説明

抵抗発熱バーを有する曲げ能動梁を備えた熱曲げアクチュエータ

【課題】優れた熱曲げアクチュエータを提供する。
【解決手段】熱曲げアクチュエータは、(a)アクチュエータの一端部に配置された1対の電気接点と、(b)電気接点に接続され、接点から長手方向に離れて延びる能動梁であり、接点間で屈曲した電流流路を画定する能動梁と、(c)能動梁に融着された受動梁とを備える。能動梁に電流が流れると、能動梁が発熱して受動梁に対し相対的に膨張し、その結果、アクチュエータが曲がる。能動梁は、電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有する抵抗発熱バーを備える。能動梁の発熱は、発熱バーに集中する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットノズルアセンブリに関する。本発明は、熱曲げによって作動するインクジェットノズルの効率を改善するために主に開発されたものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、熱曲げ作動を利用した多数のMEMSインクジェットノズルについてこれまで記載してきている。熱曲げ作動とは、ある材料に電流が流れると、別の材料に比べて熱膨張することによって生じる曲げ運動を一般に意味する。結果として得られる曲げ運動を利用して、インクをノズル開口から、任意選択で、ノズルチャンバ内で圧力波を生じるパドル又は羽根の運動を介して射出させることができる。
【0003】
熱曲げインクジェットノズルのいくつかの代表的な種類が、以下の特許に例示されており、参照される。
【0004】
本出願人の米国特許第6,416,167号には、ノズルチャンバ内に配置されたパドルと、ノズルチャンバの外部に配置された熱曲げアクチュエータとを有するインクジェットノズルが記載されている。このアクチュエータは、導電材料(例えば窒化チタン)の下側能動梁が非導電材料(例えば二酸化ケイ素)の上側受動梁に融着された形を取る。このアクチュエータは、ノズルチャンバの壁にあるスロットによって受けられたアームを介してパドルに接続されている。下側能動梁に電流が流れると、アクチュエータは上方に曲がり、したがって、パドルが、ノズルチャンバの屋根に画定されたノズル開口の方に動き、それによってインクの液滴が射出される。この設計の利点は、構造の単純性にある。この設計の欠点は、パドルの両面が、ノズルチャンバ内部で比較的粘性のあるインクに作用する点である。
【0005】
本出願人の米国特許第6,260,953号には、アクチュエータが、ノズルチャンバの可動屋根部分を形成するインクジェットノズルが記載されている。このアクチュエータは、蛇行した導電材料製コアがポリマー材料で収容された形を取る。作動すると、アクチュエータは、ノズルチャンバの床の方に曲がり、チャンバ内の圧力を増大させ、チャンバの屋根に画定されたノズル開口からインクの液滴が押し出される。ノズル開口は、屋根の非可動部分に画定されている。この設計の利点は、可動屋根部分の片面しか、ノズルチャンバ内部で比較的粘性のあるインクと作用しなくてすむという点である。この設計の欠点は、蛇行した導電素子がポリマー材料で収容されたアクチュエータの構造を、MEMS製造工程において実現するには困難であるという点である。
【0006】
本出願人の米国特許第6,623,101号には、ノズル開口が画定された可動屋根部分を有するノズルチャンバを備えたインクジェットノズルが記載されている。可動屋根部分は、アームを介して、ノズルチャンバの外部に配置された熱曲げアクチュエータに接続されている。このアクチュエータは、上側能動梁が下側受動梁から間隔を置いて配置された形を取る。能動梁と受動梁との間隔を置くことによって、受動梁が能動梁のヒートシンクとして作用することができなくなるため、熱曲げ効率が最大となる。電流が上側能動梁に流れると、ノズル開口が画定された可動屋根部分が、ノズルチャンバの床の方に回転することになり、それによってノズル開口から射出される。ノズル開口が屋根部分と共に動くため、ノズルリムの形状を適切に改変することによって、滴下飛翔方向を制御することができる。この設計の利点は、可動屋根部分の片面しか、ノズルチャンバ内部で比較的粘性のあるインクと作用しなくてすむという点である。さらなる利点は、能動梁部材と受動梁部材とを間隔を置いて配置することによって、最小限の熱損失が実現されるという点である。この設計の欠点は、能動梁部材と受動梁部材とを間隔を置いて配置することで、構造的剛性が失われるという点である。
【0007】
熱曲げアクチュエータの曲げ作動効率を改善することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,416,167号
