説明

抵抗溶接機用溶接ヘッドおよび溶接方法

【課題】
従来までの方式では接合前にアルゴン・ヘリウム等のガスの放出を開始し、接合後に電極が十分冷却するまでの余裕をみてガスを一定時間噴き続ける必要があり、高価なガスに無駄が生じていた。又、電極が十分冷却するまでの余裕を見るためタクトタイムが長くなっていた。
【解決手段】
本発明の抵抗溶接機用溶接ヘッドは抵抗溶接用の電極と、前記電極の温度を測定する温度測定手段と、前記電極の周囲を覆い、前記電極に噴きつける気体の流入口を持つ保護手段と、複数の種類の前記気体のうち任意の気体を選択する気体切替手段と、を有する事を特徴とする。
又、本発明の抵抗溶接機用溶接ヘッドは、前記電極に噴きつける気体の種類は前記電極の測定温度により切り替えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗溶接機用溶接ヘッドおよび溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接において、被溶接物が純銅もしくは銀(もしくは、それらに微量の異種金属を添加したもの)など固有抵抗が低く熱伝導率が大きい場合、溶接電極はMo(IACS31%)やW(IACS30%)など、抵抗溶接電極材としては相対的に固有抵抗が大きく熱伝導率の小さいものが使用される。Fe、Ni,ステンレスなど 純銅もしくは銀(もしくは、それらに微量の異種金属を添加したもの)と比較して固有抵抗が大きく熱伝率の低い材料を抵抗溶接する場合には、Cr−Cu(IACS80%)などが使用される。
近年、電装部品などの高電流化にともない、抵抗値の低下や、熱伝導性を改善するために、従来の相対的に低電流時に使用されきている真鍮などに変わり、純銅(もしくは純銅に微量な他元素を添加したもの)が使用されるようになり、MoやWが赤熱する条件下での使用が必要とされる。電極が高温になると空気中では酸化、窒素雰囲気中では窒化が進み、電極の寿命が著しく低下するので、酸化消耗(スケールアウト)が進まないように電極を周辺雰囲気から保護し、積極的に冷却する必要がある。
【0003】
例えばモリブデンは室温でわずかに酸化(変色)し、約300℃で酸化し始め、約500℃以上でMoO3を形成し急激に酸化する。また窒素雰囲気中においては600℃以上で脆化が認められ、約1500℃以上で窒化物を形成し、水蒸気の存在においては、約700℃で酸化を始める。
タングステンは室温でわずかに酸化(変色)し、約400〜500℃で酸化し始め、約700℃以上でWO3を形成し急激に酸化する。窒素雰囲気中においては、約2300℃以上で窒化物を形成し、水蒸気存在に対しては、赤熱状態ですみやかに酸化する。
【0004】
このため従来より 電極先端近傍にノズルを設け、通電する少し前からアルゴンまたはヘリウムなどのガスを噴きつけて、電極周囲の酸素又は窒素の滞留を抑制し、電極が高温になっても変質しないように保護している。
噴きつけたガスは接合終了後の電極の冷却にも利用されている。通常、連続的に溶接を行う場合には、電極を冷却するためにフォルダを水冷にするなどの処置を施したとしても、蓄熱により溶接通電開始時の電極の温度が上昇しているため、初期設定と同じ通電量や通電時間では過大な溶けになるので、打点数ごとに通電量や通電時間を適宜減らすなどの複雑な条件設定が必要となる.噴きつけたガスの冷却効果を利用することにより溶接通電開始時の電極の温度上昇を抑えることができ、溶接条件を簡素化できる。
【0005】
又、噴きつけたガスの拡散を防ぐ方法として特許文献1のような電極の周囲を遮蔽する提案もある。
【0006】
更に熱溶着装置の例ではあるが冷却エアの供給・停止を発熱部の温度で制御する特許文献2のような提案もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−137078(図1)
【特許文献2】特開2004−90558(6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら今までの方式では接合前にアルゴン・ヘリウム等のガスの放出を開始し、接合後に電極が十分冷却するまでの余裕をみてガスを一定時間噴き続ける必要があり、高価なガスに無駄が生じていた。又、電極が十分冷却するまでの余裕を見るためタクトタイムが長くなっていた
【0009】
特許文献2の様に電極の温度でガスの噴きつけを制御しても、高価なアルゴン・ヘリウム等のガスを電極材質の酸化温度未満になるまで噴き続ける必要がある。
【0010】
