説明

押出し麺、並びに該押出し麺を用いた即席麺及び乾麺の製造方法

【課題】茹で時間が早くあるいは復元性が良く、しかも喫食する際に、違和感のない食感とすることのできる押出し麺を得る。
【解決手段】長手方向に貫通する孔2を有する押出し麺であって、当該孔2が、茹で上げあるいは湯戻しの際に閉塞又は縮小するものであり、麺線1の横断面における前記孔2の形状が、麺線1の横断面の中心から径外方向に延び、かつ、前記横断面の中心を基準として回転対称に形成された複数の溝部22を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茹で上げ時間の早い押出し麺、並びに該押出し麺をα化後乾燥させる即席麺の製造方法及びα化せずに乾燥させる乾麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパゲティーやマカロニ等の押出し麺は、麺生地を押出し式のパスタマシンで、その先端に配置されたダイスの孔から脱気しつつ又は脱気せずに押出して麺線を成形する。しかし、このように押出し成形した麺は、麺生地を麺帯状に薄く圧延した後、切出して製造したいわゆる「切出し麺」に比べて、生麺あるいは乾麺の場合では調理(茹で上げ)に時間を要し、即席麺の場合では復元(湯戻し)に時間を要する。つまり、押出し麺では、喫食できる状態とするまでに時間を要する。これは、麺線をダイスの孔から高圧で押出して形成するために、麺線構造が緻密になり、麺線内部に湯が入りにくいことが一要因である。
【0003】
特に、押出し麺をα化して乾燥させた即席麺の場合、乾燥処理に熱風乾燥を用いると、復元性が極めて悪く、3〜5分程度の熱湯注加による湯戻しでは、よほど細い麺でなければ復元(湯戻し)できない。そのため、ダイスの孔から押出して成形した麺を、ノンフライ即席麺に加工した商品は、スパゲティーサイズの太さ(乾麺の状態で1.7mm程度)のものは現在まで上市されておらず、押出し製法で製造された本格的な即席麺(即席パスタ)が求められていた。
【0004】
押出し麺の茹で上げ時間を早くする技術としては、古くから麺線表面に溝を形成する技術が良く知られている。例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に記載の技術は、いずれも麺線表面に深い溝を形成したものである。
【0005】
また、特許文献5には、即席麺に関する技術が記載されており、麺に押出し成形した麺線を用い、該押出し麺線において麺線の断面積に対して10〜35%の面積の溝を形成するものである。そして、特許文献5には、この麺線を熱湯で復元すると、麺が湯を吸水して膨潤することで、外見上溝が閉塞して違和感がなくなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−6172号公報
【特許文献2】特開平4−211337号公報
【特許文献3】特開平10−146161号公報
【特許文献4】特開2001−17104号公報
【特許文献5】特開昭63−248366号公報
【特許文献6】特開2007−49920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように、麺線表面に溝を形成した麺は、たとえ麺線が吸水、膨張して外見上溝が閉塞したとしても、溝部は他の部分と組織が連続しておらず、噛むと溝部で位置ずれが起こり、実際には違和感のある食感となってしまう。
【0008】
一方、特許文献6には、麺線内に複数個の孔を形成した押出し麺線が記載されている。しかし、複数個の孔を形成する場合、麺線が細いために、内部に複数の孔を形成することは困難であり、また、一つ一つの孔は非常に小さくならざるを得ず、小さいと孔内に湯が通りにくいため良好な復元性が得られない。一方、大きな孔を複数個形成すると、「スカスカ」の麺となってしまい食感が悪い。また、マカロニの様に丸い孔をあけると、調理後も孔が中空状態のまま残るため、咬んだ時に孔の部分がつぶれて、咬み応えのない違和感のある食感となってしまう。
【0009】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、茹で時間が早くあるいは復元性が良く(湯戻し時間が短く)、しかも喫食する際に、違和感のない食感とすることのできる押出し麺を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の押出し麺は、長手方向に貫通する孔を有する押出し麺であって、当該孔が、茹で上げあるいは湯戻しの際に閉塞又は縮小するものであり、麺線の横断面における前記孔の形状が、麺線の横断面の中心から径外方向に延び、かつ、前記横断面の中心を基準として回転対称に形成された複数の溝部を有するものであることを特徴としている。