【特許文献2】米国特許第6,260,953号
【特許文献3】米国特許第6,623,101号
【発明の概要】
【0009】
第1の態様において、本発明は、熱曲げアクチュエータであって、
前記アクチュエータの一端部に配置された1対の電気接点と、
前記電気接点に接続され、前記接点から長手方向に離れて延びる能動梁であり、前記接点間で屈曲した電流流路を画定する、能動梁と、
前記能動梁に融着された受動梁であり、能動梁に電流が流れると、能動梁が発熱し、受動梁に比べて膨張し、その結果アクチュエータが曲がる、受動梁と
を備え、
前記能動梁が、少なくとも1つの抵抗発熱バーを備え、前記発熱バーが、前記電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、したがって前記能動梁の発熱が前記発熱バーに集中する、熱曲げアクチュエータを提供する。
【0010】
任意選択で、前記能動梁は、第1の接点から長手方向に延びる第1のアームと、第2の接点から長手方向に延びる第2のアームと、前記第1のアームと前記第2のアームとを接続する接続部材とを備える。
【0011】
任意選択で、前記第1のアーム及び第2のアームのそれぞれは、それぞれの抵抗発熱バーを備える。
【0012】
任意選択で、前記接続部材は、前記第1のアームの遠位端と前記第2のアームの遠位端とを相互接続し、前記遠位端は、前記電気接点に対して遠位にある。
【0013】
任意選択で、前記少なくとも1つの抵抗発熱バーは、前記電流流路の他のいかなる部分の断面積よりも少なくとも1/1.5小さい断面積を有する。
【0014】
任意選択で、前記少なくとも1つの抵抗発熱バーは、3ミクロン未満の幅を有する。
【0015】
任意選択で、前記接続部材は、前記能動梁の総容積の少なくとも30%を占める。
【0016】
任意選択で、前記能動梁は、前記1対の電気接点を介して、駆動回路に接続される。
【0017】
任意選択で、前記駆動回路は、前記能動梁に作動パルスを搬送するように構成され、各作動パルスは、0.2マイクロ秒未満のパルス幅を有する。
【0018】
任意選択で、前記能動梁は、窒化チタン、チタンアルミニウム窒化物、及びバナジウム−アルミニウム合金を含む群から選択された材料から成る。
【0019】
任意選択で、前記受動梁は、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素を含む群から選択された材料から成る。
【0020】
さらなる態様では、インクジェットノズルアセンブリであって、
ノズル開口及びインク入口を有するノズルチャンバと、
前記アセンブリの一端部に配置され、駆動回路に接続された1対の電気接点と、
ノズル開口からインクを射出させる熱曲げアクチュエータと
を具備し、前記アクチュエータが、
前記電気接点に接続され、前記接点から長手方向に離れて延びる能動梁であり、前記接点間で屈曲した電流流路を画定する、能動梁と、
前記能動梁に融着された受動梁であり、能動梁に電流が流れると、能動梁が発熱し、受動梁に比べて膨張し、その結果アクチュエータが曲がる、受動梁と
を備え、
前記能動梁が、抵抗発熱バーを備え、前記発熱バーが、前記電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、したがって前記能動梁の発熱が前記少なくとも1つの発熱バーに集中する、インクジェットノズルアセンブリが提供される。
【0021】
任意選択で、ノズルチャンバは、床と、可動部分を有する屋根とを備え、前記アクチュエータの作動によって、前記可動部分が前記床の方に動く。
【0022】
任意選択で、前記可動部分は、前記アクチュエータを備える。
【0023】
任意選択で、ノズル開口は、可動部分に画定され、したがってノズル開口が床に対して移動可能となる。
【0024】
任意選択で、アクチュエータは、ノズル開口に対して移動可能である。
【0025】
任意選択で、前記能動梁は、第1の接点から長手方向に延びる第1のアームと、第2の接点から長手方向に延びる第2のアームと、前記第1のアームと前記第2のアームとを接続する接続部材とを具備し、前記アームのそれぞれは、それぞれの抵抗発熱バーを備える。
【0026】
任意選択で、前記抵抗発熱バーは共に、前記能動梁の総容積の50%未満を占める。
【0027】
任意選択で、前記駆動回路は、前記能動梁に作動パルスを搬送するように構成され、各作動パルスは、0.2マイクロ秒未満のパルス幅を有する。
【0028】
さらなる態様では、複数のノズルアセンブリを具備するインクジェットプリントヘッドであって、前記ノズルアセンブリが、
