説明

抗PCI中和抗体

本発明は、プロテインCインヒビター(PCI)に対して中和作用を有する抗PCI抗体およびその利用を提供する。抗PCI抗体の製造およびスクリーニングにより、活性化プロテインC(aPC)の生成および活性を阻害するPCIの作用を阻害する抗PCI抗体を単離することに成功した。本発明の抗体は、PCIのaPC生成阻害作用および/またはaPC不活性化作用を抑制することを通して、aPCの活性を維持し、血液凝固系の活性化の抑制または抗炎症作用などのaPCの生理活性の効果を持続させるために使用することができる。また本発明は、血栓症および敗血症などのaPCによる治療における本発明の抗体の使用を提供する。aPC投与による治療において、本発明の抗体を投与することにより、治療効果を持続させることができる。本発明の抗体は、血栓症および敗血症などの治療および予防において利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はプロテインCインヒビター(PCI)の中和抗体に関する。
【背景技術】
静脈血栓症は、下肢関節置換術、あるいは開腹手術後に高頻度で発症する。現在その治療は主として低分子ヘパリンおよびワーファリンにより予防的に行われている。しかし低分子ヘパリンは連日の皮下投与が必要であり、ワーファリンは経口投与できるがタンパク結合率が非常に高いため他薬との相互作用が問題となっている。またいずれの薬物も出血傾向を呈する。
DIC(disseminated intravascular coagulation;播種性血管内凝固)は全身の血管内で血液凝固が進み、循環不全による臓器障害や、血液凝固因子の過剰な消費による出血症状を来す病態であり、白血病、固形腫瘍、感染症や産科疾患などが原因となる。その治療は抗凝固作用を期待して広くヘパリン(静脈内投与ないし皮下投与)が使用されているが、薬物そのものに出血助長作用があり、またアンチトロンビンIII濃度低下により充分な作用が得られないなどの欠点がある。合成蛋白分解酵素阻害薬も処方されるが、有効性が必ずしも明確ではない。
敗血症では、感染した菌体成分が凝固反応を惹起し、DICを発症することがある。しかし敗血症に対して有効な薬物は極めて少なく、これまでにaPC(activated Protein C;活性化プロテインC)が米国で認可されているのみである。
その他の血液凝固系が関与する病態、例えば冠動脈症候群、末梢循環不全等においても、ヘパリンや合成抗トロンビン薬などの抗凝固薬が処方されるが、連日投与が必要なため患者のQOL(Quality of Life)は低い。したがって、作用が長時間(数週間)持続し出血傾向を呈さない抗血栓薬は、血栓症を予防しかつ患者のQOLを向上させることができる。
血栓は血小板と血液凝固系が活性化することにより形成され、一般には動脈血栓には血小板が、静脈血栓には凝固系が主として働くと考えられている。血液凝固系が活性化され生成されたトロンビンは血栓網の主体となるフィブリンを生成するとともに、血管内皮上に存在するトロンボモデュリンと結合して性質が変化し、PC(Protein C)を活性化させる。活性化されたPC(aPC)はprotein Sを補酵素として、Factor VaおよびVIIIaを不活化し凝固系の回転を抑制する方向に働く。さらにaPCはPAI−1(Plasminogen Activator Inhibitor−1)やTAFI(Thrombin Activatable Fibrinolysis Inhibitor)などの線溶阻害物質抑制作用も有するため、線溶系を促進する。したがってaPCは活性化した血液凝固系に対するネガテイブフィードバック機構として重要な働きをすると考えられており、実際、先天性PC欠乏症、あるいは(Factor Va変異による)aPC不応症は血栓症の発現因子の一つであることからもaPCの血栓症における役割の重要性が裏付けられる。さらに近年では、aPCが血管内皮に作用し抗炎症作用を有することが示唆されており(J.Biol.Chem.2001;276:11199−11203)、また敗血症モデルにおいて死亡率を改善し(J.Clin.Invest.1987;79:918−925)、その作用は抗凝固作用だけでは説明できないことも報告されている(Blood 1991;78:364−368)。これらのことは、aPCが血栓症および敗血症の治療および予防に有効であることを示している。
しかしながらaPCそのものを薬物として用いる場合、血中半減期が20〜30分と非常に短いために静脈内持続投与あるいは長期にわたる連続投与が必要であり、医療経済学的に、また患者のQOLからも不都合である。半減期が短い理由は、aPCが生体内の不活化物質、すなわちPCIやα1−antitrypsin(AAT)などにより非可逆的に不活化されることである。これらのうち生理的に重要な役割を果たしているのはPCIと考えられており(Fibrinolysis & Proteolysis 2000;14:133−145)、実際、aPC/PCI複合体の血中濃度は、急性冠症候群、DIC、深部静脈血栓症などの病態で上昇していることが報告されている(Blood Coagul.Fibrinolysis 2001;12:503−510;Am.J.Hematol.2000;65:35−40;Thromb.Haemost.2001;86:1400−1408)。
PCIは、aPCとアシル酵素複合体を形成することにより非可逆的に酵素活性を阻害する(J.Biochem.1984;95:187−195)。それのみならず、aPCの生成酵素であるトロンビン/トロンボモデュリン(Thr/TM)複合体を阻害し、aPCの生成を抑制する(Blood 1998;91:1542−1547)。すなわち、PCIはaPCの生成および活性の両方を阻害することによってaPCの働きを抑制している。したがってPCIの作用を阻害することにより、内因的に生成されるaPC、あるいは外因的に投与されるaPCの作用を増強することができ、効果的な抗血液凝固作用を得ることができる。
【発明の開示】
本発明は、aPCの生成および酵素活性を阻害するPCIに対し、中和作用を有する抗PCI抗体およびその利用を提供することを課題とする。
PCI(Suzuki,K.et al.,J.Biol.Chem.1983,258:163−168;Suzuki,K.,Fibrinolysis Proteolysis 2000,14:133−145)は血中に存在する可溶性蛋白であり、その半減期は23時間である。そこでこの蛋白に対する中和抗体を作製し、十分量投与すれば、長時間持続する抗血液凝固薬となる。
前述したように、PCIは(1)Thr/TM複合体によるaPC生成の阻害作用(すなわちPCの活性化阻害作用)、および(2)aPCの活性阻害作用を有する。そこで本発明者らは、pCIに対するモノクローナル抗体を産生するハイリドーマを作製し、PCIの二つの作用それぞれについて阻害作用のスクリーニングを行なった。その結果、(1)、(2)それぞれについて阻害作用を有する抗体を単離することに成功し、その一部は両方の作用を阻害した。本発明の抗体は、aPCの作用増強を通して血液凝固系の働きを抑制するため、血栓症の治療および予防のために極めて有用である。また本発明の抗体は、aPCによる敗血症の治療等において、aPCと併用して用いることにより、血中におけるaPCの不活化を抑制することによりaPCの作用を増強する薬剤として利用することができる。
すなわち本発明は、aPCの生成および酵素活性を阻害するPCIに対し、中和作用を有する抗PCI抗体およびその利用に関し、より具体的には、請求項の各項に記載の発明に関する。なお本発明は、請求項の各項に記載の発明の1つまたは複数(または全部)の所望の組み合わせからなる発明、特に、同一の独立項(他の項に記載の発明に包含されない発明に関する項)を引用する項(従属項)に記載の発明の1つまたは複数(または全部)の所望の組み合わせからなる発明にも関する。各独立項に記載の発明には、その従属項の任意の組み合わせからなる発明も意図されている。すなわち本発明は、以下の発明を含む。
〔1〕抗PCI抗体であって、(a)活性化プロテインC(aPC)活性に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、または(b)トロンビン/トロンボモデュリン(Thr/TM)複合体による活性化プロテインC(aPC)生成に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、の少なくともいずれかを有する抗体、
〔2〕抗PCI抗体であって、(a)活性化プロテインC(aPC)活性に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、および(b)トロンビン/トロンボモデュリン(Thr/TM)複合体による活性化プロテインC(aPC)生成に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、の両方を有する抗体、
〔3〕PC19G8、PC23A7、PC23D8、PC30G1、PC31E2、PC31F1、およびPC39C6からなる群より選択される抗体の可変領域を含む抗体と、抗体認識部位が競合する、
〔1〕または〔2〕に記載の抗体、
〔4〕〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の抗体であって、以下の(a)から(f)のいずれかのアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有する抗体、
(a)配列番号:49、50、および51に記載のアミノ酸配列、
(b)配列番号:55、56、および57に記載のアミノ酸配列、
(c)配列番号:52、53、54およびに記載のアミノ酸配列、
(d)配列番号:58、59、60およびに記載のアミノ酸配列、
(e)配列番号:25、31、および36に記載のアミノ酸配列、
(f)配列番号:41、45、および48に記載のアミノ酸配列、
〔5〕抗体がヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、抗体断片、一本鎖抗体、およびダイアボディーからなる群より選択される、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の抗体、
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物、
〔7〕さらにプロテインCおよび/または活性化プロテインCを含む、〔6〕に記載の組成物、
〔8〕活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に用いられる医薬組成物である、〔6〕または〔7〕に記載の組成物、
〔9〕疾患が血液凝固反応の亢進および/または炎症反応の亢進によって惹起される疾患である〔8〕に記載の組成物、
〔10〕血液凝固反応の亢進および/または炎症反応の亢進によって惹起される疾患が、敗血症、播種性血管内凝固症候群、動脈血栓症、および静脈血栓症からなる群より選択される、〔9〕に記載の組成物、
〔11〕活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患を予防または治療する方法であって、(a)プロテインCおよび/または活性化プロテインC、並びに(b)〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗体、を投与する工程を含む方法、
〔12〕活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患を予防または治療する方法であって、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗体を投与する工程を含む方法、
〔13〕活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に使用されるキットであって、(a)〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗体、および(b)プロテインC、活性化プロテインC、またはその両方、を含むキット、
〔14〕活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に使用されるキットであって、(a)プロテインC、活性化プロテインC、および〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗体、および(b)(i)治療有効量のプロテインCおよび/または活性化プロテインC、並びに(ii)該抗体、を併用することの記載または該記載へのリンクを含む記録媒体、を含むキット。
