抗VEGF−D抗体、およびその利用
【課題】抗VEGF-D抗体、ならびにかかる抗体を有効成分として含有する医薬組成物の提供を課題とする。
【解決手段】本発明者らは、VEGF-Dを発現する細胞を移植した系において、VEGF-Dに結合し、in vivoでリンパ管形成阻害活性および/またはリンパ節転移抑制活性を有する抗VEGF-D抗体を取得し、当該抗体の活性を維持したまま抗体をヒト化することに成功した。これらの抗体は、ヒトにおける免疫原性のリスクが低減し、癌治療剤として有用である。
【解決手段】本発明者らは、VEGF-Dを発現する細胞を移植した系において、VEGF-Dに結合し、in vivoでリンパ管形成阻害活性および/またはリンパ節転移抑制活性を有する抗VEGF-D抗体を取得し、当該抗体の活性を維持したまま抗体をヒト化することに成功した。これらの抗体は、ヒトにおける免疫原性のリスクが低減し、癌治療剤として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗VEGF-D抗体、並びに、抗VEGF-D抗体を有効成分として含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮細胞成長因子(vascular endothelial growth factor 以下、VEGFと称する)は、血管内皮細胞の増殖や血管の透過性を亢進させる物質として精製、単離されたタンパク質性因子である(Biochem. Biophys. Res. Commun., 161:851-858(1989))。その後、VEGF-B(非特許文献2)およびVEGF-C(非特許文献3)が単離され、1つのVEGFファミリーが形成されている。近年、VEGF-Cと有意な相同性を有するVEGFファミリーの4番目の因子として、VEGF-Dが見出された(特許文献1)。VEGF-CとVEGF-Dは、そのレセプターの1つであるVEGFレセプター3(以下、VEGFR-3と称する)に結合して、当該レセプターを活性化し、リンパ管形成の促進に関与している。また、これらの因子は、VEGFR-2とも結合し、血管形成の促進にも関与している(非特許文献4〜8)。さらにVEGF-CとVEGF-Dが癌組織で高発現し、癌組織周辺および/または内部において、リンパ管の増殖とリンパ節転移の促進に関与することが報告されている(非特許文献9〜13)。
【0003】
最近になって、VEGF-Dとそのレセプターとの結合を阻害する抗VEGF-D抗体が取得されたことが報告された(特許文献2,3,非特許文献14)。さらにそれらの取得された抗体の1つであるVD1がVEGF-Dとそのレセプターとの結合を阻害し、リンパ節転移を抑制することが報告されている(非特許文献9)。
【0004】
なお、本発明の先行技術文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO98/002543
【特許文献2】WO2000/037025
【特許文献3】WO2005/087177
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun., 161:851-858(1989)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 2576-2581(1996)
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 1988-1992(1996)
【非特許文献4】TRENDS in Immunology Vol.25 No.7 387-394(2004)
【非特許文献5】Dev. Biol. 188, 96-109(1997)
【非特許文献6】EMBO J. 20, 1223-1231(2001)
【非特許文献7】FASEB J. 16, 1041-1049(2002)
【非特許文献8】Circ. Res. 92, 1098-1106(2003)
【非特許文献9】Nat. Med. 7, 192-198(2001)
【非特許文献10】Cancer Res. 61, 1786-1790(2001)
【非特許文献11】Nat. Med. 7, 186-191(2001)
【非特許文献12】Int. J. Cancer 98, 946-951(2002)
【非特許文献13】Nat. Med. 13, 1458-1466(2007)
【非特許文献14】Eur. J. Biochem. 267, 2505-2515(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗VEGF-D抗体、ならびにかかる抗体を有効成分として含有する医薬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、VEGF-Dを発現する細胞を移植した系において、VEGF-Dに結合し、in vivoでリンパ管形成阻害活性を有する抗VEGF-D抗体を取得することに成功した。
また、本発明者らは、上記で取得した抗VEGF-D抗体の活性を維持したまま抗体をヒト化することに成功した。
これらの抗体は、ヒトにおける免疫原性のリスクが低減し、癌治療剤として有用である。
【0009】
即ち本発明は、抗VEGF-D抗体、並びに、抗VEGF-D抗体を有効成分として含む医薬組成物に関し、より具体的には、以下の〔1〕〜〔12〕の発明を包含する。
〔1〕 以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE29H鎖CDR)、
(2) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE29L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔2〕 以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:8または配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE199H鎖CDR)、
(2) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE199L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:10または配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:13または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化H鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:22または配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔3〕 以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:25または配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:26、配列番号:42または配列番号:44に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE48H鎖CDR)、
(2) 配列番号:33または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE48L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:28に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:29に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:30または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:32または配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化HA鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:38または配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔4〕 以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:46(VE199HA)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:47(VE199LA)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
(3) (1)の重鎖可変領域と(2)の軽鎖可変領域を含む抗体(VE199HALA)、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔5〕 以下の(1)〜(13)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:48(VE48HA)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:49(VE48HH)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(3) 配列番号:50(VE48HI)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(4) 配列番号:51(VE48HJ)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(5) 配列番号:52(VE48HK)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(6) 配列番号:53(VE48H16)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(7) 配列番号:54(VE48H17)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(8) 配列番号:55(VE48H18)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(9) 配列番号:56(VE48L6)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(10) 配列番号:57(VE48L14)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(11) (1)〜(8)のいずれかに記載の重鎖可変領域と(9)または(10)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(12) (1)〜(11)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(11)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔6〕 ヒト化抗体である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体。
〔7〕 〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の抗体を含む医薬組成物。
〔8〕 癌治療剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔9〕 リンパ管形成阻害剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔10〕 腫瘍増殖抑制剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔11〕 転移抑制剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔12〕 リンパ節転移抑制剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗VEGF-D抗体は、優れたVEGFR-3に対するVEGF-Dの結合阻害活性を示す。当該阻害活性により、VEGF-Dの結合による活性を阻害し、優れた抗癌剤としての使用が可能である。特にリンパ管形成、リンパ節転移および/または腫瘍増殖に対して優れた抑制効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒトVEGF-DまたはカニクイザルVEGF-Dを免疫して得られた抗VEGF-Dマウス抗体(mVE29、mVE48およびmVE199)のヒトVEGF-Dに対する特異的結合を測定した結果を示す図である。
【図2】ヒトVEGF-DまたはカニクイザルVEGF-Dを免疫して得られた抗VEGF-Dマウス抗体(mVE29、mVE48およびmVE199)のヒトVEGF-Cに対する特異的結合を測定した結果を示す図である。
【図3】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE29、キメラVE48およびキメラVE199)によるヒトVEGFR-3発現細胞に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を測定した結果を示す図である。
【図4】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE48およびキメラVE199)によるカニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞に対するカニクイザルVEGF-Dの結合阻害を測定した結果を示す図である。
【図5】抗VEGF-Dキメラ抗体(VD1、キメラVE48およびキメラVE199)によるヒトリンパ管内皮細胞の増殖阻害活性を測定した結果を示す図である。
【図6】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE48 10 mg/kg、2 mg/kgおよびキメラVE199 10 mg/kg、2 mg/kg)および対照(生理食塩水)による、hD_1細胞移植マウスにおけるin vivoリンパ管形成モデルの評価結果を示す図(A)および写真(B〜F)である。
【図7】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE48 25 mg/kgおよびキメラVE48 10 mg/kg)および対照(生理食塩水)によるin vivoでのリンパ節転移抑制活性を測定した結果を示す図である。
【図8】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE199抗体(199HA/199LA)のVHGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図9】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HA/48L6)のVHGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図10】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HA/48L14)のVHGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図11】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HH/48L6および48HI/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図12】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HJ/48L6および48HK/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図13】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48H16/48L6および48H17/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図14】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48H18/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
VEGF-D
VEGF-Dは、VEGFファミリーのメンバーであり、WO98/002543においてはじめてヒトの血管形成やリンパ管形成にかかわる新規なタンパク質因子として見出されている。当該因子は、ホモダイマーを形成後、プロセッシングを受け、成熟型ホモダイマーとなる。当該成熟型ホモダイマーは、VEGFR-2とVEGFR-3の両方に結合する(J. Biol. Chem. 274: 32127-32136, 1999)。当該因子はVEGFR-2およびVEGFR-3のリガンドとして機能し、血管形成やリンパ管形成の促進過程を通じて転移、特にリンパ節転移に関係していることが知られている(Nat. Med. 13, 1459, 2007)。
【0013】
本発明のVEGF-Dの由来は特に限定されず、ヒト、マウス、サル、その他の哺乳動物に由来するVEGF-Dが含まれるが、好ましくはヒト、マウスまたはサル由来のVEGF-Dであり、特に好ましくはヒト由来のVEGF-Dである。
【0014】
抗体(配列)
本発明の抗VEGF-D抗体の好ましい態様として、下記のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体を挙げることができる。
【0015】
(A)VE29
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE29H鎖CDR)、
(2) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE29L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0016】
(B)VE199
(1) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:8または配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE199H鎖CDR)、
(2) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE199L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:10または配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:13または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化H鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:22または配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0017】
(C)VE48
(1) 配列番号:25または配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:26、配列番号:42または配列番号:44に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE48H鎖CDR)、
(2) 配列番号:33または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE48L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:28に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:29に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:30または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:32または配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化HA鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:38または配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0018】
上述の1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入の具体的な例としては、特に限定されないが、以下の改変を挙げることができる。
配列番号:10の重鎖FR1において9番目のAの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてPを挙げることができる。
配列番号:13の重鎖FR3において4番目のIの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてLを挙げることができる。
配列番号:13の重鎖FR3において6番目のAの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてVを挙げることができる。
配列番号:13の重鎖FR3において31番目のAの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてIを挙げることができる。
配列番号:8の重鎖CDR2において16番目のRの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてQを挙げることができる。
配列番号:22の軽鎖FR3において31番目のYの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてFを挙げることができる。
配列番号:30の重鎖FR3において32番目のRの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてQを挙げることができる。
配列番号:38の軽鎖FR3において31番目のYの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてFを挙げることができる。
配列番号:33の軽鎖CDR1において9番目のNの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてIを挙げることができる。
配列番号:33の軽鎖CDR1において10番目のNの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてKを挙げることができる。
配列番号:26の重鎖CDR2において5番目のNの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてEを挙げることができる。
配列番号:25の重鎖CDR1において1番目のTの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてDを挙げることができる。
配列番号:26の重鎖CDR2において15番目のRおよび16番目のSの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例として15番目のRのQ、16番目のSのDへの置換を挙げることができる。
配列番号:32の重鎖FR4において3番目のQの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてEを挙げることができる。
【0019】
上述の置換は単独で行ってもよいし、複数の置換を組み合わせてもよい。又、上述の置換と上述以外の置換を組み合わせてもよい。これらの置換により抗体の薬物動態(血漿中滞留性)の向上、抗原への結合活性の増強、安定性の向上、および/または免疫原性のリスクの低減が可能である。
【0020】
本発明において上述の置換を組み合わせた可変領域の具体例としては、配列番号:46のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域または配列番号:47のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を挙げることができる。さらに、上述の置換を組み合わせた抗体の例として、配列番号:48〜55のいずれかのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号:56または57のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体を挙げることができる。
【0021】
さらに、上述の置換を組み合わせた抗体の具体例として、以下の抗体を挙げることができる。
(i) 配列番号:46の重鎖可変領域と配列番号:47の軽鎖可変領域を含む抗体
(ii) 配列番号:48〜55いずれかの重鎖可変領域と配列番号:56または配列番号:57の軽鎖可変領域を含む抗体
【0022】
上述の抗体においては如何なるフレームワーク領域(FR)が用いられてもよいが、ヒト由来のFRが用いられることが好ましい。又、上述の抗体において、定常領域はいかなる定常領域が用いられてもよいが、ヒト由来の定常領域が用いられることが好ましい。本発明の抗体に用いられるFRまたは定常領域のアミノ酸配列は、由来となる元のFRまたは定常領域のアミノ酸配列をそのまま用いてもよいし、1または複数のアミノ酸を置換、欠失、付加および/または挿入等して異なるアミノ酸配列にして用いてもよい。
【0023】
本発明において、「抗体と同等の活性」とは、VEGF-D(例えばヒトVEGF-D)への結合活性および/または中和活性が同等であること、あるいは、抗腫瘍活性が同等であることを意味する。抗腫瘍活性としては、例えば、腫瘍細胞重量または体積を減少させる活性、腫瘍細胞重量または体積の増加を抑制させる活性、腫瘍内リンパ管を減少させる活性、腫瘍内血管を減少させる活性、腫瘍内の異常リンパ管を正常化させる活性、腫瘍内の異常血管を正常化させる活性、腫瘍血管透過性を正常化させる活性、腫瘍リンパ管透過性を正常化させる活性、腫瘍細胞のリンパ節転移を抑制させる活性、腫瘍細胞の遠隔転移を抑制させる活性、他薬剤による腫瘍細胞重量または体積の減少を促進させる活性、腫瘍細胞による個体死亡を抑制する活性等が挙げられる。
【0024】
本発明において、「同等」とは、必ずしも同程度の活性である必要はなく、活性が増強されていてもよいし、又、活性を有する限り活性が減少していてもよい。活性が減少している抗体としては、例えば、元の抗体と比較して30%以上の活性、好ましくは50%以上の活性、より好ましくは80%以上の活性を有する抗体を挙げることができる。
【0025】
上述の抗体は、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性を有する、あるいは、抗腫瘍活性を有する限り、可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。アミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されており、VEGF-Dに対する結合活性、中和活性および/または抗腫瘍活性を有する抗体のアミノ酸配列を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いて、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体のアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは、抗腫瘍活性を有する抗体と機能的に同等な変異体を調製することができる。
【0026】
このように、可変領域において、1もしくは複数のアミノ酸が変異しており、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体もまた本発明の抗体に含まれる。
【0027】
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。このような変異体は、本発明の可変領域(例えばCDR配列、FR配列、可変領域全体)のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップを導入した後、元となった重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。アミノ酸配列の同一性は、後述の方法により決定することができる。
