説明

抗Fc受容体結合薬からなる治療用化合物

【課題】標的付けられた細胞の、エフェクター細胞が媒介する致死を誘導する多重特異的分子を提供する。
【解決手段】抗原提示細胞の表面上の成分に対する二つ以上の結合特異的部分と、前記結合特異的部分に結合した少なくとも一つの抗原とを包含した多重特異的分子複合体。結合する標的の一つは、免疫細胞表面上のFc受容体である。これら分子を用いて、自己抗原などの通常は非免疫原性のタンパク質に対して、インビボ又はインビトロで免疫反応を誘導又は向上させうる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本願は、1999年7月30日に出願された米国出願第09/364,088号の一部継続出願であり、それは1998年11月6日に出願された米国出願第09/188,082号の一部継続出願であり、それは発行された米国特許第5,837,243号となっている、1996年6月7日に出願された米国出願第08/661,052号の一部継続であって、それは1995年6月7に出願され、「抗Fc受容体抗体からなる治療用化合物」と題された米国出願第08/484,172号の一部継続出願である。上記の各出願の全ての内容及びそこに引用された全ての参照文献、発行された特許及び公開特許出願は、本明細書に言及により編入される。
【0002】
発明の背景
免疫グロブリン(Ig)は、二つのH鎖と二つのL鎖からなり、それぞれの鎖は、N(NH)末端抗原結合可変ドメインと、抗体のエフェクター機能を担うC(COOH)末端恒常ドメインと、を含む。免疫グロブリンのH鎖のC末端ドメインは、Fc(結晶断片)領域を形成し且つFc受容体(FcR)として知られる特異的な受容体との相互作用を介して細胞活性を惹起させることに関与する。全ての免疫グロブリンのクラス、もしくはアイソタイプ、に関するFc受容体(例えば、免疫グロブリンG(IgG特異的Fc受容体、FcγR)、免疫グロブリンE(IgE特異的Fc受容体、FcεR)、免疫グロブリンA(IgA特異的Fc受容体、FcαR)、免疫グロブリンM(IgM特異的Fc受容体、FcμR)および免疫グロブリンD(IgD特異的Fc受容体、FcδR)が特定されている。種々のアイソタイプの抗体の様々な生物学的活性の一部は、種々の免疫(エフェクター)細胞表面上で発現した種々のFc受容体に結合するこれらアイソタイプの能力による(Fridman, W.H.(Sept. 1991) The FASEB Jounal Vol. 5. 2684-2690)。FcRを標的にするマウス抗体が作製されている(例えば、「ヒト一核性貪食細胞上の、免疫グロブリンGに関するFc受容体に対するモノクローナル抗体」と題された米国特許第4,954,617号および「免疫グロブリンA受容体に関して特異的なモノクローナル抗体」と題された国際特許出願公報第WO91/5871号を参照されたい)。
【0003】
マウスのモノクローナル抗体は、ヒトの治療に有用であり、かつ肝炎又はヒト免疫不全ウイルスのような病原体によって汚染されることなく作製できる。しかし、マウスのモノクローナル抗体をヒトの治療に用いると、これら「異物の」マウスのタンパク質に対する免疫反応が生じる場合がある。こうした反応は、ヒト抗マウス抗体、即ちHAMA反応(Schroff, R. et al. Cancer Res., 45, 879-885)と呼ばれており、ヒトの血清病を発症させかつ個体の血中からマウス抗体の急速なクリアランスが生じる一つの状態である。ヒトの免疫反応は、マウスの免疫グロブリンの可変および恒常領域の双方に対するものであることが分かっている。
【0004】
組換えDNA技術を用いることで、例えば、一つの種から得た特異的な免疫グロブリン領域を、別の種から得た免疫グロブリン領域で置換することによって、抗体を変更させることができる。Neuberger等(特許協力条約に基づく特許出願第PCT/GB85/00392号)が、ある種から得た免疫グロブリン分子の相補的なH鎖およびL鎖可変ドメインを、別の種から得た免疫グロブリンの相補的なH鎖およびL鎖恒常ドメインと結合可能にする方法を記載している。こうした方法を用いることで、マウスの恒常領域ドメインで置換して、ヒトの治療に使用可能な「キメラ」抗体を作製してもよい。Neuberger等の記載のように作製されたキメラ抗体は、補体結合のような抗体媒介エフェクター機能を効率的に刺激するヒトFc領域を有しているが、マウスの(「異物の」)可変領域に対するヒトの免疫反応を誘発するポテンシャルを依然として保有する。
【0005】
Winter(英国特許出願第GB2188538A号)が、相補性決定領域(CDR)を、別の種から得た相補性決定領域で置換することによって、抗体を変更する方法を記載している。この方法を用いることで、ヒトのH鎖およびL鎖免疫グロブリン可変領域ドメインを、所望の特性(例えば、ヒトの病原体に対するような)を有するモノクローナル抗体のマウス可変領域ドメインから得たCDRに置換してもよい。このような変更された免疫グロブリン可変領域は、次にヒト免疫グロブリン恒常領域と結合して、置換されたマウスCDRを除いて、組成が完全にヒトである抗体を作製することができる。Winterの記載による「再構築された」つまり「ヒト化された」抗体は、マウスの成分が著しく少ないので、キメラ抗体に比べて、ヒトにおける免疫反応が著しく抑制されるようになる。さらに、血中における変更された抗体の半減期は、本来のヒト抗体の半減期にほぼ等しいはずである。しかし、Winterが述べているように、ウイルス性もしくは病原性のタンパク質のような抗原に関して特異的な、別の抗体から得た相補的なCDRで、ヒトのCDRを置き換えるだけでは、所望の結合能を保持する変更された抗体が必ずしも得られるとは限らない。実際に、抗体可変領域のフレームワークにおけるアミノ酸には、これらのCDRを構成するアミノ酸残基と相互作用するものがあり、抗原結合を再生するにはヒトの免疫グロブリン領域にアミノ酸置換が必要となる場合が多い。
【0006】
抗Fc受容体部分と抗標的部分とを包含する二重特異的分子(例えば、異種抗体)が調製され、例えば、癌(乳癌又は卵巣癌など)又は病原性感染症(ヒト免疫不全ウイルスなど)処置などの治療に用いられている(例えば、「二重エフェクター機能を有する二重特異的異種抗体」と題した国際特許出願公開第WO91/05871号および「AIDS治療のための二重特異的試薬」と題した国際特許出願公開第WO91/00360号を参照されたい)。さらに、抗原および抗原提示細胞を認識する二重特異的分子を被験体に投与して免疫反応を刺激することができる(例えば、「二重特異的試薬で標的を決められた免疫刺激」と題した国際特許出願公開第WO92/05793号を参照されたい)。
【0007】
発明の概要
本発明は、組換え及び化学合成された、免疫細胞を標的にする多重特異的分子を提供する。これらの分子が「多重特異的」であるのは、これらが多くの(二つ又はそれ以上の)別個の標的に結合するからであり、それらの標的の一つに、エフェクター細胞及び/又は抗原提示細胞(APC)のような免疫細胞の表面上の分子がある。好適な免疫細胞標的には、Fc受容体、具体的には、IgD特異的Fc受容体I型(FcδRI)およびIgA特異的Fc受容体(FcαR)が含まれる。
【0008】
一実施例においては、本発明の多重特異的分子は、エフェクター細胞表面上のFc受容体のような分子に結合する少なくとも一つの部分と、腫瘍細胞又は病原体の表面上の抗原のような異なる標的に結合する少なくとも一つの部分(例えば、二つ、三つ又はそれ以上の部分)とからなる分子を含む。よって、これらの分子を用いることで、エフェクター細胞を媒介にして標的の脱離を誘導することができる。好適な実施例においては、これらの多重特異的分子は、結合特異的部分として、ヒト抗体又はヒト化抗体(もしくは抗体フラグメント)を包含する。
【0009】
別の実施例においては、本発明の多重特異的分子は、抗原提示細胞(APC)表面上の、一つ又はそれ以上の抗原と結合したFc受容体のような分子に結合する多くの(即ち、二つ又はそれ以上の)部分からなる抗原「マルチマー複合体」を含む。自己抗原のような、APCに対するこれらのマルチマー複合体標的抗原は、APCによる抗原のエンドサイトーシス、プロセシング及び/又は提示を誘導及び/又は増強する。よって、これらの分子を用いて、自己抗原のような通常は非免疫性のタンパク質に対して、インビビオ又はインビトロの何れでも免疫反応を誘導又は増強させることができる。
【0010】
別の態様においては、抗Fc受容体部分及び抗標的部分を少なくとも包含し、随意に、第三の標的に対して向けられた第三の部分を包含する多重特異的分子を特徴とする。この第三の部分は、本明細書において「抗増強因子」(抗EF)とも呼ばれるが、例えば、これらの抗体もしくは抗体フラグメント、又は細胞受容体リガンドでもよい。好適な一実施例においては、多重特異的分子は、結合特異的部分として、ヒト又はヒト化抗体(もしくは抗体フラグメント)を包含する。
【0011】
別の態様においては、多重特異的分子を作製する方法を特徴とする。一実施例においては、両方の特異的部分が同じベクターにおいてコード化され、また、例えば、二重特異的分子又は融合タンパク質として、一つの宿主細胞において発現かつ結合される。別の一実施例では、それぞれの結合特異的部分は、別々に生成された(例えば、組換え型で)後、例えば、抗体の場合では、H鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル結合を介して相互に化学的に共役される。
【0012】
さらに別の態様においては、本発明は、少なくとも一つの抗原に結合した二つ又はそれ以上の結合特異的部分を包含する多重特異的分子(本明細書において「抗原マルチマー複合体」とも呼ぶ)を特徴とする。これらの結合特異的部分は、抗原提示細胞の表面上の成分(Fc受容体のような)に結合され、このFc受容体は、これらの結合特異的部分と結合されると分子複合体の内部移行に介在する能力を有する。好適な一実施例においては、この分子複合体は、三つ又はそれ以上の結合特異的部分を包含し、かつこれらの結合特異的部分の内の少なくとも一つが、Fc受容体(例えば、FcδRI又はFcαR)に対して特異的である。特に好適な一実施例においては、抗原は、非複合体の形態で投与される場合は、非免疫原性である。
【0013】
本発明はまた、被験体に本発明の抗原マルチマー複合体を投与することによって、被験体における抗原に対する免疫反応を誘導又は増強させる方法を特徴とする。さらに本発明は、被験体に本発明の抗原マルチマー複合体を投与することによって、被験体を免疫化する方法も含む。
【0014】
本発明の多重特異的分子はまた、それらの能力に基づいて多くの免疫治療で用いられ、エフェクター細胞が介在して標的細胞を殺す。一つの具体的な実施例においては、多重特異的分子を用いて腫瘍細胞の変種を殺したり、又はその成長を阻害したりする。
【0015】
詳細な説明
多重特異的分子
本発明は、免疫細胞を標的にする組換え及び化学合成された多重特異的分子に関する。これらの分子が「特異的」であるのは、それらが多数の(二つ又はそれ以上の)、別個の標的に結合するからであり、その標的の一つは免疫細胞表面上の分子である。一実施例においては、本発明の多重特異的分子は、エフェクター細胞表面上の分子、好ましくはFc受容体に結合する少なくとも一つの部分からなる分子と、腫瘍細胞又は病原体上の抗原のような種々の標的に結合する少なくとも一つの部分(例えば、二つ、三つ、四つ又はそれ以上の部分)と、からなる分子を含む。別の実施例においては、本発明の多重特異的分子は、抗原提示細胞(APC)表面上の、一つ又はそれ以上の抗原と結合したFc受容体のような分子に結合する多くの(即ち、二つ又はそれ以上の)部分からなる抗原「マルチマー複合体」を含む。APCに対するこれらのマルチマー複合体標的抗原(自己抗原のような)は、APCによる抗原のエンドサイトーシス、プロセシング及び/又は提示を誘導及び/又は増強する。よって、これらの分子を用いて、自己抗原のような通常は非免疫性のタンパク質に対して、インビボ又はインビトロの何れでも免疫反応を誘導又は増強させることができる。
【0016】
特に好適な実施例においては、本発明の多重特異的分子は、Fc受容体、典型的にはFcδR(例えば、FcδRI)又はFcαRに結合する、ヒト又はヒト化(キメラ)抗体もしくは抗体フラグメントを含む。これらの多重特異的分子はさらに、別の標的細胞(例えば、腫瘍細胞)表面上の抗原に結合する、リガンド及び/又は別のヒト抗体もしくは抗体フラグメントのような一つ又はそれ以上の結合特異的部分を含む。このような多重特異的分子は、化学的に結合させるか或いは融合タンパク質として遺伝子的に発現させることができる。さらには、これらの分子は、例えば、FcδRI又はFcαRを介してエフェクター細胞を標的にするので、それらを用いてエフェクター細胞(例えば、多形核好中球(PMN)、マクロファージ及び単球)を媒介にして標的細胞(例えば、腫瘍細胞)を殺すのを誘導できるし、或いは抗原に結合されている場合は、それらの分子を用いて抗原提示(AP)エフェクター細胞(例えば、樹状細胞)による抗原提示を増強させることもできる。
【0017】
本明細書において本発明の多重特異的分子を記載するのに用いる場合は、「に結合する部分」という用語は、「に関する結合特異的部分」という用語と同義に用いられる。両者は、標的エピトープに結合する多重特異的分子の領域を指す。以下にさらに記載する如く、これらの部分もしくは結合特異的部分には、抗体、抗体フラグメント(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv又は単鎖Fv)及びそれらのミメティック(例えば、ペプチド、抗体もしくは抗体フラグメントの結合を「模倣する」化学的及び有機的ミメティック)を含むが、これらに限定されない、標的エピトープに結合する能力がある任意の化合物が含まれる。適切な抗体および抗体フラグメントには、マウス、ヒト化(キメラ)、単鎖およびヒトのモノクローナル抗体及びそのフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。一実施例においては、これら結合特異的部分には、H22(ATCC預託番号CRL11177)、M22(ATCC預託番号HB12147)、M32.2(ATCC預託番号HB9469)から選択した一つ又はそれ以上の抗体及びその抗原結合フラグメントが含まれており、それらの各々が、FcγRI(CD64)に結合する。ヒト化抗体H22及びそのマウス同等物M22は、自然のリガンド(IgG)結合部位の外でFcγRIに結合する利点を提供し、よってインビボ投与時に内生的リガンドによって妨害又は排除されることがない。他の実施例においては、これらの結合特異的部分には、FcαR(CD89)に結合するヒトモノクローナル抗体14.1及びHER2に結合するヒトモノクローナル抗体3.F2から選択された一つ又はそれ以上の抗体が含まれる。
【0018】
ここで使用する、抗体の「抗原結合性部分」(もしくは単に「抗体部分」)という用語は、 ある抗原(例えば、Fc受容体)に特異的に結合した能力を保持する抗体の一つ又はそれ以上のフラグメントを指す。ある抗体の抗原結合作用が、完全長抗体のフラグメントによって実現され得ることが分かっている。抗体の「抗原結合性部分」という用語で網羅される結合フラグメントの例には、(i)抗原結合性フラグメント(Fab)、即ち、VL、VH、CHIドメインからなる1価フラグメント、(ii)F(ab’)フラグメント、即ち、ヒンジドメインにおいてジスルフィド架橋によって結合された二つのFabフラグメントを包含する2価フラグメント、(iii)VH及びCHIドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989)Nature 341: 544-546)及び(vi)単離した相補性決定領域(CDR)が含まれる。さらに、Fvフラグメントの二つのドメイン、即ち、VL及びVHは、別個の遺伝子によって遺伝コードを指定されるが、これらのドメインは、組換え法を用いて、VL及びVH領域が対になって1価分子を形成する単一タンパク質鎖としてこれらのドメインを形成させることができる合成リンカーによって結合し得る(単鎖Fv(scFv)として既知であり、例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426; and Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)。このような単鎖の抗体が、抗体の「抗原結合性部分」という用語に網羅されることも思料する。これらの抗体フラグメントは、当業者に既知の通常の技法を用いて得られ、また無傷の抗体と同じ態様で、スクリーニングされて利用される。
【0019】
I.抗原提示細胞(APC)を標的にする抗原マルチマー複合体を包含する多重特異的分子
【0020】
本発明の抗原マルチマー複合体は、抗原提示細胞の表面上の、一つ又はそれ以上の抗原に結合した成分(APC細胞表面成分)を標的とする複数の部分又は結合特異的部分を含む。多重結合特異的部分は、APC細胞表面成分上の同じか又は異なるエピトープ、又は種々のAPC細胞表面成分と結合することができる。好適な一実施例においては、マルチマー複合体は、一つ又はそれ以上のAPC細胞表面成分に関して少なくとも三つのこれら結合特異的部分を含む。APC表面の標的にするのに適切な成分には、結合特異的部分によって結合されると、結合特異的部分に結合した抗原が効率よく内部移行され且つAPCによって提示されるように、その内部移行を媒介するものが含まれている。
【0021】
ここで用いられているように、「抗原提示細胞」もしくは「APC」という用語は、免疫系(例えば、クラスIIMHC制限ヘルパーTリンパ球)によって認識され得るような態様で、抗原決定因子が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)としてこの細胞表面に提示されるように、抗原を内部移行且つプロセシングする能力を有する免疫細胞を指す。細胞をAPCとして機能させることができる必須の二つの特性は、内部移行された抗原を、プロセシングする能力及びクラスIIMHC遺伝子産生物の発現である。最もよく定義された、ヘルパーT細胞に関するAPCには、単核貪食細胞(例えば、マクロファージ)、Bリンパ球、樹状細胞、皮膚のランゲルハンス細胞及び、ヒトにおいては、内皮細胞が含まれる。
【0022】
好適な一実施例においては、結合特異的部分の標的となるAPC細胞表面成分は、Fc受容体、典型的にはFcγRである。したがって、本発明の一実施例では、マルチマー複合体は、FcγRI上の種々のエピトープを標的にする多重結合特異的部分(例えば、二つ又はそれ以上の、好ましくは三つ又はそれ以上の)を含む。あるいは、このマルチマーは、FcγRI上の同一のエピトープを標的にする多重結合特異的部分を含んでもよい。しかし、他の適切なAPC細胞表面成分を標的にすることもできる。このような成分の識別は、例えば、ある動物(例えば、ヒトFcγRIに関して遺伝子導入したマウス)をAPCで免疫化し、例えば、標準的(ウェスタン法など)アッセイなどを用いて、その動物から採取した血清が結合した細胞表面成分を測定することによって可能となる。次に、これらのAPC細胞表面成分は、この成分と結合する化合物を内部移行する能力の有無を実験できる。
【0023】
したがって、一実施例においては、マルチマー複合体は、少なくとも一つの抗体もしくはそのフラグメント(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv又は単鎖Fv)を含み、この抗体もしくはそのフラグメントは、ヒトの免疫グロブリンG(IgG)受容体(例えば、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16))等のFcガンマ受容体(FcγR)のような、一つのFc受容体に結合する。好適なFcガンマ受容体は、高親和性Fcガンマ受容体、即ち、FcγRIである。しかし、他のFc受容体、例えば、ヒトの免疫グロブリンA(IgA)受容体(FcαRI等)等も標的にしてもよい。Fc受容体は、APC(例えば、単球もしくはマクロファージ)の表面上に存在している。一実施例においては、マルチマー複合体は、受容体の免疫グロブリン(例えば、IgG又はIgA)結合部位とは別個の部位においてFc受容体に結合する。したがって、マルチマー複合体の結合が、生理学的レベルの免疫グロブリンによっては妨害されることはない。好適なヒト化された抗FcγRモノクローナル抗体は、国際特許協力条約に基づく特許出願第WO94/10332号及び米国特許第4,954,617号において記載されており、それらの教示は、言及により本明細書に全て編入されている。
【0024】
本明細書の例において記載の如く、本発明の抗原マルチマー複合体に用いるのに適切な、特定のヒト化された及びマウスのモノクローナル抗FcγRI抗体及び抗体フラグメントは、ヒト化抗体H22(ATCC預託番号CRL11177)、そのマウス対応物M22(ATCC預託番号HB12147)及びマウスM32.2(ATCC預託番号HB9469)と、これらの抗体の抗原結合フラグメントとを含むが、これらに限定されない。
【0025】
APCを標的にする本発明のマルチマー複合体はさらに、一つ又はそれ以上の抗原を含む。ここで用いる「抗原」という用語は、免疫細胞によって認識され得る(例えば、T細胞を介した免疫反応のように免疫反応を惹起するような)任意の分子(例えば、タンパク質、ペプチド、炭水化物など)を指す。抗原の中には、通常は宿主内に存在するが、その宿主からの免疫反応を惹起することがない(つまり、その免疫系が抗原を「異物」ではなく「自己」と認識するからである)「自己抗原」(self antigens or autoantigens)が含まれる。疾患の中には、通常は宿主内に存在せず、よって宿主の免疫系による免疫反応を惹起するはずの抗原が免疫反応を起こさないものがある。換言すれば、これらの抗原は、宿主の免疫系による認識を「逃れる」のである。このような抗原には、例えば、ある種の腫瘍抗原及び病原性の(ウイルス及び細菌性)抗原が含まれる。このような状態においては、抗原又は抗原を産生する細胞/生体が宿主から排除するべく、免疫細胞がその抗原を認識するのを誘導又は増強させるようにその抗原を改変することが望ましいであろう。換言すれば、免疫細胞がその抗原をもはや「自己抗原」として認識しないように、その抗原を変更する。
【0026】
本発明の抗原マルチマー複合体は、ここで記載されるように、当該分野で周知の標準的な架橋試薬及び共役プロトコルを用いて、APC表面の成分に関する多数の(二つ又はそれ以上の)結合特異的部分に、一つ又はそれ以上の抗原を化学的に結合することによって調製できる。あるいは、抗原マルチマー複合体は、同様にここで記載されるように、単一の融合タンパク質として組換えによって作製することができる。
【0027】
したがって、さらに別の実施例においては、本発明は抗原マルチマー複合体をコード化する核酸を提供する。一般的には、核酸は、発現ベクター内で、マルチマー複合体の発現を制御する促進因子(プロモーター)及び他の遺伝子調節配列に作用的に結合する。核酸は、それが別の核酸配列と作用的な関係に配置されると、「作用的に結合」すると言う。例えばプロモーター又はエンハンサーは、それが配列転写に作用する場合、コードする配列に作用的にする。転写調節配列に関しては、作用的に結合する、とは、結合されるDNA配列が連続しており、且つ二つのタンパク質をコードする領域を結合する必要のある箇所では、連続かつ解読枠内にあることを意味する。スイッチ配列に関しては、作用的に結合する、とは、それらの配列がスイッチ組換えを引き起こすことを意味する。
【0028】
ここで用いる「ベクター」という用語は、一つの核酸分子であり、それに結合された別の核酸を輸送する能力を有する核酸分子を指すものとする。一つのベクターのタイプは、「プラスミド」であり、付加的DNA染色体部分が結合することができる環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターは、ウイルス性ベクターであり、付加的DNA染色体部分がウイルスのゲノムに結合できる。あるベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律的複製ができる(例えば、細菌性複製起点を有する細菌性ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞へ導入されると、その宿主細胞のゲノムと一体化することができ、それによってその宿主ゲノムと共に複製される。更に、あるベクターは、それらが作用的に結合する遺伝子の発現を支配することができる。本明細書では、このようなベクターを、「組換え発現ベクター」(もしくは単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般的には、組換えDNA技術において利用される発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。プラスミドが最も一般的に用いられるベクターの形態であり、本明細書においては、「プラスミド」及び「ベクター」を同義で用いることができる。しかし、本発明は、ウイルス性ベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連性ウイルス)のような、同等の作用を果たすこのような他の発現ベクターの形態も含めることを思料する。
【0029】
ここで用いられる「組換え宿主細胞」(又は単に「宿主細胞」)という用語は、組み換え発現ベクターが導入された細胞を指すものとする。このような用語は、特定の被験体細胞ばかりでなく、このような細胞の子孫をも指すものであることを理解すべきである。世代が続く内に変異又は環境の影響の何れかによって何らかの変更が生じることがあるので、このような子孫は、実際には親細胞とは同一でないことがあり得るが、本明細書において用いられる「宿主細胞」という用語の範囲内に依然として包含される。
【0030】
本発明の抗原マルチマー複合体は、免疫細胞(例えば、APC)による、抗原の内部移行、プロセシング及び発現を誘導又は増強させるのに用いることができる。したがって、本発明はさらに、被験体に有効量の抗原マルチマー複合体を投与することによって、抗原に対する免疫反応を誘導又は増強する方法を提供する。例えば、抗原マルチマー複合体を投与して、自己抗原(免疫系によって認識されない腫瘍抗原を含む)に対する免疫反応を誘導したり、或いは腫瘍抗原もしくは病原体の成分のような抗原に対する免疫反応を増強する。よって、抗原マルチマー複合体は、宿主を免疫化するワクチンとして用いることもできる。
【0031】
II.エフェクター細胞を標的にする多重特異的分子
【0032】