本発明は、aPCの生成および/または酵素活性を阻害するPCIに対し、中和作用を有する抗PCI抗体およびその利用を提供する。PCIは、(1)Thr/TM複合体によるaPC生成(すなわちPCの活性化)に対する阻害作用、および(2)aPCの活性阻害作用を有するが、本発明の抗体は、PCIが持つこの(1)または(2)の活性のいずれか、より好ましくは(1)および(2)の両方の活性を有意に阻害する働きを有している。これらの活性の阻害は、例えば実施例に記載した方法またはその他の方法により測定することができる。具体的には、PCIによるaPCの活性阻害作用は、PCIを抗PCI抗体とインキュベートした後、これをaPC溶液に加えてインキュベートし、aPCの活性を測定する。PCIを加えなかった場合(PCIによる阻害なしの条件下のaPC活性)および抗PCI抗体を加えなかった場合(PCIにより阻害した場合のaPC活性)のaPC活性の値を基に、抗PCI抗体がPCIによるaPC活性の阻害作用を阻害した割合が決定される。抗体とPCIとのインキュベーションにより、抗体を加えなかった場合よりもaPC活性に対するPCIの阻害の程度が低下すれば、この抗体はPCIが持つaPCの活性阻害作用を阻害する活性を有すると判断される。aPCの活性としては抗血液凝固作用が挙げられ、例えば公知の方法によりAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を測定して定量することができる。あるいは発色基質pyroGlu−Pro−Arg−pNA・HCl(S−2366)などの低分子化合物を用いてaPC活性をアッセイすることも可能である(実施例参照)。
Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIによる阻害については、例えばPCI、抗PCI抗体、トロンビン(Thr)、およびトロンボモデュリン(TM)をインキュベートし、その後、PCを加えてaPCの生成反応を行う。その後、aPC活性を測定して生成したaPC量を測定する。PCIを加えなかった場合(PCIによる阻害なしの条件下のaPC生成)および抗PCI抗体を加えなかった場合(PCIにより阻害した場合のaPC生成)のaPC活性の値を基に、PCIの「Thr/TM複合体によるaPC生成に対する阻害作用」における抗PCI抗体の阻害の割合が決定される。抗体の添加により、抗体を加えなかった場合よりもaPC生成に対するPCIの阻害の程度が低下すれば、この抗体はPCIが持つ「Thr/TM複合体によるaPC生成に対する阻害作用」を阻害する活性を有すると判断される。aPCの活性は上記と同様に定量することができる。
また本発明は、PCIに対して中和作用を有する抗PCI抗体のスクリーニング方法であって、i)抗PCI抗体を結合させたまたはさせていないPCIの、aPCの活性阻害作用を測定する工程、およびii)該抗体を結合させていないPCIに比べ、該抗体を結合させたPCIの該阻害作用が抑制されるような抗体を選択する工程、を含む方法を提供する。また本発明は、PCIに対して中和作用を有する抗PCI抗体のスクリーニング方法であって、i)抗PCI抗体を結合させたまたはさせていないPCIの、Thr/TM複合体によるaPC生成に対する阻害作用を測定する工程、およびii)該抗体を結合させていないPCIに比べ、該抗体を結合させたPCIの該阻害作用が抑制されるような抗体を選択する工程、を含む方法を提供する。また本発明は、これらのスクリーニング方法により得ることができる抗体を提供する。本発明の抗体は、血中におけるaPCの生成および/または活性の阻害を防止することにより、aPCの生体内での生成量および/または寿命を延長させて活性を増強することが可能である。
本発明の抗PCI抗体は、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、またはそれらの抗体の変異体であってもよい。均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。
本発明における「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団、即ち、集団を構成する個々の抗体が、天然において起こり得る少量で存在する変異体を除いては均一である抗体集団から得られた抗体を指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して作用するものである。さらに、異なる抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含む慣用なポリクローナル抗体調製物と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の抗原決定基に向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンにより汚染されていないハイブリドーマ培養により合成される点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団より得られた抗体の特性を示唆するものであって、抗体が特定の方法により製造されることを限定するものではない。例えば、本発明において用いられるモノクローナル抗体を、例えばハイブリドーマ法(Kohler and Milstein,Nature 256:495(1975))、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。本発明において使用するモノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al.,Nature 352:624−628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581−597(1991))。本発明におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖(H鎖)及び/または軽鎖(L鎖)の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、抗体変異体、並びに抗体の断片が含まれる(米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984))。
本発明において、「抗体変異体」とは、1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列バリアントを指す。例えば、抗体の可変領域を、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するために改変することができる。このような改変は、部位特異的変異(Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488(1985)参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。このような変異体は、抗体の重鎖若しくは軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となった抗体のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。
具体的には、塩基配列およびアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。例えば以下の方法により作製することができる。
動物の免疫に用いるPCIとしては、組換えDNA法又は化学合成により調製したPCIのアミノ酸配列の全部若しくは一部のペプチドなどが挙げられる。ヒトおよびその他の哺乳動物のPCIのアミノ酸配列は公知である(Suzuki,K.et al.,J.Biol.Chem.1987,262:611−616)。哺乳動物のPCIとしては、例えばマウス、ラット、またはウシなどのPCIを用いることができるがこれらに制限されない(Zechmeister−Machhart,M.,et.al.,Gene,186,(1),61−66,1997;Wakita,T.,et.al.,FEBS Lett.,429,263−268,(3),1998;Yuasa,J.,et.al.,Thromb.Haemost.83,(2),262−267,2000)。組み換えPCI蛋白質は、例えば実施例に記載したようにして調製することができる。抗原としてはPCIまたはその部分ペプチド自体を用いることもできるし、キャリアー蛋白質に結合させて免疫することもできる。キャリアー蛋白質を用いる場合は、例えば抗原であるPCIをキャリアー蛋白質(例えばサイログロブリン)に結合させた後、アジュバントを添加する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイントの不完全なアジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
上記のようにして得られた抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に投与する。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。抗原蛋白質の免疫量は1回にマウス1匹当たり、例えば10〜100μg(例えば20〜60μg)を用いることができる。
初回免疫前および2回目以降の免疫から3〜7日後に動物から採血し、血清を抗体力価について分析する。また、免疫応答を増幅するため、ミョウバン等の凝集剤が好ましくは用いられる。選択された哺乳動物抗体は通常、抗原に対して十分に強い結合親和性を有する。抗体の親和性は、飽和結合、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、及び競合分析(例えば、放射性免疫分析)により決定することができる。
ポリクローナル抗体のスクリーニング法としては、Antibodies,A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratoriey、Harlow and David Lane edit,(1988))に記載されるような慣用の交差結合分析を行うことができる。また、代わりに、例えば、エピトープマッピング(Champe et al.,J.Biol.Chem.270:1388−1394(1995))を行ってもよい。ポリペプチドまたは抗体の効力の測定方法として好ましいのは、抗体結合親和性の定量化を用いた方法であるが、その他の態様では、それに加えて、または結合親和性測定に代えて、抗体の1若しくはそれ以上の生物学的特性を評価する方法を含む。このような分析法は特に、抗体の治療的な有効性を示すので有用である。通常、必ずしもではないが、このような分析において改善された特性を示す抗体はまた、結合親和性も増幅されている。
モノクローナル抗体の調製におけるハイブリドーマの作製は、例えば、ミルステインらの方法(Kohler,G.,and Milstein,C.,Methods Enzymol.1981,73,3−46)等に準じて行うことができる。抗体産生細胞と融合させるミエローマ(骨髄腫)細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8−アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。ミエローマ細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えばP3x63Ag8.653(J.Immunol.(1979)123:1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81:1−7)、NS−1(Kohler,G.and Milstein,C.,Eur.J.Immunol.(1976)6:511−519)、MPC−11(Margulies,D.H.et al.,Cell(1976)8:405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(1978)276:269−270)、F0(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35:1−21)、S194(Trowbridge,I.S.,J.Exp.Med.(1978)148:313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277:131−133)、P3U1(J.Exp.Med.1979;150:580;Curr Top Microbiol.Immunol.1978;81:1)等が好適に使用される。また、ヒトミエローマ、及び、マウス−ヒトheteromyclomaセルラインも、ヒトモノクローナ抗体の産生に用いることができる(Kozbar,J.Immunol.133:3001(1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Application,pp.51−63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987))。抗体産生細胞は、例えば最終の免疫日から2〜3日後に犠牲死させた動物から採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞が挙げられるが、一般に脾臓細胞が用いられる。具体的には、前記各種動物から脾臓、リンパ節等を摘出又は採取し、これら組織を破砕する。得られる破砕物をPBS、DMEM、RPMI1640等の培地又は緩衝液に懸濁し、ステンレスメッシュ等で濾過後、遠心分離を行うことにより目的とする抗体産生細胞を調製する。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、混合比1:1〜1:20で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000(Da)のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法等が挙げられる。すなわち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地(HAT培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