【0028】
また、可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されており、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する可変領域のアミノ酸配列は、該可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸から得ることも可能である。可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するための、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6 M 尿素、0.4% SDS、0.5 x SSC、37℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6 M 尿素、0.4% SDS、0.1 x SSC、42℃の条件を用いれば、より相同性の高い核酸の単離を期待することができる。単離した核酸の配列の決定は、後述の公知の方法によって行うことが可能である。単離された核酸の相同性は、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0029】
上記ハイブリダイゼーション技術を利用する方法にかえて、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離することも可能である。
【0030】
塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information)の BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0031】
また本発明は、上記抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体も提供する。
【0032】
ある抗体が他の抗体と同じエピトープを認識するか否かは、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競合結合アッセイによって評価することができ、その手段として酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))などが挙げられる。抗原に結合した該抗体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、同じエピトープに対する被検抗体の量や親和性が大きくなるほど、該抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした該抗体と評価すべき抗体を同時に添加し、標識を利用して結合している該抗体を検出する。抗原に結合した該抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放射標識、酵素標識などが挙げられる。
【0033】
例えば、VEGF-Dを固相化したビーズに蛍光標識した該抗体と、非標識の該抗体あるいは被検抗体を同時に添加し、標識された該抗体を蛍光微量測定技術によって検出する。
【0034】
ここでいう「同じエピトープを認識する抗体」とは、標識該抗体に対して、非標識の該抗体の結合により結合量を50%低下させる濃度(IC50)に対して、被検抗体が非標識該抗体のIC50の通常、100倍、好ましくは80倍、さらに好ましくは50倍、さらに好ましくは30倍、より好ましくは10倍高い濃度で少なくとも50%、標識該抗体の結合量を低下させることができる抗体である。
【0035】
上述の抗体が結合するエピトープに結合する抗体は、特にVEGF-DのVEGFR-3への高い結合阻害活性を有する点で有用である。また、上述の(A)に記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体は、VEGF-DのみでなくVEGF-Cに結合し、VEGF-CのVEGFR-3への高い結合阻害活性を有する。VEGF-CもVEGF-Dと同様にVEGFR-3に結合して血管形成、リンパ管形成およびリンパ節転移作用を有することから、癌治療において効率の良い優れた癌治療効果が見込まれる。
【0036】
上述の抗体は特に限定されないが、ヒト化抗体であることが好ましい。
【0037】
さらに本発明は、上述の抗VEGF-D抗体をコードする遺伝子を提供する。本発明の遺伝子はいかなる遺伝子であってもよく、例えばDNAでもよいし、RNAでもよい。
【0038】
抗体(ヒト化)
本発明における抗体の好ましい態様の一つとして、VEGF-Dに結合するヒト化抗体を挙げることができる。ヒト化抗体は当業者に既知の方法を用いて製造することができる。
【0039】
抗体の可変領域は、通常、4つのフレーム(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い相同性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるといわれている。
【0040】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576号公報参照)。
【0041】
具体的には、例えばCDRがマウス抗体由来である場合には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDRおよびFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する(WO 98/13388号公報に記載の方法を参照)。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。
【0042】
CDRと連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換、欠失、付加および/または挿入等してもよい。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択できる(Sato, K.et al., CancerRes.(1993)53, 851-856)。
【0043】
ヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεを、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。
【0044】
また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。修飾されたヒト抗体C領域の例としては後述するC領域を挙げることができる。ヒト化の際に用いられるヒト抗体は、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなどいかなるアイソタイプのヒト抗体でもよいが、本発明においてはIgGを用いることが好ましい。IgGとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などを用いることが可能である。
【0045】
なお、ヒト化抗体を作製した後に、可変領域(例えば、CDR、FR)や定常領域中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換、欠失、付加および/または挿入等してもよく、本発明のヒト化抗体には、そのようなアミノ酸置換等されたヒト化抗体も含まれる。
【0046】
抗体のヒト化において、通常、由来となった抗体の結合活性や中和活性、あるいは抗腫瘍活性を維持したままヒト化を行うことは困難であるが、本発明においては、由来となったマウス抗体と同等の結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するヒト化抗体の取得に成功した。ヒト化抗体はヒト体内における免疫原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用である。
【0047】
さらに本発明は、本発明の抗体をコードする遺伝子を含むベクターを提供する。
さらに本発明は、上述のベクターにより形質転換された宿主細胞を提供する。
さらに本発明は、上述の宿主細胞を培養する工程を含む、本発明の抗体の可変領域、本発明の抗体の重鎖、本発明の抗体の軽鎖または本発明の抗体を製造する方法に関する。
【0048】
抗体(中和活性)
本発明はさらに中和活性を有する抗VEGF-D抗体を提供する。
本発明においてVEGF-Dに対する中和活性とは、VEGF-DとそのレセプターであるVEGFR-3との結合を阻害する活性であり、好ましくはVEGFR-3に基づく生理活性を抑制する活性である。
【0049】
VEGF-D中和活性を有する抗体の選別は、例えばVEGFR-3発現細胞株に候補の抗体を添加したときの、VEGF-Dの結合の阻害を確認することにより行うことが可能である。VEGF-Dの結合を阻害する抗体は、VEGF-Dに対する中和活性を有する抗体であると判断される。また、例えばVEGF-D依存的に増殖する細胞株に候補の抗体を添加したときに、その増殖抑制効果を確認することによって行うことも可能である。当該細胞の増殖を抑制する抗体は、VEGF-Dに対する中和活性を有する抗体であると判断される。
【0050】
抗体(一般)
本発明の抗体は、その由来で限定されず、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、如何なる動物由来の抗体でもよい。又、キメラ(chimeric)抗体やヒト化(humanized)抗体などの組換え抗体でもよい。上述のように、本発明の好ましい抗体としてヒト化抗体を挙げることができる。
【0051】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体である。キメラ抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。例えば、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入することによって行うことが可能である(例えば、Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAを得ることができれば、これを所望のヒト抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、ヒト抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、キメラ抗体を発現させることができる。
【0052】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0053】
さらに、ヒト抗体ファージライブラリーを用いて、パニング法によりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388などを参考にすることができる。
【0054】
本発明の抗体には、VEGF-Dへの結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する限り、IgGに代表される二価抗体だけでなく、一価抗体、若しくはIgMに代表される多価抗体、もしくは異なる抗原に結合することができるBispecific抗体も含まれる。本発明の多価抗体には、全て同じ抗原結合部位を有する多価抗体、または、一部もしくは全て異なる抗原結合部位を有する多価抗体が含まれる。本発明の抗体は、抗体の全長分子に限らず、VEGF-Dタンパク質に結合する限り、低分子化抗体またはその修飾物であってもよい。
【0055】
また本発明における抗体は、低分子化抗体であってもよい。低分子化抗体は、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含む抗体であり、VEGF-Dへの結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する限り特に限定されない。本発明において低分子化抗体は、全長抗体の一部分を含む限り特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましくはVHとVLの両方を含む低分子化抗体である。又、本発明の低分子化抗体の他の好ましい例として、抗体のCDRを含む低分子化抗体を挙げることができる。低分子化抗体に含まれるCDRは抗体の6つのCDR全てが含まれいてもよいし、一部のCDRが含まれていてもよい。
【0056】
本発明における低分子化抗体は、全長抗体よりも分子量が小さくなることが好ましいが、例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどの多量体を形成すること等もあり、全長抗体よりも分子量が大きくなることもある。
【0057】
抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(single chain Fv)、Diabody、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)などを挙げることができる。これら抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー等)も、本発明の低分子化抗体に含まれる。
【0058】
抗体断片は、例えば、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。抗体断片を生成する酵素として、例えばパパイン、ペプシン、あるいはプラスミンなどが公知である。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0059】
消化酵素は、抗体断片の特定の位置を切断し、次のような特定の構造の抗体断片を与える。このような酵素的に得られた抗体断片に対して、遺伝子工学的手法を利用すると、抗体の任意の部分を欠失させることができる。
上述の消化酵素を用いた場合に得られる抗体断片は以下のとおりである。
パパイン消化:F(ab)2またはFab
ペプシン消化:F(ab')2またはFab'
プラスミン消化:Facb
【0060】
本発明における低分子化抗体は、VEGF-Dへの結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する限り、任意の領域を欠失した抗体断片を含むことができる。
【0061】
ダイアボディーは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディーは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーである。通常、ダイマーを構成するポリペプチド鎖は、各々、同じ鎖中でVL及びVHがリンカーにより結合されている。ダイアボディーにおけるリンカーは、一般に、VLとVHが互いに結合できない位に短い。具体的には、リンカーを構成するアミノ酸残基は、例えば、5残基程度である。そのため、同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、単鎖可変領域フラグメントを形成できず、別の単鎖可変領域フラグメントと二量体を形成する。その結果、ダイアボディーは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0062】
scFv抗体は、重鎖可変領域([VH])及び軽鎖可変領域([VL])をリンカー等で結合して一本鎖ポリペプチドにした抗体である(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に記載されたいずれの抗体由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーには、特に制限はない。例えば3から25残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドをリンカーとして用いることができる。具体的には、たとえば後述のペプチドリンカー等を用いることができる。
【0063】
両鎖のV領域は、例えば上記のようなPCR法によって連結することができる。PCR法によるV領域の連結のために、まず次のDNAのうち、全部あるいは所望の部分アミノ酸配列をコードするDNAが鋳型として利用される。
抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA配列、および
抗体のL鎖またはL鎖V領域をコードするDNA配列
【0064】
増幅すべきDNAの両端の配列に対応する配列を有するプライマーの一対を用いたPCR法によって、H鎖とL鎖のV領域をコードするDNAがそれぞれ増幅される。次いで、ペプチドリンカー部分をコードするDNAを用意する。ペプチドリンカーをコードするDNAもPCRを利用して合成することができる。このとき利用するプライマーの5'側に、別に合成された各V領域の増幅産物と連結できる塩基配列を付加しておく。次いで、
[H鎖V領域DNA]−[ペプチドリンカーDNA]−[L鎖V領域DNA]
の各DNAと、アセンブリーPCR用のプライマーを利用してPCR反応を行う。
【0065】
アセンブリーPCR用のプライマーは、[H鎖V領域DNA]の5'側にアニールするプライマーと、[L鎖V領域DNA]の3'側にアニールするプライマーとの組み合わせからなる。すなわちアセンブリーPCR用プライマーとは、合成すべきscFvの全長配列をコードするDNAを増幅することができるプライマーセットである。一方[ペプチドリンカーDNA]には各V領域DNAと連結できる塩基配列が付加されている。その結果、これらのDNAが連結され、さらにアセンブリーPCR用のプライマーによって、最終的にscFvの全長が増幅産物として生成される。一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された組換え細胞が常法に従って取得できる。また、その結果得られる組換え細胞を培養して該scFvをコードするDNAを発現させることにより、該scFvが取得できる。
【0066】
結合される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の順序は特に限定されず、どのような順序で並べられていてもよく、例えば、以下のような配置を挙げることができる。
[VH]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VH]
【0067】
sc(Fv)2は、2つのVH及び2つのVLをリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である(Hudson et al、J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。sc(Fv)2は、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。
【0068】
また2つのVH及び2つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が好ましいが、2つのVHと2つのVLの順序は特に上記配置に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような配置も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
【0069】
低分子抗体中の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を会合させた場合に、抗原結合活性を有する限り、一部を欠損させてもよいし、他のポリペプチドを付加してもよい。又、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。
【0070】
本発明において、抗体の可変領域を結合するリンカーは、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー、例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを用いることができる。
【0071】
本発明において好ましいリンカーはペプチドリンカーである。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、通常、1〜100アミノ酸、好ましくは3〜50アミノ酸、更に好ましくは5〜30アミノ酸、特に好ましくは12〜18アミノ酸(例えば、15アミノ酸)である。
【0072】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列としては、例えば、以下のような配列を挙げることができる。
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:84)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:85)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:86)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:87)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:88)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:89)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:90)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:91)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser)n(括弧内のアミノ酸配列を配列番号:86として記載)
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly)n(括弧内のアミノ酸配列を配列番号:87として記載)
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。
【0073】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。たとえば上記のペプチドリンカーの長さを決定するnは、通常1〜5、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2である。
【0074】
合成化合物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ−BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
【0075】
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となる。複数のリンカーは、同じでもよいし、異なるリンカーを用いることもできる。
【0076】
本発明の抗体には、本発明の抗体のアミノ酸配列に1又は複数個のアミノ酸残基が付加された抗体も含まれる。また、これら抗体と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合タンパク質も含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと他のペプチド又はポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明の抗体との融合に付される他のペプチド又はポリペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α-tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明の抗体との融合に付される他のポリペプチドとしては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。市販されているこれらペプチドまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと融合させ、これにより調製された融合ポリヌクレオチドを発現させることにより、融合ポリペプチドを調製することができる。
【0077】
また本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)やヒアルロン酸などの高分子物質、放射性物質、蛍光物質、発光物質、酵素、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている(例えば、US5057313、US5156840)。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0078】
さらに、本発明で使用される抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体を言う。本発明において、二重特異性抗体はVEGF-D分子上の異なるエピトープを認識する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がVEGF-Dを認識し、他方の抗原結合部位が他の物質を認識する二重特異性抗体とすることもできる。
【0079】
さらに、別の観点からは、一方の抗原結合部位がVEGF-Dを認識し、他方の抗原結合部位がヒトエフェクター細胞の抗原を認識する二重特異性抗体とすることもできる。VEGF-Dを認識する本発明の抗体からなる二重特異性抗体の他方の抗原結合部位が結合する抗原としては、例えば、CD2, CD3, CD16, CD19, CD20, CD25, CD28, CD33, CD30, CD44, CD44v6, CD52, VEGF, VEGFR, EGF, EGFR, EGFRvIII, HER-2 neu, HER-3, HER-4, cMET, EpCAM, IGF-1R, TRAIL-R2, Tie-1, PDGFR-alpha, NKG2D, CCR5, Gas6, Mer, Tyro3, NCAM, Transferin receptor, Folate binding protein, IL-15, IL-15R, CEA, CA125, MUC-1,ガングリオシドGD3, Glypican-3, GM2, Sonic Hedgehog(Shh)などが挙げられる。
【0080】
VEGF-Dを認識する本発明の抗体からなる二重特異性抗体の他方の抗原結合部位が結合するVEGF-D分子上の異なるエピトープとしては、例えば、IgD1, IgD2, FND2などが挙げられる。
【0081】
二重特異性抗体を製造するための方法は公知である。たとえば、認識抗原が異なる2種類の抗体を結合させて、二重特異性抗体を作製することができる。結合させる抗体は、それぞれがH鎖とL鎖を有する1/2分子であっても良いし、H鎖のみからなる1/4分子であっても良い。あるいは、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体が作製できる。
【0082】
本発明の抗体は、後述する抗体を産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。また、本発明の抗体を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明の抗体はこのような抗体も包含する。さらに、既知の翻訳後修飾以外の部位に対する翻訳後修飾も、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。
【0083】
抗体の製造
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するモノクローナル抗体は、たとえば、ヒトやマウス等の哺乳動物に由来するVEGF-Dまたはその断片ペプチドを免疫原として、公知方法によって抗VEGF-Dモノクローナル抗体を調製した後、得られた抗VEGF-Dモノクローナル抗体の中からVEGF-D結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体を選別することにより、得ることが出来る。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫する。得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって、抗VEGF-Dモノクローナル抗体を作製することが可能である。免疫される動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、サル、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ブタなどの哺乳動物を用いることができる。抗原の調製は、公知VEGF-D遺伝子配列を用い、公知の方法、例えばW0 98/002543等に準じて行うことができる。