本発明の多重特異的分子はまた、エフェクター細胞を標的として、例えば、標的細胞、病原体、アレルゲン又は他の実体をエフェクター細胞を介して排除するように設計された分子を含む。したがって、本発明は、別の態様においては、エフェクター表面の成分、典型的にはFc受容体に結合する少なくとも一部分と、腫瘍細胞又は病原体表面の抗原のような別の標的に結合する少なくとも一部分(例えば、二つ、三つ、四つ又はそれ以上の部分)と、からなる多重特異的分子を提供する。
【0033】
ここで用いられる「エフェクター細胞」は免疫細胞を言う。特異的なエフェクター細胞は、特異的なFc受容体を発現し、かつ特異的な免疫作用を果たす。例えば、単球、マクロファージ、好中球及び樹状細胞は、FcγRI及びFcαRを発現するが、それらは標的細胞を特異的に殺すこと及び免疫系の他の成分に対して抗原を提示することの双方に関与している。よって、FcγRI及びFcαRは、これらのエフェクター細胞タイプのそれぞれの表面上おいて発現するので、それらの受容体は、本発明において使用するのに好ましいトリガー標的である。さらに、エフェクター細胞上の特定のFcRの発現は、サイトカインのような体液性因子によって制御され得る。例えば、FcγRIは、インターフェロンガンマ(IFN−γ)によって上方制御されることが分かっている。このような増強された発現によって、FcγRI細胞の標的に対する細胞障害活性が増大する。
【0034】
エフェクター細胞を標的にする多重特異的分子は、Fc受容体のような、エフェクター細胞表面の成分に結合する一つ又はそれ以上の結合特異性もしくは部分を有している。一実施例においては、この結合特異的部分は、本明細書で既に記載した如く、抗体又は抗体フラグメント(例えば、Fab’又は単鎖Fv)によって提供される。一実施例では、この抗体又は抗体フラグメントは、ヒトのものであるか又はヒト化されている(即ちヒト抗体由来であるが、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)の少なくとも一部分を有しており、この部分は、例えば、ヒトFc受容体に関する、ヒト化抗体の特異的部分を提供するように選択されている)。ヒト化抗体は、非ヒト抗体由来のCDRを有するが、この抗体分子の残余の部分はヒトである。
【0035】
この抗体は、完全なもの、即ちH及びL鎖又は、例えば、Fabもしくは(Fab’)フラグメント等、その任意のフラグメントを有していてもよい。この抗体はさらに、L鎖二量体もしくはH鎖二量体、又はFv又は単鎖構成体のような、その最小限の任意のフラグメントであってもよく、これらのフラグメントは、Ladner等(1990年8月7日付けで発行された米国特許第4,946,778号)において記載されており、その内容は言及により明示的に本明細書に編入されている。このヒト化抗体又はフラグメントは、非ヒトCDRを保持できる任意のヒト抗体でよい。好適なヒト抗体は、H鎖可変領域(VH)に関する既知のタンパク質NEWM及びKOL、及び免疫グロブリンκ鎖可変領域(VK)に関するタンパク質REIから由来するものである。
【0036】
ヒト抗体へ挿入された非ヒトCDRの部分は、ヒト化抗体がFc受容体に結合できるように十分な部分が選択される。十分な数の部分を選択するには、このCDRの一部をヒト抗体へ挿入し、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)を用いて作製されたヒト化抗体の結合能を実験することで可能である。
【0037】
あるヒト抗体のCDRの全てを、非ヒトCDRの少なくとも一部分と置換しても、或いはこれらのCDRの幾つかだけを非ヒトCDRと置換してもよい。ただ必要なことは、Fc受容体にヒト化CDRを結合させるのに必要な数のCDRを置換することである。マウスモノクローナル抗体(mab)、即ち、mab22由来の非ヒトCDRは、その内容を言及により本明細書に全て編入する国際特許出願公開第WO94/10332号において記載されている。このmab22抗体は、Fc受容体に対して特異的であり、1988年9月4日付けで発行された米国特許第4,954,617号にさらに詳細に記載されており、その内容も言及により明示的に編入されている。セルラインを作製するヒト化mab22抗体は、指定HA002CL1の下に1992年9月4日付けでアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に保管され、預託番号CRL11177を有する。
【0038】
抗体のヒト化は、ヒト抗体の一つのCDRの少なくとも一部分を、非ヒト抗体由来の一つのCDRと置換することができる任意の方法によって実行してよい。Winterが、本発明によるヒト化抗体の調製に使用できる方法を記載しており(1987年3月26日付け出願の英国特許出願第GB2188638A号)、その内容は言及により明示的に本明細書に編入する。「免疫グロブリンGに関する、ヒト単核貪食細胞上のFc受容体に対するヒト化抗体」と題された国際特許出願公開第WO94/10332号において記載のオリゴヌクレオチド特定部位の変異誘発を用いて、ヒトCDRを非ヒトCDRと置換してもよい。
【0039】
抗Fc受容体部分の他に、多重特異的分子は、「抗標的部分」(例えば、抗体)、機能的抗体フラグメント、又は、病原体(例えば、ウイルス、細菌、真菌類)、病原体感染細胞、癌もしくは腫瘍細胞(例えば、乳房、卵巣、前立腺など)もしくは被験体(例えば、ヒト又は動物)内の他の有害細胞もしくはそれらの抗原もしくは改変された形態、を認識かつ結合するリガンドを包含し得る。更に、標的部分は、抗原を包含したり又はそれを標的にすることができる。好適な実施例には、免疫系を刺激し、例えば慢性感染症の場合は、リンパ系の抗原を減少させ、また腫瘍を治療するのに使用できる抗原が含有されている。とりわけ好適な一実施例には、抗FcR抗体を含有する多価分子に付着する抗原が含まれている。
【0040】
本発明の一実施例においては、多重特異的分子はリガンドを含有する。このリガンドは、分子と相互作用するものなら何れのリガンドでもよい。好適な一実施例においては、このリガンドは、タンパク質に、例えば、癌細胞のような標的細胞上の表面タンパク質に、結合する。好適なリガンドは、成長もしくは分化因子のような、受容体に対するリガンドを含む。例えば、多価分子は、上皮成長因子又は受容体(例えば、上皮成長因子受容体)と相互作用することができる少なくとも一部分もしくは改変された形態を包含する。別の好適な実施例においては、リガンドは、ボンベシンのような小ペプチド、胃酸分泌ホルモン(GRP)、リトリン(原語:litorin)、ニューロメジンB(原語:neuromedin B)又はニューロメジンC(原語:neuromedin C)である。これらのペプチドの配列は、例えば、ここにその内容が言及によって編入される米国特許第5,217,955号において見いだすことができる。リガンドは、これら内の任意のペプチドの改変された形態でもよい。改変することによって、受容体への結合を増大させたり、結合を減少させたり、或いは受容体への結合に影響を与えないようにすることができる。リガンドを改変することで、リガンドが細胞増殖を刺激するのではなく阻害するように、アゴニストをアンタゴニストへ形質転換させることもできる。リガンドの改変には、少なくとも一つのアミノ酸の付加、欠失、置換又は変更があり得る。
【0041】
本発明の一実施例においては、多価もしくは二重特異的分子は抗原を包含する。ここで用いられている場合は、「抗原」という用語は、任意の自然の或いは合成の免疫原性物質、免疫原性物質のフラグメントもしくは部分、ペプチド・エピトープ又は付着体(ハプテン)を意味する。「抗原」という用語はまた、複合体にされていない形態では非免疫原性であるが、複合体にされると免疫原性となる物質も含む。「複合体にされていない」という用語には、本発明の分子複合体を形成するように結合されない物質が含まれる。「複合体にされたもの」という用語には、本発明の分子複合体を形成するように結合される物質が含まれる。
【0042】
本発明の一実施例においては、二重又は多重特異的分子を用いて、細胞に対して抗原を向かわせ、これらの細胞の内部移行及び提示プロセスを増強し、最終的にはその細胞内の免疫反応を刺激する。特定の一実施例においては、二重特異的結合薬が、抗原と特異的に結合し(直接又は間接の何れかで、即ち、抗原のエピトープ又は抗原に付着したエピトープの何れかに)、かつ同時に、プロセシング及び提示を行うために抗原を内部移行することができる抗原提示細胞の表面受容体と結合する。別の実施例においては、抗原が、多重特異的又は二重特異的分子に結合され、かつ同時に抗原提示細胞の表面受容体と結合する。これらの二重又は多重特異的分子の受容体結合成分(よって二重又は多重特異的分子それ自身)が、抗原提示細胞の受容体と結合する。場合によっては、分子の結合は、分子がこの受容体に関する本来のリガンドによって実質的に妨害されることなく起こることがある。したがって、受容体に対して抗原を向かわせても、リガンドの生理学的レベルによって阻止されることなく、また標的された受容体は、リガンドと結合し且つ作用する能力を温存することになる。
【0043】
ある種の抗原にはアレルゲンがある。「アレルゲン」は、感受性のある被験体においてアレルギー性又は喘息性反応を惹起させ得る物質を指す。アレルゲンのリストは膨大であり、花粉、昆虫毒、動物のふけ埃、真菌胞子及び薬物(例えば、ペニシリン)を含み得る。自然、動物及び植物アレルゲンの例には、以下に掲げる属に特有なタンパク質を含み、それらには、イヌ科(Canis familiaris)ヤケヒョウヒダニ属(Dermatophagoides)(例えば、Dermatophagoides farinae)、ネコ属(Felis domesticus)、ブタクサ(Ambrosia artemiisfolia)、ライグラス(例えば、Lolium perenne又は Lolium multiflorumホソムギまたはイタリアンライグラス)、スギ(スギCryptomeria japonica)、アルタナリア(Alternaria alternata)、ハンノキ類、ハンノキ(Alnus gultinosa)、シラカンバ(Betula verrucosa)、コナラ(Quercus alba)、オリーブ(Olea europa)、ヨモギ(Artemisia vulgaris)、オオバコ(例えば、Plantago lanceolata)、パリエタリアParietaria(例えばParietaria officinalis又は Parietaria judaica)、チャバネゴキブリ属(例えばチャバネゴキブリ)、ミツバチ(例えば、Apis multiflorum)、Cupressus(例えば、Cupressus sempervirens、Cupressus arizonica及びCupressus macrocarpaモントレーイトスギ)、ビャクシン属(例えば、Juniperus sabinoides、Juniperus virginiana、Juniperus communis及びJuniperus ashei)クロベ属(例えば、Thuya orientalis)、ヒノキ(例えば、Chamaecyparis obtusa)、Periplaneta(例えば、Periplaneta americanaワモンゴキブリ)、カモジグサ属(例えば、Agropyron repens)、ライムギ(例えば、 Secale cerealeライムギ)、コムギ属(例えば、Triticum aestivum)、Dactylis(例えば、Dactylis glomerata)、フェスキュ(例えば、Festuca elatior)、イチゴツナギ属(例えば、Poa pratensis 又はPoa compressa)、Avena(例えば、Avena sativaマカラスムギ)、Holcus(例えば、Holcus lanatus)、Anthoxanthum(例えば、Anthoxanthum odoratum)、Arrhenatherum(例えば、Arrhenatherum elatius)、ヌカボ(例えば、Agrostis alba)、イネ科(例えば、チモシー)、Phalaris(例えば、Phalaris arundinacea)、スズメノヒエ(例えば、Paspalum notatumバヒアグラス)、モロコシ属(例えば、Sorghum halepensis)及びブロムグラス(例えば、Bromus inermis)がある。
【0044】
数多くのアレルゲンが、ブタクサ、草又は樹木の空中浮遊の花粉や、真菌類、動物、家の塵埃又は食物に見い出される。一般的に、 それらはタンパクの消化に対して比較的耐性がある。好適なアレルゲンは、マスト細胞および好塩基性細胞上のIgEに結合し、それによってタイプIアナフィラキシー過敏性反応を引き起こすものである。多価作用物質の少なくとも一つの特異的部分が、IgGに関するリガンド結合ドメインの外側にある高親和性Fc受容体のエピトープに関する場合は、この二重特異的結合物質は、被験体内の過敏性を抑制することができる。このようなことが達成されるのは、IgE結合アレルゲンがマスト細胞および好塩基性細胞上のIgEに結合する前に、二重特異的結合物質がこのアレルゲンと結合をめぐって競合するので、タイプI過敏性反応の可能性を減ずることになるからである。さらに、アレルゲンがFcγRに向けられた結果、このアレルゲンに対する、IgE媒介型のタイプI反応を阻害するT細胞耐性状態が誘導され得る。耐性は、現在用いられているアレルゲン用量よりも実質的に少ない用量を用いて、アレルゲンに結合しようするIgEと競合するIgGを減誘導することによって達成できる。
【0045】
場合によっては、投与用の大きな免疫原性タンパク質(例えば、細菌毒素)のような担体分子に、抗原性が弱いか或いは本質的に非抗原性(ハプテンのような)の物質を結合させるのが望ましかろう。これらの場合においては、二重特異的結合試薬は、それ自身のエピトープではなく、その結合試薬が結合する担体のエピトープと結合するように作ってもよい。
【0046】
直接又は間接の何れかで、本発明の多重特異的もしくは二重特異的分子と結合することができる抗原は、可溶性または微粒子であってもよく、この抗原は、B細胞エピトープ、T細胞エピトープ又は両者を保持できる。この抗原は、細菌、ウイルス又は寄生体由来であってもよい。この抗原は、病原性生体の表面構成体の成分を包含する。例えば、この抗原は、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)のウイルス体膜グリコタンパク質のようなウイルス表面構成又は肝炎ウイルスの表面抗原を包含してもよい。さらに、この抗原は、腫瘍細胞のような、病原細胞と結合されてもよく、その病原細胞に対する免疫反応を高めて病疾を治療する。この抗原は、ヒトの乳癌及び卵巣癌細胞上で発現するHer−2/newプロト腫瘍形成遺伝子(Slamon et al. (1989) Science 244:707)のような、腫瘍特異的又は腫瘍結合抗原を包含できる。
【0047】
被験体の細胞を、本発明の多価分子に、インビトロ又はインビボで暴露することができる。多価分子を用いて、培養中の抗原提示細胞に対する抗原を標的にすることができる。免疫適格細胞は、患者の血液から分離且つ精製される。次に、これらの細胞を、抗原を含む多価分子に暴露するか、又は抗原に関する結合特異的部分を有する多価分子と共に抗原に暴露できる。標的を決められた抗原提示細胞は、抗原をプロセシングし、且つそれらの表面上のフラグメントを提示する。刺激の後、これらの細胞を患者に戻すことができる。
【0048】
本発明の方法は、抗原に対する免疫反応を増強もしくは強化するのに用いることができきる。例えば、この方法は、肝炎又は後天性免疫不全ウイルス症候群(AIDS)のような、本来の免疫系では感染症に打ち勝つことができない場合に、慢性的な感染症を治療するのに価値を発揮する。その方法は又、侵入生体に対する免疫反応を強化する必要がある感染症の急性段階の処置にも用いることができる。
【0049】
この方法を用いて、予防的もしくは治療的な免疫反応を得る場合や、宿主が抗原に対して反応しないか或いは最低限にしか反応しない場合は、必要な抗原の用量を減ずることができる。一般的には望ましいことであるが、有効用量を減ずるのは、アレルギーに関する症例の如く、宿主にとって当該抗原が毒性である場合には特に望ましい。抗原を含有するか、又はリガンド(例えば、抗原と相互作用する抗体)を含有する二重もしくは多重特異的分子を用いる方法及び利用法は、公開されたPCT出願第PCT/US91/07283号において更に詳細に記載されている。
【0050】
本発明の別の実施例においては、多重特異的分子は、改変された抗原を包含しており、したがってT細胞活性に及ぼすその分子の効果は、抗原提示細胞によりこの改変抗原がT細胞に提示されると、改変される。Allan等は、T細胞を刺激する(例えば、T細胞の増殖を刺激する)ペプチドの一つ又はそれ以上のアミノ酸を置換することによって、T細胞を刺激することが不能な抗原を、もしくはT細胞におけるアネルギーを誘導する抗原を得ることができるのを実際に証明した。このような改変されたペプチドは、改変ペプチドリガンド(APL)と呼ばれる。したがって、このようなAPLは、FcγRIに関する少なくとも一つの結合特異的部分を有する二重特異的もしくは多重特異的分子に結合し得る。抗原提示細胞が、これらの分子を食作用により取り込んでT細胞へ提示すると、T細胞の増殖は阻害されるか、もしくはアネルギー状態にすることができる。よって、(a)通常はT細胞を刺激するが、改変されるとT細胞のアネルギーを誘導する抗原の少なくとも一つの改変ペプチドと、(b)少なくとも一つの抗FcγRI抗体と、を包含する多重特異的分子を被験体に投与することによって、抗原に対する被験体の耐性が誘導されることになる。よって、このような多重特異的もしくは二重特異的分子を用いて種々の抗原(例えば、自己抗原)に対して被験体を耐性化することができる。したがって、使用したこれらの抗原によっては、本発明の方法は、例えば、T細胞を刺激する抗原を用いることで免疫反応を高める方法を提供し、かつ本発明はまた、T細胞への刺激を阻害するか或いはT細胞のアネルギーを誘導するか、その何れかによって免疫反応を抑制する方法も提供する。
【0051】
本発明の多重特異的の、多価分子はまた、「抗増強因子(抗EF)部分」を含んでもよい。この「抗増強因子部分」は、抗原と結合することによって、抗Fc受容体部分又は抗標的部分の機能を増強させる、抗体、作用的な抗体フラグメント又はリガンドでもよい。この「抗増強因子部分」は、Fc受容体又は標的と結合できる。一つの標的細胞抗原に結合する抗標的部分と、異なる標的抗原に結合する抗増強因子部分と、を包含する多価分子は、標的細胞が、抗原変調もしくは抗原性変異(例えば、トリパノソーマ類のようなある種の寄生体に関して記載された如く)を受ける場合において特に有用である。あるいは、この抗増強因子部分は、抗標的もしくは抗Fc受容体部分が結合する実体とは異なる別の実体と結合することもできる。例えば、抗増強因子部分は、細胞障害性T細胞(例えば、CD2、CD3、CD8、CD28、CD4、CD40、ICAM−1又は標的に対して免疫反応の増強をもたらすその他の免疫細胞を介して)と結合することができる。
【0052】
多重特異的分子の作成方法
【0053】
上述の多重特異的分子は、数多くの方法によって作成することができる。例えば、両方の特異的部分を同一のベクターにおいてコードし、且つ同一の宿主細胞において発現および組み立ててよい。このような方法は、多重特異的分子が、以下の例2において記載する(リガンド)x(fab)融合タンパク質である場合に特に有用である。本発明の二重特異的分子はまた、単鎖二重特異的抗体のような単鎖二重特異的分子、一つの単鎖抗体及び一つのリガンドを含む単鎖二重特異的分子、或いは二つのリガンドを含む単鎖二重特異的分子でもよい。多価分子はまた、単鎖分子でもよいし、或いは少なくとも二つの単鎖分子を含んでもよい。二価又は多価抗体を調製する方法は、例えば、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,455,030号、米国特許第4,881,175号、米国特許第5,132,405号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,476,786号、米国特許第5,013,653号、米国特許第5,258,498号及び米国特許第5,482,858号において記載されている。
【0054】
こうした単鎖分子がそれに特異的な標的と結合するのは、本明細書の例において記載される二重特異的ELISA(酵素結合免疫吸着検査法)によって確認することができる。
【0055】
あるいは、多重特異的分子の各特異的部分を別々に作製することができ、得られたタンパク質もしくはペプチドを相互に共役させることができる。例えば、二つのヒト化抗体は、二つのH鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル(SH)結合を介して共役させることができる。一実施例においては、共役する前に、このヒンジ領域が、奇数(好ましくは一つ)のスルフヒドリル(SH)残基、を含有するように改変する。
【0056】
本発明の二重特異的分子は、以下の例において記載の方法或いは当分野で周知の方法を用いて、抗FcR及び抗標的部分を共役させることによって調製できる。例えば、種々の結合もしくは架橋薬を共有結合型共役に用いてよい。架橋薬の例には、プロテインA、カルボジイミド、N−スクシニミジル−S−アセチル−チオアセテート(N-succinimidyl-S-acetyl-thioacetate)(SATA)、N−スクシニミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate)(SPDP)及びスルフォスクシニミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロハクサン−1−カルボキシレート(sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohaxane-1-carboxylate)(sulfo-SMCC)が含まれる(例えば、Karpovsky et al. (1984) J. Exp. Med. 160:1686; Liu, MA et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:8648、を参照されたい)。その他には、Paulusによって記載されたものが含まれる(Behring Ins. Mitt. (1985) No. 78, 118-132); Brennan et al. (Science (1985) 229:81-83), and Glennie et al. (J. Immunol. (1987) 139: 2367-2375)。好適な共役剤は、 SATA及びsulfo-SMCCであり、共にピアスケミカル社(イリノイ州ロックフォード)から入手可能である。
【0057】
多重特異的分子内の結合特異的部分として抗体を用いる場合は、好適な抗体には、ヒトモノクローナル抗体及びそのヒト化抗体(例えば、Fab’及び単鎖Fv等のフラグメント)が含まれる。ヒト化抗体を作製する方法は、当該分野では既知であり、以下の例において詳細に記載される。完全にヒトのモノクローナル抗体を作製する方法も当該分野では既知である。これらの抗体は、例えば、Kohler 及びMilstein(Nature 256: 495 (1975)の標準的な体細胞雑種形成技術などの従来のモノクローナル抗体方法論を含めて種々の技術よって作製することができる。原則的には体細胞雑種形成法が好ましいが、モノクローナル抗体を作製する他の方法も用いてもよい(例えば、Bリンパ球のウイルス又は腫瘍形成形質変換)。
【0058】
ハイブリドーマを調製する好適な動物系はマウス系である。マウスにおけるハイブリドーマの作製は、非常によく確立された方法である。免疫化した、融合のための脾細胞を分離する免疫化プロトコルおよび技術は、当該分野では既知である。融合相手(例えば、マウス骨髄腫細胞)及び融合方法も当該分野では既知である。
【0059】
好適な一実施例においては、ヒト・モノクローナル抗体は、マウス系ではなくヒトの免疫系の部分を担持する遺伝子導入マウスを用いて作製する。これらの遺伝子導入マウス(ここでは「HuMab」マウスと呼ぶ)は、内生的なμ及びκ鎖遺伝子座を非活性化させる、標的を決められた変異体と共に、再配列されていないヒトH鎖(μ及びγ)及びκL鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座(miniloci)を含有する(Lonberg, N. et al. (1994) Nature 368(6474): 856-859)。したがって、当該マウスは、マウスIgMもしくはκの発現が抑制され、かつ導入されたヒトH及びL鎖遺伝子は、クラススイッチ及び体性変異を経て高親和性ヒトIgGκモノクローナルを、免疫化に対応して作製する(Lonberg, N. et al. (1994), 上述; Lonberg, N. (1994) Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101に説明あり; Lonberg, N. and Huszar, D. (1995) Intern. Rev. Immunol. Vol. 13: 65-93, and Harding, F. and Lonberg, N. (1995) Ann. N.Y. Acad. Sci 764:536-546)。HuMabマウスの調製は、以下の詳細なセクションII及び以下の参考文献に記載があり、これら全ての内容はその全体が言及により本明細書に編入されている(Taylor, L. et al. (1992) Nucleic Acids Research 20:6287-6295; Chen, J. et al. (1993) International Immunology 5: 647-656; Tuaillon et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:3720-3724; Choi et al. (1993) Nature Genetics 4:117-123; Chen, J. et al. (1993) EMBO J. 12: 821-830; Tuaillon et al. (1994) J. Immunol. 152:2912-2920; Lonberg et al., (1994) Nature 368(6474): 856-859; Lonberg, N. (1994) Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101; Taylor, L. et al. (1994) International Immunology 6: 579-591; Lonberg, N. and Huszar, D. (1995) Intern. Rev. Immunol. Vol. 13: 65-93; Harding, F. and Lonberg, N. (1995) Ann. N.Y. Acad. Sci 764:536-546; Fishwild, D. et al. (1996) Nature Biotechnology 14: 845-851)。更に参照されたいのは、Lonberg並びにKay及びGenPharm International社に発行された米国特許第5,545,806号及び第5,625,825号、Surani等に発行の米国特許第5,545,807号 、及び1998年6月11日付け国際公開第WO98/24884号 、1994年11月10日付け第WO94/25585号、1993年6月24日付け第WO93/1227号、1992年12月23日付け第WO92/22645号、1992年3月19日付け第WO92/03918号であり、これらの全ての内容の開示は、その全体が言及により本明細書に編入されている。或いは、例2において記載のHCO12遺伝子導入マウスを用いて完全にヒトのモノクローナル抗体を作製することができる。