本発明はこれら高価なガスを効率よく使用し、接合単価および接合時間の低減を実現する抵抗溶接ヘッドおよび溶接方法の提案を行う。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の抵抗溶接機用溶接ヘッドは抵抗溶接用の電極と、前記電極の温度を測定する温度測定手段と、前記電極の周囲を覆い、前記電極に噴きつける気体の流入口を持つ保護手段と、複数の種類の気体のうち任意の気体を選択する気体切替手段と、を有する事を特徴とする。
【0012】
また、本発明の抵抗溶接機用溶接ヘッドは、前記電極に噴きつける気体を切り換える判断は前記電極の測定温度に基づいておこなうことを特徴とする。
【0013】
また、前記電極に噴きつける気体を切り換える判断をおこなう前記電極の測定温度は、電極の材料の窒化温度または酸化温度であることを特徴とする。
つまり溶接後の高温状態の電極を電極の材質の窒化温度または酸化温度までは窒化または酸化を抑制する効果のあるガスで冷却し、電極の温度が電極の材質の窒化温度未満または酸化温度未満に下がってから窒素または圧縮空気等安価なガスに切り換えて冷却をおこなう。
【0014】
通常、窒化を抑制するガスとしてアルゴンまたはヘリウムガスが使用されているので、膣化を抑制する場合は、噴きつける気体を一方はアルゴン又はヘリウム、他方を窒素とし、溶接後の電極温度が電極材質の窒化温度未満になるまでアルゴン又はヘリウムを噴きつけ、電極材質の窒化温度未満で窒素に切り替える。
【0015】
さらに酸化を抑制する場合は、噴きつける気体を一方はアルゴン又はヘリウム又は窒素、他方を圧縮空気とし、溶接後の電極温度が電極材質の酸化温度未満になるまでアルゴン又はヘリウム又は窒素を吹き付け、電極材質の酸化温度未満で圧縮空気に切り替えることを特徴とする。
【0016】
さらに噴きつける気体をアルゴン又はヘリウムと、窒素と、圧縮空気との3種類とし、溶接後の電極温度が電極材質の窒化温度未満になるまでアルゴン又はヘリウムを吹き付け、電極の材質の窒化温度未満で窒素に切り替え、電極温度が電極材質の酸化温度未満になるまで窒素を吹き付け、電極温度が電極材質の酸化温度未満になったら圧縮空気に切り替えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は抵抗溶接機を用いた溶接方法において、
1)窒化又は酸化を抑制する気体を前記電極に向けて噴射するステップと
2)窒化又は酸化を抑制する前記気体を噴射しながら、前記電極へ供給する電力を制御して溶接を行うステップと
3)溶接後に前記窒化又は酸化を抑制する気体を噴射しながら、前記電極温度の測定値が電極を構成する部材の窒化又は酸化温度より低下した時に前記気体切替手段にて噴射する気体を圧縮空気又は窒素に変更するステップを持つ抵抗溶接機を用いた溶接方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
高価なガスを効率よく使用し、接合単価および接合時間の低減を実現する抵抗溶接機用溶接ヘッドおよび溶接方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の一形態に係る気体切り換えにバブルを用いた溶接ヘッドの構成図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る気体切り換えに複数のソレノイドバルブ等からなる気体種類切替部を用いた溶接ヘッドの構成図である。
【図3】図2の形態にスピードコントローラー等の流入調整部を追加した溶接ヘッドの構成図である。
【図4】図3の形態の気体種類切替部と流入調整部を保護ヘッドごとに独立に配置した溶接ヘッドの構成図である。
【図5】図4の形態の溶接ヘッドで気体種類を3種類にした時の溶接ヘッドの構成図である。
【図6】本発明の接合方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照しながら、本発明の実施の一形態について説明する。図1は本発明の実施の一形態に係る抵抗溶接機の溶接ヘッドの構成の一例を示した図である。
温度測定手段である熱電対温度計等の温度計17を付けた電極12は保護手段である保護カバー11に覆われている。保護カバー11には保護カバー11内部に気体を導くための吸入口18を複数設けている。吸入口18は気体のON/OFFを図示しない制御部からの信号でおこなうバルブ14(a),14(b)とチューブでつながれ、バルブ14(a),14(b)は各々種類の異なる気体(気体15、気体16)を供給されている。仮に気体15を窒化を抑制する比較的高価なヘリウム又はアルゴンガス、気体16を安価な窒素ガスとする。
【0021】