ノズル開口及びインク入口を有するノズルチャンバと、
前記アセンブリの一端部に配置され、駆動回路に接続された1対の電気接点と、
ノズル開口を介してインクを射出させる熱曲げアクチュエータと
を具備し、前記アクチュエータが、
前記電気接点に接続され、前記接点から長手方向に離れて延びる能動梁であり、前記接点間で屈曲した電流流路を画定する、能動梁と、
前記能動梁に融着された受動梁であり、能動梁に電流が流れると、能動梁が発熱し、受動梁に比べて膨張し、その結果アクチュエータが曲がる、受動梁と
を備え、
前記能動梁が、抵抗発熱バーを備え、前記発熱バーが、前記電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、したがって前記能動梁の発熱が前記少なくとも1つの発熱バーに集中する、インクジェットプリントヘッドが提供される。
【0029】
第2の態様において、本発明は、受動梁に融着された能動梁を有する熱曲げアクチュエータを作動させる方法であって、前記能動梁に電流を流して、前記能動梁を前記受動梁に比べて熱弾性膨張させ、前記アクチュエータを曲げる、ステップを含み、前記電流が、0.2マイクロ秒未満のパルス幅を有する作動パルスで搬送される、方法を提供する。
【0030】
任意選択で、前記パルス幅は、0.1マイクロ秒以下である。
【0031】
任意選択で、前記作動パルスで搬送されるエネルギーの総量は、200nJ未満である。
【0032】
任意選択で、各作動パルスで搬送されるエネルギーの総量は、150nJ未満である。
【0033】
任意選択で、前記作動パルスによって、前記曲げアクチュエータのピーク偏向速度が、少なくとも2.0m/sとなる。
【0034】
任意選択で、前記能動梁は、抵抗発熱バーを備え、前記発熱バーは、前記能動梁の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、したがって前記能動梁の発熱が前記少なくとも1つの発熱バーに集中する。
【0035】
任意選択で、前記熱曲げアクチュエータは、
前記アクチュエータの一端部に配置された1対の電気接点と、
前記電気接点に接続され、前記接点から長手方向に離れて延びる能動梁であり、前記接点間で屈曲した電流流路を画定する、能動梁と、
前記能動梁に融着された受動梁であり、能動梁に電流が流れると、能動梁が発熱し、受動梁に比べて膨張し、その結果アクチュエータが曲がる、受動梁と
を備え、
前記能動梁が、抵抗発熱バーを備え、前記発熱バーが、前記電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、したがって前記能動梁の発熱が前記少なくとも1つの発熱バーに集中する。
【0036】
任意選択で、前記能動梁は、第1の接点から長手方向に延びる第1のアームと、第2の接点から長手方向に延びる第2のアームと、前記第1のアームと前記第2のアームとを接続する接続部材とを備える。
【0037】
任意選択で、前記第1のアーム及び第2のアームのそれぞれは、それぞれの抵抗発熱バーを備える。
【0038】
任意選択で、前記接続部材は、前記第1のアームの遠位端と前記第2のアームの遠位端とを相互接続し、前記遠位端は、前記電気接点に対して遠位にある。
【0039】
任意選択で、前記少なくとも1つの抵抗発熱バーは、前記能動梁の他のいかなる部分の断面積よりも少なくとも1/1.5小さい断面積を有する。
【0040】
任意選択で、前記少なくとも1つの抵抗発熱バーは、3ミクロン未満の幅を有する。
【0041】
任意選択で、前記接続部材は、前記能動梁の総容積の少なくとも30%を占める。
【0042】
任意選択で、前記能動梁は、前記1対の電気接点を介して駆動回路に接続され、前記駆動回路は、前記作動パルスを前記能動梁に搬送するように構成されている。
【0043】
任意選択で、前記能動梁は、窒化チタン、チタンアルミニウム窒化物、及び、バナジウム−アルミニウム合金を含む群から選択された材料から成る。
【0044】
任意選択で、前記受動梁は、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素を含む群から選択された材料から成る。
【0045】
さらなる態様では、インクジェットノズルアセンブリからインクを射出する方法であって、前記ノズルアセンブリが、
ノズル開口及びインク入口を有するノズルチャンバと、
駆動回路に接続された1対の電気接点と、
ノズル開口からインクを射出させる熱曲げアクチュエータであり、前記電気接点に接続された能動梁と、前記能動梁に融着された受動梁とを備える熱曲げアクチュエータと
を具備し、