【0060】
完全にヒトのモノクローナル抗体を作製するために、マウスは、所望の免疫原を発現する所望の免疫原及び/又は細胞を精製し且つ強化したプレパラートによって免疫化できる(Lonberg, N. et al. (1994) Nature 368(6474): 856 859; Fishwild, D. et al. (1996) Nature Biotechnology 14: 845-851 and WO 98/24884)。好適には、マウスは最初の注入時に6乃至16週齢である。例えば、HER2/neuの精製又は強化プレパラート(5乃至20μg)を用いてHuMabマウスを腹腔内免疫化できる。HER2/neuの精製又は強化プレパラートを用いる免疫化によって抗体が作製されない場合は、例えば腫瘍細胞株などの、HER2/neuを発現する細胞によって免疫化して免疫反応を促進することもできる。
【0061】
種々の抗原に関して経験的に分かったことは、HuMAb遺伝子導入マウスが最もよく反応するのは、フロインド完全アジュバントにおいて、抗原でまず腹腔内(IP)免疫化をした後、フロインド完全アジュバントにおいて、抗原で一週おきにIP免疫化(合計六回まで)を実施する場合である。免疫反応は、免疫化プロトコルの全過程に亘ってモニターすることができ、且つ血漿試料を眼窩後方からの採血によって得ることができる。この血漿はELISA(以下に記載の如く)によってスクリーニングされ、所望の免疫原に対する十分な力価のヒト免疫グロブリンを有するマウスを融合に用いることができる。マウスは、脾臓を犠牲にし且つ除去する前三日間、抗原で静脈内に追加刺激してよい。それぞれの抗原に関して二回から三回の融合を実行する必要が見込まれる。それぞれの抗原に関して六匹のマウスを免疫化することになろう。例えば、合計12匹のHC07及びHC12系のマウスを免疫化してもよい。
【0062】
マウス脾細胞は、次に、標準的なプロトコルに基づいて単離され且つポリエチレングリコール(PEG)でマウス骨髄腫セルラインに融合させることができる。次に、その結果得られたハイブリドーマを、抗原特異的抗体を作製するためにスクリーニングすることができる。例えば、免疫化したマウスから得た脾臓リンパ球の単細胞懸濁液を、50%のPEGで、六分の一の数のP3X63−Ag8.653非分泌マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL1580)まで融合する。細胞は、平底の微量定量プレート内でおよそ2x10個を平板培養した後、20%の胎児クローン血清、18%の「653」調整培地、5%のオリゲン(IGEN社)、4mMのL−グルタミン、1mMのL~グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、5mMのHEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)、0.055mMの2−メルカプトエタノール、50ユニット/mlのペニシリン、50mg/mlのストレプトマイシン、50mg/mlのゲンタマイシン及び1XHAT(シグマケミカル社、HAT(混合培養液)は融合のあと24時間後に加えられる)を含有する選択的な媒体中で、二週間定温放置される。二週間後、細胞は、HATがHTと置換されている媒体中で培養される。次に、所望の免疫原に対するヒトモノクローナルIgM及びIgG抗体の有無に関して、個々のウェルは、ELISAによってスクリーニングする。一旦、全体的にハイブリドーマが成長すると、媒体は通常10乃至14日間観察する。ハイブリドーマを分泌する抗体を再度平板培養して、再度スクリーニングを行い、ヒトIgGモノクローナル抗体に関して依然として陽性なら、限界希釈して少なくとも二回サブクローニングすることができる。次に、特性の説明のために、安定したサブクローンは、インビトロ培養して組織培地に少量の抗体を作製する。
【0063】
ヒトモノクローナル抗体の結合を特性を説明するために、免疫化されたマウスから得た血清が、例えば、ELISA法によって実験される。簡単に説明すると、微量定量プレートに、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中での、およそ0.25μg/mlの所望の免疫原(精製された)を塗布し、次にPBS中の5%のウシの血清アルブミンで遮断する。所望の免疫原で免疫化したマウスから得た血漿の希釈液を各ウェルに加え、37℃で一、二時間定温放置する。プレートをPBS−Tweenで洗浄した後、 アルカリホスファターゼに共役したヤギ抗ヒトIgGのFc特異的多クローン薬と共に、37℃で一時間定温放置する。洗浄後、プレートはpNPP( 4−リン酸ニトロフェニル、ジナトリウム塩六水和物、リン酸パラニトロフェニル(4-nitrophenyl phosphate, disodium salt hexahydrate; para-nitrophenyl phosphate))基質(1mg/ml)で展開され、405乃至650のOD(光学濃度)で分析される。好適には、最高の力価濃度を生じるマウスを融合に用いる。
【0064】
上述のELISA(酵素結合免疫吸着検査法)アッセイも、所望の免疫原に関する陽性活性を示すハイブリドーマの有無をスクリーニングするために用いることができる。高結合活性を示して所望の免疫原と結合するハイブリドーマは、サブクローニングされ、さらに特性の説明をする。各ハイブリドーマから一つのクローン(親細胞の反応性を保持する(ELISAによる))を選択して、−140℃で保管した5乃至10個のバイアル細胞バンク(a 5-10 vial cell bank)の作製及び抗体精製することができる。
【0065】
所望の免疫原に対するヒトモノクローナル抗体を精製するために、選択されたハイブリドーマを2リットルのスピンナーフラスコ内で成長させてモノクローナル抗体を精製する。プロテインAセファロース(ファーマシア社、ニュージャージー州ピスカタウェー)で親和性クロマトグラフィーを実施する前に、上澄み液を濾過し濃縮することができる。溶離したIgGは、ゲル電気泳動及び高性能液体クロマトグラフィーにより検査して純度を確認することができる。緩衝液はPBSと交換し、濃度は、1.43吸光係数を用いてOD280によって測定できる。モノクローナル抗体は、等分割して−80℃で保管できる。
【0066】
選択されたヒトモノクローナル抗体が所望の免疫原上の特異的なエピトープと結合するかどうか測定するために、各抗体を市販の試薬(イリノイ州ロックフォード、ピアスケミカル社)を使用してビオチン標識することができる。標識されていないモノクローナル抗体及びビオチニレート化されていない抗体を使用する競合研究を、上述の如く所望の免疫原を塗布したELISAプレートを用いて実行してもよい。ビオチニレート化されたmAb(モノクローナル抗体)結合をストレプアビジンアルカリホスファターゼ(strep-avidin-alkaline phosphatase)・プローブで検出することができる。
【0067】
精製された抗体のアイソタイプを測定するには、アイソタイプELISAを実行することができる。4℃で一晩、微量定量プレートのウェルに10μg/mlの抗ヒトIgを塗布することができる。5%のウシ血清アルブミンで遮断した後、周囲温度で二時間、これらのプレートを10μg/mlのモノクローナル抗体又は精製したアイソタイプ対照と反応させる。次に、これらのウェルをヒトIgG1又はヒトIgMの何れかに特異的なアルカリ性ホスファターゼ共役プローブと反応させることができる。上述したように、プレートは展開され且つ分析される。
【0068】
例えば、腫瘍細胞受容体などの、所望の免疫原を発現する生きた細胞に、モノクローナル抗体が結合するのを証明するために、流動細胞光度測定法(フローサイトメトリー)を用いることができる。簡単に説明すると、所望の免疫原(標準的な成長条件下で成長させた)を発現するセルラインは、0.1%のTween80及び20%のマウス血清を含有するPBS(リン酸緩衝生理食塩水)内で種々の濃度のモノクローナル抗体と混合し、37℃で一時間定温放置する。洗浄後、これらの細胞を、第一次抗体染色と同一条件下でフルオレセイン標識された抗ヒトIgG抗体と反応させる。これらの試料は、光源及び単離細胞上で作動する側方散乱特性を用いるFACScan装置によって分析することができる。螢光顕微鏡検査法を用いる別のアッセイをフローサイトメトリー・アッセイ(それに加えて又はその代わりに)を用いてもよい。細胞は上述と同様に染色し且つ螢光顕微鏡検査法によって検査される。このような方法によって、個々の細胞を視覚化できるが、抗原の濃度によって感受性が減少する可能性がある。
【0069】
所望の免疫原に結合するヒトIgGは、ウェスタン法によって所望の免疫原との反応性の有無をさらに実験することができる。簡単に説明すると、所望の免疫原を発現する細胞から細胞抽出物を調製し、ドデシル硫酸塩ナトリウム・ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動にかけることができる。電気泳動の後、分離された抗原は、ニトロセルロース膜に移し、20%のマウス血清で遮断し、モノクローナル抗体をプローブにして実験される。ヒトIgG結合は、抗ヒトIgGアルカリホスファターゼを用いて検出可能であり、BCIP/NBT基質錠剤(シグマケミカル社、ミズーリ州セントルイス)で展開(develop)することができる。
【0070】
多重特異的分子の治療的使用
FcRを担持する免疫細胞と特異的な標的細胞を結合する能力を基に、特定の特異的分子を被験体に投与して、以下のような種々の疾患又は状態を処置又は予防することできる。それらの疾患又は状態には、癌(例えば、乳癌、卵巣癌、肺臓の小細胞癌)、病原性感染症(例えば、HIVなどのウイルス性)、原虫によるもの(トキソプラズマ原虫のような)、真菌類によるもの(カンジダ症のような)、自己免疫状態(例えば、免疫性血小板減少紫斑病及び全身性紅斑性狼瘡)が含まれる。また、多重特異的多価抗体は予防的に投与して、標的細胞による感染症に対して被験体を予防接種することもできる。
【0071】
治療上の使用目的では、有効量の適正な多重特異的分子は、これらの分子がその意図された治療効果を発揮できれば任意の態様で被験体に投与してもよい。好適な投与経路には、経口及び経皮(例えば、貼付薬を介して)が含まれる。その他の投与経路には、注射(皮下、静脈、腸管外、腹腔内、クモ膜下など)がある。注射には、大量注射又は継続的な点滴があり得る。
【0072】
多重特異的分子は、薬学的に許容可能な担体と共に投与できる。本明細書に使用されているように、「薬学的に許容可能な担体」という文言は、多重特異的分子と同時投与でき且つその分子を見込み通りに働くようにさせる物質を含むことを意図している。このような担体の例には、溶液、溶剤、分散媒体、遅延剤、乳剤などが含まれる。薬学的活性物質に関するこのような媒体の使用は、当該分野において周知である。これらの分子を用いるのに適切であれば、その他の通常の担体は何れも本発明の範囲内にある。
【0073】
「有効量」の多重特異的分子の「有効量」という言葉は、所望の生物学的効果を実現するのに必要な又は十分な用量を指す。例えば、有効量の多重特異的分子(抗標的部分が病原性細胞を認識する)は、腫瘍、癌又は細菌性、ウイルス性もしくは真菌性感染を排除するのに必要な用量である。具体的な適用に関する有効量は、治療中の疾患又は状態、投与される具体的な多重特異的分子、被献体の体格又はこれら疾患もしくは状態の重症度などの要因により様々であり得えよう。通常の技能を備えた当業者であれば、余計な実験の必要もなく個々の多重特異的分子の有効量を経験的に決定することができる。
【0074】
これより本発明は、以下の例によって更に示されるが、それをもって更なる限定であると解釈するべきではない。本願を通じて引用される、全ての参照文献、出願中の特許出願及び公開特許の内容は、言及により本明細書に明示的に編入される。
【0075】

例1.Fc受容体及び抗her2neu抗体に関して特異的なマウス又はヒト化抗体を包含する二重特異的抗体の作製
【0076】
モノクローナル抗体
抗FcγRIモノクローナル抗体(mAb)、M22、M32.2及び197は、イオン交換クロマトグラフィーによってハイブリドーマ上澄から精製し、またDZ33、即ち、ヒト抗HIV−1IgG1mAbは、プロテインA親和性クロマトグラフィー(ファーマシア社、ニュージャージー州ピスカタウエー)及びゲル濾過によってハイブリドーマ上澄から精製された。M32.2は、20852メリーランド州,ロックビル、パークローンドライブ12301に所在のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に、1987年7月1日付けで預託され、ATCC預託番号HB9469と指定されている。
【0077】
セルライン
マウス骨髄腫NSO(ECACC85110503)は、非Ig合成系であり、組換えmAbの発現に用いられた。NSO細胞は、DMEMプラス10%の胎児ウシ血清(FBS、ギブコ社、英国ペイリー)中で培養された。SKBR−3は、HER2/neu癌原遺伝子(ATCC,メリーランド州ロックビル)を過剰発現するヒトの乳癌腫セルラインであり、イスコーブの改変されたダルベッコ培地(IMDM、ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)において培養された。U937は、FcγRIを発現する単球様セルラインであり、ATCCから入手して、RPM−1640プラス10%のFBS(ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)中で育成した。
【0078】
マウス免疫グロブリンV領域遺伝子のクローニング
マウスハイブリドーマ22から得られた細胞質RNAは、Favaloro等( Favaloro, J., R. Treisman and R. Kamen,(1982) ポリオーム特異的RNAの転写マップ:二次元S1ゲルマップによる分析、Meth. Enzymol. 65:718)において記載のように調製された。IgV領域cDNAは、「ヒト単核貪食細胞上の、免疫グロブリンに関するFc受容体に対するヒト化抗体」と題された国際特許出願公開第WO94/10332号に記載の如くプライマCG1FOR及びCK2FORから開始された逆転写を介してRNAから作製された。cDNA合成を、100UMMLV逆転写酵素(英国ペイスリー、ライフテクノロジー社)を用いて標準的な条件下で行った。V及びVκcDNAは、国際特許出願公開第WO94/10332号に記載したようにH2BACK及びVK7BACKと共にcDNAプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって増幅された(Orlandi, R., D.H. Gussow, P.T. Jones and G. Winter (1989) (ポリメラーゼ連鎖反応による、免疫グロブリン発現可変ドメインのクローニング), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:3833)。増幅されたV及びVκDNAは精製し、M13にクローニングし、T7DNAポリメラーゼ(ファーマシア社、ニュージャージー州ピスタウェー)を用いてジデオキシ法によって配列された。
【0079】
キメラ抗体遺伝子の作成
マウスV領域DNAを発現ベクターにクローニングするのを促進するために、制限部位を、両M22V領域遺伝子の末端の極めて近接位に配置した。Vに関しては、5’PstI部位及び3’BstEII部位が、VH1BACK及びVH1FOR(Id.)を用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によりクローニングされたマウスV遺伝子へ導入した。Vκに関しては、5’PvuII部位及び3’BglII部位を、VK1BACK及びVK1FOR(Id.)を用いてPCRによりクローニングされたマウスVκへ導入した。幾つかの場合では、これらのプライマーは、このような自然発生的なアミノ酸から一つ又はそれ以上のアミノ酸を変化させた。これらのV領域遺伝子(ChVH及びChVK)は、適正な制限酵素で切断され、Igプロモーター、シグナル配列及びスプライス部位を含有するM13VHPCR11BACK及びVKPCR1(Id.)にクローニングされた。DNAは、M13からHindIII−BamHIフラグメントとして切除されて、ヒトIgG1(Takahashi, N. et al. (1982)、 ヒト免疫グロブリンガンマ遺伝子の構成:遺伝子系統群の進化に関する示唆、Cell, 29:671)及びヒトカッパ恒常領域ゲノムDNA(Hieter, R.A. et al. (1980)、クローニングされたヒト及びマウスカッパ免疫グロブリン恒常及びJ領域遺伝子は、作用的セグメントにおいて相同性を保存する。 Cell 22:197)を含有するpSVgpt及びpSVhyg発現ベクターへ、クローニングされた。
【0080】
ヒト化抗体遺伝子の作成
二つのH鎖が作成され、NEWMのヒトVs(Poljak, R.J. et al.、ヒトマイクローマ免疫グロブリン(IgG New), Biochemistry, 16:3412)のV領域のアミノ酸配列、及びKOL(Marquat, M. et al., (1980)無傷な免疫グロブリン分子Kolの 結晶学的な精製及び原子模型及び3.0A及び1.9A分解能その抗原結合フラグメント, J. Mol. Biol. 141:369)、に基づくものであった。ヒト化L鎖は、幾つかの基質領域(FR)の変更部を有するヒトベンス−ジョーンズ・タンパク質REI(Epp, O. et al, (1974)ベンス−ジョーンズ・タンパク質REIのバンディブル部分からなるダイマーの結晶及び分子構造, Eur. J. Biochem. 45:513)に由来するものであった。改変されてVκドメインが更に典型的なヒトサブグループIになり、Thr39、Leu104、Gln105及びThr107が、Lys39、Val104、Glu105及びLys107に置換されている。更に、Met4をLeu4に変更して、PvuII制限部位を収容可能とする。
【0081】
無関係なCDR(相補性決定領域)を備えたNEWMV及びREIVκFRを含有するDNAを、ベクターM13VHPCR1及びM13VKPCR1(Favaloro et al. 上述)にクローニングした。KOLVをコードするDNA、KOLFRアミノ酸及び無関係のCDRをコードするオリゴデオキシリボヌクレオチドを用いて、一連の連続PCR( ポリメラーゼ連鎖反応)によって作成した。これらの作成物を、次にM13VHPCR1にクローニングした。
【0082】
オリゴデオキシリボヌクレオチドが合成されて、ヒトFRに対応するヌクレオチドによってフランクされたmABM22CDRをコードした。NEWMに基づくヒト化Vに関しては、プライマーが、マウスFRアミノ酸Phe27、IIe28及びArg71(これらは抗原結合に影響するので)を含んでいた(Chothia, C. and A.M. Lesk (1987), 免疫グロブリンの高度可変領域に関するカノニカル構造, J. Mol. Biol., 196:901; Tramontano, A. et al., (1990),フレームワーク残基71は、免疫グロブリンのVHドメインにおける第二の高度可変領域の配置及び配座の主要な決定因子である, J. Mol. Biol., 215:175)。ヒト化Vκに関しては、マウスアミノ酸Phe71が、親和性に作用する能力を有する残基として同様に含まれている(Foote, J. and G. Winter, (1992), 高度可変ループの配座に作用する抗体フレームワーク残基, J. Mol. Biol. 224:487)。マウスFR残基は、KOLVには一切含まれていなかった。オリゴデオキシリボヌクレオチドは、5’−リン酸化され、M13ユニバーサル前方プライマーで、M13ssDNA鋳型を含むM13に反応でクローニングしたヒトV領域遺伝子に、アニーリングされた。このDNAは、拡大されて2.5UのT7DNAポリメラーゼ(USバイオケミカル社、オハイオ州クリーブランド)及び0.5UのT4DNAリガーゼ(BRL、ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)に結合された。変異ストランドは、1UのVentDNAポリメラーゼ(ニューイングランドバイオラブ、マサッチューセッツ州ベバリー )を有するM13逆方配列プライマーを使って拡大/結合混合物から選択的に増幅した後、M13の前方及び逆方プライマーの両者を用いるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅した。産生物DNAは、BamH1及びHindIIIで切断され、DNA配列により識別された、M13及び三重CDR移植変異体にクローニングされた。
【0083】
ヒト化V領域を含有するM13クローンは、その全体が配列されて偽性変異が存在しないことが確認された。確認されたクローンからのRFDNAは、HindIII及びBamHIで消化され、pSVgptもしくはpSVhyg及びヒトIgG1もしくはキメラ抗体遺伝子の作成に関して記載したのと全く同様に付加されたヒトカッパ恒常領域にクローニングされた。
【0084】
組換えmAbの発現及び精製
H鎖(5μg)及びL鎖(10μg)発現ベクターは、PvuIで消化され、エタノール沈降させて、50μlの水に溶解された。NSO細胞(1−2x10個)が遠心沈澱法により回収され、0.5mlDMEMで再懸濁されて、0.4cmの電気穿孔キュベット内でDNAと混合された。5分後、氷の上で、これらの細胞は、170V、960μFで一回パルスされ(ギーンパルサー社、バイオラッド社、ニューヨーク州メルビルGenePulser, Bio-Rad, Melville, NY )、氷の上で15分間さらに定温放置された。これらの細胞は、24乃至48時間DMEM中で回復させることができた。媒体は、次にマイコフェノール酸(mycophenolic acid)(0.8μg/ml)及びキサンチン(250μg/ml)を加えることによって選択的になった。200μlのアリコートが、96−ウェル・プレート内へ分配された。さらに10乃至12日後、これらのウェルから得た、ELISAによって測定された最高レベルの抗体を含有する細胞が選択されかつ希釈度を制限することによってクローニングされた。
【0085】
抗体は、プロテインA親和性クロマトグラフィーによって過成長した培養組織から精製された(ボーリンジャーマンハイム社、英国リューズ)。濃度は、A280nmを測定することにより測定し、かつELISA及びSDS−PAGEによって確認した。
【0086】
抗体結合の測定に関するELISA
微量定量プレートのウェルに、pH9.6の50mM重炭酸塩緩衝液中のヤギ抗ヒトIgM抗体(セララブ社英国クローリーダウン)を塗布した。このプレートには、1%のBSAで遮断された後、一時的に形質移入したCOS細胞から得られたヒトFcγRI及びヒトIgMのH鎖(sFcγRI−μ)の細胞外ドメインからなる可溶性融合タンパク質を加えた(発現ベクターは、マサチューセッツ州ボストンのマサチューセッツ総合病院のBrian Seed博士のご好意により提供された)。次に、組換え体22もしくは対照mAbが、被験体mAbがそのFc部分を介して非特異的に結合するのを遮断するλL鎖を含有するヒトIgG1抗体(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)の過剰(2.2μg/well)な存在下で加えられた。結合された22mAbは、ペルオキシダーゼ標識されたヤギ抗ヒトカッパ鎖抗体(セララボ、英国クローリーダウン)及びo−フェニレンジアミンで検出された。
【0087】
抗体のフルオレセイン染色
mAbのpHは、0.1MのNaCoを加えることにより9.3に調節された。フルイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)を、2mg/mlの濃度でDMSOに溶解させた。1ミリグラムのmAb当り40μgのFITCを加えて、室温で二時間定温放置した。フルオレセイン染色されたmAbは、G−25クロマトグラフィーにより遊離FITCから分離された。
【0088】
血液細胞の調製
軟膜は、ヘパリン化全静脈血から調製された。全血は、5%のデキストランを含有するRPMIで2.5対1(v/v)の比率で希釈された。赤血球は、氷の上で45分間沈降させた後、上澄中の細胞を新たな試験管に移し替えて遠心分離法によりペレット化した。残留赤血球を低張溶解により除去した。後に残ったリンパ球、単球、好中球は、結合アッセイで使用するまで氷の上で保管した。幾つかの実験に関して、好中球は、フィコール・ハイパーク(ファーマシア社、ニュージャージー州ピスカタウェー)勾配分離法により単核細胞から分離した。FcγRIを上方制御するために、好中球及び単核細胞はサイトカインで処理した。単核細胞の培養組織は、2.5%の通常のAB型ヒト血清(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)及び500IRU/mlのIFN−γ(R&Dシュステムズ社、ミネソタ州ミネアポリス)を含有する1ml当たり4x10個の細胞のRPMI希釈液において、37℃、5%のCOで48時間テフロン(登録商標)(R)皿内に定温放置した。好中球は、50ng/mlのG−CSF(ドイツのエアランガー大学のR. Repp氏の好意により提供される)及び500IRU/mlのIFN−γを含有するAIMV培地(ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)中で48時間(37℃、5%のCO)培養した。
【0089】
フローサイトメトリー