接合時はまず14(b)をOFF、14(a)をONにして、保護カバー11内を気体15で充満させる。気体15が保護カバー11よりあふれ出る程度の時間を置き、図示しない移動手段により電極12間に被接合物を移動させる。次に電極12を図示しない移動手段により被接合物に接触させた後通電をし、溶接をおこなう。
【0022】
溶接の制御方法は定電流制御,定電力制御、溶接熱制御等がある。溶接熱制御の場合の温度測定に温度計17を使用しても良いし他の方法で測定しても良い。
【0023】
被接合物が銅系金属で厚さがある場合、長時間通電することになり電極12は熱伝導率が低いことから発熱は大きく、電極12の温度は500〜2千数百℃になり赤熱現象を起こすほど高温になる。このため溶接が修了して通電を停止した後も冷却のためガスを噴きつける必要がある。
【0024】
気体15での冷却中、温度計17の測定値を観測し、前記測定値が電極12の素材の窒化温度より降下した後にバルブ14(b)を開いて気体16の噴きつけを開始し、バルブ14(a)を閉じて気体15の噴きつけを停止し、冷却するガスを気体16に切り替える。
【0025】
例えば電極12の素材がタングステンの場合は約2300℃以上、モリブデンの場合は約600℃以上で窒化するので温度計17の測定値が窒化しない温度、すなわちタングステンの場合は約2200℃に、モリブデンの場合は約500℃に降下したら気体15から気体16への切り換えを実施する。
【0026】
また気体15をヘリウム又はアルゴンガス又は窒素、気体16を酸素を含む通常の圧縮空気とした場合は電極12の素材がタングステンの場合は約400℃以上、モリブデンの場合は約300℃以上で酸化するので温度計17の測定値が酸化しない温度、すなわちタングステンの場合は約300℃に、モリブデンの場合は約200℃に降下したら気体15から気体16への切り換えを実施する。
【0027】
更に温度計17の測定値を監視して電極12の温度が十分に降下した後、気体の噴きつけを停止して、接合動作を終了する。
【0028】
また、図1では保護カバー11に気体に応じた数の注入口を設けているが、これでは動作部の多いヘッド周辺の配管が煩雑になる。このため被接合物の移動に制限が発生したり、接触の危険もある。図2にこれらを改善した形態を示す。気体の種類数あった保護カバー11の流入口18を1箇所にして、バルブ14(a),14(b)を削除し、代わりに気体切替手段である気体種類切替器19を追加した態様である。気体種類切替器19は複数のソレノイドバルブの組み合わせ等からなり、図示しない制御部からの信号により気体の選択と出力/停止の制御を行う。図2では2種類の気体の選択を行う。
【0029】
本接合ヘッドは2個の電極12を一つのペアとして使用するが、通常電極の配置は上下に向かい合わせて取り付けられる。この時、使用するガスの気体密度(比重)によっては上下の保護カバー11内のガスの充填具合が異なり、噴出し量が同量だと片側の保護カバー内のガスが先にあふれる等、充填量・充填時間にむらが生じる。図3では保護カバー11と気体種類切替器19の間にガスの流量を調整するスピードコントローラー等の流入調整部13を設け、ここで上下の保護カバー11内のガスがバランスよく充填されるように調整する。
【0030】
二つの保護カバー11内の充填量調整のみでなく、ガスの種類でも充填量を変更したい場合は、図4に示す様に保護カバー毎に気体種類切替器19を設け、流入調整部13を気体種類切替器各々の入力部に設ければ良い。
【0031】
上に示した例は2種類の気体を切り替える制御であるが、本発明は気体の種類数は定めない。例えば図5に示すように気体種類を3種類にして気体15をヘリウムまたはアルゴン、気体16を窒素、気体20を圧縮空気とした時は、電極12の素材がタングステンの場合は約2300℃以上、モリブデンの場合は約600℃以上で窒化するので温度計17の測定値が窒化しない温度、すなわちタングステンの場合は約2200℃程度に、モリブデンの場合は約500℃程度に降下したら気体15から気体16への切り換える。次に電極12の素材がタングステンの場合は約400℃以上、モリブデンの場合は約300℃以上で酸化するので温度計17の測定値が酸化しない温度、すなわちタングステンの場合は約300℃程度に、モリブデンの場合は約200℃程度に降下したら気体16から気体20への切り換えを実施する。
【0032】
図5に示す溶接ヘッドを用いた抵抗溶接機の溶接方法の一例を、図6を用いて説明する。前記溶接ヘッドは抵抗溶接用の電極と、前記電極の温度を測定する温度測定手段と前記電極の周囲を覆い、前記電極に噴きつける気体の流入口を持つ保護手段と、複数の種類の気体のうち任意の気体を選択する気体切替手段と、を有する。