【0011】
前記構成によると、麺線の横断面の中心から径外方向に延びる複数の溝部を有する孔があいた麺構造であるため、表面積が大きくなり、茹で上げあるいは湯戻しの際に麺線全体に湯の浸透する速度を速くできる。そして、この孔が喫食時には閉塞又は縮小するため、孔が縮小せずに残ることによる違和感のある食感となりにくい。
【0012】
そして本発明の押出し麺は、前記孔が、孔を含めた麺線の断面積に対して2%〜15%の面積を占めるように形成されていることが好ましい。
【0013】
前記好ましい構成によると、茹で上げあるいは湯戻しの際において孔の閉塞又は縮小がされやすく、喫食時にマカロニのような違和感のある食感となりにくい。
【0014】
そして本発明の押出し麺は、前記複数の溝部の先端が、前記麺線の横断面の中心から麺線外周縁までの距離の30%〜70%の位置に達していることが好ましい。
【0015】
前記好ましい構成によると、麺線全体に湯の浸透する速度が速く、従って、茹で上げあるいは湯戻し時間が短くなる。
【0016】
そして本発明の押出し麺は、前記複数の溝部が、3回対称ないし8回対称のいずかの回転対称に形成されていることが好ましい。
【0017】
前記好ましい構成によると、溝部を3回対称ないし8回対称のいずかの回転対称とすることにより、麺線中心から放射状に均等に溝が配置されることになり、麺線外周のいずれの方向からも均一な食感が得られ、また8回対称以下とすることで、麺生地を押し出すためのダイスの製作を行いやすい。
【0018】
そして本発明の押出し麺は、麺線の横断面における前記孔の形状が、前記複数の溝部のうち隣り合う関係にある溝部の先端同士の間で、前記麺線の横断面の中心に向かって入り込んだ陥入部分を有した形状であることが好ましい。
【0019】
前記好ましい構成によると、孔の形状が麺線の横断面の中心に向かって入り込んだ陥入部分を有することから、茹で上げあるいは湯戻しの際における孔の閉塞又は縮小がされやすい。
【0020】
そして本発明の押出し麺は、前記複数の溝部の先端が、曲面を有することが好ましい。
【0021】
前記好ましい構成によると、溝部の先端まで確実に湯が到達し、麺線に湯が浸透しやすく、茹で上げあるいは湯戻し時間が速くなる。
【0022】
そして本発明の押出し麺は、前記麺線の横断面形状の外形が円形であることが好ましい。
【0023】
前記好ましい構成によると、麺線全体に湯を均等に浸透させることができ、麺線表面に溝を形成した麺のような違和感のある食感とはなりにくい。
【0024】
そして本発明の即席麺の製造方法は、前記いずれかに記載の押出し麺をα化後に乾燥させることを特徴としている。
【0025】
前記構成によると、麺線の横断面の中心から径外方向に延びる複数の溝部を有する孔があいた麺構造の即席麺を得ることができ、麺の表面積が大きくなり、茹で上げあるいは湯戻しの際に麺線全体に湯の浸透する速度を速くできる。そして、この孔が閉塞又は縮小するため、孔がそのまま残ることによる違和感ある食感が生まれにくい。また、このように食感に違和感が無く湯戻し時の復元性が格段に向上するので、即席麺としては従来無かったような太い押出し麺(押出しスパゲティー等)も製造できる。
【0026】
そして本発明の乾麺の製造方法は、前記いずれかに記載の押出し麺をα化せずに乾燥させることを特徴としている。
【0027】
前記構成によると、麺線の横断面の中心から径外方向に延びる複数の溝部を有する孔があいた麺構造の乾麺を得ることができ、麺の表面積が大きくなり、茹で上げあるいは湯戻しの際に麺線全体に湯の浸透する速度を速くできる。従って、従来の押出し麺(押出しパスタ)に比べて、調理時間を著しく短縮できる。そして、この孔が閉塞又は縮小するため、孔が残ることによる違和感ある食感が生まれにくい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、麺線中心部の孔の存在により、麺線全体に湯の浸透する速度が速いため、生麺や乾麺の場合には茹で時間が短縮される。また、即席麺の場合には、茹でて調理する場合はもちろん、熱湯注加によって喫食する場合でも、復元性が良い(湯戻し時間が短縮される)。しかも、従来のように麺線表面に溝を形成した麺、あるいは、麺線内に複数個の孔を形成した麺に比べて、格段に食感が良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る麺の断面形状を示し、(A)は湯通し孔が閉塞あるいは縮小する前の状態、(B)は湯通し孔が閉塞した後の状態、(C)は湯通し孔が縮小した後の状態を示す。