細胞結合アッセイは、既述のごとく96−ウェル微量定量プレートを用いて実施した(Guyre, P.M. et al., 受容体機能を惹起することができるFcγR上の別々のエピトープに結合するモノクローナル抗体、 J. Immunol., 143:1650)。簡単に説明すると、2mg/mlのBSA及び0.05%のNaN(PBA)を含有する、pH7.4のPBSで、細胞を洗浄し且つそれら細胞をPBAで1ml当たり2.0x10個の細胞まで調節した。FITC標識され且つ共役されていない抗体が、PBA中に調製された。細胞(25μl)、抗体(25μl)及びヒト血清(25μl)、又はヒトIgG(10mg/ml、ミズリー州セントルイスのシグマ社)(25μl)、又はPBA(25μl)を微量定量プレートに加えて、45乃至60分間氷上に放置した。結合されていない抗体は、PBAで三回洗浄してウェルから除去した。これらの細胞を1%のパラホルムアルデヒドで固定した。フルオレセンス染色された細胞が、ベクトン−ディキンソンFACScanにおいて分析された。
【0090】
BsAb共役方法
BsAbは、Glennie等の方法を用いて作成した(Glennie, M.J. et al., (1987),チオエーテル結合の二重特異的F(ab’γ)抗体の調製及び性能, J. Immunol., 139:2367)。mAb22(マウスおよびヒト化の両方)及び520C9(抗HER2/neu)抗体を、それぞれのハイブリドーマ細胞のインビトロ培養によって作製した。これらの抗体は、別々にペプシンでF(ab’)へ消化分解され、さらに10mMのメルカプトエタノールアミン(MEA)を加えて、30℃、30分間でFab’に分解された。Fab’フラグメントは、50mMの酢酸ナトリウム、0.5mMのEDTA(pH5.3、4℃)中で平衡させたセファッデクスG−25カラムにかけた。ジメチルホルムアミドに溶解させ且つメタノール/氷の溶液中で冷却したオルトフェニレンジマルイミド(o−PDM、12mM)を、M22x520C9の場合はマウス22Fab’に、及びH22x520C9の場合は520C9Fab’に加えて(半量)、さらに氷上で30分間定温放置した。次に、50mMの酢酸ナトリウム、0.5mMのEDTA(pH5.3、4℃)中で平衡させたセファッデクスG−25カラムにおいて、遊離o−PDMからこのFab’−マレイミダを分離した。BsAbの調製に関しては、1対1のモル比で、M22Fab’−マレイミドを520C9Fab’に加えるか、或いは520C9Fab’−マレイミドをH22Fab’に加えた。アミコン(商品名)チャンバ内で、デアフロ膜を用いて、窒素存在下において、これらの反応体を出発量まで濃縮した(全て4℃)。18時間後に、pH8.0の1MトリスHCLでそのpHを8.0に調節した。次いで、この混合物を10mMのMEAで還元し(30℃で30分間)且つ25mMのヨードアセトアミドでアルキル化した。PBSにおいて平衡させたスーパーデックス200(ファーマシア社、ニュージャージー州イスカタウェー)カラムによって生じた、非反応Fab’及び他の作製物から、二重特異的F(ab’)を分離した。
【0091】
抗体依存性細胞傷害性
HER2/neuを過剰発現するヒト乳癌腫細胞(SKBR−3)は、サイトカインで活性化された好中球による溶解の標的として用いられた(血液細胞の調製を参照されたい)。標的は、好中球及び抗体と結合する前に、U字底の微量定量プレート内で一時間にわたり100μCiの51Crで標識された。37℃で五時間放置した後、上澄を回収して放射能の有無を分析した。細胞障害性は、次式によって計算された。即ち、溶解(%)=(実験用CPM−標的漏出CPM/洗浄剤溶解CPM−標的漏出CPM)x100%である。特異的溶解=抗体含有溶解(%)−抗体非含有溶解(%)である。アッセイは、三重反復実験で実施した。
【0092】
スーパーオキシドの誘導
U937細胞を用いて、FcγRIを介するスーパーオキシドのバーストを惹起するH22の能力を測定した(Pfefferkorn, L.C. and G.R. Yeaman (1994), U937細胞におけるIgAFc受容体(FcxR)のFcεRIγ2サブユニットとの会合, J. Immunol. 153:3228; Hallet, H.B. and A.K. Campbell (1983).多形核球白血球における酸素遊離基の産生を刺激する別個の二つの機序, Biochem J. 216:459)。10%のFBS(ハイクローン社、ユタ州ローガン)を含有するRPMI−1640(ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)中で、100U/mlのIFN−γ(ゲネンテック社Genentech, カリフォルニア州サンフランシスコ)の存在下で、五日間、U937細胞を培養して、FcγRIの分化及び増強された発現を誘導した。実験日に、これらの分化させた細胞は、10%のFBSを含有する新鮮なRPMI−1640中において、37℃で20分間定温放置した。次に、これらの細胞をペレット化し、1mMのCaCl、1mMのMgCl、1mMグルコース及び100μg/mlのBSA(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)を補足したPBS中に、1ml当たり3x10個の細胞の濃度で懸濁させた。スーパーオキシドの放出を惹起するために、0.1mMのルミノール(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)、0.5mM100μlのバナジウム酸ナトリウム(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)およびmAbM22,H22又は197のうち何れかを含有する100μlの反応溶液に、100μlの細胞を加えて、22℃で、照度計中に配置した。照度計中で反応溶液に細胞を加えた直後から開始して、スーパーオキシドの自発的な産生を、30乃至40秒ごとに照度計で測定した。FcγRIをM22、H22又は197と架橋させることで惹起されたスーパーオキシドを比較するために、各mAbは同一濃度10μg/mlで使用した。mV/secでのスーパーオキシドの産生を20分間モニターした。mAbM22、M32.2及び197を種々の濃度で加えてスーパーオキシド産生の用量反応性を確立した。
【0093】
結果
マウスIgのV領域遺伝子
マウスのH鎖及びκの恒常領域に関して特異的なプライマーを用いて、M22ハイブリドーマRNAからIgV領域cDNAを調製し、成熟したV領域の既知のシグナル及び/又は5’配列の配列に基づいて一連のプライマーを付加的に用いて、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅した。V及びVκに関して、見込んだ大きさのPCR作製物が、SH2BACK/CG1FOR及びVK7BACK/CK2FORプライマーの組み合わせを使用して得られた。増幅されたDNAは適正な制限酵素で消化され、M13にクローニングされて、両方向の配列は、少なくとも24個の別個のクローンから決定された。導き出したアミノ酸配列は、配列ID番号29及び30に示されている。Vκの4つのN末端残基は、VKBACKプライマーによってコードされている。
【0094】
M22V及びVκは、それぞれマウスH鎖サブグループIIID及びカッパサブグループIの仲間である(Kabat, E.A. et al., (1991), 免疫グロブリンに関するタンパク質配列第5版、米国健康福祉省 (Department of Health and Human Services)。L97の残基を除けば、M22Vκのアミノ酸配列は、マウス抗IgGmAbA17からの配列と同一である(Shlomchik, M. et al., マウスIgM抗IgGモノクローナル自己抗体の可変領域配列(リウマチ因子)。II II.バイリポ多糖類刺激及び二次プロテイ免疫化から由来のハイブリドーマの比較、 bylipopolysaccharide, J. Exp. Med. 165:970)。
【0095】
ヒト化mAb及びその結合の最初の特性説明
M22VFRは、NEWM(相同率57%)(ヒトサブグループII)よりKOL(ヒトサブグループIII)に対してより大きな相同性(79%)を示した。この違いがどのように結合に影響するのかを見るために、マウス残基Phe27、Ile28及びArg71を含むNEWMV又はマウスFRアミノ酸を含まないKOLVの何れかに基づいて、H鎖を作成した。両方のヒト化Vが、同じREI由来のヒト化L鎖と組み合わせられた。
【0096】
FcγRI/IgMH鎖融合タンパク質への結合を測定して、ヒト化mAbの親和性をELISA(酵素結合免疫吸着検査法)によって最初に評価した。このデータによれば、KOLV/REIVκmAbは、キメラmAbと同じ結合性を有するが、NEWMV/REIVκmAbは、低親和性がおよそ5倍低いことが分かった。非特異的ヒトIgG1mAbの結合性が低いことにより、ヒト化mAbの結合が95%より高い場合FcドメインではなくFv部分を介するものであることがわかった。
【0097】
結合親和性を再生させるためにはNEWMFRに追加的変更が必要となると考えられたが、これらは有害な免疫反応を引き起こす可能性がある新規のエピトープを創製する恐れがあった。よって、H22と指定されたKOLV/REIVκmAbを、その結合特性を更に実験するために選択した。
【0098】
mAbH22の機能に関する特性説明
一連の結合実験を実施してH22抗体の特異的部分及びアイソタイプを確立した。フルオレセインと結合したM22又はH22で染色された末梢血白血球によって、細胞一個当たりおよそ10箇所の結合部位を有する単球に対する特異的結合が証明された。対照的に、リンパ球又は刺激されなかった好中球には殆どもしくは全く特異的結合が見られなかった(表1)。
【0099】
【表1】

【0100】
H22は、M22と同一の部位においてFcγRIに結合すること、及びH22はFc結合領域においてリガンドとしても結合することを証明するために、二つの抗FcγRIマウスmAb(H22及びM32.2)及びヒトIgG1mAbに関して競合実験を実施した。非共役H22及びM22は、FcγRIのFc結合部位を飽和させる過剰なヒトIgGの存在下で、フルオレセイン染色されたM22又はフルオレセインされた染色されたH22の何れかに関して、同等に競合した。見込み通り、M22とは異なるFcγRI上の部位に結合する抗FcγRI抗体M32.2(Guyre, P.M. et al., J. Immunol. 143:1650)も、M22−FITCと競合することができなかった。さらに、H22によって、したがって無関連なヒトIgG1mAbによってではなく、H22−FITCが阻害されることから、H22のV領域を介したFcγRIの特異性が確認された。
【0101】
H22は、、フルオレセイン染色されたヒトIgG1によって、FcγRIとのFc媒介結合をめぐって競合することができたが、M22はそれができなかった。この実験の結果、M22ではなく、H22のFc部分が、FcγRIのFc結合ドメインに結合することが証明された。これは、マウスIgG1ではなく、ヒトIgG1のFc部分が高親和性をもってFcγRIと結合することができる事実と一致している。
【0102】
M22をヒト化すると主にその免疫治療能を増大させるので、単球及びサイトカイン活性化された好中球に対するH22の結合活性を、ヒト血清の存在下で測定した。H22−FITCは、ヒト血清の存在下でも非存在下においても、同様の親和性をもって単球上のFcγRIと結合した。対照的に、無関連のヒトIgG−FITCのFc媒介結合は、完全にヒト血清によって阻害された。同様に、H22−FITCは、ヒト血清の存在下でも非存在下においても、同様の親和性をもってIFN−γ処理した好中球と結合した。総括すれば、H22は、そのV領域を介してFc結合ドメインとは別の部位に結合し、且つそのFc領域を介してFcγRIのリガンド結合ドメインに結合する、ということがデータによって証明された。前者の結合活性によって、ヒトIgG1の抗体妨害を効果的に克服することができる。
【0103】
H22BsAbの機能的活性
免疫治療に関して抗FcγRI抗体主に適用されるのは、腫瘍細胞、ウイルス又はウイルス感染細胞にFcγRI担持エフェクター細胞を結合させるBsAbの開発である。こうしたBsAbはM22を用いて開発されたので、M22抗腫瘍BsAb(520C9xM22)及び対応するH22BsAb(520C9xH22)を細胞障害性介在能力に関して比較した。これらのBsAbは、抗HER2/neu抗体(520C9)のFab’と化学的に共役したH22又はM22のFab’からなり、よってエフェクター細胞トリガ分子FcγRI及び腫瘍抗原に関して特異的であった。
【0104】
M22由来及びH22由来のBsAbの比較をADCC(抗体依存性細胞介在性細胞傷害)アッセイにより実施した。M22及びH22由来のBsAbは、HER2/neuSを過剰発現するKBR−3細胞の致死に介在した。マウス及びヒトBsAbの両方とも、同様なレベルの抗原担持標的細胞の溶解を示した。さらに、両方のBsAbが、ヒト血清の存在下で、ADCC活性を保持したが、過剰なM22F(ab’)は、致死を完全に阻害することになった。これらの結果を合わせると、H22BsAb誘導溶解は、M22エピトープを介して媒介されることと、及びADCCは、FcγRI特異的であることが分かった。
【0105】
最後に、単球様セルラインU937によるスーパーオキシド産出を刺激するH22及びM22の能力を評価した。M22(そのV領域によってのみFcγRIに結合する)が非常に低レベルの酸素バーストしか誘導しないのは、おそらくそれが受容体と効率的に架橋できないからであると考えられる。しかし、H22は、そのFcドメインを介してリガンドとして、また更にそのFvを介して抗体としても結合することによって、FcγRIを架橋することができるが、H22はスーパーオキシドのより多くの放出を誘導した。
【0106】
例2:機能的H22上皮成長因子融合タンパク質の作製
【0107】
材料及び方法
発現ベクター及びクローニング
H鎖(pSVgpt)及びL鎖(pSVhyg)のゲノミッククローンに関する発現ベクターは、国際特許出願公開第WO94/10332(名称「ヒト単核貪食細胞上の免疫グロブリンGに関するFc受容体に対するヒト化抗体」)に記載の如くである。Fabリガンド融合構成体に関して、そのL鎖を変更する必要があった。しかし、そのH鎖に関しては、CH2及びCH3ドメインを除去し且つリガンドをコードする配列で置換しなければならなかった。H鎖ベクターは、二つのBamHI部位を含み、一方はVH及びCH1の間のイントロン中に、他方はCH3のすぐ下流側に存在する。BamHI制限部位を用いて、恒常ドメインをコードするDNAをCH1及びヒンジの大部分だけをコードする切断型と置換した。このようにするために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して、図1に示した変更部を有するH鎖フラグメントの新たなC末端を設計した。
【0108】
図1Cに示した構成体は、クローニング制限部位(XhoI及びNotL)の下流側であり、VHの下流側の新たなPCR産生CHIフラグメントをクローニングするのに用いた、BamHI部位の上流側にある翻訳末端コドンと、からなるが、この構成体を融合タンパク質構成体を作製するのに用いた。 クローニング部位は、Fdとリガンドドメインとの間で柔軟性を保持するために殆どヒンジの下流側に位置するが、この部位を用いてEGF又は他のリガンドをコードするDNAを挿入した。同様に、一つのCys残基が、二量体分子を形成するための共役が可能なように前構成体から保持された。
【0109】
リガンドをコードするDNAは、N末端上にXhoI部位を又コード化領域のC末端上にNotI部位を有するようにPCRにより増幅され、次に適正な解読枠内で上記の新たに作成されたH22H鎖切形フラグメントの同一部位に挿入された。上皮成長因子(EGF)をコードするcDNAは、ATCC(預託番号59957)から入手した。およそ1200の残基先駆物質から成熟したEGFの53個のアミノ酸残基をコードするDNAだけを、開始はAsn971で、そして終止はArg1023でクローニングした。(Bell, G.I., Fong, N.M., Stempien, M.M., Wormsted, MA., Caput, D., Ku. L., Urdea, M.S., Rall, L.B. & Sanchez-Pescador, R. ヒト上皮成長因子前駆物質:cDNA配列、インビトロ発現及び遺伝子組織、 Nucl. Acids Res. 14: 8427 8446,1986.)
【0110】
発現
マウス骨髄腫NSO(ECACC85110503)は非免疫グロブリン合成ラインであり、融合タンパク質の発現に用いられた。最終表現ベクター、即ちフレーム内でEGF(図2に示す)に融合されたH22FdをコードするDNAを有するpSVgpt構成体が、バイオラッド・ジーン・パルサーを用いる電気穿孔法によって、H22L鎖をコードするDNAを含有するpSVhygで、既に形質移入されたNSOに形質移入された。これらのポリペプチドは、ベクター内に存在するIgプロモーター及びIgエンハンサーによって発現され、これらの構成体のN末端上に存在するmAb22H鎖ペプチドによって分泌された。形質移入後一日又は二日間、マイコフェノール酸及びキサンチンを培地に加えて、DNAを取り込んだ細胞を選択した。結合活性をELISAによって証明した後、個々の成長コロニーは分離されサブクローニングされた。
【0111】
精製
H22−EGF融合タンパク質を発現する細胞は、サブクローニングされ、拡大された。融合タンパク質発現クローンは、撹拌培養で拡大かつ成長させ、その上澄を清澄且つ濃縮させた。抗ヒトカッパ鎖親和性カラム(ステロジーン社、カリフォルニア州カールスバッド)上で親和性クロマトグラフィーによって、小規模な精製を実施した。精製されたタンパク質は、5乃至15%アクリルアミド勾配ゲル上で非還元性条件下において、SDS−PAGE(SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)によって分析した。図3は、抗Fc受容体−リガンド融合タンパク質の作製を概略図で示したものである。
【0112】
二重特異性フローサイトメトリー
融合タンパク質がFcγRI及びEGFR(上皮成長因子受容体)の両方と結合する能力を有することを証明するために、フローサイトメトリー・アッセイが開発された(図4)。このアッセイにおいては、種々の濃度のH22−EGF融合タンパク質又は二重特異的抗体、即ちBsAbH447(H22XH425、リガンド結合部位においてEGFRを結合する(E. Merck)マウスモノクローナル抗体M425のヒト化型)を、EGF受容体(EGFR)を発現するセルラインA431細胞(ATCC、メリーランド州ロックビル)と共に定温放置した。洗浄後、FcγRIの細胞外ドメイン及びヒトIgMのFc部分からなる融合タンパク質を含有する上澄を加えた。最後に、mAb22によって結合された部位とは別の部位でFcγRIを結合する、フィコエリトリン(PE)標識mAb(32.2)を加えた。次に、これらの細胞をファックスキャンによって分析した。或いは、EGFRとの結合は、過剰の(100μg/ml)全マウスmAb425(E. Merck)によって遮断し、bsAbの結合、つまり融合タンパク質が、PE標識抗ヒトIgGによって検出された。
【0113】
ADCC(抗体依存性細胞障害)
融合タンパク質が介在するADCCは、51Cr致死アッセイを用いて測定された。EGFR(A431)を過剰に発現するセルラインは、γインターフェロン(IFN−γ)において24時間培養されたヒト単球による溶解に関する標的として用いられた。U字底微量定量プレート内でエフェクター細胞及び抗体を結合させる前に、標的を100μCiの51Crで一時間標識した。37℃で五時間放置後、上澄を回収して放射能の有無を分析した。細胞障害性は、次式によって計算された。即ち、溶解(%)=(実験用CPM−標的漏出CPM/洗浄剤溶解CPM−標的漏出CPM)x100%。特異的溶解=抗体を含む溶解(%)−抗体を含まない溶解(%)。ADCCを媒介する融合タンパク質の能力が、それぞれのBsAbの能力と比較された。25%のヒト血清の存在下においてもこのアッセイを実施して、IgG又は他のヒト血清中の要素は融合タンパク質介在ADCCを阻害しないことを証明した。。
【0114】
結果
精製
H22カッパ鎖を発現するNSO細胞を、H22−EGFH鎖構成体で形質移入し、マイコフェノール酸及びキサンチンに対する耐性に関して選択されたクローンを拡大し、融合タンパク質を抗ヒトカッパカラム(ステロジーン社、カリフォルニア州カールズバッド)の上の上澄から親和精製した。精製されたタンパク質は、SDS−PAGEによって分析した。精製されたタンパク質は、50乃至55kDaの見かけ分子量で泳動したが、これは融合タンパク質が、ジスルフィド結合二量体ではなく、単量体として発現されていることを示すものである。さらに、25kDaの見かけ分子量で、バンドが認められたが、おそらく遊離L鎖であろう。
【0115】
結合特異性
融合タンパク質がFcγRI及びEGFR(上皮成長因子受容体)と同時に結合できることを証明するために二重特異的FACS(細胞自動解析分離装置)アッセイが考案された。図5に示すのは、化学的に結合され、完全にヒト化されたBsAbH447(H22(抗FcγRI)xH425)と、以下の例3に記載されるように作成されたH22−EGF融合タンパク質とが、A431細胞上のEGFR及び可溶性のFcγRIと、同時に用量依存の態様で結合した。
【0116】
この融合タンパク質のEGFR特異性は、リガンド結合部位においてEGFRと結合するマウスmAb(M425)が、融合タンパク質又はH22xH425結合を阻害する能力によって証明された。種々の濃度のBsAbH447又はH22−EGF融合タンパク質の何れかを、過剰なM425の存在か又は非存在下の何れかで、A431細胞と一緒に定温放置した。図6が示すのは、BsAb及び融合タンパク質の両者の結合がM425によって阻害されたことであり、EGFRに関する融合タンパク質の特異性を証明する。
【0117】
ADCC(抗体依存性細胞障害)
融合タンパク質がADCCを媒介する能力を、A431細胞を標的として用いて分析した。IFN−γの存在下で24時間培養したヒト単球がエフェクター細胞として用いられた。図7は、完全な抗体(H425)、BsAbH447(H22xH425)及びA431細胞の融合タンパク質媒介用量依存溶解を実証するものである。図8は、完全な抗体によって媒介されたADCCが、25%のヒト血清(25%HS)によって阻害され且つ一方で、この実験の場合においては、融合タンパク質媒介ADCCはヒト血清によって増強されたことを証明する。この融合タンパク質は、生体内に存在するFcγRI発現エフェクター細胞の存在下であってさえも、EGFR過剰発現細胞を殺す能力があることを証明することによって、これらの分子の治療上の有用性がこのような結果によって裏打ちされた。
【0118】
H22−EGF融合タンパク質の成長阻害特性
EGFは、それに関する受容体を発現する正常な細胞の成長を刺激するように作用するが、それは同時にEGF−Rを過剰発現する腫瘍細胞の成長を阻害するようにも作用する(Barnes, D.W. (1982) J. Cell Biol. 93:1, MacLeod, C.L. et al. (1986) J. Cell. Physiol. 127:175)。EGF及びH22−EGF融合タンパク質がA431細胞の成長を阻害できることが以下のごとく検査された。
【0119】
完全培地だけの場合と、或いは種々の濃度のEGF、H22−EGF、H22のFabフラグメント又はH425のF(ab’)フラグメントの何れかを含有する培地の場合で、2x10A431細胞を六つのウェルプレートに加えた。七日後に、生存能力のある細胞を血球計数器を使って勘定した。分析は、二重反復実験で実施し、平均値+/−標準偏差で報告した。
【0120】
結果が図9に示してある。これらの結果が示すのは、EGF及びH22−EGFは、用量依存の態様で細胞の成長を顕著に阻害したことである。逆に高濃度においてのみ幾らか阻害活性を有したH45のF(ab’)2フラグメント及びH22のFabフラグメントには阻害活性が見られなかった。
【0121】
よって、H22−EGFは、FcγRI及びEGFの両者と同時に結合でき、この分子は、適切にフォールドし、且つ両方の受容体と同時結合するのに必要な融通性を適正に保持し且つ維持したこと分かる。更に、H22−EGFは、EGF−R腫瘍を発現するセルライン(A431)の増殖を阻害したことで、EGFと同様に、H22−EGF融合タンパク質は、EGF−Rを介して信号を送ることができることを示す。H22−EGFはまた、FcγRIを発現するエフェクター細胞の存在下で、A431細胞を殺す潜在能を媒介する。よって、H22−EGFは、EGF−Rを発現する細胞に対する、細胞障害性及び細胞増殖抑制性の両方の効果を媒介する。腫瘍細胞を有する被験体にH22−EGFを投与すると、潜在的には三つの異なる態様、即ち、細胞障害、成長阻害及び食菌作用によって、体に本来ある細胞障害性エフェクター細胞を動員して腫瘍細胞を殺す媒介を行うことになろう。さらに、腫瘍細胞の細胞媒介性細胞障害に加えて、H22−EGFによって動員されたエフェクター細胞は、炎症性のサイトカインの分泌及び/又は腫瘍特異的T細胞に腫瘍抗原をプロセシングしかつ提示することによって、抗腫瘍免疫性をさらに増大させることもできる。
【0122】
例3:H22−ヘレグリン(H22−gp30)融合タンパク質による腫瘍細胞致死の媒介
【0123】
ヘレグリン(HRG)は、HER3及びHER4分子に関するリガンドである。これら受容体は両方とも幾つかの乳癌細胞に過剰発現されることがある分子HER2と共に異質二量体を形成できる。HER3及びHER4に関するHRGの親和性は、これらの分子が分子HER2と異質二量体を形成する場合に著しく増大する。この例によって分かることは、ヘレグリン及びFcγRIに関する結合特異性を包含する二重特異的分子は、腫瘍セルラインの成長を阻害し、かつFcγRI担持細胞障害性エフェクター細胞の存在下においてこれらの細胞の融合タンパク質依存型細胞侵害性を媒介するということである。
【0124】
H22−ヘレグリン融合タンパク質は、例2に記載のH22−EGF融合タンパク質と同じ方法で構成することができる。簡単に説明すると、ヒト化抗FcγRImAb(H22)のFdフラグメントをコードするゲノムDNAを、HRGのβ2型のEGFドメインをコードするcDNAに融合させた。H22−HRG融合タンパク質(配列ID番号4)のアミノ酸配列が図10に示されている。この融合タンパク質は、米国特許第5,367,060号に示されているヘレグリンβ2のアミノ酸171乃至239からなる。ヘレグリンβ2の他の部分も、米国特許第5,367,060号に開示されたような、他のヘレグリン分子の部分同様、用いてもよい。得られたH22Fd−HRG発現ベクターを、H22カッパL鎖をコードするDNAを含有するベクターで形質移入済みの骨髄腫セルラインに形質移入した。結果として得られた融合タンパク質は、それがH22Fab成分のヒンジ領域における遊離Cys残基を含んではいるが、モノマーとして概ね発現された。フローサイトメトリーの結果、この融合タンパク質は、FcγR発現細胞とばかりでなく、HER2を過剰発現する腫瘍セルライン(SKBR−3)とも結合できることが分かった。
