明のヒトモノクローナル抗体は、ファージディスプレイ法を用いて、ヒト免疫グロブリン遺伝子のライブラリをスクリーニングして調製することもできる。ヒト抗体単離のためのそのようなファージディスプレイ法は、当技術分野にて確立されている。例えば、Ladner et al.に付与された米国特許第5,223,409号、同第5,403,484号及び同第5,571,698号、Dower et al.に付与された米国特許第5,427,908号及び同第5,580,717号、McCafferty et al.に付与された米国特許第5,969,108号及び同第6,172,197号、並びにGriffiths et al.に付与された米国特許第5,885,793号、同第6,521,404号、同第6,544,731号、同第6,555,313号、同第6,582,915号及び同第6,593,081号を参照されたい。
【0048】
免疫原性抗原の調製、及びモノクローナル抗体の生成は、組み換えタンパク質生成などの任意の好適な技術を用いて行うことができる。免疫原性抗原は、精製タンパク質、又は全細胞若しくは細胞若しくは組織抽出物を含むタンパク質混合物の形態で動物に投与されてもよく、又は抗原は、動物の身体内で、前記抗原又はその一部をコードする核酸から新規に形成されてもよい。
【0049】
本発明の単離核酸は、当該技術分野において周知であるように、(a)組み換え方法、(b)合成技術、(c)精製技術、又はこれらの組み合わせを使用して形成することができる。モノクローナル抗体をコードするDNAは、当技術分野にて既知の方法を用いて容易に単離及び配列決定される(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽差をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)。ハイブリドーマが生成される場合、そのような細胞はそれらのDNAの供給源として機能することができる。代替的に、ファージ又はリボソームディスプレイライブラリのような、コード配列と翻訳産物とが関連されているディスプレイ技術を使用することにより、バインダと核酸の選択が簡素化される。ファージの選択後、ファージからの抗体コード領域が単離され、ヒト抗体、又は任意の他の所望の抗原結合断片を含む抗体全体の生成に使用され、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母及び細菌を含む任意の所望の宿主内で発現される。
【0050】
ヒト化抗体
本発明は更に、ヒトCD147に結合するヒト化免疫グロブリン(又は抗体)を提供する。免疫グロブリンのヒト化形態は、実質的にヒト免疫グロブリンからの可変フレームワーク領域(1つ以上)(アクセプター免疫グロブリンと呼ばれる)と、実質的にCD147に特異的に結合する非ヒトMabからのCDRと、を有する。存在する場合、定常領域(1つ以上)も、実質的にヒト免疫グロブリンからである。ヒト化抗体は、少なくとも約10^−6M(1マイクロM)、約10^−7M(100nM)又はそれ未満のCD147に対するKDを示す。ヒト化抗体の結合親和性は、そのヒト化抗体が由来するマウス抗体の結合親和性を上回り、又は下回り得る。CD147に対するヒト化抗体の親和性を変化させ、また親和性を改善するために、CDR残基又はヒト残基のいずれかに置換を行ってもよい。
【0051】
CD147に結合するヒト化抗体の生成源は、その生成、単離及び特徴付けが本明細書の実施例に記載される2H3、4A5、5F6又は2C8マウス抗体が好ましいが、CD147に対する結合に関して2H3、4A5、5F6又は2C8マウス抗体と競合する他のマウス抗体も使用することができる。それ故、SEQ ID NO:9〜16の同定されたCDRは、ヒト化プロセスの出発点である。
【0052】
ヒト可変部ドメインフレームワークが、CDRの起源であるマウス可変フレームワークと同一又は同様の立体構造(conformation)をとる場合、マウスCDRをヒト可変部ドメインフレームワークに置換することにより、その正確な空間配向が維持される可能性が最も高い。これは、そのフレームワーク配列が、CDRが由来するマウス可変フレームワークドメインと高い程度の配列同一性を示すヒト抗体からヒト可変部ドメインを得ることによって達成される。重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域は、同一又は異なるヒト抗体配列に由来することができる。ヒト抗体配列は、天然に存在するヒト抗体の配列であってもよく、又はヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来してもよく、又は数種のヒト抗体及び/若しくは生殖系列配列のコンセンサス配列であってもよい。
【0053】
好適なヒト抗体配列は、マウス可変領域のアミノ酸配列と、既知のヒト抗体の配列とのコンピュータ比較により同定される。比較は重鎖と軽鎖とで別々に行われるが、原理はそれぞれに関して類似している。
【0054】
1つの例では、抗CD147 mAbのアミノ酸配列を使用して、抗体配列データベースから蓄積したヒト抗体データベースに問い合わせる。SEQ ID NO:10、12、14、又は16の重鎖可変領域を使用して、最も高い配列同一性を有するヒト可変領域を見つけることができる。同様に、SEQ ID NO:9、11、13、又は15の軽鎖の可変領域を使用して、最も高い配列同一性を有するヒト可変領域を見つけることができる。マウスMabドナーからの重鎖可変領域の1つのCDRをコードする領域が、選択されたヒト重鎖可変配列内に移動され、ヒト可変領域のCDRを置き換えるDNAコンストラクトは、各マウス可変領域について調製される。
【0055】
ヒト可変フレームワーク領域を有するマウスCDR領域の不自然な並置により、不自然な配座拘束を生じる場合があり、この拘束は所定のアミノ酸残基の置換により修正されない限り結合親和性の損失をもたらす。前記したように、本発明のヒト化抗体は、実質的にヒト免疫グロブリンからの可変フレームワーク領域(1つ以上)と、実質的にマウス免疫グロブリンからのCDR(例えば、2H3、4A5、5F6又は2C8マウス抗体)と、を含む。マウス抗体のCDR及び適切なヒトアクセプター免疫グロブリン配列を同定した後、次の工程は、もし存在する場合、これらの成分のどの残基を置換して、結果として得られるヒト化抗体の特性を最適化するべきかを決定することである。一般に、マウスによるヒトアミノ酸残基の置換は、マウス残基の導入がヒトにおいて抗体によるHAMA応答の誘発の危険性を増大させるため、最小限にする必要がある。置換されるアミノ酸は、CDR立体構造及び/又は抗原への結合に対する可能な影響に基づいて選択される。そのような可能な影響は、モデリング、特定の位置におけるアミノ酸の特性の検査、又は特定のアミノ酸の置換若しくは変異誘発の効果の経験的観察結果により検討することができる。経験的方法に関しては、所望の活性、結合親和性又は特異性をスクリーニングし得る変異体配列のライブラリを形成することが特に簡便であることが見出されている。そのような変異体のライブラリを形成するための1つのフォーマットは、ファージディスプレイベクターである。代替的に、変異体は、可変部ドメイン内の標的残基をコードする核酸配列を変動(varigation)させる他の方法を用いて生成することができる。
【0056】
更なる置換が必要であるか否かを決定する他の方法と、置換されるアミノ酸残基の選択とは、コンピュータモデリングを用いて達成することができる。免疫グロブリン分子の3次元画像を生成するコンピュータハードウェア及びソフトウェアは広く入手可能である。一般に、分子モデルは、免疫グロブリン鎖又はそのドメインに関する解明された構造から出発して生成される。モデリングされる鎖のアミノ酸配列の、解明された3次元構造の鎖又はドメインとの類似性が比較され、最大の配列類似性を示す鎖又はドメインが分子モデル構成の出発点として選択される。解明された出発構造は、モデリングされている免疫グロブリン鎖又はドメイン内の実際のアミノ酸と、出発構造内のアミノ酸との間の差異を許容するよう変更される。次いで、変更された構造は、複合体免疫グロブリンに組み立てられる。最終的に、モデルは、エネルギー最小化し、また全部の原子が互いから適切な距離内に存在し、結合の長さと角度とが化学的に許容し得る限界内にあることを検証することにより精密化される。
【0057】
通常、ヒト化抗体内のCDR領域は実質的に同一であり、より通常には、CDR領域が由来するマウス抗体内の対応するCDR領域と同一である。通常所望されないが、時には、結果として得られるヒト化免疫グロブリンの結合親和性に相当な影響を与えることなく、CDR残基の1つ以上の保存的アミノ酸置換を行うことが可能である。時折、CDR領域の置換は、結合親和性を高めることができる。
【0058】
上述した特定のアミノ酸置換に関する以外に、ヒト化免疫グロブリンのフレームワーク領域は通常、実質的に同一であり、通常以上には、フレームワーク領域が由来するヒト抗体のフレームワーク領域と同一である。勿論、フレームワーク領域内のアミノ酸のうちの多数は、抗体の特異性又は親和性にほとんど又は全く直接寄与しない。したがって、フレームワーク残基の多数の個々の保存的置換は、結果として得られるヒト化免疫グロブリンの特異性又は親和性の相当の変化を起こすことなく許容され得る。
【0059】
コードの縮重により、多様な核酸配列が各免疫グロブリンアミノ酸配列をコードするであろう。所望の核酸配列は、デノボ(de nova)固相DNA合成、又は所望のポリヌクレオチドの早期に調製された変異体のPCR変異誘発により生成され得る。本願に記載される抗体をコードする全ての核酸は、本発明に明白に含まれる。
【0060】
上述したように生成されたヒト化抗体の可変セグメントは、典型的には、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に結合される。抗体は、軽鎖及び重鎖定常領域の両方を含むであろう。重鎖定常領域は、通常、CH1、ヒンジ、CH2、CH3、及び時折CH4ドメインを含む。
【0061】
ヒト化抗体は、IgM、IgG、IgD、IgA及びIgEを含む任意のクラスの抗体からの任意の種類の定常ドメインを含んでもよく、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む任意のサブクラス(アイソタイプ)を含んでもよい。ヒト化抗体が細胞傷害活性を示すことが所望される場合、定常ドメインは通常、補体結合性定常ドメインであり、クラスは一般にIgG1である。そのような細胞傷害活性が所望されない場合、定常ドメインはIgG2クラスのものであってもよい。ヒト化抗体は、2つ以上のクラス又はアイソタイプからの配列を含んでもよい。
【0062】
場合により定常領域に結合されたヒト化軽鎖及び重鎖可変領域をコードする核酸は、発現ベクター内に挿入される。軽鎖及び重鎖は、同一又は異なる発現ベクター内にクローン化されてもよい。免疫グロブリン鎖をコードするDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確実にする発現ベクター(1つ以上)内の制御配列に操作可能に結合される。そのような制御配列は、シグナル配列、プロモーター、エンハンサー、及び転写終結配列を含む(その全体が全目的のために参照により本明細書に組み込まれるQueen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029(1989);WO 90/07861;Co et al.,J.Immunol.148,1149(1992)参照)。