【0084】
ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行ってもよい。
【0085】
本発明のVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体の一態様として、ヒトVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するモノクローナル抗体が挙げられる。ヒトVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するモノクローナル抗体を作製するための免疫原としては、ヒトVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体を作製できる限り、特に限定されない。または同様の条件のもとに、VEGF-Dの断片ペプチドや、天然のVEGF-D配列に人為的な変異を加えたものを免疫原としてもよい。成熟型ヒトVEGF-Dは、本発明のVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体を作製するうえで、好ましい免疫原の一つである。
【0086】
また、抗体のVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性の測定は、例えば、実施例記載の方法によって行うことができる。
【0087】
一方、モノクローナル抗体は、DNA免疫(DNA Immunization)によっても得ることができる。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現できるような態様で構築されたベクターDNAを当該免疫動物に投与し、免疫抗原を免疫動物の生体内で発現させることによって、免疫刺激を与える方法である。蛋白質抗原を投与する一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性を期待できる。
−膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激を与えることができる
−免疫抗原を精製する必要が無い
【0088】
しかし一方で、DNA免疫においては、アジュバントなどの免疫刺激手段と組み合わせることが困難である。
DNA免疫によってモノクローナル抗体を得るには、まず、VEGF-DをコードするDNAを免疫動物に投与する。VEGF-DをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成することができる。得られたDNAを適当な発現ベクターに挿入し、免疫動物に投与する。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターを利用することができる。ベクターを生体に投与する方法も、一般に用いられている方法を利用することができる。たとえば、発現ベクターを吸着させた金粒子を、遺伝子銃(gene gun)で細胞内に打ち込むことによってDNA免疫を行うことができる。DNA免疫後に、VEGF-DまたはVEGF-D発現細胞による追加免疫(boost)を行うことは、モノクローナル抗体を得る好ましい方法である。
【0089】
このように哺乳動物が免疫され、血清中における所望の抗体量の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に付される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用できる。
【0090】
上記の免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0091】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択することができる。正常な細胞はこれらのピリミジンアナログをDNA中に取り込んでしまうので死滅するが、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないので選択培地の中で生存することができる。この他、G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0092】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
【0093】
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、細胞融合が実施できる。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤を加えることもできる。
【0094】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定できる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。細胞融合に用いる培養液としては、例えば、ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液を利用することができる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を培養液に添加することができる。
【0095】
細胞融合は、免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液を混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。細胞融合法においては、例えば平均分子量1000から6000程度のPEGを、通常30から60%(w/v)の濃度で添加することができる。続いて、上記に挙げた適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去される。
【0096】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択することができる。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択できる。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞を選択的に増殖させることができる。目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、目的とするハイブリドーマを選択することができる。ついで、通常の限界希釈法を実施することによって、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施できる。
【0097】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施できる。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させる。次いで担体を洗浄した後に酵素で標識した二次抗体等を反応させる。もしも培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれる場合、二次抗体はこの抗体を介して担体に結合する。最終的に担体に結合する二次抗体を検出することによって、目的とする抗体が培養上清中に存在しているかどうかが決定できる。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることが可能となる。
【0098】
上述の方法等により取得された抗VEGF-D抗体をコードする塩基配列、アミノ酸配列は当業者に公知の方法により得ることが可能である。
【0099】
得られた抗VEGF-D抗体の配列を基に、当業者に公知の遺伝子組換え技術を用いて抗VEGF-D抗体を作製することが可能である。具体的には、VEGF-Dを認識する抗体の配列を基に抗体をコードするポリヌクレオチドを構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0100】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。本発明の抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア製)、「QIAexpress system」(キアゲン製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0101】
また、ベクターには、抗体分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0102】
大腸菌以外にも、例えば、本発明の抗体を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)や、pEF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0103】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0104】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pSV2-dhfr(「Molecular Cloning 2nd edition」 Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989))など)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0105】
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0106】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose FF(GE Amersham Biosciences)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0107】
得られた抗体のVEGF-Dに対する結合活性の測定は、当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、抗体の抗原結合活性を測定する方法として、ELISA、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。例えば、酵素免疫測定法を用いる場合、抗原をコーティングしたプレートに、抗体を含む試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した二次抗体を添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した後、p-ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。
【0108】
医薬組成物
また本発明は、上述の抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。さらに本発明は上述の抗体を有効成分とする癌の治療剤を提供する。
【0109】
本発明の医薬組成物は、さらにリンパ管形成阻害剤、転移抑制剤、リンパ節転移抑制剤あるいは腫瘍増殖抑制剤として使用することができる。リンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤は、VEGF-Dを中和し、リンパ管形成やリンパ節転移を促進するVEGFR-3のシグナル伝達を阻害させるものである。
【0110】
VEGF-Dの発現量の減少は、VEGF-Dの分解などにより既に存在しているVEGF-Dの量を減少させてもよいし、VEGF-Dの発現を抑制することにより新たに発現するVEGF-Dの量を減少させてもよい。
【0111】
本発明の抗VEGF-D抗体を含むリンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤は、抗VEGF-D抗体を用いてVEGF-Dを中和させる方法とも表現できる。さらに、本発明の抗VEGF-D抗体を含むリンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤は、リンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤の製造の為の抗VEGF-D抗体の使用とも表現できる。
【0112】
本発明の抗VEGF-D抗体は、VEGFR-3のシグナル伝達を阻害させることにより、リンパ管形成阻害効果、リンパ節転移抑制効果、腫瘍の増殖抑制効果などの効果が期待できる。
【0113】
本発明の抗VEGF-D抗体は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の薬剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、抗VEGF-D抗体を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0114】
また、必要に応じ抗VEGF-D抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington's Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、抗VEGF-D抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。
【0115】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射または皮下注射等により全身又は局所的に投与することができる。リンパ管形成、リンパ節転移あるいは腫瘍増殖を抑制したい部位またはその周辺に局所注入、特に筋肉内注射してもよい。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、1回につき体重1 kgあたり活性成分が0.0001 mg〜100 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり活性成分が0.001〜1000 mg/kg・body・weightの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量としては、例えば、本発明の抗体が0.01〜50 mg/kg・body・weight程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、本発明の医薬組成物は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0116】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0117】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0118】
〔実施例1〕ヒトVEGF-D及びカニクイザルVEGF-D免疫マウスを用いたハイブリドーマの作製
Balb/cマウス(雌、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)およびMRLマウスに、ヒトVEGF-D(参考例3)またはカニクイザルVEGF-D(参考例3)を以下の通り免疫した。初回免疫時を0日目とすると、0日目にフロイント完全アジュバント(Difco)とともに100μgヒトVEGF-Dを皮下投与した。14日目にフロイント不完全アジュバント(Difco)とともに50μgカニクイザルVEGF-Dを皮下投与し、その後、1週間おきに3回または4回50μgヒトまたはカニクイザルVEGF-Dを交互にフロイント不完全アジュバントとともに皮下投与した。VEGF-Dの最終投与1週間後に(42日目または49日目)、ブーストとしてヒトVEGF-Dを静脈内投与し、その3日後に、マウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3X63Ag8U.1(P3U1と称す、ATCC CRL-1597)とを、PEG1500(Roche Diagnostics)を用いた常法に従い細胞融合した。融合細胞、すなわちハイブリドーマは、10% FBSを含むRPMI1640培地 (以下、10%FBS/RPMI1640と称す)にて培養した。
【0119】
融合の翌日に、(1)融合細胞を半流動培地(StemCells)に懸濁し、ハイブリドーマの選択培養を行うと共に、ハイブリドーマのコロニー化を実施した。
【0120】
融合後9日目または10日目にハイブリドーマのコロニーをピックアップし、HAT選択培地(10% FBS/RPMI1640、2 vol% HAT 50x concentrate(大日本製薬)、5 vol% BM-Condimed H1(Roche Diagnostics))の入った96-ウェルプレートに、1ウェル当り1コロニーを播種した。3〜4日培養後、各ウェルの培養上清を回収し、培養上清中のマウスIgG濃度を測定した。マウスIgGが確認できた培養上清について、ヒトVEGF-DまたはヒトVEGF-Cを固相化したELISA(参考例4)によってヒトVEGF-DまたはヒトVEGF-Cに特異的に結合する抗体を産生するクローンを選抜した(図1、図2)。
【0121】
〔実施例2〕キメラ抗体の作製
ハイブリドーマ細胞から、RNeasy Mini Kits(QIAGEN)を用いてトータルRNAを抽出し、SMART RACE cDNA Amplification Kit(BD Biosciences)によりcDNAを合成した。作製したcDNAを用いて、PCRにより、抗体の可変領域遺伝子をクローニングベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。決定したVE29、VE48、VE199マウス抗体のH鎖可変領域およびL鎖可変領域をそれぞれ表1(VE29、48、199マウス抗体のH鎖可変領域)および表2(VE29、48、199マウス抗体のL鎖可変領域)に示す。CDR、FRの決定はKabat numberingに従って行った。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
上記表1と2中の各配列と配列番号との対応を以下に示す。
VE29マウス抗体のH鎖可変領域(配列番号:60)
VE29マウス抗体のL鎖可変領域(配列番号:61)
VE48マウス抗体のH鎖可変領域(配列番号:64)
VE48マウス抗体のL鎖可変領域(配列番号:65)
VE199マウス抗体のH鎖可変領域(配列番号:62)
VE199マウス抗体のL鎖可変領域(配列番号:63)
【0125】
上記マウス抗体H鎖可変領域とヒト抗体IgG1鎖定常領域とを結合したキメラ抗体H鎖および上記マウス抗体L鎖可変領域とヒト抗体Kappa鎖定常領域とを結合したキメラ抗体L鎖遺伝子を動物細胞発現ベクターに組み込んだ。作製した発現ベクターを用いて、VE29、VE48、VE199キメラ抗体の発現および精製を行った(参考例7)。
【0126】
〔実施例3〕キメラ抗体のin vitro活性評価
実施例2で作製したキメラ抗VEGF-D抗体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合を阻害すること(図3)、および、カニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するカニクイザルVEGF-Dの結合を阻害することを確認した(図4)。
【0127】
また、このキメラ抗体を用いて、VEGF-D依存的に増殖するヒトリンパ管内皮細胞の増殖阻害を評価した(参考例6)。比較のため、可変領域がWO2005/087177のFig.1に記載のアミノ酸配列であるマウスIgG1抗体であるVD1抗体も同時に評価した。その結果、VE48キメラ抗体およびVE199キメラ抗体はVD1に比べて強いリンパ管内皮細胞の増殖阻害活性を示すことが確認できた(図5)。
【0128】
〔実施例4〕キメラ抗体のin vivo活性評価(リンパ管形成阻害)
hD_1細胞の作製
HEK293細胞 (ATCC)に、VEGF-D発現プラスミド(ジェネティシン耐性)をエレクトロポレーション法により導入した。導入した細胞をジェネティシン (Invitrogen)を500μg/mLにて選抜し、シングルセルクローニング法により、hD_1細胞を作成した。
hD_1細胞は、E-MEM (SIGMA)に10% FBS、0.1mM NEAA (GIBCO)、1mM Sodium Pyruvate(GIBCO)、500μg/mL ジェネティシンを添加した培地にて、維持継代した。
【0129】
投与抗体の調製
実施例2で作製したキメラ抗VEGF-D抗体を投与当日、生理食塩水を用いてそれぞれ、1 mg/mL(10 mg/kg投与群)、0.2 mg/mL(2 mg/kg投与群)となるように調製し、投与試料とした。
【0130】
hD_1細胞移植マウスによるin vivoリンパ管形成モデルの作製
hD_1細胞をHBSS (GIBCO/Invitrogen)に4×108個/mLになるように調製し、50μL(2×107個/マウス)をスキッドマウス(日本クレア)の腹部皮下へ移植した。
腫瘍体積は以下の式にて算出し、腫瘍体積の平均が約100 mm3になった時点から抗体の投与を開始した。
【0131】
腫瘍体積=長径×短径×短径/2
【0132】
抗VEGF-D抗体をそれぞれ 週に2回、2週間、上記(2)で調製した投与試料を10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に2回、2週間、10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。いずれの群も、1群3匹で行った。
【0133】
hD_1細胞移植マウスによるin vivoリンパ管形成モデルの評価
各抗VEGF-D抗体のin vivoリンパ管形成に対する評価については、以下に示す免疫染色法で評価した。
【0134】
免疫染色法
(i) マウスより摘出した腫瘍塊をO.C.T compound (Tissuetek)に包埋し、凍結切片を作成後、薄切切片化した。
(ii) マウスリンパ管の染色には、1次抗体としてウサギ抗マウスLyve-1抗体 (RELIATech GmbH),2次抗体としてビオチン化標識抗ウサギIgG抗体 (Vector Laboratories)を用いた。
(iii) 細胞核の染色には、ヘマトキシリンを用いた。
(iv) (ii) ,(iii)の染色は、全自動免疫染色システム (VENTANA)を用いて行った。
(v) リンパ管の定量は、画像解析ソフトImage Pro Plus (Media Cybernetics)を用い、各標本の画像の染色部位をピクセル数として測定し、平均値で表した。
【0135】
その結果、図6に示すとおり、VE48, VE199は、10 mg/kg, 2 mg/kgいずれの濃度においても、強いin vivoリンパ管形成抑制活性を示す事が確認できた。
また、各抗体濃度におけるリンパ管形成について、生理食塩水と抗体投与群での有意差検定を行ったところ、いずれの抗体濃度においても、リンパ管形成に有意な差が認められた。
【0136】
〔実施例5〕キメラ抗体のin vivo活性評価(癌細胞の抗転移)
マウス黒色腫B16F10細胞(東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター)に、VEGF-D発現プラスミド(ジェネティシン耐性)をエレクトロポレーション法により導入した。導入した細胞をジェネティシン(Invitrogen)を500μg/mLにて選抜し、シングルセルクローニング法により、B16F10_VEGFD#4細胞を作成した。B16F10_VEGFD#4細胞は、RPMI-1640(SIGMA)に10% FBS、500μg/mL ジェネティシンを添加した培地にて、維持継代した。
【0137】
抗VEGF-D抗体を投与当日、生理食塩水を用いてそれぞれ、2.5 mg/mL(25 mg/kg投与群)、1 mg/mL(10 mg/kg投与群)となるように調製し、投与試料とした。
B16F10_VEGFD#4細胞をHBSS(Invitrogen)に2×107個/mLになるように調製し、50μL(1×106個/マウス)をヌードマウス(日本チャールス・リバー)の腹部皮下へ移植した。B16F10_VEGFD#4細胞の移植直後から、抗VEGF-D抗体をそれぞれ週に2回、2週間、上記で調製した投与試料を10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に2回、2週間、10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。いずれの群も、1群10匹で行った。
【0138】
各抗VEGF-D抗体のリンパ節転移に対する評価については、細胞移植と同側のリンパ節を取りだし、リンパ節重量によって評価した。その結果、図7に示すとおり、VE48は、25 mg/kg、10 mg/kgいずれの濃度においても、強いリンパ節転移抑制活性を示す事が明らかとなった。また、各抗体濃度におけるリンパ節重量について、生理食塩水と抗体投与群での有意差検定を行ったところ、いずれの抗体濃度においても、リンパ節重量に有意な差が認められた。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いた。
【0139】
〔実施例6〕 VE199抗体のヒト化
6−1.各フレームワーク配列の選定
VE199抗体のヒト化を行うため、VE199抗体の可変領域配列とヒトのgermline配列を比較した。その中で、ヒト化のテンプレートとなるFR配列を表3にまとめた。ヒト化した可変領域として、H鎖は表3に記載されているFR1(2)、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列を199HA可変領域(配列番号:46)とした。また、L鎖はFR1、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列を199LA可変領域(配列番号:47)とした。なお、CDR、FRの決定はKabat numberingに従って行われた。
【0140】
H鎖FR1の配列において、Kabat numbering 9番目を含む一連の残基がFR1の立体構造に大きな影響を与えることが報告されている(Jungら、J Mol Biol. 2001 Jun 8;309(3):701-16.)。VE199の当該残基はプロリン(P)であるが(配列番号:62)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表3のFR1(1)(配列番号:10)に示したとおり、当該残基がアラニン(A)であることから、ヒト化によってアラニンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、H鎖9番目についてはVE199の配列を残存させ、プロリンとしたFR1(2)の配列を用いた(配列番号:11)。また、H鎖FR3の配列において、Kabat numbering 71番と94番目の残基がCDRの立体構造に影響を与えることが報告されており(Xiangら J Mol Biol. 1995 Oct 27;253(3):385-90.)、さらに69番、71番の残基がupper coreを形成して構造の安定化に関与することが報告されている(Ewertら、Methods. 2004 Oct;34(2):184-99)。VE199の当該残基は69番がロイシン(L)、71番がバリン(V)、93番がイソロイシン(I)であるが(配列番号:62)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表3のFR3(1)(配列番号:13)に示したとおり、当該残基が69番がイソロイシン(I)、71番がアラニン(A)、93番がアラニン(A)であり、ヒト化によってそれぞれの残基へと置換されてしまうことで活性の低下が予想された。そこで、H鎖69、71、93番目についてはVE199の配列を残存させたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:14)。さらに、免疫原性を考慮して、FR3直前のCDR2について、germline IGHV1-45の配列を参考に64番目のアルギニン(R)をグルタミン(Q)に置換したものを採用することにした(配列番号:15)。
【0141】
L鎖FR3の配列において、Kabat numbering 87番目の残基がVH/VL界面形成に影響を与えることが報告されている(Vargas-Madrazo ら、J Mol Recognit. 2003;16(3):113-20.)。VE199の当該残基はフェニルアラニン(F)であるが(配列番号:63)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表3のFR3(1)(配列番号:22)に示したとおり、当該残基がチロシン(Y)であることから、ヒト化によってチロシンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、L鎖87番目についてはVE199の配列を残存させ、フェニルアラニンとしたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:23)。