【0125】
H22Fd−HRG融合タンパク質の生物活性度をテストするために、この融合タンパク質を発現する骨髄腫細胞の上澄を3倍乃至30倍に希釈して、IFN処理単球の存在下において、100対1の単球と標的腫瘍細胞との比率で、HER2、HER3及びHER4を発現するPC−3細胞もしくはSKBR−3腫瘍細胞に加えた。これらの単球は、IFN−γで処理し、これらの標的細胞は、例2の記載の如く51Crで標識した。特異的な溶解のパーセントは、例2と同じく計算された。その結果は、図11に示す。この結果が示唆するのは、約45%のSKBR−3細胞及び約49%までのPC−3細胞は、三倍に希釈した上澄と一緒にこれらの細胞を定温放置すると溶解されることである。
【0126】
このような融合タンパク質は、FcγRI担持細胞障害性エフェクター細胞の存在下において、SKBR−3腫瘍細胞の成長を阻害し且つこれらの細胞の融合タンパク質依存性細胞障害性を媒介する。よって、この例の結果が示すのは、抗FcγRI−HRG融合タンパク質は、生理学的な条件下において抗腫瘍細胞障害的活性を媒介できることをであり、且つこのような融合タンパク質は、種々の癌の処置における治療上の有用性を有することが示されている。
【0127】
例4:H22−ボンベシン融合タンパク質による腫瘍細胞致死の媒介
【0128】
H22−ボンベシン融合タンパク質は、上記のH22−EGF融合タンパク質と同様に作製された。しかし、ボンベシンは短いペプチド(14個のアミノ酸残基)なので、ボンベシンをコードするcDNAをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術を用いて増幅するのではなく、ボンベシンのセンス及びアンチセンス鎖をコードするDNAオリゴノマーを交雑させてコード領域を創製した。H22抗体のH鎖のC末端に融合したボンベシンペプチドのアミノ酸配列は次のものである。
【0129】
−Gln−Arg−Leu−Gly−Asn−Gln−Trp−Ala−Val−Gly−His−Leu−Met−Gly−(配列ID番号5)
【0130】
上記配列は、ボンベシンのアミノ酸2ないし14に対応し(Anastasi et al. (1971) Experientia 27:166)、ペプチドのC末端における付加的なグリシン残基を含む。これらのオリゴマーは、その重複端部は交雑はしなかったが、その代わりにN末端上のXhol部位及びC末端上のNotI部位に関する付着端を創製するので、その部位は、上記のH22H鎖発現ベクターにクローン化され得た。
【0131】
腫瘍細胞致死に関するH22−ボンベシン融合タンパク質の生物学的活性は、H22−EGFおよびH22−ヘレグリン融合タンパク質に関して記載したような方法で検査した。簡単に説明すると、PC−3腫瘍細胞担持ボンベシン受容体を51Crで標識し、単球及び種々の濃度のH22融合タンパク質と一緒に定温放置して、上記記載の如く、融合タンパク質依存性溶解を測定した。図12に示した結果は、標的細胞が溶解したことと、アッセイに加えた融合タンパク質の量に比例して、標的細胞溶解のレベルが増加することを示している。
【0132】
ひとつの結合実体としてH22を、及びひとつの二次的な結合実体としてCD4(エイズレポジトリー)又はgpl20(エイズ・レポジトリー)を有する融合タンパク質も同様に作製された。
【0133】
例5:改変されたヒト化抗体フラグメントからの二重特異的抗体の作製
【0134】
材料及び方法
発現ベクター及びクローニング
H22のH(pSVgpt)及びL(pSVyg)鎖のゲノムクローンに関する発現ベクターは、「ヒト単核貪食細胞上の免疫グロブリンに関するFc受容体に対するヒト化抗体」と題する国際特許出願公開第WO94/10332号おいて記載されている。Fab’の構成体に関してはL鎖を変更する必要があった。しかし、H鎖に関しては、CH2およびCH3ドメインは、除去し且つ末端コドンに置き換えねばならなかった。H鎖ベクターには二つのBamHI部位が含まれており、一つはVH及びCHl間のイントロンの中に、そして他方はCH3のすぐ下流側に存在する。BamHI制限部位を使用して、恒常ドメインをコードするDNAは、CH1とヒンジの大部分だけをコードする切断型と置換した。こうするために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して、図1に示した変更部を有するH鎖フラグメントの新たなC末端を作製した。図1Bに、切断された単一スルフヒドリル形の作製に関する変更を示す。
【0135】
発現
マウス骨髄腫NSO(ECACC85110503)は非免疫グロブリン合成ラインであり、改変H22抗体の発現に用いた。最終表現ベクター、即ち、H22FdをコードするDNAを持つpSVgpt構成体は、バイオラッド・ジーン・パルサーを用いる電気穿孔法によって、H22L鎖をコードするDNAを含むpSVhyg構成体で同時形質移入された。これらのポリペプチドは、ベクター内に存在するIgプロモーター及びIgエンハンサーによって発現され、これらの構成体のN末端上に存在するmAb22H鎖シグナルペプチドによって分泌された。形質移入後一日又は二日間、マイコフェノール酸及びキサンチンを培地に加えて、DNAを取り込んだ細胞を選択した。FcγRIの結合活性が実証された後、個々の成長コロニーは分離されサブクローニングされた。
【0136】
精製
単一スルフヒドリル形のH22抗体及び完全H425(抗EGFR)抗体は、それぞれの形質移入されたNSO細胞のインビトロ培養によって作製した。H425は、プロテインA親和性クロマトグラフィーによって精製した。単一スルフヒドリル形のH22抗体は、Q−セファロースに続いてSP−セファロース(ファーマシア社、ニュージャージー州ピスカタウェー)を使用してイオン交換クロマトグラフィーによって精製された。単一スルフヒドリル形のH22抗体の精製は、SDS−PAGEによって評価した。
【0137】
二重特異的抗体(BsAb)の作製
BsAbは、Glennie等の方法を用いて作成した(Glennie, M.J. et al., (1987),チオエーテル結合の二重特異的F(ab’γ)抗体の調製及び性能, J. Immunol., 139:2367)。H425のF(ab’)は、0.1Mのクエン酸塩緩衝液で、pH3.5において、制限ペプシンタンパク質加水分解によって作製され、F(ab’)は、イオン交換クロマトグラフィーによって精製された。 mAbは、20mMのメルカプトエタノールアミン(MEA)を加えることによって、30℃で30分間還元された。Fab’フラグメントは、50mMの酢酸ナトリウム、0.5mMのEDTA(pH5.3、4℃)中で平衡させたセファッデクスG−25カラムにかけた。ジメチルホルムアミドに溶解させ且つメタノール/氷の溶液中で冷却したオルトフェニレンジマルイミド(o−PDM、12mM)をH22Fab’に加えて(半量)、さらに氷上で30分間定温放置した。次に、50mMの酢酸ナトリウム、0.5mMのEDTA(pH5.3、4℃)中で平衡させたセファッデクスG−25カラムにおいて、遊離o−PDMからこのFab’−マレイミダを分離した。BsAbの調製に関しては、1.2対1のモル比で、H22Fab’−マレイミドをH45Fab’に加えた。アミコンチャンバ内で、デアフロ膜を用いて、窒素存在下において、これらの反応体を出発量まで濃縮した(全て4℃)。18時間後に、pH8.0の1MのトリスHCLでそのpHを8.0に調節した。次いで、この混合物を10mMのMEAで還元し(30℃で30分間)且つ25mMのヨードアセトアミドでアルキル化した。PBSにおいて平衡させたスーパーデックス200(ファーマシア社、ニュージャージー州イスカタウェー)カラムによって生じた、非反応Fab’及び他の作製物から、二重特異的F(ab’)を分離した。
【0138】
二重特異性フローサイトメトリー
DTNB(ベータジストロブレビンdystrobrevinβ)法によって作製されたものばかりでなくo−PDM(オルトフェニレンジマルイミド)法によって作製されたBsAbが、FcγRI及びEGERと同時に結合できることを証明するために、フローサイトメトリーアッセイが開発された(図13)。このアッセイにおいては、種々の濃度の二つのBsAbが、A431細胞(EGF受容体、つまりEGFR受容体を発現するセルライン)と一緒に定温放置された。洗浄後、FcγRIの細胞外ドメイン及びIgMのFc部分からなる融合タンパク質を含有する上澄がこれらの細胞と一緒に定温放置された。最後に、これらの細胞を、FITC標識抗ヒトIgM特異的抗体と一緒に定温放置した。その後、これらの細胞を、FACSCANによって分析した。
【0139】
ADCC(抗体依存性細胞障害)
BsAb媒介ADCCは、51Cr致死アッセイを用いて測定された。EGFR(A431)を過剰に発現するセルラインは、γインターフェロン(IFN−γ)において24時間培養されたヒト単球による溶解に関する標的として用いられた。平底微量定量プレート内で、エフェクター細胞及び抗体を結合する前に、標的を100μCiの51Crで一時間標識した。37℃で16時間放置後、上澄を回収して放射能の有無を分析した。細胞障害性は、次式によって計算した。即ち、溶解(%)=(実験用CPM−標的漏出CPM/洗浄剤溶解CPM−標的漏出CPM)x100%。Ab依存性溶解=抗体を含む溶解(%)−抗体を含まない溶解(%)。
【0140】
結果
精製
NSO細胞は、切断型H22H鎖構成体及び無傷のκ鎖構成体で同時形質移入された。マイコフェノール酸及びキサンチンに対する耐性に冠して選択されたクローンが展開され、このタンパク質は、Q−セファロースに続きSP−セファロースによって上澄から精製された。精製されたタンパク質は、SDS−PAGEによって分析した。精製されたタンパク質は、50kDaの見かけ分子量で泳動したが、これは融合タンパク質が、ジスルフィド結合二量体ではなく、単量体として発現されていることを示すものである。
【0141】
H425のFab’(抗EGFR)に結合した単一スルフヒドリル形H22からなるBsAbの作製及び特性説明
BsAbは、単一スルフヒドリル形のH22がH425のFab’フラグメント、即ち、ヒト化抗EGFRmAbに結合した所に構成された。BsAbは、o−PDMをリンカーとして用いてGlennie等の方法によって作製されている(Glennie, M.J. et al., (1987), チオエーテル結合Fab’γフラグメントを含有する抗体である二重特異的F(ab’γ)の調製及び性能、 J. Immunol., 139:2367)。BsAbの活性が、完全H22のペプシン消化及び還元から作製されたFab’フラグメントを用いるDTNB法によって作製されたものと比較された。これらのBsAbがFcγRI及びEGFRと同時結合できることを証明するために、三重特異的FACSアッセイが考案された。図14は、o−PDM結合BsAb及びDTNB法によって作成されたBsAbの両者が、用量依存の態様で、A431細胞上のEGFR及び可溶性のFcγRIと同時に結合したことを示す。
【0142】
ADCCを媒介するこれらBsAbの能力は、A431細胞を標的として用いることで分析した。IFN−γの存在下において24時間培養されたヒト単球は、エフェクター細胞として用いた。図15は、A431細胞の二つのBsAb媒介用量依存性溶解を比較可能な態様で示す。これらの結果によって、切断型、単一スルフィドリル形のH22は、FcγRI発現エフェクター細胞の存在下においてEGFR過剰発現細胞を殺すことができることが証明された。
【0143】
例6:三価抗体の作製
【0144】
材料及び方法
セルライン及び抗体(M22、520C9、H425。SKBR3及びA431)
M22及び520C9は、イオン交換クロマトグラフィー(ファーマシア社、ニュージャージ州ピスカタウェー)によってハイブリドーマ上澄から精製され、520C9は更にプロテインA親和性クロマトグラフィー(ファーマシア社、ニュージャージ州ピスカタウェー)によって精製された。H425は、タンパク質A親和性クロマトグラフィー(ファーマシア社、ニュージャージ州ピスカタウェー)によってハイブリドーマ上澄から精製された。M22及び520C9から作製したマウスハイブリドーマは、既に記載がなされている(Guyre et al., (1989) FcgRI上の別個のエピトープに結合するモノクローナル抗体は、受容体機能を惹起することができる。 J. Immunol. 143:5, 1650-1655; Frankel et al., (1985) モノクローナル抗体によって定義された乳癌関連抗体の生体内分布、 J. Biol. Response Modifiers, 4:273-286)。マウス骨腫瘍NSO(ECACC85110503)は、非Ig合成ラインであり、ヒト化mAb、即ちH425の発現に用いられた(Kettleborough et al., (1991)CDR移植によるマウスモノクローナル抗体のヒト化:ループ立体配座上のフレームワーク残基の重要性, Protein Eng., 4:773)。SKBR3(ATCC、メリーランド州ロックビル)、即ち、HER2/neuプロト腫瘍遺伝子を過剰発現するヒト乳癌腫セルライン、及びA431(ATCC、メリーランド州ロックビル)、即ち、EGFRを過剰発現するヒト有棘細胞癌腫セルラインが、イスコーブの改変ダルベッコ培地(IMDM、ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)において培養された。
【0145】
好中球の調製
好中球は、フィコール・ハイパーク(ファーマシア社、ニュージャージー州ピスカタウェー)勾配分離法により単核細胞から分離した。FcγRIを上方制御するために、好中球はサイトカインで処理した。好中球は、2.5%の正常なヒトAB型血清(シグマ社、ミズーリー州セントルイス)、50ng/mlのG−CSF(ドイツのエアランガーErlanger大学のR. Repp氏の好意により提供される)及び100IRU/mlのIFN−γを含有するAIMV培地(ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)において24乃至48時間(37℃、5%CO)培養した。
【0146】
共役方法
BsAbは、Glennie等の方法によって作製された(Glennie, M.J. et al., (1987), チオエーテル結合Fab’γフラグメントを含有する抗体である二重特異的F(ab’γ)の調製及び性能、 J. Immunol., 139:2367)。mAbM22、520C9(抗HER2/neu、33)及びH425(抗EGFR)抗体は、それぞれのハイブリドーマ細胞のインビトロ培養で作製された。各抗体のF(ab’)は、0.1Mのクエン酸塩緩衝液で、pH3.5において、制限ペプシンタンパク質加水分解によって作製され、F(ab’γ)は、イオン交換クロマトグラフィーによって精製された。mAbM22及びH425は、20mMのメルカプトエタノールアミン(MEA)を加えることによって、30℃で30分間還元された。Fab’フラグメントは、50mMの酢酸ナトリウム、0.5mMのEDTA(pH5.3、4℃)中で平衡させたセファッデクスG−25カラムにかけた。ジメチルホルムアミドに溶解させ且つメタノール/氷の溶液中で冷却したオルトフェニレンジマルイミド(o−PDM、12mM)をマウス22Fab’に加えて(半量)、氷上で30分間定温放置した。次に、50mMの酢酸ナトリウム、0.5mMのEDTA(pH5.3、4℃)中で平衡させたセファッデクスG−25において、遊離o−PDMからこのFab’−マレイミダを分離した。BsAbの調製に関しては、1対1のモル比で、M22Fab’−マレイミドをH425Fab’に加えた。アミコンチャンバ内で、デアフロ膜(商品名)を用いて、窒素存在下において、これらの反応体を出発量まで濃縮した(全て4℃)。18時間後に、pH8.0の1MのトリスHClでそのpHを8.0に調節した。次いで、この混合物を10mMのMEAで還元し(30℃で30分間)且つ25mMのヨードアセトアミドでアルキル化した。PBS(食塩加リン酸緩衝液)において平衡させたスーパーデックス200(ファーマシア社、ニュージャージー州イスカタウェー)カラムによって生じた、非反応Fab’及び他の生成物から、二重特異的F(ab’)を分離した。BsAbM22x520C9は、H425の代わりに520C9を用いた以外は同様の態様で作製された。
【0147】
M22xH425x520C9からなる三重特異的抗体は、二つの段階で作製された(図16)。 最初の段階においては、最終的な還元及びアルキル化ではなく、反応体がDTNBで処理されて残余の遊離スルフィドリル基を遮断した以外は、上述のように、M22をH425と結合させてM22xH425BsAbを創製した。二価BsAbは、スーパーデックス200カラム上でゲル濾過することによって精製し、F(ab)’(SH)に還元して、1対1のモル比でo−PDM処理した520C9と混合された。こうして得られた三重特異的F(ab)3は、スーパーデックス200カラムにおいて精製された。このTsAbは、TSK3000カラム(トージョーハース社、日本)を用いてHPLCサイズ・エクスクルージョン・クロマトグラフィーによって分析した。上記と同じ方法で、m22Fab’x32.2Fab’xm22Fab’を含む別のTsAbが作製された。
【0148】
二重特異性フローサイトメトリー
TsAbは、EGFR及びFcγRIと同時結合でき、又はHER2/neu及びFcγRIとも同時結合できる。A431細胞(高度EGFR発現細胞)又はSKBR−3(高度HER2/neu発現細胞)の何れかを、種々の濃度のBsAB(M22x520C9又はM22xH425)又はTsAb(M22xH425x520C9)の何れかと一緒に定温放置した。これらの細胞は洗浄後、可溶性のFcγRIと一緒に定温放置した。可溶性FcγRI結合が、22結合部位とは別個の部位においてFcγRIと結合するmAb32.2−FITCで検出された。これらの細胞は、次にFACSCANによって分析された。
【0149】
ADCC
サイトカイン活性化好中球による溶解に関する標的として、SKBR−3細胞又はA431細胞の何れかを用いた。U字底微量定量プレート内で、好中球及び抗体と結合する前に、標的を100μCiの51Crで一時間標識した。37℃で16時間放置後、上澄を回収して放射能の有無を分析した。細胞障害性は、次式によって計算した。即ち、溶解(%)=(実験用CPM−標的漏出CPM/洗浄剤溶解CPM−標的漏出CPM)x100%。特異的溶解=抗体を含む溶解(%)−抗体を含まない溶解(%)。アッセイは、三重反復実験で実施した。
【0150】
FcγRI変調アッセイ
全血中の単球上のFcγRIの変調にM22x32.2xM22BsAbを用いた。アッセイの方法は、拡大フローチャート(図23A参照)に示す。図23Bは、10μg/mLのこのBsAbで処理することによって、単球上のFcγRI発現が、処理前のレベルのおよそ50%に減少したことを示している。
【0151】
結果
TsAbの構成及び生物学的な特性説明
TsAbは、図16に示したフローチャートにしたがって作成された。この方法の第一段階においては、M22が、H425に結合され、DTNBで処理されて、得られた二重特異的F(ab’)がゲル濾過によって精製された。第二段階においては、この二重特異的F(ab’) を、還元され且つo−PDM処理520C9Fab’と混合して、TsAb(M22xH425x520C9)が得られた。このTsAbが図17に示されている。この図においては、Fab’−AはM22、Fab’−BはH425、そしてFab’−Cは520C9を表す。
【0152】
結合(BsFACS)
TsAb(M22xH425x520C9)がFcγRI及びHER2/neuと同時に結合できることを証明するために、二重特性FACSアッセイが考案された。このアッセイは、図18Aにシグナルしか発生しなかった示してある。図19は、用量依存の態様で、TsAbが、SKBR−3上のHER2/neuと可溶性FcγRIとの両者に同時に結合したことが示す。BsAb(M22xH425)は、広範囲の濃度に亘ってこのアッセイにおいてごくわずかなシグナルしか発生しなかった。TsAb(M22xH425x520C9)が、FcγRI及びEGFRと結合できることを証明するために、EGFR過剰発現セルライン(この場合はA431)を用いる同様なアッセイが考案された。このアッセイは図18Bに概略的に示す。図20が示すのは、TsAb及びBsAb(M22xH425)の両者とも、A431細胞上のEGFR及び可溶性のFcγRIと用量依存の態様で同時に結合したことである。BsAb(M22x520C9)は、広範囲の濃度に亘ってこのアッセイにおいてごくわずかなシグナルしか発生しなかった。
【0153】
ADCC
TsAbがADCCを媒介する能力が、SKBR−3又はA431細胞の何れかを標的として用いて分析された。IFN−γ及びG−SF存在下において24乃至48時間培養したヒト好中球が、エフェクター細胞として用いられた。図21によって、BsAb(M22x520C9)及びTsAb(M22xH425x520C9)は、SKBR−3細胞の溶解を媒介するが、BsAb(M22xH425)はしなかったことを証明している。他方、図22においては、BsAb(M22xH425)及びTsAbは、SKBR−3細胞の溶解を媒介したが、BsAb(M22x520C9)はしなかったことを証明する。この結果証明されたことは、TsAbは、FcγRIを過剰発現するエフェクター細胞の存在下においてHER2/neu及びEGFRを過剰発現する細胞の両者を殺すことができたことである。
【0154】
上記の三重特異的抗体には、M22、即ち、抗FcγRImAbのマウス型、が含まれていた。このような三重特異的抗体は、単一スルフィドリル形のヒト化抗FcγRImAb(H22)を用いて作製することができた。唯一の相違は、単一スルフィドリル形は、この抗体のF(ab’)フラグメントとして分泌されることであった。この単一スルフィドリル形は、Q−セファロースに続いてSP−セファローズ(ファーマシア社ニュージャージー州ピスカタウェー)を用いるイオン交換クロマトグラフィーを利用して、培養上澄から精製することができる。単一スルフィドリル形のH22が精製されれば、この試薬を使う三重特異的抗体は、M22のF(ab’)フラグメントを用いる上記と同一の方法で創製されよう。
【0155】
例7:H22−抗原融合タンパク質で増強された抗原提示
【0156】
この例によって証明されることは、(a)抗FcγRI抗体の恒常領域上に遺伝子的に移植された抗原ペプチドは、抗原単独の場合に比べて、抗原による抗原提示及びT細胞刺激の効率が顕著に増大すること、及び(b)抗FcγRI抗体の恒常領域上に遺伝子的に移植されたアンタゴニストペプチドは、アンタゴニストペプチド単独の場合に比べて、T細胞刺激阻害の効率が顕著に増大することである。よって、このような融合タンパク質は、インビボでの抗原提示細胞へのペプチド輸送を効果的に増大させることになり、したがって種々の治療法に有用となろう。
【0157】
材料及び方法
試薬
AIMV(ギブコ社、ニューヨーク州グランドアイランド)を培養培地として用いた。テタヌス・トキソイド(TT)は、アクラクト・ケミカル社(ニューヨーク州ウエストベリー)から購入した。マウス抗FcγRImAb22の無菌で低い内毒素性F(ab’)フラグメント及び二重特異的Ab、即ちMDXH210(抗HER2/neu腫瘍AgmAb520C9のFab’と化学的に結合した、ヒト化Ab22のFab’からなる)は、メダレックス社(ニュージャージー州アナンデール)から提供された。TTのユニバーサルThエピトープ、即ち、TT830−844(QYIKANSKFIGITEL(配列ID番号6)、以後TT830と呼ぶ)(Valmori D. et al. (1994) J. Immunol. 152:2921-29)及びこのエピトープの変異形、即ち、TT833S(QYISANSKFIGITEL)(配列ID番号9)、833位においてセリンに変更されたリジン)は、ペプチドジェニック社(カリフォルニア州リバーモア)によって合成され、純度は95%より高く精製された。別のTTユニバーサルThエピトープ、即ち、TT947−967(FNNFTVSFWLRVPKVSASHLE(配列ID番号12)、以後TT947と呼ぶ。純度は80%より高い)(Valmori D. 同上)は、この研究では制御ペプチドとして用いられた。市販されている静脈注射(IVI)用ヒトIgGは、遮断実験に用いた。
【0158】
細胞
FcγRIを発現する単球セルライン(U937)は、ATCCから入手した。CD4、即ち、ペプチドTT830−特異的T細胞は、TT特異的Tセルラインに関する既述のプロトコルから改変された(Gosselin E.J. (1992) J. Immunol. 149:3477-81)。簡単に説明すると、単核細胞は、フィコール・ハイパックを用いて末梢血から分離された。150x10個の単核細胞が、50mlのAIMV培地において10μMのTT830で刺激された。5%のCO下のインキュベータにおいて、三日間37℃で定温放置後、10mlのHEPES緩衝RPMI1640でフラスコ1Xを洗浄することによって、非付着物(殆どが非特異的細胞)を取り除くと、そのフラスコには、付着した単球と共に特異的T細胞のコロニーが残った。50mlのAIMVプラス20U/mlのヒトIL−2(イムネックス社、ワシントン州シアトル)、及び1ml(最終濃度2%)のヒトのプール血清をこのフラスコに加えた。10乃至14日間放置後、T細胞を採取し、死んだ細胞をフィコール・ハイパックによってペレット化すると、高度に培養強化された個体群(95乃至98%)の生きたCD4、即ち、Ag特異的T細胞が作製された。T細胞が、図3に示すように、TT830ペプチドに関して特異的であることが確認された。大量の単球を、低温凝集法(Mentzer S.J. et al. (1986) Cell. Immunol. 101:132)を用いてロイコフォレシス・パックから精製して、80乃至90%の純度が得られた。単球及びT細胞の両方を将来使用するために等分割して冷凍したが、解凍すると正常に機能することが分かった。
【0159】
Ag(抗原)提示アッセイ
