説明

抗KODDNAポリメラーゼ抗体及びそれを用いた非特異反応の抑制方法

【課題】免疫測定法において、測定に伴う非特異反応を簡便かつ効果的に抑制し、より良好な測定結果が得られる非特異反応抑制剤を提供し、非特異反応の抑制された測定方法を提供する。
【解決手段】免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、例えばヒト抗マウス抗体(HAMA)のような異好性抗体による非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応抑制剤であって、非特異因子活性阻害能を有しアナライトには反応しない抗体、特にサーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)KOD1株由来のDNAポリメラーゼに対する抗体を反応系中に共存させることを特徴とする非特異反応抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定法において用いるアナライト(測定対象)を正確に検出、定量するための障害となるヒト抗マウス抗体(以下、「HAMA」ということがある。)のような異好性抗体による非特異反応を抑制するための非特異反応抑制方法及び非特異反応抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、血液や尿中等の検体に含まれるアナライトの測定にマウスモノクローナル抗体を用いた免疫測定方法が用いられている。しかし、そのような抗原抗体反応の特異的な結合に基づいた免疫測定法においては、本来の目的とする特異的な抗原抗体反応以外の非特異反応により、測定値の信頼性が損なわれてしまうことがしばしば認められている。
【0003】
この現象は、検体中に含まれる抗原以外の成分が標識抗体と反応することによって引き起こされる。試験される検体中に含まれるヒト抗マウス抗体のような異好性抗体により、アナライトが存在しないにもかかわらず、例えば、通常のサンドイッチELISA測定において、固相に結合した抗体の標識された検出される抗体との非特異的架橋が起こり、結果として偽陽性シグナルが生じる。このように免疫測定系において非特異反応が認められ、目的アナライトを含まない検体に対しても反応することにより、本来陰性である検体が陽性と判定されることがあった。(非特許文献1参照)検査の自動化が進み迅速な測定が可能になった反面、HAMAのような偽反応が増え、この非特異的反応が見逃されることが多くなっている。
【0004】
ヒト由来の検体中にHAMAが存在する理由の1つには、治療としてマウスモノクローナル抗体を患者に大量に投与されるために生じることが挙げられる。マウス抗体の生体内への投与はHAMAを産生し、異種抗原に対する免疫応答の惹起が問題となっている。近年の抗体医薬品ではマウス由来の抗原結合部位とヒト由来の定常領域を融合させたキメラ抗体や、ヒト化抗体作製技術の進歩により生体内でのHAMAの出現は減少しているもののHAMAを持つ患者は増え続けており、その問題を無視することはできない。
【0005】
測定に使用するモノクローナル抗体とHAMAとの結合を防がなければ、不正確な測定結果により、診断ミス等の重大な問題を生じる可能性がある。優れた特異性を持つモノクローナル抗体を実際の測定系に使用しても、その性能を十分生かすことができないことが大きな問題となっている(特許文献1および非特許文献1、2参照)。
【0006】
上述した非特異反応を抑制した正しい測定値を得るために、従来様々な試みが行われてきた。
例えば、測定すべき検体を加熱や適当な試薬により前処理をしたり、各種動物血清、免疫グロブリン画分、アルブミン、スキムミルク、界面活性剤等を測定系に添加したりすることが一般的に行われてきた。また、FabやF(ab’)2 等の抗体断片を特異反応に使用することで、抗体のFc部位に起因する非特異反応を抑制することも行われている(特許文献2、3参照)。
また、測定系に使用するモノクローナル抗体とは反応特異性が異なりかつ測定系に係わる反応を阻害しないモノクローナル抗体を測定系に添加することも行われている。例えば、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体から誘導された凝集体の使用が提案されている。この凝集体は該抗体のホモポリマーであっても、抗体断片あるいはアルブミンのような蛋白質やデキストランのような多糖類の巨大分子とのヘテロポリマーであってもよい。
【0007】
また、非特異反応の抑制のために、特異反応に使用するモノクローナル抗体を加熱処理などすることにより調製した、本来の抗体の特異活性は失っているが、非特異反応抑制活性は保持しているモノクローナル抗体由来物質が開示されている(特許文献4参照)。
しかし、これらの方法は非特異反応の抑制にある程度の効果はあるものの、一部の検体ではその効果はまだ不十分であるとともに、目的とする抗原抗体反応を一部阻害することもあり、実用上必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平8−23560号公報
【特許文献2】特開昭54−119292号公報
