説明

抜き加工金型

【課題】金属板の材質によらず、前記カス上がりを確実に防止することができる抜き加工金型を提供する。
【解決手段】抜き加工金型1は、パンチ2と、パンチ2と協働して金属板の抜き加工を行うダイ3とを備える。ダイ3は、パンチ2に対向する開口部を切り刃部34とし切り刃部34から離間するほど縮径する第1のテーパ部31と、第1のテーパ部31に連接し第1のテーパ部31から離間するほど拡径する第2のテーパ部33とを備える。第1のテーパ部31は、軸方向に対する傾斜角をθとするときに、tanθが0.01/7〜0.04の範囲にある。第1のテーパ部31と第2のテーパ部33との間に、パンチ2により抜きカスが押入されるストレート部32を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抜き加工金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パンチと、該パンチと協働して金属板の抜き加工を行うダイとを備える抜き加工金型が知られている。前記抜き加工金型として、例えば、前記ダイが、該パンチに対向する開口部を切り刃部とする第1のテーパ部と、該第1のテーパ部に連接するストレート部と、該ストレート部に連接する第2のテーパ部とを備えるものがある。
【0003】
ここで、前記ダイは、前記第1のテーパ部が前記切り刃部から離間するほど縮径する一方、前記第2のテーパ部は該第1のテーパ部とは逆テーパとなっており、前記ストレート部から離間するほど拡径する形状を備えている(例えば特許文献1,2参照)。
【0004】
前記従来の抜き加工金型では、前記パンチを下降させ、該パンチと前記ダイの切り刃部との間で前記金属板を打ち抜いたときに、該金属板から発生した抜きカスが該パンチにより前記ストレート部に押入され、該ストレート部に保持される。この結果、前記パンチを上昇させたときに、前記抜きカスが該パンチと共に上昇して前記金属板に付着する現象、所謂カス上がりを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭60−190423号公報
【特許文献2】特開平9−314249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の抜き加工金型では、高張力鋼板等のように金属板の材質によっては前記カス上がりを防止することができないことがあるという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、金属板の材質によらず、前記カス上がりを確実に防止することができる抜き加工金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記従来の抜き加工金型において、金属板の材質によっては前記カス上がりを防止することができないことがある理由について、鋭意検討した。この結果、高張力鋼板等の金属板では、前記パンチと前記ダイの切り刃部との間で打ち抜かれたときに、前記抜きカスが収縮して、前記ストレート部に保持されにくくなることを知見した。
【0009】
本発明者らは、前記知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、前記第1のテーパ部の軸方向に対する傾斜角を調整することにより、前記カス上がりを防止することができることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
そこで、本発明の抜き加工金型は、前記目的を達成するために、パンチと、該パンチと協働して金属板の抜き加工を行うダイとを備える抜き加工金型であって、該ダイは、該パンチに対向する開口部を切り刃部とし該切り刃部から離間するほど縮径する第1のテーパ部と、該第1のテーパ部に連接し該第1のテーパ部から離間するほど拡径する第2のテーパ部とを備えるものにおいて、該第1のテーパ部は、軸方向に対する傾斜角をθとするときに、tanθが0.01/7〜0.04の範囲にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の抜き加工金型では、前記パンチを下降させることにより、該パンチと前記ダイの切り刃部との間で前記金属板を打ち抜き、さらに該金属板から発生した抜きカスを前記第1のテーパ部に沿って下降させる。このとき、本発明の抜き型によれば、前記第1のテーパ部においてtanθが0.01/7〜0.04の範囲にあるので、前記抜きカスと該第1のテーパ部との間で大きな摩擦力が発生する。この結果、前記抜きカスは、前記パンチが上昇する際に該パンチに随伴することが無く、前記カス上がりを確実に防止することができる。