増殖アッセイにおいては、T細胞(5x10)、放射能照射した単球(3000rad、10/ウェル)及び種々の濃度のペプチドTT830融合タンパク質Fab22−TT830を一緒に、最終量200μl/ウェルで、平底の96ウエル組織培養プレートにおいて二日間定温放置した。 次に、10μl(1μCi/ウェル)H− チミジンを各ウエルに加えた。一晩放置した後、プレートを回収して液浸計数装置で数を測定した。T細胞の増殖は、三重反復試験の平均計数/分(1分間のカウント)±標準偏差で表示した。バックグラウンドCPM(抗原を含有しないT細胞及び単球)を全データポイントから差し引いた。APL(改変されたペプチドリガンド)を用いる実験は、Sette等によって報告されたものと同様のプロトコルに従って実行した(De Magistris (1992) Cell 68:625)。阻害アッセイに関して簡単に説明すると、放射能照射した単球は、種々の濃度のTT833S又はFab22−TT833Sで一晩処理した後、20nMのTT830及びT細胞を加えた。さらに二日間放置した後、T細胞を上記のように測定した。「プリパルシング」実験においては、10μMのTT833S又は0.1μMのFab22−TT833Sを加える前に、放射能照射した単球を20nMのTT830で4時間に亘りパルスした。一晩定温放置した後、T細胞を加えた。更に二日間放置後、放射能照射した単球及びTT833SもしくはFab22−TT833Sで、T細胞を一日刺激し、フィコール・ハイパックで遠心分離した後、回収して、二日間、単球及び種々の濃度のTT830で再度刺激した。次に、T細胞増殖をH−チミジンの取り込みによって測定し、三重反復試験の平均CPM(1分間のカウント)をグラフにした。幾つかのケースにおいては、阻害パーセンテージを次式によって計算した。即ち、阻害(%)=(CPM無阻害物質−CPM阻害物質)/CPM無阻害物質X100。全実験は少なくとも三回反復した。
【0160】
染色及びフローサイトメトリー
染色方法は、既に記載したものを適宜改良した(Gosselin E.J. et al. (1990年)。簡単に説明すると、30μlのRPMI(培地もしくは培養液)とFab−TT830、Fab−TT833Sの何れかを含むタンパク質とを含有する1mg/mlのBSA(ウシ血清アルブミン)、或いは、種々の濃度のBsAbMDXH210を、4℃の96−ウエルプレートの個々のウエルに加えた。4℃で一時間定温放置した後、プレートを遠心分離し、上澄を除去して、細胞をPBS(食塩加リン酸緩衝液)/BSAで4℃において三回洗浄した。次に、40μl/ウェルのFITC標識したF(ab’)ヤギ抗ヒトIgG(ジャクソン・イミュノリサーチ・ラボラトリーズ社、ペンシルバニア州ウエストグローブ)と一緒に定温放置した後、PBS/BSAで三回洗浄し、さらに1%のパラフォルムアルデヒド(コダック社、ニューヨーク州ロチェスター)を含有するPBS/BSA中に再懸濁させた。次に、細胞をFACScan(ベクトン・ディキンソン社、カリフォルニア州マウントビュー)によって検査して、平均蛍光強度(MFI)を測定した。
【0161】
サイトカイン測定
二日間刺激した後、抗原提示アッセイの96ウエルプレートから上澄を回収し、使用するまで冷凍した。これらの試料からのIFN−γ(インターフェロンγ)及びIL−4(インターロイキン4)のレベルを、特異的ELISAによって測定した。IFN−γ及びIL−4特異的ELISAに関するAb(抗体)対は、ファーミンゲン社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。ELISA(酸素結合免疫吸着検査法)アッセイは、製造業者のプロトコルにしたがって実施した。
【0162】
H22−TTペプチド融合タンパク質の作製
融合タンパク質Fab−TT830及びFab−TT833Sを作製するために、以下に記載の方法にしたがって、各ペプチドをコードする合成オリゴヌクレオチドをヒト化抗FcγRImAb22(H22)のH鎖ヒンジ領域に別個に作製した。
【0163】
発現及びクローニングベクター
mAb22は、そのCDR領域をヒトIgG1フレームワークに移植することによってヒト化された(上記及びGraziano R. F. et al. (1995) J. Immunol. 155:4996-5002を参照)。H22のH鎖(pSVgpt)のゲノムクローンに関する発現ベクターを改変して、他の分子、この場合においてはTTペプチドに関するコード化配列を取り込むことができた。CH1,ヒンジ、及び、新たに設計したXhoI及びNotIクローニング部位、を含有するこのベクターのBamHIフラグメントをpUC19のBamHI部位へ挿入してベクターpUC19/H22CH1(X+N)を作製した。このベクターを用いて、以下に記載の如く、TTペプチドコードするオリゴヌクレオチド配列をクローン化した。
【0164】
破傷風毒素(TT)ペプチドをコード化するオリゴヌクレオチド配列は、コード化領域のN末端上にXhoI部位及びC末端上にNotI部位を有するように設計された(図24A参照)。これらのオリゴヌクレオチドは、ジェノシス(バイオテクノロジー社、テキサス州ウッドランド)によて合成かつ精製された。次に、合成オリゴヌクレオチドを、クローニングベクターpUC19/H22CHl(X+N)にアニールし、且つ結合した。
TTペプチドに関するコード化配列を取り込んだクローンは、制限地図によってスクリーニングされた。次に、CH1、ヒンジ及びTT830もしくはTT833Sを含有するBamHIが、pUC19から切断されて、既にVHを含有した発現ベクターへ挿入された。TTペプチドと融合されたH22H鎖の最終的な発現構成体が図24Bに示されている。
【0165】
H22−TT融合タンパク質の発現
マウス骨髄腫NSO(ECACC85110503)は、非Ig合成ラインであり、H22−TT融合タンパク質の発現に用いられた。まず、H22L鎖コード化配列を含有するpSVhygベクターで、NSO細胞を形質移入した。次に、TTコード化配列にフレーム内融合されたH22H鎖Fd配列を含有する発現ベクター構成体で、NSO細胞を発現するH22L鎖を形質移入した(図24B)。バイオラッド・ジーン・パルサー電気穿孔法装置を使って、200V及び960μF(ファラド)を用いる形質移入を実施した。形質移入から一日又は二日後、マイコフェノール酸(0.8μb/ml、シグマ社)及びキサンチン(2.5μg/ml、シグマ社)を媒体に加えて、首尾よく発現ベクターを内部移行済みのトランスフェクタントを選択した。個々のコロニーは、フローサイトメトリーによって示したように、培養上澄がU937細胞上のFcγRIと結合する活性度に基づいて分離された。陽性コロニーは、限界希釈することでサブクローン化した。
【0166】
Fab22−TT融合タンパク質の精製
Fab22−TT830融合タンパク質を発現するクローンpW5と、Fab22−TT833S融合タンパク質を発現するクローンpM4とをローラーボトル培養で拡大した。上澄は、清澄しかつ濃縮した。親和性クロマトグラフィーによって小規模な精製を抗H22親和カラム上で実施した。非還元条件下における5乃至10%のアクリルアミド勾配ゲルのSDS−PAGE分析によって、これらの融合タンパク質の純度は90%より高く、また見込み通り50kDaの分子量を得た。タンパク質濃度は、IgGFab’の吸光係数=1.53を使用して280nmでの吸光度で測定した。
【0167】
結果
U937細胞とのH22Fd−TT融合タンパク質の結合
まず最初に実験したのは、FcγRIに結合するH22融合タンパク質、即ち、Fab22−TT830及びFab22−TT833Sの能力であった。同一のFcγRI結合成分(ヒト化mAb22のFab’)を含有する、既述の二重特異的抗体(Ab)、即ち、MDXH210を陽性対照として使用した。融合タンパク質及びMDXH210と、構成的にFcγRIを発現するU937細胞との結合は、FITC標識された、ヒトIgGに関して特異的なヤギ抗体による染色、及びフローサイトメトリーによって測定された。図24A及び24Bに示したように、融合タンパク質(Fab22−TT830及びFab22−TT833S)は、MDXH210と同様に用量依存の態様で、U937細胞と結合した。融合タンパク質の結合は、マウス抗ヒトFcγRImAb22F(ab’)によって完全に遮断され、FcγRIに関する融合タンパク質の特異性を証明した。
【0168】
H22Fd−TT融合タンパク質によって、TTペプチドの提示が100乃至1000倍増強される、という事実
融合タンパク質、即ち、Fab22−TT830を抗原(Ag)提示アッセイにおいて使用して、Thエピトープ、即ち、TT830が、H22の恒常領域において発現された場合、単球によって効果的に自己由来のT細胞に対して提示され得るかを測定した。図26に示すように、同一レベルのT細胞の増殖を達成するのに必要なFab22−TT830は、TT830単独の場合に比べると、およそ1000倍少ない量であった。さらに、図26によると、Fab22−TT830の提示は、無傷のTTを提示する場合に比べると、およそ10,000倍効率的であったことが分かり、Fab22−TT830の提示が増強されたのは、単に分子量が大きくなったせいでなく、TT830ペプチドではなく、Fab22−TT830の安定性が増強されたからもないことを示している。別の抗原性TTエピトープ、即ち、TT947は、これらのT細胞を刺激することができなかったので、これらのT細胞はTT830に関して特異的であることが確認された。よって、これらの結果は、H22の恒常領域において発現されたThエピトープは、効果的かつ特異的に提示され得ることを明確に証明している。
【0169】
単球上のFcγRIの遮断は、H22Fd−TT融合タンパク質による、抗原(Ag)提示の増強を排除する、という事実
ペプチド提示が融合タンパク質の使用によって増強されることに、FcγRIが媒介するのかどうかを直接的に測定するために、Fab22−TT830又はTT830ペプチドを加える前に、mAb22F(ab’)で一時間単球を処理することによって、抗原提示する単球上のFcγRIにFab22−TT830が結合するのを遮断した。融合タンパク質による、ペプチド提示の増強は、mAb22F(ab’)によって排除されたが、TT830の提示は影響を受けなかった(図27)。FcγRIにmAb22F(ab’)が結合しても、遊離ペプチドの提示の増強に至らなかったことから、FcγRIにmAb22が結合するだけでは、抗原提示を増強するようには、単球の機能状態を変更することはなかったことが示唆される。よって、抗原提示に対する観察された増強効果を得るには、抗FcγRIAb22にペプチドが結合する必要があることが分かる。このことは、このような提示の増強は、おそらくFcγRIによって抗原が効率的に捕捉された結果であることを示唆する。
【0170】
H22によるペプチド提示の増強は、ヒトIgG(免疫グロブリンG)の存在によって影響を受けない、という事実
生理学的な条件下では、FcγRIのリガンド結合ドメインは、この受容体に対してAgAb(抗原抗体)が効率的に標的にするのを妨害するIgGによって飽和されている。mAb22の誘導体を使ってFcγRI機能を惹起するという他にない利点は、Ab22がリガンド結合ドメインの外でエピトープに結合することである。したがって、ADCC(抗体依存性細胞障害)のような、mAb22によって惹起される機能は、生理学的なレベルのIgGによって阻害されない(Gosselin E. J.,同上, Guyre P. M. (1989) J. Immunol. 143-1650-55)。同様に、融合タンパク質Fab22−TT830を使うTT830提示の増強がIgGによって阻害されなかった(図28)ことは、H22を基体にした融合タンパク質も、FcγRIに対してペプチドAgをインビボで向かわせる効果的な方法であることを示唆している。
【0171】
H22Fd−TT融合タンパク質による抗原(Ag)提示増強に続いて、IFN−γ(インターフェロンγ)及びIL−4(インターロイキン4)の産生が増加される。
活性されると、T細胞は、増殖によるクローン拡大を経るばかりでなく、IFN−γ及びIL−4のようなサイトカインを産生して、B細胞分化及び単球活性化というそのエフェクター機能を働かせる(Paul W. E. and Seder, R. A. (1994) Cell 76:241-251)。したがって、H22融合タンパク質によるAg提示の増強後の、IFN−γ及びIL−4の産生を調べた。図28A及び28Bに示すように、IFN−γ及びIL−4の両方の産生レベルが、特に最適以下のAg濃度において、Fab22−TT830によって増強された。しかし、これらの実験においては、サイトカイン産生に関する増強(約20倍)は、T細胞増殖に関する増強(約600倍)よりも少なかった。
【0172】
よって、抗FcγRImAbH22の恒常領域において発現されたThエピトープを、ヒト単球によって効果的にプロセシング且つ提示することができ、T細胞の活性化及びサイトカインの産生が増強されるようになる。
【0173】
APL、TT833S及びFab22−TT833Sの提示によって、T細胞増殖は刺激されない。
自生のT細胞エピトープから一つ又は二つのアミノ酸が変更されたものを含有するペプチド(Allenと共同研究者により改変ペプチド・リガンド(APL)と命名された)は、T細胞の活性化に関して、アゴニストもしくは部分的なアゴニストであり、或いはアンタゴニストでもあることが分かっている(Sette et al. (1994) Ann. Rev. Immunol. 12:413 and Evavold et al. (1993) Immunol. Today 14:602)。TCR(T細胞受容体)を介する、特異的なT細胞によるAPLの認識は、場合によっては、部分的なシグナル伝達を惹起して、(i)超抗原による、T細胞刺激の阻害(Evavlold et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:2300)、T細胞アネルギー(Sloan-Lancaster et al. (1993) Nature 363:156 and Sloan-Lancaster et al. (1994) J. Exp. Med. 185:1195)又は(iii)Th1/Th2の変調(Nicholson et al. (1995) Immunity 3:397; Pfeiffer et al. (1995) J. Exp. Med. 181:1569; and Windhagen et al. (1995) Immunity 2:373)をもたらすことがある。部分的アゴニストはアネルギーを誘導することもできる。APL(改変ペプチド・リガンド)のなかには、TCR(T細胞受容体)との相互作用時には何ら検出され得るようなシグナリング事象を惹起しないが、野生型ペプチド抗原に反応して、TCRアンタゴニストとして機能し、T細胞の増殖を阻害できるものある。したがって、このようにTCRアンタゴニストと呼ばれている(De Magistris et al. (1992) Cell 68:625 and Ruppert et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2671)。
【0174】
このような例が示すのは、ペプチドTT833S、即ち、破傷風毒素(TT)のT細胞エピトープTT830に関するアンタゴニスト・ペプチド、及びFab22−TT833Sが、T細胞の増殖を刺激し得ないことである。図30に示す如く、TT833Sに関して100μM、及びFab22−TT833Sに関して1μMもの高レベルの用量においてさえも、TT830に特異的なT細胞の有意な増殖は一切観察されなかった。このことが示すのは、TT830ペプチドの833位におけるリシンからセリンへの変更によって、このT細胞エピトープのT細胞反応性が除去されたことである。さらに、ペプチドTT830及びTT833Sが、同時にTT830に特異的なT細胞に提示されると、TT830に反応するT細胞増殖が用量依存の態様で、TT833Sによって阻害された。このことは、TT833Sが、TT830に特異的なT細胞に関するアンタゴニストとして機能できることを示す(図31)。
【0175】
T細胞の活性化阻害において、Fab22−TT833Sは、TT833Sより少なくとも100倍効果的である、という事実
この例によって、TT830に反応したT細胞増殖の阻害における、TT833S及びFab22−TT833Sの相対的効率を比較する。図32において示すように、Fab22−TT833Sは、TT833Sよりも約100倍以上効果的に、TT830に刺激されたT細胞の増殖を阻害した。このことは、APL(TT833S)は、mAbH22の恒常領域において発現されると、正確かつ効果的にAPC(抗原提示細胞)によって提示され得ることを示す。融合タンパク質Fab22−TT833Sが、アンタゴニストとして、T細胞増殖に対してより効力を増大するのは、遊離ペプチドに比べて、FcγRIの媒介による抗原の捕捉がより効率的であったことを反映している。
【0176】
T細胞活性化の阻害を媒介するのは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII結合めぐる競合ではなく、T細胞受容体(TCR)結合をめぐる競合である、という事実
APL、即ち、TT833S及び融合タンパク質Fab22−TT833Sのアンタゴニストとしての効果は、おそらくMHC結合もしくはTCR結合、又は両方のレベルにおける競合によるものであろう。これに関係する機序を考察するために、「プリパルシング」実験を実施したが、これはSette等によって最初に記載されている(DeMagistris, M.T. et al. (1992) Cell 68:625-634)。この実験設定によって、アゴニスト(TT830)は、阻害因子(TT833S)からの競合の不存在下において、MHCクラスIIに結合することができ、よって、純粋なMHC遮断薬ではなく、TCRアンタゴニストのみが、アゴニストによって刺激されたT細胞増殖を効果的に阻害するものと思われる。抗原(Ag)提示単球を最適以下の(20nM)TT830で四時間パルスして、TT833Sからの競合の不存在下においてTT830をMHCクラスIIと結合させることができた。次に、このAPL、即ち、TT833SもしくはFab22−TT833Sを、プリパルシングした単球と一緒に更に16時間定温放置した。応答するT細胞を加えて、上記の如くそれらの増殖を測定した。MHCの遮断が最小限の役割しか果たさない条件下においてさえ、T細胞増殖が依然として阻害された(図33)。よって、この阻害は、MHCクラスII結合をめぐる競合ではなく、T細胞受容体をめぐる競合の結果であることが分かる。
【0177】
TT833S及びFab22−TT833Sの提示は、T細胞によるIL−4(インターロイキン4)及びIFN−γ(ガンマ・インターフェロン)の産生を刺激しない、という事実
状況によっては、APLは、T細胞サイトカインの産生を刺激できるが、増殖を刺激することができないことがある。TT833Sの提示によってサイトカインの産生が刺激されるかどうかを測定するために、Ag提示アッセイから得た上澄におけるIL−4及びIFN−γのレベルを測定した。図34に示すように、TT833S及びFab22−TT833Sの両者ともT細胞によるIL−4及びIFN−γの産生を刺激する効果はなかった。
【0178】
TT833S及びFab22−TT833Sの提示は、T細胞のアネルギーに至らない、という事実
Allen及びその同僚研究者等の報告によると、TCRが幾つかのAPL−MHCクラスII複合体と相互作用するとT細胞のアネルギーをもたらした(Sloan-Lancaster J. et al. (1993) Nature 363:156-159, Sloan-Lancaster J. et al. (1994) J. Exp. Med. 180:1195-1205)。彼らのスキームと同様な実験的スキームを用いて、同様に、TT833Sの提示がT細胞のアネルギーをもたらし得るかどうかを測定した。図35に示すように、APC及びTT833SもしくはFab22−TT833Sと共に、一日間、二日間又は三日間定温放置した後、T細胞を回収すると、APCだけで定温放置していたT細胞ばかりでなく、これらのT細胞もその後の抗原性攻撃に反応した。よって、ペプチドのみ又はFab22−TT833Sの何れかを用いることによって提示されたアンタゴニストは、T細胞アネルギーを惹起しなかった。更には、同一パーセントの生きたT細胞(約50%)がペプチド、即ち、TT833SもしくはFab22−TT833Sを含有しない培養体から回収されたことによって、同様に、TT833Sの提示もT細胞致死を増大させなかったことを示唆している。
【0179】
免疫原性が、抗FcγRImAb22を基体にした融合タンパク質を用いて、FcγRIに対して抗原性ペプチドを向かわせることによって約1000倍も増大する、という観察によって、このような融合タンパク質は、感染性疾患及び癌などに関するペプチドを基体にしたワクチンに有用となることが示されている。特定のAPC表面分子に特異的なペプチドを、ヒトmAbの恒常ドメインに設計することは、ペプチドを基体にしたワクチンに関する抗原性潜在能を増大させる一般的な方法である。
【0180】
さらには、APCが自生ペプチドで最初にパルスされた場合でさえ、つまり、自己抗原反応を改善しようと試みる際に、インビボで遭遇する可能性のある状況に匹敵する状況でさえ、FcγRI標的のアンタゴニスト・ペプチドは、TT830に特異的なT細胞の増殖を阻害するということが観察されたが、この観察によって、標的を決められた、アンタゴニスト的なペプチドの提示が、T細胞媒介の自己免疫病などの疾患に関するAg特異的治療として利用できることが証明された。APLを基体にした処理によって、慢性関節リウマチ及び多発性硬化症のような、T細胞が介在する自己免疫疾患に免疫療法が提供されよう。さらに、FcγRIに対して一つの結合特異的部分を有する融合タンパク質、及び過剰免疫反応を特徴とする免疫疾患に関与する抗原の部分的アゴニストであるペプチドを用いることは、抗原特異的アネルギーを誘導することによって、このような免疫疾患を処置するのに有用となろう。よって、本発明は、T細胞の刺激、T細胞増殖の遮断及び/又はサイトカイン分泌、或いはT細胞におけるアネルギーの誘導の何れかを行う、抗原の抗原提示を増大させ得る方法を提供することによって、種々の免疫学的疾患を処置する方法を提供する。
【0181】
例8:機能的単鎖抗FcγRI−抗CEA二重特異的分子
この例は、抗胎児性癌抗原抗(抗CEA)抗体と融合したヒト化抗FcγRI抗体を包含する組換え特異的単鎖分子は、FcγRI及びCEA(胎児性癌抗原)と結合することができることを示すものである。
【0182】
図37は、このFcγRIに関する一つの結合特異的部分と、調製された胎児性癌抗原(CEA)関する一つの結合特異的部分を有する二重特異的単鎖分子(構成体321及び323)をコード化する哺乳類の発現構成体の概略図である。構成体321によってコード化された二重特異的単鎖分子H22−抗CEAのアミノ酸配列(配列ID番号16)及びこの融合タンパク質をコード化する核酸(配列ID番号15)が図40に示してある。構成体323によってコード化された二重特異的単鎖分子H22−抗CEA、と構成体321によってコード化された融合タンパク質との唯一の違いは、H22のVH及びVL鎖がスイッチされているところである。
【0183】
FcγRIに関する一つの結合特異的部分を有する単鎖抗体をコード化する哺乳類の発現構成体(構成体225)も調製した。構成体225によってコード化された単鎖抗体H22のアミノ酸配列(配列ID番号14)及びこの単鎖抗体をコード化する核酸の配列(配列ID番号13)が図39に示してある。
【0184】
このような構成体がそれぞれ、pcDNA3(インビトロゲン)のHindIII及びXbaI部位にクローン化され、これらの部位から、発現がCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターから駆動される。これらの構成体はまた、それぞれが、c−mycからのペプチド及びヘキサヒスチジンペプチドをコード化する核酸配列を含んでおり、これらは、組換えタンパク質を細胞培養から精製するのに用いられた。c−mycタグは、ヒトc−mycのアミノ酸410乃至420に対応する(Evan et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3610)。MFE−32と呼ばれる抗CEA単鎖抗体は、Casey et al. (1994) J. Immunol. Methods 179:105 及びChester et al. (1994) Lancet 343:455に更に詳しく記載されている。
【0185】
単鎖二重特異的分子H22−抗CEA及び単鎖H22抗体を、結合アッセイにおいて使用して、次のようにアッセイを実施した。ELISAプレートにCEAを塗布し、5%のPBA(多クローン性B細胞活性化物質)で遮断した。これらの単鎖分子をコード化する構成体(トランスフェクトーマ)で形質移入した細胞の上澄をプレートに加え、可溶性のFcγRI/IgM−μ(上記のCOS形質移入細胞からの上澄)を加えて、アルカリホスファターゼ(AP)共役したヤギ抗ヒトIgMと共にプレートを定温放置し、PNPP(p−ニトロフェニール燐酸)で展開し、そして405乃至650nmでこのプレートを読み取ることによって、結合を検出した。
【0186】
結果が図38に示してある。この結果が示すことは、構成体321及び323によってコード化された単鎖二重特異的H22−抗CEA分子は、FcγRIとCEAの両者と結合することである。他方では、単鎖H22抗体(構成体225によるコードされる)は、見込み通りにFcγRIとCEAの両者と結合しない。
【0187】
例9:CD64(FcγRI)を標的にして、抗原プロセシング及び提示を誘導及び/又は増強する、という事実
通常は非免疫原性抗原(例えば、自己抗原)をヒトCD64(FcγRI)に向けると、インビボで免疫非反応性を克服できるかどうかを測定するために、抗原提示細胞上のFc受容体に向けられたF(ab’)2抗体フラグメントに結合するこうした抗原を含む幾つかのマルチマー複合体を調製して次のように実験を行った。具体的には、ヒトCD64に関して遺伝子導入マウスを、それらの同腹子ともども、マウス抗ヒトCD64mAb、即ち、M22(ATCC預託番号HB−12147のハブリドーマによって作製した)のF(ab’)2フラグメントで免疫化した。マウスを隔週ごとの免疫化を四回実施後七日目に、これらのマウスから採血した。ELISAによって分析すると、六匹のうち三匹の遺伝子導入マウスは、顕著な抗M22Id特異的抗体力価を呈したが、六匹の非遺伝子導入の同腹子の何れも全く呈しなかった。このような抗血清は、M22特異的であり、他のマウス抗体とは反応しなかった。
【0188】
M22Fab’のマルチマー複合体が抗体内部移行をより効率的に誘導し、よって抗原提示及びより強力な抗M22Id免疫反応を増強させるかどうかを測定するために、M22Fab’分子のマルチマーを化学的及び遺伝子的の両方で合成し、実験を行った。これらのマルチマーは、22F(ab’) (もしくは外のFc受容体結合剤)及び付加的な22Fab’分子に化学的に結合され得る抗体を包含する。最終的なマルチマーは、例えば、多重22Fab’アーム(例えば、二つ又はそれ以上)と、一つ又はそれ以上の抗原分子とを含む幾つかの分子種からなる。これらの化学種は、所望であれば、サイズ排除又は親和クロマトグラフィーによって精製してよい。図41に示すのは、このように化学的に結合された多重結合標的抗原の形成に関する概略図である。