また別の態様として、McCaffertyら(Nature 348:552−554(1990))により記載された技術を用いて製造された抗体ファージライブラリーより、抗体、または抗体断片を単離することができる。Clacksonら(Nature 352:624−628(1991))、及びMarksら(J.Mol.Biol.222:581−597(1991))は、各々、ファージライブラリーを用いたマウス及びヒト抗体の単離について記載している。また、高親和性(nM範囲)ヒト抗体のチェーンシャッフリングによる製造(Marks et al.,Bio/Technology 10:779−783(1992))、そして、巨大なファージライブラリーを構築するための方法としてのコンビナトリアル感染、及びin vivo組換え(Waterhouse et al.,Nucleic Acids Res.21:2265−2266(1993))などが知られている。これらの技術も、モノクローナル抗体の単離のために従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代えて利用し得る。
本発明の抗PCI中和抗体は、好適には以下のスクリーニングにより選択することができる。
・1次スクリーニング
抗体の結合特異性を、公知技術、例えばEIA(エンザイムイムノアッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ)、HTRF(homogenous time−resolved fluorescence)、または蛍光免疫法等(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)により測定し、PCIへ結合するものを選択する。
・2次スクリーニング
aPC/PCIアッセイおよび/またはThr/TM/PCIアッセイを行い、PCIに対する阻害の度合いが相対的に強い抗体を選択する。aPC/PCIアッセイとは、上記した、PCIが持つaPCの活性阻害作用のアッセイであり、Thr/TM/PCIアッセイとは、上記した、PCIが持つThr/TM複合体によるaPC生成(PCの活性化)に対する阻害作用のアッセイである。これらのPCIの作用に対する阻害の程度を測定し、その阻害の程度が相対的に高い抗体を選択する。例えば、ハイブリドーマなどの抗体産生細胞から得られた抗体を用いてアッセイしているならば、目的の活性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を同定し、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により生育させる(Goding,Monoclonal Antibodies:Principals an Practice,pp.59−103,Academic Press,1986)。培養培地としては、例えばD−MEMまたはRPIM−1640培地を用いることができる。スクリーニングを繰り返して、より強い抗PCI中和抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより、ハイブリドーマのクローニングを行うことが可能である。本発明は、本発明の抗体を産生するハイブリドーマに関する。
ハイブリドーマ培養上清(1/5(vol/vol))を用いた上記aPC/PCIアッセイにおいては、PCI非添加の場合の値を100、ハイブリドーマ培養上清の代わりにハイブリドーマ培養のための培養液(例えばHAT培地)を用いた場合を0としたPCI阻害活性の相対値で、好ましくは45以上、より好ましくは48以上、より好ましくは50以上、より好ましくは60以上、より好ましくは70以上、より好ましくは80以上、より好ましくは90以上の阻害活性を示すものが選択される。本発明は、このaPC/PCIアッセイにおいて、培養上清(1/5(vol/vol))中のPCI活性阻害の相対値が好ましくは45以上、より好ましくは48以上、より好ましくは50以上、より好ましくは60以上、より好ましくは70以上、より好ましくは80以上、より好ましくは90以上であるハイブリドーマを提供する。ハイブリドーマ培養上清のaPC/PCIアッセイは、例えば実施例に記載の方法に従って実施する。
ハイブリドーマ培養上清からは、常法により抗体を精製することができる。本発明の抗体は、抗体非添加の場合の値を100%、PCI非添加の場合を0%としたaPC/PCIアッセイにおいて、50%阻害濃度が好ましくは100μg/ml以下、より好ましくは80μg/ml以下、より好ましくは60μg/ml以下、より好ましくは50μg/ml以下、より好ましくは40μg/ml以下、より好ましくは25μg/ml以下、より好ましくは15μg/ml以下、より好ましくは12.5μg/ml以下である。あるいは本発明の抗体は、このaPC/PCIアッセイにおいて、抗体濃度25μg/mlにおけるPCI阻害の相対値が、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。精製抗体のaPC/PCIアッセイは、例えば実施例に記載の方法に従って実施する。50%阻害濃度を決定するには、抗体濃度を変えてアッセイを行い、グラフを作成して50%阻害に相当する抗体濃度を求めればよい。
また本発明の抗体は、好ましくはThr/TM/PCIに対する阻害活性を有している。本発明の抗体は、抗体非添加の場合の値を100%、PCI非添加の場合を0%としたThr/TM/PCIアッセイにおいて、50%阻害濃度が好ましくは200μg/ml以下、より好ましくは150μg/ml以下、より好ましくは100μg/ml以下、より好ましくは80μg/ml以下、より好ましくは50μg/ml以下、より好ましくは30μg/ml以下、より好ましくは25μg/ml以下である。あるいは本発明の抗体は、このThr/TM/PCIアッセイにおいて、抗体濃度25μg/mlにおけるPCI阻害の相対値が、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。精製抗体のThr/TM/PCIアッセイは、例えば実施例に記載の方法に従って実施する。50%阻害濃度を決定するには、抗体濃度を変えてアッセイを行い、グラフを作成して50%阻害に相当する抗体濃度を求めればよい。
本発明の抗体は、PC/PCIアッセイにおけるPCI阻害活性、またはThr/TM/PCIアッセイにおけるPCI阻害活性のどちらかを有していればよいが、より好ましくは、aPC/PCIアッセイにおけるPCI阻害活性、およびThr/TM/PCIアッセイにおけるPCI阻害活性の両者を有している。すなわち本発明の抗体としては、上記のaPC/PCIアッセイおよびThr/TM/PCIアッセイにおける50%阻害濃度が、それぞれ好ましくは100および200μg/ml以下、より好ましくは80および150μg/ml以下、より好ましくは60および100μg/ml以下、より好ましくは50および80μg/ml以下、より好ましくは40および50μg/ml以下、より好ましくは25および30μg/ml以下、より好ましくは15および25μg/ml以下、より好ましくは12.5および25μg/ml以下である抗体が含まれる。
本発明の抗体は、一般に、PCIとの結合力が強いものほど好ましいと考えられる。本発明の抗体は、PCIと相互作用における解離定数(KD)が、好ましくは50nM以下、より好ましくは20nM以下、より好ましくは10nM以下、より好ましくは5nM以下、より好ましくは3nM以下、より好ましくは1nM以下、より好ましくは0.8nM以下、より好ましくは0.6nM以下、より好ましくは0.4nM以下、より好ましくは0.2nM以下である。解離定数や、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、最大結合量(Rmax)などの結合速度論的パラメーターは、例えばBIACOREなどの表面プラズモン共鳴分析等により決定することができる。
また、本発明の抗体は、好ましくは血液によるaPCの不活性化を抑制する活性を有している。本発明の抗体は、血液によるaPCの不活性化を、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上抑制する抗体である。このような抑制レベルは不活性化抑制率(%)と定義され、血液により不活性化した場合のaPCの活性と同レベルのaPC活性を0%、しない場合のaPC活性と同レベルのaPC活性を100%とした相対値で表される。
不活性化抑制率は適宜抗体の用量を変えながら至適条件で測定すればよく、具体的には、以下の手順で決定することができる。10μg/mLのaPC(SIGMA、#P−2200)溶液10μLと40μLの抗体溶液(ハイブリドーマのスクリーニングであれば、例えばハイブリドーマ培養上清)あるいはコントロールとして抗体を含まない溶液(例えばミエローマ細胞の培養上清またはHAT培地など)を混合し、室温で一定時間(例えば60分)インキュベートする。この混合液に血漿(例えばヒト標準血漿)を50μL添加し、さらに室温で一定時間(例えば60分)インキュベートする。APTT試薬(例えばDADE BEHRING、GAA−200A)50μLを添加する。血漿とインキュベーションを行わないaPCの血液凝固時間は、APTT試薬添加直前に血漿に加えて測定する。例えば37℃で3分間インキュベートした後、20mmol/L CaCl(例えばDADE BEHRING、GMZ−310)50μLを添加し、凝固までの時間を測定する。血液凝固時間は、血液凝固自動測定装置(例えばAmelung、KC−10A)などにより測定することができる。
血漿とインキュベートしなかったaPCを加えた場合の凝固時間(a)を100%、コントロールとして抗体を含まない溶液(例えば上記のようにミエローマ細胞の培養上清またはHAT培地など)とインキュベート後に血漿とインキュベートしたaPCを加えた場合の凝固時間(b)を0%とし、該ハイブリドーマ培養上清などの抗体溶液とインキュベート後に血漿とインキュベートしたaPCを加えた場合の凝固時間(c)から、ハイブリドーマ培養上清などの抗体溶液の凝固時間延長に対する作用を求める(不活性化抑制率(%)={(c−b)/(a−b)}×100)。この値が大きいほど、aPC不活性化に対する抑制作用が強いと判断される。S−2366等の基質化合物を用いてaPC活性を測定する場合でも、上記と同様に抗体とインキュベートせずに血漿で不活性化させたaPC、および血漿とインキュベートしないaPCを比較に用いてaPC活性を測定し、不活性化抑制率(%)を算出することができる。
本発明の抗体は、例えばaPCまたはThrombinとの相互作用または選択性に関与するPCI部位に結合する抗体であってよい。PCIがThrombinおよびaPCと反応する部位は、シグナルペプチドが切断された後のヒトPCIにおけるArg354−Ser355(Suzuki,K.et al.,J.Biol.Chem.1987,262:611−616)である。また、PCIのThrombinへの選択性に関与する部位はPhe353、PCIのaPCへの選択性に関与する部位はThr35である(Cooper、S.T.et al.,Biochemistry 1995,34:12991−12997;Cooper,S.T.and Church,F.C.,Biochemica et Biophysica Acta,1246,29−33,1995)。本発明の抗体は、例えばPCI中のこれらのいずれかのアミノ酸あるいはその近傍(例えば10アミノ酸以内の部位)に結合する抗体が含まれる。このような抗体を作製するには、目的のPCI部分を含むオリゴペプチドを合成し、それを抗原として動物に免疫して抗体を産生させればよい。
また、PCIの作用の一つであるaPCの活性阻害はHeparin依存的であり、PCIのArg278、Arg362、およびLys276残基が、Heparinを介したPCI−aPCの相互作用に関与している(Lei Shen,el al.,Thromb.Haemost.,82,72−79,1999)。従って、これらのアミノ酸またはその近傍に結合する抗体は、PCIのaPC阻害を抑制する抗体の候補となる。
取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法等が挙げられる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10〜20%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地、又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO濃度)で2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を敢得する。腹水形成法においては、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水又は血清を採取する。腹水形成を促進するために、例えばプリスタン(2,6,10,14−tetramethylpentadecane)などを予め腹腔内投与することができる。