【図2】(A)〜(C)共、他の実施形態に係る麺の断面形状の例を示す横断面図である。
【図3】押出し麺を実際に製造して確認を行った様子を示す、図1(B)に対応する状態の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明につき、実施形態の一例を取り上げて説明を行う。本実施形態の麺はパスタであるが、本発明はパスタに限定されるものではなく、押出し成形により得られる種々の麺に適用が可能である。
【0031】
パスタの場合、麺原料として小麦粉は必須である。特にスパゲティーの場合にはデュラム小麦粉を用いることが好ましい。そして必要に応じて、ソバ粉、米粉、大麦粉等の穀粉や澱粉を添加して麺原料粉としてもよい。また、必要に応じて食塩、麺質改良剤、卵白等の副原料を添加しても良く、麺原料粉と練り水をミキサーでよく混練して麺生地とする。
【0032】
上記の麺生地を押出し式のパスタマシンで圧力を掛けて、パスタマシンの先に取り付けられたダイスの孔から押し出して麺線化する。本実施形態のダイスでは、孔の中央にピンが設けられている。そのため、押し出された麺線にはピンと同じ断面形状の孔が形成される。この孔が後述する湯通し孔2となる。なお、麺原料粉と練り水の混練から押出しまでを連続して行なう装置を用いても良い。
【0033】
押し出された麺線1の横断面形状は、例えば図1(A)に示すものである。麺線1の横断面形状の外形は円形とされている。そして、麺線1の横断面における湯通し孔2の形状が、麺線1の横断面の中心から径外方向に延び(あるいは放射状に延び)、かつ、前記横断面の中心を基準として回転対称に形成された複数の溝部22を有するものである。そして、これら複数の溝部22が重なり合った部分が空隙部21とされている。この湯通し孔2は、茹で上げあるいは湯戻しの際における麺線1の膨張等により閉塞又は縮小する。溝部22は、図1(A)に示すように、一つの形状のものが回転対称に形成されたものであっても良いし、例えば図2(C)に示すように、異なる形状の溝部22a,22bが各々回転対称に形成されたものであっても良い。
【0034】
湯通し孔2は、茹で上げあるいは湯戻しにより、図1(B)に示すように閉塞することが望ましい。しかし、湯温、または、茹で上げもしくは湯戻しの時間により湯通し孔2が閉塞し切らない場合もある。よって湯通し孔2は、喫食者の食感が、咬み応えのないマカロニのような食感とはならず、スパゲティーらしい腰のある食感となる程度にまで縮小すれば良い。具体的には、図1(A)に示す状態で溝部22のうちで空隙部21を除く部分が、図1(C)に示すように、茹で上げあるいは湯戻しによりほぼ接触し、空隙部21が若干残る程度となるようになれば良い。
【0035】
図1(A)に示す湯通し孔2は、溝部22が3箇所設けられた、「三芒星形」とされている。溝部の数量は3箇所に限られるものではないが、溝部があまりにも多いと押し出しに用いるダイスの製作が困難になるため、溝部22を3回対称ないし8回対称のいずかの回転対称に形成することが望ましく、特に3回対称又は4回対称に形成するのが望ましい。このように回転対称に形成されることで、特定の方向によって食感が変わってしまうという不都合がない。
【0036】
ここで、図1(A)に示す湯通し孔2は、破線で図示した、麺線1の横断面の中心を基準とした大小二重の仮想円(第1円R1、第2円R2)に接するように形成されている。第1円R1は湯通し孔2の3つの溝部22の先端221を結ぶ仮想円であり、第2円R2は湯通し孔2に内接する仮想円である。つまり、湯通し孔2の断面積(横断面積)は第1円R1の断面積よりも小さく、第2円R2の断面積よりも大きい。そして、図1(A)に示すように、複数の溝部22のうち隣り合う関係にある溝部22の先端同士の間で、麺線1の横断面の中心に向かって突出する。すなわち、第1円R1よりも中心寄りに入り込んだ形状である陥入部分1aが存在することになり、この陥入部分1aが、茹で上げあるいは湯戻しの際に空隙部21の側、つまり麺線1の横断面の中心方向へと膨らみ、喫食時には空隙部21及び溝部22の空間が消失(図1(B)参照)又はごく小さくなって(図1(C)参照)、湯通し孔2が閉塞又は縮小する。よって、第1円R1と同径の湯通し孔を設けた場合に比べると、図1(A)に示す湯通し孔2を設けた方が、麺線1の膨張により湯通し孔2をはるかに縮小させやすい。そして、第2円R2と同径の湯通し孔を設けた場合に比べると、溝部22が径外方向に延びている分、多くの湯を湯通し孔2に通すことができ、調理(茹で上げ)時間あるいは復元(湯戻し)時間を短縮できる。