【0063】
抗体の使用方法
以下に詳細に記載するように、本発明者らは、単離されたモノクローナル抗体の3つ(2H3、4A5、5F6)がCD147上の重複エピトープに結合し、インビトロ及び/又はインビボでのCD147阻害活性を有する。有意には、MAbの反応性は、MMP及びVEGFの産生を低下させ、血管新生を阻害する能力を含む。
【0064】
本発明に記載したようなモノクローナル抗体の特性を考慮すると、抗体又はその抗原結合断片は、ヒト及び動物におけるCD147関連の状態を処置又は予防するための治療及び予防剤の両方として好適である。
【0065】
一般に、使用は、有効量の1つ以上の本発明モノクローナル抗体又は抗原結合断片を、感受性の対象に、又はCD147活性が腫瘍増殖及び転移などの病理学的続発症を有することが知られる状態を示している対象に、治療的又は予防的に投与することを含むであろう。Fab及びF(ab’)2断片を含む、抗体の任意の活性型を投与することができる。
【0066】
使用される抗体は、Mabに対する免疫応答が容認しがたいほど短い循環半減期をもたらさず、又はMAbに対する免疫応答を対象内で誘導しないように、レシピエント種に対して適合性を有することが好ましい。投与されるMAbは、対象のFc受容体に対する結合、及びADCC機構の活性化などのいくつかの二次的機能を示すことが好ましい。
【0067】
個人の処置は、治療的有効量の本発明の抗体を投与することを含んでもよい。抗体は、上述したようなキットで提供されてもよい。抗体は、例えば等量の混合物として投与されてもよく、又は個別に連続して提供されても、又は一度に投与されてもよい。レシピエント患者内でCD147に結合可能な抗体若しくはその断片、又はCD147に対して保護できる抗体を患者に提供する際、投与される薬剤の用量は、患者の年齢、体重、身長、性別、全身の健康状態、全身の医学的状態、既往歴などの因子に応じて変動するであろう。
【0068】
一般に、全身性用量の抗体を投与する場合、約1ng/kg〜100ng/kg、100ng/kg〜500ng/kg、500ng/kg〜1ug/kg、1ug/kg〜100ug/kg、100ug/kg〜500ug/kg、500ug/kg〜1mg/kg、1mg/kg〜50mg/kg、50mg/kg〜100mg/kg、100mg/kg〜500mg/kg(レシピエントの体重)の範囲内の用量の抗体をレシピエントに提供することが望ましが、より少ない又は多い用量が投与されてもよい。約1.0mg/kgのような少ない用量が、幾分かの有効性を示すことが期待され得る。好ましくは約5mg/kgが許容できる用量であるが、約50mg/kg迄の用量レベルも特に治療的使用においては好ましい。あるいは、1ug〜100ug、1mg〜100mg、又は1gm〜100gmの範囲内の量のような、患者の体重に基づかない特定の量の抗体が投与されてもよい。例えば、部位特異的投与は、関節内、気管支内、腹内、関節包内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内、脳室内、結腸内、頚管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、病巣内、膣内、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮手段などの身体区画また腔に対するものであり得る。
【0069】
CD147抗体組成物を、特に液体溶液又は懸濁液の形での非経口(皮下、筋肉、若しくは静脈内)又はその他のあらゆる投与に使用するため;クリーム又は座薬といった(ただしこれらに限定されない)特に半固体形態での膣内又は直腸内投与で使用するため;錠剤又はカプセルの形での(ただしこれらに限定されない)口腔内又は舌下投与のため;粉末、点鼻薬、若しくはエアロゾル、又は一部の作用物質の形で(ただしこれらに限定されない)鼻腔内で;皮膚構造を修飾するか又は経皮パッチ内の薬物濃度を増大させるためジメチルスルホキンドといったような化学的エンハンサーを伴った(Junginger,et al.「Drug Permeation Enhancement」;Hsieh,D.S.,Eds.,pp.59〜90(Marcel Dekker,Inc.New York 1994、参照により全体が本明細書に組み込まれる)又は皮膚上へのタンパク質及びペプチドを含有する処方の塗布(WO 98/53847)又は電気穿孔といった過渡的輸送経路を作り出すか又はイオントフォレシスなどの皮膚を通して荷電薬物の易動性を増大させるための電界の適用、又はソノフォレシスなどの超音波の適用(米国特許第4,309,989号及び同第4,767,402号)を可能にする酸化剤を伴うゲル、軟こう、ローション、懸濁液又はパッチ送達系といった(ただしこれらに限定されない)ように経皮的に投与するために、調製することができる(上述の刊行物及び特許は参照により全体が本明細書に組み込まれる)。
【0070】
同様の手法で、本発明のモノクローナル抗体の他の治療的使用は、本モノクローナル抗体のうちの1つに対して上昇された抗イディオタイプ抗体を使用する、患者の能動免疫化である。エピトープの構造を模倣した抗イディオタイプによる免疫化は、能動的な抗CD147応答を誘発し得る(Linthicum,D.S.and Farid,N.R.,Anti−Idiotypes,Receptors,and Molecular Mimicry(1988),pp 1〜5 and 285〜300)。
【0071】
同様に、能動免疫化は、ワクチンの成分として1つ以上の抗原性及び/又は免疫原性エピトープを投与することにより誘導することができる。ワクチン接種は、レシピエントが、この生物学的に機能的な領域に予防的又は治療的に対抗する保護抗体を生成できるのに十分な量で、経口又は非経口的に行うことができる。宿主は、純粋な形態の抗原性/免疫原性ペプチド、ペプチドの断片、又はペプチドの修飾形態により能動免疫化され得る。元のタンパク質配列に一致しない1つ以上のアミノ酸を元のペプチドのアミノ又はカルボキシル末端に加えてもよく、又はペプチドの切断型に加えてもよい。そのような余分のアミノ酸は、ペプチドを他のペプチド、又は大きい担体タンパク質、又は支持体に結合するのに有用である。これらの目的に有用なアミノ酸には、チロシン、リシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン及びこれらの誘導体が挙げられる。代替的なタンパク質修飾技術、例えばNH2−アセチル化又はCOOH−末端アミド化を用いて、ペプチドを他のタンパク質若しくはペプチド分子又は支持体に結合又は融合する更なる手段を提供してもよい。
【0072】
CD147生物活性に対する保護が可能な抗体は、CD147関連の症候又は病理の軽減、回復又は寛解を達成するのに十分な量でレシピエント対象に提供されることが意図される。量は、薬剤の用量、投与経路などが、そのような応答に影響を与えるのに十分な場合、症候の軽減を達成するのに十分な、又は治療的に有効な量であるものと考えられる。抗体投与に対する応答は、イメージング技術又は組織試料のエクスビボ分析により、対象の患部組織、器官又は細胞を分析して測定され得る。薬剤は、その薬剤の存在が、レシピエント患者の生理機能に検出可能な変化をもたらした場合、生理学的に有意である。
【0073】
本発明の化合物は、薬剤的に有用な組成物を調製する既知の方法に従って処方することができ、それによってこれらの材料又はそれらの機能的誘導体が、混和物中で薬剤的に許容できる担体ビヒクルと組み合わされる。好適なビヒクル、及び他のヒトタンパク質、例えばヒト血清アルブミンを含むそれらの処方物は、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences(16th ed.,Osol,A.ed.,Mack Easton Pa.(1980))に記載されている。効果的な投与に好適な、薬剤的に許容できる組成物を形成するために、それらの組成物は、有効量の上述した化合物を、好適な量の担体ビヒクルと共に含有するであろう。追加の薬剤的方法を使用して、作用の持続時間を制御してもよい。制御放出製剤は、ポリマー類を使用して、化合物を複合させること又は吸収することにより達成され得る。制御放出製剤による作用の持続時間を制御する他の可能な方法は、本発明の化合物を、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)又はエチレンビニルアセテートコポリマーなどのポリマー材料の粒子中に組み込むことである。あるいは、これらの薬剤をポリマー粒子中に組み込む代わりに、これらの材料をマイクロカプセル内、例えば界面重合により調製された、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)−マイクロカプセル、又はコロイド状薬物送達システム内、例えばリポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル、又はマクロエマルション内に封入することができる。かかる技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980)に開示されている。
【0074】
処置は単回投与計画、又は好ましくは複数回投与計画で付与されてもよく、複数回投与計画では、一次処置過程が1〜10回の別個の投与と、応答を維持し及び又は強化するのに必要な続く時間間隔で他の投与とを行い、例えば第2の投与が1〜4ヶ月後、また必要であれば、続く投与(1回以上)を数ヶ月後に行う。好適な処置スケジュールの例は、(i)0、1ヶ月及び6ヶ月、(ii)0、7日及び1ヶ月、(iii)0及び1ヶ月、(iv)0及び6ヶ月、又は疾病の症候を軽減し、若しくは疾病の重篤さを軽減することが期待される、所望の応答を誘発するのに十分な他のスケジュールを含む。
【0075】
本発明は、本発明を実行するのに有用なキットも提供する。本発明のキットは、上述した抗体を収容し、又は上述した抗体と関連して包装された第1の容器を含む。キットは、本発明を実行するのに必要な又は簡便な溶液を収容し、又は溶液と関連して包装された他の容器を含んでもよい。容器は、ガラス、プラスチック又はホイルから形成されてもよく、またバイアル、ボトル、パウチ、チューブ、バッグなどであってもよい。キットは、本発明を実行するための手順、又は第1の容器手段内に収容されている試薬の量などの分析的情報などの文書情報も含み得る。容器は文書情報と共に他の容器器具、例えば箱又はバッグ内に存在してもよい。
【0076】
本発明の更なる別の態様は、生物学的試料中のCD147を検出するためのキットである。このキットは、CD147に結合して免疫複合体を形成し、この免疫複合体の形成を検出することによって免疫複合体の存在又は不在を試料中のCD147の存在又は不在と相関させることを目的として、CD147のエピトープに結合する1つ以上の抗体を保持する容器と、抗体の使用のための指示書とを含む。容器の例には、多数の試料中のCD147を同時に検出できるマルチウェルプレートが挙げられる。
【0077】
治療適用