事前の動作は説明せず、被溶接物が溶接可能な状態で前記電極と接触した後からの説明を行う。
まず気体15であるヘリウム又はアルゴンガスの噴きつけを開始する(S601)。
上記気体15が保護手段内に充満した後に電極への通電を開始し、温度測定手段の情報により電極の温度を所定の時間内、所定の温度になるように制御し、被溶接物の接合を行う(S602、S603)。
次に温度測定手段からの温度情報を監視し、電極の温度が電極材質の窒化温度を下回るまでヘリウム又はアルゴンガスで冷却を行う(S604、S605)。
電極の温度が電極材質の窒化温度未満になったら、気体切替手段で気体15の噴きつけを停止し、気体16である窒素ガスの噴きつけを開始する(S606)。
次に温度測定手段からの温度情報を監視し、電極の温度が電極材質の酸化温度を下回るまで窒素ガスで冷却を行う(S607、S608)。
電極の温度が電極材質の酸化温度未満になったら、気体切替手段で気体16の噴きつけを停止し、気体20である圧縮空気の噴きつけを開始する(S609)。
次に温度測定手段からの温度情報を監視し、電極の温度が所定の温度を下回るまで圧縮空気で冷却を行い、その後気体切替手段で圧縮空気の噴きつけを停止する。(S610、S611、S102)。
上記の方法により高価なガスの無駄を省きながら、電極の劣化を防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
11:保護カバー
12:電極
15,16,20:気体
17:温度計
19:気体種類切替器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗溶接用の電極と、
前記電極の温度を測定する温度測定手段と
前記電極の周囲を覆い、前記電極に噴きつける気体の流入口を持つ保護手段と、
複数の種類の前記気体のうち任意の気体を選択する気体切替手段と、を有する事を特徴とする抵抗溶接機用溶接ヘッド。
【請求項2】
前記電極に噴きつける気体を切り換える判断は前記温度測定手段の測定温度に基づいておこなうことを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接機用溶接ヘッド。
【請求項3】
前記電極に噴きつける気体を切り換える判断をおこなう前記電極の測定温度は、電極の材料の窒化温度未満または酸化温度未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗溶接機用溶接ヘッド。
【請求項4】
前記電極に噴きつける気体の一方をアルゴン又はヘリウム、他方を窒素とし、溶接後の電極の測定温度が電極材質の窒化温度未満になるまでアルゴン又はヘリウムを噴きつけ、電極の測定温度が電極材質の窒化温度未満で窒素に切り替えることを特徴とする請求項1乃至3に記載のいずれかの抵抗溶接機用溶接ヘッド。
【請求項5】
前記電極に噴きつける気体の一方をアルゴン又はヘリウム又は窒素、他方を圧縮空気とし、溶接後の電極の測定温度が電極材質の酸化温度未満になるまでアルゴン又はヘリウム又は窒素を噴きつけ、電極の測定温度が電極材質の酸化温度未満で圧縮空気に切り替えることを特徴とする請求項1乃至3に記載のいずれかの抵抗溶接機用溶接ヘッド。
【請求項6】
前記電極に噴きつける気体をアルゴン又はヘリウムと、窒素と、圧縮空気との3種類とし、溶接後の電極の測定温度が電極材質の窒化温度未満になるまでアルゴン又はヘリウムを吹き付け、電極の測定温度が電極材質の窒化温度未満で窒素に切り替え、電極の測定温度が電極材質の酸化温度未満になるまで窒素を吹き付け、電極の測定温度が電極材質の酸化温度未満で圧縮空気に切り替えるとを特徴とする請求項1乃至3に記載のいずれかの抵抗溶接機用溶接ヘッド。
【請求項7】
抵抗溶接機の溶接方法において、
1)窒化又は酸化を抑制する気体を前記電極に向けて噴射するステップと
2)窒化又は酸化を抑制する前記気体を噴射しながら、前記電極へ供給する電力を制御して溶接を行うステップと
3)溶接後に前記窒化又は酸化を抑制する気体を噴射しながら、前記電極温度の測定値が電極を構成する部材の窒化又は酸化温度より低下した時に前記気体切替手段にて噴射する気体を圧縮空気又は窒素に変更するステップ
を持つ抵抗溶接機の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−59806(P2013−59806A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201725(P2011−201725)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)