【特許文献3】特開平04−221762号公報
【特許文献4】特許第2561134号公報
【特許文献5】特許第3132624号公報
【特許文献6】特許第3968606号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Clin.Chem. 34/1,261−264(1988)
【非特許文献2】Clin.Chem. 35/1,146−151(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、免疫測定法において、検体中の微量成分の正確な検出ならびに定量を実現するために測定に伴う非特異反応を簡便かつ効果的に抑制することに優れた非特異反応抑制方法とその非特異反応抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をおこなったところ、超好熱始原菌由来のDNAポリメラーゼに対する抗体、特に、サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)KOD1株由来のDNAポリメラーゼに対する抗体(以下、「KOD DNAポリメラーゼ」ということがある。)もしくはその断片タンパク質に、HAMAによる非特異反応を抑制する効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
超好熱始原菌由来のファミリーB(もしくはα型とも呼ばれる。)に属するDNAポリメラーゼには、サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)KOD1株(旧名:Pyrococcus sp. KOD1)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(特許文献5)が知られている。
これら、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(Proof reading活性)を有し、核酸の取り込み際の正確性は、Taq DNAポリメラーゼなどのファミリーA(もしくはpolI型とも呼ばれる。)に属するDNAポリメラーゼに比べて優れているという特徴を有する。
上記KOD DNAポリメラーゼは微量の核酸を迅速かつ特異的に検出、定量できるホッ
トスタートPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法に用いられており、ホットスタートPCRを行うためにKODDNAポリメラーゼに特異的な2種のモノクローナル抗体が使用されている(特許文献6、および非特許文献2参照)。
これらの抗体遺伝子の塩基配列は、例えばGenbank nucleotide sequence databanks(accession number AB017091、AB017092)に公開されている。
【0013】
本発明者らは、抗KOD DNAポリメラーゼ抗体を産生するハイブリドーマ細胞(3G8)から抗体遺伝子を取得し、データベースGenbank nucleotide sequence databanks(accession number AB017091、AB017092)に存在する既知の抗体遺伝子の塩基配列と一部で異なった新規な塩基配列の抗体遺伝子を取得することができた。さらに驚くべきことに、本抗体遺伝子により発現される抗KOD DNAポリメラーゼ抗体について、HAMAによる非特異反応抑制効果の評価を行ったところ、免疫測定法を用いて抗原を定量する方法において、非特異的な干渉による影響を抗KOD DNAポリメラーゼ抗体が著しく除去するという、当業者が予想し得る以上の有利な非特異反応抑制効果が得られた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のような構成からなる。
[項1]配列番号1に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
[項2]配列番号2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
[項3]項1または2に記載のポリペプチドを含む抗体分子。
[項4]項1または2に記載のポリペプチドを含む抗体断片。
[項5]抗体断片がFab、F(ab’)2 またはscFvである項4に記載の抗体断片。
[項6]免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応抑制方法であって、項1〜5のいずれかに記載の物質を反応系中に共存させる工程を含む非特異反応抑制方法。
[項7]免疫測定法がサンドイッチ法による測定法である項6に記載の非特異反応抑制方法。
[項8]項1〜5のいずれかに記載の物質を含む非特異反応抑制剤。
[項9]項8に記載の非特異反応抑制剤を含む免疫測定キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、免疫測定法において異好性抗体による非特異反応を抑制できるため、特異性の向上および偽陽性の低減が達成され、臨床検査などの分野において信頼性の高い免疫測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】データベース上のKOD3G8抗体軽鎖遺伝子と、本発明の取得された抗体の軽鎖遺伝子との比較を行った結果を示す図である。