本発明の抗CD147抗体、抗原結合断片、又はその特定の変異体を使用して、細胞、組織、器官又は動物(哺乳動物及びヒトを含む)内で測定し又は効果をもたらして、CD147により仲介、影響又は調節される状態の発生を診断し、監視し、調節し、処置し、軽減し、発生の予防を補助し、又は状態の症候を軽減することができる。そのような状態は、例えば組織再増殖、新生物疾病、転移性疾病、及び線維化状態におけるような細胞遊走及び組織リモデリングにより仲介される疾病又は状態から選択されるが、これらに限定されない。そのような疾病又は状態には、特に悪性及び神経系の疾患若しくは疾病、又は他の既知の若しくは特定のCD147関連の状態が挙げられ、CD147関連の状態には、炎症性又は自己免疫疾患若しくは疾病、心血管疾患若しくは疾病、又は感染症が不随し得る。特に、抗体は、血管形成が関与する疾病、例えば眼疾患及び腫瘍性疾患、再狭窄などの組織再形成及びある種の細胞型の増殖、特に上皮及び扁平上皮細胞癌の治療に有用である。特定の適応症としては、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、癌転移、関節リウマチ、糖尿病性網膜症及び黄斑変性症の治療における使用が含まれる。本発明の中和抗体は更に、例えば骨粗鬆症において見られる、又は一部の腫瘍によるPTHrP過剰発現の結果生じる、望ましくない骨吸収又は骨分解の予防又は治療にも有用である。抗体はまた、特発性肺線維症、糖尿病性腎症、肝炎、及び肝硬変といったさまざまな線維症の治療においても有用であり得る。
【0078】
よって、本発明は、当該技術分野において既知のように、又は本明細書に記載されているように、本発明の少なくとも1つのCD147抗体を用いて、細胞、組織、器官、動物、又は患者における少なくとも1つのCD147関連疾患を調節又は処置するための方法を提供する。特別な指摘については以下に論述する:
【0079】
肺疾患
本発明は更に、肺炎;肺膿瘍;粉塵、ガス又は飛沫の形をした作用物質を原因とする職業性肺疾患;喘息、閉塞性繊維性細気管支炎、呼吸不全、過敏性肺炎(外因性アレルギー性肺胞炎)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、及び薬物反応を含む肺の過敏性疾患;成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、グッドパスチャー症候群、慢性閉塞性気道疾患(COPD)、特発性間質性肺疾患、例えば特発性肺線維症及びサルコイドーシス、剥離性間質性肺炎、急性間質性肺炎、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患、気質性肺炎を伴う特発性閉塞性細気管支炎、リンパ球性間質性肺炎、ランゲルハンス細胞肉芽腫症、特発性肺ヘモジデリン沈着症;急性気管支炎、肺胞タンパク症、気管支拡張症、胸膜疾患、無気肺、嚢胞性線維症、肺腫瘍、及び肺栓塞症のうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、細胞、組織、器官、動物、又は患者における肺又は胸膜疾病を調節又は治療するための方法をも提供している。
【0080】
悪性疾患
本発明はまた、白血病、急性白血病、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、B細胞、T細胞又はFAB ALL、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、有毛細胞白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、リンパ腫、ホジキン病、悪性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、原疾患又は転移性疾患のような固形腫瘍、カポジ肉腫、直腸結腸癌、膵臓癌、腎細胞癌、中皮腫を含む肺癌、乳癌、鼻咽頭癌、悪性組織球増殖症、悪性の腫瘍随伴症候群/高カルシウム血症、腺癌、扁平上皮細胞癌、肉腫、悪性黒色腫、特に転移性黒色腫、血管腫、転移性疾患、癌関連骨吸収、及び癌関連骨痛などのうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、細胞、組織、器官、動物、又は患者における悪性疾患を調節又は治療するための方法をも提供している。
【0081】
免疫関連疾患
本発明は、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、全身型若年性関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎(ankylosing spondilitis)、胃潰瘍、血清反応陰性関節症、変形性関節症、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、虹彩毛様体炎/ブドウ膜炎/視神経炎、突発性肺線維症、全身性血管炎/ウェゲナー肉芽腫症、サルコイドーシス、精巣炎/精管復元術(vasectomy reversal procedure)、アレルギー性/アトピー性疾患、喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、アレルギー性接触性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、過敏性肺炎、移植片、器官移植拒絶、移植片対宿主病、全身性炎症性応答症候群、敗血症症候群、グラム陽性菌敗血症、グラム陰性菌敗血症、培養陰性敗血症、真菌性敗血症、好中球減少性発熱、尿路性敗血症、髄膜炎菌血症、外傷/出血、やけど、電離放射線暴露、急性膵炎、成人呼吸窮迫症候群、関節リウマチ、アルコール性肝炎、慢性炎症性病態、サルコイドーシス、クローン病(Crohn’s pathology)、鎌状赤血球貧血、糖尿病、ネフローゼ、アトピー性疾患、過敏反応、アレルギー性鼻炎、花粉症(hay fever)、通年性鼻炎、結膜炎、子宮内膜症、喘息、蕁麻疹、全身アナフィラキシー、皮膚炎、悪性貧血、溶血性疾患、血小板減少症、任意の器官又は組織の移植片拒絶、腎臓移植拒絶、心臓移植拒絶、肝臓移植拒絶、膵臓移植拒絶、肺移植拒絶、骨髄移植(BMT)拒絶、移植皮膚拒絶、軟骨移植拒絶、骨移植片拒絶、小腸移植拒絶、胎児胸腺移植拒絶、副甲状腺移植拒絶、任意の器官又は組織の異種移植拒絶、同種移植片拒絶、抗受容体過敏反応、グレーブス病、レイノー病、B型インスリン抵抗性糖尿病、喘息、重症筋無力症、抗体介在細胞毒性、III型過敏反応、全身性エリテマトーデス、POEMS症候群(多発ニューロパチー、臓器肥大、内分泌疾患、単クローン性γグロブリン血症、及び皮膚変化症候群)、抗リン脂質症候群、天疱瘡、強皮症、混合性結合組織病、特発性アジソン病、真性糖尿病、慢性活動性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(primary billiary cirrhosis)、白斑、血管炎、MI心臓切開術後症候群(post-MI cardiotomy syndrome)、IV型過敏症、接触性皮膚炎、過敏性肺炎、同種移植片拒絶、細胞内微生物による肉芽腫、薬物感受性、代謝性/突発性、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス(hemachromatosis)、α−1−抗トリプシン欠乏症、糖尿病性網膜症、橋本甲状腺炎、骨粗鬆症、視床下部−下垂体−副腎軸評価(hypothalamic-pituitary-adrenal axis evaluation)、原発性胆汁性肝硬変、甲状腺炎、脳脊髄炎、悪液質、嚢胞性線維症、新生児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、家族性食血細胞性リンパ組織球症(familial hematophagocytic lymphohistiocytosis)、皮膚科学的状態、乾癬、脱毛症、ネフローゼ症候群、腎炎、糸球体腎炎、急性腎不全、血液透析、尿毒症、毒性、子癇前症、OKT3療法、抗CD3療法、サイトカイン療法、化学療法、放射線療法(例えば喘息、貧血、悪液質などを含むがこれらに限定されない)、慢性サリチル酸塩中毒などのうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、細胞、組織、器官、動物、又は患者における免疫関連の疾病を調節又は処置するための方法も提供する。例えば、Merck Manual,12th〜17th Editions,Merck & Company,Rahway,NJ(1972,1977,1982,1987,1992,1999),Pharmacotherapy Handbook,Wells et al.編、Second Edition,Appleton and Lange,Stamford,Conn.(1998,2000)を参照し、それぞれ参照によりその全体が組み込まれる。
【0082】
心血管疾患
本発明は、心機能不全症候群(cardiac stun syndrome)、心筋梗塞、うっ血性心不全、卒中、虚血発作、出血、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、糖尿病性動脈硬化性疾患(diabetic ateriosclerotic disease)、高血圧、動脈性高血圧、腎血管性高血圧、失神、ショック、心血管系の梅毒、心不全、肺性心、原発性肺高血圧、不整脈、心房異所性拍動、心房粗動、心房細動(持続性又は発作性)、還流後症候群、心肺バイパス炎症応答、無秩序型又は多源性心房頻脈、規則的狭QRS頻脈(regular narrow QRS tachycardia)、固有不整脈(specific arrythmias)、心室細動、ヒス束不整脈(His bundle arrythmias)、房室ブロック、脚ブロック、心筋虚血性疾患、冠動脈疾病、狭心症、心筋梗塞、心筋症、拡張型うっ血性心筋症、拘束型心筋症、心臓弁膜症、心内膜炎、心膜疾患、心臓腫瘍、大動脈瘤又は末梢動脈瘤、大動脈切開、大動脈の炎症、腹部大動脈及びその分岐の閉塞、末梢血管疾患、閉塞性動脈疾患、末梢アテローム硬化性疾患、閉塞性血栓性血管炎、機能性末梢動脈疾患、レイノー現象及び疾患、先端チアノーゼ、紅痛症、静脈性疾患、静脈血栓症、静脈瘤、動静脈瘻、リンパ浮腫(lymphederma)、脂肪性浮腫、不安定狭心症、再灌流傷害、ポンプ後症候群(post pump syndrome)、虚血再灌流障害などのうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、細胞、組織、器官、動物、又は患者における心血管疾病の調節又は処置のための方法も提供する。
【0083】
神経系疾患