【0189】
化学的合成マルチマーは、20モル過剰のカルボン酸スクシニミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−(succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)(SMCC)と共に、室温にて二時間定温放置して作製した。G−25クロマトグラフィーによって、遊離SMCCを、得られた複合体、即ち、F(ab’)2−SMCCから除去した。遊離チオール(SH)基を有する抗原を1対1のモル比でM22F(ab’)−SMCCに加えた。得られた混合物を一晩室温で放置した。この反応は過剰のヨードアセトアミドを加えることによって停止させ、得られた共役体をサイズ・エクスクルージョン・クロマトグラフィーによって精製した。
【0190】
M22F(ab’)2+抗原マルチマーは、抗原反応を増強/誘導する、という事実
図42aが示すのは、精製M22F(ab’)2(右側)を含有する非還元SDS−PAGEゲル及び化学的結合M22Fab’マルチマー(左側)である。このマルチマーは、F(ab’)3,F(ab’)4,F(ab’)5,F(ab’)6及びより大きな分子量の分子を表す幾つかの分子種からなる。
【0191】
マルチマーM22F(ab’)3と比較して、ヒトCD64の内部移行を媒介するM22F(ab’)2の能力を測定するために、種々の濃度のM22F(ab’)2又はM22F(ab’)3の何れかを、ヒトCD64遺伝子導入マウスから分離したマクロファージと共に二時間定温放置した。M22エピトープとは別個のヒトCD64上の部位に結合するFITC標識抗ヒトCD64mAbM32.2(ATCC預託番号9469を有するハブリドーマによって作製)によって、ヒトCD64表面発現を検出した。図42Bに示すように、M22F(ab’)2との定温放置は、このマクロファージの表面からヒトCD64の顕著な抑制をもたらさなかった。しかし、37℃におけるF(ab’)3との定温放置では、用量依存の態様でヒトCD64発現が50%まで抑制されるに至った。F(ab’)3と共に4℃で定温放置してもヒトのDC64の発現の現象には至らなかったことで、このような現象の温度依存性が証明された。
【0192】
変調がインビボで生じるかどうか測定するために更に実験を行った。ヒトCD64遺伝子導入マウスにM22F(ab’)2又はM22F(ab’)3の何れかを注射して、一時間後に採血した。M22F(ab’)3で免疫化した動物からの血中単球上では、ヒト64の表面発現が抑制されたが、M22F(ab’)2で免疫化した動物からの血中単球上では抑止されなかった。ヒト64の表面発現は、F(ab’)3マルチマーを伴った受容体の内部移行を表す、という仮説を立てた。
【0193】
次に考察されたのは、ヒトCD64遺伝子導入及び非遺伝子導入の同腹子が、M22F(ab’)3マルチマーで三回免疫化した後、抗M22イディオタイプ(「Id」)反応を起こすことができるかどうかである。図43Aで示されているデータによって、このマルチマーで三回免疫化(一回の免疫化当たり25μg)した、ヒトCD64遺伝子導入マウス(n=12)の全てにおいて高い力価のM22特異的抗体の産生をみたが、同様に免疫化した非遺伝子導入の同腹子(n=10)の何れにもM22特異的抗体は産生されなかったことが示された。M22F(ab’)3マルチマーによって惹起されたヒトCD64遺伝子導入体における免疫反応は、M22F(ab’)2によって惹起された反応よりも著しく優れていた。マルチマー免疫マウスは全てが反応し、且つこのマルチマーで免疫化して免疫反応を起こすのに必要な免疫化回数は、F(ab’)2に比べて、より少ない回数であった(三回対四回)。このような結果が証明するのは、Fab’マルチマー複合体によって、ヒトCD64を介する抗原のより優れた内部移行が導かれ、結果的に抗原特異的な免疫反応を増強させるということである。実際に、図43Bにおいて示されたデータでは、わずか0.25μgのマルチマーでヒトCD64遺伝子導入マウスを免疫化しても、殆どのマウスにおいて免疫反応を依然として検出できることが証明されている。
【0194】
免疫系は、多くの腫瘍関連抗原に対して耐性があることが多いので、これらの抗原に効果的な免疫反応を認めるのは難しい。このような通常は非免疫原性である抗原をヒトCD64に向けることによって、この抗原に対する免疫反応を惹起するかを確かめるために、モデル抗原として、マウスモノクローナル抗体のFab’フラグメント、即ち、520C9をM22マルチマーに結合した。
【0195】
ヒトCD64遺伝子導入又はそれらの非遺伝子導入同腹子の何れかを免疫化した後、抗520C9Id力価及び抗M22Id力価の両者を査定した。図44aに示すように、八匹の免疫化ヒトCD64遺伝子導入マウスの内の七匹が、強力な抗520C9及び抗M22力価を顕現した。七匹の免疫化非遺伝子導入マウスは何れも、520C9又はM22の何れに対しても測定できるような力価を顕現することはなかった。これらのデータによって証明されるのは、ヒトCD64抗原提示細胞が、通常は非免疫原性的なタンパク質を内部移行するように、そのタンパク質をヒトCD64に結合させると、この抗原に対する効果的な免疫反応が誘導されると言うことである。幾つかのグループでは、B細胞リンパ種細胞の表面Igによって発現されたイジオタイプに関する免疫特異性の発生によって、潜在的な腫瘍細胞特異的な免疫性をもたらし得ることが分かった。この例は、特異的な抗520C9Id反応は、520C9イディオタイプをヒトCD64に向けることによって容易に惹起することができることを証明する。
【0196】
任意の抗原、とりわけ腫瘍関連又はウイルス性抗原に対する免疫反応の質も、反応の量と同様に重要な場合がある。Tヘルパー細胞は、それらが分泌するサイトカインの型及び刺激時にそれらがB細胞に対して提供する補助の型によって、Th1及びTh2に分けられている。Th1細胞は、刺激を受けると、IL−2及びIFN−γを分泌し、且つ通常はB細胞を刺激してIgG2aアイソタイプを分泌させる。Th2細胞は、刺激を受けると、IL−4及びIL−5を分泌し、且つ通常はB細胞を刺激してIgG1又はIgEアイソタイプを分泌させる。一般的に言えば、Th1細胞は、免疫反応の細胞アームを刺激し、一方、Th2細胞は、体液性アームを刺激する。520C9特異的抗体の、即ち、IgG1又はIgG2aアイソタイプの何れかの力価を、M22マルチマーに結合した520C9でヒトCD64遺伝子導入マウスを免疫化しておいてから、アイソタイプ特異的な展開試薬を用いて検査した。図44bに示すデータによって証明されているのは、IgG2aId特異的な強い力価ばかりでなく、IgG1特異的な強い力価が惹起されるということであり、この方法による免疫化は、Th1及びTh2反応の両者を活性化させ得ることを証明する。
【0197】
H22sFv−H22sFv−32.2sFv抗原マルチマーは、免疫反応を誘導する、という事実
図45aが示すのは、遺伝子的に結合した多重結合の、標的を決められた抗原をコード化するベクターのマップである。このベクターは、ヒト化抗FcγRI抗体、即ち、H22(ATCC預託番号CRL11177を有するハブリドーマによって作製)からの二つのsFv領域、及び抗体M32.2からの一つのsFv領域(これらの抗体は全て一つの抗原に一体に結合している)で、タンパク質をコード化する。この結果作製される融合タンパク質、H22sFv−H22sFv−32.2sFv抗原(図45Bに示す)は、多数の部位においてFcγRIと結合でき、それによって受容体の凝集を介して内部移行を誘導する。
【0198】
H22sFv−H22sFv−32.2sFv抗原マルチマーは、遺伝子導入マウスのモデル研究に関する抗原としてマウスgp75(Trp−1メラノーマ抗原)を使用することで作成された。分かったことは、この融合タンパク質は、FcγRIと効率的に結合し、且つ受容体の内部移行を誘導するということであった。図46に示すように、化学的に結合したM22FabxM22FabxM32Fab及び遺伝子的に結合したH22sFv−H22sFv−32.2sFv抗原は、それぞれFcγRIの内部移行を誘導した。この研究は、IFN−γ処理したU−937細胞に37℃で二時間試料を加えて実施した。次に、ヒトIgG1−FITCで4℃で一時間細胞を染色することで、FcγRIの発現を測定し、試料をFACscanによって分析した。変調のパーセント(%)を次式によって計算した。[1−(試料のMFI/対照のMFI)]x100%:ここでMFIは、平均蛍光強度である。
【0199】
H22sFv−抗原は、H22Fab2−抗原とほぼ同等の親和性をもってFcγRIに結合する、という事実
図47aに、遺伝子的に一つの抗原に一体に遺伝子的に結合した二つのH22sFv領域からなる融合タンパク質をコード化するベクターのマップを示す。得られた融合タンパク質、即ち、H22sFv−H22sFv抗原(図47Bに示す)は、二つのFcγRI分子に結合することができる。このような融合タンパク質は、一つのH22sFvのみからなるなる融合タンパク質よりもFcγRIに関する親和性がより大きいはずである。同様に、二つのFcγRI分子と結合するこのマルチマーの能力は、受容体の内部移行もより強力に誘導する可能性がある。
【0200】
こうした仮説を実験するために(即ち、H22sFv−H22sFv抗原融合は、単一のH22sFv抗原融合に比べてより大きな親和性をもってFcγRIに結合するかどうかを)、競合実験を実施した。FcγRIの発現を増強するために事前にIFN−γで処理したU937細胞を、抗体22及びフィコエリトリン共役体で染色した。図48に示すように、種々の濃度のH22Fab、H22sFv2−EGF融合タンパク質又はH22Fab2によって、この共役体を阻害した。同様に図48に示すように、H22sFv2−EGFは、H22Fab2とほぼ同等の親和性をもってFcγRIと結合する。H22Fab’及びH22sFvは、FcγRIに関して同様な親和性を有することが分かっていた(Goldstein et al. (1997) J. Immunol.)。
【0201】
H22sFv−H22sFv−H22sFv−CEAは、FcγRIの内部移行を誘導する、という事実
図49Aは、一つの抗原に結合した三つのH22sFvフラグメントを含有するマルチマー融合タンパク質をコード化するベクターのマップである。この融合タンパク質、即ち、H22sFv−H22sFv−H22sFv−CEA(図49bに示す)は、三つのH22sFvと結合する腫瘍抗原CEA(胎児性癌抗原)を含有する。この融合タンパク質は、高親和性をもってFcγRIと結合し(三つのsFv分子の三価結合により)、かつ三つのFcγRI分子の凝集によってFcγRIの内部移行を誘導するはずである。
【0202】
遺伝子的に結合したH22sFv−H22sFv−H22sFv−CEA融合が、FcγRIの内部移行を誘導する能力を、既に説明の如く実験し、その結果が図50に示してある。重要なことは、H22Fab−CEAは、おそらくそれがFcγRIと一価性的に結合したために、同様な濃度では内部移行を媒介しなかった。IFN−γ処理したU−937細胞に試料を加え、且つ37℃で一時間又は一晩の何れかで定温放置してこの例を実験した。次に、4℃で一時間M32.2−FITCで細胞を染色することによってFcγRI発現を測定した。
【0203】
例10:CD89(FcαR)及び腫瘍抗原(例えば、EGF受容体)に向けられたヒト抗体融合タンパク質は、腫瘍細胞の細胞媒介による細胞障害を促進する、という事実
次の研究は、EGF(上皮成長因子)受容体(EGF−R)を発現する腫瘍細胞のエフェクター細胞媒介による致死を誘導する二重特異的融合構成体の作製及び特徴に関連する。この構成体は、抗CD89(抗FcαR)抗体(ScFvもしくはFab’)に結合したEGFを含む。よって、これらの構成体は、腫瘍細胞に向けられたCD89発現細胞のエフェクター機能を活性化させる。
【0204】
CD89(FcαRI)は、IgA(ヒトの体において最もふんだんにある免疫グロブリン)のFc部分に結合する受容体である。CD89は、主に、多核白血球(PMN)、単球、マクロファージ、好中球及び好酸球を含む細胞障害性免疫エフェクター上において構成的に発現される。Ag複合体及び単量体のIgA1及びIgA2の両者が、CD89と結合するが、これは、この受容体が単量体IgAとインビボでは飽和され得ることを示唆する。リガンド結合部位の内側又は外側で、エピトープに対して特異的なmAbによって、骨髄腫エフェクター細胞上で架橋するCD89は、脱顆粒、スーパーオキシドの放出、炎症性サイトカインの分泌、エンドサイトーシス及び食細胞活動を刺激する。よって、CD89は、細胞障害性免疫エフェクター細胞上の治療的に関連性のあるトリガー受容体となる得る。
【0205】
タイプI成長因子受容体系統群のメンバーは、種々の癌の進行時に過剰発現されたと報告されている、チロシン−キナーゼ結合受容体である。この系統群の一つのメンバーに、上皮細胞成長因子に関する受容体がある(EGF−R、c−erbB−1遺伝子産物)。EGF−Rは、殆ど全ての頭部及び首部、およそ三分の一の乳癌及び卵巣癌において過剰発現され、前立腺、腎臓、膀胱、肺臓、脳、膵臓及び胃腸系の癌において過剰発現し得る。ケラチン生成細胞及び肝細胞のような幾つかの正常な細胞上にこの受容体が存在するが、腫瘍細胞上におけるEGF−Rの過剰発現は、特定の腫瘍にたいして特異的な治療法を差し向けるのに有用となり得る。対象となる治療法には、EGF−Rに関して特異的なmAb、即ち、EGFのような、この受容体に関するリガンドの一つを含むことができる。EGFは、EGF−Rを発現する種々の細胞のタイプの細胞分割及び分化の変調成分である。EGFは53アミノ酸、即ち、三つのジスルフィド結合を含有する非グリコシル化タンパク質であり、1207アミノ酸先駆物質からタンパク質分解処理される。
【0206】
融合構成体の作製
二重特異的融合タンパク質を作製するには、本明細書において既に記載の如く、HuMAb−マウス(商標)技術を利用して、完全にヒトCD89mAbを作製した。このmAb、即ち、14A8(14.1とも呼ぶ)は、エフェクター機能を惹起する能力を保持しつつFc結合部位とは別個のエピトープに結合する。よって、この抗体は、単量体IgAを飽和することによって引き起こされる、リガンド結合部位の遮断可能性を克服する。ここでは、mAb14A8のfab’及びsFvフラグメントをEGFに融合させる。簡単に説明すると、この14A8ハブリドーマ・セルラインを、可溶性のCD89で免疫化したHuMAbマウスから得た。そのv領域は、このセルラインから分離したRNAのRT=PCRを用いてクローン化した。DNA配列分析で分かったことは、この抗体は、DN1Dセグメント及びJH4Jセグメントを有する30.3VHと、JK3Jセグメントを有するL18Vkとからなることである。
【0207】
HuMAb−マウス(商標)から作製した完全にヒトの抗CD89mAbから、可変領域をコード化するDNAを使用すると、二重特異的分子(BMS)として機能する抗体融合タンパク質が作製され且つ発現された。図51に示すように、これらの分子は、Fc結合部位とは別個の一つのエピトープにおける、ヒトIgA(FcαRI、即ち、CD89)のFc部分に特異的な受容体に結合し且つエフェクター機能を依然として惹起する、抗体フラグメントと、種々の腫瘍セルライン上で過剰発現する上皮成長因子受容体(EGF−R)に結合する一つのアームとから構成されていた。このBSMを作成するために、mAb14A8(抗CD89)のFab又はsc−Fvフラグメントを、EGFに対するフレキシブルなペプチド・リンカー、即ち、EGF−Rに関するリガンドを介して融合した。mAb14A8の可変領域を、RT−PCR及びDNA配列を用いてクローン化且つ特性説明した。
【0208】
このFab融合構成体は、ヒトIgG1CH1のcDNA及びEGFに融合したヒンジ領域を含有する一つの発現ベクターに14A8VHDNAを挿入することによって作成した。14A8VLDNAも同様に、ヒトCL領域のcDNAを含有する発現ベクターに挿入した。sc−Fv融合タンパク質も、単鎖で、一つのベクターから発現された。図51に概略的に示すように、PJZ906(14Afd−EGF)及びpJZ907(14A8L鎖)を、電気穿孔法によって、NSO細胞内に同時形質移入し、G418及びハイグロマイシンを含有する媒体で選択した。PJZ909(14A8sFv−EGF)も同様に形質移入して、G418を含有する媒体で選択した。融合タンパク質を発現するセルラインは、限界希釈クローニングによってサブクローン化した。これらの融合構成体を精製するために、融合タンパク質を発現するセルラインの上澄を、プロテインLカラム上に流し、還元及び非還元条件下で、約2μgの精製したタンパク質を4乃至15%のトリスグリシン・ゲルに加えた。
【0209】
腫瘍細胞に結合する融合タンパク質の特性説明
図52A及びB、及び図53に示すように、フローサイトメトリー実験によって、抗体フラグメント及びこれらのBSMにおけるEGF部分は、これらの各々の細胞表面受容体に特異的に結合することが確証された。図52Aは、A431細胞上のEGF−Rに結合する14A8fab’−EGF融合タンパク質を示す。図52Bは、A431細胞(フィコエリトリンに共役したヤギ抗ヒトIgGFab−2で染色された)に結合する14A8sFv−EGFを示す。14A8のfab−2フラグメントは、EGFを含有しないが、対照として用いられた。図52Cに示すのは、14A8融合タンパク質及び市販のEGFは、EGF−FITC共役体(7nM)を含有するA431との結合をめぐって競合することである。図53Aは、14A8fab’−EGF融合タンパク質が、CD89を発現するU937細胞(フィコエリトリンに共役したヤギ抗ヒトIgGFab−2で染色された)CD89に結合することを示す。ヒト化mAbH415のfab−2フラグメント(EGF−Rに関して特異的である)は、対照として用いられた。図53Bは、14A8sFv−EGF融合タンパク質も同様にCD89を発現するU937細胞に結合することを示す。種々の濃度の14A8sFv−EGFが、14A8fab’−EGF融合(23nM)の結合を阻害するかどうかに関する査定を除いて、この実験を図53Aにおけるものと同様な態様で実施した。ここでもH22sFv−EGF融合タンパク質を対照として用いた。mAbH22は、CD64(RcγRI)、即ち、U937細胞上の異なるFc受容体、に結合する。
【0210】
EGF−Rを発現する腫瘍細胞の、エフェクター細胞媒介による溶解
クロム遊離(細胞溶解)アッセイによって確認されたのは、14A8fab’−EGF及び14A8sFv−EGF構成体の両者とも、精製された、CD89を発現する多形核球(PMN)白血球、単球又は全血エフェクター細胞で、用量依存の態様において、EGF−Rを発現する腫瘍細胞の特異的な溶解を媒介することである。
【0211】
図54A、54B、54C及び図55は、14A8融合タンパク質が、単球(54A)、PMN(54B)及び全血(54C)を用いてA431細胞の細胞障害を媒介したことを示す。クロム遊離アッセイは、定温放置期間16乃至18時間及び100対1の標的に対するエフェクターの割合(単球、PMNに関して)を用いて、定温放置で実施した。14A8のfab−2フラグメントは、対照として用いた。図56に示すように、A431細胞の14A8fab’−EGF融合(1μg/ml)及び14a8Sfv−Egf融合(1μg/ml)媒介細胞障害は、14A8のfab−2フラグメント(40μg/ml)によって阻害されている。このことは、これら融合タンパク質による細胞溶解は、CD89に結合することによって特異的に媒介されるということを証明する。
【0212】
全般的に言えば、上記の研究は、14A8のFab’又はsFvフラグメントにEGFを結合し、哺乳類の細胞培養において構成体を発現させ、且つプロテインL・クロマトグラフィーを用いて近似均質までこれらの構成体を精製する、遺伝子的手段による融合タンパク質の作製を説明したものである。このような融合タンパク質は、14A8は完全にヒトあり、EGFはヒト由来であって、融合タンパク質の治療上の効力を増強することができるので、ヒトにおいて最上限には免疫原性である。上記研究はまた、これらの融合タンパク質、即ち、14Afab’−EGF及び14A8sFvは、CD89及びEGF−Rを発現する細胞と結合できる。重要なことは、これらの研究は、CD89を発現する免疫エフェクター細胞の存在下において、これらの融合タンパク質が、用量依存の態様で、EGFを過剰に発現する細胞の致死を媒介することを更に証明していることである。腫瘍細胞の溶解も、全血の存在下において証明された。
【0213】
例11:CD89(FcαR)及び腫瘍細胞(例えば、EGF受容体及び/又はHER2)に向けられたヒト抗体結合部分を含有する二重特異的及び三重特異的分子は、腫瘍の細胞媒介細胞障害を促進する、という事実
次の研究は、EGF受容体(EGF−R)及び/又はHER2/neu(HER2とも呼ぶ)を発現する腫瘍細胞を、フェクター細胞の媒介によって致死させるのを誘導する二重特異的及び三重特異的分子の作製及び特性説明に関する。これらの二重特異的構成体は、3.F2と呼ばれる、ヒト・モノクローナル抗HER2抗体(ScFvもしくはFab’)に結合した、14.1と呼ばれる、ヒト・モノクローナル抗CD89(抗FcαR)抗体(ScFvもしくはFab’)を含む。三重特異的構成体には、EGFに融合した、二重特異的抗CD89(ScFv)x抗HER2(ScFv)構成体が含まれていた。これらの構成体は、腫瘍細胞に向けられている、CD89を発現する細胞のエフェクター機能を活性化させる。これらは完全にヒトであるという利点も提供する。
【0214】
二重特異的及び三重特異的融合タンパク質の作製
図57及び58は、選択された本発明の二重及び三重特異的分子及びそれらの親ヒト抗体(HuMab)を示す。図57に示すのは、単鎖(ScFv)二重特異的融合分子(931及び934)であり、これらは、934はEGFを含むが、931はEGFを含まないということ以外同一のものである。14.1(抗CD89)及び3F2(抗HER2)の可変L及びH鎖領域は、これらの構成体を作製するのに用いられる。図58は、化学的に共役したFab’抗CD89x抗HER2二重特異的分子を示す。14.1及び3F2のfab’フラグメントは、標準的な化学架橋法を用い、ジスルフィド結合によって結合して、この二重特異的分子を作製した。
【0215】
単鎖二重及び三重特異的分子(931及び934)は、プラスミド(例えば、pJZ934)でNSO細胞を形質移入することで作製し(抗CD89xEGF融合に関して、図51で示したように)、G418を含有する媒体中で選択した。セルラインを融合タンパク質の発現に関してスクリーニングし、限界希釈クローニングによてサブクローン化した。最後に、融合タンパク質を発現するセルラインの上澄をプロテインL・カラム上に流し、その後非還元及び還元条件下において、およそ2μgの精製したタンパク質を4乃至15%のトリスグリシンのゲルに加えることによって、を融合タンパク質を精製した。934構成体が、還元条件下において、主としてモノマーに解離する三量体として精製された。
【0216】
腫瘍細胞に結合する二重及び三重分子の特性説明
フロー・クロマトグラフィーを用いて、二重及び三重分子の特性説明を行った。図59Aは、トランスフェクトーマ上澄における、融合タンパク質の腫瘍細胞との結合を示す。形質移入された(931及び934)及び形質移入されなかった(NSO)上澄を、SKBR−3又はA431腫瘍セルラインの何れかと共に定温放置した。次に、融合タンパク質の結合を、フィコエリトリンに共役されたヤギ抗ヒトIgGfab−2で染色することで検出した。図59Bに示したように、形質移入された細胞(931及び934)からの上澄も細胞溶解(ADCC)を媒介した。これれらの研究においては、16乃至1時間の放置期間及び100対1の標的(SKBR−3、A431)に対するエフェクター(単球、PMN)の割合で、クロム遊離アッセイを実施した。腫瘍細胞致死は、特異的な溶解を媒介するべき、形質移入された(931及び934)及び形質移入されなかった(NSO)上澄を用いて検出した。
【0217】
図60Aは、精製された二重及び三重特異的分子(931及び934)がU937細胞(CD89受容体を介して)に結合する活性を示す。U937細胞に結合しない、抗体425(抗EGF−RmAb)のfab−2フラグメントは、陰性対照として用いた。抗CD89(Fab’)x抗HER2(Fab’)、即ち、化学的結合した二重特異性分子(図58に示す)は、陽性対照として用いた。図60Bは、SKBR−3細胞との結合(HER2受容体を介する)実験以外は、図60Aと同一である。抗CD89抗体(14.1)のfab−2フラグメントは、陰性対照として用いた。図61は、A431細胞との934三重特異的構成体の結合を示す。この実験は、EGF−Rを過剰発現するA431腫瘍細胞を用いた点以外は、図60に示したものと同一の態様で実施した。EGFに融合した14.1のsFvフラグメントからなる融合タンパク質を陽性対照として、また抗CD89抗体のfab−2フラグメント(14.1)を陰性対照として用いた。
【0218】
エフェクター細胞媒介による、EGF−R及びHER2/neuを発現する腫瘍細胞の溶解
単鎖二重及び三重特異的分子(931及び934)に関しても、エフェクター細胞の存在下において、EGF−R及びHER2/neuを発現する腫瘍細胞の細胞溶解(ADCC)を媒介できるかを実験した。16乃至18時間の定温放置期間及び100対1の標的(SKBR−3、A431)に対するエフェクター(単球、PM)の割合で、クロム遊離アッセイを実施した。腫瘍細胞致死は、特異的な溶解を媒介するべき、形質移入された(931及び934)及び形質移入されなかった(NSO)上澄を用いて検出した。図59Bに示すように、形質移入された(931及び934)からの上澄は、単球、PMN及び全血の細胞溶解(ADCC)を媒介した。これらの研究においては、16乃至18時間の定温放置期間及び100対1の標的(SKBR−3、A431)に対するエフェクター(単球、PM)の割合で、クロム遊離アッセイを実施した。腫瘍細胞致死は、特異的な溶解を媒介するべき、形質移入された(931及び934)及び形質移入されなかった(NSO)上澄を用いて検出した。
【0219】
図62及び図63は、精製された単鎖二重特異的構成体(931)による、PMN及び単球の存在下におけるSKBR−3細胞(図62A及び図63A)及びBT474細胞(図62B及び図63B)のエフェクター細胞媒介溶解をそれぞれ示す。16乃至18時間の定温放置期間及び100対1の標的に対するエフェクターの割合で、クロム遊離アッセイを実施した。抗CD89抗体(14.1)のfab−2フラグメントを、各実験において陰性対照として用いた。