【図2】データベース上のKOD3G8抗体重鎖遺伝子と、本発明の取得された抗体の重鎖遺伝子との比較を行った結果を示す図である。
【図3】取得したKOD3G8抗体の抗原との反応性について確認した結果、得られた検量線を示す図である。
【図4】KOD3G8抗体のHAMA抑制能について測定した結果を示す図である。
【図5】組換えCHO−K1細胞由来KOD3G8抗体のHAMA抑制能について測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0018】
本発明は、本発明は、超好熱始原菌由来のDNAポリメラーゼに対する結合性を有するタンパク質であって、具体的には抗体もしくは抗体の断片を構成するタンパク質を包含する。
【0019】
超好熱始原菌とは、アーキアに属する細菌であり、Thermococcus属、Pyrococcus属に属するものが例示させる。具体的には、サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)などが挙げられる。
【0020】
本発明の実施の形態の一例は配列番号1または配列番号2に記載の塩基配列よりコードされるポリペプチド(これらのポリペプチドはそれぞれ配列番号3、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する。)、これらのポリペプチドを含んでなる抗体分子、あるいはこれらのポリペプチドを含んでなる抗体断片である。これらの物質は、超好熱始原菌由来のDNAポリメラーゼに対する結合性を有する。
【0021】
配列番号1の塩基配列は、KOD DNAポリメラーゼに対する抗体の重鎖の可変領域をコードするDNAである。また、配列番号2の塩基配列は、KOD DNAポリメラーゼに対する抗体の軽鎖の可変領域をコードするDNAである。
【0022】
配列番号1または2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチドを含む抗体分子は、そのサブクラスは特に限定されないが、IgGに分類される抗体であることが好ましい。
配列番号1または2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチドを含む抗体断片は、具体的にはFab、F(ab’) 、scFvなどが挙げられる。
【0023】
本発明のポリペプチド、抗体もしくは抗体の断片等は、当業者に公知の方法により生産され、また例えば遺伝子操作によって組換え生産された抗体もしくは抗体の断片であってもよく、KOD DNAポリメラーゼに対する抗体遺伝子を発現ベクターに連結し、哺乳動物細胞にトランスフェクションして抗体を取得する場合も含まれる。本発明のポリペプチド、抗体もしくは抗体の断片等は、産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている細胞(受託番号:FERM P−21784)から得ることもできる。また、抗体遺伝子は抗体フラグメント(Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)や各単鎖抗体、あるいは一本鎖抗体(scFv)であってもよい。重鎖および軽鎖を別々に含む2つのベクターを用いてもよいし、また抗体の重鎖と軽鎖がタンデムにつながった1つのベクターを用いてもよい。
FabおよびF(ab’)は、抗体全長を発現させた後、ペプシン,トリプシン又はパパイン等のタンパク質分解酵素で分解することによって得てもよい。
【0024】
トランスフェクションする哺乳動物細胞(宿主細胞)は特に限定されるものではなく、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(例えば、CHO−K1細胞、入手先:例えば、Amercan Type Culture Collection(ATCC) CCL−61、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0285、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0403等)、ヒト胎児腎臓細胞(例えばHEK293細胞、入手先:例えば、ATCC CRL−1573、理化学研究所バイオリソースセンター RCB1637、理化学研究所バイオリソースセンター RCB2202等)、アフリカミドリザル腎臓細胞(例えばCOS−7細胞、入手先:例えば、ATCC CRL−1651、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0539等)、ヒト子宮頸部癌細胞(例えば、HeLa細胞、入手先:例えば、ATCC CCL−2、ATCC CCL−2.2、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0007、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0191)、マウスミエローマ細胞(例えばNS0細胞、入手先:例えば、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0213)などの各種腫瘍細胞等が挙げられる。