【0142】
【表3】
【0143】
6−2.ヒト化VE199可変領域199HAおよび199LAの作製
ヒト化テンプレート配列のFR領域にVE199抗体のCDR領域を移植したヒト化VE199抗体の可変領域を作製するため、合成オリゴDNAをH鎖、L鎖それぞれ設計した。各合成オリゴDNAを混和し、アッセンブルPCRによりヒト化VE199の可変領域をコードする遺伝子を作成し、H鎖を199HA、L鎖を199LAとした。アッセンブルPCRはPirmeSTAR GXL(TaKaRa Bio)を用いて行い、以下の条件に従ってPCR法によって実施した。添付のPCR Buffer、dNTPs、PirmeSTAR GXLおよび15 pmolの合成オリゴDNAからなる反応混合物を、94℃にて5分加熱した後、94℃にて2分、55℃にて2分、68℃にて2分から構成されるPCR反応サイクルを8回実施した後、可変領域の5'末端に制限酵素サイトとKozak配列を付加したプライマー、及び3'末端に制限酵素サイトを付加したプライマーをそれぞれ5 pmol添加し、94℃にて10秒、55℃にて5秒、68℃にて1分から構成されるPCR反応サイクルを30回実施し増幅断片を得た。得られた増幅断片を動物細胞発現ベクターによりクローニングし、定常領域と連結した。
【0144】
ここで、IgG抗体のH鎖C末端配列(配列番号:58)由来のヘテロジェニティーとして、C末端アミノ酸のリジン残基の欠損、および、C末端の2アミノ酸のグリシン、リジン両方の欠損によるC末端アミノ基のアミド化が報告されている(Anal Biochem. 2007 Jan 1;360(1):75-83.)。これらのヘテロジェニティーを低減させる方法として、H鎖C末端の2アミノ酸、すなわちEU numbering 446番目のグリシンおよび447番目のリジンを欠損させる方法が知られている(WO 2009/041613)。ヒト化VE199抗体においても、H鎖C末端配列に由来するヘテロジェニティーは存在しないことが望ましいため、ヒトIgG1のEU numbering 446番目のグリシンおよび447番目のリジンを欠損させたIgG1配列(配列番号:68)を定常領域配列として用いた。一方、L鎖については天然型ヒトκ鎖(配列番号:59)を定常領域配列として用いた。抗体の発現および精製は参考例7の手順により実施した。ヒト化VE199抗体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた(図8)。ヒト化VE199抗体(H鎖:VE199HA/配列番号:69、L鎖:VE199LA/配列番号:70)はキメラVE48抗体(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)と比べて顕著な活性の低下はなく、ヒト化後も基準となるキメラ抗体と同等の活性を有すると判断した。
【0145】
〔実施例7〕VE48抗体のヒト化
7-1.各フレームワーク配列の選定
VE48抗体のヒト化を行うため、VE48抗体の可変領域配列とヒトのgermline配列を比較した。その中で、ヒト化のテンプレートとなるFR配列を表4にまとめた。ヒト化した可変領域として、H鎖は表4に記載されているFR1、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列をHA可変領域(配列番号:48)とした。また、L鎖はFR1、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列をL6可変領域(配列番号:56)とした。なお、CDR、FRの決定はKabat numberingに従って行われた。
【0146】
H鎖FR3の配列において、Kabat numbering 94番目の残基がCDR3の立体構造に大きな影響を与えることが報告されている(Moreaら J. Mol. Biol. 1998; 275:269-294)。VE48可変領域の当該残基はグルタミン(Q)であるが(配列番号:64)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表4のFR3(1)(配列番号:30)に示したとおり、当該残基がアルギニン(R)であることから、ヒト化によってアルギニンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、H鎖94番目についてはVE48の配列を残存させ、グルタミン(Q)としたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:31)。
【0147】
L鎖FR3の配列において、Kabat numbering 87番目の残基がVH/VL界面形成に影響を与えることが報告されている(Vargas-Madrazo ら、J Mol Recognit. 2003;16(3):113-20.)。VE48可変領域の当該残基はフェニルアラニン(F)であるが(配列番号:65)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表4のFR3(1)(配列番号:38)に示したとおり、当該残基がチロシン(Y)であることから、ヒト化によってチロシンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、L鎖87番目についてはVE48の配列を残存させ、フェニルアラニンとしたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:39)。
【0148】
【表4】
【0149】
7-2.ヒト化VE48可変領域HAおよびL6の作製
ヒト化テンプレート配列のFR領域にVE48抗体のCDR領域を移植したヒト化VE48抗体の可変領域を作製するため、合成オリゴDNAをH鎖についてのみ設計した。各合成オリゴDNAを混和し、アッセンブルPCRによりヒト化VE48の可変領域をコードする遺伝子を作成し、これをHA(配列番号:48)とした。可変領域の作成、および、定常領域に連結させたベクターの作成は実施例6と同じ方法で実施した。
【0150】
L鎖についてはVE48抗体とVE199抗体との相同性が高いことから、実施例6で作成した199LA可変領域(配列番号:47)を基にCDR3のみをVE48抗体の配列とする改変(91番のグリシンをセリンに置換、および、96番のアルギニンをトリプトファンに置換)を実施した。変異体の作製はPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。具体的には、まず改変部位を含むアミノ酸配列に基づいて設計された順鎖および逆鎖のオリゴDNAの合成を行った。改変部位を含む順鎖のオリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターに結合する逆鎖のオリゴDNA、改変部位を含む逆鎖のオリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターに結合する順鎖のオリゴDNAをそれぞれ組み合わせ、PrimeSTAR(TAKARA)を用いてPCRを行うことによって、改変部位を含む断片を5'末端側と3'末端側の2つを作製した。その2つの断片をAssemble PCRによりつなぎ合わせることによって、91番のグリシンがセリンに、および、96番のアルギニンがトリプトファンに置換されたL6可変領域配列(配列番号:56)の遺伝子断片を作製した。
【0151】
L鎖定常領域は天然型ヒトκ鎖(配列番号:59)を定常領域配列として用い、動物細胞発現用ベクターとした。抗体の発現および精製は参考例7の手順により実施した。ヒト化VE48抗体(H鎖:VE48HA/配列番号:71、L鎖:VE48L6/配列番号:72)について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた(図9)。ヒト化VE48抗体はキメラVE48抗体(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)と比べて顕著な活性の低下はなく、ヒト化後も基準とするキメラ抗体と同等の活性を有すると判断した。
【0152】
〔実施例8〕脱アミド化反応を抑制する変異の導入
医薬品に使用する抗体は、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られるモノクローナル抗体であるにも関わらず、ヘテロジェニティーが存在する。そのような抗体のヘテロジェニティーは酸化、脱アミド化などの修飾により起こり、長期間の保存中や熱ストレス、光ストレスといったストレス条件下にさらされることで増加することが知られている(参考文献:Heterogeneity of Monoclonal Antibodies:Journal of pharmaceutical sciences, vol.97,No.7,2426-2447)。しかしながら、抗体を医薬品として開発するにあたり、そのタンパク質の物性、中でも均一性と安定性は極めて重要であり、目的物質のヘテロジェニティーを低減し、可能な限り単一物質であることが望まれる。
【0153】
脱アミド化反応とは、アスパラギン(N)およびグルタミン(Q)の側鎖において非酵素的に起こり、アスパラギンおよびグルタミンの側鎖に存在するアミドがカルボン酸へと変化する反応である。保存中に起こる脱アミド化反応は、上述したヘテロジェニティーの原因となることから、可能な限り抑制されることが望まれる。また、脱アミド化反応は、特にアスパラギン(N)とグリシン(G)が隣接した部位(・・・NG・・・)において起こりやすいことが報告されている(Geigerら J. Biol. Chem. 1987; 262:785-794)。L6(配列番号:72)のCDR1にアスパラギン(N)とグリシン(G)が隣接した配列が存在することから、この部位のアミノ酸置換により脱アミド化反応を抑制することが可能であると考えられた。
【0154】
アミノ酸置換による脱アミド化反応の抑制は、具体的には以下のように行った。L6(配列番号:72)のKabat numbering 28番に存在するアスパラギン(N)を異なる残基に置換することで、脱アミド化反応の抑制が可能であると考えられた。そこで、L6(配列番号:72)のKabat numbering 28番に存在するアスパラギン(N)を、リジン(K)に置換したL14(配列番号:73)を作製した。変異体の作製はPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。具体的には実施例7の方法に従い実施した。作製された遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。抗体の作製および精製は参考例7の方法に従って行った。これらを用いて、HA/L14(H鎖:VE48HA/配列番号:71、L鎖:VE48L14/配列番号:73)、を作製し、これらの改変体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた。結果を図10に示す。作製した改変体は、chVE48(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)に比べて顕著な活性の低下はなく、脱アミド化反応の抑制が可能であると考えられた。
【0155】
〔実施例9〕等電点を変化させる変異の導入
抗体の血漿中半減期を制御する方法の一つとして、抗体分子表面に露出するアミノ酸残基を改変し、抗体分子表面電荷をコントロールする方法が知られている(WO2007/114319およびWO2009/041543)。具体的には、抗体が有する等電点(pI)の値を低下させることにより、抗体の血漿中半減期を伸長させることが可能であることが知られている。それとは逆に抗体の等電点が上昇することにより、血漿中半減期が短縮し、抗体の組織移行性が向上することが知られている(非特許文献 : Vaisitti T, Deaglio S, Malavasi F., Cationization of monoclonal antibodies: another step towards the "magic bullet"?, J Biol Regul Homeost Agents. (2005) 19(3-4), 105-12および : Pardridge WM, Buciak J, Yang J, Wu D. Enhanced endocytosis in cultured human breast carcinoma cells and in vivo biodistribution in rats of a humanized monoclonal antibody after cationization of the protein. J Pharmacol Exp Ther. (1998) 286(1), 548-54)。
【0156】
以上のことから、等電点を変化させたヒト化VE48抗体は、血漿中半減期の伸長あるいは組織移行性の向上により、より強い抗腫瘍活性が期待される。そこで、ヒト化VE48抗体の抗原に対する結合活性や、その立体構造に影響を与えることなく、抗体分子表面の電荷を調節することによって抗体の薬物動態を制御することが可能であるアミノ酸残基の同定を行った。具体的には、HA/L6(H鎖VE48HA/配列番号:71、L鎖VE48L6/配列番号:72)の可変領域に対して、抗原結合阻害活性を大きく低下させることなく、等電点を変化させることのできる変異箇所の探索を行った。
【0157】
ヒト化VE48抗体の立体構造モデルを用いて、VEGF-Dへの結合を大きく低下させることなく可変領域の等電点を変化させられる変異箇所をスクリーニングした結果、幾つかの変異箇所を見出した。H鎖において等電点を低下させる改変については表5(H鎖の等電点低下のための改変箇所)に示した。各改変体の作製、精製は実施例7に記載した方法で行った。
【0158】
作製した改変体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた。図11〜図14に示したとおり、各改変体の抗原結合阻害活性はchVE48(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)のそれと比較して大きな低下は示されなかった。
【0159】
【表5】
【0160】
〔参考例1〕ヒトVEGF-D、ヒトVEGFR-3、カニクイザルVEGF-D、カニクイザルVEGFR-3遺伝子の単離
ヒトVEGF-D遺伝子、ヒトVEGFR-3遺伝子、カニクイザルVEGF-D遺伝子、カニクイザルVEGFR-3遺伝子の単離を試みた。公開されているヒトVEGF-D遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりhuman lung cDNA library (Clontech)からヒトVEGF-D遺伝子の増幅に成功した。同様にして、公開されているヒトVEGFR-3遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりHUVEC (Normal Human Umbilical Vein Endothelial cells, Lonza)からヒトVEGFR-3遺伝子の増幅に成功した。同様にして、公開されているヒトVEGF-D遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりMonkey(Cynomolgus) Tissue cDNA: Breast (CytoMol)からカニクイザルVEGF-D遺伝子の増幅に成功した。同様にして、公開されているヒトVEGFR-3遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりカニクイザル脾臓cDNAからカニクイザルVEGFR-3遺伝子の増幅に成功した。単離したヒトVEGF-DおよびカニクイザルVEGF-Dについて、プロセシング後の成熟型タンパク質をコードすると予測される遺伝子配列を配列番号:74、76に示す。ヒトVEGFR-3、カニクイザルVEGFR-3の遺伝子配列を、配列番号:78、80に示す。また、成熟型ヒトVEGF-D、成熟型カニクイザルVEGF-D、ヒトVEGFR-3、カニクイザルVEGFR-3のアミノ酸配列を、配列番号:75、77、79、81に示す。
【0161】
〔参考例2〕VEGFR-3発現CHO細胞株の樹立
ヒトVEGFR-3遺伝子(参考例1、配列番号:78)の細胞内領域と予測される配列を除去した配列(配列番号:82)をPCR法によって増幅した。同様にしてカニクイザルVEGFR-3遺伝子(参考例1、配列番号:80)の細胞内領域を除去した配列(配列番号:83)をPCR法によって増幅した。これらを哺乳動物細胞用発現ベクターに挿入し、このベクターを制限酵素にて直鎖状にしたのち、CHO細胞にエレクトロポレーション法にて導入した(BioRad Gene Pulser、25μF、 1.5 kV)。薬剤で選抜し、抗ヒトVEGFR-3抗体(R&D)を用いてFCM解析することでヒトVEGFR-3発現CHO細胞およびカニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞を樹立した。
【0162】
〔参考例3〕VEGF-Dの調製
Hisタッグを付加した成熟型ヒトVEGF-D遺伝子(参考例1、配列番号:74)および成熟型カニクイザルVEGF-D遺伝子(参考例1、配列番号:76)をそれぞれ哺乳動物細胞用発現ベクターに挿入し、FreeStyle293-F細胞に遺伝子導入することで一過性の発現を行った。培養上清をHisTrap column(GE Healthcare)にアプライし、イミダゾールによって溶出するアフィニティー精製を行い、VEGF-Dを含む画分を分離した。さらに得られた画分を、展開液D-PBS上でSuperdex75(GE Healthcare)を用いたゲルろ過に供することで、活性型であるVEGF-D二量体を精製した。
【0163】
〔参考例4〕VEGF-CおよびVEGF-D ELISA系確立
1μg/mL VEGF-C(R&D)または1μg/mL VEGF-D(参考例3)をNi-coated 96 well plate(PIERCE)に100μL/wellで添加し、25℃、1時間振とう条件下で固相化した。0.05 % Tween20/PBSで5回洗浄した後、200μL/well ブロッキングワン(ナカライテスク)を用いて常温、1時間静置することでブロッキングを行った。1次抗体としてブロッキングワンで希釈した抗VEGF-D抗体を100μL/wellで添加し、常温、1時間反応を行った後、0.05 % Tween20/PBSで3回洗浄した。さらに2次抗体としてブロッキングワンで希釈したHRP標識Goat anti mouse IgG抗体(シグマ)を100μL/wellで添加し、常温、1時間反応を行った後、0.05 % Tween20/PBSで5回洗浄した。発色基質(KPL)を100μL/wellで添加し、常温で反応させた後、100μL/wellで1 % SDSを加えることで反応を停止した。プレートリーダー(BioRad)で波長405 nmを測定した。
【0164】
〔参考例5〕競合Cell ELISAによるVEGF-D結合阻害系確立
ヒトおよびカニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)を培養しているフラスコより抜き取り、a-MEM/10 % FBS/ 1% Penicillin- Streptomycin(Invitrogen)/1×HT(Invitrogen)/500μg/mL Geneticin(Invitrogen)培地に1×105 cell/mLとなるように懸濁し、96 well コラーゲンプレート(Beckton Dickinson)に200μL/wellで播き込んだ。37℃、5 % CO2で2日間培養した後、競合Cell ELISAに使用した。培地を除去した後、2.5μg/mLヒトまたはカニクイザルVEGF-D(参考例3)を含む2 % FBS/HBSSによって希釈した抗VEGF-D抗体を添加した。常温で1時間インキュベートした後、VEGF-Dおよび抗VEGF-D抗体を除去し、200μL 0.05 % Tween20/PBSで3回洗浄を行った。二次抗体として500倍希釈したpolyHistidine HRP MAb(R&D)を100μL/wellで添加した。常温で1時間インキュベートした後、二次抗体を除去し、200μL 0.05 % Tween20/PBS で5回洗浄を行った。発色基質(KPL)を100μL/wellで添加し、常温で反応させた後、100μL/wellで1 % SDSを加えることで反応を停止した。プレートリーダー(BioRad)で波長405 nm/620 nmを測定した。
【0165】
〔参考例6〕ヒトリンパ管内皮細胞増殖阻害アッセイ
ヒトリンパ管内皮細胞としてHMVEC-LLy細胞(TAKARA BIO)を使用した。HMVEC-LLy細胞は微小血管内皮細胞培地キット-2(5 % FBS)培地(TAKARA BIO)にて、維持継代した。HMVEC-LLy細胞を微小血管内皮細胞培地キット-2培地にて5×104個/mLとなるように調製した。100μL (5×103個/well)で96well plate(コーニング)に撒き、5 %炭酸ガスインキュベータ中37℃で24時間培養した。培養後、アッセイ培地(RPMI-1640培地(SIGMA)に0.1 % FBS、500 ng/mL human VEGF-D(R&D))に抗VEGF-D抗体を適当な濃度となる様に加え、96 well plateの微小血管内皮細胞培地キット-2培地を除去した後に添加した。5 %炭酸ガスインキュベータ中37℃で72時間培養した。培養後、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を10μL/wellで添加し、5 %炭酸ガスインキュベータ中37℃で3時間培養した。培養後、450 nmの吸光度を測定した。
【0166】
〔参考例7〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
抗体の可変領域のH鎖およびL鎖の塩基配列をコードする全長の遺伝子の合成は、Assemble PCR等を用いて、当業者公知の方法で作製した。アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)あるいはPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、H鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)、または0.45μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して培養上清を得た。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗VEGF-D抗体、並びに、抗VEGF-D抗体を有効成分として含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮細胞成長因子(vascular endothelial growth factor 以下、VEGFと称する)は、血管内皮細胞の増殖や血管の透過性を亢進させる物質として精製、単離されたタンパク質性因子である(Biochem. Biophys. Res. Commun., 161:851-858(1989))。その後、VEGF-B(非特許文献2)およびVEGF-C(非特許文献3)が単離され、1つのVEGFファミリーが形成されている。近年、VEGF-Cと有意な相同性を有するVEGFファミリーの4番目の因子として、VEGF-Dが見出された(特許文献1)。VEGF-CとVEGF-Dは、そのレセプターの1つであるVEGFレセプター3(以下、VEGFR-3と称する)に結合して、当該レセプターを活性化し、リンパ管形成の促進に関与している。また、これらの因子は、VEGFR-2とも結合し、血管形成の促進にも関与している(非特許文献4〜8)。さらにVEGF-CとVEGF-Dが癌組織で高発現し、癌組織周辺および/または内部において、リンパ管の増殖とリンパ節転移の促進に関与することが報告されている(非特許文献9〜13)。
【0003】
最近になって、VEGF-Dとそのレセプターとの結合を阻害する抗VEGF-D抗体が取得されたことが報告された(特許文献2,3,非特許文献14)。さらにそれらの取得された抗体の1つであるVD1がVEGF-Dとそのレセプターとの結合を阻害し、リンパ節転移を抑制することが報告されている(非特許文献9)。
【0004】
なお、本発明の先行技術文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO98/002543
【特許文献2】WO2000/037025
【特許文献3】WO2005/087177
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun., 161:851-858(1989)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 2576-2581(1996)
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 1988-1992(1996)
【非特許文献4】TRENDS in Immunology Vol.25 No.7 387-394(2004)
【非特許文献5】Dev. Biol. 188, 96-109(1997)
【非特許文献6】EMBO J. 20, 1223-1231(2001)
【非特許文献7】FASEB J. 16, 1041-1049(2002)
【非特許文献8】Circ. Res. 92, 1098-1106(2003)
【非特許文献9】Nat. Med. 7, 192-198(2001)
【非特許文献10】Cancer Res. 61, 1786-1790(2001)
【非特許文献11】Nat. Med. 7, 186-191(2001)
【非特許文献12】Int. J. Cancer 98, 946-951(2002)
【非特許文献13】Nat. Med. 13, 1458-1466(2007)
【非特許文献14】Eur. J. Biochem. 267, 2505-2515(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗VEGF-D抗体、ならびにかかる抗体を有効成分として含有する医薬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、VEGF-Dを発現する細胞を移植した系において、VEGF-Dに結合し、in vivoでリンパ管形成阻害活性を有する抗VEGF-D抗体を取得することに成功した。
また、本発明者らは、上記で取得した抗VEGF-D抗体の活性を維持したまま抗体をヒト化することに成功した。
これらの抗体は、ヒトにおける免疫原性のリスクが低減し、癌治療剤として有用である。
【0009】
即ち本発明は、抗VEGF-D抗体、並びに、抗VEGF-D抗体を有効成分として含む医薬組成物に関し、より具体的には、以下の〔1〕〜〔12〕の発明を包含する。
〔1〕 以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE29H鎖CDR)、
(2) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE29L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔2〕 以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:8または配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE199H鎖CDR)、
(2) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE199L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:10または配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:13または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化H鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:22または配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔3〕 以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:25または配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:26、配列番号:42または配列番号:44に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE48H鎖CDR)、