本発明は、神経変性疾患、多発性硬化症、片頭痛、AIDS認知症症候群、多発性硬化症及び急性横断性脊髄炎(acute transverse myelitis)などの脱髄性疾患;皮質脊髄系の病変などの錐体外路及び小脳の疾患;基底核の疾患又は小脳疾患;ハンチントン舞踏病及び老人性舞踏病などの運動過剰障害;CNSドーパミン受容体を遮断する薬物により誘導されるものなどの薬剤性運動異常症;パーキンソン病などの運動低下障害;進行性核上性麻痺;小脳の器質的病変;脊髄性運動失調、フリードライヒ失調症、脊髄小脳変性症、多系統変性症(multiple systems degenerations)(Mencel、Dejerine−Thomas、Shi−Drager,and Machado−Joseph)などの脊髄小脳変性症;全身疾患(レフサム病、無βリポタンパク質血症、運動失調、毛細血管拡張症及びミトコンドリア多系疾患(mitochondrial multi. system disorder));多発性硬化症、急性横断性脊髄炎などの脱髄コア疾患(demyelinating core disorders);神経性筋萎縮(筋萎縮性側索硬化症、乳児脊髄性筋萎縮症及び若年性脊髄性筋萎縮症などの前角細胞変性)などの運動単位の疾患;アルツハイマー病;中年におけるダウン症候群;びまん性レビー小体病;レビー小体型の老年認知症;ウェルニッケ・コルサコフ症候群;慢性アルコール症;クロイツフェルト・ヤコブ病;亜急性硬化性全脳炎、ハレルフォルデン−スパッツ病(Hallerrorden-Spatz disease);並びに拳闘家認知症などのうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、細胞、組織、器官、動物、又は患者における心血管疾病の調節又は処置のための方法も提供する。所望により、少なくとも1つのTNF抗体又は特定部分又は変異体を含む有効量の組成物又は医薬組成物を、このような調節、治療又は療法を必要としている細胞、組織、器官、動物、又は患者に対し投与する工程を含むことができる。例えば、Merck Manual,16th Edition,Merck & Company,Rahway,NJ(1992)を参照のこと。
【0084】
抗CD147抗体の他の治療的使用
上述の疾患及び疾病に加えて、本発明はまた、肝臓線維症(アルコール性肝硬変、ウイルス性肝硬変、自己免疫性肝炎を含むがこれらに限定されない);肺線維症(強皮症、特発性肺線維症を含むがこれらに限定されない);腎臓線維症(強皮症、糖尿病性腎炎、糸球体腎炎、ループス腎炎を含むがこれらに限定されない);皮膚線維症(強皮症、肥厚性及びケロイド瘢痕、火傷を含むがこれらに限定されない);骨髄線維症;神経線維腫症;線維腫;腸線維症;及び外科手術の結果としての線維化付着といったようなさまざまな病因の線維性疾患を調節又は処置するための方法をも提供している。
【0085】
本発明は、急性又は慢性細菌感染、細菌、ウイルス、及び菌感染を含む急性及び慢性寄生又は感染プロセス、HIV感染/HIV神経障害、髄膜炎、肝炎(A、B又はCなど)、敗血症性関節炎、腹膜炎、肺炎、喉頭蓋炎、大腸菌、溶血性尿毒症症候群、マラリア、デング出血熱、リーシュマニア症、ハンセン病、中毒性ショック症候群、連鎖球菌筋炎、ガス壊疽、ヒト型結核菌、トリ型結核菌、ニューモシスティス・カリニ肺炎、骨盤感染症、精巣炎/精巣上体炎、レジオネラ、ライム病、A型インフルエンザ、エプスタイン・バーウイルス、ウイルス関連血球貪食症候群、ウイルス性脳炎/無菌性髄膜炎などのうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、細胞、組織、器官、動物、又は患者における心血管疾病の調節又は処置のための方法も提供する。
【0086】
本願全体で引用した全ての引用参考文献(論文参考文献、交付済み特許、公開された特許出願、及び同時係属の特許出願を含む)の内容は、参照により本明細書に明白に組み込まれる。
【0087】
本発明の他の特徴は、本発明の説明のために提供され、本発明を限定することを意図しない以下の例示的な実施形態の記載の過程にて明らかとなるであろう。
【実施例】
【0088】
実施例1:CD147試薬及び方法
抗CD147モノクローナル抗体を生成及び試験するために、CD147の細胞外ドメインの全部又は一部を表す所定のタンパク質コンストラクトを生成した。CD147ポリペプチドと、CD147の変異型、切断型若しくは削除型、又は融合タンパク質は、様々な使用のために調製することができ、その使用には、抗体の生成、診断アッセイにおける試薬として、例えばHIV−1感染症、AIDS、RA及び癌の処置又は予防に使用できる治療的化合物のスクリーニングのためのアッセイにおける試薬として、例えばHIV−1感染症、AIDS及びAIDS関連の疾患、RA及び癌の処置に有用な薬剤的試薬として、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
CD147アイソフォームII(NCBI Accession No.NP_940991、SEQ ID NO:1)として既知のbsg遺伝子は、シグナル配列、細胞外、膜貫通、及び細胞内ドメインを含む269アミノ酸長のプロポリペプチドである。
【0090】
図1は、CD147の、N−末端Igドメイン(N−末端ドメイン、残基22〜103からのC2型領域)とC−末端Igドメイン(C−末端ドメイン、残基105〜199からのV様領域)とを含む細胞外(ECD又はECD−FL)、膜貫通(TM)及び細胞内(ICD)ドメインを概略的に示す。1つ以上の他の領域又はドメインが削除されている、1つ以上のこれらのCD147のドメインに対応するペプチド、及び完全長ECD又は一方若しくは他方のIg様領域が、無関係タンパク質(例えば、GST、FLAG、hex−HIS、及びFc−融合物)に融合されている融合タンパク質が、当技術分野にて既知の組み換え法により構成され、哺乳動物細胞培養物から発現及び精製された。それらのヒトCD147−Fcキメラは、同様にR&D Systems,Inc.から市販されている、ヒトIgG1のカルボキシ−末端hexa−HisタグFc領域に融合された、SEQ ID NO:1の残基24〜205を含む。
【0091】
ヒトCD147アイソフォーム2をコードするcDNAをATCC IMAGEクローン3867352又はMGC−17700(NCBI Accession No.BC009040、1622bp、完全cds)から獲得し、このクローンをテンプレートとして使用して3つの発現コンストラクトを生成した。
【0092】
i)コンストラクト# 3364:ヒトCD147 ECD1〜192
発現ベクター3364を生成するために、内因性シグナルペプチド及びヒトCD147の細胞外ドメイン(ECD1〜192)を含む、アミノ酸1〜192をコードするヌクレオチド配列を、C−末端にFLAG−タグ付けされた(3364)バージョンとして発現ベクターp3XFLAG−CMV−14(Sigma)内にサブクローン化した。ポリペプチドモノマーは、C−末端FLAG−タグ付けタンパク質としてヒトCD147 ECD、FLAGペプチドに融合したアミノ酸Met1〜Gly 192を含むであろう(Brizzard et al.Biotechniques.1994 Apr;16(4):730〜5)。
【0093】
ii)コンストラクト# 3128:ヒトCD147 N−ドメイン
発現ベクター3128ヌクレオチド配列を生成するために、内因性シグナルペプチド及びヒトCD147の第1 Ig様領域(N−ドメイン)を含む、アミノ酸1〜117をコードするヌクレオチド配列を、Ig1.FC.for、5’TCGAGGTACCGCCACCATGGCGGC 3’(SEQ ID NO:2)及び
Ig1.FC.rev、5’TGCAGCGGCCGCCGTTGATGTGTTCTGACG 3’(SEQ ID NO:3)
を使用して、C−末端Fc−融合物(3128)として、pcDNA3.1(+)内にサブクローン化した。ER内で成熟され分泌された際、N−末端はAsp 19として見出され、これはAをコードするリーダーコドン内の突然変異を表す。Fc−融合コンストラクトAsp19−Asn117−IgG1−Fcに加えて、CD147 N−ドメインAsp19−Asn119は、更にタグ付け及びAsp19−Asn117−hexahis種を構築するのに使用された。
【0094】
iii)コンストラクト# 3129:ヒトCD147 C−ドメイン
発現ベクター3129を生成するために、ヒト成長ホルモンシグナルペプチドと、ヒトCD147の第2Ig様領域(C−ドメイン)を含むアミノ酸95〜203とをコードするヌクレオチド配列を、5’CAAGAGGGATCCGCCGGCACGGCC 3’;Ig2.FC.(SEQ ID NO:4)をフォワードプライマーとして、5’TGCAGCGGCCGCTGCGCACGCGG 3’(SEQ ID NO:5)をリバースプライマーとして使用して、C−末端Fc−融合物Ig2.FC.としてpcDNA3.1(+)内にサブクローン化した。哺乳動物宿主細胞内で発現され、ER内で成熟され分泌された際、分泌されたタンパク質は、アミノ酸残基gly 95〜ser204融合ヒトFc−足場(IgG1のヒンジ、CH2及びCH3ドメイン)を表すホモ二量体を形成するであろう(コンストラクト# 3129)。Fc−融合コンストラクトに加えて、gly 95〜ser204を更に使用して、タグ付け及びhexahis種を構築した。
【0095】
これらの3つのコンストラクトを、カチオン性脂質試薬Lipofectamine 2000(Invitrogen)によるトランスフェクション後、血清フリー条件下(SFMII)でHEK 293細胞内で一時的に発現させた。トランスフェクションから4日後、細胞上清を回収し、抗FLAG(ECD−FLAG)又はタンパク質−A樹脂(N & CドメインFc融合物)のいずれか上で精製した。純度はSDS−PAGEのより及びN−末端aa配列決定により調べた。
【0096】
同様にして、ECD−FL(SEQ ID NO:1のAsp19〜192を有する)、N−末端Ig−ドメイン(Asp19〜Asp 117)及びC−末端Ig−ドメイン(Glu95〜Ser204)を表すHexa−Hisタグ試薬を構築し、発現させ、精製した。
【0097】
実施例2:CD147由来のコンストラクトの生物学的アッセイ及び特徴付け
CD147 ECD又はサブドメインに対する直接結合
酵素−免疫アッセイ(EIAs)を用いて、抗ヒトCD147 Mabの存在についてハイブリドーマ細胞上清を試験した。簡略的には、プレート(Nunc−Maxisorp)を、PBS中1mg/mLのヒトCD147(ECD、N & C−ドメインタンパク質)で一晩被覆した。0.02%(w/v)Tween 20を含有する0.15M生理食塩水で洗浄した後、ウェルをPBS中の1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)にて37℃で1時間ブロックした。未希釈ハイブリドーマ上清を、被覆プレート上にて37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄した後、1% BSA/PBS中で1:10,000に希釈したHRP−標識ヤギ抗マウスIgG、Fc特異的(Sigma)と共に37℃で30分間インキュベートした。プレートを再度洗浄した後、100mL/ウェルのクエン酸−リン酸基質液(0.1Mクエン酸及び0.2Mリン酸ナトリウム、0.01%過酸化水素、並びに1mg/mL O−フェニレンジアミン二塩酸塩)と共にRTで15分間インキュベートした。4N硫酸を25mL/ウェルにて加えて基質展開を停止し、自動化プレート分光光度計により490nmで吸収を測定した。
【0098】
生細胞結合アッセイ