【0025】
本発明の別の実施形態は、免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応抑制方法であって、配列番号1または2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド、もしくは、それらを含む抗体分子または抗体断片などの物質を反応系中に共存させる工程を含む非特異反応抑制方法である。
【0026】
免疫測定法とは、抗原抗体間の結合の高い特異性を利用して、目的とするアナライトを測定する方法である。この免疫測定法の測定感度を飛躍的に高めるために、放射性化合物、蛍光物質、酵素、金属等の標識法を組み合わせ、微量の物質の測定が可能となっている。標識法に従いそれぞれ放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、酵素免疫測定法(EIA)等と呼ばれている。
【0027】
上述した物質の非特異反応抑制剤としての使用方法は、特に限定されるものではないが、免疫測定法において行う特異的な免疫反応工程の前に予め適当な緩衝液中で非特異反応抑制剤と検体を同一の免疫反応中で接触させ、適当な時間(例えば、1分〜2時間程度)インキュベートする方法がある。
この間に、検体中の非特異反応を起こす物質(非特異反応物質)は非特異反応抑制剤と反応し、特異的免疫反応工程での非特異反応活性は失われる。特異的免疫反応工程にはインキュベートを完了した検体と非特異反応抑制剤の混合液をそのまま用いればよい。
【0028】
さらに簡便な本発明の非特異反応抑制剤としての使用方法は、非特異反応抑制剤共存下に特異的免疫反応を行う方法である。
例えば、最も一般的に用いられる正サンドイッチ法の場合、固相化抗体と検体中の抗原とを反応させる第一免疫反応工程の緩衝液に非特異反応抑制剤を添加するだけで、それ以外は何ら特別な工程を必要とせずに所望の効果を得ることができる。
さらに、抗体の特異反応部位を介して固定化された抗原と標識抗体とを反応させる第二免疫反応工程の緩衝液にも添加すれば、第一免疫反応工程で完全に抑制されなかった非特異反応物質も抑制されるため、測定の信頼性をより一層高めることができる。
なお、通常は第一免疫反応工程の緩衝液に添加されていれば十分な効果が得られる。
【0029】
また、1段階サンドイッチ法においても免疫反応工程の緩衝液に非特異反応抑制剤を添加して反応させることにより、非特異反応は抑制される。
本発明の非特異反応抑制剤はサブクラスの異なる抗体を少なくとも2種以上共存させることによって非特異反応を起こす物質との結合力を高めることもできる。
また、過剰量を添加しておけば非特異反応を起こす物質は優先的に非特異反応抑制剤と反応するので非特異反応は抑制される。
【0030】
本発明の別の実施形態は、配列番号1または2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド、もしくは、それらを含む抗体分子または抗体断片などの物質を含む非特異反応抑制剤である。
また、当該非特異反応抑制剤を含む免疫測定キットである。
【0031】
本発明の非特異反応抑制剤は、免疫反応工程の前に予め適当な緩衝液に添加して使用されるか、あるいは免疫反応工程の緩衝液に添加して使用される。
該非特異反応抑制剤の非特異反応物質と反応させる系における濃度は0.1〜500μg/mlであることが好ましく、さらに好ましくは1〜50μg/mlである。使用される緩衝液は公知の通常免疫反応に使われる適当な緩衝液であってよい。また、緩衝液中に通常添加される助剤、たとえば反応促進剤、洗浄剤または安定化剤と共に使用することができる。さらに別の非特異反応抑制剤と共に混合して使用することもできる。
【0032】
本発明の非特異反応抑制剤は単独でキットの構成試薬にしてもよいし、他の構成試薬の成分としてもよい。しかし、測定操作を増やすことなしに非特異反応抑制効果が得られることを考慮すれば、構成試薬の一成分として添加するのが好ましい。
本発明の非特異反応抑制剤は、好ましくは検体と固相化抗体を反応する緩衝液や標識抗体液に添加してキットの構成試薬とする。非特異反応抑制剤の懸濁用媒体としては、被測定物質の種類、使用される測定原理、測定方法に応じた各種緩衝液が用いられる。緩衝液としては、測定物質を失活させることがなく、かつ、抗原抗体反応を阻害しないようなイオン濃度やpHを有するものであればよく、例えば、リン酸塩緩衝液(10〜100mM;pH6〜8)またはトリス−塩酸(50mM/NaCl 100mM;pH7〜8)などが使用できる。
【0033】
反応促進剤としては、例えばデキストランサルフェートまたはポリエチレングリコールなど、洗浄剤としては、例えばトリトンX−100、Tween20などを、また安定化剤としてアルブミン、スキムミルク、ゼラチンなどの蛋白質やアジ化ナトリウム、チメロサール、ケーソンCGなどの防腐剤を挙げることができる。