(2) 配列番号:33または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE48L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:28に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:29に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:30または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:32または配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化HA鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:38または配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔4〕 以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:46(VE199HA)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:47(VE199LA)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
(3) (1)の重鎖可変領域と(2)の軽鎖可変領域を含む抗体(VE199HALA)、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔5〕 以下の(1)〜(13)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:48(VE48HA)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:49(VE48HH)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(3) 配列番号:50(VE48HI)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(4) 配列番号:51(VE48HJ)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(5) 配列番号:52(VE48HK)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(6) 配列番号:53(VE48H16)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(7) 配列番号:54(VE48H17)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(8) 配列番号:55(VE48H18)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(9) 配列番号:56(VE48L6)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(10) 配列番号:57(VE48L14)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(11) (1)〜(8)のいずれかに記載の重鎖可変領域と(9)または(10)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(12) (1)〜(11)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(11)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
〔6〕 ヒト化抗体である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体。
〔7〕 〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の抗体を含む医薬組成物。
〔8〕 癌治療剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔9〕 リンパ管形成阻害剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔10〕 腫瘍増殖抑制剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔11〕 転移抑制剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
〔12〕 リンパ節転移抑制剤である〔7〕に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗VEGF-D抗体は、優れたVEGFR-3に対するVEGF-Dの結合阻害活性を示す。当該阻害活性により、VEGF-Dの結合による活性を阻害し、優れた抗癌剤としての使用が可能である。特にリンパ管形成、リンパ節転移および/または腫瘍増殖に対して優れた抑制効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒトVEGF-DまたはカニクイザルVEGF-Dを免疫して得られた抗VEGF-Dマウス抗体(mVE29、mVE48およびmVE199)のヒトVEGF-Dに対する特異的結合を測定した結果を示す図である。
【図2】ヒトVEGF-DまたはカニクイザルVEGF-Dを免疫して得られた抗VEGF-Dマウス抗体(mVE29、mVE48およびmVE199)のヒトVEGF-Cに対する特異的結合を測定した結果を示す図である。
【図3】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE29、キメラVE48およびキメラVE199)によるヒトVEGFR-3発現細胞に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を測定した結果を示す図である。
【図4】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE48およびキメラVE199)によるカニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞に対するカニクイザルVEGF-Dの結合阻害を測定した結果を示す図である。
【図5】抗VEGF-Dキメラ抗体(VD1、キメラVE48およびキメラVE199)によるヒトリンパ管内皮細胞の増殖阻害活性を測定した結果を示す図である。
【図6】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE48 10 mg/kg、2 mg/kgおよびキメラVE199 10 mg/kg、2 mg/kg)および対照(生理食塩水)による、hD_1細胞移植マウスにおけるin vivoリンパ管形成モデルの評価結果を示す図(A)および写真(B〜F)である。
【図7】抗VEGF-Dキメラ抗体(キメラVE48 25 mg/kgおよびキメラVE48 10 mg/kg)および対照(生理食塩水)によるin vivoでのリンパ節転移抑制活性を測定した結果を示す図である。
【図8】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE199抗体(199HA/199LA)のVHGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図9】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HA/48L6)のVHGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図10】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HA/48L14)のVHGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図11】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HH/48L6および48HI/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図12】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48HJ/48L6および48HK/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図13】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48H16/48L6および48H17/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【図14】キメラVE48抗体とヒト化抗体VE48抗体(48H18/48L6)のVEGF-D結合阻害活性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
VEGF-D
VEGF-Dは、VEGFファミリーのメンバーであり、WO98/002543においてはじめてヒトの血管形成やリンパ管形成にかかわる新規なタンパク質因子として見出されている。当該因子は、ホモダイマーを形成後、プロセッシングを受け、成熟型ホモダイマーとなる。当該成熟型ホモダイマーは、VEGFR-2とVEGFR-3の両方に結合する(J. Biol. Chem. 274: 32127-32136, 1999)。当該因子はVEGFR-2およびVEGFR-3のリガンドとして機能し、血管形成やリンパ管形成の促進過程を通じて転移、特にリンパ節転移に関係していることが知られている(Nat. Med. 13, 1459, 2007)。
【0013】
本発明のVEGF-Dの由来は特に限定されず、ヒト、マウス、サル、その他の哺乳動物に由来するVEGF-Dが含まれるが、好ましくはヒト、マウスまたはサル由来のVEGF-Dであり、特に好ましくはヒト由来のVEGF-Dである。
【0014】
抗体(配列)
本発明の抗VEGF-D抗体の好ましい態様として、下記のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体を挙げることができる。
【0015】
(A)VE29
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE29H鎖CDR)、
(2) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE29L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0016】
(B)VE199
(1) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:8または配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE199H鎖CDR)、
(2) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE199L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:10または配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:13または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化H鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:22または配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE199ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0017】
(C)VE48
(1) 配列番号:25または配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:26、配列番号:42または配列番号:44に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体(VE48H鎖CDR)、
(2) 配列番号:33または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体(VE48L鎖CDR)、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:28に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:29に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:30または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:32または配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化HA鎖FR改変前と改変後)、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:38または配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体(VE48ヒト化L鎖FR改変前と改変後)、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0018】
上述の1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入の具体的な例としては、特に限定されないが、以下の改変を挙げることができる。
配列番号:10の重鎖FR1において9番目のAの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてPを挙げることができる。
配列番号:13の重鎖FR3において4番目のIの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてLを挙げることができる。
配列番号:13の重鎖FR3において6番目のAの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてVを挙げることができる。
配列番号:13の重鎖FR3において31番目のAの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてIを挙げることができる。
配列番号:8の重鎖CDR2において16番目のRの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてQを挙げることができる。
配列番号:22の軽鎖FR3において31番目のYの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてFを挙げることができる。
配列番号:30の重鎖FR3において32番目のRの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてQを挙げることができる。
配列番号:38の軽鎖FR3において31番目のYの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてFを挙げることができる。
配列番号:33の軽鎖CDR1において9番目のNの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてIを挙げることができる。
配列番号:33の軽鎖CDR1において10番目のNの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてKを挙げることができる。
配列番号:26の重鎖CDR2において5番目のNの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてEを挙げることができる。
配列番号:25の重鎖CDR1において1番目のTの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてDを挙げることができる。
配列番号:26の重鎖CDR2において15番目のRおよび16番目のSの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例として15番目のRのQ、16番目のSのDへの置換を挙げることができる。
配列番号:32の重鎖FR4において3番目のQの他のアミノ酸への置換。置換後のアミノ酸は特に限定されないが好ましい例としてEを挙げることができる。
【0019】
上述の置換は単独で行ってもよいし、複数の置換を組み合わせてもよい。又、上述の置換と上述以外の置換を組み合わせてもよい。これらの置換により抗体の薬物動態(血漿中滞留性)の向上、抗原への結合活性の増強、安定性の向上、および/または免疫原性のリスクの低減が可能である。
【0020】
本発明において上述の置換を組み合わせた可変領域の具体例としては、配列番号:46のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域または配列番号:47のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を挙げることができる。さらに、上述の置換を組み合わせた抗体の例として、配列番号:48〜55のいずれかのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号:56または57のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体を挙げることができる。
【0021】
さらに、上述の置換を組み合わせた抗体の具体例として、以下の抗体を挙げることができる。
(i) 配列番号:46の重鎖可変領域と配列番号:47の軽鎖可変領域を含む抗体
(ii) 配列番号:48〜55いずれかの重鎖可変領域と配列番号:56または配列番号:57の軽鎖可変領域を含む抗体
【0022】
上述の抗体においては如何なるフレームワーク領域(FR)が用いられてもよいが、ヒト由来のFRが用いられることが好ましい。又、上述の抗体において、定常領域はいかなる定常領域が用いられてもよいが、ヒト由来の定常領域が用いられることが好ましい。本発明の抗体に用いられるFRまたは定常領域のアミノ酸配列は、由来となる元のFRまたは定常領域のアミノ酸配列をそのまま用いてもよいし、1または複数のアミノ酸を置換、欠失、付加および/または挿入等して異なるアミノ酸配列にして用いてもよい。
【0023】
本発明において、「抗体と同等の活性」とは、VEGF-D(例えばヒトVEGF-D)への結合活性および/または中和活性が同等であること、あるいは、抗腫瘍活性が同等であることを意味する。抗腫瘍活性としては、例えば、腫瘍細胞重量または体積を減少させる活性、腫瘍細胞重量または体積の増加を抑制させる活性、腫瘍内リンパ管を減少させる活性、腫瘍内血管を減少させる活性、腫瘍内の異常リンパ管を正常化させる活性、腫瘍内の異常血管を正常化させる活性、腫瘍血管透過性を正常化させる活性、腫瘍リンパ管透過性を正常化させる活性、腫瘍細胞のリンパ節転移を抑制させる活性、腫瘍細胞の遠隔転移を抑制させる活性、他薬剤による腫瘍細胞重量または体積の減少を促進させる活性、腫瘍細胞による個体死亡を抑制する活性等が挙げられる。
【0024】
本発明において、「同等」とは、必ずしも同程度の活性である必要はなく、活性が増強されていてもよいし、又、活性を有する限り活性が減少していてもよい。活性が減少している抗体としては、例えば、元の抗体と比較して30%以上の活性、好ましくは50%以上の活性、より好ましくは80%以上の活性を有する抗体を挙げることができる。
【0025】
上述の抗体は、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性を有する、あるいは、抗腫瘍活性を有する限り、可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。アミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されており、VEGF-Dに対する結合活性、中和活性および/または抗腫瘍活性を有する抗体のアミノ酸配列を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いて、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体のアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは、抗腫瘍活性を有する抗体と機能的に同等な変異体を調製することができる。
【0026】
このように、可変領域において、1もしくは複数のアミノ酸が変異しており、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体もまた本発明の抗体に含まれる。
【0027】
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。このような変異体は、本発明の可変領域(例えばCDR配列、FR配列、可変領域全体)のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップを導入した後、元となった重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。アミノ酸配列の同一性は、後述の方法により決定することができる。
【0028】
また、可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されており、VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する可変領域のアミノ酸配列は、該可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸から得ることも可能である。可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するための、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6 M 尿素、0.4% SDS、0.5 x SSC、37℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6 M 尿素、0.4% SDS、0.1 x SSC、42℃の条件を用いれば、より相同性の高い核酸の単離を期待することができる。単離した核酸の配列の決定は、後述の公知の方法によって行うことが可能である。単離された核酸の相同性は、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0029】
上記ハイブリダイゼーション技術を利用する方法にかえて、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離することも可能である。
【0030】
塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information)の BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0031】
また本発明は、上記抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体も提供する。
【0032】
ある抗体が他の抗体と同じエピトープを認識するか否かは、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競合結合アッセイによって評価することができ、その手段として酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))などが挙げられる。抗原に結合した該抗体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、同じエピトープに対する被検抗体の量や親和性が大きくなるほど、該抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした該抗体と評価すべき抗体を同時に添加し、標識を利用して結合している該抗体を検出する。抗原に結合した該抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放射標識、酵素標識などが挙げられる。
【0033】
例えば、VEGF-Dを固相化したビーズに蛍光標識した該抗体と、非標識の該抗体あるいは被検抗体を同時に添加し、標識された該抗体を蛍光微量測定技術によって検出する。
【0034】
ここでいう「同じエピトープを認識する抗体」とは、標識該抗体に対して、非標識の該抗体の結合により結合量を50%低下させる濃度(IC50)に対して、被検抗体が非標識該抗体のIC50の通常、100倍、好ましくは80倍、さらに好ましくは50倍、さらに好ましくは30倍、より好ましくは10倍高い濃度で少なくとも50%、標識該抗体の結合量を低下させることができる抗体である。
【0035】
上述の抗体が結合するエピトープに結合する抗体は、特にVEGF-DのVEGFR-3への高い結合阻害活性を有する点で有用である。また、上述の(A)に記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体は、VEGF-DのみでなくVEGF-Cに結合し、VEGF-CのVEGFR-3への高い結合阻害活性を有する。VEGF-CもVEGF-Dと同様にVEGFR-3に結合して血管形成、リンパ管形成およびリンパ節転移作用を有することから、癌治療において効率の良い優れた癌治療効果が見込まれる。
【0036】
上述の抗体は特に限定されないが、ヒト化抗体であることが好ましい。
【0037】
さらに本発明は、上述の抗VEGF-D抗体をコードする遺伝子を提供する。本発明の遺伝子はいかなる遺伝子であってもよく、例えばDNAでもよいし、RNAでもよい。
【0038】
抗体(ヒト化)
本発明における抗体の好ましい態様の一つとして、VEGF-Dに結合するヒト化抗体を挙げることができる。ヒト化抗体は当業者に既知の方法を用いて製造することができる。
【0039】
抗体の可変領域は、通常、4つのフレーム(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い相同性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるといわれている。
【0040】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576号公報参照)。
【0041】
具体的には、例えばCDRがマウス抗体由来である場合には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDRおよびFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する(WO 98/13388号公報に記載の方法を参照)。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。
【0042】
CDRと連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換、欠失、付加および/または挿入等してもよい。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択できる(Sato, K.et al., CancerRes.(1993)53, 851-856)。
【0043】
ヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεを、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。
【0044】