【0037】
そして、溝部22は先細形状に形成されているが、先端221は曲面(アール)を有するのが良い。この曲面は、曲率半径(R)を0.01mm〜0.1mmとすることが望ましく、0.025mm〜0.075mmとすることがより望ましい。このように曲面を有する形状とすることにより、湯通し孔2において湯を入り易くし、茹で上げあるいは湯戻しが速くなる。ただし、曲率半径(R)を大きくし過ぎると、孔が閉塞しづらくなり、マカロニのような食感になるので、前記のような範囲が好ましい。
【0038】
その他、湯通し孔2を閉塞又は有効に縮小させるためには、湯通し孔2は、湯通し孔2を含めた麺線1の断面積に対して1%〜20%、より好ましくは2%〜15%、特に好ましくは3%〜12%の面積を占めるように形成されていることが望ましく、また、湯通し孔は横断面形状にて、先端に行くほど細くなる先細形状であることが望ましい。また、麺線全体に速く熱湯を浸透させ、調理時間や湯戻し時間を短くするためには、溝部22の先端221が、前記麺線1の横断面の中心から麺線外周縁までの距離の25%〜75%、より好ましくは30%〜70%、特に好ましくは35%〜65%の位置に達していることが望ましい。ただし、中心部からの距離が麺線外周までの距離の70%を越えると乾麺や即席麺の場合は、乾燥時に麺が割れ易い等の問題が生じる場合がある。
【0039】
湯通し孔2の他の形状の例について、図2を示して説明する。図2(A)に示す形状は、4回回転対称とした「手裏剣形」である。図2(B)に示す形状は、同じく4回回転対称であるが、図2(A)に示したように溝部22が空隙部21から径外方向に延びるものとはされておらず、周方向にずれて延びるような「卍形」とされている。図2(C)に示す形状は、溝部22を大きい溝部22aと小さい溝部22bとから構成されたものとしたものである。大きい溝部22aと小さい溝部22bの各々は、各々3回回転対称としたものであって、各々が交互に配置されている。このように、湯通し孔2は種々の形状で形成することができる。
【0040】
上記のようにしてダイスから押し出された状態の麺線1が生麺線(生パスタ)である。この生麺線をそのまま茹でて調理し、喫食することができる。乾麺のパスタにする場合は、通常、生麺線を竿掛けにして乾燥(調湿乾燥)させる。この乾燥は、1〜2時間の予備乾燥後、50℃で20時間、または70℃で12時間行う。ただし、この乾燥条件はあくまでも一例であって、これに限定されない。前記乾燥後の麺を適宜長さ(通常は25cm前後)に切断したものが、一般に売られている棒状の乾麺(スパゲティー等)である。この乾麺のパスタは沸騰した湯で茹でて調理する。前記はロングパスタに加工した場合であるが、ショートパスタに加工することももちろん可能である。
【0041】
即席麺のパスタにする場合は、生麺線をα化後に乾燥させる。α化は茹で又は蒸しによってなされる。なお、茹でと蒸しとを併せて行っても良い。ちなみに、スパゲティーらしさを出すためには茹でが良い。上記α化処理した後に水切りして乾燥させる。乾燥法は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、高温気流乾燥、凍結乾燥、フライ(油揚げ)等が可能である。ただし、スパゲティーらしさを出すにはフライ以外の方法が良い。なお、前述のように一旦乾麺としたものを茹でてα化したものを乾燥させて即席麺とすることもできる。乾燥の際は、1食分の麺をリテーナに入れて乾燥させる。熱風乾燥の場合、80〜120℃程度で、30分〜2時間程度かかる。
【0042】
ここで、従来のように、麺線表面に溝を形成した麺の場合、乾麺や即席麺として乾燥する際に、溝部周辺と他の部分との乾燥速度が大きく異なるため、不均一な乾燥が起り易い。これに対して、本実施形態の麺線1では、横断面形状の外形が円形であるため、均一に乾燥させることができ、反りなどが発生しにくい。
【0043】
即席麺の場合の喫食方法は、袋麺の場合、乾麺と同様に沸騰した湯で茹でるのが一般的である。カップ麺の場合、容器にお湯を注いで蓋をし3〜5分で喫食可能とするのが一般的である。
【0044】