【0012】
前記第1のテーパ部は、tanθが0.01/7未満では前記抜きカスとの間で十分な摩擦力を得ることができず、tanθが0.04より大きいと摩擦力が過大になりカス詰まりが発生する。
【0013】
また、本発明の抜き加工金型は、前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部との間に、前記パンチにより前記金属板の抜きカスが押入されるストレート部を備えていてもよい。本発明の抜き加工金型は、前記ストレート部を備えることにより、前記抜きカスを該ストレート部に保持させることができ、前記カス上がりをさらに確実に防止することができる。
【0014】
本発明の抜き加工金型において、前記第1のテーパ部は、tanθを前記範囲とするために、最大径と最小径との差が0.02〜0.08mmの範囲であり、軸方向に沿う長さが1.0〜7.0mmの範囲であることが好ましい。
【0015】
前記第1のテーパ部は、最大径と最小径との差が0.02mm未満で、軸方向に沿う長さが7.0mmを超えると、tanθが0.01/7未満になる。また、最大径と最小径との差が0.08mmを超え、前記切り刃部と前記ストレート部に接する部分との間の軸方向に沿う長さが1.0mm未満であるとtanθが0.04より大きくなる。
【0016】
また、本発明の抜き加工金型において、前記パンチと前記切り刃部とのクリアランスは前記金属板の厚さの1〜20%の範囲であることが好ましい。前記クリアランスが前記金属板の厚さの1%未満では、前記パンチと前記切り刃部との間で該金属板を打ち抜くことが難しくなる。また、前記クリアランスが前記金属板の厚さの20%を超えると、前記抜きカスの収縮量が過大になり、該抜きカスと前記第1のテーパ部との間で十分な摩擦力が得られないことがある。
【0017】
また、本発明の抜き加工金型において、前記金属板は、例えば0.50〜10.0mmの範囲の厚さを備えるものを用いることができる。
【0018】
また、本発明の抜き加工金型において、前記金属板が高張力鋼板であるときには、前記第1のテーパ部はtanθが0.02/7〜0.04の範囲であり、最大径と最小径との差が0.04〜0.08mmの範囲であることが好ましい。前記高張力鋼板は、引張強さが440MPa以上の鋼板である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の抜き加工金型の構成を示す説明的断面図。
【図2】図1に示す抜き加工金型の要部拡大図。
【図3】パンチと切り刃部とのクリアランスを示す説明図。
【図4】パンチと切り刃部とのクリアランスと、各種鋼板の収縮量との関係を示すグラフ。
【図5】パンチと切り刃部とのクリアランスと、高張力鋼板の収縮量との関係を示すグラフ。
【図6】本発明の抜き加工金型の他の構成を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の抜き加工金型1は、パンチ2と、パンチ2と協働して図示しない金属板の抜き加工を行うダイ3とを備える。ダイ3は、第1テーパ部31と、第1テーパ部31に連接するストレート部32と、ストレート部32に連接する第2テーパ部33とを備え、第1テーパ部31のパンチ2に対向する開口部を切り刃部34としている。
【0022】
ダイ3において、第1テーパ部31は、切り刃部34から離間するほど次第に縮径している。この結果、第1テーパ部31は切り刃部34において最大径Dとなっており、ストレート部32に接する部分において最小径dとなっている。一方、第2テーパ部33は、第1テーパ部31とは逆テーパとなっており、ストレート部32から離間するほど次第に拡径する形状を備えている。
【0023】
また、ストレート部32は、第1テーパ部31の最小径dと同一径の円筒状であり、パンチ2が下降したときに前記金属板を打ち抜くことにより発生した抜きカスが、パンチ2により押入される部分を形成している。ストレート部32を設けることにより、第1テーパ部31及び第2テーパ部33の傾斜角を変えた場合でも第1テーパ部31の最小径dは変化しないので、各テーパ部31,33の加工が容易になる。
【0024】
第1テーパ部31は、図2に拡大して示すように、軸方向に対して傾斜しており、その傾斜角がθとなっている。ここで、第1テーパ部31の最大径Dと最小径dとの差は0.02〜0.08mmの範囲であり、切り刃部34とストレート部32に接する部分との間の軸方向に沿う長さLは1.0〜7.0mmの範囲である。この結果、tanθは、0.01/7〜0.04の範囲にある。
【0025】