標識抗体は、代表的には、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素、放射性物質、蛍光物質等の何らかの手段により定量可能なシグナルを出す物質を結合した抗体を用いることができる。これらの構成試薬が凍結乾燥品の場合には復元液に添加することもできる。
【0034】
本発明の非特異反応抑制剤を用いる免疫測定法において使用される検体としては、例えば、血清、血漿、髄液、唾液等の体液や尿、糞便抽出液等が挙げられる。
又、測定対象となりうるアナライトとしては特に制約されないが、臨床検査に利用される物質、例えば体液中に含まれる生体内物質や疾患マーカーである、ヒトイムノグロブリン、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン、β−ミクログロブリン、フェリチン、C反応性蛋白質、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、CA19−9、塩基性フェトプロティン、組織ポリペプチド抗原、免疫抑制酸性蛋白質、CA−50、膵癌胎児性抗原、シアリルLe−i抗原、SCC抗原、CA15−3、CA72−4、シアリルTn抗原、CA125、NCC−ST−439、γ−セミノプロティン、前立腺特異抗原、甲状腺刺激ホルモン、ニューロン特異エノラーゼ、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、インスリンなどが挙げられる。
免疫測定法には放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等が挙げられ、さらには、化学発光法の応用や、ラテックス凝集法の応用等も含まれる。より好ましくはRIA,EIA等による測定キットの大部分で採用されているサンドイッチ法であり、正サンドイッチ法、1段階サンドイッチ法、固相サンドイッチ法などが挙げられる。より好ましくは、固相サンドイッチ法が挙げられる。サンドイッチ法とは、固相に結合させた抗原特異的な非標識抗体(一次抗体)を抗原と反応させ、次いで標識した二次抗体を抗原と一次抗体の複合体に結合させて抗原を検出する方法であり、一般に高い抗原特異性が利点である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例に記載のPCRは、全てKODポリメラーゼ(東洋紡績製)を用いて行った。
【実施例1】
【0036】
サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)KOD1株由来のDNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞系3G8(入手先:産業技術総合研究所特許生物寄託センター、寄託番号:FERM BP−6056)をCD Hybridoma Medium(GIBCO製、品番:11279−023)で培養し、1×10cellsからRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN製、品番:74134)を用いてトータルRNAを抽出し、ReverTra Ace−α−(登録商標)(東洋紡績製、品番:FSK−101)を使用して1本鎖cDNAを合成した。
Mouse Ig−Primer Set(Novagen製、品番:69831−3)を使用して重鎖と軽鎖をPCR増幅した後、CMVプロモーターをEF−1αプロモーターに変更したpCI−neoプラスミド(プロメガ製、品番:E1841)の制限酵素XbaI−NotIサイトにそれぞれクローニングしてシーケンスを確認した。重鎖の可変領域をコードするDNAの塩基配列を配列番号1に、軽鎖の可変領域をコードするDNAの塩基配列を配列番号2に、それぞれ示す。これらのポリペプチドはそれぞれ配列番号3、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する。アミノ酸配列への変換は配列解析ソフトであるGenetyx(Genetyx社)を用いて行った。
【0037】
解析したシーケンスとGenbank nucleotide sequence databanks(accession number AB017091、AB017092)に公開されている塩基配列を比較したところ、重鎖では98.9%一致、軽鎖では92.4%と一致で両鎖とも既知の配列とは異なっていた。また、抗原との反応性に寄与しているCDR領域(complementarity determining region)においては、重鎖では一致したが、軽鎖ではCDR1、CDR2、CDR3ともデータベース上の配列と異なっていることが確認された。上記で取得した軽鎖の塩基配列とデータベース上の配列との比較を図1に、重鎖の塩基配列とデータベース上の配列との比較を図2に、それぞれ示す。比較は配列解析ソフトであるGenetyx(Genetyx社)を用いて行った。
【実施例2】
【0038】