本発明で使用される抗体は、プロテインA−セファロース、プロテインG−セファロース、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、硫黄塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
また、本発明では、上記の方法にしたがって得られた抗体の遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl,A.K.Borrebaeck,James,W.Larrick,THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。本発明は、本発明の抗体を発現する細胞を提供する。本発明の抗体を発現する細胞としては、このような抗体遺伝子で形質転換された細胞、およびハイブリドーマが含まれる。
本発明の抗体として特に好適なのは、実施例において単離されたいずれかのモノクローナル抗体(PC19G8,PC23A7,PC23D8,PC30G1,PC31E2,PC31F1,またはPC39C6)の可変領域を含む抗体と抗体結合部位が重複する(または同一の)抗体である。このような抗体を、本発明においては、該モノクローナル抗体(PC19G8,PC23A7,PC23D8,PC30G1,PC31E2,PC31F1,またはPC39C6)のPCI結合部位と実質的に同じ部位に結合する抗体と呼ぶ。2つの抗体が抗原蛋白質の同じ部位に結合するかどうかは、例えば競合実験により決定することができる。具体的には、第一の抗PCI抗体とPCIとの結合が、第二の抗PCI抗体によって競合阻害を受けるとき、第一の抗体と第二の抗体は同じ抗原部位に結合していると判断される。例えば、PC19G8,PC23A7,PC23D8,PC30G1,PC31E2,PC31F1,またはPC39C6の抗体、あるいは、配列番号:8、9、10、11、12、13、または14に記載のアミノ酸配列を含むH鎖可変領域に対して、それぞれ配列番号:15、16、17、18、19、20、または21に記載のアミノ酸配列を含むL鎖可変領域を組み合わせた抗体のいずれかと、抗体結合部位が競合する抗体は、本発明の抗体に含まれる。あるいは、上記のモノクローナル抗体のエピトープを、PCIの部分ペプチドなどを用いた公知のエピトープマッピング法により解析し、同定されたエピトープを含むペプチドを抗原に用いて、これに結合する抗体を調製することにより、上記モノクローナル抗体のPCI結合部位と実質的に同じ部位に結合する抗体を得ることもできる。このような抗体は、aPC生成および/またはaPC活性に対して実施例で単離した抗体と同様の阻害作用を発揮することが期待される。このように、実施例で単離した抗体のPCI結合部位と実質的に同じ部位に結合する抗体であって、aPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体および/またはThr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体は本発明に含まれる。
また本発明の抗体には、実施例において単離されたいずれかのモノクローナル抗体(PC19G8,PC23A7,PC23D8,PC30G1,PC31E2,PC31F1,またはPC39C6)の相補性決定領域(CDRs)またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む抗体が含まれる。機能的に同等とは、実施例において単離されたいずれかのモノクローナル抗体のCDRsのアミノ酸配列と類似したアミノ酸配列を有し、PCIに結合してその機能を阻害する作用を有することを言う。CDRとは抗体の可変領域(V領域とも言う)に存在する抗原への結合の特異性を決定している領域であり、H鎖とL鎖にそれぞれ3箇所ずつ存在し、それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3と命名されている。CDRを挟むようにフレームワークと呼ばれるアミノ酸配列の保存性の高い4つの領域が介在する。CDRは他の抗体に移植することが可能であり、所望の抗体のフレームワークと組み合わせることにより組み換え抗体を作製することができる。また抗原に対する結合性を維持しながら1または数個のCDRのアミノ酸を改変することが可能である。例えば、CDR中の1または数個のアミノ酸を、置換、欠失、および/または付加することができる。
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.&Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、各CDRのアミノ酸の40%以内であり、好ましくは35%以内であり、さらに好ましくは30%以内(例えば、25%以内)である。アミノ酸配列の同一性は本明細書に記載したようにして決定すればよい。
本発明に含まれる抗体を例示すれば、例えばD(T/Y)(F/Y)(M/I)H(配列番号:49)、RID(Y/L)(V/E)(N/K)(G/V)N(T/I)(K/I)YDP(K/N)FQ(G/D)(配列番号:50)、およびGGYDV(R/P)(E/S)FAY(配列番号:51)(スラッシュで区切られたアミノ酸は、それらのいずれかのアミノ酸であることを表す)のアミノ酸配列からなる3つのCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを有する抗体が挙げられる。それぞれのアミノ酸配列は、抗体H鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。これらのCDRを、所望のH鎖可変領域のフレームワークの間のCDR1、CDR2、およびCDR3に相当する位置に挿入すれば、本発明のPCI中和抗体を作製することができる。このような抗体のH鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としてはDTFMH(配列番号:22)またはDYYIH(配列番号:23)、CDR2としてはRIDYVNGNTKYDPKFQG(配列番号:26)、RIDLVNVNTKYDPNFQD(配列番号:27)、またはRIDLEKGNIIYDPKFQG(配列番号:28)、CDR3としてはGGYDVREFAY(配列番号:32)、またはGGYDVPSFAY(配列番号:33)が用いられる。また、上記の各CDRのアミノ酸は、適宜置換などにより改変してもよい。例えば、各CDRのアミノ酸を保存的に置換することは本発明の範疇に含まれる。より具体的には、各CDRは、モノクローナル抗体PC23D8,PC19G8,PC23A7,またはPC39C6のH鎖のCDR1,2,および3の組み合わせを用いることができる(図5参照)。これらの抗体は、上記クローンと同等のPCI中和活性を有することが期待される。
上記のH鎖CDRを含む抗体にはく適宜抗体L鎖の可変領域を組み合わせて用いることができる。L鎖CDRとしては、例えばSA(T/S)SS(L/V)(I/S)YMH(配列番号:55)、STSNLASGVPA(配列番号:56)、およびRSSYPFT(配列番号:57)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを組み合わせることが好ましい。それぞれのアミノ酸配列は、抗体L鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。また、これらのL鎖CDRsは、上記のH鎖とは独立に用いてもよい。これらのCDRは、所望のL鎖可変領域のフレームワークの間のCDR1、CDR2、およびCDR3に相当する位置に挿入される。このような抗体のL鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としてはSATSSLIYMH(配列番号:37)またはSASSSVSYMH(配列番号:38)、CDR2としてはSTSNLASGVPA(配列番号:42)、CDR3としてはRSSYPFT(配列番号:46)が用いられるが、これらに制限されない。
具体的には、本発明の抗体には、以下のH鎖相補性決定領域を有する抗体であって、Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性および/またはaPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:49、50、および51に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:49、50、および51の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:49の3個以内、配列番号:50の8個以内、および配列番号:51の5個以内のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:49、50、および51とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:49の2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:50の7個以内、さらに好ましくは6個以内、さらに好ましくは5個以内、さらに好ましくは4個以内、さらに好ましくは3個以内である。また好ましくは配列番号:51の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
また本発明の抗体には、以下のL鎖相補性決定領域を有する抗体であって、Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性および/またはaPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:55、56、および57に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:55、56、および57の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:55の5個以内、配列番号:56の5個以内、および配列番号:57の4個以内のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:55、56、および57とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:55の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:56の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:57の3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。特に、上記のH鎖相補性決定領域とL鎖相補性決定領域の両方を有する抗体は、本発明の抗体として好適である。
また本発明の抗体としては、RYWMS(配列番号:52)、EINPDSSTI(N/T)YT(P/S)SLKD(配列番号:53)、および(F/L)FYYGTPDY(配列番号:54)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを有する抗体が挙げられる。上記と同様に、それぞれのアミノ酸配列は、抗体H鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に相当する。このような抗体のH鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としてはRYWMS(配列番号:24)、CDR2としてはEINPDSSTINYTPSLKD(配列番号:29)またはEINPDSSTITYTSSLKD(配列番号:30)、CDR3としてはFFYYGTPDY(配列番号:34)またはLFYYGTPDY(配列番号:35)が挙げられる。具体的には、モノクローナル抗体PC30G1またはPC31F1のH鎖のCDR1,2,および3の組み合わせを用いることができる。これらの抗体は、PC30G1またはPC31F1と同等のPCI中和活性を有することが期待される。この場合はL鎖CDRsとして、例えばKASQDVI(V/K)AVA(配列番号:58)、S(A/T)SYRYTGVPD(配列番号:59)、およびHYSSPPWT(配列番号:60)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを組み合わせることが好ましい。それぞれのアミノ酸配列は、抗体L鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。また、これらのL鎖CDRsは、上記のH鎖とは独立に用いてもよい。L鎖CDRとして好ましいアミノ酸配列をより具体的に例示すれば、CDR1としてはKASQDVIVAVA(配列番号:39)またはKASQDVIKAVA(配列番号:40)、CDR2としてはSASYRYTGVPD(配列番号:43)またはSTSYRYTGVPD(配列番号:44)、CDR3としてはHYSSPPWT(配列番号:47)が用いられるが、これらの配列には制限されない。