試験全体においてヒト乳癌細胞ラインMDA−MB−231(ATCC HTB−26)をCD147陽性細胞として使用した。簡略的には、MDA−MB−231細胞を96ウェルプレート上にウェル当たり50,000で蒔いた。一晩増殖後、細胞を200μlの氷冷DMEMで穏やかに3回洗浄し、200μlの10%FBS−DMEMを用いて室温で30分間インキュベートしてブロックした。プレートを洗浄した後、100μlの未希釈抗体上清を加え、室温で1時間インキュベートし、プレートを再度洗浄した。二次的なHRPコンジュゲート抗体を1:5000希釈にて加えた後、室温で1時間インキュベートし、洗浄し、50μl/ウェルの展開バッファを室温で15分間で加えた。4N硫酸を25μl/ウェルにて加えて基質展開を停止し、自動化プレート分光光度計により490nmで吸収を測定した。
【0099】
線維芽細胞内のMMP−1産生
ヒト線維芽細胞が、ヒトCD147タンパク質との接触により様々なマトリックス型のメタロプロテアーゼ(MMP)を分泌することは十分確立されている(Kataoka,H.,et al.,1993 Cancer Res 53,3154〜3158;Sameshima,T.,et al.,2000 Cancer Lett 157,177〜184;Guo,H.,et al.,1997 J Biol Chem 272,24〜27)。実施例1で生成した組み換えヒトCD147コンストラクト:ヒトCD147のECD、N−ドメイン及びC−ドメインを使用してヒト線維芽細胞を刺激した。異なる量の組み換えCD147タンパク質で処理した線維芽細胞によりコンディショニングした血清フリー培地中のMMP−1活性を、MMP−1活性アッセイを用いて、製品マニュアルに従って定量的に測定した(R&D Systems,Minneapolis,MN)。実施の際、アッセイは、150μlの標準物質又は試料中に含まれるMMP−1を測定した。MMP−1をアッセイウェルの底部に不動化した抗MMP−1抗体により捕捉した。続いて、捕捉したMMP−1を4−アミノフェニル水銀アセテート(APMA)により活性化した。各ウェル内に加えられたMMP基質は活性化MMP−1により切断され、得られた蛍光をSpectraFluor Plus Plate Reader(TECAN,Research Triangle Park,NC)を使用して、320nmでの励起及び405nmでの発光を用いて測定した。
【0100】
結果(図2)は、ECD−FcコンストラクトがMMP発現の誘導の最も高い活性レベルを維持し、活性の高い割合がN−ドメイン内に存在することを示す。C−ドメインコンストラクトは、培養線維芽細胞からのMMPの発現の誘導が比較的乏しかった。
【0101】
腫瘍−線維芽細胞共培養物MMP−2及びMMP−9放出アッセイ
MDA−MB−231細胞を、10% FBSを含有するDMEM中にて、10% CO2で補充した加湿細胞培養インキュベーター内で培養した。NHDF細胞を、供給者により推奨される条件下で培養した。簡略的には、1ug/mLのhFGF、5μg/mLのインスリン、0μg/mLのゲンタマイシン、及び50μg/mLのアンホテリシンを含有する線維芽細胞増殖培地中で細胞を培養した。サブコンフルエンスにおいて、MDA−MB−231細胞及びNHDF細胞を別々にトリプシン処理し、新しい培養培地(10% FBSを含有するDMEM)中に懸濁させた。100,000のNHDF細胞を100,000のMDA−MB−231乳癌細胞と共に、6ウェルプレート内で24時間共培養した。細胞共培養物をPBSで穏やかに濯ぎ、増殖培地を新鮮な血清フリーDMEM培地で置き換え、100μlの試験抗体上清を加えた。3日後、培養培地を1.5mLの血清フリーDMEM培地と、同一量の抗体上清とで再度置き換えた。2日後、条件培地を収集して、活性を分析した。SDS基質酵素電気泳動を、以前に記載された方法に基づいて、変更を加えて行った(Tang,Y.,et al.,Mol Cancer Res 2,73〜80,2004;Tang,Y.,et al.,Cancer Res 65,3193〜3199,2005)。20mgのタンパク質を含有する条件培地の試料を、非還元SDS試料バッファと混合し、0.1%ゼラチンを含有する10%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。電気泳動後、ゲルを2.5% Triton X−100で30分間洗浄した。基質消化は、5mM CaCl2、1mM ZnCl2、1%Triton X−100及び0.02%NaN3を含有する50mM Tris−HCl(pH7.6)中でゲルを37℃で24時間インキュベートして行った。ゲルを0.1%クマシーブリリアントブルーR250で染色し、ゼラチン分解活性の位置を、均一な青色染色の背景内の明瞭なバンドとして検出した。MMP標準物質を使用して、ゼラチナーゼ活性を有するバンドの位置を同定した。
【0102】
VEGF分泌の促進
VEGF産生を経芽細胞内で組み換えCD147により刺激した。組み換えCD147が神経芽細胞内でVEGF産生を刺激できることは以前に確立された(Tang,et al.Mol.Cancer Res.2006 4:371〜377)。実施例1の3つの異なるCD147−コンストラクト(CD147のN−若しくはC−末端ドメイン、又は完全長ECD)により刺激されるVEGF分泌を比較した。
【0103】
R&D Systems製のQuantikine ELISAキットを使用して、条件培地中のヒトVEGF濃度の定量化を行った。200μlの標準物質又は試料中に含まれるVEFGを、アッセイウェルの底部上に不動化した抗−VEGF抗体により捕捉し、コンジュゲートした2nd抗体により検出した。ELISAデータは、VersaMax Tunable MicoPlate Readerを使用して450nmで獲得した。Softmax Pro 3.1ソフトウェアを使用してデータを解析した。結果(図3)は、ECDコンストラクトがVEGF発現の最も強力な誘導因子であり、活性のほとんどはN−ドメイン内に存在することを示す。VEGF誘導に対するC−ドメインの寄与は比較的少ない。
【0104】
CD147シグナル伝達
CD147はPI−3K−Aktシグナル伝達経路を介してMMP−1及びVEGFの産生を刺激し得る。線維芽細胞内のAktリン酸化を、CD147シグナル伝達測定の基礎として使用した。Aktはタンパク質キナーゼBとしても既知のキナーゼである。Aktによりリン酸化されたタンパク質は、一般に細胞生存を促進する。組み換えCD147は、線維芽細胞内でAktリン酸化を刺激し得る(Tang et al.,2006,Mol.Cancer Res.4(2006),pp.371〜377)。完全長ECD(ECD−FL)の代わりに切断型ECDドメイン、N−ドメイン又はC−ドメインを使用した実験は、活性のほとんどがN−ドメインが使用された場合に生じ、C−ドメイン含有試薬タンパク質のみの存在下では比較的少ないシグナル伝達が行われたことを示した。
【0105】
このシグナル伝達経路を更に理解し、異なるドメインタンパク質の役割を区別するために、NHLF細胞内でCD147刺激によるMMP−1及びVEGFの産生に対する特異的Akt阻害剤、Akt Vの効果を試験した(図4)。結果は、Akt Vが、CD147ドメインタンパク質により誘導されるVEGF発現を阻害する(図4A)が、MMP−1は阻害しない(図4B)ことを示す。
【0106】
NF−κbもVEGF発現を調節し、Aktシグナル伝達経路の下流標的であることが報告されている。NF−kbシグナル伝達が、CD147ドメインタンパク質により誘導されるMMP及びVEGFの産生に関わることを試験するために、異なるCD147タンパク質(図示せず)でNHLF細胞を刺激した後、NF−kb阻害剤、Bay11−7082で処理した。Bay11−7082がCD147 ECDにより誘導されるVEGF発現を阻害するがMMP−1発現を阻害せず、C−ドメインではなくN−ドメインがほとんどの活性VEGF誘導活性を示す限りにおいて、Akt阻害剤に関するものと同様であった。
【0107】
実施例3:抗CD147抗体の生成
Kohler及びMilsteinのハイブリドーマ法により、マウス抗ヒトCD147を生成した。加えて、マウスCD147に対する代替抗体も生成した。
【0108】
3匹の12〜14週齢のBalb/cマウスをCharles River Laboratoriesから得た。マウスのうちの2匹のそれぞれが、0日目に、75mL PBS中で、等量のフロイントの完全アジュバント中で乳化した25mgの組み換えヒトCD147 ECD25〜205−Fc(R&D Systems)の12.5mg/部位での皮内及び腹腔内注射の組み合わせを受容した。14、28及び51日目に、75mL PBS中で、等量のフロイントの完全アジュバント中で乳化した25mgECDをこれらのマウスに注射した。第3のマウスは、100mL PBS中の25mgのヒトECD+0.33×105UマウスIFNa+0.33×105 UマウスIFNb(Biosource)を尾の基部にて皮下(sc)投与された最初の注射を受容した。2及び3日目に、マウスは、100mL PBS中の0.33×105 U IFNa+0.33×105 U IFNbを尾の基部にてsc投与された更なる注射を受容した。数週間後、マウスを尾の基部にて25mg CD147をsc投与してブーストした。免疫化スケジュール全体において様々な時点でマウスから出血させた。後眼窩穿刺により血液収集を行い、血清を収集して固相EIAにより力価測定した。力価プラトーを得た後、マウスはそれらの最終的なブースターであるPBS中の25mgのECDを所定の静脈内(IV)に受容した。3日後、マウスをCO2窒息により安楽死させ、脾臓を無菌的に除去し、100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、及び0.25mg/mLのアンホテリシンB(PBS/PSA)を含有する、10mLの冷PBS中に浸漬した。リンパ球を、冷PBS/PSA中に浸漬したワイヤーメッシュスクリーンを介して細胞を無菌的に通過させることにより回収した。細胞を冷PSA/PBS中で1回洗浄し、トリパンブルー染料排除を用いて計数し、10mL PBS中に再懸濁した。非分泌マウス骨髄腫融合パートナー細胞ラインFOを、融合まで、対数期培養物中に維持した。融合前に、FO細胞をPBS中で洗浄し、計数し、トリパンブルー染料排除を介して生存率を測定した(>95%)。合計3つの融合を行った。脾細胞を1:1比でFO細胞と融合した。簡略的には、脾細胞と骨髄腫細胞とを一緒に混合し、ペレット化し、50mLのPBS中で2回洗浄した。ペレットを2mLの融合溶液(5mL PEG分子量3000、5mL H2O(pH 7.0)、0.5mL DMSO)中にて37℃で1分間再懸濁した。次に、細胞/融合混合物を、37℃の水浴内に、穏やかに撹拌しながらおよそ90秒間浸漬した。37℃のPBSを、最初の30秒間を1mL、次の30秒間を3mL、次の60秒間を16mLでゆっくりとした増分にて加えることにより融合反応を停止した。次に、融合した細胞を1000rpmで5分間遠心分離した。細胞を融合培地中に再懸濁し、20個の96−ウェル平底プレート内に200mL/ウェルで蒔いた。次に、融合プレートを6% CO2を含む37℃の加湿インキュベーター内に配置し、7〜10日間平静に放置した。
【0109】