前記方法が、前記能動梁に電流を流して、前記能動梁を前記受動梁に比べて熱弾性膨張させ、前記アクチュエータを曲げ、その結果前記ノズルチャンバからインクを射出させる、ステップを含み、前記電流が、0.2マイクロ秒未満のパルス幅を有する作動パルスで搬送される、方法が提供される。
【0046】
任意選択で、ノズルチャンバは、床と、可動部分を有する屋根とを備え、前記アクチュエータの作動によって、前記可動部分が、前記床の方に動く。
【0047】
任意選択で、前記可動部分は、前記アクチュエータを備える。
【0048】
任意選択で、ノズル開口は、可動部分に画定され、したがってノズル開口が床に対して移動可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの切欠斜視図である。
【図2】最終段階の製造ステップによる完成後の、図1に示すインクジェットノズルアセンブリの切欠斜視図である。
【図3】本発明による、部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの切欠斜視図である。
【図4】様々な作動パルス幅を用いて、3m/sのピーク偏向速度を実現するために必要となるエネルギー入力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を単なる例によって説明する。
【0051】
図1及び2は、先に出願された、本出願人の2007年6月15日出願の米国特許出願第11/763,440号に記載の、2つの異なる製造段階にあるノズルアセンブリ100を示し、上記出願の内容を参照により本明細書に組み込む。
【0052】
図1は、能動梁層及び受動梁層の機構を例示するように、部分的に形成されたノズルアセンブリを示す。したがって、図1を参照すると、CMOSシリコン基板102上に形成されたノズルアセンブリ100が示されている。ノズルチャンバが、基板102から間隔を置いて配置された屋根104と、屋根から基板102まで延びる側壁106とによって画定されている。屋根104は、可動部分108と、固定部分110とから成り、これらの部分の間には、間隙109が画定されている。ノズル開口112が、インクを射出させるために可動部分108に画定されている。
【0053】
可動部分108は、上側能動梁114が下側受動梁116に融着された形の1対の片持ち梁を有する熱曲げアクチュエータを備える。下側受動梁116は、屋根の可動部分108の範囲を画定している。上側能動梁114は、1対のアーム114A及び114Bを備え、これらのアームは、それぞれの電極接点118A及び118Bから長手方向に延びている。アーム114Aと114Bとは、遠位端で接続部材115によって接続されている。接続部材115は、チタン導電パッド117を備え、このパッドによって、この接合領域周辺で電気伝導が促進される。したがって、能動梁114は、電極接点118Aと118Bとの間で屈曲した、又は蛇行した導電経路を画定している。
【0054】
電極接点118A及び118Bは、ノズルアセンブリの一端部で互いに隣接して配置され、それぞれのコネクタポスト119を介して、基板102の金属CMOS層120上に接続されている。CMOS層120は、曲げアクチュエータを作動させるのに必要な駆動回路を含む。
【0055】
受動梁116は、典型的には、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等の任意の電気/熱絶縁材料から成る。熱弾性能動梁114は、窒化チタン、チタンアルミニウム窒化物、及びアルミニウム合金等の適切な任意の熱弾性材料から成ることができる。本出願人の同時係属の2006年12月4日出願の米国特許出願第11/607,976号(代理人整理番号IJ70US)で説明されているように、バナジウム−アルミニウム合金が好ましい材料であり、その理由は、バナジウム−アルミニウム合金は、高い熱膨張性、低密度、及び高いヤング率という有利な特性を兼ね備えているからである。
【0056】
図2を参照すると、その後の製造段階で完成したノズルアセンブリ100が示されている。図2のノズルアセンブリは、ノズルチャンバ122と、ノズルチャンバにインクを供給するインク入口124とを有する。さらに、屋根全体が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のポリマー材料層126で被覆されている。ポリマー層126は、曲げアクチュエータの保護、屋根104の疎水化、ギャップ109に対する機械的封止の実現を含めた、多数の機能を有する。ポリマー層126は、作動し、ノズル開口112からインクが射出されるように、十分に低いヤング率を有する。ポリマー層126の機能及び製造を含めた、ポリマー層126のより詳細な説明が、例えば、2007年11月29日出願の米国特許出願第11/946,840号に見られる。