また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。修飾されたヒト抗体C領域の例としては後述するC領域を挙げることができる。ヒト化の際に用いられるヒト抗体は、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなどいかなるアイソタイプのヒト抗体でもよいが、本発明においてはIgGを用いることが好ましい。IgGとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などを用いることが可能である。
【0045】
なお、ヒト化抗体を作製した後に、可変領域(例えば、CDR、FR)や定常領域中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換、欠失、付加および/または挿入等してもよく、本発明のヒト化抗体には、そのようなアミノ酸置換等されたヒト化抗体も含まれる。
【0046】
抗体のヒト化において、通常、由来となった抗体の結合活性や中和活性、あるいは抗腫瘍活性を維持したままヒト化を行うことは困難であるが、本発明においては、由来となったマウス抗体と同等の結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するヒト化抗体の取得に成功した。ヒト化抗体はヒト体内における免疫原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用である。
【0047】
さらに本発明は、本発明の抗体をコードする遺伝子を含むベクターを提供する。
さらに本発明は、上述のベクターにより形質転換された宿主細胞を提供する。
さらに本発明は、上述の宿主細胞を培養する工程を含む、本発明の抗体の可変領域、本発明の抗体の重鎖、本発明の抗体の軽鎖または本発明の抗体を製造する方法に関する。
【0048】
抗体(中和活性)
本発明はさらに中和活性を有する抗VEGF-D抗体を提供する。
本発明においてVEGF-Dに対する中和活性とは、VEGF-DとそのレセプターであるVEGFR-3との結合を阻害する活性であり、好ましくはVEGFR-3に基づく生理活性を抑制する活性である。
【0049】
VEGF-D中和活性を有する抗体の選別は、例えばVEGFR-3発現細胞株に候補の抗体を添加したときの、VEGF-Dの結合の阻害を確認することにより行うことが可能である。VEGF-Dの結合を阻害する抗体は、VEGF-Dに対する中和活性を有する抗体であると判断される。また、例えばVEGF-D依存的に増殖する細胞株に候補の抗体を添加したときに、その増殖抑制効果を確認することによって行うことも可能である。当該細胞の増殖を抑制する抗体は、VEGF-Dに対する中和活性を有する抗体であると判断される。
【0050】
抗体(一般)
本発明の抗体は、その由来で限定されず、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、如何なる動物由来の抗体でもよい。又、キメラ(chimeric)抗体やヒト化(humanized)抗体などの組換え抗体でもよい。上述のように、本発明の好ましい抗体としてヒト化抗体を挙げることができる。
【0051】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体である。キメラ抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。例えば、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入することによって行うことが可能である(例えば、Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAを得ることができれば、これを所望のヒト抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、ヒト抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、キメラ抗体を発現させることができる。
【0052】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0053】
さらに、ヒト抗体ファージライブラリーを用いて、パニング法によりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388などを参考にすることができる。
【0054】
本発明の抗体には、VEGF-Dへの結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する限り、IgGに代表される二価抗体だけでなく、一価抗体、若しくはIgMに代表される多価抗体、もしくは異なる抗原に結合することができるBispecific抗体も含まれる。本発明の多価抗体には、全て同じ抗原結合部位を有する多価抗体、または、一部もしくは全て異なる抗原結合部位を有する多価抗体が含まれる。本発明の抗体は、抗体の全長分子に限らず、VEGF-Dタンパク質に結合する限り、低分子化抗体またはその修飾物であってもよい。
【0055】
また本発明における抗体は、低分子化抗体であってもよい。低分子化抗体は、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含む抗体であり、VEGF-Dへの結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する限り特に限定されない。本発明において低分子化抗体は、全長抗体の一部分を含む限り特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましくはVHとVLの両方を含む低分子化抗体である。又、本発明の低分子化抗体の他の好ましい例として、抗体のCDRを含む低分子化抗体を挙げることができる。低分子化抗体に含まれるCDRは抗体の6つのCDR全てが含まれいてもよいし、一部のCDRが含まれていてもよい。
【0056】
本発明における低分子化抗体は、全長抗体よりも分子量が小さくなることが好ましいが、例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどの多量体を形成すること等もあり、全長抗体よりも分子量が大きくなることもある。
【0057】
抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(single chain Fv)、Diabody、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)などを挙げることができる。これら抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー等)も、本発明の低分子化抗体に含まれる。
【0058】
抗体断片は、例えば、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。抗体断片を生成する酵素として、例えばパパイン、ペプシン、あるいはプラスミンなどが公知である。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0059】
消化酵素は、抗体断片の特定の位置を切断し、次のような特定の構造の抗体断片を与える。このような酵素的に得られた抗体断片に対して、遺伝子工学的手法を利用すると、抗体の任意の部分を欠失させることができる。
上述の消化酵素を用いた場合に得られる抗体断片は以下のとおりである。
パパイン消化:F(ab)2またはFab
ペプシン消化:F(ab')2またはFab'
プラスミン消化:Facb
【0060】
本発明における低分子化抗体は、VEGF-Dへの結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する限り、任意の領域を欠失した抗体断片を含むことができる。
【0061】
ダイアボディーは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディーは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーである。通常、ダイマーを構成するポリペプチド鎖は、各々、同じ鎖中でVL及びVHがリンカーにより結合されている。ダイアボディーにおけるリンカーは、一般に、VLとVHが互いに結合できない位に短い。具体的には、リンカーを構成するアミノ酸残基は、例えば、5残基程度である。そのため、同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、単鎖可変領域フラグメントを形成できず、別の単鎖可変領域フラグメントと二量体を形成する。その結果、ダイアボディーは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0062】
scFv抗体は、重鎖可変領域([VH])及び軽鎖可変領域([VL])をリンカー等で結合して一本鎖ポリペプチドにした抗体である(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に記載されたいずれの抗体由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーには、特に制限はない。例えば3から25残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドをリンカーとして用いることができる。具体的には、たとえば後述のペプチドリンカー等を用いることができる。
【0063】
両鎖のV領域は、例えば上記のようなPCR法によって連結することができる。PCR法によるV領域の連結のために、まず次のDNAのうち、全部あるいは所望の部分アミノ酸配列をコードするDNAが鋳型として利用される。
抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA配列、および
抗体のL鎖またはL鎖V領域をコードするDNA配列
【0064】
増幅すべきDNAの両端の配列に対応する配列を有するプライマーの一対を用いたPCR法によって、H鎖とL鎖のV領域をコードするDNAがそれぞれ増幅される。次いで、ペプチドリンカー部分をコードするDNAを用意する。ペプチドリンカーをコードするDNAもPCRを利用して合成することができる。このとき利用するプライマーの5'側に、別に合成された各V領域の増幅産物と連結できる塩基配列を付加しておく。次いで、
[H鎖V領域DNA]−[ペプチドリンカーDNA]−[L鎖V領域DNA]
の各DNAと、アセンブリーPCR用のプライマーを利用してPCR反応を行う。
【0065】
アセンブリーPCR用のプライマーは、[H鎖V領域DNA]の5'側にアニールするプライマーと、[L鎖V領域DNA]の3'側にアニールするプライマーとの組み合わせからなる。すなわちアセンブリーPCR用プライマーとは、合成すべきscFvの全長配列をコードするDNAを増幅することができるプライマーセットである。一方[ペプチドリンカーDNA]には各V領域DNAと連結できる塩基配列が付加されている。その結果、これらのDNAが連結され、さらにアセンブリーPCR用のプライマーによって、最終的にscFvの全長が増幅産物として生成される。一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された組換え細胞が常法に従って取得できる。また、その結果得られる組換え細胞を培養して該scFvをコードするDNAを発現させることにより、該scFvが取得できる。
【0066】
結合される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の順序は特に限定されず、どのような順序で並べられていてもよく、例えば、以下のような配置を挙げることができる。
[VH]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VH]
【0067】
sc(Fv)2は、2つのVH及び2つのVLをリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である(Hudson et al、J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。sc(Fv)2は、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。
【0068】
また2つのVH及び2つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が好ましいが、2つのVHと2つのVLの順序は特に上記配置に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような配置も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
【0069】
低分子抗体中の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を会合させた場合に、抗原結合活性を有する限り、一部を欠損させてもよいし、他のポリペプチドを付加してもよい。又、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。
【0070】
本発明において、抗体の可変領域を結合するリンカーは、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー、例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを用いることができる。
【0071】
本発明において好ましいリンカーはペプチドリンカーである。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、通常、1〜100アミノ酸、好ましくは3〜50アミノ酸、更に好ましくは5〜30アミノ酸、特に好ましくは12〜18アミノ酸(例えば、15アミノ酸)である。
【0072】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列としては、例えば、以下のような配列を挙げることができる。
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:84)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:85)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:86)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:87)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:88)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:89)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:90)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:91)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser)n(括弧内のアミノ酸配列を配列番号:86として記載)
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly)n(括弧内のアミノ酸配列を配列番号:87として記載)
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。
【0073】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。たとえば上記のペプチドリンカーの長さを決定するnは、通常1〜5、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2である。
【0074】
合成化合物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ−BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
【0075】
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となる。複数のリンカーは、同じでもよいし、異なるリンカーを用いることもできる。
【0076】
本発明の抗体には、本発明の抗体のアミノ酸配列に1又は複数個のアミノ酸残基が付加された抗体も含まれる。また、これら抗体と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合タンパク質も含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと他のペプチド又はポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明の抗体との融合に付される他のペプチド又はポリペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α-tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明の抗体との融合に付される他のポリペプチドとしては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。市販されているこれらペプチドまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと融合させ、これにより調製された融合ポリヌクレオチドを発現させることにより、融合ポリペプチドを調製することができる。
【0077】
また本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)やヒアルロン酸などの高分子物質、放射性物質、蛍光物質、発光物質、酵素、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている(例えば、US5057313、US5156840)。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0078】
さらに、本発明で使用される抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体を言う。本発明において、二重特異性抗体はVEGF-D分子上の異なるエピトープを認識する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がVEGF-Dを認識し、他方の抗原結合部位が他の物質を認識する二重特異性抗体とすることもできる。
【0079】
さらに、別の観点からは、一方の抗原結合部位がVEGF-Dを認識し、他方の抗原結合部位がヒトエフェクター細胞の抗原を認識する二重特異性抗体とすることもできる。VEGF-Dを認識する本発明の抗体からなる二重特異性抗体の他方の抗原結合部位が結合する抗原としては、例えば、CD2, CD3, CD16, CD19, CD20, CD25, CD28, CD33, CD30, CD44, CD44v6, CD52, VEGF, VEGFR, EGF, EGFR, EGFRvIII, HER-2 neu, HER-3, HER-4, cMET, EpCAM, IGF-1R, TRAIL-R2, Tie-1, PDGFR-alpha, NKG2D, CCR5, Gas6, Mer, Tyro3, NCAM, Transferin receptor, Folate binding protein, IL-15, IL-15R, CEA, CA125, MUC-1,ガングリオシドGD3, Glypican-3, GM2, Sonic Hedgehog(Shh)などが挙げられる。
【0080】
VEGF-Dを認識する本発明の抗体からなる二重特異性抗体の他方の抗原結合部位が結合するVEGF-D分子上の異なるエピトープとしては、例えば、IgD1, IgD2, FND2などが挙げられる。
【0081】
二重特異性抗体を製造するための方法は公知である。たとえば、認識抗原が異なる2種類の抗体を結合させて、二重特異性抗体を作製することができる。結合させる抗体は、それぞれがH鎖とL鎖を有する1/2分子であっても良いし、H鎖のみからなる1/4分子であっても良い。あるいは、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体が作製できる。
【0082】
本発明の抗体は、後述する抗体を産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。また、本発明の抗体を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明の抗体はこのような抗体も包含する。さらに、既知の翻訳後修飾以外の部位に対する翻訳後修飾も、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。
【0083】
抗体の製造
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。VEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するモノクローナル抗体は、たとえば、ヒトやマウス等の哺乳動物に由来するVEGF-Dまたはその断片ペプチドを免疫原として、公知方法によって抗VEGF-Dモノクローナル抗体を調製した後、得られた抗VEGF-Dモノクローナル抗体の中からVEGF-D結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体を選別することにより、得ることが出来る。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫する。得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって、抗VEGF-Dモノクローナル抗体を作製することが可能である。免疫される動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、サル、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ブタなどの哺乳動物を用いることができる。抗原の調製は、公知VEGF-D遺伝子配列を用い、公知の方法、例えばW0 98/002543等に準じて行うことができる。
【0084】
ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行ってもよい。
【0085】
本発明のVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体の一態様として、ヒトVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するモノクローナル抗体が挙げられる。ヒトVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有するモノクローナル抗体を作製するための免疫原としては、ヒトVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体を作製できる限り、特に限定されない。または同様の条件のもとに、VEGF-Dの断片ペプチドや、天然のVEGF-D配列に人為的な変異を加えたものを免疫原としてもよい。成熟型ヒトVEGF-Dは、本発明のVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性を有する抗体を作製するうえで、好ましい免疫原の一つである。
【0086】
また、抗体のVEGF-Dに対する結合活性および/または中和活性、あるいは抗腫瘍活性の測定は、例えば、実施例記載の方法によって行うことができる。
【0087】
一方、モノクローナル抗体は、DNA免疫(DNA Immunization)によっても得ることができる。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現できるような態様で構築されたベクターDNAを当該免疫動物に投与し、免疫抗原を免疫動物の生体内で発現させることによって、免疫刺激を与える方法である。蛋白質抗原を投与する一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性を期待できる。
−膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激を与えることができる
−免疫抗原を精製する必要が無い
【0088】
しかし一方で、DNA免疫においては、アジュバントなどの免疫刺激手段と組み合わせることが困難である。
DNA免疫によってモノクローナル抗体を得るには、まず、VEGF-DをコードするDNAを免疫動物に投与する。VEGF-DをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成することができる。得られたDNAを適当な発現ベクターに挿入し、免疫動物に投与する。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターを利用することができる。ベクターを生体に投与する方法も、一般に用いられている方法を利用することができる。たとえば、発現ベクターを吸着させた金粒子を、遺伝子銃(gene gun)で細胞内に打ち込むことによってDNA免疫を行うことができる。DNA免疫後に、VEGF-DまたはVEGF-D発現細胞による追加免疫(boost)を行うことは、モノクローナル抗体を得る好ましい方法である。
【0089】
このように哺乳動物が免疫され、血清中における所望の抗体量の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に付される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用できる。
【0090】
上記の免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0091】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択することができる。正常な細胞はこれらのピリミジンアナログをDNA中に取り込んでしまうので死滅するが、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないので選択培地の中で生存することができる。この他、G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0092】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
【0093】
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、細胞融合が実施できる。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤を加えることもできる。
【0094】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定できる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。細胞融合に用いる培養液としては、例えば、ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液を利用することができる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を培養液に添加することができる。
【0095】
細胞融合は、免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液を混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。細胞融合法においては、例えば平均分子量1000から6000程度のPEGを、通常30から60%(w/v)の濃度で添加することができる。続いて、上記に挙げた適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去される。
【0096】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択することができる。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択できる。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞を選択的に増殖させることができる。目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、目的とするハイブリドーマを選択することができる。ついで、通常の限界希釈法を実施することによって、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施できる。