具体的には、本発明の抗体には、以下のH鎖相補性決定領域を有する抗体であって、Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性および/またはaPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:52、53、および54に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:52、53、および54の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:52の3個以内、配列番号:53の8個以内、および配列番号:54の5個以内のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:52、53、および54とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:52の2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:53の7個以内、さらに好ましくは6個以内、さらに好ましくは5個以内、さらに好ましくは4個以内、さらに好ましくは3個以内である。また好ましくは配列番号:54の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
また本発明の抗体には、以下のL鎖相補性決定領域を有する抗体であって、Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性および/またはaPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:58、59、および60に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:58、59、および60の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:58の5個以内、配列番号:59の5個以内、および配列番号:60の4個以内のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:58、59、および60とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:58の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:59の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:60の3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。特に、上記のH鎖相補性決定領域とL鎖相補性決定領域の両方を有する抗体は、本発明の抗体として好適である。
また本発明の抗体としては、TYPIE(配列番号:25)、KFHPDNDDTNYNEKFKG(配列番号:31)、およびGHDYDYGMDY(配列番号:36)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを有する抗体が挙げられる。上記と同様に、それぞれのアミノ酸配列は、抗体H鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に相当する。これらの抗体は、PC31E2と同等のPCI中和活性を有することが期待される。この場合はL鎖CDRとして、例えばKASQSVDYDGDSYLN(配列番号:41)、GASNLESGTPA(配列番号:45)、およびSNEDPPT(配列番号:48)のアミノ酸配列からなるCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを組み合わせることが好ましい。それぞれのアミノ酸配列は、抗体L鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。
具体的には、本発明の抗体には、以下のH鎖相補性決定領域を有する抗体であって、Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性および/またはaPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:25、31、および36に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:25、31、および36の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:25の3個以内、配列番号:31の8個以内、および配列番号:36の5個以内のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:25、31、および36とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:25の2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:31の7個以内、さらに好ましくは6個以内、さらに好ましくは5個以内、さらに好ましくは4個以内、さらに好ましくは3個以内である。また好ましくは配列番号:36の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
また本発明の抗体には、以下のL鎖相補性決定領域を有する抗体であって、Thr/TM複合体によるaPC生成に対するPCIの阻害作用を阻害する活性および/またはaPC活性に対するPCIの阻害作用を阻害する活性を有する抗体が含まれる。
(a)配列番号:41、45、および48に記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(b)配列番号:41、45、および48の任意のアミノ酸を保存的置換した配列からなる相補性決定領域。
(c)配列番号:41の5個以内、配列番号:45の5個以内、および配列番号:48の4個以内のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(d)配列番号:41、45、および48とそれぞれ70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相補性決定領域。
(c)におけるアミノ酸の改変数は、好ましくは配列番号:41の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:45の4個以内、さらに好ましくは3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また好ましくは配列番号:48の3個以内、さらに好ましくは2個以内、さらに好ましくは1個である。また(d)における同一性は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。特に、上記のH鎖相補性決定領域とL鎖相補性決定領域の両方を有する抗体は、本発明の抗体として好適である。
CDRのアミノ酸配列を改変するには、例えばアミノ酸配列を改変したCDRを含む可変領域をコードするオリゴヌクレオチドを合成し、これらを基にPCRにより可変領域をコードする核酸を生成させる。これを適当な発現ベクターに組み込んで発現させることにより、所望のCDRを有する抗体を得ることができる。例えば、オリゴヌクレオチドの合成時に塩基を混合させて、CDRの特定の位置に様々なアミノ酸を有する抗体をコードするDNAライブラリーを作製する。このライブラリーから、PCIに結合しその機能を抑制する抗体をコードするクローンを選択することによって、本発明の抗体を得ることができる。本発明は、本発明の抗体をコードする核酸、該核酸を含むベクター、および該核酸または該ベクターを含む宿主細胞に関する。核酸はDNAであってもRNAであってもよい。ベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルスベクター等の公知の所望のベクターであってよい。宿主細胞は、バクテリア、酵母、昆虫、植物細胞、および哺乳動物細胞などが含まれる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体などが挙げられ、例えばヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体が挙げられる。このような抗体は、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体などの非ヒト抗体の重鎖または軽鎖の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域に置き換えたものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(例えば、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986);Reichmann et al.,Nature 332:323−329(1988);Presta Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)参照)。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体に導入させたCDRまたはフレームワーク配列のどちらにも含まれないアミノ酸残基を含んでいてもよい。通常、このようなアミノ酸残基の導入は、抗体の抗原認識・結合能力をより正確に至適化するために行われる。例えば必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の一部または全てのレパートリーを有するトランスジェニック(Tg)動物を抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(Nature Genetics 7:13−21(1994);Nature Genetics 15:146−156(1997);Nature 368:856−859(1994);国際特許出願公開番号WO 93/12227,WO 92/03918,WO 94/02602,WO 94/25585,WO 96/34096,WO 96/33735参照)。このようなTg動物は、具体的には、非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome,YAC)ベクターなどを介してヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物およびTg動物の作製、およびこれらの動物同士の掛け合わせにより作り出す。免疫グロブリン重鎖遺伝子座の機能的な不活性化には、例えば、J領域またはC領域(例えばCμ領域)の一部に障害を導入することにより達成でき、免疫グロブリン軽鎖(例えばκ鎖)の機能的不活性化には、例えば、J領域若しくはC領域の一部、またはJ領域及びC領域にまたがる領域を含む領域に障害を導入することにより達成可能である。
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト化抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体を培養上清中から得ることもできる。ここで、該宿主は例えば所望の真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞である。
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、WO 92/01047,WO 92/20791,WO 93/06213,WO 93/11236,WO 93/19172,WO 95/01438,WO 95/15388を参考に実施することができる。
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO,COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、Sf9,Sf21,Tn5など、あるいはカイコなどの個体が挙げられる。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
本発明の抗体のアイソタイプとしては制限はなく、例えばIgG(IgG1,IgG2,IgG3,IgG4)、IgM、IgA(IgA1,IgA2)、IgDあるいはIgE等が挙げられるが、好ましくはIgGまたはIgMである。また本発明の抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の断片又はその修飾物であってもよい。「抗体断片」とは、全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合領域または可変領域を含む断片のことである。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)、Fv、または重鎖および軽鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、diabody(diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体などが挙げられる。従来、抗体断片は天然の抗体のプロテアーゼによる消化により製造されてきたが、現在では、遺伝子工学的に組み換え抗体として発現させること方法も公知である(Morimoto et al.,Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107−117(1992);Brennan et al.,Science 229:81(1985);Co,M.S.et al.,J.Immunol.,1994,152,2968−2976;Better,M.& Horwitz,A.H.,Methods in Enzymology,1989,178,476−496,Academic Press,Inc.;Plueckthun,A.& Skerra,A.,Methods in Enzymology,1989,178,476−496,Academic Press,Inc.;Lamoyi,E.,Methods in Enzymology,1989,121,663−669;Bird,R.E.et al.,TIBTECH,1991,9,132−137参照)。