【0057】
ノズルチャンバ122からインクの液滴を射出させる必要があるとき、電極接点118間で、能動梁114に電流を流す。能動梁114は、電流によって急速に発熱し、受動梁116に比べて膨張し、それによって、可動部分108が、固定部分110に比べて基板102の方に下方に曲がることになる。この動きにより、次いで、ノズルチャンバ122内部の圧力が急速に増大することによって、ノズル開口112からインクが射出される。電流の流れを停止すると、可動部分108は、図1及び2に示す静止位置に戻ることができ、それによってインクが次の射出に備えて入口124からノズルチャンバ122内に吸い上げられる。
【0058】
図1及び2に示すノズル設計では、曲げアクチュエータが、各ノズルアセンブリ100の可動部分108の少なくとも一部を画定していることが有利である。この設計によって、ノズルアセンブリ100の全体的な設計及び製造が簡単になるだけでなく、可動部分108の片面しか、比較的粘性のあるインクと作用しなくてすむことになるため、より高い射出効率が得られる。上記に比べて、アクチュエータパドルがノズルチャンバ122内に配置されたノズルアセンブリは、アクチュエータの両面が、チャンバ内部のインクに作用しなければならないので、効率が下がる。
【0059】
しかし、曲げアクチュエータの全体的な効率を改善することがなおも求められている。電流流路が急激に屈曲するため、接続部材115内で電気損失が生じる可能性があり、また、能動層114から受動層116への熱伝導によって、熱損失が生じる可能性がある。
【0060】
次に、図3を参照すると、異なる構成の能動梁層114を有する、部分的に製造されたノズルアセンブリ200が示されている。分かりやすいように、ノズルの同じ機構は、図1及び2で使用したものと同じ参照番号で示す。
【0061】
ノズルアセンブリ200は、図1に示すノズルアセンブリ100と同じ製造段階にある。当然ながら、ノズルアセンブリ200は、その後加工して、図2に示すものと同様の完成したノズルアセンブリを形成することができる。しかし、図3の部分的に製造されたノズルアセンブリ200は、能動梁層114の重要な機構を最も良く示している。
【0062】
図3では、能動梁114が、1対の抵抗発熱バー117A及び117Bを備えることが分かり、これらの抵抗発熱バーでは、(電流が流れる長手方向に対して)横方向の断面積が、能動梁114によって画定される電流流路の他のいかなる部分よりも小さくなっている。典型的には、各発熱バー117は、電流流路の他のいかなる部分よりも少なくとも1/1.5、少なくとも1/2、少なくとも1/3、又は少なくとも1/4小さい断面積を有する。したがって、発熱バー117によって、熱弾性曲げ作動に必要となる熱の圧倒的大部分が能動梁114内で生成される。
【0063】
発熱バー117は共に、可動部分108の相対的に小さい領域を占める。典型的には、可動部分108の総面積の10%未満又は5%未満が、発熱バー117によって占められる。発熱バーは共に、能動梁114の相対的に小さい容積を占める。典型的には、能動梁114の総容積(及び/又は面積)の50%未満、40%未満、又は30%未満が、発熱バー117によって占められる。典型的には、発熱バー117は、3ミクロン未満、2.5ミクロン未満、又は2ミクロン未満の幅又は高さ寸法を有する。
【0064】
能動梁114のこうした構成によって、図1に示す構成に優るいくつかの利点が得られる。第1に、発熱を相対的に小さい領域に集中させることによって、熱弾性作動中に、能動梁114から受動梁116に伝導される総熱量が、最小限に抑えられる。したがって、同じ量のエネルギー入力で、ノズルアセンブリ200内の熱損失は、図1に示すノズルアセンブリ100に比べて少なくなる。
【0065】
第2に、能動梁114の接続部材115をより大きく作成することができ、したがって電流流路の急激な屈曲(180度の屈曲)による電流損失が最小限に抑えられ、導電パッド117を不要とすることができる。ノズルアセンブリ200の能動梁114の大部分は、専ら発熱バー117への電流の流れを最大にするためのものであり、こうした電流の流れによって熱弾性作動が引き起こされることになる。典型的には、接続部材115は、能動梁114の総容積の少なくとも30%又は少なくとも40%を占める。
【0066】