本実施形態では、麺線1の中心部に湯通し孔2があいた麺構造であるために、麺線1の表面積が大きくなり、麺線全体に湯の浸透する速度が速くなる。従って、生麺や乾麺の場合には茹で時間が短縮され、湯通し孔のない、同じ太さの麺に比べて4/5〜2/3程度の時間で調理できる。また、即席麺の場合は、茹でて調理する場合はもちろん、熱湯注加によって喫食する場合でも、中心部に孔のない麺では復元不可能な、スパゲティーサイズ(乾麺の状態で1.7mm程度)の太さの麺を充分に湯戻しすることが可能である。
【0045】
しかも、従来の麺線表面に溝を形成した麺に比べて、本実施形態の麺線1は格段に食感が良い。これは、麺線表面に溝を形成した麺の場合には、溝部において麺組織が欠落するために麺表面が不均一で、咬んだ時に溝部において位置ずれしてしまうのに対し、本実施形態の麺構造の場合にはこのような問題が起らないためである。
【0046】
また、本実施形態の場合、麺線1の内部に中心から回転対称に溝部22を形成した構造であるために、茹で調理する際(生麺や乾麺の場合)に、あるいは熱湯で復元する際(即席麺の場合)に、図1(B)(C)及び図3に示すように、麺線1の内部の湯通し孔2が縮小し(閉塞あるいはごく狭くなり)、実質的に中実の麺と同じになるため、径の大きな孔をあけた場合に感じるような、咬み応えのないマカロニのような食感とならず、スパゲティーらしい腰のある食感となる。つまり、本実施形態の麺線1は、マカロニのような、調理後も孔の残る麺線とは本質的に異なる麺構造となっているため、食感も異なることとなる。
【0047】
また、特許文献6に記載された技術では、麺線の中心を避けて複数の孔をあけているが、本実施形態では麺線1の中心に複数の溝部22を有する湯通し孔2をあけているために、調理時に湯通し孔2が閉塞または縮小するため良好な食感とできる。よって、特許文献6の場合には、ダイスの製造が極めて困難であるのに対し、本発明の押出し麺の場合には、ダイスの構造を簡略化できる点で有利である。
【0048】
次に、発明者が本発明に係る押出し麺を実際に製造して確認を行ったので以下に記しておく。
【0049】
デュラム小麦粉1kgを原料粉とし、練り水300mlを添加してミキサーでよく混練して調製した生地をパスタマシンに投入した。パスタマシンにおいて、以下の各種形状を有するダイスをセットし、圧力80〜130Barで押し出し、押出し生麺を得た。
【0050】
(実施例1)
ダイス穴径1.9mm、断面三芒星形のピン、ピン部先端のR0.05mm、ピン先端部(三芒星の外接円半径)は中心から0.4mm、ピンの屈曲部(三芒星の内接円半径)は中心から0.2mm

(実施例2)
ダイス穴径1.9mm、断面三芒星形のピン、ピン部先端のR0.03mm、ピン先端部(三芒星の外接円半径)は中心から0.4mm、ピンの屈曲部(三芒星の内接円半径)は中心から0.2mm

(比較例1)
ダイス穴径1.9mm、ピンなし
【0051】
上記実施例1,2、比較例1の形状であるダイスを用いて得た押出し生麺(パスタ)を、長さ25cmにカットし、100gを沸騰した湯に入れて、吹きこぼれないようにして煮沸し、最適な食感となる時間を3名の熟練したパネラーでモニターし、最適な復元時間(茹で調理時間)を15秒単位で決定した。
【0052】
その結果、実施例1では4分45秒、実施例2では5分0秒、比較例1では6分30秒を要し、本発明の形状とすることで、生麺の場合で3/4程度の時間で調理できた。そして、パネラーによる目視観察では、茹で上がったパスタ端面における孔はほぼ塞がっていた。また、パネラーによると、孔のないパスタと同様の食感であった。
【0053】
次に、上記実施例1,2、比較例1の生麺を竿掛けにして1〜2時間の予備乾燥後、70℃で12時間乾燥させ、25cmにカットして棒状の乾麺を製造した。この乾麺をそれぞれ、実施例3,4、比較例2としてそれぞれ100g沸騰した湯に入れて、吹きこぼれないようにして煮沸し、最適な食感となる時間を3名の熟練したパネラーでモニターし、最適な復元時間(茹で調理時間)を15秒単位で決定した。
【0054】
その結果、実施例3では10分30秒、実施例4では11分0秒、比較例2では15分0秒を要し、本発明の形状とすることで、乾麺の場合で70%程度の時間で調理できた。そして、パネラーによる目視観察では、茹で上がったパスタ端面における孔はほぼ塞がっていた。また、パネラーによると、孔のないパスタと同様の食感であった。
【0055】
次に、デュラム小麦粉800gに澱粉200gを加えたものを原料粉とし、食塩20g、リン酸3ナトリウム3gを溶かした練り水365mlを添加してミキサーでよく混練して調製した生地をパスタマシンに投入した。パスタマシンにおいて、以下の各種形状のダイスをセットし、圧力80〜130Barで押し出し、押出し生麺を得た。