「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含むものである。この領域は1つの重鎖および軽鎖の可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである(V−Vダイマー)。各可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)が相互作用し、V−Vダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。即ち、重鎖と軽鎖をあわせて6つのCDRが抗体の抗原結合部位として機能している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位を含む場合よりは低い親和性ではあるものの、抗原を認識し、結合する能力を有していることが知られている。従って、本発明における抗体断片はFv断片が好ましいが、これに限定されるものではなく、重鎖または軽鎖のCDRが保存され抗原を認識し、結合する能力を有する抗体の断片を含むポリペプチドであってよい。
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、軽鎖の定常領域および重鎖の定常領域(CH1)を含む。例えば抗体のパパイン消化により、Fab断片と呼ばれる、1つの抗原結合部位を形成する重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合断片、及び、残りの容易に結晶化するために「Fc」と呼ばれる断片が生じる。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域の1またはそれ以上のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数個の残基を付加的に有する点でFab断片と異なるが、1つの抗原結合部位を形成する重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合断片である点で構造的にFabと同等である。本発明においては、プロテアーゼによる消化で生成した抗体断片と同一でなくても、パパイン消化により得られるものと同等な、1つの抗原結合部位を形成する重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合断片をFab様抗体と称する。Fab’−SHとは、定常領域の1またはそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab’を示すものである。F(ab’)断片は、F(ab’)のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られている。抗体をペプシンで消化すると、2つの抗原結合部位を有し、抗原を交差結合し得るF(ab’)断片、及び、残りの別な断片(pFc’と呼ばれる)が得られる。本発明において、ペプシン消化により得られるのも同等な、2つの抗原結合部位を有し抗原を交差結合し得る抗体断片をF(ab’)様抗体と称する。例えば、これらの抗体断片は組換技術により製造することも可能である。例えば、上述の抗体ファージライブラリーから抗体断片を単離することもできる。また、大腸菌等の宿主より直接F(ab’)−SH断片を回収し、F(ab’)断片の形態に化学的結合させることもできる(Carter et al.,Bio/Technology10:163−167(1992))。さらにまた別の方法としては、F(ab’)断片を直接、組換宿主培養物から単離することもできる。
さらに、本発明で使用される抗体は多特異性抗体であってもよい。多特異性抗体は、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する抗体である。通常このような分子は2個の抗原を結合するものであるが(即ち、二重特異性抗体(bispecific antibody))、本発明における「多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類)の抗原に対して特異性を有する抗体を包含するものである。多特異性抗体は全長からなる抗体、またはそのような抗体の断片(例えば、F(ab’)二特異性抗体)であり得る。二重特異性抗体は2種類の抗体の重鎖と軽鎖(HL対)を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる(Millstein et al.,Nature 305:537−539(1983))。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。具体的には、結合特異性を有する抗体の可変領域を免疫グロブリンの定常ドメイン配列に融合する。該定常ドメイン配列は、好ましくは免疫グロブリンの重鎖の定常領域の内、ヒンジ、CH2及びCH3領域の一部を少なくとも含むものである。好ましくは、さらに軽鎖との結合に必要な重鎖のCH1領域が含まれる。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、及び、所望により免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAをそれぞれ別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に形質転換する。別々の発現ベクターに各遺伝子を挿入することにより、それぞれの鎖の存在割合が同じでない方が、得られる抗体の収量が上がる場合に、各鎖の発現割合の調節が可能となり都合が良いが、当然ながら、複数の鎖をコードする遺伝子を一つのベクターに挿入して用いることも可能である。
ダイアボディ(diabody;Db)は、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(P.Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448(1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。一般にダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中で軽鎖可変領域(V)及び重鎖可変領域(V)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVとVとは、その間のリンカーが短いため単鎖V領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。このとき2つの異なる抗原(a、b)に対するVとVをVa−VbとVb−Vaの組合わせで5残基程度のリンカーで結んだものを同時に発現させると二種特異性Dbとして分泌される。本発明の抗体としては、このようなDbであってもよい。
一本鎖抗体(scFvとも記載する)は、抗体の重鎖V領域と軽鎖V領域とを連結することにより得られる。scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg及びMoore編、Springer Verlag,New York,pp.269−315(1994))参照。一本鎖抗体を作成する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。このscFvにおいて、重鎖V領域と軽鎖V領域は、リンカー、好ましくはポリペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,1988,85,5879−5883)。scFvにおける重鎖V領域および軽鎖V領域は、同一の抗体に由来してもよく、別々の抗体に由来してもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えば12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。scFvをコードするDNAは、前記抗体の重鎖または重鎖V領域をコードするDNA、および軽鎖または軽鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらの抗体も包含される。
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization:A Laboratoy Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)が、これらに限定されるものではない。クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Sepharose F.F.(Pharmacia)等が挙げられる。また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
本発明は、本発明の抗体を含む、PCIの活性の阻害剤を提供する。また本発明は、本発明の抗体の、PCIの活性の阻害のための使用に関する。また本発明は、本発明の抗体とPCIとを接触させる工程を含む、PCIの活性を阻害する方法に関する。本発明の抗体をPCIと接触させることにより、PCIによるaPC生成の阻害および/またはPCIによるaPC活性の阻害を抑制することができる。また本発明は、本発明の抗体を含む、aPCの生成および/または活性の増強剤を提供する。また本発明は、本発明の抗体の、aPCの生成および/または活性の増強のための使用に関する。本発明の抗体をPCIと接触させる工程により、PCIの阻害を通して、内在性または外来のPCの活性化の低下および/またはaPC活性の低下を抑制することが可能である。本発明の抗体を投与する場合、抗体は単独で投与することも可能であり、また、PCおよび/またはaPCと併用することも可能である。
aPCは血液凝固および炎症を抑制する作用が知られており、本発明のPCI中和抗体を投与する工程により、血液凝固または炎症を抑制するaPCの効果を高めることが可能となる。本発明は、本発明の抗体を投与する工程を含む、血液凝固または炎症を抑制する方法に関する。該方法においては、さらにPCおよび/またはaPCを投与する工程を含んでもよい。この場合、PCおよび/またはaPCと本発明の抗体とを予め混合しておき、それを投与することができるし、別々に投与してもよい。本発明の抗体を有効成分として含有する医薬製剤を用いることにより、aPCによる処置(例えば血栓症および敗血症等の予防および治療)におけるaPCの効果をより高めることが可能となる。なお本発明の抗体を「有効成分として含有する」とは、本発明の抗体を活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、本発明の抗体の含有率を制限するものではない。本発明の抗体は、活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に有用であり、その中でも血液凝固反応の亢進および/または炎症反応の亢進によって惹起される疾患の予防および/または治療に特に有効である。そのような疾患としては、具体的には例えば動脈血栓症、静脈血栓症、播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation;DIC)症候群、敗血症等が挙げられる。
また本発明は、(a)本発明の抗体、および(b)PCおよび/またはaPCを含むキットを提供する。このキットは、活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に使用することができる。さらに本発明は、活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に使用されるキットであって、(a)PC、aPC、および本発明の抗体からなる群から選択される少なくとも一つ、および(b)治療有効量のPCおよび/またはaPCと該抗体とを併用することの記載または該記載へのリンクを含む記録媒体、を含むキットを提供する。このような疾患としては、上記のように血液凝固反応の亢進および/または炎症反応の亢進によって惹起される疾患が挙げられ、具体的には動脈血栓症、静脈血栓症、DIC、敗血症等が含まれる。本キットは、内因的aPCあるいは生体外から投与したPCまたはaPCの体内における活性を相対的に上昇させるために有用であり、これにより上記疾患の予防および治療を行うことができる。記録媒体としては、紙およびプラスチックなどの印刷媒体、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、デジタルビデオディスク(DVD)、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体など所望の記録媒体が挙げられる。典型的には、キットに添付される指示書などが挙げられ、そこに治療有効量のPCおよび/またはaPCと本発明の抗体とを併用することが記載されているものであってよい。リンクとは、直接には治療有効量のPCおよび/またはaPCと該抗体とを併用することは記載されていないが、印などによって該記載と関連付けられていることを言い、その印を通して該記載にたどり着ける場合である。例えば指示書には別紙またはURLなどを参照するように指示または示唆する記載があり、別紙またはURLに該記載がある場合などが含まれる。このようなリンクは、3回までの参照(リンクの深さが3以内)で該記載までたどり着けることが好ましく、より好ましくは2回の参照(リンクの深さが2)、より好ましくは1回の参照(リンクの深さが1)である。