マウスCD147に対する中和モノクローナル抗体を、マウスCD147の細胞外ドメインを用いてラットを免疫化することにより生成した。免疫化及び融合の後、ハイブリドーマをマウスCD147に対する結合に関してスクリーニングし、次にインビトロでの活性を評価した。C947と指定された抗体はヒトCD147と交差反応せず、外来性マウスCD147を加えることなく、NIH3T3細胞(マウス線維芽細胞)によるマウスCD0147誘導によるMMP−1産生の発現を阻害し、NIH3T3 & MISA(マウス腫瘍細胞ライン)細胞の共培養物中のMMP−2を阻害した。C947ハイブリドーマのV−領域クローン化は、組み換えにより発現された際にC947の元の活性を所有する単一の重鎖及び軽鎖配列をもたらした。
【0110】
実施例4:抗CD147 MABの特徴付け
ハイブリドーマ上清を、固相(EIA)アッセイフォーマットにおいて、CD147に対する結合に関してスクリーニングした。このスクリーニングにより、52の陽性クローンを得た。
【0111】
生細胞結合アッセイを用いて、52のクローンを更にスクリーニングした。このスクリーニングにより、13の陽性クローンを得た。
【0112】
13の陽性クローンを、MMP−1アッセイで更に試験した。MMP−1アッセイによるスクリーニング後、10の陽性クローンを同定した。
【0113】
最終的に、10のクローンの活性は、共培養アッセイで特徴付けた。このスクリーニングにより7つの陽性クローンを得、クローンからMabを精製して更なる特徴付けを行い、2H3、5F6、2C8、4D12、4G1、5A9 & 4A5を指定した。
【0114】
実施例5:MABの生物活性
実施例2に記載したスクリーニングにより同定した7つのMABを、CD147の細胞外ドメイン内での結合特異性及び親和性に関して分析した。N−ドメイン(SEQ ID NO:1のAsp19〜Asp117)又はC−ドメイン(Glu95〜Ser204)のいずれかをコードするタンパク質を使用したデータは、7つの全部がN−ドメインに特異的に結合するが、C−ドメインに結合しないことを示した。
【0115】
7つのMabを、CD147−陽性MDA−MB−231乳癌細胞、及びCD147−陰性NHLFに対する生細胞結合に関して再びスクリーニングした(図5)。7つの抗体の全部が、腫瘍細胞表面上に天然CD147抗原を発現するMDA−MB−231細胞を認識した。対照的に、これらの抗体のいずれも、CD147発現に陰性のヒト神経芽細胞に対する検出可能な結合を全く有さなかった。
【0116】
Mabの結合親和性を固相結合アッセイにより推定した。4つの中和抗体、2C8(mIgG1)、2H3(mIgG1)、5F6(mIgG1)及び4D12(mIgG1)は、試験した7つのMabのRDI−CD147と比較して、組み換えCD147に対する最も高い親和性を示した。
【0117】
MabがMMP−1産生を遮断する能力を評価するために、NHLFを1μg/mLの組み換えECD−Flagコンストラクトで処理した。MMP−1活性アッセイを用いて、CD147刺激に対するMMP−1産生を測定した。7つの精製抗CD147抗体全部をアッセイに含めて、それらの阻害活性を評価した。4つのmAbsは、MMP−1産生の有意な阻害を示した。2H3(mIgG1)、2C8(mIgG1)及び5F6(mIgG1)mAbが最も強力であり、40μg/mLで使用された際に、MMP−1産生を最小レベルに阻害した(図6)。
【0118】
共培養物中で、CD147誘導によるMMP−2又はMMP−9産生を阻害する能力について抗体をスクリーニングした。このアッセイでスクリーニングされた7つのうち3つ、mAb 2H3(mIgG1)、2C8(mIgG1)、5F6(mIgG1))が、共培養物中でMMP−2及びMMP−9産生を阻害した(図7)。4D12(mIgG1)は、このアッセイでは実質的に阻害活性を示さなかった。5A9(mIgG1)は阻害性だと思われたが、その阻害活性は用量依存的ではなかった(図7)。
【0119】
またCD147 ECDに対する親和性を、表面プラズモン共鳴法(Biacore)により測定した。BIACORE 3000(BIAcore,Inc.)表面プラズモン共鳴法(SPR)器具を使用して25℃で動力学的試験を行った。ヤギ抗マウスFcy特異的抗体(Jackson Immunoresearch laboratories Prod # 115−005−071)をカルボキシメチルデキストラン被覆金表面(CM−5Chip,Biacore)に共有結合させた。デキストランのカルボキシメチル基をN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化させた。Abは、10mM酢酸ナトリウム中にてpH 4.5で結合された。表面上の残りの任意の反応部位は、エタノールアミンを用いた反応により遮断された。
【0120】
動力学的結合測定のために、抗マウスFcy特異的抗体を用いて抗CD147 mAbを流速30μL/分で捕捉した。Ab捕捉の後、CD147−FL−ECD又はN−若しくはC−ドメイン断片(実施例1に記載したような)を濃度75〜300nMにて60μL/分で注入した。会合データを2分間収集した後、解離データを10分間収集した。表面を15μLの100mM H3PO4で再生した後、15μLの50mM NaOHにて30μL/分で再生した。全試料は、3mM EDTA及び0.005%の表面活性剤P20を含有するD−PBS中で調製された。データは、捕捉抗体を含む流動細胞と、捕捉抗体を含まない参照細胞との間のSPRシグナルの差異を報告した。基準−除算シグナル(reference-subtracted signal)からブランク注入のデータを除算することによって、シグナルに対する器具の追加の寄与を除去した。BIA評価ソフトウェア(BIAcore,Inc.)を使用して、全濃度において会合及び解離相を適合することによりデータを解析した。
【0121】
データは3つのmAb 2H3(mIgG1)、5F6(mIgG1)及び2C8(mIgG1)がCD147に対するnM親和性を有し、N−ドメインに結合するがC−ドメインに結合しないことを示した。
【0122】
これらのMabの活性の概略を表1(下記)に示し、表中の共培養阻害は、MMP−2及びMMP−9産生に関するアッセイを指す。
【0123】
【表2】

【0124】
ECDのN−末端ドメインに関する最も高い結合親和性(最も小さい結合Kd)と特異性とを有するクローン2H3、4A5、及び5F6に基づいて、これらのクローンを更なる試験のためのクローン化及びより大量の発現のために選択した。
【0125】
実施例6:抗CD147 MABのクローン化
2H3、2C8、5F6及び4A5の重鎖及び軽鎖に関するV−領域核酸配列をハイブリドーマからクローン化した。アミノ酸配列を下記に示し、CDRを注解する。
【0126】
マウス抗体鎖をハイブリドーマクローンC1164A(2H3)、C1170(2C8)、C1171A(5F6)、C1171A(4A5)からクローン化するために、全RNA(3μg、Invitrogenプロトコルに従ってTrizolを使用して単離)を5’RACEに使用し、オリゴdTにより逆転写をプライミングした(GeneRacer kit,Invitrogen)。得られた各cDNAを2つの別個のPCR反応におけるテンプレートとして使用して(1μl/反応)、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域を増幅した。HCの可変領域を増幅するために、GeneRacer 5’プライマーをPCR増幅のためのラットHC1(#641)プライマーと共に使用した。重鎖PCR産物は、約700bpの単一のバンドであった。プラチナTAQ DNAポリメラーゼハイフィデリティ(Platinum TAQ DNA polymerase High Fidelity)をPCRに使用し、PCR増幅のアニーリング温度は65℃(94℃で30秒間、65℃で30秒間、72℃で1分間)であった。LCの可変領域を増幅するために、GeneRacer 5’プライマーをラットLC1(#644)プライマーと共に使用した後、GeneRacer 5’ネステッドプライマー及びラットLC2(#645)プライマーを使用してネステッドPCRを行った。PCR条件は上述した通りであり、軽鎖PCR産物はおよそ600bpのバンドを提供した。600bpバンドを、LC PCR産物としてアガロースゲルから精製した。V−領域配列産物を得るために、PCR産物をpCR4−TOPOベクター(TOPO TA Cloning Kit for Sequencing,Invitrogen)内にクローン化した。M13フォワード又はリバースオリゴ(30ng)を使用して、配列反応を刺激した。1つの抗体のために、配列決定により5F6、1つのHC及び2つのLCs V−領域配列を同定した。リガーゼ非依存性クローン化方法(ligase-independent cloning method)を用いて、HC及びLCsを様々な発現ベクター内にクローン化した。PCRプライマーを以下に規定する。
【0127】
【表3】

【0128】
各抗体重鎖及び軽鎖に関するクローン化V−領域の翻訳産物を以下に示す。
【0129】
【化1】

【0130】
実施例7:組み換えMABの生物活性
マウス抗体からの結合ドメインが、新生物組織増殖及び転移拡散などの病理に関連したCD147の所定の生物活性を遮断する能力を、マウスmAb(mIgG1)として発現された完全抗体、又は、インビボでのアッセイにて抗体エフェクター機能に寄与するヒトIgG1若しくはマウスIgG2a定常領域のいずれかを有するV−領域キメラのいずれかを用いて評価した。そのようなキメラの構築方法は、当該技術分野において周知である。いくつかのアッセイでは、市販のCD147中和抗体、RDI−CD147(R&D Systems)を比較器として使用した。
【0131】
単一培養NHLFにおけるCD147誘導によるMMP−1放出の阻害
アッセイは、実施例4に記載のように実施した。抗CD147抗体の阻害活性を測定するために、細胞を組み換えCD147(ECD19−205−Fcコンストラクト)で15分間刺激した後、細胞培養物にMab 2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)を1、5、10及び20ug/mLにて加えた。データ(表3)は、神経芽細胞によるCD147刺激MMP−1産生が、組み換え抗CD147 Mab 2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)により用量依存的に阻害されたことを示した。
【0132】
【表4】

【0133】
共培養物中のMMP−2産生の阻害
実施例4に記載したように、MDA−MB−231及びNHDFの共培養アッセイを用いて、2つの組み換え抗CD147抗体:5F6(hIgG1)及び4A5(mIgG2a)の存在下及び不在下でアッセイを行った。両方の抗体が、MDA−MB−231及びNHDFによるMMP−2産生を用量依存的に阻害した(図8)。
【0134】
VEGF産生の阻害
抗CD147抗体の阻害活性を測定するために、抗体をNHLF細胞培養物に加え、細胞を組み換えCD147で15分間刺激した。条件培地を48時間後に収集した。データ(図9)は、2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)Mabsの両方が、10μg/mLの組み換えCD147で48時間刺激された正常なヒト肺線維芽細胞(NHLF)によるVEGF産生を阻害できたことを示す。
【0135】