【0056】
(実施例5)
ダイス穴径1.9mm、断面三芒星形のピン、ピン部先端のR0.05mm、ピン先端部(三芒星の外接円半径)は中心から0.4mm、ピンの屈曲部(三芒星の内接円半径)は中心から0.2mm

(実施例6)
ダイス穴径1.9mm、断面三芒星形のピン、ピン部先端のR0.03mm、ピン先端部(三芒星の外接円半径)は中心から0.4mm、ピンの屈曲部(三芒星の内接円半径)は中心から0.2mm

(比較例3)
ダイス穴径1.9mm、断面丸形のピン、ピン部直径0.7mm

(比較例4)
ダイス穴径1.9mm、断面丸形のピン、ピン部直径0.3mm

(比較例5)
ダイス穴径1.9mm、ピンなし
【0057】
上記実施例5,6の三芒星型の孔あき麺、及び比較例3,4の丸い孔のあいた麺、比較例5の孔の無い、各押出し生麺(パスタ)を、長さ30cmに切断し、100℃の沸騰水で90秒間ボイルしてα化後、水道水で30秒冷却した。次いで水1リットルに30gの食塩と4gのグルタミン酸ソーダを溶解した水溶液(着味液)に15秒浸漬し、リテーナーに1食分195gを投入して、熱風乾燥機で85〜105℃で45分間乾燥した。この熱風乾燥ノンフライ麺を冷却後スチロール性の容器に入れてカップ入りノンフライ麺(即席スパゲティ)とした。容器に、熱湯を注湯し、蓋をして5分間放置して熟練したパネラー3名で喫食した。
【0058】
結果は、実施例5及び6の麺は復元性が良く、食感も良いことが確認できた。一方、比較例5は麺線に湯通し孔が無いため、内部が全く復元しておらず食べられるようなものではなかった。比較例3及び4は麺線に円形の湯通し孔をあけたものであるが、比較例4は孔径が小さいため、湯通し孔に湯が通りにくいためか復元性が悪く、やはり湯戻りしておらず食感も悪かった。比較例3は、比較例2に比べて孔径が大きいため、復元性が良かった。しかし、復元後も湯通し孔が閉塞せず、大きな丸い孔があり、マカロニのような食感でスパゲティーとしては違和感があった。
【符号の説明】
【0059】
1 麺線
1a 陥入部分
2 孔、湯通し孔
21 空隙部
22 溝部
221 溝部の先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に貫通する孔を有する押出し麺であって、
当該孔が、茹で上げあるいは湯戻しの際に閉塞又は縮小するものであり、
麺線の横断面における前記孔の形状が、麺線の横断面の中心から径外方向に延び、かつ、前記横断面の中心を基準として回転対称に形成された複数の溝部を有するものであることを特徴とする押出し麺。
【請求項2】
前記孔が、孔を含めた麺線の断面積に対して2%〜15%の面積を占めるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の押出し麺。
【請求項3】
前記複数の溝部の先端が、前記麺線の横断面の中心から麺線外周縁までの距離の30%〜70%の位置に達していることを特徴とする請求項1又は2に記載の押出し麺。
【請求項4】
前記複数の溝部が、3回対称ないし8回対称のいずかの回転対称に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の押出し麺。
【請求項5】
麺線の横断面における前記孔の形状が、前記複数の溝部のうち隣り合う関係にある溝部の先端同士の間で、前記麺線の横断面の中心に向かって入り込んだ陥入部分を有した形状であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の押出し麺。
【請求項6】
前記複数の溝部の先端が、曲面を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の押出し麺。
【請求項7】
前記麺線の横断面形状の外形が円形であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の押出し麺。
【請求項8】
前記請求項1ないし7のいずれかに記載の押出し麺をα化後、乾燥させることを特徴とする即席麺の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1ないし7のいずれかに記載の押出し麺をα化せずに乾燥させることを特徴とする乾麺の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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