本発明の抗体は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の抗体はこれらの投与量に制限されるものではない。
本発明の抗体は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,latest edition,Mark Publishing Company,Easton,U.S.A)、医薬的に許容される担体および/または添加物を供に含むものであってもよい。例えば界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(”Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition”,Oslo Ed.(1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.15:167−277(1981);Langer,Chem.Tech.12:98−105(1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号;Sidman et al.,Biopolymers 22:547−556(1983);EP第133,988号)。
また、本発明の抗体をコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、HVJベクター等の各種ウイルスベクターとして形成するか(Adolph『ウイルスゲノム法』,CRC Press,Florid(1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内において抗体が発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入または筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、添鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウイルス感染を利用して細胞に投与し、該細胞を動物に再導入することにより本発明の抗体をコードする遺伝子を投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
図1は、PCI cDNAの塩基配列(タグなし)を示す図である。全長PCI遺伝子の塩基配列を示した。動物細胞用発現ベクター(pCHOI)のEcoRI−BamHI間に挿入する目的で5’末端および3’末端にそれぞれEcoRIおよびBamHI認識配列(下線)を、さらに転写効率を上げるために開始コドンの手前にKozak配列を付加してある。塩基配列を配列番号:4、アミノ酸配列を配列番号:5とした。
図2は、PCI cDNAの塩基配列(FLAGタグ付き)を示す図である。Flagタグ付きのPCI遺伝子の塩基配列を示した。動物細胞用発現ベクター(pCHO2−FLAG)のEcoRI−BamHI間に全長PCIをコードするcDNAを挿入することにより、全長PCI遺伝子の3’側にFlag配列(波線)を付加した。塩基配列を配列番号:6、アミノ酸配列を配列番号:7とした。
図3は、PCI−FlagおよびPCIのSDS−PAGEとウェスタンブロッティングによる分析結果を示す写真である。(A)PCI−Flag(レーン1および2)、または(B)タグなしのPCI(レーン3および4)をSDS−PAGEにより分離し、クマシーブルー染色(レーン1および3)または抗PCI抗体を用いたウェスタンブロッティング(レーン2および4)により検出した。
図4は、各抗PCI抗体のaPC/PCIおよびThr/TM/PCIアッセイにおける中和活性の比較を示す図である。白い円はaPC/PCIアッセイ、黒い円はThr/TM/PCIアッセイの結果を表す。PCI非添加時を100%とし、PCI添加で抗体非添加時を0%とした時の相対値で示した。
図5は、各抗PCI中和抗体のH鎖のアミノ酸配列を示す図である。CDR1、2および3を囲みで示した。図中のアミノ酸配列は上から順に配列番号:8〜14とした。
図6は、各抗PCI中和抗体のL鎖のアミノ酸配列を示す図である。CDR1、2および3を囲みで示した。図中のアミノ酸配列は上から順に配列番号:15〜21とした。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書に引用された文献は、全て本明細書の一部として組み込まれる。
[実施例1] PCI発現ベクターの構築
1.1 PCI遺伝子のクローニング
全長PCI遺伝子のクローニングは以下のプライマーを用いたPCR法によって行った。

Human kidney marathon ready cDNA(Clontech)を鋳型にして上記プライマーによりPCRを行い、5’末端にEcoRI配列、3’末端にBamHI配列を持つ全ORFを含むヒトPCI遺伝子を増幅した。増幅されたDNA断片をEcoRIとBamHIで消化し、動物細胞発現ベクターであるpCHOIのEcoRIとBamHI切断部位に挿入した。ベクター中のPCI遺伝子について塩基配列を解析し、正しい配列を有したプラスミドを選別することでpCHOI−PCIベクター構築を完了した。(図1)
また、Flagタグ付きPCI(PCI−Flag)発現ベクターの構築は以下のとおり行った。pCHOI−PCIベクターを鋳型にして、PCI−up及びPCI−low2プライマーを用いてPCRを行いPCI遺伝子の増幅を行った。

このDNA断片をEcoRIとBamHIで消化し、クローニングサイトの直後にFlagタグを持つ動物細胞発現ベクターpCHOII−FlagのEcoRIとBamHI切断部位に挿入した。塩基配列を確認し、pCHOII−PCI−Flagの構築を完了した。(図2)
1.2 PCIおよびPCI−Flag産生細胞株の樹立
pCHOI−PCI、pCHOII−PCI−FlagをそれぞれPvuIで切断し、直鎖化を行った。このDNA30μgをCHO細胞(DXB11株)にエレクトロポレーション法により導入した。その後、細胞を5%FBS(GIBCO BRL CAT#10099−141)を添加したα(−)MEM(核酸未含有)(GIBCO BRL CAT#12561−056)で培養し、PCIあるいはPCI−Flag産生株の選抜を行った。この段階で得られた細胞株を、終濃度50nMとなるようにMTXを加えた同培地で培養し、高産生細胞株を樹立した。PCIおよびPCI−Flagの発現は抗PCI抗体(Affinity Biologicals CAT#GAPCI−IG)を用いて確認した。
[実施例2] PCI−Flagの精製
PCI−Flag高発現CHO株を、ローラーボトル(1700cm)を用いて、5%FBSを添加したα(−)MEM(核酸未含有)培地中で培養を行った。細胞がコンフルエントになるまで培養(37℃、0.5rpm)した後、培地除去およびPBSによる洗浄を行い、CHO−S−SFMII培地(GIBCO BRL CAT#12052−098)を添加し72時間培養した。得られた培養上清は、遠心分離により細胞破砕物を除去後、0.45μmフィルターによりろ過して以下の精製に用いた。培養上清を0.05%Tween20を含む50mMトリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したCM sepharose Fast Flowカラム(Amersham CAT# 17−0719−01)に添加し、洗浄後、400mM NaClを含む同緩衝液により溶出した。溶出画分をNaCl濃度が200mMとなるよう希釈し、150mM NaClと0.05% Tween20を含む50mMトリス緩衝液(pH7.4)で平衡化したAnti−Flag M2 agarose affinity gelカラム(SIGMA CAT#A−2220)に添加した。溶出は0.05% Tween20を含む100mMグリシン緩衝液(pH3.5)により行い、溶出画分は1Mトリス緩衝液(pH8.0)にて、直ちに中和した。次に、PCI−Flagを含む画分を0.05% Tween20を含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したCM sepharose Fast Flowカラムに添加後、400mMのNaClを含む同緩衝液で溶出を行うことにより溶媒置換を行った。さらにCentricon YM−3(Amicon)による限外ろ過濃縮を行い、PCI−Flagを調製した。精製タンパクはSDS−PAGEにより分離したのち、クマシー染色、およびPVDF膜へ転写し、抗PCI抗体によるウエスタン解析により確認した。(図3A)
[実施例3] PCIの精製
PCI高発現CHO株を、上記同様の方法にてローラーボトル(1700cm)を用い、培養上清を調製した。培養上清を0.05% Tween20を含む50mMトリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したCM sepharose Fast Flowに添加し、洗浄後、400mM NaClを含む同緩衝液により溶出した。次に、PCIを含む画分を0.05% Tween20を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したHiTrap Heparin HP(Amersham CAT# 17−0407−01)カラムに添加し、段階的にNaCl濃度(0mMから1000mM)を上昇させることにより溶出を行った。溶出画分をSuperdex 200 26/60カラム(Amersham CAT# 17−1071−01)に添加し、分子量に従って分画した。溶媒には0.01% Tween20を含むPBS(PBS−T)を用いた。これを2回繰り返し、PCIを精製した。精製タンパクはSDS−PAGEにより分離したのち、クマシー染色およびPVDF膜へ転写し抗PCI抗体によるウエスタン解析で確認した。(図3B)
[実施例4] PCIに対する中和活性を持つ抗PCI抗体の作製
4.1 免疫及びハイブリドーマの作製
PCI−Flagを免疫抗原として、Balb/cマウス(雌、13週齢、日本チャールズリバー)5匹に定法に従い免疫を行った。初回免疫には抗原を100μg/headとなるように調製し、FCA{フロイント完全アジュバント(H37 Ra)、Difco(3113−60)ベクトンディッキンソン(cat#231131)}を用いてエマルジョン化したものを皮下に投与し、2週間後に50μg/headとなるように調製したものをFIA{フロイント不完全アジュバント、Difco(0639−60)、ベクトンディッキンソン(cat#263910)}でエマルジョン化したものを皮下に投与した。以降、2週間間隔で追加免疫を合計5回行い、最終免疫については50μg/headとなるようにPBSに希釈し尾静脈内または皮下に投与した。PCIを0.5μg/ml,100μl/wellでコートしたイムノプレートを用いたELISAによりPCIに対する血清中の抗体価が上昇しているのを確認後、No.2マウスは尾静脈内、No.4マウスは皮下に最終免疫を施し、定法に従い、マウスミエローマ細胞P3U1とマウス脾臓細胞を混合し、PEG1500(ロシュ・ダイアグノスティック、cat#783 641)により細胞融合を行った。それぞれマウス由来のハイブリドーマは96穴培養プレート16枚ずつ培養した。フュージョン翌日よりHAT培地{10%FBS/RPMI1640/1x HAT media supplement(SIGMA CAT# H−0262)/4% BM−Condimed H1 Hybridoma cloning supplement(Roche CAT# 1088947)}で選択を開始し、フュージョン後10日目に培養上清を回収しELISAスクリーニングを行った。ELISAスクリーニングは前述の抗体価測定と同様にPCIを0.5μg/ml,100μl/wellでコートしたイムノプレートを用いて行った。
4.2 スクリーニング
4.2.1 ELISA
PCIを用いたELISAスクリーニングにより陽性ウェルを選択した。選択した陽性ウェルは24ウェルプレートに拡大した後、限界希釈法(1陽性ウェルの細胞100個を96ウェルプレート1枚に播き込む)によりクローニングした。クローニングしたハイブリドーマを拡大培養し、培養上清から抗体の精製を行った。290個の陽性ウェルを選択し24ウェルプレートに拡大した後、1次スクリーニングでOD値の高かった方から111個を選び、限界希釈法によりクローニングを行った。限界希釈を行わなかった179個は培養上清を回収し、細胞の保存のみを行った。111個の限界希釈を行ったウェルから最終的に抗体を安定に産生する81クローンを樹立した。