腫瘍細胞上のCD147発現が腫瘍細胞と線維芽細胞との共培養物中でのVEGF発現に影響を与えたため、組み換え抗CD147 mab、2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)の、CD147媒介性の腫瘍間質VEGF産生を抑制する能力を試験した。このアッセイは、以下の変更を加えて実施例4に記載したように行った。試験したmAbは、共培養物に加えられた。3日後、培養培地を再度、1.0mLの血清フリーDMEM培地及びmAbで置き換えた。2日後、条件培地を収集して、VEGF濃度を分析した。データは、20μg/mLの組み換え抗CD147 Mab 2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)の両方が、腫瘍細胞と神経芽細胞との共培養物中で、40%を越えるVEGF産生を阻害したことを示した。
【0136】
実施例8:インビボでの活性
血管新生の阻害
マトリゲル(商標)は、細胞マトリックスタンパク質に富んだ腫瘍であるEngel−Holm−Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した、可溶化基底膜調製品である。主な成分はラミニンであるが、マトリゲルは、微量の線維芽細胞増殖因子、TGF−β、組織プラスミノーゲン活性化因子、及びEHS腫瘍内に天然に存在する他の増殖因子も含有する。マトリゲルは、数種の腫瘍細胞浸潤アッセイの基礎であり、血管新生の試験に必要な基質を提供する。マトリゲルは、マウス又はラットに皮下注射された際に柔らかいゲルプラグを形成し、血管新生因子を補充された際に強力な血管応答を支持する。
【0137】
実験1
マトリゲルプラグアッセイを用いて、ハイブリドーマ上清から精製された抗CD147抗体組み換え2H3、5F6、及び4D12、並びにラット抗マウスCD147抗体(C947)の抗血管新生効果を評価した。試験1日目、50匹のヌードマウスを、以下に示すように10個のグループ(n=5/グループ)に無作為化した。マウスを秤量し、ケタミン/キシラジン(90/10mg/kg、i.p.)で麻酔した。マウスの2つの部位に、各側につき0.5mLのマトリゲル(0.50万細胞/mLマトリゲルで)を注射した。試験物質はi.p.で1日目及び4日目に治療当たり10mg/kgで注射された。1日目に治療薬を、下記の表4に規定したように、マトリゲルプラグの移植から3時間前に注射した。抗CD147抗体2H3(mIgG2a)、5F6(hIgG1)、4D12(mIgG1)、C947(ラットIgG1)及びcVam(対照として使用した非特異性Mab)を適切な濃度に希釈して、体重20gm当たり総容積0.5mLの各mAbのI.P.投与を可能にした。示した薬剤は、注射前に互いに混合(1:1)された。
【0138】
【表5】

【0139】
8日目に、全部のマウスをCO2窒息により安楽死させた。プラグを外科的に除去し、盲検方式で秤量した。1つのプラグ/動物(右側)のヘモグロビン含有量をアッセイし、これを血管新生応答の直接指標として使用した。他方のプラグを全体像解析(gross image analysis)のために加工した。
【0140】
データ(図10)は、組み換え抗CD147 Mab、2H3(mIgG2a)及び5F6(hIgG1)が、単独又は抗マウスCD147(c947)Mabとの組み合わせのいずれかで、インビボで血管新生を有意に阻害することを示した。
【0141】
実験2
PANC−1癌細胞由来のCD147により刺激された血管新生に対する抗CD147Mab(4A5、5F6)の阻害効果を評価及び比較するために、雌のSCIDマウス内のマトリゲルプラグにPANC−1癌細胞を埋め込んだ。
【0142】
マトリゲルをBecton Dickinson,Inc.から購入し、11.1mg/mLで使用した。PANC−1ヒト膵臓腫瘍細胞を血清フリーDMEM中に供給した。
【0143】
エフェクター機能陽性アイソタイプ(E+mIgG2a)及びエフェクター陰性アイソタイプ(E−mIgG1)の両方が可変部ドメインの各対に表れるように、マウス定常領域により抗体を調製した。
【0144】
Charles Rivers(Raleigh,N.C.)から得た42匹の雌SCIDマウス(6週齢)をフィルタートッププラスチックケージ内にグループで収容し(7匹/ケージ)、自由選択で、オートクレーブした食物及び水を供給した。試験の0日目、42匹のSCIDマウスを剪毛し、6つのグループに無作為化した(n=7/グループ)。1日目に、マトリゲルプラグを移植する3時間前に試験物質を体重20g当たり0.2mL(10mg/kg)でi.p.注射し、次に5日目に再度注射した。
【0145】
マウスを秤量し、ケタミン/キシラジン(90/10mg/kg、i.p.)で麻酔した。1グループを除き、マウスは2つの部位に0.5mLのマトリゲルを注射された。
【0146】
9日目に、全部のマウスを安楽死させ、プラグを外科的に除去し、盲検方式で秤量した。プラグのヘモグロビン含有量を血管新生応答の間接的指標としてアッセイした。
【0147】
ヘモグロビンレベルの分析を、各マウスの2つの測定値の平均を用いて行った。
【0148】
【表6】

【0149】
上記のデータ表(表5)は、ヘモグロビンに関するグループ別の推定平均及び標準誤差、並びに信頼区間を示す。Panc−1細胞を有する未処理マトリゲルを含むプラグは、最も高いヘモグロビンレベル25.10±15.06mg/gmを有した。E+5F6(CNTO 7603)グループは、最も低いヘモグロビンレベル0.26±0.21mg/gmを有した。
【0150】
全体的F検定のP値は、<0.001である。グループ間に、有意な統計的差異の証拠が存在した。グループ間で、対による比較の全部を行った。細胞を有さないプラグ、PBS−処理グループは、Panc−1細胞を有する未処理(PBS)グループ、E−425(CNTO7709)グループ及びE−5F6(CNTO 8261)グループ(それぞれ、p値<0.001、<0.001及び0.002)よりも有意に小さかった。細胞グループを有さないPBS−処理プラグと、E+グループ、E+4A5(CNTO8261)及びE+5F6(CNTO7603)との間で、差異は統計的に検出されなかった。
【0151】
E+Mabで処理した細胞を有するマトリゲルからのグループを、細胞を有するPBSと比較した際にヘモグロビンレベルの有意な低下が検出された。E+4A5(CNTO 9633)は、細胞を含むマトリゲルを有するPBSよりも97%±3%小さく(p値<0.001)、E+5F6(CNTO7603)は、細胞を含むマトリゲルを有するPBSよりも99%±1%小さかった(p値<0.001)。細胞を含むマトリゲルを有するPBSと、E−5F6(CNTO8261)処理との間のヘモグロビンの差異は、統計的有意性から僅かに外れた(p値=0.072)。細胞を含むマトリゲルを有するPBSとE−4A5(CNTO7709)グループとの間では、23%±66%のみの差異(p値=0.753)が検出された。
【0152】
2つの4A5グループを比較すると、E+(CNTO9633)はE−(CNTO7709)ヘモグロビンレベルよりも有意に小さい。推定差は、99%±3%(p値<0.001)である。2つの5F6グループを比較すると、E+(CNTO7603)はE−(CNTO8261)ヘモグロビンレベルよりも有意に小さい。推定差は、95%±5%(p値=0.004)である。
【0153】
2つのE+(CNTO9633対CNTO7603)グループ又は2つのE−グループ(CNTO7709対CNTO8261)の間で、有意な差異は検出されなかった。2つの4A5グループを比較すると、E+4A5はE−4A5ヘモグロビンレベルよりも有意に小さい。5F6グループを比較すると、E+5F6はE−5F6ヘモグロビンレベルよりも有意に小さい。E+グループの間、又は2つのE−グループの間で、有意な差異は検出されなかった。データは、E−ではなくE+の5F6及び4A5が、Panc−1マトリゲルプラグモデルにおいて腫瘍血管新生を阻害することを示した。
【0154】
MDA−MB−231同所性腫瘍異種移植モデルにおける腫瘍増殖の阻害
腫瘍進行に対する抗CD147機能遮断抗体の抗癌効果を測定するために、MDA−MB−231ヒト乳癌細胞を移植したSCIDベージュマウスをE+4A5(MuIgG2a)又はE+5F6(MuIgG2a)で処理した。
【0155】
0日目、40匹の雌SCIDベージュマウスをケタミン/キシラジン(90/10mg/kg、ip)で麻酔した。動物は、右腋窩部第2又は第3乳房脂肪体内に、0.05mL(2.5×106細胞)のMDA−MB−231細胞懸濁液を同所性に移植された。
【0156】
動物全部を試験開始持に秤量し、試験の全過程において週1回秤量した。平均腫瘍容積が60〜70mm3となったときに、動物をグループ当たり8匹で、以下の3つのグループのうちの1つに層別化した。PBSのみ、E+5A6又はE+4A5。これらは試験の残りにおいて週2回、1mg/Kgにて投与された(全部で50日間)。腫瘍増殖を週毎に、ノギスを用いて2次元(長さ及び幅)にてミリメートル(mm)で測定し、腫瘍容積(mm3)を式[長さ×幅×幅]/2に基づいて計算した。
【0157】
実験の終了時点で、CO2窒息によりマウスを安楽死させた。一次腫瘍を切除し、デジタル天秤上で秤量した。肺を除去し、秤量し、肺転移にインディアインクを散布し、Fekete溶液中に配置して盲検方式にて転移を数え上げた。
【0158】
結果
腫瘍体積に関しては、反復測定モデルを、一次自己相関共分散構造を仮定したデータに適合させた。時間プロファイルにおける傾向の曲率をモデリングするために、自然スプラインを使用した。各時間点でグループ間における一対比較を行った。計算は、Rソフトウェア環境を用いて実施した。
【0159】
古典的、及び耐性かつロバストなANOVA(resistant and robust ANOVA)の両方を肺転移計数に適用し、2つの方法からの結果を比較した。両方の分析からの結論は同一であるが、耐性かつロバストな分析に関しては、グループ間の等しい分散と、正規分布からの標本抽出との前提が、より合理的に適合される。
【0160】
一次腫瘍増殖曲線を示す(図11)。処理開始から7日後に開始して、E+4A5(muIgG2a)及びE+5F6(muIgG2a)グループの腫瘍増殖は、PBS対照グループと比較して有意に阻害された(全部の対比較においてp<0.001、統計の詳細に関するAppendix 1を参照)。この差異は、日数が増加するにつれ増大する。E+4A5(muIgG2a)による処理は、7〜28日目に、E+5F6(muIgG2a)と比較して有意に小さい腫瘍容積をもたらした。
【0161】
E+5F6(muIgG2a)及びE+4A5(muIgG2a)の両方は、PBSグループ(両方のp値=<0.001)に対して、腫瘍容積が1500mm3に到達した時間迄の平均時間を有意に延長した(即ち遅延させた)。E+4A5(muIgG2a)も、E+5F6(muIgG2a)と比較して、1500mm3閾値に到達する迄の日数を有意に増大させた(18%±6%;p値=0.004)。
【0162】
このデータは、E+抗−EMMPRIN抗体がこの用量で一次腫瘍増殖を阻害できることを示す。
【0163】