また、図3に示すように、本実施形態の抜き加工金型1において、パンチ2は切り刃部34との間にクリアランスCを備えており、クリアランスCは前記金属板の板厚の1〜20%の範囲で調整される。前記金属板としては、例えば、板厚が0.50〜10.0mmの範囲のものを用いることができる。
【0026】
ところで、本発明者らの検討によれば、前記金属板はその材質によっては、パンチ2により打ち抜かれることにより前記抜きカスが収縮することが知見された。
【0027】
次に、板厚1mmの各種金属板を、図1に示す構成において、第1テーパ部31を備えず、切り刃部34にストレート部32が連接しているダイ(以下、ノーマルダイと記載する)と、パンチとを用いて打ち抜いたときの前記抜きカスの収縮量を測定した。前記パンチは直径10mmであり、該パンチと前記切り刃部とのクリアランスを前記金属板の板厚の5〜20%の範囲で変量した。
【0028】
また、前記金属板として、980MPa高張力鋼、機械構造用炭素鋼S55C、冷間圧延鋼SPCCからなる鋼板を用いた。結果を図4に示す。
【0029】
図4から、各金属板ともクリアランスが大きくなるほど抜きカスの収縮量が増大することが明らかである。
【0030】
そこで、本実施形態の抜き加工金型1では、第1テーパ部31の各部寸法及び傾斜角θを前記範囲とし、クリアランスCを前記金属板の板厚の5〜20%の範囲で調整する。次に、クリアランスCと、第1テーパ部31のテーパ幅Eとの関係の一例を示す。尚、前記テーパ幅Eは、次式で示される量である。
【0031】
テーパ幅E=(最大径D−最小径d)/2
前記金属板の引張強さが600MPa未満、板厚が0.50mm以上1.50mm未満の場合を表1に、引張強さが600MPa未満、板厚が1.50mm以上10.00mm以下の場合を表2に示す。また、前記金属板の引張強さが600MPa以上800MPa未満、板厚が0.50mm以上10.00mm以下の場合を表3に示す。各表におけるクリアランスCの表示「a〜b(%)」は、「a%より大きくb%以下」を意味する。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
このようにすると、ダイ3上に載置した金属板に対してパンチ2を下降させ、該金属板を打ち抜くことにより発生した抜きカスは、パンチ2と共に下降することにより第1テーパ部31との間で大きな摩擦力を生じる。この結果、前記抜きカスはパンチ2によりストレート部32に押入されたときに、ストレート部32に嵌合されて保持されることとなり、カス上がりを確実に防止することができる。
【0036】
ストレート部32に保持された前記抜きカスは、パンチ2を下降させて前記金属板を打ち抜く操作を繰り返すことにより、新たな抜きカスにより押圧されて次第に下方に移動する。そして、第2テーパ部33に至ると、ストレート部32との嵌合から解放され、自然落下することによりダイ3から排出される。
【0037】
一方、図4から、前記980MPa高張力鋼板は他の鋼板よりも抜きカスの収縮量が大きいことが明らかである。
【0038】
そこで、次に、板厚がそれぞれ1mm、1.2mm、2mmの980MPa高張力鋼板を、前記ノーマルダイと、パンチとを用いて打ち抜いたときの前記抜きカスの収縮量を測定した。前記パンチは直径10mmであり、該パンチと切り刃部とのクリアランスを前記高張力鋼板の板厚の5〜20%の範囲で変量した。結果を図5に示す。
【0039】
図5から、前記980MPa高張力鋼板は、クリアランスが大きく、板厚が厚いほど抜きカスの収縮量が大きいことが明らかである。
【0040】
そこで、前記金属板が、例えば800MPa以上の高張力鋼板である場合、本実施形態の抜き加工金型1では、第1テーパ部31の最大径Dと最小径dとの差は0.04〜0.08mmの範囲であり、切り刃部34とストレート32部に接する部分との間の軸方向に沿う長さLは1.0〜7.0mmの範囲であり、tanθは、0.02/7〜0.04の範囲にあることが好ましい。また、クリアランスCを前記金属板の板厚の1〜20%の範囲で調整することが好ましい。
【0041】
次に、クリアランスCと、第1テーパ部31のテーパ幅Eとの関係の一例として、前記高張力鋼板の板厚が0.50mm以上1.50mm未満の場合を表4に、板厚が1.50mm以上10.00mm以下の場合を表5に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
このようにすると、ダイ3上に載置した高張力鋼板に対してパンチ2を下降させ、該高張力鋼板を打ち抜くことにより発生した抜きカスは、パンチ2と共に下降することにより第1テーパ部31との間で大きな摩擦力を生じる。この結果、前記抜きカスはパンチ2によりストレート部32に押入されたときに、ストレート部32に嵌合されて保持されることとなり、カス上がりを確実に防止することができる。