図3に示すノズルアセンブリは、短い作動パルスと組み合わせて使用すると特に効果的である。より短いパルスを使用することによって、熱エネルギーが受動層116内に伝導される時間量が最小限に抑えられ、その結果、より長い作動パルスに比べて、熱損失がより少なくなる。さらに、抵抗発熱バー117の構成を、短い作動パルスと組み合わせることによって、能動層114と受動層116との間により大きな温度差が生じる。したがって、これらの層間でより大きな差異の膨張が実現され、その結果、可動部分108のピーク偏向速度がより高くなる。可動部分108のピーク偏向速度は、ノズル開口112からインクが射出する速度を決定する重要な要因である。
【0067】
図4は、ノズルアセンブリ200を比較的短い作動パルスと共に用いて、より効率のよい熱弾性作動及び滴下射出をどのように実現することができるかを実験的に示している。このグラフは、0.5〜0.1マイクロ秒(0.05マイクロ秒の間隔で区切られている)の範囲にわたる様々な作動パルス幅について、3m/sのピーク偏向速度を実現するために必要となるエネルギー量を示している。第1のデータ点は、0.5マイクロ秒の作動パルス幅を有し、3m/sのピーク偏向速度を実現するのに、227.8nJの総エネルギー入力が必要となる。一方、最後のデータ点は、0.1マイクロ秒の作動パルス幅を有し、同じ3m/sのピーク偏向速度を実現するのに、138nJの総エネルギー入力しか必要でない。したがって、この実験データは、特に図3に示すノズルアセンブリ200では、より短いパルス幅によってより効率的な作動が実現されることを明白に示している。
【0068】
典型的には、本発明の作動に必要となるエネルギー入力の総量は、200nJ未満、又は150nJ未満まで低減される。通常は、総エネルギー入力は、100〜200nJ、又は100〜150nJの範囲である。
【0069】
所定のピーク偏向速度を生じるための熱曲げアクチュエータへのエネルギー入力は、全体的に低い方が有利であることが当業者には容易に理解されよう。本明細書に記載の曲げアクチュエータ及び方法によれば、熱曲げ作動インクジェットプリントヘッドを、より効率良く、且つより少ない所要電力で作成することができる。
【0070】
当然ながら、本発明は、単なる例によって説明したものにすぎず、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内で詳細の改変を行うことができることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱曲げアクチュエータであって、
前記熱曲げアクチュエータの一端部に配置された1対の電気接点と、
前記電気接点に接続され、前記電気接点から長手方向に離れて延びる能動梁であって、前記電気接点間で屈曲した電流流路を画定する、当該能動梁と、
前記能動梁に融着された受動梁であって、前記能動梁に電流が流れると、前記能動梁が発熱し、前記受動梁に比べて膨張し、その結果前記熱曲げアクチュエータが曲がる、当該受動梁と、
を備え、
前記能動梁が、少なくとも1つの抵抗発熱バーを備え、前記抵抗発熱バーが、前記電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、前記能動梁の発熱が前記抵抗発熱バーに集中する、熱曲げアクチュエータ。
【請求項2】
前記能動梁が、
第1の接点から長手方向に延びる第1のアームと、
第2の接点から長手方向に延びる第2のアームと、
前記第1のアームと前記第2のアームとを接続する接続部材と、
を備える、請求項1に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項3】
前記第1のアーム及び第2のアームのそれぞれが、抵抗発熱バーを備える、請求項2に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項4】
前記接続部材が、前記第1のアームの遠位端と前記第2のアームの遠位端とを相互接続し、前記遠位端が、前記電気接点に対して遠位にある、請求項2に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの抵抗発熱バーが、
前記電流流路の他のいかなる部分の断面積の(1/1.5)倍よりも小さい断面積を有する、請求項1に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの抵抗発熱バーが、3ミクロン未満の幅を有する、請求項1に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項7】
前記接続部材が、前記能動梁の総容積の少なくとも30%を占める、請求項4に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項8】