PBSグループのマウスからの肺の全部が多数の肺転移を含んでいた(平均値±標準偏差=122±14.0)一方、E+4A5(muIgG2a)及びE+5F6(muIgG2a)抗体処理グループの肺における転移性病変の数は有意に低減され(それぞれ17.8±12.1及び17.5±13.7)、全体のP値は<0.001であった。E+5F6(muIgG2a)とE+4A5(muIgG2a)処理の間で肺転移の数に関する有意な差異は検出されなかった(p値=0.970)。E+5F6(muIgG2a)及びE+4A5(muIgG2a)処理グループの両方において、明らかに肺転移を有さないマウスが存在した(各グループにて1匹のマウス)。これらの結果は、EMMPRINの中和が一次MDA−MB−231同所性腫瘍からの肺転移の形成を阻害し又は増殖を遅延させ得ることを示唆する。
【0164】
実施例9:エピトープマッピング
ヒトCD147上の4A5及び5F6 MABに関する結合部位は、抗体競合的結合アッセイ、H/D交換、及び単一点変異誘発の組み合わせにより規定され、ヒトEMMPRIN断片の公表かつ内部的に生成された構造の状況から解釈された。結果は、抗体がCD147の細胞外ドメイン内の類似したエピトープに結合することを示す。
【0165】
H/D交換のために、組み換えCD147 ECD N−ドメイン(Asp19〜Asn117−hexahis)を重水溶液中で所定時間インキュベートし、交換可能な水素原子において重水素を組み込んだ。重水素化EMMPRINを、不動化した4A5 Fab(大腸菌から発現、C−末端His−タグを有する)又は5F6 mAbを含むカラム上に捕捉した後、水性バッファで洗浄した。逆交換(back-exchanged)したCD147ドメインタンパク質をカラムから溶出し、重水素含有断片の局在性を、プロテアーゼ消化及び質量分析により決定した。抗体に結合した領域は比較的交換から保護される部位であり、それ故、抗体と複合しないCD147よりも高い割合の重水素を含むと推測された。Asp19〜Asn117−hexahisのH/D交換パータベーション(H/D exchange perturbation)を図12に示す。
【0166】
4A5に関するH/D交換データは、2つのセグメント(Leu90〜Asn98>Asp65〜Phe74)を関係させる。しかしながら、これら2つのセグメントは、N−ドメイン試薬の3次元配座の2つの対向側に存在するため、抗体が両方に結合する見込みはない。残基90〜98は関連して二量体構造を形成することが観察された。この領域内で抗体の間で観察されたH/D差異は、4A5結合による構造的(アロステリック)安定性の結果である可能性がある。したがって、Leu90〜Asn98は除外され、Asp65〜Phe74がエピトープ領域である可能性がある。5F6抗体結合を用いたH/D交換試験は、Asp65〜Phe74ペプチドに対する結合を示し、おそらく領域Val30〜Thr40に対する結合を示す。これら2つのセグメントは、構造的に接近しており、それ故、両方ともエピトープの一部であることが可能である。
【0167】
4A5抗体のエピトープのマッピングのための独立した第2の方法として、ヒトCD147のN−末端ドメインの単一点変異誘発を、Progenosis,Liege,Belgium(Chevigne et al.2007.J Immunol Methods.30:81〜93)からの二機能性ハイブリッドタンパク質(BHP)表示技術を用いて行った。3つの単一点突然変異体、D45、G69及びQ70は、4A5 mAbに対する結合を実質的に低下させた。これらの残基のうちの2つ、G69及びQ70は、H/D交換により同定されたAsp65〜Phe74セグメント内に存在する。第3の残基、D45は、69GQ70に隣接する可撓性ループ内に存在する。このことは、結合領域のそれぞれがどのように標的CD147タンパク質に係合し、エピトープがペプチド65DALPGQKTEF74内に存在するかの類似性を示唆したが、領域30VEDLGSKILLT40もまたF6結合エピトープに寄与し得る。
【0168】
CD147 Asp19〜Asn117−Fc融合タンパク質で被覆したマイクロタイタープレート上での競合ELISAを行って、2H3、4A4及び5F6 mAbに関する結合特異性を評価した。標識した2H3 mAbを異なる濃度のMabと共に室温で30分間プレインキュベートした。次いで、これらの混合物を抗原被覆マイクロウェルに加えた。37℃での2時間のインキュベーション後、マイクロタイタープレートを徹底的に洗浄し、結合した2H3を検出した。結果は、4A5及び5F6の両方が2H3mAと競合することを示す(図13)。データは、2C8が2H3及び5F6の両方に対して非常にうまく競合するが(IC50〜30nM)、2H3及び5F6は互いに対してあまり競合しないことを示唆した(IC50〜1μM)。これらのデータは、2H3及び5F6が異なるエピトープを有し、両方が非常に接近すること又は2C8結合部位と重複することを示す。
【0169】
総じて、これらの結果は、4A5のエピトープを領域Asp65〜Phe74内に配置し、ループ領域(40〜50)をAsp45の付近にて中央に配置した。5F6 mAbに関する結合部位も、Val30〜Thr40と共にAsp65〜Phe74にマッピングした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクローナル抗体により結合されるCD147上のエピトープに対する結合に関して競合する、SEQ ID NO:9、11、及び13のうちの1つの軽鎖相補性決定領域(CDRs)のアミノ酸配列と、SEQ ID NO:10、12、及び14のうちの1つの重鎖CDRsのアミノ酸配列と、を有する2H3、4A5、及び5F6からなる群より選択される、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
それぞれSEQ ID NO:10、12及び14に示される配列から選択される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3(Hc−CDR1、Hc−CDR2、及びHc−CDR3)アミノ酸配列と、式(I):
Gln Gln Xaa1 Tyr Ser Xaa2 Pro Xaa3Thr
(I)
(式中、Xaa1は、Tyr又はAspであり;Xaa2は、Tyr又はSerであり;Xaa3は、Phe又はTyr又は非存在であり;Xaa4は、Thr又はPheである)に示されるような軽鎖CDR3(Lc−CDR3);並びにそれぞれSEQ ID NO:9及び11に示されるような配列から選択される軽鎖CDR1(Lc−CDR1)及び軽鎖CDR2(Lc−CDR2)アミノ酸配列と、を有する、単離された抗体。
【請求項3】
SEQ ID NO:10に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:9に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体。
【請求項4】
SEQ ID NO:12に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:11に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体。
【請求項5】
SEQ ID NO:14に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:13に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体。
【請求項6】
SEQ ID NO:16に示されるHc−CDR1、Hc−CDR2及びHc−CDR3アミノ酸配列と、SEQ ID NO:15に示されるようなLc−CDR1 Lc−CDR2及びLc−CDR3アミノ酸配列と、を有する単離された抗体。
【請求項7】
単離された組み換え抗CD147抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体がヒト定常領域を含み、前記抗体又は抗原結合断片が、(i)SEQ ID NO:11及び12を含む、CD147上のH/D交換により決定される4A5 Mabと同一のエピトープ特異性を有し、(ii)少なくとも1×10-7MのKDによりヒトCD147のエピトープに結合する、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
ヒト化重鎖及びヒト化軽鎖を含むヒト化抗体であって、
a)前記ヒト化重鎖可変領域が、マウス4A5重鎖(SEQ ID NO:12)からの3つの相補性決定領域(CDRs)と、ヒトアクセプター抗体重鎖からのフレームワークと、を含み、
b)前記ヒト化軽鎖可変領域が、マウス4A5軽鎖(SEQ ID NO:11)からの3つの相補性決定領域と、ヒトアクセプター抗体軽鎖からのフレームワークと、を含み、
c)前記ヒト化抗体が、MDA−MB−231細胞上のCD147抗原と特異的に結合する、ヒト化抗体。
【請求項9】
前記抗体又は抗原結合断片のヒトCD147に対する結合が、ヒトCD147の病理学的活性を阻害する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項10】
腫瘍増殖を阻害する方法であって、腫瘍をSEQ ID NO:1のアミノ酸64〜75を含むエピトープに結合する有効量の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合部分と接触させ、ヒトMDA−MB−231細胞の存在下でヒト線維芽細胞からのMMP−2の産生を阻害することを含む、方法。
【請求項11】
前記腫瘍が、結腸癌、乳腺腫瘍、前立腺腫瘍、扁平上皮細胞癌及び肺癌からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合部分が全身に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記単離されたモノクローナル抗体が、部位特異的に投与される請求項10に記載の方法。
【請求項14】
血管新生を阻害する方法であって、組織をSEQ ID NO:1のアミノ酸64〜75(DALPGQKTEF)を含むエピトープに結合する有効量の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合部分と接触させ、ヒトMDA−MB−231細胞の存在下でヒト線維芽細胞からのMMP−2の産生を阻害することを含む、方法。
【請求項15】
病理的CD147生物活性に関与する状態に罹りやすい対象を免疫化する方法であって、SEQ ID NO:1の残基64〜75(DALPGQKTEF)を含むポリペプチドを投与することを含む、方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体を含む、薬剤的に許容できる製剤の製造物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−506369(P2012−506369A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529050(P2011−529050)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/054289
【国際公開番号】WO2010/036460
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】