【0097】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施できる。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させる。次いで担体を洗浄した後に酵素で標識した二次抗体等を反応させる。もしも培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれる場合、二次抗体はこの抗体を介して担体に結合する。最終的に担体に結合する二次抗体を検出することによって、目的とする抗体が培養上清中に存在しているかどうかが決定できる。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることが可能となる。
【0098】
上述の方法等により取得された抗VEGF-D抗体をコードする塩基配列、アミノ酸配列は当業者に公知の方法により得ることが可能である。
【0099】
得られた抗VEGF-D抗体の配列を基に、当業者に公知の遺伝子組換え技術を用いて抗VEGF-D抗体を作製することが可能である。具体的には、VEGF-Dを認識する抗体の配列を基に抗体をコードするポリヌクレオチドを構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0100】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。本発明の抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア製)、「QIAexpress system」(キアゲン製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0101】
また、ベクターには、抗体分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0102】
大腸菌以外にも、例えば、本発明の抗体を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)や、pEF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0103】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0104】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pSV2-dhfr(「Molecular Cloning 2nd edition」 Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989))など)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0105】
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0106】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose FF(GE Amersham Biosciences)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0107】
得られた抗体のVEGF-Dに対する結合活性の測定は、当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、抗体の抗原結合活性を測定する方法として、ELISA、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。例えば、酵素免疫測定法を用いる場合、抗原をコーティングしたプレートに、抗体を含む試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した二次抗体を添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した後、p-ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。
【0108】
医薬組成物
また本発明は、上述の抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。さらに本発明は上述の抗体を有効成分とする癌の治療剤を提供する。
【0109】
本発明の医薬組成物は、さらにリンパ管形成阻害剤、転移抑制剤、リンパ節転移抑制剤あるいは腫瘍増殖抑制剤として使用することができる。リンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤は、VEGF-Dを中和し、リンパ管形成やリンパ節転移を促進するVEGFR-3のシグナル伝達を阻害させるものである。
【0110】
VEGF-Dの発現量の減少は、VEGF-Dの分解などにより既に存在しているVEGF-Dの量を減少させてもよいし、VEGF-Dの発現を抑制することにより新たに発現するVEGF-Dの量を減少させてもよい。
【0111】
本発明の抗VEGF-D抗体を含むリンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤は、抗VEGF-D抗体を用いてVEGF-Dを中和させる方法とも表現できる。さらに、本発明の抗VEGF-D抗体を含むリンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤は、リンパ管形成阻害剤あるいはリンパ節転移抑制剤の製造の為の抗VEGF-D抗体の使用とも表現できる。
【0112】
本発明の抗VEGF-D抗体は、VEGFR-3のシグナル伝達を阻害させることにより、リンパ管形成阻害効果、リンパ節転移抑制効果、腫瘍の増殖抑制効果などの効果が期待できる。
【0113】
本発明の抗VEGF-D抗体は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の薬剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、抗VEGF-D抗体を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0114】
また、必要に応じ抗VEGF-D抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington's Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、抗VEGF-D抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。
【0115】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射または皮下注射等により全身又は局所的に投与することができる。リンパ管形成、リンパ節転移あるいは腫瘍増殖を抑制したい部位またはその周辺に局所注入、特に筋肉内注射してもよい。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、1回につき体重1 kgあたり活性成分が0.0001 mg〜100 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり活性成分が0.001〜1000 mg/kg・body・weightの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量としては、例えば、本発明の抗体が0.01〜50 mg/kg・body・weight程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、本発明の医薬組成物は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0116】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0117】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0118】
〔実施例1〕ヒトVEGF-D及びカニクイザルVEGF-D免疫マウスを用いたハイブリドーマの作製
Balb/cマウス(雌、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)およびMRLマウスに、ヒトVEGF-D(参考例3)またはカニクイザルVEGF-D(参考例3)を以下の通り免疫した。初回免疫時を0日目とすると、0日目にフロイント完全アジュバント(Difco)とともに100μgヒトVEGF-Dを皮下投与した。14日目にフロイント不完全アジュバント(Difco)とともに50μgカニクイザルVEGF-Dを皮下投与し、その後、1週間おきに3回または4回50μgヒトまたはカニクイザルVEGF-Dを交互にフロイント不完全アジュバントとともに皮下投与した。VEGF-Dの最終投与1週間後に(42日目または49日目)、ブーストとしてヒトVEGF-Dを静脈内投与し、その3日後に、マウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3X63Ag8U.1(P3U1と称す、ATCC CRL-1597)とを、PEG1500(Roche Diagnostics)を用いた常法に従い細胞融合した。融合細胞、すなわちハイブリドーマは、10% FBSを含むRPMI1640培地 (以下、10%FBS/RPMI1640と称す)にて培養した。
【0119】
融合の翌日に、(1)融合細胞を半流動培地(StemCells)に懸濁し、ハイブリドーマの選択培養を行うと共に、ハイブリドーマのコロニー化を実施した。
【0120】
融合後9日目または10日目にハイブリドーマのコロニーをピックアップし、HAT選択培地(10% FBS/RPMI1640、2 vol% HAT 50x concentrate(大日本製薬)、5 vol% BM-Condimed H1(Roche Diagnostics))の入った96-ウェルプレートに、1ウェル当り1コロニーを播種した。3〜4日培養後、各ウェルの培養上清を回収し、培養上清中のマウスIgG濃度を測定した。マウスIgGが確認できた培養上清について、ヒトVEGF-DまたはヒトVEGF-Cを固相化したELISA(参考例4)によってヒトVEGF-DまたはヒトVEGF-Cに特異的に結合する抗体を産生するクローンを選抜した(図1、図2)。
【0121】
〔実施例2〕キメラ抗体の作製
ハイブリドーマ細胞から、RNeasy Mini Kits(QIAGEN)を用いてトータルRNAを抽出し、SMART RACE cDNA Amplification Kit(BD Biosciences)によりcDNAを合成した。作製したcDNAを用いて、PCRにより、抗体の可変領域遺伝子をクローニングベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。決定したVE29、VE48、VE199マウス抗体のH鎖可変領域およびL鎖可変領域をそれぞれ表1(VE29、48、199マウス抗体のH鎖可変領域)および表2(VE29、48、199マウス抗体のL鎖可変領域)に示す。CDR、FRの決定はKabat numberingに従って行った。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
上記表1と2中の各配列と配列番号との対応を以下に示す。
VE29マウス抗体のH鎖可変領域(配列番号:60)
VE29マウス抗体のL鎖可変領域(配列番号:61)
VE48マウス抗体のH鎖可変領域(配列番号:64)
VE48マウス抗体のL鎖可変領域(配列番号:65)
VE199マウス抗体のH鎖可変領域(配列番号:62)
VE199マウス抗体のL鎖可変領域(配列番号:63)
【0125】
上記マウス抗体H鎖可変領域とヒト抗体IgG1鎖定常領域とを結合したキメラ抗体H鎖および上記マウス抗体L鎖可変領域とヒト抗体Kappa鎖定常領域とを結合したキメラ抗体L鎖遺伝子を動物細胞発現ベクターに組み込んだ。作製した発現ベクターを用いて、VE29、VE48、VE199キメラ抗体の発現および精製を行った(参考例7)。
【0126】
〔実施例3〕キメラ抗体のin vitro活性評価
実施例2で作製したキメラ抗VEGF-D抗体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合を阻害すること(図3)、および、カニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するカニクイザルVEGF-Dの結合を阻害することを確認した(図4)。
【0127】
また、このキメラ抗体を用いて、VEGF-D依存的に増殖するヒトリンパ管内皮細胞の増殖阻害を評価した(参考例6)。比較のため、可変領域がWO2005/087177のFig.1に記載のアミノ酸配列であるマウスIgG1抗体であるVD1抗体も同時に評価した。その結果、VE48キメラ抗体およびVE199キメラ抗体はVD1に比べて強いリンパ管内皮細胞の増殖阻害活性を示すことが確認できた(図5)。
【0128】
〔実施例4〕キメラ抗体のin vivo活性評価(リンパ管形成阻害)
hD_1細胞の作製
HEK293細胞 (ATCC)に、VEGF-D発現プラスミド(ジェネティシン耐性)をエレクトロポレーション法により導入した。導入した細胞をジェネティシン (Invitrogen)を500μg/mLにて選抜し、シングルセルクローニング法により、hD_1細胞を作成した。
hD_1細胞は、E-MEM (SIGMA)に10% FBS、0.1mM NEAA (GIBCO)、1mM Sodium Pyruvate(GIBCO)、500μg/mL ジェネティシンを添加した培地にて、維持継代した。
【0129】
投与抗体の調製
実施例2で作製したキメラ抗VEGF-D抗体を投与当日、生理食塩水を用いてそれぞれ、1 mg/mL(10 mg/kg投与群)、0.2 mg/mL(2 mg/kg投与群)となるように調製し、投与試料とした。
【0130】
hD_1細胞移植マウスによるin vivoリンパ管形成モデルの作製
hD_1細胞をHBSS (GIBCO/Invitrogen)に4×108個/mLになるように調製し、50μL(2×107個/マウス)をスキッドマウス(日本クレア)の腹部皮下へ移植した。
腫瘍体積は以下の式にて算出し、腫瘍体積の平均が約100 mm3になった時点から抗体の投与を開始した。
【0131】
腫瘍体積=長径×短径×短径/2
【0132】
抗VEGF-D抗体をそれぞれ 週に2回、2週間、上記(2)で調製した投与試料を10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に2回、2週間、10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。いずれの群も、1群3匹で行った。
【0133】
hD_1細胞移植マウスによるin vivoリンパ管形成モデルの評価
各抗VEGF-D抗体のin vivoリンパ管形成に対する評価については、以下に示す免疫染色法で評価した。
【0134】
免疫染色法
(i) マウスより摘出した腫瘍塊をO.C.T compound (Tissuetek)に包埋し、凍結切片を作成後、薄切切片化した。
(ii) マウスリンパ管の染色には、1次抗体としてウサギ抗マウスLyve-1抗体 (RELIATech GmbH),2次抗体としてビオチン化標識抗ウサギIgG抗体 (Vector Laboratories)を用いた。
(iii) 細胞核の染色には、ヘマトキシリンを用いた。
(iv) (ii) ,(iii)の染色は、全自動免疫染色システム (VENTANA)を用いて行った。
(v) リンパ管の定量は、画像解析ソフトImage Pro Plus (Media Cybernetics)を用い、各標本の画像の染色部位をピクセル数として測定し、平均値で表した。
【0135】
その結果、図6に示すとおり、VE48, VE199は、10 mg/kg, 2 mg/kgいずれの濃度においても、強いin vivoリンパ管形成抑制活性を示す事が確認できた。
また、各抗体濃度におけるリンパ管形成について、生理食塩水と抗体投与群での有意差検定を行ったところ、いずれの抗体濃度においても、リンパ管形成に有意な差が認められた。
【0136】
〔実施例5〕キメラ抗体のin vivo活性評価(癌細胞の抗転移)
マウス黒色腫B16F10細胞(東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター)に、VEGF-D発現プラスミド(ジェネティシン耐性)をエレクトロポレーション法により導入した。導入した細胞をジェネティシン(Invitrogen)を500μg/mLにて選抜し、シングルセルクローニング法により、B16F10_VEGFD#4細胞を作成した。B16F10_VEGFD#4細胞は、RPMI-1640(SIGMA)に10% FBS、500μg/mL ジェネティシンを添加した培地にて、維持継代した。
【0137】
抗VEGF-D抗体を投与当日、生理食塩水を用いてそれぞれ、2.5 mg/mL(25 mg/kg投与群)、1 mg/mL(10 mg/kg投与群)となるように調製し、投与試料とした。
B16F10_VEGFD#4細胞をHBSS(Invitrogen)に2×107個/mLになるように調製し、50μL(1×106個/マウス)をヌードマウス(日本チャールス・リバー)の腹部皮下へ移植した。B16F10_VEGFD#4細胞の移植直後から、抗VEGF-D抗体をそれぞれ週に2回、2週間、上記で調製した投与試料を10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に2回、2週間、10 mL/kgにて、尾静脈より投与した。いずれの群も、1群10匹で行った。
【0138】
各抗VEGF-D抗体のリンパ節転移に対する評価については、細胞移植と同側のリンパ節を取りだし、リンパ節重量によって評価した。その結果、図7に示すとおり、VE48は、25 mg/kg、10 mg/kgいずれの濃度においても、強いリンパ節転移抑制活性を示す事が明らかとなった。また、各抗体濃度におけるリンパ節重量について、生理食塩水と抗体投与群での有意差検定を行ったところ、いずれの抗体濃度においても、リンパ節重量に有意な差が認められた。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いた。
【0139】
〔実施例6〕 VE199抗体のヒト化
6−1.各フレームワーク配列の選定
VE199抗体のヒト化を行うため、VE199抗体の可変領域配列とヒトのgermline配列を比較した。その中で、ヒト化のテンプレートとなるFR配列を表3にまとめた。ヒト化した可変領域として、H鎖は表3に記載されているFR1(2)、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列を199HA可変領域(配列番号:46)とした。また、L鎖はFR1、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列を199LA可変領域(配列番号:47)とした。なお、CDR、FRの決定はKabat numberingに従って行われた。
【0140】
H鎖FR1の配列において、Kabat numbering 9番目を含む一連の残基がFR1の立体構造に大きな影響を与えることが報告されている(Jungら、J Mol Biol. 2001 Jun 8;309(3):701-16.)。VE199の当該残基はプロリン(P)であるが(配列番号:62)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表3のFR1(1)(配列番号:10)に示したとおり、当該残基がアラニン(A)であることから、ヒト化によってアラニンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、H鎖9番目についてはVE199の配列を残存させ、プロリンとしたFR1(2)の配列を用いた(配列番号:11)。また、H鎖FR3の配列において、Kabat numbering 71番と94番目の残基がCDRの立体構造に影響を与えることが報告されており(Xiangら J Mol Biol. 1995 Oct 27;253(3):385-90.)、さらに69番、71番の残基がupper coreを形成して構造の安定化に関与することが報告されている(Ewertら、Methods. 2004 Oct;34(2):184-99)。VE199の当該残基は69番がロイシン(L)、71番がバリン(V)、93番がイソロイシン(I)であるが(配列番号:62)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表3のFR3(1)(配列番号:13)に示したとおり、当該残基が69番がイソロイシン(I)、71番がアラニン(A)、93番がアラニン(A)であり、ヒト化によってそれぞれの残基へと置換されてしまうことで活性の低下が予想された。そこで、H鎖69、71、93番目についてはVE199の配列を残存させたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:14)。さらに、免疫原性を考慮して、FR3直前のCDR2について、germline IGHV1-45の配列を参考に64番目のアルギニン(R)をグルタミン(Q)に置換したものを採用することにした(配列番号:15)。
【0141】
L鎖FR3の配列において、Kabat numbering 87番目の残基がVH/VL界面形成に影響を与えることが報告されている(Vargas-Madrazo ら、J Mol Recognit. 2003;16(3):113-20.)。VE199の当該残基はフェニルアラニン(F)であるが(配列番号:63)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表3のFR3(1)(配列番号:22)に示したとおり、当該残基がチロシン(Y)であることから、ヒト化によってチロシンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、L鎖87番目についてはVE199の配列を残存させ、フェニルアラニンとしたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:23)。
【0142】
【表3】
【0143】
6−2.ヒト化VE199可変領域199HAおよび199LAの作製
ヒト化テンプレート配列のFR領域にVE199抗体のCDR領域を移植したヒト化VE199抗体の可変領域を作製するため、合成オリゴDNAをH鎖、L鎖それぞれ設計した。各合成オリゴDNAを混和し、アッセンブルPCRによりヒト化VE199の可変領域をコードする遺伝子を作成し、H鎖を199HA、L鎖を199LAとした。アッセンブルPCRはPirmeSTAR GXL(TaKaRa Bio)を用いて行い、以下の条件に従ってPCR法によって実施した。添付のPCR Buffer、dNTPs、PirmeSTAR GXLおよび15 pmolの合成オリゴDNAからなる反応混合物を、94℃にて5分加熱した後、94℃にて2分、55℃にて2分、68℃にて2分から構成されるPCR反応サイクルを8回実施した後、可変領域の5'末端に制限酵素サイトとKozak配列を付加したプライマー、及び3'末端に制限酵素サイトを付加したプライマーをそれぞれ5 pmol添加し、94℃にて10秒、55℃にて5秒、68℃にて1分から構成されるPCR反応サイクルを30回実施し増幅断片を得た。得られた増幅断片を動物細胞発現ベクターによりクローニングし、定常領域と連結した。
【0144】
ここで、IgG抗体のH鎖C末端配列(配列番号:58)由来のヘテロジェニティーとして、C末端アミノ酸のリジン残基の欠損、および、C末端の2アミノ酸のグリシン、リジン両方の欠損によるC末端アミノ基のアミド化が報告されている(Anal Biochem. 2007 Jan 1;360(1):75-83.)。これらのヘテロジェニティーを低減させる方法として、H鎖C末端の2アミノ酸、すなわちEU numbering 446番目のグリシンおよび447番目のリジンを欠損させる方法が知られている(WO 2009/041613)。ヒト化VE199抗体においても、H鎖C末端配列に由来するヘテロジェニティーは存在しないことが望ましいため、ヒトIgG1のEU numbering 446番目のグリシンおよび447番目のリジンを欠損させたIgG1配列(配列番号:68)を定常領域配列として用いた。一方、L鎖については天然型ヒトκ鎖(配列番号:59)を定常領域配列として用いた。抗体の発現および精製は参考例7の手順により実施した。ヒト化VE199抗体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた(図8)。ヒト化VE199抗体(H鎖:VE199HA/配列番号:69、L鎖:VE199LA/配列番号:70)はキメラVE48抗体(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)と比べて顕著な活性の低下はなく、ヒト化後も基準となるキメラ抗体と同等の活性を有すると判断した。
【0145】
〔実施例7〕VE48抗体のヒト化
7-1.各フレームワーク配列の選定
VE48抗体のヒト化を行うため、VE48抗体の可変領域配列とヒトのgermline配列を比較した。その中で、ヒト化のテンプレートとなるFR配列を表4にまとめた。ヒト化した可変領域として、H鎖は表4に記載されているFR1、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列をHA可変領域(配列番号:48)とした。また、L鎖はFR1、FR2、FR3(2)、FR4からなる配列をL6可変領域(配列番号:56)とした。なお、CDR、FRの決定はKabat numberingに従って行われた。
【0146】
H鎖FR3の配列において、Kabat numbering 94番目の残基がCDR3の立体構造に大きな影響を与えることが報告されている(Moreaら J. Mol. Biol. 1998; 275:269-294)。VE48可変領域の当該残基はグルタミン(Q)であるが(配列番号:64)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表4のFR3(1)(配列番号:30)に示したとおり、当該残基がアルギニン(R)であることから、ヒト化によってアルギニンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、H鎖94番目についてはVE48の配列を残存させ、グルタミン(Q)としたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:31)。
【0147】
L鎖FR3の配列において、Kabat numbering 87番目の残基がVH/VL界面形成に影響を与えることが報告されている(Vargas-Madrazo ら、J Mol Recognit. 2003;16(3):113-20.)。VE48可変領域の当該残基はフェニルアラニン(F)であるが(配列番号:65)、ヒト化を行うにあたって選択したgermline配列は表4のFR3(1)(配列番号:38)に示したとおり、当該残基がチロシン(Y)であることから、ヒト化によってチロシンへと置換されてしまい、活性の低下が予想された。そこで、L鎖87番目についてはVE48の配列を残存させ、フェニルアラニンとしたFR3(2)の配列を用いた(配列番号:39)。
【0148】
【表4】
【0149】
7-2.ヒト化VE48可変領域HAおよびL6の作製
ヒト化テンプレート配列のFR領域にVE48抗体のCDR領域を移植したヒト化VE48抗体の可変領域を作製するため、合成オリゴDNAをH鎖についてのみ設計した。各合成オリゴDNAを混和し、アッセンブルPCRによりヒト化VE48の可変領域をコードする遺伝子を作成し、これをHA(配列番号:48)とした。可変領域の作成、および、定常領域に連結させたベクターの作成は実施例6と同じ方法で実施した。
【0150】