前記能動梁が、前記1対の電気接点を介して、駆動回路に接続される、請求項1に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項9】
前記駆動回路が、前記能動梁に作動パルスを搬送するように構成され、各作動パルスが、0.2マイクロ秒未満のパルス幅を有する、請求項8に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項10】
前記能動梁が、
窒化チタン、チタンアルミニウム窒化物、及びバナジウム−アルミニウム合金を含む群、の中から選択された材料から成る、請求項1に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項11】
前記受動梁が、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素を含む群、の中から選択された材料から成る、請求項1に記載の熱曲げアクチュエータ。
【請求項12】
インクジェットノズルアセンブリであって、
ノズル開口及びインク入口を有するノズルチャンバと、
前記アセンブリの一端部に配置され、駆動回路に接続された1対の電気接点と、
前記ノズル開口からインクを射出させる熱曲げアクチュエータと、
を具備し、
前記熱曲げアクチュエータが、
前記電気接点に接続され、前記電気接点から長手方向に離れて延びる能動梁であって、前記電気接点間で屈曲した電流流路を画定する当該能動梁と、
前記能動梁に融着された受動梁であって、前記能動梁に電流が流れると、前記能動梁が発熱し、前記受動梁に比べて膨張し、その結果前記熱曲げアクチュエータが曲がる、当該受動梁と、
を備え、
前記能動梁が、抵抗発熱バーを備え、前記抵抗発熱バーが、前記電流流路の他のいかなる部分よりも相対的に小さい断面積を有し、前記能動梁の発熱が前記少なくとも1つの発熱バーに集中する、インクジェットノズルアセンブリ。
【請求項13】
前記ノズルチャンバが、
床と、
可動部分を有する屋根と、
を備え、
前記熱曲げアクチュエータの作動によって、前記可動部分が前記床の方に動く、請求項12に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項14】
前記可動部分が、前記熱曲げアクチュエータを備える、請求項13に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項15】
前記ノズル開口が、前記可動部分に画定され、前記ノズル開口が前記床に対して移動可能となる、請求項14に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項16】
前記熱曲げアクチュエータが、前記ノズル開口に対して移動可能である、請求項14に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項17】
前記能動梁が、
第1の接点から長手方向に延びる第1のアームと、
第2の接点から長手方向に延びる第2のアームと、
前記第1のアームと前記第2のアームとを接続する接続部材と、
を具備し、
前記第1のアーム及び第2のアームのそれぞれが、抵抗発熱バーを備える、請求項12に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項18】
前記抵抗発熱バーが共に、前記能動梁の総容積の50%未満を占める、請求項17に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項19】
前記駆動回路が、前記能動梁に作動パルスを搬送するように構成され、各作動パルスが、0.2マイクロ秒未満のパルス幅を有する、請求項12に記載のインクジェットノズルアセンブリ。
【請求項20】
請求項12に記載のインクジェットノズルを複数備える、インクジェットプリントヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2011−519754(P2011−519754A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506533(P2011−506533)
【出願日】平成20年5月5日(2008.5.5)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000618
【国際公開番号】WO2009/135245
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(303024600)シルバーブルック リサーチ ピーティワイ リミテッド (150)
【Fターム(参考)】