実施例1で作製された発現プラスミドベクターをCHO−K1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター RCB0285)にLipofectamine LTX(Invitrogen製、品番:15338−100)を使用してトランスフェクションした。24時間培養後、培養上清を回収し、KOD DNAポリメラーゼとの反応性をELISA測定で確認した。
詳細には、30μg/ml濃度のKOD1由来のDNAポリメラーゼ抗原を固相化したELISAプレートに、50μlの培養上清を添加し35℃で2時間インキュベートした。
次に、PBS−T(0.1%Tween20含有10mMリン酸緩衝生理食塩水)で3回洗浄し、10000倍希釈した抗マウス抗体−HRP(DAKO製)を50μl添加して35℃で1時間インキュベートした後、さらにPBS−Tで3回洗浄し、TMB+(3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine;DAKO製)で5分間反応させた。50μlの1N 硫酸を加えて反応停止後、プレートリーダー(製品名;SPECTRA、TECAN Austria社製)(主波長450nm、副波長620nm)で吸光度を測定した。
【0039】
標準品から作成した図3に示される検量線をもとに抗体濃度を算出した。なお、標準品としてKOD DNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞系3G8から得られた抗体を用いた。結果を表1に示す。
その結果、ハイブリドーマ細胞系3G8から得られた抗体と同様に抗原との反応性があることが確認でき、取得した抗体遺伝子が目的とする抗体遺伝子であることが証明された。
【0040】
【表1】

【実施例3】
【0041】
抗KOD DNAポリメラーゼ抗体が、異好性抗体の1種であるHAMAによる影響を抑制できるかどうか正サンドイッチELISA法で確認した。
【0042】
MAK33−IgG1(Roche製、品番:1200941)、マウスIgG(CHEMICON製、品番:PP54)、KOD DNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞系3G8から得られた抗体の3種類を用いて、HAMA干渉除去効果測定を行った。なお、HAMA血清にはHAMA血清タイプ1(Roche製、品番:1767275)を使用した。
より詳細には、50mM 炭酸バッファー(pH9.6)で2000倍希釈したAnti−hCEA抗体(Medix Biochemica製)を、50μl/wellずつ96wellELISAプレート(住友ベークライト製、品番:MS−8896F)に添加し固相化した。また、それぞれの抗体が1μg/mlおよび5μg/mlになるよう、0.1% BSA+PBS溶液で希釈したHAMA抑制のための抗体溶液を作製した。次いで、その抗体溶液50μlにHAMA血清50μlを混合し、それぞれ50μl/wellずつ分注し、25℃で1時間インキュベートした。その後、PBS−Tで3回洗浄し水分を十分に切った後、ペルオキシダーゼで標識したAnti−hCEA抗体を0.1% BSA+PBS溶液で2000倍に希釈して50μl/well加え、25℃で1時間インキュベートした。PBS−Tで4回洗浄し、水分を切った後、TMB+発色液(DAKO製)を50μl/well分注し、室温で5分間反応させ、1N 硫酸で反応を止めた。プレートリーダー(主波長;450nm、副波長;620nm)にて測定しHAMA抑制率を算出した。
結果を図4及び表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
通常の抗マウス抗体であるマウスIgG抗体(CHEMICON製、PP54)では1μg/mlでのHAMA抑制効果が39%であるのに対し、抗KOD DNAポリメラーゼ抗体のHAMA抑制率は48%と高く、市販のHAMA抑制剤MAK33−IgG1の51%と比較しても同等以上の抑制効果があるという優れた結果が得られた。
評価に用いた3種類の抗体は同じマウス抗体であり定常領域は同じであることから、抗原との反応性に寄与しているCDR領域(complementarity determining region)を含めた可変領域の違いがHAMA抑制効果に影響していることが示唆される。
【実施例4】
【0045】
実施例1で作製された発現プラスミドベクターをCHO−K1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター RCB0285)にLipofectamine LTX(Invitrogen製、品番:15338−100)を使用してトランスフェクションして1日培養後、400μg/mlのG418二硫酸塩溶液(ナカライテスク製、品番:16513−84)入りハムF−12培地(ナカライテスク製、品番:17458−65)で2週間の薬剤選択培養を実施した得られた細胞を限界希釈法でクローニングすることにより、KOD DNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生する組換えCHO−K1細胞(入手先:産業技術総合研究所特許生物寄託センター、受託番号:FERM P−21784)を構築した。