【0045】
ストレート部32に保持された前記抜きカスは、パンチ2を下降させて前記高張力鋼板を打ち抜く操作を繰り返すことにより、新たな抜きカスにより押圧されて次第に下方に移動する。そして、第2テーパ部33に至ると、ストレート部32との嵌合から解放され、自然落下することによりダイ3から排出される。
【0046】
本実施形態では、ダイ3が第1テーパ部31と、第1テーパ部31に連接するストレート部32と、ストレート部32に連接する第2テーパ部33とを備えるものとして説明している。しかし、ダイ3は、抜きカスがパンチ2と共に下降することにより第1テーパ部31との間で大きな摩擦力を生じることができればよく、図6に示すように、ストレート部を備えていなくてもよい。
【0047】
図6に示すダイ3は、第1テーパ部31に第2テーパ部33が直結しており、第1テーパ部31と第2テーパ部33との間に図1に示すストレート部32を備えていないことを除いて、図1に示すダイ3と全く同一の構成を備えている。図6に示すダイ3によれば、ダイ3上に載置した高張力鋼板に対してパンチ2を下降させ、該高張力鋼板を打ち抜くことにより発生した抜きカスは、パンチ2と共に下降することにより第1テーパ部31との間で大きな摩擦力を生じる。
【0048】
この結果、前記抜きカスは、パンチ2が上昇する際にパンチ2に随伴することが無く、カス上がりを確実に防止することができる。また、前記抜きカスは、パンチ2により第1テーパ部31から第2テーパ部32に押入されることにより、第1テーパ部31との摩擦力が失われ、自然落下することによりダイ3から排出される。
【符号の説明】
【0049】
1…抜き加工金型、 2…パンチ、 3…ダイ、 31…第1テーパ部、 32…ストレート部、 33…第2テーパ部、 34…切り刃部、 θ…傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチと、該パンチと協働して金属板の抜き加工を行うダイとを備える抜き加工金型であって、
該ダイは、該パンチに対向する開口部を切り刃部とし該切り刃部から離間するほど縮径する第1のテーパ部と、該第1のテーパ部に連接し該第1のテーパ部から離間するほど拡径する第2のテーパ部とを備えるものにおいて、
該第1のテーパ部は、軸方向に対する傾斜角をθとするときに、tanθが0.01/7〜0.04の範囲にあることを特徴とする抜き加工金型。
【請求項2】
請求項1記載の抜き加工金型において、前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部との間に、前記パンチにより前記金属板の抜きカスが押入されるストレート部を備えることを特徴とする抜き加工金型。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の抜き加工金型において、前記第1のテーパ部は最大径と最小径との差が0.02〜0.08mmの範囲であり、軸方向に沿う長さが1.0〜7.0mmの範囲であることを特徴とする抜き加工金型。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の抜き加工金型において、前記パンチと前記切り刃部とのクリアランスは前記金属板の厚さの1〜20%の範囲であることを特徴とする抜き加工金型。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の抜き加工金型において、前記金属板は0.50〜10.0mmの範囲の厚さを備えることを特徴とする抜き加工金型。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の抜き加工金型において、前記金属板は高張力鋼板であり、前記第1のテーパ部はtanθが0.02/7〜0.04の範囲であり、最大径と最小径との差が0.04〜0.08mmの範囲であることを特徴とする抜き加工金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−81489(P2012−81489A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228326(P2010−228326)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(505191168)株式会社ミスミ (16)
【Fターム(参考)】