4.2.2 aPC/PCIアッセイ
aPC/PCIアッセイによるPCIに対する中和活性の測定法は、反応液(50mM Tris−HCl(pH8.0),150mM NaCl,2mM CaCl,0.1% BSA,5U/ml Heparin)にハイブリドーマの培養上清または精製抗体、及び5μg/ml PCIを添加して37℃、30分加温した。0.25μg/ml aPCを添加してさらに37℃、30分加温した。0.4mM Spectrozyme aPC(American Diagnostica Inc.)を添加し室温で2時間反応させた後、405nmで比色した。(以上、表示濃度はすべて最終濃度)。単一クローン化したハイブリドーマの培養上清81検体について、aPC/PCIアッセイを行い、PCI活性が中和されることによりaPC活性が回復されるクローンの選抜を行った。PCIに対する中和活性が強かったクローンから順番に16クローンを選択し、培養上清からProtein Gカラムにて抗体の精製を行った。精製した抗体を用いて、aPC/PCIアッセイを行ったところ、16クローン中8クローンに抗体の用量に依存した強い中和活性が確認された。これらのうち7クローンの用量依存曲線を図4に示した。
4.2.3 Thrombin(Thr)/Thrombomodulin(TM)/PCIアッセイ
Thrombin(Thr)/Thrombomodulin(TM)/PCIアッセイによるPCIに対する中和活性の測定法は、反応液(50mM Tris−HCl(pH8.0),150mM NaCl,2mM CaCl,0.1%BSA,5U/ml Heparin)に精製抗体、5μg/ml PCI、2nM Thr、10nM TMを添加して37℃、30分加温した。0.73μg/ml PCを添加してさらに37℃、50分加温した後、0.875μg/ml argathrobanを加えて反応を停止した。0.4mM Spectrozyme aPCを添加し室温で2時間反応させた後、405nmで比色した。(以上、表示濃度はすべて最終濃度)。
精製した抗体でaPC/PCIアッセイにて中和活性が確認された7クローンについてThr/TM/PCIアッセイを行った。その結果、7クローン中3クローン(PC31E2、PC31F1、およびPC30G1)について用量に依存した強い中和活性が確認された(図4)。
4.3 抗体精製
アイソタイプがIgG1、IgG2a、IgG2bであった抗体は、それぞれハイブリドーマ培養上清を20mM リン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したHi Trap Protein G HP(Amersham CAT# 17−0404−01)に添加し、洗浄後、0.1Mグリシン緩衝液(pH2.7)で溶出することにより精製した。溶出画分は1Mトリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和を行った。抗体を含む画分をプールした後、0.05% Tween20を含むPBSで一昼夜、透析を行い溶媒置換後、0.02%となるようにNaNを添加した。
4.4 抗PCI抗体のアイソタイプ解析
抗PCI抗体のアイソタイピングは、ImmunoPure Monoclonal Antibody Isotyping Kit II(PIERCE CAT# 37502)を用い、方法は添付のマニュアルに従った。樹立した抗PCI抗体81クローンについてアイソタイプ解析をしたところ、IgG1が70クローン、IgG2aが6クローン、IgG2bが4クローン、IgMが1クローンであった。
4.5 BIACOREによる抗PCI抗体の速度論的解析
10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で25μg/mlに希釈したPCI−Flagを用いて、アミンカップリングキット(BIACORE社、BR−1000−50)に記載された方法にて、センサーチップCM5(BIACORE社、BR−1000−14)にアミンカップリングした。この操作にて約3000RUのPCI−Flagが、CM5チップ上に固定化された。このセンサーチップを用いてBIACORE2000により以下の速度論的解析を行った。各抗PCI抗体をHBS−EP緩衝液(BIACORE社、BR−1001−88)にて希釈して、1.25、2.5、5、10、20μg/mlになるように調製した。チップをHBS−EP緩衝液で平衡化後、流速20μl/minにて各濃度の抗体40μlを添加した。抗体を添加中の2分間を結合相とし、その後HBS−EP緩衝液に切り換え、2分間を解離相とした。解離相終了後、40μlの10mM塩酸、及び40μlの0.05%SDSを連続して添加することにより、センサーチップを再生した。この操作により得られたセンサーグラムを重ね書きし、データ解析用ソフト(BIAevaluation,ver.3.0)にて結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、解離定数(KD)、最大結合量(Rmax)を算出した。
精製抗体を用いたaPC/PCIアッセイにてPCIに対する強い中和活性の認められた8つのクローンについてBIACOREによる速度論的解析を行った結果、解離定数が10−9〜10−10Mで比較的高親和性の抗体が多く含まれていることが明らかとなった。表1に得られたクローンの抗PCI抗体の性質をまとめた。

[実施例5] 抗PCI中和抗体のH鎖及びL鎖の解析
各抗体を産生するハイブリドーマ約1×10個の細胞よりRNeasy Plant Mini Kits(QIAGEN、Cat.No.74904)を用いてtotal RNAの抽出を行った。SMART RACE cDNA Amplification Kit(Clontech、Cat.No.K1811−1)を用いて、total RNAからcDNAの合成を行った。PC19G8、PC30G1、PC31E2、PC31F1、PC39C6はIgG1の定常領域特異的なプライマー、またPC23A7、PC23D8はIgG2aの定常領域特異的なプライマーを用いてAdvantage2 PCR Kitにて5’−RACEによるPCRを行い、H鎖及びL鎖の増幅を行った。増幅されたH鎖及びL鎖のDNA断片はpGEM−T easy vector(Promega、Cat.No.A1360)を用いてクローニングし、塩基配列の決定を行った。
得られた塩基配列を解析した結果、H鎖及びL鎖の可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ図5及び6に示したようになった。PC19G8、PC23D8はアミノ酸配列が一致したことから、同一クローン由来の抗体であることが予測された。ただし、Isotypeは、PC19G8はIgG1でPC23D8はIgG2aであったので、クラススイッチが起きたと考えられた。PC23A7及びPC39C6は上記2クローンの抗体に類似した配列を有しており、これら4クローンの抗体のエピトープが近傍にあることが予測された。一方、PC30G1とPC31F1の配列は、前述の4クローンの抗体との類似性は低かったが、これら2クローンは類似の配列を有していたのでお互いのエピトープは近いことが予測された。PC31E2の配列に関しては他の6クローンとは類似性が低いことが明らかとなった。PC19G8、PC23A7、PC23D8、PC39C6はaPC−PCI系のみ、またPC30G1、PC31E2、PC31F1はaPC−PCI系及びThr−TM−PCI系の両方を抑制することから、配列上のグループ分けがPCIに対する中和活性の様式にほぼ反映していることが推察された。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、PCIに対し中和作用を有する抗PCI抗体が提供された。本発明の抗体は、aPCの生成および酵素活性を阻害するPCIに対して、その活性を阻害するように働くことを通してaPCの活性を維持し、血液凝固系の活性化の抑制または抗炎症作用などのaPCの生理活性の効果を持続させる働きを有する。本発明の抗体は、活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患または傷害の予防または治療に用いることができ、特に血栓症および敗血症などのaPCによる予防および治療において有用である。
【配列表】








































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PCI抗体であって、(a)活性化プロテインC(aPC)活性に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、または(b)トロンビン/トロンボモデュリン(Thr/TM)複合体による活性化プロテインC(aPC)生成に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、の少なくともいずれかを有する抗体。
【請求項2】
抗PCI抗体であって、(a)活性化プロテインC(aPC)活性に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、および(b)トロンビン/トロンボモデュリン(Thr/TM)複合体による活性化プロテインC(aPC)生成に対するプロテインCインヒビター(PCI)の阻害作用を阻害する活性、の両方を有する抗体。
【請求項3】
PC19G8、PC23A7、PC23D8、PC30G1、PC31E2、PC31F1、およびPC39C6からなる群より選択される抗体の可変領域を含む抗体と、抗体認識部位が競合する、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗体であって、以下の(a)から(f)のいずれかのアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有する抗体。
(a)配列番号:49、50、および51に記載のアミノ酸配列。
(b)配列番号:55、56、および57に記載のアミノ酸配列。
(c)配列番号:52、53、54およびに記載のアミノ酸配列。
(d)配列番号:58、59、60およびに記載のアミノ酸配列。
(e)配列番号:25、31、および36に記載のアミノ酸配列。
(f)配列番号:41、45、および48に記載のアミノ酸配列。
【請求項5】
抗体がヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、抗体断片、一本鎖抗体、およびダイアボディーからなる群より選択される、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項7】
さらにプロテインCおよび/または活性化プロテインCを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に用いられる医薬組成物である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
疾患が血液凝固反応の亢進および/または炎症反応の亢進によって惹起される疾患である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
血液凝固反応の亢進および/または炎症反応の亢進によって惹起される疾患が、敗血症、播種性血管内凝固症候群、動脈血栓症、および静脈血栓症からなる群より選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患を予防または治療する方法であって、(a)プロテインCおよび/または活性化プロテインC、並びに(b)請求項1または2に記載の抗体、を投与する工程を含む方法。
【請求項12】
活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患を予防または治療する方法であって、請求項1または2に記載の抗体を投与する工程を含む方法。
【請求項13】
活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に使用されるキットであって、(a)請求項1または2に記載の抗体、および(b)プロテインC、活性化プロテインC、またはその両方、を含むキット。
【請求項14】
活性化プロテインCの活性の低下ないしは不足によって発症および/または進展する疾患の予防または治療に使用されるキットであって、(a)プロテインC、活性化プロテインC、および請求項1または2に記載の抗体、および(b)(i)治療有効量のプロテインCおよび/または活性化プロテインC、並びに(ii)該抗体、を併用することの記載または該記載へのリンクを含む記録媒体、を含むキット。

【国際公開番号】WO2004/065418
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508090(P2005−508090)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000429
【国際出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】