L鎖についてはVE48抗体とVE199抗体との相同性が高いことから、実施例6で作成した199LA可変領域(配列番号:47)を基にCDR3のみをVE48抗体の配列とする改変(91番のグリシンをセリンに置換、および、96番のアルギニンをトリプトファンに置換)を実施した。変異体の作製はPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。具体的には、まず改変部位を含むアミノ酸配列に基づいて設計された順鎖および逆鎖のオリゴDNAの合成を行った。改変部位を含む順鎖のオリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターに結合する逆鎖のオリゴDNA、改変部位を含む逆鎖のオリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターに結合する順鎖のオリゴDNAをそれぞれ組み合わせ、PrimeSTAR(TAKARA)を用いてPCRを行うことによって、改変部位を含む断片を5'末端側と3'末端側の2つを作製した。その2つの断片をAssemble PCRによりつなぎ合わせることによって、91番のグリシンがセリンに、および、96番のアルギニンがトリプトファンに置換されたL6可変領域配列(配列番号:56)の遺伝子断片を作製した。
【0151】
L鎖定常領域は天然型ヒトκ鎖(配列番号:59)を定常領域配列として用い、動物細胞発現用ベクターとした。抗体の発現および精製は参考例7の手順により実施した。ヒト化VE48抗体(H鎖:VE48HA/配列番号:71、L鎖:VE48L6/配列番号:72)について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた(図9)。ヒト化VE48抗体はキメラVE48抗体(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)と比べて顕著な活性の低下はなく、ヒト化後も基準とするキメラ抗体と同等の活性を有すると判断した。
【0152】
〔実施例8〕脱アミド化反応を抑制する変異の導入
医薬品に使用する抗体は、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られるモノクローナル抗体であるにも関わらず、ヘテロジェニティーが存在する。そのような抗体のヘテロジェニティーは酸化、脱アミド化などの修飾により起こり、長期間の保存中や熱ストレス、光ストレスといったストレス条件下にさらされることで増加することが知られている(参考文献:Heterogeneity of Monoclonal Antibodies:Journal of pharmaceutical sciences, vol.97,No.7,2426-2447)。しかしながら、抗体を医薬品として開発するにあたり、そのタンパク質の物性、中でも均一性と安定性は極めて重要であり、目的物質のヘテロジェニティーを低減し、可能な限り単一物質であることが望まれる。
【0153】
脱アミド化反応とは、アスパラギン(N)およびグルタミン(Q)の側鎖において非酵素的に起こり、アスパラギンおよびグルタミンの側鎖に存在するアミドがカルボン酸へと変化する反応である。保存中に起こる脱アミド化反応は、上述したヘテロジェニティーの原因となることから、可能な限り抑制されることが望まれる。また、脱アミド化反応は、特にアスパラギン(N)とグリシン(G)が隣接した部位(・・・NG・・・)において起こりやすいことが報告されている(Geigerら J. Biol. Chem. 1987; 262:785-794)。L6(配列番号:72)のCDR1にアスパラギン(N)とグリシン(G)が隣接した配列が存在することから、この部位のアミノ酸置換により脱アミド化反応を抑制することが可能であると考えられた。
【0154】
アミノ酸置換による脱アミド化反応の抑制は、具体的には以下のように行った。L6(配列番号:72)のKabat numbering 28番に存在するアスパラギン(N)を異なる残基に置換することで、脱アミド化反応の抑制が可能であると考えられた。そこで、L6(配列番号:72)のKabat numbering 28番に存在するアスパラギン(N)を、リジン(K)に置換したL14(配列番号:73)を作製した。変異体の作製はPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。具体的には実施例7の方法に従い実施した。作製された遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。抗体の作製および精製は参考例7の方法に従って行った。これらを用いて、HA/L14(H鎖:VE48HA/配列番号:71、L鎖:VE48L14/配列番号:73)、を作製し、これらの改変体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた。結果を図10に示す。作製した改変体は、chVE48(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)に比べて顕著な活性の低下はなく、脱アミド化反応の抑制が可能であると考えられた。
【0155】
〔実施例9〕等電点を変化させる変異の導入
抗体の血漿中半減期を制御する方法の一つとして、抗体分子表面に露出するアミノ酸残基を改変し、抗体分子表面電荷をコントロールする方法が知られている(WO2007/114319およびWO2009/041543)。具体的には、抗体が有する等電点(pI)の値を低下させることにより、抗体の血漿中半減期を伸長させることが可能であることが知られている。それとは逆に抗体の等電点が上昇することにより、血漿中半減期が短縮し、抗体の組織移行性が向上することが知られている(非特許文献 : Vaisitti T, Deaglio S, Malavasi F., Cationization of monoclonal antibodies: another step towards the "magic bullet"?, J Biol Regul Homeost Agents. (2005) 19(3-4), 105-12および : Pardridge WM, Buciak J, Yang J, Wu D. Enhanced endocytosis in cultured human breast carcinoma cells and in vivo biodistribution in rats of a humanized monoclonal antibody after cationization of the protein. J Pharmacol Exp Ther. (1998) 286(1), 548-54)。
【0156】
以上のことから、等電点を変化させたヒト化VE48抗体は、血漿中半減期の伸長あるいは組織移行性の向上により、より強い抗腫瘍活性が期待される。そこで、ヒト化VE48抗体の抗原に対する結合活性や、その立体構造に影響を与えることなく、抗体分子表面の電荷を調節することによって抗体の薬物動態を制御することが可能であるアミノ酸残基の同定を行った。具体的には、HA/L6(H鎖VE48HA/配列番号:71、L鎖VE48L6/配列番号:72)の可変領域に対して、抗原結合阻害活性を大きく低下させることなく、等電点を変化させることのできる変異箇所の探索を行った。
【0157】
ヒト化VE48抗体の立体構造モデルを用いて、VEGF-Dへの結合を大きく低下させることなく可変領域の等電点を変化させられる変異箇所をスクリーニングした結果、幾つかの変異箇所を見出した。H鎖において等電点を低下させる改変については表5(H鎖の等電点低下のための改変箇所)に示した。各改変体の作製、精製は実施例7に記載した方法で行った。
【0158】
作製した改変体について、VEGFR-3に対するVEGF-D結合阻害評価系(参考例5)によりヒトVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)に対するヒトVEGF-Dの結合阻害を調べた。図11〜図14に示したとおり、各改変体の抗原結合阻害活性はchVE48(H鎖:cHVE48/配列番号:66、L鎖:cLVE48/配列番号:67)のそれと比較して大きな低下は示されなかった。
【0159】
【表5】
【0160】
〔参考例1〕ヒトVEGF-D、ヒトVEGFR-3、カニクイザルVEGF-D、カニクイザルVEGFR-3遺伝子の単離
ヒトVEGF-D遺伝子、ヒトVEGFR-3遺伝子、カニクイザルVEGF-D遺伝子、カニクイザルVEGFR-3遺伝子の単離を試みた。公開されているヒトVEGF-D遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりhuman lung cDNA library (Clontech)からヒトVEGF-D遺伝子の増幅に成功した。同様にして、公開されているヒトVEGFR-3遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりHUVEC (Normal Human Umbilical Vein Endothelial cells, Lonza)からヒトVEGFR-3遺伝子の増幅に成功した。同様にして、公開されているヒトVEGF-D遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりMonkey(Cynomolgus) Tissue cDNA: Breast (CytoMol)からカニクイザルVEGF-D遺伝子の増幅に成功した。同様にして、公開されているヒトVEGFR-3遺伝子配列情報などからプライマーを設計し、PCR法によりカニクイザル脾臓cDNAからカニクイザルVEGFR-3遺伝子の増幅に成功した。単離したヒトVEGF-DおよびカニクイザルVEGF-Dについて、プロセシング後の成熟型タンパク質をコードすると予測される遺伝子配列を配列番号:74、76に示す。ヒトVEGFR-3、カニクイザルVEGFR-3の遺伝子配列を、配列番号:78、80に示す。また、成熟型ヒトVEGF-D、成熟型カニクイザルVEGF-D、ヒトVEGFR-3、カニクイザルVEGFR-3のアミノ酸配列を、配列番号:75、77、79、81に示す。
【0161】
〔参考例2〕VEGFR-3発現CHO細胞株の樹立
ヒトVEGFR-3遺伝子(参考例1、配列番号:78)の細胞内領域と予測される配列を除去した配列(配列番号:82)をPCR法によって増幅した。同様にしてカニクイザルVEGFR-3遺伝子(参考例1、配列番号:80)の細胞内領域を除去した配列(配列番号:83)をPCR法によって増幅した。これらを哺乳動物細胞用発現ベクターに挿入し、このベクターを制限酵素にて直鎖状にしたのち、CHO細胞にエレクトロポレーション法にて導入した(BioRad Gene Pulser、25μF、 1.5 kV)。薬剤で選抜し、抗ヒトVEGFR-3抗体(R&D)を用いてFCM解析することでヒトVEGFR-3発現CHO細胞およびカニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞を樹立した。
【0162】
〔参考例3〕VEGF-Dの調製
Hisタッグを付加した成熟型ヒトVEGF-D遺伝子(参考例1、配列番号:74)および成熟型カニクイザルVEGF-D遺伝子(参考例1、配列番号:76)をそれぞれ哺乳動物細胞用発現ベクターに挿入し、FreeStyle293-F細胞に遺伝子導入することで一過性の発現を行った。培養上清をHisTrap column(GE Healthcare)にアプライし、イミダゾールによって溶出するアフィニティー精製を行い、VEGF-Dを含む画分を分離した。さらに得られた画分を、展開液D-PBS上でSuperdex75(GE Healthcare)を用いたゲルろ過に供することで、活性型であるVEGF-D二量体を精製した。
【0163】
〔参考例4〕VEGF-CおよびVEGF-D ELISA系確立
1μg/mL VEGF-C(R&D)または1μg/mL VEGF-D(参考例3)をNi-coated 96 well plate(PIERCE)に100μL/wellで添加し、25℃、1時間振とう条件下で固相化した。0.05 % Tween20/PBSで5回洗浄した後、200μL/well ブロッキングワン(ナカライテスク)を用いて常温、1時間静置することでブロッキングを行った。1次抗体としてブロッキングワンで希釈した抗VEGF-D抗体を100μL/wellで添加し、常温、1時間反応を行った後、0.05 % Tween20/PBSで3回洗浄した。さらに2次抗体としてブロッキングワンで希釈したHRP標識Goat anti mouse IgG抗体(シグマ)を100μL/wellで添加し、常温、1時間反応を行った後、0.05 % Tween20/PBSで5回洗浄した。発色基質(KPL)を100μL/wellで添加し、常温で反応させた後、100μL/wellで1 % SDSを加えることで反応を停止した。プレートリーダー(BioRad)で波長405 nmを測定した。
【0164】
〔参考例5〕競合Cell ELISAによるVEGF-D結合阻害系確立
ヒトおよびカニクイザルVEGFR-3発現CHO細胞(参考例2)を培養しているフラスコより抜き取り、a-MEM/10 % FBS/ 1% Penicillin- Streptomycin(Invitrogen)/1×HT(Invitrogen)/500μg/mL Geneticin(Invitrogen)培地に1×105 cell/mLとなるように懸濁し、96 well コラーゲンプレート(Beckton Dickinson)に200μL/wellで播き込んだ。37℃、5 % CO2で2日間培養した後、競合Cell ELISAに使用した。培地を除去した後、2.5μg/mLヒトまたはカニクイザルVEGF-D(参考例3)を含む2 % FBS/HBSSによって希釈した抗VEGF-D抗体を添加した。常温で1時間インキュベートした後、VEGF-Dおよび抗VEGF-D抗体を除去し、200μL 0.05 % Tween20/PBSで3回洗浄を行った。二次抗体として500倍希釈したpolyHistidine HRP MAb(R&D)を100μL/wellで添加した。常温で1時間インキュベートした後、二次抗体を除去し、200μL 0.05 % Tween20/PBS で5回洗浄を行った。発色基質(KPL)を100μL/wellで添加し、常温で反応させた後、100μL/wellで1 % SDSを加えることで反応を停止した。プレートリーダー(BioRad)で波長405 nm/620 nmを測定した。
【0165】
〔参考例6〕ヒトリンパ管内皮細胞増殖阻害アッセイ
ヒトリンパ管内皮細胞としてHMVEC-LLy細胞(TAKARA BIO)を使用した。HMVEC-LLy細胞は微小血管内皮細胞培地キット-2(5 % FBS)培地(TAKARA BIO)にて、維持継代した。HMVEC-LLy細胞を微小血管内皮細胞培地キット-2培地にて5×104個/mLとなるように調製した。100μL (5×103個/well)で96well plate(コーニング)に撒き、5 %炭酸ガスインキュベータ中37℃で24時間培養した。培養後、アッセイ培地(RPMI-1640培地(SIGMA)に0.1 % FBS、500 ng/mL human VEGF-D(R&D))に抗VEGF-D抗体を適当な濃度となる様に加え、96 well plateの微小血管内皮細胞培地キット-2培地を除去した後に添加した。5 %炭酸ガスインキュベータ中37℃で72時間培養した。培養後、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を10μL/wellで添加し、5 %炭酸ガスインキュベータ中37℃で3時間培養した。培養後、450 nmの吸光度を測定した。
【0166】
〔参考例7〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
抗体の可変領域のH鎖およびL鎖の塩基配列をコードする全長の遺伝子の合成は、Assemble PCR等を用いて、当業者公知の方法で作製した。アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)あるいはPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、H鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)、または0.45μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して培養上清を得た。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体、
(2) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項2】
以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:8または配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体、
(2) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:10または配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:13または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:22または配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項3】
以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:25または配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:26、配列番号:42または配列番号:44に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体、
(2) 配列番号:33または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:28に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:29に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:30または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:32または配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:38または配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項4】
以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:46に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:47に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(3) (1)の重鎖可変領域と(2)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項5】
以下の(1)〜(13)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:48に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:49に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(3) 配列番号:50に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(4) 配列番号:51に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(5) 配列番号:52に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(6) 配列番号:53に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(7) 配列番号:54に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(8) 配列番号:55に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(9) 配列番号:56に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(10) 配列番号:57に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(11) (1)〜(8)のいずれかに記載の重鎖可変領域と(9)または(10)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(12) (1)〜(11)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(11)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項6】
ヒト化抗体である、請求項1から5のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項8】
癌治療剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
リンパ管形成阻害剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
腫瘍増殖抑制剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
転移抑制剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
リンパ節転移抑制剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項1】
以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体、
(2) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項2】
以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:8または配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体、
(2) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:10または配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:13または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:22または配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項3】
以下の(1)〜(8)のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体;
(1) 配列番号:25または配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:26、配列番号:42または配列番号:44に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を有する抗体、
(2) 配列番号:33または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を有する抗体、
(3) (1)の重鎖可変領域および(2)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(4) (1)および(3)のいずれかに記載の抗体の重鎖可変領域のFRが配列番号:28に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:29に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:30または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:32または配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するFR4である重鎖可変領域を有する抗体、
(5) (2)および(3)のいずれかに記載の抗体の軽鎖可変領域のFRが配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号:38または配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するFR3、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するFR4である軽鎖可変領域を有する抗体、
(6) (4)の重鎖可変領域および(5)の軽鎖可変領域を有する抗体、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項4】
以下の(1)〜(5)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:46に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:47に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(3) (1)の重鎖可変領域と(2)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項5】
以下の(1)〜(13)のいずれかに記載の抗体可変領域または抗体;
(1) 配列番号:48に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(2) 配列番号:49に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(3) 配列番号:50に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(4) 配列番号:51に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(5) 配列番号:52に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(6) 配列番号:53に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(7) 配列番号:54に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(8) 配列番号:55に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、
(9) 配列番号:56に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(10) 配列番号:57に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(11) (1)〜(8)のいずれかに記載の重鎖可変領域と(9)または(10)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(12) (1)〜(11)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)〜(11)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【請求項6】
ヒト化抗体である、請求項1から5のいずれかに記載の抗VEGF-D抗体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項8】
癌治療剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
リンパ管形成阻害剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
腫瘍増殖抑制剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
転移抑制剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
リンパ節転移抑制剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【公開番号】特開2011−219380(P2011−219380A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87375(P2010−87375)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】
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