【実施例5】
【0046】
KOD DNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生する上記組換えCHO−K1細胞を培養し、プロテインAカラム(GE Healthcare製、品番:17−5079−01)で精製した抗体を使用して、HAMAによる影響を抑制できるかどうか正サンドイッチELISA法で確認した。
【0047】
MAK33−IgG1(Roche製、品番:1200941)、マウスIgG(CHEMICON製、品番:PP54)、Heterophilic Blocking Reagent1(以下、HBRという)(SCANTIBODIES LABORATORY,INC.製、品番:3KC534−075)、KOD DNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞系3G8から得られた抗体、および組換えCHO−K1細胞から得られた抗体の5種類を用いて、HAMA干渉除去効果測定を行った。なお、HAMA血清にはHAMA血清タイプ1(Roche製、品番:1767275)を使用した。
より詳細には、50mM 炭酸バッファー(pH9.6)で2000倍希釈したAnti−hCEA抗体(Medix Biochemica製)を、50μl/wellずつ96wellELISAプレート(住友ベークライト製、品番:MS−8896F)に添加し固相化した。また、それぞれの抗体が0.5μg/mlおよび1μg/mlになるよう、0.1% BSA+PBS溶液で希釈したHAMA抑制のための抗体溶液を作製した。次いで、その抗体溶液50μlにHAMA血清50μlを混合し、それぞれ50μl/wellずつ分注し、室温で1時間インキュベートした。その後、PBS−Tで3回洗浄し、水分を十分に切った後、ペルオキシダーゼで標識したAnti−hCEA抗体を0.1% BSA+PBS溶液で4000倍に希釈して50μl/wellずつ加え、室温で1時間インキュベートした。PBS−Tで4回洗浄し、水分を切った後、TMB+発色液(DAKO製)を50μl/well分注し、室温で5分間反応させ、1N 硫酸で反応を止めた。プレートリーダー(主波長;450nm、副波長;620nm)にて測定しHAMA抑制率を算出した。
結果を図5及び表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
ハイブリドーマ由来の抗KOD DNAポリメラーゼ抗体と組換えCHO―K1細胞由来の抗KOD DNAポリメラーゼ抗体とではほぼ同程度のHAMA抑制効果が確認できた。通常の抗マウス抗体であるマウスIgG抗体(CHEMICON製、PP54)では1μg/mlでのHAMA抑制効果が61%であるのに対し、組換えCHO―K1細胞由来の抗KOD DNAポリメラーゼ抗体のHAMA抑制率は72%と高く、市販のHAMA抑制剤MAK33−IgG1(Roche製、品番:1200941)の69%やHBR(SCANTIBODIES LABORATORY,INC.製、品番:3KC534−075)の68%と比較しても同等以上の抑制効果があるという優れた結果が得られた。抗KOD DNAポリメラーゼ抗体のHAMA抑制効果は極めて有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、免疫測定法において非特異反応を排除できるため、非特異因子を含む生体由来の試料についても該非特異因子により生じる非特異反応を抑制して、抗原を正確に測定することができ、偽陽性の削減および特異性の向上が達成され、より信頼性の高い臨床検査が可能となることから産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリペプチドを含む抗体分子。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリペプチドを含む抗体断片。
【請求項5】
抗体断片がFab、F(ab’)2 またはscFvである請求項4に記載の抗体断片。
【請求項6】
免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応抑制方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の物質を反応系中に共存させる工程を含む非特異反応抑制方法。
【請求項7】
免疫測定法がサンドイッチ法による測定である請求項6に記載の非特異反応抑制方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の物質を含む非特異反応抑制剤。
【請求項9】
請求項8に記載の非特異反応抑制剤を含む免疫測定キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254663(P2010−254663A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197878(P2009−197878)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】