【0220】
さらに、二つの架橋されたFab’抗体フラグメント(931及び934構成体の場合の単鎖抗体とは異なり)を含有する、精製され化学的に共役された二重特異的分子14.1x3.F2(図58)をテストして、51Cr標識されたSKBR−3又はBT−474ヒト腫瘍細胞の多形核球(PMN)細胞、単球及び全血によるADCC致死をテストした。37℃で一晩放置した後、培養上澄中に遊離された51Crの分析によって、腫瘍細胞致死の量を測定した。特異的溶解は、二重特異的分子の存在下における腫瘍細胞致死から、多形核球細胞のみでの腫瘍細胞致死を減じた量として算出した。図64に示すように、二重特異的分子14.1x3.F2は、用量依存の態様で、HER2/neuを発現するSKBR−3及びBT−474の両方の腫瘍細胞の、PMNによる細胞致死を媒介した。更に、図65に示すように、二重特異的分子14.1x3.F2は、用量依存の態様で、HER2/neuを発現するSKBR−3及びBT−474の両方の腫瘍細胞の、単球による細胞致死を媒介した。両方の場合において、10μg/mlの14.1Fab’を加えることによって、1μg/mlの二重特異的分子14.1x3.F2による腫瘍細胞のADCCが完全に遮断された。これは、標的にされた細胞の致死が、エフェクター細胞に結合するCD89によって排他的に媒介されたことを証明する。図66は、二重特異的分子14.1x3.F2も、用量依存の態様で、HER2/neuを発現するBT−474腫瘍細胞の、全血による細胞致死を媒介したことを示す。
【0221】
全般的に言うと、上記研究は、ヒトのモノクローナル抗体(単鎖及びFab’フラグメントを含めて)を含有する二重及び三重特異的分子の作製を説明したものである。さらに、これらの例によって、これらの二重及び三重特異的分子は、エフェクター細胞の存在下において、HER2/neu及びEGF−Rを発現する腫瘍細胞の致死を効果的に媒介することを証明する。
【0222】
同等物
当業者であれば、本明細書に記載の本発明の特定の実施例に対する数多くの同等物を認識もしくは通常程度の実験法を用いて確認するであろう。このような同等物は、添付の特許請求の範囲によって網羅されるものと思料する。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】ヒト化したFcγRI抗体H22のヒンジ領域の一部のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示し[A]、変更して、切断された単一スルフヒドリル形とし[B]、更に変更して、二つの固有のクローニング部位を作製したもの[C]、を示す。下線のヌクレオチドは、以前の配列からの変更を示す。上線のヌクレオチドは、示した制限部位の認識配列である。
【図2】H鎖EGF融合発現構成体pJG055の略図である。
【図3】抗Fc受容体−リガンド二重特異的分子の産生を概略図で示したものである。
【図4】ヒト化Fcγ受容体−上皮成長因子融合タンパク質の活性を調べるために用いたフローサイトメトリー・アッセイの略図である。
【図5】様々な濃度の上皮成長因子(EGF)融合タンパク質(H22−EGF融合)及び完全にヒト化した二重特異性(BsAb)H447のEGF受容体(EFGR)発現1483細胞への結合を表す平均蛍光強度(MFI)をグラフで示す。
【図6】マウスの抗体M425(EGFRに結合する)の存在下又は不存在下における、様々な濃度のEGF融合タンパク質又はBsAbH447細胞のA431細胞への結合を示すグラフである。
【図7】EGF融合タンパク質、BsAbH447、又はH425抗体のA431細胞への結合に起因する抗体依存性細胞障害(ADCC)を示すグラフである。
【図8】培地のみ、25%のヒト血清(HS)を含む培地、又は、Fcγ受容体抗体m22のfabフラグメントを含む培地の存在下における、EGF融合タンパク質、BsAbH447、又はH425抗体結合に起因する抗体依存性細胞障害(ADCC)を示す棒グラフである。
【図9】様々な量のEGF、H22−EGF、H22のfabフラグメント(H22Fab)、又はH425のF(ab’)フラグメント(H425F(ab’)2)の存在下で培養された生存A431細胞の数を表すグラフである。
【図10】H22Fd−HRG融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図11】PC−3又はSKBr−3腫瘍細胞を、インターフェロン−γ処理した単球と、H22−ヘレグリン融合タンパク質を発現する骨髄腫細胞からの上澄みを1:3又は1:30の希釈と、で培養したことに起因するこれら細胞の致死のパーセントを示す柱状グラフである。
【図12】単球の存在下及び様々な濃度のH22−ボンベシン融合タンパク質の存在下における、PC−3腫瘍細胞溶解のパーセントを示すグラフである。
【図13】オルトフェニレンジマルイミド(o−PDM)法又はDTNB法によって産生されたBsAb477の活性を評価するためのフローサイトメトリーアッセイを表す略図である。
【図14】o−PDM法及びDTNB法で得た様々な濃度のBsAb477の、A431細胞を発現するEGFR及びFcγRIに関する平均蛍光強度(MFI)を表すグラフである。
【図15】o−PDM法及びDTNB法で得たBsAb477の、A431細胞を発現するEGFR及びFcγRIへの結合に起因する抗体依存性細胞障害を示すグラフである。
【図16】三重特異性抗体の作製を表すフローチャートである。
【図17】二価二重特異性抗体の三価二重特異性抗体への転換を示す図である。二価二重特異性抗体は、還元し且つo−PDM処理した520C9Fab’と混合して、TsAbを得た。
【図18】HER2/neu(A)及びEGFR(B)に関する二重機能蛍光活性化細胞選別アッセイを示す図である。
【図19】様々の濃度のTsAb又はTsAb抗体の標的細胞への結合を示すグラフである。平均蛍光強度(MFI)はAb結合の増加と共に増加する。これは、TsAbがSKBr−3上の可溶性のHER2/neuとFcγRIの両者に、用量依存の態様で、同時に結合したことを示す。
【図20】TsAbが、A431細胞上のEGFR及び可溶性のFcγRIと用量依存の態様で同時に結合したことを示すグラフである。このアッセイは図19で用いたアッセイと類似のものである。
【図21】TsAb(M22xH425x520C9)及びBsAb(M22x520C9)が、SKBr−3のADCCを誘導する能力があるが、BsAb(M22xH425)にはその能力が無かったことを示すグラフである。様々な濃度の抗体をSKBr−3細胞及び予め活性化したPMNと一緒に定温放置した。
【図22】TsAb(M22xH425x520C9)及びBsAb(M22xH425)が、A431のADCCを誘導する能力があるが、BsAb(M22x520C9)にはその能力が無かったことを示すグラフである。このアッセイは図21で用いたアッセイと類似の様態で実行した。
【図23】(a)は、全血変調アッセイのフローチャートである。 (b)は、そのアッセイからの結果を示すグラフである。この三価抗体は、単球表面からのFcγRIを急速に変調する。
【図24】Aは、野生型(TT830)及び突然変異体(TT833S)破傷風毒素ペプチドを符号化する合成オリゴヌクレオチドのアミノ酸配列を示す。 Bは、H22Fd−TT融合タンパク質を示す。
【図25】(a)は、MDXH210のFcγRI陽性U937細胞への結合を示すフローサイトメトリー・アッセイの結果を示す。 (b)は、Fab22−TT830のFcγRI陽性U937細胞への結合を示すフローサイトメトリー・アッセイの結果を示す。 (c)は、H22−TT833SのFcγRI陽性U937細胞への結合を示すフローサイトメトリー・アッセイの結果を示す。破線はそれぞれ陰性対照を示し、実線は融合タンパク質による染色を示し、点線はマウスmAb22F(ab’)により阻害された融合タンパク質結合を表す。
【図26】FcγRI陽性U937細胞へ結合した様々な量の融合タンパク質MDXH210、FAb22−TT830、及びFab22−TT833Sの定温放置に起因する平均蛍光強度を示すグラフである。
【図27】照射した単球及び様々な濃度のTT830、Fab22−TT830、TT、又はTT947と一緒に定温放置したT細胞の増殖を表すグラフであり、TT830と比較すると融合タンパク質Fab22−TT830は、Thエピトープの提示を1000倍向上させることを示す。
【図28】T細胞及び抗体を付加する前に、飽和量のmAb22F(ab’)2と一緒に予備的に定温放置した場合または定温放置しなかった場合の、1000nMにおけるTT830又は10nMのFAb22−TT830及び単球と一緒に定温放置したT細胞の増殖を表す柱状グラフである。
【図29】IgGの不存在下(対照)又は存在下で、単球及び5nMのFab22−TT830又は1000nMのTT830と一緒に定温放置されたT細胞の増殖を表す柱状グラフである。
【図30】(a)は、単球と様々の濃度のTT830又はFab22−TT830で二日間培養したT細胞の上澄みにおけるIFN−γの濃度を示すグラフである。 (b)は、単球と様々の濃度のTT830又はFab22−TT830と一緒に二日間培養したT細胞の上澄みにおけるIL−4の濃度を示すグラフである。
【図31】単球と様々の濃度のTT833S、Fab22−TT833S、又はTT830と共に定温放置したT細胞の増殖を示すグラフである。
【図32】様々な濃度のTT833Sと一緒に予備的に定温放置した後、単球とTT830と一緒に一晩定温放置したT細胞の増殖を示すグラフである。
【図33】様々な濃度のTT833S又はFAb22−TT833Sと一緒に予備的に一晩定温放置した後、単球とTT830と一緒に二日間定温放置したT細胞増殖の抑制をパーセントで示すグラフである。
【図34】T細胞を付加する前に、先ずTT830と一緒に4時間定温放置し(プリパルス)、更に10μMのTT833S又は0.1μMのFab22−TT833Sと一緒に一晩定温放置(チェース)した後に、単球と一緒に二日間定温放置したT細胞増殖を示す柱状グラフである。
【図35】単球とTT830、FAb22−TT830、TT833S、又はFab22−TT833Sで培養したT細胞の上澄みにおけるインターフェロン−γ(IFN−γ)及びIL−4の濃度を示す柱状グラフである。
【図36】培地において単球のみで、TT833Sで、又はFab22−TT833Sで1日間刺激して、その後、単球と様々の濃度のTT830で2日間にわたり再刺激したT細胞の増殖を示すグラフであり、TT833S及びFab22−TT833SはT細胞のアネルギーを引き起こさなかったことを示している。
【図37】FcγRI(H22)に関する一つの結合特異的部分と、胎児性癌抗原(CEA)(構成体321及び323)に関する一つの結合特異的部分とを備えた単鎖二重特異的分子を符号化する二つの発現構成体及び、FcγRIに関する一つの結合特異的部分を備えた単鎖抗体を符号化する一つの発現構成体を示すグラフである。これら符号化領域はCMVプロモーター(CMV Pr)の制御下にある。抗体のH鎖(VH)及びL鎖(VL)からの可変領域に加え、これら構成体により符号化されるタンパク質は、c−myc(c−myc)からのペプチド及びヘキサヒスチジンペプチド(H−6)に融合する。
【図38】発現構成体321(321−A5及び321−B4)及び322(322−B及び323−C4)により符号化される単鎖二重特異的分子H22−抗CEAと、構成体225(225−C2)により符号化される単鎖H22抗体との、二重特異的ELISAにより測定した結合レベルを示す柱状グラフである。
【図39】(a)乃至(c)は、単鎖ヒト化抗FcγRI抗体の核酸配列と、その核酸により符号化されるアミノ酸配列を示す。
【図40】(a)乃至(d)は、FcγRIに関する一つの結合特異的部分と、胎児性癌抗原に関する一つの結合特異的部分とを備えた単鎖二重特異的分子の核酸配列及び、その核酸により符号化されるアミノ酸配列を示す。
【図41】抗原に結合した複数のFab’フラグメントから構成されるマルチマー複合体の構造を示す略図である。
【図42】(a)は、精製したM22F(ab’)2マルチマー(左側ライン)及び化学的に結合したM22Fab’3マルチマー複合体(右側ライン)を示す非還元SDS−PAGEゲルを示す。 (b)は、M22F(ab’)3+との定温放置が、マクロファージの表面におけるCD64の発現を、投与量に依存して50%まで減らすことを示すグラフである。
【図43】(a)は、遺伝子導入されていない同腹子マウスに比べ、高い力価のM22特異的抗体が、三回免疫化されたCD64遺伝子導入マウス全てにおいて見られたことを示す。 (b)は、僅か0.25mgのマルチマー複合体でFcγRI(CD64)遺伝子導入マウスを免疫化しても、検出可能な免疫反応が得られることを示す。
【図44】(a)および(b)は、FcγRI(CD64)の遺伝子導入マウス及び遺伝子導入されていないマウスの、抗520C9及び抗M22力価で判断した免疫反応を示すグラフである。これらマウスは、M22マルチマー複合体に結合したマウス抗体520C9のFab’フラグメントで免疫化した。
【図45】(a)は、抗原(H22(2x)−32.2−抗原複合体)に結合した一つのM32.2sFv領域に結合した二つのH22sFv領域を含んだ遺伝子的に関連したマルチマー複合体を符号化する発現ベクターのマップを示す。 (b)は、作製されたマルチマー複合体を示す図である。
【図46】M22FabxM22FabxM32及びH22sFv−H22sFv−32.2sFv−gp75マルチマー複合体の、FcγRIに効率的に結合して内部移行を誘導する能力を示す棒グラフである。
【図47】(a)は、互いに抗原(H22(2x)抗原マルチマー複合体)に結合した二つのH22sFv領域を含んだ遺伝子的に関連したマルチマー複合体を符号化する発現ベクターのマップを示す。 (b)は、作製されたマルチマー複合体を示す図である。
【図48】H22Fab’、H22sFv2−EGFマルチマー、及びH22Fab2マルチマーを用いた結合競合アッセイの結果を示すグラフである。結果は、これらマルチマーによるM22−フィコエリトリン共役の結合阻害に関して示したものである。
【図49】(a)は、抗原(H22(3x)抗原マルチマー複合体)に結合した三つのH22sFvフラグメントを含んだ遺伝子的に関連したマルチマー複合体を符号化する発現ベクターのマップを示す。 (b)は、作製されたタンパク質を示す図である。
【図50】他のマルチマー複合体と比較したH22(3x)−CEAマルチマー複合体の、FcγRI内部移行を誘導する能力を示す棒グラフである。
【図51】抗CD89(14A8)HuMAb融合分子の作製を表す略図である。PJZ906(14Adf−EGF)及びpJZ907(14A8L鎖)は電気穿孔法によってNSO細胞に同時形質移入され、G418及びハイグロマイシンを含んだ培地で選択された。PJZ909(14A8sFv−EGF)は、同様に、形質移入され、G418を含んだ培地で選択された。融合タンパク質を発現する細胞株は、限界希釈クローニングによりサブクローニングした。
【図52】Aは、14A8Fab’−EGF融合構成体のA431細胞上のEGF−Rへの(フローサイトメトリーで測定した)結合を示すグラフである。 Bは、14A8sFv−EGF融合構成体のA431細胞上のEGF−Rへの結合を示すグラフである。A431細胞は、フィコエリトリンに共役したヤギの抗ヒトIgGFab−2で染色した。EGFを含まない14A8のFabフラグメント(ヒトモノクローナル抗FcαR抗体、14.1とも称する)を、対照として用いた。 Cは、融合タンパク質と市販のEGFが、EGF−FITC共役を備えた431細胞への結合で競争することを示す(7nM)。
【図53】Aは、14A8fab’−EGF融合構成体のU937細胞への(フローサイトメトリーで測定した)結合を示すグラフである。U937細胞へ結合した融合タンパク質は、フィコエリトリンに共役したヤギの抗ヒトIgGFab−2で染色した。ヒト化したmAbH415ののFab−2フラグメント(EGF−Rに対して特異的である)を、対照として用いた。 Bは、14A8sFv−EGF融合構成体の、U937細胞への結合を示す。この実験はAと類似の様態で実施されたが、相違点は、14A8Fab’−EGFの結合を阻害する能力を、14A8sFv−EGFの様々な濃度において評価したことである。mAbH22は、U937細胞上の異なるFc受容体であるCD64(FcγRI)に結合する。
【図54】用量に依存したA431細胞の融合タンパク質媒介細胞障害を示すグラフである。クロミウム放出アッセイを、16乃至18時間定温放置して、100:1のエフェクター対標的(単球及びPMNに関して)の比を用いて行った。14A8のFab2フラグメントを対照として用いた。 A エフェクター細胞には新鮮な単球を含めた。 B エフェクター細胞にはPMNを含めた。 C エフェクター細胞には全血を含めた。
【図55】図54A乃至Cの結果を比較した棒グラフである。
【図56】Aは、A431細胞の14A8fab’−EGF(1μg/ml)融合タンパク質媒介細胞障害は、14A8のfab−2フラグメントにより抑制されることを示す棒グラフである。 Bは、A431細胞の14a8sfv−efg(1μg/ml)融合タンパク質媒介細胞障害も、14A8のfab−2フラグメント(40μ/ml)により抑制されることを示す棒グラフである。
【図57】二重特異的単鎖融合分子931及び934及びこれらの親HuMabの略図である。14.1及び3F2の可変L鎖及びH鎖領域を用いて931及び934(w/EGF)構成体を作製した。
【図58】陽性対照として用いた、14.1及び3F2(抗HER2)のfab’フラグメントからなる、化学的に共役した二重特異的分子の略図である。
【図59】Aは、フロー・クロマトグラフィー分析法で測定した、トランスフェクトーマ上澄において発現した融合タンパク質931及び934のスクリーニング(結合)アッセイを示す棒グラフである。形質移入された(931及び934)及び形質移入されなかった(NSO)上澄を、SKBR−3又はA431腫瘍セルラインの何れかと一緒に定温放置した。融合タンパク質の結合を、フィコエリトリンに共役されたヤギ抗ヒトIgGfab−2で染色することで検出した。 Bは、融合タンパク質931及び934のADCC分析を示す棒グラフである。16乃至1時間の定温放置期間及び100対1の標的(SKBR−3、A431)に対するエフェクター(単球、PMN)の割合で、クロム遊離アッセイを実施した。腫瘍細胞致死は、特異的な溶解を媒介すべき、形質移入された(931及び934)及び形質移入されなかった(NSO)上澄を用いて検出した。
【図60】Aは、単鎖融合タンパク質931及び934のU937細胞への結合(フロー・クロマトグラフィーで測定した)を示すグラフである。U937細胞に結合しない、425(抗EGF−RmAb)のfab’フラグメントは、陰性対照として用いた。図58に示した化学的結合した二重特異性分子(14.1x3F2)は、陽性対照として用いた。 Bは、単鎖融合タンパク質931及び934のSKBR−3細胞への(フロー・クロマトグラフィー分析法で測定した)結合を示すグラフである。14.1fab−2を陰性対照として用いた。図58に示した化学的に結合した二重特異的分子(14.1x3F2)を、再び陽性対照として用いた。
【図61】単鎖融合タンパク質934のA431との(フロー・クロマトグラフィーで測定した)結合を示すグラフである。この実験は、EGF−Rを過剰発現するA431腫瘍細胞を用いた点以外は、図60に示したものと同一の態様で実施した。EGFに融合した14.1のsFvフラグメントからなる融合タンパク質を陽性対照として、また14.1fab−2フラグメントを陰性対照として用いた。
【図62】単鎖融合タンパク質931による、SKBR3(図62A)及びBT474(図62B)腫瘍細胞のPMN(エフェクター細胞)媒介細胞障害を示すグラフである。クロミウム放出アッセイを、16乃至18時間の定温放置及び100:1のエフェクターに対する標的の比を用いて行った。各実験において、14.1fab−2を対照として用いた。
【図63】単鎖融合タンパク質931による、SKBR3(図62A)及びBT474(図62B)腫瘍細胞の単球(エフェクター細胞)媒介細胞障害を示すグラフである。クロミウム放出アッセイを、16乃至18時間の定温放置及び100:1のエフェクターに対する標的の比を用いて行った。各実験において、14.1fab−2を対照として用いた。
【図64】51Cr放出により測定した、ヒト抗HER2/neu×抗CD89多特異的分子(14.1×3.F2)により媒介された多核細胞によるSKBR−3及びBT−474腫瘍細胞の抗体依存細胞障害を示すグラフである。
【図65】51Cr放出により測定した、ヒト抗HER2/neu×抗CD89多特異的分子(14.1×3.F2)により媒介された単球によるSKBR−3及びBT−474腫瘍細胞の抗体依存細胞障害を示すグラフである。
【図66】51Cr放出により測定した、ヒト抗HER2/neu×抗CD89多特異的分子(14.1×3.F2)により媒介された全血によるBT−474腫瘍細胞の抗体依存細胞障害を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)抗原提示細胞の表面上の成分に対する二つ以上の結合特異的部分と、
(b)前記結合特異的部分に結合した少なくとも一つの抗原と
を包含した分子複合体であって、前記成分が、前記結合特異的部分を結合させたときに前記分子複合体の内部移行を媒介する、分子複合体。
【請求項2】
前記複合体が三つ以上の結合特異的部分を包含する、請求項1に記載の分子複合体。
【請求項3】
前記結合特異的部分が抗体又はその抗原結合フラグメントを包含する、請求項1又は2に記載の分子複合体。
【請求項4】
前記結合特異的部分の少なくとも一つが、抗原提示細胞上のFc受容体(FcR)(例えばFcγ受容体又はFcα受容体)に結合する、請求項1乃至3のいずれかに記載の分子複合体。
【請求項5】
前記結合特異的部分の一つ以上が、H22(ATCC預託番号CRL11177)、M22(ATCC預託番号HB12147)、M32.2(ATCC預託番号HB9469)及びこれらの抗原結合フラグメントから選択される抗体を包含する、請求項1乃至4のいずれかに記載の分子複合体。
【請求項6】
前記結合特異的部分が、前記細胞表面成分の同じエピトープ又は異なるエピトープに結合するか、又は、前記結合特異的部分が異なる細胞表面成分に結合する、請求項1乃至5のいずれかに記載の分子複合体。
【請求項7】
前記抗原が、腫瘍抗原、自己抗原(autoantigen)及び自己抗原(self antigen) からなる群より選択され、及び/又は、前記抗原が、FcγRIに結合する(例えば前記抗原がH22(ATCC預託番号CRL11177)、M22(ATCC預託番号HB12147)、M32.2(ATCC預託番号HB9469)及びこれらの抗原結合フラグメントから選択される抗体を包含するなど)、請求項1乃至6のいずれかに記載の分子複合体。
【請求項8】
抗原に対する免疫応答を誘導又は向上させる医薬品の製造における、請求項1乃至7のいずれかに記載の分子複合体の利用。
【請求項9】
被験体を免疫処置するための医薬品の製造における、請求項1乃至7のいずれかに記載の分子複合体の利用。
【請求項10】
抗原を抗原提示細胞に接触させる段階を包含する、抗原提示細胞による試料中の抗原提示を誘導又は向上させる方法であって、前記抗原が、抗原提示細胞の表面上の成分に対する二つ以上の結合特異的部分に結合させてあり、前記成分が、前記結合特異的部分を結合させたときに前記抗原の内部移行を媒介する、方法。
【請求項11】
前記抗原が三つ以上の結合特異的部分に結合させてある、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記結合特異的部分が、抗体又はその抗原結合フラグメントを包含する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体がFc受容体(FcR)に結合する、請求項10乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記抗原が、腫瘍抗原、自己抗原(autoantigen)及び自己抗原(self antigen) からなる群より選択される、請求項10乃至13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39A】
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【図39B】
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【図39C】
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【図40A】
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【図40B】
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【図40C】
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【図40D】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52A】
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【図52B】
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【図52C】
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【図53】
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【図54A】
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【図54B】
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【図54C】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【公開番号】特開2007−119485(P2007−119485A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334364(P2006−334364)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【分割の表示】特願2001−513992(P2001−513992)の分割
【原出願日】平成12年7月25日(2000.7.25)
【出願人】(502035276)メダレックス インク (1)
【Fターム(参考)】